弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人が昭和二十七年六月十六日控訴人に対
しなした農業委員の資格喪失の決定を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人
の負担とする」という判決を求め被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述並に証拠の提出援用認否は、控訴代理人において、
(一)原判決二枚目表二行に「同所a番地」とあるのを「同所a番地のb」と、同
二枚目裏五行目に「c字d番地」とあるのを「大字c字e番、f番地」と各訂正
し、(二)大牟田市大字g字hi番地の畑(土地台帳の登録面積五畝十五歩。実側
面積二百九十一坪三勺余)の耕作名義人は訴外Aであるが、実際は控訴人が本件農
業委員選挙に立候補するより遥かに以前から自己の計画と計算に基いて耕作してい
るのであるから、右農地の面積も控訴人の耕作面積に算入すべきである。(三)仮
に右i番地の畑が控訴人の耕作農地ではなくAの耕作農地だとしても、Aは控訴人
の配偶者とみなすべきものであるから、同人の耕作面積は控訴人の耕作面積に加ゆ
べきものである。原判決は控訴人には法律上の妻Bがいるから控訴人とAの同居関
係は公序良俗に反し法律上の保護に値しないと説示しているけれども、それは実情
にそわない判断でる。控訴人の妻Bは子供を連れて家出したものであつて、控訴人
において百方手を尽して捜索したけれども全く行衛が判明しないので、控訴人はA
と同居するようになつたのである控訴人としてはBの生死さえ不明のため正式の離
婚手続をとることもできない状態であつて、かような立場にある控訴人とAとの同
居関係は公序良俗に反するものではなく、Aは控訴人の配偶者とみなして法的保護
を与えるのが至当である。(四)以上のとおりi番地の畑は控訴人の耕作面積に加
ゆべきものであるから、控訴人の耕作反別は一反歩以上となり農業委員の資格に欠
ぐるところはないと補陳し被控訴代理人において、原判決三枚目裏十二行目に「大
字ce番地」とあるのを「大字c字e番、f番地」と訂正した外、原判決事実摘示
と同一であるからこれを引用する。
         理    由
 控訴人が昭和二十六年七月二十日施行の大牟田市農業委員の選挙に立候補して当
選したこと及び被控訴人が控訴人の耕作面積は八畝二十九歩であつて農業委員会法
第八条所定の被選挙資格がないという理由で昭和二十七年六月十六日控訴人の農業
委員たる資格の喪失を決定し、その頃その旨控訴人に告知したことは当事者間に争
がなく、該決定が農業委員会法第十三条によつて市町村農業委員について準用され
る地方自治法第百二十七条第一項の規定に基いてなされたものであることは成立に
争のない乙第三号証によつて明である。
 <要旨>さて農業委員に準用される右地方自治法の条項に「被選挙権の有無」とあ
るのは市町村農業委員会が同条項による決定をする当時における被選挙権の
有無だけを指すものではなく、いやしくも委員の任期中に存する事実に基く以上は
既往における被選挙権の有無も包含するものと解するのが相当である。従つて委員
の任期中の或る時期に被選挙権を有しないときは、その後被選挙権を有するに至つ
た場合でも、市町村農業委員会は当該委員の資格喪失の決定をなし得るものといわ
なければならない。そこで控訴人の委員の任期中に事ける被選挙権の有無について
検討するに、成立に争のない乙第二号証の一、二、乙第四号証の一、乙第七号証の
一乃至三、乙第十一号証、原審証人C、同A、同Dの各証言、同Eの証言の一部と
原審における検証、鑑定人Fの鑑定及び控訴本人尋問の各結果を綜合すると、控訴
人は妻Bが昭和二十一年中無断家出し行衛不明となつたので、その後昭和二十四年
五月頃から訴外Aと同棲して事実上の夫婦関係を結び、昭和二十五年以来Aが第一
次農地買収の際政府より売渡を受けた自作農創設農地である大牟田市大字g字hi
番地畑五畝十五歩(実測面積九畝二十一歩余)を自ら耕作し、Aは控訴人の該耕作
を手伝つている事実を認定することができる。前記証人Eの証言中右認定にそわな
い部分は措信することができないし他に該認定を左右すべき証拠はない。
 しかし市町村農業委員の選挙権及び被選挙権の要件を定めた農業委員会法第八条
第一項第一号に「農地につき耕作の業務を営む者」とは当該農地につき所有権、賃
借権その他適法の権原に基き耕作の業務を営む者を指称し、適法の権原に基かない
不法耕作者を含まないと解するのが相当である。しかるに前記認定の事実によれ
ば、控訴人はAと事実上の夫婦関係を結び同人の手伝を受けて同人所有の本件i番
地の畑を自ら耕作しているのであるから、両者間には該農地について少くも暗黙に
使用貸借契約がなされたものとみるべきであるが、その使用貸借による権利の設定
について所轄県知事の許可を受けたことについては控訴人において主張も立証もし
ないから、右使用貸借による権利の設定は当時の農地調整法第四条第一項に違反し
その効力がないものといわなければならない。さすれば控訴人は右農地について適
法の権原に基き耕作の業務を営む者とは認められないから、該農地は農業委員会法
第八条第一項第一号の適用上控訴人の耕作地とみることはできない。なお、農業委
員会法施行規則別記第一号様式の記載注意事項4によると、市町村農業委員選挙人
名簿調整のための申請書に記載すべき耕作面積は、世帯で実際に耕作している農地
の合計を記入するものとし、世帯単位によることになつているが、ここに世帯とは
農業委員会法第八条第一項第二号所定の「同居の親族又はその配偶者」からなる生
活協同体を指称し、又親族といい配偶者というのは法律上の親族又は配偶者でなけ
ればならない(昭和二五年三月二八日最高裁判所第三小法廷判決参照)。しかるに
控訴人とAは法律上の親族又はその配偶者ではなく事実上の夫婦に過ぎないから、
仮に本件i番地の農地をAの耕作する農地とみても、その農地の面積を控訴人の耕
作面積に合算することはできない。
 次に控訴人はA所有の福岡県三池郡j村大字c字e番、f番地田九畝二十七歩及
び同所二五四七番地の一田一畝二十四歩の二筆も控訴人においてこれを耕作してい
ると主張するのであるが、控訴人の主張自体によるもこれらの二筆の農地を控訴人
が耕作するようになつたのは控訴人が本件農業委員に当選してから十箇月以上も経
過した昭和二十七年六月以降のことであるから、該農地はそれ以前における控訴人
の被選挙権と関係がないものといわなければならない。
 そこでA所有の叙上三筆の農地を除外すると、その他の本件各農地に関する控訴
人の主張を仮にそのまま是認しても、昭和二十七年五月以前の控訴人の耕作面積は
一反に満たないこと明瞭であるから、控訴人は市町村農業委員の被選挙権を有しな
いものといわねばならない。従つて被控訴人のなした本件資格喪失決定は結局正当
であつて、該決定の取消を求める控訴人の本訴請求は失当として排斥を免れない。
 そこで右と同旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから、民事訴訟法
第三百八十四条第八十九条を適用し主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 森静雄 判事 竹下利之右衛門 判事 中園原一)

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