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主文
1原判決中,控訴人の敗訴部分を取り消す。
2前項の取消しに係る部分についての被控訴人の請求を棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人
主文と同旨
2被控訴人
本件控訴を棄却する。
第2事案の概要
1本件は,厚生年金保険法(ただし,平成16年法律第104号による改正
前のもの)に定める厚生年金基金に加入し同基金から退職による年金の支給
を受けていた被控訴人(原審原告)が,同基金の解散に伴って,残余財産の
分配金(本件分配金)の支払を受けたところ,所轄税務署長である控訴人(
原審被告)八王子税務署長が,本件分配金に係る所得は一時所得に当たると
して平成15年10月31日付けで平成13年分の所得税の更正処分(本件
)(),更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分本件賦課決定処分を行い
さらに,国税不服審判所長が,平成16年6月29日付けで本件更正処分及
(「」)()び本件賦課決定処分併せて本件各処分を適法とする裁決本件裁決
をしたことから,被控訴人が,本件分配金に係る所得は退職所得に当たるな
どと主張して,本件各処分の取消しを求めるとともに,本件裁決の取消しを
求めた事案である。
原審は,被控訴人の本件各処分の取消請求を一部認容し,本件裁決の取消
請求を棄却した。そこで,控訴人のみが原判決を不服として控訴に及んだ。
2前提となる事実は,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」
の1に記載(原判決2頁21行目から8頁16行目まで)のとおりであるか
ら,これを引用する。ただし,原判決7頁20行目の「原告」の後に「昭(
)(和13年1月生」を加え,同頁末行の「406万5400円」の後に「
年額」を加える。)
3本件各処分の適法性に関する控訴人の主張は,原判決の「事実及び理由」
欄の「第2事案の概要」の2に記載(原判決8頁18行目から9頁25行
目まで)のとおりであり,争点(①本件分配金に係る所得の区分について,
②退職所得控除額控除及び必要経費控除について)に関する当事者双方の主
張は原判決の事実及び理由欄の第2事案の概要の3の()及び(),「」「」12
(),に記載原判決10頁1行目から14頁19行目までのとおりであるから
これらを引用する。
第3当裁判所の判断
1本件分配金に係る所得の区分について
()控訴人は本件分配金に係る所得が一時所得に該当する旨を主張し,こ1
れに対して,被控訴人は本件分配金に係る所得が退職所得に該当する旨を
主張する。
()所得税法30条1項は「退職所得とは,退職手当,一時恩給その他の2,
退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下この条
において「退職手当等」という)に係る所得をいう」と規定し,同法。。
31条は「厚生年金保険法第9章の規定に基づく一時金で同法第122,
条(加入員)に規定する加入員の退職に基因して支払われるもの及び…
…もの(2号)は「この法律の規定の適用については,前条第1項に」,
規定する退職手当等とみなす」と規定している。。
なお,上記所得税法31条2号は,昭和62年の所得税法の改正におい
て,給与等とみなす年金(公的年金等)の所得区分が雑所得に移行された
ことに伴い,退職手当等とみなす一時金の範囲を所得税法31条で改めて
規定する際に設けられた条項であり,従前そのすべてがみなし退職所得と
されていた厚生年金保険法の規定に基づく一時金のうち,第9章の規定に
基づく一時金以外のもの及び第9章の規定に基づく一時金で同法122条
(加入員)に規定する「加入員の退職に基因して支払われるもの」のみに
限って退職手当等とみなすことを明らかにした規定である。
()そこで,本件分配金が所得税法31条2号の「加入員の退職に基因し3
て支払われるもの」に該当するか否かについて判断する。
まず,本件分配金(平成14年1月15日受領)は,本件基金の解散に
伴う残余財産の分配一時金であり,本件基金の解散により最低責任準備金
を連合会に納付した後の残余財産の清算金としての性質を有するものと解
されるから,本件基金の解散という事実がその支払の原因であって,被控
訴人のAからの退職(平成10年1月31日)を原因として支払われたも
のでないことは明らかである。また,本件基金の残余財産は,基金の加入
員(Aに勤務している「現存者)及び年金受給開始待期者(Aを退職し」
たが,本件基金からの年金受給は開始されていなかった「待期者)並び」
(「」に年金受給者Aを退社しかつ本件基金から年金を受給していた受給者
であり,被控訴人はこれに該当する)に対して,厚生年金保険法147。
条,162条の3及び本件基金の規約の「残余財産の分配」の定め(99
条)に従って公平に分配されたのであり,上記規約の「残余財産の分配」
の定めも,分配金額(配分額)の算定について分配を受ける受給権者等が
Aを既に退職しているか否かは直接関連しない内容となっているのであ
る。
そうしてみると,本件配分金を所得税法31条2号の「加入員の退職に
基因して支払われるもの」に該当するものとみることはできないと解する
のが相当である。これに反する被控訴人の主張は採用できない。
()なお,所得税基本通達(ただし,平成14年課個2−22ほか3課合4
同による改正前のもの。以下単に「通達」という)31−1は,所得税。
「」,法31条2号に規定する加入員の退職に基因して支払われるものには
「厚生年金基金規約……に基づいて支給される年金の受給資格者に対し
当該年金に代えて支払われる一時金のうち,退職の日以後当該年金の受給
開始日までの間に支払われるもの(年金の受給開始日後に支払われる一時
金のうち,将来の年金給付の総額に代えて支払われるものを含む」が。)
含まれるものとすると定めている。しかし,本件分配金は,通達31−1
の「年金の受給開始日後に支払われる一時金」には該当するものの「将,
来の年金給付の総額に代えて支払われるもの」とはいえないから,上記通
達によっても所得税法31条2号所定の退職手当等とみなされる一時金に
該当すると解することはできないというべきである。
もっとも,本件基金の退職年金制度においては,選択一時金という制度
があり,退職年金の受給権者が退職年金の受給資格を取得した後加算年金
の支給済期間が10年に達するまでの間において,その選択により,未支
給分の加算年金について,その年金の全部又は一部の年金給付の支給に代
えて,一時金の支給を受けることができることになっている。そして,本
件基金の規約によると,退職年金の受給権者が加算年金の支給が開始され
た後に選択一時金を選択した場合に支給される一時金の額は,加算年金の
額に規約別表5(原判決別表5)記載の受給済期間に対応する年金現価率
を乗じた額であり(附則6条の3第1項,選択一時金の支給を受けた場)
合には,その後の退職年金の額が,選択一時金を選択した加算年金額の分
(),,だけ減額される附則7条1項というのであるからこの選択一時金は
通達31−1に定める「将来の年金給付の総額に代えて支払われるもの」
に該当するものと解することができるというべきである。
しかし,本件分配金は,上記の選択一時金として支給することができる
加算年金部分のみを原資としているものではなく,一時金として支給する
ことができない基本年金のプラスアルファ部分や基金の資産の運用益等を
含んだ本件基金の残余財産を原資とするものであり,また,分配金額(配
分額)についても,選択一時金の計算ベースである加算年金は受給権者等
の給与額,勤務年数等に応じて計算されるのに対し,本件分配金は,最低
積立基準額相当額に基づき行われ,残余財産の額に応じて算定されるもの
である(規約99条2項。加えて,本件基金は,その解散に伴い,Aを)
既に退職した年金受給者である被控訴人以外にも,現にAに勤務している
者に対しても残余財産の分配を行っているのである。そうとすれば,本件
分配金は,選択一時金とは性質を異にするものというほかはなく,選択一
時金に適用されると解される通達31−1の準用を認めることも,本件分
配金のうちの選択一時金の金額に相当する部分についてのみ選択一時金に
準ずるものとして通達31−1の準用を認めることも,相当でないという
べきである。
たしかに,このように解すると,本件分配金に係る所得は退職所得とみ
なされないことになり,これに対し,もし被控訴人が本件基金の解散前に
上記選択一時金の支払を請求していれば,その選択一時金に係る所得は退
職所得とみなされ,税法上の優遇措置を受けることができていたことにな
るが,被控訴人は,本件基金の解散に至るまで選択一時金請求の権利を行
使せず,本件基金の解散に伴って本件分配金の支払を受けたにすぎないの
であるから,被控訴人が自らの判断で上記の選択一時金請求の権利を行使
しなかった以上,これにより税法上の利益を受けることができなくなった
としてももはや不当とはいえないというべきである。
()以上の検討のとおり,本件分配金に係る所得は退職所得に該当するも5
のということはできず,また,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所
得,給与所得,山林所得及び譲渡所得のいずれにも該当せず「営利を目,
的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務
又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」であるから,本件分
配金に係る所得は,控訴人が主張するとおり,一時所得(所得税法34条
1項)に該当するものというべきである。
2退職所得控除額控除及び必要経費控除について
()退職所得控除額控除について1
本件分配金に係る所得が,一時所得であって退職所得とはいえないこと
は,上記1で検討したとおりである。所得税法34条2項は「一時所得,
の金額は,その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るため
に支出した金額(その収入を生じた行為をするため,又はその収入を生じ
た原因の発生に伴い直接要した金額に限る)の合計額を控除し,その残。
額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする」と規定し,他方,。
収入金額から退職所得控除額を控除できるのは,退職所得の金額を計算す
る場合に限られているのであるから,本件分配金に係る一時所得の金額の
計算上,その総収入金額から退職所得控除額を控除する余地はないことに
なる。
()必要経費控除について2
証拠(甲3,乙11)によれば,被控訴人に係る本件基金への掛金とし
,。,て合計577万7717円が支払われたことが認められる被控訴人は
この掛金(本件掛金)の全額を,一時所得に係る総収入金額から「その収
入を得るために支出した金額」として控除すべきであることを主張する。
しかしながら,本件基金への掛金には,普通掛金と第1加算掛金及び第
,()2加算掛金とがあり普通掛金のうちの38分の18は加入員被控訴人
が負担するが,その余の掛金は全額事業主(A)が負担するものであると
ころ,本件掛金のうち,被控訴人が実際に負担した金額がいくらであるか
は,本件証拠上明らかでない。また,被控訴人が実際に負担した掛金の額
は,所得税法74条の規定に従い,その支払った各年分の所得税額の計算
上,社会保険料控除として総所得金額等から控除されているものと推認さ
れるから,これを更に本件係争年分の一時所得の計算において控除するこ
とはいわば二重の控除を認めることとなり,相当でない。
したがって,本件掛金の控除をいう被控訴人の主張も,理由のないもの
である。
3まとめ
()上記1及び2の認定,判断を前提とすると,被控訴人の平成13年分1
の所得税に係る総所得金額及び納付すべき税額等は,控訴人の主張のとお
り,原判決別表2記載のとおりとなる(このうち,雑所得の金額,所得控
除の合計額,源泉徴収税額については,当事者間に争いがない。。)
,,()そして本件更正処分及び本件賦課決定処分が適法に行われたことは2
「本件各処分の適法性に関する控訴人の主張(前記第2の3で原判決を」
引用)のとおりこれを認めることができるから,被控訴人の本件各処分の
取消請求はいずれも理由がないことになる。
第4結論
よって,上記と一部異なる原判決は相当でないから,原判決中控訴人の敗
訴部分を取り消した上,取消しに係る部分についての被控訴人の請求を棄却
することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官原田敏章
裁判官氣賀澤耕一
裁判官渡部勇次

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