弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金五千円に処する。
     右罰金を完納することができないときは金一百円を一日に換算した期間
被告人を労役場に留置する。
     但し本裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。
     原審並びに当審における訴訟費用(各国選弁護人に支給した分)は被告
人の負担とする。
         理    由
 検察官の控訴趣意は、記録に編綴されている佐賀区検察庁検察官岩下武揚名義の
控訴趣意書記載のとおりであり、弁護人の答弁は弁護人山中唯二提出の答弁書に記
載のとおりであるから、いずれもここにこれを引用する。
 同控訴趣意(法令適用の誤又は訴訟手続の法令違背)について、
 よつて按ずるに、本件記録に徴すると、被告人は米穀の生産者ではあるが、所謂
転落農家で、米穀の供出割当を受けて居らない者であるところ、昭和二十七年八月
二十四日頃瓦販売業者Aから屋根瓦二十三枚を代金四千三百七十円で購入するに際
し、その代金の支払に代えて、自己生産の繻玄米四斗入一俵を金四千四百円に見積
り、これをAに譲渡し、差額三十円を同人より現金で受領した事実が認められ、該
事実について、食糧管理法施行規則第三十七条(昭和二十七年農林、運輸省令第三
号による改正前の)に所謂米穀の「売り渡し」に該当するものとして本件の起訴が
為されたものであることが明かである。而して論旨は、前示規則第三十七条に規定
する売り渡しには、純然たる売買行為のみでなく、交換、代物弁済その他売買と実
質上同一の法的効果を有する譲り渡しをも包含し、仮りにそうでなく、且つ被告人
の本件所為が売買でないとすれば、同規則第三十八条の規定に違反するものである
と主張するにあるが、昭和二十七年十月二十四日農林、運輸省令第三号による改正
前の前示規則第三十七条乃至第三十九条の規定について、その変遷の経過を観察
し、且つこれを綜合的に考察し、なお食糧管理法第九条に基く一連の法規が、米穀
の供出の完遂を期すると共に、供出外の米穀をもできるだけ正規の「ルート」に置
くことを目的としていることに鑑みると、本来米穀は政府に売り渡す場合及びその
他法定の事由ある場合を除き、これを他に譲渡する一切の行為を禁止することを法
の建前とし、唯生産者で、供出割当を受けている者に対しては、その供出確保のた
めとその報償的意味合いから、供出を完了した場合に限り、売買以外の譲渡が許容
されていたのであつて、所謂転落農家として供出の割当を受けない者は、米穀の生
産をなすものであるとはいえ、叙上のごとき特権を享受するものでない。それ故供
出割当を受けた生産者は前示第三十七条により、供出完了後といえども、政府以外
の者に対し米穀を売買することのみを禁止した趣旨であり、従つてその所謂「売り
渡し」は純然たる売買行為以外の譲渡行為を包含しないとともに、同条及び第三十
八条の生産者とは、本件被告人のごとき米穀の供出割当を受けていない農家を指称
するものでないと解するを相当とする。してみると、原審が本件について、売り渡
しの事実を認めるに足りる証拠がないものとし、且つ第三十八条を適用すべきもの
でないと判示したことは、事実の認定及び法令の解釈適用共に正当であり被告人の
本件所為が前示第三十七条に規定する売り渡しに該当するとの所論及び第三十八条
の規定に<要旨>違反するとの所論は、何れも当らない。しかし前示両法条に該当し
ない行為といえども、同規則第三十九条は生産者非生産者を問わず、何人の
米穀の処分行為をも広く之を規制せんとする趣旨であるから、食糧管理法第九条、
第三十一条による所罰の対象となり得ることは、前に説示の立法の趣旨に照し明白
であり、被告人の本件所為は、前に説示のとおり、食糧管現法又は同法に基く命令
の規定により定めた場合及び農林大臣の指定する場合でないのに、米穀を政府以外
の者に譲り渡したものであるから、同規則第三十九条の規定に違反するものという
ことができる。しかも同規則第三十七条の規定する米穀の生産者が法定の除外事由
なく政府以外の者に対し、その生産した米穀を売り渡す所為も一種の譲り渡しであ
つてこれと、同規則第三十九条の規定する供出割当の有無と関係なく、米穀を所有
する者が、法定の除外事由なく、政府以外の者に対し、その米穀の譲り渡し、すな
わち所有権を移転する処分行為とは、その基本的事実において同一であり、単にそ
の罰条が異なるにすぎないものであつて、裁判所において前者の起訴事実につい
て、後者の事実を認定するも、新たな争点を追加したことにならず、被告人の防禦
に実質的な不利益を生じたものとも認められないので、かかる場合には訴因の変更
をも要しないこと、刑事訴訟法第三百十二条の律意に徴し明瞭である。
 それで本件については、訴因変更の手続を履践することなく、直ちに前示規則第
三十九条を適用処断すべきものであること、まさに検察官の所論のとおりであり、
弁護人の答弁中、この点に関する所論は採用し難いから、原審が右と見解を異に
し、被告人に対し無罪の判決を言渡したのは、前示法令の適用を誤つたか又は訴訟
手続法令に違背し、審理不尽の違法を犯したことに帰着し、右の違法は判決に影響
を及ぼすこと明かであるから、原判決は刑事訴訟法第三百九十七条に則り破棄を免
れない。論旨は理由がある。
 そして当裁判所は本件記録及び原裁判所において取調べた証拠により、直ちに判
決をすることができると認めるので、刑事訴訟法第四百条但書に則り、更に裁判を
することとする。
 当裁判所が認定した事実並びにその証拠は次のとおりである。
 (事実)
 被告人は決定の除外事由なくして、昭和二十七年八月二十四日頃、佐賀県佐賀郡
a村大字bの自宅において、政府以外の者であるAに対し、その所有に係る昭和二
十六年度産糯玄米一俵(四斗)を譲り渡したものである。
 (証拠)
 一、 原審第一回公判調書中被告人の供述記載
 一、 Aの検察官に対する供述調書の記載
 一、 被告人の司法警察員並びに検察官に対する各供述調書の記載
 法律に照すと、被告人の判示所為は、食糧管理法第九条第一項、第三十一条、改
正前の同施行令第八条、同施行規則第三十九条、罰金等臨時措置法第二条に各該当
するので、その所定刑中罰金刑を選択し、所定金額範囲内において、被告人を主文
の刑に処し、刑法第十八条に則り右の罰金を完納することができないときは、金壱
百町を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、なお情状に照し、刑法第二十
五条を適用し、この裁判が確定した日から参年間その刑の執行を猶予し、原審並び
に当審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項に従い、被告人をして負
担させることとする。
 よつて主文のとおり判決する
 (裁判長裁判官 筒井義彦 裁判官 柳原幸雄 裁判官 岡林次郎)

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