弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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(主文)
被告人を懲役5年6月及び罰金100万円に処する。
未決勾留日数中60日をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間
被告人を労役場に留置する。
青森地方検察庁弘前支部で保管中のチャック付きビニール袋入り覚せい剤5袋を
没収する。
(罪となるべき事実)
被告人は,
,,()第1法定の除外事由がないのに平成17年9月12日ころ青森県弘前市略
の被告人方において,覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパンの塩類若
干量を含有する水溶液を自己の身体に注射し,もって,覚せい剤を使用し
第2営利の目的で,みだりに,同月13日,前記第1記載の被告人方において,
覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパンの塩酸塩48.264グラムを
所持し
たものである。
(証拠の標目)略
(補足説明)
1本件において,弁護人は,①平成17年9月13日に被告人方居室でなされた
覚せい剤の押収手続は,被告人の承諾なくして開封された荷物の中から覚せい剤
が発見されたという点において違法であり,したがって,押収された覚せい剤及
び違法に押収された覚せい剤に基づいて獲得された証拠は排除されるべきであ
る,②判示第2の事実につき,被告人には覚せい剤所持の認識はなく,営利目的
もないと主張するので,以下,検討する。
2覚せい剤の押収手続について
(1)関係各証拠によれば,平成17年9月13日に被告人方居室で覚せい剤が押
収されるまでの経緯につき,以下の事実が認められる。
アB巡査部長ほか6人の警察官は,被告人に対する覚せい剤取締法違反被疑
事件につき弘前簡易裁判所裁判官から発付された被告人方居室等を対象とす
る捜索差押許可状に基づき,平成17年9月13日(以下,同日)午後1時
13分ころ,被告人方居室の捜索を開始したところ,被告人方からは,ティ
ッシュペーパーに包まれた注射器4本,チャック付きビニール袋23枚,チ
ャック付きビニール袋が230枚在中しているチャック付きポリ袋1袋,電
子計量器1台などが発見された。
イ捜索実施中の午後2時2分ころ,被告人方に,C運輸から,被告人を依頼
主兼受取人とする荷物(以下「本件荷物」という)が配達され,被告人,。
は,玄関で,受取伝票に「A」と署名してこれを受け取った。
ウその後,警察官らは,被告人方居室の居間において,被告人に対し,受け
取った本件荷物について,その中身を確認したいから自分で開封してほしい
と説得した。
これに対し,被告人は,当初,心当たりのない荷物であり,開封したくな
いと拒んでいたが,約10分間のやりとりが続いた後,最終的には「見る,
んなら見ればいいベ」と,発言をした。
エそれを受けて,警察官が,本件荷物を開封したところ,中からチャック付
きビニール袋入り覚せい剤5袋が発見されたため,午後2時27分,被告人
,,は覚せい剤取締法違反の被疑事実で現行犯人逮捕され前記覚せい剤5袋は
逮捕の現場で差し押さえられた。
(2)そうすると,本件においては,令状に基づく捜索において被告人と覚せい剤
のつながりを窺わせるような証拠である注射器,チャック付きビニール袋及び
電子計量器が発見され,その後,依頼主と受取人がいずれも被告人とされてい
る本件荷物が届き,警察官が説得したにもかかわらず被告人がその開封を頑な
に拒んでいたものであり,このような状況においては,届けられた本件荷物の
中に覚せい剤又は覚せい剤取締法違反事件に関連する証拠物が在中すると疑う
に足りる事情が存在していたといえる。
また,前記のような覚せい剤取締法違反の嫌疑の程度に加え,被告人が,約
10分間の説得の後,最終的には「見るんなら見ればいいベ」と開封を承諾す
るような発言をしたことからすると,警察官による本件荷物の開封は,警察官
職務執行法所定の職務質問に付随して行われる所持品検査として,適法である
ものと認められる。
(3)なお,被告人は,当公判廷において「警察官から『権限で開けるから』,,
ということを言われ,これに対し,権限で開けるのであれば逆らえないのだか
ら好きなようにすればよい,ということを言った」旨,供述する。
しかし,真実,警察官から,権限で開けるというような発言があったとして
も,本件荷物は,被告人方居室を捜索の対象とする捜索差押許可状に基づく捜
索が続行している間に配達されてきたものであって,先述のとおり,これまで
の捜索により,被告人と覚せい剤とのつながりを窺わせるような証拠が発見さ
れていることから,発付済みの捜索差押許可状の効力に基づいて本件荷物を差
し押さえることも,新たにこれに対する別個の捜索差押許可状の発付を受けて
これを差し押さえることも,いずれも可能な状況にあったのであるから,警察
官が権限で開けると発言したとしても,被告人に対し任意の開封を求めるに当
たっての相当な範囲内での説得と認められる。
そうすると,被告人が供述するような発言が警察官からなされていたとして
も,荷物の開封が適法な所持品検査の範囲内であるという結論に影響を与える
ものではないというべきである。
(4)また,適法な荷物の開封に引き続いて行われた,被告人の逮捕手続及び覚せ
い剤の押収手続は適法であり,その後に行われた尿の採取及びその鑑定手続も
適法であると認められる。
3覚せい剤所持の認識及び営利目的について
(1)前記のとおり,被告人が,午後2時2分ころ,被告人方居室に届けられたC
運輸の宅急便の伝票に「A」とサインして本件荷物を受け取り,もって,当該
荷物を自己の支配下に置いたことは,証拠上明らかである。
(2)また,関係各証拠によれば,被告人が本件荷物を受け取るまでの経緯は,以
下のとおりであると認められる。
ア警察による被告人方居室に対する捜索が始まった際,同居室には被告人の
知人であるDが在室していた。
警察官が,Dの身体や所持品を調べたところ,覚せい剤との関わりを窺わ
せるものが見つからなかったことから,同人は,午後1時35分ころ,警察
官により自宅に送り届けられることになった。
イ被告人は,Dが居室から出る前に,同人に対し,警察官に聞こえないよう
に,その耳元で「C運輸に電話をかけて,自宅が留守なので関東から到着,
する荷物を預かるよう話してほしい」旨依頼した。
ウDは,被告人の依頼により,午後1時55分ころ,C運輸株式会社青森主
管支店中津軽エリア弘前営業所に電話をかけ,転送先の同支店コールセンタ
ーの担当者に対して,関東から本日荷物が到着するが,自宅が留守なので営
業所止めに変更をお願いする旨の電話をした。
エところが,被告人方へ荷物を配達する担当者に,配達を止める連絡が入ら
なかったため,担当者は,荷物の配達指定時間であった午後2時ころ,被告
人方居室に本件荷物を配達し,前記のとおり,被告人は午後2時2分ころ,
それを受け取った。
オなお,Dがコールセンターの従業員に話した内容は,同コールセンターの
メモによれば「関東から本日到着荷物,自宅留守なので(営)止めに変更お
願いします」というものであるところ,Dは,被告人方に到着する荷物の。
詳細を知る立場にないことからすれば,被告人は,Dに対して,到着する荷
物が関東から来るものであることをも教えたものと認められる。
(3)このように,被告人が,警察官による捜索中に,Dに対し,関東方面から到
着する宅急便の荷物の留め置きの依頼をしたのは,被告人が,事前に,関東か
ら,時間帯指定でC運輸の宅急便により本件荷物が送られてくるのを知ってい
たためであると推認することができる。
(4)また,到着する荷物が違法な物でなければ,警察官による捜索中に荷物が届
いたとしても何ら差し支えなく,あえて,被告人が,捜索中の警察官に聞こえ
ないようにDに対して荷物の留め置きの連絡を依頼する必要はないし,荷物の
到着後,警察官による開封の求めを頑なに拒む必要もない。
これに,前記のとおり,被告人方から発見された注射器,チャック付きビニ
ール袋及び電子計量器は,いずれも,覚せい剤の小分けや使用に用いることが
可能なのものであること,被告人自身も覚せい剤を自己使用するなど,被告人
と覚せい剤との親和性が顕著であることを併せ考慮すると,被告人は,本件荷
物の中身が覚せい剤であることを知っており,かつ,覚せい剤が在中している
ことを認識しながら本件荷物を受け取り,自己の支配下に置いたものと推認す
ることができる。
(5)この点,被告人は「岐阜のEなる人物から大阪で仕入れたよく分からない,
薬が配達されることになっていたが,まだ届いていなかったので,Dを介して
C運輸に対し,荷物の留め置きを依頼した」旨弁解するが,前記のとおり,被
告人がDに対して,荷物が届くのは関東からであると伝えたことと整合性はな
く,その弁解内容も曖昧であって,到底信用することができない。
(6)覚せい剤所持が営利目的によるものであった点については,所持にかかる覚
せい剤の量が48.264グラムと多量であったこと(仮に,1回分の使用量
が約0.1グラムであるとしても,その量は約480回分に相当する)や,。
被告人方居室から覚せい剤を小分けする際に用いることができる電子計量器や
多数のチャック付きビニール袋が発見されていることからすれば,被告人にお
いて,これを処分することにより財産上の利益を得る等の目的があったことは
明らかであるといわざるを得ない。
4以上のとおりであるから,弁護人の前記主張はいずれも採用することができな
い。
(累犯前科)
被告人は,平成12年5月11日青森地方裁判所弘前支部で労働者派遣事業の適
正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律違反,恐喝罪によ
り懲役3年に処せられ,平成15年4月13日その刑の執行を受け終わったもので
あるが,この事実は前科調書及び判決書謄本によって認める。
(法令の適用)
罰条
判示第1の所為覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条
判示第2の所為覚せい剤取締法41条の2第2項,1項
刑種の選択
判示第2の罪につき,情状により所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択
累犯加重
判示第1の罪につき,刑法56条1項,57条
(前記の前科があるので再犯の加重)
判示第2の罪につき,刑法56条1項,57条
(前記の前科があるので,刑法14条2項の制限内で再犯の加重)
併合罪の処理
懲役刑につき,刑法45条前段,47条本文,10条
(重い判示第2の罪の刑に刑法14条2項の制限内で法定の加重)
宣告刑の決定懲役5年6月及び罰金100万円
未決勾留日数の算入刑法21条(懲役刑に60日算入)
労役場留置刑法18条(1日を5000円に換算した期間)
没収覚せい剤取締法41条の8第1項本文
(チャック付きビニール袋入り覚せい剤5袋は判示第2の罪に係る覚せい剤で犯人
の所持するものであるから)
訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
本件は,覚せい剤の自己使用及び営利目的所持の事案である。
,.,覚せい剤の営利目的所持の事案については所持量が48264グラムと多く
その取引価格は約290万円とされており,極めて悪質であり,また,覚せい剤を
自ら使用しているところからして,被告人と覚せい剤との親和性も顕著である。
被告人は,覚せい剤取締法違反4犯及び前記の累犯前科を含む懲役刑前科10犯
を有しながら,またしても,本件各犯行に及んだものであって,被告人の遵法精神
は極めて鈍麻しているといわざるを得ない。
しかも,覚せい剤の営利目的所持の事案については,捜査段階から一貫して不自
然,不合理な弁解に終始し,覚せい剤の自己使用の事案についても公判廷における
反省の弁は一言もなく,本件各犯行に対する反省の態度は全く見られない。
以上によれば,被告人には重い非難が値し,平成2年12月5日に刑執行終了後
は,本件に至るまで10年以上も覚せい剤取締法違反事件に問疑されていないこと
を考慮してもなお,被告人を主文のとおりの刑に処するのが相当である。
(求刑懲役6年及び罰金100万円)
平成18年3月2日
青森地方裁判所弘前支部
裁判長裁判官加藤亮
裁判官佐藤英彦
裁判官加藤靖

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