弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人福田耕太郎の上告趣意書は、末尾に添えた別紙記載の通りである。
 (一) 上告論旨第一点は、原判決が問題の軍刀拳銃所持の始期を認定するにつ
いて、何等証拠に依ることなく又何等の根拠を示さずに「昭和二十一年十月十五日
頃」と判示したのは、理由不備の違法である、と主張する。
しかし原審公判調書によれば、裁判長は被告人に対し、「昭和二十一年十月十五日
頃より」とある原判決に示した通りの犯罪事実を読み聞かせ、被告人はその通り相
違ない旨を供述しているのだから、被告人が右の始期を供述したことになるのであ
り、また原審公判調書によれば、被告人は終戦後引続き問題の軍刀と拳銃と自宅の
二階屋根裏に隠匿所持していた――すなわち法規上の届出期間満了の日なる昭和二
十一年十月十五日にはそれを所持していた――ことが認められるのであるから、原
判決はその日を本件銃砲等不法所持の始期と判示したのであつて、根拠なくして右
の始期を認定したものではなく、論旨は理由かない。
 (二) 上告論旨第二点は、原判決が単に「拳銃一挺の存在」を証拠として挙げ
たのみで、それが果して拳銃としての機能を有するものであるか否かを明かにせず、
しかもその証拠によつて問題の拳銃がその機能を有するものであることまでを認定
したことは、理由不備又は理由齟齬の違法である、と非難する。なるほど、銃砲等
所持禁止令の適用を受ける銃砲が単に弾丸発射の構造を有するのみでは足らず、更
に弾丸発射の機能をも備えなければならないことは、論旨の言う通りであつて、同
令施行規則第一条第一号にも「銃砲とは弾丸発射の機能を有する装薬銃砲をいう」
と明かに規定されているが、単に「銃砲」と言えばその機能のある銃砲を意味する
ことが常識なのであつて、原判決が「押収に係る拳銃一挺の存在」を証拠に供した
のは、その意味の銃砲であること疑のないところである、論旨は理由がない。
 (三) 上告論旨第三点は、被告人に対して懲役三月の実刑を科したことは、苛
酷惨虐であつて憲法第三六条に違反するのみならず、仮りに同条に違反しないとし
ても、被告人に対し執行猶予の言渡をしなかつたことは、裁判所の自由裁量にもそ
の根底に実質的法的の制約あることを無視したものであるから、違法にして破棄せ
らるべきものである、と主張する。しかしながら、裁判所が普通の刑を法律の定め
る範囲内で量定することが憲法第三六条に当らないことについては、既に当裁判所
にいくつかの判例が存し(昭和二二年(れ)第三二三号同二三年六月二三日大法廷
判決、昭和二三年(れ)第三四八号同年九月二二日大法廷判決、昭和二三年(れ)
第三四八号同年九月二五日第二小法廷判決等)、今さら多言を要しないところであ
つて、原判決が被告人に対し懲役三月の実刑を言い渡したことが憲法第三六条に反
するという論旨は理由がない。また裁判所の自由裁量というのは、もちろん裁判官
のほしいままなる思いつきではないのであつて、その事件にあらわれたあらゆる事
情を勘考した上での裁量であるが、今本件の記録をしらべて見ると、論旨の指摘す
る被告人の人がらと、社会的地位、また本件犯罪の由来等は、記録上に明かなとこ
ろであるから、原審が被告人に執行猶予を与えるか否かについてこの点を考慮した
ことがうかがえるし、また論旨の引用した通牒等の点についても熟知の上であると
考えられるのであつて、被告人に執行猶予を与えなかつたことが原審のほしいまま
なる思いつきに出たものと疑うに足りる形跡は、本件の記録中どこにも見出し得な
いのである。要するに論旨は独自の見解を以て原判決の量刑不当を攻撃することに
帰着し、上告の理由にならない。
 よつて旧刑事訴訟法第四四六条、最高裁判所裁判事務処理規則第九条第四項に従
い、主文の通り判決する。
 以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。
 検察官 田中巳代治関与
  昭和二四年九月二七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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