弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

○ 主文
被告法務大臣が昭和五七年九月八日付けで原告に対してした出入国管理及び難民認
定法四九条一項に基づく原告の異議の申出は理由がない旨の裁決を取り消す。
被告大阪入国管理局主任審査官が昭和五七年九月一三日付けで原告に対してした退
去強制令書発付処分を取り消す。
訴訟費用は被告らの負担とする。
○ 事実
一 当事者の求めた裁判
(原告)
主文と同旨の判決
(被告ら)
原告の請求をいずれも棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決
二 原告の請求原因
1 原告は、昭和二九年二月七日父Aと母BことCとの間に出生した韓国人である
が、昭和四八年二月初め頃有効な旅券を所持せずに韓国から本邦に入国した。
原告は、右入国の事実が発覚したため、昭和五七年八月九日大阪入国管理局入国審
査官により出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)二四条一号に該当す
ると認定され、口頭審理の請求をしたところ、同月一六日同局特別審理官により右
認定は誤りがない旨の判定を受けた。そこで、原告は同日被告法務大臣(以下「被
告大臣」という。)に異議の申出をしたが、同年九月八日被告大臣は右異議の申出
は理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をし、同月一三日被告大阪入
国管理局主任審査官は原告に対し退去強制令書を発付した(以下「本件処分」とい
う。)。
2 しかしながら、本件裁決及び本件処分は以下に述べる理由によつていずれも違
法であるから、取り消されるべきである。
(一) 原告は、大阪市において出生し、両親の養育を受けながらDという氏名で
五歳位まで日本に居住していたが、その頃両親が別れたために、妹と共に父に連れ
られて韓国へ渡り、その後は父に育てられることになつた。ところが、原告が高校
二年生の時に父が交通事故で死亡し、父の本妻やその子供達とは疎遠で居所も不明
の状態であり、頼るべき身寄が全く無かつたことから、原告は、父が働いていた寺
の人に面倒をみてもらつたり、日本の母から送金してもらつたりして、昭和四七年
三月ようやく高校を卒業することができた。
原告は、母との離別が原告の意思に基づくものではなかつたこと及び父が死亡した
ことから、原告と母との間の文通の中で、日本へ入国して母と生活する意思のある
旨を明らかにし、これに対し母も原告の入国を望んだ。そこで、原告は母親に対す
る思慕の情押え難く、昭和四八年二月初め頃密航という手段で日本へ入国した。
原告は日本に入国後、他に身寄もなく女一人生活保護を受けて苦労しながら暮らし
ていた母のために、一〇年近くの間懸命に働き、婦人服縫製の技術を身につけ、そ
の結果、自宅にミシン三台を置いて母とともに婦人服縫製の下請けの仕事ができる
ようになり、取引先の信頼を得て毎月三〇万円位の収入を得、母も生活保護を受け
なくてすむようになつた。また、この間の預貯金も二〇〇万円位できて、今後とも
独立して生計をたてていく見通しが立ち、さらに原告自身が母の名義で市・府民税
を納付するまでになつた。
原告の母は昭和九年日本に入国し、その後引続き在留し、永住許可を得ているが、
高令であつて、苦労の連続のためか慢性関節リウマチを罹患して通院を続けてお
り、今後共原告が面倒を見る必要がある。原告が頼るべき親族は韓国にはいず、妹
Eは結婚して米国に居住している。
(二) 本件裁決及び本件処分は、原告親子を離別させ、約一〇年に及ぶ平穏な生
活を破壊し、はかり知れない苦痛と不利益を与えるものであり、確立された国際法
規というべき世界人権宣言九条、国際赤十字第一九回国際会議における離散家族の
再会に関する決議、難民の地位に関する条約、国際人権規約のB規約九条、一三条
に違反し、ひいては憲法九八条二項に違反するばかりか、直接憲法前文及び一三条
にも違反する。
(三) 本件裁決及び本件処分は、原告に対して何ら納得のいく合理的な理由を示
すことなくなされたものであり憲法三一条に違反する。
(四) 前記のような事情、特に原告の生い立ち、密航に不法目的のないこと、在
日中の生活態度、母親の病状、親族状況等を考えると、被告大臣は原告に対し人道
的見地からの配慮をすべきであつたのに、法五〇条一項所定の在留特別許可(以下
「特在許可」という。)を付与することなく本件裁決をしたものであるから、本件
裁決には裁量権の範囲を逸脱したか又は裁量権を濫用した違法がある。
(五) 被告大臣に対する異議申出者の七割以上の者に特在許可が与えられている
という実態、日本にいる親を頼つて不法入国した子に対しては特在許可がなされる
ことが多いという行政先例の存在に照らして、何ら特段の事情が存しないにもかか
わらず原告に対して特在許可を付与しなかつた本件裁決は、憲法一四条、国際人権
規約B規約二六条の平等原則に違反する。
3 よつて、原告は本件裁決及び本件処分の取消しを求める。
三 請求原因に対する被告らの認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実中、本件裁決及び本件処分がいずれも違法であるとの主張は争う。
同(一)の事実中、原告の父の帰国の動機、その死亡の原因、原告が父の死後父の
稼働先の寺の人に面倒をみてもらつていたことは知らず、原告が父の本妻やその子
供達とは全く疎遠で同人らの居所も不明であり、頼るべき身寄が全くなかつたこと
は否認し、その余は認める。
四 被告らの主張
1 法四九条三項に基づく法務大臣の裁決は、容疑者が該当するとされた退去強制
事由の有無を判断の内容とするものであり、また、法務大臣が異議の申出は理由が
ない旨裁決した場合には、主任審査官は必ず退去強制令書を発付しなければなら
ず、そこには何ら裁量の余地は存しないのであるから、本件裁決及び本件処分はい
ずれも裲束処分であり、そこには何ら違法な点は存しない。
退去せしめられる不法入国者がその在留を否定され、ひいては在留からもたらされ
る諸利益を失うとしても、右の在留及び諸利益は、もともと違法なものであるか、
そうでなくても違法状態の上に築かれたものとして、退去強制に当たつては法的保
護の対象となるものではない。
2 世界人権宣言は、全ての人類と全ての国とが達成すべき共通の基準として布告
されたものであるから、それ自体が国際法規範としての拘束力を有するものではな
く、離散家族の再会に関する決議は、非政府団体の勧告以上のものではなく、あく
まで道義の次元のものである。
また、難民の地位に関する条約は、難民であるとの認定を受けて始めてその適用が
あり、B規約九条、一三条は手続規定である。更に、憲法前文の文言は極めて抽象
的な内容であつて、そこに裁判規範性を認めることはできず、原告のような事情に
ある不法入国者を退去強制することが直ちに個人の尊厳に反すると言えるものでな
いことも明らかであつて憲法一三条に違反しない。
3 本件手続は原告が不法入国者であるという明確な事実を挙示してなされたもの
であり、また、特在許可の許容の判断は法務大臣の自由裁量に属するものであるか
ら、その判断の理由は、特にこれを示すべきであるとする法律の規定がない以上何
ら示す必要はないのであつて、原告の憲法三一条違反の主張も理由がない。
4 特在許可の許否の判断は、法務大臣の自由裁量に属し、しかも、特在許可は、
当該外国人の個人的事情のみならず、国際情勢、外交政策等の客観的事情を総合的
に考慮したうえ決定される恩恵的措置であつて、その裁量の範囲は極めて広く、仮
に、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用が違法事由になる場合があるとしても、本件
については、原告に対して特在許可を与えなかつたことに裁量権の範囲の逸脱又は
その濫用の違法はない。
五 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 被告は、本件裁決及び本件処分がいずれも覊束処分であり、何ら違法な点は存
しないと主張する。しかしながら、法務大臣は裁決に当たり異議の申出が理由がな
いと認める場合でも一定の事由に該当するときはその者の在留を特別に許可するこ
とができるとされ(法五〇条一項)、退去強制が著しく不当であることを理由とし
て異議を申し出る場合には、その資料を提出すべきものとされている(法施行規則
四二条四号)ことなどからすれば、異議の申出が理由がないとする裁決は、入国審
査官の認定を相当としてこれを維持するのと同時に、特在許可を付与しないとの判
断を示した処分にほかならないというべきである。したがつて、特在許可を付与し
ないことが違法であれば、この点を違法事由として裁決の取消しを求めることがで
き、さらに、主任審査官は退去強制令書の発付について裁量の自由を有しないが
(法四九条五項)、法務大臣の裁決の違法性は後行処分たる退去強制令書発付処分
に承継されるものというべきである。そして、特在許可を与えるか否かは、諸般の
事情を総合的に考慮したうえで決定されるべき事柄であり、法務大臣の広範な自由
裁量に委ねられているが、特在許可を与えないことが、裁量権の範囲を逸脱し又は
裁量権を濫用してされたものと認められる場合には、特在許可を与えないことは違
法というべきである。よつて、被告大臣が原告に対し特在許可を付与しなかつたこ
とにそのような違法があるか否かについて、以下判断する。
三 成立に争いのない甲第三、四号証、第八、九号証、第一一号証、乙第一号証、
第一三ないし第一八号証、証人Cの証言により真正に成立したと認められる甲第五
及び第一二号証、証人Cの証言並びに原告本人尋問の結果を総合すると、次の事実
を認めることができる。
1 原告の母C(旧称B)は、昭和九年現在の韓国済州道から大阪市に来て、しば
らく働いた後、昭和一三年にFと結婚して一女を儲けたが、Fが暴力を振うことか
ら昭和一六年頃同人と離別した(なお、同人は長女を連れて韓国に帰つた後に死亡
しており、長女の行方は判明しない。)。終戦後、原告の母はAと同棲するように
なり、原告を懐妊したが、Aが韓国に本妻と三人の子供がいるからもう子供はいら
ないと言つて原告の母に乱暴するので、原告の母はAと別れて、昭和二九年二月七
日、知人の家で原告を出産した。その約二年後にAは原告の母の住居を探し出し、
大阪市<地名略>内の家屋を購入してそこで親子三人暮らすようになり、昭和三二
年三月三〇日には原告の妹Eが生まれた。その後、Aは、借金に追われて右家屋を
売り払い転居したが、昭和三四年四月末頃、原告(当時五歳)と妹を連れて韓国へ
帰つた。原告の母は、Aが相変らず暴力を振うことや韓国にはその本妻がいること
から、一緒に行つても苦労するだけであろうと考えて、日本に留まつた。
2 韓国に帰国後、原告の父は、原告の妹を本妻宅に預け、原告を連れて僧侶のよ
うな仕事をしながら韓国済州道内の寺院等を転々としたので、原告は国民学校を三
度、中学校を一度それぞれ転校して、高校に進学した。原告は、日本の母のことを
噂等で聞いており、父も原告が高校を卒業したら正式な手続で原告を日本の母の許
へ行かせてやる旨話していたので、一度日本へ行つてみようと思つていたところ、
昭和四五年四月一日父が交通事故で死亡した。原告はこれまで父の本妻や異母兄弟
と一緒に暮らしたことがなく、文通すらしていなかつたので、頼るべき身寄がなく
なり、日本の母に父が死んだので母の許へ行きたい旨連絡したところ、母から来日
するように言われた。原告は、寺院の世話になりながら母からの送金によつてどう
にか高校を卒業したので、是非とも日本の母の許へ行こうという気持を強めた。
原告は、高校卒業後釜山市へ行き、アルバイトをしながら密航の機会を窺つていた
が、昭和四八年二月初め頃その機会を得、木造鮮魚運搬船に三日間潜んで九州の某
地に上陸し、そのまま大阪市内の母の許に行つた。
3 原告は母の遠戚であるG方に住み込んで紳士服の縫製見習いとして働くように
なり、休日等に時々母方に泊る等しながら、昭和五二年夏頃まで見習いを続けた。
その後、母方から通つて婦人服縫製の仕事等をしていたが、昭和五四年四月から母
の許で自立して婦人服縫製業を営むこととなつた。原告の不法入国が発覚した頃に
は、原告はミシン三台を有して、母と二人、多忙な時にはアルバイトを雇つて働
き、月収三〇万円位を得、貯金も二〇〇万円位になつていた。
また、原告は不法入国者であるので、母名義で市・府民税を納付してきた。
4 原告が不法入国した頃、母は生活保護を受けていたが、約二年後にはこれを受
けなくてすむようになつた。しかし、原告が収容されたために、慢性関節リウマチ
を患つている母は、昭和五七年一〇月一六日から再び生活、住宅及び医療扶助を受
けるに至つた。母の左右指関節はふしくれ立つてくの字形に変形しており伸長でき
ず、右腕関節はやや扁平に変形し、左右膝関節にはいわゆる水が溜りこれを医師に
抜いてもらつている。
なお、原告は健康な独身者で、まだ婚約者はおらず、妹Eは米国人と結婚して、米
国に居住しており、母の両親は既に死亡しており、原告の義兄夫婦と母の妹が韓国
済州市に居住しているが、原告との交際はほとんどなかつた。原告の母は、一九一
九年五月一一日生れで、昭和五七年四月三〇日法附則七項一号による永住許可を受
けており、旧称のBはAと同棲当時に同人が勝手にその名前で外国人登録の手続を
していたものであり、昭和五八年七月二八日戸籍どおりの氏名に登録訂正がされて
いる。
5 原告は、不法入国の事実が発覚したため、昭和五七年七月八日外国人登録法違
反により大阪地方裁判所に公訴を提起され、同年九月八日に懲役八月、執行猶予二
年の判決を言い渡され、右判決は確定している。
四 以上認定の事実、特に、原告は日本で出生した者であるところ、わずか五歳の
頃父母の別離のため本人の意思とは無関係に韓国へ渡らざるをえなかつたこと、本
邦への不法入国の動機も父と二人で遍歴の生活をした後一六歳の頃に父を失い、韓
国に親しい身寄もいなかつたので、母と共に生活をしたいとの母を想う肉親の情に
あつたこと、来日後原告は努力して婦人服縫製の技術を身につけ、やつと独立して
一家の家計を維持する者として母を養いつつ貯えも可能になつた頃に不法入国が発
覚したこと、原告は来日後九年余真面目に働き、母と二人で平穏な生活を営んでお
りこのまま本邦に居住させたとしても国益を害するおそれは認められないこと(な
お、被告らは、不法入国者の在留及び失うことになる諸利益はもともと違法なもの
であるから保護に値しないと主張するが、原告については、その出生及び出国の事
情に照らすと、そのようにいうことは酷であり、本件には被告らの右主張は当ては
まらないというべきである。)、原告の母が永住許可を得ており、老令に加えて現
在病気で苦しみ、原告の物心両面の援助を必要としていること等の事情を勘案する
と、原告に対して被告大臣が特在許可を付与せず、その結果原告と母とを引き裂
き、彼らの築きあげた平穏な生活を破壊することは、これをもやむを得ないとする
特段の事情が存しない限り、人道に悖る苛酷な行為であり正義に反するというべき
である。しかるところ、本件においては右特段の事情は何ら窺えないので、結局、
被告大臣が原告に対し特在許可を付与しなかつたことについては、その裁量権の行
使を誤つた違法があるというべきであり、したがつて、本件裁決は違法なものとし
て取り消されるべきであり、その後行処分たる本件処分も違法として取り消される
べきものである。
五 してみると、原告の本訴各請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟
費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適
用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 青木敏行 古賀 寛 梅山光法)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛