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平成17年(行ウ)第20号文書不開示処分無効確認等請求事件
(判示事項の要旨)
過去に北広島市が実施した北広島市芸術文化ホールの管理業務委託に係る指名競
争入札の予定価格調書に記載された予定価格を示す情報が,北広島市情報公開条例
6条1項5号所定の非公開事由である「入札の予定価格…に関する情報であって,
公開することにより,当該事務事業の目的を失わせ,又は将来の同種の事務事業の
公正若しくは円滑な執行に著しい支障が生ずると認められるもの」に該当するとし
た事例。
主文
1本件訴えのうち予定価格調書の公開決定の義務付けを求める部分を却下する。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1北広島市教育委員会が原告に対して平成17年3月4日付けでした別紙文書
目録二記載の各公文書の一部公開決定処分のうち,同目録記載9()の予定価2
格調書を非公開とした部分を取り消す。
2北広島市教育委員会は,原告に対し,平成17年3月4日付け別紙文書目録
二記載の各公文書の一部公開決定処分のうち,非公開とした同目録記載9()2
の予定価格調書の公開決定をせよ。
第2事案の概要
原告は,北広島市教育委員会に対し,北広島市情報公開条例に基づき,北広
島市芸術文化ホールの管理業務委託に係る別紙文書目録一記載の各公文書の公
開請求及び任意的公開の申出をしたところ,同委員会は,対象文書を別紙文書
目録二記載の各公文書として特定した上,このうち平成13年,16年度の入
札(見積)状況調書中の代理人欄記載の氏名及び予定価格調書等についていず
れも非公開とする旨の一部公開決定をした。そこで,原告は,非公開部分の公
開を求めて異議申立てをしたが,同委員会は,上記代理人氏名については公開
するとしたものの,予定価格調書については異議申立てを棄却した。本件は,
原告が上記公開請求に係る一部公開決定のうち予定価格調書を非公開とした処
分は違法であるとして,その取消しを求める(以下「本件取消請求」とい
う)とともに,予定価格調書の公開決定の義務付けを求めた(以下「本件義。
務付けの訴え」という)事案である。。
1前提となる事実(証拠等により認定した事実は括弧内に掲記した)。
()当事者等1
ア原告は,北海道北広島市内に住所を有する者である。
被告は,北広島市情報公開条例(平成11年3月24日条例第2号,以
。,下「本件条例」という)を制定・施行している普通地方公共団体であり
平成10年10月1日,北海道北広島市所在の北広島市芸術文化ホール
(以下「本件文化施設」という)の運営を開始した(甲16の3,16。
の5,18。)
イ北広島市教育委員会(以下「本件委員会」という)は,本件条例2条。
1号に規定された実施機関である(乙1。)
()本件条例には,次の旨の規定がある(乙1。2)
第1条(目的)
この条例は,公文書の公開に関し必要な事項を定めることにより,市
政に関する情報についての市民の知る権利を保障し,市政の諸活動につ
いて説明する責任を全うするとともに,市民参加の促進とより公正で開
かれた市政を実現し,市民の市政に対する理解と信頼を深め,もって地
方自治の本旨に即した市民主体の市政の推進に寄与することを目的とす
る。
第3条(実施機関の責務)
実施機関は,市政に関する情報についての市民の知る権利が十分に尊
重されるようにこの条例を解釈し,運用するとともに,個人に関する情
報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければなら
ない。
2略
第5条(公開請求権者)
何人も,実施機関に対して,公文書の公開を請求することができる。
第6条(実施機関の公開義務)
実施機関は,公文書の公開の請求(以下「公開請求」という)があ。
ったときは,公開請求に係る公文書に次の各号に掲げる情報(以下「非
公開情報」という)のいずれかが記録されている場合を除き,当該公。
文書に係る公文書の公開をしなければならない。
()個人の思想,宗教,財産,所得,学歴,職歴,住所,所属団体,1
家族構成,健康状態,身体的特徴等に関する情報(事業を営む個人の
当該事業に関する情報を除く)であって,特定の個人が識別され得。
るもののうち,通常他人に知られたくないと認められるもの。ただし,
次に掲げる情報は除く(1号,以下「個人情報」という。。)
ア法令又は他の条例(以下「法令等」という)の規定により,何。
人でも閲覧することができる情報
イ公表することを目的として作成し,又は取得した情報
()法人その他の団体(国,独立行政法人等(独立行政法人等の保有2
する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号)第2条第
1項に規定する独立行政法人等をいう。以下同じ,地方公共団体。)
及び地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成15年法律第11
8号)第2条第1項に規定する地方独立行政法人をいう。以下同
じ)を除く。以下「法人等」という)に関する情報又は事業を営。。
む個人の当該事業に関する情報であって,公開することにより,当該
法人等又は当該事業を営む個人の競争上若しくは事業運営上の地位又
は社会的な地位,財産権その他正当な利益が不当に損なわれると認め
られるもの又は実施機関の要請を受けて,公にしないことを条件とし
て,当該法人等又は当該事業を営む個人から任意に市に提供された情
報であって,当該法人等又は当該事業を営む個人の承諾なく公開する
ことによって,当該法人等又は当該事業を営む個人との協力関係若し
くは信頼関係を著しく損なうと認められるもの(2号,以下「法人情
報」という。。)
(),()略34
()試験の問題及び採点基準,検査,取締り等の計画及び実施要領,5
争訟の処理方針,入札の予定価格,交渉の方針,職員の身分取扱いそ
の他の市又は国等が行う事務事業に関する情報であって,公開するこ
とにより,当該事務事業の目的を失わせ,又は将来の同種の事務事業
の公正若しくは円滑な執行に著しい支障が生ずると認められるもの
(5号,以下「行政運営情報」という。。)
(),()略67
第19条(公文書の任意的公開)
実施機関は,この条例の施行の日前に作成され,又は取得した公文書
(永年保存文書として定められている公文書のうち,公文書の公開のた
めの整理が終わったものとして実施機関が指定したものを除く)につ。
いて,公文書の公開の申出があったときは,これに応ずるよう努めるも
のとする。
2前項の規定による公文書の公開に関する手続は,第6条から第15条
までの規定を準用する。
附則
(施行期日)
1この条例は,平成11年10月1日から施行する。
(適用区分)
2この条例の規定(第19条の規定を除く)は,この条例の施行の日。
(以下「施行日」という)以後に作成し,又は取得した公文書につい。
て適用する。
()本件訴訟に至る経緯3
ア原告は,平成17年2月18日,本件委員会に対し,本件条例9条の規
定に基づき,本件文化施設の管理業務委託(以下「本件業務委託」とい
う)に係る別紙文書目録一記載の各公文書の公開請求(以下「本件公開。
請求」という)をし(甲1,さらに,同月28日,本件委員会に対し,。)
本件条例19条の規定に基づき,同文書の任意的公開の申出(以下「本件
任意的公開申出」という)をした(甲2,弁論の全趣旨。。)
イ本件委員会は,本件公開請求及び本件任意的公開申出の対象となった各
公文書を別紙文書目録二記載の各公文書(以下「本件各公文書」とい
う)として特定した上,平成17年3月4日,本件各公文書のうち,同。
目録記載8()の「平成10年度の入札状況調書」及び()の「平成13年,12
16年度の入札(見積)状況調書(甲8の1∼8の3)中の「代理人」」
欄記載の氏名については,本件条例6条1項1号所定の個人情報に該当す
るとの理由で,同目録記載3の「業務完了届(甲7の1∼7の8)並び」
に同目録記載4()の「平成10年,11年度の文化施設総合管理業務委1
託契約書」及び()の「平成12年ないし16年度の委託契約書(甲52」
の1∼5の9)に押印されている受託業者であるA株式会社名下の印影に
ついては,本件条例6条1項2号所定の法人情報に該当するとの理由で,
さらに,同目録記載9の「予定価格調書」については,同文書中の予定価
格欄記載の金額(以下「本件各予定価格」という)が本件条例6条1項。
5号所定の行政運営情報に該当するとの理由で,それぞれ非公開とする旨
の一部公開決定(以下「本件処分」という。甲4)及び任意的一部公開の
回答(甲3)をし,同月7日(甲11,原告にその旨通知した。)
ウそこで,原告は,平成17年4月13日,本件委員会に対し,行政不服
審査法6条の規定に基づき,本件処分のうち,別紙文書目録二記載8()2
の「平成13年,16年度の入札(見積)状況調書」中の「代理人」欄記
載の氏名(以下「本件代理人氏名」という)及び同目録記載9()の。2
「平成13年,16年度の予定価格調書(以下「本件各予定価格調書」」
という)を非公開とした部分の取消しを求め,異議申立てを行った(甲。
11。これに対し,本件委員会は,北広島市情報公開審査会の審議,答)
申を経て(乙4∼6,同年8月12日,本件処分の一部を取り消し,本)
件代理人氏名については公開するとしたものの,本件各予定価格調書につ
いては,本件条例6条1項5号所定の行政運営情報に該当するとして,当
該部分に係る原告の異議申立てを棄却する旨の決定をし,原告にその旨通
知した(甲10,12。)
エ原告は,上記ウの決定を不服として,平成17年11月22日,本件訴
訟を提起した。
2争点
本件各予定価格が,本件条例6条1項5号所定の行政運営情報に該当するか,
否か。
(被告の主張)
本件文化施設の管理委託業務は,毎年,反復継続して行われるものであり,
当該施設,設備の内容に大きな変化がない限り,当該委託業務の内容にも大
きな変更はないため,仮に本件各予定価格調書が公開された場合には,次年
度以降の予定価格が容易に類推されることになる。そうすると,過去の予定
価格が目安となって入札における競争が制限され,入札参加業者の見積り努
力を損なわせること,契約金額が高止まりになること,談合を助長すること
等の支障を生じさせるおそれがある。さらに,本件業務委託については,初
年度の指名競争入札の翌年から一定期間は,初年度の落札者との間で,随意
契約を締結することもあるため,契約金額が高止まりになるなど,その影響
は大きい。
なお,原告が主張している札幌市の場合でも,予定価格及び積算内訳書を
無制限に公開しているわけではなく,原則は非公開であり,他の入札に影響
しないと判断される時点,具体的には,積算単価表を使用して調達する案件
がなくなったと判断される時点以降に公開する運用をしているにすぎない。
そして,被告においては,本件業務委託の積算単価等を公表しておらず,前
記のとおり,初年度の指名競争入札の翌年から一定期間は,初年度の落札者
との間で随意契約を締結することもあるため,予定価格を公開すると次年度
以降の予定価格が容易に類推されることから,公開を控えているのであり,
状況が異なる札幌市と同列に扱うことはできない。
したがって,本件各予定価格調書が公開されることにより,本件条例6条
1項5号に規定した「当該事務事業の目的を失わせ,又は将来の同種の事務
事業の公正若しくは円滑な執行に著しい支障が生ずる」と認められるから,
これを非公開とした本件処分は,適法である。
(原告の主張)
入札価格等については北広島市議会で正規に議論されており,各年度の入
札参加業者名及びその入札価格並びに落札業者名及びその落札価格について
も新聞等で公表されている。そして,落札価格は,予定価格を下回る価格で
あるから,落札価格が公開されることにより,予定価格は既に類推されてい
るといえる。また,札幌市は,本件と同種の業務委託に係る過年度分の予定
価格についても公開している。
したがって,本件各予定価格調書が公開されたとしても,本件条例6条1
項5号に規定した「当該事務事業の目的を失わせ,又は将来の同種の事務事
業の公正若しくは円滑な執行に著しい支障が生ずる」とは認められないから,
これを非公開とした本件処分は,違法である。
第3当裁判所の判断
1証拠(括弧内に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
()本件各予定価格調書の記載事項及び予定価格の意義1
ア本件各予定価格調書の記載事項
本件各予定価格調書は,本件業務委託を指名競争入札に付すに際し,発
注者である被告によってあらかじめ作成された文書であり,件名,番号,
本件各予定価格及び入札書・見積書比較価格が記載されている(乙7,8,
16,17,20,21。)
イ予定価格の意義
予定価格は,競争入札の落札金額等を決定するための基準となる価格で
ある。普通地方公共団体は,競争入札に付する場合においては,予定価格
の制限の範囲内で最高又は最低の価格をもって申込みをした者を契約の相
手方とする旨規定されているため(地方自治法234条3項,予定価格)
は,実質的には契約予定金額の上限としての性質を有しており,最低入札
価格が予定価格を上回る場合には落札を許さないとすることにより,落札
価格が契約予定金額を上回ることを防止し,もって税金で賄われる普通地
方公共団体の予算の効率的な使用という観点から重要な機能を果たしてい
る。なお,予定価格から消費税相当額を控除した金額が,入札書・見積書
比較価格である(乙16,17,20,21,弁論の全趣旨。)
()本件各予定価格の決定方法等2
ア関係規則等
被告は,その締結する契約に関する事務の取扱いについて,次の旨の規
則等を定めている。
(ア)北広島市財務規則(昭和46年3月30日規則第11号。なお,同
財務規則は,後記(イ)の北広島市契約規則の施行に伴い,平成15年3
月31日付けで廃止。乙17)
第117条(予定価格の設定)
契約担当者は,一般競争入札により契約を締結しようとするとき
は,入札に付する事項の価格を当該事項に関する仕様書,設計書等
によって予定し,その予定価格を記載した書面を封書にし,開札の
際これを開札場所に置かなければならない。
2予定価格は,一般競争入札に付する事項の価格の総額について定
めなければならない。ただし,一定期間継続して行う製造,修繕,
加工,売買,供給,使用等の契約の場合においては,単価について
その予定価格を定めることができる。
3予定価格は,契約の目的となる物件又は役務について取引の実例
価格,需給の状況,履行の難易,数量の多寡,履行期間の長短等を
考慮して適正に定めなければならない。
第127条(一般競争入札の規定の準用)
第113条から第123条までの規定は,指名競争入札の場合に
準用する。
第128条の2(予定価格の決定)
契約担当者は,地方自治法施行令167条の2の規定により契約
をしようとするときは,あらかじめ第117条の規定に準じ予定価
格を定めなければならない。ただし,次の各号の一に該当する場合
は,予定価格の作成を省略することができる。
()∼()略14
(イ)北広島市契約規則(平成15年3月28日規則第12号。乙16)
第9条(予定価格調書の作成)
契約担当者は,一般競争入札に付するときは,その事項の価格を
当該事項に関する図面,仕様書,設計書等によって予定し,その予
定価格を記載した予定価格調書を作成し,これを封かんして開札場
所に置かなければならない。
2∼4略
第10条(予定価格の決定)
予定価格は,一般競争入札に付する事項の価格の総額について定
めるものとする。ただし,一定期間継続して行う製造,修繕,加工,
売買,供給,使用等の契約の場合にあっては,単価によってその予
定価格を定めることができる。
2予定価格は,契約の目的となる物件又は役務について,取引の実
例価格,需給の状況,履行の難易,数量の多少,履行期間の長短等
を考慮して適正に定めるものとする。
第25条(一般競争入札に関する規定の準用)
第6条から第20条までの規定は,指名競争入札について準用す
る。
第27条(予定価格の決定)
契約担当者は,地方自治法施行令167条の2第1項の規定によ
り随意契約を締結しようとするときは,あらかじめ第10条の規定
に準じて予定価格を定めなければならない。
第28条(予定価格調書の作成等)
契約担当者は,予定価格を定めたときは,予定価格調書を作成し
なければならない。ただし,次の各号のいずれかに該当する場合は,
この限りでない。
()∼()略15
イ本件各予定価格の決定方法
被告においては,保有する施設の管理業務を委託する場合,前記規則に
基づき,競争入札を行うに先立って予定価格を決定しているところ,委託
業務については,公共工事の歩掛に相当する積算基準が存在しないため,
当該業務の概要等を記載した業務仕様書をあらかじめ作成し,類似業務に
ついて実績のある複数の業者から参考見積書を徴した上,同見積書を参考
にして積算価格を算定し,それを基に予定価格を決定することになる。そ
して,翌年度以降の再度の競争入札又は随意契約における各予定価格は,
業務仕様書の内容に変更がない限り,過年度の積算価格を基に,人件費や
物価の経年変化を勘案して決定されている(甲15,18,乙4∼6,1
6,17,弁論の全趣旨。)
()本件業務委託に係る契約締結の経過3
ア平成10年ないし17年度まで
被告は,平成2年4月1日,委託業務契約に係る事務処理の要領として,
広島町委託業務処理要領(以下「要領」という。乙20)を作成し,継続
的な委託業務については,初年度に競争入札を行い,翌年度から2年間は,
初年度における落札者との間で毎年随意契約を締結する運用をしてきた。
本件文化施設完成後,被告は,要領に基づき,平成10年,13年及び1
6年度に本件業務委託をそれぞれ指名競争入札に付したところ,いずれも
A株式会社が落札者となったため,同社との間で,本件業務委託に係る契
約を締結し,また,平成11年,12年,14年,15年及び17年度に
は,同社との間で,それぞれ随意契約を締結した上,本件業務委託に係る
契約を締結した(甲5の1∼5の9,8の1∼8の3。)
イ平成18年度以降
被告は,平成18年2月27日付けで前記要領を廃止し,新たに北広島
市委託契約事務取扱要綱(以下「要綱」という。乙21)を作成し,前記
委託業務について原則として毎年競争入札を行うという運用に変更した。
そして,被告は,平成18年度については,要綱に基づき,本件業務委託
を4回目の指名競争入札に付したところ,再びA株式会社が落札者となっ
たため,同社との間で,本件業務委託に係る契約を締結した(甲22∼2
6,弁論の全趣旨。)
2本件取消請求について
以上の認定事実を前提にして,争点(本件各予定価格が,本件条例6条1項
5号所定の行政運営情報に該当するか否か)について検討する。
()本件条例6条1項5号の趣旨は,市又は国等が行う事務事業に関する情1
報は,本来,公開が原則であるところ,事務事業の性質上,当該情報が公開
されることにより,当該事業の目的を失わせ又は将来の同種の事務事業の公
正若しくは円滑な執行に著しい支障が生ずると認められる場合には,当該事
業の目的を達成し又は公正若しくは円滑な執行を確保するため,これを公開
しないことができるとしたものと解される。したがって,本件各予定価格が
本件条例6条1項5号所定の行政運営情報に該当するか否かは,当該情報の
内容,性質,事務事業の内容,性質等を勘案し,本件各予定価格調書が公開
されることにより,被告の本件業務委託に係る入札事務事業の目的を失わせ
又は将来の入札事務事業の公正若しくは円滑な執行に著しい支障が生ずると
認められるか否かという観点から判断するのが相当である。
そして,委託業務契約に係る予定価格が競争入札の実施前に公開され(以
下「事前公開」という,入札参加業者の知るところとなった場合には,。)
入札参加業者の真剣な見積り努力を阻害するとともに,他の入札参加業者と
の価格調整,すなわち談合を誘発し,ひいては,予定価格直下への入札価格
の集中をもたらすことが予想されるから,当該予定価格の事前公開について
は,上記のようなおそれがないか,著しく小さい場合は格別,入札参加業者
間の自由で公正な競争を通じて公共団体の予算の効率的な運用を図り,納税
者の利益を最大限に実現するという入札事務事業の目的を失わせ又は将来の
入札事務事業の公正若しくは円滑な執行に著しい支障を及ぼすものと認めら
れる。
()そこで,これを本件業務委託に係る予定価格についてみると,前記認定2
のとおり,本件業務委託は,業務の性質上,基本的に同一の仕様で毎年反復
継続して行われることが予定されており,初年度に競争入札を行った場合,
翌年度以降の再度の競争入札又は随意契約における予定価格は,過去の積算
価格を基に決定されるため,過去の予定価格と将来の予定価格との間に大幅
な変動はないものと推認されること,さらに,本件業務委託には公共団体の
発注する公共工事の歩掛に相当する積算基準が存在せず,上記積算価格につ
いて公表もされていないことにかんがみると,たとえ過去の予定価格であっ
ても,本件業務委託に係る予定価格が公開された場合には,入札参加業者に
おいて,同価格を基に将来の予定価格を推測することが容易になることは否
定できないというべきである。そうすると,仮に平成13年,16年度の本
件各予定価格調書を事後公開するとした場合,再度の指名競争入札の実施前
に当該入札の予定価格を事前公開して入札参加業者に知らせたのと同様に,
入札参加業者の真剣な見積り努力を阻害するとともに,談合を誘発し,予定
価格直下への入札価格の集中をもたらすおそれが生ずるといわざるを得ない。
なお,被告は,公共工事の場合,予定価格を公開する運用をしているが,
これは,平成13年2月16日に「公共工事の入札及び契約の適正化の促進
に関する法律」が施行され,地方公共団体等が行う公共工事の入札及び契約
に関する情報の公表について規定されたことに加え,公共工事の場合,同種
の工事であっても,施工技術の進歩や地域的諸条件等のため,各工事ごとに
個別の特殊性があり,過去の予定価格を基に将来の予定価格を推測するには
限界があること,他方,公共工事の積算基準に係る図書の公表が進んでいる
ため,既に予定価格をある程度まで推測することが可能であり,過去の予定
価格の公開が,将来の予定価格の推測の精度をどの程度増すのかが不明であ
ることから,公共工事に係る予定価格を公開したとしても,前記の弊害は生
じないか,著しく小さいと判断したのがその理由と考えられる(乙5,10,
弁論の全趣旨。これに対し,本件業務委託については,前記認定及び判断)
のとおり,本件予定価格調書を事後公開することは,本件予定価格を事前公
開した場合と同様の弊害が生じるというべきであるから,公共工事に関する
予定価格の公開の場合と同列に扱うことはできない。
()原告は,落札価格は予定価格を下回る価格であるから,本件業務委託に3
係る落札価格が新聞等で公表されたことにより,本件各予定価格は既に類推
されているとして,仮に本件各予定価格調書が事後公開されたとしても,本
件条例6条1項5号に規定した「当該事務事業の目的を失わせ,又は将来の
同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に著しい支障が生ずる」とは認め
られないと主張する。しかしながら,競争入札を行った場合の落札率(予定
価格に対する落札価格の割合)は,その都度個々の案件ごとに異なるもので
あり,前記認定の予定価格の意義や本件各予定価格の決定方法等に照らせば,
本件業務委託に係る過去の落札価格が公開されたからといって,それにより
直ちに将来の予定価格が推測されるとはいえないから,原告の上記主張は,
採用できない。
また,原告は,札幌市においては,本件と同種の業務に係る過年度分の予
定価格を公開しているのであるから,被告が本件予定価格の公開を拒む理由
はないと主張する。しかしながら,札幌市においては,業務委託の競争入札
に係る予定価格を積算価格に基づいて算定し,予定価格及びその基礎となる
積算価格については原則として落札後であっても公開せず,公開請求があっ
た場合,積算単価を使用して調達する案件がなくなったなど他の入札に影響
しないと判断される時点以降に公開する取扱いとされていることが認められ
る(乙14,15。そして,本件予定価格を公開した場合に予想される弊)
害は,前記説示のとおりであり,現時点において,本件予定価格を公開する
ことにより他の入札に影響しないと判断することはできないというべきであ
るから,原告の主張する札幌市の予定価格に関する取扱いをもって,本件予
定価格を公開するべきであると解するのは相当でない。したがって,原告の
上記主張も,採用できない。
()小活4
以上によれば,本件各予定価格調書を事後公開すると,被告の本件業務委
託に係る入札事務事業の目的を失わせ又は将来の入札事務事業の公正若しく
は円滑な執行に著しい支障を及ぼすものと認められるから,本件各予定価格
は,本件条例6条1項5号所定の行政運営情報に当たるものと解するのが相
当である。したがって,本件処分のうち本件各予定価格調書を非公開とした
部分の取消しを求める原告の請求は,理由がない。
3本件義務付けの訴えについて
そうすると,本件訴えのうち本件各予定価格調書の公開決定の義務付けを求
める部分は,行政事件訴訟法3条6項2号の義務付けの訴えの訴訟要件である
「当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり,又は無効若しくは不存在
であること(行政事件訴訟法37条の3第1項2号)に該当しないことは明」
らかであるから,不適法な訴えとして却下を免れない。
第4結論
よって,本件訴えのうち本件各予定価格調書の公開決定の義務付けを求める
部分は不適法であるから却下し,原告のその余の請求は理由がないから棄却す
ることとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を
適用して,主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日平成18年9月7日)
札幌地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官坂本宗一
裁判官宮島文邦
裁判官藏本匡成
(別紙)
文書目録一
1平成10年,13年及び16年度の文化施設設備管理業務委託仕様書
2平成10年ないし16年度の文化施設設備管理業務計画書
3平成10年ないし16年度の文化施設設備管理業務完了報告書
4平成10年ないし16年度の文化施設設備管理業務委託契約書
5平成10年,13年及び16年度の施設管理業務に関する一般競争入札登録業
者名の記載された文書
6平成10年,13年及び16年度の文化施設設備管理業務委託指名競争入札業
者名の記載された文書
7平成10年,13年及び16年度の上記6の指名入札業者の選考経過及び指名
理由の記載された文書
8平成10年,13年及び16年度の上記6の指名業者選考時の選定委員の氏名
の記載された文書
9平成10年,13年及び16年度の上記6の指名業者の入札価格,出席代理人
氏名及び予定価格の記載された文書
以上
(別紙)
文書目録二
1()平成10年度の文化施設総合管理業務委託処理要領1
()平成13年度の文化施設設備管理業務仕様書2
()平成16年度の文化施設設備管理業務委託仕様書3
2平成10年ないし16年度の保守作業計画表
3平成10年ないし16年度の業務完了届
4()平成10年,11年度の文化施設総合管理業務委託契約書1
()平成12年ないし16年度の委託契約書2
5平成16年度競争入札参加資格者名簿
6決定書
7物品・委託委員会と題する文書
8()平成10年度の入札状況調書1
()平成13年,16年度の入札(見積)状況調書2
9()平成10年度の予定価格調書1
()平成13年,16年度の予定価格調書2
以上

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