弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告補助参加人代理人村井豊明、同村山晃、同荒川英幸、同牛久保秀樹の上告理
由について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯する
に足り、右事実及び原審が適法に確定したその余の事実関係によれば、(1) 破産
者は、昭和四三年四月一日免許を受けた証券会社であるが、昭和五七年七月一二日
京都地方裁判所において破産を宣告され、上告人が破産管財人に選任された、(2)
 被上告人は、昭和五五年四月一日、破産者との間で、破産者から国債を買い付け
て破産者にこれを売り戻す旨の現先取引契約を締結し、買付代金を五億二六二〇万
円、売戻代金を五億三九八四万四八〇〇円、売戻日を同年六月三〇日とするが(利
回り年約一〇パーセント)、右売戻日前でも破産者の資金が出来次第売戻しをする
旨を約定して、破産者が売戻代金支払債務を負担した、(3) 大蔵省近畿財務局に
よる一般検査と特別検査の結果、破産者が同年三月三一日の時点で少なくとも九億
六九〇〇万円の債務超過の状態にあることが判明したが、社団法人D証券業協会と
E証券取引所(以下「協会」、「取引所」又は両者を「本件各貸主」という。)は、
同月中旬、破産者と取引のある善良な投資者を保護し、証券業界の信用維持のため、
破産者に対して融資を実施することを決定し、破産者の債務超過額を考慮してその
融資額を各五億円計一〇億円とすることにした、(4) 協会は、同年四月一〇日、
破産者及びF証券金融株式会社(以下「F証券金融」という。)との間で、(3)の
融資に関する基本契約を締結し、総融資額の限度を五億円、利息を年五パーセント、
弁済期を同年一〇月九日とする、破産者は投資者の保護のため必要な場合に限り融
資を受けることができ融資金を右の目的に限り使用する、この契約に定めるところ
は協会と破産者間のすべての個別の融資取引に適用する、協会は破産者に対する個
別融資の出納管理事務をF証券金融に委任する旨を約定した、(5) 取引所も、同
年四月一一日、破産者及びF証券金融との間で、(3)の融資に関する基本契約を締
結し、(4)と同旨の約定をした、(6) 破産者は、同月一二日、本件各貸主から、
借入金を被上告人に対する前記の債務の弁済に充てることを約し、右基本契約で定
めた条件の下に、各二億五〇〇〇万円計五億円を借り入れ、右借入金五億円に自己
資金一〇四〇万円を加えた五億一〇四〇万円で被上告人に対する右債務を弁済した、
(7) 右借入金五億円による弁済(以下「本件弁済」という。)は、破産者と被上
告人の各代表取締役及び本件各貸主から委任を受けたF証券金融の社員がG銀行H
支店に集合した上、破産者の代表取締役がF証券金融の社員から交付を受けた額面
五億円の小切手をその場で直ちに同支店における被上告人の普通預金口座に振り込
んだものであって、破産者が右小切手を他の使途に流用したり、他の債権者が差押
えその他の方法により右小切手から弁済を受けることは、全く不可能な状況にあっ
た、(8) 本件各貸主は、破産者が借入金を被上告人に対する右債務の弁済に充て
ることを約さなければ、右貸付けをしなかった、(9) 破産者の本件各貸主に対す
る借入債務は、被上告人に対する右債務より利息などその態様において重くなかっ
た、というのである。
 以上の事実関係によれば、本件においては、本件各貸主からの借入前と本件弁済
後とでは、破産者の積極財産の減少も消極財産の増加も生じていないことになる。
そして、破産者が、借入れの際、本件各貸主との間で借入金を被上告人に対する特
定の債務の弁済に充てることを約定し、この約定をしなければ借入れができなかっ
たものである上、本件各貸主と被上告人の立会いの下に借入後その場で直ちに借入
金による弁済をしており、右約定に違反して借入金を他の使途に流用したり、借入
金が他の債権者に差し押さえられるなどして右約定を履行できなくなる可能性も全
くなかったというのであるから、このような借入金は、借入当時から特定の債務の
弁済に充てることが確実に予定され、それ以外の使途に用いるのであれば借り入れ
ることができなかったものであって、破産債権者の共同担保となるのであれば破産
者に帰属し得なかったはずの財産であるというべきである。そうすると、破産者が
このような借入金により弁済の予定された特定の債務を弁済しても、破産債権者の
共同担保を減損するものではなく、破産債権者を害するものではないと解すべきで
あり、右弁済は、破産法七二条一号による否認の対象とならないというべきである。
したがって、本件弁済が同号による否認の対象とならないとした原審の判断は、正
当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用すること
ができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    藤   島       昭
            裁判官    中   島   敏 次 郎
            裁判官    木   崎   良   平
            裁判官    大   西   勝   也

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