弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人坂上徳三郎の上告理由第一点について。
 原判決は本件当事者間の本件荷繩の売買取引は臨時物資需給調整法に基づく昭和
二三年九月二〇日農林省令第七五号農産品配給規則に違反する取引であるが故に右
売買取引は無効であると判示したのであるが、さらに、上告人の「右取引は民法七
〇八条所定の不法原因のための給付であるから、被上告人はその給付した荷繩の返
還請求権がない」との抗弁に対し、原判決は、統制法規に違反した売買契約に基づ
く給付が、民法七〇八条にいう不法原因によるものかどうかは、その行為の実質に
よつて、すなわちその統制違反の取引が当時の国民生活並びに国民感情にいかなる
影響を与えるかを考慮のうえ、決定すべきものであるとし、「本件売買の目的物は
藁工品であるが、藁工品は米麦等の主食品のように当時においても国民生活必需物
資でなく、統制違反の事実によつて、直接直ちに国民の生活に重大な脅威を与える
ものではなくまた国民感情に大きな悪影響を及ぼすものでもないから、藁工品の統
制違反は統制当時の社会情勢においても反道徳的な醜悪な行為としてひんしゆくす
べき程の反社会性を有する違反行為には該当しないと考えられる。従つて、本件の
取引は統制法規に違反し無効ではあるが、該取引に基いて給付したものが不法原因
によるものとしてその返還を請求することができないものではない」と判示して、
上告人の民法七〇八条にもとずく抗弁を排斥したのは正当であつて、所論はひつき
よう右と反対の見解に依つて原判決を非難するに帰し、とることができない。所論
引用の判例はいずれも原判示の判断と相容れないものではなく、所論判例違反の主
張も理由がない。
 同第二点について。
 原判決の認容した被上告人の本訴予備的請求は、本件荷繩の売買契約が統制法規
に違反して無効である以上、右契約に基づき上告人に引渡した本件荷繩の所有権は
依然として被上告人にありとし、その所有権に基づき被上告人が上告人に引渡した
特定の荷繩の返還(ならびにその不能の場合の損害の賠償)を求めるものであるこ
とはあきらかであるから、かかる場合に、他の同種同量の物の引渡をもつて足ると
する論旨のとるを得ないことはいうまでもないところである。
 その余の論旨は原審の事実誤認の主張を出ないものであつて、上告適法な理由と
ならない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、奥野裁判官の補足意見あるほか、
裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 裁判官奥野健一の補足意見は次のとおりである。
 本件上告理由第一点についての判示として私は、なお、次の点を附加したい。
 本件農産品配給規則は、当時の当該物資の円滑な需給をはかり、以つて国民生活
の安定を期したものであるから公益に関するものであり、強行法規と解すべきもの
であることは勿論であるが、右規則の直接の目的は当該物資の移動を抑えて、その
動きを国家の支配におくことにあることは明白であつて、従つて、右強行法規に違
反する契約は無効として未履行の契約の実現を阻止すると共に、既に右法規に違反
して移動した物資についてはその移動を無効として、これを原状に復せしめること
がその目的に合致するものと解せられる。それ故右規則に違反して給付した物資の
返還請求は認めるべきであり、若し右違反物資の返還請求を認めないとすれば、右
法規が禁止せんとする結果を、却つて是認助成することとなるから右規則の趣旨か
らいつても、民法七〇八条の適用がないものと解すべきである。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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