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平成19年(行ケ)第10081号審決取消請求事件
決定
原告X
訴訟代理人弁理士松尾憲一郎
同中嶋裕昭
同鈴木光彌
復代理人弁理士花村泰伸
被告日本化成株式会社
訴訟代理人弁理士中村宏
主文
1特許庁が無効2006−80039号事件について平成19年1月
16日にした審決中「特許第3749833号の請求項1ないし2に
係る発明についての特許を無効とする」との部分を取り消す。。
2訴訟費用は原告の負担とする。
理由
第1手続の経緯
1原告は,平成13年1月30日(優先権主張:平成12年2月3日及び同年
6月30日,日本)に出願した発明の名称を「コンクリート製の水路壁面改良
工法」とする特許第3749833号(平成17年12月9日設定登録。以下
「本件特許」という。登録時の請求項の数は4である)の特許権者である。。
被告は,平成18年3月6日,本件特許のうち請求項1,2及び4に係る発
明についての特許を無効とすることについて審判を請求し,この請求は無効2
006−80039号事件以下本件審判というとして特許庁に係属し(「」。)
た。
本件審判の審理の過程において,原告は,平成18年5月26日,本件特許
に係る明細書特許請求の範囲の記載を含む以下本件明細書というを(。「」。)
訂正する請求をした(以下,この訂正を「本件訂正」という。なお,本件訂正
により,請求項4が訂正されたが,その余の請求項は訂正されていない。。)
特許庁は審理の結果平成19年1月16日訂正を認める特許第37,,,「。
49833号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。特
許第3749833号の請求項4に係る発明についての審判請求は,成り立た
ない」との審決(以下「本件審決」という)をした。。,。
2原告は,本件審決中「特許第3749833号の請求項1及び2に係る発明
についての特許を無効とする」との部分の取消しを求めて本訴を提起した。。
3被告は,本件特許の請求項4に係る発明についての特許に対し,新たな無効
審判無効2007−800055号事件以下別件審判というを請求(。「」。)
したが,本件審決中「特許第3749833号の請求項4に係る発明について
の審判請求は成り立たないとの部分の取消しを求める訴えは提起していな,。」
い。
4原告は,本訴を提起した後,本件特許の特許請求の範囲の減縮等を目的とす
(。,,「」。)る訂正審判訂正2007−390059号以下単に訂正審判という
を請求した。
第2当裁判所の判断
1当裁判所は,当事者の意見を聴いた上,請求項1,2及び4に係る各発明の
関連性,本件訂正の内容,本件審決が判断した無効理由の内容,訂正審判にお
ける訂正内容,別件審判において主張されている無効理由の内容,その他本件
に関する諸事情を検討した結果,本件特許の請求項1ないし2に係る発明につ
いての特許を無効にすることについて,特許無効審判においてさらに審理させ
ることが相当であると考える。
したがって,事件を審判官に差し戻すため,特許法181条2項の規定によ
り,審決中「特許第3749833号の請求項1ないし2に係る発明について
の特許を無効とする」との部分を取り消すこととする。。
2なお,当裁判所において,本決定に際して考慮した問題点につき,補足して
説明する。
(1)本件のように2以上の請求項に係る発明についての特許を無効にするこ,
とを求める特許無効審判において,特許権者による訂正請求を認めた上で,
一部の請求項に係る発明についての特許を無効とし,残りの請求項に係る発
明についての特許の無効請求を不成立とする審決がされた場合に,審決のう
ち無効不成立とした請求項に係る部分について取消訴訟が提起されなかった
ときには,審決が認めた訂正の帰趨が問題となる。すなわち,上記の場合に
おいて,特許法181条2項の規定による審決の取消しの決定により,審決
のうち特許を無効とした請求項に係る部分が取り消されて,審判手続が再開
されたときに,同法134条の2第4項に規定する訂正請求のみなし取下げ
との関係で,当該審決において認められた訂正のうち無効不成立とされた請
求項に関する部分については,訂正が確定したものと解するのか,あるいは
同項の規定により取り下げられたものと解するのかが問題となる。
そこで,本決定により差し戻された事件について,今後行われる審判にお
ける審理に資するため,本件訂正の帰趨につき付言する。
(2)本件訂正は本件明細書の特許請求の範囲のうち請求項4のみを訂正する,
ものであって,その余の請求項を訂正するものではなく,また,本件審決に
よれば特許請求の範囲以外の訂正事項本件明細書の段落00140,(【】,【
032【0079【0080】に係るもの)はいずれも請求項4の訂正】,】,
に伴い,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るも
のとされているから,本件審決は,専ら請求項4との関係で本件訂正を認め
たものというべきである。そして,本件審決は,本件訂正が認められること
を前提として,本件特許の請求項4に係る発明についての無効審判請求を不
成立としたものであるから,本件審決中「訂正を認める」との部分と「特。,
許第3749833号の請求項4に係る発明についての審判請求は,成り立
たない」との部分は,一体不可分の関係にあるというべきである。。
しかるところ,被告(審判請求人)は,本件審決中「特許第374983
3号の請求項4に係る発明についての審判請求は成り立たないとの部分,。」
については取消訴訟を提起していないから,本件審決中の上記部分は,出訴
期間の経過により確定した。けだし,特許が2以上の請求項に係るものであ
るときには,無効審判は請求項ごとに請求することができるものとされてい
るのであるから特許法123条1項柱書2以上の請求項について無効審(),
判が請求されて審決においてこれに対する判断がされた場合にあっては,当
該審決は,各請求項についての判断ごとに可分な行政処分として,それぞれ
が取消訴訟の対象となるものであり,それぞれ別個に確定するというべきで
あるからである。審決は,行政処分であり,その取消しを求める訴えは,当
該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り,提起するこ
とができるのであり行政事件訴訟法9条参照2以上の請求項に係る特許(),
についての無効審判において,一部の請求項に係る発明についての特許を無
効とし,残りの請求項に係る発明についての特許の無効請求を不成立とする
審決がされた場合には,特許法178条2項の規定する当事者,参加人又は
参加を申請してその申請を拒否された者のうち,審決中,特許を無効とされ
た請求項に係る部分については被請求人(特許権者)側のみが,無効請求が
不成立とされた請求項に係る部分については請求人側のみが,取消訴訟を提
起することができる。そして,審決のうち,それぞれの部分について特許法
178条3項に規定する期間内に上記の者から取消訴訟が提起されなかった
ときには,当該部分は確定するものと解することとなる。
そうすると,本件審決のうち「特許第3749833号の請求項4に係る
発明についての審判請求は成り立たないとの部分が確定したことに伴っ,。」
て本件審決中訂正を認めるとの部分も確定したものと解するのが相当,「。」
()。である特許法134条の2第5項において準用される同法128条参照
(3)以上検討したとおり本件訂正はすでに確定したものであるから本決定,,
が効力を生じた後,本件審判の手続が本件特許の請求項1及び2に関する部
分について再開され,特許法134条の3第2項の規定により指定された期
間内に訂正請求がされ又は同条5項の規定により同期間の末日に訂正請求が
されたものとみなされても,本件訂正に関しては同法134条の2第4項の
規定によるみなし取下げの効果は生じない。
また,別件審判についても,本件訂正が確定していることを前提として,
その審理が行われるべきである。
なお,原告は,訂正審判の請求書において,本件訂正が未確定であること
を前提に,訂正審判に係る明細書の請求項4及び段落【0014【003】,
2【0079【0080】につき,訂正事項(C)及び訂正事項(C−】,】,
1)ないし(C−4)として説明を加えているが,上記のとおり,本件訂正
はすでに確定したものであるから,上記請求書における訂正事項(C)及び
訂正事項(C−1)ないし(C−4)の記載は意味のないものである。
3本件に関する判断は以上のとおりであるが,この機会に,特許法134条の
2第4項の規定によるみなし取下げの効果は,請求項ごとに生じると解すべき
ことについて,当裁判所の見解を示しておく。
(1)特許法は昭和62年法律第27号による改正によりいわゆる改善多項,,
制を導入するとともに,2以上の請求項に係る特許については請求項ごとに
(),無効審判請求をすることができることとしたが特許法123条1項柱書
その後,平成5年法律第26号による改正により,無効審判の手続において
訂正請求をすることができることとし,さらに,平成11年法律第41号に
(「」。),,よる改正以下平成11年改正というにより訂正請求の当否に関し
訂正後の請求項に係る発明(ただし,無効審判請求がされていない請求項に
係る発明を除くについていわゆる独立特許要件の判断を行わないことと。),
した。なお,2以上の請求項に係る発明についての特許を無効にすることを
求める特許無効審判において,特許権者による訂正請求を認めた上で,一部
の請求項に係る発明についての特許を無効とし,残りの請求項に係る発明に
ついての特許の無効請求を不成立とする審決は,平成11年改正において,
上記のとおり,訂正請求の当否に関し独立特許要件の判断を行わないことと
されたことに伴い,現れるに至ったものである(平成11年改正前の特許法
の下では,このような場合,独立特許要件を欠くとして訂正請求が全体とし
て認められず,訂正前の特許請求の範囲の記載に基づいて,各請求項の無効
理由の存否が判断されていた。。)
このように,2以上の請求項に係る無効審判請求においては,無効理由の
存否は請求項ごとに独立して判断されるのであり,個々の請求項ごとの審判
が同時に進行しているものとして考えるのが,無効審判制度の趣旨に沿うも
のである。そうすると,無効審判の審決において認められた訂正の効力につ
いても,個々の請求項ごとに生ずると解するのが相当である。
そして,特許法134条の2第4項のいわゆるみなし取下げの規定は,平
成15年法律第47号による改正により導入されたものであるが,上記のよ
うな無効審判制度を前提としていることは明らかであるから,その効果も請
求項ごとに生じると解するのが相当である。
(2)なおいわゆる改善多項制が導入され請求項ごとに無効審判請求につい,,
ての判断を行う制度が採用されたため,上記のとおり,2以上の請求項に係
る発明についての特許に関して,一部の請求項につき無効審判請求の審決が
確定し,あるいは特許請求の範囲等の記載が訂正されることが生ずるが,こ
のような結果が,必ずしも特許登録原簿の記載に反映されていないようにも
見受けられる。仮に,特許庁において,無効審決による特許無効ないし訂正
の効力が請求項ごとに生ずるとの実務運用がされていないとするならば,そ
れは法の趣旨に反するものといわざるを得ない。
4よって,主文のとおり決定する。
平成19年6月20日
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官三村量一
裁判官嶋末和秀

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