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平成18年(行ケ)第10207号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成18年11月20日
判決
原告エルシーディーサインカンパニーリミ
テッド
(株式会社エルシーディーサイン)
訴訟代理人弁理士梶良之
同須原誠
被告特許庁長官
中嶋誠
指定代理人鈴木俊光
同岡田孝博
同向後晋一
同内山進
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2004−16559号事件について平成17年12月21日
にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告の前権利者が後記発明につき特許出願をしたところ,拒絶査定
を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁が前権利者から権
利の譲渡を受けた原告に対し,請求不成立の審決をしたことから,原告がその
取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
大韓民国に住所を有するAとBの両名は,平成12年5月8日(パリ条約
による優先権主張平成11年(1999年)5月12日,韓国),発明の名
称を「液晶ディスプレイパネルを利用した広告板」とする発明につき,特許
出願(特願2000−618962号。以下「本願」という。)をしたが,
拒絶査定を受けたので,原告は,これに対する不服の審判請求をするととも
に,平成16年9月7日付けで手続補正(甲6)をした。
特許庁は,同請求を不服2004−16559号事件として審理し,その
中で,特許を受ける権利が前記両名から原告に譲渡され,平成17年2月2
2日付けで名義変更届(甲7の1)が提出された。そして特許庁は,平成1
7年12月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,
その謄本は平成18年1月10日原告に送達された。
(2)発明の内容
平成16年9月7日付け手続補正(甲6)により補正された特許請求の範
囲は,請求項1ないし4から成り,その請求項3に記載された発明(以下「
本願発明」という。)は,下記のとおりである。

「1又は複数個のセグメント電極が内蔵された1又は複数個の液晶表示パネ
ルと,前記液晶表示パネルの前面及び背面側に設置されて広告しようとする
内容にデザインされた不透明フィルムを定着させて形成された広告表示部
と,前記液晶表示パネルが内部に装填されたケースと,前記液晶表示パネル
を照明する照明手段を含むことを特徴とする液晶ディスプレイパネルを利用
した広告板。」
(3)審決の内容
ア審決の詳細は,別添審決写しのとおりである。
その要点は,本願発明は,下記引用例1発明,引用例2発明及び周知技
術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29
条2項により特許を受けることができない,というものであった。

・特開平8−15665号公報(甲2。以下「引用例1」といい,同記載
の発明を「引用例1発明」という。)
・特開平8−122751号公報(甲3。以下「引用例2」といい,同記
載の発明を「引用例2発明」という。)
イなお,審決は,引用例1発明と本願発明とを対比し,一致点と相違点を
次のように認定したものである(この認定は当事者間に争いがない)。
<一致点>
「1又は複数個のセグメント電極が内蔵された1又は複数個の液晶表示パ
ネルと,前記液晶表示パネルに設置されて広告しようとする内容にデザイ
ンされた不透明フィルムを定着させて形成された広告表示部を有する液晶
ディスプレイパネルを利用した広告板」である点。
<相違点1>
本願発明の不透明フィルムを定着させて形成された広告表示部は,不透
明フィルムが液晶表示パネルの前面及び背面側に設置されているのに対し
て,引用例1に記載の文字型のシールを定着させて形成された図柄層は,
液晶パネルの前面あるいは背面側に設けられている点。
<相違点2>
本願発明の広告板は,液晶表示パネルが内部に装填されたケースと,前
記液晶表示パネルを照明する照明手段を含むのに対し,引用例1に記載の
液晶広告媒体(広告板)には,特にこのような構成が明記されていない
点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決の認定判断には,以下に述べるとおり誤りがあるか
ら,違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(相違点1についての判断の誤り)
(ア)審決は,相違点1について,「液晶パネルを用いた広告媒体におい
て,液晶パネルの前面及び背面側に広告,標識(広告表示部)を形成す
ることは周知……であり,引用例1に記載のものにおいて,該周知技術
を適用することは,両者の技術分野の共通性から見て当業者にとって格
別困難とはいえない」(5頁下第2段落)と判断したが,誤りである。
(イ)本願発明と引用例1(甲2)の技術分野に共通性があるとしても,本
件において,引用例1に記載のものに上記周知技術を適用することが当
業者にとって容易であるということはできない。
すなわち,引用例1の段落【0016】には,液晶パネルの基板に関
して,「下側電極に金属膜を用いて反射板と兼用する場合には,その下
側基板は不透明なものであってもよい」と記載され,下側基板を不透明
なものとした場合,液晶パネルの背面側に広告表示部を設けても前方か
ら当該広告表示部を観察することができなくなり,液晶パネルの背面側
に広告表示部を設ける意義が全くないことになる。このように,引用例
1には,上記周知技術との組合せを阻害する記載がされているので,た
とえ両者の技術分野に共通性があるとしても,引用例1に記載のものに
上記周知技術を適用することが当業者にとって容易であったとすること
は誤りである。
イ取消事由2(相違点2についての判断の誤り)
(ア)審決は,相違点2について,「引用例2には,本願発明と同様に,液
晶ディスプレイパネルを利用した広告板において,液晶デバイス21(
液晶表示パネル)が内部に装填された装置の外装27(ケース)及び,
液晶デバイスを照明する光源23を備えたものが記載されており,……
両引用例の技術分野の共通性から見て,引用例1に記載のものにおい
て,引用例2に記載の液晶パネルを内部に装填するケース及び,液晶パ
ネルを照明する照明手段を適用して本願発明とすることは格別困難では
ない」(5頁最終段落∼6頁第1段落)と判断したが,誤りである。
(イ)本願発明と引用例1(甲2)の技術分野に共通性があるとしても,本
件において,引用例1に記載のものに引用例2の技術を適用することが
当業者にとって容易であるということはできない。
引用例2(甲3)の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。
「【請求項1】透明性電極層を有する少なくとも一方が透明な2枚の
基板間に支持された調光層を有し,該調光層が液晶材料及び透明性固
体物質を含有する光散乱形液晶デバイスにおいて,前記調光層の厚み
d(μm)と前記液晶材料の複屈折率Δnの積Δn・dが0.35∼
0.80の範囲にあることを特徴とする液晶デバイス。
【請求項2】調光層が液晶材料の連続層中に透明性固体物質が三次元
網目状に存在することを特徴とする請求項1記載の液晶デバイス。
【請求項3】調光層を支持した2枚の基板を1組の偏光手段で挟持し
たことを特徴とする請求項1又は2記載の液晶デバイス。
【請求項4】偏光手段を直交ニコル状態で挟持したことを特徴とする
請求項3記載の液晶デバイス。
【請求項5】偏光手段の一方の外面に少なくとも1つの有色フィルム
を配置したことを特徴とする請求項3又は4に記載の液晶表示装置。
【請求項6】有色フィルムの色が,赤,黄,緑又は青のいずれかであ
ることを特徴とする請求項5記載の液晶表示装置。
【請求項7】偏光手段の有色フィルムを配置した面とは反対側の面に
少なくとも1つの光源を配置したことを特徴とする請求項5又は6記
載の液晶表示装置。」
上記請求項7は,請求項5又は請求項6に従属し,請求項6は,偏
光手段の一方の外面に少なくとも1つの有色フィルムを配置した旨の
請求項5に従属し,請求項5は請求項3又は請求項4に従属し,請求
項4は,調光層を支持した2枚の基板を1組の偏光手段で挟持した旨
の請求項3に従属し,さらに,請求項3は,請求項1又は請求項2に
従属している。
そして,請求項1では,液晶材料及び透明性固体物質を含有する調
光層の厚みd(μm)と液晶材料の複屈折率Δnの積Δn・dが0.
35∼0.80の範囲にあることが限定されている。このように,引
用例2において,その一実施例として光源23を液晶デバイス21と
共に使用する図2に描かれているような形態は,あくまでも,Δn・
dが0.35∼0.80の範囲にある(請求項1)ことが前提となっ
ている。
したがって,Δn・dが0.35∼0.80の範囲にない引用例1
に記載された装置は,引用例2とは前提において相違しているから,
たとえ両者の技術分野に共通性があるとしても,引用例1に記載の装
置に引用例2の技術を適用することは当業者にとって容易であったと
することは誤りである。
ウ取消事由3(顕著な作用効果の看過)
(ア)審決は,「本願発明によってもたらされる効果は,各引用例に記載の
技術及び周知技術から,当業者が予測し得る程度のものであり,格別と
はいえない」(6頁第2段落)としたが,誤りである。
(イ)本件当初明細書(公表特許公報〔特表2003−507751。〕甲
1)の段落【0058】に「この実施例によると,夜間には,内部に装
着された光源75から照射された光が,カラーシート60,背面偏光板
5,液晶表示パネル1を透過した後,広告表示部10で光が屈折されて
変化された広告内容が表われることになり,昼間にも広告表示部10に
よって表わされるため,広告画面が鮮明に表示される」と記載されてい
るように,本願発明は,液晶表示パネルの前面側及び背面側に広告表示
部を備えているために,液晶表示パネルが照明手段で照明されること
で,液晶表示パネルの前面側及び背面側のいずれに配置された広告表示
部についても広告画面が鮮明に表示されるという格別の効果が得られ
る。
したがって,本願発明によってもたらされる効果が格別とはいえない
とすることは,誤りである。
エ取消事由4(特許請求の範囲の記載に基づくものではないとした判断の
誤り)
(ア)審決は,「平成17年11月15日提出の手続補正における主張は,
特許請求の範囲の記載に基づくものではなく,採用し得るほどのもので
はない」(6頁第3段落)としたが,誤りである。
(イ)確かに,平成17年11月15日付け手続補正(甲5)で請求の理由
に追加されたものには,例えば,①「電源投入により暗モードと明モー
ドの切替えが可能な,デザインを施していない(セグメント電極)」,
②「液晶表示パネル1に暗モードと明モードの切替えを起こさせるため
に選択的にセグメント電極に電源を投入する手段」といった,特許請求
の範囲の記載に基づいているとはいえない記載が含まれている。しか
し,これらの記載は,特許請求の範囲の記載を補足的に説明するために
付加されたものにすぎず,その意図した意味内容,すなわち,「広告表
示部10を明瞭に可視化できる」(甲5の【請求の理由】7行目)及
び,これを更に具体的に説明した【請求の理由】8行目以下の記載内容
は,上記①,②の記載の有無に関係しない。
したがって,上記手続補正における主張が特許請求の範囲の記載に基
づくものでなく,採用し得るほどのものではないとすることは誤りであ
る。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1)取消事由1に対し
原告の主張は,引用例1(甲2)に記載された発明のうち,一実施形態で
ある実施例3についてのみ該当するものであって,引用例1に記載された発
明のすべてについて該当するものではない。
すなわち,引用例1の段落【0025】∼【0027】には,図柄層を設
ける位置として,下側基板よりも下方の位置である,「反射板上」,「下側
基板の下面」,「下側偏光板の上下面」,「反射板の上面」が挙げられてお
り,これらの場合において,下側基板が透明であることを前提にしているの
は明らかである。そして,引用例1の実施例1(段落【0033】)は,下
側基板として上側基板と同種のITO電極付きポリエーテルスルホンフィル
ムを用いたものであり,これは下側基板に透明なものを用いた具体例にな
る。
したがって,原告の主張は,引用例1に記載された発明のうち一実施形態
のみを取り上げてなされたものであって,失当である。
(2)取消事由2に対し
引用例2(甲3)に記載された実施例4(段落【0065】∼【0067
】)は,液晶デバイスを図2に描かれているような液晶表示装置として使用
する場合に,広視野角が確保できるような液晶デバイスのΔn・dの具体的
な値を,有色フィルタの色に応じて設計するものであるが(段落【0067
】),有色フィルタの色に応じてΔn・dの値を変えても,「装置の外装2
7」と「光源23」とを備える構成自体が変更されるものではない。つま
り,審決における相違点2に係る「液晶デバイス21(液晶表示パネル)が
内部に装填された装置の外装27(ケース)及び,液晶デバイスを照明する
光源23を備えた」との構成は,Δn・dの値には関係なく用いられている
ものである。
したがって,引用例2の上記構成を,引用例1に適用することに阻害要因
はない。
原告は,引用例1に記載の装置について「Δn・dが0.35∼0.80
の範囲にない」と断定しているが,引用例1にはΔn・dの値は記載されて
おらず,Δn・dが0.35∼0.80の範囲にあるか否かは不明であるか
ら,この点においても,原告の主張は失当である。
(3)取消事由3に対し
原告は,本件当初明細書の段落【0058】の記載を根拠に請求項3に記
載の発明の効果を主張しているが,これは第6実施例(段落【0054】∼
【0059】及び【図7】)について述べたものであり,第6実施例は,広
告表示部が液晶表示パネルの前面のみに設けられ,かつ,光源からの光は,
カラーシートおよび背面偏光板を透過するように構成されたものであるか
ら,本願発明のような,広告表示部が液晶表示パネルの前面及び背面側に設
けられ,カラーシートおよび背面偏光板を備えていないものについて述べた
ものではない。また,同段落には,「広告表示部10で光が屈折されて変化
された広告内容が表われることになり」との記載があり,不透明フィルム
は,光を遮断するものであって,光を屈折させるものではないので,この点
からも,原告の上記主張は,広告表示部が「不透明フィルム」である本願発
明に基づくものではない。
そして,液晶表示パネルが照明手段で照明されることで該パネルの前面側
及び背面側のいずれの広告表示部も鮮明に見えるという本願発明の効果は,
各引用例に記載のもの及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものであ
る。
(4)取消事由4に対し
平成17年11月15日付け手続補正(甲5)における原告の主張は,本
願発明が「ケース70内に,電源投入により暗モードと明モードの切替えが
可能な,デザインを施してない,少なくとも1つのセグメント電極100∼
111を備えた少なくとも1つの液晶表示パネル1と,液晶表示パネル1に
暗モードと明モードの切替えを起こさせるために選択的にセグメント電極に
電源を投入する手段と,液晶表示パネル1の両面に設置される偏光フィル
ム,屈折フィルム又は不透明フィルムを定着した広告表示部10とを備えて
成る広告板」(【請求の理由】1行目∼6行目)であることを前提になされ
たものである。
しかし,特許請求の範囲(請求項3)に記載の発明は,「セグメント電
極」について「電源投入により暗モードと明モードの切替えが可能な,デザ
インを施してない」との限定がなされたものでもなく,「液晶表示パネル1
に暗モードと明モードの切替えを起こさせるために選択的にセグメント電極
に電源を投入する手段」を有するものでもないから,上記主張は,特許請求
の範囲の記載に基づくものではない。
また,「広告表示部を明瞭に可視化できる」との主張も,広告表示部が「
不透明フィルム」から成る本願発明については当たらないので,特許請求の
範囲の記載に基づくものではない。
なお,液晶表示パネルの明暗モードを切り換えることにより広告表示部を
明瞭に可視化できるという効果は,引用例1(甲2。特に第7欄34行目∼
42行目参照。)に記載のものから自明であり,また,光源を有することに
より夜間も昼間も広告画面が鮮明に表示されるという効果も,引用例2(甲
3)に記載のものから自明なものにすぎない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,審決の適否につき,原告主張の取消事由ごとに判断する。
2取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について
(1)原告は,引用例1(甲2)の段落【0016】には,液晶パネルの基板に
関して,「下側電極に金属膜を用いて反射板と兼用する場合には,その下側
基板は不透明なものであってもよい」と記載され,下側基板を不透明なもの
とした場合,液晶パネルの背面側に広告表示部を設けても前方から当該広告
表示部を観察することができなくなるから,引用例1には,上記周知技術と
の組合せを阻害する記載がされているとして,相違点1について想到容易と
した審決の判断(審決5頁下第2段落)は誤りであると主張する。
(2)そこで引用例1(甲2)を見ると,原告が指摘する上記段落【0016】
の記載は,
「段落【0016】(2)構成部材
①基板
本発明に用いられる電極付き基板としては,ガラス板やプラスチック板など
を挙げることができ,その少なくとも一方は透明なものを用いる。下側電極
に金属膜を用いて反射板と兼用する場合には,その下側基板は不透明なもの
であってもよい。広告媒体としては,多様な形状に対応することができると
ともに,その加工が簡易であることが好ましい。そのため,本発明において
は基板としてプラスチック板を用いることが好ましい。プラスチック板を用
いることによって,その加工性の高さから任意な形状を容易に得ることがで
きる。この成形加工はパネルを組み立てる前に行なっても組み立てた後に行
なってもよいが,後の方がパネルの製造条件の変更が不要であるので好まし
い。後から形状を変える成形加工方法としては,例えばカッターやレーザー
加工機などで切り出す方法や,金型などを使用して一度に打ち抜く方法など
を挙げることができる。このように,あとから成形加工した場合,必要に応
じてその切断部などを封止してもよい。封止方法としては接着材を使用して
もよいし,粘着層付きテープなどを利用してもよい。」(下線付加)
,というものである。
そして,引用例1の【請求項1】によれば,上記「電極付き基板」は,液
晶を挟持するものであるところ,上記下線部の「下側電極に金属膜を用いて
反射板と兼用する場合には,その下側基板は不透明なものであってもよい」
との記載によれば,下側電極に金属膜を用いない場合には,液晶を挟持する
上側基板及び下側基板ともに透明なものを用い得ることは,明らかである。
また,引用例1には,実施例1の説明として,「液晶として低分子強誘電
性液晶組成物……を使用した。この液晶と黒色二色性色素……およびエポキ
シ系接着剤……をそれぞれ……計量し,共通溶媒としてMEK(メチルエチ
ルケトン)に溶解して20重量%溶液とした。次にインジウム,スズの酸化
物(ITO)電極付きポリエーテルスルホン(PES)フィルム……のIT
O電極面上に,この溶液をグラビアコーターを用いて塗工し,溶媒蒸発後直
ちに同種の何も塗工していないフィルム基板とラミネートした」(段落【0
033】)との記載があって,同種のフィルム基板で液晶を挟持するものが
記載され,「電極付き基板の少なくとも一方は透明なものを用いる」(段落
【0016】)とされていることからして,当該実施例1は,同種の透明フ
ィルム基板で液晶を挟持するものと認められる。
(3)原告の上記主張は,引用例1(甲2)における電極付き基板の下側基板が
不透明なものであることを前提とするものであるところ,上記(2)のとお
り,引用例1においては,液晶を挟持する上側基板及び下側基板ともに透明
なものを用い得ることが明らかであり,また,同種の透明フィルム基板で液
晶を挟持する実施例1が明示されるのであるから,その前提が誤りである。
したがって,引用例1には,「液晶パネルの前面及び背面側に広告,標識(
広告表示部)を形成する」周知技術との組合せを阻害する記載があるという
ことはできず,原告の取消事由1の主張は採用することができない。
3取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
(1)原告は,引用例2(甲3)の特許請求の範囲の記載を根拠に,引用例2に
おいては,Δn・dが0.35∼0.80の範囲にある(請求項1)ことが
前提となっているとし,Δn・dが0.35∼0.80の範囲にない引用例
1に記載された装置に引用例2の技術を適用することが当業者にとって容易
であったとすることはできず,相違点2について,「引用例1に記載のもの
において,引用例2に記載の液晶パネルを内部に装填するケース及び,液晶
パネルを照明する照明手段を適用して本願発明とすること」が想到容易であ
ると審決の判断(審決5頁最終段落∼6頁第1段落)は誤りであると主張す
る。
(2)しかし,引用発明の認定においては,引用刊行物に記載されたひとまとま
りの構成及び技術的思想を抽出することができるのであって,その際,引用
刊行物の特許請求の範囲の記載に限定されると解すべき理由はない。
引用例2(甲3)には,「このようにして得た液晶デバイスを1組の偏光
板で挟持したものを,図2に示した断面図のように,配置して,有色フィル
ターと光源を配置した液晶表示装置と作成した。図中,21は1組の偏光板
で挟持した液晶デバイスを,……23は光源を,……27は装置の外装をそ
れぞれ表わす。……」(段落【0066】),「……又,偏光手段と組み合
わせた場合,表示特性で重視されている視角特性の改善にも有用であり,…
…文字や図形を表示し,広告板……等の表示装置に利用できるものである。
……」(段落【0069】)との記載があり,その【図2】には,装置の外
装27の内部に液晶デバイス21及び液晶デバイス21を照明する光源23
が装填された様子が図示されている。ここで,「外装27」及び「液晶デバ
イス21」は,本願発明の「ケース」及び「液晶表示パネル」に相当するか
ら,引用例2には,ケースの内部に液晶表示パネル及び液晶表示パネルを照
明する光源が装填された装置の発明が記載されているものと認められ,これ
は,Δn・dの値には関係なく用いることができるものである。そして,引
用例2には,かかる装置の発明が広告板の表示装置に利用できることも記載
されているのであるから,引用例1発明の「広告板」に,引用例2に記載さ
れた上記装置の構成を適用し,相違点2に係る本願発明の構成とすること
は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)
が容易に想到し得ることである。
したがって,相違点2についての審決の判断に誤りはなく,原告の取消事
由2の主張は理由がない。
4取消事由3(顕著な作用効果の看過)について
(1)原告は,本願発明は,液晶表示パネルの前面側及び背面側に広告表示部を
備えているために,液晶表示パネルが照明手段で照明されることで,液晶表
示パネルの前面側及び背面側のいずれに配置された広告表示部についても広
告画面が鮮明に表示されるという格別の効果が得られるものであるから,「
本願発明によってもたらされる効果は,各引用例に記載の技術及び周知技術
から,当業者が予測し得る程度のものであり,格別とはいえない」(審決6
頁第2段落)とした審決の判断は,本願発明の顕著な作用効果を看過した誤
りがあると主張する。
(2)しかし,原告が主張する上記効果は,引用例1発明に,液晶パネルの前面
及び背面側に広告,標識(広告表示部)を形成する周知技術,及び,引用例
2発明の,ケースの内部に液晶表示パネル及び液晶表示パネルを照明する光
源が装填される構成を適用することによって,当然に奏される効果にすぎ
ず,これを格別の効果ということはできない。
したがって,審決には,本願発明の顕著な作用効果を看過した誤りはな
く,原告の取消事由3の主張は採用することができない。
5取消事由4(特許請求の範囲の記載に基づくものではないとした判断の誤
り)について
(1)原告は,平成17年11月15日付け手続補正(甲5)で請求の理由に追
加されたものには,特許請求の範囲の記載に基づいているとはいえない記載
が含まれているが,これらの記載は,特許請求の範囲の記載を補足的に説明
するために付加されたものにすぎず,その意図した意味内容である「広告表
示部10を明瞭に可視化できる」(甲5の【請求の理由】7行目)及び,こ
れを更に具体的に説明した【請求の理由】8行目以下の記載内容に関係しな
いから,「平成17年11月15日提出の手続補正における主張は,特許請
求の範囲の記載に基づくものではなく,採用し得るほどのものではない」(
審決6頁第3段落)とした審決の判断は誤りであると主張する。
(2)しかし,審決の上記説示は,「なお」とした上で,上記手続補正でした原
告(出願人)の主張についての判断を付言したにすぎないものであるとこ
ろ,本願発明は,引用例1発明,引用例2発明及び周知技術に基づいて当業
者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断に誤りがな
いことは,上記2∼4に述べたとおりであるから,原告の上記主張は,審決
の結論を左右するものではなく,主張自体失当である。
(3)また,念のため,原告の上記主張内容について検討すると,以下のとお
り,理由がない。
ア平成17年11月15日付け手続補正(甲5)は,審判請求書に請求の
理由を追加するものであって,その【請求の理由】欄には,次の記載があ
る(下線部は原告主張部分)。
「本願発明は,ケース70内に,電源投入により暗モードと明モードの切
替えが可能な,デザインを施してない,少なくとも1つのセグメント電極
100∼111を備えた少なくとも1つの液晶表示パネル1と,液晶表示
パネル1に暗モードと明モードの切替えを起こさせるために選択的にセグ
メント電極に電源を投入する手段と,液晶表示パネル1の両面に設置され
る偏光フイルム,屈折フイルム又は不透明フイルムを定着した広告表示部
10とを備えて成る広告板であって,セグメント電極に対応する個所にお
いて液晶表示パネル1のモードを切り替えることにより,広告表示部10
を明瞭に可視化できるものである。即ち,広告板は,セグメント電極10
0に電力を印加させることによって,液晶表示パネル1のスクリーンから
広告表示部10が相異なるよう演出され,広告内容の表示が可能となる。
例えば,セグメント電極100に電源が印加されると,液晶表示パネル1
は,暗い色相で表われ,反対の広告表示部10は,液晶表示パネル1を通
じて照射される光を屈折させて明るい色相が表われるようにすることで,
広告表示部10によって表現しようとする広告を明瞭に表示することが可
能となる(段落[0022],[0023])。
また,本願発明は,光源75を有していて,夜間には,光源75から照
射された光が,カラーシート60,背面偏光板5,液晶表示パネル1を透
過した後,広告表示部10で光が屈折されて変化された広告内容が表われ
ることになり,昼間にも広告表示部10によって表わされるため,広告画
面が鮮明に表示される(段落[0058])。
これらの特徴を併せ持つ広告板は,いずれの引用例にも明示的にはもち
ろん,示唆的にも記載されておらず,引用例から自明のものということも
できない。
従って,本願発明は各引用例から当業者が容易に発明し得たものではな
いと考える。」
イ上記記載の「本願発明」は,請求項3に係る「本願発明」に特定される
ものではないが,上記記載には,原告も自認するとおり,本願発明の特許
請求の範囲(甲6)の記載に基づかない構成(「電源投入により暗モード
と明モードの切替えが可能な,デザインを施してない,……セグメント電
極100∼111」,「液晶表示パネル1に暗モードと明モードの切替え
を起こさせるために選択的にセグメント電極に電源を投入する手段」)に
ついて言及されている上,本願の特許請求の範囲の請求項1∼4に係る4
つの発明について区別なく主張されているため,請求項3に係る本願発明
についていかなる主張がなされているのか必ずしも明確とはいえないが,
要するに,本願の各請求項に係る発明は,液晶表示パネルの明暗を切り替
えることにより,広告を明瞭に表示することを可能とし,夜間には,光源
から照射された光が液晶表示パネル等を透過することにより,広告画面が
鮮明に表示されるものであって,これらの特徴を併せ持つ広告板は,いず
れの引用例にも記載ないし示唆されておらず,引用例から自明のものとい
うこともできない旨を主張したものと解することができる。
しかし,液晶表示パネルの明暗を切り替えることにより,広告を明瞭に
表示することを可能とすることは,本願発明との一致点の構成を有する引
用例1発明においても同様であるし,夜間に,光源から照射された光が液
晶表示パネル等を透過することにより,広告画面が鮮明に表示されること
は,引用例2発明においても同様であり,本願発明がこれら特徴を併せ持
つとしても,これを格別のものということができないことは,上記4のと
おりである。原告主張に係る上記特徴を併せ持つ広告板がいずれの引用例
にも記載されていないことは,原告が主張するとおりであるが,審決は,
本願発明と引用例1発明との間に相違点が存在することを認定しているの
であり,その相違点の構成がいずれも想到容易であることは上記2∼4の
とおりである以上,原告の上記主張は,審決の認定判断を誤りとする理由
とはなり得ないものである。
ウしたがって,原告の取消事由4の主張も採用することができない。
6結論
以上のとおり,原告主張の取消事由1ないし4は理由がない。
よって,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官岡本岳
裁判官上田卓哉

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