弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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            主         文
   1 被告は,A市に対し,77万円及びこれに対する平成14年9月5日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
   2 原告のその余の請求を棄却する。
   3 訴訟費用はこれを10分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とす
る。 
            事実及び理由
第1 原告の請求
   被告は,A市に対し,111万円及びこれに対する平成14年9月5日から支払済み
まで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 本件は,岐阜県B郡C町(平成15年4月1日に同郡D町及び同郡E村と合併し,岐
阜県A市となった。)の町長であった被告が収賄の被疑事実により逮捕,勾留さ
れ,町長としての職務を執行することができない状態にあったにもかかわらず,C町
が被告に対し,その期間の町長の給料及び期末手当(以下,「本件給料」,「本件
期末手当」といい,併せて「本件給与」ともいう。)を支給したことが違法であるとし
て,C町の住民であった原告及び選定者らが,平成14年法律第4号による改正前
の地方自治法242条の2第1項4号に基づき,被告に対し,本件給与として支給を
受けた111万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成14年9月5日)以降
の遅延損害金をA市に返還することを求めた事案である。
 2 前提となる事実
   当事者間に争いがない事実並びに括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認
められる事実を総合すると,本件の前提となる事実は,以下のとおりである。
  (1) 当事者等
   ア 原告及び選定者らはいずれも,訴え提起当時,C町に住所を有しており,現在
はA市に住所を有しているものである。
   イ 被告は,平成9年にC町長選挙で当選し,平成13年に再選され,平成14年6
月4日までC町長の職にあったものである。
  (2) 被告の逮捕,勾留及び町長辞職等に関する経緯
   ア 被告は,平成14年5月1日,収賄の被疑事実により逮捕され,その後,同じ被
疑事実により勾留された。
   イ C町のF助役は,同月3日,弁護士を介して,被告も職務代理者が必要であると
認識していることを確認した上,同月5日,地方自治法152条1項に基づいて
C町長の職務代理者となった。
   ウ 被告は,同月22日,収賄罪により起訴された。
   エ 被告は,C町に対し,同年5月23日付けで,同年6月4日に辞職したい旨の辞
職願を提出し,同年6月4日,C町議会はこれを承認した。
   オ 被告は,同年7月16日まで勾留され,同日保釈された。
  (3) 本件給与の支払
    C町は,被告に対し,平成14年6月4日までの給料を支給するとともに,同月1日
を基準日として期末手当を支給した。
    被告が逮捕,勾留されていた平成14年5月1日から同年6月4日までの給料及
び期末手当相当額は,111万円(給料1か月分77万円及び期末手当年間総額
411万7575円の1か月分約34万円の合計額)余りであると算定される。
  (4) 監査請求
    選定者らは平成14年5月24日に,原告は同年6月13日に,それぞれC町監査
委員に対し,被告の5月分の給料の返還と被告に対する今後の給料,期末手当
の支給差止めを求める住民監査請求をしたが,同監査委員は,選定者らに対し
て同年7月22日付けで,原告に対して同年8月9日付けで,それぞれ請求を棄
却する旨通知した(甲第13)。
 3 争点
本件給料及び本件期末手当の支給が適法か否か。
第3 当事者の主張
 1 原告の主張
  (1)ア C町長の給与については,C町常勤の特別職職員の給与に関する条例(以下
「常勤特別職給与条例」という。)に規定されており,同条例6条は「職員の給
与の支給方法は,一般職の職員の例による。」としている。
     そして,C町職員の給与に関する条例(以下「一般職給与条例」という。)18条
は「勤務しないときは,・・・減額した給与を支給する。」としてノーワーク・ノーペ
イの原則を定めているところ,この規定は常勤特別職給与条例6条により町
長の給与についても準用される。
     なお,被告は,町長の給料は町長たる身分に対して支給されると主張するが,
そのような定めはなく,常勤特別職給与条例には「勤務」という概念が存在す
る。
   イ 本件において,被告は,逮捕,勾留されていた期間中,町長として勤務していた
とはいえない。このことは,平成15年5月5日以降,地方自治法152条1項に
基づいて職務代理者が選任され,この職務代理者により町政が運営されてい
たが,その間,C町の事務事業の遂行はもちろん,政策決定や意思決定にも
何ら支障がなかったことから明らかである。
     よって,被告が逮捕,勾留されていた期間は,常勤特別職給与条例6条が準用
する一般職給与条例18条にいう「勤務しないとき」に該当するところ,一般職
と異なり町長には勤務時間の定めがないが,勤務時間の定めがない職の者
が給与期間の全時間において勤務していなければ全額減額,すなわち不支
給とすべきであるから,被告に対するこの期間の給与の支給は,全額につい
て違法である。
ウ 被告が逮捕,勾留されている間は,C町長としての勤務がないから,期末手当
も,その期間に対応する分は支給することができない。
     また,被告に対しては,常勤特別職給与条例6条により準用される一般職給与
条例23条の5,6による期末手当の不支給及び差止めがされるべきであった
が,これがされなかった違法がある。
  (2) また,逮捕,勾留されている町長に本件給与を支払うことは,社会通念上許され
ないし,地方自治法2条14項,地方財政法4条1項にも違反する。
  (3)ア さらに,一般職給与条例25条4項は,刑事事件で起訴されたことによる休職
の場合は,給料の100分の60以内を支給するとしているところ,町長の職責
にかんがみれば,町長が逮捕,勾留されて助役や職員と面会したり,町側と
一切接触できないという状態は,一般職の休職に相当するとみるのが合理的
であり,この規定が類推適用されるべきである。
     また,期末手当についても,給与を基礎としている趣旨から,同様にこの規定が
類推適用されるべきである。
   イ よって,本件に上記規定を類推適用すると,事案の性質上,被告に対しては本
件給与を全額支給しないとすべきである。したがって,被告は本件給与を全額
返還すべきである。
   ウ 仮に全額不支給が容認されないとしても,本件給与のうち支給が許されるのは
最大でも111万円の100分の60相当であるから,被告は余分に支給された
44万4000円をA市に返還する義務を負う。
 2 被告の主張
  (1) 町長の給与の支給については常勤特別職給与条例が適用されるところ(同条例
1条),同条例には,町長が逮捕,勾留された場合の給与の不支給に関する規
定は存在しない。
  (2) 町長は,町民により選出されたという身分取得の方法,在職期間,職務内容の
各点において,一般職職員と根本的に異なる地位にあるから,町長たる身分を
有している以上,給与等の支給は保障されるのであり,職務代理者を選任して
いる場合でもこの理に変わりはない。また,町長について一般職と同様の事由を
給与不支給の事由とすると,政争の具に利用されかねない。
    よって,町長については,一般職と同様の給与支給規定を適用することはでき
ず,一般職給与条例18条,23条の5,6の規定は適用されないから,本件給与
の支給は適法であり,それによりC町に損害は生じていない。
  (3) 仮に,町長について,一般職給与条例の準用があるとしても,以下に述べるとお
り,本件給与の支給は適法である。
   ア 一般職給与条例18条は,勤務時間の定めのある職員を前提としているとこ
ろ,町長には勤務時間の定めがないから,同条適用の前提を欠く。
     町長について勤務時間の定めがないのは,町長の場合,町政全般について思
索を巡らすなどの精神的活動等も含めた有形無形の活動全般が労務と評価
されるところ,これらの活動を外形的に評価することが困難であるので,1日の
全生活が町長としての活動と評価されて給与との対価性を持つと考えられて
いるためである。
     したがって,町長は,町長としての身分を有し,町政について思索を巡らすなど
の精神的な活動をしている限り,労務を提供していると解するのが当然であ
る。これは,職務代理者を置いた場合も同様である。
     また,思索を巡らせた結果が何らかの作為的な活動に結びつかなかったとして
も,思索を巡らせた結果が作為的な活動に結びつくものばかりではないのは
当然であるから,何らかの作為的な活動がなかったからといって,町政につい
て思索を巡らすことが労務に当たらないと判断することはできない。
     本件で,被告は,逮捕,勾留中も町政について思索を巡らすなど,町長として精
神的な活動をしたから,町に対し労務を提供したといえる。
     さらに,被告は,岐阜県B郡の三町村合併という町政判断を下し,平成14年5
月には合併をほぼ軌道に乗せていたところ,この路線は被告の逮捕,勾留中
も変更されることなく,平成15年に上記合併が成立したが,このことは,被告
の逮捕,勾留中も被告が下した町政判断が影響を残しており,その間,被告
の労務が町に提供されていたことの証左である。
   イ 一般職給与条例25条の休職者の給与に関する規定は,地方公務員法28条を
前提としているが,同条はそもそも休職させる権限を有する町長には適用され
ないから,一般職給与条例25条も町長には適用されない。
     また,この規定は,起訴された場合に休職させることができるとしているのみで
あり,逮捕,勾留された場合に当然給与が100分の60となるとしたものでは
ない。仮に,逮捕,勾留されただけで当然に給与が一部不支給となるのであ
れば,「嫌疑なし」で不起訴になった場合でも当然に一部不支給になるというこ
とになろうが,これは社会通念に反する。
  (4) 原告は,被告に本件給与を支給することが社会通念上許されないと主張する
が,これは被告が有罪であることを前提とした主張であり,刑事手続における被
疑者又は被告人に無罪の推定が及んでいることを完全に看過している。
    さらに,被告のような公人は逃亡のおそれがないから,身柄を拘束せずとも捜査
は可能だったはずであり,被告は逮捕,勾留により庁舎に行くことを妨げられた
のであり,庁舎に行けなかったことにつき被告に責めはない。
第4 当裁判所の判断
 1 C町長の給与に関する法令の規定等
  (1) 地方自治法204条1項は,普通地方公共団体は,長その他常勤の職員に対し,
給料及び旅費を支給しなければならないとし,同条2項は,普通地方公共団体
は,条例で,前項の職員に対し,期末手当等の諸手当を支給することができると
し,同条3項は,給料,手当及び旅費の額並びにその支給方法は,条例でこれを
定めなければならないとしている。
  (2) 地方自治法の上記規定に基づき,C町においては,町長等の特別職の給与の
支給について,常勤特別職給与条例が制定されている。常勤特別職給与条例
は全7か条からなるものであり,同条例6条は,「給与の支給方法は一般職の例
による」と規定しているところ,その「給与」,「例による」及び「支給方法」について
は,次のように解釈すべきである。
   ア 「給与」とは,給料,通勤手当及び期末手当をいう(同条例2条)。
   イ 「例による」という文言は,当該制度に他の同種の法律上の制度や法令の規定
を包括的に当てはめるときに用いられる。したがって,他の制度に関する法令
を当該制度にそのまま機械的に適用することができない場合があるが,その
場合には,当該制度の趣旨,目的に沿って,他の制度に関する法令を合理的
に解釈してこれを適用すべきである。
   ウ 「支給方法」という文言は,地方自治法204条3項における「支給方法」と同様
に解すべきであり,給与の「額」以外の支給に関する事項を広く包含し,給与
の期間計算,支給期日等のほか,例えば,一定の場合に給与を減額したり,
不支給としたりするか否かの基準等も含むものと解すべきである。
  (3) 以上の観点から,常勤特別職給与条例6条により,町長の給与に関して,その
性質上,一般職給与条例の各規定が準用されるか否かについて,給料と期末
手当とに分けて検討する。
 2 被告に対する本件給料の支給の適法性について
(1) 一般職給与条例18条は,職員が勤務しないときは,法定の休日等による場合そ
の他勤務しないことにつき特に承認があった場合を除き,その勤務しない1時間
につき,22条1項に規定する勤務1時間当たりの給与額を減額した給与を支給
するとしているところ,この規定が町長の給料についても準用されるか否かにつ
いて検討する。
   ア 給料とは,一般に勤務に対する対価を意味するところ,前記のとおり,地方自
治法204条が給料等について普通地方公共団体の長と一般職員とを同列に
規定していることからすれば,町長の給料についても一般職員の給料と同様
に,勤務に対する対価であると解するのが相当である。
     そして,一般職給与条例18条は,職員が勤務をしなかった場合にその勤務をし
なかった時間に応じて給料を減額するというものであり,給料が勤務の対価で
あることから導かれる原則(いわゆるノーワーク・ノーペイの原則)を具体化し
た規定であると解されるから,町長の給料についても,勤務に対する対価であ
る以上,この原則が当てはまるというべきである。
     したがって,町長の給料についても,常勤特別職給与条例6条により,一般職給
与条例18条が準用されると解するのが相当である。
   イ 被告は,町長の地位は一般職と根本的に異なり,町長の給料は勤務の対価で
はなく,町長としての地位自体から得られるものであると主張する。
     確かに,町長の身分取得方法,在職期間,職務内容が一般職の職員と異なる
ことは被告主張のとおりであるが,これらの事情は,いずれも町長の給料と勤
務との対価性を否定する合理的な根拠となり得るものではない。
     また,普通地方公共団体の議会の議員については,地方自治法203条2項
が,議員以外の非常勤の職員に対する報酬は,その勤務日数に応じてこれを
支給するとし,議員は勤務日数に応じて報酬を支給される非常勤の職員から
除外されている。このことから,議員の報酬請求権は,個々具体的な役務ない
し労務の提供と具体的な対価関係が認められるものではなく,その対価関係
は抽象的,一般的なものであり,議員としての身分を有すること自体から生ず
るものと解するのが相当であるが,これと異なり,町長については,地方自治
法にも,常勤特別職給与条例にも,給料と勤務との対価性を否定する趣旨の
規定は設けられていない。
     よって,被告の上記主張は採用することができない。
   ウ また,被告は,一般職給与条例18条は勤務時間の定めのある職員を前提とし
ているところ,町長には勤務時間の定めがないから,一般職給与条例18条の
適用の前提を欠くと主張する。
     確かに,一般職給与条例18条は勤務時間の定めのある職員を前提としてお
り,町長に勤務時間の定めがないことは被告主張のとおりである。
     しかしながら,勤務時間の定めがないことの意味は,勤務(町長としての職務の
提供)をしなくても給料が支給される趣旨でないことは論を待たない。そもそ
も,一般職の公務員は勤務時間内における職務専念義務を負うところ(地方
公務員法35条),町長については,町政を統括するというその職務の重要性
から,一日中職務専念義務(公務優先義務)を負わせたものであり,強いてい
えば1日24時間が勤務時間であるともいい得る(もちろん,上記の解釈は,町
長が無定量,無限定の職務専念義務を負っていることを意味するのではなく,
相当な範囲内で法定の休日に職務を行わないことや平日に私的な時間を取
得することは可能である。)。したがって,町長に勤務時間の定めがないことか
ら,ノーワーク・ノーペイの原則を定めた一般職給与条例18条が町長に対し
て準用されないということはできない。
     問題は,勤務時間の定めのある職員を前提として規定されている一般職給与
条例18条を,町長の職務の特質に沿って,どのように適用するのが合理的か
である。
     そこで検討するに,町長の職務は広範,多岐にわたり,自宅において町政全般
について思索を巡らすなどの精神的活動も職務に含まれること,勤務時間の
定めのないこと(1日24時間勤務であること)等を考慮すると,1日を単位とし
て,当該日において町長としての職務を全く提供しなかったときは,1日分の
給料を減額することが合理的であると解される(ただし,一般職給与条例18
条が給料を減額しない場合として規定している場合及び町長の職務の特質上
これに準ずる場合を除くことは当然である。)。
(2) そこで,被告が逮捕,勾留中に町長としての職務を全く提供していなかったか否
かについて検討するに,第2の2(前提となる事実)並びに甲第2,第7,第24及
び被告本人の供述によれば,次の事実が認められる。
   ア 被告は,平成14年5月1日の夜,収賄の被疑事実により逮捕され,その後,同
じ被疑事実により勾留された。
   イ C町のF助役は,地方自治法152条1項により職務代理者を置く場合に該当す
ると考えて,同月3日,弁護士を介して被告にその旨相談したところ,被告も同
意見であったので,同月5日,同条項に基づいてC町長の職務代理者となり,
その旨を公告した。
     なお,同条項の職務代理は,同法153条の職務代理が事務の一部を任意に委
任又は代理させるものと異なり,法定の事由が生じた場合に町長の権限に属
する一切の事務を代理させる規定である。
   ウ 被告は,同月22日,収賄罪により起訴された。
   エ 被告は,同月23日,「同年6月4日に退職したい」旨の辞職願を作成し,これを
弁護士に預けた。そして,弁護士は,被告の了解を得た上,同月24日,上記
辞職願をC町議会議長に提出した。
     なお,被告が同年6月4日に退職することを希望したのは,同日がC町議会の初
日であり,町長の肩書のあるときに議会で真実を訴え,弁明したいとの意向に
基づくものであった。
   オ C町議会は,同年6月4日,被告の辞職に同意し,被告は同日付けで辞職し
た。
   カ 被告は,同年7月16日まで勾留され,同日保釈された。
   キ 被告は,逮捕,勾留期間中,C町の関係者とは一切接触していない。
  (3)ア 上記(2)で認定した事実によれば,被告は,逮捕の翌日である平成14年5月2
日から辞職した同年6月4日まで,1か月以上にわたり町長としての職務を全
く提供していなかったと認めるのが相当である。
   イ 被告は,逮捕,勾留されていた期間中も町政について思索を巡らせるなどの精
神的活動を行っていたから,労務を提供していたと主張する。
     しかしながら,被告が勾留中に作成した書状(甲第8)及び被告本人の供述によ
れば,被告の逮捕,勾留期間中の主要な関心事は,刑事事件にあり,町政全
般について思索を巡らせていたといっても,具体的な内容はなかったと認めら
れ,給料と対価性を有すると社会通念上認められるような有益な思索を巡ら
せていたとは認められない。したがって,被告の上記主張は採用することがで
きない。
   ウ また,被告は,逮捕,勾留期間中の給料を支給しないことについて,刑事手続
における被疑者又は被告人の無罪推定の原則に抵触すると主張するようで
あるが,前記のとおり,給与の減額は,一般職給与条例18条の「勤務しない
とき」に該当するために認められるものであるから,刑事事件で有罪になるか
無罪になるかの点は,本件とは関係がない。
   エ そうすると,本件請求のうち,被告に対して本件給料(被告の1か月分の給料に
相当する77万円)の返還を求める部分は理由があるというべきである。
3 被告に対する本件期末手当の支給の適法性について
  (1)ア 常勤特別職給与条例5条1項は,期末手当を,3月1日,6月1日,12月1日
の各基準日にそれぞれ在職する職員及びこれらの基準日前1か月以内に退
職等した職員に対して支給するとし,同条2項は,期末手当の額の具体的な
算出方法(6月支給分は,基準日現在の給料月額及びその額に100分の15
を乗じて得た額の合計額に,100分の205を乗じていた額に,一般職の職員
の例により一定の割合を乗じて得た額とされている。)を定めている。
   イ 一般職給与条例23条の4第1項は,期末手当を,3月1日,6月1日,12月1
日の各基準日にそれぞれ在職する職員及びこれらの各基準日前1か月以内
に退職等した職員に対し,それぞれ基準日の属する月の町の規則で定める
支給日(規則32条の6により,6月1日については6月30日と定めている。)
に支給すると定めている。
   ウ 一般職給与条例23条の4第2項は,期末手当の額の具体的な算出方法につ
いて,「期末手当基礎額に,(中略),6月に支給する場合においては100分
の145,(中略),を乗じて得た額(中略)に,基準日以前3箇月以内(中略)の
期間におけるその者の在職期間の区分に応じて,次の表に定める割合を乗じ
て得た額とする。」と定め,次表として,「3箇月は100分の100,2箇月15日
以上は100分の80,1箇月15日以上は100分の60,1箇月15日未満は1
00分の30」と定めている。
   エ 一般職給与条例23条の6第1項は,離職した日から当該支給日の前日までの
間に在職期間中の行為に係る刑事事件に関し起訴をされてその判決が確定
していない場合や,同期間中に同様の刑事事件に関して逮捕された場合等
で,期末手当を支給することが公務に対する信頼を確保し,期末手当に関す
る制度の適正かつ円滑な実施を維持する上で重大な支障を生じると認めると
きには,任命権者は期末手当の支給を一時差し止めることができると定めて
いる。
     そして,同項により支給が一時差し止められた期末手当について,同条例23条
の5は,上記刑事事件に関し禁錮以上の刑に処せられた場合はこれを支給し
ないと定めている。
   オ さらに,一般職給与条例25条4項は,一般職員が刑事事件に関し起訴された
場合において,休職(以下「起訴休職」という。)にされたときの給料等の支給
方法について定めているところ,同条5項は,同条4項の起訴休職にされてい
る職員については,期末手当を支給しない旨定めている。
  (2) 本件では,被告は,平成14年6月1日当時,C町長の職にあったものであるか
ら,常勤特別職給与条例5条1項により基準日に在職していたものとして,不支
給事由ないし減額事由に該当しない限り,本件期末手当の支給を受けることが
できる。
  (3) 原告は,期末手当も勤務の対価であるから,常勤特別職給与条例6条により準
用される一般職給与条例18条により,町長としての職務を提供しなかった期間
に対応する分については,被告は期末手当の支給を受けることができない旨主
張する。
    そこで検討するに,一般職給与条例18条は,職員が勤務しないときは,その勤
務しない1時間につき,同条例22条に規定する勤務1時間当たりの給与額を減
額した給与を支給するとしているところ,同条例22条1項は,「勤務1時間当たり
の給与額は,給料の月額に12を乗じ,その額を1週間当たりの勤務時間に52
を乗じたもので除して得た額とする」と定めている。上記の内容からすると,同条
例18条は,給料についてノーワーク・ノーペイの原則を具体化したものであり,
同条項の「給与」は「給料」を意味するものと解するのが相当である。
    また,前記のとおり,常勤特別職給与条例5条2項は,期末手当の額の算出方法
について,「一般職の職員の例により一定の割合を乗じて得た額とする」と定め
ているところ,上記「一定の割合」は(1)ウの「在職期間の区分に応じた割合」と解
される。そうすると,常勤特別職給与条例5条2項は,ノーワーク・ノーペイの原
則を,勤務を現実に提供していた時間ではなく,在職期間によって具体化したも
のと解すべきである。
    したがって,いずれにしても期末手当については一般職給与条例18条が準用さ
れる余地はないから,原告の上記主張は採用することができない。
  (4) 原告は,本件期末手当については,一般職給与条例23条の5,6による差止め
及び不支給処分がなされるべきであった旨主張する。
    しかしながら,前記のとおり,同条項は,職員が離職した日から当該支給日の前
日までの間に,在職期間中の行為に係る刑事事件に関して起訴されたり逮捕さ
れたりした場合等について,期末手当の差止め及び不支給処分を定めたもので
あるところ,被告は逮捕,勾留,起訴後に離職したものであるから,同条項が準
用される余地はない。
    したがって,原告の上記主張も採用することができない。
  (5) また,原告は,町長の職責にかんがみれば,町長が逮捕,勾留されて助役や職
員と面会したり,町側と一切接触することができないという状態は,一般職職員
の休職に相当するとみるのが合理的であるから,本件期末手当については,一
般職給与条例25条5項により支給すべきでないと主張する。
    しかし,町長については起訴休職の制度がないから,常勤特別職給与条例6条
によってこれを準用することができない。一般職職員が起訴休職になった場合は
期末手当が支給されないのに,一般職職員よりも高い倫理観が要求される町長
が起訴された場合に期末手当が支給されるのは不合理の感がないではない
が,条例に不支給とする旨の規定がない以上,やむを得ないところである。
    したがって,原告の上記主張も採用することができない。
  (6) さらに原告は,逮捕,勾留されている町長に本件期末手当を支払うことは,社会
通念上許されないし,地方自治法2条14項,地方財政法4条1項にも違反する
と主張する。
    しかし,町長に対する期末手当の支給について,いかなる場合にこれを支給しな
いかは,複数の選択肢から取捨選択して条例で定めるべき問題である。しかし
て,本件期末手当の支給については根拠規定があり,かつその減額規定及び
不支給規定がないことは前記のとおりであるところ,これらの規定が著しく不合
理であるとまではいえないから,上記事態が社会通念上許されないとの主張は
採用することができないし,これが地方自治法2条14項,地方財政法4条1項に
違反しているともいえない。
    したがって,原告の上記主張も採用することができない。
  (7) 以上によれば,本件期末手当は,特別職給与条例5条によって支給されたもの
であるところ,これを減額又は不支給とする規定はないから,その支給は適法と
いうべきである。
 4 以上の次第で,被告は,C町から町長の給料として得るべき本来の金額よりも少な
くとも77万円多い額の支給を受けたというべきであり,これは不当利得として,合
併によりC町の地位を承継したA市に対し,平成14年法律第4号による改正前の
地方自治法242条の2第1項4号に基づき,返還すべきものである。
第5 結語
   よって,原告の本件請求のうち,被告に対し77万円及びこれに対する遅延損害金
をA市に返還することを求める部分は理由があるからこれを認容し,その余の部分
は理由がないからこれを棄却し,仮執行宣言については相当でないからこれを付さ
ないこととし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,
64条本文を適用して,主文のとおり判決する。
    岐阜地方裁判所民事第2部
        裁判長裁判官林       道   春
           裁判官古   閑   裕   二
           裁判官      宮   﨑   朋   紀

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