弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役二年に処する。
     原審における未決勾留日数中九〇日を右本刑に算入する。
     ただし、この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人横溝善正が差し出した控訴趣意書に記載してあるとお
りであるから、これを引用し、これに対して当裁判所は、次のとおり、判断する。
 控訴趣意第一点(事実誤認、法令適用の誤)について。
 (一) 所論は、原判示(三)事件中業務上横領の点は無罪であると主張するの
で、記録を検討するのに、本件の土地畑四〇坪は、Aの所有であつたものを、被告
人が代表取締役をしていた原判示B株式会社において、右Aよりその売却の委託を
うけCに売却したものであるが、農地法五条所定の知事の許可を必要としたため、
右売主A、買主Cの両名の申請により昭和四一年三月中旬頃右許可がなされ、右土
地の所有権はCに移転したが、その所有権移転登記手続の未了の間、右土地登記簿
上に前記会社のための所有権移転請求権移転の附記登記が存在したのを奇貨とし
て、被告人は同年五月二一日頃右土地をDに売却し、同月二三日河合のため所有権
移転請求権を移転する旨の附記登記をした事実は明瞭である。
 原判決は、右農地を被告人の主宰する前記会社がAより買受け、その所有権を取
得した上、これをCに転売した趣旨の認定をし、前記附記登記により、被告人が右
Cのため業務上預り保管中のものと判断し、こ<要旨第二>れを河合に売却した行為
をもつて業務上横領罪に該当するとしているのである。しかしながら、農地法は右
如き転売を目的とする農地所有権の移転を認めないので、右会社はA
の委託をうけてこれをCに売却し、農地法所定の許可も右売買当事者の申請により
なされたもので被告人ないし右会社がその間に法律上所有権を取得したものと認定
することはできない。ただ、右土地売買につき、事実上は、被告人の右会社におい
て資金を調達していたため、A、C間の所有権移転の登記手続未了の間Aの諒解の
もとに右会社のため前記所有権移転請求権移転の附記登記がされたことは、先に指
摘したとおりこれを否定し得ないが、登記簿上の所有名義は依然としてAであつ
て、右会社のための附記登記の存在をもつて、被告人が右土地を業務上占<要旨第
一>有していたものとして認定することは相当でない。前記の如く、右会社はAより
売却の委託をうけてCに売却し、前記知事の許可がなされた以上、被告
人は右売買行為の受託者としてA、C間の所有権移転登記手続に協力するととも
に、右土地を勝手に他に売却してはならない任務を負うたものというべく、被告人
が右任務に背いて右土地を河合に売却し前記附記登記をした行為は背任罪に該当す
ると解するのが相当である。
 原判決が被告人の右行為につき業務上横領罪の成立を認めたことは事実を誤認し
て法律の解釈適用を誤つたものといわなければならない。原判決はこの点において
破棄を免れない。
 (その余の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 関谷六郎 判事 寺内冬樹 判事 中島卓児)

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