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平成28年3月30日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成25年(ワ)第29520号不当利得返還請求事件
口頭弁論終結日平成27年12月7日
判決
原告一般財団法人流通システム開発センター
同訴訟代理人弁護士山田雅康
同訴訟復代理人弁護士岩永利彦
同補佐人弁理士安形雄三
被告エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士升永英俊
同訴訟復代理人弁護士江口雄一郎
同補佐人弁理士佐藤睦
同吉田幸二
被告補助参加人ネットワンシステムズ株式会社
同訴訟代理人弁護士熊倉禎男
同渡辺光
同小林正和
同訴訟代理人弁理士越柴絵里
同補佐人弁理士工藤嘉晃
被告補助参加人富士通株式会社
同訴訟代理人弁護士片山英二
同服部誠
同黒田薫
同訴訟代理人弁理士黒川恵
被告補助参加人シスコシステムズ合同会社
同訴訟代理人弁護士本多広和
同梶並彰一郎
同訴訟代理人弁理士加藤志麻子
被告補助参加人日本アルカテル・ルーセント株式会社
同代表者代表取締役ニコラ・ブーベロ
同訴訟代理人弁護士岡田春夫
同森博之
同内田誠
同補佐人弁理士渡邉千尋
同中村雅文
同井原光雅
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)
は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,11億8250万円及びうち11億円に対する平成25年
11月16日から,うち8250万円に対する平成26年8月12日から各支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,発明の名称を「統合情報通信システム」とする特許第326145
9号に係る特許権(以下「本件特許権1」といい,同特許を「本件特許1」とい
う。また,本件特許1の願書に添付した明細書〔特許請求の範囲を含む。〕及び
図面を併せて「本件明細書1」〔甲1の1参照〕という。),発明の名称を「統
合情報通信システム」とする特許第3789088号に係る特許権(以下「本件
特許権2」といい,同特許を「本件特許2」という。また,本件特許2の願書に
添付した明細書〔特許請求の範囲を含む。〕及び図面を併せて「本件明細書2」
〔甲2の1参照〕という。),発明の名称を「IP通信網を用いたIP通信シス
テム」とする特許第5256431号に係る特許権(以下「本件特許権3」とい
い,同特許を「本件特許3」という。また,本件特許3の願書に添付した明細書,
特許請求の範囲及び図面を併せて「本件明細書3」〔甲3の1参照〕という。)
及び発明の名称を「通信システム」とする特許第5501406号に係る特許権
(以下「本件特許権4」といい,同特許を「本件特許4」という。また,本件特
許4〔甲20参照〕の願書に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面を併せて
「本件明細書4」という。)を有する原告が,別紙サービス目録記載の各サービ
ス(以下「被告サービス」という。)において使用されているシステム(以下
「被告システム」という。)は,本件明細書1の特許請求の範囲の請求項30記
載の発明(以下「本件発明1-1」という。),同31記載の発明(以下「本件
発明1-2」という。),本件明細書2の特許請求の範囲の請求項1記載の発明
(以下「本件発明2-1」という。),本件特許3の願書に添付した特許請求の
範囲の請求項1記載の発明(以下「本件発明3-1」という。),同2記載の発
明(以下「本件発明3-2」という。),本件特許4の願書に添付した特許請求
の範囲の請求項3記載の発明(以下「本件発明4-1」という。)及び同4記載
の発明(以下「本件発明4-2」という。)の各技術的範囲に属し,また,被告
サービスにおいて使用されている方法(以下「被告方法」という。)は,本件明
細書2の特許請求の範囲の請求項41記載の発明(以下「本件発明2-2」とい
い,本件発明1-1ないし同4-2を併せて「本件各発明」という。)の技術的
範囲に属するから,被告が被告サービスを提供する行為は,原告が有する本件特許
権1ないし同4(以下,併せて「本件各特許権」という。)を侵害する行為であ
ると主張して,無償実施による不当利得返還請求権(平成15年11月9日から平
成26年8月8日までの分。ただし,本件特許2,同3及び同4は,平成15年1
1月9日以降に登録されたものであるから,原告は,本件特許権2ないし同4の無
償実施による不当利得返還請求権は,これらに対応する特許の各登録日以後に発生
したと主張しているものと解される。)に基づき,不当利得金の一部である11億
8250万円及びうち11億円(弁護士費用1億円を含む。)に対する催告日(訴
状送達の日)の翌日である平成25年11月16日から,うち8250万円(弁護
士費用750万円を含む。)に対する催告日(平成26年8月8日付け訴え変更の
申立書送達の日)の翌日である平成26年8月12日から各支払済みまでの民法所
定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2前提事実等(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により
容易に認められる事実等)
(1)当事者
ア原告は,GS1等の国際標準機関との連携のもとで,流通に関するシステム
の開発と普及の推進を通じて流通活動の近代化を図り,もって経済の均衡ある発展
に寄与することを目的とする一般財団法人である(弁論の全趣旨)。
イ被告は,国内及び国際電気通信事業,インターネット等の通信ネットワーク
を利用した情報・コンテンツの処理,仲介及び提供業務等を目的とする株式会社で
ある。
ウ被告補助参加人ネットワンシステムズ株式会社は,コンピュータ・通信機器
及びその周辺機器並びに関連ソフトウェアの仕入,販売,輸出入,賃貸・リース及
び開発・製造並びに設置・導入及び保守業務等を目的とする株式会社である(弁論
の全趣旨)。
エ被告補助参加人富士通株式会社(以下「富士通」という。)は,通信機
器・装置・システムの製造及び販売等を目的とする株式会社である(弁論の全趣
旨)。
オ被告補助参加人シスコシステムズ合同会社(以下「シスコシステムズ」と
いう。)は,コンピュータ通信用ハードウェア及びソフトウェアの開発,製造,
輸入,輸出及び販売等を目的とする合同会社である(弁論の全趣旨)。
カ被告補助参加人日本アルカテル・ルーセント株式会社(以下「アルカテ
ル・ルーセント」という。)は,音声・データ通信装置及び同通信網,ソフトウ
ェア,電子計算機,真空機器,その他の電子応用装置の設置,検査及び保守に関し
他者に対する役務の提供等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
(2)本件各特許権
ア原告は,次の内容の本件特許権1を有している(甲1の1・2)。
登録番号特許第3261459号
発明の名称統合情報通信システム
出願日平成9年12月5日(特願2000-81416)
(特願平9-350224の分割)
優先日平成8年12月6日(特願平8-326736)
平成9年3月10日(特願平9-54812)
平成9年7月8日(特願平9-182541)
登録日平成13年12月21日
請求項の数84
イ原告は,次の内容の本件特許権2を有している(甲2の1・2)。
登録番号特許第3789088号
発明の名称統合情報通信システム
出願日平成13年9月4日(特願2001-267454)
(特願2000-81416の分割)
原出願日平成9年12月5日
優先日平成8年12月6日(特願平8-326736)
平成9年3月10日(特願平9-54812)
平成9年7月8日(特願平9-182541)
登録日平成18年4月7日
請求項の数47
ウ原告は,次の内容の本件特許権3を有している(甲3の1・2)。
登録番号特許第5256431号
発明の名称IP通信網を用いたIP通信システム
出願日平成22年3月23日(特願2010-66567)
(特願2007-275486の分割)
原出願日平成9年12月5日
優先日平成8年12月6日(特願平8-326736)
平成9年3月10日(特願平9-54812)
平成9年7月8日(特願平9-182541)
登録日平成25年5月2日
請求項の数9
エ原告は,次の内容の本件特許権4を有している(甲20,22)。
登録番号特許第5501406号
発明の名称通信システム
出願日平成24年5月21日(特願2012-115356)
(特願2009-239215の分割)
原出願日平成9年12月5日
優先日平成8年12月6日(特願平8-326736)
平成9年3月10日(特願平9-54812)
平成9年7月8日(特願平9-182541)
登録日平成26年3月20日
請求項の数7
(3)本件各発明
ア本件発明1-1(本件明細書1の特許請求の範囲の請求項30記載の発明)
を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説に係る各構成要件を符
号に対応して「構成要件1-1A」などという。)。
1-1A:発信側のICS論理端子と外部の送信ICSユーザフレームに付与さ
れたICSユーザアドレスを基に,内部のICSネットワークフレー
ムのICSネットワークアドレスを決定し,
1-1B:前記決定されたICSネットワークアドレスを基に,送信ICSネッ
トワークフレームを送信すべき着信側ICS論理端子を決定する
1-1C:ことを特徴とする統合情報通信システム。
イ本件発明1-2(本件明細書1の特許請求の範囲の請求項31記載の発明)
を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説に係る各構成要件を符
号に対応して「構成要件1-2A」などという。)。
1-2A:ユーザ通信回線の終端のICS論理端子に,ICS論理端子を識別す
るICSネットワークアドレスが付与され,
1-2B:発信側のICS論理端子識別情報及び受信者ICSユーザアドレスの
組が定まれば,送信側のアクセス制御装置と受信側のアクセス制御装
置との間にICSネットワークフレームが転送されるICS網通信回
線が定まる
1-2C:ことを特徴とする統合情報通信システム。
ウ本件発明2-1(本件明細書2の特許請求の範囲の請求項1記載の発明)を
構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説に係る各構成要件を符号
に対応して「構成要件2-1A」などという。)。
2-1A:IP通信網は2以上のアクセス制御装置を含み,
2-1B:ユーザが送出したICSユーザフレームは,ユーザ通信回線終端の発
信側ICS論理端子を経て発信側アクセス制御装置に入力し,前記発
信側アクセス制御装置において,前記発信側ICS論理端子識別情報
が用いられて送信先が決定されたICSネットワークフレームとなり,
2-1C:前記ICSネットワークフレームは,前記IP通信網の内部を転送さ
れ,着信側アクセス制御装置に到達し,前記着信側アクセス制御装置
において,前記ICSネットワークフレームから前記ICSユーザフ
レームが復元され,
2-1D:前記復元されたICSユーザフレームが,着信側ICS論理端子を,
次に宛先側ユーザ通信回線を経て他ユーザに到達するようになってい

2-1E:ことを特徴とするIP通信システム。
エ本件発明2-2(本件明細書2の特許請求の範囲の請求項41記載の発明)
を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説に係る各構成要件を符
号に対応して「構成要件2-2A」などという。)。
2-2A:IP通信網は2以上の論理端子を含み,前記論理端子は端末と接続さ
れ,前記IP通信網を経由して前記端末間で通信を行う方法において,
2-2B:発信側端末から前記論理端子に送信されたIPパケットは前記論理端
子から入力し,
2-2C:前記入力側の発信側論理端子の識別情報及び前記IPパケットのアド
レスを基に,送信先である着信側論理端子の識別情報を含む内部パケ
ットの形成が行われ,
2-2D:前記内部パケットは前記着信側論理端子の識別情報を基に前記着信側
論理端子に転送され,
2-2E:前記着信側論理端子から,前記内部パケットを基に復元された前記I
Pパケットが着信側端末に送信される
2-2F:ことを特徴とする通信方法。
オ本件発明3-1(本件特許3の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1記
載の発明)を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説に係る各構
成要件を符号に対応して「構成要件3-1A」などという。)。
3-1A:ICS網の外部のユーザ通信回線が接続され,
3-1B:且つ前記ICS網内で唯一に識別されるICS論理端子が前記ICS
網に含まれ,
3-1C:発信側のICS論理端子と前記発信側のICS論理端子から入力され
るICSユーザフレームのICSアドレスを基に,ICSネットワー
クフレームを送信すべき着信側ICS論理端子が定まる
3-1D:ことを特徴とする通信システム。
カ本件発明3-2(本件特許3の願書に添付した特許請求の範囲の請求項2記
載の発明)を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説に係る各構
成要件を符号に対応して「構成要件3-2A」などという。)。
3-2A:ICS網の外部のユーザ通信回線が接続され,
3-2B:且つ前記ICS網内で唯一に識別されるICS論理端子を備えるアク
セス制御装置が前記ICS網に含まれ,
3-2C:送信側のICS論理端子と,前記送信側のICS論理端子から入力さ
れるICSユーザフレームのICSアドレスを基に,送信側のアクセ
ス制御装置と受信側のアクセス制御装置の間にICSネットワークフ
レームが転送される通信路が定まる
3-2D:ことを特徴とする通信システム。
キ本件発明4-1(本件特許4の願書に添付した特許請求の範囲の請求項3記
載の発明)を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説に係る各構
成要件を符号に対応して「構成要件4-1A」などという。)。
4-1A:通信網はユーザ通信回線が接続される論理端子を含み,
4-1B:送信側論理端子と前記通信網の外部から前記送信側論理端子に送られ
るICSフレームのICSアドレスを基に,前記ICSフレームが転
送される着信側論理端子が決定される
4-1C:ことを特徴とする通信システム。
ク本件発明4-2(本件特許4の願書に添付した特許請求の範囲の請求項4記
載の発明)を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説に係る各構
成要件を符号に対応して「構成要件4-2A」などという。)。
4-2A:通信網はユーザ通信回線が接続される論理端子を含み,
4-2B:送信側論理端子と前記通信網の外部から前記送信側論理端子に送られ
るICSフレームのICSアドレスを基に,前記送信側論理端子と着
信側論理端子の間の通信経路が決定される
4-2C:ことを特徴とする通信システム。
(4)被告の行為
被告は,業として,被告サービスを顧客に提供している。被告サービスにおいて
使用されているシステム(被告システム)及び方法(被告方法)の具体的内容につ
いては,当事者間に争いがある。
3争点
(1)被告システム及び被告方法の具体的構成(争点1)
(2)被告システムは本件発明1-1の技術的範囲に属するか(争点2)
(3)被告システムは本件発明1-2の技術的範囲に属するか(争点3)
(4)被告システムは本件発明2-1の技術的範囲に属するか(争点4)
(5)被告方法は本件発明2-2の技術的範囲に属するか(争点5)
(6)被告システムは本件発明3-1の技術的範囲に属するか(争点6)
(7)被告システムは本件発明3-2の技術的範囲に属するか(争点7)
(8)被告システムは本件発明4-1の技術的範囲に属するか(争点8)
(9)被告システムは本件発明4-2の技術的範囲に属するか(争点9)
(10)本件各発明についての特許は特許無効審判により無効にされるべきものか
(争点10)
ア無効理由1(丙ロ3を主引例とする新規性欠如)は認められるか(争点10
-1)
イ無効理由2(丙ハ14を主引例とする新規性又は進歩性欠如)は認められる
か(争点10-2)
ウ無効理由3(丙ハ18を主引例とする新規性又は進歩性欠如。ただし本件発
明2-1のみに関する。)は認められるか(争点10-3)
エ無効理由4(丙ハ19を主引例とする新規性又は進歩性欠如。ただし本件発
明3-1,同3-2,同4-1及び同4-2のみに関する。)は認められるか(争
点10-4)
オ無効理由5(サポート要件違反及び実施可能要件違反)は認められるか(争
点10-5)
カ無効理由6(明確性要件違反。ただし本件発明1-1,同2-1,同3-1,
同3-2,同4-1及び同4-2のみに関する。)は認められるか(争点10-6)
(11)本件各特許権の無償実施により被告が得た不当利得の額(争点11)
4争点に対する当事者の主張
(1)被告システム及び被告方法の具体的構成(争点1)について
【原告の主張】
被告システム及び被告方法の具体的構成は,次のとおりである。
ア被告システムの構成(甲5,6,9,18,21,乙1)
被告システムは,被告サービスの利用者(以下「ユーザ」という。)側,すな
わち被告システムの外部に設置された通信機器であるカスタマーエッジルータ
(以下,「CEルータ」又は単に「CE」という。)と,被告システムの内部に
設置された通信機器であるプロバイダエッジルータ(以下,「PEルータ」又は
単に「PE」という。)と,PE内にPEとCEとが論理通信回線(ソフトウェ
ア等により物理通信回線を複数の仮想的な回線に分けたもの)を通じて1対1に接
続する「PE-CEインターフェイス」とを有している。
CEは,被告システム及び被告方法において,「VPN(VirtualPrivate
Network)」「VPNサイト」又は「ユーザサイト」と呼ばれることがある。
PEには,それぞれIPアドレスが付与されており,これにより,被告システム
内部において,特定のPEを一意に識別することができる。また,PEは,各CE
と1対1で接続するPE-CEインターフェイスと括りつけられる形で,「VPN
ルーティング/転送テーブル」を意味する「VRF」を保持している。VRFは,
被告システム内でIPパケットを転送するために用いられる転送テーブルであって,
「ラベルに含まれる情報」を保持している。
「ラベル」とは,送信されるべきIPパケットに付加され,これによりIPパケ
ットをカプセル化して「MPLS(MultiProtocolLabelSwitching)フレーム」
を形成するものであり,また,着信側PE及びその内部のPE-CEインターフェ
イスとを識別し,特定するための情報,被告システム内部においてMPLSフレー
ムを転送する通信経路を識別する情報を含むものである。
イ被告システムの動作(甲18)
①発信側PEにユーザIPパケットが到着すると,発信側PEは,同PEと,
前記パケットの送信元であるCEとを1対1で接続するPE-CEインターフェイ
スに対応するVRFを選択する。
②発信側PEは,選択したVRFの中から,ユーザIPパケットの宛先に対応
するIPアドレスを参照し,ユーザIPパケットを着信側PE-CEインターフェ
イスまで転送するために必要な「ラベルに含まれる情報」を選択する。
ここで,1つめのラベル(以下「outerラベル」という。)は,宛先PEまでの
転送経路を特定する情報を含むラベルであり,もう1つのラベル(以下「innerラ
ベル」という。)は,宛先VPN(宛先CE)と1対1で対応する着信側PE-
CEインターフェイスを特定する情報を含むラベルである。
③発信側PEは,ユーザIPパケットにinnerラベルとouterラベルを付加して
カプセル化し,MPLSフレームとする。outerラベルの情報を基に宛先PEまで
の転送経路が,innerラベルの情報を基に着信側PE-CEインターフェイスが,
それぞれ識別,特定される。
④outerラベルの情報を基に,前記転送経路を経由してMPLSフレームが宛
先PEまで転送される。
⑤宛先PEにMPLSフレームが到着すると,宛先PEは,innerラベルの情
報を基に宛先PEの内部にある着信側PE-CEインターフェイスを識別,決定す
る。
⑥着信側PE-CEインターフェイスにおいて,MPLSフレームからラベル
が外されてユーザIPパケットが復元され,宛先VPN(宛先CE)に送られる。
【被告の主張(被告補助参加人らの主張を含む。以下同じ。)】
アMPLS-VPNの基本的な構成
被告システム及び被告方法は,データに短い固定情報(ラベル)を付加して,高
速に送受信するラベル・スイッチングという技術(MPLS:MultiProtocol
LabelSwitching)を,仮想私設網(VPN:VirtualPrivateNetwork)に応用し
たMPLS-VPNに属するものである。
MPLS-VPNは,基本的に,CEルータ,PEルータとP(Provider)ルー
タの3種類のルータから構成される。
イルーティングとフォワーディング
MPLS-VPNでは,ルーティングとフォワーディングという2段階の仕組み
によってパケットが転送される(甲5,6,18,丙ハ8,12)。
(ア)ルーティング段階では,BGP-4というルーティングプロトコルを用いた
場合を例とすると,①まず,CEルータ(CE1)が,自らの管理しているネット
ワーク(会社A本社)(このネットワークを「VPNサイト」ということがある。)
の情報を,接続しているPEルータ(PE1)に配信する。②次に,PEルータ
(PE1)は,CEルータ(CE1)から提供された情報を,そのVPNに属する
他の事業所(会社A事業所1)のCEルータ(CE2)が接続された他のPEルー
タ(PE3)に配信する。このとき,各PEルータ(PE1及びPE3)は,両者
間の経路情報(両者の間のPルータの配置や最短の経路等の情報及び実際にデータ
を送信する際に付すべきラベルの情報)を交換する。③そして,他のPEルータ
(PE3)からルート情報を受信したPEルータ(PE1)は,接続されているC
Eルータ(CE1)に当該情報を配信する。
以上と並行して,P
Eルータは,隣接する
Pルータからラベル情
報を取得し,Pルータ
も隣接するPEルータ
やPルータからラベル
情報を取得している。
以上のプロセスを踏
まえ,PEルータは,
VPNごとにVPNル
ーティング転送表(V
RF:VPNRouting-Forwarding)を作成してルート情報を管理する。
(イ)フォワーディング段階では,ルーティングによって設定されたルーティング
テーブルに基づいて,次の手順により,実際にパケットが転送される。
①MPLS-VPNにおいて,パケットには,データ及び宛先アドレスに加え
て,PEルータにおいて,フォワーディングのためのラベル,具体的には,「網内
転送ラベル(outerラベル)」と「VPN識別ラベル(innerラベル)」という2種
類のラベルが付与される。
②ネットワーク内での転送に際し,Pルータにおいて,パケットに付与された
ラベルのうち,網内転送ラベルのみが参照され,さらに,同ラベルの値が貼り替え
られる。なお,VPN識別ラベルは,出口のPEルータに到着するまで参照されず,
ネットワーク内におけるパケットの転送とは無関係である。
③パケットが出口PEルータに到着すると,次の動作により,出口インターフ
ェイスが決定される。すなわち,シスコシステムズのルータを用いる場合,出口P
Eルータは,VPN識別ラベルの値に基づき,VPNサイトを識別し,かつ,出力
インターフェイスを決定し,CEルータへパケットを転送する。他方,アルカテ
ル・ルーセント及び富士通のルータを用いる場合,出口PEルータは,VPN識別
ラベルの値のみならず,パケット内の宛先アドレスに基づいて,出力インターフェ
イスを決定し,CEルータへパケットを転送する。
(2)被告システムは本件発明1-1の技術的範囲に属するか(争点2)について
【原告の主張】
ア本件発明1-1の「ICS論理端子」とは,少なくとも論理通信回線と後述
する「アクセス制御装置」との接続点(インターフェイス)であって,ICS内部
で唯一に識別されるための「ICSネットワークアドレス」が付与されている(本
件明細書1の【0015】【0020】,図3)。
本件発明1-1の「ICSユーザフレーム」とは,ICSの外側で送受されるI
CSフレーム(コンピュータ通信データ)をいい,「ICSユーザアドレス」とは,
ICSの外側で送受されるICSフレームで使用する,端末等を識別するユーザ固
有の識別符号をいう。他方,「ICSネットワークフレーム」とは,ICSの内側
で送受されるICSフレームをいい,「ICSネットワークアドレス」とは,IC
Sの内側で送受されるICSフレームで使用する,端末等を識別する固有の識別符
号をいう(以上につき,本件明細書1の【0010】【0017】)。
なお,「ICS」とは,IntegratedInformationCommunicationSystem(統合
情報通信システム)の略である。
イ上記(1)において主張した被告システムの構成を本件発明1-1の構成要件
に即して説明すると,次のとおりとなる。
1-1a:発信カスタマー側のPE-CEインターフェイスと,そのカスタマー
から送信されたユーザIPフレームに付与されたIPアドレスを基に,
MPLSフレームのラベルに含まれる情報を決定し,
1-1b:前記決定されたMPLSフレームのラベルに含まれている情報を基に,
当該MPLSフレームを送信すべき着信側のPE-CEインターフェ
イスを決定する
1-1c:ことを特徴とする統合情報通信システム。
ウここで,被告システムの「PE-CEインターフェイス」が本件発明1-1
の「ICS論理端子」に,被告システムの「ユーザIPフレーム」が本件発明1-
1の「ICSユーザフレーム」に,被告システムの「IPアドレス」が本件発明1
-1の「ICSユーザアドレス」に,被告システムの「MPLSフレーム」が本件
発明1-1の「ICSネットワークフレーム」に,被告システムの「ラベルに含ま
れている情報」が「ICSネットワークアドレス」に,それぞれ該当する。
したがって,被告システムは本件発明1-1の構成要件をすべて充足するから,
本件発明1-1の技術的範囲に属する。
エ被告の主張について
(ア)被告は,被告システムのPE-CEインターフェイスには,ネットワーク内
部で唯一のICSネットワークアドレスが付与されていないから,PE-CEイン
ターフェイスは「ICS論理端子」に当たらないと主張するが,本件発明1-1に
おいて,「ICS論理端子」に付与されるべき「ICSネットワークアドレス」と
は,①ICSネットワークフレーム内で使用するアドレスであって,②ICSネッ
トワークフレームを転送すべきアクセス制御装置をICS内で唯一に識別し,③当
該アクセス制御装置内において,ICSネットワークフレームを逆カプセル化した
ICSユーザフレームを送信すべきICS論理端子を唯一に識別するアドレスをい
うところ,被告システムで付与される網内転送ラベル(outerラベル)に含まれる
情報は,MPLSフレームを転送すべき出口PEルータを唯一に決定するアドレス
であり,VPN識別ラベル(innerラベル)に含まれる情報は,出口PEルータ内
でパケットを出力すべきインターフェイスを唯一に決定するアドレスである。した
がって,この2つのラベルに含まれる情報は,着信側のPE-CEインターフェイ
スに付与され,これを唯一に識別するアドレスといえ,「ICS論理端子に付与さ
れたICSネットワークアドレス」に当たるといえるから,PE-CEインターフ
ェイスは,「ICS論理端子」に当たるというべきである。
(イ)被告は,構成要件1-1Aについて,発信側のアクセス制御装置内の変換表
を用いて,当該変換表に含まれる情報である「発信側のICS論理端子のICSネ
ットワークアドレス」と「ICSユーザフレームに付与された(受信者)ICSユ
ーザアドレス」という2つの識別情報に基づいて,着信側論理端子のICSネット
ワークアドレスを決定することを意味すると解釈した上,被告システムのPEルー
タ内部のVRFには,PE-CEインターフェイスの識別情報は含まれていないか
ら,構成要件1-1Aを充足しないと主張する。
しかし,構成要件1-1Aは,発信側のICS論理端子の識別情報が「変換表に
含まれる」場合に限定されるものではない。被告システムでは,発信側のPE-C
Eインターフェイスの識別情報がPEルータ内のVRFに括りつけられており,発
信側PE-CEインターフェイスに対応するVRFが選択された上で,MPLSフ
レームに付与されるラベルが決定されるのであるから,発信側のICS論理端子の
識別情報に基づいて,着信側論理端子のICSネットワークアドレスを決定してい
るというべきである。
(ウ)被告は,被告システムにおける網内転送ラベル(outerラベル)の情報は,
次のPルータへMPLSフレームを転送するための情報でしかなく,出口側のPE
-CEインターフェイスと関連していない上,その値がPルータで都度貼り替えら
れて変化していくのであるし,VPN識別ラベル(innerラベル)にも,PE-C
Eインターフェイスそのものを識別する情報は含まれないから,被告システムのP
Eルータでは,「ICSネットワークアドレス」を決定していないと主張する。
しかし,網内転送ラベル(outerラベル)の値が貼り替えられても,MPLSフ
レームが転送される通信経路が変更されるわけではないから,網内転送ラベルに含
まれる情報の実体には変化がなく,この情報によってMPLSフレームは出口PE
ルータに到達するのであるし,入口PEルータでVPN識別ラベル(innerラベル)
が付される時点において,到達するPE-CEインターフェイスは特定されている
のであるから,2つのラベルに含まれる情報は,出口側PE-CEインターフェイ
スを網内で唯一に識別するものであり,「ICSネットワークアドレス」に当たる
というべきである。
【被告の主張】
ア「ICS論理端子」(構成要件1-1A,同1-1B)について
本件明細書1の記載によれば,本件発明1-1の「ICS論理端子」には,IC
S内部で唯一のICSネットワークアドレスが付与されるべきところ(本件明細書
1の【0020】),被告システムのPE-CEインターフェイスには,PE内で
唯一の識別子が付与されているにとどまり,ネットワーク内部で唯一の識別子は付
与されていないから,「ICS論理端子」に当たらない。
したがって,被告システムは,構成要件1-1A,同1-1Bをいずれも充足し
ない。
イ「発信側のICS論理端子と・・・ICSユーザアドレスを基に・・・IC
Sネットワークアドレスを決定し」(構成要件1-1A)について
本件明細書1の記載によれば,構成要件1-1Aは,発信側のアクセス制御装置
内の変換表を用いて,当該変換表に含まれる情報である「発信側のICS論理端子
のICSネットワークアドレス」と「ICSユーザフレームに付与された(受信者)
ICSユーザアドレス」という2つの識別情報に基づいて,着信側論理端子のIC
Sネットワークアドレスを決定することを意味すると解すべきである。ここで,
「着信側論理端子のICSネットワークアドレス」とは,当該論理端子そのものを
識別する情報を指し,その値はネットワーク内で変化しないものと解すべきであり
(本件明細書1の【0008】,【0030】ないし【0037】,図10,11
等),また,「着信側論理端子のICSネットワークアドレスの決定」は,ICS
ネットワークフレームの送信に先立って行われるものと解すべきである。
これに対し,被告方法では,PEルータ内部のVRFには,PE-CEインター
フェイスの識別情報は含まれていないから,「発信側のICS論理端子のICSネ
ットワークアドレス」と「ICSユーザフレームに付与された(受信者)ICSユ
ーザアドレス」という2つの識別情報に基づいて,着信側論理端子のICSネット
ワークアドレスを決定していない。
また,被告システムにおいて,網内転送ラベル(outerラベル)の情報は,次の
PルータへMPLSフレームを転送するための情報でしかなく,出口側のPE-C
Eインターフェイスと関連していない上,その値がPルータで都度貼り替えられて
変化していくのであるから,被告システムのPEルータでは,「ICSネットワー
クアドレス」を決定しているとはいえない。なお,VPN識別ラベル(innerラベ
ル)は,出口PEルータに到達してはじめて参照され,出口インターフェイスを決
定するものであるから,そもそも本件発明1-1の構成要件該当性を判断するに際
し検討すべきものではないが,いずれにしても,PE-CEインターフェイスその
ものを識別する情報を含むものではない。
さらに,被告システムでは,MPLSフレームが出口PEルータに到達してはじ
めて,VPN識別ラベルが参照され,出口インターフェイスが決定されるのであり
(なお,富士通及びアルカテル・ルーセントのルータを用いる場合には,PEルー
タにおいて,VPN識別ラベルのほか,宛先アドレスをも参照して,出口インター
フェイスが決定される。),MPLSフレームの送信前には,出口インターフェイ
スは決定されない。
したがって,被告システムは,構成要件1-1Aを充足しない。
ウ「前記決定されたICSネットワークアドレスを基に,送信ICSネットワ
ークフレームを送信すべき着信側ICS論理端子を決定する」(構成要件1-1B)
について
本件明細書1において,「決定されたICSネットワークアドレス」は,「着信
側ICS論理端子」の識別情報そのものとして記載されているから,構成要件1-
1Bは,構成要件1-1AでICSネットワークアドレスが決定されることにより,
自ずと「着信側ICS論理端子」が定まることを規定したにすぎないというべきで
ある。
そうすると,被告システムにおいて,「ICSネットワークアドレス」を決定し
ていないことは前記イのとおりであるから,「着信側ICS論理端子」が定まると
いうこともない。
したがって,被告システムは,構成要件1-1Bを充足しない。
(3)被告システムは本件発明1-2の技術的範囲に属するか(争点3)について
【原告の主張】
ア本件発明1-2の「ユーザ通信回線」とは,ユーザとICSとを結ぶ通信回
線をいい,「発信側のICS論理端子識別情報」とは,発信側のアクセス制御装置
中のICS論理端子を識別できる情報をいい,「アクセス制御装置」とは,ユーザ
からのICSへのユーザ通信回線を収容する装置であって,少なくとも論理端子を
持ち,識別情報を保持でき,ICSフレームを転送できるものをいい,「ICSネ
ットワークフレームが転送されるICS網通信回線」とは,ICS内部でICSフ
レームが転送されるべき通信経路をいう。その他の用語の意義については,本件発
明1-1について主張したとおりである。
イ上記(1)において主張した被告システムの構成を本件発明1-2の構成要件
に即して説明すると,次のとおりとなる。
1-2a:カスタマーの通信回線の終端のPE-CEインターフェイスに,PE
-CEインターフェイスを識別するラベルに含まれる情報が付与され,
1-2b:発信カスタマー側のPE-CEインターフェイス識別情報及び受信カ
スタマーのIPユーザアドレスの組が定まれば,発信カスタマー側の
PEと受信カスタマー側のPEとの間にMPLSフレームが転送され
る内部経路が定まる
1-2c:ことを特徴とする統合情報通信システム。
ウここで,被告システムの「カスタマーの通信回線」が本件発明1-2の「ユ
ーザ通信回線」に,被告システムの「PE-CEインターフェイス」が本件発明1
-2の「ICS論理端子」に,被告システムの「ラベルに含まれる情報」が本件発
明1-2の「ICSネットワークアドレス」に,被告システムの「PE」が本件発
明1-2の「アクセス制御装置」に,被告システムの「MPLSフレームの内部経
路」が本件発明1-2の「ICS網通信回線」に該当する。
したがって,被告システムは本件発明1-2の構成要件をすべて充足するから,
本件発明1-2の技術的範囲に属する。
エ被告の主張について
被告システムが「ICS論理端子」及び「ICSネットワークアドレス」を備え
ることは,本件発明1-1について主張したとおりである。
【被告の主張】
ア被告システムが「ICS論理端子」及び「ICSネットワークアドレス」を
有しないことは,本件発明1-1について述べたところと同一であるから,被告シ
ステムは,構成要件1-2A,同1-2Bをいずれも充足しない。
イ「発信側のICS論理端子識別情報及び受信者ICSユーザアドレスの組が
定まれば・・・ICS網通信回線が定まる」(構成要件1-2B)について
本件明細書1の記載によれば,構成要件1-2Bは,発信側のアクセス制御装置
内の変換表の中で,「発信側のICS論理端子識別情報」と「受信者ICSユーザ
アドレス」という2つの情報の組合せを定めることを条件として,ICS網通信回
線を決定することを意味すると解すべきである。
これに対し,被告方法では,PEルータ内部のVRFには,PE-CEインター
フェイスの識別情報は含まれていないから,「発信側のICS論理端子識別情報」
と「受信者ICSユーザアドレス」という2つの情報の組合せが定まるということ
がない。また,被告システムにおける網内転送ラベル(outerラベル)の情報は,
次のPルータへMPLSフレームを転送するための情報でしかないから,被告シス
テムのPEルータにおいて,「ICS網通信回線」が定まるということもない。
(4)被告システムは本件発明2-1の技術的範囲に属するか(争点4)について
【原告の主張】
ア本件発明2-1の「IP通信網」とは,IP(InternetProtocol)技術を
ベースとした通信網をいう。その他の用語の意義については,本件発明1-1及び
同1-2について主張したとおりである。
イ上記(1)において主張した被告システムの構成を本件発明2-1の構成要件
に即して説明すると,次のとおりとなる。
2-1a:被告システムを中心とするIP通信網は,2以上のPEを含み,
2-1b:カスタマーが送信したユーザIPフレームは,カスタマーとの通信回
線の終端の発信カスタマー側PE-CEインターフェイスを経て,発
信カスタマー側のPEに入力し,そのPEにおいて,発信カスタマー
側PE-CEインターフェイス識別情報が用いられて送信先が決定さ
れたMPLSフレームとなり,
2-1c:前記のMPLSフレームは,前記IP通信網の内部を転送され,着信
側のPEに到達し,そのPEにおいて,前記のMPLSフレームから
当初のユーザIPフレームが復元され,
2-1d:前記復元されたユーザIPフレームが,着信カスタマー側のPE-C
Eインターフェイスを,次に着信カスタマーの通信回線を経て着信カ
スタマーに到達するようになっている
2-1e:ことを特徴とするIP通信システム。
ウここで,被告システムの「PE」が本件発明2-1の「アクセス制御装置」
に,被告システムの「ユーザIPフレーム」が本件発明2-1の「ICSユーザフ
レーム」に,被告システムの「PE-CEインターフェイス」が本件発明2-1の
「ICS論理端子」に,被告システムの「PE-CEインターフェイス識別情報」
が本件発明2-1の「ICS論理端子識別情報」に,被告システムの「MPLSフ
レーム」が本件発明2-1の「ICSネットワークフレーム」に,それぞれ該当す
る。
したがって,被告システムは本件発明2-1の構成要件をすべて充足するから,
本件発明2-1の技術的範囲に属する。
エ被告の主張について
(ア)被告システムが「ICS論理端子」及び「ICSネットワークアドレス」を
備えることは,本件発明1-1について主張したとおりである。
(イ)被告は,構成要件2-1Cについて,構成要件2-1Bで決定されたICS
ネットワークフレームが,着信側アクセス制御装置に到達するまでそのまま転送さ
れることを意味するとして,被告システムのMPLSフレームは,網内転送ラベル
(outerラベル)がPルータで都度貼り替えられて変化していくからこれに当たら
ないと主張する。
しかし,本件明細書2には,ICSネットワークフレームが着信側アクセス制御
装置に到達するまでそのまま転送されるべき旨の記載はない。また,被告システム
において,網内転送ラベル(outerラベル)が貼り替えられるとしても,貼り替え
られていくラベルの値自体はすべて入口PEルータで決定されており,転送経路が
変わることもないのであるから,ラベルに含まれる情報としてのアドレスが変更さ
れるわけではない。
【被告の主張】
ア「ICS論理端子」(構成要件2-1B,同2-1C,同2-1D)につい

本件明細書2の記載によれば,本件発明2-1の「ICS論理端子」には,IC
S内部で唯一のICSネットワークアドレスが付与されるべきところ(本件明細書
2の【0020】),被告システムのPE-CEインターフェイスには,PEルー
タ内で唯一の識別子が付与されているにとどまり,ネットワーク内部で唯一の識別
子は付与されていないから,「ICS論理端子」に当たらない。
したがって,被告システムは,構成要件2-1B,同2-1Dをいずれも充足し
ない。
イ「発信側アクセス制御装置において・・・送信先が決定された」(構成要件
2-1B)について
本件明細書2の記載によれば,構成要件2-1Bにいう「送信先」を「決定」す
るとは,「着信側論理端子のICSネットワークアドレス」を決定することをいう
と解すべきである。
これに対し,被告システムの発信側のPEルータにおいて形成されるMPLSフ
レームには,網内転送ラベル(outerラベル)とVPN識別ラベル(innerラベル)
が含まれるのみであって,いずれもPE-CEインターフェイスを識別するもので
なく,「着信側論理端子のICSネットワークアドレス」に当たらず,被告システ
ムでは,これを決定しているものではない。
したがって,被告システムは,構成要件2-1Bを充足しない。
ウ「ICSネットワークフレームは,前記IP通信網の内部を転送され,着信
側アクセス制御装置に到達し」(構成要件2-1C)について
本件明細書2の記載及び分割前の原出願(特願平9-350244号)の出願経
過(丙ハ5ないし7)によれば,構成要件2-1Cは,構成要件2-1Bで決定さ
れたICSネットワークフレームが,着信側アクセス制御装置に到達するまでその
まま転送されることを意味すると解すべきである。
これに対し,被告システムのMPLSフレームは,これに含まれる網内転送ラベ
ル(outerラベル)が,Pルータで都度貼り替えられて変化していくのであるから,
MPLSフレームが受信側のPEルータまでそのまま転送されるわけではない。
したがって,被告システムは,構成要件2-1Cを充足しない。
(5)被告方法は本件発明2-2の技術的範囲に属するか(争点5)について
【原告の主張】
ア本件発明2-2の「IPパケット」とは,「IP(InternetProtocol)で
送信するコンピュータ通信データをいい,「論理端子の識別情報」とは,当該論理
端子についてネットワーク内で識別できる情報をいい(本件明細書2の【001
7】),「内部パケット」とは,IP通信網内部で送受されるコンピュータ通信デ
ータをいう。その他の用語の意義については,本件発明1-1ないし同2-1につ
いて主張したとおりである。
イ上記(1)で主張した被告方法の構成を本件発明2-2の構成要件に即して説
明すると,次のとおりとなる。
2-2a:被告システムを中心とするIP通信網は2以上のPE-CEインター
フェイスを含み,前記PE-CEインターフェイスはカスタマーの有
するパソコン等と接続され,前記IP通信網を経由して前記パソコン
等間で通信を行う方法において,
2-2b:発信側のパソコン等から前記PE-CEインターフェイスに送信され
たユーザIPフレームは前記PE-CEインターフェイスから入力し,
2-2c:前記入力側の発信側PE-CEインターフェイス識別情報及び前記ユ
ーザIPフレームのIPアドレスを基に,送信先である着信側のPE
-CEインターフェイスを識別する情報を含むMPLSフレームの形
成が行われ,
2-2d:前記MPLSフレームは前記着信側PE-CEインターフェイスを識
別する情報を基に前記着信側PE-CEインターフェイスに転送され,
2-2e:前記着信側PE-CEインターフェイスから,前記MPLSフレーム
を基に復元された前記ユーザIPフレームが着信側のパソコン等に送
信される
2-2f:ことを特徴とする通信方法。
ウここで,被告方法の「PE-CEインターフェイス」は本件発明2-2の
「論理端子」に,被告方法の「パソコン等」は本件発明2-2の「端末」に,被告
方法の「ユーザIPフレーム」は本件発明2-2の「IPパケット」に,被告方法
の「PE-CEインターフェイス識別情報」は本件発明2-2の「論理端子の識別
情報」に,被告方法の「MPLSフレーム」は本件発明2-2の「内部パケット」
に,それぞれ該当する。
したがって,被告方法は本件発明2-2の構成要件をすべて充足するから,本件
発明2-2の技術的範囲に属する。
エ被告の主張について
(ア)本件発明2-2の「論理端子」は,本件発明2-1の「ICS論理端子」と
同義であり,被告方法がこれを備えることは,本件発明1-1,同2-1について
主張したとおりである。
(イ)発信側論理端子の識別情報が「変換表に含まれる」場合に限定されるもので
はないことも,本件発明1-1について主張したとおりである。
(ウ)本件明細書2には,内部パケットが着信側論理端子に到達するまでそのまま
転送されるべき旨の記載はない。また,被告方法において,網内転送ラベル
(outerラベル)が貼り替えられるとしても,貼り替えられていくラベルの値自体
はすべて入口PEルータで決定されており,転送経路が変わることもないのである
から,ラベルに含まれる情報としてのアドレスが変更されるわけではない。
【被告の主張】
ア「論理端子」(構成要件2-2A,同2-2B,同2-2C,同2-2D,
同2-2E)について
本件発明2-2の「論理端子」も,本件発明2-1の「ICS論理端子」と同義
と解されるところ,被告方法のPE-CEインターフェイスには,PE内で唯一の
識別子が付与されているにとどまり,ネットワーク内部で唯一の識別子は付与され
ていないから,「論理端子」に当たらない。
したがって,被告方法は,構成要件2-2A,同2-2B,同2-2C,同2-
2D及び同2-2Eをいずれも充足しない。
イ「発信側論理端子の識別情報及び前記IPパケットのアドレスを基に,送信
先である着信側論理端子の識別情報を含む内部パケットの形成が行われ」(構成要
件2-2C)について
本件明細書2の記載からすれば,構成要件2-2Cは,発信側のアクセス制御装
置内の変換表を用いて,当該変換表に含まれる情報である「発信側論理端子の識別
情報」と「IPパケットの(受信者)アドレス」という2つの識別情報に基づいて,
着信側論理端子のICSネットワークアドレスを決定し,当該ネットワークアドレ
スを含むパケットを形成することを意味すると解すべきである。
これに対し,被告方法では,PEルータ内部のVRFには,PE-CEインター
フェイスの識別情報は含まれていないから,「発信側論理端子の識別情報」と「I
Pパケットの(受信者)アドレス」という2つの識別情報に基づいて,着信側論理
端子のICSネットワークアドレスを決定していないし,当該ネットワークアドレ
スを含むパケットを形成してもいない。
また,被告方法のMPLSフレームには,網内転送ラベルとVPN識別ラベルが
含まれるのみであって,「送信先である着信側論理端子の識別情報」は含まれてい
ない。
したがって,被告方法は,構成要件2-2Cを充足しない。
ウ「前記内部パケットは前記着信側論理端子の識別情報を基に前記着信側論理
端子に転送され」(構成要件2-2D)について
本件明細書2の記載及び分割前の原出願(特願平9-350244号)の出願経
過(丙ハ5ないし7)によれば,構成要件2-2Dは,構成要件2-2Cで形成さ
れた内部パケットが,着信側のICS論理端子に到達するまでそのまま,着信側I
CSネットワークアドレスを基に,転送されることを意味すると解すべきである。
これに対し,被告方法のMPLSフレームは,これに含まれる網内転送ラベル
(outerラベル)が,Pルータで都度貼り替えられて変化していくのであるから,
MPLSフレームが受信側のPEルータまでそのまま転送されるわけではない。
したがって,被告システムは,構成要件2-2Dを充足しない。
(6)被告システムは本件発明3-1の技術的範囲に属するか(争点6)について
【原告の主張】
ア本件発明3-1の「ICS網」とは,統合情報通信システムのネットワーク
をいい,「ICSアドレス」とは,ICSで使用される,コンピュータ等を識別す
る固有の識別符号などをいう。その他の用語の意義については,本件発明1-1な
いし同2-2について主張したとおりである。
イ上記(1)で主張した被告システムの構成を本件発明3-1の構成要件に即し
て説明すると,次のとおりとなる。
3-1a:被告システムのネットワークの外部のカスタマーとの通信回線が接続
され,
3-1b:且つ前記被告システムのネットワーク内で唯一に識別されるPE-C
Eインターフェイスが前記被告システムのネットワークに含まれ,
3-1c:発信側のPE-CEインターフェイスと前記発信側のPE-CEイン
ターフェイスから入力されるユーザIPフレームのIPアドレスを基
に,MPLSフレームを送信すべき着信側PE-CEインターフェイ
スが定まる
3-1d:ことを特徴とする通信システム。
ウここで,被告システムの「ネットワーク」が本件発明3-1の「ICS網」
に,被告システムの「PE-CEインターフェイス」が本件発明3-1の「ICS
論理端子」に,被告システムの「ユーザIPフレーム」が本件発明3-1の「IC
Sユーザフレーム」に,被告システムの「IPアドレス」が本件発明3-1の「I
CSアドレス」に,被告システムの「MPLSフレーム」が本件発明3-1の「I
CSネットワークフレーム」に,それぞれ該当する。
したがって,被告システムは本件発明3-1の構成要件をすべて充足するから,
本件発明3-1の技術的範囲に属する。
エ被告の主張について
(ア)被告は,被告システムにおけるCE-PEインターフェイスは,網内で唯一
に識別されるような情報を含まないから,「ICS網内で唯一に識別されるICS
論理端子」に当たらないと主張するが,構成要件3-1Bの「ICS論理端子」は,
それ自体の独自の特性として「ICS網内で唯一に識別される」必要はなく,IC
Sネットワークアドレスを付与されることにより特定されれば足りるというべきと
ころ,被告システムのPE-CEインターフェイスは,MPLSフレームに付され
る2つのラベルによって唯一に識別されるのであるから,「ICS網内で唯一に識
別されるICS論理端子」に当たるというべきである。
(イ)発信側のICS論理端子の識別情報が「変換表に含まれる」場合に限定され
るものではないことは,本件発明1-1について主張したとおりである。
【被告の主張】
ア「ICS網」(構成要件3-1A)について
構成要件3-1Aの「ICS網」は,「独自に定めたアドレス体系ADS」を有
すべきところ,被告システムのネットワークは当該アドレス体系を有しないから,
構成要件3-1Aを充足しない。
イ「ICS網内で唯一に識別されるICS論理端子」(構成要件3-1B)に
ついて
構成要件3-1Bの「ICS論理端子」は「ICS網内で唯一に識別される」必
要があるところ,原告が提出する証拠(甲18,19の1,21)によっても,被
告システムにおけるPE-CEインターフェイスは,網内で唯一に識別されるよう
な情報を含まないから,「ICS論理端子」に当たらない。
したがって,被告システムは,構成要件3-1Bを充足しない。
ウ「発信側のICS論理端子と前記発信側のICS論理端子から入力されるI
CSユーザフレームのICSアドレスを基に,ICSネットワークフレームを送信
すべき着信側ICS論理端子が定まる」(構成要件3-1C)について
本件明細書3の記載からすれば,構成要件3-1Cは,発信側のアクセス制御装
置内の変換表を用いて,当該変換表に含まれる情報である「発信側のICS論理端
子(の識別情報)」と「ICSユーザフレームの(受信者)ICSアドレス」とい
う2つの識別情報に基づいて,着信側論理端子のICSネットワークアドレスを決
定することを意味すると解すべきである。
これに対し,被告システムでは,PEルータ内部のVRFには,PE-CEイン
ターフェイスの識別情報は含まれていないから,「発信側のICS論理端子(の氏
識別情報)」と「ICSユーザフレームの(受信者)ICSアドレス」という2つ
の識別情報に基づいて,着信側論理端子のICSネットワークアドレスを決定して
いない。
したがって,被告システムは,構成要件3-1Cを充足しない。
(7)被告システムは本件発明3-2の技術的範囲に属するか(争点7)について
【原告の主張】
ア本件発明3-2における用語の意義については,本件発明1-1ないし同3
-1について主張したとおりである。
イ上記(1)で主張した被告システムの構成を本件発明3-2の構成要件に即し
て説明すると,次のとおりとなる。
3-2a:被告システムのネットワークの外部のカスタマーとの通信回線が接続
され,
3-2b:且つ前記被告システムのネットワーク内で唯一に識別されるPE-C
Eインターフェイスを備えるPEが前記被告システムのネットワーク
に含まれ,
3-2c:送信側のPE-CEインターフェイスと,前記送信側のPE-CEイ
ンターフェイスから入力されるユーザIPフレームのIPアドレスを
基に,送信側のPEと受信側のPEの間にMPLSフレームが転送さ
れる通信路が定まる
3-2d:ことを特徴とする通信システム。
ウここで,被告システムの「ネットワーク」が本件発明3-2の「ICS網」
に,被告システムの「PE-CEインターフェイス」が本件発明3-1の「ICS
論理端子」に,被告システムの「PE」が本件発明3-2の「アクセス制御装置」
に,被告システムの「ユーザIPフレーム」が本件発明3-2の「ICSユーザフ
レーム」に,被告システムの「IPアドレス」が本件発明3-2の「ICSアドレ
ス」に,被告システムの「MPLSフレーム」が本件発明3-2の「ICSネット
ワークフレーム」に,それぞれ該当する。
したがって,被告システムは本件発明3-2の構成要件をすべて充足するから,
本件発明3-2の技術的範囲に属する。
エ被告の主張について
(ア)被告システムのPE-CEインターフェイスは,MPLSフレームに付さ
れる2つのラベルによって唯一に識別されるのであるから,「ICS網内で唯一に
識別されるICS論理端子」に当たることは,本件発明3-1について主張したと
おりである。
(イ)送信側のICS論理端子の識別情報が「変換表に含まれる」場合に限定され
るものではないことは,本件発明1-1について主張したとおりである。
【被告の主張】
ア「ICS網」(構成要件3-2A)について
構成要件3-2Aの「ICS網」は,「独自に定めたアドレス体系ADS」を有
すべきところ,被告システムのネットワークは当該アドレス体系を有しないから,
構成要件3-2Aを充足しない。
イ「ICS網内で唯一に識別されるICS論理端子」(構成要件3-2B)に
ついて
構成要件3-2Bの「ICS論理端子」は「ICS網内で唯一に識別される」必
要があるところ,原告が提出する証拠によっても,被告システムにおけるPE-C
Eインターフェイスは,網内で唯一に識別されるような情報を含まないから,「I
CS論理端子」に当たらない。
したがって,被告システムは,構成要件3-2Bを充足しない。
ウ「送信側のICS論理端子と,前記送信側のICS論理端子から入力される
ICSユーザフレームのICSアドレスを基に,送信側のアクセス制御装置と受信
側のアクセス制御装置の間にICSネットワークフレームが転送される通信路が定
まる」(構成要件3-2C)について
本件明細書3の記載からすれば,構成要件3-2Cは,発信側のアクセス制御装
置内の変換表を用いて,当該変換表に含まれる情報である「送信側のICS論理端
子(の識別情報)」と「ICSユーザフレームの(受信者)ICSアドレス」とい
う2つの識別情報に基づいて,着信側論理端子のICSネットワークアドレスを決
定し,ICSネットワークフレームが転送される通信路を決定することを意味する
と解すべきである。
これに対し,被告システムでは,PEルータ内部のVRFには,PE-CEイン
ターフェイスの識別情報は含まれていないから,「送信側のICS論理端子(の識
別情報)」と「ICSユーザフレームの(受信者)ICSアドレス」という2つの
識別情報に基づいて,着信側論理端子のICSネットワークアドレスを決定してい
ないし,ICSネットワークフレームが転送される通信路を決定してもいない。
また,網内転送ラベル(outerラベル)の情報は,次のPルータへMPLSフレ
ームを転送するための情報でしかないし,VPN識別ラベル(innerラベル)は,
出口PEルータに到着するまでは参照されず,しかも,同参照によりはじめて出口
インターフェイスが決定されるのであるから,被告システムでは,発信側PEルー
タにおいて「通信路」が定まるということもない。
したがって,被告システムは,構成要件3-2Cを充足しない。
(8)被告システムは本件発明4-1の技術的範囲に属するか(争点7)について
【原告の主張】
ア本件発明4-1の「論理端子」とは,本件発明1-1にいう「ICS論理端
子」と同義であり,その他の用語の意義については,本件発明1-1ないし同3-
2について主張したとおりである。
イ上記(1)で主張した被告システムの構成を本件発明4-1の構成要件に即し
て説明すると,次のとおりとなる。
4-1a:被告システムの通信網はカスタマーの通信回線が接続されるPE-C
Eインターフェイスを含み,
4-1b:送信側PE-CEインターフェイスと前記通信網の外部から前記送信
側PE-CEインターフェイスに送られるIPフレームの宛先IPア
ドレスを基に,前記IPフレームが転送される着信側PE-CEイン
ターフェイスが決定される
4-1c:ことを特徴とする通信システム。
ウここで,被告システムの「PE-CEインターフェイス」は本件発明4-1
の「論理端子」に,被告システムの「IPフレーム」は本件発明4-1の「ICS
フレーム」に,被告システムの「IPアドレス」は本件発明4-1の「ICSアド
レス」に,それぞれ該当する。
したがって,被告システムは本件発明4-1の構成要件をすべて充足するから,
本件発明4-1の技術的範囲に属する。
エ被告の主張について
(ア)本件発明4-1の「論理端子」は,本件発明1-1の「ICS論理端子」と
同義であり,被告システムがこれを備えることは,本件発明1-1について主張し
たとおりである。
(イ)送信側論理端子の識別情報が「変換表に含まれる」場合に限定されるもので
はないことも,本件発明1-1について主張したとおりである。
(ウ)本件明細書4には,ICSユーザフレームが着信側論理端子に到達するまで
そのまま転送されるべき旨の記載はない。また,被告システムにおいて,網内転送
ラベル(outerラベル)が貼り替えられるとしても,貼り替えられる値自体は入口
PEルータで決定されており,転送経路が変わることもないのであるから,ラベル
に含まれる情報としてのアドレスが変更されるわけではない。
【被告の主張】
ア「論理端子」(構成要件4-1A,同4-1B)について
本件明細書4の記載によれば,本件発明4-1の「論理端子」には,「ICS内
部で唯一のICSネットワークアドレス」が付与されるものである(本件明細書4
の【0023】)。「ICSネットワークアドレス」とは,「ICSネットワーク
フレーム内で使用するコンピュータや端末等を識別するアドレス」をいう(同【0
020】)。
他方,被告システムのPE-CEインターフェイスには,PE内で唯一の識別子
が付与されているにとどまり,ネットワーク内部で唯一の識別子は付与されていな
いから,「論理端子」に当たらない。
したがって,被告システムは,構成要件4-1A及び同4-1Bをいずれも充足
しない。
イ「送信側論理端子と前記通信網の外部から前記送信側論理端子に送られるI
CSフレームのICSアドレスを基に,前記ICSフレームが転送される着信側論
理端子が決定される」(構成要件4-1B)について
本件明細書4の記載からすれば,構成要件4-1Bは,発信側のアクセス制御装
置内の変換表を用いて,当該変換表に含まれる情報である「送信側論理端子(の識
別情報)」と「ICSフレームの(受信者)ICSアドレス」という2つの識別情
報に基づいて,着信側論理端子のICSネットワークアドレスを決定することを意
味すると解すべきである。
また,本件明細書4の記載及び本件発明4-1の原出願(特願平9-35024
4号)の出願経過(丙ハ5ないし7)によれば,本件発明4-1の「ICSフレー
ム」は,そのICSフレームそのものが,変化することなく転送・送信されること
を要すると解すべきである。
これに対し,被告システムでは,PEルータ内部のVRFには,PE-CEイン
ターフェイスの識別情報は含まれていないから,「送信側論理端子(の識別情報)」
と「ICSフレームの(受信者)ICSアドレス」という2つの識別情報に基づい
て,着信側論理端子のICSネットワークアドレスを決定していない。
また,被告システムにおいて,網内転送ラベル(outerラベル)の情報は,次の
PルータへMPLSフレームを転送するための情報でしかなく,出口側のPE-C
Eインターフェイスと関連していないから,被告システムの送信側PEルータにお
いて,「着信側論理端子」を決定しているということもない。
さらに,被告システムのMPLSフレームは,これに含まれる網内転送ラベル
(outerラベル)が,Pルータで都度貼り替えられて変化していくのであるから,
MPLSフレームが受信側のPEルータまでそのまま転送されるわけではない。
したがって,被告システムは,構成要件4-1Bを充足しない。
(9)被告システムは本件発明4-2の技術的範囲に属するか(争点9)について
【原告の主張】
ア本件発明4-2における用語の意義については,本件発明1-1ないし同4
-1について主張したとおりである。
イ上記(1)で主張した被告システムの構成を本件発明4-2の構成要件に即し
て説明すると,次のとおりとなる。
4-2a:被告システムの通信網はカスタマーの通信回線が接続されるPE-C
Eインターフェイスを含み,
4-2b:送信側PE-CEインターフェイスと前記通信網の外部から前記送信
側PE-CEインターフェイスに送られるIPフレームの宛先IPア
ドレスを基に,前記送信側PE-CEインターフェイスと着信側PE
-CEインターフェイスの間の通信経路が決定される
4-2c:ことを特徴とする通信システム。
ウここで,被告システムの「PE-CEインターフェイス」は本件発明4-2
の「論理端子」に,被告システムの「IPフレーム」は本件発明4-2の「ICS
フレーム」に,被告システムの「IPアドレス」は本件発明4-2の「ICSアド
レス」に,それぞれ該当する。
したがって,被告システムは本件発明4-2の構成要件をすべて充足するから,
本件発明4-2の技術的範囲に属する。
エ被告の主張について
(ア)本件発明4-2の「論理端子」も,本件発明4-1の「論理端子」と同義で
あり,被告システムがこれを備えることは,本件発明1-1,同4-1について主
張したとおりである。
(イ)送信側論理端子の識別情報が「変換表に含まれる」場合に限定されるもので
はないことも,本件発明1-1について主張したとおりである。
【被告の主張】
ア「論理端子」(構成要件4-2A,同4-2B)について
被告システムが「論理端子」を有しないことは,本件発明4-1について述べた
ところと同一であるから,被告システムは,構成要件4-2A,同4-2Bをいず
れも充足しない。
イ「送信側論理端子と前記通信網の外部から前記送信側論理端子に送られるI
CSフレームのICSアドレスを基に,前記送信側論理端子と着信側論理端子の間
の通信経路が決定される」(構成要件4-2B)について
本件明細書4の記載からすれば,構成要件4-2Bは,発信側のアクセス制御装
置内の変換表に含まれる情報である「送信側論理端子(の識別情報)」と「ICS
フレームの(受信者)ICSアドレス」という2つの情報に基づいて,送信側論理
端子と着信側論理端子の間の通信経路を決定することを意味すると解すべきである。
これに対し,被告システムでは,PEルータ内部のVRFには,PE-CEイン
ターフェイスの識別情報は含まれていないから,「送信側論理端子(の識別情報)」
と「ICSフレームの(受信者)ICSアドレス」という2つの情報に基づいて,
送信側論理端子と着信側論理端子の間の通信経路を決定していない。また,網内転
送ラベル(outerラベル)の情報は,次のPルータへMPLSフレームを転送する
ための情報でしかないから,被告システムの送信側PEルータにおいて,送信側論
理端子と着信側論理端子との間の通信経路を決定しているということもできない。
したがって,被告システムは,構成要件4-2Bを充足しない。
(10)本件各発明についての特許は特許無効審判により無効にされるべきものか
(争点10)について
ア無効理由1(丙ロ3を主引例とする新規性欠如)は認められるか(争点10
-1)について
【被告の主張】
本件特許1,同2,同3及び同4の各最先の優先日より前に日本国内で頒布され
た刊行物である特表平6-501826号公報(以下「丙ロ3公報」という。)
には,複数のLANに接続されたステーション間に通信を形成する統合的な通信シ
ステムに係る発明(以下「丙ロ3発明」という。)が開示されているところ,本
件各発明は,いずれも丙ロ3発明と同一であり,新規性を欠くものであった。
したがって,本件各発明についての特許は,いずれも特許無効審判により無効に
されるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件各特許権を行使することが
できない(特許法104条の3第1項)。
【原告の主張】
本件各発明は,技術分野,解決課題,構成と動作などの技術的思想,効果におい
ていずれも丙ロ3発明と基本的に相違しており,新規性を欠くものであったという
ことはできない。
イ無効理由2(丙ハ14を主引例とする新規性又は進歩性欠如)は認められる
か(争点10-2)について
【被告の主張】
本件特許1,同2,同3及び同4の各最先の優先日より前である1996年(平
成8年)9月に公表された"TagSwitchingArchitectureOverview"と題する文献
(以下「丙ハ14文献」という。)には,IPネットワークに適用しうる,ネッ
トワークレイヤでパケットを転送する方法であるタグスイッチング技術に係る発明
(以下「丙ハ14発明」という。)が開示されているところ,本件各発明は,い
ずれも丙ハ14発明と同一であり,新規性を欠くものであった。
仮に,本件各発明と丙ハ14発明との間に実質的な相違点が認められたとしても,
同相違点は,単なる設計事項にすぎないから,本件各発明は,当業者が丙ハ14発
明に基づいて容易に発明することができたものであり,進歩性を欠くものであった。
したがって,本件各発明についての特許は,いずれも特許無効審判により無効に
されるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件各特許権を行使することが
できない(特許法104条の3第1項)。
【原告の主張】
丙ハ14発明には,ICS論理端子及びこれを備えるアクセス制御装置,ICS
論理端子をパケットの転送先として識別するICSネットワークアドレス,発信側
ICS論理端子を基に着信側ICS論理端子を決定する構成と動作がいずれも開示
されておらず,これらの構成を採用すべきことの示唆や動機付けも示されていない
から,本件各発明が,丙ハ14発明と同一であるとか,丙ハ14発明に基づき当業
者が容易に発明することができたなどということはできない。
ウ無効理由3(丙ハ18を主引例とする新規性又は進歩性欠如。ただし本件発
明2-1のみに関する。)は認められるか(争点10-3)について
【被告の主張】
本件特許2の最先の優先日より前に日本国内で頒布された刊行物である特表平8
-500478号公報(以下「丙ハ18公報」という。)には,中枢伝送網で相
互接続された複数のハブを含む通信システムに係る発明(以下「丙ハ18発明」
という。)が開示されているところ,本件発明2-1は,丙ハ18発明と同一で
あり,新規性を欠くものであった。
仮に,本件発明2-1と丙ハ18発明との間に実質的な相違点が認められたとし
ても,同相違点は,当業者が周知技術に基づいて容易になし得るものであるから,
本件発明2-1は,当業者が丙ハ14発明に基づいて容易に発明することができた
ものであり,進歩性を欠くものであった。
したがって,本件発明2-1についての特許は,特許無効審判により無効にされ
るべきものであるから,原告は,被告システムが本件発明2-1の技術的範囲に含
まれることを理由に,本件特許権2を行使することができない(特許法104条の
3第1項)。
【原告の主張】
丙ハ18発明には,IP通信網やこれが2以上のアクセス制御装置を含むことは
開示されていないし,同一値のアドレスの使用が発生しないMACアドレスを使用
する丙ハ18発明の「メッセージ」は,これが発生することを許容する「ICSユ
ーザアドレス」を使用する本件発明2-1の「ICSユーザフレーム」に相当しな
いことから,本件発明2-1は丙ハ18発明と異なるものであり,新規性を欠くも
のであったとはいえない。また,被告は,相違点に係る容易想到性について何ら具
体的な立証をしておらず,進歩性欠如の主張にも理由はない。
エ無効理由4(丙ハ19を主引例とする新規性又は進歩性欠如。ただし本件発
明3-1,同3-2,同4-1及び同4-2のみに関する。)は認められるか(争
点10-4)について
【被告の主張】
本件特許3及び同4の最先の優先日より前に外国において頒布された刊行物であ
る米国特許第5485455号公報(以下「丙ハ19公報」という。)には,安
全高速パケット交換機を用いた,パケット通信システム(以下「丙ハ19発明」
という。)が記載されているところ,本件発明3-1ないし同4-2は,いずれ
も,丙ハ19発明と同一であり,新規性を欠くものであった。
仮に,本件発明3-1ないし同4-2と丙ハ19発明との間に実質的な相違点が
認められたとしても,同相違点は単なる設計事項にすぎないから,本件発明3-1
ないし同4-2は,当業者が丙ハ19発明に基づいて容易に発明することができた
ものであり,進歩性を欠くものであった。
したがって,本件発明3-1ないし同4-2についての特許は,いずれも特許無
効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特許権
3及び同4を行使することができない(特許法104条の3第1項)。
【原告の主張】
丙ハ19発明には,「ICS網内で唯一に識別されるICS論理端子」や「発信
側のICS論理端子・・・を基に,着信側ICS論理端子が定まる」という構成,
動作は開示されていない上,丙ハ19発明の「MACアドレス」は,本件発明3-
1ないし同4-2の「ICSアドレス」とは異なっているところ,これらの構成を
採用すべきことの示唆や動機付けも示されていないから,本件発明3-1ないし同
4-2が,丙ハ19発明と同一であるとか,丙ハ19発明に基づき当業者が容易に
発明することができたなどということはできない。
オ無効理由5(サポート要件違反及び実施可能要件違反)は認められるか(争
点10-5)について
【被告の主張】
(ア)本件明細書1ないし同4は,発信側のアクセス制御装置で決定されたICS
ネットワークアドレスを一切変化させず,これを中継装置が参照することによって,
着信側のアクセス制御装置のICS論理端子までパケットを転送することが記載さ
れているにとどまり,MPLSベースのVPNシステムは一切記載されていない。
そうすると,仮に,被告システム又は被告方法が,本件各発明の技術的範囲に属
するというのであれば,本件各発明は,本件明細書1ないし同4の発明の詳細な説
明に記載されていないというほかないし,同発明の詳細な説明には,当業者が実施
しうる程度に発明が記載されているということもできないから,本件各発明に係る
特許は,いずれもサポート要件及び実施可能要件に違反して特許されたものである。
(イ)また,本件発明1-1に関していえば,本件発明1-1の特許請求の範囲で
は,着信側ICS論理端子の決定が,①ICSネットワークアドレスを決定する,
②ICSネットワークアドレスを基に着信側ICS論理端子を決定するとの2段階
により達成されるように読めるが,本件明細書1の発明の詳細な説明には,このよ
うな2段階の決定プロセスは記載されていないから,同発明に係る特許は,サポー
ト要件に違反して特許されたものである。
(ウ)したがって,本件各発明についての特許は,いずれも特許無効審判により無
効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件各特許権を行使するこ
とができない。
【原告の主張】
ラベル・スイッチング技術は,本件各特許の最先の優先日時点で当業者に周知の
技術であり,ラベル・スイッチング技術で構成されるネットワークも本件各発明の
「コネクションレス型ネットワーク」に含まれることは技術常識であった。本件明
細書1ないし同4には,本件各発明にいう「ICSネットワークアドレス」の数値,
形式に限定はないことが明記されており,ラベルやラベルに含まれる情報も「IC
Sネットワークアドレス」に含まれることが明らかになっている。
したがって,本件各発明に係る特許が,サポート要件や実施可能性要件に違反し
て特許されたということはできない。
カ無効理由6(明確性要件違反。ただし本件発明1-1,同2-1,同3-1,
同3-2,同4-1及び同4-2のみに関する。)は認められるか(争点10-6)
について
【被告の主張】
(ア)本件各発明のうち,特に本件発明1-1,同2-1,同3-1,同3-2,
同4-1及び同4-2については,次のとおり,特許請求の範囲の記載からは,技
術思想としてまとまりのある発明を明確に把握できないから,これらの発明に係る
特許は,いずれも明確性要件に違反して特許されたものである。
すなわち,本件発明1-1は「発信側のICS論理端子と外部の送信ICSユー
ザフレームに付与されたICSユーザアドレスを基に,内部のICSネットワーク
フレームのICSネットワークアドレスを決定し」とするが,「論理端子に基づく」
という記載が,技術的にいかなる意味を有するかが明らかではないし,決定される
べき「ICSネットワークアドレス」がいかなるものを指すかも明らかではない。
本件発明2-1は「発信側ICS論理端子識別情報が用いられて」とするが,当該
識別情報をどのように用いられるのかが明らかではない。本件発明3-1ないし同
4-2には,「発信側(あるいは送信側)ICS論理端子・・・を基に」とするが,
本件発明1-1と同様に,「論理端子に基づく」ということが,技術的にいかなる
意味を有するかが明らかではない。
(イ)したがって,上記各発明についての特許は,いずれも特許無効審判により無
効にされるべきものであるから,原告は,被告システムが上記各発明の技術的範囲
に含まれることを理由に,本件各特許権を行使することができない(特許法104
条の3第1項)。
【原告の主張】
「論理端子に基づく」「論理端子識別情報が用いられて」「ICS論理端
子・・・を基に」などの記載が,「発信側論理端子の識別情報としてICSネット
ワークアドレスがICS論理端子から取得され,取得された識別情報であるICS
ネットワークアドレスを用いて」という意義であることは,本件明細書1ないし同
4の記載から明らかである。
「ICSネットワークアドレス」が,ICSネットワークフレームの送信相手先
を識別するアドレスであり,送信先であるアクセス制御装置を識別し,同アクセス
制御装置の内部において,最終的な送信先となるICS論理端子を識別するもので
あることは,本件明細書1ないし同4の記載から明らかである。
(11)本件各特許権の無償実施により被告が得た不当利得の額(争点11)につ
いて
【原告の主張】
被告は,業として被告サービスを顧客に提供することにより,平成15年11月
9日から平成25年11月8日までの間に少なくとも3000億円の,同月9日か
ら平成26年8月8日までに間に少なくとも225億円の収益を得た。
本件各特許権が被告サービスの基本的特許であることや通常支払われるべき実施
料率からすれば,被告は,本件各特許権の無償実施により,上記収益の少なくとも
2.5パーセントに相当する80億6250万円を利得したといえる。
本件では,上記金額の一部である10億7500万円を請求する。
また,不当利得返還請求であっても,弁護士費用として,請求額の10パーセン
トに相当する1億0750万円の請求が認められるべきである。
【被告の主張】
否認し,争う。
第3当裁判所の判断
1争点1(被告システム及び被告方法の具体的構成)について
証拠(甲5ないし9の2,18,19〔枝番号を含む。〕,21,乙1,2,丙
ハ8)及び弁論の全趣旨によれば,被告システム及び被告方法の具体的構成は,次
のとおりと認められる。
(1)技術分野
被告システム及び被告方法は,MPLS(MultiProtocolLabelSwitching:複
数のプロトコル〔通信規約〕に対応できる短い固定情報〔ラベル〕を付加して,パ
ケットを高速に送受信する技術)を,VPN(VirtualPrivateNetwork:広域の
共有ネットワーク上で,企業ネットワークのようなプライベート・ネットワークを
構築する技術)に適用した,MPLS-VPNに属するものである。
(2)構成
被告システムは,サービスプロバイダである被告が管理するIP(Internet
Protocol)通信網(「MPLSドメイン」と呼ばれることもある。),同通信網の
エッジにあるPE(ProviderEdge)ルータ及び同通信網内にあるP(Provider)
ルータ,並びにMPLS-VPNを実現しようとする顧客の各事業所に設置されて
いるCE(CustomerEdge)ルータによって基本的に構成される。
例えば,次の図にお
いて,MPLS-VP
Nを実現しようとする
会社Aは,本社のネッ
トワーク(VPNサイ
ト)内にCEルータ
「CE1」を,事業所
1のネットワーク(V
PNサイト)にCEル
ータ「CE2」を,事
業所2のネットワーク
(VPNサイト)にCEルータ「CE3」をそれぞれ設置しており,CE1はPE
ルータ「PE1」に,CE2はPEルータ「PE3」に,CE3はPEルータ「P
E4」にそれぞれ接続する。なお,図示されていないが,MPLS-VPNを実現
しようとする他の会社Bも,例えば本社のネットワーク(VPNサイト)内にCE
ルータ(仮に「CE10」とする。)を持ち,事業所αのネットワーク(VPNサ
イト)内にCEルータ(仮に「CE11」とする。)を持ち,会社Aと同様に,C
E10がPE1に,CE11がPE3に,それぞれ接続することがある。この場合,
サービスプロバイダである被告が提供するIP通信網は,バックボーンとしては同
一のものを使用しているが,会社Aに提供されるVPNと会社Bに提供されるVP
Nとは,論理的に独立している。
ここで,PEルータ内にあって特定のCEルータと接続するインターフェイス
(接続部分)を「PE-CEインターフェイス」と呼称する。
(3)ルーティング
ア各事業所に設置されているCEルータ(例えば,CE1)は,同CEルータ
が接続しているVPNサイト(会社Aの本社)内部のルート情報を,接続している
PEルータ(PE1)に配信する。同ルート情報を受信したPEルータ(PE1)
は,その情報を当該VPNに属する他の事業所(例えば,CE2)を接続するPE
ルータ(例えば,PE3)へ配信する。このようにして,同一のVPNに属するサ
イトを接続する各PEルータは,ルート情報を交換するとともに,そのPEルータ
間のルートに対応するラベル情報の交換を行う。以下にその手順を例示する。
イ(ア)例えば,次の図において,各PEルータは,それぞれが接続しているCE
ルータから,同CEルータが接続しているVPNサイトのルート情報を交換する。
図中右上のPEルータが,これに接続するCEルータから受信したVPNサイト内
のルート情報の一部として,当該PEルータを経由すれば,先頭が「128.89」
で始まるユーザのホストアドレスにパケットを送信できることを,中央のPルータ
に配信する。同様に,右下の
PEルータが,これに接続す
るCEルータから受信したV
PNサイト内のルート情報の
一部として,当該PEルータ
を経由すれば,先頭が「17
1.69」で始まるユーザの
ホストアドレスにパケットを
送信できることを,中央のP
ルータに配信する。上記2つの情報を受信した中央のPルータは,当該Pルータを
経由すれば,先頭が「128.89」又は「171.69」で始まるユーザのホス
トアドレスにパケットを送信できることを,左側のPEルータに配信する。これに
より,各PEルータ及びPルータは,先頭が「128.89」又は「171.69」
で始まるユーザのホストアドレスにパケットを送信しようとする際,当該ルータの
どのインターフェイスからパケットを出力すべきかの情報を得る。
(イ)次に,各PEルータ及びPルータは,先頭が「128.89」又は「171.
69」で始まるユーザのホストアドレスにパケットを送信しようとする際に,それ
ぞれどのインターフェイスからパケットを出力すればよいかを判断するためにラベ
ルに付されるべき値を決定する。
例えば,次の図において,
右上のPEルータは,先頭が
「128.89」で始まるユ
ーザのホストアドレスにパケ
ットを送信する際に出力する
インターフェイス(Out
I'face)「0」に対応付けた
ラベルの値(InLabel)とし
て「9」を決定した。また,
中央のPルータは,先頭が「128.89」で始まるユーザのホストアドレスにパ
ケットを送信する際に出力するインターフェイス(OutI'face)「0」に対応付け
たラベルの値(InLabel)として「4」を,先頭が「171.69」で始まるユー
ザのホストアドレスにパケットを送信する際に出力するインターフェイス(Out
I'face)「1」に対応付けたラベルの値(InLabel)として「5」を,それぞれ決
定した。
(ウ)そして,上記のとおり決定したラベルの値を,隣接するルータに送信する。
これを繰り返すことにより,各PEルータ及び各Pルータは,隣接するルータから
送信されてきたパケットに付されたラベルの値のみを参照することにより,当該パ
ケットを出力すべきインターフェイスを決定することができる。
例えば,先の図において,左のPEルータは,隣接するPルータから,先頭が
「128.89」で始まるユーザのホストアドレスにパケットを送信する際には
「4」のラベルを,先頭が「171.69」で始まるユーザのホストアドレスにパ
ケットを送信する際には「5」のラベルを,それぞれ付すべき旨が知らされる。ま
た,中央のPルータは,隣接する右上のPEルータから,先頭が「128.89」
で始まるユーザのホストアドレスにパケットを送信する際には「9」のラベルを付
すべき旨を知らされている。ここで,中央のPルータは,送信側PEルータから受
信するパケットに付された「4」のラベルと,同パケットを出力する際のインター
フェイスと,出力する際にパケットに付すべき「9」のラベルとを関連づけて理解
する。
ウ上記のように,同一のVPNに属するPEルータは,互いにルート情報及び
そのPEルータ間の経路に対応するラベル情報の交換を行い,その情報をルーティ
ングテーブルと呼ばれる表により管理するが,前記(2)のとおり,ひとつのPEル
ータに,VPNを別とする複数の顧客(例えば,会社Aと会社B)が接続すること
から,PEルータは,これらVPNごとにルーティングテーブルを設定し,保持し
ている。このルーティングテーブルをVRF(VPNRouting-Forwarding:VPNル
ーティング転送表)という。
(4)フォワーディング
ア送信側CEルータからパケットを受信した送信側PEルータは,当該CEル
ータに接続されているVPNに対応したVRFを選択し,パケットの宛先IPアド
レスを参照して,パケットにVPN識別ラベル(innerラベル)と網内転送ラベル
(outerラベル)を付加し,MPLSフレームを形成する。
イ送信側PEルータ(PE-A)は,パケットにラベルを付加して形成したM
PLSフレームを,隣接するPルータに送信する。MPLSフレームを受信したP
ルータは,網内転送ラベル(outerラベル)の値のみを参照して(Pルータは,V
PN識別ラベル〔innerラベル〕の値や,宛先IPアドレス等を参照しない。),
MPLSフレームを出力すべきインターフェイスを特定するとともに,網内転送ラ
ベル(outerラベル)を,あらかじめルーティングにより定まった値に貼り替えて,
貼り替えた後のMPLSフレームを,次のPルータに送信する。
ウ受信側PEルータのひとつ前のPルータにおいて,MPLSフレームから網
内転送ラベル(outerラベル)は除去され,受信側PEルータに送信される。網内
転送ラベル(outerラベル)が除去されたMPLSフレームを受信した受信側PE
ルータは,VPN識別ラベル(innerラベル)を参照して,パケットを出力すべき
PE-CEインターフェイスを特定するとともに,VPN識別ラベル(innerラベ
ル)を除去して,パケットを受信側CEルータに送信する。この際,シスコシステ
ムズのルータを用いた場合には,受信側PEルータは,VPN識別ラベルの値に基
づき,VPNサイトを識別し,かつ,出力インターフェイスを決定し,受信側CE
ルータへパケットを転送する。他方,アルカテル・ルーセント及び富士通のルータ
を用いた場合には,受信側PEルータは,VPN識別ラベルの値のみならずパケッ
ト内の宛先アドレスに基づいて出力インターフェイスを決定し,受信側CEルータ
へパケットを転送する。
エパケットを受信した受信側CEルータは,パケット内の宛先IPアドレスを
参照して,パケットを宛先の端末等に送信し,これによりデータの送信が完了する。
2争点2(被告システムは本件発明1-1の技術的範囲に属するか)及び争点
3(被告システムは本件発明1-2の技術的範囲に属するか)について
(1)「ICSネットワークアドレス」(構成要件1-1A,同1-1B,同1-
2A)について
ア原告は,被告システムの「ラベルに含まれる情報」が,構成要件1-1A,
同1-1B及び同1-2Aの「ICSネットワークアドレス」に当たると主張する。
イ構成要件1-1A,同1-1B及び同1-2Aの「ICSネットワークアド
レス」がいかなる意義を有するかについては,特許請求の範囲の記載からは,必ず
しも明らかでない。そこで,本件明細書1(甲1の1)の記載を参酌するに,本件
明細書1には,次の記載がある(引用に際し,本件明細書1の段落番号を【】で示
す。)。
(ア)発明が解決しようとする課題
「本発明の目的は,専用線やインターネットを使用せずに・・・通信でのセキュ
リティや信頼性を確保したIPフレームによるデータ/情報転送を行う複数のVA
Nを収容することができる統合的な統合情報通信システムを提供することにあ
る。・・・」(【0006】)
(イ)課題を解決するための手段
「・・・本発明の上記目的は,外部の複数のコンピュータ通信網ないしは情報通
信機器を個々に接続するアクセス制御装置と,前記アクセス制御装置をネットワー
クする中継装置とを設け,一元的なアドレス体系で情報を転送してルーティングす
る機能を有し,前記複数のコンピュータ通信網ないしは情報通信機器の間で相互に
通信できる構成とすることによって達成される。・・・」(【0007】)
「本発明の上記目的は,・・・固有のICSユーザアドレス体系ADXを持つI
CSユーザフレームを,アクセス制御装置の変換表の管理の基に前記ICSユーザ
フレーム内部のICSユーザアドレスを用いることなく,ユーザ論理通信回線に対
応して,変換表に登録済みの着信ICSネットワークアドレスに対応するICSネ
ットワークフレームに変換し,前記ICSネットワークフレームの転送先は1又は
Nであり,少なくとも1以上のVANを経由してICSアドレス体系ADSのルー
ルに従って前記ICSネットワークフレームを他のアクセス制御装置に転送したと
き,当該アクセス制御装置の変換表の管理の基に前記ICSユーザフレームに戻し,
外部の他の情報通信機器に到達するようにすることによって達成される。」(【0
008】)
(ウ)発明の実施の形態
「図1は本発明の基本原理を模式的に示しており,本発明の統合情報通信システ
ム(IntegratedInformation/CommunicationSystem:以下略して“ICS”とす
る)1は,コンピュータ情報/通信アドレスとして独自に定めたアドレスの付与規
則を持っている。・・・」(【0009】)
「ここで,同一企業間の場合の通信動作を説明する。企業XのLAN-X1から
発信するコンピュータ通信データ(ICSフレーム)80にはアドレス体系ADX
に従ったアドレスが付与されているが,ICS1内のアクセス制御装置2の変換表
の管理のもとにアドレス体系ADSに従うアドレスに変換されてICSフレーム8
1となる。そして,アドレス体系ADSのルールに従ってICS1内を送信され,
目的とするアクセス制御装置4に到達すると,その変換表の管理のもとにアドレス
体系ADXのコンピュータ通信データ80に復元され,同一企業XのLAN-X3
に送信される。・・・」(【0010】)
「ICSネットワークフレーム81は,ネットワーク制御部81-1及びネット
ワークデータ部81-2で成り,ネットワーク制御部81-1の内部にはアクセス
制御装置2及び4の内部の各々のICS論理端子のアドレス(アドレス体系ADS)
が格納されている。・・・」(【0011】)
「本発明では,ICSネットワークフレーム内で使用するコンピュータや端末等
を識別するアドレスを“ICSネットワークアドレス”といい,ICSユーザフレ
ーム内で使用するコンピュータや端末等を識別するアドレスを“ICSユーザアド
レス”という。ICSネットワークアドレスはICS内部のみで使用され,32ビ
ット長及び128ビット長の2種の一方,あるいは両方を使用する。アクセス制御
装置10内部のICS論理端子,中継装置20,VAN間ゲートウェイ30及びI
CS網サーバには,それぞれICSネットワークアドレスを付与して他と唯一に識
別するようになっている。・・・」(【0017】)
「・・・本発明においては,ユーザの通信回線をユーザ物理通信回線と1本以上
のユーザ論理通信回線とに分けて用いる。・・・ユーザ物理通信回線60はアクセ
ス制御装置63に接続され,両者の接続点は“ICS論理端子”と称される。IC
S論理端子には,ICS内部で唯一のICSネットワークアドレスが付与され
る。・・・」(【0020】)
「前述したように,ICS網サーバ40にも唯一のICSネットワークアドレス
が付与されるので,ICSネットワークアドレスは,ICS論理端子又はICS網
サーバをICS内部で唯一のものとして特定できる。ICS網サーバは,他のIC
S網サーバと,互いのICSネットワークアドレスを付与したICSネットワーク
フレームとをIP通信技術を用いて送受信することにより,情報交換することがで
きる。この通信機能を『ICS網サーバ通信機能』という。アクセス制御装置もI
CS内部で唯一のICSネットワークアドレスを有し,アクセス制御装置サーバと
して他のICS網サーバ通信機能を用いて,ICS網サーバと情報交換ができ
る。・・・」(【0021】)
ウ以上の本件明細書1の記載によれば,「ICSネットワークアドレス」とは,
コンピュータ情報/通信アドレスとして独自に定めたアドレスの付与規則を持つI
CS(統合情報通信システム)において,これを構成するアクセス制御装置,アク
セス制御装置とユーザ物理通信回線との接続点であるICS論理端子,中継装置,
VAN間ゲートウェイ及びICS網サーバ等に付与される,それぞれICS内部で
唯一の識別符号を指すものであり,かつ,このうち,ICS論理端子に付されるア
ドレスは,ICSネットワークフレームを構成するネットワーク制御部に格納され,
同アドレスが直接参照されることにより,ICSネットワークフレームがICS網
内を転送されるものを意味すると認められる。
エしかるところ,被告システムにおける「ラベル」,すなわち網内転送ラベル
(outerラベル)及びVPN識別ラベル(innerラベル)の各値は,各事業所に設置
されているCEルータが,自身が接続しているVPNサイト内部のルート情報を接
続しているPEルータに配信し,これを受信したPEルータにおいて,当該VPN
に属する他の事業所を接続するPEルータやPルータに配信することを繰り返すこ
とにより,特定のホストアドレスを有するVPN内部のユーザへ情報を配信する場
合に通過する経路を各々のPEルータ及びPルータが蓄積した結果決定された情報
であって,被告システムにおいて「ICS論理端子」に該当しうる「PE-CEイ
ンターフェイス」に網内で唯一付された識別子であるとは認められない。
加えて,網内転送ラベル(outerラベル)の値は,あくまでPEルータ又はPル
ータがMPLSフレームを転送すべき次のPルータ又はPEルータを特定するため
に設定された値である上,Pルータを経由するごとに貼り替えられていくのである
から,仮に,被告システムの「PE-CEインターフェイス」に網内で唯一付され
た識別子が存在しているとしても,同識別子が網内転送ラベル(outerラベル)の
値と一致するものとは認め難い。また,VPN識別ラベル(innerラベル)は,M
PLSフレームが各Pルータを転送されて受信側PEルータに到着した際に同受信
側PEルータによって参照され,これによりパケットを出力すべきPE-CEイン
ターフェイスが特定されるものではあるが,あくまで受信側PEルータ内部によっ
てPE-CEインターフェイスを特定するものであるから,VPN識別ラベル
(innerラベル)の値が,特定のPE-CEインターフェイスに網内で唯一付され
た識別子と同一の値であるとは直ちには認められず,両値の同一性を認めるに足り
る的確な証拠もない。
オなお,原告は,網内転送ラベル(outerラベル)及びVPN識別ラベル
(innerラベル)の「2つのラベルに含まれる情報」や「ラベルの組合せ」をもっ
て,「ICSネットワークアドレス」に該当すると主張しているようにも思われる
ところ,確かに,被告システムにおいて,網内転送ラベル(outerラベル)及びV
PN識別ラベル(innerラベル)が付されたパケットは,最終的に所望のPE-C
Eインターフェイスを経由して特定のユーザに送信されることとなるが,上記のと
おり,「ICSネットワークアドレス」とは,コンピュータ情報/通信アドレスと
して独自に定めたアドレスの付与規則を持つICS(統合情報通信システム)にお
いて,これを構成するアクセス制御装置,アクセス制御装置とユーザ物理通信回線
との接続点であるICS論理端子,中継装置,VAN間ゲートウェイ及びICS網
サーバ等に付与される,それぞれICS内部で唯一の識別符号を指すものであり,
かつ,このうち,ICS論理端子に付されたアドレスは,ICSネットワークフレ
ームを構成するネットワーク制御部に格納され,同アドレスが直接参照されること
により,ICSネットワークフレームがICS網内を転送されるものを意味するの
であって,単に「所望のICS論理端子にICSユーザフレームを到達させるため
に同ICSユーザフレームに付される情報」一般を包括的に含む広範な概念を指す
ものとは認められないから,原告の主張は採用できない。
カしたがって,被告システムは,「ICSネットワークアドレス」を有しない
から,構成要件1-1A,同1-1B及び同1-2Aをいずれも充足しない。
(2)以上によれば,被告システムは本件発明1-1及び同1-2の技術的範囲に
属しないから,被告が被告システムを使用して被告サービスを提供することは,原
告の本件特許権1を侵害するものではない。
3争点4(被告システムは本件発明2-1の技術的範囲に属するか)について
(1)「ICSネットワークフレーム」(構成要件2-1B及び同2-1C)につ
いて
ア原告は,被告システムの「MPLSフレーム」が,本件発明2-1にいう
「ICSネットワークフレーム」(構成要件2-1B,同2-1C)に当たると主
張し,これが,被告システムの「前記IP通信網の内部を転送され」(構成要件2
-1C)ると主張する。
イ本件発明2-1にいう「ICSネットワークフレーム」がいかなる意義を有
するかについては,特許請求の範囲の記載からは,必ずしも明らかでない。そこで,
本件明細書2の記載を参酌するに,本件明細書2(甲2の1)には,次の記載があ
る(引用に際し,本件明細書2の段落番号を【】で示す。)。
(ア)発明が解決しようとする課題
「・・・本発明の目的は,専用線やインターネットを使用せずに・・・通信での
セキュリティや信頼性を確保したIPフレームによるデータ/情報転送を行う複数
のVANを収容することができる統合的な統合情報通信システムを提供することに
ある。・・・」(【0006】)
(イ)課題を解決するための手段
「・・・本発明の上記目的は,外部の複数のコンピュータ通信網ないしは情報通
信機器を個々に接続するアクセス制御装置と,前記アクセス制御装置をネットワー
クする中継装置とを設け,一元的なアドレス体系で情報を転送してルーティングす
る機能を有し,前記複数のコンピュータ通信網ないしは情報通信機器の間で相互に
通信できる構成とすることによって達成される。・・・」(【0007】)
「本発明の上記目的は,・・・固有のICSユーザアドレス体系ADXを持つI
CSユーザフレームを,アクセス制御装置の変換表の管理の基に前記ICSユーザ
フレーム内部のICSユーザアドレスを用いることなく,ユーザ論理通信回線に対
応して,変換表に登録済みの着信ICSネットワークアドレスに対応するICSネ
ットワークフレームに変換し,前記ICSネットワークフレームの転送先は1又は
Nであり,少なくとも1以上のVANを経由してICSアドレス体系ADSのルー
ルに従って前記ICSネットワークフレームを他のアクセス制御装置に転送したと
き,当該アクセス制御装置の変換表の管理の基に前記ICSユーザフレームに戻し,
外部の他の情報通信機器に到達するようにすることによって達成される。」(【0
008】)
(ウ)発明の実施の形態
「図1は本発明の基本原理を模式的に示しており,本発明の統合情報通信システ
ム(IntegratedInformation/CommunicationSystem:以下略して“ICS”とす
る)1は,コンピュータ情報/通信アドレスとして独自に定めたアドレスの付与規
則を持っている。・・・」(【0009】)
「ここで,同一企業間の場合の通信動作を説明する。企業XのLAN-X1から
発信するコンピュータ通信データ(ICSフレーム)80にはアドレス体系ADX
に従ったアドレスが付与されているが,ICS1内のアクセス制御装置2の変換表
の管理のもとにアドレス体系ADSに従うアドレスに変換されてICSフレーム8
1となる。そして,アドレス体系ADSのルールに従ってICS1内を送信され,
目的とするアクセス制御装置4に到達すると,その変換表の管理のもとにアドレス
体系ADXのコンピュータ通信データ80に復元され,同一企業XのLAN-X3
に送信される。ここでは,ICS1の内部で送受されるICSフレームを“ICS
ネットワークフレーム”といい,ICS1の外部で送受されるICSフレームを
“ICSユーザフレーム”という。・・・」(【0010】)
「ICSネットワークフレーム81は,ネットワーク制御部81-1及びネット
ワークデータ部81-2で成り,ネットワーク制御部81-1の内部にはアクセス
制御装置2及び4の内部の各々のICS論理端子のアドレス(アドレス体系ADS)
が格納されている。・・・」(【0011】)
「本発明では,ICSネットワークフレーム内で使用するコンピュータや端末等
を識別するアドレスを“ICSネットワークアドレス”といい,ICSユーザフレ
ーム内で使用するコンピュータや端末等を識別するアドレスを“ICSユーザアド
レス”という。ICSネットワークアドレスはICS内部のみで使用され,32ビ
ット長及び128ビット長の2種の一方,或いは両方を使用する。・・・アクセス
制御装置10内部のICS論理端子,中継装置20,VAN間ゲートウェイ30及
びICS網サーバには,それぞれICSネットワークアドレスを付与して他と唯一
に識別するようになっている。・・・」(【0017】)
「・・・本発明においては,ユーザの通信回線をユーザ物理通信回線と1本以上
のユーザ論理通信回線とに分けて用いる。・・・ユーザ物理通信回線60はアクセ
ス制御装置63に接続され,両者の接続点は“ICS論理端子”と称される。IC
S論理端子には,ICS内部で唯一のICSネットワークアドレスが付与され
る。・・・」(【0020】)
「前述したように,ICS網サーバ40にも唯一のICSネットワークアドレス
が付与されるので,ICSネットワークアドレスは,ICS論理端子又はICS網
サーバをICS内部で唯一のものとして特定できる。ICS網サーバは,他のIC
S網サーバと,互いのICSネットワークアドレスを付与したICSネットワーク
フレームとをIP通信技術を用いて送受信することにより,情報交換することがで
きる。この通信機能を『ICS網サーバ通信機能』という。アクセス制御装置もI
CS内部で唯一のICSネットワークアドレスを有し,アクセス制御装置サーバと
して他のICS網サーバ通信機能を用いて,ICS網サーバと情報交換ができ
る。・・・」(【0021】)
「本発明のICSフレームには,前述したようにICSの内部で送受信されるI
CSネットワークフレームと,ICSの外部で送受信されるICSユーザフレーム
とがあり,それぞれのフレームは制御部及びデータ部で成り,図9に示すようにネ
ットワーク制御部,ネットワークデータ部,ユーザ制御部,ユーザデータ部として
ICSカプセル化又はICS逆カプセル化で利用されるようになっている。・・・」
(【0022】)
「ICSフレームのネットワーク制御部内には,送信元アドレス及び宛先アドレ
スを格納する領域が置かれる。・・・」(【0023】)
「・・・ネットワーク制御部内の送信元アドレス領域と,宛先アドレス領域に格
納するアドレスとはICSネットワークアドレスとし,各々発信ICSネットワー
クアドレス,着信ICSネットワークアドレスとする。・・・」(【0024】)
ウ以上の本件明細書2の記載によれば,「ICSネットワークフレーム」とは,
ICSの外部で送受信される「ICSユーザフレーム」に「ネットワーク制御部」
を付加したものであり,同ネットワーク制御部には,「宛先アドレス」として「着
信ICSネットワークアドレス」を格納するものを意味すると認められる。
そして,「着信ICSネットワークアドレス」とは,「ICSネットワークアド
レス」,すなわち,コンピュータ情報/通信アドレスとして独自に定めたアドレス
の付与規則を持つICS(統合情報通信システム)において,これを構成するアク
セス制御装置,アクセス制御装置とユーザ物理通信回線との接続点であるICS論
理端子,中継装置,VAN間ゲートウェイ及びICS網サーバ等に付与される,そ
れぞれICS内部で唯一の識別符号のうち,着信側ICS論理端子に付与されるI
CSネットワークアドレスを指すものを意味すると認められる。
また,本件発明2-1にいう「ICSネットワークフレーム」には,「着信IC
Sネットワークアドレス」が格納される「ネットワーク制御部」を有するところ,
上記のとおり,「着信ICSネットワークアドレス」が着信側ICS論理端子に付
与されるICSネットワークアドレスを指すことからすれば,同「着信ICSネッ
トワークアドレス」は,構成要件2-1Cの「転送」の前後で,その値を変えるこ
とはないものと認めるのが相当である(このことは,本件発明2-1についての特
許の出願人である原告が,原々出願である特願平9-350224の出願手続にお
いて,特許庁審査官に対し,「本件発明においては,(ICSネットワークアドレ
ス体系ADSの)ICSネットワークアドレスは,中継装置においてICSネット
ワークフレームの送信先を決定するために必ず引用され,(ICSネットワークア
ドレス体系ADSの)ICSネットワークアドレスの値が中継装置において変更さ
れることはありません。」との意見を述べていること〔丙ハ6〕からも,裏付ける
ことができる。)。
エしかるところ,被告システムにおける「ラベル」,すなわち網内転送ラベル
(outerラベル)及びVPN識別ラベル(innerラベル)の各値が,上記の意味にお
ける「ICSネットワークアドレス」に該当しないことは,本件発明1-1及び同
1-2において認定説示したところと同一であるから,このような「ICSネット
ワークアドレス」が格納されていない被告システムにおける「MPLSフレーム」
は,本件発明2-1にいう「ICSネットワークフレーム」に当たらないというべ
きである。
また,被告システムにおいて,網内転送ラベル(outerラベル)の値は,あくま
でPEルータ又はPルータがMPLSフレームを転送すべき次のPルータを特定す
るために設定された値であって,Pルータを経由するごとに貼り替えられていくの
であるから,「転送」の前後を通じてその値を変えることが明らかであり,被告シ
ステムにおける「MPLSフレーム」は,「着信ICSネットワークアドレス」が
格納されるものではないというほかない。
オしたがって,被告システムは,「ICSネットワークフレーム」を有しない
から,構成要件2-1A及び同2-1Bをいずれも充足しない。
(2)以上によれば,被告システムは本件発明2-1の技術的範囲に属しないから,
被告が被告システムを使用して被告サービスを提供することは,原告の本件特許権
2を侵害するものではない。
4争点5(被告方法は本件発明2-2の技術的範囲に属するか)について
(1)「前記内部パケットは前記着信側論理端子の識別情報を基に前記着信側論理
端子に転送され」(構成要件2-2D)について
ア原告は,被告方法の「MPLSフレーム」が,本件発明2-2にいう「内部
パケット」(構成要件2-2C,同2-2D)に当たると主張し,これが,前記着
信側PE-CEインターフェイスを識別する情報を基に前記PE-CEインターフ
ェイスに「転送され」(構成要件2-2D)ると主張する。
イ本件発明2-2にいう「内部パケット」がいかなる意義を有するかについて
は,特許請求の範囲の記載からは,必ずしも明らかでなく,本件明細書2にも,
「内部パケット」に関する記載は認められない。
しかるところ,本件発明2-2の特許請求の範囲は,「内部パケット」について,
発信側端末から「論理端子」(発信側論理端子をいうものと解される。)に送信さ
れた「IPパケット」が(構成要件2-2B),「発信側論理端子の識別情報」及
び「前記IPパケットのアドレス」を基に,「送信先である着信側論理端子の識別
情報を含む」ものとして形成されると記載していることからすれば(同2-2C),
本件発明2-2にいう「論理端子」は,本件発明2-1にいう「ICS論理端子」
に,本件発明2-2にいう「IPパケット」は,本件発明2-1にいう「ICSユ
ーザフレーム」に,本件発明2-2にいう「内部パケット」は,本件発明2-1に
いう「ICSネットワークフレーム」に,それぞれ該当するものと認めるのが相当
である。
ウそうすると,被告システムが「ICSネットワークフレーム」を有しないこ
とは,前記3のとおりであるから,被告システムによる実現される方法である被告
方法において,「前記内部パケットは前記着信側論理端子の識別情報を基に前記着
信側論理端子に転送され」るとはいえない。
したがって,被告方法は,構成要件2-2Dを充足しない。
(2)以上によれば,被告方法は本件発明2-2の技術的範囲に属しないから,被
告が被告方法を使用して被告サービスを提供することは,原告の本件特許権2を侵
害するものではない。
5争点6(被告システムは本件発明3-1の技術的範囲に属するか)について
及び争点7(被告システムは本件発明3-2の技術的範囲に属するか)について
(1)「ICSネットワークフレーム」(構成要件3-1C,同3-2C)につい

ア原告は,被告システムの「MPLSフレーム」が,本件発明3-1及び同3
-2にいう「ICSネットワークフレーム」(構成要件3-1C,同3-2C)に
当たると主張する。
イ本件発明3-1及び同3-2にいう「ICSネットワークフレーム」がいか
なる意義を有するかについては,特許請求の範囲の記載からは,必ずしも明らかで
はない。そこで,本件明細書3(甲3の1)の記載を参酌するに,本件明細書3に
は,次の記載がある(引用に際し,本件明細書3の段落番号を【】で示す。)。
(ア)発明が解決しようとする課題
「・・・本発明の目的は,専用線やインターネットを使用せずに・・・通信での
セキュリティや信頼性を確保したIPフレームによるデータ/情報転送を行う複数
のVANを収容することができる統合的な統合情報通信における端末間の通信を行
うIP通信網を用いたIP通信システムを提供することにある。・・・」(【00
06】)
(イ)課題を解決するための手段
「・・・本発明の上記目的は,2以上の論理端子を含み,前記論理端子は端末に
接続し,受信した内部パケットに含まれる着信側論理端子識別情報を基に送信先で
ある着信側論理端子を決定し,前記内部パケットを基にIPパケットを形成し,前
記形成したIPパケットを前記決定した着信側論理端子から着信側端末に送信する
ことによって達成される。・・・」(【0007】)
(ウ)発明を実施するための形態
「図1は本発明の基本原理を模式的に示しており,本発明の統合情報通信システ
ム(IntegratedInformation/CommunicationSystem:以下略して“ICS”とす
る)1は,コンピュータ情報/通信アドレスとして独自に定めたアドレスの付与規
則を持っている。・・・」(【0010】)
「ここで,同一企業間の場合の通信動作を説明する。企業XのLAN-X1から
発信するコンピュータ通信データ(ICSフレーム)80にはアドレス体系ADX
に従ったアドレスが付与されているが,ICS1内のアクセス制御装置2の変換表
の管理のもとにアドレス体系ADSに従うアドレスに変換されてICSフレーム8
1となる。そして,アドレス体系ADSのルールに従ってICS1内を送信され,
目的とするアクセス制御装置4に到達すると,その変換表の管理のもとにアドレス
体系ADXのコンピュータ通信データ80に復元され,同一企業XのLAN-X3
に送信される。ここでは,ICS1の内部で送受されるICSフレームを“ICS
ネットワークフレーム”といい,ICS1の外部で送受されるICSフレームを
“ICSユーザフレーム”という。・・・」(【0011】)
「ICSネットワークフレーム81は,ネットワーク制御部81-1及びネット
ワークデータ部81-2で成り,ネットワーク制御部81-1の内部にはアクセス
制御装置2及び4の内部の各々のICS論理端子のアドレス(アドレス体系ADS)
が格納されている。・・・」(【0012】)
「本発明では,ICSネットワークフレーム内で使用するコンピュータや端末等
を識別するアドレスを“ICSネットワークアドレス”といい,ICSユーザフレ
ーム内で使用するコンピュータや端末等を識別するアドレスを“ICSユーザアド
レス”という。ICSネットワークアドレスはICS内部のみで使用され,32ビ
ット長及び128ビット長の2種の一方,或いは両方を使用する。アクセス制御装
置10内部のICS論理端子,中継装置20,VAN間ゲートウェイ30及びIC
S網サーバには,それぞれICSネットワークアドレスを付与して他と唯一に識別
するようになっている。・・・」(【0018】)
「・・・本発明においては,ユーザの通信回線をユーザ物理通信回線と1本以上
のユーザ論理通信回線とに分けて用いる。・・・ユーザ物理通信回線60はアクセ
ス制御装置63に接続され,両者の接続点は“ICS論理端子”と称される。IC
S論理端子には,ICS内部で唯一のICSネットワークアドレスが付与され
る。・・・」(【0021】)
「前述したように,ICS網サーバ40にも唯一のICSネットワークアドレス
が付与されるので,ICSネットワークアドレスは,ICS論理端子又はICS網
サーバをICS内部で唯一のものとして特定できる。ICS網サーバは,他のIC
S網サーバと,互いのICSネットワークアドレスを付与したICSネットワーク
フレームとをIP通信技術を用いて送受信することにより,情報交換することがで
きる。この通信機能を『ICS網サーバ通信機能』という。アクセス制御装置もI
CS内部で唯一のICSネットワークアドレスを有し,アクセス制御装置サーバと
して他のICS網サーバ通信機能を用いて,ICS網サーバと情報交換ができ
る。・・・」(【0022】)
「本発明のICSフレームには,前述したようにICSの内部で送受信されるI
CSネットワークフレームと,ICSの外部で送受信されるICSユーザフレーム
とがあり,それぞれのフレームは制御部及びデータ部で成り,図9に示すようにネ
ットワーク制御部,ネットワークデータ部,ユーザ制御部,ユーザデータ部として
ICSカプセル化又はICS逆カプセル化で利用されるようになっている。・・・」
(【0023】)
「ICSフレームのネットワーク制御部内には,送信元アドレス及び宛先アドレ
スを格納する領域が置かれる。・・・」(【0024】)
「・・・ネットワーク制御部内の送信元アドレス領域と,宛先アドレス領域に格
納するアドレスとはICSネットワークアドレスとし,各々発信ICSネットワー
クアドレス,着信ICSネットワークアドレスとする。・・・」(【0025】)
ウ以上の本件明細書3の記載によれば,「ICSネットワークフレーム」とは,
ICSの外部で送受信される「ICSユーザフレーム」に「ネットワーク制御部」
を付加したものであり,同ネットワーク制御部には,「宛先アドレス」として「着
信ICSネットワークアドレス」を格納するものと認められる。
そして,「着信ICSネットワークアドレス」とは,「ICSネットワークアド
レス」,すなわち,コンピュータ情報/通信アドレスとして独自に定めたアドレス
の付与規則を持つICS(統合情報通信システム)において,これを構成するアク
セス制御装置,アクセス制御装置とユーザ物理通信回線との接続点であるICS論
理端子,中継装置,VAN間ゲートウェイ及びICS網サーバ等に付与される,そ
れぞれICS内部で唯一の識別符号のうち,着信側ICS論理端子に付与されるI
CSネットワークアドレスを指すものと認められる。
エしかるところ,被告システムにおける「ラベル」,すなわち網内転送ラベル
(outerラベル)及びVPN識別ラベル(innerラベル)の各値が,上記の意味にお
ける「ICSネットワークアドレス」に該当しないことは,本件発明1-1及び同
1-2において認定説示したところと同一であるから,このような「ICSネット
ワークアドレス」が格納されていない被告システムにおける「MPLSフレーム」
は,本件発明3-1及び同3-2にいう「ICSネットワークフレーム」に当たら
ないというべきである。
オしたがって,被告システムは,「ICSネットワークフレーム」を有しない
から,構成要件3-1C及び同3-2Cをいずれも充足しない。
(2)以上によれば,被告システムは本件発明3-1及び同3-2の技術的範囲に
属しないから,被告が被告システムを使用して被告サービスを提供することは,原
告の本件特許権3を侵害するものではない。
6争点8(被告システムは本件発明4-1の技術的範囲に属するか)及び争点
9(被告システムは本件発明4-2の技術的範囲に属するか)について
(1)「論理端子」(構成要件4-1A,同4-1B,同4-2A,同4-2B)
について
ア原告は,被告システムの「CE-PEインターフェイス」が,本件発明4-
1及び同4-2にいう「論理端子」(構成要件4-1A,同4-1B,同4-2A,
同4-2B)に当たると主張する。
イ本件発明4-1及び同4-2にいう「論理端子」がいかなる意義を有するか
については,特許請求の範囲の記載からは,必ずしも明らかではない。そこで,本
件明細書4(甲20)の記載を参酌するに,本件明細書4には,次の記載がある
(引用に際し,本件明細書4の段落番号を【】で示す。)。
(ア)発明が解決しようとする課題
「・・・本発明の目的は,専用線やインターネットを使用せずに・・・通信での
セキュリティや信頼性を確保したIPフレームによるデータ/情報転送を行う複数
のVANを収容することができる統合的な統合情報通信システムを提供することに
あり,特にドメイン名サーバを用いて通信相手先のアドレスを取得して電話通信を
行う通信システムを提供することにある。・・・」(【0006】)
(イ)課題を解決するための手段
「・・・本発明の上記目的は,通信網はユーザ通信回線が接続される論理端子を
含み,送信側論理端子と前記通信網の外部から前記送信側論理端子に送られるIC
Sフレームを基に,前記ICSフレームが転送される着信側論理端子が決定される
ことにより,或いは通信網はユーザ通信回線が接続される論理端子を含み,送信側
論理端子と前記通信網の外部から前記送信側論理端子に送られるICSフレームを
基に,前記送信側論理端子と着信側論理端子の間の通信経路が決定されることによ
り,・・・達成される。」(【0008】)
(ウ)発明を実施するための形態
「図1は本発明の基本原理を模式的に示しており,本発明の統合情報通信システ
ム(IntegratedInformation/CommunicationSystem:以下略して“ICS”とす
る)1は,コンピュータ情報/通信アドレスとして独自に定めたアドレスの付与規
則を持っている。・・・」(【0012】)
「ここで,同一企業間の場合の通信動作を説明する。企業XのLAN-X1から
発信するコンピュータ通信データ(ICSフレーム)80にはアドレス体系ADX
に従ったアドレスが付与されているが,ICS1内のアクセス制御装置2の変換表
の管理のもとにアドレス体系ADSに従うアドレスに変換されてICSフレーム8
1となる。そして,アドレス体系ADSのルールに従ってICS1内を送信され,
目的とするアクセス制御装置4に到達すると,その変換表の管理の基にアドレス体
系ADXのコンピュータ通信データ80に復元され,同一企業XのLAN-X3に
送信される。ここでは,ICS1の内部で送受されるICSフレームを“ICSネ
ットワークフレーム”といい,ICS1の外部で送受されるICSフレームを“I
CSユーザフレーム”という。・・・」(【0013】)
「ICSネットワークフレーム81は,ネットワーク制御部81-1及びネット
ワークデータ部81-2で成り,ネットワーク制御部81-1の内部にはアクセス
制御装置2及び4の内部の各々のICS論理端子のアドレス(アドレス体系ADS)
が格納されている。・・・」(【0014】)
「本発明では,ICSネットワークフレーム内で使用するコンピュータや端末等
を識別するアドレスを“ICSネットワークアドレス”といい,ICSユーザフレ
ーム内で使用するコンピュータや端末等を識別するアドレスを“ICSユーザアド
レス”という。ICSネットワークアドレスはICS内部のみで使用され,32ビ
ット長及び128ビット長の一方,或いは両方を使用する。アクセス制御装置10
内部のICS論理端子,中継装置20,VAN間ゲートウェイ30及びICS網サ
ーバには,それぞれICSネットワークアドレスを付与して他と唯一に識別するよ
うになっている。・・・」(【0020】)
「・・・本発明においては,ユーザの通信回線をユーザ物理通信回線と1本以上
のユーザ論理通信回線とに分けて用いる。・・・ユーザ物理通信回線60はアクセ
ス制御装置63に接続され,両者の接続点は“ICS論理端子”と称される。IC
S論理端子には,ICS内部で唯一のICSネットワークアドレスが付与され
る。・・・」(【0023】)
「前述したように,ICS網サーバ40にも唯一のICSネットワークアドレス
が付与されるので,ICSネットワークアドレスは,ICS論理端子又はICS網
サーバをICS内部で唯一のものとして特定できる。ICS網サーバは,他のIC
S網サーバと,互いのICSネットワークアドレスを付与したICSネットワーク
フレームとをIP通信技術を用いて送受信することにより,情報交換することがで
きる。この通信機能を『ICS網サーバ通信機能』という。アクセス制御装置もI
CS内部で唯一のICSネットワークアドレスを有し,アクセス制御装置サーバと
して他のICS網サーバ通信機能を用いて,ICS網サーバと情報交換ができ
る。・・・」(【0024】)
「本発明のICSフレームには,前述したようにICSの内部で送受信されるI
CSネットワークフレームと,ICSの外部で送受信されるICSユーザフレーム
とがあり,それぞれのフレームは制御部及びデータ部で成り,図9に示すようにネ
ットワーク制御部,ネットワークデータ部,ユーザ制御部,ユーザデータ部として
ICSカプセル化又はICS逆カプセル化で利用されるようになっている。・・・」
(【0025】)
「ICSフレームのネットワーク制御部内には,送信元アドレス及び宛先アドレ
スを格納する領域が置かれる。・・・」(【0026】)
「・・・ネットワーク制御部内の送信元アドレス領域と,宛先アドレス領域に格
納するアドレスとはICSネットワークアドレスとし,各々発信ICSネットワー
クアドレス,着信ICSネットワークアドレスとする。・・・」(【0027】)
ウ以上の本件明細書4の記載によれば,本件発明4-1及び同4-2にいう
「論理端子」とは,本件明細書4にいう「ICS論理端子」と同義と解されるとこ
ろ,「ICS論理端子」とは,「ICS内部で唯一のICSネットワークアドレス」
が付与されるものを意味すると認められる。
ここで,「ICSネットワークアドレス」とは,コンピュータ情報/通信アドレ
スとして独自に定めたアドレスの付与規則を持つICS(統合情報通信システム)
において,これを構成するアクセス制御装置,アクセス制御装置とユーザ物理通信
回線との接続点であるICS論理端子,中継装置,VAN間ゲートウェイ及びIC
S網サーバ等に付与される,それぞれICS内部で唯一の識別符号を指すものであ
り,かつ,このうち,ICS論理端子に付されるアドレスは,ICSネットワーク
フレームを構成するネットワーク制御部に格納され,同アドレスが直接参照される
ことにより,ICSネットワークフレームがICS網内を転送されるものを意味す
ると認められる。
エしかるところ,被告システムにおいて「ICSネットワークフレーム」に該
当しうるMPLSフレームに付与されている「ラベル」,すなわち網内転送ラベル
(outerラベル)及びVPN識別ラベル(innerラベル)の各値は,各事業所に設置
されているCEルータが,自身が接続しているVPNサイト内部のルート情報を接
続しているPEルータに配信し,これを受信したPEルータにおいて,当該VPN
に属する他の事業所を接続するPEルータやPルータに配信することを繰り返すこ
とにより,特定のホストアドレスを有するVPN内部のユーザへ情報を配信する場
合に通過する経路を各々のPEルータ及びPルータが蓄積した結果決定された情報
であって,被告システムの「PE-CEインターフェイス」に網内で唯一付された
識別子と一致するものとは認められない。
加えて,網内転送ラベル(outerラベル)の値は,あくまでPEルータ又はPル
ータがMPLSフレームを転送すべき次のPルータ又はPEルータを特定するため
に設定された値である上,Pルータを経由するごとに貼り替えられていくのである
から,仮に,「PE-CEインターフェイス」に網内で唯一付された識別子が存在
しているとしても,同識別子が網内転送ラベル(outerラベル)の値と一致するも
のとは認め難い。また,VPN識別ラベル(innerラベル)は,MPLSフレーム
が各Pルータを転送されて受信側PEルータに到着した際に同受信側PEルータに
よって参照され,これによりパケットを出力すべきPE-CEインターフェイスが
特定されるものではあるが,あくまで受信側PEルータ内部においてPE-CEイ
ンターフェイスを特定するに過ぎないものであるから,VPN識別ラベル(inner
ラベル)の値が,特定のPE-CEインターフェイスに網内で唯一付された識別子
と同一の値であるとは直ちには認められず,両値の同一性を認めるに足りる的確な
証拠もない。
したがって,被告システムの「PE-CEインターフェイス」には,「ICS網
内で唯一のICSネットワークアドレス」が付与されていないから,本件発明4-
1及び同4-2にいう「論理端子」に当たらず,被告システムは,構成要件4-1
A,同4-1B,同4-2A及び同4-2Bをいずれも充足しない。
(2)以上によれば,被告システムは本件発明4-1及び同4-2の技術的範囲に
属しないから,被告が被告システムを使用して被告サービスを提供することは,原
告の本件特許権4を侵害するものではない。
7結論
以上によれば,その余の争点につき判断するまでもなく,本件請求には理由がな
い。よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
嶋末和秀
裁判官
笹本哲朗
裁判官
天野研司
(別紙)
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1「ArcstarIP-VPN」
2「ArcstarグローバルIP-VPN」
3「ArcstarUniversalOne」
以上

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