弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
      原判決を破棄する。
      第1審判決中「被告人から5万4416円を追徴する。」
    との部分を破棄する。
    その余の部分に対する本件控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人中里和伸の上告趣意は,違憲をいう点を含め,実質は単なる法令違反,量
刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 以下,職権をもって判断する。
 原判決の是認する第1審判決によれば,被告人は,スペインで,本件犯行を持ち
かけてきた共犯者から,バルセロナ・アムステルダム間の往復航空券1冊を交付さ
れ,この往路航空券を使用して渡航したアムステルダムにおいて,別の共犯者から
,アムステルダム・関西国際空港間の往復航空券1冊及び現金600ドルを交付さ
れ,この往路航空券を使用して本邦に入国し,本件犯行に及んだものである。そし
て,同判決は,これらの往復航空券及び現金は,国際的な協力の下に規制薬物に係
る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例
等に関する法律(以下「麻薬特例法」という。)2条3項の薬物犯罪収益に該当す
るとして,うち未使用のまま押収された各復路航空券及び現金600ドルについて
は同法11条1項1号によりこれを没収し,使用済みの各往路航空券分については
同法13条1項によりその価額である5万4416円を追徴していることが,その
判文上明らかである。
 しかしながら,麻薬特例法2条3項において薬物犯罪収益とされる「薬物犯罪の
犯罪行為により得た財産」とは,薬物犯罪の構成要件に該当する行為自体によって
犯人が取得した財産をいうものと解するのが相当であり,薬物犯罪を遂行する過程
において費消・使用されるものとして,犯人が他の共犯者から交付を受けた財産は
,これに当たらないものと解すべきである(最高裁平成13年(あ)第1683号
同15年4月11日第二小法廷判決・刑集57巻4号403頁,最高裁平成13年
(あ)第1267号同15年4月11日第二小法廷判決・裁判集刑事284号登載
予定参照)。そして,本件で被告人から押収された復路航空券は,刑法19条1項
2号の「犯罪行為の用に供し,又は供しようとした物」に当たると認めるのが相当
であり,被告人から押収された600ドルは,受交付者において薬物犯罪の犯罪行
為を遂行するために費消した上,その残額を同行為の報酬として取得することとし
て,共犯者から交付を受けて犯人が所有する金員であると認められるから,裁判所
は,麻薬特例法11条1項及び刑法19条1項2号により,その全額を没収するこ
とが可能であると解すべきである(前記最高裁平成13年(あ)第1683号同1
5年4月11日第二小法廷判決参照)。
 そうすると,第1審判決は,上記各往復航空券及び現金600ドルの没収・追徴
に関して,法令の適用を誤った違法があるものといわざるを得ないところ,このう
ち各復路航空券及び現金600ドルを没収した点は,結論において是認できるが,
共犯者から受領した各往復航空券の使用済み往路航空券分の価額を追徴した点は,
追徴することができない場合に追徴したことになり,その違法は,判決に影響を及
ぼすことが明らかである。したがって,この第1審判決を是認した原判決には,判
決に影響を及ぼすべき法令の違反があり,これを破棄しなければ著しく正義に反す
るものと認められる。
 よって,刑訴法411条1号,413条ただし書により原判決を破棄して更に判
決することとし,同法414条,397条1項,380条により主文第2項記載の
第1審判決の部分を破棄し,同法414条,396条によりその余の部分に対する
被告人の控訴を棄却することとし,原審及び当審における訴訟費用について同法1
81条1項ただし書を適用し,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 検察官加澤正樹 公判出席
(裁判長裁判官 藤田宙靖 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田
豊三)

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