弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役壱年に処する。
     被告人から金参拾五万五千円を追徴する。
     原審並びに当審において生じた訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 検察官藤井勝三の陳述した控訴趣意は、記録に編綴されている検察官岩下武揚名
義の控訴趣意書記載のとおりであり、弁護人仙田嘉吉の陳述した答弁は弁護人山本
卓一名義の答弁書に記載と同趣旨であるから、いずれもこれらを引用する。
 検察官の控訴趣意第一点(法令の解釈適用の誤)について、
 論旨は、原審が被告人に対する収賄の各公訴事実について、これと必要的共犯関
係にある各贈賄者の自白に独立の証拠能力がないものとし、これを被告人の不利益
な唯一の証拠として、その有罪を認定し得ないものと断じたのは、証拠能力を不当
に制限した採証法則の違背があると主張するにある。よつて按ずるに、およそ共犯
者の自白のうちには、自白者自身の行為に関する供述たる面と、共犯者の他の一方
である他人の行為に関する供述たる面とがあり、前者は本来の意義における自白で
あることは言うまでもないが、後者は証人としての共犯者の供述と見るべきもの
で、一般第三者の証言と何等選ぶところはなく、従つて共犯者の自白は、後者の供
述を指称するものである限り(以下共犯者の自白とは後者の供述を指す)刑事訴訟
法第三百十九条第二項(並びに憲法第三十八条第三項)に所謂本人の自白に包含さ
れないものと見るのが至当であり、且つ本人の自白並びに共犯者の自白に補強証拠
を必要とする根拠を考えるとすれば、本人の自白は、その証明力必ずしも薄弱では
ないのみか、それが任意になされたものである限り、証人の供述よりその証明力は
大であるが、万が一にも任意性の判断を誤り、任意性のない虚偽の自白によつて有
罪とされる危険があるから、これを防止するためにその証明力を担保すること、ま
た、共犯者の自白は、その証明力が司法経験上一般に薄弱であると考えられるた
め、これを増強することに、いずれもこれを求むべきであるが、本来本人の自白は
自己に不利益な事実を承認するものであつて、被告本人の自身の供述であるから、
反対尋問ということはあり得ず、そのまま、その不利益な証拠になるので、その真
実性を担保するためには補強証拠を要することとするのが最も適切であるに反し、
共犯者の自白はその者の供述内容が共犯関係に立つ他方の事実認定の基礎となる場
合であるから、一般に真実性に乏しい共犯者の供述により有罪とされることのない
よう、被告人の法的安全性を確保する必要上、その真実性を吟味させるために、被
告人に対し反対尋問の機会を与えることこそ必要であるので、共犯者の供述をその
まま他方に不利益な証拠とするのではなく、反対尋問の機会を与えてからでなけれ
ば、これを証拠とすることができないものとするのを妥当とするのであり、なお多
数の米国州の立法において、共犯者の自白に補強証拠を必要とした理由となつてい
るところの、共犯者が罪責を免れ又は他に責任を転嫁するため、虚偽の自白をしが
ちであるというごときことは、特に共犯者の供述にのみ限られた現象とは考えられ
ないばかりでなく、米国と裁判制度を異にするわが国において必ずしも之と同様に
論結する必要は認められない。かく<要旨>て、本人の自白に補強証拠を必要とする
ことから、直ちに共犯者の自白にこれを必要とするとの結論はでてこ</要旨>ない
のみでなく、却つて共犯者の自白を本人の自白と同一視し、これに補強証拠を要す
ることとする実質的理由はないものといえるし、他に補強証拠を必要とすると解す
べき法令上の根拠は見出し難いから、共犯者の供述は、他の共犯者たる被告人に対
し、反対尋問の機会を与えられた限り、何等の補強証拠も必要とせず、これのみに
より被告人の有罪を認定し得る完全な独立の証拠能力を有するものと解するを相当
とし、ただ各具体的事件についてその証明力に対する自由心証上の価値評価には深
甚な考慮を要するものがあるに過ぎない。もつとも、本人の自白に補強証拠を必要
とする理由を、自白の偏重からその強要の弊を防止するにあるとし、この点からし
て共犯者の自白を被告本人の自白と区別する理はなく又もし共犯者の自白に補強証
拠を要しないこととすれば、共犯者の一方が自白し、他方が否認した場合に自白し
た方は無罪となり、否認した方は有罪となり、共犯関係を合一的に解決することが
できなくなるとの見地から、共犯者の自白にも補強証拠を必要とするとの見解がな
いではないが、右は前に説示したとおり本人の自白と共犯者の自白との差異等から
生ずる帰結であつて賛同し難い。これを本件についてみるら、被告人の収賄の各公
訴事実に関し、共同審理を受けない共犯者たる贈賄者側のA、B、Cの同人等に対
する贈賄等被告事件における検察官に対する各供述調書に、被告人の右公訴事実に
照応する自白の供述記載があること所論のとおりである。而して記録上明らかなよ
うに右供述者等は、いづれも原審公判期日において証人として喚問を受けたとと及
び被告人と共犯関係にあるものとして起訴されていることを理由として証言を拒否
したため、その供述を得ることができなかつたので、被告人に対し、右供述者等の
反対尋問の機会は与えられなかつたことに帰着するが、なお、右供述者等の証言を
得ることができなかつたものとして、供述者の死亡、疾病若しくは外国にいる等の
ため公判期日で供述することができない場合に準じ、反対尋問の機会が与えられた
場合と同様に、該書面の証拠能力を肯定し得るものといわねばならない。けだし、
刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号前段は、伝聞証拠禁止の例外として必要性
の原則に基き、原供述者の供述を得る見込なく、伝聞証拠以外には利用し得べき原
供述の証拠がない場合には、とれに証拠能力を認めることを許容したものと解し得
られるからである。それ故前示A等各共犯者の供述を録取した書面は、被告人に対
し反対尋問の機会を与えた場合と同じく、これに補強証拠を必要とすることなくし
て、被告人の有罪を認定し得る完全な独立の証拠能力を有するものと認むべきこ
と、まさに所論のとおりであり、弁護人の答弁中この点に関し主張する見解には同
調し難い。してみると、原審が被告人に対する収賄の公訴事実について、犯罪の証
明がないものと判定する理由として、共犯者の自白を本人(被告人)の自白に含
め、これのみが被告人にとつて不利益な唯一の証拠であるときは、これを以て被告
人を有罪とすることはできないと説示したのは、結局前示各供述調書が叙上のごと
く完全な独立の証拠能力を有することを看過したものであつて、訴訟法規の解釈適
用を誤つたことに帰着し、その誤りは判決に影響を及ぼすこと明かであるから、原
判決はこの点において、刑事訴訟法第三百九十七条に則り、破棄を免れない。論旨
は理由がある
 検察官の控訴趣意第二点(事実誤認)について、
 よつて記録を調査するに、本件収賄の公訴事実について、被告人は、原審公判廷
において黙秘し、公判前においてもこれを否認しており、共同審理を受けないA外
二名の各贈賄者が、前点で問題とした同人等の贈賄等被告事件における検察官の面
前調書において、右公訴事実に照応する自白をしているほかは、他の関係人の情況
に関する証拠が存在するに過ぎない。しかし右各共犯者の自白又は自認の供述調書
が独立した完全な証拠能力を有することは前点において説明したとおりであるが、
右各共犯者の自白と、前示公訴事実中Aの贈賄関係に関する原審における証人D
(第二回公判調書)の証言、同人及びEの検察官に対する各供述調書(第一回)、
及びBの贈賄関係に関するFの検察官に対する供述調書(第一回)A外二名に対す
る贈賄等被告事件記録中の証人G、同Hの各証言(第二回公判調書)、並びにCの
贈賄関係に関する前記記録中の証人I(第二回公判調書)同J(第一回公判調書)
同F、同K(第三回公判調書)の各証言のうち被告人に対する前示公訴事実中の一
部金銭授受の日時、場所において、被告人と各贈賄者がそれぞれ面接したことに関
する部分や、被告人の検察官に対する供述調書(第三回)中に、自己の管轄区域内
の土建業者より息子の入学祝、妹の結婚祝、病気見舞、中元、歳暮等の名義で金品
の授与を受けたことがあり、右の業者のうちには、A、B、Cの三名も含まれてい
た旨、及び同人等がそれぞれ公訴事実のうちの一部の日時に自宅及びB方その他L
飲食店等に自分を訪ねて来たことがある旨の供述、さらに証人Cの裁判官の面前に
おける供述調書(刑事訴訟法第三百二十一条第一項第一号の書面に該当し、その証
拠能力については前示検察官の面前調書について説示したところと同じ)、及び原
審の公判における供述(第二回公判調書)を、彼是綜合して考察し、なお被告人の
警察官による取り調べ以来の供述の変化の経過を参酌すると、前記A外二名の各贈
賄者等の検察官の面前調書中の各供述(自白)の任意性及び真実性を疑わしめる情
況はなく、被告人の本件収賄の各公訴事実はすべて(但しCより収受した金員の数
額の点を除く)これを有罪と認定するに足りる証明があるものと認めざるを得ない
こと、所論のとおりであり、原判決が之と認定を異にし、右犯罪の証明がないとし
て無罪の言渡を為したのは、ひつきよう事実の認定を誤つたものというべく、右の
誤りは判決に影響を及ぼすこと言を俟たないから、原判決はこの点においても、刑
事訴訟法第三百九十七条に則り破棄を免れない。論旨は理由がある。
 そして、当裁判所は本件記録及び原裁判所において取調べた証拠によつて、直ち
に判決をすることができるものと認められるので、原判決を破棄した上、刑事訴訟
法第四百条但書に則り、更に裁判をすることとする。
 そこで当裁判所は、原判決が有罪を認定したとおりの事実を、原判決に摘示の証
拠により認定するほか、次の事実を左の証拠により認定する。
 (事実)
 被告人は昭和二十五年二月末頃から同二十六年一月十三日迄佐賀県神埼土木出張
所長として、管内の土木工事について、請負業者の指名及び入札、工事監督等土木
行政に関する全般の権限を有する職務に従事していたものであるが、土木工事の入
札に関し指名を受けた謝礼、及び将来の土木工事請負に関して便宜の取扱をされた
いとの趣旨の下に、供与されるものであることを知りながら、
 (一) 右所管内土木請負業者A
 一、 昭和二十五年三月末頃佐賀県神埼郡a村大字bの被告人居宅において金五
千円
 二、 同年四月中旬頃同所において金弍万円
 三、 同年五月頃同所において金参万円
 四、 同年六月頃同所において金弍万円
 五、 同年七月頃同所において金参万円
 六、 同年八月十二、三日頃同所において金弍万円
 七、 同年八月下旬頃同郡c村大字d字eの一軒家裏において金参万円
 八、 同年十月中旬頃前記居宅において金参万円
 九、 同年十一月上旬頃同所において金弍万円
 十、 同年十二月二十七日頃同所において金参万円
 十一、 同年十二月二十八日頃同所において金弍万円
 (二) 前同土木請負業者Bから
 一、 昭和二十五年八月初旬頃前記居宅において金壱万円
 二、 同年九月末頃同所において金壱万円
 三、 同年十月中旬頃同郡f町g丁目M方二階において金壱万円
 四、 同年十一月初旬頃同町B方において金壱万円
 五、 同年同月末頃前記居宅において金壱万円
 六、 同年十二月末頃同所において金参万円
 (三) 前同土木請負業者Cから
 一、 昭和二十五年九月中旬頃前記居宅において金五千円
 二、 同年十二月二十八日頃前記M方二階において金壱万五千円
 の各贈与を受け、以てその職務に関し賄賂を収受したものである。
 (証拠)
 一、 検察官作成のA(第一、二回)、B(第二回、C(第一回)の各供述調書
謄本
 一、 裁判官の証人Cに対する等尋問書
 一、 原審第二回公判調書中証人Cの供述
 一、 同第二回公判調書中証人Dの供述
 一、 同第四回公判調書中証人Mの供述
 一、 A外二名に対する贈賄等被告事件の第二回公判調書謄本中証人G、同H、
同Iの各供述
 一、 同事件の第三回公判調書謄本中証人J、同K、同Fの各供述
 一、 D、Eの検察官に対する各第一回供述調書
 一、 Fの検察官に対する第一回供述調書謄本
 一、 被告人の司法警察員に対する第一、二回供述調書並びに検察官に対する第
一乃至第三回供述調書(各一部)
 の各記載を綜合してこれを認定する。
 法律に照すと、被告人の所為中原判示の各虚偽公文書作成の点は各刑法第百五十
六条、第百五十五条第一項、第六十条に、各同行使の点は各同法第百五十八条第一
項、第百五十六条、第百五十五条第一項、第六十条に、詐欺の点は同法第二百四十
六条第一項、第六十条に、前示各収賄の点は各同法第百九十七条第一項前段にいず
れも該当し、各虚偽公文書作成、同行使、詐欺の各所為は順次手段結果の関係があ
り、各虚偽公文書の一括行使の点は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるか
ら、同法第五十四条第一項前段、後段、第十条に則り、犯情の最も重い虚偽公文書
(二四水堤設第四号)行使罪の刑を以て処断すべきところ、これと各収贈の所為と
は同法第四十五条前段の併合罪であるから、第四十七条但書、第十条を適用し、最
も重い前者の刑に法定の加重をなした刑期範囲内において、被告人を主文の刑に処
し、なお同法第百九十七条の四を適用し、被告人が本件収賄の罪により収受した賄
賂はいずれもこれを没収することができないので、金参拾五万五千円を被告人から
追徴することとし、また原審並びに当審において生じた訴訟費用は、刑事訴訟法第
百八十一条第一項に従い、全部を被告人をして負担させることとする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 筒井義彦 裁判官 柳原幸雄 裁判官 岡林次郎)

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