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平成24年12月5日判決言渡同日原本受領裁判所書記官
平成24年(行ケ)第10100号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成24年11月21日
判決
原告株式会社フッコー
同訴訟代理人弁護士鈴木和夫
同弁理士土橋博司
被告ヒメノイノベック株式会社
同訴訟代理人弁理士三枝英二
中野睦子
河合永文
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2011-800114号事件について平成24年2月15日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,後記1のとおりの手続において,被告の後記2の本件発明に係
る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たな
いとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には,
後記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
被告は,平成14年9月11日,発明の名称を「着色漆喰組成物の着色安定
化方法」とする特許出願(特願2002-266067号。国内優先権主張日:平
成13年9月11日及び平成14年2月14日)をし,平成18年8月4日,設定
の登録(特許第3834792号)を受けた(甲27。請求項の数は2)。以下,こ
の特許を「本件特許」という。
被告は,平成21年9月3日に本件特許について特許無効審判請求がされた
(無効2009-800191号)ことから,同年11月27日,本件明細書の訂
正を請求した(以下「本件訂正」という。)ところ,特許庁は,平成22年4月21
日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした(甲41。
以下「前件審決」という。)。前件審決については,平成22年5月28日に知的財
産高等裁判所に対して審決取消訴訟(平成22年(行ケ)第10173号)が提起
されたが,同裁判所は,平成23年1月11日,請求を棄却する旨の判決を言い渡
し,同判決は,そのころ,確定した。
原告は,平成23年6月30日,本件特許に係る発明の全てであり本件訂正
後の請求項1及び2に係る発明(以下,請求項の番号に応じて「本件発明1」及び
「本件発明2」といい,これらを併せて「本件発明」という。)について特許無効審
判を請求し,無効2011-800114号事件として係属した(甲28~35)。
特許庁は,平成24年2月15日,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨
の本件審決をし,その謄本は,同月23日,原告に送達された。
2特許請求の範囲の記載
本件訂正後の本件発明に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりであり,本件
発明に係る明細書(甲41に添付のもの)を「本件明細書」という。
【請求項1】A.石灰を含有する白色成分,無機の着色顔料,結合剤及び水を含有
する着色漆喰組成物の着色安定化方法であって,
B.当該着色漆喰組成物が水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物を含有
し,
C.上記白色成分として石灰と無機の白色顔料を組み合わせて用いることを特徴と
する方法
【請求項2】D.石灰と無機の白色顔料との組み合わせが,白色顔料を石灰100
重量部に対して0.1~50重量部の割合で組み合わせたものである,
E.請求項1に記載の着色漆喰組成物の着色安定化方法
3本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,本件発明が後記ア及びイの引用例1及び2に
記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとはい
えない,というものである。
ア引用例1:特開昭50-49325号公報(甲1)
イ引用例2:「酸化チタン~物性と応用技術」第1章「酸化チタン工業」,第6
章「隠ぺい力」及び第7章「着色力」(清野学著,技報堂出版株式会社,平成3年6
月25日発行。甲2)
本件審決が認定した引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。)
並びに本件発明1と引用発明との一致点及び相違点(以下「本件相違点」という。)
は,以下のとおりである。
ア引用発明:セメント及び/又は石灰,充填材及び水並びに場合により多くの
他の添加物質から成る建築物被覆材料であって,石灰及びセメントは,常用の製品
例えば白色セメント,ポルトランドセメント,高炉セメント,アルミナセメント,
空気硬化石灰例えば白色石灰又はドロマイト石灰,カーバイト石灰,水硬石灰,水
硬性又は高水硬性石灰及び/又はその混合物を使用することができ,添加物質とし
ては,顔料,例えば二酸化チタン,酸化チタン及び/又は硫化亜鉛,より良い水保
留に対する他の助剤としての水溶性セルロースエーテル,例えばメチルセルロース
もしくは澱粉エーテル又はポリビニルアルコール並びにアニオン性又は非イオン性
の湿潤剤例えばポリ燐酸塩,スルホン酸ナフタリン,アンモニウム-及びナトリウ
ムアルリル酸塩又はそれらの混合物,乾燥物質に対して再分散可能なプラスチック
粉末又は水性分散液の形のプラスチック,例えばビニルアセテートモノ-及び-コ
ポリマー例えばエチレン-ビニルアセテートコポリマー,ブタジェン-スチロール
-コポリマー,アクリル酸エステルホモ-又は-コポリマー又はそれらの混合物,
他の添加剤である抗起泡剤,殺菌剤,着色料例えば有機顔料又は無機顔料,が挙げ
られる建築物被覆材料
イ一致点:石灰を含有する成分,他の添加物質及び水を含有する建築物被覆材

ウ本件相違点:本件発明1は,「石灰を含有する白色成分」「無機の着色顔料」
「結合剤」「水」「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」「無機の白色顔
料」全てを含有する「着色漆喰組成物の着色安定化方法」であるのに対し,引用発
明は「石灰を含有する成分」「水」及び「他の添加物質」を含有する建築物被覆材料
であり,「他の添加物質」として,「無機の着色顔料」「結合剤」「水酸基を有するノ
ニオン系の親水性高分子化合物」「無機の白色顔料」等の物質が例示されたものであ
るものの,それら「石灰を含有する白色成分」,「水」,及び「無機の着色顔料」「結
合剤」「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」「無機の白色顔料」に相
当する特定の「添加物質」全てを含有する「着色漆喰組成物」の「着色安定化方法」
ではない点
4取消事由
引用発明及び本件相違点の認定の誤り(取消事由1)
本件相違点に係る判断の誤り(取消事由2)
第3当事者の主張
1取消事由1(引用発明及び本件相違点の認定の誤り)について
〔原告の主張〕
本件審決は,本件相違点を前記第2の3ウに記載のとおり認定した。
しかしながら,引用例1の実施例〔例1〕には,「石灰・セメントプラスタ
ーを次の配合により製造する」として,各種の物質が組み合わされた配合が記載さ
れているところ,そこに記載の「石灰・セメントプラスター」は,本件発明1の「石
灰を含有する白色成分」に,「二酸化チタン金紅石」は,同じく「無機の白色顔料」
に,「水酸化カルシウム」は,同じく「石灰」に,「メチルセルロース」は,同じく
「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」に,「ポリビニルアセテート・
コポリマー粉末をベースとするエチレンビニルアセテート」は,同じく「結合剤」
に,「水」は,同じく「水」に,それぞれ相当する。
このように,引用例1の実施例〔例1〕には,「石灰を含有する白色成分」と「水」
からなる「建築物被覆材料」に「他の添加物質」として,「無機の白色顔料」「結合
剤」「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」の全てを添加する組合せが
開示されているが,本件審決は,「他の添加物質」を単に「例示されたもの」と認定
し,上記成分の組合せからなる「添加物質」の組合せが開示されていることを看過
したという違法がある。
よって,本件審決は,取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
引用例1には,建築物被覆材料に用いる「他の添加物質」として,「顔料例
えば二酸化チタン,酸化チタン及び/又は硫化亜鉛」(本件発明1の「無機の白色顔
料」に相当),「より良い水保留に対する他の助剤」として「水溶性セルロースエー
テル」(同じく「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」に相当),「再分
散可能なプラスチック粉末又は水性分散液の形のプラスチック」(同じく「結合剤」
に相当),「着色料例えば有機顔料又は無機顔料」(同じく「無機の着色顔料」に相当)
及びその他の物質が例示されているが,引用例1を精査しても,これらの各物質の
全てを含有する「着色漆喰組成物」は,記載されておらず,また,当該組成物を用
いた「着色安定化方法」についての記載も示唆もない。
したがって,本件審決による引用発明及び本件相違点の認定に誤りはない。
引用例1の実施例〔例1〕には,原告が主張するように,本件発明1の「石
灰を含有する白色成分」に相当する水酸化カルシウムと「水」を含む建築物被覆材
料に「他の添加物質」として,本件発明1の「無機の白色顔料」に相当する二酸化
チタン金紅石,「結合剤」に相当する再分散可能なポリビニルアセテート-コポリマ
ー粉末をベースとするエチレンビニルアセテート及び「水酸基を有するノニオン系
の親水性高分子化合物」に相当するメチルセルロースを添加してなる建築物被覆材
料が記載されている。
しかしながら,引用例1には,以上のほかに,「他の添加物質」として無機の着色
顔料を含む多数の物質が記載されているものの,使用する優先順位や必須の組合せ
を示唆する記載はないから,いずれの添加物質も,対等に任意に選択して使用され
るものである。すなわち,上記各成分は,いずれも個々に独立して建築物被覆材料
に配合し得る添加物質であって,例示されたものの少なくとも1つを添加物質とし
て用いることは,示唆されているといえるが,これらをどのように選択して組み合
わせるかについては示されておらず,これら全部の組合せまで記載されているとは
いえない。
よって,原告の主張には,理由がない。
2取消事由2(本件相違点に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
本件審決は,引用例1には「他の添加物質」として例示されたもののうちの,
少なくとも1つを添加物質として用いることが示唆されているが,全部の組合せま
では記載されているとはいえず,当該例示されたものの中から,「無機の着色顔料」
「結合剤」「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」及び「無機の白色顔
料」に相当する全てのものを含有したものに特定して「着色漆喰組成物の着色安定
化」のための方法とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえないとする。
しかしながら,引用例1の実施例〔例1〕には,本件発明1の方法を構成す
る物質のうち,「無機の着色顔料」を除く全ての物質を組み合わせて用いられる構成
が開示されていることについては,当事者間に争いがない。しかるに,本件審決は,
上記構成が開示されていることを前提とした進歩性の判断をしなかったという違法
がある。
本件発明1は,方法の発明であるが,そこにいう方法は,「石灰を含有する
白色成分」,「無機の着色顔料」,「結合剤」,「水」,「水酸基を有するノニオン系の親
水性高分子化合物」及び「無機の白色顔料」を含有する「着色漆喰組成物」を組成
するということに尽きるのであって,被告が主張するような,①石灰と無機の白色
顔料を組み合わせて,これを白色のベースとする,②これに無機着色顔料で着色す
る,という2つの工程が含まれているものではない。また,被告が提出する証拠は,
本件発明の作用効果が格別顕著であることを立証するものではない。
他方,引用例1の「他の添加物質」は,単に個々の添加物質が例示されたもので
はなく,前記のとおり,引用例1の実施例〔例1〕には「石灰を含有する白色成分」
と「水」からなる「建築物被覆材料」に「他の添加物質」として「無機の白色顔料」,
「結合剤」及び「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」の全てを添加
する組合せが開示されている。なお,建築物被覆材料について需要者の求めに応じ
て色付けをすることは,当然の前提として想定されているし,これを塗料と扱って
も自然である。そして,各種物質や顔料を混合・配合して塗料を調整する場合,色
分かれ現象が起きないように工夫することは,塗料の分野において常識的な配慮で
ある(甲18)。
中でも,引用例1には,「セメント及び/又は石灰,充填剤及び水」からなる「建
築物被覆材料」に「他の添加物質」として「着色料例えば有機顔料又は無機顔料」
を添加することが記載されており,ここで「無機顔料」は,「着色料」の例示である
から,本件発明1の「無機の着色顔料」に相当するばかりか,引用例1には,「他の
添加物質」の添加について特に制限や規制を設けていないから,例示された「添加
物質」のうち任意のものを単独又は複数の組合せで添加される可能性が示されてい
る。したがって,引用例1には,「他の添加物質」として,「無機の白色顔料」「結合
剤」及び「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」の全てを添加する組
合せに,さらに「無機の着色顔料」を添加することが示唆されているといえる。
また,引用例2,甲14及び17には,いずれも周知の顔料である無機の白色顔
料(酸化チタン)と無機の着色顔料(カーボンブラック)を併用する灰色顔料が記
載されているから,引用例1に記載された「着色料例えば有機顔料又は無機顔料」
の添加という示唆に従い,引用例1の実施例〔例1〕の「石灰を含有する白色成分」
と「水」からなる「建築物被覆材料」に「他の添加物質」として,「無機の白色顔料」
「結合剤」「水を水酸基とするノニオン系の親水性高分子化合物」の組合せに,「無
機の着色顔料」であるカーボンブラックを添加することは,当業者が容易に想到で
きることである。また,甲18にも顔料の分散剤として水酸基を有するノニオン系
の親水性高分子化合物を使用することが記載されているから,このことは,業界に
おける常識であった。
さらに,引用例1の上記「着色料例えば有機顔料又は無機顔料」を添加するとの
記載には,「建築物被覆材料」にこれを添加して有色化(色付け)する,すなわち「着
色漆喰組成物」とする動機付けが示されている。なお,顔料により漆喰を色付けし
た着色漆喰の存在や(甲5,6,10),そのために無機の着色顔料が用いられてき
たことは,いずれも周知のことであるから,無機の着色顔料の添加により着色漆喰
組成物を得ることは,当業者が容易に想到できることである。
以上のとおり,当業者は,引用例1に基づき,引用例2及び着色漆喰に関す
る周知の知見から,本件発明1を容易に想到することができるし,本件発明1に「着
色安定化」という効果があったとしても,これは,当業者が容易に想到できる組合
せから生じる効果を確認したにすぎない。本件審決は,この点の判断を誤るもので
ある。
被告は,本件明細書の記載(【0007】【0008】【0011】【0022】)
から,本件発明1の特徴が,①石灰と無機の白色顔料を組み合わせて,これを白色
ベースとして無機着色顔料で着色すること,②「水酸基を有するノニオン系の親水
性高分子化合物を用いること,にあると主張する(甲29)。
しかしながら,上記①の石灰と無機の白色顔料(酸化チタン)との組合せは,公
知の方法であるし(引用例1),②も,周知の方法にすぎない(引用例1,甲17)。
本件審決は,本件発明2も,本件発明1にさらに構成を付加したものである
から,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないとする。
しかしながら,前記のとおり,本件発明1は,当業者が容易に想到できるもので
あるし,本件発明2による白色顔料と石灰との重量部の割合は,広範囲なもので臨
界的意義を有しない。
したがって,当業者は,本件発明1と同様に,本件発明2を容易に想到すること
ができたというべきであり,本件審決は,この点の判断を誤るものである。
〔被告の主張〕
原告は,本件発明1が着色漆喰組成物の組成方法であると主張するが,本件
発明1は,石灰,結合剤及び水を含有する漆喰組成物に配合した無機着色顔料の分
散性を改善し,着色を安定化するための方法として,①石灰と無機白色顔料を組み
合わせて,これを白色のベースとして無機着色顔料で着色すること,②水酸基を有
するノニオン系の親水性高分子化合物を用いること,を特徴とする「着色漆喰組成
物の着色安定化方法」であり,これにより,格別顕著な作用効果が得られるもので
ある。すなわち,本件発明1による着色漆喰組成物の着色安定化は,上記の各組成
物の全てを用いることによって達成されるものであって,本件発明1の課題は,色
付けではない。
しかるところ,引用例1及び2は,本件発明の技術的課題を何ら教示するもので
はなく,また,これを解決する方法についても記載も示唆もされていない。したが
って,仮にこれらから「着色漆喰組成物」が容易に想到できる組成であったとして
も,上記技術的課題を解決する手段として上記①及び②の構成を採用するという本
件発明1を容易に想到することはできないし,本件発明1の顕著な作用効果を予期
することはできない。
引用例1には,「石灰を含有する白色成分」と「水」を含む「建築物被覆材
料」に配合できる「他の添加物質」が複数例示されているが,これらを複数併用す
る場合の組合せについては,実施例〔例1〕等の記載があるほかには,特に記載も
示唆もされていないし,まして,無機白色顔料に無機着色顔料を組み合わせること
については,記載も示唆もされていない。そして,実施例〔例1〕は,「他の添加物
質」を複数併用する場合の組合せの一例を示しているが,ここでも,「無機白色顔料」,
「結合剤」及び「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」が開示されて
いるにすぎない。すなわち,実施例〔例1〕は,具体的に種々の「他の添加物質」
を組み合わせた引用例1に記載の建築物被覆材料の実施態様そのものであり,これ
に無機着色顔料などの「他の添加物質」を添加配合するための基本処方(ベース)
となるものではないから,これに無機着色顔料を組み合わせることについては,記
載も示唆もされていない。
しかも,引用発明の主成分である「セメント及び/又は石灰」は,それ自体が隠
蔽力や着色力を有しており,これに着色顔料を直接添加すれば色付けができ,あえ
て酸化チタンなどの白色顔料を添加配合する必要はない一方,樹脂を主成分とする
塗料は,隠蔽力及び着色力がないために,これを発揮させるために酸化チタンなど
の白色顔料を必須としており,さらにこれに着色顔料を添加することで,色付けを
するものである。すなわち,「セメント及び/又は石灰」に単に色付けをするのであ
れば,白色顔料は不要であって,この観点からも,引用例1の実施〔例1〕は,建
築物被覆材料の実施態様そのものであって,無機着色顔料を添加するためのベース
として開示・示唆されていないのは明らかであるし,これに無機着色顔料を添加す
る動機付けはない。
仮に,引用例1の実施〔例1〕に開示された建築物被覆材料に引用例2に記載の
カーボンブラックを添加することを当業者が容易に想到できたとしても,当該構成
を採用することによって水含有着色漆喰組成物の着色を安定化することができるこ
とを予測することはできない。なお,原告が援用する甲14及び17には,酸化チ
タンとカーボンブラックの併用については記載されていない。
白色ベースとして石灰と無機の白色顔料(酸化チタン)とを組み合わせるこ
とは,いずれの文献にも記載されていない。引用例1において,メチルセルロース
等の水溶性セルロースエーテルは,保水剤として使用されているのであって,分散
剤としての用途は記載されていないし,これは,甲17に記載のヒドロキシエチル
セルロースについても同じである。したがって,着色安定化のための分散剤として
「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」を用いることは,公知又は周
知の方法ではない。
仮に,これらが個々の方法として公知又は周知であったとしても,これらを組み
合わせることによって「石灰を含有する白色成分」,「無機の着色顔料」,「結合剤」
及び「水」を含有する「着色漆喰組成物」の色分かれを抑制し,着色を安定化する
という本件発明1の課題が解決できることは,本件優先権主張日当時,知られてい
なかったのであるから,この点に関する原告の主張は,失当である。
本件発明2は,本件発明1にさらに構成を付加したものであるから,本件発
明1が引用例1及び2等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので
あるとはいえない以上,臨界的意義の有無に関わりなく,本件発明2も,当業者が
容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第4当裁判所の判断
1本件発明について
本件発明は,前記第2の2に記載のとおりであるが,本件明細書(甲41に
添付のもの)には,本件発明について,おおむね次の記載がある。
ア本件発明は,水含有着色漆喰組成物の着色安定化方法に関する(【0001】)。
イ従来,漆喰の施工は,現場で原料である石灰と結合剤を水で混練りして材料
を調製するのが一般的であるため,材料調製時に,石灰粉末が周囲に飛散したり,
水を配合した時にままこが発生したりするという問題があるほか,石灰,結合剤及
び水の配合割合が,個々の左官業者の経験及び技量に応じて異なるため,施工者間
の格差が出やすく,一定した品質のものが得られないという問題もある(【000
3】)。また,近年,多彩な色に着色した着色漆喰が求められているが,着色剤は,
石灰中に均一に分散しにくく,混合しても色分かれが生じやすく,着色漆喰塗膜の
色むらの原因となることが指摘されている。さらに,石灰は,アルカリ性の高い物
質であるため,着色剤の安定性が悪く,容易に色褪せや色飛びしてしまい,塗膜の
色むらが助長されることも知られている。(【0004】)。
ウ本件発明は,このような問題を解決することを目的とする。具体的には,現
場で調合又は調色することなく直ちに使用できるように,あらかじめ水や着色剤を
配合して調製した漆喰塗材又は漆喰塗料を安定して供給するための方法を提供する
ことを目的とする(【0006】)。
エ本件発明の発明者は,漆喰塗材又は漆喰塗料の1つとして,石灰と結合剤に
加えて水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物を用いることによって,水
への固形分の分散性が向上し,沈殿や離水が有意に防止でき,経時的安定化を図る
ことができることを見いだした(【0007】)ほか,石灰に無機白色顔料を配合し,
これを白色ベースとして無機着色顔料で着色することによって漆喰組成物を均一に
着色することができ,しかも不均一な色飛びを抑制して色むらを生じない着色塗膜
が形成できることを見いだし,さらに,水酸基を有するノニオン系の親水性高分子
化合物を用いることによってその効果をより高めることができることを見いだした。
本件発明は,これらの知見に基づいて開発されたものである(【0008】)。
オ本件発明の石灰とは,具体的には酸化カルシウムを主成分とする生石灰及び
水酸化カルシウムを主成分とする消石灰などであり(【0012】),結合剤とは,具
体的には,酢酸ビニル/エチレン共重合体などである(【0014】)。本件発明で用
いられる水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物としては,具体的には,
メチルセルロースなどのセルロース誘導体があり(【0016】),石灰と併用して用
いられる白色顔料としては,酸化チタンや硫化亜鉛などの無機の白色顔料がある
(【0022】)。石灰と無機白色顔料を含有する白色成分を着色するのに用いられる
着色顔料としては,無機成分からなる白以外の有色顔料であれば特に制限されない
が,具体的には,カーボンブラックのほか,黒色,赤色又は黄色の各酸化鉄や群青
等の酸化金属からなる着色顔料などがある(【0024】)。
カ白色顔料の配合割合に特に制限はないが,漆喰組成物に含まれる石灰100
重量部に対して0.1ないし50重量部,好ましくは0.5ないし40重量部,よ
り好ましくは1ないし30重量部,更に好ましくは5ないし25重量部,より更に
好ましくは8ないし20重量部の範囲を例示することができる(【0023】)。
キ本件発明の実施例1及び2と,無機白色顔料等を含有しない比較例1ないし
3とを対比すると,本件発明の実施例1及び2では,いずれも離水が全く生じてお
らず,着色顔料の色分かれや色むらが全くなく,塗膜の色むらが全くなく,塗膜の
境目の色差が少なく,乾燥着色塗膜の色むらも全くなかった一方,比較例1ないし
3では,塗膜の色むらがあり,塗膜の境目の色差が大きいなどの結果が得られた(【0
072】~【0082】【表2】)。本件発明の実施例3ないし5でも,いずれも離水
が全く生じておらず,着色顔料の色分かれや色むらが全くなく,塗膜の色むらが全
くなく,塗膜の境目の色差が少ないという結果が得られた(【0084】【0085】
【表3】)。
ク本件発明の着色化法によれば,石灰,結合剤,着色顔料及び水を含有する色
漆喰組成物に着色顔料の分離による色分かれ(色むら)を有意に防止することがで
き,均質に着色した着色漆喰塗材又は着色漆喰塗料を得ることができる(【009
5】)ほか,本件発明の方法によれば,石灰を主成分として含む漆喰組成物及び着色
顔料を含む色漆喰組成物を水に経時的に安定して分散させることができるため,既
調合かつ調色済みの塗材又は塗料(一液型塗料)として提供することができる(【0
096】)。
(2)以上によれば,本件発明は,漆喰の施工時に現場で漆喰を調整することによ
り生じる問題や,着色漆喰に色飛びや色むらが生じるという課題を解決するために,
白色成分として石灰と無機の白色顔料を組み合わせて配合するとともに,着色顔料
として無機の着色顔料を配合し,さらに,水酸基を有するノニオン系の親水性高分
子化合物を配合するという方法を採用することで,調合及び調色済みの漆喰塗材又
は漆喰塗料を提供し,併せて色飛びや色むらを生じない着色漆喰(着色漆喰組成物
の着色安定化)を提供するという作用効果を有するものであるといえる。
2取消事由1(引用発明及び本件相違点の認定の誤り)について
引用例1の記載について
本件審決が認定した引用発明は,前記第2の3アに記載のとおりであるところ,
引用例1(甲1)は,「建築物被覆材料」という名称の発明に係る公開特許公報であ
って,そこには,おおむね次の記載がある。
ア特許請求の範囲:「セメント及び/又は石灰,充填材及び水より成る建築
物被覆材料において,該建築物被覆材料がサッカロース及び脂肪酸から成る1つ又
はそれ以上の水溶性エステルを乾燥物質に対して0.1~3重量%含有することを
特徴とする建築物被覆材料。」
イ石灰又はセメント結合性建築物被覆材料,特に仕上げプラスターの粉末状の
シリコン又は脂肪酸塩,例えばステアリン酸亜鉛を添加することで疎水化をするこ
とは,公知であるが,従前の疎水化剤は,材料が水と混捏する際に帯湿しにくいた
め,屋壁の十分な撥水性に必要であるよりも僅かな疎水化剤を使用することができ
るにすぎないし,建築物被覆材料の加工性は,添加物によって極めて悪くなる。
本発明の目的は,建築物被覆材料の製造及び加工を困難ならしめず,かつ,同時
に建築物保護材料の優れた疎水化を加工の後に惹起せしめる添加物質を示すことで
ある。
ウ本発明の添加剤は,原則的にはサッカロースの全ての水溶性脂肪酸エステル
が挙げられる。
この添加物質が挙げられる建築物被覆材料の例は,セメント及び/又は石灰含有
プラスター,殊に仕上げプラスター,モルタル,プライマー及び防水性塗装材があ
る。このような物質は,セメント及び/又は石灰,充填材及び水並びに場合により
多くの他の添加物質からなる。
水を除くこれらの成分から公知混合法によって均一な混合物を製造する。これは,
貯蔵可能である。水の添加は,建築物被覆材料を適用する少し前に始めて,例えば
建築現場で行う。
充填材としては,例えば,珪砂,石英粉末,カオリン等がある。
エ石灰及びセメントは,常用の製品,例えば,白色セメント,ポルトランドセ
メント,高炉セメント,アルミナセメント,空気硬化石灰,例えば白色石灰又はド
ロマイト石灰,カーバイト石灰,水硬石灰,水硬性又は高水硬性石灰及び/又はそ
の混合物で使用することができる。
オ添加物質としては,15重量%までの顔料,例えば二酸化チタン,酸化チタ
ン及び/又は硫化亜鉛が挙げられる。
殊によりよい水保留に対する他の助剤は,建築物被覆材料の乾燥物質に対して0.
01ないし0.5重量%の水溶性セルロースエーテル,例えばメチルセルロース若
しくは澱粉エーテル又はポリビニルアルコール並びにアニオン性又は非イオン性の
湿潤剤,例えばポリ燐酸塩,スルホン酸ナフタリン,アンモニウム及びナトリウム
アルリル酸塩又はそれらの混合物がある。
しばしば,建築物被覆材料に,乾燥物質に対して0.1ないし5重量%の量の再
分散可能なプラスチック粉末又は水性分散液の形のプラスチックをも添加する。こ
のようなプラスチック粉末又は分散液の例は,ビニルアセテートモノ-及び-コポ
リマー,例えばエチレン-ビニルアセテートコポリマー,ブタジェン-スチロール
-コポリマー,アクリル酸エステルホモ-又は-コポリマー又はそれらの混合物が
ある。
他の添加剤は,抗起泡剤(例えば,シリコン油),0.1ないし0.5重量%のア
ルコール及び炭化水素,殺菌剤(例えば,0.01ないし2重量%の量のフェノー
ル-若しくはクレゾール誘導体,水銀-若しくは有機錫化合物),着色料(例えば,
有機顔料又は無機顔料),凍結保護剤(例えば,1ないし5重量%の量のメタノール
及びグリコール)がある。
カ実施例〔例1〕
石灰-セメントプラスターを次の配合により製造する:
粒径0.2~3.5mmの珪砂37.00kg
粒径0.2~0.7mmの珪砂38.00kg
粒径0.1~0.4mmの珪砂25.00kg
粒径40μ以下の石英粉末8.00kg
粒径約2μのカオリン2.00kg
二酸化チタン金紅石4.00kg
白色セメント4.00kg
水酸化カルシウム8.00kg
メチルセルロース0.02kg
再分散可能なポリビニルアセテート-コポリマー粉末をベースとするエチレンビ
ニルアセテート並びに異なる量の
a)モノパルミチン酸サッカロース
b)ジステアリン酸サッカロース
c)ステアリン酸亜鉛
d)粉末状シリコン-建築物保護剤3.00kg
このプラスターを水(約20l)と加工可能な稠度になるまで撹拌し,撹拌時間
を測定する。この際,湿潤性質を評価した。引続き,このプラスターを前もって湿
らしたガスコンクリートプレートに塗布し,加工性性質を判定した。撥水性性質を
実験するために,プラスターの老化3日の後に水滴実験及び吸収実験を実施したと
ころ,a)又はb)の添加率が高いものについては良好な結果を得たが,これらを
添加しないものの結果は,良好ではなかった(表1)。
(2)引用例1に記載の発明について
以上によれば,引用例1には,セメント又は石灰結合性建築物被覆材料の疎水性
を向上させるために従前行われていた添加剤は大量の添加ができず,また,添加に
よって建築物被覆材料の加工性が極めて悪くなるという課題を解決するために,当
該添加剤としてサッカロースの水溶性脂肪酸エステルを採用したものであって,こ
れにより良好な加工性性質及び撥水性性質を備えるという作用効果を有する発明が
記載されているといえる。
より具体的には,引用例1には,サッカロースの水溶性脂肪酸エステルのほかに,
①セメント及び/又は石灰,充填材及び水並びに場合により多くの他の添加物質か
らなる建築物被覆材料であって(前記(1)ア及びウ),②石灰及びセメントは,常用
の製品を使用することができ(前記エ),③添加物質としては,顔料(例えば,
二酸化チタン),よりよい水保留に対する他の助剤(例えば,メチルセルロース),
乾燥物質に対して再分散可能なプラスチック粉末又は水性分散液の形のプラスチッ
ク(例えば,エチレン-ビニルアセテートコポリマー)のほかに,他の添加剤とし
て,着色料(例えば,有機顔料又は無機顔料)等がある(前記オ)と記載されて
おり,実施例〔例1〕として,石灰(水酸化カルシウム)及び水等のほかに,二酸
化チタン金紅石,メチルセルロース及び再分散可能なポリビニルアセテート-コポ
リマー粉末をベースとするエチレンビニルアセテート等を配合するが,着色料(例
えば,無機顔料)を配合しないものが記載されている(前記カ)といえる。
そして,本件審決は,以上のうち,本件発明1との対比に必要不可欠とまではい
えないサッカロースの水溶性脂肪酸エステルを含有する点を除き,引用例1の記載
に基づいて引用発明を認定しているから,本件発明1と対比するためにされた本件
審決による引用発明の認定は,それ自体,誤りであるとはいえず,したがって,本
件相違点の認定も,誤りがあるとはいえない。
(3)原告の主張について
原告は,引用例1の実施例〔例1〕には,本件発明1のうち「無機の着色顔料」
を除く全ての物質からなる組合せが開示されているところ,本件審決がこの点を看
過している違法があると主張する。
しかしながら,引用例1の実施例〔例1〕に記載されているものは,石灰及び水
等に対して,「他の添加物質」として引用例1にも具体例として記載された二酸化チ
タン金紅石,水酸化カルシウム,メチルセルロース及び再分散可能なポリビニルア
セテート-コポリマー粉末をベースとするエチレンビニルアセテート等を含有する
建築物被覆材料であって,本件審決が認定した引用発明に包含されるものである。
したがって,原告の上記主張は,それ自体失当であり,採用できない。
3取消事由2(本件相違点に係る判断の誤り)について
引用発明に基づく本件発明1の容易想到性について
ア本件審決による引用発明及び本件相違点の認定は,前記2(2)に説示のとおり
誤りであるとはいえないところ,引用発明及び本件発明は,いずれも石灰等を使用
した建築物等の被覆材料に関するものである点で技術分野を同一にしている。
イしかしながら,引用発明は,前記2(2)に説示のとおり,セメント又は石灰結
合性建築物被覆材料の疎水性を向上させるために従前行われていた添加剤は大量の
添加ができず,また,添加によって建築物被覆材料の加工性が極めて悪くなるとい
う課題を解決するものであり,前記2(1)ウに記載のとおり,施工現場で加工するこ
とが想定されているものであるのに対し,本件発明は,前記1(2)に説示のとおり,
漆喰の施工時に現場で漆喰を調整することにより生じる問題や,着色漆喰に色飛び
や色むらが生じるという課題を解決するものであって,引用発明と本件発明とでは,
解決すべき課題を大きく異にしているといえる。
ウまた,引用発明は,前記2(1)ウ及び(2)に説示のとおり,石灰及び水等に加
えて,「場合により多くの他の添加物質からなる」建築物被覆材料であって,引用例
1に当該他の添加物質として列記されている顔料(酸化チタン等),水保留に対する
他の助剤,プラスチック及び着色料等は,いずれもあくまでも石灰及び水等に対し
て「場合により」添加されるというものであるにすぎない。したがって,引用例1
には,石灰及び水等に加えて,無機の白色顔料,水保留に対する他の助剤,プラス
チック及び無機の着色顔料の全てを組み合わせて配合した建築物被覆材料について
は記載がなく,この点を示唆する記載も見当たらないというほかない。
また,引用例1の実施例〔例1〕は,前記2(1)カに記載のとおり,石灰及び水等
のほかに,無機の白色顔料(二酸化チタン金紅石),水酸基を有するノニオン系の親
水性高分子化合物(メチルセルロース)及び結合剤(再分散可能なポリビニルアセ
テート-コポリマー粉末をベースとするエチレンビニルアセテート)等を含有する
が,着色料(無機の着色顔料)を含有していないものであって,本件発明1の方法
から無機の着色顔料を除いた全ての物質を配合したものであるといえる。しかしな
がら,上記のとおり,引用例1には,石灰及び水等に加えて,無機の白色顔料,水
保留に対する他の助剤,プラスチック及び無機の着色顔料の全てを組み合わせて配
合した建築物被覆材料については記載も示唆もないから,上記実施例〔例1〕は,
石灰及び水等に対して,上記の各物質が添加物質として選択された結果が記載され
ているにとどまり,当該実施例〔例1〕の記載があるからといって,それに加えて,
更に無機の着色顔料を添加することについての示唆があるものとはいえない。
エ引用例2は,「酸化チタン~物性と応用技術」と題する文献の抜粋であって,
そこには,酸化チタン工業の歴史,酸化チタンが白色顔料として建物内外壁や建造
物等の塗装等に用いられてきたこと,白色塗料としての酸化チタン顔料等と灰色塗
料としてのカーボンブラックとを混合した場合の着色力及び隠蔽力を測定した結果
等が記載されている。加えて,甲16は,「処理顔料」という名称の発明に係る公開
特許公報(特開平9-183919号)であり,甲17は,「着色顔料組成物及びそ
の製造方法」という名称の発明に係る公開特許公報(特開平5-59297号)で
あって,そこには,酸化チタンを他の無機の着色顔料等と混合して製造される顔料
についての記載がある。甲18は,「塗料のおはなし」と題する文献(昭和61年2
月24日刊行)であって,そこには,白色チタンとカーボンブラックとを混合して
灰色の塗料を製造することなどが記載されている。甲19は,「これだけは知ってお
きたい塗装工事の知識」と題する文献(昭和57年4月5日刊行)であって,そ
こには,二酸化チタンと無機の着色顔料を配合した顔料についての記載がある。
以上によれば,無機の白色顔料である酸化チタンに無機の着色顔料を含有させる
ことで着色塗料を製造することは,本件優先権主張日当時,当業者に周知の技術で
あったものと認められる。
他方,甲5は,「土壁・左官の仕事と技術」と題する文献(平成13年2月20日
刊行)の抜粋であって,そこには,セメント又は漆喰に着色のために着色顔料を使
用することが記載されている。また,甲10は,「無機質仕上げ材組成物及びそれを
用いた工法」という名称の発明に係る公開特許公報(特開平7-196355号)
であり,甲11は,「壁材及びその施工方法」という名称の発明に係る公開特許公報
(特開2000-96799号)であるが,そこには,着色顔料等により着色され
た漆喰についての記載がある。
以上に加えて,漆喰及び無機の着色顔料がいずれも古くから使用されていること
(甲6,13参照)を併せ考えると,漆喰に無機の着色顔料を配合することで着色
をすることも,本件優先権主張日当時,当業者に周知の技術であったものと認めら
れる。
しかしながら,引用例1には,前記ウに説示のとおり,石灰及び水等に加えて無
機の白色顔料及び無機の着色顔料等の全てを組み合わせて添加することについての
記載も示唆もないから,引用発明にこれらの各周知技術を適用する動機付けが見当
たらないばかりか,上記の各周知技術は,それぞれ,塗料又は漆喰の調色のために
無機の白色顔料を配合し又は漆喰に無機の着色顔料を配合するというものであっ
て,このようにして着色された塗料又は漆喰に対して,当該各周知技術を相互に組
み合わせることで,更に石灰(漆喰)又は無機の白色顔料を配合し,引用発明と相
俟って本件発明1の本件相違点に係る構成とすることについての示唆又は動機付け
を有するものではない。
オさらに,引用発明は,前記イに説示のとおり,施工現場で加工することが想
定されているものであって,良好な加工性性質及び撥水性性質を備えるという作用
効果を有するものであるのに対し,本件発明は,前記1(2)に説示のとおり,調合及
び調色済みの漆喰塗材又は漆喰塗料を提供し,併せて色飛びや色むらを生じない着
色漆喰(着色漆喰組成物の着色安定化)を提供するという作用効果を有するもので
あるから,本件発明の作用効果は,引用発明の作用効果とは異質のものであって,
引用発明から当業者が直ちに予測可能なものとはいえない。
(2)原告の主張について
ア以上に対して,原告は,本件審決には,本件発明1の方法を構成する物質の
うち,「無機の着色顔料」を除く全ての物質が組み合わせて用いられる引用例1の実
施例〔例1〕を前提とした判断をしていない違法がある旨を主張する。
しかしながら,前記ウに説示のとおり,引用例1には,石灰及び水等に加えて,
無機の白色顔料,水保留に対する他の助剤,プラスチック及び着色顔料の全てを組
み合わせて添加するということについては記載も示唆もないから,上記実施例〔例
1〕は,石灰及び水等に対して,上記の各物質が添加物質として選択された結果が
記載されているにとどまり,当該実施例〔例1〕の記載があるからといって,それ
に加えて,無機の着色顔料を添加することについての示唆があるものとはいえない。
したがって,原告の上記主張は,採用できない。
イ原告は,引用例1には,「石灰を含有する白色成分」と「水」からなる「建築
物被覆材料」に「他の添加物質」として「無機の白色顔料」,「結合剤」及び「水酸
基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」の全てを添加する組合せが開示され
ており,また,建築物被覆材料について需要者の求めに応じて色付けをすることは,
当然の前提として想定されている旨を主張する。
しかしながら,前記ウに説示のとおり,引用発明は,石灰及び水等に加えて,
「場合により多くの他の添加物質からなる」建築物被覆材料であって,無機の白色
顔料又は無機の着色顔料は,あくまでも石灰及び水等に対して「場合により」添加
されるというものにすぎないから,無機の白色顔料及び無機の着色顔料等の全てを
組み合わせて添加する方法が開示されているとはいえず,また,引用例1の記載に
基づいて着色を施すのであれば,白色である石灰及び水等に対する添加物質として,
引用例1に記載のある着色顔料を添加すれば足りるのであって,引用例1の記載に
基づきつつ,これに加えて無機の白色顔料を添加すべき理由ないし必然性は見当た
らないばかりか,引用例1には,その旨の記載も示唆もない。
したがって,原告の上記主張は,採用できない。
ウ原告は,無機の白色顔料と無機の着色顔料を併用する塗料や,顔料により色
付けをした着色漆喰が存在することから,当業者が引用発明から本件発明1を容易
に想到できた旨を主張する。
しかしながら,前記(1)ウに説示のとおり,引用例1には,石灰及び水等に加えて
無機の白色顔料及び無機の着色顔料等の全てを組み合わせて添加することについて
の記載も示唆もないから,引用発明にこれらの各周知技術を適用する動機付けが見
当たらないばかりか,原告主張に係る各周知技術は,無機の白色顔料を配合したも
の又は漆喰に無機の着色顔料を配合したものに対して,更に石灰(漆喰)又は無機
の白色顔料を配合することについての示唆又は動機付けを有するものではない。
したがって,原告の上記主張は,採用できない。
小括
以上のとおり,引用発明と本件発明1とは,技術分野を同じくするものの,解決
すべき課題を大きく異にしており,引用例1には,石灰及び水等に加えて,本件発
明1の本件相違点に係る構成の全てを組み合わせて添加することについては記載も
示唆もなく,引用発明に対して,塗料又は漆喰の調色のために無機の白色顔料を配
合し又は漆喰に無機の着色顔料を配合するという本件優先権主張日当時の各周知技
術を適用する動機付けが見当たらず,また,当該各周知技術により着色された塗料
又は漆喰に対して,当該各周知技術を相互に組み合わせることで,更に石灰(漆喰)
又は無機の白色顔料を配合し,引用発明と相俟って本件発明1の本件相違点に係る
構成とすることについての示唆又は動機付けを有するものではないばかりか,本件
発明1の作用効果は,引用発明から当業者が直ちに予測可能なものとはいえない。
よって,本件発明1は,当業者が引用発明から容易に想到することができたもの
とは認められず,これと判断を同じくする本件審決に誤りはない。
本件発明2について
以上のとおり,本件発明1は,当業者が引用発明から容易に想到することができ
たものとは認められないから,当業者は,本件発明1に他の構成を付加した本件発
明2を容易に想到することができたものとは認められず,これと判断を同じくする
本件審決に誤りはない。
4結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官土肥章大
裁判官井上泰人
裁判官荒井章光

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