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平成20年9月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成19年(ワ)第21051号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成20年6月17日
判決
川崎市中原区<以下略>
原告株式会社日本システム研究所
(以下「原告会社」という。)
川崎市宮前区<以下略>
原告A
(以下「原告A」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士平井昭光
同原井大介
東京都港区<以下略>
被告ソニー株式会社
(以下「被告ソニー」という。)
同訴訟代理人弁護士熊倉禎男
同富岡英次
同高石秀樹
同訴訟代理人弁理士越柴絵里
同補佐人弁理士那須威夫
東京都渋谷区<以下略>
被告東日本旅客鉄道株式会社
(以下「被告JR東日本」という。)
同訴訟代理人弁護士木崎孝
同村田真一
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告ソニーは,原告らに対し,各7億5000万円及びこれに対する平成1
9年8月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告JR東日本は,原告らに対し,各2億5000万円及びこれに対する平
成19年8月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,非接触伝送装置及び信号伝送装置に関する特許権を有する原告らが,被
告らに対し,被告らが製造販売等する製品は上記特許権を侵害すると主張して,不
法行為に基づく損害金(特許法102条3項)及び遅延損害金の支払を求めたもので
ある。
1前提事実
()当事者1
ア(ア)原告会社は,電子計測器,自動制御装置及び情報処理装置の研究開発,
製造,販売等を業とする株式会社である。
(イ)原告Aは,原告会社の代表取締役であるとともに,後記本件発明1及び2
の発明者の1人である。
(甲5,7,弁論の全趣旨)
イ(ア)被告ソニーは,電子・電気機械器具の製造,販売等を業とする株式会社
である。
(争いのない事実,弁論の全趣旨)
(イ)被告JR東日本は,旅客鉄道事業,貨物鉄道事業等を業とする株式会社で
ある。
(争いのない事実,弁論の全趣旨)
()本件特許権2
ア原告らは,次の特許権を共有していた。
以下,(ア)の特許権を「本件特許権1,それに係る特許を「本件特許1,その」」
請求項1に係る特許発明を「本件発明1,本件特許権1に係る特許明細書及び図」
「」,,。面を本件明細書1といいその内容は別紙1特許公報(甲5)のとおりである
また,(ウ)の特許権を「本件特許権2,それに係る特許を「本件特許2,訂正後」」
の特許請求の範囲()に係る発明を「本件発明2,本件特許権2の後記第2回訂1」
正後の特許明細書及び図面を「本件明細書2」といい,その内容は,別紙2訂正明
細書(甲8)及び特許明細書の図面のとおりである。
(ア)本件特許権1
登録番号特許第3574452号(甲4,5,乙1,2)
発明の名称非接触伝送装置
。「」出願日昭和60年6月3日(特願昭60−120291以下原々出願
という。)
分割出願日平成15年6月24日(特願2003−180056。原出願:特
願2002−316493)
登録日平成16年7月9日
存続期間満了日平成17年6月3日
特許請求の範囲請求項1本件明細書1の該当欄に記載のとおり
(イ)構成要件の分説
,,「」本件発明1を分説すると次のとおりである(以下各構成要件を構成要件A
のようにいう。)。
A固定側装置と,前記固定側装置に対し離間して交信することができる移動側
装置とを備え,
B前記固定側装置に設けられた第1の電磁ヘッドのコイルと前記移動側装置に
設けられた第2の電磁ヘッドのコイルとの間で,電磁波を非接触で伝送するように
した装置であって,
C前記固定側装置は,電力送信部と信号受信部とを含み,
D前記電力送信部は,前記移動側装置の前記第2の電磁ヘッドに向けて電力と
指令制御信号の電磁波を送信する手段を備え,
E前記信号受信部は,前記第1の電磁ヘッドにより受信したデータ信号の復調
処理を行う手段と,前記データ信号を外部回路に送出する手段とを有し,
F前記移動側装置は,電力受信部と信号送信部とを含み,
G前記電力受信部は,前記第2の電磁ヘッドが前記第1の電磁ヘッドと近接し
たときに前記電磁波を受信して処理する手段と,
H受信した前記電磁波の一部を整流して電源用電力を形成し,当該移動側装置
に給電する手段とを有し,
I前記信号送信部は,前記電源用電力が与えられて前記データ信号を入力する
入力手段と,
J前記データ信号および受信電力変化量の信号を信号伝送用周波数により変調
を施した電磁波として前記固定側装置の信号受信部に伝送する手段を備え,
K前記第2の電磁ヘッドが前記第1の電磁ヘッドに接近したときに,前記移動
側装置は受信した前記電磁波により動作に必要な電力を得て,
L該移動側装置の電力受信部で受信した電力の変化量に応じて,該移動側装置
の信号送信部から伝送されて前記固定側装置の信号受信部で受信される電力変化量
の信号に基づいて前記固定側装置の電力送信部の送信出力を制御する機能を備えた
ことを特徴とする
M非接触伝送装置
(ウ)本件特許権2
特許番号特許第1601672号(甲6∼9)
発明の名称信号伝送装置
出願日昭和60年12月5日(特願昭60−273645)
登録日平成3年2月18日
登録抹消日平成17年6月1日
特許請求の範囲請求項1本件明細書2の該当欄に記載のとおり
(エ)構成要件の分説
,,「」本件発明2を分説すると次のとおりである(以下各構成要件を構成要件N
のようにいう。)。
N電気回路で構成した運動体側と固定体側にそれぞれ装着される能動用と受動
用との複数のモジュールのそれぞれに送信ヘッドと受信ヘッドとを有する伝送部を
備え,
O他のモジュールの伝送部と互いに対向した状態で,デジタルやアナログ的な
各種のデータ信号を,電磁波を用いて互いに非接触で伝送することができ,
Pその中の何れか一方のモジュールの動作に必要な電力を他方のモジュールか
ら電磁波により非接触で伝送するように構成された信号伝送装置において,
Q前記電力を受電する側のモジュールにコンデンサや電池の如き蓄電機器を装
備して受電電力により充電し,
R1その充電状態を判定した上で,
R2これを電源として所要のタイミングで間欠的に他方のモジュールにデータ
信号の送信動作を行なうに際して,
S電力伝送の電磁波の周波数を,伝送したいクロック周波数と同一,又は,そ
の整数倍にしておき,両モジュールのクロック周波数を共通にすると共に,
T前記モジュールの各伝送部が互いに対向した状態を検知する検出回路を備え
ることによって,その検知信号に基づき前記蓄電機器に対する充電の時間や前記デ
ータ信号の送信動作に係わる回路の駆動時間などのタイミングを司るようにしたこ
とを特徴とする
U信号伝送装置。
(以上,争いのない事実)
イ出願経過
(ア)本件特許権1
a第1回拒絶理由通知
特許庁審査官は,平成15年9月17日,本件特許1に係る出願について,原々
出願(特願昭60−120291号)の明細書の要旨を変更するものであり,出願日
の遡及は認められない,発明の内容が不明確である,進歩性を欠如するとして,拒
絶理由を通知した(乙3)。
b第1回補正
これを受けて,原告らは,平成15年11月18日,請求項1を「前記固定側装
置の前記電力送信部は前記信号受信部において受信した電磁波の信号強度に基づい
て受信信号が均一になるように送信信号の出力強度を制御する」旨補正した(乙4
∼6)。
c第2回拒絶理由通知
特許庁審査官は,平成16年2月27日,請求項1の発明は,引用文献1(特開
昭56−140486号公報)及び引用文献2(実願昭58−129480号(実開
昭60−37963号)のマイクロフィルム。本訴における乙8)に記載のものから
当業者が容易に想到できたものであるとして,進歩性欠如を理由とする拒絶理由を
通知した(乙7)。
d第2回補正
これを受けて,原告らは,平成16年5月6日,意見書の提出(乙9)並びに請求
項1に構成要件J及びLを追加する等の補正を行い(乙10),特許庁審査官は,同
年6月18日,その内容で特許査定をした。
原告らは,上記意見書(乙9)において,本件発明1と上記引用文献との相違点に
ついて,次のとおり主張した。
「,『』…引用文献2(注:本訴における乙8)は単なるリモートコントロール装置
に関するもので『送信装置に,受信側から反射されてくる光反射信号を検出し,,
その検出レベルに従って送信装置の光出力を制御する回路を設け,受信装置の受光
レベルが一定の範囲内にあるように』することが記載されています」(2頁23。
行∼26行),
「…本願発明は,移動側装置で受信した電力の出力の変化に応じて,固定側装置
の電力送信部からの送信出力を制御することを目的としており,引用文献に記載さ
れた発明とは目的が異なります。
構成に関しても,本願発明は,各引用文献のいずれにも記載されていない,次の
構成を含んでいます。
A.移動側装置の信号送信部が,受信電力変化量の信号を信号伝送用周波数によ
り変調を施した電磁波として固定側装置の信号受信部に伝送すること。
B.移動側装置で受信した電力の出力の変化に応じて,その信号送信部から伝送
されて固定側装置の信号受信部で受信される信号強度に基づいて,該固定側装置の
電力送信部の送信出力を制御(請求項2ではフィードバック制御)すること。
従って,本願発明によれば,移動側装置で受信した電力の出力の変化に応じて,
固定側装置の電力送信部からの送信出力を(例えばフィードバック)制御することが
できるという,各引用文献に記載された発明や,その単なる組合せには無い優れた
作用効果を奏します」(2頁下から17行∼4行)。
(イ)本件特許権2
a無効審判請求(無効2004−80078号)
Bは,平成16年6月16日,本件特許2の請求項1に係る特許発明は,特開昭
57−32144号公報(甲1。本訴における乙13)及び特開昭56−14048
6号公報(甲2。本訴における乙14)に記載された発明に基づいて,当業者が容易
に発明をすることができたものであり進歩性を欠如するとして無効審判請求(乙,,
12)をした。
b第1回訂正
原告らは,平成16年8月31日,請求項3を削除し,請求項1の特許請求の範
囲の「回路を備えた」とあるのを「回路を備え,電力伝送の電磁波の周波数を,
伝送したいクロック周波数と同一,又は,その整数倍にしておき,両モジュールの
クロック周波数を共通にすると共に,前記モジュールの各伝送部が互いに対向した
状態を検知する検出回路を備えることによって,その検知信号に基づき前記蓄電機
器に対する充電の時間や前記データ信号の送信動作に係わる回路の駆動時間などの
タイミングを司るようにした」と訂正する等の訂正請求をした(乙16)。
そして,原告らは,答弁書(乙15)において,訂正後の発明と上記引用発明との
相違点について,次のとおり主張した。
「A.電力伝送の電磁波の周波数を,伝送したいクロック周波数と同一,又は,そ
の整数倍にしておくこと。
B.両モジュールのクロック周波数を共通にすること。
C.前記モジュールの各伝送部が互いに対向した状態を検知する検出回路を備え
ることによって,その検知信号に基づき前記蓄電機器に対する充電の時間や前記デ
ータ信号の送信動作に係わる回路の駆動時間などのタイミングを司るようにしたこ
と(請求項1)。
D.(略)
従って,本件発明によれば,拙悪な設置条件下においても安定に動作させ,又,
良好な条件下においては伝送距離を飛躍的に増大させ,且つ,回路構成を単純化で
,,,。」きるという甲各号証及びその単なる組合せには無い優れた作用効果を奏する
(6頁17行∼7頁2行)
c弁駁書
これに対して,同無効審判請求人は,平成16年10月28日,請求の理由を補
正する弁駁書(乙17)を提出し,訂正後の請求項1についても,上記引用発明(甲
1,2)と特開昭58−131838号公報(甲3。本訴における乙18)から当業
者が容易に想到できたものであり,進歩性が欠如する旨主張した。
d第2回訂正
原告らは,平成16年12月28日,請求項2及び3を削除し,請求項1の特許
請求の範囲の「回路を備えた」とあるのを「に際して,電力伝送の電磁波の周波数
を,伝送したいクロック周波数と同一,又は,その整数倍にしておき,両モジュー
ルのクロック周波数を共通にすると共に,前記モジュールの各伝送部が互いに対向
した状態を検知する検出回路を備えることによって,その検知信号に基づき前記蓄
電機器に対する充電の時間や前記データ信号の送信動作に係わる回路の駆動時間な
」,,どのタイミングを司るようにしたと訂正する等の訂正請求を行い(甲8乙20)
同日付けの第2答弁書(乙19)において「…甲第1号証(注:本訴における乙1,
3)には,前記モジュールの各伝送部が互いに対向した状態を検知する検出回路を
備えることは記載されておらず,勿論,その検知信号に基づき前記蓄電機器に対す
る充電の時間や前記データ信号の送信動作に係わる回路の駆動時間などのタイミン
グを司ることも記載されていない。本件特許発明は,固定体側と運動体側との両装
置が近接して互いに対向した状態でデータ伝送を行なう際に,まず電力を受電する
運動体側のモジュールが動作に必要な電力レベルの状態を検出した上でデータ信号
を送信し,これを受信する固定体側でも所定の信号レベルを検出して,所要のタイ
ミングで無線送信を行なわせるように構成した信号伝送装置である。従って,本件
発明によれば,拙悪な設置条件下においても無線伝送を安定に動作させ,又,良好
な条件下においては無線の伝送距離を飛躍的に増大させ,且つ,回路構成を単純化
できるという,甲各号証,及び,その単なる組合せには無い優れた作用効果を奏す
る」(4頁下から6行∼5頁8行)と主張した。。
e審決
特許庁審査官は,平成17年3月15日「訂正を認める。本件審判の請求は,,
成り立たない」との審決(甲9)をし,同審決は,同年4月25日確定した(乙3。
7)。
同審決は「…甲各号証には『前記モジュールの各伝送部が互いに対向した状,,
態を検知する検出回路を備える』ことは記載されておらず『その検知信号に基づ,
き前記蓄電機器に対する充電の時間や前記データ信号の送信動作に係わる回路の駆
動時間などのタイミングを司る』ことも記載されていない」(5頁下から6行∼。
3行)と認定した上「…本件訂正発明は,上記の『前記モジュールの各伝送部が,
互いに対向した(注:対応した」は誤記と認める。)状態を検知する検出回路を備「
えることによって,その検知信号に基づき前記蓄電機器に対する充電の時間や前記
データ信号の送信動作に関わる回路の駆動時間などのタイミングを司るようにし
た』という構成により,拙悪な設置条件下においても無線伝送を安定に動作させ,
また,良好な条件下においては無線の伝送距離を飛躍的に増大させ,且つ,回路構
成を単純化できると共に動作の安定化をもたらすなどの効果を奏するものと認めら
れるから,甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に推考することがで
きたとは言えず,特許出願の際独立して特許を受けることができない発明でもな
い」(5頁下から2行∼6頁9行)と述べ,進歩性欠如の無効主張を排斥した。。
(以上,争いのない事実)
()対象製品の構成3
ア被告ソニーは「FeliCa」と名付られた技術方式を開発し,それに,
用いる非接触ICカード及びそのリーダ/ライタを製造,販売している。
イ被告JR東日本は「Suica」と名付られたシステムで使用される非,
接触ICカードを自社の鉄道を利用する顧客に対し交付し,それに対応するリーダ
/ライタを備えた自動改札機,精算機等を駅構内等に設置している。
「Suica」も「FeliCa」と名付られた技術方式を採用している。,
ウ以下「FeliCa」の技術方式で用いられる非接触ICカード及びリ,
ーダ/ライタを併せて「FeliCa」といい「Suica」の技術方式で用い,
られる非接触ICカード及びそのリーダ/ライタを併せて「Suica」といい,
「FeliCa」と「Suica」を併せて「対象製品」という。
(争いのない事実)
エ対象製品の構成のうち,争いのない部分は「別紙3対象製品の構成」,
に記載のとおりである。
(争いのない事実)
()一部の構成要件の充足4
ア本件発明1
対象製品は,構成要件A,B,C,D,E,F,H,I,Mを充足する。
(争いのない事実)
イ本件発明2
対象製品は,構成要件O,P,S,Uを充足する。
(争いのない事実)
2争点
()本件発明1の充足1
ア争点1構成要件G及びKの充足
イ争点2構成要件Jの充足
(ア)争点2−1「信号伝送用周波数により変調を施した電磁波として」
(イ)争点2−2「受信電力変化量の信号」
ウ争点3構成要件Lの充足
(ア)争点3−1「電力変化量の信号」
(イ)争点3−2「送信出力を制御」
()本件発明2の充足2
ア争点4構成要件Nの充足
イ争点5構成要件Qの充足
ウ争点6構成要件R1の充足
エ争点7構成要件R2の充足
(ア)争点7−1「これを電源として」
(イ)争点7−2「間欠的に」
オ争点8構成要件Tの充足
(ア)争点8−1「互いに対向した状態を検知する検出回路を備えることによっ
て」
(イ)争点8−2「その検知信号に基づき前記蓄電機器に対する充電の時間や前
記データ信号の送信動作に係わる回路の駆動時間などのタイミングを司る」
()争点9本件特許1の無効理由3
ア争点9−1乙14発明を主引用例とする進歩性の欠如
イ争点9−2乙13発明を主引用例とする進歩性の欠如
ウ争点9−3新規性の欠如(原告らの特許請求の範囲の解釈による場合)
()争点10本件特許2の無効理由4
ア争点10−1記載要件不備(昭和60年特許法36条3項,4項違反)
イ争点10−2乙13発明を主引用例とする進歩性の欠如
ウ争点10−3乙25発明を主引用例とする進歩性の欠如
()争点11侵害行為の内容5
ア争点11−1被告ソニー
イ争点11−2被告JR東日本
()争点12損害の発生及び額6
ア争点12−1被告ソニー
イ争点12−2被告JR東日本
3争点に関する当事者の主張
()争点1(構成要件G及びKの充足)1
ア争いのない事実
構成要件Gのうち「近接したときに」以外の点及び構成要件Kのうち「接近した
ときに」以外の点の充足は,当事者間に争いがない。
イ構成要件Gの「近接したときに」及び構成要件Kの「接近したときに」
(原告らの主張)
(ア)特許請求の範囲の解釈
構成要件Gのうち「近接したときに」及び構成要件Kのうち「接近したときに」
とは,文字どおり,第2の電磁ヘッドが第1の電磁ヘッドから電磁波を受信する際
の距離が近接していれば足りるものであり,特定の距離になったことを検出する手
段を有しなければならないものではない。
(イ)充足
したがって,別紙3の構成gは,構成要件Gの「近接したときに」及び構成要件
Kの「接近したときに」の要件を充足する。
(被告らの主張)
(ア)特許請求の範囲の解釈
原告らの主張(ア)は争う。
(イ)充足
同(イ)は否認する。
対象カードは,別紙3の構成gのとおり,対象リーダ/ライタとの通信距離がお
およそ100㎜以内に接近した場合に,電磁波を受信して処理するが,これは,通
信可能状態となる目安の距離にすぎない。対象カードは,そのコンデンサの電圧が
一定以上になった場合に通信が可能となるものであり,対象リーダ/ライタとの距
離に応じて処理する手段を有していないから,構成要件Gの「近接したときに」及
び構成要件Kの「接近したときに」の要件を充足しない。
()争点2(構成要件Jの充足)2
ア争いのない事実
後記イ及びウ以外の部分の充足は,当事者間に争いがない。
イ争点2−1「信号伝送用周波数により変調を施した電磁波として」
(原告らの主張)
(ア)特許請求の範囲の解釈
a意義
構成要件Jの「信号伝送用周波数により変調を施した電磁波として」とは「信,
号を,信号伝送用周波数である13.56MHzにより,何らかの変調を施した電
磁波として」を意味する。
b根拠
()特許請求の範囲の記載a
一構成要件Jの文言は「信号を「信号伝送用周波数により「変調を施,」」
した電磁波として「前記固定側装置の信号受信部に「伝送する」と分断できる」」
から,上記のとおり解するのが自然である。
二信号を電磁波を用いて送信する場合には,何らかの変調(振幅変調,周波
数変調,位相変調など)を用いることが技術的常識である。
三したがって「変調を施した」とは,そのことを示したものである。,
()本件明細書1の記載b
一本件明細書1中には「…通常の無線通信などで用いられる各種の変調,
方式の殆どを適用できる」(【0024】)との記載がある。
二上記記載は,上記の解釈を裏付けるものである。
(イ)充足
したがって,別紙3の構成jは,構成要件Jの「信号伝送用周波数により変調を
施した電磁波として」の要件を充足する。
(被告らの主張)
(ア)特許請求の範囲の解釈
a意義
原告らの主張(ア)aは争う。
構成要件Jの「信号伝送用周波数により変調を施した電磁波として」とは「周,『
波数変調』を施した電磁波として」を意味する。
b根拠
()特許請求の範囲の記載a
一同(ア)b()一は否認する。特許請求の範囲の文言上「信号伝送用周波数a,
により」は「変調を施した」に係ると読むのが,自然である。
二同二は認める。
三同三は否認する。
「変調を施した電磁波」を「何らかの変調を施した電磁波」と解すると,特許請
求の範囲に記載された「変調を施した」が何ら技術的意味を有しない結果となって
しまう。
昭和62年法律第27号による改正前の特許法(以下「昭和60年特許法」とい
う。)36条4項及び当時の審査基準では,特許請求の範囲には「発明の構成に欠
くことができない事項」のみを記載することになっていたこと,並びに構成要件J
は,構成要件Lと共に,第2回補正(乙10)で追加された構成要件であること(前
提事実()イ(ア)d)からすると,特許請求の範囲中の文言を無意味なものとするよ2
うな解釈は許されない。
()本件明細書1の記載b
同(ア)b()一は認め,二は否認する。b
本件明細書1の【0024】の記載は,構成要件J及びLが第2回補正により追
加される前から存在し,構成要件J及びLの追加の際に必要な補正がされないまま
残存したものであるから,原告らの主張を裏付けるものではない。
(イ)充足
同(イ)は否認する。
,。対象カードはデータ信号等を周波数変調を施した電磁波として伝送していない
ウ争点2−2「受信電力変化量の信号」
(原告らの主張)
(ア)特許請求の範囲の解釈
a意義
構成要件J中の「受信電力変化量の信号」とは「データ信号」とは別の独立の,
信号であり「移動側装置が受信する電力の変化量に関係する信号」を意味する。,
b根拠
()特許請求の範囲の記載a
特許請求の範囲の記載から,上記aのとおり解することができる。
()本件発明1の目的・課題b
後記被告らの主張(ア)b()は認める。b
()実施例c
同()は認める。c
被告らが指摘する箇所は,実施例の1つを示したにすぎない。
()出願経過d
同()二は否認する。d
原告らは,意見書(乙9)において,引用文献2(注:本訴における乙8)には構成
要件Jの構成が含まれず,本件発明1は「移動側装置で受信した電力の出力の変,
化に応じて,固定側装置の電力送信部からの送信出力を制御することができる」と
いう乙8発明若しくは他の引用発明又はその組合せにはない作用効果を奏すると主
張しただけであって,固定側装置が発信し,移動側装置から反射的に伝送されてく
る信号の検出レベルに従って送信装置の出力を制御する構成を排除する旨主張した
ものではない。
(イ)充足
したがって,別紙3の構成jは,構成要件J中の「受信電力変化量の信号」の点
を充足する。
(被告らの主張)
(ア)特許請求の範囲の解釈
a意義
()原告らの主張(ア)aのうち,構成要件J中の「受信電力変化量の信号」はa
「データ信号」とは別の独立の信号であることは認め,その余は否認する。
()構成要件J中の「受信電力変化量の信号」とは,固定側装置が移動側装b
置から受信し,これに基づいて「固定側装置の電力送信部の送信出力を制御」(構,
成要件L)するものである。したがって,単に固定側装置が発信し,移動側装置が
反射的に伝送する信号の検出レベル(強度ないし振幅)では足りない。
b根拠
()特許請求の範囲の記載a
同(ア)b()は否認する。a
()本件発明1の目的・課題b
本件明細書1の【従来の技術】の項には,従来技術として「受信局の検出情報,
に応じて送信出力を制御する方式」(【0003】)が挙げられ,従来技術の問題点
として,従来の「非接触方式では,移動側で必要とする電源等の電力を固定側から
非接触で供給し,また移動側から伝送するデータを固定側において非接触で受信す
る方式のものに対しては,距離に比例して大きくなる伝送損失が往復で効いてくる
ので,固定側から移動側へ,あるいはその逆の電磁波伝播による電力および信号の
伝送を確実に行うことが難しく,その実現は困難なものとされている」(【00。
04】)と記載され,安定的な電力及び信号の伝達が課題となっていることが記載
されている。
そして,このような従来技術の問題点を解決するために,本件発明1は,構成要
件J及びLの構成を採用したものである(【0006】)。
()実施例c
構成要件J及びLの実施例を記載した部分である本件明細書1の【0018】∼
【0023】及び図2には,以下の記載がある。
「…能動モジュールAから発送された電力の大きさの変化を受動モジュールBで
受信した上で,その変化量を能動モジュールAにフィードバックし,能動モジュー
ルAにおいて受信した信号強度に応じて電力の発送出力を自動的に制御し,全体と
して受動モジュールBに伝送される電力を一定にするように構成されている(0。」【
018】)
「…他の一部は,…受信ヘッド21の出力に対応した変調波Fs1となる。…」
(【0020】)
「…変調波Fs2は,変調波Fs1とともにミキサ回路25によって混合され,
更に…変調回路9に入力されて変調波となる。この変調波は,RFパワーアンプ1
0において電力増幅を受けた後,信号用の電磁送信ヘッド11から電磁波の情報信
号として空間に放射される。これを能動モジュールAでは,電磁受信ヘッド12に
より受信した後,RFアンプ13において増幅し,メインキャリアに対する検波回
路14によってサブキャリアによる変調波Fs1’および変調波Fs2’の混合波
として復調する」(【0021】)。
「…受信ヘッド21の出力に対応した変調波Fs1’は,…AFパワーアンプ2
9の出力を制御する目的で,その電源回路に直列に挿入された電圧制御回路19の
制御入力に印加される」(【0022】)。
「…能動モジュールAは,受信した情報信号の信号強度の値に応じて電力送信部
にネガティブ・フィードバックを掛けることにより,モジュール間の距離変化に関
係なく信号強度をほぼ一定に保つことができる。…」(【0023】)
()出願経過d
,,,一前提事実()イ(ア)dのとおり原告らは第2回補正(乙10)において2
構成要件J及びLの構成を追加し,同日付け意見書(乙9)において,前提事実()2
イ(ア)dのとおり主張して,特許査定を得た。
二したがって,構成要件Jの移動側装置の信号送信部が「受信電力変化,
量の信号」を信号伝送用周波数により変調を施した電磁波として固定側装置の信号
受信部に伝送するという構成を,単に移動側装置から送信されてくる信号の検出レ
ベルに従って,固定側装置の出力を制御するという構成を含むように解釈すること
はできない。
(イ)充足
原告らの主張(イ)は否認する。
対象製品は,受信電力変化量の信号を生成していない。
()争点3(構成要件Lの充足)3
ア争いのない事実
後記イ及びウ以外の部分の充足は,当事者間に争いがない。
イ争点3−1「電力変化量の信号」
前記争点2−2と同じ。
ウ争点3−2「送信出力を制御」
(原告らの主張)
(ア)特許請求の範囲の解釈
a意義
構成要件Lにいう「送信出力」とは,対象リーダ/ライタの「アンテナ端電圧」
を意味する。
構成要件Lにいう「送信出力を制御」とは,制御対象に所要の操作を加えること
に限られず,制御対象が所定の状況において所定の状態となるようにあらかじめ設
計し,それに従って当該状態が実現される場合を含む。
b根拠
()本件発明1の目的a
一本件明細書1の【0003】及び【0004】から明らかなように,本
件発明1の目的は,最終的にアンテナからの送信電力が所定の特性で変化するよう
にすることにある。
二したがって,アンテナ端電圧が,所定の状況(対象カードの接近)におい
て所定の状態となる(電圧が低下し,その結果対象カードの受信電圧が距離変化に
関わらず一定の値に収束する。)ように設計され,それに従って,実際に当該状態
が実現される限り,制御されているといえる。
()「制御」の通常の意味b
後記被告らの主張(ア)b()のうち,一及び二は認め,三は否認する。b
()出願当時の公知技術c
同()一は否認する。c
同二のうち,(一)は認め,(二)は否認する。
(イ)充足
a対象製品の構成
()別紙3の構成lのとおり,対象リーダ/ライタのアンテナ端電圧は,対a
象カードが接近すると,構成jのとおり低下する。
()しかも,原告らの実験結果(甲19)は,電源として①対象リーダ/ライb
タを用いた場合(図6)と②発振器を用いた場合(図7)との,対象カード側の受信電
圧の変化の様子を比較したものであるが,この実験結果によると,②の場合は,5
0㎜付近を境に急激に電圧が増大するが,①の場合は,一定に保たれている。
b充足
したがって,別紙3の構成lは,構成要件L中の「送信出力を制御」の点を充足
する。
(被告らの主張)
(ア)特許請求の範囲の解釈
a意義
原告らの主張(ア)aは争う。
構成要件Lにいう「送信出力」とは,固定側装置の電力送信部から送信する電力
の出力を意味する。
構成要件Lにいう「送信出力を制御」とは「ある物理量を所望の目標値に適合,
,」。「」,させるために制御対象に所要の操作を加えることを意味する上記制御は
人間が手動で行う場合のほか,自動制御において機械が操作を行う場合を含むが,
2つのコイルに発生する誘導起電力が両コイル間の距離に応じて変化する相互誘導
作用そのものを含むものではない。
b根拠
()本件発明1の目的a
原告らの主張(ア)b()一は認め,二は否認する。a
本件発明1の目的のみから,それを達成する手段に,相互誘導作用による電磁結
合が含まれると解することはできない。
()「制御」の通常の意味b
一「電気工学ハンドブック」(第6版)の記載
「電気工学ハンドブック(第6版)」(発行所社団法人電気学会。2001年2月
第6版発行)の「7編制御とシステム「1章自動制御理論「1.1線形フ」」
ィードバック制御系「1.1.1フィードバック制御」の項には「制御とは,」,
位置(角度),速度(角速度),姿勢,形状,液位,圧力,温度,濃度などの物理量を
ある目的に適合するように,対象となっているものに所要の操作を加えることをい
う。また,自動制御とは,制御装置によって行われる制御のことである」と記載。
されている(乙38)。
二「広辞苑」(第5版)の記載
「広辞苑(第5版)」(発行所株式会社岩波書店。1998年11月第5版発行)に
は「制御」について「機械や設備が目的通り作動するように操作すること」と,,。
記載されている(乙39)。
三したがって「制御」とは「ある物理量を所望の目標値に適合させるた,,
めに,制御対象に所要の操作を加えること」を意味する。
()出願当時の公知技術c
一仮に,本件発明1が相互誘導作用により受信側と送信側の両コイル間が
電磁結合し,それにより非接触通信をする回路を含むとすると,後記乙13発明な
どの電磁結合を用いた非接触伝送装置を含めた従来技術との差異がないものとなっ
てしまう。
二(一)2つのコイル間に相互誘導作用(相互インダクタンス)が生じること
は,本件特許1の原々出願当時の技術常識である。
(二)したがって,電磁誘導を利用した非接触通信装置を設計する場合に,
相互インダクタンスによる影響を十分に考慮し,受信側電圧が有害な影響を受けな
いように送信側のソースインピーダンスを定めることは,当業者の設計事項にすぎ
ない。
(イ)充足
a対象製品の構成
()同(イ)a()は不知。ab
甲19の実験結果は,対象リーダ/ライタのアンテナ端電圧が,相互インダクタ
ンス(対象カードとの距離により変化する)に応じて変化することを示しているにす
ぎない。
()対象製品は固定側装置の電力送信部から送信する電力の出力もアb,「」「
ンテナ端電圧」も制御していない。
すなわち,対象リーダ/ライタは,対象カードとの距離が最大100㎜になって
も正常な通信が可能となる送信出力を考慮して設計されているのみであり,送信回
路に入力される「電源電圧」と「キャリア信号電圧振幅」は常時一定であり,対象
カードの距離に応じて,その送信出力をコントロールする機能を備えていない。別
紙3の構成lのとおり,対象カードには,過電流保護回路が設けられており,対象
カードに過大な電力が供給された場合,回路の正常動作に不必要な電力を消費する
構成となっている。
対象リーダ/ライタと対象カードが接近すると,対象リーダ/ライタのアンテナ
端電圧は相互インダクタンスに応じて低下するが,この電圧の変化は,距離の変化
によって当然生じる物理現象(相互誘導作用)を示しているにすぎない。
b充足
同(イ)bは否認する。
()争点4(構成要件Nの充足)4
ア争いのない事実
「送信ヘッドと受信ヘッドとを有する」以外の部分の充足は当事者間に争いがな
い。
イ「送信ヘッドと受信ヘッドとを有する」
(原告らの主張)
(ア)特許請求の範囲の解釈
a意義
構成要件Nにいう「送信ヘッドと受信ヘッドとを有する」は,送信用アンテナと
受信用アンテナとを独立のものとするだけでなく,単一のアンテナ(ヘッド)が送信
用及び受信用を兼用するものも含む。
b根拠
単一のアンテナが送信用及び受信用を兼用することは,通常行われる設計手法で
あり,送信用アンテナと受信用アンテナとを独立のものとするか,兼用のものとす
るかは,単なる設計事項である。
(イ)充足
aしたがって,別紙3の構成nは,構成要件Nを充足する。
bさらに,対象製品における「送受信兼用」のアンテナ(ヘッド)は,切替式
であり,送信時には受信機能を失って送信ヘッドとなり,受信時には送信機能を失
って受信ヘッドとなるから,構成要件Nを充足する。
(被告らの主張)
(ア)特許請求の範囲の解釈
a意義
原告らの主張(ア)aは否認する。
b根拠
同(ア)bは否認する。
構成要件Nの文言は「送信ヘッド」と「受信ヘッド」とを明確に区別している,
こと,本件明細書2においても,両者が別々の態様のもののみが記載されているこ
とからすると,構成要件Nは「送信ヘッド」と「受信ヘッド」とが兼用のものを,
含まないと解すべきである。
(イ)充足
同(イ)は否認する。
()争点5(構成要件Qの充足)5
ア争いのない事実
「蓄電機器」以外の部分の充足は,当事者間に争いがない。
イ「蓄電機器」
(原告らの主張)
(ア)特許請求の範囲の解釈
a意義
構成要件Qの「蓄電機器」とは,運動体側に備わっており,受信電力によって充
電され,その充電状態を判定した上で,蓄電機器を電源としてデータ信号を送信す
るものであり,蓄えられる電圧の量や時間等に限定はない。
b根拠
()特許請求の範囲a
一構成要件Qには「コンデンサ・・・の如き蓄機器」と記載され「コン,,
デンサ」が例示されている。
二蓄えられる電圧の量や時間等について,構成要件Qは何ら限定をしてい
ない。
三後記被告らの主張(ア)b()二は否認する。a
「これを電源として「データ信号の送信動作を行なう」(構成要件R2)とい」,
う文言は「蓄電機器」がデータ送信の電源となり得るものでなければならないこ,
とを意味するにすぎない。
()「蓄電機器」の通常の意味b
一辞書(大辞林第3版,広辞苑第5版)によると,①「蓄電」とは,電気を
蓄えることであり,②「蓄電器」は,コンデンサを意味する。
二したがって「蓄電機器」は,コンデンサを含むと解するのが自然であ,
る。
c本件明細書2の記載
()産業上の利用分野a
後記被告らの主張(ア)c()は認める。a
産業上の利用分野の項において大型機械・装置が挙げられていても,本件で問題
となっているのは,信号伝送のための電源であり,大型の機械を駆動する電源では
。,「」。ないしたがって上記記載は構成要件Qの蓄電機器の意義とは無関係である
()本件発明2の目的b
同(ア)c()一は認め,二は否認する。b
本件発明2の目的を実現するためにどのような電源を用いるかは,どの程度の消
費電力の回路を用い,どの程度の悪条件にまで対応することを目指すかといった様
々な条件によって異なる。
したがって,上記記載から「蓄電機器」の技術的仕様への限定を読み込むことは
できない。
()発明の構成c
同(ア)c()一は認め,二は否認する。c
蓄電を行う機器である限り,他から来た電荷を一旦蓄えることなく他に電荷を放
出することはない。
()発明の効果d
同(ア)c()一は認め,二は否認する。d
これらの記載は,電力がどの程度小さい場合を想定するか,回路の消費電力等を
どのようなものと想定するか等を特定しない定性的な記述であり,これらの記載か
ら「蓄電機器」の意義について,技術的仕様の限定を読み込むことはできない。
()まとめe
同(ア)c()は否認する。e
(イ)充足
別紙3の構成qの対象カード内に配置された整流平滑回路のコンデンサは,構成
要件Qの「蓄電機器」に該当し,同構成要件を充足する。
(被告らの主張)
(ア)特許請求の範囲の解釈
a意義
原告らの主張(ア)aのうち,構成要件Qの「蓄電機器」とは,運動体側に備わっ
ており,受信電力によって充電され,その充電状態を判定した上で,蓄電機器を電
源としてデータ信号を送信するものであることは認め,蓄えられる電圧の量や時間
等に限定はないことは争う。
構成要件Qの「蓄電機器」は,一旦充電されればそこに蓄電された電荷により,
,「」安定してデータ信号の送信等の動作を独立して行うための電源すなわち主電源
を意味するから,蓄えられる電圧の量や時間等に限定はないものではない。
b根拠
()特許請求の範囲a
一同(ア)b()一は認め,二は否認する。a
二特許請求の範囲には「蓄電機器」は「その充電状態を判定した上で」,,
(構成要件R1)「これを電源として所要のタイミングで間欠的に他方のモジュール
にデータ信号の送信動作を行なう」(構成要件R2)ものであると記載されている。
したがって「蓄電機器」は「蓄電機器」に充電された電荷が「他方のモジュー,,
ルにデータ信号の送信動作を行なう」ための「電源」となるものであり,これを充
電した上で,上記のデータ信号の送信動作を行うものでなければならない。
()「蓄電機器」の通常の意味b
同(ア)b()一は認め,二は否認する。b
c本件明細書2の記載
()産業上の利用分野a
本件発明2は「デジタル信号やアナログ信号の形で得られる各種のデータ信号,
を,電磁波を用いて非接触で伝送させる装置に関するもの」であり,その具体例と
して,かなり大型な運動部分を有する機械・装置であり,運動部分が主電源として
の蓄電機器を備えることに問題のないような「運動部分を有する各種の装置,例え
ば,車両等の交通関係機器や,工作機械,ロボット装置,搬送装置その他諸種の自
動機械」を挙げている。
()本件発明2の目的b
一本件発明2の目的は「…双方の距離がある程度大きい場合とか,周囲,
の設置環境条件などのために伝送効率が悪くなる場合,あるいは非接触で供給する
送信電力を大きくできない場合などにおいても,信号の伝送を安定で効率良く…行
える」ことにある([発明の目的]欄)。
二したがって,このような目的を達成するためには「蓄電機器」は,一,
旦充電されれば,そこに蓄電した電荷により安定してデータ信号等の動作を独立し
て行うことができる電源,すなわち主電源でなければならない。
()発明の構成c
一発明の構成欄には「…能動用モジュールは受動用モジュールから電磁,
波によって非接触で供給された電力を一旦蓄電し,これを電源としてタイミングよ
く所定の動作を行なわせようとするものである」と記載されている。。
二この記載によると,運動体側の蓄電機器に固定体側から送信された電力
を一旦充電し,これを電源としてデータの送信動作を行わせるものであることが明
確に示されている。
()発明の効果d
一発明の構成欄には「…従来の方法では伝送が不安定になる場合でも,,
安定に信号伝送を行なうことを可能にし」(甲8の訂正明細書の4頁6行∼7行),
「…能動用モジュールが受電する平均電力が小さい場合でも,信号の送信動作を安
定に司どることが可能になる」(同4頁14行∼15行)とし,また,発明の効果欄
には「…非接触伝送回路系の無電源側のモジュールに蓄電機器を備え,その充電,
状態を判定した伝送系全体を所定のインターバルで間欠的に動作させ得るようにし
た本発明の構成によって,拙悪な設置条件下においても安定に動作させ得るので,
その適応範囲が大幅に増大する」(同10頁末行∼11頁3行)と記載されている。
二この記載は,本件発明2の構成を採用することにより,信号の送信動作
の安定性が向上することを記載したものである。
()まとめe
上記本件明細書2の記載からすると,本件発明2は,小型,軽量化のために,デ
ータ送信を,それ自体に蓄積した電荷のみによって安定的に電力を供給することが
できる電源を省略して,運動体側が固定体側から継続的に電磁波を受信し続ける発
明ではなく,運動体側に蓄電池を持たせ,受信電力を一旦蓄電した上で動作するこ
とにより通信の安定性を確保することを主眼とする技術に属するものである。
したがって,構成要件Qにいう「蓄電機器」とは,データ信号送信動作を行うた
めの主電源を意味すると解すべきであり,運動体側が固定体側から継続的に電磁波
を受信し,整流平滑回路により直流電圧が供給されてデータ送信を行う場合を含ま
ないことは明らかである。
(イ)充足
同(イ)は否認する。
対象カード中の「整流平滑回路」のコンデンサは,対象リーダ/ライタから絶え
「」間なく受け取る電磁波を整流して送信される交流の電磁波を直流にする整流回路
により得られた直流を平滑化する「平滑回路」であり,本件明細書2の「整流平滑
回路6」(甲8の6頁12行)に相当するものであって,動作を行うための「蓄電機
器7」(同6頁13行)に該当しない。
()争点6(構成要件R1の充足)6
(原告らの主張)
ア特許請求の範囲の解釈
前記()イ(原告らの主張)(イ)のとおり,別紙3の構成qの対象カード内に配置さ5
れた整流平滑回路のコンデンサは,構成要件Qの「蓄電機器」に該当するから,構
成要件R1にいう「その充電状態を判定し」とは,整流平滑回路のコンデンサの充
電状態を判定することを意味する。
イ充足
別紙3の構成rのとおり,対象製品は,対象カードの整流平滑回路のコンデンサ
の電圧が2.8Vになった場合に作動するように構成されているから,構成要件R
1の「その充電状態を判定し」を充足する。
(被告らの主張)
ア特許請求の範囲の解釈
原告らの主張アは否認する。
イ充足
同イは否認する。
対象カードの整流平滑回路のコンデンサは「蓄電機器」に該当しないから,そ,
のコンデンサの電圧を判定しても「蓄電機器」の「充電状態を判定」することに,
はならない。
()争点7(構成要件R2の充足)7
ア争いのない事実
後記イ及びウ以外の部分の充足は,当事者間に争いがない。
イ争点7−1「これを電源として」
前記()(争点5(構成要件Qの充足))と同じ。5
ウ争点7−2「間欠的に」
(原告らの主張)
(ア)特許請求の範囲の解釈
a意義
構成要件R2にいう「間欠的に」とは「送信の一過程において,送信と非送信,
状態が交互に存在する状態」を意味する。
「間欠的」な送信は,非接触データ通信においては通常採用される構成であり,
特別の構成を意味するものではない。
b根拠
()特許請求の範囲a
後記被告らの主張(ア)b()は否認する。a
本件特許2の出願当時,非接触でかつ相対的に移動する運動体側と固定体側の一
方に電力がない構成において,他方から電力を送信して互いにデータ通信を行う装
置あるいはシステムは皆無に近かった。このような状態で「送信の一過程におい,
て,送信と非送信状態が交互に存在する状態」は,当業者にとって公知又は周知の
ものではなかったから「間欠的に」の文言を加える必要があったものである。,
()本件発明2の目的b
同(ア)b()一は認め,二は否認する。b
()本件発明2の効果c
同(ア)b()一は認め,二は否認する。c
(イ)充足
a対象カードは,対象リーダ/ライタとの間で相互応答的にデータ通信を行
っており,送信の一過程において,送信と非送信状態が交互に存在する。
bしたがって,被告カードの構成は,構成要件R2の「間欠的に」の要件を
充足する。
(被告らの主張)
(ア)特許請求の範囲の解釈
a意義
原告らの主張(ア)aは争う。
構成要件R2にいう「間欠的に」とは,充電時間と放電時間とが一対となって,
所定のインターバルで繰り返される蓄電機器の放電時間ごとに送信動作を行うこと
を意味する。
b根拠
()特許請求の範囲a
このように解しないと「タイミング」の他に敢えて「間欠的に」という文言を,
加えた意味がなくなってしまう。
()本件発明2の目的b
一本件発明2の目的は「…双方の距離がある程度大きい場合とか,周囲,
の設置環境条件などのために伝送効率が悪くなる場合,あるいは非接触で供給する
送信電力を大きくできない場合などにおいても,信号の伝送を安定で効率良く…行
える」(【発明の目的】)ことにある。
二この目的は,信号の伝送を安定で効率よく行えるだけの電荷を蓄電機器
に一旦蓄電した後,これを放電してデータ送信を行うことによって実現されるもの
である。
()本件発明2の効果c
一本件発明2の効果は「…非接触伝送回路系の無電源側のモジュールに,
蓄電機器を備え,その充電状態を判定した伝送系全体を所定のインターバルで間欠
的に動作させ得るようにした本発明の構成によって,拙悪な設置条件下においても
安定に動作させ得るので,その適応範囲が大幅に増大する」(【発明の効果】)とい
うものである。
二同記載には,蓄電機器の充電状態を判定し,データ送信を含む伝送系全
体を所定のインターバルで間欠的に動作させることが示されている。
(イ)充足
同(イ)は否認する。
対象カードは,整流平滑回路のコンデンサの電圧が一定値以上になった時に,論
理回路の動作が可能となるものであり,対象リーダ/ライタへのデータ信号の送信
は,コンデンサの充放電のタイミングに関わらず行われるものであって,充電と放
電のタイミングで間欠的にデータ信号を送信するものではない。
()争点8(構成要件Tの充足)8
ア争点8−1「互いに対向した状態を検知する検出回路を備えることによっ
て」
(原告らの主張)
(ア)特許請求の範囲の解釈
a意義
「互いに対向した状態を検知する検出回路」とは,①運動体側と固定体側の双方
に存在し(両者が同一の構成である必要はない。),②それぞれにおいて運動体側と
固定体側の対向を検知したことに基づき,③蓄電機器に対する充電の時間やデータ
送信の送信動作に係わる回路の駆動時間などのタイミングを司る回路を意味する。
④対向の検知の方法は,物理的に1つの手段が2つの機能を兼ねることも排除さ
れないから,充電機器の充電判定動作でも足りる。
b根拠
()特許請求の範囲a
後記被告らの主張(ア)b()一は認め,二及び三は否認する。a
対向の検知の方法は,物理的に同一の手段が機能的に異なる2つの手段を兼ねる
ことを排除していない。
()実施例3b
同(ア)b()は認める。b
実施例3は,飽くまで実施例にすぎず,本件発明2の技術的範囲に含まれるもの
が実施例3の構成に限定されるものではない。
()出願当時の公知技術(乙13発明)c
同(ア)b()一は認め,二及び三は否認する。c
()出願経過d
同(ア)b()二は否認する。d
本件発明2の対向状態検知手段は,固定側と移動側のそれぞれに備わっていなく
てはならないところ,乙13発明は,子局側のみの電圧判定を開示しているもので
ある。
原告らは,第2答弁書(乙19)において,乙13発明では,固定側に対向状態検
知手段が欠けていることを指摘したにすぎない。
(イ)充足
a対象製品の構成
対象製品は,被告ソニーのホームページ(甲11の5頁)の「3.高速処理」と題
された図中で対象リーダ/ライタと対象カードが接近した時点で双方において検,「
出」に始まる一連の動作が開始されることに示されるとおり,①対象カードと対象
リーダ/ライタの双方が対向を検知する回路を有し,②それぞれにおいて対向を検
知したことの信号に基づき,③その後の「読み出し「書き込み」といったデータ」
送信の送信回路の駆動時間などのタイミングが司られている。
b充足
よって,対象製品は,構成要件Tを充足する。
(被告らの主張)
(ア)特許請求の範囲の解釈
a意義
原告らの主張(ア)aは,すべて争う。
「互いに対向した状態を検知する検出回路」とは,固定体側で,運動体側からの
「信号レベル」を検知することにより両モジュールが対向状態にあるか否かを判断
することを意味する。また,同検出回路は「コンデンサの電圧が所定の電圧を超,
えたことを検出する回路」とは別な回路であり,互いに対向した状態を検知する検
出動作は,充電機器の充電判定動作とは別なものでなければならない。
b根拠
()特許請求の範囲a
一本件発明2の特許請求の範囲の記載は①充電状態を判定する動作(構,「」
成要件R1)と②モジュールの各伝送部が互いに対向した状態を検知する動作(構「」
成要件T)の2つの別の動作が行われることを規定している。
二構成要件Tの「検知信号」は,これに基づき「前記蓄電機器に対する充
電の時間」や「前記データ信号の送信動作に係わる回路の駆動時間」などのタイミ
ングを司るための信号であるから,充電時間と放電時間のタイミング(デューティ
ー比)を司るために必要な情報を含む信号であると解される。
三したがって,②の「モジュールの各伝送部が互いに対向した状態を検知
する」動作は,運動体側の蓄電機器の「充電状態を判定」することとは別の動作で
あると解するべきである。
()実施例3b
本件明細書2のうち「互いに対向した状態を検知する」ことを説明しているの,
は,実施例3のみである。
実施例3には「殊に運動体側が高速度で移動するような場合には,両者が対向,
した瞬間に信号の授受を行なわなければならない「このような場合には,両者。」,
,,が対向した瞬間を検知しこの検知信号にもとづいて動作する内部回路などを用い
前記蓄電機器に対する充電時間および当該信号の送信動作に係わる回路の駆動時間
などに関するタイミングを得るようにする」と記載されている。。
そして,その実施例として「受動用モジュールAから能動用モジュールBに対,
して伝送される電力用搬送波f1」の強度を能動用モジュールBの「f1強度検出
回路24」において検出する発明を開示している(受動用モジュールAの「f2強
度検出回路」も同様である。)。
()出願当時の公知技術(乙13発明)c
,「」「」,一後記乙13発明は移動可能な子局側が親局側と近接した時に
「親局側」から送信された電磁波を整流して得た直流電荷をコンデンサ32に充電
し,充電完了判定後,これを「子局側」の装置に給電することで動作可能となるも
のである。
二構成要件R1の「充電状態を判定」する構成と構成要件Tの「各伝送部
が互いに対向した状態を検知する検出回路」とを兼ねるとすると,本件発明2は,
乙13発明と実質的に異ならないものとなる。
三したがって,本件発明2が無効ではないことを前提とすると,少なくと
も,構成要件R1の「充電状態を判定」する構成と構成要件Tの「各伝送部が互い
に対向した状態を検知する検出回路」は,別の構成及び動作と理解しなければなら
ない。
()出願経過d
一前提事実()イ(イ)d及びeのとおり,原告らは,第2回訂正(乙20)に2
おいて,構成要件Tを追加し,第2答弁書(乙19)の4頁下から6行∼5頁8行の
とおり主張し,同無効審判事件の審決も「甲各号証には『前記モジュールの各,,
伝送部が互いに対向した状態を検知する検出回路を備える』ことは記載されておら
ず『その検知信号に基づき前記蓄電機器に対する充電の時間や前記データ信号の,
送信動作に係わる回路の駆動時間などのタイミングを司る』ことも記載されていな
い」と認定した。。
二したがって,原告らは,出願経過において,本件発明2の「検出回路」
は,乙13発明のようなコンデンサの電圧が所定の電圧を超えたことを検出する回
路は含まないと主張していたものであるから「コンデンサの電圧が所定の電圧を,
超えたことを検出する回路」が構成要件Tの「検出回路」に該当するとか「運動,
体側の電力レベルの状態を検出する」という構成さえあれば「固定体側でも所定,
の信号レベルを検出」するという構成を備えなくても構成要件Tを充足すると解す
ることは到底できないし,出願経過禁反言によっても許されない。
(イ)充足
a対象製品の構成
同(イ)aは否認する。
対象製品は,対象カード内のコンデンサの電圧が所定の電圧を超えたことを検出
しているにすぎない。
b充足
同(イ)bは否認する。
イ争点8−2「その検知信号に基づき前記蓄電機器に対する充電の時間や前
記データ信号の送信動作に係わる回路の駆動時間などのタイミングを司る」
(原告らの主張)
前記ア(原告らの主張)のとおり,対象製品は「互いに対向した状態を検知する,
検出回路」を有し「その検知信号に基づき」前記蓄電機器に対する充電の時間や,
前記データ信号の送信動作に係わる回路の駆動時間などのタイミングを司っている
から,構成要件Tのうち「その検知信号に基づき前記蓄電機器に対する充電の時間
や前記データ信号の送信動作に係わる回路の駆動時間などのタイミングを司る」を
充足する。
(被告らの主張)
前記ア(被告らの主張)のとおり,対象製品は,対象カード内のコンデンサの電圧
が所定の電圧を超えたことを検出するにすぎないから,構成要件Tのうち「その検
知信号に基づき前記蓄電機器に対する充電の時間や前記データ信号の送信動作に係
わる回路の駆動時間などのタイミングを司る」の点も充足しない。
()争点9(本件特許1の無効理由)9
ア争点9−1(乙14発明を主引用例とする進歩性の欠如)
(被告らの主張)
(ア)乙14発明
特開昭56−140486号公報(乙14)には「物体ないしは生物の自動識別,
装置の応答信号の発生の方法および装置に関して次の発明が開示されている(以」,
下「乙14発明」という。)。
A’定置された質問装置1と,物体又は生物に固定された応答装置2との間で,
離間して交信する。
B’質問装置1のアンテナと応答装置2のアンテナとの間で,エネルギ波である
電磁波が非接触で伝送される。
C’質問装置1は,エネルギ送信器11.1と開放コード送信器15を備え,そ
れぞれエネルギ波3.1,3.2を送出する。
また,質問装置1は,標識受信器12.1を備え,エネルギ波3.3を介して応
答装置2からデータを受信する。
D’質問装置1のエネルギ送信器11.1及び開放コード送信器15が,応答装
置2のエネルギ受信器21.1及び開放コード受信器22に向けて,それぞれエネ
ルギ波3.1,3.2を送出する。
また,応答装置2は,エネルギ波3.2を介して送出されて来る開放コードを評
価し,質問装置1に応答信号を送出する処理を行う。
E’質問装置1の標識受信器12.1は,応答装置2からの応答信号を受信する
と,復調器12.2でヘテロダイン信号により復調し,これをデータ処理ユニット
13に送信する。
F’応答装置2は,エネルギ受信器21.1と開放コード受信器22を備え,質
問装置1のエネルギ送信器11.1及び開放コード送信器15から,それぞれエネ
ルギ波3.1,3.2を受信する。
また,応答搬送信号は,応答装置2の標識変調器27.1で,標識記憶装置26
から読み出された標識によって変調され,標識送信器27.2から応答信号(エネ
ルギ波3.3)として放射される。
G’百貨店や貸出図書館での盗難防止に用いた例として,応答装置2のエネルギ
受信器21.1が質問装置1からのエネルギを受信できる範囲に近接すると,警報
が発せられる処理が実行されている。
H’応答装置2が受信したエネルギ波が応答搬送信号とエネルギ信号に分離され
ると,このエネルギ信号は応答装置2のその他のユニットのための電源電圧に変換
されて給電される。
I’応答装置2の標識送信器27.2は,エネルギ受信器21.1が受信したエ
ネルギで動作し,標識記憶装置26から読み出した標識によって変調させた応答信
号を放射する。
K’応答装置2のエネルギ受信器21.1は,質問装置1と接近した時にエネル
ギ波を受信して電源用電力を形成することから,受信したエネルギ波により動作に
必要な電力を得ている。
M’応答装置と質問装置からなる自動識別装置。
(イ)一致点及び相違点
a相違点1(構成要件J)
乙14発明には,本件発明1の構成要件Jの構成の開示がない。
b相違点2(構成要件L)
乙14発明には,本件発明1の構成要件Lの構成の開示がない。
c一致点
乙14発明と本件発明1とは,その余において一致している。
d相違点3(電磁ヘッド)
()後記原告らの主張(イ)dは否認する。a
()乙14発明の「アンテナ」は,遠隔通信に用いられるものに限定されてb
いない。
また,本件発明1の電磁結合方式で電磁波が送信される無線通信において,移動
体側が通信中に移動することも可能である構成は周知であるから,移動体側が通信
,,。中に移動することが可能であるか否かは単なる設計事項であり相違点ではない
(ウ)容易想到性
a乙23発明
特開昭60−84030号公報(乙23)には「移動通信における送信出力制御,
方式」に関して,次の発明が開示されている(以下「乙23発明」という。)。
J’受信局は,受信レベルを測定すると,この測定値に基づく制御量を生成して
制御データを形成し,これを送信局に送信する。送信局は送信された制御量によっ
て送信局の送信出力を制御する。
,,基地局11の送信機12の出力は移動局15の空中線16により受信された後
受信機18に入力される。受信機18の検波出力をレベル測定回路19で測定し,
その出力を比較回路20で基準レベル発生回路21の出力と比較し,その差を検出
した後,その差の値を変調回路26で,音声入力端子27より入力した音声と重畳
して搬送波を変調した後,相手無線基地局へ送信される。
L’基地局の制御回路25は,受信機24の復調出力に応じて基地局の送信機1
2の送信出力を変化させて,移動局15の受信レベルに応じて基地局11の送信出
力が変化するよう制御する。
b相違点1(構成要件J)
()「電力変化量の信号」a
’「」,「」。上記aのJにいう制御量は本件発明1の受信電力変化量に該当する
()「変調回路」b
’,「」,上記aのJのとおり乙23発明の変調回路26で上記制御量は変調され
送信局に送信される。
()まとめc
したがって,乙23発明には,本件発明1の構成要件Jが実質的に開示されてい
る。
()原告らは,後記原告らの主張(ウ)b()のとおり主張するが,電磁波の受db
信により受信電力が生じることは技術的に自明である。そして,本件発明1も乙2
3発明も,どちらも電磁波を受信し,受信した電磁波の電力変化量に応じた情報を
固定局へ送信する構成である点で一致しており,本件発明1はその電磁波の大きさ
「」,「」。を受信電力と表現し乙23発明は受信レベルと表現しているにすぎない
c相違点2(構成要件L)
()上記aのL’によれば,乙23発明には,本件発明1の構成要件Lが実a
質的に開示されている。
()原告らは,後記原告らの主張(ウ)c()のとおり主張するが,乙23発明bb
が基地局のみで送信出力制御を行う場合を含むことに変わりはないから,原告らの
上記主張は理由がない。
d容易想到性
()技術分野の同一性a
一本件発明1は,電磁波を媒体として非接触で伝送させる装置に関する技
術である。
二乙14発明は,質問装置と応答装置からなる装置を用いた物体又は生物
の自動識別に関する技術であり,本件発明1と技術分野は同一である。
三乙23発明も,移動局と基地局とで無線通信を行う移動通信における送
信出力制御方式であり,乙14発明と技術分野は同一である。
四原告らは,後記原告らの主張(ウ)d()二のとおり主張するが,乙14発a
明には,発明の適用分野として様々な非接触通信技術が例示されており,通常の電
波を用いた遠隔通信も,電磁結合方式を用いた近接通信も存在している。
()課題の自明性b
一離間して配置された装置間の無線通信においては,その離間距離に比例
して伝送損失が増加するために受信側の受信レベルが減衰してしまうため,送信側
からの送信出力を増大させる必要があること,距離に応じてエネルギ送信のための
出力を制御する必要があることは,移動体通信技術に関する当業者にとって技術常
識である。
二乙14発明と乙23発明とは,課題が共通する。
三原告らは,後記原告らの主張(ウ)d()二のとおり主張するが,乙14発b
,。明の課題は受信エネルギ不足が通信装置の確実な動作を妨げるというものである
,「」,また乙23発明の課題である周波数効率が低下するという問題点の回避も
通信状態が良い状況下において,送信出力を必要以上に高くしていることにより,
移動機から送信された電波が,通信の相手となる無線基地局だけでなく同一周波数
を使用する別の無線基地局においても受信されてしまうという課題があるため,移
動機側においても送信出力の制御を行う必要があるという課題にすぎず,結局,送
信出力制御を行う必要があるということである。
したがって,本件発明1と乙14発明及び乙23発明とは,送信側からの送信出
力を制御するという課題を共通にしている。
()組合せの容易性c
以上のとおり,乙14発明と乙23発明とは,技術分野,課題が共通するから,
乙14発明と乙23発明を組み合わせて,本件発明1の構成とすることは,容易に
想到することができたことである。
(エ)まとめ
したがって,本件発明1は,進歩性の要件を備えておらず,無効とされるべきで
あるから(特許法123条1項2号,29条2項),原告らは,その権利を行使する
ことができない。
(原告らの主張)
(ア)乙14発明
被告らの主張(ア)は認める。
(イ)一致点と相違点
a相違点1(構成要件J)
同(イ)aは認める。
b相違点2(構成要件L)
同(イ)bは認める。
c一致点
同(イ)cのうち,乙14発明と本件発明1とは,本件発明1の構成要件A,C,
F,H,I及びMの点並びに構成要件B,D,E,G及びKのうち電磁ヘッドの点
を除く点で一致することは認め,その余は否認する。
d相違点3(電磁ヘッド)
乙14発明は「電磁ヘッド」を有しない点でも,本件発明1と相違する。,
すなわち,電磁結合を利用して電磁波を送信する場合は「アンテナ」と「電磁,
」,「」「」ヘッドは同義であるが乙14発明の自動識別装置のエネルギ波送信方法
は,通常の電波を送信する方法であるから,乙14発明の「アンテナ」は「電磁,
ヘッド」を意味しない。
(ウ)容易想到性
a乙23発明
同(ウ)aは認める。
b相違点1(構成要件J)
()同(ウ)b()ないし()は否認する。aac
()乙23発明の受信局は,送信局から電力供給を受けて動作するものではb
,,。,ないから乙23発明においては受信電力というものが存在しないしたがって
乙23発明には「受信電力変化量の信号」は開示されていない。,
c相違点2(構成要件L)
()同(ウ)c()は否認する。aa
()乙23発明は,遠隔通信の基地局と移動局のいずれか又は双方においてb
送信出力制御がされるものであるから,固定側装置においてのみ送信出力制御がさ
れる本件発明1とは異なる。
d容易想到性
()技術分野の同一性a
一被告らの主張(ウ)d()一ないし三は否認する。a
二本件発明1は,①固定部と移動部の電磁ヘッドが比較的近接した距離で
対向して配置され,②電磁結合によって電力を伝送するとともに,情報信号を伝送
するものである。
これに対し,乙14発明は,①質問装置と応答装置は遠隔して配置され,②電磁
結合を利用せず,通常の電波として情報信号を伝送するものである。
また,乙23発明は,①遠距離に位置する無線局間で,②電力伝送を伴わず,電
,。磁結合を利用せず通常の電波を使用して行う通信の制御方法に関する発明である
したがって,本件発明1,乙14発明及び乙23発明は,技術分野を異にする。
()課題の自明性b
一同(ウ)d()一のうち,離間して配置された装置間の無線通信において,b
その離間距離に比例して受信側の受信レベルが減衰することが技術常識であること
は認め,その余は否認する。
同二は否認する。
二乙14発明は,応答装置へのエネルギ供給が不十分な場合に,応答装置
を確実に動作させる方法の必要性を指摘するものであり,質問装置からの十分なエ
ネルギー供給をする必要性を指摘するものではない。
,,乙23発明の課題は周波数効率が低下するという問題点を回避することにあり
無線ゾーン構成が採られた移動通信システムに特有の問題点であって,本件発明1
の課題とは無関係である。
したがって,本件発明1と乙14発明及び乙23発明とは,課題を異にする。
()組合せの容易性c
同(ウ)d()は否認する。c
(エ)まとめ
同(エ)は否認する。
イ争点9−2(乙13発明を主引用例とする進歩性の欠如)
(被告らの主張)
(ア)乙13発明
特開昭57−32144号公報(乙13)には「エネルギ/データ送受信装置」,
に関して,次の発明が開示されている(以下「乙13発明」という。)。
A’親局側の電子装置と子局側の電子装置との間で,離間して交信する。’
B’親局側の電子装置と子局側の電子装置は,第1及び第2の誘導コイルの間’
で電磁波を非接触で伝送する。
C’親局側は,電源エネルギを子局側に送信するとともに,子局側が送信する’
データを受信する。
D’親局側のデータ解析装置は,データ収集開始スイッチがオンされると,子’
局側のデータ収集装置の電源を充電開始するとともに,子局側のデータ収集装置に
対して「データ収集コマンド」又は「データ送信コマンド」を送出し,これを受け
て,子局側のデータ収集装置は,データの収集又は送信を開始する。
E’親局側は,第1の誘導コイルにより受信された受信信号を復調する第1の’
復調手段を備える。
また,CPU41が外部回路に相当する。
G’子局側のデータ収集装置の誘電コイル22,24と,親局側のデータ解析’
装置の誘電コイル48とが充分近接され,電磁的に充分に結合されている状態にお
いて電源エネルギの授受が行われる。
H’子局側のデータ収集装置は,受信信号を整流してコンデンサ等に充電する’
充電回路を備え,そのコンデンサに充電された電源は,子局側のデータ収集装置の
すべての部分の電源として使用される。
I’子局側のデータ収集装置は,充電判定後に,データ収集を行う。’
K’親局側と子局側が近接した時に,エネルギの供給がされる。’
M’エネルギ/データ送受信装置’
(イ)一致点及び相違点
a相違点1(構成要件J)
乙13発明には,本件発明1の構成要件Jの構成の開示がない。
b相違点2(構成要件L)
乙13発明には,本件発明1の構成要件Lの構成の開示がない。
c一致点
乙13発明と本件発明1とは,その余において一致している。
d相違点3(移動側装置)
後記原告らの主張(イ)dは否認する。
本件発明1における「移動側装置」は,通信中に固定側装置との距離を変化させ
得るものに限定されない。
仮に,本件発明1における移動側装置が通信中に移動可能なものに限定されると
しても,信号送受信装置の分野において,少なくとも一方の送受信体が通信中に移
動可能である構成は,周知・慣用技術である(乙43∼46)。したがって,当該構
成を採用するか否かは,単なる設計事項であって,実質的な相違とはならない。
(ウ)容易想到性
a乙23発明,相違点1及び相違点2
前記争点9−1(被告らの主張)(ウ)aないしcのとおり。
b容易想到性
()技術分野・課題の同一性a
離間距離に応じて受信側の受信レベルが減衰するため,送信側からの送信出力を
制御する必要があるという本件発明1の課題は,遠隔通信,近接通信において共通
の課題である。
したがって,本件発明1,乙13発明及び乙23発明は,技術分野及び課題を共
通にする。
()組合せの容易性b
以上のとおり,乙13発明と乙23発明とを組み合わせて,本件発明1の構成と
することは,容易に想到することができたことである。
(エ)まとめ
したがって,本件発明1は,進歩性の要件を備えておらず,無効とされるべきで
あるから(特許法123条1項2号,29条2項),原告らは,その権利を行使する
ことができない。
(原告らの主張)
(ア)乙13発明
被告らの主張(ア)は認める。
(イ)一致点と相違点
a相違点1(構成要件J)
同(イ)aは認める。
b相違点2(構成要件L)
同(イ)bは認める。
c一致点
同(イ)cのうち,乙13発明と本件発明1とは,本件発明1の構成要件C及びE
の点並びに構成要件A,B,D,F,G,H,I,K及びMのうち移動側装置の点
を除く点で一致することは認め,その余は否認する。
d相違点3(移動側装置)
乙13発明と本件発明1とは,本件発明1の「移動側装置」の点でも相違する。
乙13発明の子局側の電子装置は,本件発明1の「移動側装置」に相当しない。
すなわち,本件発明1の「移動側装置」は,通信中に固定側装置との距離を変化さ
せ得るものでなければならない。ところが,乙13発明は,コネクタによる結合の
代用として無線通信を利用する発明であり,通信距離については,固定されている
ことが想定されている。
(ウ)容易想到性
a乙23発明,相違点1及び相違点2
前記争点9−1(原告らの主張)(ウ)aないしcのとおり。
b容易想到性
()技術分野・課題の同一性a
被告らの主張(ウ)b()は否認する。a
乙13発明は,無結線で通信を行うことを目的としており,そこでの無線通信は
コネクタによる結合の代用であるから,通信中はいずれの装置も固定されているこ
とが想定されており,本件発明1のように通信距離が変化する状況下で電力及び信
号の伝達を確実に行うことは課題とされておらず,送信局の出力を制御する必要性
は全く存在しない。
したがって,乙13発明と乙23発明とは,技術分野及び課題を異にする。
()組合せの容易性b
同(ウ)b()は否認する。b
(エ)まとめ
同(エ)は否認する。
ウ争点9−3(新規性の欠如(原告らの特許請求の範囲の解釈による場合))
(被告らの主張)
(ア)仮に,原告らが主張するように,構成要件J及びLにおける「受信電力変
化量の信号「電力変化量の信号に基づいて…送信出力を制御」に,相互誘導作用」
に基づく2つのコイル間の電磁結合を含むとすると,相互誘導作用に基づき2つの
コイル間に電磁結合が発生することは当然であるから,乙13発明及び乙14発明
も,これらの構成を備えている。
(イ)そうすると,乙13発明と本件発明1,乙14発明と本件発明1とは,す
べての点で一致し,相違点を有しないことになる。
(ウ)よって,本件発明1には,新規性欠如の無効理由があり(特許法123条
1項2号,29条1項3号),原告らは,その権利を行使することができない。
(原告らの主張)
被告らの主張は否認する。
()争点10(本件特許2の無効理由)10
ア争点10−1(記載要件不備(昭和60年特許法36条3項,4項違反))
(ア)「充電状態を判定」する構成及び「対向した状態を検知する検出回路」
(被告らの主張)
a本件発明2では,構成要件R1「充電状態を判定」する動作と構成要件T
「対向した状態を検知する」動作の2つの動作が行われることが規定されている。
bしかし,本件明細書2の発明の詳細な説明には,この動作の一方を実行す
る信号伝送装置について記載があるだけで,2つの動作を共に行う信号伝送装置に
ついての記載がない。
すなわち,本件明細書2の実施例1は,充電状態を判定する構成を,実施例2は
タイマー回路のみを含む構成を,実施例3は,充電状態を判定する構成の代わりに
対向状態を検知する検出回路のみを含む構成を記載しているが,その他の実施例の
記載はない。
c()本件特許2の特許請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明に記載したa
発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではないから,昭和60
年特許法36条4項の規定の要件を充たしていない。
()また,本件明細書2は,上記2つの動作を共に行う構成について,何らb
開示がなく,出願当時の技術常識を参酌しても,本件発明2をどのようにすれば実
施可能であるのか理解することができないから,昭和60年特許法36条3項の要
件を充たしていない。
したがって,本件特許2は,昭和60年特許法123条1項3号の規定により無
効とされるべきである。
d後記原告らの主張bは否認する。
実施例1と実施例3とを組み合わせると,運動体側が充電状態判定回路と対向状
態検出回路を備えることになるとしても,両回路がどのように協調動作するのか,
どのような場合にトリガ回路を導通させるのかは,当業者に全く理解できない。
したがって,実施例1と実施例3とを組み合わせた発明が開示又は開示されてい
るに等しいと認めることは到底できない。
(原告らの主張)
a被告らの主張a及びbは認め,cは否認する。
b実施例1と実施例3を組み合わせ,移動側において充電状態を行い,固定
側と移動側のそれぞれで対向検知を行うとの構成を採ることは,当業者にとって容
易であり,実施例1と実施例3を組み合わせた発明が発明の詳細な説明に開示され
ている。
したがって,本件特許2は,昭和60年特許法36条3項,4項の要件を充たし
ている。
(イ)「送信動作に係わる回路の駆動時間などのタイミング」
(被告らの主張)
a構成要件Tは「検知信号に基づき前記蓄電機器に対する充電の時間や前,
記データ信号の送信動作に係わる回路の駆動時間などのタイミングを司る」と「な
ど」を含んで規定している。
b()しかし,構成要件Tに「蓄電機器に対する充電の時間「データ信号a,」
の送信動作に係わる回路の駆動時間」の他にどのような「タイミング」が含まれる
のかは不明であるから,昭和60年特許法36条4項に違反する。
()また,本件明細書2においても,これらの他の「タイミング」を司る構b
成が開示されていないから,昭和60年特許法36条3項に違反する。
c後記原告らの主張bは否認する。
「データ信号の送信動作に係わる回路の駆動時間」を司るためには,データ信号
の「送信の終了」のための処理が含まれるから,原告ら主張の「送信の終了に通常
要求されるステップ」は「データ信号の送信動作に係わる回路の駆動時間」に含,
まれる。原告らは「など」に含まれるものを何ら指摘していない。,
(原告らの主張)
a被告らの主張bは否認する。
b構成要件Tの「タイミング」に「蓄電機器に対する充電の時間「デー,」
タ信号の送信動作に係わる回路の駆動時間」の他に「送信の終了に通常要求され,
るステップ」を含まれることは,当業者に自明である。
(ウ)「充電の時間や…送信動作に係わる回路の駆動時間」
(被告らの主張)
a構成要件Tには「検知信号に基づき前記蓄電機器に対する充電の時間や,
前記データ信号の送信動作に係わる回路の駆動時間などのタイミングを司る」と記
載され「蓄電機器に対する充電の時間」と「データ信号の送信動作に係わる回路,
の駆動時間」が「や」で結ばれている。
したがって,本件発明2は「蓄電機器に対する充電の時間」と「データ信号の,
送信動作に係わる回路の駆動時間」のどちらか一方のみのタイミングを司る構成を
含むものである。
bしかし本件明細書2においては蓄電機器に対する充電の時間とデ,,「」「
ータ信号の送信動作に係わる回路の駆動時間」の両方を決定する方法について記載
するだけであり,いずれか一方のみを決定する方法についての開示がない。
cしたがって,本件発明2は,昭和60年特許法36条3項及び4項に違反
する。
d後記原告らの主張dは否認する。
,,両方を決定する方法についてのみ開示されている以上これを勝手に読み替えて
いずれか一方のみを決定する方法が開示されていると解釈することはできない。
(原告らの主張)
a被告らの主張aは認める。
b同bのうち,本件明細書2に,実施例2及び3に両方を決定する方法が記
載されていることは認め,どちらか一方のみを決定する方法についての開示がない
ことは否認する。
c同cは否認する。
d発明の詳細な説明において,両方を決定する方法が開示され,また,双方
を決定しなければ発明の目的を達成できないといった記載もない以上,どちらか一
方のみを決定する方法も,本件明細書2に接する当業者にとって自明である。
イ争点10−2(乙13発明を主引用例とする進歩性の欠如)
(被告らの主張)
(ア)乙13発明
特開昭57−32144号公報(乙13)には「エネルギ/データ送受信装置」,
に関して,次の発明が開示されている。
N’電気回路で構成したデータ収集装置に誘導コイル22(送信用)及び誘導コイ
ル24(受信用)を有する伝送部を備え,同データ解析装置に誘導コイル48を有す
る伝送部を備える。
O’データ解析装置の誘導コイル48とデータ収集装置の誘導コイル22,24
とが互いに近接して両者が電磁的に充分に結合されている状態で,データ信号を,
互いに電磁的に非接触で伝送することができる。
P’データ収集装置の動作に必要な電源エネルギーをデータ解析装置から電磁的
に非接触で伝送する。
Q’前記電源エネルギを受電するデータ収集装置に充電回路を構成するコンデン
サ32を装備して受電電力により充電する。
R1’コンデンサ32の電圧が所定のレベルに達したか否かを判定することで充
電状態を判定する。
R2’データ収集装置はコンデンサ32を電源として所要のタイミングで間欠的
にデータ解析装置にデータ信号の送信動作を行う。
U’エネルギ/データ送受信装置
(イ)一致点及び相違点
a相違点1(構成要件S)
()乙13発明には,構成要件Sの構成の明示的開示がない。a
,,,,,()しかし構成要件Sは周知・慣用技術であるから(乙222628b
29,30,31),この点は,実質的相違点ではない。
b相違点2(構成要件T)
乙13発明には,構成要件Tの構成の明示的開示がない。
c一致点
乙13発明と本件発明2とは,その余において一致している。
d相違点3(構成要件N)
()後記原告らの主張(イ)d()は否認し,()は認める。aab
()本件発明2における「運動体」は「固定体」に対して相対的に移動可b,
能な装置を意味するにすぎず,通信中に移動可能なものに限定されない。
原告ら主張のとおり,乙13発明の「データ収集装置10」は持ち運び自由なも
,「」,「」。のであるから同データ収集装置10は本件発明2の運動体に相当する
()仮に,通信中に移動可能であることを要するとしても,信号送受信装置c
の分野において,少なくとも一方の送受信体が通信中に移動可能である構成は,周
知・慣用技術であるから(乙43∼45等),当該構成を採用するか否かは単なる設
計事項であって,実質的な相違点ではない。
(ウ)容易想到性
a乙32発明
特開昭50−11614号公報(乙32)には,車両と地上設備との間において各
種情報の交信を行う車両通信方式に関する技術について,次の発明が開示されてい
る。
T’車載通信装置のループアンテナ7が,地上設備のループアンテナ1の磁束分
布のレベルを検出することにより,地上設備のループアンテナ1上に到来したこと
を検出して,車両が通信可能地域に到達したことを判別する。この判別に基づき,
車両は信号を送信することになり,車載通信装置は路側通信装置15と交信を開始
する。
b相違点2(構成要件T)の開示
()「伝送部」a
乙32発明の構成T’の「車載通信装置のループアンテナ7」が,本件発明2の
「運動体側に装着される能動用モジュール」の「伝送部」に「地上設備のループ,
アンテナ1」が,本件発明2の「固定体側の受動用モジュール」の「伝送部」にそ
れぞれ相当する。
()「互いに対向した状態を検知する検出回路」b
乙32発明の構成T’の「車載通信装置のループアンテナ7が,地上設備のルー
プアンテナ1の磁束分布のレベルを検出することにより,地上設備のループアンテ
ナ1上に到来したことを検出して,車両が通信可能地域に到達したことを判別す
る」という構成は,構成要件Tの運動体側及び固定体側の「モジュールの各伝送。
部が互いに対向した状態を検知する検出回路」に相当する。
()「タイミングを司る」c
’「,,乙32発明の構成Tのこの判別に基づき車両は信号を送信することになり
車載通信装置は路側通信装置15と交信を開始する」という構成は,構成要件T。
の対向状態検出回路からの「検知信号に基づき…データ信号の送信動作に係わる回
路の駆動時間のタイミングを司る」構成に相当する。
()したがって,乙32発明には,本件発明2の構成要件Tの構成が開示さd
れている。
c容易想到性
()技術分野の同一性a
一乙13発明は,持ち運び自由な電子装置間における電磁結合を用いた非
接触通信技術に関するものであり,固定された装置間の接触技術に関するものでは
ないから,無線通信に関する技術である。
二乙32発明には,運動体と固定体との間の無線通信技術に関する発明が
開示されており,同じ技術分野に属する。独立した電源を備える構成とするか,無
電源の構成とするかは,技術分野を異ならせるような相違点ではない。
()課題の自明性b
運動体と固定体との間の無線通信技術に関する技術において,運動体側と固定体
側との対向状態,すなわち,送信側と受信側の位置や距離に応じて受信側での受信
レベルが変動し,通信が不安定となることは,当業者にとって自明の課題である。
()組合せの容易性c
,,,以上のとおり乙13発明と乙32発明は技術分野及び課題を共通にするから
乙13発明に乙32発明を組み合わせ,更に周知技術に基づいて構成要件Sの設計
事項を加えて本件発明2の構成に想到することは,当業者にとって容易なことであ
った。
()顕著な効果d
一後記原告らの主張(ウ)c()は否認する。d
二本件発明2の「拙悪な設置条件下においても安定に動作させ得るので,
その適応範囲が大幅に増大」し「良好な条件下においては,従来のこの種の装置,
ではみられなかった伝送距離の飛躍的な増大をもたら」し「回路構成を単純化で,
きると共に動作の安定化をもたらす」という効果は,乙13発明と乙32発明とを
組み合わせた構成から当然に予想された効果である。
原告らが主張する「高速で移動するカードとカード読取装置との安定的な通信」
という効果は,本件明細書2に記載された効果ではない。
(エ)乙33発明を副引用例とする組合せ
a乙33発明
特開昭59−122980号公報(乙33)には,移動通信における送信出力制御
装置に関する技術について,次の発明が開示されている。
T’応答装置1のレベル検出器24は,応答装置における質問信号2の受信レ’
ベルを検出する。この検出されたレベルが所定値以上の場合,送信動作に関係する
スイッチ回路25を駆動させる。
b相違点2(構成要件T)の開示
乙33発明の構成T’は,本件発明2の構成要件Tに相当する。’
c組合せの容易想到
乙13発明に乙33発明を組み合わせて,本件発明2の構成に想到することは,
当業者にとって容易なことであった。
(オ)まとめ
したがって,本件発明2は,進歩性の要件を備えておらず,無効とされるべきで
あるから(特許法123条1項2号,29条2項),原告らは,その権利を行使する
ことができない。
(原告らの主張)
(ア)乙13発明
被告らの主張(ア)は認める。
(イ)一致点及び相違点
a相違点1(構成要件S)
同(イ)aは認める。
b相違点2(構成要件T)
同(イ)bは認める。
c一致点
同(イ)cのうち,乙13発明が,本件発明2の構成要件Nの構成を備えている点
は否認し,その余は認める。
d相違点3(構成要件N)
()乙13発明の「データ収集装置」は,構成要件Nの「運動体」に相当しa
ないから,この点でも相違する。
()乙13発明には「無結線で充電と情報交換が行なえるので,持ち運びb,
自由な電子装置を実現でき」(6頁右下欄13行∼14行)と記載されているが,結
線する必要がないため容易に持ち運んでセッティングできることを述べるにすぎ
ず,電子機器が通信中に移動可能であることは開示されていない。
(ウ)容易想到性
a乙32発明
被告らの主張(ウ)aは認める。
b相違点2(構成要件T)の開示
()同(ウ)b()は認め,()は否認し,()は認め,()は否認する。aabcd
()本件発明2の対向検知手段は,運動体側と固定体側の両者に備わっていb
る必要があるが,乙32発明は,移動側における対向検知手段のみ開示するもので
あり,固定側の対向検知手段を何ら開示していない。
c容易想到性
()技術分野の同一性a
一同(ウ)c()一は否認する。a
乙13発明は,固定された装置間の接続技術に関するものであり,運動体と固定
体との間の無線通信技術に関する技術ではない。
二同(ウ)c()二のうち,乙32発明には,運動体と固定体との間の無線通a
信技術に関する発明が開示されている点は認め,その余は否認する。
乙32発明は,ETCのような独立の電源を有する自動車と大型の地上設備との
間の通信技術に関係するものである。
()課題の自明性b
一同(ウ)c()は否認する。b
二(一)乙13発明の課題は,電子装置間の通信等をコネクタに代えて無結
線で行うことであり,運動する装置間の通信の安定化ではない。また,乙13発明
の属する固定された装置間の接続技術という技術分野において,運動する装置間の
通信の安定化は,自明の課題でもない。
(二)乙32発明の課題は,車両と道路等に設置された地上設備との間で,
車両が通信可能地域に到達したことを検出して通信を開始する技術において,車体
後部に磁束を検出するコイルアンテナを取り付けた場合に,正規の交信に加えて,
先方側サイドローブでも通信が開始され,車両の走行速度が速くなった場合に,誤
交信が生ずるとの欠点及び道路側ループアンテナと次のループアンテナの間に高圧
電線等が存在した場合に,その雑音により誤交信が生ずるとの欠点の解消であり,
車両と地上設備との位置や距離に応じて受信レベルが変動し,通信が不安定となる
ことを解消することではない。
(三)したがって,本件発明2,乙13発明及び乙32発明は,課題を異に
する。
()組合せの容易性c
同(ウ)c()は否認する。c
()顕著な効果d
仮に,乙13発明と乙32発明との組合せが一見容易であるとしても,この組合
せにより,高速で移動するカードとカード読取装置との安定的な通信という予想以
上の顕著な効果が得られるから,容易想到ではなかったものである。
(エ)乙33発明を副引用例とする組合せ
a乙33発明
被告らの主張(エ)aは認める。
b構成要件Tの開示
同(エ)bは否認する。
本件発明2における対向検知手段は,運動体側と固定体側の両者に備わっている
ことが必要であるが,乙33発明は移動側における対向検知手段のみを開示するも
のであり,固定側の対向検知手段を何ら開示していない。
c組合せの容易想到
同(エ)cは否認する。
(オ)まとめ
同(オ)は否認する。
ウ争点10−3(乙25発明を主引用例とする進歩性の欠如)
(被告らの主張)
(ア)乙25発明
特開昭52−150937号公報(乙25)には「データカードおよびデータカ,
ード読取システム」に関して,次の発明が開示されている。
N’電気回路で構成したデータカード1とデータカード読取部14は,それぞ’
れ誘導コイル10,20を有する伝送部を備える。
O’各誘導コイルが発生電波の範囲内にある時,変調信号を,データカード読’
取部14に電磁波を用いて非接触で伝送する。
P’データカード1の動作に必要な電力をデータカード読取部14から電磁波’
により非接触で伝送する。
Q’前記電力を受電するデータカード1に電源電圧供給源であるコンデンサ1’
3を装備して受電電力により充電する。
R1’電源供給サイクルPの終了を,誘導コイル10に誘起された電圧Eの立’
ち下りを検知することで充電状態を判定する。
R2’コンデンサ13を電源として信号の送信動作が開始され,データ送信が’
間欠的に行われる。
U’データカード及びデータカード読取システム’
(イ)一致点及び相違点
a相違点1(構成要件S)
()乙13発明には,本件発明2の構成要件Sの構成の明示的開示がない。a
,,,,,()しかし構成要件Sは周知・慣用技術であるから(乙222628b
29,30,31),この点は,実質的相違点ではない。
b相違点2(構成要件T)
乙25発明には,本件発明2の構成要件Tの構成の明示的開示がない。
c一致点
乙25発明と本件発明2とは,その余において一致している。
d相違点3(構成要件R1)
()後記原告らの主張(イ)dは否認する。a
()乙25発明の構成R1’では,データカード読取部がデータカードへb’
の電力供給を終了した場合に,その結果として誘導コイルに誘起される電圧が低下
することを検出しているから「蓄電機器」の充電状態を判定している。,
e相違点4(構成要件O)
()同(イ)eは否認する。a
,,,()データ送信が双方向である非接触通信技術は公知である(乙1314b
22)。
仮に,原告ら主張のように解すると,本件明細書2に記載された実施例はいずれ
も単方向通信であるから,本件発明2は実施可能要件を欠くことになってしまう。
(ウ)容易想到性
a乙32発明及び相違点2(構成要件T)の開示
前記争点10−2(被告らの主張)(ウ)a及びbのとおり。
b組合せの容易性
()技術分野の同一性a
乙25発明は運動体側に相当するデータカード部と固定体側に相当するデ,「」「
ータカード読取装置」との間の無線通信に関する技術であって,乙32発明と同じ
技術分野に属するものである。
()課題の自明性b
運動体と固定体との間の無線通信技術に関する技術において,運動体側と固定体
側とが対向状態,すなわち,送信側と受信側の位置や距離に応じて受信側での受信
レベルが変動し,通信が不安定となることは,同技術分野の当業者にとって自明の
課題である。
()組合せの容易性c
以上のとおり,乙25発明に乙32発明を組み合わせて,本件発明2の構成に想
到することは,当業者であれば容易になし得たことである。
()顕著な効果d
本件発明2の効果は,拙悪な条件下においても安定に動作させ得る,伝送距離の
飛躍的な増大,回路構成を単純化することができることであり,乙25発明に乙3
2発明を組み合わせた構成から当然に予想される効果である。
原告らが主張する「高速で移動するカードとカード読取装置との安定的な通信」
という効果は,本件明細書2に記載された効果ではない。
(エ)乙33発明を副引用例とする組合せ
a乙33発明及び相違点2(構成要件T)の開示
前記争点10−2(被告らの主張)(エ)a及びbのとおりである。
b組合せの容易性
乙25発明に乙33発明を組み合わせて,本件発明2の構成に想到することは,
当業者にとって容易なことであった。
(オ)まとめ
したがって,本件発明2は,進歩性の要件を備えておらず,無効とされるべきで
あるから(特許法123条1項2号,29条2項),原告らは,その権利を行使する
ことができない。
(原告らの主張)
(ア)乙25発明
被告らの主張(ア)は認める。
(イ)一致点及び相違点
a相違点1(構成要件S)
同(イ)aは認める。
b相違点2(構成要件T)
同(イ)bは認める。
c一致点
,,,。同(イ)cのうち構成要件R1Oの点で一致する点は否認しその余は認める
d相違点3(構成要件R1)
乙25発明と本件発明2とは,構成要件R1の「その充電状態を判定」する構成
が開示されていない点でも相違する。
すなわち,乙25発明においては,データカード読取部がデータカードへの電力
供給を終了した場合に,その結果として誘導コイルに誘起される電圧が低下するこ
とを検出しているにすぎず「蓄電機器」の充電状態の判定は行われていない。,
e相違点4(構成要件O)
乙25発明と本件発明2とは,構成要件Oの構成が開示されていない点でも相違
する。
すなわち,データ送信を移動側(データカード)から固定側(データカード読取部)
への片方向とするか双方向とするかは,単なる設計事項ではない。
(ウ)容易想到性
a乙32発明及び相違点2(構成要件T)の開示
前記争点10−2(原告らの主張)(ウ)a及びbのとおり。
b組合せの容易性
()技術分野の同一性a
一被告らの主張(ウ)b()は否認する。a
二乙32発明は,ETCのように,独立の電源を有する自動車と大型の地
上設備との間の通信技術に関するものであるのに対し,乙25発明は,電力伝送が
必要な小型の移動側装置(データカード)を備えるシステムに関するものであるか
ら,その技術分野は大きく異なる。
()課題の自明性b
一同(ウ)b()は否認する。b
二(一)乙32発明の課題は,前記争点10−2(原告らの主張)(ウ)c()二b
(二)のとおりである。
(二)乙25発明の課題は,データカードとその読取装置からなるシステム
において,カードの読取方向に規則がある,汚損等によりカードが使用できなくな
る,読取装置の駆動機構の摩耗を無視できないといった従来技術の欠点の解消にあ
る。
(三)したがって,乙25発明の課題と乙32発明とは,課題を異にする。
()組合せの容易性c
同(ウ)b()は否認する。c
()顕著な効果d
仮に,乙25発明と乙32発明との組合せが一見容易であるとしても,この組合
せにより,高速で移動するカードとカード読取装置との安定的な通信という乙25
発明と乙32発明との組合せから予測できない顕著な効果を奏するから,容易想到
ではなかったものである。
(エ)乙33発明を副引用例とする組合せ
a乙33発明及び相違点2(構成要件T)の開示
前記争点10−2(原告らの主張)(エ)a及びbのとおりである。
b組合せの容易性
同(エ)bは否認する。
(オ)まとめ
同(オ)は否認する。
()争点11(侵害行為の内容)11
ア争点11−1(被告ソニー)
(原告らの主張)
(ア)製造
被告ソニーは,平成9年ころから平成17年6月3日まで「Felica」の,
カード及びリーダ/ライタを製造した。
(イ)販売
被告ソニーは,平成9年ころから平成17年6月3日まで,製造した「Feli
ca」のカード及びリーダ/ライタを第三者に譲渡した。
(被告ソニーの主張)
原告らの主張(ア)(イ)のうち,被告ソニーが「Felica」のカード及びリー,
ダ/ライタを製造し,第三者に譲渡したことは認め,時期は否認する。
イ争点11−2(被告JR東日本)
(原告らの主張)
(ア)製造,販売
被告JR東日本は,平成13年11月18日から平成17年6月3日までの間,
「Suica」のカード及びリーダ/ライタを製造,販売した。
(イ)使用
a被告JR東日本は,平成13年11月18日から平成17年6月3日まで
の間「Suica」のリーダ/ライタを組み込んだ自動改札機を駅及び駅売店等,
に設置し,かつ,カードを顧客に交付した。
b被告JR東日本は,カードを所持した顧客が自動改札機を通過し又は駅売
店等においてカードを用いることにより「Suica」を自ら使用した。,
(被告JR東日本の認否)
(ア)製造,販売
原告らの主張(ア)は否認する。
(イ)使用
同(イ)aは認め,bは否認する。
()争点12(損害の発生及び額)12
ア争点12−1(被告ソニー)
(原告らの主張)
(ア)本件特許1
a販売総数
被告ソニーは,平成16年7月9日から平成17年6月3日までの間に「Fe,
lica」用のカードを3000万枚製造,販売した。
b売上単価
上記カードの売上単価は,1253円である。
c売上げ
よって,被告ソニーの「Felica」用のカードの売上額は,380億円であ
る。
1253円×3000万枚≒380億円
d相当実施料率
本件特許1についての相当実施料率は,5%である。
e損害額
よって,本件特許1を侵害したことによる相当実施料額は,19億円である。
380億円×5%=19億円
(イ)本件特許2
a販売総数
被告ソニーは,平成9年ころから平成17年6月1日までの間に「Felic,
a」用のカードを9000万枚製造,販売した。
b売上単価
上記カードの売上単価は,1253円である。
c売上げ
よって,被告ソニーの「Felica」用のカードの売上額は,1120億円で
ある。
1253円×9000万枚≒1120億円
d相当実施料率
本件特許2についての相当実施料率は,5%である。
e損害額
よって,本件特許2を侵害したことによる相当実施料額は,56億円である。
1120億円×5%=56億円
(ウ)請求額
原告らは,被告ソニーに対し,上記損害金合計75億円の内金15億円(各7億
5000万円)の支払を求める。
(被告ソニーの主張)
原告らの主張は否認する。
イ争点12−2(被告JR東日本)
(原告らの主張)
(ア)本件特許1とカード販売
a販売総数
被告JR東日本は平成16年7月9日から平成17年6月3日までの間にS,,「
uica」用のカードを290万枚販売した。
b単価
上記カードの単価は,500円である。
c売上げ
よって,被告JR東日本の「Suica」用のカードの売上額は,14億500
0万円である。
500円×290万枚=14億5000万円
d相当実施料率
本件特許1についての相当実施料率は,5%である。
e損害額
よって,本件特許1をカード販売により侵害したことによる相当実施料額は,7
250万円である。
14億5000万円×5%=7250万円
(イ)本件特許1とカード使用
a流通総数
平成16年7月9日から平成17年6月3日までの間に流通していた「Suic
a」用のカードの枚数は,平均で1000万枚である。
b利益
被告JR東日本がカード1枚当たり得る1か月当たりの利益額は,カード1枚当
たりの売上額3000円/月の3%である90円である。
3000円×3%=90円
c相当実施料率
本件特許1についての相当実施料率は,5%である。
d損害額
よって,カード使用により本件特許1を侵害したことによる相当実施料額は,4
億9500万円である。
90円×1000万枚×11か月×5%=4億9500万円
(ウ)本件特許2とカード販売
a販売総数
,,被告JR東日本は平成13年11月18日から平成17年6月1日までの間に
「Suica」用のカードを1200万枚販売した。
b単価
上記カードの単価は,500円である。
c売上げ
よって,被告JR東日本の「Suica」用のカードの売上額は,60億円であ
る。
500円×1200万枚=60億円
d相当実施料率
本件特許2についての相当実施料率は,5%である。
e損害額
よって,本件特許2をカード販売により侵害したことによる相当実施料額は,3
億円である。
60億円×5%=3億円
(エ)本件特許2とカード使用
a流通総数
各期間に流通していた「Suica」用のカードの枚数は,次のとおりである。
①平成13年11月18日∼平成15年1月(14か月)
275万枚
②平成15年2月∼平成16年6月(17か月)
730万枚
③平成16年7月∼平成17年6月1日(11か月)
1060万枚
b利益
被告JR東日本がカード1枚当たり得る1か月当たりの利益額は,カード1枚当
たりの売上額3000円/月の3%である90円である。
3000円×3%=90円
c相当実施料率
本件特許2についての相当実施料率は,5%である。
d損害額
よって,カード使用により本件特許1を侵害したことによる相当実施料額は,1
2億5600万円である。
①平成13年11月18日∼平成15年1月(14か月)
90円×275万枚×14か月×5%=約1億7300万円
②平成15年2月∼平成16年6月(17か月)
90円×730万枚×17か月×5%=約5億5800万円
③平成16年7月∼平成17年6月1日(11か月)
90円×1060万枚×11か月×5%=約5億2500万円
①+②+③=12億5600万円
(オ)請求額
原告らは,被告JR東日本に対し,上記損害金合計21億2350万円の内金5
億円(各2億5000万円)の支払を求める。
(被告JR東日本の主張)
原告らの主張は否認する。
第3当裁判所の判断
1本件特許1の侵害について
()争点2−2(受信電力変化量の信号)及び争点3−2(送信出力を制御)1「」「」
について
ア特許請求の範囲の解釈
(ア)特許請求の範囲の記載
本件発明1の特許請求の範囲の記載から「受信電力変化量の信号」(構成要件,
J)は,これに基づいて「固定側装置の電力送信部の送信出力を制御する」(構成要
件L)ものでなければならない。
(イ)「制御」の通常の意味
広辞苑等に次の記載があることは,当事者間に争いがない。
a「電気工学ハンドブック」(第6版)の記載
「電気工学ハンドブック(第6版)」(発行所社団法人電気学会。2001年2月
第6版発行)の「7編制御とシステム「1章自動制御理論「1.1線形フ」」
ィードバック制御系「1.1.1フィードバック制御」の項には「制御とは,」,
位置(角度),速度(角速度),姿勢,形状,液位,圧力,温度,濃度などの物理量を
ある目的に適合するように,対象となっているものに所要の操作を加えることをい
う。また,自動制御とは,制御装置によって行われる制御のことである」と記載。
されている(乙38)。
b「広辞苑」(第5版)の記載
「広辞苑(第5版)」(発行所株式会社岩波書店。1998年11月第5版発行)に
は「制御」について「機械や設備が目的通り作動するように操作すること」と,,。
記載されている(乙39)。
(ウ)本件明細書1の記載
本件明細書1に,本件発明1の技術分野,目的,効果,内容等について,次のと
おり記載されていることは,前提事実()ア記載のとおりである。2
a産業上の利用分野
「0001】本発明は,非接触伝送装置,すなわち比較的近接し対向して配【
置された固定部および移動部の各装置間で授受するデジタル信号やデジタル化され
たデータ信号またはアナログ信号などの情報信号を,電磁波を媒体として非接触で
伝送させる装置に関する」。
「0002】すなわち,非接触伝送装置は,複数組の装置を結合してなる静【
止機器およびNC工作機械,ロボット装置,搬送装置などの自動機械,あるいは車
両とか飛翔体などのような移動を伴う各種の機械装置等に適用される。そして,本
体の固定側と他方の運動や移動を行う側との何れか一方に能動モジュールを,他方
に受動モジュールを装備する。
,,これにより能動モジュールの送信ヘッドから受動モジュールの受信ヘッドに対し
電磁波または光などにより非接触で電力や指令制御信号等の情報信号を送信した
,,,,,り受動モジュールの送信ヘッドからは種々のデータ信号例えば形状位置歪
温度,色彩など各種の情報信号や電力信号を非接触で伝送したりする」。
b従来の技術
「0003】従来,無線通信方式による幾つかの交信手段があり,例えば対【
象物から固有のマーカ符号を抽出するようにした識別装置や,受信局の検出情報に
応じて送信出力を制御する方式にみられるような装置では,いずれも送信側及び受
信側のそれぞれに電源を備え,情報信号の送受信を行っている,。」
「0004】一方,固定−回転装置間の電力,信号伝達装置や特に従来のデ【
ータ入出力カードでは,電源の供給方法などに多くの難点があった。
すなわち,非接触方式では,移動側で必要とする電源等の電力を固定側から非接触
で供給し,また移動側から伝送するデータを固定側において非接触で受信する方式
のものに対しては,距離に比例して大きくなる伝送損失が往復で効いてくるので,
固定側から移動側へ,あるいはその逆の電磁波伝播による電力および信号の伝送を
確実に行うことが難しく,その実現は困難なものとされている」。
c発明の目的
「0005】本発明は上述の点を考慮してなされたもので,能動モジュール【
としての固定側装置と受動モジュールとしての移動側装置とからなる非接触伝送装
置において,受動モジュールが外部から取り込んだデータ信号を能動モジュールを
。」介して外部に伝送することができる非接触伝送装置を提供することを目的とする
d課題を解決するための手段
【0006】には,課題を解決するための手段として,請求項1(本件発明1)と
請求項2と同旨の記載がある。
e発明の効果
「0026】本発明は上述のように,固定側装置と,この固定側装置に対し【
離間して交信することができる無電源の移動側装置とを備えた非接触伝送装置であ
って,固定側装置に設けられた電力送信部は,受信した電磁波の信号強度に基づい
て『送信信号を均一な所定の出力強度に制御し』(『』部分は「移動側装置の受,
信信号が均一になるように送信信号の出力強度を制御し」の意味であると認められ
る。),移動側装置に設けられた信号送信部は,信号伝送用周波数の電磁波により
データに対応した変調波を形成して第2の電磁ヘッドから固定側装置に伝送するよ
うにしたため,無電源の移動側装置は固定側装置に接近すると電源用電力が安定に
供給されて回路動作を正確に行うことができるので,固定側装置における変調波の
復調処理に際しても,移動側装置から固定側装置に向けて同期が取れていて正確か
つ確実なデータ伝送を行うことができる」。
f実施例
本件明細書1の【0018】∼【0023】欄及び図2には,次の記載がある。
「0018】図2は,本発明の一実施例の構成を示したものである。この実【
施例では,能動モジュールAから発送された電力の大きさの変化を受動モジュール
Bで受信した上で,その変化量を能動モジュールAにフィードバックし,能動モジ
ュールAにおいて受信した信号強度に応じて電力の発送出力を自動的に制御し,全
。」体として受動モジュールBに伝送される電力を一定にするように構成されている
「0019】能動モジュールAの送信ヘッド20から放射された電力は,受【
動モジュールBの受信ヘッド21に捕捉される。その出力の一部は,平滑回路22
によって直流出力E2となり,受動モジュールBの各回路および付帯する外部回路
における動作電源用として供給される」。
「0020】そして,他の一部は,適当な時定数を持つ時定数回路17およ【
びゲイン調整用の可変抵抗器18を経て,サブキャリア1発振変調回路23によっ
て受信ヘッド21の出力に対応した変調波Fs1となる。
また受動モジュールBに付帯した外部回路で得られたデータ信号Di2などの情報
は,AFアンプ7においてスケーリングなどの必要な処理を施され,次のサブキャ
リア2発振変調回路24を経ることによって育成されたデータ信号Di2などの情
報に対応した変調波Fs2となる」。
「0021】そして変調波Fs2は,変調波Fs1とともにミキサ回路25【
によって混合され,更にメインキャリア発振回路26の出力で駆動される変調回路
9に入力されて変調波となる。この変調波は,RFパワーアンプ10において電力
増幅を受けた後,信号用の電磁送信ヘッド11から電磁波の情報信号として空間に
放射される。
これを,能動モジュールAでは,電磁受信ヘッド12により受信した後,RFアン
プ13において増幅し,メインキャリアに対する検波回路14によってサブキャリ
アによる変調波Fs1’および変調波Fs2’の混合波として復調する」。
「0022】これらの変調波のうちデータ信号Fs2’は,サブキャリア2【
検波回路27によって復調され,AFバッファアンプ15を経てデータ出力信号D
o2などの情報として,外部回路において使用される。
また受信ヘッド21の出力に対応した変調波Fs1’は,サブキャリア1検波回路
28によって復調された後,時定数回路17およびゲイン調整用の可変抵抗器18
を経て,AFパワーアンプ29の出力を制御する目的で,その電源回路に直列に挿
入された電圧制御回路19の制御入力に印加される」。
「0023】そして,AFパワーアンプ29の出力は,送信ヘッド20から【
受動モジュールBに向けて放射される。
このように能動モジュールAから発送された電力の変化を,受動モジュールBで受
信した上で,その発送電力の出力に係る信号強度として能動モジュールAに返送す
る。
能動モジュールAは,受信した情報信号の信号強度の値に応じて電力送信部にネガ
ティブ・フィードバックを掛けることにより,モジュール間の距離変化に関係なく
信号強度をほぼ一定に保つことができる。
能動モジュールA,受動モジュールB間の送受信は,電磁波を種々組み合わせて行
うことができ,電磁受信を行う一方のヘッドと,電磁送信を行う他方のヘッドとを
図示以外の組合せで利用することができる」。
図2は,本件明細書1の図2のとおりである。
(エ)出願経過
a本件特許1の出願経過は,次のとおりである(前提事実()イ)。2
()第2回拒絶理由通知a
特許庁審査官は,平成16年2月27日,請求項1の発明は,引用文献1(特開
昭56−140486号公報)及び引用文献2(実願昭58−129480号(実開
昭60−37963号)のマイクロフィルム。本訴における乙8)に記載のものから
当業者が容易に想到できたものであるとして,進歩性欠如を理由とする拒絶理由を
通知した(乙7)。
()第2回補正b
これを受けて,原告らは,平成16年5月6日,意見書の提出(乙9)並びに請求
項1の特許請求の範囲に構成要件J及びLを追加する等の補正を行い(乙10),特
許庁審査官は,同年6月18日,その内容で特許査定をした。
原告らは,上記意見書(乙9)において,本件発明1と上記引用文献との相違点に
ついて,次のとおり主張した。
「,『』…引用文献2(注:本訴における乙8)は単なるリモートコントロール装置
に関するもので『送信装置に,受信側から反射されてくる光反射信号を検出し,,
その検出レベルに従って送信装置の光出力を制御する回路を設け,受信装置の受光
レベルが一定の範囲内にあるように』することが記載されています」(2頁23。
行∼26行),
「…本願発明は,移動側装置で受信した電力の出力の変化に応じて,固定側装置
の電力送信部からの送信出力を制御することを目的としており,引用文献に記載さ
れた発明とは目的が異なります。
構成に関しても,本願発明は,各引用文献のいずれにも記載されていない,次の
構成を含んでいます。
A.移動側装置の信号送信部が,受信電力変化量の信号を信号伝送用周波数によ
り変調を施した電磁波として固定側装置の信号受信部に伝送すること。
B.移動側装置で受信した電力の出力の変化に応じて,その信号送信部から伝送
されて固定側装置の信号受信部で受信される信号強度に基づいて,該固定側装置の
電力送信部の送信出力を制御(請求項2ではフィードバック制御)すること。
従って,本願発明によれば,移動側装置で受信した電力の出力の変化に応じて,
固定側装置の電力送信部からの送信出力を(例えばフィードバック)制御することが
できるという,各引用文献に記載された発明や,その単なる組合せには無い優れた
作用効果を奏します」(2頁下から17行∼4行)。
b乙8によると,引用文献2(注:本訴における乙8)には「光方式のリモ,
ートコントロール装置において,送信装置に,受信側から反射されてくる光反射信
号を検出し,その検出レベルに従って送信装置の光出力を制御する回路を設け,受
信装置の受光レベルが一定の範囲内にあるようにしたことを特徴とするリモートコ
。」。ントロール装置(実用新案登録請求の範囲)が開示されていることが認められる
(オ)技術常識としての相互インダクタンス
2つのコイル間に相互に電磁結合を生じ,この作用を相互インダクタンスで表す
ことは,本件特許1の原々出願当時の技術常識であったことは,当事者間に争いが
ない。
(カ)検討
以上の本件発明1の特許請求の範囲の記載「制御」の通常の意味,本件明細書,
1の記載,出願経過及び技術常識としての相互インダクタンスによれば,本件発明
1は,少なくとも,移動側装置の受信信号が均一になるように送信信号の出力強度
を制御することを目的とするものであり,構成要件J及びLにいう「受信電力変化
量の信号」は,移動側装置の受信信号が均一になるように固定側装置の電力送信部
の送信出力を操作することができるものでなければならず「電力変化量の信号に,
基づいて…制御する」とは,移動側装置の受信信号が均一になるように固定側装置
の電力送信部の送信出力を操作することであると解すべきである。
イ充足
a「制御」の有無
()別紙3の構成j及びlのとおり,対象カードと対象リーダ/ライタは電a
磁結合しているため,①対象カードを対象リーダ/ライタに近接させると,対象リ
,,ーダ/ライタの作る総磁束に対し対象カードに鎖交する磁束の割合が大きくなり
対象カードに最初よりも高い高周波電圧が誘起され,②この誘起は,対象カードの
磁界を変化させ,変化した磁界が対象リーダ/ライタと鎖交することにより,対象
リーダ/ライタのアンテナ端電圧は,最初よりも低下し,①から②のプロセスが繰
り返され,短時間の間に一定の値に収束する。
しかしながら,甲19の図1及び図2によると,対象カードの受信電圧は,通信
可能な範囲内である通信距離が125㎜以内においても,距離に応じて,約3Vか
ら約6Vの間で変動しており,一定になっているとはいえないことが認められる。
したがって,仮に,原告ら主張のとおり「対象カードから対象リーダ/ライタに
伝送される電磁波」が構成要件J中の「受信電力変化量の信号」であり,それが対
象リーダ/ライタに「伝送」されていると解したとしても,対象製品においては,
対象カードの受信信号が均一になるように「制御」されているとはいえない。
()なお,乙35,36及び弁論の全趣旨によれば,対象カードから対象リb
ーダ/ライタに伝送される電磁波(磁束)のうち,対象リーダ/ライタのアンテナに
鎖交する量は対象カードと対象リーダ/ライタとの間の距離に依存するから,対象
リーダ/ライタのアンテナ端の電圧低下は対象カードに誘起された高周波電圧であ
る受信電力変化量の信号の強度を反映することができず,同電磁波をそのまま用い
ただけでは,モジュール間の距離変化に関係なく電力を一定に制御することは,そ
もそもできないことが認められる。
b原告らの主張に対する判断
原告らは,甲19の図6及び図7は,対象リーダ/ライタと発振器を使用した場
合の対象カード側の受信電力を測定した対比実験であり,対象リーダ/ライタを用
いた場合(図6)の方が,発振器を用いた場合(図7)に比べ,通信距離が近接した場
合の受信電圧の増大の仕方は緩やかであるから,対象リーダ/ライタは,対象カー
ドとの通信距離が接近した場合に,送信出力を制限している旨主張する。
仮に,上記甲19の図6及び図7の実験結果が信頼できるものであるとしても,
甲19の図1及び図2によると,対象カードの受信電圧は,通信可能な範囲内であ
る通信距離が125㎜以内においても,距離に応じて,約3Vから約6Vの間で変
動しており,このような変動のある結果をもって,対象カードの受信信号が均一に
なるように「制御」しているとはいえないことは,上記アのとおりであるから,原
告らの上記主張は,理由がない。
cまとめ
したがって,対象製品は,構成要件Lの「送信出力の制御」を充足しない。
()まとめ3
以上によると,対象製品は,少なくとも構成要件Lを充足しないので,原告らの
本件特許1に基づく請求は,その余について判断するまでもなく理由がない。
2本件特許2の侵害について
()争点5(構成要件Q(蓄電機器)の充足)について1
ア特許請求の範囲の解釈
(ア)特許請求の範囲の記載
a構成要件Qは「前記電力を受電する側のモジュールにコンデンサや電池,
の如き蓄電機器を装備して受電電力により充電し」と記載し「蓄電機器」とし,,
て「コンデンサ」を例示している。
他方,構成要件R2は「これを電源として所要のタイミングで間欠的に他方の,
モジュールにデータ信号の送信動作を行なうに際して」と規定し「蓄電機器」,,
を「電源として」データ送信を行う旨記載している。
bしたがって,本件発明2の特許請求の範囲の記載からだけでも,構成要件
Qにいう「蓄電機器」は,それ自体で電源として動作するだけの容量を持つものを
意味すると認められる。
(イ)本件明細書2の記載内容
aさらに,本件明細書2に次の記載があることは,前提事実()ア記載のと2
おりである。
()産業上の利用分野a
「本発明は,デジタル信号やアナログ信号の形で得られる各種のデータ信号を,
電磁波を用いて非接触で伝送させる装置に関するもので,運動部分を有する各種の
装置,例えば車両等の交通関係機器や,工作機械,ロボット装置,搬送装置その他
諸種の自動機械などにおいて,装置本体の固定体側に受動用モジュールを,運動体
側に能動用モジュールを装着しておく。そして運動体側から送信した各種のデジタ
ル信号やデジタル化されたデータ信号あるいはアナログ信号,例えば形状,位置,
歪,圧力,温度,色彩などに関するデータ信号を,固定体側に非接触で受信させる
ような場合に用いて好適なものである」。
()発明の目的b
「本発明の目的は,運動体側あるいは固定体側に装着したモジュールの何れかが
無電源で動作でき,かつ双方の距離がある程度大きい場合とか,周囲の設置環境条
件などのために伝送効率が悪くなる場合,あるいは非接触で供給する送信電力を大
きくできない場合などにおいても,信号の伝送を安定で効率良くかつ間欠的に行え
る信号伝送装置を提供することにある」。
()発明の構成c
「…受動用モジュールは電灯線や電池,発電機または太陽電池等の発電素子など
を直接電源として動作させ,能動用モジュールは受動用モジュールから電磁波によ
って非接触で供給された電力を一旦蓄電し,これを電源としてタイミングよく所定
の動作を行なわせようとするものである」。
「本発明の信号伝送装置は,電磁波を媒体として伝送するのに不向きな設置条件
などのために伝送効率が悪い場合とか,送信電力を大きくできない場合,あるいは
その他の要因により従来の方法では伝送が不安定になる場合でも,安定に信号伝送
を行なうことを可能にしたものである。
能動用モジュールの受信ヘッドは,受信用モジュールの送信ヘッドと互いに対向
した状態において,その送信ヘッドから連続的に供給される電力をコンデンサや電
池などの蓄電機器に充電する。そしてその電荷が適当な閾値に到達した状態にある
時,所定のタイミングで間欠的にデータ信号の送信に係わる回路を動作させ,その
送信ヘッドから受動用モジュールに対して比較的短時間に信号伝送が行なわれるよ
うになっている。
このような回路を備えることにより,能動用モジュールが受電する平均電力が小
さい場合でも,信号の送信動作を安定に司どることが可能になる」。
()実施例1d
「第1図において,Aは機械装置の固定体側に装着される受動用モジュール,B
は運動体側に装着される能動用モジュールのブロック図である。
受動用モジュールAの主な機能は,能動用モジュールBにその動作に必要な電力
を電力搬送波f1によって供給すること,能動用モジュールBにおいて取得したデ
ータ信号によって変調された信号用搬送波f2を受信し,これを復調して出力する
ことである。
他方,能動用モジュールBの主な機能は,受動用モジュールAから伝送されて来
る電力搬送波f1を受信し,整流平滑ののち各部の電源として供給することと,デ
ータ信号をFM()波とした信号搬送波f2を,受動用モジューFrequencyModulation
ルAに向けて送信することである。
以上の機能を具体的に説明すれば,次のようになる。
即ち電力用搬送波f1の整数分の一の周波数を発振するf1発振回路1の出力
,,をf1周波数逓倍回路2によって空間伝送に適した周波数の搬送波f1に逓倍し
f1電力アンプ3によって所要の電力に増幅したのち,電力送信ヘッド4から電磁
波として放射する。
この電力伝送波f1は,電力受信ヘッド5によって捕捉され整流平滑回路6によ
り直流化され,コンデンサや電池などの蓄電機器7を充電する。この充電電圧は電
圧コンパレータ8により参照電圧Vrと比較され,充電電圧がその閾値以上になっ
た場合にトリガ回路9を導通させる。このようにしてf2電力アンプ14に間欠的
に電荷を供給して充電し作動させる。
この場合,蓄電機器7がコンデンサであれば,その容量C,充電される電荷をQ
とすると,放電直前のQの値は,
Q=C・Vr
となり,また充放電のインターバルに関係する充電時間の時定数Tは
T=C・R・log(Vr/Vs)
である。但しRは時定数回路を構成する抵抗または回路の等価インピーダンスであ
り,またVsはその時定数回路に印加される受動用モジュールAから伝送された電
力による電源電圧である。
従って伝送に必要な電荷Qを一定とすると,伝送された電力の強度によって放電
するまでのインターバル,即ち能動用モジュールBから受動用モジュールAに対し
て伝送する信号のインターバルが変動するが,一般的には能動用モジュールBにお
いて取得されるデータ信号Dsの変化速度と比べた場合十分に速いので問題はな
い」。
()発明の効果e
「従来,この種の信号伝送装置は高価なものが多く,また設置する環境条件など
によっては使用できない場合が多かったが,非接触伝送回路系の無電源側のモジュ
ールに蓄電機器を備え,その充電状態を判定した伝送系全体を所定のインターバル
で間欠的に動作させ得るようにした本発明の構成によって,拙悪な設置条件下にお
,。いても安定に動作させ得るのでその適用範囲が大幅に増大するという効果がある
また良好な条件下においては,従来のこの種の装置ではみられなかった伝送距離
の飛躍的な増大をもたらすという極めて大きい効果がある。
また能動用モジュール側で得た充電電力により発振し又は送信する周波数を,受
動用モジュール側のそれと合わせ相互の基準クロックとすることにより,回路構成
を単純化できると共に動作の安定化をもたらすなど,実用上いくつかの効用があ
る」。
b()上記aの本件明細書2の記載によると,本件発明2の目的は,固定体a
側と運動体側のモジュールの距離がある程度大きい場合,周囲の設置環境条件など
のために伝送効率が悪くなる場合,非接触で供給する送信電力を大きくできない場
合などにおいても,信号の伝送を安定して効率良く行うことができる信号伝送装置
を提供することにあり,本件発明2は,この通信の安定性という目的を達成するた
めに,運動体側のモジュールに「蓄電機器」を備え,固定体側から受電した電力を
一旦蓄電させた上で,動作するという構成を採用したものである。
そして,上記aの本件明細書2中の実施例1(上記a())に「整流平滑回路6d,
により直流化され,コンデンサや電池などの蓄電機器7を充電する」と記載され。
ているとおり,本件明細書2は,蓄電機器であるコンデンサと整流平滑回路として
のコンデンサとを明確に区別して記載しているものである。
()したがって,本件明細書2の記載を考慮して解釈すれば,構成要件Qのb
「蓄電機器」は,固定体側からの送信電力が小さくなった場合にも,安定して通信
を行うことができるように,自ら蓄電した電力を電源として送信動作をすることが
できるだけの容量を持つものに限られ,固定体側から受信した電力を整流平滑化す
るために一時的に蓄電するにすぎない「整流平滑回路」としてのコンデンサを含ま
ないと解される。
(ウ)原告らの主張に対する判断
原告らは,構成要件Qには「コンデンサ・・・の如き蓄機器」と記載され「コ,,
ンデンサ」が例示されているとか,コンデンサについての専門的又は一般的辞書に
,,「」おける意味に基づく主張をするがそれらの主張は文脈を無視してコンデンサ
だけを議論するか,本件明細書2の記載を無視したものであり,到底採用すること
ができない。
イ充足
別紙3の構成qのとおり,対象カード内に配置された整流平滑回路のコンデンサ
は,対象リーダ/ライタから絶え間なく受け取る電磁波を整流し,これにより直流
電圧が得られるものであるが,同コンデンサが,対象リーダ/ライタから送信され
る電力が小さくなった場合でも,安定した通信ができるように電力を蓄え,自ら蓄
電した電力をカード内の回路に供給して送信動作を行うものであることを認めるに
足りる証拠はない。
したがって,対象カード内のコンデンサは,構成要件Qの「蓄電機器」を充足せ
ず,対象製品は,構成要件Qを充足しない。
()争点6(構成要件R1),争点7−1(構成要件R2「これを電源として」)2
及び争点8−2(構成要件T「…蓄電機器…」)について
,,「」,前記()イのとおり対象製品は構成要件Qの蓄電機器を充足しないから1
構成要件R1の「その充電状態を判定し,構成要件R2の「これを電源として」」
及び構成要件Tの「その検知信号に基づき前記蓄電機器に対する充電の時間や前記
データ信号の送信動作に係わる回路の駆動時間などのタイミングを司る」の点も充
足しない。
()争点8−1(構成要件T「互いに対向した状態を検知する検出回路を備える3
ことによって」)について
ア特許請求の範囲の解釈
構成要件Tの「前記モジュールの各伝送部が互いに対向した状態を検知する検出
」,「」,回路を備えるとの記載自体から互いに対向した状態を検知する検出回路は
運動体側と固定体側の双方に存在しなければならないと解される。
イ充足
原告らは,対象製品は,被告ソニーのホームページ(甲11の5頁)の「3.高速
処理」と題された図中で,対象リーダ/ライタと対象カードが接近した時点で双方
において「検出」に始まる一連の動作が開始されることに示されるとおり,①移動
側と固定側の双方に対向に検知する回路を有し,②それぞれにおいて対向を検知し
たことの信号に基づき,③その後の「読み出し「書き込み」といったデータ送信」
の送信回路の駆動時間などのタイミングが司られている旨主張する。
しかしながら,原告らの指摘する上記ホームページ(甲11)中の箇所からは,一
連の動作が開始されることは認められるものの,動作の開始を実現する構成はどの
ようなものか及び対象リーダ/ライタと対象カードの双方に検出回路が設けられて
いることを認めることはできず,他にこれらの点を認めるに足りる証拠はない。
ウまとめ
したがって,対象製品が構成要件T中の「互いに対向した状態を検知する検出回
路」を有すること,並びに対象リーダ/ライタと対象カードの双方にそのような検
出回路を有することの立証はないといわなければならない。
()まとめ4
よって,対象製品は,構成要件Q,R1,R2及びTを充足しないから,本件特
許2の侵害を理由とする原告らの請求は,その余について判断するまでもなく理由
がない。
3結論
以上によれば,原告らの請求は,その余について判断するまでもなくいずれも理
由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
市川正巳
裁判官
大竹優子
裁判官
中村恭
(別紙3)
対象製品の構成
(本件発明1について)
a対象リーダ/ライタと,対象リーダ/ライタに対し離間して交信することが
できる対象カード(ICカード)とを備えている。
b対象リーダ/ライタに設けられた送受信兼用の1個のアンテナ又は送信用及
び受信用の2個の第1のアンテナと,対象カードに設けられた送受信兼用の1個の
第2のアンテナとの間で,互いに対向した状態で,デジタルデータを,電磁波を用
いて非接触で伝送するようにした装置である。
c対象リーダ/ライタは,電力送信部と信号受信部とを含む。
,,d対象リーダ/ライタの電力送信部は対象カードの第2のアンテナに向けて
電磁波によって電力及びコマンドを送信する手段を備えている。
e対象リーダ/ライタの信号受信部は,第1のアンテナにより受信したデータ
信号の復調処理を行う手段と,同データ信号を外部回路に送出する手段とを有して
いる。
f対象カードは,電力受信部と信号送信部とを含む。
g対象カードの電力受信部は,その第2のアンテナと対象リーダ/ライタの第
1のアンテナとの通信距離がおよそ100㎜以内に接近した場合に,電磁波を受信
して処理する。
h対象カードは,受信した前記電磁波の一部を,コンデンサを用いて直流の電
源用電力を形成し,対象カードの回路に給電する。
i対象カードの信号送信部は,コンデンサの電圧状態を判定し,2.8V以上
になった場合に,これを電源として前記データ信号を送信する。
j対象カードは,前記データ信号を負荷変調回路の抵抗値を変更することによ
って振幅変調した13.56MHzの周波数の電磁波を用いて,対象リーダ/ライ
タの信号受信部に送信する。
また,対象カードと対象リーダ/ライタは電磁結合しているため,①対象カード
を対象リーダ/ライタに近接させると,対象リーダ/ライタの作る総磁束のうち,
対象カードの第2のアンテナと鎖交する磁束の割合が大きくなり,対象カードに最
初よりも高い高周波電圧が誘起される。②この誘起は,対象カードの磁界を変化さ
せ,変化した磁界が対象リーダ/ライタの第1のアンテナと鎖交することにより,
対象リーダ/ライタのアンテナ端電圧は,最初よりも低下する。①から②のプロセ
スが繰り返され,短時間の間に一定の値に収束する。この際,対象カードから対象
リーダ/ライタに伝送される電磁波は,当該電磁波が変調波である場合は,振幅が
異なるがやはり変調波となっている。
k対象カードの第2のアンテナと対象リーダ/ライタの第1のアンテナとが接
近した場合,対象カードは,受信した前記電磁波により動作に必要な電力を得る。
l対象リーダ/ライタのアンテナ端電圧は,対象カードが接近すると,前記構
成jのとおり,低下する。
対象リーダ/ライタのソースインピーダンスは,対象リーダ/ライタと対象カー
ドの相互インダクタンスによる影響を考慮して,設計されている。
対象カードには,過電流保護回路が設けられている。
m非接触伝送装置である。
(本件発明2について)
,。n対象カード及び対象リーダ/ライタはいずれも電気回路で構成されている
対象リーダ/ライタは,送受信兼用の1個のアンテナ又は送信用及び受信用の2
個の第1のアンテナを有している。
対象カードは,送受信兼用の1個の第2のアンテナを有している。
o対象リーダ/ライタに設けられた送受信兼用の1個の,又は送信用及び受信
用の2個の第1のアンテナと,対象カードに設けられた送受信兼用の1個の第2の
アンテナとの間で,互いに対向した状態で,デジタルデータを,電磁波を用いて非
接触で伝送するようにした装置である。
p対象カードは,動作に必要な電力を,対象リーダ/ライタの電力送信部から
電磁波により非接触で伝送するように構成された信号伝送装置である。
q対象カード内に配置された整流平滑回路のコンデンサは,対象リーダ/ライ
タから絶え間なく受け取る電磁波を整流した後に平滑化するもので,これにより直
流電圧が得られる。
r対象カードは,整流平滑回路のコンデンサの充電電圧が2.8Vになった場
合に作動するように構成されている。
s電力伝送の電磁波の周波数13.56MHzは,データ通信速度211.8
75kbpsの整数倍となっており,対象カードと対象リーダ/ライタのクロック
周波数は共通となっている。
u非接触伝送装置である。

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弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

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残り応募人数(2019年5月1日現在)
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