弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人岸達也、同大月和男の上告趣意は後記のとおりである。
 第一点について。
 本件記録中の原判決書原本(記録一八九七丁ないし一九〇〇丁)を調べてみると、
その中の裁判長判事中野保雄の署名の下に朱肉で押捺された印影がありその文字と
形体は明瞭とはいい難いが、記録中の昭和二九年四月一三日附勾留期間更新決定中
の裁判長判事中野保雄名下の極めて明瞭な印影と比照すれば両者が同一の中野保雄
判事の認印によつて押捺された印影であることは鑑定をもちいないでも判かるから、
原判決書には裁判をした裁判官の押印を欠く刑訴規則違反はなく、別に判決書の無
効を来す事由も認められない。論旨は採用するに足りない。
 第二点について。
 所論は原審で主張なく、その判断を経ていない事項について判例違反を主張する
ものであつて上告適法の理由とならない。(記録を調べてみると、第一審第一五回
公判調書には被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書を取り調べる旨の
決定に基きその取調を了した旨の記載はあるが、これを証拠とすることについての
同意不同意若くは意見或は異議申立の有無についての記載はないから、刑訴規則四
四条一項一四号、二二号に規定する公判調書必要記載事項に照らし、結局右各供述
調書について証拠調をすることについては被告人及び弁護人において異議も意見も
なかつたがこれを証拠とすることについては同意しなかつたと解する外ない。しか
らば証拠とすることに同意のなかつた右供述調書を第一審が証拠として採用した理
由は何かといえば、それは右調書が刑訴三二二条一項所定の要件を具えているので
それ自体において証拠能力があると第一審が認めたためであると解せられる。すな
わち、所論のように被告人側がこれを証拠とすることに同意したものと第一審が速
断した結果ではない。そして右各供述調書〔記録一〇五六丁以下一〇九六丁以下〕
の内容を仔細に検討しても被告人の自白が任意にされたものでなく且つ特に信用す
べき情況の下になされたものでないと認めるべき理由を発見し得ないから第一審が
その証拠能力を認めたのは相当である。又、本件捜査に当つた警察官A及び検察官
沼里運吉の原審における各証言に徴しても右証拠能力を否定すべき理由はない。所
論の判例はいずれも本件に適切ではない。又前記各供述調書は所論のように適法な
証拠調を経ていないものでもない。)
 第三点について。
 所論は原審で主張なく判断を経ていない事項を主張するもので上告適法の理由と
ならない。(第一審判決が判示事実を認めた証拠として(一)、司法警察員の昭和
二六年六月二二目附捜索差押調書及び証拠品発見現場写真九葉(二)、司法警察員
の(イ)同年六月五日附捜索差押調書及(ロ)兇器発見に至る経過報告と題する書
面を引用していることは所論のとおりである。所論は右(一)の六月二二日附捜索
差押調書は記録中存在しないというけれども、記録一八四丁には同日附司法警察員
巡査Bの捜索差押調書〔被告人方居室押入内掛蒲団内部より茶色背広上下一組等を
発見し差押えたことの調書〕が明かに編綴されている。そしてこれは六月二三日附
司法警察員A作成の捜索差押調書〔被告人方自動車車庫より拳銃等を発見差押えた
記録四六丁のもの〕とは別物である。そして記録四四三丁ないし四四七丁には被告
人方母家、その八畳室、押入、蒲団及びこれに縫込まれていた背広股上下等の写真
九葉が編綴されている。(二)の中(イ)六月五日附捜索差押調書は記録四三丁に
編綴されている同日附司法警察員巡査部長A作成の〔被告人方を捜索し匕首一口を
発見押収した顛末を記載した〕捜索差押調書を指すこと明かであり、(ロ)兇器発
見に至る経過報告と題する書面は全記録を通じ記録四三〇丁以下に六月六日附司法
警察員巡査部長A、同C作成のものが唯一つあるだけであつて、これによると、右
巡査部長両名は六月五日午後一一時五〇分被告人の自宅裏の柿の木の根本より三、
四尺離れた場所に埋めてあつた匕首一口銘備前国住長船祐定を発見し現場の写真を
撮影し報告する旨の記載があるから、この報告書の作成が時間的に六月六日になさ
れたことはむしろ当然であり、第一審判決が証拠に引用したのはまさにこの報告書
であること疑いない。同判決証拠引用の部に六月五日附とある文言は右捜索差押調
書にかかるのであつて、兇器発見に至る経過報告書にかかるのではない。換言すれ
ば、この司法警察員の経過報告書については、それが全記録を通じて唯一つしかな
い関係から、その作成日附を挙示していないのである、と解するを正解とする。所
論と異り六月六日附の判示に該当するものが記録中にあるのである。そして右兇器
発見に至る報告書に示された被告人方裏の柿の根本に近い場所とそこに埋めてあつ
た刃物等の写真は記録四三五丁ないし四四〇丁の写真六葉を指すのでこれは同報告
書の後部に編綴されている。さて以上(一)、(二)(イ)の二つの捜索差押調書
及び(二)(ロ)の兇器発見に至る経過報告書は証拠とすることができるかを見る
に、右(一)の六月二二日附捜索差押調書は第一審第三回公判において、(二)(
イ)の六月五日附捜索差押調書は同第二回公判において、又、(二)(ロ)の報告
書は、上記九葉及び六葉の写真と共に、同第四回公判において、いずれも弁護人に
おいて証拠調に異議なかつたもので、すべてこれらを証拠とすることに同意する旨
述べ適法に取調べられたこと各公判調書に徴して明瞭である。してみれば、所論の
右書証は第一審公判で適法に取調べられ犯罪事実認定の証拠とすることができるも
のであり第一審判決はこれを証拠として判示事実を認めたものであること明白であ
つて、所論のような同判決引用の証拠が公判で取調べられたものとは違つていると
いう関係は全然ない。所論はかような関係あることを前提として同判決が所論の判
例に違反することを主張しこれを是認した原判決を非難するものに過ぎない。)
 第四点について。
 所論は原審で主張判断を経ていない事項について憲法三一条違反と第二点所論の
判例違反を主張するもので採用するに足りない。(兇器発見に至る経過報告書がな
いなどということはない。それが、所論の写真九葉と同じく第一審公判で適法に証
拠調を経て証拠とすることのできるものであることすでに説示したとおりであつて、
所論は前提をも欠くものである。)
 第五点について。
 所論も原審で主張判断を経ていない事項について違憲と判例違反を主張するもの
で採用できない。(第一審判決挙示の所論(イ)の五月三一日附差押調書には所論
のような自供に基き云云の文言の記載は全然なく、かような記載があるのは同判決
挙示の記録四三丁(論旨に一三丁とあるのは四三丁の誤記と認められる)の六月五
日附司法警察員の捜索差押調書裏面であり、又(ロ)の六月五日附司法警察員の兇
器発見に至る経過報告書(記録四三〇丁)には所論のような被疑者が六月三日午後
三時三〇分頃犯行を認め云云の供述をした旨の記載があり、そして(イ)の六月五
日附調書は第一審第二回公判、(ロ)の報告書は同第四回公判において、いずれも
他の数多の書証と共に取調の請求があり取調べられたことは記録上明らかである。
けれども右捜索差押調書と兇器発見に至る経過報告書はいずれも被告人の自白又は
その自白を内容とする他人の供述を録取したものでなく、刑訴法三二二条、三二四
条一項所定の書面でないから同法三〇一条により犯罪事実に関する他の証拠が取り
調べられた後でなければ取調を請求することができないものには属しない。所論憲
法及び判例違反の主張は前提を欠く。のみならず所論の書面には少しも被告人の犯
罪行為の内容、日時、場所について記載がないから、それが同法三〇一条の精神に
反し不法に裁判官を予断に陥れたものともいうに足りない。)
 第六点について。
 所論は原審で主張判断を経ていない事項について違憲を主張するもので採用する
に足りない。(第一審第四回公判における弁護人の請求に基く証拠決定による昭和
二七年二月二九日八王子支部においての証人調に被告人は弁護人と共に立会つた上、
最初の証人と認められるDの尋問に際し、弁護人の尋問に次いで被告人自ら証人を
尋問し、次の証人E、同Fに対してはそれぞれ弁護人が、次いで証人Gに対しては
弁護人に次いで又被告人が自ら尋問したこと記録上明瞭であるから、被告人はこの
証人調の当初すでに自ら証人を尋問し得ることを知つて弁護人と共に立会つたもの
と認められる。従つて、記録上弁護人と被告人が立会つていたことが認められるそ
の以後における所論の証人尋問に際しては、被告人自ら証人を尋問した調書記載が
ない分も被告人は証人に対して尋問する機会を充分に与えられたものと推認するに
足り、被告人がこれを妨げられた事跡は記録上認められない。違憲の論旨は前提を
欠く。)
 第七点について。
 所論は第一、二審判決の証拠の取捨の失当、採証法則違反、拷問による被告人の
不実の供述の採用を非難し、事実誤認を主張するものに過ぎず上告適法の理由とな
らない。(拷問による被告人の不実の供述の事跡は記録を調べても認め難く、第一
審判決挙示の証拠を綜合すればその認定事実を確認するに十分であり、これを肯認
した原判決は正当であつて所論のような違法は認められない。)
 第八点について。
 所論は単なる量刑の非難に外ならず上告適法の理由とならない。
 また記録を調べても刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四一四条、三九六条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決す
る。
 検察官 佐藤欽一出席
  昭和三〇年一二月二〇日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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