弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主     文
被告人を罰金8万円に処する。
その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算し
た期間被告人を労役場に留置する。
理     由
(罪となるべき事実)
 被告人は,平成13年12月21日午後9時33分ころ,道路標識によりその最
高速度が80キロメートル毎時と指定されている兵庫県宝塚市ab丁目先A縦貫自動
車道下り19.5キロポスト付近道路において,その最高速度を50キロメートル
超える130キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転して進行したもので
ある。
(証拠の標目)―括弧内の甲,乙に続く数字は検察官請求証拠番号―
 省略
(補足説明)
1 弁護人は,被告人は,判示普通乗用自動車(以下「被告人車両」という。)を
100キロメートル毎時の速度で運転走行していたものであって,130キロメー
トル毎時の速度で走行したことはない旨主張して,本件速度測定の正確性を争い,
反則行為に対する通告手続を経ないで提起された本件公訴は刑事訴訟法338条4
号により公訴棄却されるべきである旨主張する(なお,被告人及び弁護人は,検察
官請求の書証の取調にすべて同意した上で,以下のとおり,なお,速度測定の正確
性について立証が尽くされておらず,合理的疑いが残ると主張する。)が,前掲関
係各証拠によれば,弁護人が主張する点を含めて判示犯罪事実は優に認められる。
その理由について,以下若干補足する。
2 前掲関係各証拠によれば,次の事実が認められる。
 (1) 被告人車両が速度違反した平成13年12月21日当時,兵庫県宝塚市ab丁
目先A縦貫自動車道下り19.5キロポスト付近道路(三車線の高速道路。道路標
識により最高速度80キロメートル毎時の速度規制がなされている。以下「本件現
場付近道路」という。また,進行方向に向かって左からそれぞれ「第一車線」,
「第二車線」,「第三車線」という。)には,B株式会社製の高速走行抑止システ
ム「宝塚機」(レーダ式)(以下「本件高速走行抑止システム」という。)が設置
され(なお,設置年月日は平成10年5月28日),同システムにより,同所を走
行する自動車等について,速度抑制及び速度違反の取締まりが行われていた。
 (2) 本件高速走行抑止システムの概要は,①後記高速走行撮影端末装置の約50
0メートル手前に,速度超過を警告する「警告電光掲示板」(警告端末警告板)が
設置され,同所付近に設置されている警告端末(画像型感知器)で,走行する車両
の速度を計測し,あらかじめ設定された速度よりも高速であると判定した場合は,
警告電光掲示板でドライバーに「速度落とせ」等の警告表示が行われる,②警告電
光掲示板から約500メートル進んだ地点に高速走行撮影端末装置(レーダ式速度
計測装置。以下,第二車線のそれを「本件速度測定装置」という。)が設置され,
これにより,再び,車両の速度が測定され,あらかじめ設定された速度よりも,計
測速度が速い場合には,警告無視車両としてテレビカメラで車両のナンバー及びド
ライバーを撮影し,撮影された画像は,測定年月日,時間,場所,車両の速度とと
もに,電話回線で兵庫県警察本部交通指導課の中央装置へ送信し記録化(光ディス
ク保存)される,③保存された画像は,光ディスクによりモニターテレビに再生さ
れ,写真化される,④本件速度測定装置は,送受信装置(アンテナ)から路面
に投射角約7度で電波を発射し,その発射電波のビーム内を通過する自動車からの
反射電波を受け,この反射電波のドプラ効果と呼ばれる周波数偏移により当該自動
車の速度を測定する仕組みのものである(甲1ないし4)。
 (3) 本件高速走行抑止システムの点検は,以下のとおり実施され,その際,いず
れも異常は認められなかった(甲5ないし9)。
  ① 平成13年12月17日,兵庫県警察本部交通部所属司法警察員による端
末装置外観点検
  ② 平成13年12月21日,同月22日,兵庫県警察本部交通部所属司法警
察員による中央装置運用時点検
  ③ 平成13年7月10日及び平成14年1月29日,株式会社Cの担当者に
よる撮影端末装置(本件速度測定装置)確度点検
  ④ 平成13年7月23日及び平成14年1月8日,株式会社Cの担当者によ
る中央装置確度点検
 (4) 被告人は,平成13年12月21日午後9時33分ころ,被告人車両を運転
して,本件現場付近道路の第二車線を大阪方面から神戸方面に向け進行し,本件速
度測定装置による速度測定の結果,130キロメートル毎時と速度測定され,前記
のとおり中央装置にその旨記録化され,写真化(甲1添付の写真。以下「本件写
真」という。)された。
 (5) 被告人は,平成14年2月15日,兵庫県警察本部高速道路交通警察隊京橋
分駐隊において同隊警察官の取調べを受け,供述調書が作成されたが,同調書(乙
1)中には,要旨,「・・中央の車線(第二車線)を走っていると,赤いフラッシ
ュが光り,てっきり,私の前を走っていた黒っぽいベンツが撮影されたと思ってい
た。私は,当日の午後5時ころ,長野県内において,交通事故(物損事故)に遭
い,被告人車両の左側フェンダー部分が損傷し,左後部タイヤに時々接触していた
こともあって,当時80ないし100キロメートル毎時の速度で走行していた。当
時,第三車線を走行していたが,後方から前記ベンツが追い上げ車間距離を詰めて
きたので,中央車線(第二車線)に変更しようとしたところ,ベンツが私の車の右
側を追い抜くように割り込んできた。私は驚いて第一車線に半分位入る程度に車線
変更したところ,ベンツは私の右側をすり抜け加速しながら前方に走り去った。そ
の際前記フラッシュが光った。メーターを見ていたわけではないが,毎時100キ
ロメートル以下で走行するよう心がけていたので,私の車が毎時130キロメート
ルで走行していたというのは納得できない。」旨の記載が,平成16年2月5日付
け検察官調書(乙2)には,同旨の記載のほか,「ベンツは割り込んできた後第三
車線に戻って速度を上げて走り去った。その後,第二車線でフラッシュが光っ
た。」旨の記載がある。
3 前記2認定の事実を前提に検討する。
 (1) 本件速度測定装置の測定原理自体等に欠陥があるとの主張について
   弁護人は,①本件速度測定装置は,複数の車両のうちどの車両の速度を測定
したのか,識別機能が十分でない,②車両が斜めに走行した場合や電波が被測定車
両以外の物に反射した場合(多重反射)には異常値を示すなどとして,本件速度測
定装置の性能自体等に欠陥があると主張するごとくであるが,関係証拠によれば,
本件速度測定装置は,ドプラ効果を応用して,送信した電波ビーム内を走行する自
動車に反射した電波を受信し,その周波数の変化から自動車の速度を測定する装置
であって,その測定原理や性能自体に格別の問題はなく,その用法を誤らない限り
は正確な速度測定をなしうる装置であると認められる。本件速度測定装置が,その
性能に欠陥があるから,本件速度測定の結果が正確でないとの主張は理由がない。
 (2) 本件速度測定装置が正常に作動していたとはいえない旨の主張について
   前認定のとおり,本件違反時前後の定期点検等の際に異常がなく,かつ本件
違反当日の運用時点検においても,本件速度測定装置を含む本件高速走行抑止シス
テムに異常がないことが確認されているところ,本件速度測定装置が正常に作動し
ていなかったのではないかと疑う事情が何ら認められない本件にあっては,本件速
度測定当時,本件速度測定装置が正常に作動していたものと認めるに十分である。
弁護人は,本件速度測定時に本件速度測定装置が正常に作動していたことの立証が
尽くされていないと主張するが,理由がない。
 (3) 他車両の速度を測定した可能性について
   前記のとおり,被告人は,捜査段階から公判段階に至るまで,ほぼ一貫し
て,本件当時被告人の運転する車両の右側第三車線をベンツが高速で追い抜いて行
ったのであり,本件速度測定装置は,このベンツの速度を測定したものと思った旨
供述するが,正常に作動していた本件速度測定装置は,第二車線を走行中の車両の
速度を測定後直ちに同車両の写真を撮影するのであって,本件写真が第二車線を走
行している被告人車両を撮影した写真であることは明らかであるから,前記被告人
の供述は明らかに採用しがたい。なお,関係証拠によれば,各車線毎に高速走行撮
影端末装置が設置されていることが認められるから(甲1),ベンツがあらかじめ
定められた以上の速度違反車両であったとすれば,それは本件速度測定装置(第二
車線を測定するように設置されている。)ではなく,別途,第三車線に設置されて
いる速度測定装置により測定されているはずのものである。この点に関する被告人
の主張は理由がない。
 (4) 弁護人は,本件速度測定当時100キロメートル毎時くらいの速度で走行し
ており,130キロメートル毎時もの速度は出していない旨の被告人の供述は信用
できると主張する。被告人の公判供述並びにその検察官調書(乙2)及び警察官調
書(乙1)によれば,被告人は130キロメートル毎時もの速度は出しておらず,
100キロメートル毎時くらいの速度で走行していたというのであり,その理由と
して,本件現場付近道路の交通量その他の道路状況に加え,被告人車両は約5時間
前に長野県内でその左側面後部に衝突される物損事故に遭い,左のリアフェンダー
部分が破損していたため,時速100キロメートルを超えて走行すると左後部タイ
ヤとフェンダーとが摩擦して大きな音がする状態にあったから,被告人は事故にあ
った長野県内から本件現場付近道路まで時速100キロメートルを超えないよう,
メーターを見ながら速度を調整して車両を走行させていたのであって,130キロ
メートル毎時の速度で走行できる状態ではなかったというのであるが,本件現場付
近道路の交通量その他の道路状況から物理的に被告人車両が130キロメートル毎
時の速度で走行することが不可能であったといえないことは明らかであり,また,
被告人車両を修理したHオートボデーの担当者の供述(甲12)によれば,本件速
度違反の後である平成14年1月9日ころ行われた修理の際,被告人車両の左リア
フェンダー部分にへこみが見られたが,これによる走行への影響は格別認められな
かったというのであって,結局のところ,本件速度測定当時,「メーターを見てい
たわけではなく」,100キロメートル毎時位の速度しか出ていないはずである旨
の被告人供述は,被告人の漠然とした感覚を述べるものというほかはない。 以上
のとおり,被告人車両が本件速度測定当時100キロメートル毎時くらいの速度で
走行していた旨の被告人供述は,被告人車両の本件速度測定に際し,何らかの誤測
定があったのではないかとの合理的疑いを容れる事情となるものではない。
4 前記2認定の事実並びに前記3の検討によれば,本件当時,本件速度測定装置
を含む本件高速走行抑止システムは正常に作動していたものであり,その速度測定
結果の正確性を認めるに十分であるから,被告人が本件速度違反の罪を犯したこと
は優に認められる。
(法令の適用)
 被告人の判示所為は,平成13年法律第51号による改正前の道路交通法法11
8条1項2号,22条1項(4条1項,同法施行令1条の2第1項)に該当するの
で,所定刑中罰金刑を選択し,その所定金額の範囲内で被告人を罰金8万円に処
し,その罰金を完納することができないときは,刑法18条により金5000円を
1日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,普通乗用自動車を運転中,指定速度に違反する速度で進行し
た道路交通法違反の事案であるが,高速道路において,指定速度を50キロメート
ル毎時超過して運転した行為の危険性は低くなく,加えて,被告人には平成8年及
び平成11年に速度違反による罰金前科があるほか5件の速度違反の行政処分歴が
あることを併せ考慮すると,被告人の刑事責任を軽視することはできないが,その
程度はともかくも,速度違反自体は認めて被告人なりに反省の態度を示しているこ
と,本件により逮捕,勾留されたことなど被告人のために酌むべき事情も十分に考
慮して,主文のとおり量定した。
 よって,主文のとおり判決する。
  平成16年6月15日
神戸地方裁判所第1刑事部
   裁 判 官  杉森研二

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