弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人Aに関する部分を破棄する。
     本件を山形地方裁判所鶴岡支部に差し戻す。
         理    由
 弁護人白旗松之助の控訴趣意は記録に添付している同人名義の控訴趣意書記載の
とおりであるから之を引用する。
 同控訴趣意第一点について
 所論は原判決が被告人に対し詐欺罪を認定し懲役六月に処する旨の言渡を為した
が其の判決書には裁判官の署名押印がないから判決書なきに帰し違法であり、破棄
すべきものであるというのである。
 検察官は之に対し判決書に裁判官の署名押印がないことは明かであるけれども原
審第五回公判廷において裁判官は主文を朗読し理由の要旨を告げて判決の宣告をし
た後病気死亡したことが明かであるからかかる場合には判決書に署名押印がないか
らといつて判決書がないというのは当らないと答弁した。
 一件記録によると原審裁判官Bは単独で被告人及び原審相被告人Cに対する詐欺
被告事件を審理し判決宣告期日たる昭和二十六年九月七日の第五回公判廷において
弁護人の請求により弁論を再開し被害の弁償関係につき証拠調を為した後結審し即
決で判決主文を朗読し同時に理由の要旨を告げて判決を宣告し被告人今野は同月十
九日右判決に対し控訴の申立を為したのであるが記録には第五回公判廷の立会書記
官補松橋正次郎の「右判決草稿は裁判をしたB裁判官の自筆でありこれに基き判決
書をクイプライクーにより印刷したものであるが同裁判官死亡の為署名押印するこ
とができない」と記載した書面を添付し裁判官Bの署名押印及契印文字の挿入削除
に関する押印がないけれども其の他の点においては判決書の要件を具備するクイプ
ライクーによつて印刷された判決書及びこれと同一形式内容で右判決書の草稿と認
むべきペン書の文書が編綴せられている。
 以上の事実によると原審裁判官Bは判決書の草稿によつて判決を宣告した後右原
稿を係員に交付してクイプライクーにより判決書を印刷せしめたのであるがその印
刷が出来上らないうちに死亡した為これに署名押印することが出来なかつたもので
ある。
 <要旨第一>そこで判決書作成に関する刑事訴訟法の規定を按ずるに第一審裁判所
においては上訴の申立なく且判決宣告の日から十四日以内に判決書謄本
の請求がないときに限り判決書を作成せず公判調書を以て判決書に代えることがて
きるに止り(調書判決)原則として判決をした裁判官が判決書を作成すべきことは
刑事訴訟規則第五十三条第五十四条第二百十九条の規定上明白であり判決書には判
決をした裁判官が署名押印しなければならないことは同規則第五十五条第一項前段
(改正前規則同条前段)に規定しているが同条第一項後段(改正前規則同条後段)
は裁判官が署名押印できない場合について合議制の裁判長又は一人の裁判官の場合
の規定であつてその構成員の全員又は単独制の裁判官が署名押印のできない場合に
ついては何等の規定がない。そこで本件の如く単独裁判官が草稿に基き判決を宣告
した後判決書作成前に死亡した為判決書に署名押印できなかつた場合においては判
決宣告期日の公判廷に立会した書記官が裁判官の自筆の草稿により浄書又は印刷さ
れた判決書であることを認証しその草稿も存在するし浄書又は印刷された判決書の
内容形式共に全く草稿と同一であるときは右判決書に判決した裁判官の署名押印が
なくとも差支ないかどうか考えてみると判決書は判決の内容を確認した文書である
が判決そのものではないし判決の宣告は主文を朗読し同時に理由の要旨を告げれば
足りるのであつて必ずしも判決書の完成せられることを要するものでないから判決
は草稿に基いて宣告しても違法ではなく原審における判決の宣告は有効であり従て
判決そのものが存在しないということはできないけれども右判決に対し被告人が控
訴したのであるから調書判決に関する刑事訴訟規則第二百十九条の適用はないし公
判調書作成に関する同規則第四十六条の規定を準用乃至類推することもできない。
元来判決書の作成義務者は判決した裁判官自身であり判決書の作成は裁判官の署名
押印によつて完成するものであつて作成に際し裁判官が草稿を他人に交付しこれを
浄書又は印刷させるのは裁判官の作成行為を機械的に補助せしめるに過ぎずかかる
補助行為によつて作成された判決書は裁判官が署名押印することによつて完成せら
れるのであるから若し裁判官が署名押印して一目完成せられた判決書が滅失又は紛
失した場合において該判決書の謄本その他確実な資料によつて其の判決書の内容が
確認された場合と異なり当初から判決書に判決官の署名押印がないときはその理由
の如何を問わず裁判官の作成した判決書ということができない。従て裁判官自筆の
草稿が存在しその草稿によつて浄書又は印刷した判決書であることを書記官が認証
したとしても右判決書を以て裁判官が作成した判決書又はこれと同一効力あるもの
と解することはできない。結局原審は判決書を作成しなかつた手続上の法令違反で
<要旨第二>ある。そして新刑事訴訟法における控訴審は事後審で第一審判決の当否
を審判の対象とするものであるから第一審判決の内容を調査検討しなけ
ればならないのであるが判決の内容は完成された判決書によるべきものである。従
て判決書に裁判官の署名押印がないときは控訴審として原判決の内容を知るに由な
く、かかる手続上の法令違反は判決に影響を及ぼすものと解すべきであるから原判
決は破棄を免れない。
 本論旨は理由がある。
 よつて量刑不当の控訴趣意についての判断を省略し刑事訴訟法第三百九十七条に
より原判決中被告人Aに関する部分を破棄し同法第四百条本文に則り本件を原裁判
所に差し戻すことにした。
 仍て主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 西田賢次郎 裁判官 長谷川信 裁判官 浜辺信義)

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