弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,A実行委員会に対して,2563万9000円を支払えとの請求を
せよ。
2A実行委員会に対して2563万9000円を支払えとの請求をすることを
被告が怠ることは,違法であることを確認する。
第2事案の概要
本件は,旧B村(平成17年2月11日の近隣町村との合併により現在はL
市。以下,合併前のB村を単に「旧B村」という。)の住民によって構成され
るオンブズパーソンである原告が,平成13年7月に行われたイベントA(以
下「本件イベント」という。)の赤字補てんのため旧B村が本件イベントを主
催したA実行委員会(以下「A実行委員会」という。)に対して助成金256
3万9000円(以下「本件助成金」という。)を支出したことは,地方自治
法232条の2に規定された公益性を欠く違法な支出であり同額の損害が旧B
村に生じているとした上,A実行委員会に対する損害賠償請求ないし不当利得
返還請求を被告が怠っていることが違法であると主張して,被告に対し,その
違法確認と,被告がA実行委員会に対して損害賠償請求又は不当利得返還請求
をすることを求めたところ,被告がこれを争っているという事案である。
その主たる争点は,(1)本案前の争点として原告の当事者能力及び原告適格
の有無,(2)本案の争点として本件助成金の交付について旧B村長の裁量逸脱
濫用の有無である。
1前提事実
以下の事実は,括弧内に記載した証拠により認めることができるか,又は当
事者間に争いがない。
(1)A実行委員会は,地元企業の経営者や旧B村役場職員等により構成され,
旧B村内の円形劇場等においてコンサート等のイベントを開催運営してきた
任意団体であるところ,平成13年7月27日及び同月28日に,それぞれ
「MAX」及び「DAPUMP」のコンサートを開催することを企画し,
これを主催運営した。
ところが,上記コンサートについては5808万3331円の赤字が発生
し,①公演開催契約において損失分担を約束していた3分の1に当たる19
36万1110円のほか,②東京地方裁判所における訴訟上の和解により旧
B村とA実行委員会委員長が連帯支払を合意した1250万円(本来は青森
市のCプロダクションが分担すべき金額のうち936万1110円の未収金
を含む。),③弁護士費用141万円,④訴訟経費54万5340円及び⑤
赤字分を一時的に補てんするために株式会社D銀行から借り入れた金員の利
息88万3467円を加えた合計3469万9917円がA実行委員会の実
質的な赤字負担額となった(甲2,乙26の4)。
(2)平成15年5月19日,A実行委員会は,旧B村に対し,上記赤字損失の
補てんのため,同額の助成金の交付を要請した(甲2)。上記要請を受けた
旧B村は,同年7月18日,A実行委員会に対し,上記要請額のうち256
3万9000円を助成金として支出した(甲3の1から3まで。以下「本件
公金支出」又は「本件助成金支出」という。)。
(3)平成16年2月27日,原告は,旧B村監査委員に対し,本件についての
住民監査請求を行ったが(甲5),同年4月23日,旧B村監査委員は上記
住民監査請求を棄却した(甲6)。
2原告の主張
(1)本件公金支出が違法であること
以下の点に照らせば,A実行委員会に対する本件公金支出は,地方自治法
2条14項ないし地方財政法4条1項の趣旨に反し,地方自治法232条の
2に規定された公益性を欠く違法な支出である。
ア平成13年7月に開催されたコンサートは,主として若年層を支持層と
するいわゆるアイドルグループ2組の公演興業であり,それ自体として公
益性を有するものとはいえない。
イ本件公金支出の額は,これまでA実行委員会に対して助成金・補助金と
して支出されてきた金額に比しても非常に巨額である。
ウ本件以前のイベント,例えば平成12年7月に開催された「Hell
o!Project2000」では相当額の利益が生じたと言われて
いるが,A実行委員会が主催したイベントの経理は不透明である。平成1
2年度のイベントの見積書における経費支出は合計5455万7365円
であったから,実際のチケット収入が7558万円であったとすると,合
計約2000万円の収入があったはずである。また,プロダクション関係
者も「旧B村O課長から800万円の利益があったと聞いている。」とか,
A実行委員会の事務局長のEも「Fと800万円を折半して400万円の
利益があった。」とか,旧B村助役も「300万円をFと折半して150
万円の利益があったとO課長から聞いている。」などと原告に対して述べ
ている。また,過去のイベント活動の実態などについては村議会でも明ら
かにされておらず,村当局はA実行委員会の赤字補てんのために無批判に
助成金交付を決定したものであって,あまりにも無定見なやり方である。
また,平成13年の本件イベントの経理についても,不自然な点やずさ
んな点が散見される。
エ本件公金支出は,赤字損失処理のためにA実行委員会がD銀行から借り
入れた債務の大半の弁済に充てられたものであり,同銀行に対するA実行
委員会の債務の肩代わりである。
オ赤字損失の処理について,A実行委員会自身における自助努力がどの程
度されたのかについては不明である。
総務省自治財政局長から各都道府県知事等に発せられている「第三セク
ターに関する指針」では,単なる赤字補てんを目的とした公的支援は行う
べきではないとされており,地方公共団体が出資をする第三セクターに対
する公的支援ですら,その当否については厳格に検討すべきこととされて
いる。まして,一任意団体に過ぎないA実行委員会に対しては安易に助成
金の交付を行うべきではなく,赤字処理については第一次的にはA実行委
員会の自助努力によってされるべきである。
(2)被告のA実行委員会に対する損害賠償請求等の懈怠
上記のとおり,本件公金支出は違法であり,旧B村には公金支出額と同額
の損害が生じているのであるから,被告はA実行委員会に対して不法行為に
基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求をすべきである。しかし,被告は
現在に至るまでその請求を行っておらず,これを違法に怠っている。
よって,原告は,被告に対し,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,
怠る事実に係る相手方であるA実行委員会に対して2563万9000円の損
害賠償請求又は不当利得返還請求をすることを求めるとともに,同項3号に基
づき,被告が上記請求をすることを怠ることが違法であることの確認を求める。
3被告の主張
(1)本案前の主張(原告の当事者能力及び原告適格)
ア原告の当事者能力の欠如
団体が権利能力なき社団といえるためには,団体としての組織を備え,
多数決原理が支配し,構成員の変動にもかかわらず団体そのものが存続し,
その組織によって代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体として
の主要な点が確定していることを要するものと解するのが相当である(最
高裁判所第一小法廷昭和39年10月15日判決・民集18巻8号167
1頁)。
しかるに,原告の会則(甲7の2)をみても,決議の方法を始めとして,
代表の方法や総会の運営方法も不明である。更に,役員として3名の名前
があるけれども,団体としての体をなすだけの構成員がいるのかすら疑問
があるし,財産管理の実態(財産の独立性)も不明である。
よって,原告は,権利能力なき社団には該当せず,訴訟法上の当事者能
力を有しない。
イ原告適格の欠如
仮に,原告が権利能力なき社団に当たるとしても,権利能力なき社団に
は住所がなく,「住民」(地方自治法242条の2第1項)といえないか
ら,原告適格を欠く。
また,原告は,会則の第3項によれば,その構成員を旧B村の住民に限
定していないから,住民でない者が実質的に住民訴訟を提起することが可
能となるが,これは住民訴訟の制度趣旨に反するし,旧B村の住民であっ
ても,個人としては住民訴訟を提起する意思のない者たちが,専ら団体の
名で住民訴訟を提起する目的で権利能力なき社団を結成することもまた住
民訴訟の制度目的に反する。
原告の設立時期や原告の会報に記載された内容,会則第2項記載の目的
からみて,原告設立の主目的及びその実際の活動内容は,監査請求・住民
訴訟の提起にあり,しかも旧B村民でない者の関与をも意図していたとい
わざるを得ないから,原告の原告適格は認められない。
(2)本案の主張
ア本件助成金の交付は,旧B村補助金等の交付に関する規則4条に基づき,
助成金を交付することが適当であると判断され,決定されたものである。
また,村議会でも「平成15年度B村一般会計補正予算(第2号)」とし
て当然に議論され,その結果,議決を経ている。
イ地方公共団体が助成金を交付するか否かは,当該地方公共団体における
経済的,社会的,文化的な諸要素や各種の行政施策の在り方等の諸事情を
総合的に考慮した上で,住民の多様な意見及び利益を勘案して,様々な政
策要求の優先関係を政治的に決定してその行政目的を達成し,もって住民
の福祉の増進に寄与するいう見地から判断すべきものであるから,地方公
共団体の長に政策判断としての裁量権が認められていると解すべきである。
そうであれば,地方自治法232条の2の「公益上の必要性」の判断は,
補助の目的,経緯,効果等の諸事情を総合的,政策的に考慮して行われる
裁量的判断であり,その裁量権の逸脱又は濫用がない限り,助成金の交付
が違法となることはないと解すべきところ,以下の諸事情に照らせば,被
告に裁量権の逸脱又は濫用はない。
(ア)補助の目的
助成金の支出は,イベントにより観光振興や地域経済の活性化,若者
に魅力ある地域づくりを援助することを目的としている。
(イ)補助の効果
A実行委員会によるイベント開催は,旧B村に,①村の総人口を超え
る集客,②観光客の急激な増加,③車両通過台数の増加,④若者に魅力
のある地域づくりの結果として若年者の人口維持,⑤村の知名度アップ
による農産物への注目の集まりなどといった効果をもたらしている。
(ウ)予算に占める割合
助成金の支出された平成15年度の旧B村の一般会計の歳入歳出予算
の総額は31億1681万3000円であり,本件助成金支出額はこの
0.82%に過ぎない。
(エ)A実行委員会の性格
A実行委員会は,旧B村の村づくり事業に協力することを目的として
設置されたものである(A実行委員会運営規定第1条)。また,構成員
は旧B村長の委嘱に基づいており,事務局長が旧B村収入役とされ,会
計と書記がいずれも旧B村職員とされており,A実行委員会は旧B村役
場の協力の下で運営されている。
(オ)県内の他の町村における状況
G村で毎年開催されているGサマージャズフェスティバルに対しては
平成7年以降助成金の支出がされており,H村においてもIコンサート
に対して助成金が支出されている。村興しとしてイベントを開催する以
上,相応の支出は不可避である。
ウ原告は,平成12年に開催されたイベントについて不正な利益隠しが行
われている可能性がある旨主張するが,不正確な伝聞情報に依拠した憶測
に基づくものであって,根拠がない。原告が指摘する800万円は会場使
用料等の経費を控除する前の金額である。上記イベント「Hello!
Project2000」の収支結果は1万2005円の赤字である。
エまた,原告は第三セクターへの公的支援について,単なる赤字補てんを
目的とした公的支援は行うべきではないという総務省自治財政局長の指針
に照らし,本件助成金支出が許されない旨主張するが,A実行委員会は,
ボランティアによる実行委員会方式で単発的なイベント開催を行うもので,
上記指針が前提とするところの,経営を当該団体の自助努力のみによって
行わせるべきであるといった性格の団体ではないから,指針がそのまま該
当するものではない。
オなお,A実行委員会からは,3469万9917円の支援要請がされた
が,これについては吟味が加えられ,現実の損害分についてのみに減額さ
れている。
4原告の再主張
(1)本案前の主張に対して
ア原告は,平成15年2月2日に6名の会員によって結成され,構成員は
全員旧B村民である。会費は年間1人1口1000円であり,これらは事
務局担当幹事が保管・管理しており,独自の財産を形成している。原告の
代表については,会長が当然にこれを代表するものとしてこれまで活動し
てきている。
以上の原告の実態は,優に権利能力なき社団と言いうるものであり,民
事訴訟法上の当事者能力を有する。
イ地方自治法242条の2にいう「住民」とは,同法10条1項にいう
「住民」と同義と解されているところ,同項にいう「住民」には自然人の
みならず法人も含まれると解されている。そうとすれば,民事訴訟法上の
当事者能力のある権利能力なき社団であっても住民監査請求をなしうる
「住民」に含まれると解すべきである。
また,原告が会員資格を「おもにB村民」としたのは,同様の問題意識
を持ってはいるが当面オンブズマン組織がない周辺自治体の住民にも情報
や経験の交流のための門戸を開いておこうと考えただけであり,殊更に旧
B村民以外の者を会員として予定したものではない。原告は,旧B村政の
監視・不正不当な行為の是正を求めることなどを目的とする団体であって,
住民訴訟の提起を目的として結成されたものではない。
本件の監査請求の手続においては,その監査主体としての適法要件は全
く問題とされてこなかったものであり,この点からも本件訴訟において原
告に当事者適格なしとすることは不合理である。
(2)本案の主張に対して
ア被告は,本件助成金支出が旧B村の補助金支出に関する規則に基づいて
されたとするが,単に規則に従った手続により助成金が支出されたという
だけでは適法なものとはいえない。
なお,本件助成金支出の件は旧B村議会で議論されているが,A実行委
員会のイベント収支のこれまでの実情や平成13年のイベントの赤字の原
因については何ら触れられていないし,発生した赤字についてA実行委員
会の自助努力としてどのようなことが行われたのか,それを踏まえてなお
2563万円余もの多額の助成金支出がなぜ必要やむを得ないのか,とい
う点については全く具体的な説明や論議はされていない。
イ被告は,補助の目的について主張するが,通常いかなる補助においても
「村興し」等々の一見正当な目的を掲げるものであり,掲げられた目的自
体を云々する実益はない。
ウ被告は,イベントの効果として集客を主張するが,これらのイベントは
助成金支出を受けて開催されており,これは村費から支出しているのであ
るから,イベントへの集客数が多数であるからといって,それ自体が旧B
村全体の利益になっているとは限らない。
また,観光レクリエーション客の数の増加,車両通過台数の増加,若年
者人口の維持等については,これらの現象とA実行委員会開催のイベント
との関係は何ら論証されておらず,被告の主張の根拠は薄弱である。上記
の各種の現象は,むしろ,近隣地域における各種観光施設の整備,大型店
舗の進出等,イベントとは別の社会経済的要因によって生じているもので
ある。また,本件イベントの開催のために旧B村の住民は1世帯当たり約
2万円の負担をしたことになるが,その負担に見合うだけの効果があった
かどうかは疑問である。
エ被告は,A実行委員会の性格等から,旧B村役場の協力の下に運営され
ていることが明らかであるするが,旧B村役場の協力の下に運営されてい
る団体であるからといって,その団体の開催した事業への助成金支出が自
動的に公益性を有すると認められるわけではない。
むしろ,イベントの赤字補てんのための本件助成金支出が社会的に問題
となってからは,被告は,A実行委員会については村とは別個の団体であ
ることを強調してきており,非常に御都合主義的である。
オ被告は,G村のGサマージャズフェスティバルやH村のIコンサートを
挙げ,本件助成金支出を正当化しているが,これらの村では,事前に議会
等で予算面の議論が行われたり,村民のイベント参加者の場合には一定年
齢以下であれば入場料が割引されたり,銀行や大手企業その他各種団体か
ら協賛金等を集めたりするなど,旧B村におけるA実行委員会主催のイベ
ントの在り方とは大きく異なっている。
カ被告は,本件助成金支出は旧B村の財政規模の0・82%に過ぎない旨
主張するが,本件助成金支出の額(2563万9000円)は,一般村民
にとって見れば莫大な金額であり,村民全体の全生活をカバーする村の財
政規模に占める割合が小さいからといって,安易な支出が許されるわけで
はない。
第3当裁判所の判断
1本案前の争点について
(1)被告は,「原告は権利能力なき社団とはいえず,訴訟法上の当事者能力を
有しない。」旨主張する。
しかし,証拠(甲1,甲7の1から甲9まで,甲14,甲35,J証言)
及び弁論の全趣旨によれば,①原告は,平成15年2月に会員6名により発
足し(甲9),平成16年9月14日現在で18名の会員を有していること
(甲14),②会の役員として会長,幹事及び会計監査を置き,総会で選出
することとされていること(甲1・会則),③総会は年1回開催するほか,
必要に応じて役員会を開催し,会の運営を行っていること(甲1),④会計
は会費と寄付金によっており,会計担当の幹事がこれを行っていること,⑤
原告は平成15年2月から平成16年6月までの約1年半の間に会報を6回
発行してこれを旧B村の全戸に配布するなどの活動を積極的に行っているこ
とを認めることができる。以上の事実に照らせば,原告は,団体としての組
織を備え,多数決の原則が行われ,構成員の変更にかかわらず団体が存続し,
組織における代表の方法,総会の運営,財産の管理等団体としての主要な点
が確立しているということができるから,権利能力なき社団に該当するとい
うことができる(最高裁判所第一小法廷昭和39年10月15日判決・民集
18巻8号1671頁)。
(2)また,被告は,「権利能力なき社団には住所がないから,原告適格がな
い。」旨主張する。
しかしながら,原告は旧B村内に主たる事務所ともいうべき連絡先を有す
ると認めることができるところ(甲7の1,11,J証言),権利能力なき
社団についても,法人と同様に主たる事務所(連絡先)の所在地を住所と解
することができるから(民法50条参照),住所がないということはできず
(地方自治法10条参照),権利能力なき社団であるからといって直ちに住
民訴訟の原告適格が否定されることにはならないと解すべきである。
(3)更に,被告は,「原告は住民訴訟の提起を目的として結成された団体であ
り,旧B村民でない者の関与をも意図しているから,原告適格を認めること
ができない。」旨主張する。
確かに住民訴訟において当該地方公共団体の住民に原告適格が認められて
いるのは,当該地方公共団体の財政の在り方についてはその住民が利害関係
を有していることによるものであると解されるから,当該地方公共団体の住
民でない者が住民訴訟を提起する目的で権利能力なき社団を結成し,その主
たる事務所を当該地方公共団体の区域内に置くことによって住民訴訟を提起
したような場合には,住民に対して原告適格を認めた法の趣旨に反するとい
うことができる。したがって,そのような住民訴訟の制度趣旨に反するよう
な事情が存する場合には,当該社団の原告適格を否定するのが相当である。
これを本件についてみると,原告は会員資格を旧B村民に限定してはいな
いものの,現在の構成員は全員旧B村の住民であること(甲14),原告は
旧B村政の監視及び不正不当な行為の是正を求めることなどを目的として掲
げており,本件訴訟提起より1年以上前である平成15年2月に設立され
(甲7の1及び2,9),設立以後は情報公開請求や議会の傍聴等の活動を
行うとともに,前記のとおり活動内容を記載した会報を定期的に発行して旧
B村内の全戸に配布していること(甲9,11)といった事実を認めること
ができ,原告の設立目的が専ら旧B村民以外の者による住民訴訟の提起にあ
るといった事情はうかがわれない。したがって,原告には住民訴訟の原告適
格を認めるのが相当である。
(4)以上によれば,本案前の争点に関する被告の主張はいずれも採用すること
ができない。
2本案の争点について
(1)裁判所が認定した事実
前提事実,証拠(甲2から4の2まで,甲12の1及び2,甲15から1
8の2まで,甲34,甲35,乙1から8まで,乙10から21まで,乙2
5から30まで,J証言,K証言)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実
を認めることができる。
アA実行委員会の設立目的や組織等
A実行委員会は,「L地球村」(旧B村が設置所有していた多目的施設
で,同村が60%を出資して設立した「L地球村株式会社」にその管理運
営が委託されているもの。)を核とした旧B村の活性化を図るため,対外
的情報発信を含めた村づくり事業に協力することを目的として,平成4年
1月に設立された任意団体である。上記委員会の委員は,旧B村内に居住
又は勤務し,イベントを含めた村づくり事業に積極的に参画することがで
きる者等の中から旧B村長が委嘱することとされており,その事務局長に
は旧B村収入役が,その会計及び書記には旧B村職員が,それぞれ就任す
ることとされている(乙2,3)。平成12年度及び平成13年度におい
ては,旧B村商工会長が委員長となっていたほか,地元企業の経営者や旧
B村議会関係者等が委員となっており(乙21),その事務局が旧B村役
場内に置かれ,その事務局長を旧B村収入役が,その事務局員を旧B村O
課長,同課長補佐,同係長及び同主幹が,それぞれ務めていた(甲29,
甲30の1及び2,弁論の全趣旨)。
イA実行委員会のイベント開催実績
A実行委員会は,平成4年の設立から平成13年7月までに,別紙「L
地球村野外円形劇場開催イベント一覧表及び観客動員数」(乙3)記載の
とおり,旧B村内「L地球村野外円形劇場」等において芸能歌手によるコ
ンサートやプロレス興行などのイベントを開催し,延べ約10万人の観客
を動員してきた。
ウ旧B村のA実行委員会に対する助成金支出
旧B村は,平成7年度から平成13年度までの間に,A実行委員会に対
し,別紙「A一覧表」(甲4の2)記載のとおり,合計3697万225
1円の助成金を交付した。
なお,被告は,A実行委員会のイベント開催による旧B村への効果とし
て,観光客の急激な増加,車両通過台数の増加,若年者の人口維持等とい
った事実を主張しているところ,確かに証拠(乙4から8まで)によれば,
イベントが開催されるようになった時期と同一の時期に上記のような各事
象が発生している事実を認めることができるから,イベント開催がこれら
の事象に対して一定の好影響を与えている可能性のあることがうかがわれ
るが,これらがA実行委員会によるイベント開催による効果であるとまで
認めるに足りる証拠はない。
エ本件イベントの開催と赤字の発生
A実行委員会は,平成13年に前記円形劇場で開催するイベントとして,
当時若者を中心に人気を有していた音楽グループである「MAX」及び
「DAPUMP」のコンサートを企画し,同年7月27日及び28日に
これらを開催し,2日間で約2万人の観客を動員した(乙3)。なお,上
記コンサートの開催に当たってA実行委員会は村民から会場整理等のボラ
ンティアを募り,相当数の村民がボランティアとして参加した(乙18か
ら20まで)。
ところが,上記コンサートについては約5800万円の赤字が発生し,
①公演開催契約において損失分担を約束していた3分の1に当たる193
6万1110円のほか,②東京地裁における訴訟上の和解により旧B村と
A実行委員会委員長が連帯支払を合意した1250万円(本来は青森市の
Kプロダクションが分担すべき金額のうち936万1110円の未収金を
含む。),③弁護士費用141万円,④訴訟経費54万5340円及び⑤
赤字分を一時的に補てんするために副委員長等が保証人となった上で委員
長名義により「D銀行」から借り入れをした金員の利息88万3467円
を加えた合計3469万9917円がA実行委員会の実質的な赤字負担額
となった(甲2,乙26の4)。
オ旧B村への支援要請と本件助成金支出
平成15年5月19日,A実行委員会は,旧B村に対し,上記赤字損失
補てんのために助成金3469万9917円の交付を要請した(甲2)
上記要請を受けた旧B村は,B村補助金等の交付に関する規則(乙1)
に基づき,A実行委員会の事業内容等を検討した結果,要請を受けた34
69万9917円のうち2563万9000円の助成を行う必要性がある
と判断した。そこで,旧B村は,平成15年6月に開かれた旧B村議会平
成15年第2回定例会に対し,本件助成金支出を含む補正予算を議案とし
て提出し,議会において討議をした結果,上記補正予算が可決され(甲3
4,乙17),平成15年7月18日,旧B村は,A実行委員会に対し,
本件助成金2563万9000円を交付した(甲3の1から3まで)。
なお,平成15年度旧B村一般会計における歳入歳出の総額は,それぞ
れ31億1681万3000円であり,本件助成金支出額はこの0.82
%であった(乙10)。
カ青森県内の他村におけるイベントへの助成金の交付状況
旧G村(現M市)は,毎年開催されているGサマージャズフェスティバ
ルに対して,平成7年度以降,年間約900万円から約1500万円の助
成金を交付した(乙11)。
また,旧H村(現N市)においては,平成6年,8年,10年,12年
の4回にわたって開催されたIコンサートに対し,それぞれ約300万円
から約900万円の助成金を交付した(乙12)。
(2)本件助成金交付の公益性の有無について
ア地方自治法232条の2は,「普通地方公共団体は,その公益上必要が
ある場合においては,寄附又は補助をすることができる。」と規定してい
るところ,補助の要否についての決定は当該地方公共団体の地理的,社会
的,経済的事情及び各種の行政施策の在り方等の諸般の事情を総合的に考
慮した上での政策的判断を要するものであるから,公益上の必要性に関す
る判断に当たっては,補助の要否を決定する地方公共団体の長に一定の裁
量権があるものと解される。もっとも,地方公共団体による助成金等の交
付について公益上の必要性が要求されている趣旨に照らせば,上記裁量権
の範囲には一定の限界があり,例えば助成を受ける団体の構成員又は第三
者に不当な利益を得させるためにされたといったように,その裁量権の行
使について逸脱又は濫用があった場合には,その支出が違法になるものと
解するのが相当である。
イこの点に関連して,原告は,「総務省自治財政局長から各都道府県知事
及び各指定都市市長あてに発出されている『第三セクターに関する指針』
(甲13参照)においては,『第三セクターは独立した事業主体であり,
その経営は当該第三セクターの自助努力によって行われるべきであること
から,(中略)単なる赤字補てんを目的とした公的支援は行うべきではな
いこと』とされており,まして一任意団体に過ぎないA実行委員会に対し
ては,赤字補てんとなる助成金交付を行うべきではない。」旨主張する。
確かに,本件イベントを開催したA実行委員会は,その委員を旧B村長
が委嘱することとされており,その事務局長には旧B村収入役が,その会
計及び書記には旧B村職員が,それぞれ就任することとされているから
(乙2,3),実質的には旧B村が出資する第三セクターに準じた団体で
あるということができる反面,形式上は第三セクターにも該当しない任意
団体にすぎないことからすると,安易な赤字補てん目的の助成を禁じた上
記指針の趣旨がより一層妥当すべきであるということができる。
ウしかしながら,①本件イベントの目的は旧B村の活性化を図ることにあ
ること,②本件イベント開催により,集客や知名度の上昇など旧B村には
一定の効果がもたらされたものと認められること,③本件助成金の額は平
成15年度における旧B村の歳出の0.82%にとどまっており,その助
成金の支出に当たっては議会において審議がされた上で予算としての承認
を受けていること,といった事情からすれば,本件助成金支出が赤字補て
んを目的としたものであることをもって,当時の旧B村長の判断に,裁量
の逸脱又は濫用があったとまでいうことはできない。
エまた,原告は,「平成12年度に開催されたイベントについて,経理が
不透明であり,相当額の利益が出ているはずであるのに,本件イベントで
損失が出たからといって直ちに助成金を交付するのは無定見なやり方であ
る。」旨主張する。
確かに,①平成12年度のイベントにおいては「会場使用料」として条
例で規定された円形劇場使用料(入場料を徴し営利を目的とする場合でも
1日18万5400円)を大幅に上回る470万9670円もの高額な支
出がされているところ(甲19,乙16),これは円形劇場の会場使用料
以外に会場管理費(人件費)や会場周辺除草作業費などを含め,平成4年
度以降のA実行委員会開催のイベント分に係る費用を精算したものである
こと(甲23,K証言4頁,弁論の全趣旨),②村民に配布された決算書
と,議会において議員に配布された決算書とを比較すると費目の内訳が異
なること(甲21,乙16),③内容が全く同一の「予算書」と題する文
書と「収支報告書」と題する文書が存在すること(甲22の1及び2),
④会議等を行う際の委員の弁当及び飲み物代をA実行委員会が負担してい
たこと(甲25から28まで,弁論の全趣旨),⑤プロダクション関係者
も「旧B村O課長から800万円の利益があったと聞いている。」とか,
A実行委員会の事務局長のEも「Fと800万円を折半して400万円の
利益があった。」とか,旧B村助役も「300万円をFと折半して150
万円の利益があったとO課長から聞いている。」などと原告に対して述べ
ていること(J証言),以上の事実を認めることができ,これらの事実か
らすると,平成12年度のイベントにおいては実質的には約800万円の
利益が生じそうな状態になったものの,会場使用料以外の経費を多めに計
上するなどして実質的に利益を関係者間で分配し,形式上の収支を1万2
005円の赤字としたものではないかという合理的な疑いが残る(甲21,
乙16)。
しかしながら,仮にそのような経理支出がされたとしても,「L地球
村」は,旧B村が設置した施設であって,その管理運営を委託している
「L地球村株式会社」も旧B村が出資している会社であって,その経営収
支は旧B村と密接な関連を有しているから,そのような経理支出が旧B村
にとって直ちに有害無益であるということもできない。そして,そのよう
な経理支出は,別紙「内訳書」(甲23)記載のとおり,円形劇場の使用
料については「B村L地球村の設置及び管理に関する条例」(甲19)に
従って18万5400円としつつも,そのほかに会場管理費,円形劇場管
理費,会場周辺除草作業,スポーツパーク営業損失,石神の湯営業損失等
として支出されているものであるから,これらの支出が上記条例に反する
とまでいうことはできない。まして,その経費相当の金額が,A実行委員
会の構成員又は第三者のための不当な利益のために費消されたというよう
な特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
オまた,原告は,平成13年に開催された本件イベントについても,経理
面で不自然な点やずさんな点が散見される旨主張するところ,確かに請求
書のあて先が一部旧B村あてとされていたり,イベント関係者等の飲食代
金をA実行委員会が負担しているといった点を認めることができるものの
(甲30の1から甲33の3まで),それ以上に格別不自然な経理処理が
行われたことを認めるに足りる証拠はない。まして,A実行委員会が平成
13年度の本件イベントに関してその構成員又は第三者をして不正な利益
を得させていたというような特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
カ以上の検討のとおり,本件助成金の交付が公益性を有するとした当時の
旧B村長の裁量的判断については,議会において助成金支出の相当性に関
する審議がされた上で予算としての承認を受けていること,本件イベント
の開催は旧B村の活性化に一定の好影響を与えている可能性がうかがわれ
ること,本件助成金支出は本件イベントによる損失分3469万9917
円の一部2563万9000円のみにとどまっていることその他前記認定
の諸事情にかんがみると,A実行委員会の構成員又は第三者が不正に利益
を得たというような特段の事情がない本件においては,たとえ助成を受け
た団体のこれまでの経理処理の一部に不明朗な点が残っているとしても,
本件助成金の支出を決定した旧B村長の裁量権の行使について逸脱又は濫
用があったものとしてこれを違法であるとまでいうことはできない。
第4結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却すること
とし,主文のとおり判決する。
青森地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官齊木教朗
裁判官伊澤文子
裁判官石井芳明

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