弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人菅野孝久、同神谷光弘の上告理由第一点について
 上告人が資本の額一〇〇〇万円の株式会社であって、その代表取締役にDが就任
している旨の登記がされていることは、原審の適法に確定したところであり、また、
本訴において、被上告人らのうちB1、B2及びB3の三名は、いずれも自己が上
告人の取締役の地位にあると主張して、その旨の地位確認とDを取締役に選任する
旨の上告人の株主総会の決議が存在しないことの確認等を求めたところ、これに対
し、Dは上告人の代表取締役として応訴し、右三名が上告人の取締役であることを
争ったことは、記録上明らかである。
 ところで、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(以下「商法特例
法」という。)二四条一項は、資本の額が一億円以下の株式会社(以下「会社」と
いう。)が取締役に対し、又は取締役が会社に対して訴えを提起する場合には、そ
の訴えについては、取締役会が定める者が会社を代表する旨規定しているところ、
所論は、右三名が提起した訴えについても、右規定により上告人の取締役会が定め
た者が上告人を代表して応訴すべきであったもので、右訴えに関する訴状の送達か
ら原判決の言渡しに至るまでのすべての手続は無効であるというのである。
 しかしながら、商法特例法二四条一項が会社と取締役との間の訴訟について会社
の代表取締役の代表権を否定したのは、代表取締役は、本来会社の利益を図るため
に会社を代表して訴訟を追行すべきところ、訴訟の相手方が同僚の取締役である場
合には、会社の利益よりもその取締役の利益を優先させ、いわゆるなれ合い訴訟に
より会社の利益を害するおそれがあることから、これを防止する趣旨によるものと
解される。そうすると、会社を代表する代表取締役において当該訴訟の相手方を取
締役と認めていないときは、右の意味におけるなれ合いのおそれはないことが明ら
かであるから、会社を代表する代表取締役において取締役と認めていない者は、同
項にいう取締役に当たらないものと解するのが相当である。したがって、上告人の
代表取締役として応訴したDにおいて右被上告人三名が上告人の取締役であること
を争っている本件にあっては、右三名は同項にいう取締役に当たらず、右三名が提
起した訴えについては同項は適用されないといわなければならない。原審のこの点
に関する判断には、措辞適切を欠く部分があるが、その結論は正当として是認し得
る。論旨は採用することができない。
 同第二点について
 原審の適法に確定したところによると、上告人の全株式二万株を保有していたD
は、このうち一万二〇〇〇株を被上告人B1に、三〇〇〇株を同B3に譲渡したが、
右各譲渡については、上告人の定款所定の取締役会の承認はなかったというのであ
る。
 ところで、商法二〇四条一項ただし書が、株式の譲渡につき定款をもって取締役
会の承認を要する旨を定めることを妨げないと規定している趣旨は、専ら会社にと
って好ましくない者が株主となることを防止し、もって譲渡人以外の株主の利益を
保護することにあると解される(最高裁昭和四七年(オ)第九一号同四八年六月一
五日第二小法廷判決・民集二七巻六号七〇〇頁参照)から、本件のようないわゆる
一人会社の株主がその保有する株式を他に譲渡した場合には、定款所定の取締役会
の承認がなくとも、その譲渡は、会社に対する関係においても有効と解するのが相
当である。
 原判決にはその説示において必ずしも適切でないところがあるが、前示の各株式
譲渡は上告人に対する関係においても有効とした原審の判断は、正当として是認す
ることができる。論旨は、採用することができない。
 その余の上告理由について
 論旨は、原審の裁量に属する審理上の措置の不当をいうか、又は原審の判断と関
係のない事項を挙げて原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    坂   上   壽   夫
            裁判官    貞   家   克   己
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    佐   藤   庄 市 郎
            裁判官    可   部   恒   雄

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