弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役参月に処する。
     原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
     本件公訴事実中、被告人が昭和二十二年五月二日勅令第二〇七号外国人
登録令施行以前から同二十三年四月頃まで、引続き京都市a区b町A方に居住して
いたにかかわらず、法定期間内にa区長に対し、右勅令附則第二項所定の登録の申
請を行わなかつたとの事実(すなわち、昭和二十五年十一月二十八日附起訴状記載
事実)につき、被告人を免訴する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、末尾添附の京都地方検察庁検事正代理検事岡正毅作成名義の
控訴趣意書記載のとおりである。
 本件は、検察官より、先ず、昭和二十五年十一月二十八日附起訴状をもつて、
「被告人は韓国人で外国人登録令の適用については、外国人とみなされるものであ
るが、昭和二十二年五月二日勅令第二〇七号外国人登録令施行当時以前から同二十
三年四月頃まで、引続き京都市a区b町A方に居住していたにかかわらず、法定の
期間内に、a区長に対し、右勅令附則第二項所定の登録の申請を行わなかつたもの
である「旨の事実につき起訴がなされ、よつて、原審において、この事実を審理
中、被告人が、既に、昭和二十三年五月二十九日大阪地方裁判所において、法定の
除外事由がないのに外国人登録令施行の日から三十日以内に法定の登録申請をしな
かつた事実につき、罰金五百円の判決言渡を受け、該判決が確定していることが判
明したので検察官は、更に、昭和二十六年二月十五日同日附追起訴状をもつて、
「被告人は、韓国人であつて、外国人登録令の適用については外国人とみなされる
ものであるが、昭和二十二年五月二日勅令第二〇七号外国人登録令施行当時以前か
ら引続き本邦内に居住しているにかかわらず、法定の期間内に、本邦内いずれの市
町村長に対しても、右勅令附則第二項所定の登録申請を行わなかつた事実により昭
和二十三月五月二十九日大阪地方裁判所において、罰金五百円の判決言渡を受け、
その判決は確定したものであるところ、その後引続き、大津市c番地不詳B方、京
都市a区b町d番地A方、その他本邦内に居住していたにかかわらず、昭和二十五
年十一月二十八日までの間、大津市長、京都市a区長その他いずれの市町村長に対
しても、所要の登録申請を行わなかつたものである「旨の事実を追起訴した。とこ
ろが、原審は、右各事実につき、公判審理をつくした上、外国人登録令附則第二
項、昭和二十四年政令第三八一号による改正前同令第十二条第二号違反の所為は、
外国人が所定の登録申請を為すべき義務に違反し、登録申請をしないことを内容と
するもので、いわゆる不作為犯に属するものであり、同令施行の日から三十日以内
に登録申請をしなかつたことにより、その期間経過と同時に登録義務違反罪が成立
し、その後その登録申請をするか、又は、本邦を退去するまでの間、その義務違反
は継続するものと解すべきであるから、それは、いわゆる継続犯であり、しかも、
その登録申請義務は、一回的行為により果し得る単一のもので、その義務違反は、
不可分的に継続し、同一外国人について数個の登録申請義務を認めたり、継続する
時の流れを分割して、それぞれについて、別個の義務違反を考えたりする余地はな
いから、これを、本来数個の犯罪の組成であり、元来分割可能な改正前刑法第五十
五条の連続犯や牽連犯、慣行犯等、いわゆる集合的犯罪の場合と同一に解すること
はできない。従つて、本件起訴事実及び追起訴事実並びに前記確定判決により認定
された事実は、それぞれ別個独立の登録申請義務違反罪を構成するのではなくて、
それは、被告人の一個の継続する登録申請義務違反行為の各一部分即ち、一罪の各
一部分に過ぎないから、その一部につき、叙上の如き確定判決のあつた以上、その
判決の既判力は、その判決において認定されている事実についてはもちろんのこ
と、本件起訴事実及び追起訴事実の全部にも及ぶものであるとして、本件につき、
刑事訴訟法第三百三十七条第一号を適用の上、免訴の言渡をした。
 よつて、按ずるに、昭和二十二年政令第二〇七号外国人登録令附則第二項第三項
は、昭和二十二年五月二日右勅令施行の際、現に本邦内に在留する外国人は、その
勅令施行の日から三十日以内に、同令第四条の規定に準じ、その居住地市町村長に
対し、外国人登録申請を行うべきものとし、若し、右期間内に申請を行わなかつた
時は、同令第四条違反の場合と同様、同令第十二条第二号により処罰すべきことを
定めているのであるが、右申請義務は、その申請義務者において現実に申請を行う
までの間存続し、従つてその登録不申請罪は、不申請のまま上記法定期間を徒過す
ることにより直ちに既遂となるが、その既遂状態は、その者において、所定の申請
を行うか、或いは又国外へ退去するまでの間引続き継続するいわゆる継続犯である
と解すべきである。(大阪高等裁判所昭和二十六年六月一日言渡判決、札幌高等裁
判所同年三月二十八日言渡判決、福岡高等裁判所同<要旨>年五月二十四日言渡判決
各参照)ところで、右の如き継続犯を構成する事件につき判決の為された時は、そ
判決の既判力(実質的確定力)の及ぶ範囲は、事件の単一且つ同一である
限り、その全部にわたることもちろんではあるが、若し、継続犯が、その判決の前
後にまたがり行われた場合には、その既判力の範囲は、原則として、事実審理の可
能性ある最後の時、すなわち、第一審判決言渡の当時(例外として、上訴審におけ
る破棄自判の判決言渡当時)を限界とし、それまでに行われた行為については既判
力が及ぶが、その時以後に行われた行為については既判力は及ばないものと解する
のが訴訟法の理念と刑事政策の見地からして、最も合理的であると考えられ、従つ
て、その判決言渡後に行われた行為に対しては、更に新らたな公訴の提起が許され
るばかりでなく、又それは実体法的にも社会通念上、判決言渡前の行為とは別個独
立の犯罪を構成するものと解するのが相当である。(大審院昭和八年三月四日言渡
判決、同昭和九年三月十三日言渡判決、最高裁判所昭和二十四年五月十八日言渡判
決各参照)もつとも、原審は、継続犯は元来分割不可能な単一行動であるから右の
様な場合、これを判決言渡の前後に分割し独立別個の犯罪と認めることは、事実上
不可能であり、従つて、判決の既判力も、判決言渡の前後を問わずその全部に及ぶ
旨判示するのであるが、既判力の範囲をどの程度に認めるかということは、結局叙
上の如く訴訟法の理念と刑事政策の見地から合目的的に決めらるべき訴訟法上の問
題である点に注目すれば、以上の如き解釈の可能であるばかりでなく、より合理的
であることが容易に了解できよう。原判示の如き判決言渡後の行為にして、事実上
審判の対象となり得ない事実にまで既判力を及ぼし、不当に犯人に利益を与えるこ
とは刑事訴訟法を支配している正義の許さないところというのほかはない。よつ
て、これを本件について見ると、被告人は、既に、昭和二十三年五月二十九日大阪
地方裁判所において、法定の除外事由なく外国人登録令施行の日から三十日以内に
登録申請しなかつた事実につき、罰金五百円の判決言渡を受け、その判決は確定し
ているから、昭和二十二年五月二日以降右判決言渡の日までの登録不申請罪につい
ては、既に右確定判決の既判力が及び、従つて、本件起訴にかかる昭和二十二年五
月二日以降昭和二十三年四月頃までの被告人の登録不申請罪については、既にその
確定判決があつたものと見られるから、右起訴事実については、刑事訴訟法第三百
三十七条第一号により被告人に対し免訴の言渡を為すべきこともちろんではある
が、本件追起訴にかかる右判決言渡後、昭和二十五年十一月二十八日までの被告人
の登録不申請の事実については、右確定判決のあつた事実とは別個独立の事実と見
られるから、これに対し更にその実体的判決の為されるべきは当然であり、この事
実についてまで被告人に免訴を言渡した原判決には、法令の解釈適用を誤つた違法
があり、この違法が判決に影響を及ぼすこともちろんである。論旨は理由があり、
原判決は破棄を免れない。
 よつて、刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十条により原判決を破棄し、なお、
同法第四百条但書に従い、更に本件につき次のとおり判決する。
 被告人は、韓国人であつて、外国人登録令の適用については外国人とみなされる
者であるが、昭和二十二年五月二日勅令第二〇七号外国人登録令施行以前から引続
き本邦内に居住していたものであるにもかかわらず、法定の期間内に本邦内いずれ
の市町村長に対しても、右勅令附則第二項所定の登録申請を行わなかつた事実によ
り、昭和二十三年五月二十九日大阪地方裁判所において、罰金五百円の判決言渡を
受け、これが確定したものであるところその後も引続き京都市a区b町d番地A方
その他本邦内に居住していたにもかかわらず、昭和二十五年十一月二十八日までの
間、京都市a区長その他いずれの市町村長に対しても、所要の登録申請を行わなか
つたものである。
 右の事実は、
 一、 被告人の原審第三回公判調書中の供述記載、
 一、 山科警察署長より京都市a区長宛Cの外国人登録令違反事件に関する照会
及びこれに対する回答書の記載、
 一、 大阪地方検察庁検察事務官作成のC外二名に対する外国人登録令等違反事
件判決謄本及びCの前科調書の記載を綜合して、これを認める。
 法律に照すと、上記被告人の所為は外国人登録法附則第三項、昭和二十四年十二
月政令第三百八十一号附則第七項、昭和二十二年勅令第二〇七号外国人登録令(昭
和二十四年政令第三八一号による改正前のもの)附則第二、三項、同令第四条第一
項、第十一条第一項第十二条第二項、罰金等臨時措置法第二条に該当するから、そ
の所定刑中懲役刑を選択し、その刑期範囲内で被告人を懲役参月に処すべきものと
し、原審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項により全部被告人の負
担とする。
 なお、本件起訴事実中主文第四項記載の事実については、前叙の如く、既に確定
判決があつたものであるから、刑事訴訟法第三百三十七条第一号により被告人を免
訴する。
 よつて、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 瀬谷信義 判事 西尾貢一 判事 福本一)

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