弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決及び第一審判決を破棄する。
     本件を東京地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 (上告趣意に対する判断)
 弁護人佐瀬昌三の上告趣意のうち、憲法一九条、二一条違反をいう点は、実質は
単なる法令違反の主張であり、判例違反をいう点は、所論引用の判例は事案を異に
し本件に適切でなく、その余は事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、いずれ
も適法な上告理由にあたらない。
 (職権による判断)
 しかしながら、所論にかんがみ、職権をもつて調査すると、原判決が維持する第
一審判決の認定事実の要旨は、「株式会社Aの編集局長である被告人は、同社発行
の月刊誌『月刊ペン』誌上で連続特集を組み、諸般の面から宗教法人Bを批判する
にあたり、同会における象徴的存在とみられる会長Cの私的行動をもとりあげ、第
一 昭和五一年三月号の同誌上に、『四重五重の大罪犯すB』との見出しのもとに、
『Cの金脈もさることながら、とくに女性関係において、彼がきわめて華やかで、
しかも、その雑多な関係が病的であり色情狂的でさえあるという情報が、有力消息
筋から執拗に流れてくるのは、一体全体、どういうことか、ということである。…
…』などとする記事を執筆掲載し、また、第二 同年四月号誌上に、『極悪の大罪
犯すBの実相』との見出しのもとに、『彼にはれつきとした芸者のめかけDがaに
いる。……そもそもC好みの女性のタイプというのは、① やせがたで② プロポ
ーシヨンがよく③ インテリ風―のタイプだとされている。なるほど、そういわれ
てみるとお手付き情婦として、二人とも公明党議員として国会に送りこんだという
DとEも、こういうタイプの女性である。もつとも、現在は二人とも落選中で、再
選の見込みは公明党内部の意見でもなさそうである。……』旨、右にいう落選中の
前国会議員DはB員Fであり、同Eは同会員Gであることを世人に容易に推認させ
るような表現の記事を執筆掲載したうえ、右雑誌各約三万部を多数の者に販売・頒
布し、もつて公然事実を摘示して、右三月号の記事によりC及びBの、四月号の記
事によりC、F、G及びBの各名誉を毀損した。」というのであり、第一審裁判所
は、右の認定事実に刑法二三〇条一項を適用し、被告人に有罪の判決を言い渡した。
 そうして、原審弁護人が、「被告人は、宗教界の刷新という公益目的のもとに公
共の利害に関する事実を公表したものであるから、事実の真実性の立証を許さない
まま名誉毀損罪の成立を認めた第一審判決は審理不尽である。」旨主張したのに対
し、原判決は、被告人の摘示した事実は、Bの教義批判の一環、例証としての指導
者の醜聞の摘示であつたにしても、Cらの私生活上の不倫な男女関係の醜聞を内容
とすること、その表現方法が不当な侮辱的、嘲笑的なものであること、不確実な噂、
風聞をそのまま取り入れた文体であること、他人の文章を適切な調査もしないでそ
のまま転写していることなどの諸点にかんがみ、刑法二三〇条ノ二第一項にいう「
公共ノ利害ニ関スル事実」にあたらないというべきであり、したがつて、いわゆる
公益目的の有無及び事実の真否を問うまでもなく、被告人につき名誉損罪の成立を
認める第一審判決は相当である、として右主張を排斥した。
 ところで、被告人が「月刊ペン」誌上に摘示した事実の中に、私人の私生活上の
行状、とりわけ一般的には公表をはばかるような異性関係の醜聞に属するものが含
まれていることは、一、二審判決の指摘するとおりである。しかしながら、私人の
私生活上の行状であつても、そのたずさわる社会的活動の性質及びこれを通じて社
会に及ぼす影響力の程度などのいかんによつては、その社会的活動に対する批判な
いし評価の一資料として、刑法二三〇条ノ二第一項にいう「公共ノ利害ニ関スル事
実」にあたる場合があると解すべきである。
 本件についてこれをみると、被告人が執筆・掲載した前記の記事は、多数の信徒
を擁するわが国有数の宗教団体であるBの教義ないしあり方を批判しその誤りを指
摘するにあたり、その例証として、同会のC会長(当時)の女性関係が乱脈をきわ
めており、同会長と関係のあつた女性二名が同会長によつて国会に送り込まれてい
ることなどの事実を摘示したものであることが、右記事を含む被告人の「月刊ペン」
誌上の論説全体の記載に照らして明白であるところ、記録によれば、同会長は、同
会において、その教義を身をもつて実践すべき信仰上のほぼ絶対的な指導者であつ
て、公私を問わずその言動が信徒の精神生活等に重大な影響を与える立場にあつた
ばかりでなく、右宗教上の地位を背景とした直接・間接の政治的活動等を通じ、社
会一般に対しても少なからぬ影響を及ぼしていたこと、同会長の醜聞の相手方とさ
れる女性二名も、同会婦人部の幹部で元国会議員という有力な会員であつたことな
どの事実が明らかである。
 このような本件の事実関係を前提として検討すると、被告人によつて摘示された
C会長らの前記のような行状は、刑法二三〇条ノ二第一項にいう「公共ノ利害ニ関
スル事実」にあたると解するのが相当であつて、これを一宗教団体内部における単
なる私的な出来事であるということはできない。なお、右にいう「公共ノ利害ニ関
スル事実」にあたるか否かは、摘示された事実自体の内容・性質に照らして客観的
に判断されるべきものであり、これを摘示する際の表現方法や事実調査の程度など
は、同条にいわゆる公益目的の有無の認定等に関して考慮されるべきことがらであ
つて、摘示された事実が「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるか否かの判断を左右
するものではないと解するのが相当である。
 そうすると、これと異なり、被告人によつて摘示された事実が刑法二三〇条ノ二
第一項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」に該当しないとの見解のもとに、公益目
的の有無及び事実の真否等を問うまでもなく、被告人につき名誉毀損罪の成立を肯
定することができるものとした原判決及びその是認する第一審判決には、法令の解
釈適用を誤り審理不尽に陥つた違法があるといわなければならず、右違法は判決に
影響を及ぼすことが明らかであつて、原判決及び第一審判決を破棄しなければ著し
く正義に反するものと認められる。
 よつて、刑訴法四一一条一号により原判決及び第一審判決を破棄したうえ、さら
に審理を尽くさせるため、同法四一三条本文により本件を東京地方裁判所に差し戻
すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官木村榮作 公判出席
  昭和五六年四月一六日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    本   山       亨
            裁判官    中   村   治   朗

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