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主文
1本件各訴えのうち処分行政庁がした北海道労働委員会第40
期労働者委員の任命処分の取消しを求めるものをいずれも却下
する。
2原告らのその余の訴えに係る請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1処分行政庁が平成24年12月1日付けでした北海道労働委員会第40期委
員の任命処分のうち別紙2の名簿の労働者委員欄記載の各人に対する部分を取
り消す。
2被告は,原告北海道労働組合総連合に対し,100万円及びこれに対する平
成24年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告は,原告北海道勤労者医療協会労働組合,原告道東勤労者医療協会労働
組合,原告札幌地区労連・ローカルユニオン結及び原告全日本建設交運一般労
働組合北海道本部に対し,それぞれ100万円及びこれに対する平成24年1
2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告は,原告X1,原告X2,原告X3及び原告X4に対し,それぞれ10
0万円及びこれに対する平成24年12月1日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,北海道労働委員会(以下「道労委」という。)第40期労働者委員
の候補者の推薦をした労働組合等及びその候補者である原告らが,処分行政庁
が平成24年12月1日付けでした上記労働者委員の任命処分(以下「本件任
命処分」という。)は,我が国に2系統存在する労働組合のうち日本労働組合
総連合会(以下「連合」という。)の系統に属する日本労働組合総連合会北海
道連合会(以下「連合北海道」という。)に加盟する労働組合の推薦を受けた
候補者のみを労働者委員に任命しているところ,これは,もう一つの系統であ
る全国労働組合総連合(以下「全労連」という。)の系統に属する原告北海道
労働組合総連合(以下「原告道労連」という。)に加盟する労働組合であるそ
の余の原告労働組合らの推薦を受けた候補者である原告X1らを排除し,原告
道労連及びこれに加盟する労働組合とその組合員を差別するものであると主張
し,本件任命処分の取消しを求めるとともに,本件任命処分によって団結権の
侵害及び社会的信用と名誉の毀損という無形損害又は精神的苦痛を被ったと主
張し,国家賠償法1条1項の規定に基づいて,それぞれ100万円の損害賠償
及びこれに対する本件任命処分の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払を求める訴えを併合提起した(行政事件訴訟法16条
1項の請求の客観的併合)事案である。
1法令の定め等
本件に関係する法令の定め等は,別紙3に記載のとおりである。以下,別紙
3の3に記載の昭和24年7月29日労働省発労第54号労働次官発各都道府
県知事宛「地方労働委員会の委員の任命手続について」(乙2)を「54号通
牒」という。
2前提事実
(1)当事者等
ア原告ら
(ア)原告道労連は,平成元年11月26日,全労連のローカルセンター
として北海道の労働組合をもって結成された労働組合である。
(イ)原告北海道勤労者医療協会労働組合(以下「原告北海道勤医労」と
いう。)は,札幌市に本部を置く社団法人北海道勤労者医療協会及びそ
の関連の医療機関,薬局等で働く看護師,薬剤師,介護職員,事務職員
等で組織された単位労働組合であり,原告道労連に加盟している。
原告X1は,昭和55年9月から平成17年9月まで原告北海道勤医
労本部執行委員長を,平成3年8月から平成17年8月まで原告道労連
議長を,それぞれ務めた者であり,原告北海道勤医労から道労委第40
期労働者委員の候補者としての推薦を受けた。(甲1の1)
(ウ)原告道東勤労者医療協会労働組合(以下「原告道東勤医労」とい
う。)は,医療法人道東勤労者医療協会等で働く労働者で組織された単
位労働組合であり,釧路市に事務所を置き,原告道労連に加盟している。
原告X2は,本件任命処分の当時,原告道東勤医労執行委員長及び北
海道医療労働組合連合会執行委員長であった者であり,原告道東勤医労
から道労委第40期労働者委員の候補者としての推薦を受けた。(乙1)
(エ)原告札幌地区労連・ローカルユニオン結(以下「原告ローカルユニ
オン結」という。)は,産業や業種,企業,雇用形態を問うことなく,
札幌圏で働く労働者で組織された単位労働組合であり,原告道労連と同
一の場所に事務所を置き,原告道労連に加盟している。
原告X3は,本件任命処分の当時,原告道労連執行委員・労働相談室
長,原告ローカルユニオン結副執行委員長,全国自動車交通労働組合総
連合会北海道地方連合会副議長及び明星自動車労働組合副執行委員長で
あった者であり,原告ローカルユニオン結から道労委第40期労働者委
員の候補者としての推薦を受けた。(甲1の2)
(オ)原告全日本建設交運一般労働組合北海道本部(以下「原告建交労北
海道本部」といい,原告北海道勤医労,原告道東勤医労及び原告ローカ
ルユニオン結と併せて「原告北海道勤医労ら」という。また,原告道労
連と原告北海道勤医労らとを併せて「原告道労連ら」という。)は,北
海道の建設,交通及び運輸関連の職場を始めとして,産業,業種を問う
ことなく,中小の事業所で働く労働者で組織された労働組合であり,原
告道労連に加盟している。
原告X4(以下,原告X1,原告X2及び原告X3と併せて「原告X
1ら」という。)は,本件任命処分の当時,原告道労連事務局長,原告
建交労北海道本部特別執行委員,国民春闘北海道共闘委員会事務局長及
び全労連幹事であった者であり,原告建交労北海道本部から道労委第4
0期労働者委員の候補者としての推薦を受けた。(甲1の3)
イ処分行政庁は,道労委を所轄するものであり,労働組合法19条の12
第3項の規定により,労働組合の推薦に基づいて道労委の労働者委員を任
命する権限を有している。
(2)本件任命処分に至る経緯
ア我が国の労働界の再編
我が国の労働組合は,平成元年まで,ナショナルセンターである日本労
働組合総評議会(以下「総評」という。),全日本労働総同盟(以下「同
盟」という。)及び中立労働組合連絡会議(以下「中立労連」という。)
の系統に組織されてきたところ,同年の再編により,ナショナルセンター
である連合,全労連及び全国労働組合連絡協議会の系統に組織された。原
告道労連は,同年に,連合北海道は,平成2年に,それぞれ全労連又は連
合のローカルセンターとして北海道の労働組合をもって結成された。平成
24年当時,北海道の労働組合数は3399組合,組合員数の合計は34
万6085人であり,そのうち,連合北海道に属する組合員数は25万7
095人(全体の74.3%),原告道労連に属する組合員数は2万09
75人(同6.1%)である。
イ道労委の労働者委員の任命状況
平成元年の労働界の再編までは,道労委の労働者委員は,ナショナルセ
ンターのいずれからも任命されていた。平成元年の労働界の再編後は,平
成2年の第29期以降12期24年連続して連合北海道の系統に属する労
働組合の推薦を受けた候補者が労働者委員に任命されており,他の系統に
属する労働組合の推薦を受けた候補者は任命されていない。
ウ先行の訴えの提起とそれに対する判決の言渡し1
原告道労連は,その系統に属する労働組合らと共に,当庁に対し,道労
委第37期労働者委員の任命処分(以下「第37期任命処分」という。)
の取消し等を求める訴え(当庁平成19年(行ウ)第17号事件)を提起し
た。当庁は,平成20年11月17日,上記訴えについて,取消しの訴え
を却下するとともに,それによって生じた損害の賠償を求める国家賠償請
求を棄却する判決の言渡しをした。原告道労連ほかは,そのうち国家賠償
請求を棄却した部分について,控訴(札幌高等裁判所平成20年(行コ)第
26号事件)を提起し,札幌高等裁判所は,平成21年6月25日,上記
控訴をいずれも棄却する判決(以下「第37期判決」という。甲2)の言
渡しをした。この判決は,特定の系統に属する労働組合の推薦を受けた候
補者を労働者委員に選任することを必要とする特段の事情が認められない
にもかかわらず,この系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみが
労働者委員に選任されることが繰り返された場合には,他の系統に属する
労働組合の推薦を受けた候補者を労働者委員から排除することを意図して
労働者委員が選任されているという推認が働くこともあり得るといわなけ
ればならないと判示しつつ,その訴訟に顕れた事実のみからでは,処分行
政庁が意図的に連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者
を労働者委員に任命し,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受け
た候補者を労働者委員の任命から排除していたことまでを推認することは
困難であるといわざるを得ないとして,第37期任命処分に処分行政庁の
裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったということはできないとし,国
家賠償法上の違法性を否定して,原判決を相当としたものである。
エ先行の訴えの提起2
原告道労連は,その系統に属する労働組合らと共に,当庁に対し,道労
委第39期労働者委員の任命処分(以下「第39期任命処分」という。)
の取消し等を求める訴え(当庁平成23年(行ウ)第20号事件)を提起し
た。
(3)本件任命処分
ア道労委第40期労働者委員の候補者の推薦を求める公告
処分行政庁は,平成24年9月13日,労働組合法施行令21条1項の
規定により,道労委の第40期労働者委員及び使用者委員の候補者の推薦
を求める公告をした。そのうち,労働者委員の候補者の推薦に係る内容は,
次のとおりである。(乙3)
(ア)推薦資格を有する労働組合
北海道の区域内のみに組織を有する労働組合であって,
労働組合法2条及び5条2項の規定に適合するもので
あること。
(イ)推薦手続上記(ア)の労働組合が労働者委員の候補者の推薦をしよ
うとするときは,次の事項が記載された推薦書を提出
すること。推薦書の提出に当たっては,労働組合法施
行令21条3項の規定により,労働組合法2条及び5
条2項の規定に適合する労働組合であることの道労委
の資格証明書を添付すること。
氏名
年齢
所属労働組合の所在地及び名称並びに所属労働組合に
おける地位
所属会社(事業所)名及び所属会社(事業所)におけ
る地位
所属労働組合構成員数
加盟上級団体
備考添付する履歴書には,学歴,職歴,賞罰等を記
載漏れのないよう詳細に記入すること。
(ウ)任期任命の日から2年間
(エ)被推薦資格を有する者
労働組合法19条の12第6項,19条の4第1項に
規定する欠格条項に該当しない者であること。
選任時の年齢が満69歳以下であること(平成18年
1月総務部人事課「行政委員会委員等に関する選任基
準について」(以下「行政委員会委員選任基準」とい
う。)1項)。
道労委における在任期間が10年以内であること(行
政委員会委員選任基準2項)。
(オ)推薦期間平成24年9月13日から同年10月12日まで
イ原告北海道勤医労らの推薦
原告道労連は,平成24年9月20日に開催した執行委員会において,
道労委第40期労働者委員の候補者として原告X1らの推薦をすることを
確認した。これを受け,原告北海道勤医労は原告X1について,原告道東
勤医労は原告X2について,原告ローカルユニオン結は原告X3について,
原告建交労北海道本部は原告X4について,それぞれ同年10月4日付け
推薦書を被告経済部労働局雇用労政課に提出し,同日(原告道東勤医労に
ついては同月12日),道労委第40期労働者委員の候補者として原告X
1らの推薦をした。原告北海道勤医労らは,上記各推薦に先立ち,道労委
において,労働組合法2条及び5条2項の規定に適合するものであること
に関する審査を受け,同年9月28日(原告道東勤医労については同年1
0月12日),適合する旨の決定を得た。なお,原告道労連は,上記各規
定に適合するものであることに関する審査を受けておらず,道労委の労働
者委員の候補者を推薦していない。また,道労委第40期労働者委員につ
いては,定数7名のところ,原告北海道勤医労らを含めて九つの労働組合
から原告X1らを含めて16名の候補者の推薦があった。原告北海道勤医
労らがした原告X1らの推薦の内容は,次のとおりである。(甲1の1な
いし3,乙1)
(ア)原告北海道勤医労がした原告X1の推薦の内容
a年齢67歳
b所属労働組合の所在地及び名称並びに所属労働組合における地位
札幌市*区*条*丁目
北海道医療一般労働組合組合員
c所属会社(事業所)名及び所属会社(事業所)における地位
なし
d所属労働組合構成員数106人
e加盟上級団体
北海道医療労働組合連合会
(イ)原告道東勤医労がした原告X2の推薦の内容
a年齢56歳
b所属労働組合の所在地及び名称並びに所属労働組合における地位
道東勤労者医療協会労働組合執行委員長
c所属労働組合構成員数417名
d加盟上級団体
北海道医療労働組合連合会
釧路地区労働組合総連合
(ウ)原告ローカルユニオン結がした原告X3の推薦の内容
a年齢63歳
b所属労働組合の所在地及び名称並びに所属労働組合における地位
札幌市*区*条*丁目
札幌地区労連・ローカルユニオン結副執行委員長
c所属会社(事業所)名及び所属会社(事業所)における地位
なし
d所属労働組合構成員数500名
e加盟上級団体
札幌地区労働組合総連合
(エ)原告建交労北海道本部がした原告X4の推薦の内容
a年齢37歳
b所属労働組合の所在地及び名称並びに所属労働組合における地位
札幌市*区*条*丁目
全日本建設交運一般労働組合北海道本部特別執行委員
c所属会社(事業所)名及び所属会社(事業所)における地位
なし
d所属労働組合構成員数2840人
e加盟上級団体
全日本建設交運一般労働組合
北海道労働組合総連合
ウ原告道労連の要請
原告道労連は,平成24年11月19日,処分行政庁宛てに「第40期
北海道労働委員会労働者委員の公正任命を求める要請書」を提出し,連合
北海道に道労委の労働者委員を独占させる偏向任命を是正し,労働者委員
を公正に任命するように求める要請をした。
エ本件任命処分
処分行政庁は,平成24年12月1日,別紙2の北海道労働委員会第4
0期委員名簿の労働者委員欄記載の各人(いずれも連合北海道の系統に属
する労働組合の推薦を受けた候補者である。)に対し,道労委第40期労
働者委員に任命する本件任命処分をした。原告X1らは,本件任命処分に
よって労働者委員に任命されなかった。道労委第40期委員の任命に係る
事務は,被告経済部労働局雇用労政課長であったαが担当していたところ,
本件任命処分に係る決定書の記載によれば,本件任命処分の理由の要旨は,
次のとおりである。(乙4,乙6の1及び2)
(ア)選任の考え方
労働委員会制度を規定した法令及び54号通牒の趣旨,労働界の現状,
労働委員会が果たすべき役割を踏まえて,候補者を総合的に判断し,適
任者を選任する。労働組合法19条の12第6項,19条の4第1項に
規定する欠格条項に該当しない者であること,選任時の年齢が満69歳
以下であること,道労委における在任期間が10年以内であることを被
推薦資格とする。
(イ)推薦された候補者の氏名,所属労働組合等
原告X1ら(4名)のほかに道労委第40期労働者委員の候補者とし
て推薦された者(12名)のうち,本件任命処分によって労働者委員に
選任されたもの(7名)の氏名,所属労働組合及び道労委の労働者委員
に在任していた期間は,次のとおりである。道労委第40期労働者委員
の候補者として推薦された者としては,このほかに5名が存在する。以
下,これらの候補者を,それぞれ「A候補」ないし「E候補」という。
原告X1ら及びA候補ないしE候補は,道労委の労働者委員に在任して
いた期間を有しない新任候補者である。
aβ(以下「β候補」という。)
所属労働組合太平工業室蘭労働組合
在任期間平成18年12月から平成24年11月まで
bγ(以下「γ候補」という。)
所属労働組合UIゼンセン同盟北海道支部
在任期間平成16年11月から平成24年11月まで
cδ(以下「δ候補」という。)
所属労働組合連合北海道
在任期間平成16年11月から平成24年11月まで
dε(以下「ε候補」という。)
所属労働組合北海道電力関連産業労働組合
在任期間平成20年12月から平成24年11月まで
eζ(以下「ζ候補」という。)
所属労働組合連合北海道渡島地域協議会等
在任期間平成20年12月から平成24年11月まで
fη(以下「η候補」という。)
所属労働組合日本郵政グループ労働組合北海道地方本部
在任期間なし(新任候補者)
gθ(以下「θ候補」という。)
所属労働組合全日本運輸産業労働組合北海道地方連合会
在任期間平成20年12月から平成24年11月まで
(ウ)選任方法
次のとおり選任する。
a候補者が欠格条項に該当しないこと,推薦基準を満たしていること
を確認する。
b労働委員会制度を規定した法令及び54号通牒の趣旨,労働界の現
状,労働委員会が果たすべき役割を踏まえて,候補者から,北海道の
労働者の代表として円滑で的確な職責の遂行を期待することができる
者について,総合的に判断し,適任者を選任する。
c候補者の中に,再任に該当する者が存在する場合には,委員として
の経験,紛争解決努力などの職責の遂行状況の観点も加味する。
(エ)選任に当たり勘案すべき主な項目の検討
a加盟上級団体
平成23年6月30日現在の各系統に属する労働組合の組合員数は,
連合北海道が26万5388人(構成比75.0%),原告道労連が
2万1652人(同6.1%),その他(無加盟組合を含む。)6万
7104人(同18.9%)であり,加盟上級団体別定数比は,連合
北海道系が6.5名(75.0%÷(75.0%+6.1%)×7名),
原告道労連系が0.5名(6.1%÷(75.0%+6.1%)×7名)
である。なお,候補者16名中,連合北海道系の候補者は12名,原
告道労連系の候補者は4名である。
b地域(所在地)
労働者委員の候補者がいる地域の組合員数は,石狩振興局が18万
6721人(構成比52.8%),胆振振興局が2万8107人(同
8.0%),上川振興局が2万6301人(同7.4%),渡島振興局
が2万2302人(同6.3%),釧路振興局が1万2992人(同
3.7%)であり,候補者がいる地域の中での地域別定数比は,石狩
振興局が4.7名,胆振振興局が0.7名,上川振興局が0.7名,渡
島振興局が0.6名,釧路振興局が0.3名である。なお,候補者16
名中,石狩振興局の候補者は11名,胆振振興局の候補者は2名,上
川振興局の候補者は1名,渡島振興局の候補者は1名,釧路振興局の
候補者は1名である。
c産業分野
労働者委員の候補者がいる産業の組合員数は,卸売業・小売業が7
万6961人(構成比21.8%),公務が5万1940人(同14.
7%),運輸業・郵便業が3万4311人(同9.7%),医療・福
祉が2万5558人(同7.2%),複合サービス事業が2万220
0人(同6.3%),製造業が2万4505人(同6.9%),建設業
が1万9428人(同5.5%),電気・ガス・熱供給・水道業が9
362人(同2.6%)であり,候補者がいる産業の中での産業分野
別定数比は,卸売業・小売業が2.1名,公務が1.4名,運輸業・郵
便業が1.0名,医療・福祉が0.7名,複合サービス事業が0.6名,
製造業が0.5名,建設業が0.4名,電気・ガス・熱供給・水道業が
0.3名である。なお,候補者16名中,卸売業・小売業の候補者は
4名,公務の候補者は1名,運輸業・郵便業の候補者は5名(2名は
複合サービス事業と,1名は建設業と,それぞれ重複している。),
医療・福祉の候補者は2名,複合サービス事業の候補者は2名,製造
業の候補者は2名,建設業の候補者は1名,電気・ガス・熱供給・水
道業の候補者は2名である。
d上記三つの要素を踏まえて想定される選任の組合せは,次のとおり
である。なお,本件任命処分に係る決定書(乙4)のケース2の表の
下には,「上記組合せの中で,連合,道労連の組合せは,(6名:1
名)又は(7名:0名)」という手書きの書込みがある。
(a)ケース1
石狩振興局から4名,その他の振興局から3名を選任する場合に
は,ⅰ)石狩地域(4.7名)の卸売業・小売業(2.1名)から2名,
ⅱ)石狩地域の運輸業・郵便業(1.0名)から1名,ⅲ)石狩地域の
医療・福祉(0.7名),複合サービス事業(0.6名)又は建設業
(0.4名)のいずれか一つから1名,ⅳ)胆振地域(0.7名)の製
造業(0.5名),上川地域(0.7名)の電気・ガス・熱供給・水
道業(0.3名),渡島地域(0.6名)の公務(1.4名)又は釧路
地域(0.3名)の医療・福祉のいずれか一つから1名ずつ合計3名
を選任する。
(b)ケース2
石狩振興局から5名,その他の振興局から2名を選任する場合に
は,ⅰ)石狩地域(4.7名)の卸売業・小売業(2.1名)から2名,
ⅱ)石狩地域の運輸業・郵便業(1.0名)から1名,ⅲ)石狩地域の
医療・福祉(0.7名),複合サービス事業(0.6名)又は建設業
(0.4名)のいずれか一つから2名,ⅳ)胆振地域(0.7名)の製
造業(0.5名),上川地域(0.7名)の電気・ガス・熱供給・水
道業(0.3名),渡島地域(0.6名)の公務(1.4名)又は釧路
地域(0.3名)の医療・福祉のいずれか一つから1名ずつ合計2名
を選任する。
(オ)選任
労働者委員の主な業務(紛争解決に向けたあっせん業務,争議解決に
向けた調整業務,不当労働行為事件の審査に係る調査,審問,和解に参
与し,合議に先立ち参与委員として意見を陳述すること),役割(あっ
せん員として主に労働者側との調整作業に携わること,調停委員として
主に労働者側との調整作業に携わること,労働者を代表して専門的識見
をもって不当労働行為事件の審査に参与すること),求められる資質,
専門性,経歴等(特定の労働組合の立場に偏らない中立的かつ公平公正
な判断力を有すること,誠実に労使紛争の解決に当たることができる資
質を有すること,労働組合に関する識見を有すること,労働及び経済な
どの問題について識見を有すること)について,道労委事務局に確認す
るとともに,再任候補者の経験,職責の遂行状況についても,道労委事
務局に照会し,誠実かつ的確にその職務を全うしている旨の回答を得た
上,各候補者の年齢,性別,所属労働組合における役職,組合役員歴に
基づいて,各候補者を総合的に判断し,β候補(所属労働組合の所在地
室蘭市,産業分類製造業),γ候補(同札幌市,卸売業・小売業),δ
候補(同札幌市,卸売業・小売業),ε候補(同札幌市,電気・ガス・
熱供給・水道業),ζ候補(同函館市,公務),θ候補(同札幌市,運
輸業・郵便業)及びη候補(同札幌市,複合サービス事業)の7名を道
労委第40期労働者委員に選任する。
(4)本件任命処分後の経緯
ア先行の訴えに対する判決の言渡し2
当庁は,平成24年12月26日,上記(2)エの第39期任命処分の取
消し等を求める訴えについて,取消しの訴えを却下するとともに,それに
よって生じた損害の賠償を求める国家賠償請求を棄却する判決(以下「第
39期判決」という。甲3)の言渡しをした。この判決は,第39期任命
処分には処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったとして,
それを違法なものとしつつ,原告道労連ほかの損害の発生を否定して,国
家賠償請求を棄却したものである。
イ原告らは,平成25年4月30日,本件任命処分の取消しを求めるとと
もに,国家賠償法1条1項の規定に基づいてそれぞれ100万円の損害賠
償を求める本件各訴えを提起した。
3争点
本件の本案前の争点は,ⅰ)本件任命処分の取消しの訴えの適否(本案前の
争点1),具体的には,原告らは,本件任命処分の取消しの訴えについて原告
適格を有するものであるか否か,及び,ⅱ)本件任命処分の取消しの訴えと併
合提起された本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟の適否(本案前の争点2),
すなわち,本件任命処分の取消しの訴えが不適法なものであるとした場合,こ
れと併合提起された本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟は適法なものとする
のが相当であるか否かである。
本件の本案の争点は,ⅰ)本件任命処分の適否(争点1),具体的には,本
件任命処分は,原告らに保障された団結権を侵害するものであり,憲法14条
及び28条に違反するか否か(争点1の1),本件任命処分は,原告らに保障
された結社の自由及び団結権を侵害するものであり,国際労働機関の「結社の
自由及び団結権の保護に関する条約(第87号)」(以下「ILO第87号条
約」という。)2条及び3条に違反するか否か(争点1の2),本件任命処分
は,原告らに保障された団結権を侵害するものであり,市民的及び政治的権利
に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)2条1項,22条及び26
条に違反するか否か(争点1の3),本件任命処分は,各系統に属する労働組
合の推薦を受けた候補者から労働者委員を任命すべきであるのに,連合北海道
の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に独占させたものであり,労働
組合法19条の12第3項及び労働組合法施行令21条1項に違反するか否か
(争点1の4),本件任命処分は,原告道労連と連合北海道に対し公平の原則
に則って対応すべきであるのに,これをしなかったものであり,行政における
公平の原則に違反するか否か(争点1の5),本件任命処分は,連合以外の系
統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を労働者委員から排除することを意
図したものであり,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用し
てした違法な処分であるか否か(争点1の6),ⅱ)被告の国家賠償責任の有
無(争点2),すなわち,本件任命処分が違法なものであるとした場合,処分
行政庁がそのような処分をしたことについて故意又は過失があったか否か,及
び,ⅲ)原告らの損害の有無(争点3)である。
4当事者の主張の要旨
当事者の主張は,別紙4のとおりであり,その要旨は,次のとおりである。
(1)本案前の争点
ア本件任命処分の取消しの訴えの適否(本案前の争点1)
(被告の主張)
次のとおり,原告らは,いずれも,本件任命処分によって侵害される法
律上の権利又は利益を有しないのであって,本件任命処分の取消しを求め
るにつき法律上の利益を有する者に該当しないから,本件任命処分の取消
しの訴えの原告適格を有しない。
(ア)原告北海道勤医労らが原告適格を有しないこと
労働者委員の任命に労働組合の推薦を要するものとした労働組合法1
9条の12第3項の趣旨及び目的は,労働者全体の代表としてその利益
を擁護するのに適した候補者を確保し,このような候補者の中から労働
者委員を任命し,当該委員の労働委員会における活動を通じて,労働者
が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進し,労働者の地
位を向上させ,適正な労使関係を形成するという公益の実現を図ること
にある。同項が労働組合を労働者委員の候補者の推薦主体としたのは,
労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の
向上を図ることを主たる目的として組織された労働組合が候補者の推薦
をすることにより,労働者委員の任命について裁量権を有する都道府県
知事による恣意的な任命手続を防止し,労働者一般の意思を労働者委員
の任命手続に反映させることを制度的に担保したものであり,これを超
えて特定の労働組合及びその組合員の党派的な利害を労働者委員の選任
過程に反映させる趣旨までがこれに含まれるものではない。労働者委員
の候補者の推薦をした労働組合に,個別の労働者委員の任命に具体的に
関与する権利としての推薦権が付与されているわけではなく,任命の前
提となる推薦制度を通じて,一般的に労働者の代表を選任する手続に参
加することができるにとどまり,それ以上に,労働者委員の候補者の推
薦をした労働組合が,労働者委員の選任手続上,何らかの法律上保護さ
れた権利又は利益を有するということはできない。
原告北海道勤医労らが原告X1らを労働者委員の候補者として推薦す
ることができるとしても,その推薦に基づいて原告X1らが労働者委員
に選任されることが法律上の権利又は利益として保護されているもので
はなく,本件任命処分により原告X1らが労働者委員に任命されなかっ
たことによって原告北海道勤医労らの法律上の権利又は利益が侵害され
たということはできない。
(イ)原告X1らが原告適格を有しないこと
上記(ア)でみたところによれば,原告X1らは,処分行政庁に対し,
労働者委員に選任することを求めることができる法的な地位にあるわけ
ではなく,本件任命処分により原告X1らが労働者委員に任命されなか
ったことによって原告X1らの法律上の権利又は利益が侵害されたとい
うことはできない。
(ウ)原告道労連が原告適格を有しないこと
原告道労連は,原告北海道勤医労らが加盟するローカルセンターにす
ぎず,道労委による労働組合法2条及び5条2項の適合審査を受けたも
のではないため,原告X1らを労働者委員の候補者として推薦していな
いところ,原告X1らを労働者委員の候補者として推薦した原告北海道
勤医労らについてさえ,本件任命処分によって法律上の権利又は利益が
侵害されたということができないことは,上記(ア)のとおりであり,ま
して,原告北海道勤医労らが加盟するローカルセンターにすぎない原告
道労連の法律上の権利又は利益が本件任命処分によって侵害されたとい
うことができないことは明らかである。
(原告らの主張)
次のとおり,原告X1らは,適法な推薦を受けた候補者として,原告北
海道勤医労らは,労働組合法上の労働者委員の候補者の推薦をした労働組
合として,原告道労連は,憲法上の労働者委員の候補者の推薦をした労働
組合として,いずれも,労働者委員の選任に当たり,他の系統に属する労
働組合の推薦を受けた候補者と平等に自己の利益について手続上考慮され
るべき法律上の権利又は利益を有するところ,本件任命処分によってそれ
が侵害されたということができるのであって,本件任命処分の取消しを求
めるにつき法律上の利益を有し,原告適格を有する。
(ア)原告X1らの原告適格について
労働者委員の権限と役割は,労働委員会の判定的機能に関わり,不当
労働行為事件の調査,審問及び和解手続に参与し,救済命令等を発する
場合に意見を述べ,また,調整的機能に関わり,調停に参加し,公益委
員の任命に同意し,労働委員会の構成員として,その運営に関与し,委
員の全員で行う会議等において,利益代表の立場から意見を述べるとい
うものである。このため,任命権者による行政権限の適正な行使に信頼
を置く国民は,労働組合から労働者委員の候補者として推薦を受けた者
のうち,労働者委員に任命された者こそがそれらの権限や役割を担い得
る適任者であるとみなし,任命されなかった者は任命された者との比較
において適任者とは判断されなかったものとみなすのであって,労働者
委員の候補者として推薦を受けた者は,個別具体的な利害関係があり,
個別的な利益を有する。
また,我が国に複数の異なる系統の労働組合が併存する現状では,国
その他の公の機関は,各労働組合に対し,その組織人員の多尐にかかわ
らず中立的立場を保持して平等に取り扱わなければ,平等原則に違反す
る。都道府県知事が労働者委員の選任に当たり,推薦された候補者の一
部を全く審査の対象としなかった場合や,形式的には審査の対象としな
がらも実質的には特定の候補者について全く審査をせず,あるいは,特
定の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を労働者委員から排除
することを意図して労働者委員に選任しなかった場合には,候補者との
関係で中立的立場を保持して平等に取り扱わなかったものとして,平等
原則に違反することになる。労働者委員の候補者は,推薦した労働組合
の系統によって差別されてはならず,いずれも差別されることなく労働
者委員として適任であるか否かについて平等に考慮される権利又は利益
を有する。すなわち,労働者委員の候補者は,労働者委員の選任手続上,
他の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者と平等に,自己の利益
について考慮を受ける権利ないし利益を有する。
そうすると,原告北海道勤医労らの推薦を受けた労働者委員の候補者
である原告X1らは,本件任命処分の取消しを求めるにつき法律上の利
益を有しており,原告適格を有する。
(イ)原告北海道勤医労らの原告適格について
労働組合は,労働者委員の候補者の推薦権を有しており,この推薦権
及び推薦制度の趣旨及び目的から,自己の利益について手続上平等な考
慮を受ける権利を有している。都道府県労働委員会の委員の任命制度の
特徴は,利益代表である労使の委員については団体の推薦制度に,公益
委員については労使の委員の同意制度に,それぞれあるところ,労働組
合は,自らの推薦を受けた労働者委員が労働委員会の手続に参加するこ
とによって,救済の実をあげることができる。労働組合や労働者が不当
労働行為からの救済を求めるに当たり,手続を公平かつ公正に進めるた
めには,自らの推薦を受けた労働者委員が手続に参加する必要がある。
労働組合法が労働組合に推薦権を認めたのは,労働組合が労働者委員の
適格者についての情報を豊富に保有していることに着目して,事実とし
ての判断材料を提供することを期待したにとどまらず,それ以上のもの
を期待しているのであり,労働組合法は,労働組合に,労働者委員の任
命にその意思を反映する利益を認めているというべきである。
労働組合法19条の12第3項の趣旨及び目的がこのようなものであ
ることからすれば,労働者委員の推薦制度は利益代表のそれであり,労
働組合法は,労働者委員の選任手続に,労働者の利益を代表する労働組
合が積極的に参加することを認め,それを通じて労使自治に基づき団結
権の保障を実効あらしめようとしたものであるということができる。労
働組合の推薦に基づく労働者委員の選任手続は,労働者委員の主要な役
割が,不当労働行為事件や労働争議の調停に際し,労働者と使用者との
間や労働者内部で現実に相対立している多様な利害の調整を図ることに
ある点を踏まえ,調整を必要とする多様な利害ができる限り忠実に労働
者委員の構成に反映することを保障するため設けられたものである。労
働組合の推薦に基づく労働者委員の任命制度の下では,上記(ア)のとお
り,任命権者による行政権限の適正な行使に信頼を置く国民は,労働組
合から労働者委員の候補者として推薦を受けた者のうち,労働者委員に
任命された者こそがそれらの権限や役割を担い得る適任者であるとみな
し,任命されなかった者は任命された者との比較において適任者とは判
断されなかったものとみなすところ,このような任命されたか否かによ
る両極端の評価は,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合について
も当てはまるのであり,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合は,
個別具体的な利害関係があり,個別的な利益を有する。労働者委員の候
補者の推薦をした労働組合には,多数の候補者の中から「労働者を代表
する者」が選任されるに当たり公正かつ平等な手続により内容的にも適
正な判断を受ける権利が労働組合法上認められているということができ,
その権利は,不特定多数の労働組合がそれぞれ有する利益の総体として
の労働者一般の利益(公益)とは区別された,労働者委員の候補者の推
薦をした労働組合の個別具体的な利益に基づく権利である。
このように,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合は,労働者委
員の任命にその意思を反映させる権利を有するところ,都道府県知事が
労働者委員の候補者の推薦をした労働組合の間の利益調整を行わなかっ
た結果,自らの推薦を受けた候補者が任命されなかった労働組合は,労
働者委員の任命手続の過程で,その任命が公正な手続と適正な判断によ
ってされなかったことにより,その手続上の権利,すなわち,自己の利
益について手続上差別なく考慮を受ける権利が侵害されたか否かについ
て裁判所に審判を求めることができるはずである。したがって,労働者
委員の候補者として原告X1らの推薦をした原告北海道勤医労らは,本
件任命処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有しており,原告適
格を有する。
(ウ)原告道労連の原告適格について
ローカルセンターである原告道労連は,労働組合法5条に定める資格
を有していないため,原告X1らを直接推薦することができず,自らに
加盟する労働組合である原告北海道勤医労らを通じて原告X1らを推薦
せざるを得なかった。しかし,労働者委員の候補者の推薦をした労働組
合は,憲法28条の団結権を実効あらしめるという労働者委員の推薦制
度の趣旨及び目的並びに憲法14条の平等原則から,他の系統に属する
労働組合と平等に自己の利益について手続上差別なく考慮を受ける権利,
すなわち,公正かつ平等な手続により内容的にも適正な判断を受ける権
利を有するところ,原告道労連の組織形態及び原告X1らの推薦の経過
からすれば,原告道労連も,この権利を共有する。労働者委員の推薦制
度の運用に当たり,推薦資格がない労働組合であっても,自己に属する
組合ないし自己の結成する組織の構成組合が労働者委員の候補者の推薦
をしている場合には,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合と平等
の法的な保護を与えなければならないのであって,それが団結権の保障,
その保障を実効あらしめるための労働者委員の推薦制度の趣旨及び目的
並びに平等原則に適うというべきである。
原告道労連は,本件任命処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を
有しており,原告適格を有する。
イ本件任命処分の取消しの訴えと併合提起された本件任命処分に係る国家
賠償請求訴訟の適否(本案前の争点2)
(被告の主張)
本件任命処分の取消しの訴えが不適法なものであることは,上記アの被
告の主張のとおりであり,そのことからすれば,本件任命処分に係る国家
賠償請求訴訟も不適法なものである。
(ア)取消訴訟と併合提起された別の請求に係る訴えが併合の要件を満た
さないため不適法な併合の訴えであるとされる場合においては,受訴裁
判所は,原則として,併合された請求に係る訴えを不適法として却下す
ることなく,これを取消請求と分離した上,自ら審判するか,又は事件
がその管轄に属さないときにはこれを管轄裁判所に移送する措置をとる
こととなるが,後者の請求の併合が,取消請求と同一の訴訟手続内で審
判されることを前提とし,専ら併合審判を受けることを目的としてされ
たものであると認められるときは,例外的に,その関連請求に係る訴え
は却下されることとなる。
(イ)本件訴訟の実質的な目的は,専ら処分行政庁がした本件任命処分の
適法性を争うことにあり,本件任命処分の取消請求こそが本件訴訟の核
心である。本件任命処分に係る国家賠償請求については,原告らは,組
合の団結権の侵害,社会的信用と名誉の毀損等を主張するのみであり,
具体性を欠いているといわざるを得ない。本件任命処分に係る国家賠償
請求は,本件任命処分の取消請求に付随するものにすぎず,行政事件訴
訟法3条の規定に基づく抗告訴訟の手続内で審判されることを前提とし,
併合審理を受ける限りにおいて意味があるものであるから,本件任命処
分の取消しの訴えが不適法なものであることが上記アの被告の主張のと
おりである以上,本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟も不適法なもの
である。
(原告らの主張)
仮に本件任命処分の取消しの訴えが不適法なものであるとしても,本件
任命処分に係る国家賠償請求訴訟は適法なものである。
(ア)本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟が,本件任命処分の取消しの
訴えと同一の訴訟手続内で審判されることを前提とし,専ら併合審理を
受けることを目的としてされたものであると認めるべき特段の事情はな
い。
(イ)それどころか,原告らは,違法な本件任命処分により原告道労連ら
の推薦を受けた候補者である原告X1らが労働者委員に任命されなかっ
たことによって損害を被ったと主張して,その損害を回復するために本
件任命処分に係る国家賠償請求訴訟を併合提起したものである。原告ら
が本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟を本件任命処分の取消しの訴え
と併合提起したのは,同一の訴訟手続内で審判されることが立証等の上
で便宜であり,訴訟経済にも合致するからにほかならず,専ら併合審判
を受けることを目的としたものではない。本件任命処分に係る国家賠償
請求訴訟は,本件任命処分の取消しの訴えと併合審判を受けない場合で
あっても,客観的に十分に意味がある。
(2)本案の争点
ア本件任命処分の適否(争点1)
(原告らの主張)
処分行政庁は,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補
者に道労委の労働者委員を独占させ,原告道労連の系統に属する労働組合
の推薦を受けた候補者を排除する意思に基づいて,本件任命処分をしたも
のであって,本件任命処分は,憲法に定める平等原則,ILO第87号条
約などの国際条約,労働委員会制度や労働者委員の推薦制度を定める労働
組合法の規定に違反し,原告らの団結権を侵害する偏頗な任命処分であり,
処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してした違法なも
のであるから,取消しを免れない。
(ア)労働者委員の役割とその選任基準
労働委員会は,労働組合の正当な活動を保護し,団結権を保障すると
ともに,労使自治により公平かつ公正な立場から労使紛争の自主的な解
決を促進することによって労使関係の安定を図るため,創設されたもの
であり,労働者委員は,労働者を代表する者として,労働委員会が有す
る準司法的権限及び調整的権限の行使に関与し,労働委員会において重
要な役割を果たしている。労働者委員がその役割を果たすためには,労
働側当事者との間に信頼関係がなくてはならないところ,労働者側当事
者と労働者委員が異なる系統に属する労働組合に所属している場合,そ
の間に信頼関係を構築することは困難であり,労働者委員は,その役割
と機能を十分に発揮することができないのであって,ある系統の労働組
合を代表する者のみで労働者委員が独占されていたのでは,労働者委員
がその役割と機能を十分に発揮することを期待することができない。こ
のような理由から,労働組合法は,労働者委員が様々な系統に属する労
働組合が候補者として推薦した者によって構成されることを期待してい
るのであり,特定の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみを
労働者委員に選任することは,その趣旨に反する。
労働者委員は,いずれの労働組合から推薦を受けたものであっても,
労働者一般の利益を擁護する立場に立ち,公平かつ中立に職務を遂行し
なければならず,推薦を受けた労働組合の利益の擁護を目的としてはな
らないが,労働者委員の役割が労働者一般の利益の擁護にあることは,
労働者委員の選任に当たり,労働組合の系統を考慮しなくてよいとか,
あるいは,考慮すべきでないということを意味するものではない。労働
組合は,労働者の経済的地位の向上を主たる目的として組織される団体
であるが,様々な思想や立場に立つ複数の労働組合が併存するのが一般
的な状態であり,労働運動内部の多様な意見を現実の労働行政の場に反
映させることは,労働者一般の利益の擁護という労働行政の目的と何ら
矛盾せず,むしろ,本来の意味での労働者一般の利益の擁護につながる。
労働者一般の利益を擁護するという労働者委員の役割は,系統別選任と
何ら矛盾するものではなく,その構成に労働組合の系統をできるだけ正
確に反映させることこそが,労働者委員の在り方として望ましい。労働
組合の現実を前提とし,公正かつ中立に職務を遂行する義務を全うさせ
るためには,労働者委員を特定の系統の労働組合の推薦を受けた候補者
に独占させることは避けるべきであり,労働者委員の構成に労働組合の
系統を可能な限り反映させることが,労働者委員に求められる公正性及
び中立性の保持につながり,ひいては労働者一般の利益になる。
労働者委員の選任については,その基準を定めた明文の規定がなく,
解釈に委ねられているところ,54号通牒は,労働者委員の選任につい
て,「産別,総同盟,中立等系統別の組合数及び組合員数に比例させる
とともに,管下の産業分野,場合によっては地域別等を十分考慮するこ
と」とし,系統別に労働組合の利益を保護しようとしている。54号通
牒は,単なる行政運営の指針を示したものではなく,労働組合法の趣旨
及び目的に沿った解釈の下での事務処理を指示したものであり,旧労働
省が示してきた基準は,一貫して,労働運動内部に対立があることを踏
まえ,労働者を代表する者を選任するため,系統別の組合員数に比例さ
せるなど,労働組合間の公平ないし公正の維持を求めてきた。処分行政
庁も,54号通牒の基準を長年にわたり採用しており,平成元年の労働
界の再編までは,特定の系統が労働者委員を独占したことはなく,ナシ
ョナルセンターの系統別に配分され,総評系から6名,同盟系から2名,
中立労連系から1名が選任されていた。処分行政庁においては,系統別
の公平かつ公正な配分が長年の確立した慣行として客観的かつ対外的に
規範化していた。労働委員会や労働者委員の権限ないし役割等に照らせ
ば,系統を異にする労働組合が複数併存する場合,都道府県知事は,一
方の系統の労働組合の推薦を受けた候補者に労働者委員を独占させるべ
きではなく,系統別に労働者委員を割り当てなければならないという選
任基準が導かれる。
(イ)憲法14条及び28条違反(争点1の1)
複数の労働組合が併存する場合,その性格や運動方針の違いによって
それらを差別してはならず,労働者委員の選任に当たっては,一定の合
理的基準に則って公正かつ公平にこれを行わなければならない。ところ
が,本件任命処分は,合理的理由なく,原告道労連及びこれに加盟する
労働組合とその組合員を差別し,その団結権を侵害したのであり,憲法
14条及び28条に違反する。
(ウ)ILO第87号条約2条及び3条違反(争点1の2)
ILO第87号条約2条及び3条に定められている結社の自由の原点
は,複数の労働組合が併存する場合,国その他の公の機関は中立性を確
保しなければならず,いずれに対しても特に有利又は不利になるような
ことをしてはならないということである。本件任命処分は,明らかに結
社の自由及び団結権を侵害するものであり,ILO第87号条約2条及
び3条に違反する。
(エ)自由権規約2条1項,22条及び26条違反(争点1の3)
自由権規約22条は,全ての者に対し,労働組合を結成し,これに加
入する権利を認めており,2条1項及び26条は,法の下の平等を定め,
政治的意見その他の意見による差別を禁止している。本件任命処分は,
合理的理由なく,原告道労連及びこれに加盟する労働組合とその組合員
を差別し,その団結権を侵害するものであり,自由権規約2条1項,2
2条及び26条に違反する。
(オ)労働組合法19条の12第3項違反(争点1の4)
労働組合法19条の12第3項及び労働組合法施行令21条1項が労
働組合に労働者委員の候補者の推薦権を付与した趣旨に照らせば,系統
を異にする労働組合が複数併存する場合,各系統別の労働組合の規模と
いった客観的な要素に応じて労働者委員を選任すべきである。本件任命
処分に当たっては,原告道労連と連合北海道という二つのローカルセン
ターが存在し,かつ,その組合員数は前提事実(2)アのとおりであった
のであるから,7名の労働者委員のうち尐なくとも1名は非連合系の有
力系統である原告道労連の推薦を受けた候補者を選任しなければならな
かった。ところが,処分行政庁は,原告X1らから労働者委員を選任せ
ず,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に労働者
委員全員を独占させたのであり,本件任命処分は,労働組合法19条の
12第3項及び労働組合法施行令21条1項に違反する。
(カ)行政における公平の原則違反(争点1の5)
行政法上の行為が公平の原則に従って行われるべきであるのは当然で
ある。本件任命処分は,労働委員会を組織する行為であるが,それぞれ
労働者委員を確保したい原告道労連と連合北海道との利害調整の性格を
有するのであって,処分行政庁は,この二つのローカルセンターに対し,
行政における公平の原則に則って対応する義務,すなわち,その組合員
数に比例させ,非連合の有力系統である原告道労連らの推薦を受けた原
告X1らから尐なくとも1名を労働者委員に選任する義務を負っていた
のであり,この義務に違反してされた本件任命処分は,行政における公
平の原則に違反する。
(キ)裁量権の範囲の逸脱又はその濫用(争点1の6)
都道府県知事は,地方労働委員会の労働者委員の任命について裁量権
を付与されているところ,本件任命処分は,次のaのとおり,処分行政
庁が,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に労働
者委員を独占させ,連合以外の系統に属する労働組合の推薦を受けた候
補者を排除するという違法不当な動機に基づいてした差別的処分であり
(目的動機違反,平等原則違反),また,次のbのとおり,処分行政庁
が,重視すべき考慮要素を不当に軽視するとともに,過大に評価すべき
でない考慮要素を過大に評価し,その判断の過程を誤ってした処分であ
って,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はそれを濫用してした
ものであるから,違法である。
a本件任命処分が違法不当な動機に基づくものであること
(a)処分行政庁が労働者委員の選任をするに当たり,特定の労働組
合の推薦を受けた候補者を当初から審査の対象から除外したり,あ
るいは,これを除外したのと同様の取扱いをした場合,その裁量権
の範囲の逸脱又はその濫用に当たる。このような場合,労働者委員
の推薦制度を定めた労働組合法の目的に反し,平等原則に違反する
違法不当な動機に基づく行為といわなければならないからである。
本件任命処分は,処分行政庁が,連合北海道の系統に属する労働組
合の推薦を受けた候補者に労働者委員を独占させ,連合以外の系統
に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除するという違法不当
な動機に基づいてした差別的処分であり,処分行政庁がその裁量権
の範囲を逸脱し又はそれを濫用してしたものである。
(b)本件任命処分は,合理的理由もなく,手続的透明性も示すこと
なく,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者の
みを労働者委員に選任しているのであるから,他の系統に属する労
働組合の推薦を受けた候補者を排除することを意図して労働者委員
の選任がされているという推認が十二分に働くというべきであり,
処分行政庁が,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた
候補者に労働者委員を独占させ,連合以外の系統に属する労働組合
の推薦を受けた候補者を排除するという違法不当な動機に基づいて
した差別的処分であると認めることができる。
本件任命処分において,処分行政庁に差別意思があったことは明
らかである。道労委の労働者委員9名(第38期以降は7名)の選
任における連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補
者による独占は,連合北海道の発足以来12期24年連続に及んで
いる。労働委員会制度の導入後,平成元年に我が国の労働組合が再
編されるまでは,ナショナルセンターの系統別に,最小組織人員の
系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者からも,尐なくとも1
名の労働者委員が選任され,「6:2:1」の割合で労働者委員の
任命がされていたことと比較すると,最大組織人員の系統からとは
いえ,これだけ長期間連続して特定の系統に属する労働組合の推薦
を受けた候補者のみが労働者委員に選任されるという極めて異常な
結果は,偶然には生じ得ない。労働者委員の選任が公平かつ中立に
行われていれば,これまでの各系統の組織人員等を比較しても,特
定の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者だけが労働者委員
に選任され,他の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者は全
く選任されないという事態が12期24年も連続するということは,
確率上もほとんどあり得ない。第37期以降,原告道労連の系統に
属する労働組合の推薦を受けた候補者から1名も労働者委員に選任
されない確率は,わずか0.01%であり,特別な意図が働いていた
としか考えられない。このような12期24年連続の連合北海道独
占の異常性だけからも,本件任命処分における処分行政庁の連合北
海道独占,原告道労連排除の差別意思が優に推認される。
また,次のbのとおり,被告が主張する選考過程からすれば,道
労委第40期労働者委員の選任においては,原告道労連の系統に属
する労働組合の推薦を受けた候補者の中から1名は必ず労働者委員
が選任されるはずであるのに,処分行政庁は,あえて原告道労連の
系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を外し,連合北海道の
系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を選任しており,この
事実のみからも,処分行政庁に,連合北海道の系統に属する労働組
合の推薦を受けた候補者に労働者委員を独占させ,連合以外の系統
に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除するという差別意図
があることは明らかである。
b本件任命処分が判断過程を誤ってしたものであること
(a)行政庁の判断過程に係る審査方法として,行政庁がした具体的
な価値考量の場面において,考慮すべき要素を正しく考量したか,
考慮すべきでない事項や過大に評価すべきでない事項を不適切に評
価していないかといった角度から,より密度の高い司法審査がされ
ることがある。また,多数の者のうちから尐数特定の者を,具体的
個別的事実関係に基づいて選択して免許の諾否を決するような場合
には,行政庁は,事実の認定について行政庁の独断を疑うことが客
観的にもっともと認められるような不公正な手続をとってはならず,
行政庁は,内部的な審査基準を設定し,場合によりこの基準の適用
上必要な事項を示す義務がある。
(b)労働組合法19条の12第3項に定める労働者委員の推薦制度
の目的と都道府県知事の判断過程における要考慮事項をみるに,5
4号通牒の性格について,被告は,内部指針にとどまり,都道府県
知事の裁量権の行使がこれに拘束されるものではないと主張する。
しかし,それが,法令としての性格を有するか,単なる内部指針に
とどまるかは措くとしても,労働者委員の推薦制度の目的を踏まえ
た,都道府県知事の労働者委員の任命に際しての要考慮事項とその
軽重,価値序列を示すものであることは否定することができず,殊
更にこれを無視した不公正な手続を行うことは許されない。
そして,上記(ア)の労働者委員の推薦制度の趣旨等と併せて,5
4号通牒が「委員の選考に当たっては,産別,総同盟,中立等系統
別の組合数及び組合員数に比例させる」という基準を第一に掲げて
おり,次いで「産業分野」を十分考慮することを要請し,「場合に
よっては」という条件付きで「地域別等」を考慮することを要請し
ていることに鑑みれば,労働組合法19条の12第3項は,系統別
の組合数及び組合員数に比例させることを,産業分野や地域別等に
比して,より重要視して判断することを要請していることが明らか
である。まして,再任という要素は,これらの要素に優先すべきも
のとはされておらず,これらに劣位するのであって,都道府県知事
は,労働者委員を任命するに際し,系統別の組合数や組合員数を最
重要視して労働者委員を任命しなければならない。
(c)次のとおり,本件任命処分は,処分行政庁が連合北海道独占,
非連合・原告道労連排除を意図してしたものであり,本件任命処分
は,処分行政庁の判断過程に,その裁量権の範囲の逸脱又はその濫
用がある。
ⅰ処分行政庁がθ候補を選任したことは違法である。ここでは,
θ候補と原告X3の2名が候補となるところ,処分行政庁は,再
任であるという理由からθ候補を選任している。しかし,労働者
委員の選考に当たっては,労働組合の系統別も主な要素として考
慮されるはずである。まして,労働者委員の推薦制度の趣旨等と
併せて,54号通牒が「系統別の組合数及び組合員数に比例させ
る」という基準を第一に掲げ,次いで産業分野別を,「場合によ
っては」という条件付きで地域別等を考慮することを要請してい
ることに鑑みれば,労働組合法19条の12第3項は,「系統別
の組合数及び組合員数に比例させる」ことを産業分野別や地域別
等に比して重要視して判断することを要請していることが明らか
であり,まず系統別を考慮し,この段階で,連合北海道系から既
にγ候補とδ候補の2名を選任しているのに対して,原告道労連
系からは1名も選任していないのであるから,原告道労連系の原
告X3がθ候補に優先して選任されるべきであった。ところが,
処分行政庁は,再任であるという副次的な考慮要素を重視してθ
候補を選任したのであって,本件任命処分には,処分行政庁の裁
量権の範囲の逸脱又はその濫用がある。
ⅱ仮にθ候補を選任したことは違法でないものとしても,処分行
政庁がη候補を選任したことは違法である。ここでは,原告X1,
η候補及びC候補,原告X4の4名が候補となるところ,処分行
政庁は,原告X4と原告X1はη候補よりも経験において劣ると
し,η候補を選任している。しかし,労働者委員の選考に当たっ
ては,労働組合の系統別も主な要素として考慮されるはずである。
まして,労働者委員の推薦制度の趣旨等と併せて,54号通牒が
「系統別の組合数及び組合員数に比例させる」という基準を第一
に掲げ,次いで産業分野別を,「場合によっては」という条件付
きで地域別等を考慮することを要請していることに鑑みれば,労
働組合法19条の12第3項は,「系統別の組合数及び組合員数
に比例させる」ことを産業分野別や地域別等に比して重要視して
判断することを要請していることが明らかであり,まず系統別を
考慮し,この段階で,連合北海道系から既にγ候補とδ候補,θ
候補の3名を選任しているのに対して,原告道労連系からは1名
も選任していないのであるから,原告道労連系の原告X1ないし
原告X4が連合北海道系のη候補に優先して選任されるべきであ
った。
仮に労働組合の系統別を重視しないものとしても,産業分野別
の選任割合について,原告X1が上回っている。道労委で取り扱
われている事件についても,原告X1の医療・福祉分野は,η候
補の複合サービス事業分野に比べて,圧倒的に上回っている。産
業分野別を考慮した場合,当然に原告X1が選任されるべきであ
り,この場面において,突然経験を持ち出し,産業分野別を考慮
することなく,η候補を選任したことは,恣意的である。また,
仮に産業分野別よりも経験を重視するものとしても,η候補が原
告X1よりも経験において優れているということはできない。原
告X1は,25年にもわたる単位組合の役員歴を有しており,上
部団体の役員の経験も豊富であり,経験においてη候補よりも劣
るということは全くない。処分行政庁は,原告X1は高齢にすぎ
てふさわしくないとするが,通常は,年齢を重ねるにつれて経験
も増していくのであって,一方で,経験が豊富でなければならな
いとした上,他方で,年齢を重ねているとふさわしくないとする
のは,矛盾している。処分行政庁は,原告X4は若すぎてふさわ
しくないとするが,労働委員会を活用する者の中には若い世代の
者もおり,時代背景が異なる中で職業生活を送ってきた年長者か
ら言われるよりも,感覚や生活実感が近く,身上を含めて共感す
ることができる世代の委員から話をされる方が望ましい場合もあ
るのであって,年齢が若いから説得力が低いというのは極めて一
面的かつ短絡的な議論である。選任基準として上限を設けること
は許されるとしても,その範囲内の候補者について年齢を理由に
排除することは許されない。そもそも,一方で,67歳の原告X
1を年齢を理由に排除し,他方で,37歳の原告X4をやはり年
齢を理由に排除することは,原告道労連系の候補者を排除するた
めの極めて恣意的な議論である。
処分行政庁は,系統別という主な考慮要素を重視することなく,
経験や年齢という副次的な考慮要素を考慮して,η候補を選任し
たのであって,本件任命処分には,処分行政庁の裁量権の範囲の
逸脱又はその濫用がある。
ⅲ仮にη候補を選任したことは違法でないものとしても,処分行
政庁がε候補を,地域が上川,産業分野が電気・ガス・熱供給・
水道業に該当する者として選任したことは違法である。ここでは,
本来,β候補及びE候補,ζ候補,原告X2の4名のみが候補と
なり,β候補とζ候補を選任したとしても,E候補はβ候補と系
統,地域及び産業分野がいずれも重なっているので,残り1名の
枠には,原告X2が必ず選任されることとなるはずであった。と
ころが,処分行政庁は,候補者名簿上の所属労働組合の所在地が
札幌市であるε候補を,地域が上川,産業分野が電気・ガス・熱
供給・水道業に該当する者として選任し,原告X2を選任しなか
った。処分行政庁は,ε候補が旭川市に住所を有し,上川地域の
協議体組織の執行委員を兼任していること,それまでの経歴によ
れば,その主たる活動拠点は上川にあると認められることを根拠
として,ε候補の地域区分を上川としているが,労働者委員の選
任に当たり地域別が考慮要素とされるのは,その地域の労働組合
を代表する者であれば,当該地域の労働実態に詳しいと考えられ
るからである。偶々提出された履歴書に上川地域に関連すること
が記載されていたからといって,上川地域の労働組合を代表する
ものであるということはできず,処分行政庁がε候補の地域区分
を上川としたことは違法である。労働者委員に選任される当時の
所属とは関係がない,遠い昔に所属していたことをもって,その
地域の代表たり得るものではないし,加えて,ε候補は,産業分
野が電気・ガス・熱供給・水道業である北海道電力関連産業労働
組合に所属しているからこそ,当該分野の候補者とされているの
であり,北海道電力とは関係がない連合北海道の上川地域協議会
に所属していることをもって,産業分野が電気・ガス・熱供給・
水道業の上川地域の代表とすることは許されない。ここで留意す
べきであるのは,労働者委員の選考過程のどのような局面でε候
補が上川地域の候補者とされたかである。被告が主張する選考過
程によれば,ε候補が上川地域の候補者とされたのは,労働者委
員を6名まで選任した段階でのことであるところ,この段階では,
残り1名の枠に,原告X2が必ず選任されることとなるはずであ
ったことは,上記のとおりであり,このような局面において,ε
候補を上川地域の候補者とすることにより,ε候補が選任されて
いるのである。ε候補のほかに,所属労働組合の所在地以外の場
所が地域区分とされた候補者は1名もいないのであって,あえて
このような局面で所属労働組合の所在地が札幌市であるε候補を
上川地域の候補者として取り扱うこと自体が,連合北海道独占と
いう結論に向けた,結論先にありきの恣意的な操作である。処分
行政庁は,道労委第38期労働者委員の選考の際には,ε候補を
石狩地域の候補者としていたのであり,第40期労働者委員の選
考に際しては上川地域の候補者としたことは不自然である。
仮にε候補を上川地域の候補者としたことは違法でないものと
しても,原告X2を選任せず,ε候補を選任したことは,違法で
ある。ε候補と原告X2のいずれが労働者委員に選任されるべき
かを検討すると,労働者委員の推薦制度の趣旨等と併せて,54
号通牒が「系統別の組合数及び組合員数に比例させる」という基
準を第一に掲げ,次いで産業分野別を,「場合によっては」とい
う条件付きで地域別等を考慮することを要請していることに鑑み
れば,労働組合法19条の12第3項は,「系統別の組合数及び
組合員数に比例させる」ことを産業分野別や地域別等に比して重
要視して判断することを要請していることが明らかであり,既に
6名が連合北海道系で独占されている状況下で,連合北海道系の
ε候補か,原告道労連系の原告X2かという選択をすることにな
れば,まず系統別を考慮し,原告X2が選任されるべきである。
また,仮に地域別及び産業別だけを考慮するものとしても,実際
に候補者の推薦があった地域別及び産業分野別では,ε候補と原
告X2とは全くの互角であるし,全ての地域別及び産業別であれ
ば,原告X2の方がε候補を上回っているのであるから,原告X
2が選任されるべきである。本来であれば,地域別及び産業分野
別の選任割合が尐ないときであっても,まず系統別を考慮して,
原告X2が選任されるべきなのである。まして,本件の場合,実
際に候補者の推薦があった地域別及び産業分野別では互角である
のみならず,全ての地域別及び産業分野別では原告X2が上回っ
ているのである。
ところが,処分行政庁は,実質的には再任であるという理由の
みをもって,ε候補を選任し,原告X2を選任しなかったのであ
って,本件任命処分には,明らかな処分行政庁の裁量権の範囲の
逸脱又はその濫用がある。
(d)平成23年6月30日現在の加盟上級団体別の組合員数により
労働者委員の選任割合を加盟上級団体別に求めると,連合北海道は
6.5名,原告道労連は0.5名となる。54号通牒が系統別の労働
組合数及び労働組合員数に比例させることを定めている趣旨からす
れば,特定の系統に属する労働組合からのみ労働者委員を選任する
ことが好ましくないことは明らかであり,処分行政庁は,これまで
相当期間継続している連合系候補による労働者委員の独占状態を是
正するため,連合北海道以外の系統から唯一候補者の推薦をしてい
た原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者から最
低1名を選任することが求められていたものである。本件任命処分
が処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたもの
であることは明らかである。
(被告の主張)
処分行政庁が,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補
者に道労委の労働者委員を独占させる意図や,原告道労連の系統に属する
労働組合の推薦を受けた候補者を排除する意図をもって,本件任命処分を
した事実はない。処分行政庁は,労働委員会制度を規定した法令及び54
号通牒の趣旨,労働界の現状,労働委員会が果たすべき役割を踏まえて,
推薦のあった候補者から,様々な要素を総合的に判断し,北海道の労働者
の代表として円滑で的確な職責の遂行が期待することができる者を適任者
として選任したものである。具体的には,処分行政庁は,法令等の趣旨を
踏まえて,加盟上級団体の労働組合数,地域別の労働組合員数,産業分野
別の労働組合のそれぞれの状況,労働者委員の主な業務を勘案するととも
に,16名の候補者全員について,年齢,性別,所属労働組合の現状,労
働組合における役職,組合役員歴などを考慮し,また,再任候補者につい
ては,紛争の解決努力などの職責の遂行状況の観点をも加味して,総合的
な判断を行い,7名の者を第40期労働者委員に任命した。
(ア)労働者委員の役割とその選任基準について
労働組合法が労働委員会を使用者委員,労働者委員及び公益委員の三
者構成とした趣旨は,労働委員会の取り扱う労使紛争において,それぞ
れの委員が専門的識見を出し合って,公益及び労使の利害と公益とを適
切に調和させ,労使の委員が労使の当事者との間を取り持って,労使紛
争の自主的解決の促進を図ろうとしたためである。労働組合法が,労働
者委員の候補者を労働組合の推薦によることとした趣旨及び目的は,労
働者全体の代表としてその利益を擁護するのに適した候補者を確保し,
そのような候補者の中から労働者委員を任命し,当該委員の労働委員会
における活動を通じて,労働者が使用者との交渉において対等の立場に
立つことを促進し,労働者の地位を向上させ,適正な労使関係を形成す
るという公益の実現を図ることにあり,労働組合を推薦主体としたのは,
労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の
向上を図ることを主たる目的として組織された労働組合が候補者の推薦
をすることにより,労働者委員の任命について裁量権を有する都道府県
知事による恣意的な任命手続を防止し,労働者一般の意思を労働者委員
の任命手続に反映させることを制度的に担保したものであって,これを
超えて特定の労働組合及びその組合員の党派的な利害を労働者委員の選
任過程に反映させる趣旨までがこれに含まれるものではない。そして,
労働者委員は,一旦任命されると,労働者を代表する者として,自己の
所属する系統別労働組合の利益の枠を超えて,等しく申立人たる労働組
合又は労働者の主張及び利害等を明らかにして,客観的に妥当な解決を
図る職責を負うものであり,特定の労働組合の利益のために奉仕するこ
とが要請されているものではない。
54号通牒は,都道府県知事が裁量権を行使する際に考慮すべき要素
について内部的指針を示したものにとどまるものであるから,労働組合
の系統が一つの考慮要素となり得るとしても,54号通牒によって知事
の裁量権の行使が拘束されるものではなく,労働者委員の任命結果が系
統別の組合数及び組合員数に比例したものでなかったとしても,そのこ
とをもって直ちに任命処分が違法となるものではない。
(イ)憲法14条及び28条違反(争点1の1)について
労働者委員の推薦制度の趣旨からすると,原告らは,その推薦を受け
た候補者が労働者委員に任命されることについて,法律上の権利又は利
益を有するものではない。また,処分行政庁は,労働委員会制度を規定
した法令及び54号通牒の趣旨等を踏まえて,推薦のあった候補者から,
様々な要素を総合的に判断し,北海道の労働者の代表として円滑で的確
な職責の遂行が期待することができる者を適任者として選任したもので
あり,原告X1らが労働者委員に選任されなかったとしても,そのこと
をもって原告X1らの権利又は利益が侵害されたということはできない。
本件任命処分は,原告道労連及びこれに加盟する労働組合とその組合員
を差別し,その団結権を侵害するものではなく,憲法14条及び28条
に違反するものではない。
(ウ)ILO第87号条約2条及び3条違反(争点1の2)について
本件任命処分が,原告らを差別し,その団結権ないし結社の自由を侵
害するものではないことは,上記(イ)のとおりであり,本件任命処分は,
ILO第87号条約に違反するものではない。
(エ)自由権規約2条1項,22条及び26条違反(争点1の3)につい

本件任命処分が,原告らを差別し,その団結を侵害するものではない
ことは,上記(イ)のとおりであり,本件任命処分は,自由権規約に違反
するものではない。
(オ)労働組合法19条の12第3項違反(争点1の4)について
労働組合法が労働組合を労働者委員の候補者の推薦主体としたのは,
労働者委員の任命について裁量権を有する都道府県知事による恣意的な
任命手続を防止し,労働者一般の意思を労働者委員の任命手続に反映さ
せることを制度的に担保したものであり,これを超えて特定の労働組合
及びその組合員の党派的な利害を労働者委員の選任過程に反映させる趣
旨までがこれに含まれるものではないことは,上記(ア)のとおりであり,
本件任命処分は,労働組合法19条の12第3項及び労働組合法施行令
21条1項に違反するものではない。
(カ)行政における公平の原則違反(争点1の5)について
上記(ア)によれば,労働組合法が定める労働者委員の推薦制度の趣旨
は,候補者の推薦をした特定の労働組合の意思を反映させることではな
いのであって,労働者委員の任命を通じて原告道労連と連合北海道の利
害を調整すべきものではなく,その必要性もないことは明白である。
仮に,原告らが主張するように,処分行政庁に,各系統別の労働組合
の組合員数に比例させて労働者委員を任命する義務があるものとしても,
本件においては,原告道労連の系統に属する労働組合に所属する組合員
数の北海道の労働組合の組合員数に対する比率は約6.0%にすぎない
から,労働者委員の選任数が7名であることを踏まえると,必ずしも原
告X1らを労働者委員に任命しなければならない状況にあるとまではい
い難い。さらに,仮に原告道労連の系統に属する労働組合に所属する組
合員数の比率がその系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を労働
者委員に任命するに値するほどのものであるとしても,そのような事情
の存在のみをもって,原告X1らを他の系統に属する労働組合の推薦を
受けた候補者に優先させて機械的に労働者委員に任命しなければならな
い義務が処分行政庁に生ずると解することは,労働者委員の任命に当た
っての公平及び公正が著しく損なわれることとなり,かえって労働組合
法の趣旨から逸脱する。
(キ)裁量権の範囲の逸脱又はその濫用(争点1の6)について
都道府県知事が労働者委員を任命する場合には,労働組合の推薦がな
い者を任命することができないという制約を受け,労働者委員の資格に
ついて一定の欠格事由や罷免事由が労働組合法に定められているほかは,
都道府県知事の任命権の行使を制約する規定は存在しない。労働者委員
は,労働者の立場を代表し,労働者一般の利益を擁護すべき義務を負う
ものであり,その適格性の判断は,候補者についての総合的な検討を要
し,あらかじめ定型的な選任基準を設定するのは困難であることから,
労働組合法は,労働組合の推薦を受けた候補者の中から誰を選任するか
について,都道府県知事の広範な裁量に委ねているものである。したが
って,都道府県知事がする労働者委員の選任は,上記の制約を受けるほ
かは,いわゆる自由裁量行為として行われるべきものであって,都道府
県知事が労働者委員を任命するに当たり,労働組合法が規定する労働組
合の推薦を受けた候補者を当初から審査の対象から除外したり,あるい
は,これを除外したのと同様の取扱いをするなど,労働者委員の推薦制
度を設けた趣旨を没却するような特別な事情が認められない限りは,裁
量権の範囲内の行為であり,違法の問題が生ずる余地はない。本件任命
処分は,処分行政庁が16名の候補者全員を審査の対象として検討した
結果,原告X1らが労働者委員に任命されなかったものであり,原告X
1らを当初から審査の対象から除外したり,あるいは,これを除外した
のと同様の取扱いをした事実は一切存在しないのであって,本件任命処
分が違法不当な動機に基づくものであるとか,本件任命処分が判断過程
を誤ってしたものであるということもできないことは,次のとおりであ
るから,本件任命処分に違法の問題が生ずる余地はない。
a本件任命処分が違法不当な動機に基づくものではないこと
本件任命処分が平等原則に違反し,違法不当な動機に基づくもので
あるとする原告らの主張が失当であることは,次のとおりである。
(a)原告らは,本件任命処分は他の系統に属する労働組合の推薦を
受けた候補者を排除することを意図して労働者委員の選任がされて
いるという推認が十二分に働くというべきであり,連合北海道の系
統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に労働者委員を独占させ,
連合以外の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除する
という違法不当な動機に基づいてした差別的処分であると認めるこ
とができると主張する。
しかし,処分行政庁は,本件任命処分に当たり,労働組合の系統
についても,当然に考慮しており,単純に系統別の比例配分により
労働者委員を割り振ることを最優先とするような選考を行わなかっ
たにすぎない。労働者委員は,一旦任命されると,特定の集団や党
派の利害に偏って事件を処理することは許されないのであり,労働
者を代表する者として職務を行うことが求められるところ,本件任
命処分においては,処分行政庁が,系統別のみならず,その他の要
素も総合的に考慮して判断した結果,原告X1らが労働者委員に選
任されなかったものである。
(b)原告らは,12期24年連続の連合北海道独占という結果の異
常性だけからも,本件任命処分における処分行政庁の連合北海道独
占,原告道労連排除の差別意思が優に推認されると主張する。
しかし,次のbのとおり,処分行政庁は,本件任命処分に当たり,
労働委員会制度を規定した法令及び54号通牒の趣旨,労働界の現
状,労働委員会が果たすべき役割を踏まえて,推薦のあった候補者
から,様々な要素を総合的に判断し,北海道の労働者の代表として
円滑で的確な職責の遂行が期待することができる者を適任者として
選任したものであって,候補者全員について公平かつ平等に審査を
行っているから,この判断の過程において,原告道労連の系統に属
する労働組合の推薦を受けた候補者を当初から審査の対象から除外
したり,除外したのと同様の取扱いをするといった排除意図が存在
したはずがない。道労委の労働者委員を12期24年連続して連合
北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者が占めている
のは,任命処分が各任期ごとに考慮要素を総合的に勘案して行われ
た結果にすぎない。
原告らは,第37期以降,原告道労連の系統に属する労働組合の
推薦を受けた候補者から1名も労働者委員に任命されない確率は,
わずか0.01%であり,特別な意図が働き続けていたとしか考えら
れないと主張するが,労働者委員の選任は,あくまでも各任期ごと
に,考慮要素を総合的に勘案して行うものであるし,労働者委員の
任命において労働組合の系統を考慮することは,選考に当たり考慮
する要素の一つでしかなく,異なる系統の労働組合の組合員数が拮
抗しているというような状況において,一方の系統に属する候補者
が任命されていないという事態が長年にわたり継続しているという
のであれば格別,北海道における加盟上級団体の系統別の組合員数
の比率の推移や労働委員会の委員の任命があくまでも各任期ごとに
行われることを考慮すると,任命処分が殊更に原告道労連の系統に
属する候補者を排除する意思をもって行われたものでないことは明
らかである。
b本件任命処分が判断過程を誤ってしたものではないこと
次のとおり,処分行政庁は,道労委第40期労働者委員の任命に当
たり,候補者全員を審査の対象とし,限られた定数の中で,様々な要
素を総合的に勘案して,労働者委員を選任したものであり,その方法
及び過程には何ら不合理な点はなく,そこに,その裁量権の範囲の逸
脱又はその濫用が存在しないことは明らかである。本件任命処分が,
処分行政庁がその判断の過程を誤ってした違法なものであるとする原
告らの主張は失当である。
(a)処分行政庁は,本件任命処分に当たり,労働委員会制度を規定
した法令及び54号通牒の趣旨,労働界の現状,労働委員会が果た
すべき役割を踏まえて,推薦のあった候補者から,様々な要素を総
合的に判断し,北海道の労働者の代表として円滑で的確な職責の遂
行が期待することができる者を適任者として選考したものである。
具体的には,処分行政庁は,法令等の趣旨を踏まえて,系統別の労
働組合数,地域別の労働組合員数,産業分野別の労働組合のそれぞ
れの状況,労働者委員の主な業務などを勘案するとともに,16名
の候補者全員について,年齢,性別,所属労働組合の現状,労働組
合における役職,組合役員歴などを考慮し,また,再任候補者につ
いては,委員としての経験,紛争の解決努力などの職責の遂行状況
の観点をも加味して,総合的な判断を行い,7人の者を道労委第4
0期労働者委員に任命した。
(b)処分行政庁は,道労委第40期労働者委員の選考に当たり,ま
ず,系統別の組合員数の割合(前提事実(3)エ(エ)a)をもとに,実
際に推薦のあった候補者から選任した場合の系統別の組合員数によ
る選任の組合せを「連合北海道6名,原告道労連1名」又は「連合
北海道7名,原告道労連0名」と想定し(同d),また,地域別の
組合員数の割合(同b)及び産業分野別の組合員数の割合(同c)
をもとに,実際に推薦のあった候補者から選任した場合の地域別及
び産業分野別の組合員数による選任の組合せをケース1(石狩振興
局から4名,その他の振興局から3名を選出する場合)又はケース
2(石狩振興局から5名,その他の振興局から2名を選出する場合)
と想定した(同d)。その上で,処分行政庁は,これらの系統別,
地域別,産業分野別の考慮要素に加えて,推薦書及び履歴書に記載
されている候補者の年齢,所属労働組合における地位,所属労働組
合の構成員数,候補者の組合役員歴等をも考慮し,また,再任候補
者である道労委第39期労働者委員については,その任期中に関与
した事件の種類及び数並びに活動状況を道労委事務局に照会した結
果をも踏まえて,実際に推薦のあった候補者16名から選任した場
合の選任の組合せをケース1によることとし,労働者委員として円
滑で的確な職責の遂行を期待することができる適任者として7名を
選出した(前提事実(3)エ(オ))。
(c)処分行政庁が行った考慮要素と各候補者の審査の内容は,具体
的には,次のとおりである。
ⅰ地域別が石狩,産業分野別が卸売業・小売業に該当する者とし
ては,γ候補及びδ候補の2名が選任された。
ⅱ地域別が石狩,産業分野別が運輸業・郵便業に該当する者とし
ては,θ候補が選任された。この区分に該当する候補者としては,
他にη候補,原告X3及び原告X4,C候補が存在したところ,
θ候補は,その産業分野の選任割合が1名である上,再任候補者
であり,多数の事件に関わり,誠実かつ的確にその職務を全うし
ているという道労委事務局の意見があったため,円滑で的確な職
責の遂行をより期待することができるという観点から,θ候補が
労働者委員に選任された。原告X3及び原告X4は,原告道労連
の系統に属する労働組合の推薦を受けたものであり,いずれも組
合役員歴が豊富であったが,これらのことを考慮しても,θ候補
は,多数の事件に関わり,誠実かつ的確にその職務を行った実績
を有しており,円滑で的確な職責の遂行をより期待することがで
きることから,原告X3及び原告X4を選任するには至らなかっ
た。θ候補は,組合役員歴が豊富であり,道労委第39期労働者
委員として多数の事件に関わり,誠実かつ的確に職務を行ってい
ることから,円滑で的確な職責の遂行がより期待することができ
たものである。
ⅲ地域別が石狩,産業分野別が医療・福祉,複合サービス事業又
は建設業のいずれかに該当する者としては,η候補が選任された。
この区分に該当する候補者としては,他に原告X1及び原告X4,
C候補が存在したところ,医療・福祉,複合サービス事業,建設
業の選任割合は,いずれも1名には至らず,原告X1及び原告X
4は,いずれも組合役員として一定の経験を有しているものの,
η候補の経歴と比較した場合,経験に乏しいことから,選任する
には至らなかった。原告X4は,候補者の中で唯一の30歳代で
あり,他と異なる世代としての職務遂行を期待することができる
一方,対立する労使に対するあっせん業務などにおいては,ある
程度年齢を重ねた者の方が,より反発が尐なく,説得力を増すこ
とができるという側面もあり,η候補との比較において,連合北
海道と原告道労連の系統別の選任割合が6.5名対0.5名となっ
ていることを踏まえても,あえて原告X4を選任するには至らな
かった。原告X1は,満67歳と候補者の中で最も高齢であり,
就任可能期間が最大でも4年間しかなく,労働者委員の業務にお
いては様々な経験,ノウハウを蓄積することが将来的な業務の円
滑な遂行の重要な基盤となることから,η候補が満59歳である
こと,連合北海道と原告道労連の系統別の選任割合が6.5名対0.
5名となっていることを踏まえても,原告X1を選任するには至
らなかった。η候補は,組合役員歴が豊富であり,労働者委員の
役割を果たすことができる実績を有していると評価されたもので
ある。
ⅳ地域別が石狩以外の地域に該当する者としては,地域別が胆振,
産業分野別が製造業に該当する者としてβ候補が,地域別が上川,
産業分野別が電気・ガス・熱供給・水道業に該当する者としてε
候補が,地域別が渡島,産業分野別が公務に該当する者としてζ
候補が,それぞれ選任された。この区分に該当する候補者として
は,他に原告X2,E候補が存在したところ,原告X2は,原告
道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けたものであり,組合
役員歴が豊富であったが,β候補及びε候補と同様,選任割合が
地域別又は産業分野別のいずれの区分でも1.0名に達していない
上,地域別と産業分野別の比率を合算した数値をもって他の候補
者と比較するなど総合して検討しても,有利な点が見出せず,β
候補とε候補がいずれも再任候補者であり,労働者委員として多
数の事件に関わり,誠実かつ的確に職務を行い,円滑で的確な職
責の遂行がより期待することができることを勘案すると,原告X
2を選任すべき積極的理由はなかったことから,原告X2を選任
するには至らなかった。β候補,ε候補及びζ候補は,いずれも,
組合役員歴が豊富であり,労働者委員の役割を果たすことができ
る実績を有していると評価され,道労委第39期労働者委員とし
て多数の事件に関わり,誠実かつ的確に職務を行っていることか
ら,円滑で的確な職責の遂行がより期待することができたもので
ある。
ε候補の所属労働組合の所在地は札幌市であるが,ε候補が旭
川市に住所を有し,上川地域の協議体組織の執行委員を兼任して
いること,それまでの経歴によれば,ε候補の主たる活動拠点は
上川にあると認められることから,処分行政庁は,ε候補の地域
区分を上川として整理した。ε候補は,従前から一貫して旭川市
に居住しながら上川地域で労働組合の役員としての活動を行って
おり,上川地域の労働実態に精通していることは明らかである。
ε候補は,第38期の選考における地域区分はともかく,第39
期における選考からは既に上川地域の候補者とされている。
(d)処分行政庁は,道労委第40期労働者委員の選考に当たり,第
1段階として,実際に推薦のあった候補者から労働者委員を選任し
た場合の組合せを,数値化が可能な系統別,地域別及び産業分野別
のそれぞれの組合員数の割合をもとにして想定し,第2段階として,
各候補者が54号通牒で示されている「申立人の申立内容等を良く
聴取し,判断して,関係者を説得し得る適格者」に該当するか否か
について,候補者の年齢,組合役員歴等を比較検討し,再任候補者
にあっては,道労委第39期労働者委員として任期中に関与した事
件の種類,数,活動状況に関する道労委からの回答内容をも勘案の
要素に加えて,労働者委員の適格性の観点から,円滑で的確な職責
の遂行を期待することができるか否かを検討したものである。この
選考方法は,候補者の系統別,地域別及び産業分野別の各要素を踏
まえながら,労働者委員の適格性の観点から,各候補者の年齢,地
位,経歴等の考慮要素を総合的に勘案して行われるものであり,系
統別,地域別及び産業分野別のとその他の考慮要素との間に軽重や
優劣を持たせているものではなく,あくまでも,労働者委員の選任
に至るまでの過程で先後が生じたにすぎない。労働者委員の任命処
分は,全ての考慮要素を総合的に勘案して行われることが前提とな
っている。処分行政庁は,多岐にわたる考慮要素のうち,どの要素
を重視し,又は決め手とするかについても裁量があるというべきで
あり,原告らの主張は,単に,本件訴訟において原告らに有利に働
く考慮要素を強調し,労働者委員の選考内容を批判しているにすぎ
ない。道労委第40期労働者委員の選考に当たり,処分行政庁が原
告道労連の系統に属する候補者を当初から審査の対象から除外し,
又は除外したのと同様の取扱いをした事実はないから,本件任命処
分の判断過程に処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用は存
在しない。
イ被告の国家賠償責任の有無(争点2)
(原告らの主張)
(ア)処分行政庁の故意
処分行政庁は,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候
補者に道労委の労働者委員を独占させ,原告道労連の系統に属する労働
組合の推薦を受けた候補者を排除するという差別的意思に基づいて,本
件任命処分をしたものであるところ,このような処分行政庁による差別
的取扱いは,平等原則に違反し,原告らの団結権を侵害する行為であっ
て,その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してした違法なものであ
るから,被告は,国家賠償法1条1項の規定により,それによって原告
らに生じた損害を賠償する義務を負う。
(イ)処分行政庁の過失
仮に,処分行政庁が,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受
けた候補者に道労委の労働者委員を独占させ,原告道労連の系統に属す
る労働組合の推薦を受けた候補者を排除するという差別的意思に基づい
て,本件任命処分をしたものであると認めることができないとしても,
処分行政庁が,その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用して本件任命
処分をしたことについては,尐なくとも過失があったというべきである
から,被告は,国家賠償法1条1項の規定により,それによって原告ら
に生じた損害を賠償する義務を負う。
(被告の主張)
(ア)処分行政庁の故意について
処分行政庁が,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候
補者に道労委の労働者委員を独占させ,原告道労連の系統に属する労働
組合の推薦を受けた候補者を排除するという差別的意思に基づいて,本
件任命処分をした事実はなく,処分行政庁に国家賠償法1条1項の故意
がなかったことは明らかである。
(イ)処分行政庁の過失について
仮に,処分行政庁が,その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用して
本件任命処分をしたものであるとしても,処分行政庁は,本件任命処分
を行うについて,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしていたもので
あるから,国家賠償法1条1項の過失が認められる余地はない。
ウ原告らの損害の有無(争点3)
(原告らの主張)
(ア)原告道労連らは,本件任命処分により,原告X1らが労働者委員に
任命されず,労働組合法上保障された手続的利益を侵害されたことによ
って,その組織が弱体化するなどし,憲法上保障された団結権を侵害さ
れたほか,その社会的信用と名誉を毀損された。このことによって原告
道労連らが被った損害を金銭に評価すれば,それぞれ100万円を下る
ものではない。
(イ)原告X1らは,本件任命処分により労働者委員に任命されなかった
ことによって,本来行うことができるはずの労働者委員としての活動の
機会を奪われたほか,その社会的信用と名誉を毀損された。このことに
よって原告X1らが被った精神的苦痛に対する慰謝料は,それぞれ10
0万円を下るものではない。
(被告の主張)
(ア)被告に国家賠償法1条1項の規定に基づく損害賠償責任が認められ
るためには,本件任命処分によって,原告らの権利が侵害され,原告ら
に損害が生じたことが必要である。そして,その被侵害利益は,厳密な
意味で権利ではなくとも,法律上保護される利益であれば足りるが,事
実上の利益では足りないものと解される。
(イ)労働組合法が定める労働者委員の推薦制度は,個々の労働組合や候
補者の私的な利益の保護を目的とするものではなく,労働者一般の利益
という公益の実現を目的とするものであるから,労働者委員の候補者の
推薦について労働組合や候補者が有する利益は,事実上の利益にすぎず,
法律上保護される利益ではないのであり,ある労働組合の推薦を受けた
候補者が労働者委員に任命されなかったことによって,当該労働組合や
当該候補者に何らかの不利益が生じたとしても,それは事実上の不利益
にとどまり,これらの者の法律上保護される利益が侵害されたというこ
とはできない。
(ウ)また,処分行政庁に対し,原告北海道勤医労らが自らの推薦を受け
た原告X1らを労働者委員に任命するように求める権利や,原告X1ら
が自らを労働者委員に任命するように求める権利が認められているもの
ではなく,労働者委員に任命されなかったことによって原告らの社会的
評価が低下させられたものでもないから,原告らに具体的な現実の損害
が発生したということはできない。
(エ)原告らが法律上保護される利益を侵害され又は原告らに具体的な現
実の損害が発生したということはできないから,本件任命処分は原告ら
に対する不法行為を構成するものではなく,原告らの被告に対する国家
賠償請求は理由がない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,本件任命処分の取消しの訴えの適否(本案前の争点1)につい
ては,原告らは,本件任命処分の取消しの訴えについて原告適格を有するもの
ではないと解するので,本件任命処分の取消しの訴えは,不適法なものとして,
これを却下するが,本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟の適否(本案前の争
点2)については,本件任命処分の取消しの訴えが不適法なものであるとして
も,これと併合提起された本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟は適法なもの
とするのが相当であると解する。
そして,被告の国家賠償責任の有無(争点2),すなわち,本件任命処分が
違法なものであるとした場合,処分行政庁がそのような処分をしたことについ
て故意又は過失があったということができるか否かについて判断する前提とし
て,本件任命処分の適否(争点1),特に,本件任命処分は処分行政庁がその
裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してした違法な処分であるか否か(争点
1の6)について検討するに,処分行政庁が,連合北海道の系統に属する労働
組合の推薦を受けた候補者に道労委の労働者委員を独占させ,原告道労連の系
統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除する意思に基づいて,本件任
命処分をしたものであるとまで認めることはできず,本件任命処分が違法不当
な動機に基づいてされたものであるということはできないが,本件任命処分は,
処分行政庁がその判断の過程を誤ってしたものであるといわざるを得ず,本件
任命処分は,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱してした違法な処分である
といわなければならない(なお,争点1の1ないし5については,いずれも,
採用することができないか,又は争点1の6とは別個の違法事由をいうものと
は解されない。)。しかし,そのことを前提として,被告の国家賠償責任の有
無について判断しても,処分行政庁が,本件任命処分を行うについて,故意が
あったと認めることはできず,また,過失があったと認めることもできないの
であり,原告らの損害の有無(争点3)について判断するまでもなく,本件任
命処分に係る国家賠償請求は失当である。
以下,これらについて詳述する。
2本件任命処分の取消しの訴えの適否(本案前の争点1)について
(1)行政事件訴訟法9条1項は,処分の取消しの訴えは,当該処分の取消し
を求めるにつき法律上の利益を有する者に限り,提起することができると規
定するところ,ここに処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者
とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,
又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解すべきであり,当該処分
を定めた行政法規が,処分の相手方以外の者の具体的利益を専ら一般的公益
の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する者の個別的利益としても
これを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利
益も,ここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵
害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟の
原告適格を有するというべきである。
そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有
無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみに
よることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮される
べき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び
目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令がある
ときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに
当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害され
ることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘
案すべきものである(行政事件訴訟法9条2項)。
(以上につき,最高裁判所平成17年12月7日大法廷判決・民集59巻1
0号2645頁参照)
(2)上記の見地に立って,原告らが本件任命処分の取消しを求める原告適格
を有するか否かについて検討する。
ア本件任命処分の法律上の効果の観点から,原告らがその取消しを求める
原告適格を有するか否かについて
労働組合法19条1項は,労働委員会は,使用者を代表する者(使用者
委員),労働者を代表する者(労働者委員)及び公益を代表する者(公益
委員)各同数をもって組織すると規定し,同条2項は,労働委員会は,中
央労働委員会及び都道府県労働委員会とすると規定している。同法19条
の12第1項は,都道府県知事の所轄の下に,都道府県労働委員会を置く
と規定し,同条3項は,労働者委員は,労働組合の推薦に基づいて,都道
府県知事が任命すると規定している。労働組合法施行令21条1項は,都
道府県知事は,労働者委員を任命しようとするときは,当該都道府県の区
域内のみに組織を有する労働組合に対して候補者の推薦を求め,その推薦
があった者のうちから任命するものとすると規定し,同条3項は,労働組
合は,労働者委員の候補者を推薦するときは,当該労働組合が労働組合法
2条及び5条2項の規定に適合する旨の当該候補者の推薦に係る都道府県
労働委員会の証明書を添えなければならないと規定している。労働組合法
19条の12第6項,19条の4第1項は,禁固以上の刑に処せられ,そ
の執行を終わるまで,又は執行を受けることがなくなるまでの者は,委員
となることができないと規定している。
都道府県知事が労働組合の推薦に基づいてする都道府県労働委員会の労
働者委員の任命は,その直接の相手方たる私人(その任命により労働者委
員となる者)のために,都道府県労働委員会の労働者委員たる地位を設定
する設権行為としての性質を有する行為であり,相手方の同意を要件とす
る特殊の行政行為であるところ,労働者委員とは,労働者を代表する者で
ある(労働組合法19条1項)。そして,同項の規定が,労働委員会の委
員として,中立的立場にある公益委員のほかに,労働者委員及び使用者委
員をも加え,労働委員会を三者構成の機関とした趣旨は,労働委員会が労
使の紛争を取り扱うに際し,公労使の三者の委員がそれぞれの専門的な識
見を出し合い,公益及び労使の利益を適切に調和させ,また,労使の委員
が労働委員会と労使の当事者との間を取り持ち,労使の紛争の自主的な解
決を促進することを期待したものであり,労使の紛争の適正かつ円滑な解
決の促進という公益の実現にあると解されることからすれば,労働者を代
表する者とは,特定の労働者ないし労働組合の立場を代表する者ではなく,
労働者の立場を一般的に代表する者であると解するのが相当であって,都
道府県労働委員会の労働者委員の任命は,都道府県知事が当該都道府県の
労働者の立場を一般的に代表する者を労働者委員に任命する行為であると
いうことができる。このように解することができるところ,都道府県の労
働者委員の任命の名宛人たる私人(すなわち,その任命により労働者委員
となる者)は,労働者委員の任命により,その同意を要件として,都道府
県労働委員会の労働者委員たる権利ないし権限を取得し,義務を負わされ
ることとなるが,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合及びその推薦
を受けた候補者(ただし,その任命により労働者委員となる者を除く。以
下同じ。)は,労働者委員の任命により,その権利義務ないし法律上の地
位に何らの影響をも受けるものではないのであり,労働者委員の任命の法
律上の効果の観点から,それにより自己の権利若しくは法律上保護された
利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者に該当するとい
うことはできない。
この点について敷衍するに,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合
及びその推薦を受けた候補者が,都道府県知事に対し,その候補者を労働
者委員に任命することを求める実体上の権利を有すると解すべき法令上の
根拠はなく,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合及びその推薦を受
けた候補者は,都道府県知事に対し,そのような実体上の権利を有するも
のではないし,また,労働者委員の候補者の推薦が,法令に基づき,当該
候補者に対し労働者委員の任命を求める行為であって,当該行為に対して
都道府県知事が諾否の応答をすべきものとされているものであると解すべ
き法令上の根拠もなく,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合及びそ
の推薦を受けた候補者は,都道府県知事に対し,労働者委員の任命につい
て法令に基づく申請権を有するものでもないのであって,労働者委員の任
命の中に,労働者委員に任命されなかった候補者との関係で,労働者委員
に任命しない旨の処分又は労働者委員の候補者の推薦により求められた労
働者委員の任命を拒否する処分が包含されているものとし,労働者委員の
候補者の推薦をした労働組合及びその推薦を受けた候補者が,労働者委員
の任命により,その権利義務ないし法律上の地位に何らかの影響を受ける
と解することはできない。
イ本件任命処分の処分要件の観点から,原告らがその取消しを求める原告
適格を有するか否かについて
もっとも,上記(1)によれば,本件任命処分を定めた行政法規である労
働組合法の規定が,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合又はその推
薦を受けた候補者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるに
とどめず,それが帰属する者の個別的利益としてもこれを保護すべきもの
とする趣旨を含むと解されるのであれば,このような利益も,法律上保護
された利益に当たり,本件任命処分によりこれを侵害され,又は必然的に
侵害されるおそれのある者は,本件任命処分の取消訴訟の原告適格を有す
るということになる。
ウそこで,都道府県労働委員会の労働者委員の任命の処分要件について検
討するに,都道府県労働委員会の労働者委員の任命の根拠規定である労働
組合法19条の12第3項は,労働者委員は,労働組合の推薦に基づいて,
都道府県知事が任命すると規定し,労働組合法施行令21条1項は,都道
府県知事は,労働者委員を任命しようとするときは,当該都道府県の区域
内のみに組織を有する労働組合に対して候補者の推薦を求め,その推薦が
あった者のうちから任命するものとすると規定するのみであることは,上
記アのとおりであって,労働者委員の任命の手続的な処分要件として労働
組合の推薦に基づくことを定めるにとどまり,労働者委員の任命の他の処
分要件を定めていない。そして,労働組合法19条1項及び同法19条の
12第6項,19条の4第1項の各規定によれば,労働組合法は,労働組
合の推薦があった者が労働者を代表する者であること,及び,その者が労
働者委員の欠格条項に該当しないことを労働者委員の任命の実体的な処分
要件としているものと解されるが,労働組合法及びその関係法令の規定の
中に,労働者委員の任命の他の処分要件を窺わせるものは存在しないので
あって,都道府県労働委員会の労働者委員の任命の処分要件は,その労働
者委員の任命が労働組合の推薦に基づくものであることという手続的な要
件と,労働組合の推薦があった者が労働者を代表する者であること,及び,
その者が労働者委員の欠格条項に該当しないことという実体的な要件であ
ると解するのが相当である。
これらの都道府県労働委員会の労働者委員の任命の処分要件のうち,ま
ず,その労働者委員の任命が労働組合の推薦に基づくものであることとい
う手続的な処分要件についてみると,労働組合法が労働者委員の任命にこ
のような要件を課したのは,都道府県知事は,数多く存在する当該都道府
県の労働者等(労働者委員は,その者自身が労働者であることを必要とし
ないものであると解される。)の中で,その立場を一般的に代表する者と
して労働委員会の手続に関与する労働者委員の適格者がだれであるかを必
ずしも的確に知り得るものではなく,労働者委員の選任を都道府県知事に
全面的に委ねてしまうと,恣意的な選任が疑われることにもなりかねない
ため,労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地
位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体で
ある労働組合(労働組合法2条1項)に労働者委員の候補者の推薦権を付
与し,都道府県知事は,その推薦に基づいて,その推薦があった者のうち
から労働者委員を任命するものとするのが労働者委員の適格者を得る上で
合理的であり,ひいては,当該都道府県の労働者の一般的利益(ないしそ
の利益と表裏の関係にある労働委員会制度の適正な運営の利益)という,
労働者委員を労働委員会の手続に関与させる目的である公益の実現に資す
ることとなるからであると解される。
次に,労働組合の推薦があった者が労働者を代表する者であることとい
う実体的な処分要件についてみると,都道府県知事が,都道府県労働委員
会の労働者委員の任命をするに当たり,労働組合が,労働組合法19条の
12第3項の規定により,都道府県知事に対し,都道府県労働委員会の労
働者委員の候補者の推薦をした場合において,当該推薦に係る候補者が,
労働者を代表する者であるか否かの判断,すなわち,当該都道府県の労働
者の立場を一般的に代表する者として労働委員会の手続に関与する労働者
委員の適格者であるか否かの判断は,上記規定による労働組合の推薦に基
づいてするという制約の下で,都道府県知事の広範な裁量に委ねられてい
ると解するのが相当であり,都道府県知事は,労働組合の推薦があった候
補者のうちから労働者委員を任命しなければならない(その意味において,
都道府県知事の裁量権の行使は制約されている。)が,労働組合の推薦が
あった候補者のうちから労働者委員に任命する者を選定するに当たっては,
複数の候補者のうちのいずれの者が当該都道府県の労働者の立場を一般的
に代表する者として労働委員会の手続に関与する労働者委員の適格者とし
ての性質をよりよく有しているかの判断を,その公益的な見地,すなわち,
当該都道府県の労働者の一般的利益の見地から,広範な裁量をもってする
ことができるというべきである。
何故ならば,労働組合法は,労働者を代表する者を労働者委員に任命す
る旨を抽象的に定めるのみで,どのような者を労働者を代表する者として
労働者委員に任命するかを具体的に定めておらず,上記規定が労働者委員
の任命は労働組合の推薦に基づいてすると定めているほかには,都道府県
知事による労働者委員の任命権限の行使を制約する法令の規定は存在しな
いからである(もっとも,「労働組合の推薦があった者を労働者を代表す
る者とする」と,内包的に定義することは可能であり,このように定義す
るならば,労働組合の推薦があった者が労働者を代表する者であることと
いう実体的な処分要件の充足性の有無について,都道府県知事の判断の余
地はなく,都道府県知事の裁量に委ねられているものではないということ
となる。しかし,そのように定義したところで,都道府県知事が,労働組
合の推薦があった者のうちから労働者委員を任命するに当たり,その任命
権限の行使を制約する法令の規定は存在しないことに変わりはないから,
都道府県知事は,労働者委員を任命するに当たり,その裁量的判断により,
いずれの者を労働者委員に任命するかを決定することができる,すなわち,
いずれの者を労働者委員に任命するかについて効果裁量を有すると解すべ
きこととなると考えられるところ,このように解した場合,都道府県知事
は,いずれの者を労働者委員に任命するかを,いずれの者が労働者委員の
適格者としての性質をよりよく有しているかという観点から決定すると解
することとなると考えられるのであって,これは,本来,労働組合の推薦
があった者が労働者を代表する者であることという実体的な処分要件の充
足性の有無の判断において考慮すべきことを,任命権限の行使をするか否
かの判断において考慮するものにほかならない。そして,そうであるとす
ると,上記のように,「労働組合の推薦があった者を労働者を代表する者
とする」と定義することはできないものというべきである。)。
これを実質的にみても,労働組合法は,労働者が使用者との交渉において
対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること,
労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選出することそ
の他の団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し,団結することを擁
護すること並びに使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するた
めの団体交渉をすること及びその手続を助成することを目的とするものであ
り(1条1項),労働関係調整法は,労働組合法と相俟って,労働関係の公
正な調整を図り,労働争議を予防し,又は解決して,産業の平和を維持し,
もって経済の興隆に寄与することを目的とするものである(1条1項)とこ
ろ,労働委員会は,使用者委員,労働者委員及び公益委員各同数をもって
組織される,三者構成の合議制機関であり(労働組合法19条1項),労
働組合の資格の立証を受け,証明を行い,不当労働行為に関し,調査し,
審問し,命令を発し,和解を勧め,労働争議のあっせん,調停及び仲裁を
行い,その他労働関係に関する事務を執行するものである(地方自治法2
02条の2第3項)。すなわち,労働委員会は,労働組合法5条,11条
及び18条の規定によるもののほか,不当労働行為事件の審査(27条な
いし27条の18)等並びに労働争議のあっせん(労働関係調整法10条
ないし16条),調停(17条ないし28条)及び仲裁(29条ないし3
5条)をする権限を有する(労働組合法20条)ところ,その権限に属す
る事務のうち,労働組合法5条及び11条の規定による事件の処理並びに
不当労働行為事件の審査等,労働関係調整法42条の規定による事件の処
理については,公益委員のみが参与するとされているが,労働者委員は,
使用者委員と共に,労働組合法27条1項の規定により調査及び審問を行
う手続並びに27条の14第1項の規定により和解を勧める手続に参与し,
又は27条の7第4項及び27条の12第2項の規定による行為をするこ
とができ(労働組合法24条1項。労働委員会が当事者若しくは証人に出
頭を命ずる処分又は物件提出命令をしようとする場合には,意見を述べる
ことができ,労働委員会が救済命令等を発しようとする場合も,意見を述
べることができる。),また,労働関係調整法の規定によるあっせん,調
停及び仲裁については,あっせんにおいて,あっせん員となり,関係当事
者をあっせんし,双方の主張の要点を確かめ,事件が解決されるように努
め(労働関係調整法13条),調停において,調停委員となり,仲裁にお
いて,仲裁委員会の同意を得て,その会議に出席し,意見を述べることが
できる(31条の5)。このように,労働委員会は,準司法的作用である
判定的機能(労働組合の資格審査,不当労働行為事件の審査等)と,調整
的機能(労働関係調整法の規定に基づく労働争議のあっせん,調停及び仲
裁等)とを担うものであるところ,そのうちの判定的機能については,中
立的立場に立つ公益委員のみが行うこととされているが,労働者委員は,
使用者委員と共に,その手続に参与し,意見を述べるなどし,また,調整
的機能については,あっせん員や調停委員となるなどするのであって,労
働委員会の手続において重要な役割を果たしているものである。そして,
ある候補者が当該都道府県の労働者の立場を一般的に代表する者として労
働委員会の手続に関与する労働者委員の適格者であるか否かを判断するに
当たっては,その候補者のそれまでの職歴や組合員歴そのほかの経歴ない
し活動歴から窺い知ることができるその候補者の人格,識見に加え(再任
候補者の場合,それまでの労働者委員としての活動において,その候補者
が,どのような事件等に関与し,どのような処理等をしたかが,その候補
者のそれまでの経歴ないし活動歴の一つとして,その候補者の人格,識見
の判断の基礎となるということができる。),その候補者の年齢,性別そ
の他の属人的要素をも併せて(年齢が比較的高い候補者の場合,一般的に
みて,申立人の申立内容等をよく聴取し,関係者を説得し得る者が多いと
いうことができるが,その反面で,満69歳に近い候補者の場合には,選
任時の年齢が満69歳以下であることという行政委員会委員選任基準の制
限の下で,労働者委員の任命後に行われるオンザジョブトレーニングを経
て,どこまでその人格,識見を労働者委員としての職務に生かし切ること
ができるかという問題がある。一方,年齢が比較的低い候補者の場合,一
般的にみて,若い年代の申立人その他の関係者との意思疎通が円滑に行わ
れやすいということができるが,その反面で,年齢が高い申立人その他の
関係者を説得する上では,年齢が比較的低いことが不利に作用するおそれ
があるということもできる。また,女性の候補者の場合,一般的にみて,
同性の申立人その他の関係者との意思疎通が円滑に行われやすいというこ
とができる。),諸般の事情を十分に勘案し,労働組合法及び労働関係調
整法の上記各目的の下で,労働委員会が担っている上記各機能及びその手
続における労働者委員の上記役割をも踏まえて,公益的な見地,すなわち,
当該都道府県の労働者の一般的利益の見地から,その候補者が,労働委員
会の運営に理解と実行力を有し,かつ,申立人の申立内容等をよく聴取し,
判断して,関係者を説得し得るものであり,自由にして建設的な組合運動
の推進に協力し得る適格者(労働者委員の上記役割を果たし,労働委員会
の機能を十分に発揮させ得る適格者)であって,当該都道府県の労働者を
代表する者であるか否かを判断しなければならないのであり,このような
判断は,その性質上,都道府県労働委員会を所轄する都道府県知事の裁量
に委ねるのでなければ適切な結果を期待することができない。それ故に,
上記のとおり,労働組合の推薦を受けた候補者が労働者を代表する者であ
るか否かの判断は,都道府県知事の広範な裁量に委ねられていると解する
のが相当であるということとなる。
なお,労働組合の推薦があった者が労働者委員の欠格条項に該当しない
ことという実体的な処分要件は,労働者委員たるに必要な最低限度の要件
を確保しようとするものであり,都道府県知事は,労働者委員の欠格条項
に該当しない者のうちから労働者委員を任命しなければならない。その意
味においても,都道府県知事の裁量権の行使は制約されているということ
ができる。
エ上記ウにより,本件任命処分を定めた行政法規である労働組合法の規定
が,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合又はその推薦を受けた候補
者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それ
が帰属する者の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含
むと解されるか否かについて検討するに,都道府県労働委員会の労働者委
員の任命の処分要件のうち,その労働者委員の任命が労働組合の推薦に基
づくものであることという手続的な処分要件については,労働組合法がこ
のような要件を課したのは,都道府県知事は労働者委員の適格者がだれで
あるかを必ずしも的確に知り得るものではないという実情に鑑みると,労
働組合に労働者委員の候補者の推薦権を付与し,都道府県知事はその推薦
に基づいて労働者委員を任命するものとするのが,当該都道府県の労働者
の一般的利益という公益の実現に資することとなるからであると解される
ことは,上記ウのとおりであって,このことからするならば,仮に,労働
者委員の候補者の推薦をした労働組合又はその推薦を受けた候補者におい
て,その候補者が労働者委員に任命されることにより,何らかの利益を受
けることがあるとしても,そのような利益は,労働組合法が当該都道府県
の労働者の一般的利益という公益の実現を目的として都道府県知事の裁量
権の行使に制約を課したことによって受けた反射的利益にすぎないという
ことができる(労働組合法及びその関係法令の規定の中には,労働者委員
の選考手続にその候補者の推薦をした労働組合を関与させる規定や,その
選考手続にその労働組合を関与させることを前提とした規定が見当たらな
いところ,このことは,このような解釈を裏付けるものであるということ
ができる。)。また,都道府県労働委員会の労働者委員の任命の処分要件
のうち,労働組合の推薦があった者が労働者を代表する者であることとい
う実体的な処分要件については,労働組合の推薦を受けた候補者が労働者
を代表する者であるか否かの判断は,労働組合の推薦に基づいてするとい
う制約の下で,都道府県知事の広範な裁量に委ねられていると解するのが
相当であり,都道府県知事は,労働組合の推薦があった候補者のうちから
労働者委員に任命する者を選定するに当たり,複数の候補者のうちのいず
れの者が当該都道府県の労働者の立場を一般的に代表する者として労働委
員会の手続に関与する労働者委員の適格者としての性質をよりよく有して
いるかの判断を,その公益的な見地,すなわち,当該都道府県の労働者の
一般的利益の見地から,広範な裁量をもってすることができるというべき
であることは,上記ウのとおりであって,このことからするならば,都道
府県知事は,当該候補者が労働者委員の適格者であるか否かの判断を,専
らその公益的な見地から行うものであり,労働者委員の候補者の推薦をし
た労働組合又はその推薦を受けた候補者の利益の観点から行うものではな
いということができる。そして,そうであるとすると,本件任命処分を定
めた行政法規である労働組合法の規定が,労働者委員の候補者の推薦をし
た労働組合又はその推薦を受けた候補者の具体的利益を専ら一般的公益の
中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する者の個別的利益としても
これを保護すべきものとする趣旨を含むと解することはできないのであっ
て,このことは,上記ウにおいてみたところの労働組合法及びその関係法
令の趣旨及び目的並びに本件任命処分において考慮されるべき利益の内容
及び性質を考慮しても,異なるものではない。
このように,本件任命処分を定めた行政法規である労働組合法の規定が,
労働者委員の候補者の推薦をした労働組合又はその推薦を受けた候補者の
具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰
属する者の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと
解することはできないのであって,労働者委員の候補者の推薦をした労働
組合及びその推薦を受けた候補者は,労働者委員の任命において考慮され
るべき利益の内容及び性質の観点からも,それにより自己の権利若しくは
法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある
者に該当するということはできない。
オ原告道労連の原告適格について
上記アないしエによれば,仮に原告道労連が原告X1らを労働者委員の
候補者として推薦したものであるとしても,原告道労連は,本件任命処分
により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的
に侵害されるおそれのある者に該当するということはできないこととなる
ところ,原告道労連は,原告X1らを労働者委員の候補者として推薦した
ものですらないのであるから,本件任命処分により自己の権利若しくは法
律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者
に該当するということはできない。
(3)そうすると,原告らは,いずれも,本件任命処分により自己の権利若し
くは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのあ
る者に該当するということができず,本件任命処分の取消しを求めるにつき
法律上の利益を有する者ではないこととなるから,本件任命処分の取消しの
訴えは,いずれも原告適格を有しない者によって提起された不適法な訴えで
あるといわざるを得ない。
(4)原告らの主張について
ア原告らは,いずれも労働者委員の選任に当たり他の系統に属する労働組
合の推薦を受けた候補者と平等に自己の利益について手続上考慮されるべ
き法律上の権利又は利益を有すると主張する。
しかし,本件任命処分を定めた行政法規である労働組合法の規定が,労
働者委員の候補者の推薦をした労働組合又はその推薦を受けた候補者の具
体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属
する者の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解
することはできないことは,上記(2)エのとおりであって,仮に,労働者
委員の候補者の推薦をした労働組合及びその推薦を受けた候補者において,
他の労働組合の推薦を受けた候補者が労働者委員に任命されることにより,
その具体的利益に何らかの影響を受けることがあるとしても,そのような
利益は,専ら一般的公益の中に吸収解消させられているものにすぎないの
であるから,そのような利益について,他の系統に属する労働組合の推薦
を受けた候補者と平等に手続上考慮されるべき法律上の権利又は利益を有
していることは,本件任命処分の取消しの訴えの原告適格を基礎付けるも
のではないというべきである。
イ原告らは,任命権者による行政権限の適正な行使に信頼を置く国民は,
労働組合から労働者委員の候補者として推薦を受けた者のうち,労働者委
員に任命された者こそがそれらの権限や役割を担い得る適任者であるとみ
なし,任命されなかった者は任命された者との比較において適任者とは判
断されなかったものとみなすと主張する。
しかし,仮に,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合及びその推薦
を受けた候補者において,他の労働組合の推薦を受けた候補者が労働者委
員に任命されることにより,その社会的評価の低下という影響を受け,そ
れがその具体的利益に対する影響であるということができるとしても,上
記アのとおり,そのような利益は,専ら一般的公益の中に吸収解消させら
れているものにすぎないのであるから,そのような利益を有していること
は,本件任命処分の取消しの訴えの原告適格を基礎付けるものではないと
いうべきである。
3本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟の適否(本案前の争点2)について
(1)取消訴訟と併合提起された別の請求に係る訴えが併合の要件を満たさな
いため不適法な併合の訴えとされる場合においては,その請求の併合が取消
請求と同一の訴訟手続内で審判されることを前提とし,専ら併合審判を受け
ることを目的としてされたものと認められる特段の事情がない限り,受訴裁
判所としては,直ちに併合された請求に係る訴えを不適法として却下するこ
となく,これを取消請求と分離した上,自ら審判するか,又は事件がその管
轄に属さないときはこれを管轄裁判所に移送する措置をとるのが相当という
べきである(最高裁判所昭和59年3月29日第一小法廷判決・裁判集民事
141号511頁参照)。もっとも,取消訴訟と併合提起された別の請求に
係る訴えが併合の要件を満たさない理由が,併合する請求が行政事件訴訟法
13条各号の関連請求該当性を欠くことである場合とは異なり,基本となる
取消訴訟が原告適格を有しない者によって提起されたものであることである
場合には,併合要件の存否を直ちに判断することには困難を伴うことが尐な
くないため,併合要件を欠く不適法な併合の訴えが外観上取消訴訟に併合さ
れた状態のまま審理が続けられ,併合提起された訴えについても判決をする
のに熟した状態に至ることがある。そのような場合,その時点で併合提起さ
れた訴えを独立の訴えとして取り扱うことに意味はないから,1個の判決を
もって,取消しの訴えは却下し,併合提起された訴えについては実体判断を
することも許されるものと解される。
(2)これを本件についてみると,原告らは,行政事件訴訟法16条1項の規
定により,本件任命処分の取消しの訴えに,その関連請求に係る訴えである
本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟を併合提起しているところ,本件任命
処分の取消しの訴えが原告適格を有しない者によって提起された不適法な訴
えであることは,上記2のとおりであって,本件任命処分に係る国家賠償請
求訴訟は,上記規定に定める請求の客観的併合の要件を欠く不適法な併合の
訴えである。そして,原告らが,本件任命処分の取消請求と同一の訴訟手続
内で審判されることを前提とし,専ら併合審判を受けることを目的として,
本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟を併合提起したと認められる特段の事
情は,本件全証拠によってもこれを認めるに足りないから(この点について,
本件任命処分に係る国家賠償請求は本件任命処分の取消請求に付随するもの
にすぎない旨をいう被告の主張は採用することができない。),併合要件を
欠く不適法な併合の訴えである本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟が外観
上本件任命処分の取消しの訴えに併合された状態のまま審理が続けられ,本
件任命処分に係る国家賠償請求訴訟についても判決をするのに熟した状態に
至った本件においては,1個の判決をもって,本件任命処分の取消しの訴え
は却下し,本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟については実体判断をする
ことも許されるというべきである。
4本件任命処分の適否(争点1)について
(1)本件任命処分の取消しの訴えが原告適格を有しない者によって提起され
た不適法な訴えであることは,上記2のとおりであるから,本件任命処分の
取消しの訴えとの関係では,本件任命処分の適否(争点1)について判断す
る必要はない。しかし,本件任命処分の適否は,本件任命処分に係る国家賠
償請求訴訟における争点である被告の国家賠償責任の有無(争点2)の前提
問題でもあるから,被告の国家賠償責任の有無について判断する前提として,
本件任命処分の適否,すなわち,本件任命処分の客観的な違法性(処分要件
の充足性)の有無について判断する。
(2)都道府県労働委員会の労働者委員の任命が違法となる場合について
そこで,まず,本件任命処分は,連合以外の系統に属する労働組合の推薦
を受けた候補者を労働者委員から排除することを意図したものであり,処分
行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してした違法な処分であ
るか否か(争点1の6)について判断するに,都道府県労働委員会の労働者
委員の任命の処分要件のうち,労働組合の推薦があった者が労働者を代表す
る者であることという実体的な処分要件について,都道府県知事が,都道府
県労働委員会の労働者委員の任命をするに当たり,労働組合の推薦を受けた
候補者が,労働者を代表する者であるか否かの判断,すなわち,当該都道府
県の労働者の立場を一般的に代表する者として労働委員会の手続に関与する
労働者委員の適格者であるか否かの判断は,労働組合の推薦に基づいてする
という制約の下で,都道府県知事の広範な裁量に委ねられていると解するの
が相当であり,都道府県知事は,労働組合の推薦があった候補者のうちから
労働者委員を任命しなければならないが,労働組合の推薦があった候補者の
うちから労働者委員に任命する者を選定するに当たっては,複数の候補者の
うちのいずれの者が当該都道府県の労働者の立場を一般的に代表する者とし
て労働委員会の手続に関与する労働者委員の適格者としての性質をよりよく
有しているかの判断を,その公益的な見地,すなわち,当該都道府県の労働
者の一般的利益の見地から,広範な裁量をもってすることができるというべ
きであることは,上記2(2)ウのとおりであるところ,このように,労働組
合の推薦を受けた候補者が労働者委員の適格者であるか否かの判断は,都道
府県知事の広範な裁量に委ねられているが,都道府県知事がその裁量権の行
使としてした,当該労働組合の推薦を受けた候補者が労働者委員の適格者で
ある旨の判断であっても,それが重要な事実の基礎を欠き又は社会通念に照
らし著しく妥当性を欠くと認められるなど,都道府県知事に与えられた裁量
権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した場合には,それが違法となることは当
然である(行政事件訴訟法30条)。
ここで,54号通牒についてみるに,同通牒は,労働委員会の委員につい
て,「(労働委員会の)運営に理解と実行力を有し,かつ申立人の申立内容
等をよく聴取し,判断して,関係者を説得し得るものであり,自由にして建
設的な組合運動の推進に協力し得る適格者であること」と定める(1項)と
ともに,労働者委員の選考に当っては,「産別,総同盟,中立等系統別の組
合数及び組合員数に比例させるとともに産業分野,場合によっては地域別等
を充分考慮すること」と定めるものであり(2項2号),平成11年法律第
87号による地方自治法の改正により,機関委任事務が廃止され,地方労働
委員会の事務については自治事務とされた後も,処分行政庁による道労委の
労働者委員の任命の基準として取り扱われてきたところ,同通牒は,労働者
委員を含む労働委員会の委員が,それぞれ,労働委員会の運営に理解と実行
力を有し,かつ,申立人の申立内容等をよく聴取し,判断して,関係者を説
得し得るものであり,自由にして建設的な組合運動の推進に協力し得る適格
者であって,労働者委員にあっては,個々の委員が,それぞれ,その人格,
識見により,各自労働者の立場を一般的に代表してその権限を行使すべきで
あることを当然の前提としつつ,我が国の労働運動の実情においては,当該
労働者委員が推薦を受けた労働組合の系統別,地域別,産業分野別によって,
労使関係の在り方やそのほかの事項に関する考え方,利害関係に相違が生ず
ることは避けられず,その結果,労働者の一般的利益に関する考え方にも差
異が生じ,個々の労働者委員の権限の行使を通ずるのみでは,必ずしも的確
に労働者の立場を一般的に代表することができないこともあり得ることから,
その時々の労働界の状況により,労使関係の在り方に関する考え方等が相違
する労働者委員を適切に組み合わせることによって,複数の労働者委員が総
体として労働者の立場を一般的に代表するようにすることも可能にしようと
したものであると解するのが相当である。
そして,行政庁がその裁量に委ねられた事項について裁量権の行使の準則
を定めることがあっても,そのような準則は,本来,行政庁の処分の妥当性
を確保するためのものであるから,処分がその準則に違背して行われたとし
ても,原則として当不当の問題を生ずるにとどまり,当然に違法となるもの
ではないのであって(最高裁判所昭和53年10月4日大法廷判決・民集3
2巻7号1223頁参照),処分が準則に違背して行われた場合はもちろん,
準則に則して行われた場合であっても,処分が法令により行政庁に与えられ
た裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してされたものであれば,その処分
は違法となるのであるから,裁量権の行使の準則によって行われた処分の適
否は,その準則に定められた内容を踏まえつつ,その処分が行政庁に与えら
れた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してされたものであるか否かを判
断することによって決せられるべきである。
そこで,次に,処分行政庁が本件任命処分においてした判断の内容等につ
いてみた上,上記の見地から処分行政庁が本件任命処分においてした判断の
適否について判断する。
(3)処分行政庁が本件任命処分においてした判断の内容等について
前提となる事実及び各項の末尾に掲記の証拠並びに弁論の全趣旨によれば,
次の事実を認めることができる。
ア道労委第40期委員の任命に係る事務は,被告経済部労働局雇用労政課
長であったα課長が担当していた。(乙9,α証人)
イ本件任命処分に係る決定書の記載及びα課長の説明によれば,道労委第
40期労働者委員の選任過程は,次のとおりである。(乙4,9,α証人)
(ア)選任の考え方
労働委員会制度を規定した法令及び54号通牒の趣旨,労働界の現状,
労働委員会が果たすべき役割を踏まえて,候補者を総合的に判断し,適
任者を選任する。労働組合法19条の12第6項,19条の4第1項に
規定する欠格条項に該当しない者であること,選任時の年齢が満69歳
以下であること,道労委における在任期間が10年以内であることを被
推薦資格とする。
(イ)推薦された候補者の氏名,所属労働組合等
原告X1ら(4名)について,前提事実(3)イのとおり,原告北海道
勤医労らの推薦があった。本件任命処分によって労働者委員に選任され
たβ候補ら(7名)について,前提事実(3)エのとおり,連合北海道の
系統に属する労働組合の推薦があった。このうち,η候補を除く6名は,
いずれも再任候補者である。A候補ら(5名)について,連合北海道の
系統に属する労働組合の推薦があった。原告X1ら,η候補及びA候補
らは,いずれも新任候補者である。
(ウ)選任方法
次のとおり選任する。
a候補者が欠格条項に該当しないこと,推薦基準を満たしていること
を確認する。
b労働委員会制度を規定した法令及び54号通牒の趣旨,労働界の現
状,労働委員会が果たすべき役割を踏まえて,候補者から,北海道の
労働者の代表として円滑で的確な職責の遂行を期待することができる
者について,総合的に判断し,適任者を選任する。
c再任候補者については,委員としての経験,紛争解決努力などの職
責の遂行状況の観点も加味する。
(エ)選任に当たり勘案すべき主な項目の検討
a加盟上級団体
候補者16名の所属労働組合は,全て連合北海道又は原告道労連の
いずれかを加盟上級団体とするものであるから,連合北海道と原告道
労連の各系統に属する労働組合の組合員数の構成比(連合北海道系7
5.0%,原告道労連系6.1%)によると,労働者委員の定数7名の
系統別の選任割合は,連合北海道系6.5名,原告道労連系0.5名と
なる。なお,候補者16名中,連合北海道系の者は12名,原告道労
連系の者は4名である。
b地域(所在地)
実際に候補者の推薦があった地域に属する労働組合の組合員数の構
成比(石狩地域52.8%,胆振地域8.0%,上川地域7.4%,渡
島地域6.3%,釧路地域3.7%)によると,労働者委員の定数7名
の地域別の選任割合は,石狩地域4.7名,胆振地域0.7名,上川地
域0.7名,渡島地域0.6名,釧路地域0.3名となる。なお,候補
者16名中,地域別が石狩に該当する者は11名,胆振に該当する者
は2名,上川に該当する者は1名,渡島に該当する者は1名,釧路に
該当する者は1名である。
c産業分野
実際に候補者の推薦があった産業分野に属する労働組合の組合員数
の構成比(卸売業・小売業21.8%,公務14.7%,運輸業・郵便
業9.7%,医療・福祉7.2%,複合サービス事業6.3%,製造業
6.9%,建設業5.5%,電気・ガス・熱供給・水道業2.6%)に
よると,労働者委員の定数7名の産業分野別の選任割合は,卸売業・
小売業2.1名,公務1.4名,運輸業・郵便業1.0名,医療・福祉
0.7名,複合サービス事業0.6名,製造業0.5名,建設業0.4名,
電気・ガス・熱供給・水道業0.3名となる。なお,候補者16名中,
産業分野別が卸売業・小売業に該当する者は4名,公務に該当する者
は1名,運輸業・郵便業に該当する者は5名(2名は複合サービス事
業と,1名は建設業と重複している。),医療・福祉に該当する者は
2名,複合サービス事業に該当する者は2名,製造業に該当する者は
2名,建設業に該当する者は1名,電気・ガス・熱供給・水道業に該
当する者は2名である。
d上記aないしcを踏まえて,系統別による選任の組合せを「連合北
海道系6名,原告道労連系1名」又は「連合北海道系7名,原告道労
連系0名」と想定し,また,地域別及び産業分野別による選任の組合
せを次のケース1又はケース2と想定した。これによれば,地域別が
石狩,産業業分野別が卸売業・小売業に該当する者から2名,地域別
が石狩,産業分野別が運輸業・郵便業に該当する者から1名を選任し,
残り4名の選任は,次のケース1又はケース2のいずれかによること
となる。なお,本件任命処分に係る決定書(乙4)のケース2の表の
下には,「上記組合せの中で,連合,道労連の組合せは,(6名:1
名)又は(7名:0名)」という手書きの書込みがあるが,これは,
α課長が,被告経済部労働局長や経済部長,副知事との打合せをした
上,主査に決定書の起案を命じ,これにより主査が起案した決定書の
案文(乙4の印字部分)に書込みをしたものであり,その後,その書
込みを含めて決裁がされている。
(a)ケース1
地域別が石狩に該当する者から4名を,石狩以外の地域に該当す
る者から3名を,それぞれ選任する場合。具体的には,ⅰ)地域別が
石狩(選任割合4.7名),産業分野別が卸売業・小売業(同2.1
名)に該当する者(以下,この区分を「第1区分」という。)から
2名を,ⅱ)地域別が石狩,産業分野別が運輸業・郵便業(同1.0
名)に該当する者(以下,この区分を「第2区分」という。)から
1名を,ⅲ)地域別が石狩,産業分野別が医療・福祉(同0.7名),
複合サービス事業(同0.6名)又は建設業(同0.4名)のいずれ
かに該当する者(以下,この区分を「第3区分」という。)から1
名を,それぞれ選任し,また,ⅳ)地域別が胆振(選任割合0.7
名),産業分野別が製造業(同0.5名)に該当する者,地域別が上
川(同0.7名),産業分野別が電気・ガス・熱供給・水道業(同0.
3名)に該当する者,地域別が渡島(同0.6名),産業分野別が公
務(同1.4名)に該当する者又は地域別が釧路(同0.3名),産
業分野別が医療・福祉(同0.7名)に該当する者(以下,この区分
を「第4区分」という。)から3名を選任する。
(b)ケース2
地域別が石狩に該当する者から5名を,石狩以外の地域に該当す
る者から2名を,それぞれ選任する場合。具体的には,ⅰ)地域別が
石狩(選任割合4.7名),産業分野別が卸売業・小売業(同2.1
名)に該当する者から2名を,ⅱ)地域別が石狩,産業分野別が運輸
業・郵便業(同1.0名)に該当する者から1名を,ⅲ)地域別が石
狩,産業分野別が医療・福祉(同0.7名),複合サービス事業(同
0.6名)又は建設業(同0.4名)のいずれかに該当する者から2
名を,それぞれ選任し,また,ⅳ)地域別が胆振(選任割合0.7
名),産業分野別が製造業(同0.5名)に該当する者,地域別が上
川(同0.7名),産業分野別が電気・ガス・熱供給・水道業(同0.
3名)に該当する者,地域別が渡島(同0.6名),産業分野別が公
務(同1.4名)に該当する者又は地域別が釧路(同0.3名),産
業分野別が医療・福祉(同0.7名)に該当する者から2名を選任す
る。
(オ)選任
a候補者16名全員について,各人の本籍地が所在する市町村の長に
照会し,欠格条項に該当しないことを確認し,また,推薦書や履歴書
の記載に基づいて労働者委員候補者名簿を作成し,推薦基準を満たし
ていることを確認した。(乙7,8)
b再任候補者6名の第39期労働者委員としての経験,職責の遂行状
況について,道労委事務局に照会し,第39期労働者委員として関与
した事件(審査事件,調整事件,個別的労使紛争)の件数と共に,誠
実かつ的確にその職務を全うしている旨の回答を得た。道労委事務局
の回答は,次のとおりである。(乙6の1,2)
(a)γ候補
第39期委員として,21件(審査事件13件,調整事件3件,
個別的労使紛争5件)の事件に関与し,その間,職務上特に問題と
なる事実はなく,主にあっせん員として労働者側のあっせん作業を
行い,申請者に粘り強く説明し,譲歩を引き出し,解決を図った事
件のほか,2件のあっせん事件の解決に関与するなど,誠実かつ的
確にその職務を全うしている。なお,現在も,平成23年12月以
来係属している事件を始め,2件の係属中の審査事件の参与委員と
して事件に関与している。
(b)β候補
第39期委員として,26件(審査事件11件,調整事件7件,
個別的労使紛争8件)の事件に関与し,その間,職務上特に問題と
なる事実はなく,主にあっせん員として労働者側のあっせん作業を
行い,各委員と連携し,法人側に手続の不備を認識させ,解決金の
支払の了解を得た事件を含め,10件のあっせん事件の解決に関与
するなど,誠実かつ的確にその職務を全うしている。なお,現在も,
平成23年7月以来係属している事件を始め,2件の係属中の審査
事件の参与委員として事件に関与している。
(c)ζ候補
第39期委員として,19件(審査事件9件,調整事件6件,個
別的労使紛争4件)の事件に関与し,その間,職務上特に問題とな
る事実はなく,主にあっせん員として労働者側のあっせん作業を行
い,各委員との連携により,労使双方の譲歩を引き出し,解決に尽
力した事件など,5件のあっせん事件の解決に関与するなど,誠実
かつ的確にその職務を全うしている。なお,現在も,平成22年1
2月以来係属している事件を始め,3件の係属中の審査事件の参与
委員として事件に関与している。
(d)ε候補
第39期委員として,24件(審査事件11件,調整事件10件,
個別的労使紛争3件)の事件に関与し,その間,職務上特に問題と
なる事実はなく,主にあっせん員として労働者側のあっせん作業を
行い,当初,労使双方の主張に大きな開きがあったが,早期解決を
働き掛け,粘り強く説得し,双方合意に尽力した事件など,6件の
あっせん事件の解決に関与するなど,誠実かつ的確にその職務を全
うしている。なお,現在も,平成23年9月以来係属している事件
を始め,4件の係属中の審査事件の参与委員として事件に関与して
いる。
(e)θ候補
第39期委員として,20件(審査事件9件,調整事件5件,個
別的労使紛争6件)の事件に関与し,その間,職務上特に問題とな
る事実はなく,主にあっせん員として労働者側のあっせん作業を行
い,使用者に申請者への説明不足を認識させ,労使双方の希望額を
調整した解決金を支払うこととなった事件など,6件のあっせん事
件の解決に関与するなど,誠実かつ的確にその職務を全うしている。
なお,現在も,平成24年4月以来係属している事件を始め,2件
の係属中の審査事件の参与委員として事件に関与している。
(f)δ候補
第39期委員として,31件(審査事件13件,調整事件10件,
個別的労使紛争6件)の事件に関与し,その間,職務上特に問題と
なる事実はなく,主にあっせん員として労働者側のあっせん作業を
行い,使用者の事情も考慮し,早期解決を図るため,双方の希望額
を調整した解決金の支払に尽力した事件など,11件のあっせん事
件の解決に関与するなど,誠実かつ的確にその職務を全うしている。
なお,現在も,平成23年7月以来係属している事件を始め,3件
の係属中の審査事件の参与委員として事件に関与している。
その上で,16名の候補者の年齢,性別,所属労働組合における役
職,組合役員歴等に基づいて,各候補者を,次のとおり総合的に判断
し,β候補(所属労働組合の所在地室蘭市,産業分類製造業),γ候
補(同札幌市,卸売業・小売業),δ候補(同札幌市,卸売業・小売
業),ε候補(同札幌市,電気・ガス・熱供給・水道業),ζ候補
(同函館市,公務),θ候補(同札幌市,運輸業・郵便業)及びη候
補(同札幌市,複合サービス事業)の7名を道労委第40期労働者委
員に選任した。
c第1区分に属する候補者からの労働者委員に任命する者の選定
地域別が石狩,産業分野別が卸売業・小売業に該当する者としては,
γ候補及びδ候補の2名を選任した。
この区分に該当する候補者としては,他にA候補とB候補が存在し
たところ,A候補は,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受
けたものであり,組合役員歴が豊富であることはγ候補及びδ候補と
同等であったが,γ候補及びδ候補は再任候補者であり,多数の事件
に関わり,誠実かつ的確にその職務を全うしているという道労委事務
局の意見があったため,円滑で的確な職責の遂行をより期待すること
ができるという観点からは,A候補を選任するには至らなかった。B
候補は,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けたものであ
ったが,組合役員歴がγ候補及びδ候補に比べて乏しかったことから,
選任するには至らなかった。
γ候補及びδ候補は,いずれも,組合役員歴が豊富であり,労働者
委員の役割を果たすことができる実績を有していると評価され,道労
委第39期労働者委員として多数の事件に関わり,誠実かつ的確に職
務を行っていることから,円滑で的確な職責の遂行がより期待するこ
とができたものである。δ候補については,道労委第40期労働者委
員の候補者中,唯一の女性であったことが,選任の大きな理由の一つ
であった。
d第2区分に属する候補者からの労働者委員に任命する者の選定
地域別が石狩,産業分野別が運輸業・郵便業に該当する者としては,
θ候補を選任した。
この区分に該当する候補者としては,他にη候補,原告X3及び原
告X4,C候補が存在したところ,これらの候補者は,いずれも組合
役員歴が豊富であるが,θ候補は,その産業分野の選任割合が1名で
ある上,再任候補者であり,道労委第39期労働者委員として多数の
事件に関わり,誠実かつ的確にその職務を行っているという道労委事
務局の意見があったため,円滑で的確な職責の遂行をより期待するこ
とができるという観点から,選任された。
原告X3及び原告X4は,いずれも,原告道労連の系統に属する労
働組合の推薦を受けたものであり,組合役員歴が豊富であるが,これ
らのことを考慮しても,θ候補は,多数の事件に関わり,誠実かつ的
確にその職務を行った実績を有しており,円滑で的確な職責の遂行を
より期待することができることから,原告X3及び原告X4を選任す
るには至らなかった。
e第3区分に属する候補者からの労働者委員に任命する者の選定
地域別が石狩,産業分野別が医療・福祉,複合サービス事業又は建
設業のいずれかに該当する者としては,η候補を選任した。
この区分に該当する候補者としては,他に原告X1及び原告X4,
C候補が存在したところ,医療・福祉,複合サービス事業,建設業の
選任割合は,いずれも1名に至らず,原告X1及び原告X4は,いず
れも組合役員として一定の経験を有しているものの,η候補の組合役
員歴と比較した場合,経験に乏しいことから,選任するには至らなか
った。原告X4は,候補者の中で唯一の30歳代であり,他の候補者
と世代が異なる者として特別な職務遂行を期待することができる一方,
対立する労使に対するあっせん業務などをする上では,ある程度年齢
を重ねた者の方が,より反発が尐なく,説得力を増すことができると
いう側面もあり,η候補との比較において,連合北海道と原告道労連
の系統別の選任割合が6.5名対0.5名となっていることを踏まえて
も,あえて原告X4を選任するには至らなかった。原告X1は,満6
7歳と候補者の中で最高齢であり,就任可能期間が最大でも4年しか
なく,労働者委員の業務においては様々な経験,ノウハウを蓄積する
ことが将来的な業務の円滑な遂行の重要な基盤となることからすると,
η候補が満59歳であること,連合北海道と原告道労連の系統別の選
任割合が6.5名対0.5名となっていることを踏まえても,原告X1
を選任するには至らなかった。η候補は,組合役員歴が豊富であり,
労働者委員の役割を果たすことができる実績を有していると評価され
たものである。
fケース1とケース2の選択
ここで,ケース1とケース2の選択を行うと,北海道は地理的に極
めて広大であり,それぞれの地域が比較的独立性の強い生活経済圏と
なっている特性を有すること,それまで石狩から4名,その他の地域
から3名の労働者委員を選任してきた経緯があることなどからすると,
連合北海道と原告道労連の系統別の選任割合が6.5名対0.5名とな
っていることを踏まえても,各地域の労働者を代表する労働者委員と
して経験を積み,誠実かつ的確に職務を行っている再任候補者にもま
して,原告X4や原告X1を選任するには至らなかった。これにより,
道労委第40期労働者委員の選任の組合せは,ケース1によることに
なった。
g第4区分に属する候補者からの労働者委員に任命する者の選定
地域別が石狩以外の地域に該当する者としては,地域別が胆振,産
業分野別が製造業に該当する者としてβ候補が,地域別が上川,産業
分野別が電気・ガス・熱供給・水道業に該当する者としてε候補が,
地域別が渡島,産業分野別が公務に該当する者としてζ候補が,それ
ぞれ選任された。
この区分に該当する候補者としては,他に原告X2,E候補が存在
したところ,原告X2は,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦
を受けたものであり,組合役員歴が豊富であるが,β候補及びε候補
と同様,選任割合が地域別又は産業分野別のいずれでも1.0名に達
していない上,地域別と産業分野別の比率を合算した数値をもって他
の候補者と比較するなど総合して検討しても,有利な点が見出せず,
β候補とε候補がいずれも再任候補者であり,労働者委員として多数
の事件に関わり,誠実かつ的確に職務を行い,円滑で的確な職責の遂
行がより期待することができることを勘案すると,原告X2を選任す
べき積極的理由はなかったことから,原告X2を選任するには至らな
かった。β候補,ε候補及びζ候補は,いずれも,組合役員歴が豊富
であり,労働者委員の役割を果たすことができる実績を有していると
評価され,道労委第39期労働者委員として多数の事件に関わり,誠
実かつ的確に職務を行っていることから,円滑で的確な職責の遂行が
より期待することができたものである。
ε候補の所属労働組合の所在地は札幌市であるが,ε候補が旭川市
に住所を有し,上川地域の協議体組織の執行委員を兼任していること,
それまでの経歴によれば,ε候補の主たる活動拠点は上川にあると認
められることから,処分行政庁は,ε候補の地域区分を上川として整
理した。ε候補は,従前から一貫して旭川市に居住しながら上川地域
で労働組合の役員としての活動を行っており,上川地域の労働実態に
精通していることは明らかである。ε候補は,第38期労働者委員の
選考における地域区分はともかく,第39期労働者委員の選考からは
既に上川地域の候補者とされていた。
(4)処分行政庁が本件任命処分においてした判断の適否について
上記(2)の見地から,処分行政庁が本件任命処分においてした労働者委員
の選任の判断に,その裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるか否かについ
て検討するに,上記(3)で認定した事実によれば,処分行政庁は,本件任命
処分において,ⅰ)連合北海道と原告道労連の各系統に属する労働組合の
組合員数の構成比(連合北海道系75.0%,原告道労連系6.1%)から,
労働者委員の定数7名の系統別の選任割合を連合北海道系6.5名,原告道
労連系0.5名とし,系統別による選任の組合せを「連合北海道系6名,原
告道労連系1名」又は「連合北海道系7名,原告道労連系0名」と想定し,
ⅱ)地域別及び産業分野別の選任割合により,第1区分(地域別が石狩,産
業分野別が卸売業・小売業に該当する者)から2名を,第2区分(地域別が
石狩,産業分野別が運輸業・郵便業に該当する者)から1名を,第3区分
(地域別が石狩,産業分野別が医療・福祉,複合サービス事業又は建設業の
いずれかに該当する者)から1名を,それぞれ選任し,また,第4区分(地
域別が胆振,産業分野別が製造業に該当する者,地域別が上川,産業分野別
が電気・ガス・熱供給・水道業に該当する者,地域別が渡島,産業分野別が
公務に該当する者又は地域別が釧路,産業分野別が医療・福祉に該当する者)
から3名を選任することとした(ケース1とケース2の選択も,地域別の観
点から行われたと考えることができる。)上,ⅲ)第2区分に属する候補者
からの労働者委員に任命する者の選定に当たり,原告X3及び原告X4にお
いては,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けたものであり,組
合役員歴が豊富であるとしつつ,θ候補の産業分野の選任割合が1名である
こと,及び,θ候補が再任候補者であり,前期の労働者委員として多数の事
件に関わり,誠実かつ的確にその職務を行った実績を有しており,円滑で的
確な職責の遂行をより期待することができることを理由として,θ候補を選
任し,ⅳ)第3区分に属する候補者からの労働者委員に任命する者の選定に
当たり,原告X1及び原告X4においては,組合役員として一定の経験を有
しているものの,η候補の組合役員歴と比較した場合,経験に乏しいとした
上,原告X4においては,年齢が比較的若く,労働者委員の職責の遂行上,
η候補の方が優れている側面があり,また,原告X1においては,満67歳
と高齢であり,就任可能期間が短く,様々な経験,ノウハウを蓄積すること
が困難であるとし,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けたもの
であることを踏まえても,満59歳という適正な年齢であり,組合役員歴も
豊富であるη候補が労働者委員の役割を果たすことができる実績を有してい
ると評価されるとして,η候補を選任し,ⅴ)第4区分に属する候補者から
の労働者委員に任命する者の選定に当たり,原告X2においては,原告道労
連の系統に属する労働組合の推薦を受けたものであり,組合役員歴が豊富で
あるとしつつ,ε候補らも組合役員歴が豊富であること,及び,ε候補らが
再任候補者であり,前期の労働者委員として多数の事件に関わり,誠実かつ
的確にその職務を行った実績を有しており,円滑で的確な職責の遂行をより
期待することができることを理由として,ε候補らを選任したものであると
いうことができる。
(5)この点について,原告らは,本件任命処分は,労働組合の推薦を受けた
候補者を平等に取り扱わず(平等原則違反),連合北海道の系統に属する労
働組合の推薦を受けた候補者に労働者委員を独占させ,連合以外の系統に属
する労働組合の推薦を受けた候補者を排除する意思の下に,違法不当な動機
に基づいて労働者委員の選任をしたものであって(目的動機違反),処分行
政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はそれを濫用してしたものであると主張
するが,上記(3)イ(オ)aのとおり,α課長は,候補者16名全員について,
各人の本籍地が所在する市町村の長に照会し,欠格条項に該当しないことを
確認し,また,推薦書や履歴書の記載に基づいて労働者委員候補者名簿を作
成し,推薦基準を満たしていることを確認したこと,及び,上記(4)のとお
り,処分行政庁は,本件任命処分において,連合北海道と原告道労連の各系
統に属する労働組合の組合員数の構成比から,系統別の選任割合と系統別に
よる選任の組合せを想定した上,第2区分ないし第4区分に属する候補者か
らの労働者委員に任命する者の選定に当たり,原告X1らが原告道労連の系
統に属する労働組合の推薦を受けたものであることを考慮していることによ
れば,本件任命処分が,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた
候補者である原告X1らを当初から審査の対象から除外したり,あるいは,
これを除外したのと同様の取扱いをしたということまではできないのであっ
て,本件任命処分が,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候
補者に労働者委員を独占させ,連合以外の系統に属する労働組合の推薦を受
けた候補者を排除する意思の下に,違法不当な動機に基づいて労働者委員の
選任をしたものであると認めることはできず,原告らの上記主張は採用する
ことができない。原告らは,第37期判決が,第37期任命処分がされた時
点での北海道における労働組合の各系統の勢力関係の比率の状況等からする
と,連合北海道ほかの特定の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者の
みを労働者委員に任命すべき比率にあったということはできず,この状況が
変わらないのに,特段の事情もなく,連合北海道ほかの特定の系統に属する
労働組合の推薦を受けた候補者のみが労働者委員に任命される事態が続く場
合には,他の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を労働者委員から
排除することを意図して労働者委員が選任されているという推認が働く余地
があり得るものというべきであると判示していることを援用し,本件任命処
分は,何ら合理的理由もなく,手続的透明性も示すことなく,連合北海道の
系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみを労働者委員に選任したの
であるから,他の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を労働者委員
から排除することを意図して労働者委員が選任されているという推認が十二
分に働くというべきであると主張するが,上記のとおり,本件任命処分にお
いては,候補者16名全員について,欠格条項に該当しないことや,推薦基
準を満たしていることが確認され,労働者委員の選任に当たり,連合北海道
と原告道労連の系統別の要素が考慮されていることによれば,本件任命処分
において連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみが労
働者委員に選任されたからといって,本件任命処分において他の系統に属す
る労働組合の推薦を受けた候補者を労働者委員から排除することを意図して
労働者委員が選任されているという推認が働くということまではできないも
のというべきである。なお,原告らは,第4区分に属する候補者からの労働
者委員に任命する者の選定について,労働者委員に任命する者を原告道労連
の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者から選定するしかない局面で,
所属労働組合の所在地が石狩地域であるε候補を上川地域の候補者とするこ
とにより,ε候補が選任されているのであって,このような取扱い自体が,
連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者による労働者委員
の独占という結論に向けた結論先にありきの恣意的な操作であるとも主張す
るが,上記(3)イ(オ)gのとおり,被告経済部労働局雇用労政課長として道労
委第40期委員の任命に係る事務を担当していたα課長の説明によれば,ε
候補は,第38期労働者委員の選考における地域区分はともかく,第39期
労働者委員の選考からは既に上川地域の候補者とされていたというのであっ
て,このことからするならば,処分行政庁が,所属労働組合の所在地が石狩
地域であるε候補を上川地域の候補者としたことをもって,本件任命処分に
おいて他の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を労働者委員から排
除することを意図して労働者委員が選任されたと推認することまではできな
いものといわざるを得ない。
(6)もっとも,上記(4)によれば,処分行政庁は,本件任命処分において,系
統別の選任割合を選任の組合せの想定においては考慮しつつ,実際には地域
別及び産業分野別の選任割合による選任の組合せを用いて選任を行い,系統
別の選任割合については,地域別及び産業分野別の選任割合による選任の組
合せの各区分に属する候補者から労働者委員に任命する者を選定するに当た
り,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者と原告道労連
の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者とが競合した場合に,個別的
に考慮するにとどめたものであって,その個別的な考慮においても,再任候
補者と原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者とが競合す
る場面(第2区分及び第4区分)では,系統別の選任割合よりも,競合候補
者が再任候補者であり,前期の労働者委員として多数の事件に関わり,誠実
かつ的確にその職務を行った実績を有していることを重視し,また,新任候
補者と原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者とが競合す
る場面(第3区分)では,系統別の選任割合よりも,候補者自身の年齢や就
任可能期間,相対的な組合役員歴の差異を重視して,各区分に属する候補者
から労働者委員に任命する者を選定したものであるということができるとこ
ろ,都道府県労働委員会の労働者委員の任命の処分要件のうち,労働組合の
推薦があった者が労働者を代表する者であることという実体的な処分要件に
ついては,都道府県知事が,都道府県労働委員会の労働者委員の任命をする
に当たり,労働組合の推薦を受けた候補者が,労働者を代表する者であるか
否かの判断,すなわち,当該都道府県の労働者の立場を一般的に代表する者
として労働委員会の手続に関与する労働者委員の適格者であるか否かの判断
は,労働組合の推薦に基づいてするという制約の下で,都道府県知事の広範
な裁量に委ねられていると解するのが相当であり,都道府県知事は,労働組
合の推薦があった候補者のうちから労働者委員を任命しなければならないが,
労働組合の推薦があった候補者のうちから労働者委員に任命する者を選定す
るに当たっては,複数の候補者のうちのいずれの者が当該都道府県の労働者
の立場を一般的に代表する者として労働委員会の手続に関与する労働者委員
の適格者としての性質をよりよく有しているかの判断を,その公益的な見地,
すなわち,当該都道府県の労働者の一般的利益の見地から,広範な裁量をも
ってすることができるというべきであることは,上記(2)のとおりであって,
都道府県知事は,複数の候補者のうちのいずれの者が労働者委員の適格者と
しての性質をよりよく有しているかを判断するに当たり,その考慮要素をど
のような順序で,どのように組み合わせて考慮するかということ自体につい
ても広範な裁量を有しているということができるから,処分行政庁が,本件
任命処分において,地域別及び産業分野別の選任割合による選任の組合せを
用いて選任を行い,系統別の選任割合については,各区分に属する候補者か
ら労働者委員に任命する者を選定するに当たり,個別的に考慮するにとどめ
たことは違法でないし,また,都道府県知事は,複数の候補者のうちのいず
れの者が労働者委員の適格者としての性質をよりよく有しているかを判断す
るに当たり,再任候補者がそれまでの労働者委員としての活動においてどの
ような事件等に関与しどのような処理等をしたかを,その候補者の人格,識
見の判断の基礎として考慮することができ,候補者の年齢,性別その他の属
人的要素をも考慮することができることは,上記2(2)ウのとおりであるか
ら,処分行政庁が,本件任命処分において,競合候補者が再任候補者であり,
前期の労働者委員として多数の事件に関わり,誠実かつ的確にその職務を行
った実績を有していることや,候補者自身の年齢や就任可能期間,組合役員
歴を考慮したこともそれ自体違法でない。しかし,処分行政庁が,道労委事
務局に対し,再任候補者の第39期労働者委員としての経験,職責の遂行状
況について照会し,その結果,前期の労働者委員として誠実かつ的確にその
職務を全うしている旨の抽象的な回答を得たのみで,本件任命処分において,
系統別の選任割合よりも,競合候補者が再任候補者であり,前期の労働者委
員として多数の事件に関わり,誠実かつ的確にその職務を行った実績を有し
ていることを重視し,直ちに,再任候補者が原告X1らとの比較において円
滑で的確な職責の遂行をより期待することができると判断し,そのことを理
由として,再任候補者を労働者委員に選任したことは,再任候補者が前期の
労働者委員としての実績を有していることを重視する余り,当該再任候補者
の前期の労働者委員としての職務遂行の具体的な状況について必要な調査及
び検討をせず,それにより系統別の選任割合を十分に考慮しなかったもので
あるといわざるを得ないのであり,必ずしも重視すべきでない事項を重視し,
必要な調査及び検討をしなかったことにより,考慮すべき事項を十分に考慮
しなかったものとして,処分行政庁に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又は
これを濫用したものであるといわなければならない。
この点について敷衍するに,54号通牒が,労働者委員を含む労働委員会
の委員は,それぞれ,労働委員会の運営に理解と実行力を有し,かつ,申立
人の申立内容等をよく聴取し,判断して,関係者を説得し得るものであり,
自由にして建設的な組合運動の推進に協力し得る適格者であって,労働者委
員にあっては,個々の委員が,それぞれ,その人格,識見により,各自労働
者の立場を一般的に代表してその権限を行使すべきであることを当然の前提
としつつ,我が国の労働運動の実情においては,当該労働者委員が推薦を受
けた労働組合の系統別等によって,労使関係の在り方に関する考え方等に相
違が生ずることは避けられず,その結果,労働者の一般的利益に関する考え
方にも差異が生じ,個々の労働者委員の権限の行使を通ずるのみでは,必ず
しも的確に労働者の立場を一般的に代表することができないこともあり得る
ことから,その時々の労働界の状況により,労使関係の在り方に関する考え
方等が相違する労働者委員を適切に組み合わせることによって,複数の労働
者委員が総体として労働者の立場を一般的に代表するようにすることも可能
にしようとしたものであると解するのが相当であることは,上記(2)のとお
りである。そして,平成元年の我が国の労働界の再編後,12期24年連続
して連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみが道労委
の労働者委員に任命されており,他の系統に属する労働組合の推薦を受けた
候補者は任命されていないことは,前提事実(2)イのとおりであり,道労委
第40期労働者委員7名の再任候補者6名は,全て連合北海道の系統に属す
る労働組合の推薦を受けた候補者であるから,道労委第40期労働者委員の
選任において,系統別の選任割合よりも,競合候補者が再任候補者であり,
前期の労働者委員として多数の事件に関わり,誠実かつ的確にその職務を行
った実績を有していることを重視し,そのことを理由として,再任候補者を
労働者委員に選任する場合,複数の系統に属する労働組合の推薦を受けた候
補者を組み合わせて労働者委員に任命するのではなく,連合北海道という特
定の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみを労働者委員に任命す
ることになる(道労委第40期労働者委員の選任においては,労働者委員の
定数7名のうちの残り1名として,再任候補者が存在しない第3区分から新
任候補者であるη候補が選任されているが,η候補も,再任候補者6名と同
様,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者であり,ここ
での検討には格別の影響を及ぼさないと考えられるので,ひとまず捨象して
おくことにする。)ところ,このようにして労働者委員を任命する場合,複
数の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を組み合わせて労働者委員
に任命することによって,複数の労働者委員が総体として労働者の立場を一
般的に代表するようにすることは不可能であり,個々の労働者委員が,それ
ぞれ,その人格,識見により,各自労働者の立場を一般的に代表してその権
限を行使し,その権限の行使のみを通じて,的確に労働者の立場を一般的に
代表すべきであることとなるから,個々の労働者委員は,同じ労働者の間で
も,労働組合の系統別によって,労使関係の在り方に関する考え方等に相違
が生じ,その結果,労働者の一般的利益に関する考え方にも差異が生じ得る
ことを踏まえた上,そのような相違ないし差異を自ら調整しながら,その職
務を遂行しなければならなくなるのであって,このような場合には,労働者
委員の候補者に対しては,複数の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補
者を組み合わせて労働者委員に任命する場合と比べて,より高度な人格,識
見を有する労働者委員の適格者であることが求められることとなる。そうす
ると,道労委第40期労働者委員の選任において,系統別の選任割合よりも,
競合候補者が再任候補者であり,前期の労働者委員として多数の事件に関わ
り,誠実かつ的確にその職務を行った実績を有していることを重視し,再任
候補者が原告X1らとの比較において円滑で的確な職責の遂行をより期待す
ることができると判断するためには,当該再任候補者の前期の労働者委員と
しての職務遂行の状況を相当な程度にまで具体的に調査し,当該再任候補者
の職務遂行の在り方について,その具体的な職務遂行の状況に即して,ある
程度詳細な評価を加えた上,当該再任候補者が上記のような,より高度な人
格,識見を有する労働者委員の適格者であるか否かを検討し,それが肯定さ
れることを必要とするのであって,処分行政庁が,道労委事務局に対し,再
任候補者の第39期労働者委員としての経験,職責の遂行状況について照会
し,その結果,前期の労働者委員として誠実かつ的確にその職務を全うして
いる旨の抽象的な回答を得たのみで,直ちに,再任候補者が原告X1らとの
比較において円滑で的確な職責の遂行をより期待することができると判断し,
そのことを理由として,再任候補者を労働者委員に選任したことは,再任候
補者が前期の労働者委員としての実績を有していることを重視する余り(再
任候補者の場合,それまでの労働者委員としての活動において,その候補者
が,どのような事件等に関与し,どのような処理等をしたかが,その候補者
のそれまでの経歴ないし活動歴の一つとして,その候補者の人格,識見の判
断の基礎となることは,上記2(2)ウのとおりであって,再任候補者が前期
の労働者委員としての実績を有していることは,その候補者の人格,識見の
判断の基礎となるにとどまるものであるから,それ自体としては,必ずしも
重視すべき事項ではないということができる。),当該再任候補者の前期の
労働者委員としての職務遂行の具体的な状況について必要な調査及び検討を
しなかったものであるといわざるを得ない(仮に,再任候補者の前期の労働
者委員としての職務遂行の具体的な状況以外の事情から,当該再任候補者が
上記のような,より高度な人格,識見を有する労働者委員の適格者であるこ
とが肯定されたのであれば,処分行政庁において,当該再任候補者の前期の
労働者委員としての職務遂行の状況を具体的に調査し検討する必要はなかっ
たことになるが,そのような事情が存在した旨の主張はなく,また,そのよ
うな事情が存在することを窺うこともできない。)。そして,当該再任候補
者の前期の労働者委員としての職務遂行の具体的な状況について必要な調査
及び検討をした結果,当該再任候補者が上記のような,より高度な人格,識
見を有する労働者委員の適格者であることが否定されたのであれば,処分行
政庁においては,系統別の選任割合を考慮し,複数の系統に属する労働組合
の推薦を受けた候補者を組み合わせて労働者委員に任命することによって,
複数の労働者委員が総体として労働者の立場を一般的に代表するようにする
ことを検討せざるを得なくなったものであると考えることができるのであっ
て,処分行政庁は,再任候補者が前期の労働者委員としての実績を有してい
ることを重視する余り,当該再任候補者の前期の労働者委員としての職務遂
行の具体的な状況について必要な調査及び検討をせず,それにより,処分行
政庁の裁量的判断の基礎となる事実である再任候補者の人格,識見の認定が
十分にされなかった結果,系統別の選任割合が十分に考慮されず,処分行政
庁の判断が左右されたものであって,本件任命処分は,重要な事実の基礎を
欠くものであり,処分行政庁に付与された裁量権の範囲を逸脱し又はこれを
濫用したものであるといわなければならない。
第37期判決は,第37期任命処分がされた時点での北海道における労働
組合の各系統の勢力関係の比率等からすると,連合北海道ほかの特定の系統
に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみを労働者委員に任命すべき比率
にあったということはできない旨を判示しているところ,この判示は,その
当時の北海道の労働界の状況によれば,連合北海道という特定の系統に属す
る労働組合の推薦を受けた候補者のみを労働者委員に任命するのではなく,
複数の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を組み合わせて労働者委
員に任命することによって,複数の労働者委員が総体として労働者の立場を
一般的に代表するようにすることが相当であった旨を指摘しているものであ
ると理解することができるのであり,処分行政庁において,裁判所からこの
ような指摘を受けているにもかかわらず(そして,労働組合の各系統の勢力
関係の比率が大きく変動し,連合北海道の系統に属する労働組合の組合員数
が100%に近くなるなど,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受
けた候補者のみを労働者委員に任命すべき比率になったものではないにもか
かわらず),なおその裁量的判断として,系統別の選任割合よりも,再任候
補者の前期の労働者委員としての実績を重視し,連合北海道という特定の系
統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみを労働者委員に任命するので
あれば,当該再任候補者が上記のような,より高度な人格,識見を有する労
働者委員の適格者であるか否かについて,より慎重な調査及び検討をしなけ
ればならなかったものであるということができる。
ここで,再任候補者が存在しない第3区分から新任候補者であるη候補が
選任されている点についてみると,上記の検討によれば,η候補に対しても,
再任候補者に対するのと同様,複数の系統に属する労働組合の推薦を受けた
候補者を組み合わせて労働者委員に任命する場合と比べて,より高度な人格,
識見を有する労働者委員の適格者であることが求められることとなり,系統
別の選任割合よりも,η候補の人格,識見に加えて年齢を重視し,η候補が
原告X1らとの比較において円滑で的確な職責の遂行をより期待することが
できると判断するためには,η候補のそれまでの職歴や組合員歴そのほかの
経歴ないし活動歴を相当な程度にまで具体的に調査し,η候補が上記のよう
な,より高度な人格,識見を有する労働者委員の適格者であるか否かを検討
し,それが肯定されることを必要とするところ,被告の主張によるも,η候
補は,日本郵政グループ労働組合北海道地方本部の特別執行委員を現に務め
る者であり,昭和55年の全逓支部役員への就任以降,全逓関係の役員を歴
任し,33年間の豊富な組合役員歴を有しており,また,単にその経験年数
だけではなく,平成19年の日本郵政公社の民営,分社化という国内的にも
極めて大きな組織変更について経験を有することから,労働者委員に必要な
経験と実績を兼ね備えていると評価されたものであるというにとどまり,η
候補のそれまでの職歴や組合員歴そのほかの経歴ないし活動歴についてどの
程度にまで具体的な調査がされ,η候補が上記のような,より高度な人格,
識見を有する労働者委員の適格者であるか否かについてどのような検討がさ
れたのかは,必ずしも明らかではない。都道府県知事が,都道府県労働委員
会の労働者委員の任命をするに当たり,労働組合の推薦を受けた候補者が,
労働者を代表する者であるか否かの判断,すなわち,当該都道府県の労働者
の立場を一般的に代表する者として労働委員会の手続に関与する労働者委員
の適格者であるか否かの判断は,労働組合の推薦に基づいてするという制約
の下で,都道府県知事の広範な裁量に委ねられていると解するのが相当であ
ることは,上記(2)のとおりであり,処分行政庁が,本件任命処分において,
系統別の選任割合よりも,η候補の人格,識見に加えて年齢を重視し,η候
補が原告X1らとの比較において円滑で的確な職責の遂行をより期待するこ
とができると判断し,そのことを理由として,η候補を労働者委員に選任し
たことが,処分行政庁に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用し
たものであるということはできないが,その判断の過程において十分な調査
及び検討がされたということができるものか,疑問が全くないということは
できない。
(7)このように,本件任命処分は,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し
又はこれを濫用してしたものであるといわなければならないのであり,本件
任命処分は違法である。
なお,この違法は,処分行政庁の判断の過程に瑕疵があることによって,
本件任命処分がその処分要件を充足していないという客観的な違法であり,
仮に本件任命処分の取消しの訴えが原告適格を有する者によって提起された
適法な訴えであったならば,処分行政庁において,再任候補者の前期の労働
者委員としての職務遂行の具体的な状況について調査及び検討をした上,改
めて道労委第40期労働者委員の選任をさせるため,本件任命処分を取り消
すべきものである。
(8)原告らの主張に係る本件任命処分のその余の違法事由について
ア憲法14条及び28条違反等(争点1の1ないし3)について
原告らは,本件任命処分は,合理的理由なく,原告道労連及びこれに加
盟する労働組合とその組合員を差別し,その団結権を侵害したものであり,
憲法14条及び28条に違反すると主張する。しかし,本件任命処分が,
連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に労働者委員を
独占させ,連合以外の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除
する意思の下に,違法不当な動機に基づいて労働者委員の選任をしたもの
であると認めることはできないことは,上記(5)のとおりであり,本件任
命処分が原告道労連及びこれに加盟する労働組合とその組合員を差別した
ということはできないし,また,本件任命処分により,原告道労連及びこ
れに加盟する労働組合とその組合員が労働組合を結成することができなく
なったものではないから,本件任命処分が原告道労連及びこれに加盟する
労働組合とその組合員の団結権を侵害したということはできない。原告ら
の上記主張は採用することができない。
原告らは,本件任命処分は,明らかに結社の自由及び団結権を侵害する
ものであり,ILO第87号条約2条及び3条に違反するとか,本件任命
処分は,合理的理由なく,原告道労連及びこれに加盟する労働組合とその
組合員を差別し,その団結権を侵害するものであり,自由権規約2条1項,
22条及び26条に違反するとも主張するが,これらの主張が失当である
ことは上記判示から明らかである。
イ労働組合法19条の12第3項違反等(争点1の4及び5)について
原告らは,労働組合法19条の12第3項及び労働組合法施行令21条
1項の趣旨に照らせば,系統を異にする労働組合が複数併存する場合,各
系統の規模といった客観的な要素に応じて労働者委員を選任すべきである
ところ,処分行政庁は,原告X1らから労働者委員を選任せず,連合北海
道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に労働者委員全員を独占
させたのであり,本件任命処分は,上記各規定に違反するとか,処分行政
庁は,原告道労連と連合北海道という二つのローカルセンターに対し,行
政における公平の原則に則って対応する義務を負っていたのであり,この
義務に違反してされた本件任命処分は,行政における公平の原則に違反す
ると主張するが,これらの主張は,争点1の6について,本件任命処分は
処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はそれを濫用してしたものであ
るから違法である旨をいう原告らの主張と別個の違法事由をいうものとは
解されない。
5被告の国家賠償責任の有無(争点2)について
(1)処分行政庁の故意について
本件任命処分が処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用により違法
なものであることは,上記4(7)のとおりであるところ,本件任命処分が,
連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に労働者委員を独
占させ,連合以外の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除する
意思の下に,違法不当な動機に基づいて労働者委員の選任をしたものである
と認めることはできないことは,上記4(5)のとおりであり,処分行政庁が,
本件任命処分が処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用により違法な
ものであることを認識しながら,これを行ったことを認めるに足りる証拠は
ないのであって,処分行政庁が,その職務を行うについて,故意によって違
法に本件任命処分をしたと認めることはできない。
(2)処分行政庁の過失について
都道府県知事がする都道府県労働委員会の労働者委員の任命は,その処分
要件を誤って認定していたとしても,そのことから直ちに国家賠償法1条1
項にいう違法があったという評価を受けるものではなく,都道府県知事が資
料を収集し,これに基づいて処分要件を認定,判断する上において,職務上
通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然と労働者委員の任命をした
と認められるような事情がある場合に限り,上記評価を受けるものと解する
のが相当である(最高裁判所平成5年3月11日第一小法廷判決・民集47
巻4号2863頁参照)ところ,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合
及びその推薦を受けた候補者が,都道府県知事に対し,その候補者を労働者
委員に任命することを求める実体上の権利を有するものではないし,また,
労働者委員の任命について法令に基づく申請権を有するものでもないことは,
上記2(2)アのとおりであり,仮に,労働者委員の候補者の推薦をした労働
組合又はその推薦を受けた候補者において,その候補者が労働者委員に任命
されることにより,何らかの利益を受けることがあるとしても,そのような
利益は,労働組合法が当該都道府県の労働者の一般的利益という公益の実現
を目的として都道府県知事の裁量権の行使に制約を課したことによって受け
た反射的利益にすぎないということができることは,上記2(2)エのとおり
であって,このことからするならば,都道府県知事が資料を収集し,これに
基づいて処分要件を認定,判断する上において,労働者委員の候補者の推薦
をした労働組合又はその推薦を受けた候補者に対し,何らかの職務上通常尽
くすべき注意義務を負うとは解し難いというべきである。そして,このこと
に加えて,上記4(6)のとおり,処分行政庁が,本件任命処分において,再
任候補者の前期の労働者委員としての職務遂行の具体的な状況について必要
な調査及び検討をせず,それにより系統別の選任割合を十分に考慮しなかっ
たものであるといわざるを得ないとはいえ,16名の候補者のうちのいずれ
の者が労働者委員の適格者としての性質をよりよく有しているかの判断を,
その公益的な見地からしていることをも併せ考えると,処分行政庁が,その
職務を行うについて,過失によって違法に本件任命処分をしたと認めること
はできないものというべきである。
第4結論
よって,本件各訴えのうち,本件任命処分の取消しを求めるものは,いずれ
も不適法であるから,これを却下することとし,原告らのその余の訴えに係る
請求(本件任命処分の違法を原因とする国家賠償法1条1項の規定に基づく損
害賠償請求)は,いずれも理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費
用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文を
適用して,主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官内野俊夫
裁判官渡邉哲
裁判官北島睦大
(別紙3以外は,添付省略)
(別紙3)
法令の定め等
1労働組合法
(1)1条(目的)
この法律は,労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進
することにより労働者の地位を向上させること,労働者がその労働条件につい
て交渉するために自ら代表者を選出することその他の団体行動を行うために自
主的に労働組合を組織し,団結することを擁護すること並びに使用者と労働者
との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手
続を助成することを目的とする。(1項)
(2)2条(労働組合)
この法律で「労働組合」とは,労働者が主体となって自主的に労働条件の
維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団
体又はその連合団体をいう。但し,左の各号の一に該当するものは,この限
りでない。
ア役員,雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にあ
る労働者,使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項
に接し,そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員と
しての誠意と責任とに直接にてい触する監督的地位にある労働者その他使
用者の利益を代表する者の参加を許すもの(1号)
イ団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの。
但し,労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し,
又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく,且つ,厚生資
金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し,若しくは救済するための支出に
実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さ
の事務所の供与を除くものとする。(2号)
ウ共済事業その他福利事業のみを目的とするもの(3号)
エ主として政治運動又は社会運動を目的とするもの(4号)
(3)5条(労働組合として設立されたものの取扱)
労働組合は,労働委員会に証拠を提出して2条及び2項の規定に適合するこ
とを立証しなければ,この法律に規定する手続に参与する資格を有せず,且つ,
この法律に規定する救済を与えられない。但し,7条1号の規定に基く個々の
労働者に対する保護を否定する趣旨に解釈されるべきではない。(1項)
(4)19条(労働委員会)
ア労働委員会は,使用者を代表する者(以下「使用者委員」という。),労
働者を代表する者(以下「労働者委員」という。)及び公益を代表する者
(以下「公益委員」という。)各同数をもって組織する。(1項)
イ労働委員会は,中央労働委員会及び都道府県労働委員会とする。(2項)
ウ労働委員会に関する事項は,この法律に定めるもののほか,政令で定める。
(3項)
(5)19条の5(委員の任期等)
ア委員の任期は,2年とする。ただし,補欠の委員の任期は,前任者の残任
期間とする。(1項)
イ委員は,再任されることができる。(2項)
ウ委員の任期が満了したときは,当該委員は,後任者が任命されるまで引き
続き在任するものとする。(3項)
(6)19条の12(都道府県労働委員会)
ア都道府県知事の所轄の下に,都道府県労働委員会を置く。(1項)
イ都道府県労働委員会は,使用者委員,労働者委員及び公益委員各13人,
各11人,各9人,各7人又は各5人のうち政令で定める数のものをもっ
て組織する。ただし,条例で定めるところにより,当該政令で定める数に
使用者委員,労働者委員及び公益委員各2人を加えた数のものをもって組
織することができる。(2項)
ウ使用者委員は使用者団体の推薦に基づいて,労働者委員は労働組合の推
薦に基づいて,公益委員は使用者委員及び労働者委員の同意を得て,都道
府県知事が任命する。(3項)
エ公益委員の任命については,都道府県労働委員会における別表(省略)
の上欄に掲げる公益委員の数(2項ただし書の規定により公益委員の数を
同項の政令で定める数に2人を加えた数とする都道府県労働委員会にあっ
ては当該2人を加えた数)に応じ,それぞれ同表の下欄に定める数以上の
公益委員が同一の政党に属することとなってはならない。(4項)
2労働組合法施行令
(1)21条(委員の任命手続)
ア都道府県知事は,法19条の12第3項の規定に基づき使用者委員又は
労働者委員を任命しようとするときは,当該都道府県の区域内のみに組織
を有する使用者団体又は労働組合に対して候補者の推薦を求め,その推薦
があった者のうちから任命するものとする。(1項)
イ都道府県知事は,法19条の12第3項の規定に基づき公益を代表する
者(以下「公益委員」という。)を任命しようとするときは,使用者委員
及び労働者委員にその任命しようとする委員の候補者の名簿を提示して同
意を求め,その同意があった者のうちから任命するものとする。(2項)
ウ労働組合は,1項の規定により同項の候補者を推薦するときは,当該労
働組合が法2条及び5条2項の規定に適合する旨の当該候補者の推薦に係
る都道府県労働委員会の証明書を添えなければならない。(3項)
(2)22条(公益委員の通知義務)
公益委員は,政党に加入したとき,政党から脱退し,若しくは除名された
とき,又は所属政党が変わったときは,直ちに,中央労働委員会の公益委員
にあっては内閣総理大臣に,都道府県労働委員会の公益委員にあっては都道
府県知事にその旨を通知しなければならない。
3昭和24年7月29日労働省発労第54号労働次官発各都道府県知事宛「地
方労働委員会の委員の任命手続について」(乙2)
標記の件に関しては,本年1月8日附労働省発労第2号次官通牒「労働組合
法施行令第37条の改正に伴い地方労働委員会委員の委嘱手続について」を以
て委員任命以前において労働大臣の承認を受けられたい旨を通知していたので
あるが右の事前承認は必要でないから,従来労働大臣が本件に関して承認要件
としていた事項特に左記事項等を了承の上貴下の責任において任命されたい。
なお委員の任命に当って地方民事部の事前了解を得ることは必ずしも必要は
ないが,貴下の意向により相談されることは差支えない。

(1)労働委員会が三者構成の合議体である性格に鑑み,労働委員会委員はす
べてこれが運営に理解と実行力を有し,かつ申立人の申立内容等をよく聴取
し,判断して,関係者を説得し得るものであり,自由にして建設的な組合運
動の推進に協力し得る適格者であること。(一)
(2)労働者委員については特に次の点に留意すること。(二)
ア貴管下総べての組合が積極的に推薦に参加するよう努めるとともに,推
薦に当っては,なるべく1組合から委員定数の倍数を推薦せしめるよう配
慮すること。(1)
イ委員の選考に当っては,産別,総同盟,中立等系統別の組合数及び組合
員数に比例させるとともに貴管下の産業分野,場合によっては地域別等を
充分考慮すること。なお委員についてはなるべく所属組合をもつものであ
るよう留意するとともに労働組合法2条ただし書1号の規定に該当しない
者であること。(2)
(3)使用者委員については,貴管下の系統別,産業分野等を充分考慮するこ
と。(三)
(4)公益委員については,準司法的機能を果す点から特に専門別(法律,経
済等)を充分考慮の上,政党政派に偏せず,その主義主張において真に中正
な人物を選ぶこと。(四)
(5)委員に欠員を生じた場合の補充についても前各号により新たに委員任命
の手続を要すること。(五)

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