弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
   被告人両名はいずれも無罪。
         理    由
 以下,理由中においては,別紙「略語一覧」(添付省略)記載の略語を使用する
ほか,「検」,「弁」で始まる数字は,それぞれ証拠等関係カードにおける検察官
及び弁護人請求証拠番号であり,証人及び被告人の公判供述については丸囲み数字
で示した公判期日回数と公判調書中の供述調書のページ数などで表す。なお,一部
同意文書についても特にその旨断らない。
第1 本件公訴事実及び当事者の主張並びに争点の要旨
 1 本件公訴事実の要旨
   被告人A2はB1株式会社の専務取締役デリカハム・ミート事業本部長とし
て同社の食肉事業等を統括していたもの,被告人A1は同社の常務取締役関東統括
支店長として担当エリア内の食肉事業等を統括していたものであるが,牛海綿状脳
症(いわゆる狂牛病。BSE)の影響により,B1が保管・管理する輸入牛肉等の
在庫が増大してその処分に困窮していた折,政府が農畜産業振興事業団法に基づく
牛肉在庫緊急保管対策事業を実施することを聞き知るや,同事業の実施主体である
B17協同組合に対し,B1が保管・管理する輸入牛肉を牛肉緊急対策事業の対象
となっている国産牛肉であると偽って売却し,B17協同組合から売買代金名目に
金員を詐取することを企て,B1のデリカハム・ミート事業本部長付部長S,同事
業本部ミート営業調達部長P及び前記関東統括支店B20長Mらと共謀の上,平成
13年11月6日ころ,東京都中央区a町b丁目c番d号所在のB1から同都渋谷
区fg丁目h番i号所在のB17協同組合に対し,真実は,牛肉緊急対策事業の対
象でない輸入牛肉を含んでいたにもかかわらず,申込みに係る牛肉がすべて同事業
の対象である国産牛肉であるかのように装って,輸入牛肉2万9993.6キログ
ラムを含む合計27万9467.7キログラムの牛肉につき,代金3億1132万
7017円での買入れ方を申し込み,B17協同組合専務理事甲らをして,前記申
込みに係る牛肉の全量が牛肉緊急対策事業の対象である国産牛肉である旨誤信さ
せ,よって,平成14年1月7日,同協同組合から,前記申込みに係る牛肉の売買
代金の一部として,同都千代田区j町k丁目l番m号所在の株式会社B8銀行B9支
店のB1名義の普通預金口座に,1億9562万7390円の振込入金を受け,も
って,人を欺いて財物を交付させたものである。
2 検察官及び弁護人の主張並びに争点の要旨
 (1) B1がB17協同組合に本件事業による買入れ申込みをした牛肉につ
き,対象外の輸入牛肉を対象牛肉である国産牛肉であるかのように詰替するなどし
て偽装する工作が行われたのは,同社本社ミート営業調達部,B19及びB20の
三部門であり,これを立案実行し,あるいは直接その詰替作業等の指示を行ったの
は,本件実行犯5名,すなわち,本社ではS,P及び同本社ミート営業調達部営業
グループ課長のLであり,B19では同ミートセンター長のJであり,B20では
同ミートセンター長のMであった。
 (2) 検察官は,大略,①P(事後にはSも)が,B1の役員会において,本
件事業を悪用して本件偽装に類似する違法あるいは不当な方法を用いても不良在庫
を減少させようとする業界の動向(後述する『悪い噂』)がある旨の報告をし,被
告人両名がこれを聞き知ったとし,このことを前提に,②被告人A2はPから,被
告人A1はMから,それぞれ本件偽装の了承を求められ,それぞれ了解を与えるこ
とにより相互に意思を相通じて共謀を遂げ,もって,本件実行犯5名と順次共謀を
遂げて本件犯行に及んだとし,本件偽装後の役員会でのSの報告や,本件偽装が外
部に発覚した後の被告人A2の言動が前記共謀が存在したことを示す間接事実とな
る旨の主張をする。
 (3) これに対し,弁護人及び被告人両名は,B1が本件事業において対象外
の輸入牛肉を含めた牛肉の買上請求をしたことや,B19,B20,本社ミート営
業調達部において本件偽装が行われ,これにより本件実行犯5名らが本件偽装や公
訴事実記載のような行為を行ったことは争わないものの,被告人両名には,本件実
行犯5名らが本件偽装ないし本件詐欺を行っていたことの認容はおろか,その認識
すらなかったのであるから,被告人両名に犯意はなく,被告人両名と本件実行犯5
名らの間で,本件詐欺についての共謀はなかったとして,被告人両名はいずれも無
罪であると主張する。
 (4) 本件の争点は,被告人両名と本件実行犯5名との間に本件犯行について
の共謀があったか否かであるが,具体的には,前記役員会でのPやSの報告内容,
前記各直接的共謀を遂げたとされる被告人A2とP,被告人A1とMとの接触,報
告の有無及びその内容,その後の被告人A2の言動等により,被告人両名におい
て,本件実行犯5名らが本件偽装を行い,輸入牛肉を国産牛肉であると偽ってB1
7協同組合に買入申込みしようとしていることを認識・認容していたと認定できる
か,また,本件実行犯5名も被告人両名が前記のとおり認識・認容していることを
承知していたと認定できるかが争点である。
 (5) 当裁判所は,本件証拠上,本件実行犯5名らと被告人両名との間に本件
犯行についての共謀があったと認められないから,被告人両名については無罪の判
決をすべきものと判断するに至った。以下その理由を示すが,まず,後記第2にお
いて,本件証拠上認められる事実のうち,訴訟関係人においても格別争いのない事
実(前提事実)を認定し,次いで,後記第3において,具体的争点についての関係
人の供述等証拠関係の概要並びにこれに付随する事実関係を摘示し,その後順次検
討を加えることとする(以下,具体的争点については,被告人両名に共通の争点で
ある取締役会の報告関係のものを争点①と,被告人A2に関する個別の争点を争点
②と,被告人A1に関する個別の争点を争点③とし,それぞれに時系列順に枝番を
付して表示する。)。
第2 前提事実
 1 B1の概要並びに被告人と本件実行犯5名の経歴等
  (一) B1の概要
   (1) B1は,昭和25年12月,B2株式会社の畜産加工部門を分離し
て設立されたB1株式会社を前身とし,同45年8月,B10株式会社と合併して
社名をB11株式会社に変更し,その後の同51年8月,社名をB1株式会社に変
更した。B1はB2の子会社で,平成13年3月末時点の資本金は約21億700
0万円である。本件偽装発覚当時,B1には,約1000名の正社員及び同数程度
の嘱託社員,アルバイト等の従業員が在籍していた。
   (2) B1には,ハム及びソーセージ等を販売する肉製品事業部門,総菜
等を販売するデリカ事業部門及び食肉を販売するミート事業部門,食肉以外の食品
の販売などを行うグロサリー(食品海外)部門があったが,その後組織変更が行わ
れ,平成13年4月以降は肉製品事業部門とデリカ事業部門,ミート事業部門はデ
リカハム・ミート事業本部に統合され,さらに,同事業本部のミート営業部と原料
調達部は同年10月組織変更により統合され,ミート営業調達部となった。デリカ
ハム・ミート事業本部は,ミート事業の業務全体の最高責任部門であり,ミート営
業調達部等8部門及び関西統括支店等6統括支店を管轄し,同事業本部長は,専務
取締役(平成13年6月から。それ以前は常務)の被告人A2であった。また,関
東統括支店のもとにB20,関西統括支店のもとにB19というように,東海及び
九州を除く4統括支店の管理のもとに各ミートセンターが設置されていた。そし
て,本社ミート営業調達部と各ミートセンターは,対外的にはそれぞれ独自の販売
窓口となっており,これらの間には,組織構成上の指揮系統は存在しないが,毎
月,本社ミート営業調達部営業部の者や各ミートセンター長が出席するミートセン
ター長会議が開かれるなど,組織編成を越えた結びつきがあり,他方で,食肉部門
の職務には専門的知識を要することが多く,このためもあって,食肉部門と他の部
門との人事交流は比較的少なかった。
  (二) B17協同組合の概要
    B17協同組合は,昭和24年12月,組合員のために必要な共同事業を
行うこと等を目的にして設立された協同組合であるが,組合員は,B1をはじめ,
B11,B12,B13,B14,B15など食肉加工業を営む事業者であり,同
組合の平成13年3月末時点の出資金総額は約19億4000万円,同月末時点で
の組合員数は約177名であった。
  (三) 被告人らの身上,経歴等
   (1) 被告人A2について
     被告人A2は,昭和38年4月,B1(当時の商号はB1株式会社。以
下,合併,商号変更は省略し,単に「B1」と表記する。)に入社し,平成7年6
月取締役に,同11年6月常務取締役に,同13年6月専務取締役に各就任した。
その間,平成9年6月から平成10年3月まで営業本部副部長兼デリカ営業部長,
同年4月から平成11年3月まで肉製品営業部長兼中期計画実行委員会委員,同年
4月1日から平成13年3月まで関東統括支店長を経て,同年4月にB1デリカハ
ム・ミート事業本部長となり,本件当時は,B1の専務取締役デリカハム・ミート
事業本部長であった。なお,被告人A2は,本件発覚後の同14年1月29日付け
で専務取締役を辞任して退社した。
   (2) 被告人A1について
     被告人A1は,昭和41年6月B1に入社し,平成10年6月取締役
に,同13年6月常務取締役に各就任した。その間の同年4月に関東統括支店長と
なり,本件当時は,B1の常務取締役関東統括支店長であった。
     なお,被告人A1は,本件発覚後の同14年1月30日取締役に降格と
なり,同年4月にB1が解散となったことに伴い清算人となったが,本件により逮
捕された後である同年5月24日に辞職して退職した。
  (四) 本件実行犯5名の略歴
   (1) S(本社デリカハム・ミート事業本部長付部長)
     Sは,昭和46年4月,B1に入社し,花巻工場原料課,組合専従を経
て平成4年10月に食肉グループ配属となり,食肉営業部長,食肉営業部関東食肉
センター長(後のB20長)等を経て,平成13年4月本社ミート営業部長とな
り,同年10月からは本社デリカハム・ミート事業本部長付部長となった。
   (2) P(本社デリカハム・ミート事業本部ミート営業調達部長)
     Pは,昭和45年4月,B1に入社し,平成13年10月には本社デリ
カハム・ミート事業本部ミート営業調達部長となったが,入社以来,ほとんど食肉
部門で勤務してきた。
   (3) M(関東統括支店B20長)
     Mは,昭和43年4月,B1に入社し,昭和55年東京食肉販売部城東
食肉営業所長となった後,同部西日本食肉センター長(後のB19長),本社食肉
部グループ部長等を経て,平成8年北海道食肉センター長となり,平成12年9月
には関東統括支店長付部長,平成13年4月関東統括支店B20長となった。
   (4) J(B19長)
     Jは,昭和53年3月大学卒業後,B1に入社し,以後ほとんど食肉部門
に勤務し,平成10年6月から関西統括支店食肉センター(後のB19)に勤務
し,平成11年8月から同センター長となった。
   (5) L(本社デリカハム・ミート事業本部ミート営業調達部営業グルー
プ課長)
     Lは,昭和44年3月高校卒業後,B1に入社し,工場勤務等を経て,
平成元年1月本社食肉事業本部原料部原料グループ配属となり,平成3年6月西日
本食肉センター長(後のB19長)となり,平成9年3月本社営業本部食肉営業部
(本件時のミート営業調達部)輸入食肉課長,平成11年4月本社食肉営業部食肉
営業課長,平成13年4月本社デリカハム・ミート事業本部ミート営業企画課長と
なり,同年10月の組織変更に伴い本社デリカハム・ミート事業本部ミート営業調
達部営業グループ課長となった。
 2 本件事業の概要等
  (一) 本件事業の実施経緯
   (1) 農水省は,平成13年9月10日,千葉県下で飼育されていた国産
牛がBSEに感染していたと疑われる旨を公表するとともに,同省内にBSE対策
本部を設置したが,厚生労働省が,同月19日,30か月齢以上の牛についてBS
E検査を行う旨を,同年10月9日,30か月齢未満を含む全ての牛についてBS
E検査(いわゆる全頭検査)を行う旨を各公表した際,農水省は生産者に対し,B
SE検査未了の牛肉の出荷を繰り延べるように指導した。そして,全頭検査は,同
月18日以降にと畜処理される牛について実施されるものとされた。
   (2) 農水省は,同年9月10日以降,牛肉の市場価格が低下傾向にあ
り,かつ,同年10月18日から全頭検査が実施されることとなったため,同月1
7日以前にと畜処理された牛肉の扱いを検討することとし,同月中旬以降,国産牛
肉の需給調整と市場価格安定のための方策について検討を進め,既存の畜産物の価
格安定等に関する法律に基づく調整保管事業及び食肉買入事業では,事業対象牛肉
が限定され,いずれ市場に放出せざるを得ない制約があったが,全頭検査を経てい
ない牛については政府において処分して欲しいとの世論の高まり等を踏まえ,その
ような処分を可能とすることも想定して国産牛肉を市場から隔離する新たな事業を
検討すべきであると考えるようになり,事業対象牛肉が限定されず,かつ,最終的
に焼却等の方法で処分することも可能となる,農畜産業振興事業団法(事業団法)
に基づく指定助成対象事業として,全頭検査開始前にと畜処理された牛肉を市場か
ら隔離することを内容とする「牛肉在庫緊急保管対策事業」(本件事業)を策定,
実施することとし,同月26日,農畜産業振興事業団(事業団)に同事業に係る実
施要領を通知し,同月29日,事業団は,同事業に係る実施要綱を制定した。
  (二) 本件事業の概要等
    本件事業は,農業協同組合連合会,B17協同組合等6団体(関係6団
体)が事業主体となり,全頭検査開始前の平成13年10月17日以前にと畜処理
された国産牛肉で一定の要件を満たすもの(以下「対象牛肉」という。)を,B1
など関係6団体の組合員から買い上げて市場から隔離する事業であって,買上後,
事業団は,国からの交付金を財源として,牛肉1キログラム当たり707円を関係
6団体に交付することを内容とするものであり,関係6団体は,作成した保管対象
牛肉の市場隔離に関する計画(市場隔離計画)の承認を事業団理事長から受けるこ
ととされた。農水省は,前記本件事業に係る実施要領を作成する一方,同月25日
午後,関係6団体に対し,その概要を説明する説明会を開催した。
 3 平成13年10月26日までの経緯等
  (一) B1の経営状況等
   (1) B1の売上は,平成11年度までは毎年1000億円を越えていた
が,同12年度はB2のいわゆる食中毒事件の影響等により約900億円に落ち込
み,約25億円の赤字決算となった。また,ミート事業部門は同4年度以降毎年赤
字を計上していた。
     B1の同13年上半期の実行計画は,B1のどの部門においても,大幅
に低い数字しか達成できておらず,被告人A2らは,同年8月には,同年下半期の
営業計画として,それまでの計画よりもかなりの落ち込みを見込んだ上で,実行可
能な数値を策定し,これを『死守ライン』とし,これを実現するための計画,いわ
ゆる『死守計画』を発表した。そして,被告人A2は,同年9月から10月にかけ
て,機会あるごとに,死守ラインが達成できるかどうかにB1の存亡がかかってい
るなどと,会議の席等で指示した。また,B2の社長が同13年度の年頭にグルー
プ内の会社は自主独立で経営してもらわなければならない旨表明したため,金融機
関もB1を単体としてみた上で融資を考えるようになり,B1は,金融機関からの
借入れも厳しい状況となっていた。
   (2) BSEの影響による牛肉在庫量の増加状況等
     平成13年9月10日,農水省がBSEに感染したと疑われる国産牛が
発見された旨を公表するとともに,そのころ,BSE感染牛の震えて倒れる映像が
テレビで放映されるなどし,消費者が国産牛肉に止まらず輸入牛肉についても買い
控えをするようになったため,B1では,国産牛肉及び輸入牛肉のいずれについて
も,販売量が低下し,B1ミート部門では牛肉の在庫を多く抱えるようになった。
   (3) 平成13年10月15日のミートセンター長会議の状況等
     平成13年10月15日,B1本社において,ミートセンター長会議が
開催され,同会議には,J,Mら各ミートセンター長のほか,本社から,P,S及び
L(Pら3名)らが出席した。同会議では,出席者から,各ミートセンターが保
管,管理する牛肉の在庫量や販売見通しなどが報告されたが,いずれも悲観的な内
容であり,牛肉の評価損や販売損が多額になると見込まれるとして,役員会に上程
し全社的な対応を求める意見が出され,同会議の出席者から支持された。
  (二) 本件事業により買い上げられた牛肉の処分についての報道と「悪い噂」
   (1) 平成13年10月中旬ころから,国が本件事業を検討中である旨,
買い上げられた牛肉は焼却等の方法で処分される見込みである旨の報道もなされ
た。
   (2) 農水省は,かねて,BSE感染牛の肉であっても危険部位以外は食
用に供しても問題はないとの見解を表明しており,本件事業は,あくまで全頭検査
前の国産牛肉を一定期間市場から隔離することを内容とする事業であって,市場か
ら隔離した牛肉の最終的な処分方法は未決定である旨を表明していたが,(1)の
ような報道を受けて,食肉業界には,本件事業において関係6団体が買い上げた牛
肉については,いずれ焼却等の処分が行われるとの観測が流れ,それとともに,食
肉業界内で安価な経産牛を買いあさって国に買上させようとする業者や,不良在庫
となっている本件事業の対象外の輸入牛肉を対象国産牛のように偽装して買上の対
象としようとする業者があるなどという噂(いわゆる『悪い噂』)が広まり,その
ころ,本件実行犯5名も,そのような噂を,同僚及び取引先などから聞き及んでい
た。
  (三) B17協同組合の説明会とPらの犯意
   (1) B17協同組合では,農水省の説明会〔前記2・(二)(9ペー
ジ)〕があった平成13年10月25日の夕方,B17協同組合において行う会合
(原料対策専門委員会)において,本件事業についての説明を行い,出席者から本
件事業についての意見を聞くこととした(第1回説明会。なお,この会合は本来は
BSE問題の協議説明のための会合ではない。)。同会には,B1からは,P及び
Lが出席した。B17協同組合の担当者は,出席者に対し,農水省から説明を受け
た内容として,全頭検査前の国産牛肉を同組合が買い上げる制度が実施される運び
となったこと,買上予定重量,同組合への割当て重量,本件事業で買い上げた牛肉
は原則として買戻しとなるが,国の方針によっては別の処分方法になる可能性があ
ること,対象牛にはと蓄
証明の添付が必要である旨,本件事業の詳細は同月30日開催予定の説明会(「第
2回説明会」)で発表する旨説明し,出席者はと蓄証明の全量分添付が困難である
等と意見を述べた。
   (2) Lは,この説明を聞き,経産牛は入れてもよいことになっている,
検査態勢が甘いなどとして,買い上げた全量について本件事業の対象牛肉であるか
どうかを検査することは事実上不可能であると考え,本件事業において販売見込み
のない輸入牛肉を買上させたいと思うようになったが,Pも同様であった。
   (3) 一方,Jは,同年10月中・下旬ころ,Pと電話で話した際,「本社
が対応してくれないなら,こっちも考えていろいろやるしかありませんよ。今回の
買上に輸入ものでも何でもぶちこまないとやっていけませんからね。」などと述
べ,B19で輸入牛肉を買上対象肉であるかのように偽装する可能性に言及した。
 4 Pら3名の共謀状況
  (一) Lは,平成13年10月26日午後,S及びPを会社1階商談コーナー
に呼び出し,両名に対し,「本社営業グループでも,輸入牛肉の滞留在庫の処理に
困っています。」「収支のつじつまをあわせるには,保管対策事業の買上対象に営
業グループの持つ輸入牛肉を混ぜさせてもらいます。」等と,本件偽装を持ちか
け,これに対し,Sは,「他社もやっているなら,いいじゃないか。うちだけやら
ないのは損だ。」などと言って賛同した。Pは,「検査があるからばれるのではな
いか。」「検査があるから,見つからないように手を打てないならやめた方がいい
ぞ。」などと不安を口にし,必ずしも積極的に賛成しなかったが,Lから「検査は
甘いでしょ。」などと言われると,「そうだな。」と言ってこれを受け入れる態度
を示した。
    この話し合いの際に,Pら3名は偽装をする旨の最終的な合意に至ったわ
けではなかったが,Lは,S及びPの反応から輸入牛肉を対象牛肉に混ぜ込むこと
の承諾が得られる見込みが高いと判断し,輸入牛肉を国産牛肉に偽装するため詰替
等を行う場所を確保しておく必要があると考えた。
    そこで,Lは,同日,かつて関西食肉センター(B19の前身)長をして
いた当時に懇意にしていた兵庫県西宮市所在のB7株式会社の倉庫を利用して牛肉
の詰替をすることにし,Jに電話をかけ,「B7で輸入ビーフの詰替をやりたい。B
7に頼んでくれないか。」などと要請したところ,同人は,「B7に確認してみ
る。」旨返答した。
  (二) Lは,平成13年10月26日夕方ころ,会社5階喫煙コーナーで,再
度,S及びPに対し,輸入牛肉を国産牛肉と偽って本件事業で買上させることの承
諾を求め,併せて輸入牛肉の国産牛肉への詰替等の作業にはB7を使うつもりであ
ると述べ,S及びPから承諾を得た。
    そこで,Lは,部下のW,O及び乙を集め,「Jの返事待ちだが,B7で輸
入牛肉を国産牛肉に偽装するための詰替作業をする。偽装する輸入牛肉をリストア
ップしておけ。」などと指示した。
  (三) 他方,Lから本社ミート営業調達部分の偽装工作(詰替作業)にB7を
使用したいとの要請を受けたJは,B19においても輸入牛肉を国産牛肉に偽装して
本件事業で買上させ,不良在庫を減らしたいと考え,同日夜,B19の部下であっ
たI,丙,丁及び戊らを集め,本件事業の概要を説明した上,「輸入牛肉を国産牛
肉ということにして本件事業に入れる。ばれたら大変なことになるが,全ての責任
は私がとる。」などと言ってB19が保管,管理する輸入牛肉を国産牛肉に偽装し
て本件事業で買い上げさせる方針を伝え,これに協力するように指示した。
    また,この場で,Jが「本社もB7で詰替をしたいと言っているが手伝える
か。」と尋ねたところ,部下が口々に「そんな余裕はない。」旨答えたことから,J
は,Lからの前記要請を断ることにした。
  (四) 同日,B20にも本社から前記「牛肉在庫緊急保管対策事業について」
と題する書面が届き,Mは,関東統括支店,B20分の買上申請のための在庫報告
書を作成することにした。
 5 同年10月27日から第2回説明会ころまでの状況
  (一) 本社及びB19関係
    同月27日ころ,Jは,本社ミート営業調達部に電話をし,電話に出たPに
対し,B19分の本件偽装をB7で行うので,Lからの要請を断る旨述べた。これ
により,Pは,B19でも本件偽装をすることと認識し,その後間もなくLにJから
の電話の内容を伝えた。
    また,Jは,同月29日,部下に対し,本件事業対象牛肉に混ぜる輸入牛肉
を選定するように指示するとともに,B7の次長Fに対し,輸入牛肉の詰替作業を
するのにB7を使用したい旨を申し込み,承諾を得た。
  (二) B20関係
    Mは,同月29日,Lから,部下を介して,B17協同組合の買上価格が
消費税抜きで1キログラム当たり1060円となることを知らされ,買上申請する
牛肉の単価を低くするため,経産牛などの安価な国産牛肉を買い増したり,在庫の
輸入牛肉を国産牛肉に偽装しようと考え,このころ,Lに電話をかけてB1がB1
7協同組合に買上を申し込む牛肉の量に余裕がある旨の返答を得た。なお,その
際,LはMに対し,同組合が行う対象牛肉の検査につき,「ほとんど無いでしょう
ね,何でもありですよ。」「検査してる余裕ないですよ。」「ノーチェックです。
在庫証明だけで済みます。」などと述べている。
    このような連絡により,Lも,B19だけでなく,B20でも,輸入牛肉
を国産牛肉に偽装するなどして,本件事業で利益を上げる計画を検討していること
を認識し,他方,Mもまた,本社ミート営業調達部が同様の偽装を計画しているこ
とを認識した。
  (三) 同月30日午後,B17協同組合において第2回説明会が開催され,同
説明会には,PとWが出席した。同説明会では,B17協同組合から,買上価格が
消費税抜きで1キログラム当たり1060円であること,と畜証明は不要で在庫証
明だけで足りることなどが正式に発表された。Pは,この買上価格ならば,全頭検
査前のものでも価格の高い国産牛肉をすべて買上申請せずに全体の価格を調整する
必要があると感じ,安い輸入牛肉を国産牛肉に偽装して買上申請すれば,輸入牛肉
の不良在庫を減らすことができる上に平均原価を下げることもできることから,偽
装をするメリットが大きいと考えた。
 6 偽装の具体的実行状況等
  (一) 本社ミート営業調達部における偽装工作状況
    前記5(一)のとおり,Pら3名は,B7で本社ミート営業調達部分の詰替
作業ができなくなったため,別の場所を確保する必要が生じ,同年10月31日,
W及びOと協議し,B2の子会社でSが非常勤取締役をしていた北海道茅部郡所在
のB3株式会社(B3)に詰替作業をさせることに決め,Lにおいて,同人の部下
であるミート営業調達部営業グループB16長Rに電話をかけ,輸入牛肉を国産牛
肉に詰替作業をする作業員の手配等を要請,指示し,他方,Sにおいて,B3の社
長Eに電話をかけ,本件偽装の点は秘しつつ,B3の処理場を借りることの承諾を
得た。
    その後,本社ミート営業調達部では,同年11月1日,国産牛肉に偽装す
る輸入牛肉約1万2600キログラムを保管中の株式会社B4の大井物流サービス
(B5)から出庫し,同月2日,B3に国産牛肉として入庫させ,同日,Lは,W
及びOを北海道に向かわせた。
    同月3日,B3において,W及びOほか,R及び同人から依頼を受けた取
引先社員らが,輸入牛肉を国産牛肉の牛正肉に見せかける加工をして詰替作業を行
い,同作業を終えた。
    そして,同月4日,国産牛肉用の箱に詰め替えられた輸入牛肉は,B3か
ら出庫され,同月5日,株式会社B4の札幌西冷蔵庫(B6)に国産牛肉として入
庫された。
    その後,B6では,同月6日付けで本社ミート営業調達部分及び北海道ミ
ートセンター分として国産牛肉を合計約2万9400キログラム保管している旨の
在庫証明書を発行し,B17協同組合に送付したが,そのうち,本社ミート営業調
達部分の約1万2600キログラムが輸入牛肉であった。
  (二) B19におけるJらの偽装工作状況
    同年10月29日,Jは,部下に対し,B19の定休日である同月31日に
B7で輸入牛肉の詰替作業を行うように指示し,同日,B7において,部下従業員
とともに,輸入牛肉を国産牛肉用の箱に詰め替えた。
    同年11月5日,Jは,部下に対し,本社ミート営業調達部を通じてB17
協同組合に報告したB19分の牛肉の実重量と在庫証明書記載の重量とを確認,調
整しておくように指示し,実際重量が不足することに気が付いた部下従業員は,同
月6日,Jの承諾を得た後,B7に電話をかけ,「後日搬入するので10月15日に
入庫があったことにして在庫証明書を発行して欲しい。」旨を要請し,B7をし
て,架空入庫分を含む在庫証明書を発行させ,B17協同組合に送付させた。
    そして,同年11月15日,Jの指示を受けた部下は,B19において,約
1.5トンの輸入牛肉を国産牛肉用の箱に詰め替え,同月17日B7に搬入した。
    なお,B7がB17協同組合に送付した在庫証明書には,国産牛肉約13
万9668キログラムを保管している旨が記載されているが,そのうち,追加で国
産牛肉に偽装した分も含め約1万3873キログラムが輸入牛肉であった。
  (三) B20におけるMらの偽装工作状況
    Mは,同年10月31日,部下であったミート営業一課長のU,ミート営
業二課長のK及び加工ミート課長のZ1に対し,輸入牛肉を国産牛肉に偽装するた
めの工作を行うように指示し,千葉県松戸市内の取引先である有限会社G(G)を
詰替等の偽装場所として利用することにした。
    Mは,その後ころ,不安になって本社の確認をとることとし,Lに対し,
「問題は起きないか,心配だ。」などと電話連絡したが,Lは,「大丈夫です,検
査はないですから。」「在庫証明だけで検査なんて無理ですから,全く心配ありま
せん。」などと述べた。
    そして,B20では,同年11月1日及び同月2日の2日間にわたって,
B5に保管中の輸入牛肉約3667キログラムを出庫し,いずれも同日Gに入庫さ
せ,同日から同月4日にかけ,Gにおいて,輸入牛肉を国産牛肉の牛正肉に見せか
ける加工をして偽装工作を行い,前記輸入牛肉は,同月5日Gから出庫され,同日
B5に国産牛肉として入庫された。
    B5では,同月6日付けで,B20分及び本社ミート営業調達部分として
国産牛肉を約8万5790キログラム保管している旨の在庫証明書を発行し,B1
7協同組合に送付したが,B20分の約4万4454キログラムのうち,約352
0キログラムが輸入牛肉であった。
 7 本件売買契約状況等
  (一) B17協同組合では,市場隔離計画として,組合員から,合計約340
万キログラムの対象牛肉を買い上げる計画を作成して,同年11月5日,事業団に
申請をした。
  (二) 同月5日,Lは,各ミートセンターから本件事業においてB17協同組
合に売却する牛肉の確定重量を報告させて,B17協同組合に連絡し,同日,B1
7協同組合は,B1に対し,本件事業に基づく売買契約書を送付した。
    同月6日,Lは,Pの承諾を得た後,部下に指示して,前記売買契約書に
B1の社印を押捺させ,B17協同組合に郵送して牛肉の買入方を申し込み,その
ころ,B1は,B17協同組合との間で,対象牛肉27万9467.7キログラム
につき,代金を3億1132万7017円(1キログラム当たり1060円,消費
税込み1114円)とした売買契約(本件売買契約)を締結した。
  (三) 本件売買契約では,B17協同組合がB1に対し契約締結時から2か月
後に1キログラム当たり消費税込み700円を支払い,残余は本件事業終了時に支
払うものとされていたが,B17協同組合は,平成14年1月7日,B1が指定し
た株式会社B8銀行B9支店のB1名義の普通預金口座に,本件売買契約に基づく
売買代金の一部として,1億9562万7390円を振込入金した。
 8 平成13年12月上旬にB19従業員が取材を受けた時の状況
   平成13年12月6日深夜,B22新聞社の記者が,B19従業員らに対
し,一斉に,本件事業に関連して輸入牛肉の詰替工作をした事実の有無についての
取材を行った。取材を受けたIら各従業員は,詰替工作の事実を否定した上で,直
ちにJに,取材を受けた事実を伝え,Jは,Pに対し,取材のあったことを連絡し
た。
 9 平成14年1月下旬の本件発覚時の状況
   平成14年1月22日午後,B22新聞社の記者から,B1本社の広報室に
対し,B19での牛肉詰替工作の事実の有無を尋ねる電話があり,情を知らない広
報室長Zは,「そのような事実はあり得ない。」とこれを全面否定した。
   その後記者から前記取材があった旨Zから報告を受けた被告人A2は,Zに
ミート事業の関係者を招集するように指示し,同日夜,B1本社503会議室に,
被告人A2,S及びLのほか,Zやデリカハム・ミート事業本部事業統括部長Dら
が集まり(Pは当時デンマーク出張のため不在であった。),まず,Zが新聞記者
からの取材に対し全面的に否定したことなどを報告した。
 10 犯行隠ぺい工作等
  (一) 本社ミート営業調達部関係
    Lは,平成14年1月23日,輸入牛肉の偽装工作に関与したB16駐在
所の処理月報を調査されると偽装事実が明らかになるとして,同月報を改ざんする
ことにし,Wに指示して,B3に行かせた。これを知ったSは,このような時期に
WをB3に行かせるのはまずいとして,Lに指示して直ちに北海道からWを引き揚
げさせた。また,同じころ,LとSは,本社ミート営業調達部の牛肉の偽装工作は
Lの独断で行ったものであるように装うことにし,Eに偽装場所の提供を依頼した
のがSであった事実を隠ぺいするため,LがEに電話をかけ,LがB3の利用方を
申し込んだことにして欲しい旨を依頼した。
  (二) B19関係
    Jは,平成13年11月22日ころ,部下に指示して,B19がB7で本件
偽装の作業を行ったことを口止めするため,Fを接待させた。また,同年12月7
日,Jは,B19において本件偽装に関与した部下に対し,前夜に新聞記者が取材に
きた件に関し,今後社内で,あるいは新聞記者に,本件偽装について話さないよう
に指示した。
  (三) B20関係
    Mは,本件発覚後の平成14年1月28日,所轄保健所に事情を説明した
際,被告人A1らから受けた指示に基づき,B20で輸入牛肉の偽装工作があった
かについては調査中である旨の虚偽の説明をした。その後の同年1月末ころ,M
は,同ミートセンターの部下従業員に対し,本件偽装に関連するパソコンデータ等
の情報を廃棄するように指示した。
 11 その後の状況
  (一) 本件売買代金の返還
    B1は,本件発覚後,本件売買契約によりB17協同組合から入金を受け
た金員及びそれに対する利息相当額の合計2億円弱をB17協同組合に返還した。
  (二) B1の解散等
    B1は本件偽装発覚後その業績が急激に悪化していたところ,平成14年
1月29日,本社及びB20における偽装を公表し,Y及び被告人A2が引責辞任
するとともに取締役Y2が代表取締役社長に就任して再建を目指したが,同年2月
22日,再建を断念して清算することとしてその旨を公表し,同年4月30日株主
総会の決議により解散し,清算法人となった。
第3 具体的争点に関する関係人の供述等証拠関係の概要
 1 Pの被告人A2に対するミートセンター長会議(平成13年10月15日)
の報告の有無及びその内容(争点②-1)
  (一) Pは,同月16日ころ,被告人A2に同会議の状況を資料(検95資料
1-1,2,2-1ないし34)を手渡して報告したが,その際,滞留している牛
肉の在庫が国産牛と輸入牛との合計で約380トンあること,全頭検査対象外の牛
肉の在庫分をも混ぜ込んで売る旨を報告するミートセンターがあったこと等を説明
し,在庫品の処分につき役員会で検討して欲しい等と話した旨供述する(P②2な
いし8ページ)。
  (二) これに対し,被告人A2は,Pがいう資料の一部しか渡されていない
(検95資料2-1から2-34はみているが,資料1-1,2はみていない。)
し,Pから(一)のような内容の報告は受けていない旨を供述をする(被告人A2⑮
42ページ以下)。なお,被告人A2は,捜査段階において,同月16日にはPか
ら報告自体が全くなかった旨供述していたが(検189),報告を受けたことを示
すP作成の「A2専務殿」と記載された後記(三)の同会議の報告文書を示される
と,報告を受けたかも知れないが記憶がないと供述を変更した(検190)。
  (三) 前記(一)のPが被告人A2に報告した際に手渡したとする書類は二つの
書類であって,その一つは,「MC長会議メモ(平成13年10月15日)」と題
するPが作成した同会議で出された各地の現状等をまとめた2枚のメモであり,も
う一つは,同会議で使用された「10月度全国ミートセンター長会議」と題する表
題部分に続き33枚の各ミートセンターの現状を示す資料が綴られた書面であっ
て,表題部の頁には,Pによる「A2専務殿」との手書き記載があるほか,被告人
A2による「滞留380t」「①商品在庫→牛,死守 ̄」「②今後の回復→とり,
豚への拡大」等の手書きの書き込みが見られる。
 2 Pの被告人A2に対する平成13年10月22日ころの報告(争点②-2)
  (一) Pの供述によれば,Pは,同月22日,B17協同組合理事のW2か
ら,10月17日以前(全頭検査前)にと畜した牛肉の隔離事業が行われる見込み
である旨の連絡を受け,B1本社専務室において,被告人A2にその旨報告して本
件事業に是非参加したいと報告し,併せて,業界のいわゆる「悪い噂」についても
報告した(P②11,12ページ),当時,仕入れをキャンセルできない輸入牛肉
の在庫が増えて不良在庫化しており,場合によっては,輸入牛肉を国産牛肉に偽装
して買上申請しなければならないと考えていたため,被告人A2に対してこのよう
な報告を行った,被告人A2は,「いろんなことをやるところもあるんだな。」な
どと言ったほか,「損をしない制度なのか。」と尋ね,「加重平均を下げ,損しな
いようにすることになります。」などと,輸入牛肉を国産牛肉に偽装することをも
含め加重平均を下げる等して損をしないようにする旨答えたところ,被告人A2
は,「やり方はそっちに任せる。」などと,偽装を含め方法は任せるので,制度に
参加して損をしないようにせよとの指示をPに行ったというのである(P②13,
14ページ)。
  (二) これに対し,被告人A2は,そのころPが供述するような報告を受けた
ことも,そのような指示や承諾をしたことも全くないと供述する(同被告人⑮60
ないし62ページ)。
 3 平成13年10月25日ころ及び同月29日ころのMから被告人A1への報
告内容(争点③-1)
  (一) Mは,平成13年11月5日以前に被告人A1の指示了解を得ないま
ま,部下に偽装の指示をしたことを認めつつ,その理由として,「僕自身の頭の中
でのことだと思いますが,業界の噂は随分出ておりましたし,当然,会社の上の方
もそういう情報は耳に入れられたと・・思いますし,・・ある意味では,ほかでも
やっていること・・で,上のほうの方も当然,そういうことは頭の中に認識とし
て・・あると思っていた。輸入牛肉を国産牛肉と偽って買上申請することについて
は,被告人A1も当然そのように考えているだろうという頭があった。」などと供
述し(M④23ページ),11月5日以前にも,本件事業に関し,被告人A1に対
し,資料を見せ,併せて,業界の動向を逐次報告していたとして,大略,以下のと
おり供述する。
   (1) Mは,本件事業に関し,本社から提出を求められていたB20の在
庫報告書につき,従前,被告人A1の押印を得ずに「統括支店長不在代」として自
分が押印したものを本社に送っていたが,「10月現在(10月23日)国産牛肉
関連冷凍在庫報告書」(検208資料7。検55資料5-1ないし5-4等も同
じ。)等の書類については,被告人A1に報告し,10月25日付けの同被告人の
日付印の押捺を得た〔M④24ページ以下,検55(12ページ以下)〕。
   (2) また,Mは,本件事業実施についての情報を得るとその都度被告人
A1に報告をしていたが,そのような報告をしていた平成13年10月中・下旬こ
ろ,「牛正を大量に集めている業者もあるようだ。」「輸入ビーフを混ぜ込んでい
る業者もあるようだ。」「関西のほうが動きが早い。」などと他社の動向について
も報告した。被告人A1は,特段驚いた様子もなく,「さすがに向こうのほうは早
いな。」などと他社の動向を肯定する発言をし,Mは,B1においてもこのような
業界の流れに沿わなければならないと考えた(M④4,5ページ)。
   (3) Mは,経産牛の追加の表とそれを加えた10月27日付けの在庫報
告書(検55資料7-1ないし7-9)を同月30日に本社に送付したが,同月2
9日ころ,被告人A1に対し,本件事業に関連して,本社ミート営業調達部に対す
る同月27日現在のB20における在庫牛肉の重量を報告するに当たり,同在庫報
告書記載のように,同センターの在庫牛肉の重量等につき,在庫牛肉の重量が約3
万2770キログラムであり,1キログラム当たりの平均簿価が約1424円であ
る等の報告をしたはずである〔検55(11,12ページ)〕。
  (二) これに対し,被告人A1は,前記(一)(1)の在庫報告書をMから見せ
られ,日付印を押捺したことは認めるものの,Mから,同人が供述するような他社
の動向などを聞いたことはない(被告人A1⑬44ないし47ページ),前記(一)
(3)の在庫報告書は見ていないし,この書類のような報告も受けていない(被告
人A1⑬45,46ページ)と供述する。
  (三) なお,前記の各「国産牛肉関連冷凍在庫報告書」(在庫報告書)は,後
記「牛肉在庫緊急保管対策事業について」と題する書面により本社ミート営業調達
部が各ミートセンター等に統一の書式で作成を指示し,その指示に従って作成され
たB20の和牛,ホルス,経産(牛)の3品目の凍結冷凍保管在庫量を報告する書
面であって,内容的には本件偽装を窺わせるものは一切ない通常の報告文書であ
る。
 4 平成13年10月26日午前の常勤取締役会におけるPの報告(争点①-
1)
  (一) 同日午前,B1本社で常勤取締役会が開かれ,これにはYや被告人両名
のほか,Pが出席した。Pは,その際,平成13年度上期営業・生産概況の報告を
した(検150)。
  (二) Pは,以下のとおり「悪い噂」などについて報告したと供述する。すな
わち,Pの供述によれば,同人は,同取締役会において,本件事業の概要に加え,
本件事業に関しては,業界には,「政治力を使って枠をかき集めて事業に参加する
業者がいる。」「安い国産牛,経産牛等をわざわざ買い集めて事業に参加するよう
な業者,対象外の輸入牛肉を事業に混ぜ込んで,だまして,それでやろうとする業
者もいる。」という噂(「悪い噂」)があることなどを報告した(P②14,15
ページ),この報告に対して,役員らから違法行為を止めべきである等の発言はな
かった(同15,16ページ)というのである。また,同会に出席していたY2
(検148),X2(検241),U2(検243)らB1の取締役であった者,
さらには被告人A2の捜査段階における供述調書(検248)にも,Pが前記業界
の「悪い噂」の報告をした旨の供述記載がある。また,SはPがそのような報告を
したと言っているのを聞いたと供述する(S③5ページ)。
  (三) これに対し,被告人A2や前記(二)のY2ほかのB1の取締役であった
者全員,被告人A1を含め,同取締役会に出席していた者のうち公判廷で供述した
者は,公判廷では,Pを除く全員が,そのような報告はなかったと供述し,捜査段
階から一貫してその旨供述している者も複数存在する(被告人A1⑬43ページ以
下,H⑧12ページ等)。
 5 Pから被告人A2に対する平成13年10月26日の報告の有無及びその内
容(争点②-3)
  (一) Pの供述(検97,P②16ページ以下)
   (1) 10月26日,常勤取締役会の後,PがLに作成を指示していた
「牛肉在庫緊急保管対策事業について(10月26日付け)」と題する書面(検9
7資料3-1ないし3-3。Pの印のないものは検138資料1。早急に在庫量の
調査を行って買上申込み予定量をB17協同組合に報告する必要があったことから
作成されたもの。)が完成した。Pは,これを各統括支店に被告人A2名で直ちに
送付することとし,同被告人の決裁を得ることとした。ところが,たまたま,被告
人A2は不在であった。そこで,Pは,前記書面の発出人名横に「不在代」と書き
込んで,「P」の丸印を押して各統括支店に対してファックスで送信し,申込み予
定量の調査と把握をするように指示した。
   (2) その後,同日昼過ぎ,前記のとおり,Pは,L,Sと本件偽装につ
いての共謀をした。
   (3) その直後である同日午後,Pは,ファックス送信した前記文書(検
97資料1-1ないし1-3)について,事後的に承諾を求めるため,専務室に被
告人A2を訪ね,同被告人に対して,再度本件制度についての説明をした上,「取
締役会でもお話ししましたが,保管対策事業の概要は決まっており,現在,各支店
の在庫調査をしてB17協同組合に申込み予定量の事前の届出を行う段取りになっ
ています。」「どうなるか分かりませんが,よそがやるくらいのことはうちもやる
ことになると思いますから。」などと,「悪い噂」にあるような輸入牛肉を買上申
請に含ませる意向を被告人A2に伝え,その承諾を求めた。これに対して,被告人
A2は,「事業への参加は,構わない。やり方もそっちに任せるから。」などと言
って,不正行為も含めて事業参加の方向で話を進めることを承諾した。そこで,P
は,本件犯行に向けた決意を固めた。
  (二) 被告人A2の供述
    被告人A2は,この日にPから報告があったこと自体を否定し,前記「牛
肉在庫緊急保管対策事業について」と題する書面は事前には全く見ていないと供述
する(被告人A2⑮63ないし67ページ)。
 6 平成13年10月30日あるいは31日のPから被告人A2への報告内容
(争点②-4)
  (一) Pらの供述の概要
   (1) Pは,第2回説明会の結果を『平成13年度牛肉在庫緊急保管対策
事業助成の件』と題する書面(13年10月30日付け)にまとめ(検98資料2
-1ないし2-3。3枚中1枚はP作成,2枚はW作成。被告人A2の押印のない
ものは検138資料3),同日中あるいは翌31日の早い段階で,専務室に赴き,
被告人A2に対し,これらの書面を手渡した上,正式に決まった本件事業の具体的
中身について説明するとともに,各統括支店に対して事業の参加に向けて買上申込
み予定の在庫牛肉の正確な数量報告を求めるつもりであると報告した(検98)。
   (2) Pは,その際,被告人A2に対し,「いろいろ枠をかき集める業者
がいる。」「経産牛を買い集めてやる業者がいる。」「国産牛に輸入牛を混ぜて事
業に参加して儲けようとするような業者もおります。」「私どもも他社並のことも
やりたい。」「万難を排して,この事業に取り組んで損を減らしたい。」等と述
べ,今回の事業において,輸入牛肉を国産牛肉に紛れ込ませて本件事業に参加する
との趣旨を含め,被告人A2に報告をした(P②17,18ページ)。
   (3) 被告人A2は,3枚の書類を読み,黙ってうなずきながら報告を聞
いた後,Pに対し,「よそもいろいろやっているんだな。」「そういうことであれ
ば,そっちで考えてうまくやってくれ。」などと言って,偽装を含む本件事業への
参加を許可して,前記「平成13年度牛肉在庫緊急保管対策事業助成の件」と題す
る書面に「A2」の印鑑を押印した。Pは,被告人A2から,前記指示を受けたこ
とで,本件犯行を実行するようにとの指示が出されたものと認識した(P②18な
いし22ページ)。
   (4) Pは,その後,S及びLに,「専務の承諾もらったから。」等と,
被告人A2から前記指示を受けたことを伝え,S及びLもその旨認識した(P②同
22ページ,L④20ないし22ページ,時期が曖昧であるがS③8ページ)。
  (二) 被告人A2の供述
    被告人A2は,前記『平成13年度牛肉在庫緊急保管対策事業助成の件』
と題する書面を受け取り,これに押印したことは認めるものの,(一)(1)(2)
のような報告はなく,立ち話程度の簡単な報告の後この書面への押印を求められて
押印したに過ぎない旨供述する(被告人A2⑮67ないし69ページ)。
  (三) 『平成13年度牛肉在庫緊急保管対策事業助成の件』と題する書面は,
平成13年10月30日付けのハムデリカ・ミート事業本部長作成名義(扱ミート
営業調達部)の各統括支店長宛の書面であって,現時点では農水省は買入れ焼却す
るとの意思表示は一切ないこと,B1は本件事業に参加する方針であること,売買
窓口はミート営業調達部が担当すること,買戻しの際は,商品は補助金とともに各
統括支店に戻すことになること,対象牛は,全頭検査以前にと畜された和牛,ホル
ス,経産(牛)であり,牛正肉は対象となるが,コニク,カッパ,スライス等加工
されたものは対象とはならないこと等が記載された内容的には本件偽装を窺わせる
ものは一切ない報告指示文書である。
 7 平成13年11月2日のPから被告人A2への報告内容(争点②-5)
  (一) Lは,同年11月1日,本件事業においてB17協同組合に買上申請す
る牛肉の重量を各ミートセンターから報告させて集計し,Pに報告して承諾を得た
後,B17協同組合に対し,B1がB17協同組合に売却する予定の牛肉の重量が
約27万9467キログラムである旨を報告した(この事実は,当事者間に格別争
いはない。)。
  (二) Pの供述の概要
   (1) Pは,同日,Lからの集計報告を受け,「牛肉在庫緊急保管対策事
業について(報告)」と題する被告人A2宛の報告用文書(検98資料4。検10
9資料6も同じ。)を作成し,同月2日,専務室において,被告人A2にその書面
を手渡して報告をした。その際,Pは,前記書面の内容につき,被告人A2に対し
て,「全体では279トン強,税抜きで2億9400万。これで粗利が二百数十万
となって,いろいろやって,損しないようなことにできました。」「他社並にはや
りました。」「これでB17協同組合に仮申込みをしたいと思います。」等と,本
件偽装等の結果,本件事業により利益が出るようにしたので,この数字で申込みを
したい旨伝えた上,業界全体で買上予定量を大幅に超える申請があったことも報告
した(P②23,24ページ)。
   (2) 被告人A2は,Pから手渡された書面を読み,その口頭報告を聞い
て,「そういうことであれば,それで申込みしなさい。」などと言って,偽装を含
めた牛肉の買上申請を承諾した(同24ページ)。そこで,Pは,Lに対し,被告
人A2の承諾をもらったとし,B17協同組合に,数量を仮申込みするように指示
した。
  (三) 被告人A2は,これについて,Pは,同月2日,前記「牛肉在庫緊急保
管対策事業について(報告)」と題する文書を持参して本件事業への参加の報告を
したが,あとは実務で進めている旨を述べただけで詳しい報告などPが供述するよ
うな本件偽装を窺わせる発言などなかった旨供述する(被告人A2⑯3ページ以
下)。
  (四) 前記「牛肉在庫緊急保管対策事業について(報告)」と題する書面は,
平成13年11月2日付けのミート営業調達部長作成名義の「A2専務」宛の報告
文書であって,同日,PがL作成の原案に基づき作成したものである。その内容中
には,11月1日にB17協同組合に買上申込みをした本社,各支店の牛肉のケー
ス数,数量,1キログラム当たりの平均単価(消費税込み)等が記載されており,
平均単価を見ると,北海道,東海の各統括支店分がそれぞれ1272円,1387
円であるのに対し,東北,関東,関西の各統括支店分がいずれも1060円,ミー
ト営業調達部分が946円と安価になっている。
 8 平成13年11月5日のMから被告人A1への報告等(争点③-2)
  (一) Mの供述の概要は,以下のとおりである。
    Mは,高価な和牛を買上対象からはずしたり,経産牛の買増しや輸入牛肉
の国産牛偽装等により,買上申請の平均単価を下げて,B20分で500ないし6
00万円の利益が出るような作業を終えた上,同年11月5日,被告人A1に報告
した(M④6,7ページ)。
    Mは,この報告の際,あらかじめUに作成させた前記在庫証明書と同じ様
式のB20における牛肉在庫に関する2種類の同日付け在庫報告書を用意した。こ
のうち一種は本社提出用として簿価の記載がないもの(以下「簿価なし報告書」と
いう。検55資料10-①),もう一種は被告人A1に対する報告用として簿価の
記載があるもの(以下「簿価入り報告書」という。)であって,簿価入り報告書は
被告人A1に本件事業に係る収支を明確に報告するため特別に作成させたものであ
る。
    B20は春日部市内にあったが,B20長や同センターのミート営業一課
の席は,関東統括支店の支店長室に隣接する大フロアー(以下「大フロアー」とい
う。)内にあり,被告人A1の席も支店長室のほか大フロアー内にもあった。
    Mは,大フロアー内で,被告人A1に対し,この2種類の報告書を携え,
「買上事業の数字がまとまりましたので,本社に報告しなければならないので,判
こをいただきたい。」「原価を下げるため,牛正10トンを外部から購入しまし
た。輸入ビーフを3トンちょっといたずらをして入れました。」等と述べ,買い足
した牛正肉と輸入牛肉を今回の買上事業の在庫に混ぜたことを被告人A1に伝え
た。「大丈夫なのか。」と尋ねる被告人A1に対し,Mが「大丈夫です。心配いり
ません。」と答えると,被告人A1は,Mに対し,「任せるから,後はそっちでや
ってくれ。」等と言い,輸入牛肉を国産牛肉と偽ってB17協同組合に売却するこ
とを承諾し,これを指示した(なお,検察官は,ここにおいて,被告人A1とMら
が,本件犯行を実行することについての共謀を遂げたとする。)(M④7ないし1
2ページ)。
    その後,Mは,被告人A1とともに支店長室に入り,ミーティングテーブ
ルに座って,この2種類の在庫報告書を被告人A1に渡し,簿価なし報告書は本社
提出用であること,簿価入り報告書により利益がわかること,大フロアーで報告し
た経産牛(牛正,10トン)と輸入牛(3トン強)は経産牛の欄に入っているこ
と,原価差額として500から600万円の差益が見込めること等を説明し,併せ
て,高い牛肉の在庫量を相当量持っているので,この処分によって買上による利益
以上のマイナスが生じるなどと今後の収支の見通しについても説明した。被告人A
1は,「分かった。」「後は任せるから,そちらでやってくれ。」等と言って,簿
価なし報告書に押印した。Mは同報告書のみを持ち帰り,簿価入り報告書は被告人
A1の手持ち資料として残された。Mは,このようにして被告人A1の指示承諾を
得た後,Uに,簿価なし報告書を本社に送るように指示した(M④13ないし16
ページ)。
  (二) Qの供述によれば,たまたま付近にいた同人は,大フロアーにおけるM
と被告人A1のやりとりを聞いていたというのであり,その内容は,Mの述べるよ
うなものであったという。
  (三) これらの点に関する被告人A1の供述は,以下のとおり,MやQの供述
内容を否定するものであるが,特に不自然な点や供述自体に矛盾する点はなく,D
やB1の役員等の供述と合致する部分もある(なお,弁17)。
   (1) 場所として,大フロアーで本件事業についてMから報告を受けた記
憶はないし,いたずらという言葉をMが使った記憶もない。そもそもいたずらとい
う言葉を社内で聞いたことがなく,もしいたずらという言葉を使ったら,その意味
を聞いたと思う。また,QがいるところでMと本件事業の話をしたことはなく,M
と本件事業の話をしている際Qが話しかけてきたという記憶もない(被告人A1⑬
47,49ページ)。
   (2) 支店長室での報告について,Mは本社に報告するので本件事業に関
する在庫報告書に押印を求めてきたと思う。Mから見せられたのは簿価のない一種
類のものだけで,輸入牛肉を入れている旨の話は一切なかった。自分が,損が出る
のかというように聞いたところ,Mは,いや,損は出ません,経産牛で多少調整し
ましたので,多少の差益が出ますなど答えていた。どこからか調達してきた安い経
産牛を入れることによって全体の平均価格を下げたんだろうと理解し,調整という
言葉に若干戸惑ったが,経産牛は対象牛肉に含まれるから問題はないと判断した
(被告人A1⑬49ないし52ページ)。
 9 平成13年11月27日の常勤取締役会におけるSの報告(争点①-2)
  (一) この点に関するSの供述は,以下のとおりである
    同取締役会において,Pが所用で出席できないために,Sが代わりにミー
ト営業調達部関連の報告を行うこととなり,本件事業による買上結果の報告を行っ
た。Sは,買上となった重量と金額のほか,同業他社の動向として,「他社はいろ
いろ悪どいことをやっているようです。」「この制度を悪用してぼろ儲けをしてい
るところもあります。」「悪用ではないですけれど,この制度でうまく不死鳥のよ
うによみがえった企業もあります。」などと報告した。そして,「うちも,まあ他
社がやっているように,いろいろやりまして,1060円でまとめあげて国に買い
上げてもらいました。」等と説明をした(S③12ページ以下)。この場でも,役
員らからは,利益に関する質問が出るくらいであって,当社は他社のような不正を
していないかといった質問などなく,その場は,損失を防いでよくやったという雰
囲気であった(同14ないし16ページ)。
  (二) このSの供述については,同年10月26日の常勤取締役会におけるそ
れとは異なり,後記のとおり,議事録にSが他社の動向について述べた旨の記載が
若干ある一方,捜査段階においても,出席役員中に,その記載以上にSが供述する
ほどの報告があったとする者はなく,被告人両名を含め,B1が違法行為を行った
ことを窺わせる報告まではなかったと断言する元役員らもいる(被告人A1⑬53
ページ以下,同A2⑯10ページ以下,Y⑧12ページ,H⑧18ページ等)。他
方で,PはSから同人が供述するような報告をした旨聞いたと供述している(P②
28ページ)。
  (三) 同常勤取締役会議事録の6頁以下は,Sの発言として,「経産牛を潰し
て牛正だけでやっているところは,650~700円の原価なのですが,これをす
べて1060円で買い上げられていますから,多分これで大儲けしたところがある
と思います。私どもは基本的に1060円に合わせるようにしました。和牛で売り
先のないものも評価を落として売り,牛正も入れ,経産牛で出る利益分を和牛分で
相殺した。」旨の記載がある(検151)。 
 10 平成13年12月6日にB19従業員が取材を受けた後の状況(争点②-
6)
  (一) J,P,Sの供述の概要は以下のとおりであり,3者の供述の間に格別齟
齬する点はない。
   (1) 同月7日,Sは,被告人A2に対し,専務室において,B19従業
員が新聞記者から一斉に取材を受けた事実経過及びその取材内容を報告した(当事
者間に格別争いのない事実。S③21ページ以下,P②33,34ページ。被告人
A2⑯12ページ)。
     被告人A2は,「誰がそんなことをB22(新聞の記者)にしゃべった
んだ。」等と述べ,情報を漏らした者のことを気にしていたが,同人から,B19
が本当に偽装をしたのか等事実関係を確かめる質問はなかった。Sは,その旨Pか
ら聞かされていたこともあって,被告人A2が同センターが偽装工作を行っている
ことを知っていると感じたという(P②34ページ,S③25,26ページ)。
   (2) Jは,P及び関西統括支店長のCから文書により前記取材状況の報告
をするように指示され,Iとともに報告書(12月7日付け報告書。検14資料1
ないし4。検101資料1-1ないし3)を作成し,本社P宛及び関西統括支店C
宛にファックス送信した〔P②35ページ,I⑳5ページ,検14(6ペー
ジ)〕。
     Pは,12月7日付け報告書ファックスを受領した後,Sとともに,被
告人A2を専務室に訪ね,同所において同人に対し,その写しを手渡し,あらため
て前記取材状況を報告し,「まだ記者は来てるのか。」などと尋ねる被告人A2に
対し,PないしSが,「今日は来ておりません。」「記者はJの説明に納得した様子
で,取り敢えず収まったとみてよいのではないか。」などと答えたところ,被告人
A2は,「問題ないんだな。」と述べた(P②36ないし41ページ,S③26な
いし29ページ)。
   (3) その後,被告人A2は,Jに電話し,「レポートを読ませてもらっ
た。」「『何もやってない』だな。」などと早口で言い,Jは,本件偽装を隠し通す
ようにという指示と理解し,被告人A2に対し,「はい。」と答えた(J⑤5ペー
ジ)。
   (4) なお,同月7日,Jから前同様の説明を受けたCが,被告人A2に電
話をかけ,B19従業員が新聞記者の取材を受けたことを伝えたところ,被告人A
2は,Cに対し,取材状況等を書面で報告するように指示した〔検14(3ページ
以下),C・4ページ以下)。
  (二) 被告人A2らの供述概要
    被告人A2その他の会社関係者の供述は,(一)の内容を否定するものであ
るが,同人らの供述の間にも格別齟齬する点はない。同人らの供述の概要は,以下
のとおりである。
   (1) 被告人A2は,同年12月7日,Sから口頭で報告を受けたが,そ
の内容は,「B19で,段ボールとラベルに関する取材を受けた。」というもの
で,Sは,取材を受けた同センターの従業員は,ラベルは商品の小分け,段ボール
は小分けと破損に使う旨回答した旨報告し,「何も問題はありません。」と述べた
だけで,本件偽装に関する報告は何もなかった(被告人A2⑯15ページ,検19
7)。
     被告人A2は,翌8日には重要な取引先の接待が控えていたため,Sに
対し,前記取材の事実関係を調査し,翌日Dに報告するように命じるとともに,Y
に対し,B22新聞から段ボールとラベルの処理について取材を受けたこと及びS
に対して前記指示をしたことを報告した(被告人A2⑯16,17ページ,検19
7,D⑩22ページ,Y⑧13ページ)。
     同(7)日午後4時ころ,デリカハム・ミート事業本部長宛に12月7
日付け報告書がファックス送信されたが,同報告書は,その名宛人である被告人A
2の目に触れることはなく,同被告人は,事件発覚後に社内で事情聴取を受けるま
で,同報告書の存在すら知らなかった(被告人A2⑯13,14ページ,検19
7)。
     また,被告人A2は,同日Cと電話で会話したこともない(被告人A2
⑯14ページ)。
   (2) Dは,12月7日夜,出張先から帰社して,12月7日付け報告書
に目を通し,その後社内でPから心配ないとの説明を受けた。その直後ころ,被告
人A2と会ったが,前記報告書の話まではせず,同被告人から,翌8日に,自分の
代りにPから調査報告を聞くように指示された。しかし,Dは,同日午後,所用で
本社に出社することができなかったため,事業統括課長Xに対し,被告人A2の前
記指示を伝え,12月7日付け報告書を読んだ上で代りにPからの報告を受領して
被告人A2に伝えるように指示した。Xは,Dの指示に従い,本社においてデリカ
ハム・ミート事業本部事業統括部生産グループ課長N(N)とともに12月7日付
け報告書を読んだ(D⑩22ページ以下,⑪6ページ以下,X⑩6ページ以下,被
告人A2⑯17ページ以下)。
     その後XはPと会ったが,同人はXに対し本件取材に係る事実関係につ
いては何もなかった旨述べた。そこで,Xは,同日午後,前記接待終了後本社に電
話してきた被告人A2に対し,Pから何もなかった旨聞いていると報告した(被告
人A2⑯18ページ,検197,X⑩7ページ)。
   (3) 被告人A2は,週明けの12月10日,本件取材についての調査結
果をPに報告させるとともにその内容をYにも了知させるべく,PとともにYのも
とに赴いた。その際,Pは,Yに対し,「B19でラベルと段ボールの取材を受け
ましたけれども何も問題ありませんでした。」と報告し,YがPに対して,なぜB
1がそのような取材を受けたのかと質問したところ,Pは,B1だけでなく他社も
同様に取材を受けたと回答した(被告人A2⑯19ページ,Y⑧13ページ,検1
97)。
   (4) なお,同日以降,B1がB19に対して偽装事実について詳しい調
査を行うことはなかった(P②41ページ,③63ページ,S③29ページ,被告
人A2⑯19ページ,⑰41ページ,I⑳10ページ)。
  (三) 12月7日付け報告書は,関西統括支店長作成名義のデリカハム・ミー
ト事業本部長宛(扱事業統括部長,ミート営業調達部長)「B22新聞記者による
BSE検査前国産牛肉の一次買上げ事業等に関する取材について」と題する同日付
けの書面であって,同年12月6日の晩にJ等B19の社員7人及びB7のFがB2
2新聞記者に一斉に取材を受けたこと,その質問内容は,10月31日B7で何を
していたか,国産牛肉の買上事業に輸入牛肉を入れるため,レンジャーズバレー産
の輸入牛肉の詰替作業を行ったのではないか等であったこと,返答内容は,そのよ
うなことは一切していない等であったことが記載されている。なお,同書面には,
I作成に係る同人の手書きによる同人が記者と接触した際のやりとりの逐語的記載
がなされた書面二枚が添付されている。
 11 平成14年1月下旬の本件発覚時の状況(争点②-7)
  (一) 平成14年1月22日午後B22新聞社の記者から電話取材があった旨
Zから報告を受けた被告人A2が,Lに対しJに電話をかけさせ自らJと話したこと
は,関係者の供述が一致するところであるが,その際の会話の内容及びその直後の
同被告人の言動について,①Jの供述によれば,同被告人は記者がきたかどうかを確
認した後,「『やってない』でいいな。」と言い,「はい。」と答えると,一方的
に電話を切ったというのであり(J⑤12ページ),Sの供述によれば,同被告人が
その電話の後会議室にいた者に向かって「Jはやってないと言っているぞ。」と言っ
たとする(S③31ページ)のに対し,②被告人A2の供述によれば,同被告人が
Jに対し「今,関西でオーストラリアの牛を国産牛に買上申請したのではないかとい
うような問い合わ
せがあったが,そのことについては事実か。」等と尋ねると,Jは「いいえ,そのよ
うなことはしておりません。」と答えた,その電話の後,その場に集まっていた者
に,Jは本件偽装を否定していると伝えたというのである(被告人A2⑯22ペー
ジ)。
  (二) その電話の後,被告人A2は,L,デリカハム・ミート事業本部副本部
長のT取締役(T)及びNにB19に調査に行くように命じ,調査の具体的な方法と
して,平成13年9月から12月までの受払票等の伝票類を精査すべきことを会議
室のホワイトボードを使用しながら指示したことは,関係者の供述が一致するとこ
ろであるが,被告人A2が率先して調査すべきであると言い出したか否かについて
はこれを否定するSとこれを肯定するZ,被告人A2との間で食い違いがある(S
③32ページ,Z⑱10ページ,被告人A2⑯21ページ。なお,L④27ペー
ジ)。
  (三) 同日深夜,被告人A2は,B23新聞社の記者から直接電話取材を受
け,翌日(同月23日)の同社の朝刊にB19での牛肉偽装工作の件を掲載すると
の連絡を受けた後,被告人A2がSに電話をかけたことは,関係者の供述が一致す
るところであるが,①Sは,被告人A2はこの電話の際,「もう駄目だ,もうこれ
以上守れない。」などと言った旨供述するのに対し(S③36ページ),②被告人
A2やその他の関係者の供述によれば,被告人A2は,B23新聞記者から新聞掲
載の連絡を受け,直ちにYにその報告をし,Sに対しては,新聞記事掲載の事態を
告げ,Jに至急連絡をとって事実を確認した上報告するように指示し,さらに,Dに
電話で,関西以外の各ミートセンター長に同様の偽装行為があったかどうかを確認
するように指示した,Mは,Dからの問い合わせに対し,B20でも偽装をしたこ
とを認めたので,Dはその旨被告人A2に報告し,同被告人は被告人A1に連絡し
てB19での偽装の点とB20でもMが偽装を認めた旨話したというのである(被
告人A2⑯25ないし31ページ,被告人A1⑬54ページ,M⑤40ページ,Y
⑧13ページ,D⑩31ページ,検158資料,弁17)。
  (四) その後,SがJに電話をかけ,翌日の朝刊に同センターでの牛肉偽装の件
が掲載されることを連絡したところ,JはSに対し,Jがこの偽装を独断でしたこと
にする旨述べたこと,Sが被告人A2に電話をしてJとの電話内容等について話した
ことは,関係者の供述が一致するところであるが,その際の会話内容につき,①S
は,「Jセンター長の独断でやったことにすると,Jセンター長が言っておりま
す。」と伝えたところ,被告人A2は「それでいいんだろう,間違いないな。」と
言った旨供述するのに対し(S③38,39ページ),②被告人A2の供述によれ
ば,Sから,Jが偽装の事実を認めた,独断でやったと言っているという報告を受け
ただけであるというのである(被告人A2⑯28ページ)。
  (五) Jが,その後,被告人A2に電話をかけたことは,関係者の供述が一致す
るところであるが,その会話内容について,①Jの供述によれば,被告人A2は「何
でばれたんだ。これで会社が潰れるぞ。」などと一方的に言って電話を切ったとい
うのに対し(J⑤15ページ),②被告人A2の供述によれば,Jから,偽装を認め
て謝罪する内容の電話連絡を受け,偽装の動機などを問い質したところ,Jは,牛肉
の在庫を処分したかった,自分の独断であると答えた,そこで,Yに電話し,B1
9でJの独断で偽装行為が行われたことを報告したというのである(被告人A2⑯2
8ないし30ページ,Y⑧14ページ)。
  (六) 同月23日,B23新聞とB22新聞の各朝刊にB19における牛肉偽
装工作についての記事が掲載され,B1で記者会見が行われたこと,被告人A2
が,この記者会見で,従前社内で調査をしたが偽装を発見できなかった,役員会で
牛肉の在庫について検討していた等と嘘を述べ,また,B19での偽装はセンター
長の独断である旨述べたことは,本件証拠上明らかなところであるが,①Sの供述
によれば,同記者会見に先立って,被告人A2から,B19の偽装はJの独断で行っ
た旨,調査には行ったが発見できなかった旨答えるように指示を受けたというのに
対し(S③42ページ),②被告人A2は,同日は,早朝から社内に報道陣が入り
込むなど混乱しており,詳細な事実もつかめず,また資料もない状況であったた
め,出席者の間で回答内容について事前に協議する余裕はなく,被告人A2がSに
対し,回答の具体的内容その他の事項について何らかの指示を出したことはなかっ
たというのである(被告人A2⑯31ないし34ページ,Y⑧14ページ以下,D
⑩33ページ以下)。なお,この点については,他の役員らの供述にも同様のもの
があるほか,Yらの供述によれば,Mは,同記者会見の前に,Yらに対し,B20
でも偽装を行った旨及びこれを隠蔽して欲しい旨Yに報告して懇願したが,同社長
は隠蔽はできない旨Mの懇願を拒絶した(Y⑧15ページ,⑨22ページ。なお,
M④29ページ)。
  (七) Sは,同日ないし24日ころ,Yに本社でも本件偽装を行ったことを告
白したが(S③48ページ,Y⑧15,16ページ),①Sの供述によれば,同人
は会議中のYのところに行って,本社でもやってましたと耳打ちしたというのに対
し(S③48ページ),②Yの供述によれば,同社長は,Sにおいて,「本丸でも
やりました。」「L課長がやりました。」等と,本社分の偽装がLの独断であって
S自身は関与していないように述べたというのである(Y⑧16ページ)。
  (八) Pは,当時外国出張中であったため,平成14年1月23日帰国し,被
告人A2に謝罪したが,①Pの供述によれば,その際,同被告人から「お前のおか
げで首になるわ。」と言われたほか特段の会話はなかったというのに対し(P②4
2,43ページ),②被告人A2の供述によれば,Pに対し,同人の偽装への関与
を問い質したところ,Pは,事前ではなく申請のときに偽装行為について知った
が,これを被告人A2その他の上司に報告すれば,社内で大きな問題になると思い
報告しなかった旨の回答をしたというのである(被告人A2⑯35ページ)。
    また,被告人A2は,その後同日夕方,Lが一人で専務室に来て,実は本
社でも偽装を行った旨打ち明けるとともに謝罪したので,「課長1人でやったの
か。部長は知っているのか。」等と問い質したところ,「私一人でやりました。」
と答えた(被告人A2⑯36,37ページ。L④31ページ,⑤17ページ),そ
の際,Lから具体的な偽装方法等を聞き出して,本社分の偽装の事実及びその概要
を初めて知ったとも供述する(被告人A2⑯36,37ページ)。
  (九) 平成14年1月25日,S及びPが,被告人A2も同席する社長室にY
に呼び出された際の状況について,①Sの供述によれば,Yから,「B3のE社長
がB2に電話したらしい。B2から問い合わせがきた。」「S,分かってるな。」
と言われたので,「はい,私がやりました。」と述べるとともに「社長,お言葉で
すけれども,私がやったということを前面に出しますと,専務並びに会社の組織ぐ
るみの犯罪という可能性になるのでは。」と言ったが,Yは「B2に分かってしま
った以上,隠すわけにはいかない。」と述べた,また,Pにも,「おまえも知って
いたのか。」と尋ね,Pは「はい,知っています。」等と答えた,Yは被告人A2
には何も言わなかったが,同被告人が先に社長室に入っていたから,同被告人もY
に自らの関与を話し,B2に発覚している部長級の者までの責任にしておくことに
決まったと思ったというのであり(S③50ページ,④41ページ),②Pの供述
によれば,Yは,Sに,おまえもかかわっているんだろうという言い方で責任をと
るように命じ,自分にも,直接的な言葉はなかったが責任は当然あるとの趣旨のこ
とを言われたので,分かってますと述べた,被告人A2は特に何も言わなかったと
いうのであるが(P②45ページ,③65ページ),これに対し,③Yや被告人A
2によれば,Yは,翌25日午前中,Sを社長室に呼び出し,あらためて,同人の
本社分の偽装行為への関与を問い質したところ,Sは,「すいません,やりまし
た。」と自らの関与を認めた,さらに,Yは,同日午後,社長室において,被告人
A2同席の上,S及びPに対し,本社及びB19における偽装への関与の有無を確
認したところ,Pは,自らの関与について全く不明瞭な発言に終始し,要領を得な
い状態であり,P及びSは,その弁明中で,本件事件について,被告人両名等の役
員が関与していることを窺わせる発言等は一切しなかったというのである(被告人
A2⑯37,38ページ,Y⑧16ないし18ページ,⑨23ページ)。
第4 判断
 1 はじめに
   本件では,本件実行犯5名の供述,とりわけ,被告人A2についてはPの,
被告人A1についてはMの各供述及びこれらと符合する若干の関係者の供述以外に
は,被告人両名が本件犯行に関与したことを示す証拠はない。しかも,PとMは,
被告人両名に対し,『輸入牛肉を買上対象に混入させる。』『輸入牛肉を国産牛肉
と偽る。』『偽装する。』『詰め替える。』といった明確かつ具体的な発言をした
とは供述しておらず,いわゆる「悪い噂」の報告とともに,B1においても他社並
の行動をとるつもりであるとか,牛肉をいたずらしたといった曖昧かつ抽象的な発
言をし,被告人両名がそれぞれこれを承諾したと供述するに止まる。
   検察官は,いわば暗黙の承諾のごときやりとりにより被告人両名との共謀を
遂げたとし,B1の置かれていた当時の状況や死守計画の存在及びその内容,被告
人両名の社内における地位等の背景事情を併せ考慮すると,本件実行犯5名と被告
人両名がこのようなやりとりで共謀を遂げたと認定することに妨げはないというの
である。また,本件実行犯5名は,捜査の当初は被告人両名が本件の共犯である旨
を供述していなかったのであるが,検察官は,本件実行犯5名がB1の解散までは
会社防衛のため会社の役員である被告人両名の関与につき敢えて供述しなかった
が,その解散後はその必要がなくなったためこれを供述するに至ったのであって,
その供述の変遷や曖昧な供述内容にはそれぞれ合理的理由があるとする。
   ところで,前記のごとき供述に止まるとはいえ,本件実行犯5名の公判供述
は,概ね合致しており,一見すると特に矛盾のない供述のごとくである。
   しかしながら,被告人両名との共謀を述べる本件実行犯5名の供述は,いわ
ゆる共犯者の自白であり,慎重な吟味が必要であって,単に5名の供述が合致して
いるとか,客観的証拠との間に明らかな矛盾がないというだけで,たやすく信用す
るべきものではない。
   そこで,当裁判所は,本件実行犯5名の供述及び検察官においてこれを裏付
けると主張する証拠を子細に検討したが,その結果この5名の供述には看過できな
い問題点が種々含まれており,結局,これらの供述に信用性は認められず,他方
で,被告人両名らの供述の信用性にも疑問が生じる部分がないわけではないが,こ
れをもって本件実行犯5名の供述の信用性が増強されて本件公訴事実について合理
的疑いを容れない程度の心証を得ることも到底できないとの結論に至った。
 2 基本的な疑問点
   本件実行犯5名らの供述の信用性が極めて脆弱であることについては,後に
詳しく検討するが,翻って考えると,被告人両名には,本件詐欺の共謀共同正犯と
考えることにつき,妨げとなる事情が種々認められる。
  (一) 被告人両名の地位ないし立場からみた問題点
    被告人両名はいずれもB1の役員であるが,本件事業への参加についても
その責任者として会社全体の利益を考えるべき立場にあったのであり,赤字は許さ
ない等と日頃厳しく言っていた(P③8ページ等)被告人A2が,Pらから本件偽
装に関する報告を聞いてこれに関与したのであれば,他の部署でも同一のことがで
きないかを検討し,あるいは少なくとも他の部署の動向を聞くなどするのが自然で
あり,被告人A1についても,程度はともかく同様である。
    ところが,本件実行犯5名らの供述によっても,被告人両名,殊に同A2
がそのような言動に出た形跡はない。現に,本件事業に参加しながら損失を計上し
ているミートセンターも存在し,例えば,北海道ミートセンターは,比較的高価な
平均単価1272円〔前記第3・7・(四)(28,29ページ)〕の国産牛肉で申
込みをしているが〔同センター長T2の検察官調書・検138(6,7ページ)〕,
Lはもちろん,被告人A2も,同センターに偽装の打診等特段の働きかけや問い合
わせをした形跡はないし,そのような打診の必要性等の話し合いがなされた形跡も
全くない。
    なお,被告人A1については,他の実行犯の供述はもちろん,Mの供述に
よっても,他の実行犯や被告人A2と通謀した事実は窺われず,被告人A1は他の
役員から独立してMとの間の通謀でB20の偽装工作についてのみ共謀したという
こととなる。
    そうすると,本件偽装は少なくとも完全な会社ぐるみのものではないとい
うこととなり,被告人両名,とりわけ同A2が本件偽装を指示したとか承諾してい
たと認めるには,そもそも疑問が生じる。
  (二) 動機に関する疑問点
   (1) 検察官は,本件犯行は,BSEの影響により,B1が保管・管理す
る輸入牛肉等の在庫が増大してその処分に困窮していたことを動機とするものであ
ると主張するところ,被告人A2は,輸入牛肉は国内でのBSE感染牛発見後も売
れていたと供述するが,B1の各食肉販売部門の抱える輸入牛肉の在庫量が検察官
主張のように増加していたことは社内資料による裏付け〔検10(資料1-1,
2),47(資料1,2枚目),検81(別表),検129(本文,別表)〕があ
り間違いないところであって,本件実行犯5名が輸入牛肉の在庫処理に苦慮してい
たことは事実と認められるし,本件実行犯5名が滞留在庫の増大に悩み,これを処
理したいと考えていたことはこれらの者の供述などから明らかである。そして,会
社にBSE対策室が設けられたこと,BSE対策は品質管理のみを目的とするので
はなく,牛肉や牛肉由来製品の売上回復を目的とするものであることは明らかであ
ることからすれば,被告人両名が牛肉が売れないことを問題と考えていたことも検
察官主張のとおりと認められる。
(2) しかしながら,被告人両名は,本件偽装を行うことによる利益追求
よりもこれが発覚することによる悪影響を懸念する立場にあったと考えられる。す
なわち,関係証拠によれば,平成12年ころ,B2が牛乳による食中毒事件を起こ
し,同事件により,同社やその子会社であるB1の評判(ブランドイメージ)が大
きく揺らぎ,前記のとおり,平成12年度には前年度までの継続的な黒字決算から
一気に約25億円の経常赤字を抱える状態に追い込まれるなどB1にも大きな損失
が生じたこと,被告人両名も,B1の役員として,これを教訓として,本件当時,
いわゆるブランドイメージが毀損された場合のダメージの大きさに対する理解はあ
ったものと認められ,その意味で,B1が違法行為等社会的非難を浴びる行為をす
ることには抵抗感ないし警戒感を持っていたものと認められる。
   (3) 本件事業によるB1の売上は約3億円であり,これは同社の年間売
上(約900億円,被告人A2⑮5ページ,検150添付資料によれば,平成13
年度上期の売上は約450億円である。)の約0.3パーセント,約1日分の売上
に過ぎない。また,本件事業の性質上,これに参加しても,本来,さほどの利益を
生じるはずのないものである。現に,粗利益(差益)についてみても,B19で
は,粗利益は1500万円程度であって,そのうち,偽装による利益は463万9
624円70銭である〔検18(2ページ),33(5ページ)等〕。同様に,B
20の同利益は580万9290円〔U⑦31ページ,検70資料4等〕,本社ミ
ート営業調達部の同利益は614万6538円である〔検109(6ページ,資料
4)等〕。そして,本件偽装に要する経費を差し引けば,本件偽装による利益はさ
らに少ないこととなる。
   (4) 関係証拠によれば,B1の利益を支える主力事業部門はハム・ソー
セージ事業であり,ミート事業は規模が小さい上,平成4年以降継続的に赤字を計
上していたことが認められる(P③4,5ページ,S2⑫2ページ以下,弁29
等)。被告人A2は,ミート事業が旧態依然の体質から抜け出ないとして,デリカ
ミートとして付加価値を高める方向での改革と,本来のミート事業からの撤退ない
しは大幅な事業縮小を考えていた(被告人A2⑮7ページ)。そして,被告人A2
は,Pも同席していた平成13年9月24日開催の統括支店長会議において,BS
Eの影響により食肉売上が約2億円減少するとしつつ,その対策として,ハム・ソ
ーセージ部門の売上増加等で対応する旨述べている〔弁33(1ページ)〕。
     また,被告人A1は,Mから,B20における平成13年度下期実行計
画と同期の収支見込みとの間に約3000万円の乖離(未達)が存することの報告
を受けた際に,同人に対し収支の改善を求めるでもなく,「こんなもんで済むん
か。」と述べている(M④6ページ,被告人A1⑬37ページ)。
   (5) そうすると,被告人両名において,本件偽装の承諾をPやMから求
められたとしても,本件偽装は受ける利益に比してこれを行うリスクが大き過ぎ
て,発覚のおそれがないとの確信を抱くような説明を受けるなどしない限り,容易
にこれを承諾するものとは考え難い立場にあったと考えられる。
     さらに,本件事業が国の行う事業であり,本件売買契約が代金回収の確
実な相手方への在庫商品の販売契約であることを考慮すると,単なる現場の事務作
業であるとして,本件事業参加手続自体にはさほど関心を持たず,本件実行犯5名
らミート部門の担当者に任せきりにしていたとする被告人両名の供述も,さして不
自然であるとはいえない。
     なお,前記のとおり,被告人A2がもともとミート事業を縮小すること
を検討していた事実に照らすと,被告人A2は,本件実行犯5名ないしPら3名等
が違法行為に出ようとすることを察知すれば,逆にミート部門の問題視すべき体質
が露呈したとして,同部門の廃止を検討する材料とする可能性すら否定し難かった
のであるが,本件実行犯5名らにおいて,そのことを予測していたであろうのに,
そのような危険性について検討相談した形跡も全くない。
  (三) 詰替指示前の共謀の欠如
    本件実行犯5名は,いずれも,本件偽装に及ぶには被告人両名ら役員の承
諾がなければならないと考えていたと供述するが,前記第2・6(15ないし17
ページ)認定のとおり,本件実行犯5名は,いわゆる「悪い噂」の報告を除くと,
それぞれその供述によれば,被告人両名から個別の承諾,指示を受けようとすらせ
ず,事前に,本件偽装のための詰替作業等をそれぞれの部下らに指示して具体的な
作業を開始している。この事実は本件実行犯5名の前記供述に齟齬し不可解という
べきである。
   (1) Pは,本件偽装が発覚した場合,P一人ではその責任を負いきれな
いので,ミート部門の最高責任者である被告人A2の承諾が必要であると考えて,
同被告人に本件偽装の承諾を求めたというが(P②19ないし20ページ),Pら
3名が本件偽装の共謀をしたのは平成13年10月26日であり,B3において現
実の詰替作業が行われたのは同年11月1日ないし3日であるから,前記のような
動機であれば,それ以前に,Pが被告人A2に承諾を求めない理由はなく,不自然
というべきである。
     検察官は,被告人A2には既に同年10月26日(Pによれば同月22
日)ころから報告が行われており,同被告人が同年11月2日の時点あるいは同月
6日の時点で偽装を止めるように指揮命令すれば,偽装分を数量から除いて国産牛
肉だけの申請とすることも可能であったし,それまでの被告人A2の行動からすれ
ば,ミート部門の者が抵抗しても本件偽装を阻止できたはずであるとし,被告人A
2とPらとの最終的な共謀が11月2日に成立したことは詐欺の共謀の成立時期と
して遅きに失することはないとする。
     しかし,Pら3名が被告人A2から偽装に反対される現実の可能性を考
えていたというのであれば,Pら3名による本件偽装の具体的作業の指示は早過ぎ
るというほかはなく,疑問は払拭できない。検察官がいうような被告人A2のワン
マン傾向からすればなおさらで,Pら3名にとって,いったん始めた偽装につき被
告人A2が反対した場合には,進退に窮することになりかねないのであって,検察
官の主張にはやはり無理がある。
   (2) Mは,本件事業についてこまめに被告人A1に報告しており,「悪
い噂」等の報告をした際の被告人A1の反応から判断すると,同被告人が本件偽装
に反対するとは思っていなかった,しかし,反対された場合には,輸入牛肉を買上
申請から外すつもりだった等と供述する(M④20ないし24ページ)。Mが部下
に本件偽装を指示したのは同年10月31日,現実の偽装作業は同年11月1日か
ら4日まで行われ,Mが本社に関東統括支店分の対象牛肉を最終報告し,LがB1
7協同組合に売渡計画書を提出したのは同月1日であるところ,現実の偽装開始以
前に被告人A1に承諾を求めることなく,同月5日になってようやく同被告人に承
諾を求めたというのは,やはり不自然,不合理である。
     さらに,前記第3・3・(一)(22ページ)のとおり,Mは,事前承諾
を求めなかった理由につき検察官に重ねて問われて,ようやく被告人A1がそれま
で「悪い噂」の話をしても驚かなかったので同被告人も本件偽装をするつもりであ
ると思っていたからであるとか,業界の動きからみて被告人A1が当然承諾すると
思っていたからであると説明するが,Mが現実の偽装作業を開始しようとした際部
下にさえ消極的な意見があったこと(検74),M自身が本件偽装に不安を感じL
に電話したこともあること〔第2・6・(三)(17ページ)〕,かつて被告人A1
が上司としてMの行動をチェックしたことがあったこと(被告人A1⑬4ページ以
下等)等を併せ考慮すると,Mの前記説明は,依然として,納得しうるものではな
く不合理である。
  (四) 本件偽装発覚後の調査等
    本件偽装発覚後,被告人A2が調査を命じ,あるいはB1として,以下の
ような調査を行ったが,それぞれその経過中には,被告人両名の関与が疑われるよ
うな事実は特に認められない。なお,前記B1による調査が被告人両名ら役員の関
与を隠蔽する意図で行われたものとも認められない。
   (1) 被告人A2の調査命令
     前記第3・11・(二)(37ページ)のとおり,被告人A2は,平成1
4年1月23日,他の役員らもいる前で,Lら部下3名にB19へ行って本件偽装
につき調査するように命じているが,その際同被告人がホワイトボードに記載した
メモが書面化されて残っているところ(検158添付資料),同書面中には,被告
人A2が,本件偽造の事実を前もって知っていたのに素知らぬ振りをして調査を命
じたものであることを疑わせるような記載は何ら見られない。
   (2) 社内調査委員会
     YらB1の役員は,B19における偽装が発覚した直後,本件偽装の事
実関係等の調査を目的とする調査委員会を設置し,B20及び本社ミート営業調達
部における偽装が明らかになった後の同月26日,同委員会の委員長にR2弁護士
が就任した。
     同調査委員会は,本件実行犯5名らから事情聴取をし,あるいは事件関
係者らから帳簿類を提出させるなどして調査を行い,同月28日付け報告書を作成
した。同報告書では,被告人両名ら役員が本件偽装に関与していなかったと結論づ
けられている(P②47ページ,H⑧20ページ,S2⑫13ページ等)。
   (3) 特別監査
     B1の監査役会は,本件偽装発覚を受けて,会社取締役の本件偽装への
関与の有無を確認することを主たる目的として,前記調査委員会の調査の検討や関
係者への事情聴取などを内容とする特別監査を実施し,同年2月26日,前記調査
委員会の調査結果の信憑性は非常に高く,また役員らは本件偽装に関与しなかった
との心証が得られた旨の監査報告を行った(H⑧21ページ以下,検221,22
3等)。
 3 実行犯の供述自体の疑問点(総論)
   実行犯の各供述には,被告人両名との共謀にかかわる具体的事情を除いて
も,以下のように,総論的に,虚偽供述を疑うべき種々の要素ないし事情のあるこ
とを指摘できる。
  (一) 共犯者の供述としての信用性の乏しさ
   (1) 本件の証拠構造
     前記のとおり,本件は,本件実行犯5名の供述を除くと,被告人両名の
関与は到底認定できない事案である。報告書類など若干の客観的証拠もあるが,こ
れらは,本件詐欺(本件偽装)がなかったら作成されなかった書面ではなく,文面
上は通常の報告があったことを裏付けるに過ぎない書面であって,被告人両名の本
件偽装への関与を裏付ける書面であるとするには,本件実行犯5名の供述の信用性
を前提とする関係にある。
   (2) 本件実行犯5名の立場
     本件実行犯5名は,いずれも被告人両名の部下であり,被告人両名の承
諾があったから本件偽装を行ったと述べているのであって,被告人両名が本件実行
犯5名らにおいて本件偽装をしようとしていることを認識した上これに承諾を与え
たということであれば主犯としての責任を免れる立場にある。
     他方,被告人両名が主張し,あるいは本件実行犯5名が前記社内調査委
員会等で供述していたように,同5名が共謀し,あるいはそれぞれ自らの判断で本
件偽装をしたのであれば,同5名は,決裁権のない部下が上司役員をも欺いて本件
偽装に及んだことになり,B1の会社組織人としても大きな非違行為をしたことに
なる。しかも,本件偽装詐欺事件はその後大々的に報道され,B1はこれを契機に
結局解散に追い込まれ,そのことが当時大きな社会問題となった段階で,本件実行
犯5名は,本件詐欺(本件偽装)の主犯として,B1が解散に追い込まれた原因を
も作ったことになったのであるから,もともと,被告人両名ら会社上層部の関与を
供述することによって,自らの責任を軽減しうる立場にあった本件実行犯5名は,
B1解散後,その実態がどうであれ,被告人両名ら会社上層部の関与をほのめかす
供述をして,できれば,その責任を軽減したいと思っても不思議のない立場にあっ
たというべきである。
     また,本件実行犯5名にとっては,退職後ないしは会社解散後は,虚偽
供述をすることによる不利益をさほど気にする必要はなく,しかも,そのような供
述をすることの抵抗感が減少する状況となった。すなわち,本件実行犯の立場を考
えると,会社が存続し,会社に止まるのであれば,上司を陥れるような虚偽供述を
すれば会社にいられなくなるという不利益を被るおそれがあったが,本件実行犯5
名はいずれもB1を懲戒免職となって,これが消滅するとともに,本件詐欺が単に
B1の一支店あるいは一ミートセンターとの契約ではなく,会社全体としてB17
協同組合と行った契約に関するものであり,またマスコミで大きく報道されたり会
社が解散するに至るなど社会問題化すればするほど,一般論とすれば,本件詐欺に
会社上層部が関与したのではないかと疑われやすくなるのであって,本件実行犯5
名が,このような会社ぐるみの犯行ではないかとの見方に迎合する供述をすること
の抵抗感が軽減する状況が生じていたといってよい。
     そして,Pは被告人A2と,Mは被告人A1と,それぞれ平素から接点
を持ち,いずれも二人だけになる機会を有していたのであって,平素の会話に若干
の嘘を付加するだけで,客観的証拠からは反論の難しい虚偽の会話を混ぜ込むこと
も容易にできる立場にあった。
   (3) 本件実行犯5名の関係,被告人両名との関係その他からみた虚偽供
述の動機の存在
     本件実行犯5名は,ミート部門の実務を担う者として,それぞれその経
歴からみても業務上も密接な関係で結ばれており,ミート部門さらには食肉業界の
閉鎖性ないし特殊性を併せ考慮すると,その関係はさらに強いものであったと認め
られる〔検61(5ページ),85(7ページ),P③3,4ページ,弁4等〕。
     被告人A2はハム・ソーセージ部門の出身,同A1は食品ないしハム・
ソーセージ部門の経歴が長く(P③8ページ,被告人A1⑬1ないし3ページ,同
A2⑮1ないし5ページ,検207,181等),本件実行犯5名の供述によって
も,同5名と被告人両名との間には過去を含め上司と部下として密接な関係や特に
友好的な関係はなく,以下のとおり,本件実行犯が被告人両名にもともと反感を有
していたとか,本件偽装の発覚後さらなる報復感情を抱いた可能性を示唆する証拠
がある。
    ア ミート事業は継続的に赤字を計上していたが,SやPらミート事業担
当者はミート事業が赤字となっている原因をB17部門の責任であるとするなど,
ハム・ソーセージ部門へ対抗意識を有しており,両部門に確執があった(P③6ペ
ージ,S④10ページ等)。
    イ B1では,平成13年7月,Y着任以降,他社との合併ないし業務提
携が進められており(Y⑧6ページ,被告人A2⑮7ページ,20ページ以下),
被告人A2は,Sに『S・Pカンパニーを作れ。テーブルミートだけで黒字になる
ような改革案を作れ。改革案ができなければミート事業をやっている意味がないじ
ゃないか。』〔S④7ページ,検182(6ないし10項)〕などと,折に触れ,
ミート部門の業績があがらなければこれを縮小,廃止することも辞さない旨の厳し
い意向を示していた〔検10(5項),42(7,8ページ),55(9ペー
ジ),121(9ページ)。M(検59)は「ミート部門はお荷物扱い」と供述し
ている(同1ページ)〕。
      また,被告人A2は,平成13年度の下期実行計画(死守計画)にお
いて死守ラインを策定,発表し,死守ラインが達成できるかどうかに会社の存亡が
かかっている等として,死守計画の遵守を同事業本部の目標に掲げ(被告人A2⑮
34ページ以下),死守計画が文字どおりのものではなかったにせよ,達成できな
いことがミート事業へのマイナス評価となる旨の圧力をミート営業担当者に感じさ
せていた。他方,被告人A2は,デリカハム・ミート事業本部長となった直後の同
年4月ころ,PとSが企画していた食肉展示即売会につき,接待のコストがかかり
過ぎる等の理由により,Pらの継続要請を一顧だにせず中止を一方的に命じ(被告
人A2⑮29ないし33ページ,⑰13,14ページ),あるいは同月ころのミー
トセンター長会議で,それまで食肉部門では比較的利益率のよかった生ホルモンの
販売中止を前同様Pらの存続要請を無視して,いわば問答無用のトップダウン方式
で決定した(S④6,7ページ,被告人A2⑮12ページ,⑰6,7ページ)。被
告人A2の判断に正当性があるにせよ,ミート部門にとっては利益を上げるための
重要な企画や商品を廃止する被告人A2の決定は,ミート部門の者にとっては,利
益を上げるように指示しながらその手段を奪うという,同被告人による冷酷な仕打
ちと感じさせるものであった。
    ウ このように,ミート部門を潰すなどと自分たちの職場を奪いかねない
発言をしていた被告人A2に対して,PとSはかねてから反感を抱いていたが,
(ア)平成13年10月17日,Pら3名がB17株式会社を訪問した際,同社社
長Q2に対し,被告人A2に関して,「頭に来る。」「何も知らない段階で収支を
改善しろと言われた。」旨の不平を述べていたこと(Q2⑫10ページ以下),
(イ)Sが,同年11月末ころに開催されたYと本社部長との懇親会の際,「A2
はとんでもないやつだ。」「肉のことは何も知らないのに引っかき回している。」
などの発言をしたこと(S2⑫12ページ),(ウ)Mは,被告人A2の方針に反
し,ミート事業に対する思い入れが強かったので,自らの手でB20の事業を立て
直そうと,平成13年夏ころ被告人A2からなされた,栄転というべき本社デリカ
ミート部部長就任の誘いを留保したこと(M⑤5ページ,被告人A2⑮23ペー
ジ),(エ)Sは,同年10月の職制改編により通常は降格人事と評すべき部下を
持たない役職への就任を命じられた(被告人A2⑮16ページ,S④1ページ)
が,このことについて被告人A2を恨んでいた可能性があること,(オ)Pについ
ても,Sの件に関し同様の感情を持つに至ってもさほど不思議ではないこと等の事
実にかんがみると,被告人A2に対する反感の感情は,程度の差はあれ,本件実行
犯5名全員が共有していたものとみてよい。
    エ 本件発覚後の反感ないし報復感情
      本件発覚後,B1は,まず,食肉事業からの撤退を表明したが(被告
人A2⑯34ページ,検180資料3等),本件実行犯5名からみれば,自分たち
は被告人A2がミート部門を潰すとか死守ラインを死守するようにしつこく言って
いたために,いわばミート部門を守り,ひいては会社の利益を図るべく本件偽装を
したのに,その結果ミート部門がなくなれば,被告人A2の思う壺だという気持ち
にもなって,反感ないし恨みの感情を強めたとしても不自然ではない(S④43ペ
ージ)。
      そして,B1はミート部門を黒字化しようしていたのであるから(H
⑧7,8ページ),本件実行犯5名は会社のために本件偽装をしたという感覚であ
ったと考えられる。本件実行犯5名は平成14年2月27日ころ懲戒解雇の内示を
受け,P,S,Mはこれに対し異議を述べている(検177,弁1,2)が,この
ことは,前記の推認を裏付けるものである。そうすると,本件実行犯5名は,本件
偽装の結果,懲戒解雇になったことについても,被告人両名ら役員に恨みの感情を
抱いた可能性が強く,現に,Pは,逆恨みのような感情を抱いたことを自認してい
る(P③88ページ)。
     これらの点からすると,本件実行犯5名には,被告人両名に対する反感
や報復感情からも,被告人両名を本件犯行に引き込む供述に及んだ可能性は否定し
難い。
   (4) 供述の変遷
    ア 全体に共通する特徴及びその問題点
      本件実行犯5名は,本件偽装発覚直後の調査委員会調査や特別監査の
段階及び捜査段階の当初は,被告人両名の関与を全く供述していなかった(Pは当
初は自分自身の関与すらも否定していた。)。
      そして,本件実行犯5名がそれぞれその供述を変遷させた時期はほぼ
同一時期であり,被告人両名の関与(共謀)を供述し始める前の供述内容とその後
のそれも,同5名ともに概ね同一内容である。しかも,同5名とも,会社が解散し
被告人両名の関与を隠す必要がなくなったため,そのころから共謀の事実を話した
というのであるが,その当時本件実行犯5名の供述調書がほとんど作成されていな
いことに照らすと,被告人両名の関与を供述し始めた時期は,いずれも会社解散直
後ではなかったと認めるのが相当である。そして,Sの供述のように,本件実行犯
5名が被告人両名の関与を供述しないように事前に相談はしていない(S④45ペ
ージ。もっとも,Sのこの供述自体信用し難いことは後記のとおりである。)ので
あれば,このような供述の変遷経過はより不自然であることとなる。 
      本件実行犯5名は,被告人両名からの指示を受けて始めて偽装の決意
をした,あるいは,明確かつ具体的に偽装する旨被告人両名との間で通謀したとま
では供述していないところ,検察官は,仮にPらが故意に被告人A2らを陥れるつ
もりがあれば,報告の際,被告人A2らと何度も二人だけになる機会があったので
あるから,被告人A2らに対して,具体的に輸入牛肉を国産牛肉に偽装するという
言葉を述べたとか,被告人A2から偽装してでもどんなことをしてでも利益を上げ
ろといった具体的指示の発言があったと供述するはずであるが,Pらは,そのよう
な供述は一切していないのであるから,このようなP供述が,被告人A2らを陥れ
るために,殊更嘘をついたものと考えることはできない,Pらが供述する被告人A
2からの指示は「任せる」などといういわばオブラートに包んだような言い方であ
って,Pが被告人A2からの指示を誇張しているとは到底考えられないと主張し,
このことは同5名の供述の信用性を増すかのようにみえる。
      しかし,被告人両名の地位,両名と本件実行犯5名との接点,同5名
が本件偽装を他の者,特に外部の者に表明などした時期や会話内容その他動かしよ
うのない事実関係からすると,その段階で,被告人両名が先に本件偽装をするよう
に言い出したとか,明確かつ具体的に偽装する旨被告人両名との間で通謀したと述
べることはほとんど不可能であったと考えられるから,検察官の主張は前提を欠
く。 
    イ Pの供述
     (ア) 供述変遷状況等
       Pは,前記のとおり,本件偽装の発覚後である平成14年1月25
日,Yの聴取に対し,自らの関与について不明瞭な発言に終始し,本件偽装への関
与を話さなかったし(P②44ないし46ページ),その後の調査委員会において
も,被告人A2から,同委員会ですべてをいうようにとの指示を受けていながら,
事前に関与していないと嘘を述べていたが(P②48ページ,③67ページ),平
成14年1月下旬ころから多数回警察官の取調べを受けた際には,当初から自分が
詐欺(本件偽装)を行ったことを認めた(P②53ページ,③74ページ)。そし
て,Pは,その後同年2月中旬以降に被告人A2ら上層部の関与について聞かれる
ようになったが,何か物的な証拠はないか,直接偽装工作をしろと言った事実はな
いか等としか聞かれなかったため,直接の指示はなかったと取調官に供述し(P②
54ページ),公判廷で述べるような被告人A2とのやりとりは話したとする(P
②54,55ページ)一方,よそ並にはやらなければいけませんと同被告人に言っ
たという程度の供述しかせず(P②54,55ページ),同被告人の関与につき細
かく供述しなかった(同58ページ)とし,時系列に沿った質問はなかったとか,
具体的な物証がないと取り上げてもらえないと思っていた等というのであり,さら
に,同年2月22日ころ,会社が解散することを知ったので,本件偽装が会社ぐる
みの犯行であることを認めたともいう(P②57ページ)。
     (イ) その評価 
       Pは,被告人A2から,事前に,すべてを話すように指示されたに
もかかわらず,調査委員会において,自己のみならず被告人A2の関与を話さなか
ったわけであるが,首肯するに足りるその間の経緯を説明する供述をしていないの
であって,このことは極めて不自然,不合理である。なお,Pは,自分が調査委員
会で前記のように述べたのは,Jの独断であったことにすれば会社を守ることができ
ると思ったからであるというが,当時SやLが既に調査委員会に対し本社分を含め
た本件偽装を認めていたことと矛盾する。
       捜査段階(逮捕前)における供述につき,検察官は,Pが当初被告
人A2の関与や指示承諾の存在を捜査機関に対して述べていない点については,会
社を守るためにPらミート部門関係者の独断にしておこうという意識があったこ
と,当初は,具体的な偽装の手口の解明が捜査の中心課題であり,会社上層部の関
与についての追及があまり行われなかったことによるものに過ぎないとし,Pは,
その後会社の清算が決まり,会社を守るために被告人A2らによる指示承諾を隠し
ておく必要がなくなったので,被告人A2の関与を述べるようになった,被告人A
2から「偽装をしろ。」などという言葉による具体的な指示があったわけではなか
ったため,当初のうちは、これでは指示承諾にならないと思い込んで同被告人の関
与を供述しなかったと主張する。しかし,Pの供述中,平成14年2月中旬以降公
判廷で述べるような被告人A2とのやりとりを話したという部分は,会社解散とは
無関係に述べられており,この点がまず不自然である。次に,前記のとおり,P
は,調査委員会では,会社存続のために自らの関与を否定したというのであって,
捜査段階で自らの関与を認めつつ会社存続のため被告人A2の関与を述べなかった
という理由はこれと矛盾する。また,Pは,警察での取調べの間に作成された供述
調書は1通くらいだったとする(P②52ページ)が,被告人A2ら上層部の関与
を問い質している捜査官が,被告人A2とのやりとりについて供述を始めたPから
謀議の事実を詳細に聴取しないとか供述調書類の作成もしないなどということは到
底考えられない。さらに,被告人A2との共謀に直接関する事実ではなく,P自
身,何度も述べたといういわゆる「悪い噂」の報告が録取されている供述調書(平
成14年2,3月作成のもの)も存在しないのであって,前記Pの供述は信用し難
い。
      以上のとおり,Pが,B1解散後,被告人A2が本件偽装につき事前
承諾していた旨供述を変遷させた理由について,Pの述べるところを信用すること
はできない。
    ウ Sの供述の変遷及びその評価
      Sも,当初は会社のためを思って上層部の関与を供述せず,会社解散
が決まったので,同年3月ころ以降同被告人らの関与を供述するようになったとい
う(S③52ページ以下)。
      しかし,Pについてみたのと同様,同年3月以降,Sが逮捕された同
年5月10日までの間に,被告人A2との共謀ないしその関与についての記載があ
るSの供述調書は見当たらない(逮捕前の調書は1通という。S③54ページ)の
であって,Sが被告人A2の関与に関する供述を開始したのは早くとも同月10日
の逮捕間近であると考えられるから,Sの述べる供述変遷の理由は不自然,不合理
であって,信用し難い。しかも,Sは,警察で被告人A2の関与を話さなかった時
期についての不合理を弁護人に指摘されたとたん,警察での供述内容そのものにつ
いて供述を変化させている〔S④47ページ13行目以下。なお,Sは,前述のと
おり,5名で被告人両名らをかばう口裏合わせもしていないとした(S④45,4
6ページ)が,その不合理を弁護人に指摘されたとたん,多少はした等とここでも
不自然な弁解を加えている(同46ページ)〕。
    エ Mの供述の変遷及びその評価
      Mは,同年3月下旬ないし4月ころまでは警察官にも被告人A1の関
与を話さなかった(M④33ないし36ページ)が,その後,B1の解散が決ま
り,また同年3月7日に自分のみならず部下までが懲戒解雇となった上,その後Q
やP2から,「平成13年11月5日,あなたは被告人A1に報告しているじゃな
いですか。」などと言われ,同人らにおいて自分が被告人A1に本件偽装に関して
報告したことを記憶していることが分かるなどしたため,警察官に真実を話した
(M④38ページ以下)という。
      しかし,Mの供述によれば,逮捕前の供述調書は2通くらいであり
(M④34ページ),少なくとも平成14年4月3日までの分には被告人A1との
共謀の点は現れていない(M④43ページ)というのであって,このような重要な
事実について供述がなされた場合にこれが録取されないはずはなく,不自然であ
る。
    オ Lの供述の変遷
      Lは,同年1月25日ころ,被告人A2に対し,本社分の偽装を自分
の一存で行ったと報告し(L④29ないし32ページ),その後調査委員会では,
S,Pとの共謀を話したものの,被告人両名の関与は話さず(同33ページ。Mに
自分一人で責任を負うことはないので正直に話すように言われたためであるとし,
また,上層部の関与は聞かれなかったとする。),警察による在宅捜査の際も,S
とPとの共謀についてのみ供述し,被告人両名ら上層部の関与ないしこれらとの共
謀については供述せず(自分が直接やりとりしていないからであるとする。),逮
捕後に被告人A2の関与をはじめて話したとする(同34,35ページ)。
    カ Jの供述の変遷
      Jは,同年1月23日から警察官による取調べを受けていたところ,当
初はPら3名との共謀について供述しなかったが,同月下旬ころB1がB20や本
社でも偽装があったと発表したことを聞き及んで真実を話すことにし,以後は一貫
して真実を話しているとし(J⑤16ないし18ページ),被告人A2の電話口での
口調まで詳細に再現している。
   (5) 裏付けの乏しさ
     詳しくは後に検討するが,総じて,本件実行犯5名の供述については,
Mの供述についてそばで聞いていたというQがMと同趣旨の供述をしているという
点やP2が報告直後のMがその旨話していたとする点を除けば,同5名の供述以外
にこれを裏付ける証拠は著しく乏しい。
     また,共謀共同正犯の事案では,共謀をしただけの者の言動にも共謀を
窺わせる何らかの兆候が現れるのが通常であるが,本件では,被告人両名の本件前
後の言動についても,本件実行犯5名らの供述以外,共謀のあったことを窺わせる
事情はほとんど現れていない。
     さらに,本件実行犯5名も,それぞれYや役員,Dら他の部署の者など
ミート関係者以外の者に,本当は被告人両名も知っていたという趣旨の発言を一度
もしていないことを自認している。
  (二) 本件実行犯5名らの独断で本件偽装を行ったとみるべき事情
    さらに,本件偽装が被告人両名と無関係に本件実行犯5名が独断で行った
犯行ではないかと疑わせる事情ないしは独断と考えると合理的に説明がつく事情が
認められる。主だったもののみ列挙すると,以下のとおりである。
   (1) はじめに
     前記の被告人A2のミート事業に対する厳しい対応は,虚偽供述の動機
となると同時に,本件実行犯5名らが独断行動に出る動機を与える事情でもある。
すなわち,被告人A2は,場合によっては不採算部門としてミート部門を切り捨て
る意向すら有し,これを隠すことがなかったのであり,違法行為をしてまでその営
業成績を上げてこれを存続させようと考えていなかったことはほぼ間違いのないと
ころであるが,その意向を知る本件実行犯5名らミート営業の関係者が,ミート部
門が切り捨てられないようにするために,違法行為をすることもやむを得ないと考
える一方で,違法行為で儲けたいなどと被告人A2に言えばそのこと自体で処分を
受ける危険があると考えたとしても不思議ではない。ミート営業調達部B16所長
のRが,「不正をしてでも利益を上げなければ不採算部門として切り捨てられ職を
失ってしまうかもしれないと思っていた。」旨供述している(検121,10ペー
ジ)が,これと同様の心情を本件実行犯5名が共有していたと考えて大きな間違い
はないといってよい。Pは,過去に不正について上司に情報提供しなかったことに
より譴責処分を受けているのであって(H⑧5ページ),本件においても,被告人
A2ら上司に相談しなかったとしても不思議ではない。
     また,B1では,平成13年4月の組織改編までミート部門専任の役員
が置かれていたが,同改編によりそれまでハム・ソーセージ部門の責任者であった
被告人A2がハム・ソーセージ部門とミート部門の双方を兼ねる役員となり,ミー
ト部門専任の役員がいなくなったが(P③3,4ページ),このことも,本件実行
犯5名らミート部門の者に,ミート部門独自に成績を上げなければならないという
危機感を持たせる契機となったと推認される。
     なお,これらの点に関して,本件実行犯5名が被告人両名に反感ないし
不信感を有していたことは前認定のとおりである。
     そうすると,本件実行犯5名は,被告人両名に知られないように本件偽
装を行おうとしたと考えて不思議はないのであり,隠密裡に行動した可能性は否定
できない。
   (2) 本件偽装の時期との関係
 前認定のとおり,B1との関係で本件事業の事業主であるB17協同組
合は,本件事業につき,平成13年11月1日までに各組合員が売渡申込書を提出
し,同組合がこれを集計して事業団へ報告し,事業団からの数量確定通知を踏まえ
て,同組合と各組合員との間の売買契約書を作成することとし(検98資料2-2
等),B1は,同組合に同日売渡申込書(検153資料3)を提出した〔Lは,同
組合の者から,同申込書の重量は変更できない旨聞き(L⑤40ページ等),同日
以降に発見した少量の集計ミスにつき,U(B20)に対し強引に同量の修正を命
じている。(検109,15ページ等)〕。
 なお,弁護人は,同申込書による申込みと翌同月2日に同組合からなさ
れた数量確定の通知により,同日会社と同組合との間に本件事業に関する売買契約
が成立し,これにより,本件詐欺の実行行為は終了していると主張するが,同月6
日に正式契約がなされたこと自体は動かし難いから,弁護人の主張は採用できな
い。
 しかしながら,前記同月1日の申込みと同月2日の数量確定通知により
本件売買契約の内容の実質的な確定がなされていることは弁護人主張のとおりであ
って,この事実は,その後に本件実行犯5名が被告人両名にした報告や両名と行っ
た会話を本件偽装の共謀と評価することを困難にする要素となるというべきであ
り,本件実行犯5名が被告人両名への報告前に本件偽装工作に着手し,実質的に売
買契約内容の最終的確定に至らせていたことは,本件偽装が同5名及びその部下に
おいて被告人両名ら役員にこれを知らせず独断で行ったことを強く窺わせる事情と
いうべきである。
   (3) 弁護人のいう「同時多発的事件」性
     本件実行犯5名らの供述によれば,Pら3名,J,Mは,特段,事前に互
いの偽装の意図や内容を連絡しあうことなく本件偽装の立案をし実行に着手してい
る。すなわち,本件偽装の動機は同5名で必ずしも同一ではなく,偽装方法も,本
社ミート営業調達部,B19,B20でそれぞれ異なっている。また,本件実行犯
5名,とりわけ本社のPやLですら,本件偽装による会社全体での利益を検討して
いない(L⑤29ページ,P③54ページ等)し,Lは,本件事業の対象牛肉の数
量確認やB17協同組合との折衝につき,各ミートセンターとの連絡役をしていた
のに,関東,関西以外のミートセンターに対して,本件偽装に関連する情報伝達を
していない。
     さらに,本件偽装着手後,Mは自分の偽装計画をLに伝え,Jは自分の計
画をLやPに伝えてはいるが,JとMの間にはこのような直接の通謀協議は全く認め
られない。検察官は,順次共謀であるとするが,検察官において被告人A1の共謀
の主たる証拠であるとするのはMの供述であるところ,同供述によっても,被告人
A1はB20以外のどの部門で偽装がなされているかについては全く知らず,Mも
これを知らせなかったというのであり,順次共謀としては極めて不十分である(偽
装後の同月27日の常勤取締役会でのSの報告で知り得たとするのであれば事後的
に過ぎ採用し難い。)。
     なお,Sの供述中,被告人A2が3か所全ての偽装工作を知っていたは
ずであるとする部分も,弁護人の反対尋問の際は相当曖昧な供述に後退している
(S④53ないし58ページ)。
   (4) 本件実行犯5名の偽装までの個々の行動
     本件実行犯5名の偽装までの個々の具体的行動中には,本件偽装が本件
同5名らの独断によるものでないかと窺わせるものがある。
    ア 本社関係(Pら3名殊にLの言動等)
      前認定のとおり,同年10月26日にPら3名が共謀し,Lの発案で
いったんB7を偽装場所としたが,B7はB19が使うとして本社では使えなくな
ったため,Pら3名にWとOも加わって5人で協議してB3を偽装場所に使うこと
にしたというのであるが(検85),この間,被告人両名らにこれらのことを諮ろ
うとしたとか,諮る必要があるかどうか相談がなされた形跡は全くない。その他,
Pの供述(検98)も内容は同旨であり,W〔検113(19,20ページ)〕,
O〔検116(14ページ以下)〕の供述もL中心に事が運ばれていたとする内容
であって,いずれも同人の独断専行が窺われる内容である。
      なお,このような具体的な詰替場所の選定や作業の具体的内容等の事
項は確かに現場実務レベルの問題である〔例えば,牛正にするのは,切断しないと
形から輸入牛であることが発覚するおそれが高いからである。(検116・16ペ
ージ)〕とはいえ,被告人A2から承諾を得たというのであれば,このような実際
の偽装方法についても,多少は同被告人らに説明するのが自然の成り行きであり,
同被告人において,Pら実行犯に任せれば発覚しないように偽装するであろうと全
面的に信頼したというのは不自然というべきである。
      また,Sの供述によれば,その後,同年11月1日ころ,B3のEに
作業の申し出をした際,『Eがよく言えばまじめ,悪く言えば融通が利かない。』
と判断して,偽装の話はせずに詰替作業の件のみを話したというのであるが〔検8
5(22ページ)〕,この時点までに被告人A2の承諾を得ているのであれば,そ
の判断をSだけで行うことも不自然である。
      前記のとおり,P供述によれば,同年10月26日昼過ぎ,S,Lと
1階商談コーナーで話した際,午前中の常勤役員会でいわゆる「悪い噂」の報告を
したことを残りの2人に言わず,同日夕方にS,Lと5階喫煙コーナーで話した際
にも,その直前に被告人A2に本件偽装の承諾を得た話をせず,本件偽装の打ち合
わせをしたというのであるが,この間の事実経過も,Pが被告人A2の承諾の有無
とは無関係に本件偽装を行おうとしていたことを示す事情というべきである。
      また,前記のとおり,本件実行犯5名,特にP,S,Mは,本件偽装
が発覚した場合のことを考えて,被告人両名から事前に承諾を得ようと考えたと力
説するが,本件実行犯5名の間で被告人両名に事前に相談すべきであるか否かを話
し合いこれを検討した形跡は全く窺われない。
      さらに,実際の申込手続はLがとりまとめているところ〔検109。
なお検55(25ページ)〕,その経過に関するLの供述(特に,Lが,差損が出
ている北海道と東海の両ミートセンターについて,差益が出ている本社分で調整し
てどの部署からも損が出ないようにしようと考えたこと,その理由が被告人A2の
厳しい姿勢への対応であること。同5,6ページ)からも,Lが中心となってPら
3名が独断的に行動していたと考えるのが自然である。
      なお,Lが本件偽装について発覚のおそれがないと甘く考えていたこ
とは前認定のとおりであるが,Pら3名が独断で行動しえたことの直接かつ最大の
理由は,Lのこのような甘い見通しを同3名が結局共有したことにあると考えられ
る。
    イ B19関係(Jの言動等)
      Jは,既に同月中・下旬ころから本件偽装を行う考えをIら部下に明ら
かにし(検21,24,30,34ないし38,40),同月26日にはB19商
談室に部下を集め,「狂牛病問題で,輸入牛肉の在庫がだぶついているので,本件
事業で,輸入牛肉を買上に回すことにした。」「このことがばれたら,B2以上の
事件になって,そのときは,こうなる。」などといって,逮捕されて手錠をかけら
れる仕草をし,さらに,「責任はすべて俺がとる。」と述べ〔検30(10ないし
14ページ)〕,その後,同月26日ないし29日の段階で,「出来るだけたくさ
んの段ボールを早急に集めてくれ。」などと偽装のための具体的指示を行った(検
27,36)。
      これらは,Jに被告人両名ら上司の承諾がないと偽装ができないとする
考えがなかったことを示す言動であり,その間のJの言動には,被告人両名らの関与
が窺われるようなものは一切ない。
      また,Pの供述によれば,既に同月中・下旬ころ,Jと電話で話した
際,Jから本社が対応しないなら関西で独自に偽装をする旨の発言をされたというの
であり〔検95(16,17ページ)。なお検24〕,少なくとも,Jは,被告人両
名ら役員の承諾を本件偽装をする絶対条件と考えてはいなかったことは明らかであ
る。
    ウ B20関係(Mの行動等)
      Mの供述によれば,同人は本件で偽装をしてでも儲けを出さないとい
けないし,そうしないのは無能であるとさえ思っていたというのであり〔検55
(10ページ)〕,Mは,本件偽装を行うことをいわば当然のこととして,いちい
ち上司に相談するまでもないと考えていた可能性が濃厚である。
      また,Mは,Kが偽装場所としてGが可能であると述べたのに対し,
同社を偽装場所にするよう指示しているが,Mがその後被告人A1の承諾を得よう
と思っていたのであれば,他社を利用してまで本件偽装を行うべきかどうかについ
て若干でも逡巡し,あるいは被告人A1の意向を確かめるなどしても不思議はない
のに,同被告人の承諾なく,独断即決している。
      さらに,前記第2〔5(二)(14ページ),6(三)(17ページ)〕
のとおり,Mは,平成13年10月29日ころ及び同月31日ころ,Lに電話をか
けた際,同人から本件偽装が発覚する心配はないと言われて安心したというのであ
るが,すでに着手した偽装工作について不安を覚えた際の相談相手がLであったこ
とも,被告人A1の関与なく本件偽装を行う意図であったことを窺わせる事実とい
うべきである。
      なお,B20は,平成12年9月まで本社ミート営業調達部の直轄で
あったが,B20の通常の仕入れは,関東統括支店の傘下に入った後も,支店長の
決裁なしで行われていた〔検207(22ページ)〕。このことも支店長である被
告人A1を無視した独断を生む土壌となった可能性がある。
   (5) 本件偽装発覚後の本件実行犯5名の行動
     本件偽装が発覚した後における本件実行犯5名の個々の行動をみても,
独断であったことを窺わせるものがある。特に,本件実行犯5名がその独自の判断
で罪証隠滅工作に出ている点は,被告人両名と共謀していたとすれば,本件偽装
(詐欺)が発覚した後の行動として極めて不自然不合理であり,本件偽装自体を同
5名が被告人両名らに相談することなく行ったことを示す間接事実である。
    ア 本件取材後の言動
      Jの供述によれば,Sは,本件取材後Jの報告を聞いた際,「よし,わ
かった。一人で死なせるようなことはしない。責任はこっちで持つから,何もなか
ったことで通そう。取材のあったことは,私の方から上へは話しておく。」「C支
店長に電話して,何もしていないという前提で,記者の取材を受けたことだけを知
らせておけ。」と述べたという(検14。なお,J⑥8ページ)。そうすると,S
は,この取材に対し,被告人A2に相談して対応しようとはせず,独断でこれを行
っており,この会話からは,SやJが,事前を含め,それまで被告人両名らに相談し
たりその承諾を受けて本件偽装をしたわけではないことを強く窺わせる。
    イ 平成14年1月22日の取材とその後の言動
      Lは,本件偽装発覚後の平成14年1月23日,被告人A2,Yとと
もに農水省に謝罪に行き,帰社後,前記〔第2・10・(一)(19ページ)〕のと
おり,罪証隠滅工作のためWをB3に行かせ,その後,SがLに命じてWを引き揚
げさせているところ,その罪証隠滅工作はL独自の判断によるものであり,その後
その方針変更をしたのはS独自の判断によるものであったことになるが,被告人A
2との間に共謀があったのであれば,偽装が発覚しかけているという緊迫した際
に,LやSが被告人A2に相談せずに罪証隠滅に関する指示をしたのは不自然,不
合理であり,殊に,Lは,被告人A2と同行していたのであるから,罪証隠滅行動
に出るべきか否かについて同被告人に相談する気があれば容易にできたはずである
のに,これを行っていないのは,極めて不自然である。
      また,Sの供述によると,同人は,同月23日の記者会見の後,本社
での偽装が発覚すれば誰かの独断ということにはできないであろうと考え,一人で
は考えあぐね,Lに相談したという(検91)が,被告人A2との間に共謀があっ
たのであれば,考えあぐねた場合には同被告人に相談するのが自然の流れであり,
これをLに相談したというのは,逆に,Sと被告人A2の間に本件偽装の共謀がな
かったことを示すものとすらいえる。
      さらに,Lの供述によると,Lは,同月24日,Mに電話すると,同
人は,「B20の偽装分について会社に全部話をした。」と述べたという〔検11
1(7,8ページ)〕が,Mが被告人A1との間で共謀していたとすれば,Mがこ
のような物言いをするのはいかにも不自然である。
      そして,Wは,警察官から事情聴取を受ける数日前の同年2月上旬こ
ろ,Lから,Wらは関与しておらずPら3名で本件偽装を行ったことにせよなどと
口裏合わせの指示を受け〔検115(3ないし5ページ)〕,Rは,同年1月下旬
ころ,Lから口裏合わせの指示を受けたが,それぞれその際,Lは,被告人両名ら
の関与を窺わせる発言をしていない〔検122(2ページ)〕し,Rが「この際マ
スコミに公表した方がいいのではないでしょうか。」と進言したのに対して,L
は,直ちに,「ばれないので大丈夫だから話さないで欲しい。」と答えており(同
6ページ),被告人A2ら役員が関与しているから公表すべきでないというような
発言は一切なく,また罪証隠滅の指示に被告人両名が関与していることを窺わせる
発言もない。Eへの口裏合わせの指示もLがしている〔検125(2ページ)〕
が,その際も前同様被告人両名らの関与を窺わせる発言をしていない。
   (6) 日常的なラベル貼り替えなどの不正行為
     さらに,側面から独断を疑わせる事情として,本件実行犯5名らミート
関係者が,本件偽装と類似するラベル貼り替えなどの不正行為を日常的に行ってい
たことが指摘できる。
    ア 丙の検察官に対する供述によれば,もともと食肉業界では,食肉の原
産地のラベルを貼り替える,輸入肉を国産肉として販売する,ホルスの肉をより高
級な和牛の肉に差し替える,品質保持期限のラベルを貼り替えて期限を延長するな
ど,同人によれば「常識では考えられないこと」がごく当たり前に行われ,B1で
もそのようなことを日常的に行っていたという〔検30(8ページ)。検40(O
2の供述調書)も同様〕。また,Jは,平成13年10月26日のB19でのミーテ
ィングで,部下全員に本件偽装を指示しているが,その際,部下らに拒絶反応は全
くなかったのであり,このような事実経過からも,同センター内ではこのような不
正行為が日常的に行われていたことが窺われる。さらに,本件実行犯5名以外のB
1ミート部門の従業員の言動をみても,例えば,Jの部下であるIはラベルの大量発
注をJに相談せず行っており,Iは,相手も気づいていたかもしれないと供述してい
る〔検27(6ページ以下)〕し,B3での作業には下請業者の者も来ている〔検
113(24ページ)〕が,これはB16のR所長が考えたこと〔検121(1
1,12ページ)〕で,Lが指示したものではない。これらは,本件偽装が外部に
漏れると重大な問題に発展することに対する危機感の乏しさ,弛緩した感覚を示す
エピソードであり,具体的作業としては本件偽装程度のことが日常茶飯事であった
ことを裏付ける一事情である。また,Rは,Wとの間で,直接,偽装時の目減り対
策〔解凍時に肉汁(ドリップ)が出るための重量合わせの対策〕として,牛脂でも
何でもいいから混ぜるなどと話をしている〔検121(24,25ページ)〕こと
についても同様のことがいえる。さらに,Lの直属の部下であった乙の検察官調書
によると,乙は同年10月26日にLから本件偽装をすることを知らされ,むしろ
喜んだという〔検119(8ページ)〕。このようなミート部門の現場の罪障感の
なさは,本件偽装が日常の行動と乖離していないことを示すものというべきであ
る。
    イ このように,本件偽装がB1ミート部門で行われていた日常的な不正
行為の延長線上にあり,これら日常的な不正行為が被告人両名の承諾を得て行われ
ていたものでなかったとすれば,本件偽装も,本件実行犯5名は,被告人両名に相
談するまでもないこと,あるいは相談すべきでないことと認識していた可能性が強
いことになる。
      なお,検察官は,これらラベル貼り替え等は従来から続けられていた
不正行為であり統括支店長やミート担当役員も承知のことであったというが,ミー
ト担当役員が従前不正なラベル貼り替えが行われていたことを知っていたことを示
す直接的証拠はなく(S④65ページ,U⑦63ページ),例えば,Pは,平成1
3年12月7日被告人A2に対して行った本件取材に関する報告の際,ラベル貼り
替えは不正な行為としてではなく日常的に行われていたなどと説明して被告人A2
を安心させた旨を述べているのであって(P②36ページ以下),このエピソード
からは,被告人A2は本件当時ラベル貼り替えを日常的に行われている不正行為で
あるとは認識していなかったと推認される。検察官の主張は採用できない。
   (7) 独断の背景
     さらに,本件実行犯5名らが本件偽装において独断行動に出たと考えて
不思議のない背景事情として,前記のとおりのミート部門の独自性を指摘すること
ができる。特に,ミート部門の営業は,もともと,その性質上,ミートの専門家で
ない役員に相談しても直ちには判断できない事柄も多く,ある程度独自性を認めな
いと成り行かない職種であること(H⑧5ページ)も,独断を生む土壌になりうる
し,被告人両名やB1役員らが供述するように,ミート部門には商品にB1という
ブランドがなく,B2食中毒事件の発生によるブランドイメージ低下に対する危機
意識が十分でなかった可能性も否定できない。
 4 実行犯の供述自体の疑問点(各論)
   2,3の検討を踏まえると,本件偽装につき被告人両名が比較的簡単に承諾
を与えたとする本件実行犯5名等の供述の信用性には疑問が生じるのであるが,本
件実行犯5名の供述をさらに子細に検討すると,個々の争点に関するの各供述の信
用性についても,以下のような多数の疑問点が存在する。
  (一) 争点①(被告人両名に共通の争点)
   (1) 平成13年10月26日の常勤取締役会におけるPのいわゆる「悪
い噂」の報告の有無について〔争点①-1。第3・4(23,24ページ)〕
    ア 検察官は,Pがいわゆる「悪い噂」を報告した旨のPの供述の信用性
は十分であるとして,①「悪い噂」は,業界の動向であって,B1がこれに遅れを
とらないように対応を考えるための情報であるから,取締役会で報告されて不思議
のない報告であり,Pの供述には合理性がある,②「悪い噂」の報告がなされた事
実は,同常勤取締役会に出席していたY2,X2,V2も供述するところであり
(検148,241,243),被告人A2も捜査段階においては一部認めてい
る,なお,「悪い噂」の報告はなかったとする役員や同常勤取締役会に同席してい
た者らは,すべて被告人両名らが詐欺に関与していないとして,被告人両名に同情
的な者であり,さらに,同役員らは株主代表訴訟を提起され民事責任を追及されて
いる者であるから,それらの供述に信用性はないと主張する。
      ①について検討すると,前記のとおり〔2・(一)・(2)(44ペー
ジ)〕,B1は,B2の食中毒事件以来,不正行為に対するマスコミや社会の批判
の影響力の大きさを痛感し,企業として,マスコミ等から指弾されることのないよ
うに注意を払っていたことが認められるところ,前記のとおり〔第3・4・(二)
(24ページ)〕,Pの供述によれば,B2から出向してB1の社長になって間も
ないYが議長を務め質疑を進行する常勤取締役会において,平素役員会に出席する
こともなかったPが,直属の上司専務取締役の被告人A2に事前に相談することも
その承諾を受けることもなく,質問もされていないのに,「悪い噂」について突然
発言し,B1としても同様のことをしたいと考えている旨を匂わせたというのであ
るが,唐突で,趣旨の曖昧な内容の発言でもあって不自然であり,その供述内容は
容易には信用し難い。
      検察官は,Pが,かつて,豚肉の輸入関税制度改編に伴うセーフガー
ド(緊急調整措置)に関連して,食肉業界では裏ルートでの輸入が多くを占めるこ
と,この違法行為は業界内では公然の秘密になっていることを被告人A2に報告し
たり〔被告人A2⑰(42ページ),添付書類1枚目等〕,同年12月の常勤取締
役会において,原材料であるシーズンドポークの価格について,被告人A1の「価
格が下がっているのはなぜか,他社の動向はどうか。」旨の質問に対し,「これは
大きい声では言えない話でございますが,他社はこういうことをやっているかどう
かはわかりません。」などと不正を匂わす発言をしている〔検152(6枚目)〕
のであって,他社の動向ないし違法行為等の噂等を役員会で報告することは奇異と
はいえないというが,前者については,前記資料によれば,被告人A2はB1社長
に対し,そのような違法行為をする者が外国の業者などB1とは無関係の者である
ことを前提として報告しており,被告人A2によれば,同被告人はB1ではそのよ
うな違法行為をしてはならないと制止したというのであって〔被告人A2⑰(42
ページ)〕,その報告によりB1の不正行為につながったことを窺わせる証拠はな
いし,後者は,その前後の文脈をみると,B1が合法的に他社を出し抜いていると
いう事実経過の説明中の発言であり,やはり本件とは直接のつながりはなく,質問
に対する回答である点においてもPが「悪い噂」について報告したという際の状況
とは大きく異なる。
      次に②について検討すると,これを認める役員の各供述は,どの役員
会であったかも定かではないが,業界にはそのような「悪い噂」があると報告があ
ったというもので,いずれも役員会では本件偽装について議論されたことは絶対に
ないことを強調する文脈の中でなされた抽象的,概括的供述に止まる。同常勤取締
役会でこのような「悪い噂」の報告があったとしても,それだけでは詐欺の共謀を
裏付けるものではなく,これがあったと供述することにより同会出席者が詐欺に問
われる関係になるとは考えない事柄であるから,Pがそのような報告をしたと供述
している,他の役員の中にもこれを聞いた者がいるなどと捜査官から聞かされ,さ
らに,そのような報告があった記憶がないと供述しても捜査官から役員会で他の者
の話をきちんと聞いていなかったのではないか等と追及を受けると,その程度のこ
とは聞いた等として前記のごとき供述調書の作成に応じて,それ以上の追及を避け
ようとする態度に出た者が複数いたとしても不思議ではなく,被告人A2にしても
同様に,記憶にはないけれども,その程度の事実は認めても問題はないと考えてそ
の旨の供述調書の作成に応じたとしても不思議はない。なお,当裁判所は,これら
会社役員らの一部の検察官調書を刑事訴訟法321条1項2号該当書面として採用
したが,これは,むろん,これら各供述調書の各供述内容の個別の信用性を承認し
たからではない。
    イ 常勤取締役会で「悪い噂」の報告がなされていないのではないかとの
疑問を生じさせる事情
      前記常勤取締役会の議事録(検150)には,Pによる業界の「悪い
噂」についての発言は記載されていない。この点,Pは他の議事録についてではあ
るが議事録が偽造された可能性を示唆する供述をする(P②29ページ)が,同議
事録に偽造ないし不正な削除があったことを窺わせる証拠はない(なお,N2⑦2
4ページ,伊藤⑪9ページ,検155)。そして,検察官は,説明部分は議事録へ
の記載が省略されていても当然であるというが,そもそも,「悪い噂」は業界の動
向であって,議事録への記載が省略されるような事柄とは考えられず,Pの報告資
料(検150,添付資料)に記載がないのであるから,なおのこと議事録には残す
べき事項のはずである。
      次に,取締役会に出席している各役員が「悪い噂」をそこで聞いてい
れば,少なくとも何名かはこれをメモしていても不思議ではないが,そのようなメ
モは残っていない。なお,役員であったHは捜査段階を含め一貫して「悪い噂」の
報告があった記憶はない旨供述しているところ,同人は同取締役会説明資料に同議
事録には記載のない事項を含め種々のメモ記載を残しているが,そのメモ記載にも
「悪い噂」に関する記載は一切なく,同人の供述の信用性は十分である(検22
2,H⑧13ページ)。
      また,Pが「悪い噂」を報告したのであれば,通常は,それが単なる
噂であるのか,裏付ける事情があるのか,その噂の出所,B1の対応など,さらな
る説明を求める役員がいても不思議ではなく,役員側の質問やPの補足説明があれ
ば,同取締役会議事録に記載されないとは考えられない(N2⑦4ページ等)の
に,そのような発言は同議事録にはなく,そのような質問や説明がなされた形跡は
一切窺われない。
      ところで,Pの供述〔検97(3ページ)〕によれば,同人らは第1
回説明会(同年10月25日)の際,B17協同組合の担当者から,「抜き打ち検
査を行いますので,変なことは考えないように。」と「悪い噂」を前提にした不正
行為に対する警告を受けているのに,その供述によっても,同月26日の常勤取締
役会においてこの警告を紹介,報告していないというのであるが,その理由として
は,役員に本件偽装の意図を知られたくなかったためであると考えられ,この点か
らも,Pは「悪い噂」についてこの常勤取締役会で話していないと考えるのが合理
的である。
      また,前記のとおり,Pは,同月26日昼過ぎに会社1階商談コーナ
ーでS及びLと本件偽装の共謀をしている〔第2・4・(一)(12ページ)〕が,
Pの検察官調書〔検97(9ないし11ページ)〕には,その際Pが午前中の常勤
役員会で「悪い噂」の報告をした旨S及びLに伝えたとの供述記載がないだけでな
く,かえって,同調書中には,Pは,Lから本件偽装をするとの意向を聞き,『私
は,それまでの常勤取締役会やA2専務に対する報告に際して,(中略)業界の噂
を報告してきました。(中略)そこで,私は,L課長からこの相談を受けたときに
は,特に驚きを持って受け止めたりせず,「ああ,そういえばそうだったな。その
こともいずれ話さなければいけないと思っていたんだ。」という気持ちを持ちまし
た。』などと,むしろ,直前にしたはずの前記取締役会での報告についてはSやL
に述べていない旨を自認する供述をしている(同10ページ)。なお,Sはこの際
にPが前記取締役会で他社の動向を報告した旨話していたという趣旨の供述をして
いる(S③5ページ)が,前記Pの供述と齟齬する内容であるし,他方で,SはP
が「他社と同じように損しないように利益を上げてくれといわれちゃうとやるしか
ない。」と投げやりな発言をしていたとも供述しているのであって(同6ページ。
L④16ページも同旨),「悪い噂」を報告して本件偽装について役員の同意を得
る布石を打ったというPの言動としては理解し難い発言があった旨の供述をしてい
るのである。
      そして,前記のとおり〔3・(二)・(6)(69,70ページ)〕,
もともと食肉業界で行われていたラベルの貼り替え等の不正行為について前記常勤
取締役会その他の役員会で報告がなされたことを示す証拠はない。そうすると,P
らはこの点を従来から役員らに明らかにしていなかったと推認されるが,そのよう
なPらが「悪い噂」を取締役会で報告するとは容易に考え難い。
      また,平成13年11月27日の常勤取締役会議事録(検151)6
ページには,下級の和牛や経産牛を入れたところがあるという報告がなされたこと
が記載されている〔検146(4ページ)等参照〕が,ここで,役員から,以前聞
いていた「悪い噂」との関係について言及する質問はなされていない。
      さらに,Pら3名の共謀の時期との関係を検討すると,Pら3名が具
体的に本件偽装の共謀をしたのは同月26日の常勤取締役会後の同日昼ころであ
り,しかもその際PはLの発言に対し発覚するのではないかとの不安を表明し,S
やLに比べれば,当初は本件偽装に必ずしも積極的な態度を示していたともいえな
いのであって,本件偽装をほのめかし,そのような意図があることを役員らに理解
させるために「悪い噂」の報告をしたとする時期としては,同取締役会は早過ぎて
不合理である。
    ウ 被告人A2の調査委員会における「噂は聞く」等の発言
      被告人A2は,前記社内調査委員会において,同業他社の噂について
「噂は聞く」等とし,今回と同様の方法についての噂についても「確定はないが噂
は聞く。」と答えた旨の記載が資料中にみられる〔被告人A2⑯8ページ以下,検
187(添付資料1-5,1-12)〕。ここで質問された『噂』の内容はともか
く,Pが同年10月26日の常勤取締役会で「悪い噂」の話をしたのであれば,出
席者の中にこのことを調査委員会で述べる者がいて然るべきであり,そうするとま
た,「悪い噂」の報告があったことを前提とした質問がなされるはずであって,前
記のような質問に止まるものとは思われない。なお,この段階で全出席者にかん口
令が敷かれていたとか,証拠隠しの合意がなされていたとは到底考えられない。
    エ 小括
      そうすると,同年10月26日の常勤取締役会におけるPの報告につ
いては,出席者の各検察官調書中にはこれを肯定するものが複数あるけれども,そ
もそもそのような報告はなかったのではないかとの疑いが極めて強く,少なくと
も,仮にこれに類する報告があったにせよ,ごく簡単な説明であったとしか考えら
れない。
   (2) 同年11月27日の常勤取締役会におけるSの報告〔争点①-2。
第3・9(32ページ)〕
    ア 前記のとおり〔第2・9・(一)(32ページ)〕,Sは,同常勤取締
役会において,本件事業で買上となった牛肉の重量と金額のほか,同業他社の動向
につき「悪い噂」同様の報告をした上,B1も他社同様いろいろやった旨の説明を
したと供述する。
    イ しかし,同年10月26日の常勤取締役会における報告について先に
述べたと同様,同年11月27日の常勤取締役会の議事録(検151)にも,Sに
よる業界の「悪い噂」についての発言は記載されていない。SやPはこの議事録の
Sの前記発言部分が削除,改ざんされている可能性を示唆する供述をする(S③1
7ページ,P②29ページ)が,同議事録に改ざんがあったことを窺わせる証拠は
Sの供述以外になく(伊藤⑪12ページ参照),逆に,同議事録に,Sが「それか
ら,多分これで大儲けしたところがあります。」と発言したことが「それから,」
などという逐語録様の表現を含め残されていること(検151・議事録本文6ペー
ジ。改ざんをするならばこの部分も削るはずである。)からすれば,Sの発言はほ
ぼ同議事録に残っているもののみであり,改ざんはなかったと認めるのが相当であ
る。
    ウ 次に,Sは,前述の報告の際他社の偽装を詳しく述べた理由につい
て,他社はもっとあくどいことをしていることを述べることによって,本件偽装を
行った旨の報告を正当化したいという気持ちがあったなどと供述をする(S③14
ページ)が,他方で,本件偽装を行うについてはPが同年10月26日に報告して
いるから役員全員がすでに知っていると思っていた(同)と供述しているのであっ
て,明らかに矛盾した供述である。さらに,Sは,その場の雰囲気は損失を防いで
よくやったというものであった旨を述べ,検察官はこれをSの供述が信用できる根
拠とするごとくであるが,これは,むしろ,Sの報告が,自分たちが偽装など違法
行為をせず本件事業を乗り切ったとするものであり,あるいは少なくともB1が参
加した本件事業について淡々と報告する程度のものであったからこその反応であっ
たと考えるのが自然である。なお,仮に,被告人両名以外の役員が本件偽装を知ら
ず,本件偽装が役員内では被告人両名の独断であったと想定すると,役員会で本件
偽装をしたことを報告することによりこれが役員会内で問題となり,被告人両名が
厳しい追及を受けるなどすることも当然危惧されるのであって,それにもかかわら
ず,Sが被告人両名にあらかじめ相談することなく,役員会の席上突然そのような
事後報告をすることは極めて不自然であり,ほぼありえないことといってよい。
    エ さらに,Pはこの常勤取締役会に出られなくなり,Sを代理出席させ
ることになって同人に手持資料(検104資料2)を持たせているが,この資料に
本件偽装に関する記載がいないことの理由について,「分かってることですし,特
に言う必要はないと思いました。」と説明している(P②27ページ)が,偽装の
事実を書面化するのがはばかられたというのならともかく,Sが偽装を分かってい
たから書面化しなかったというのはその内容自体が不合理であり,端的に,取締役
会で発言する内容ではなかったため資料中にも記載がないと考えるのが自然であ
る。
  (二) 争点②(被告人A2の個別共謀関係)
   (1) Pの被告人A2に対する平成13年10月16日のミートセンター
長会議(同月15日開催)の報告の有無及びその内容〔争点②-1。第3・1(2
0ページ)〕
     弁護人は,Pが,輸入牛も含めた牛肉の在庫が380トンに増大してい
ると報告したという点が,同人が持参した資料(検95号証資料1の1及び同1の
2)中の記載(「全社国産牛肉在庫360トン」)と被告人A2の同書メモ書き部
分(「滞留380トン」)との間には食い違いがあるから,Pは被告人A2に輸入
牛の在庫を報告したとはいえず,Pの供述が信用できないと主張するところ,「全
社の滞留在庫は輸入牛肉のそれを含め380トンである。」と説明した可能性も残
るから,この食い違いをもって直ちにPが被告人A2に輸入牛の在庫報告をしてい
ないと断定することはできないものの,Pはその間の事情を説明できないのであっ
て,同人の供述の信用性を減殺する事情の一つとはなる。
     また,Pは,同会議で,全頭検査前にと畜処理された牛肉を検査後にと
畜処理された牛肉に混ぜて販売する予定のミートセンターがある旨の報告をし,被
告人A2が状況は分かったと述べたという(P②8ページ)が,これは詐欺を示唆
する報告であって,少なくとも曖昧に済まされる内容の報告ではなく,Pのこの供
述は内容自体が不自然である。また,その一方で,Pは在庫牛肉の処分について何
とか役員会レベルで検討してもらえないかと要請したともいうのであるが,役員会
レベルで適切な対応がなされるのであれば前記のようなと畜時期を偽って牛肉を販
売する必要は減少するはずであるのに,その点の検討がなされた形跡もないのであ
って,これまた不自然である。
   (2) Pの被告人A2に対する平成13年10月22日ころの報告の有無
及びその内容〔争点②-2。第3・2(21ページ)〕
     Pが,各業者が近いうちに買上制度が導入されることを睨んで様々な手
を打ち始めていると感じていたことは,Pの供述〔検95(15ページ)等〕のと
おりであると認められる。弁護人は,当時は安い肉を買いあさるような状況ではな
かったはずである旨主張するが(被告人A2⑮61ページも同様),本件事業の実
施要項が作られた同年9月26日以降,消費者及び生産者が対象牛肉につき焼却等
の処分を求め,その後同年10月16日ころには自民党内からは政府による処分を
求める声が出ていたこと〔検7(2,3ページ),検6(10ページ,検1資料2
-2)等〕,B17協同組合の同月25日の専門委員会(「第1回説明会」)の段
階で,「石ころを入れても分かりはしない。」というほどの噂があったこと〔検2
(28ページ)〕等に照らすと採用できない。
     しかしながら,Pら3名が本件偽装の具体的共謀を遂げたのが同月26
日の昼ころであり,Pがその際不安を述べLの発言に安心した等の事実経過〔第
2・4・(一)(12ページ)〕に徴すると,Pが同月22日に本件偽装をするため
の布石を打つような報告をしたというのは時期的に早過ぎて明らかに不自然であ
る。
     しかも,Pは,被告人A2に対し「悪い噂」を報告した際の状況につ
き,「ただし,我々としては,在庫品を買ってくれるものであれば,これは非常に
我々にとってはメリットがありますということで,参加させて欲しいというような
ことも含めて話をしました。」と供述するところ(P②8ページ),この供述から
推認される報告内容は,他社は違法な行為もするようだがB1は在庫品の買上だけ
でもメリットがあるので本件事業に参加したい,すなわちB1は違法行為まではし
ないという意味の報告であると理解するのが自然である。また,Pは,被告人A2
がいろんなことをやるところもあるんだなと応答したというのであるが,これが事
実であったとしても,B1としてそのような違法行為にかかわることを示唆した発
言とは到底解されない。Pは,この日「悪い噂」の報告をした理由として,「そう
いうことまでもしないと損が出るようなことが想定されましたので。」と述べ,検
察官の「そうした業界の噂にあるような悪いことをしてもいいから,損を出さない
なら買上事業に参加してもいいと承諾してくれたわけですか。」との質問に「は
い,そうとらえました。」と答えているが(P②8,9ページ),これは先の発言
と符合せず,信用し難い。
     さらに,この段階では,本件事業についての公的な発表では,買い上げ
られた牛肉はいずれ買い戻される見込みであるとされていたから,これを前提にす
ると,本件事業に参加しても,買上期間中の保管料の負担がなくなる程度の利益し
か得られず,偽装することによる利益は特段はないことになるから,本件偽装によ
り利益が得られると被告人A2に理解させるためには,本件事業により買い上げら
れた牛肉について結局は政府が焼却等の処分をするであろうとの見込みをも同被告
人に報告,説明しなければならないはずであるのに,Pの供述によってもそのよう
な形跡はない。他方,Pは被告人A2が本件事業につき損が出ない制度なのかと聞
いたというが,これが事実であったとしても,本件事業に参加し,本来の対象牛肉
を買上対象にすることの報告に対する質問として自然な発言であり,これに対しP
が加重平均を下げると説明し,被告人A2がやり方はそちら(Pら)に任せる旨述
べたとしても,先にみたその直前の被告人A2とPの会話内容からは,それが本件
偽装のような違法行為をすることの許可の意味を含むものとは到底考えられない。
     そうすると,Pの供述のような報告が外形的になされたとしても,そも
そもこれが偽装の意思表示とこれへの承諾と解することには無理があり,従ってま
た,これをそのように受け止めたというPの供述そのものが信用できず,結局,こ
の日Pから被告人A2に何らかの報告があったのか,あったとしてどのような報告
があったかも認定できないといわねばならない。
   (3) Pから被告人A2に対する平成13年10月26日の報告の有無及
びその内容〔争点②-3。第3・5(25,26ページ)〕
    ア 前記のとおり,Pは,その際,被告人A2に「よそがやるくらいのこ
とはうちもやることになると思います。」などと伝え,被告人A2は「事業への参
加は構わない。やり方もそっちに任せる。」と述べたというが,Pの供述によれ
ば,Pはその直前の常勤取締役会で,「悪い噂」を報告し,これに対し役員から違
法行為をするななどと言われることはなかったというのである。
      そうすると,これに続くPの報告やこれに対する被告人A2の反応
は,常勤取締役会で反対されなかったことを踏まえた内容になるのが自然であると
思われるが,Pの供述にはそのような内容はなく,同月22日ころの報告を前提と
した内容ともなっていない。Pの供述は,結局のところ,単に被告人A2に「悪い
噂」を報告して他社と同様のことをする旨再度告げたとするものであって,極めて
不自然,不合理である。
    イ そして,前記のとおり,Pは前記報告の後となる同日夕方,「5階喫
煙コーナー」においてS及びLと共謀を遂げているが,Pの供述調書〔検97(1
4,15ページ)〕によれば,その際,Lらにその直前に被告人A2から承諾を得
たという話をしなかったことを自認し,しかも,Pにおいて「上は相変わらず結果
を出せの一点張りだ。結局,やれることと言ったら,こういうことしかないもん
な。」などと愚痴を言ったというのである。特に,同15ページ2行目以下のまと
め部分でも「(本件偽装)については自分も賛成であることをはっきりと言いまし
た。」旨の供述記載しかなく,被告人A2の承諾が得られたことを告げた旨の記載
がないことが特徴的である。Pの発言がこの程度であることからすると,仮にPが
SやLと会う前に被告人A2との間で何らかの会話をしたとしても,Pがこれを被
告人A2から本件偽装の承諾を受けたと考えてはいなかったことはほぼ確実といっ
てよい。
    ウ さらに,Pは,当初は,前記報告の際には,同日付けの不在代文書に
基づいて報告をした旨述べていたのに(検97,P②16ページ,③46ページ以
下),2度目の公判供述では,被告人A2のもとに同文書を持参してはいない旨の
供述をするに至った(P⑲36ページ以下)。この点,Pは,記憶が減退している
旨の供述もするが,当初の供述において前記不在代文書の重要性を強調していたこ
となどに徴すると,不可解な供述の変遷というほかはない。
    エ 他方,前記のとおり,被告人A2は,この日のPからの報告自体を否
定し,前記「牛肉在庫緊急保管対策事業について」と題する書面には自分の押印が
なく,その日,自分は社内にいたのにPが不在代でファックスしていること,ファ
ックス送信後に報告にきた場合にも,確認のために自分の押印を求めるのが普通で
あるのに,前記書面にその押印がないことなどからして,Pは報告に来ていないと
する(被告人A2⑮63ページ以下)。
      これに対し,検察官は,Pが事後報告の際押印を得ることを忘れてい
たとしても報告の存在自体を否定することはできず,Pが被告人A2の承諾を故意
に避ける理由もないから,その日にPが被告人A2のもとに報告に行ったと認定す
るのに妨げはないと主張するところ,確かに,前記書面は会社の他の部署に配布さ
れるものであり,被告人A2も後日そのような書面が回覧されていることを知る可
能性があるから,Pが被告人A2にこれへの押印をことさらさせない理由はない。
      しかしながら,被告人A2の供述等からすれば,当日同被告人は年末
商戦の決起集会をするため自席のすぐ近くにいたことが認められ(被告人A2⑮6
4ページ等),それなのにPが同書面を「不在代」として自分の押印のみでファッ
クスしていることはやはり不自然であり,少なくとも,Pが,同被告人への事前報
告を避けて事後に単に押印を求めることにしたのではないかと考える余地がある。
    オ 加えて,Pは,前記報告に対し被告人A2が「やり方もそっちに任せ
るから。」と言ったという〔検97(13ページ)〕が,Pは,同月22日の報告
に対しても被告人A2は「やり方はそっちに任せる。」と言ったと述べており(P
②13ページ),被告人A2が同じことを2度述べたことになる点も不自然であ
る。
    カ このようにみてくると,前記書面を被告人A2に見せ,その際本件偽
装をすることについて被告人A2の承諾を得たというPの供述の信用性は極めて脆
弱であるというほかはない。
   (4) 平成13年10月30日あるいは31日のPから被告人A2への報
告内容〔争点②-4。第3・6(26,27ページ)〕
    ア 前記のとおり,Pは,このころ,被告人A2に本件事業の内容が確定
したこと及び「悪い噂」を伝え,本件事業への参加につき被告人A2の承諾を得た
とし,被告人A2の丸印が押された同月30日付け文書(検98資料2)がその裏
付け資料である旨を供述する。
    イ Pは,その際,従前からの繰り返しとして,「悪い噂」を報告したと
いう(P②17ページ)が,上司に対して業務の進行状況を報告するにつきそのよ
うな繰り返しをすることは不自然であり,なぜそのような繰り返しを続けたかにつ
いて,Pは首肯しうる説明をしない。殊に,第2回説明会において,対象牛肉の証
明文書としてと蓄証明は不要で在庫証明だけでよいことになったという重要な事実
を,Pが被告人A2に話した形跡がないことはまことに不自然である。
      また,Pは,その際,「私どもも他社並のこともやりたい。」と述べ
るとともに,「万難を排してこの事業に取り組んで損を減らしたい。」とも述べた
というのであるが,『万難を排して』という言葉は,他社並のことをするという,
いわば単に他社と横並び程度のことをするという内容にそぐわない言葉であるし,
本件事業への参加は特に困難なものではないのであって,その点からも,被告人A
2に『万難を排して』本件事業に参加すると告げたというPの供述は不自然であ
る。さらに,Pは,検察官からその言葉の意味を問われると,「まあ分からなけれ
ばいいというような安易な気持ちであった。」などという不可解な供述をするので
ある(P②17,18ページ)。
      他方,Pは,同年10月26日にも被告人A2に同様の報告をしたと
いいながら,さらに同月30日ころの報告の際,万難を排してでもやると述べてあ
らためて被告人A2の承諾を求めた理由を検察官に問われると,「B2の食中毒事
件の後でBという会社が不信感をもたれている状況があったので,上司の承諾なく
勝手に違法行為はできないと思った,本件偽装が発覚すれば倒産の可能性もあると
思っていた。」旨答えている(P②18ないし20ページ)。しかしながら,同人
が本件偽装による利益がどの程度となるのか考えていなかったことは前記のとおり
であって,このことからみても,Pが本件偽装を安易に考えていたことは間違いの
ないところであるから,前記供述はこれと相反する供述である。のみならず,Pは
同月26日に続き,重ねて承諾を求めたことに関し,被告人A2との間で特段の会
話があったとも述べていない。そして,Pの供述によると,Pがいわば悲壮な決意
を示したのに対し,被告人A2は,通常の反応をしただけで,Pが持参した『平成
13年度牛肉在庫緊急保管対策事業助成の件』(検98資料2)に認印を押した
(P②22ページ)ということになるが,むろん,Pが本件偽装が発覚した場合に
は倒産の可能性もあると考えていたのに被告人A2がそのような危険を感じなかっ
たということはあり得ないし,本件偽装の発覚について,被告人A2が全く心配し
ないということもあり得ないのであって,これまた不自然である。
      そして,万難を排するという言葉が違法な偽装行為を行うという趣旨
であるとすれば,被告人A2がこれに応じて本件事業への参加を許可したことが,
相当程度明確かつ具体的な共謀ないし指示であったことになるから,警察官による
取調べの際,直接偽装工作をしろといった事実はないか等という聞かれ方だったの
で被告人A2のことは話さなかったというPの前記供述(P②53,54)も不自
然,不合理であることになる。
      また,Pからこの点の報告を聞いたというLも,Pが被告人A2から
本件偽装を積極的に承諾した旨聞いたとは供述しておらず,「悪い噂」とともに本
件事業に参加する旨報告したところ何も反対がなかったという程度のことしか聞い
ていない旨の供述をするに止まる(L④20ないし22ページ)。なお,そもそ
も,Lも,本件偽装は現場の責任者の判断ではできないと感じ,上層部の承諾を欲
しがっていたというのである(同17ページ)が,そうだとすれば,Pとそのよう
な会話をしながら被告人A2の承諾,指示の有無を明確に確認していないのは不可
解であり,Sについてもほぼ同じことがいえる(S③8ページ,④17,18ペー
ジ)。
    ウ 一方,被告人A2は,前記『平成13年度牛肉在庫緊急保管対策事業
助成の件』の書面(検98資料2)を受け取り,これに押印したことは認めなが
ら,「Pから内容の報告は聞いていないし,事務的な形で進められているので,書
類の内容もよく読まないで押印した。」旨供述する。
      検察官主張のとおり,被告人A2の仕事ぶりからすると,同被告人が
書類の内容を全く確認しないで押捺したというのであればその供述は不自然である
が,本件事業への参加自体は会社にとって特に不利益が考えられないものであり,
前記書面の内容は,本件事業に参加するので各支店ないしミートセンターでも申請
する牛肉の量を検討するように指示する文書であるから,被告人A2において,そ
のような内容の文書であることを確認した上,認印を押捺したと考えれば特に不自
然であるとはいえない。
    エ なお,B20〔検62(3ページ,資料1)〕や関東統括支店〔検6
9(2ページ,添付資料)〕には前記『平成13年度牛肉在庫緊急保管対策事業助
成の件』の書面で被告人A2の押印がないものがファックスで送られている。検察
官は,被告人A2の押印を得る前に統括支店に送ったものがあっても不自然である
とはいえないというが,この点も,被告人A2の承諾が是非とも欲しかったという
Pの供述内容と符合せず,前記文書への被告人A2の押印にさほどの意味がないこ
とを示し,さらには,P,Sらが本件偽装を独断で行ったことを裏付けるものであ
るともいえるのであって,検察官の前記主張は採用し難い。
   (5) 平成13年11月2日のPから被告人A2への報告内容〔争点②-
5。第3・7(27ないし29ページ)〕
    ア まず,この日の報告内容についてのPの供述は,捜査段階での供述
〔弁46(9項)〕,第1回目の公判供述(②25ページ以下),2回目の公判供
述(⑲25ページ以下)で相当異なり,後のものほど詳細な報告をしたかのように
なっているが,Pはこのように供述を変遷させた合理的理由を説明していない(P
⑲9ページ)。
    イ また,Pの被告人A2に対するこの報告(P②24ないし26ペー
ジ)は,その供述どおりの内容であったとしても,「他社並にはやりました。」と
いう点以外は特に違法な行為を行ったことの報告といえるようなものではなく,
「いろいろやって,損しないようなことにできました。」という部分も,「他社
並」との表現や「悪い噂」と結びついてのみ違法行為まで行った旨の報告と理解さ
れ得るものに過ぎない。
      しかし,Pは,その供述によれば,すでに被告人A2から本件偽装に
つき承諾,指示を受けているのであるから,そのような共犯者間でこのような曖昧
な表現でその報告を終わるのは極めて不自然であり,例えば,全体のうちどの程度
の偽装をしたか,あるいはどの支店,どのミートセンターで偽装が行われたのか
等,Pが知っている偽装に関する事情を報告するのが自然の成り行きであろうし,
また被告人A2も,本件偽装に承諾を与えた者として,違法の内容,程度を知りた
いと思うのが通常であると考えられる。しかし,Pの供述による限り,そのような
会話がなされた形跡がないのであって(P②26ページ),これまた相当程度に不
自然である。なお,Pと被告人A2との間にそのような会話を不要とするような良
好密接な関係が全くないことは前記のとおりである。
      また,Pは,この報告の際,前記「牛肉在庫緊急保管対策事業につい
て(報告)」と題する書面(検98資料4。検182資料8も同じ。)に基づき,
「これでB17協同組合に仮申込みしたいと思います。」と述べたと供述するが
(P②23,24ページ),同書面には「11月1日B17協同組合に以下を申し
込みました。」として,各統括支店等ごとの申込数量が記載されており,仮申込み
したいという発言とは合致しない(なお,時期的な不合理性については先にみたと
おりである。)。
    ウ 検察官は,この点,被告人A2の「Pは,この書面を持ってきただけ
で説明もしておらず,自分も日常の報告として受け取っただけである。」旨の弁解
(被告人A2⑯3ページ以下,⑰20,24ページ以下),は不自然であるとす
る。確かに,この書面を見れば,表の記載から,全社トータルでは利益が出ること
や,本社分の平均単価が946円と相当低いことなどが分かるはずであるとはいえ
る。
      しかし,まず,本件事業の対象牛肉にも経産牛など単価の低いものが
あるから,平均単価が買上価格を下回っていることのみで輸入牛肉等対象外の肉を
混入させたと断定することはできないし,検察官主張のように,被告人A2がこの
書面から『当然』偽装を確認したというのであれば,むしろ,同被告人は,Pに対
し,本社以外のミートセンター等の平均単価が比較的高く,一部については損失を
生じている計算となることについても気付き,これらミートセンター等では偽装し
なかったのかなどとPに確認するはずである。被告人A2があたかも利益にほとん
ど関心を示さなかったかのように述べている(⑰26ページ)点は自己が刑事責任
を負わされる危険を過度におそれたものである可能性があるが,だからといってP
の供述が信用できることにならないことは前同様である。
   (6) P供述について(小括)
     さらに,(1)ないし(5)でみた,Pと被告人A2の共謀に関するP
の供述には,次のとおり,検察官が主張するような信用性があるとは認められな
い。
    ア 検察官は,①Pの同被告人とのやりとりに関する供述には,経験して
いない者には語れない迫真性が認められる,②Pが故意に被告人A2を陥れるつも
りがあれば,何度も2人だけになる機会があったのであるから,被告人A2に対し
て,具体的に輸入牛肉を国産牛肉に偽装するという言葉を述べたとか,被告人A2
から偽装してでも利益を上げろといった具体的指示があったと供述するはずである
のにしていない,③Pが供述する被告人A2からの指示は,前記のように,直接的
な言葉ではなく,いわばオブラートに包んだような言い方の「任せる」などという
ものであって,Pが被告人A2からの指示を誇張しているとは到底考えられない,
④Pが,被告人A2に対し,『輸入牛肉を国産牛肉に偽装する』等と明確な言葉で
述べていないのは,被告人A2とPとの距離感や,Pの罪の意識等から,このよう
な悪事を行う場合は,あえて言葉にしないという暗黙の了解があったからであると
いうべきであって,あからさまに言うことこそかえって不自然であるとし,被告人
A2の「損をするな。やり方はそっちに任せる。」というのも,会社組織ぐるみに
よるこの種の犯行で往々に見られるように,上の立場にある者が,部下をして犯罪
を行わなければならない状況に置いておきながら,責任を免れるため直接指示はし
ていないとして,あえて直接方法を聞こうとしないやり方である,⑤社内のそのよ
うな地位の者が部下らの不正行為に承諾を与えた場合に,積極的なそれ以上の作為
がなかったとしても,下の者を動かすに足るものであって,十分共同正犯として評
価し得ることは,上下関係が強固な組織の者が関係する犯罪においての常であると
し,このような指示承諾をもって犯罪の共謀共同正犯の責任を問えないとすれば,
企業内におけるこの種行為は野放しとなり,ホワイトカラーの犯罪は罪に問えなく
なると主張する。
    イ しかしながら,Pは,内部調査や捜査段階初期まで被告人A2が関与
した旨の供述を全くしておらず,その理由として上層部の関与を追及されたが被告
人A2とのやりとりが曖昧であったので話さなかったと説明しているのであるか
ら,そもそも,その後偽装を明言するやりとりがあったと供述できる立場にない。
      また,Pは,その供述する共謀時点前から現実の偽装を起こしている
から,被告人A2の承諾を得てから行動を起こすことにしていたともいえる立場に
ないし,Pと被告人A2の関係が,現に偽装に向けた行動を開始していると明言し
ても問題が生じないほど良好な関係でなかったことは明らかで,また被告人A2に
おいて,食肉部門で本件までにも行われていたと推認すべき不正行為(賞味期限の
違法な変更や産地偽装)について知っていたと認めるべき証拠はないから,Pがそ
のような被告人A2にいきなり偽装をしたい等と持ちかけることは通常極めて不自
然なことと評価されるはずであって,Pにおいて被告人A2に偽装を明確に持ち掛
けたと供述すればさらにその信用性を疑われる関係にあり,そのため,場合により
言い逃れも可能な表現に止めたと推認することも十分可能である。
      要するに,Pは,被告人A2との間に一定の距離感を有していたので
あって,両者間には,他の企業内犯罪やホワイトカラーの犯罪でみられるような,
本件偽装について曖昧な表現で意思を相通じうるようないわゆるあうんの呼吸を感
じる関係はなかったというべきである。
      そうすると,Pと被告人A2の両名しかいない場所での会話であれ
ば,偽装をより明確にした会話をしていなければならないはずであり,結局,不明
確な会話しかしなかったというPの供述内容そのものが不自然であるという結論に
至る。
    ウ さらに,Pは,警察官による取調の際,『上層部は関与してるの
か。』という聞き方で取調べを受けたとしながら,その際公判廷で供述するような
被告人A2への報告や承諾について供述していないし,同被告人のそのような形で
の関与を話さなかった理由として,物的な証拠あるいは直接的指示はないかという
聞き方をされた,物証がなければ取り上げてもらえないと思った〔3・(一)・
(4)・イ(56,57ページ)〕というのであるが,Pは被告人A2の承諾を重
視していたというのであるから,同被告人から,言葉としては明確でなくとも態度
としては本件偽装を承諾,指示する明らかなものを得たからこそ本件偽装に踏み切
ったというのが同人の供述の帰結となるはずである。そうすると,少なくとも,上
層部は関与してるのかという言い方で質問された際にはPのいうような被告人A2
への報告や同被告人の承諾について警察官に供述するのが当然であり,これを話さ
ないということは,物的証拠がないので話さなかったという点をも含め,全く不自
然,不合理である。また,Pは警察官には物的証拠はあるかとか直接偽装工作をし
ろと言った事実はないかとしか聞かれなかった旨述べるが,そもそも,警察官が被
告人A2らB1の上層部の関与を疑っていたというのであれば,間接的な指示,暗
示的な指示もなかったのかについてPに質問しないとは考えられない。
      結局,警察段階で被告人A2の関与を供述しなかった理由についての
Pの供述も,全く不合理というほかない。
   (7) 平成13年12月6日にB19従業員が取材を受けた後の状況〔争
点②-6。第3・10(32ないし36ページ)〕
    ア 争点②-6については,同月7日,Pからの依頼を受けて被告人A2
に対しその報告をしたSの供述内容及びこれに対する被告人A2の応答と,その後
12月7日付け報告書のファックスを被告人A2が見た時期,その後とされる被告
人A2とP,Sの話し合いの内容の真偽が争点である。
    イ 被告人A2の反応についてのPやSらの供述の信用性について先に検
討すると,以下のとおり,多くの疑問点がある。
     (ア) Pについて
       まず,Pは,被告人A2に12月7日付け報告書のファックスを見
せた上,ラベルの不正表示の点と本件偽装(レンジャーズバレーという輸入牛肉の
国産牛肉偽装)に対する取材があったと報告したという(P②36,37ページ)
が,同報告書をみれば,新聞記者は本件偽装のみを問題にしていることが明らかで
あり,ラベルの不正使用の点をまず第1に報告したという点は不自然である。
       また,Pは,被告人A2に同報告書を見せた上,新聞記者には納得
してもらった旨報告したというのであるが(P②37ページ),同報告書を見た被
告人A2が,深夜突然B19従業員の多数に同時にいわば夜討ちをかけるようにし
て直接の取材がなされ,同報告書にあるような断定的,糾問的な取材をした新聞記
者が,偽装を疑われている当人側からの説明で簡単に納得して帰ったという説明を
信じ,その後何らの対応をしていないというのも極めて不自然である。すなわち,
Pらの供述によると,被告人A2はそれまでに少なくとも本社ミート営業部での偽
装に承諾を与えていることとなるが,そうだとすれば,その被告人A2が,JやPが
述べるように,単に「何もやってないだな。」(J⑤5ページ),「問題ないんだ
な。」(P②40ページ)等と確認してそれ以上の調査をしないとは到底考えられ
ない。Sは,その際の被告人A2の表情が非常に険しかったとし(S③27ペー
ジ),これが自己の共謀した本件偽装が発覚したための険しい表情であったかのご
とき供述をするが,同被告人がその程度の対応で済ませるとは考え難い。
       従って,被告人A2が,本件偽装を承諾していたりこれを知ってい
る状況下でJから同人が供述するような取材を受けた旨の連絡を受けたとすれば,同
被告人は,B19における偽装の詳細を尋ね,B19以外の者が偽装に関与してい
ないか等をJに問い質し,B7の者が関与していたことを知ればさらにこれらの者へ
の取材の有無や新聞記者の情報源を探るように指示し,あるいは本社や他のミート
センター等には取材がないのかを調査したり,本社について取材があった場合どう
対処すべきか等をPらと協議するのが自然である。
       ところが,関係証拠からは,被告人A2がそのような行動に出たこ
とを示す事情は全く窺われず,逆にSは同被告人がそのようなことをしていない旨
供述しているのである(S④31,32ページ)。 また,Jは,被告人A2が12
月7日付け報告書に関し電話で「レポートを読ませてもらった。報告も聞いた。社
長に対しては,私から説明しておくから。」と述べ,その後,非常に早口で「何も
やってないだな。」と一方的に話し,Jが「はい。」と答えると,すぐに電話を切っ
たとし,その電話の内容や被告人A2の口調から,同被告人から,不正なことはし
ていないということにして押し通すようにという指示があったと理解したという
が(J⑤5ページ),それ自体も,順次共謀とはいえ本件偽装を共謀した者相互間の
事後協議としては,いかにも唐突で内容としても著しく信用性の脆弱なものであ
る。
     (イ) Sについて
       Sは,Pに頼まれ被告人A2に報告に行った際,同被告人が「誰が
そんなことをB22にしゃべったんだ。」等と情報漏洩源について特に気にしてい
る様子で発言し,Sが情報の正確性などからみて内部告発と思われる旨発言したと
いうのであるが(S③25ページ),同被告人においてその後その調査をした形跡
がないのは不自然である。
       他方,前記のとおり〔3・(二)・(5)・ア(67,68ペー
ジ)〕,Jから取材があった旨報告の電話を受けたのに対しSが発言した内容(「一
人では死なせない」)は被告人A2ら役員が本件偽装に事前関与をしていないこと
を窺わせる。
       さらに,Sは,同年12月7日に被告人A2に専務室で報告した
際,同被告人からB19での不正の有無につき質問されなかったというが(S③2
5,26ページ),Sが本件発覚後に作成した事実経過表(弁7)では,Sが被告
人A2に同センターでの不正の有無を尋ねられてこれを隠蔽したことが記載されて
おり(S④30ページ),Sのこの供述にも疑問が生じる。この点,Sの供述によ
れば,同人は当時上層部の関与を隠そうとして前記経過表を作成したというが(S
④63ページ),不自然である。
       また,Sは,Pと同様捜査段階では12月7日被告人A2のもとに
本件取材につき報告に言った際にはTもいた旨供述していた〔弁61(7ページ)〕
のに,公判廷では,その場には被告人A2しかいなかったと供述し(S③27ペー
ジ,④28ページ),供述に変遷がみられる。
     (ウ) Lについて
       Lは,この問題発生後,Pから同人がこの取材について被告人A2
に報告した際内部告発した者を特定するように同被告人から指示された旨を聞いた
というが(L④25ページ),Pは被告人A2からそのような指示があったとは供
述していない(P②35ないし39ページ)のであって,これまたPの供述内容と
矛盾する。
    ウ 被告人A2その他の会社関係者の供述の問題点について
      被告人A2自身が,その供述において,取材の事実を知った後書面に
よる報告を求めたとしているにもかかわらず,12月7日付け報告書を結局本件発
覚後の社内調査の時点に至るまで目にしていないというのはやや不自然である。し
かも,このような報告をJがしたこと自体は事実で,Jは本件取材の内容を隠してい
ないし,被告人A2がPかSから聞いたという報告内容は同報告書のそれと異なっ
ている。検察官は,被告人A2が事実関係の調査をしようとせず新聞記者への対応
のみを問題としたとするが,Jの供述する被告人A2の言動は,記者への対応として
も善後策を検討していないなど,同人が本件偽装に関与していたとすると不自然で
あるというほかはない。平成14年1月には素早く調査を命じた被告人A2が,平
成13年12月の本件取材の際にはこのような調査の指示をしなかったばかりか,
証拠隠滅活動を含む何らの対応もしなかったことは,逆に,同被告人が取材内容を
詳しくは知らなかったことに結びつく事実ともいえる。
      他方,被告人A2が当時本件偽装の事実やそれまでの食肉部門で行わ
れていたラベル貼り替え等の不正行為を知らなかったとすれば,被告人A2がP,
S,Jらの報告を鵜呑みにしたとしてもさほど不思議ではなく,前記被告人A2の供
述もさして不自然であるとはいえない。
    エ ところで,12月7日付け報告書を見たDはその後被告人A2にその
伝言をしていないが,Dは本件実行犯5名の供述によっても偽装の事実を知らない
のであるから,被告人A2の指示がなかったため独自の対応をしなかったとする同
人の供述が不自然であるとはいえず,この点に関するXやYの供述にも格別不合理
な点はない。
    カ 以上のとおり,同年12月7日以降,被告人A2が,PとSに対し,
B19を調査するように命じることがなかったのは,被告人A2が同日付け報告書
を読むことがなく,従って同センターにおける偽装を知らなかったためであると考
えることが十分可能であり,本件取材に関する報告を受けた際及びその後被告人A
2がとった言動に関するP,Sら本件実行犯5名らの供述は信用性が乏しい。
   (8) 平成14年1月下旬の本件発覚時の被告人A2の言動等〔争点②-
7。第3・11(36ないし45ページ)〕
    ア Jらの供述の問題点
      前記のとおり〔第3・11・(一)(36ページ)〕,J,Sによれば,
被告人A2は,同月22日夕方会議室に集まった多数の社員の前で,Jに対し電話で
「『やってない』でいいな。」と言い,会議室にいた者に向かって,「Jはやってな
いと言っているぞ。」と述べたこととなるが,被告人A2がPら3名を通じてJと共
謀しているのであれば,Zら共謀に加わっていない者のいる場ではなく,Pら3名
に命じるなどして密かにJに連絡をとるのが共犯者の行動として合理的であるともい
えるほか,Zらの面前で「『やってない』でいいな。」等といかにも共犯者が口止
めの意思を含ませた発言をしていることが分かるような言い方をしたという供述
も,その内容自体が相当程度に不自然である。
      さらに,その後,被告人A2は,L,T及びNの3名にB19の調査を
命じているが,その前後にも,会社上層部の関与を隠すことが可能か否か検討する
ように指示し,あるいは自己の関与をYらに知られないようにしようとするなど,
同被告人に共謀をした者であれば行って不思議のない言動は全くみられない。
      そして,Jは,Sから電話を受けた際同人から被告人A2の命令として
同被告人に電話するように指示されたと供述するが(J⑤14ページ),SはJにそ
のような指示をしていない旨供述しており(S④38ページ,③36ページ),両
者の供述は齟齬している上,Sは,その後の被告人A2との電話の際,「何でばれ
たんだ。これで会社が潰れるぞ。」などと一方的に被告人A2から叱責されながら
〔前記第3・11・(五)(38ページ)〕,その際もその後も含め,同被告人も承
諾しているはずだという趣旨の反論をした形跡も全くない(S④39ページ)。
      さらに,Sは,同月23日の記者会見の前,自分が前年12月15日
にB19に出張したことを調査のための出張であったことにしようと被告人A2に
持ちかけ,そのように合意ないし被告人A2から指示を受けたと供述するが(S③
43,44ページ),これはSが記者会見で述べた内容と異なる(11月に調査し
た旨。検91資料1-6。S④40,41ページ)。Sは記者会見で緊張していた
ので言い間違えたというが(S④64ページ),自分が言い出したいわば質問され
ることを予測して考えた嘘を,しかもこの点だけ言い間違えるというのは不自然で
ある。
      Pは,外国出張から帰国後出社し被告人A2のもとに行って謝罪した
際,被告人A2から「お前のおかげで首になるわ。」といわれたというのであるが
〔前記第3・11・(八)(39ページ),P②42ページ〕,本件実行犯らの供述
を前提にしても,当時はB19での偽装をJの独断であるとして切り抜けようとして
いたのであるから,前記Pのいう被告人A2の発言は唐突でいかにも不自然であ
る。
      さらに,Sは,本件事件発覚後の平成14年1月24日ころ,Yに対
し,「本社でもやってました。」と「耳打ち」をしたというのであるが〔前記第
3・11・(七)(39ページ),S③48ページ〕,Sが,Yも出席していた平成
13年11月27日の常勤取締役会で会社役員らが本件偽装の存在を知っていると
の前提のもと前述の報告をしたというのであれば,その後になってYに密かに本件
偽装を告白したというのも極めて不自然,不合理である。
    イ 他方,本件実行犯5名は,被告人A2の共犯性を否定する間接事実と
いうべき行動をとった旨を自認する供述もしている。
      すなわち,Lは,被告人A2にB19に調査に行くよう命じられた
後,T,Nらといったん別れ,密かにSとの間で善後策を協議したが,その際,Sに
おいて「私が責任をとる。」と言ったのに対し,Lは「あなたはミート事業を今後
守っていかなければいけない人だし,あなたが関与したということになると本社組
織ぐるみの問題となってくるから,あなたが出たら絶対駄目だ。」旨を述べたとい
うのであるが(L④28ページ,S③35ページ),SとLは,その際被告人A2
に相談しようとはしていないし,そのような話題が出た形跡すらない(S④37ペ
ージ)。しかしながら,LやSの供述によれば,同人らは当時本社分の偽装につい
て被告人A2の承諾のもとにこれを行った認識であったというのであるから,本社
分の偽装をどう公表するかについてSとLだけで協議することは不自然である。
      Lは,その後さらにSとの間でLの一存で本件偽装を行ったことにす
ることを決め,Sの命令でB19の調査から一人本社に戻り,専務室で,被告人A
2に自分の一存で本件偽装を行った旨を答えたというが(L④29ないし31ペー
ジ,⑤17ページ),他方で,Lは,事前にPから聞かされるなどして本件偽装に
つき被告人A2らの承諾を得ていることを確信していた旨を供述しているのであっ
て(L④17ないし22ページ),Sの命令で被告人A2に告白するという経緯自
体が不合理である上,被告人A2がLと二人きりの場面で「おまえ一人でなの
か。」と尋ねたり,Lが自分の一存で行った旨答えたということは,被告人A2が
本社での偽装に関与しておらず,LやSとの間に共謀がなかったことを端的に示す
事実といわねばならない。
    ウ 弁護人は,被告人A2がB19の調査を命じた内容につき,同被告人
が本件偽装を事前に承諾していたとすれば,実行犯のみに調査を命じて証拠隠滅を
指示したはずであると主張するところ,そのように断定することができるかどうか
はさておき,被告人A2が前認定の内容の調査を命じていることは,同被告人が本
件偽装を承諾してはいなかったと考えるべき事情の一つであるとはいえる。
    エ このように,平成14年1月22日から23日ころの本件偽装発覚直
後の被告人A2の言動には,同被告人が本件偽装を知っていたことを積極的に示す
ものはなく,かえって,同被告人が本件偽装を承諾してはいなかったと考えるべき
事実が種々認められるのである。
   (9) 被告人A2の個別共謀関係の結論
     以上のとおりであって,検察官が被告人A2と本件実行犯5名ないしP
ら3名との共謀を裏付けると主張する事実については,すべて,これを否定すべき
か,反対の事実が存在する可能性が高く,検察官提出の積極証拠からは被告人A2
の共謀は到底認められない。
  (三) 被告人A1の個別共謀関係
   (1) 平成13年10月25日ころ及び同月29日ころのMから被告人A
1への報告内容〔争点③-1。第3・3(22,23ページ)〕
     平成13年10月ころから同年11月5日ころまでの間,BSE関連の
情報や本件事業に関し,Mが被告人A1に対し報告していたことを裏付ける客観的
証拠は,平成13年9月29日付けの試算表(検55資料1。被告人A1の同日付
け認印がある。),同年10月4日付凍結申請書(同2。同日付けの認印があ
る。),同月23日付け在庫報告書(同5-①。同月25日付け認印がある。),
同月30日付けの本件事業に関する指示文書(同資料8。同年11月1日付けの認
印がある。)及び同年11月5日付けの認印がある資料数種(同資料3,4)があ
る程度で,M自身が,同年10月末から11月初めころは,被告人A1に報告する
余裕もなかったし報告しなくてもいいと思っていたと供述していること(M⑤21
ページ)等に徴すると,BSEに関する情報についてはともかく,本件事業につい
ては,本件偽装前にMが被告人A1に頻繁に報告していたものとは認められない。
     そうすると,その供述内容自体も極めて抽象的で曖昧なものである上,
前記のとおり,Mが説明の際持参したという前記各書類も,内容的には本件偽装を
窺わせるものは一切ない通常の報告文書であるから,Mが被告人A1に前記第3・
3・(一)・(1)ないし(3)(22,23ページ)のような報告をしたかどうか
は極めて疑わしいというほかはない。
   (2) 平成13年11月5日のMから被告人A1への報告の有無等〔争点
③-2。第3・8(29ないし31ページ)〕
     検察官は,①Mの供述は「いたずら」という言葉を用いた点など具体的
であり信用できる,②Mは発覚当初被告人A1に報告して指示承諾を得ていたこと
を特段供述していなかったが,これは会社ぐるみの犯罪であることを隠すためであ
った,③Mには被告人A1を陥れるような動機は見当たらない,④前記のとおりM
の供述を裏付けるKやはQの供述等が存在する等として,Mの供述には信用性があ
るとする。
    ア まず,Mの供述それ自体を検討する。
      一般論として,「いたずら」という言葉を上司に対し職場で使うとい
うこと自体が唐突で容易に信じ難いというべきである。さらに,『輸入ビーフを3
トンちょっと「いたずら」をして入れました。』という物言いは,曖昧でごまかし
を含む言い方である(M自身,照れがあったと供述する。M⑤61ページ)が,M
と被告人A1との間にこのような言葉を使える親密な関係があったとは思われな
い。他方で,Mはこのときのやりとりについて印象が薄いと述べ,記憶が乏しい旨
の供述をもするのであるが(M⑤36,38ページ,④9ページ),この供述の重
要性を認識しているはずの同人が,記憶が乏しいなどということ自体が不合理であ
り,Mが「いたずら」という特殊な言葉を用いたと一貫して供述していることや前
後の他の出来事を覚えているとすることと対比するとなおさら不自然である。
      Mは,支店長室で,被告人A1に簿価入り,簿価なしの2種類の報告
書を見せて報告を行った等と詳細な供述をする(M④13ないし17ページ,⑤3
8ページ)。そして,Mは,本件発覚後Uに指示して簿価入り報告書のみを廃棄す
るように指示したというのであるが,Uは,簿価入り報告書(平成13年11月5
日付け)については,1ページ目(「鑑」となる計算集計書部分)を作成しなかっ
たというのに対し(U⑦21,22ページ,26,27ページ,55ページ),M
はそのような供述を全くしていない(M④13ないし17ページ等)など,その間
に見逃せない供述の齟齬がある。さらに,Mは,支店長室において,被告人A1に
本件詐欺行為の報告をした際,本件事業によって得られる利益について,「500
万か600万」と大雑把な金額を述べたといい,手元に正確な金額が記載された資
料がなかったためであるというが,2種類の報告書まで用意したという点や,Mが
説明に使ったというU作成の在庫報告書の添付資料(明細表。U⑦27ページ,同
調書末尾添付資料)に正確な金額が記載されていることと合致せず,不自然であ
る。
      事後の経過についてみると,Mは電話によるDからの問い合わせに対
し,B20でも偽装をしたことを認め(M⑤40ページ,D⑩31ページ,弁1
7),Yらに同様の報告をしているが(M④29ページ,Y⑧15ページ,⑨22ペ
ージ),それらの際被告人A1の承諾のもとに偽装を行った等の発言をした形跡は
一切ない(D⑩34ページ,Y⑨22ページ。なおM⑤40ページ)。被告人A1
の承諾があったのなら,MがDやYらにその旨弁明しないとは考えられないし,一
方,MはこれらDやYらに関東統括支店での偽装を告白しこれを認める前に被告人
A1と連絡をとってもいない(M⑤40ページ以下,被告人A1⑬54,55ペー
ジ)。
      Mは平成14年3月7日B1を懲戒解雇されているが,Mが供述する
ような事実があったのであれば,懲戒解雇に対して被告人A1の承諾を理由とする
何らかの反論があって然るべきであるし,Mはそのころ同被告人と電話で話してい
るところ,その際に同被告人にその承諾ないし共謀について触れた形跡もなく,こ
れも不自然というほかない(M④32ページ)。さらに,Mの供述によれば,平成
14年3月中・下旬ころQからMだけが責任をとることに疑問を呈する趣旨の電話
があり,Mが平成13年11月5日被告人A1に説明をしているところを傍にいて
聞いていたと告げ,そのような認識のなかったMがQに会ったところ,同人はMが
被告人A1に「輸入牛3トンちょっといたずらして入れた。」旨述べるのを聞いて
いたと話し,その後MがQ及びP2ら4名で会食した際,P2からも,前記報告直
後のMから「『被告人A1に輸入牛を入れて利益を出した』旨報告した」との説明
を受けたという(M④38ないし40ページ)。Mはこのような経過があって警察
官にその旨の供述したというが,Qらに前記のような極めて重要な目撃談を教示さ
れたのに,被告人A1やB1に対し,懲戒解雇事由に関し反論を全くしないのも不
自然である。
      加えて,Mは,平成13年11月5日の報告を事後報告と考えていた
ため,平成14年3月末か4月ころ,警察官にその報告自体については話したもの
の,被告人A1の指示命令は受けていないと供述したとし,そのため同月5日付の
供述調書には前記報告のことが録取されていないという(M④43ページ)。しか
し,これも,①被告人A1への報告が極めて重要であると考えていたという前記M
の供述と矛盾するし,警察官がこれを共謀と考えないというのも明らかに不自然,
不合理である上,②QらからMだけが責任を負う必要がない理由として前記報告を
聞いていたと教示されながら,その後も被告人A1の具体的指示はなかったと思い
続けていたというのも不合理であり,③さらに,Mが前記報告を単なる事後報告で
あって被告人A1が責任を負うべき事情とはならないと考えていたのだとすれば,
Mが,社内調査委員会や特別監査において,被告人A1をかばう目的でこの報告を
話さなかったという同人の供述も不可解であって,Mの前記供述はいかに考えても
合理性が認められず,信用性に乏しい。
      なお,検察官は,Mが輸入牛肉も含めた本件事業の買上のための在庫
報告書を本社に送付した時期からみて,本件偽装に関する被告人A1の承諾があっ
たことが裏付けられるとするが,在庫報告書は本件事業への参加を示すものに過ぎ
ず,またこれに支店長の印が必要であることも当然であるから,このことが共謀の
裏付けとなるとは到底いえない。
    イ 次に,Mと被告人A1の会話を聞いていたとするQの供述について検
討する。
      Qは,Mが被告人A1に対し,同日昼前ころ,「うちも少しいたずら
しました,3トンちょっと,何百万かこれでもうかるはずです,まあ何事もない,
心配ない。」旨を報告し同被告人がこれを承諾した両者間の会話を,両名から1,
2メートル離れた場所で聞いた旨(Q⑤4ないし6ページ),引き続き,Mと被告
人A1の両名に対し,「B20で3トン程度であれば,全社的にはどれくらいやっ
ているんでしょうかね。」と質問したが,返答はなかった旨供述する(同11ペー
ジ)。また,Qは,自分がこの目撃談を初めてMに話したのは平成14年3月中旬
ころで,Mからの電話で話しをした際であったとし,その後P2らを含めた4名で
会食した際にもその話があり,P2もなにがしか覚えていると話していたとする
(同14ないし16ページ)。
      Qの供述については,同人が聞いたとする被告人A1とMの間の会話
内容自体が不自然であることはMの供述についてアで述べたとおりである。さら
に,Qは,Mと被告人A1との会話に割り込んで全社的な本件偽装の量はどれくら
いになるのか等と聞いたというが,上司が職務上の会話中に部下であるQが口を挟
んだとすること自体が不自然である上,唐突であり,偽装が会社ぐるみのものであ
ることを当然の前提としている点で内容的にも不合理である。また,Qがこのよう
な発言までしたというのであれば,Mにおいて,被告人A1に前記報告等をした際
Qが近くにいたことを忘れていたというのも不自然である。
      そして,Qの公判供述は,弁護人も指摘するように,Mが「輸入牛」
とか「買上」ないしこれに類する言葉を使ったか〔「輸入」については弁63(8
ページ),Q⑤10ページ。「買上」については弁64(4ページ),Q⑤8ペー
ジ,⑥20ページ)〕,Mと被告人A1との会話の意味を理解したか(弁63,Q
⑤7ページ),自らがMと同被告人との会話に加わったか(弁63,64,Q⑥1
3ページ)等,通常変遷が考えられないような多くの重要な点について捜査段階か
ら著しく合理性のない変遷を繰り返しており,これらの点を含め,反対尋問では返
事に窮する場面すらあった。
      以上の検討に加え,Qが,その供述によれば(Q⑥1,2,4,29
ページ),Mと親しい間柄にあるほか,被告人A1が関東統括支店長に就任してか
ら営業1部長から主席専任員に降格されているなど,虚偽供述の動機を有すること
をも併せ考慮すると,Qの供述は,疑わしい点が多いというのを超えて明らかな虚
偽供述部分の含まれた供述であるというべきである。
      このほか,MとPの供述の間には,Mが被告人A1に本件偽装をした
旨報告をした際の状況(大フロアーにいた人数,Mの声のトーン,Mと被告人A1
の会話時間)について,相当程度のくいちがいがあるが(M⑤37ページ,P⑥1
1ページ以下),重要な報告をした(M)とか,このときの場面が脳裏に焼き付い
て記憶に残っている〔P(弁63)〕という両名の記憶がこれほど食い違うのも不
自然である。
      さらに,Mが被告人A1へ日頃ポイントを押さえた報告をしていたと
するKの供述も,それ自体曖昧かMの供述とむしろ合致しない点が多く(同人⑳1
9ページ等),Mの供述の補強とはなりえない。
    ウ 被告人A1の供述の信用性について
      検察官は,①B20において簿価入りの在庫報告書を作成していたこ
とはUらMの部下も供述しており,各統括支店は死守計画上も厳しく収支を検討す
べき状況であったのだから,本件買上によって関東統括支店にどれだけの損益が出
るかは,被告人A1にとって極めて重要な事柄であった,②Mはそれ以前にもBS
Eのため増えた在庫牛肉の凍結に関し具体的数字の入った報告書を被告人A1に見
せており,本件事業の買上による簿価上の利益はそれまでの表に多少手を加えれば
すぐに計算ができるから,当然,利益を計算して具体的に被告人A1に報告してい
るはずであるとする。
      しかし,前記のとおり,そもそも本件事業はそれ自体で大きな利益を
生じうる性質のものではないし,同事業への参加は全社的作業であり,関東統括支
店も平成13年11月5日以前から本件事業によって買い上げられる牛肉の量を知
らせるように本社から命じられていたのであるから,損が出ないかどうか確認する
程度のチェックしかしなかったとする被告人A1の供述は不自然ではない。そし
て,このことを含め被告人A1の供述は一貫しており,概ね信用できる。
    カ 以上のとおりであって,平成13年11月5日にMが被告人A1に本
件偽装(B20分)について報告し,同被告人がこれを承諾した旨のM,Qらの供
述の信用性は著しく乏しい。
 5 被告人両名らの供述についてのその他の論点
   前記被告人両名らの供述中,検察官が問題視する点等に関し,ここまで触れ
ていない点を検討する。
  (一) 「悪い噂」について
    被告人両名に共通の問題として,検察官はそもそも被告人両名が「悪い
噂」を知らなかったはずがないと主張するところ,同業者であるB21株式会社の
商事部部長代理であるM2は,検察官に対し,関係者であれば噂を知らないはずが
ないという趣旨の供述をしている(検140)。しかしながら,同人はB1であれ
ばPらのポストにあたる地位の人物であり,同人がいう関係者は食肉業界の関係者
を意味するのであって,会社経営者レベルを指すとはいえない。そして,もし被告
人両名において「悪い噂」を知っているのが当然であるとすると,PやSも被告人
両名が「悪い噂」を知っていると当然認識していたはずであって,被告人両名の承
諾があれば偽装ができると考えていたというPらが,取締役会等で「悪い噂」を繰
り返し報告して被告人両名から偽装の承諾を得やすくしたとする検察官が描く本件
犯行のストーリー自体が崩れるし,本件実行犯らの供述との間に矛盾が生じる。
  (二) 被告人A2について
   (1) 検察官は,①被告人A2の「悪い噂」を知った時期についての供述
は合理的理由がなく変遷しており,公判廷での供述には回避的態度も認められる
し,調査委員会に対する対応も不自然である,②本件事業による利益について考え
ていなかったとする点も不自然,不合理である,③本件事業への対応は実務問題と
してP以下に任せておけばよいから報告をよく聞いていなかった旨弁解する点も,
本件事業の特殊性や被告人A2の社内での立場からみて不合理である,④B2の食
中毒事件の反省から違法行為を行うはずがないという点も反対の証拠がある,⑤偽
装発覚後ですら本件事業の対象牛肉が全頭検査前の牛肉全部の買上であると思って
いたという点は議事録にも記載がある11月の常勤取締役会でのSの発言内容との
対比上あり得ない等として,被告人A2の供述には信用性がないと主張する。
   (2) そこで検討すると,確かに,(1)①及び⑤の2点については,被
告人A2の供述には,検察官が指摘するような問題がないわけではない。また,被
告人A2は,本件の主犯として訴追されているのであり,また株主代表訴訟も提起
されているというのであるから,自己の刑事上,民事上の責任を回避するために虚
偽を述べる動機は存在する。さらに,被告人A2は,捜査段階において,検察官に
対し,平成14年1月23日の記者会見で嘘を言った〔前記第2・11・(六)(3
8ページ)〕こと自体を否定する供述をしている〔検197(2ページ)〕ほか,
被告人A2の供述には,BSEの影響について国産牛への影響を強調して輸入牛へ
の影響が少なかった旨述べているのではないか,また死守計画について,遵守の必
要性が少なかったとかミート部門は大きく下方修正した等とことさらにその重要性
を矮小化しているのではないかといった疑問がないわけではなく,この点はY(Y
⑧8,9ページ)らの供述も同様である(死守計画が強調されたことが本件実行犯
5名を追いつめたことは前記のとおりである。)。
   (3) しかし,他の点については,検察官の指摘は必ずしもあたらない。
    ア (1)②及び③について
 まず,本件事業はB17協同組合に加盟している各社が一斉に参加す
るもので,買上対象となる牛肉についても一定の制限が加えられるものであるか
ら,買上対象に含まれる在庫肉を価格(簿価)の低いものから順に選定して,いわ
ば横並びの手続に乗っていく以外に基本的には対処方法はないのであり,まさに本
件実行犯5名が行ったように違法な手段に訴えることを考えない限り,経営判断に
よって生じる利益に大きな差が生じる種類の事業ではない。とすると,被告人A2
が本件事業によって生じる利益にさして関心がなかったとか事務手続はPらに任せ
ばよいと思っていたというのも格別不自然な供述とはいえない。
 次に,在庫量の確認についてみると,この点に関し,Pは,被告人A
2が翌月の本社分関連の販売仕向原料手当について毎月決裁しており,その際の稟
議書資料には本社ミート営業調達部等が持っていた畜種別,部位別の在庫が一目瞭
然で分かる表が添付されていて,同被告人はPに面前でその内容を報告させて決裁
していた旨供述する(P②30ページ以下)。そして,検察官は,この資料(表)
を見れば,同年11月末時点の輸入牛肉在庫が10月末と比べて18トンも減少し
ており(P②33ページ,検99資料1-11ないし1-17),牛肉が国産も輸
入もともに売れなくなっている時期に輸入牛肉の在庫がこれだけ減少したことをみ
れば,本件事業に輸入牛肉を混ぜ込んで販売したこと(本社分)は容易にわかった
はずであると主張する。
 しかしながら,この稟議書作成の目的は,在庫量の確認そのものにあ
るのではなく,「件名」「目的」「稟議内容の要点」欄にあるように,今後販売す
る牛肉の仕入れ量を決するためのものである上,在庫量の変化を発見するにはそれ
以前の稟議書資料と対比させなければならないが,この稟議書資料は毎月の在庫量
の変化を比較検討できるものではなく,Pが被告人A2にこの資料(2か月分以
上)を対比して説明をし輸入牛肉の在庫が18トン減少した等と報告した形跡もな
い。そして,これら稟議書はいずれも平成13年12月7日までに決裁されたもの
であって,被告人A2の供述によれば同被告人が本件偽装の疑いを持ちえない時期
のものであるから,稟議書表紙の「潜在問題」欄にも何の記載もないこの稟議書と
添付資料によって本件偽装の存在を把握,確認するのは困難であったこととなる。
 そうすると,この資料は被告人A2ないし被告人両名の犯意や共謀を
推認する証拠となるものではない。
    イ (1)④について
 被告人両名が本件偽装を行うのであれば少なくともこれが発覚しない
ように検討を加えるものと考えられるのにそのような形跡がないことや,平成13
年10月26日開催の常勤取締役会におけるPのセーフガード関連の発言が積極証
拠たり得ないことは,すでに述べたとおりである。さらに,検察官は被告人A2が
偽装発覚後の記者会見で虚偽の事実を述べたことをも問題とするが,部下の違法行
為が発覚した後会社の利益のためこれを隠そうとするという行動は世上よくみられ
ることでもあるから,ここで虚偽を述べたことが本件偽装の共謀を裏付けるとはい
えない。
   (4) そして,これを前提に翻って①の点を検討すると,本件偽装の直接
の共謀がなされたとされるPの報告の際の会話内容に関する被告人A2の供述は,
平成13年10月15日のミートセンター長会議の報告(同月16日)の点以外は
一貫した供述である。被告人A2の捜査段階での供述調書の多くは断片的なもので
あり,その弁解を含め時系列的記載がなされた調書はほとんどないから,その間の
食い違いを意図的な変遷と認定することには無理があり,公判段階での被告人A2
の供述態度をみても,少なくとも,その供述態度から犯人性が窺われるようなもの
はない。
     ⑤の点を検討すると,確かに,「当時,本件事業は全頭検査前の牛肉で
あれば,高級牛であろうと何であろうと在庫は全部隔離される制度であるという理
解であった。」旨の被告人A2の供述(同被告人⑮59ページ)は,Sが同年11
月27日の常勤取締役会において「和牛で売り先のないものも入れました。」と売
り先のある牛肉は買上対象から除いた趣旨の発言をしている(検151添付の同会
議事録写し6ページ)ことと対比して考えると不自然であるが,この点も犯人性が
窺われるようなものとはいえない。
   (5) そして,被告人A2の供述には,自己の関与を認定されることをお
それ事案への関与を過度に小さくみせようとしたり,逆に,民事上の落ち度を指摘
されない程度はミート事業に注意を払っていたことを強調しようとする傾向がない
とはいえないが,これらの点から逆にPの供述の信用性が増強されるとは考え難
い。
   (6) このように考えると,検察官が指摘する被告人A2の供述の問題点
は,その基本的な信用性に疑問を生じさせるほどのものではない。
  (三) 被告人A1について
    検察官は,被告人A1の供述は,BSEに対する関東統括支店の対応が全
く欠落した内容となっており,MからBSE情報の集約について報告を受けていな
いとする点や本件事業による損益に関し簿価の表を見ていないとする点等が不合理
であると主張するが,被告人A1の供述は,本件の根幹たるべきMとの直接的共謀
に関する部分についてはこれを否定する態度で一貫しているほか,特に信用性に疑
問が生じる部分は認められない。なお,被告人A1は,本件偽装発覚後の平成14
年1月28日,Mが所轄保健所に事情を説明した際,B20で輸入牛肉の偽装工作
があったかについては調査中である旨の虚偽の説明をさせているが,その指示の時
期,状況を考えると,同指示が被告人A1の供述全体の信用性に影響するとか,ま
して事前共謀を裏付けるとは到底いえない。
    従って,被告人A1についても,検察官が主張する疑問点から同被告人の
供述の信用性を疑うことはできない。
  (四) 被告人両名の供述の裏付け
    さらに,被告人両名の供述には,これまでみた以外にも,これと符合する
多数の証言等が存する。確かにこれらはいずれもB1の元役員や従業員の供述であ
るが,これらには,特に不合理な点や客観的証拠と整合しない点もなく,検察官の
厳しい反対尋問の際にも基本的な部分で揺らぐことはなかった。なお,これらの者
のうち,元役員については,本件事業にさほど関心がなかったという部分の信用性
がやや問題となるが,これも,被告人両名について検討したとおり,本件事業の実
際に照らし特に不自然とはいえない。
 6 結論
 以上のとおりであって,本件実行犯5名やQの供述は,子細に検討すると明
らかな虚偽部分や払拭できない疑問点を数多く含むものである。本件は,実行犯5
名らミート部門の暴走ともいうべき本件偽装・詐欺の立案実行に対して,被告人両
名がこれを知りながら放置した事実が認められるか否かが現実的な争点である事件
というべきであるが,このような観点からしても,本件実行犯5名の供述を含む本
件全証拠によっても,被告人両名の本件偽装への関与を認めるには十分でなく,従
って,被告人両名において,本件実行犯5名らが本件偽装を行い,輸入牛肉を国産
牛肉であると偽ってB17協同組合に買入申込みしようとしていることを認識・認
容していたこと,本件実行犯5名においても被告人両名が前記のとおり認識・認容
していることを承知していたことは認められず,被告人両名に本件犯行について本
件実行犯5名との間で共謀した事実も認められない。
 よって,被告人両名の本件公訴事実については,結局それぞれその犯罪の証
明がないことなるから,刑事訴訟法336条により,被告人両名に対し,いずれも
無罪の言渡をする。
平成16年7月13日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官  杉森研二
裁判官  橋本 一
裁判官  沖 敦子

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