弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金千円に処する。
     右の罰金を完納することのできないときは、金五拾円を壱日に換算した
期間被告人を労役場に留置する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、本判決書末尾添付京都区検察庁検察官北元正勝作成の控訴趣
意書と題する書面記載のとおりである。
 昭和二十二年勅令第二〇七号外国人登録令(以下旧令と略称する)附則第二、第
三項は、昭和二十二年五月二日右勅令施行の際本邦に在留する外国人は、この勅令
施行の日から三十日以内に同令第四条の規定に準じて外国人登録の申請をしなけれ
ばならないとし、もしその期間内に申請をしなかつたときは、同令第四条第一項<要
旨第一>違反の場合と同様同令第十二条第二号により処罰することゝ定めておるか
ら、右の登録不申請罪は、登録の申請をしないことを内容とするいわゆ
る真正不作為犯であつて、その性質は履行すべき義務の継続する間は犯罪が継続し
て成立するところの一種の継続犯であると解すべきである。何となれば、継続犯と
は一定の法益を継続的に侵害することによつて成立する犯罪であつて、その法益侵
害の状態が継続する間はその犯罪行為が継続するのであるが、外国人登録制度が、
本邦に在留する外国人について、同令第二条に定める除外例を除きすべて登録を実
施させることを目的としておる趣旨から考えて、前記の附則第二項に定める三十日
の期間は登録手続のための猶予期間であつて、その期間を過ぎても未登録者の登録
申請義務は消滅せず、右の外国人が所定の登録申請をするか、又は国外に退去する
か、あるいは法令の改廃によつて申請義務が消滅するに至るまでの間は、履行すべ
き義務が継続し、従つて不作為による法益侵害の状態が継絖すると解すべきである
から、登録不申請罪は、外国人が不申請のまゝ所定の期間を徒過することによつて
たゞちに成立はするが、その後においても登録申請義務の継続する間は、登録不申
請罪という犯罪が継続して成立すると言わなければならないからである(大阪高等
裁判所第七刑事部昭和二十六年六月一日判決参照)。
 そして、昭和二十四年政令第三八一号外国人登録令の一部を改正する政令(以下
改正令と略称する)附則第七項には「外国人登録令附則第三項において準用するこ
の改正前の第十二条第二号に掲げる罪を犯した者の処罰については、なお従前の例
によるものとし」と定め、昭和二十七年法律第一二五号外国人登録法(以下新法と
略称する)附則第二項、第三項には「外国人登録令(昭和二十二年勅令第二〇七
号)は、廃止する」「この法律施行前にした行為に対する罰則の適用については、
なお従前の例による」と定めてあるが、これらの附則<要旨第二>を通解すると、昭
和二十二年勅令第二〇七号外国人登録令の施行当時から本邦に在留する外国人で所
定の登録をしなかつた者の処罰については、その犯罪事実が改正令施行
後に及んでもなお改正前の旧令罰却によるが、新法施行後においては、外国人登録
令廃止の結果、旧令施行当時本邦に在留する者の登録申請義務を規定する前記附則
も廃止となり、たゞ新法施行前における登録不申請罪として右旧令の罰則を適用せ
られるということになるのである。弁護人は、不作為犯は義務履行の可能であるこ
とを前提とするのに、期間経過後の登録申請は受理しないが申請義務は存するとい
うのは失当であると主張するけれども、期間経過後の登録申請を受理しないという
根拠が存しないのみならず、昭和二十四年四月三十日附法務庁民事局法務行政長官
通達や、同年十一月一日附法務府民事法務長官、法務府刑政長官通達を以て、都道
府県知事に対し、同令施行当時本邦に在留する外国人の未登録者から登録の申請が
あつた場合の取扱方が指示されておるところから見ても、登録申請義務の履行方法
が途絶されていたものでないことが明らかであるから、右弁護人の主張は理由がな
い。
 然らば、登録不申請罪の公訴時効は不申請という犯罪行為が継続する間は進行し
ないと解すべきであるのを右の不申請罪を前記三十日の期間経過によつて犯罪行為
が既遂となると同時に終了する即時犯と解し、その時からたうちに時効が進行する
と結論するのは失当であると言わねばならない。
 本件公訴事実は、被告人は朝鮮人であつて外国人登録令の適用については外国人
とみなされるものであるが、昭和二十二年五月二日勅令第二〇七号外国人登録令施
行当時以前から同年八月頃までの間京都市a区b町に居住し、爾後引続き今日に至
るまで、同区c町d番地A方に居住しておるものであるが、今日に至るまでなお右
勅令附則第二項に基ずく登録申請を行わなかつたものである、というのであるが、
これに対し原判決は、被告人が昭和二十二年五月二日以前から本邦に在留していた
にかゝわらず三十日の期間内に所定の登録申請をしなかつたことは証拠によつて認
め得られるが、右登録不申請罪は登録申請をしないで法定の期間を経過することに
より犯罪行為は既遂となつて終了し、その終了と同時に公訴時効が進行を開始する
から、刑事訴訟法第二百五十条第五号所定の三年の期間を経過した昭和二十五年六
月一日を以て時効が完成したと判示し、免訴の言渡をしたのは、法令の適用を誤つ
たものであり、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、検察官の論
旨は理由あり、原判決は破棄を免れない。
 よつて、刑事訴訟法第三百九十七条、第三百八十条に従つて原判決を破し、同法
第四百条但書によつて更に判決をする。
 事実
 被告人は韓国人であつて外国人登録令の適用については外国人とみなされるもの
であるが、昭和二十二年五月二日勅令第二〇七号外国人登録令施行の際京都市a区
b町に、同年八月以降は同区c町d番地A方に居住し引き続き本邦に在留するにか
かわらず、同令第四条の規定に準ずる登録の申請をしなかつたものである。
 証拠の標目(省略)
 法令の適用
 外国人登録法附則第三項昭和二十四年政令第三八一号附則第七項昭和二十二年勅
令第二〇七号外国人登録令(前記政令第三八一号による改正前のもの)附則第二、
三項同令第十一条第一項、第四条第一項第十二条第二号、罰金等臨時措置法第二
条、第四条、(罰金刑選択)刑法第十八条
 (裁判長判事 瀬谷信義 判事 山崎薫 判事 西尾貢一)

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