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平成21年7月15日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成19年(ワ)第27187号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成21年4月22日
判決
アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルス《以下省略》
原告スターサイトテレキャスト
インコーポレイテッド
同訴訟代理人弁護士片山英二
同本多広和
同岡本尚美
同牧恵美子
同補佐人弁理士加藤志麻子
東京都港区《以下省略》
被告株式会社東芝
同訴訟代理人弁護士内田公志
同鮫島正洋
同木村貴司
同岩永利彦
同松島淳也
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する控訴のための付加期間を14日と定める。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別表1記載のレコーダー及び別表2記載のテレビを製造,販売して
はならない。
2被告は,前項記載のレコーダー及びテレビを廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,26億3212万円及びこれに対する平成19年10
月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4仮執行宣言
第2事案の概要
本件は,テレビジョン番組リストのユーザーインタフェースに関する特許権を
有する原告が,被告に対し,被告が製造,販売した別表1記載の各製品(以下
「イ号物件」といい,イ号物件を用いて実施される方法を「イ号方法」とい
う。)及び別表2記載の各製品(以下「ロ号物件」といい,ロ号物件を用いて実
施される方法を「ロ号方法」という。なお,イ号物件及びロ号物件を併せて「被
告製品」という。)は,上記特許権に係る発明の技術的範囲に属し,上記特許権
を侵害すると主張して,被告製品の製造,販売の差止め及び廃棄を求めるととも
に,特許法102条3項に基づく損害賠償として,26億3212万円及びこれ
に対する本訴状送達日の翌日である平成19年10月30日から支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1争いのない事実等(争いのない事実以外は,証拠を項目の末尾に記載す
る。)
(1)原告の特許権(甲2)
原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,本件特許権に係る特許
を「本件特許」といい,本件特許に係る発明を「本件発明」という。)を有
している。
特許番号第3600149号
発明の名称テレビジョン番組リストのユーザーインタフェース
出願日平成12年10月20日
分割の表示特願平3−516691の分割
原出願日平成3年9月10日
優先日平成2年9月10日
優先権主張国米国
登録日平成16年9月24日
特許請求の範囲
請求項1(請求項1に係る発明を「本件発明1」という。)
「タイトル,放送時間そしてチャンネルをそれぞれが含んでいる複数
のテレビジョン番組リストを電子メモリに記憶するステップ,時間と
チャンネルのグリッドガイド形式で前記の複数のテレビジョン番組リ
ストのチャンネルの中の幾つかをモニタースクリーン上に表示するス
テップ,このモニタースクリーン上でカーソルを移動してグリッドガ
イド形式で表示されたチャンネルの一つに目印を付けるステップ,そ
してグリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル形式でその目印を
付けたチャンネルを表示するステップを備え,前記の単一チャンネル
形式はその目印を付けたチャンネルに対応するチャンネルのテレビジ
ョン番組リストを順次配列した行を含んでいることを特徴としたテレ
ビジョン番組リストのデータベースを閲覧する方法。」
請求項6(請求項6に係る発明を「本件発明2」という。)
「タイトル,放送時間そしてチャンネルをそれぞれが含んでいる複数
のテレビジョン番組リスト,このテレビジョン番組リストの中の幾つ
かを表示する時間とチャンネルのグリッドガイド,このグリッドガイ
ドに表示されたテレビジョン番組リストの一つを選択して目立たさせ
る可動カーソル,そして時間とチャンネルのグリッドガイドをその目
立たせたテレビジョン番組リストのチャンネルの単一チャンネルガイ
ドに変える手段を備えていることを特徴とする電子番組ガイド。」
請求項8(請求項8に係る発明を「本件発明3」という。)
「テレビジョン番組リストを複数のセル内に表示している時間とチャ
ンネルのグリッドガイド形式で表示モニターに,RAMに記憶したテ
レビジョン番組リストを表示させる信号を発生し,その表示されたテ
レビジョン番組リストの一つを目立たさせる信号を発生し,そして,
グリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル形式でその目立たされ
たテレビジョン番組リストを表示する信号を発生するようプログラム
されていることを特徴としたマイクロプロセッサ。」
請求項16(請求項16に係る発明を「本件発明4」という。)
「複数のテレビジョン番組リストに対応し,テレビジョン番組リスト
毎にタイトル,チャンネルそして開始時間を含んでいるデータファイ
ルをメモリに記憶するステップ,メモリに記憶されている複数のテレ
ビジョン番組リストをディスプレイモニターに表示するステップ,記
録するためビデオ記録媒体をVCRまたはその他の記録装置内に装填
するステップ,表示された複数のテレビジョン番組リストの中の一つ
を記録するために選択するステップ,そして記録するために選択され
たテレビジョン番組リストが示している番組をVCRまたはその他の
記録装置に記録する…ために前記の記録するために選択されたテレビ
ジョン番組リストのデータを前記のデータファイルからVCRまたは
その他の記録装置に転送するステップを備えることを特徴とするVC
Rまたはその他の記録装置を使用して,ビデオ記録媒体にテレビジョ
ン番組を記録する方法。」
請求項30(請求項30に係る発明を「本件発明5」という。)
「タイトル,チャンネルそして開始時間をテレビジョン番組リスト毎
に含んでいる複数のテレビジョン番組リストのデータファィルを記憶
しているRAMから前記の複数のテレビジョン番組リストを取り出し
てディスプレイモニターに表示する信号を発生し,この表示された複
数のテレビジョン番組リストの中の一つを記録するためその一つのテ
レビジョン番組リストを特定する信号を発生し,そしてこの記録する
ために選択されたテレビジョン番組リストに対応するデータをデータ
ファイルからVCRまたはその他の記録装置に転送するための信号を
発生するようプログラムされ,前記の記録するために選択されたテレ
ビジョン番組リストが示している番組を記録させるようにすることを
特徴としたマイクロプロセッサ。」
(2)構成要件の分説
ア本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
Aタイトル,放送時間そしてチャンネルをそれぞれが含んでいる複数の
テレビジョン番組リストを電子メモリに記憶するステップ,
B時間とチャンネルのグリッドガイド形式で前記の複数のテレビジョン
番組リストのチャンネルの中の幾つかをモニタースクリーン上に表示す
るステップ,
Cこのモニタースクリーン上でカーソルを移動してグリッドガイド形式
で表示されたチャンネルの一つに目印を付けるステップ,そして
Dグリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル形式でその目印を付け
たチャンネルを表示するステップ
Eを備え,前記の単一チャンネル形式はその目印を付けたチャンネルに
対応するチャンネルのテレビジョン番組リストを順次配列した行を含ん
でいる
Fことを特徴としたテレビジョン番組リストのデータベースを閲覧する
方法。
イ本件発明2を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
Gタイトル,放送時間そしてチャンネルをそれぞれが含んでいる複数の
テレビジョン番組リスト,
Hこのテレビジョン番組リストの中の幾つかを表示する時間とチャンネ
ルのグリッドガイド,
Iこのグリッドガイドに表示されたテレビジョン番組リストの一つを選
択して目立たさせる可動カーソル,そして
J時間とチャンネルのグリッドガイドをその目立たせたテレビジョン番
組リストのチャンネルの単一チャンネルガイドに変える手段
Kを備えていることを特徴とする電子番組ガイド。
ウ本件発明3を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
Lテレビジョン番組リストを複数のセル内に表示している時間とチャン
ネルのグリッドガイド形式で表示モニターに,RAMに記憶したテレビ
ジョン番組リストを表示させる信号を発生し,
Mその表示されたテレビジョン番組リストの一つを目立たさせる信号を
発生し,そして
Nグリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル形式でその目立たされ
たテレビジョン番組リストを表示する信号を発生
Oするようプログラムされていることを特徴としたマイクロプロセッサ。
エ本件発明4を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
P複数のテレビジョン番組リストに対応し,テレビジョン番組リスト毎
にタイトル,チャンネルそして開始時間を含んでいるデータファイルを
メモリに記憶するステップ,
Qメモリに記憶されている複数のテレビジョン番組リストをディスプレ
イモニターに表示するステップ,
R記録するためビデオ記録媒体をVCRまたはその他の記録装置内に装
填するステップ,
S表示された複数のテレビジョン番組リストの中の一つを記録するため
に選択するステップ,そして
T記録するために選択されたテレビジョン番組リストが示している番組
をVCRまたはその他の記録装置に記録するために前記の記録するため
に選択されたテレビジョン番組リストのデータを前記のデータファイル
からVCRまたはその他の記録装置に転送するステップ
Uを備えることを特徴とするVCRまたはその他の記録装置を使用して,
ビデオ記録媒体にテレビジョン番組を記録する方法。
オ本件発明5を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
Vタイトル,チャンネルそして開始時間をテレビジョン番組リスト毎に
含んでいる複数のテレビジョン番組リストのデータファィルを記憶して
いるRAMから前記の複数のテレビジョン番組リストを取り出してディ
スプレイモニターに表示する信号を発生し,
Wこの表示された複数のテレビジョン番組リストの中の一つを記録する
ためその一つのテレビジョン番組リストを特定する信号を発生し,そし

Xこの記録するために選択されたテレビジョン番組リストに対応するデ
ータをデータファイルからVCRまたはその他の記録装置に転送するた
めの信号を発生するよう
Yプログラムされ,前記の記録するために選択されたテレビジョン番組
リストが示している番組を記録させるようにすることを特徴としたマイ
クロプロセッサ。
カなお,本件発明において,「グリッドガイド形式」とは,格子状のテレ
ビジョン番組表(形式)をいう。
(3)被告の行為
被告は,被告製品であるイ号物件及びロ号物件を,別表1及び2発売日欄
記載の各発売日より製造し,販売している。
(4)被告製品の構成(甲5の1ないし24,甲6の1ないし35)
ア被告製品が受信するのは,タイトル,放送時間のほか,「チャンネル」
ではなく,「放送局コード」を含んでいる複数のテレビジョン番組情報で
ある。
イ被告製品は,格子状の番組表形式に表示されたテレビジョン番組情報ご
とに移動可能な枠を移動させ,テレビジョン番組情報の一つを目立たせる
ことによって,対応する「テレビジョン番組情報にかかる欄」に目印を付
けている。
(5)本件発明と被告製品との対比等
ロ号方法は,本件発明4の要件Uを充足する。
(6)特許出願の経緯等
ア原出願(乙6の1ないし7,乙8)
(ア)原告は,平成3年9月10日,「テレビジョンスケジュールシステ
ムのユーザーインタフェース」に関する発明(以下「原出願発明」とい
う。)について,アメリカ合衆国において平成2年9月10日に行った
特許出願(以下「原外国出願」という。)に基づく優先権を主張して,
特許の出願(特願平3−516691,以下「原出願」という。)をし
た。
(イ)特許庁は,平成12年6月16日,原出願を拒絶査定し,原告は,
同年9月25日,これに対する審判を請求(不服2000−1523
7)したが,特許庁は,平成14年5月31日,「本件審判の請求は,
成り立たない。」との審決(以下「原出願審決」という。)をした。
原告は,平成14年,東京高等裁判所に対し,上記審決に対する審決
取消訴訟(同年(行ケ)第529号)を提起したが,同裁判所は,平成
16年9月30日,請求棄却の判決をした。
イ本件特許(甲1,2,乙14,16,17)
(ア)原告は,平成12年10月20日,原出願の分割出願として,本件
特許の出願(特願2000−321391)をした。
(イ)原告は,本件特許の出願手続において,特許請求の範囲のうち,請
求項1の要件Cに該当する部分について,当初は,「スクリーン上でカ
ーソルを移動して,グリッドガイド形式で表示されたタイトルの一つに
目印を付け,そして」と記載し,目印を付ける対象を「タイトル」とし
ていたが,平成15年9月24日,手続補正書及び同日付け意見書を提
出し,請求項の表現を読みやすく訂正するとの理由により,「このモニ
タースクリーン上でカーソルを移動してグリッドガイド形式で表示され
たチャンネルの一つに目印を付けるステップ,そして」と補正し,目印
を付ける対象を「チャンネル」とした。
(ウ)本件特許は,平成16年9月24日,特許権の設定登録がされた。
2争点
(1)被告製品の構成
(1)−1イ号方法及びイ号物件の構成
(1)−2ロ号方法及びロ号物件の構成
(2)侵害論
(2)−1請求項における用語の解釈
(2)−2本件発明1の侵害の有無(イ号方法及びイ号物件)
(2)−3本件発明2の侵害の有無(イ号方法及びイ号物件)
(2)−4本件発明3の侵害の有無(イ号方法及びイ号物件)
(2)−5本件発明4の侵害の有無(ロ号方法及びロ号物件)
(2)−6本件発明5の侵害の有無(ロ号方法及びロ号物件)
(3)無効論
(3)−1本件発明1の無効理由の有無
(3)−2本件発明2の無効理由の有無
(3)−3本件発明3の無効理由の有無
(3)−4本件発明4の無効理由の有無
(3)−5本件発明5の無効理由の有無
(4)損害論
3争点に対する当事者の主張
(1)被告製品の構成
(1)−1イ号方法及びイ号物件の構成
(原告)
アイ号方法及びイ号物件の構成は,次のとおりである。
(ア)本件発明1に対応するイ号方法の構成
aタイトル,放送時間そしてチャンネルをそれぞれが含んでいる複
数のテレビジョン番組情報(「テレビジョン番組情報」とは,テレ
ビジョン番組を特定するための個々の番組単位の番組情報を意味す
る。以下同様。)を電子メモリに記憶し,
b放送時間及びチャンネルをそれぞれ軸とする格子状の番組表形式
で,前記の複数のテレビジョン番組情報のチャンネルの中の幾つか
をモニタースクリーン上に表示し,
cこのモニタースクリーン上でカーソルを移動させ,一つのテレビ
ジョン番組情報を選択することによって表示されたチャンネルの一
つに目印を付け,
d複数チャンネルを表示する格子状の番組表形式の代わりに,単一
チャンネルの番組表形式でその目印を付けたチャンネルを表示し,
e前記の単一チャンネルの番組表形式はその目印を付けたチャンネ
ルに対応するチャンネルのテレビジョン番組情報を順次配列した行
を含んでいる
fことを特徴とした,テレビジョン番組情報のデータベースを閲覧
する方法。
(イ)本件発明2に対応するイ号物件の構成
gタイトル,放送時間そしてチャンネルをそれぞれが含んでいる複
数のテレビジョン番組情報,
hこのテレビジョン番組情報の中の幾つかを表示する,放送時間及
びチャンネルをそれぞれ軸とする格子状の番組表,
iこの格子状の番組表に表示されたテレビジョン番組情報の一つを
選択して目立たせる,移動可能なカーソル,そして
j格子状の番組表をその目立たせたテレビジョン番組情報に対応す
る単一チャンネルの番組表に変える手段
kを含むことを特徴とする電子番組ガイド。
(ウ)本件発明3に対応するイ号物件の構成
l放送時間及びチャンネルをそれぞれ軸とし,テレビジョン番組情
報を複数のセル内に表示する格子状の番組表形式で表示モニターに,
RAMに記憶したテレビジョン番組情報を表示させる信号を発生し,
mその表示されたテレビジョン番組情報の一つをカーソルにより目
立たせる信号を発生し,そして
n複数チャンネルを表示する格子状の番組表形式の代わりに単一チ
ャンネルの番組表形式でその目立たせたテレビジョン番組情報を表
示する信号を発生
oするようプログラムされていることを特徴としたマイクロプロセ
ッサ。
イ(ア)外部からの情報は,すべてRAMを経由しなければ「ハードディス
クドライブ」(以下「HDD」という。)に記憶されることはなく,ま
た,RAMを経由しなければ,データが記憶装置外に出力されることは
ない。HDDは,データを長期的に保存するために補助的記憶装置とし
て用いられる外部記憶装置にすぎず,CPUはそこに記憶されている情
報を直接読み書きすることができないから,記憶装置外から入力及び出
力される情報はすべて,CPUが直接読み書きができるRAMにいった
んは記憶される。HDDに情報が記憶されるとの主張は,RAMにも情
報が記憶されることを自認することになる。
(イ)「放送局コード」は,各放送局に割り当てられたコード,すなわち,
チャンネルを認識するための情報であるから,イ号物件は,チャンネル
を含むテレビジョン番組情報を受信している。
(被告)
ア原告の主張は争う。
イ(ア)イ号物件が受信するのは,「チャンネル」ではなく,「放送局コー
ド」を含んでいる複数のテレビジョン番組情報である。
(イ)イ号物件がテレビジョン番組情報を記憶するのは,RAMではなく,
HDDである。
(1)−2ロ号方法及びロ号物件の構成
(原告)
アロ号方法及びロ号物件の構成は,次のとおりである。
(ア)本件発明4に対応するロ号方法の構成
p複数のテレビジョン番組情報について,それぞれのテレビジョン
番組情報のタイトル,チャンネルそして開始時間を含んでいるデー
タファイルをメモリに記憶し,
qメモリに記憶されている複数のテレビジョン番組情報をディスプ
レイモニターに表示し,
r記録するためのビデオ記録媒体をVCRまたはその他の記録装置
内に装填し,
s表示された複数のテレビジョン番組情報の中の一つを,記録する
ために選択し,
t選択されたテレビジョン番組情報が示している番組をVCRまた
はその他の記録装置に記録するために,選択されたテレビジョン番
組情報のデータを前記のデータファイルからVCRまたはその他の
記録装置に転送する
uことを特徴とする,VCRまたはその他の記録装置を利用して,
ビデオ記録媒体にテレビジョン番組を記録する方法。
(イ)本件発明5に対応するロ号物件の構成
v複数のテレビジョン番組情報について,それぞれのテレビジョン
番組情報のタイトル,チャンネルそして開始時間を含んでいるデー
タファイルを記憶しているRAMから,テレビジョン番組情報を取
り出してディスプレイモニターに表示する信号を発生し,
wこの表示された複数のテレビジョン番組情報の中の一つが示して
いる番組を記録するため,その一つのテレビジョン番組情報を特定
する信号を発生し,
xこの選択されたテレビジョン番組情報に対応するデータをデータ
ファイルからVCRまたはその他の記録装置に転送するための信号
を発生する
yようプログラムされ,前記の選択されたテレビジョン番組情報が
示している番組を記録させるようにすることを特徴としたマイクロ
プロセッサ。
イ本件発明4及び5は録画の実行については何ら言及していないから,レ
コーダー単体で録画を実行していないとしても,構成要件充足性を欠くこ
とにはならない。
(被告)
ア原告の主張は争う。
イロ号物件が受信し記憶するのは,タイトル,放送時間のほか,「チャン
ネル」ではなく,「放送局コード」を含んでいる複数のテレビジョン番組
情報である。
ウロ号物件(テレビdeナビ録画方式を採用する機種)でも,録画先とし
て「東芝RDアナログ」が設定されている場合には,レコーダー単体に対
する録画指示を行っているものではない。
(2)侵害論
(2)−1請求項における用語の解釈
アテレビジョン番組リスト
(原告)
(ア)「テレビジョン番組リスト」とは,テレビジョン番組を特定するた
めの個々の番組単位の番組情報を意味する。
(イ)本件特許請求の範囲の記載全体を考慮し,技術的に合理的に解釈す
ると,本件発明1の要件Aの記載からは,表示された複数の「テレビジ
ョン番組リスト」が,それぞれ「タイトル,放送時間そしてチャンネ
ル」という番組を特定するための番組情報を含むものであり,また,
「テレビジョン番組リスト」そのものがメモリに記憶される対象である
と解される。本件発明1の要件B及び要件Eの各記載からは,「テレビ
ジョン番組リスト」そのものは,「グリッドガイド」形式や「単一チャ
ンネル」形式という表示形式を持つものではなく,むしろ,それらの表
示形式で表示される対象として理解される。本件発明3の要件Lの記載
では,「テレビジョン番組リスト」自体,「複数のセル内」に表示され
なければならないが,本件発明4の要件Tでは,「テレビジョン番組リ
スト」が番組の記録のための選択の対象として記載されているが,記録
のためには番組の特定が必要とされることは技術常識であるから,「テ
レビジョン番組リスト」が,多数の番組を含む「番組表」などではあり
得ず,「個々の番組」と解される。そうすると,本件発明1及び4の特
許請求の範囲において,「テレビジョン番組リスト」は,RAMに記憶
される個々の番組単位の番組情報として規定されており,また,スクリ
ーン上に現れた場合には,番組表の中で複数表示され,記録したい番組
を特定するために選択し得るものと解釈するのが合理的である(なお,
本件発明2,3,5に対応する請求項中の記載からも,同様に解され
る。)。
(ウ)本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の記載から
も,原告の解釈に矛盾はない。
①段落【0009】の「表示されたテレビジョン番組リストの一つを
目立たさせる」との記載からすると,「テレビジョン番組リスト」と
は,番組情報がスクリーン上に表示として現れた場合における,個々
の番組単位の番組情報を指していると解される。同段落の「表示され
た複数の番組リストの内の記録のための番組リストを識別する」,
「記録のために選択された番組リスト」との記載からすると,「テレ
ビジョン番組リスト」は,記録のために選択する情報としても,個々
の番組単位の番組情報を意味していると解される。
②段落【0011】の「番組リストの幾つかは,長さのため,二つか
それ以上のコラム28を重複して使用している。」との記載からする
と,「番組リスト」が番組表自体ではなく,番組表の中で,コラム
(列)を2つ以上使用して表示されることのある「個々の番組単位の
番組情報」であると解される。また,同段落全体としては,スクリー
ン上の番組表(アレー)が「番組リスト」の長さに応じた不規則なセ
ルによって構成されていることが説明されているから,同段落の「ア
レーは,半時間長の三つのコラム28,及び十二の行30の番組リス
トとして構成されている」との記載は,「アレー(番組表)は,半時
間長の三つのコラム28,及び十二の行30の(セルに表示された)
番組リストにより構成されている」と解するのが自然である。
③段落【0031】の「リスト58」,「番組リスト58」との記載
は,【図7】の特定の部位を示すために用いられている表記にすぎず,
かかる意味をもって「テレビジョン番組リスト」の解釈とすることは
できない。また,同段落の「リスト58は,そのチャンネルの一連の
番組リストの行60とチャンネル情報フィールド62を含む」との記
載からすると,「番組リスト」は,番組表自体ではなく,番組表に含
まれる一連の「個々の番組単位の番組情報」を意味していることが明
らかである。
④段落【0022】の「TV表示部のテキストスペースの制限により,
可能な限りTVリストの多数の行を表示するのが好ましい」との記載
は,「TVリスト」という情報を多数の行にわたって表示することを
説明していると解される。
⑤段落【0065】の「リスト」が「並んだもの」を意味するとして,
「テレビジョン番組リスト」も「テレビジョン番組のタイトルの並ん
だもの」と解する被告の主張は,特許請求の範囲の記載全体からみた
場合における技術的合理性を考慮することをせず,文言を分割して別
々に解釈し,これを組み合わせるという手法であり,適切でない。
⑥段落【0019】によると,番組表情報が更新される都度,番組リ
ンクアイコン46が付された番組のタイトル情報と更新後の「新規の
リスト」との突き合わせがされ,合致した場合には「新規のリスト」
に自動的に記録のために標識が付けられるから,自動的に記録のため
に標識が付けられるのは,「番組表」自体ではなく,新規の「リス
ト」すなわち「個々の番組単位の番組情報」である。
⑦段落【0024】によると,【図6】の番組ノート52は,「3ま
たは4のリスト」を隠してしまうが,必要に応じて「選択されたリス
ト」を隠すのを回避できるようになっているから,同段落の「リス
ト」は番組表自体ではなく,「個々の番組単位の番組情報」であるこ
とは明らかである。
(ウ)原出願審決の審決取消訴訟における特許庁の主張及び裁判所の判断
は,原告の解釈と整合している。
①原出願審決の審決取消訴訟では,原出願発明における「番組ノー
ト」が,「テレビジョン番組リスト」が表示された「セル」内に表示
される情報であってもよいのかが本質的に争われたが,特許庁は,
「テレビジョン番組リスト」が「テレビジョン番組を特定するための,
個々の番組単位の番組情報」であるとの認識に基づき,「『テレビジ
ョン番組リスト』はテレビジョン番組のリストなのであるから,常識
的には,テレビジョン番組のタイトル(名称)のリストと解すべきで
ある。そして,本願発明は,セル内に表示されているものが全て『テ
レビジョン番組リスト』ということではなく,『テレビジョン番組リ
スト』が『セル内に表示され』ているということに過ぎない」等とし
て,「番組ノート」が「セル」内に表示されないということはできな
いとの意味で主張したものである。
②裁判所は,判決において「また,本願発明の『テレビジョン番組リ
スト』は,通常の意味からすれば,テレビジョン番組のタイトルのリ
ストと解されるのであって,刊行物発明の『番組名称』に相当するも
のである」と述べたが,ここでは,「テレビジョン番組リスト」は,
タイトル情報を含む番組情報として理解されているものである。
(エ)出願経過における主張について,信義則に基づく禁反言の法理が適
用されるのは,「出願審査の過程における出願人の主張により,審査官
や審判官の発明の技術的範囲の判断に影響を与えたと考えられる」場合
であるが,原告は,出願経過において,拒絶理由を回避するべく「テレ
ビジョン番組リスト」の文言を被告が主張するような意味に解すべきと
の主張をしたことはなく,また,同文言に関する原告の主張が,原出願
発明の進歩性の判断を左右させた事情もない。被告が主張する原告書面
の記載も,部分的に同文言の意味に混乱を来した箇所があっただけであ
る。原出願の審査手続や原出願審決の審決取消訴訟においても,「テレ
ビジョン番組リスト」は,むしろ「個々の番組単位の番組情報」と解さ
れた上で審査審理がされているから,本件での主張と齟齬はなく,分割
出願制度の趣旨に反することはない。
(オ)被告が挙げる特願2006−00226号及び特願2006−00
227号は,本件特許の登録日よりも後に,本件特許のいわゆる「子出
願」から分割出願されたものであり,本件特許の出願の審査経過とは無
関係のものである。
(被告)
(ア)「テレビジョン番組リスト」とは,テレビジョン番組のタイトルが
並んだものを意味する。
(イ)「テレビジョン番組リスト」を文字どおり解すると,「テレビ」の
「番組」に関する「リスト」(「表のように項目を並べたもの」であり,
「情報」ではない。)である。
(ウ)本件発明1の要件Aについて,「テレビジョン番組リスト」を「テ
レビジョン番組のタイトルが並んだもの」と解釈しても,タイトルの並
びに加えて放送時間,チャンネルを軸とした表形式で表わせば,それぞ
れ「タイトル,放送時間,そしてチャンネル」を含んでいるリストは観
念し得るし,そのデジタル情報がRAMに記憶できるものであることは,
原告及び被告いずれの解釈を採用しても可能である。
(エ)本件明細書の検討
①「テレビジョン番組リスト」の用語は,本件明細書の段落【000
8】及び【0009】以外では用いられていないところ,段落【00
09】は原出願の出願当初の明細書(以下「原出願当初明細書」とい
う。)及び原外国出願の出願当初の明細書に記載がなく,分割出願で
ある本件特許の出願時に追加された新規事項であるから,同段落の追
加及び同段落に対応する各請求項は,分割要件に違反しており,原出
願日を基準とする限り,同段落に基づく主張は,先願主義及び法が新
規事項の追加を禁じた趣旨から認められるべきではない。
②「テレビジョン番組リスト」という文言が,本件明細書の「番組リ
スト」(段落【0011】及び【0031】)や「TVリスト」(段
落【0022】)に相当すると善解しても,上記と同様の解釈となる。
a段落【0011】の「アレーは半時間長の三つのコラム28,十
二の行30の番組リストとして構成されている」との記載及び【図
1】からすると,番組リストは,【図1】全体の番組のタイトルが
並んだようなもの,すなわち,番組表のような「テレビジョン番組
のタイトルが並んだもの」を意味すると考えられる。「十二の行3
0」という用語が「番組リスト」を修飾する関係にあるとしても,
「番組リスト」は,行単位,すなわちチャンネル単位の「テレビジ
ョン番組のタイトルが並んだもの」を意味していることになる。な
お,同段落の上記記載の直後の「番組リストの幾つかは,長さのた
め,二つかそれ以上のコラム28を重複して使用している」との記
載からは,個々の番組単位のものと解釈し得るが,直前の上記記載
からは,被告の主張する意味で解されることは明らかである。
b段落【0031】の「単一チャンネルの番組リスト58のスクリ
ーン22を示す」との記載及び【図7】の符号58が【図7】全体
を示していることからすると,「番組リスト58」は,【図7】に
示されるような番組のタイトルが複数並んだものと解される。
c段落【0022】の「可能な限りTVリストの多数の行を表示す
るのが好ましい」との記載及び【図6】からすると,「TVリス
ト」とは「テレビジョン番組のタイトルが並んだもの」を意味する
と考えられる。
③本件明細書の「リスト」という文言を検討しても,上記と同様の解
釈となる。
a段落【0065】の「スクリーン116により,ユーザーは,チ
ャンネルを興味に合わせてカスタム化でき,リストをコンパクトに
でき」との記載は,グリッドガイドに表示される縦軸のチャンネル
の数を減らすことにより,表形式のような「リスト」(一定の項目
が並んだもの)をコンパクトにできるとの意味に解されるから,
「リスト」は,「並んだもの」を意味する言葉として用いられてい
るといえる。
b段落【0019】の「新規のリスト」の文言について,同段落で
は,スケジュールが更新される都度,番組リンクアイコン46が付
された番組のタイトル情報と更新後の「新規リスト」との突き合わ
せがなされることが述べられているから,突き合わせの対象となる
「新規のリスト」とは,少なくとも2つ以上のものから構成されて
いなければならない。したがって,「新規のリスト」とは,むしろ
番組表のような複数の番組の束からなるものと考えるべきである。
同段落の「それは自動的に…」の「それ」とは,突き合わせによっ
て特定された番組を意味することは明らかである。
c段落【0024】の「リスト」の文言について同段落が説明する
【図6】は,「番組ノート52は,ガイドの3又は4つのチャンネ
ルの部分で番組表に重ねられる」態様を表示しているから,「リス
ト(タイトルを並べたもの)」という被告の解釈と整合する。
(オ)原出願審決の審決取消訴訟において,特許庁及び裁判所は,「テレ
ビジョン番組リスト」とは,テレビジョン番組のタイトルのリスト,す
なわち,テレビジョン番組のタイトルが並んだものであると明言してい
る。特許庁の準備書面には「常識的には,テレビジョン番組のタイトル
(名称)のリストと解すべき」,「セル内に表示されているもの全て
『テレビジョン番組リスト』ということでなく,『テレビジョン番組リ
スト』が『セル内に表示され』ていることに過ぎない」,「『テレビジ
ョン番組リスト』は,テレビジョン番組のリストであり,テレビジョン
番組のタイトル(名称)のリストと解される」,「この『番組名称』
(の並び)が『テレビジョン番組リスト』に該当する。」と記載され,
裁判所の判決にも「通常の意味からすれば,テレビジョン番組のタイト
ルのリストと解される」と記載されている。
(カ)原告は,原出願において,「テレビジョン番組リスト」の用語を
「個々の番組単位」の番組情報とは考えていなかったから,分割出願で
異なる解釈を主張することは,分割出願における解釈変更という手段に
よる新規事項の追加行為となり,また,分割出願に係る特許権による権
利行使の際に,同用語の意義を違えて主張することは,信義則に反する
から,いずれも許されない。
(キ)原告は,本件特許の出願を更に分割し,特願2006−00226
及び特願2006−00227の分割出願(以下「再分割出願」とい
う。)をした際,請求項に「テレビジョン番組リスト」の文言を使用し
たところ,特許庁から拒絶理由通知を受け,「テレビジョン番組表」と
補正しているから,原告自身,「テレビジョン番組リスト」が番組表を
意味していたことを自認していたものである。再分割出願で上記のよう
に振る舞いながら,本件で「個々の番組単位の番組情報」と主張するこ
とは信義則に反する。
イグリッドガイド形式
(原告)
「グリッドガイド形式」とは,格子状のテレビジョン番組表(形式)を
いうが,時間とチャンネルを軸としてテレビジョン番組リストという情報
(要素)が格子状に配列されていればよいから,「縦線」,「横線」等の
実線による区切りは必ずしも必要ない。
(被告)
「グリッドガイド形式」とは,格子状のテレビジョン番組表(形式)を
いうが,「格子状」の用語の意義について,「碁盤の目のように,縦横が
常に明瞭に区切られた状態」,すなわち,番組表形式でいえば,時間とチ
ャンネルの軸で常に明瞭に区切られている状態を意味すると考えられる。
ウチャンネルの一つに目印を付ける
(原告)
(ア)本件発明1の要件C,Dの各記載からすると,「チャンネルの一つ
に目印を付ける」とは,「単一チャンネル形式での表示に変換する契機
となるチャンネル情報を選択する」ことであり,具体的態様については,
特段の限定はない。
(イ)本件明細書の段落【0033】には「単一のチャンネルガイドは,
グリッド24上のカーソル32により選択されたチャンネルとスケジュ
ール時間とに対して開かれる。」と記載され,【図2】及び【図7】に
はグリッドガイド形式において,特定の「チャンネルとスケジュール時
間」という情報を含む「テレビジョン番組リスト」を選択することによ
って,当該「テレビジョン番組リスト」に対応する「チャンネル」を特
定し,その「チャンネル」を単一チャンネル形式で表示する方法が開示
されているから,「チャンネルの一つに目印を付ける」態様として,
「モニター画面上の,テレビジョン番組リストを表示する部分を選択す
ることによって,単一チャンネル形式表示に対応するチャンネル情報を
選択する」方法が含まれるといえる。
(ウ)目印を付ける対象が,本件発明2ないし5では「テレビジョン番組
リスト」とされ,本件発明1では「チャンネル」とされているが,本件
発明1ないし5は,それぞれ別個の発明であるから,それぞれの発明の
特許請求の範囲について,どのような規定ぶりとするかは特許要件を充
たす限り自由であるし,特許請求の範囲の文言解釈も,当該特許請求の
範囲及び本件明細書全体の記載に照らし,個別に判断を行うのが常識で
ある。特許請求の範囲相互間での一部の表現が異なることをもって,一
方の発明について,他方の発明における,その一部の異なった表現によ
る実施態様を排除しているとか,そのような実施態様を含まない形で限
定解釈しなければ信義則に反する等ということはあり得ない。
(エ)原告は,本件特許の出願手続において,請求項1を「タイトルの一
つに目印を付け」から「チャンネルの一つに目印を付け」に補正したが,
本件発明1の内容は補正の前後において実質的な変更はなく,補正前も,
グリッドガイド形式で表示されたテレビジョン番組リストを,チャンネ
ルに対応するテレビジョン番組リストの行を含む単一チャンネル形式に
変更するステップを含む発明であり,「タイトルの一つに目印を付け」
ることは,当該チャンネル情報を選択する態様として記載されているに
すぎない。補正したことにより,発明の技術的意義に則したものとなり,
発明が理解しやすくなった。
(被告)
(ア)本件発明1の請求項の記載からすると,要件Cの「チャンネルの一
つに目印を付ける」とは,チャンネル軸に表示されているチャンネルの
一つに目印(目で見てすぐ分かるようなしるし)を付けることを意味す
る。
(イ)原告の主張する本件明細書の記載も,目で見えるようなしるしであ
る「目印」が付けられるのは,テレビジョン番組のタイトルであり,チ
ャンネルではない。本件発明2ないし5の要件と対比しても,本件発明
1の要件Cだけがあえて「テレビジョン番組リスト」ではなく「チャン
ネル」と規定しており,要件Cの規定ぶりが異なるにもかかわらず,
「テレビジョン番組リスト」を選択することをもって,表示された「チ
ャンネルの一つに目印」を付けているとの主張は,「テレビジョン番組
リスト」と「チャンネル」を同視するものであり,請求項によって両者
を使い分けている原告の意思と明らかに矛盾し,信義則に反する。
(ウ)本件特許の出願の経緯において,原告は,「請求項の表現を読みや
すくする」目的で請求項を補正し,目印を付ける対象を「タイトル」か
ら「チャンネル」に変更したのであるから,「タイトルに目印を付け
る」ことは,「チャンネルに目印を付ける」ことから除外されるべきで
あり,権利行使時にこれを含むと主張することは禁反言の法理に抵触す
る。
エカーソル
(原告)
(ア)「カーソル」とは,「表示装置の画面上の次の操作位置を指示する
ために用いられる可動でかつ可視な標識」を意味する。
(イ)「カーソル」は,技術用語としては当業者において一義的に理解で
きる用語である。辞典等においても,上記意味又は「表面上の次の操作
位置を指示するために使われる,可動でかつ可視な印」(JIS工業用
語大辞典・第4版),「電子計算機の入出力装置として用いられるディ
スプレイ装置において,画面上で位置を指示するマーカのこと」(デー
タ・画像通信用語辞典),「この説明書に記載しているカーソルとは,
▲▼またはボタンを押すことにより画面上で移動する黄色表示のこ


とです。どの項目を選んでいるかを示しています」(松下電器産業株式
会社の取扱説明書)と定義,説明されている。幾つかの特許公開公報で
は,当業者は,イ号方法のような「四角い枠」を「カーソル」と呼んで
いる。選択した領域を着色し,点滅させるようなものを,当業者が「カ
ーソル」と呼ぶこともある。
(ウ)被告の主張は,辞典における「カーソル」の説明と,本件明細書の
「カーソル」の具体例が整合しないことから,限定して解釈すべきとい
うものであるが,そもそも当業者の理解では,カーソル自体何ら特定の
形状に限定されるものではない。
(被告)
(ア)本件発明1及び2の「カーソル」の技術的な範囲は,本件明細書の
記載に基づき,当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記
載されていると認められる範囲(特許法36条4項1号参照)の技術に
限定して解釈すべきところ,本件明細書において,上記程度明確かつ十
分に記載されていると認められるカーソルは,段落【0015】の①セ
ル全体に広がり,かつ,②現在の基礎位置をはっきりとハイライトして
いるという2つの要素を具備するカーソルである。すなわち,本件明細
書のカーソルは,基礎セル(1/2時間)でしか移動できないことを前
提に,位置連続表示(34)とセグメント分割(36)によって,セル
全体をハイライトすることにした上,基礎セルよりも長いセルの場合,
クリックにより次に移動する基礎セルをセグメント分割して表示してい
るものである(36)。
(イ)他方,イ号物件のカーソルは,1回のクリックで必ず隣接するセル
に移動させることが可能であるため,基礎セルという概念が存在せず,
現在の基礎位置をはっきりとハイライトしているという要素を不要にし
た点で,本件明細書のカーソルとは技術的思考が異なっている。そして,
基礎セル(1/2時間)単位でしか移動できないカーソルについての本
件明細書の記載のみから,当業者が,イ号物件のような1回のクリック
で常に次のセルに移動することが可能なカーソルを実施することはでき
ない。したがって,イ号物件のカーソルは,本件発明1及び2の「カー
ソル」に該当しない。
オ電子番組ガイド
(原告)
(ア)本件発明2は,「システム」に係る発明であり,「表示物」の発明
ではない。
(イ)本件発明2全体の規定ぶりからすると,要件Jの「時間とチャンネ
ルのグリッドガイドをその目立たせたテレビジョン番組リストのチャン
ネルの単一チャンネルガイドに変える手段」との記載は,かかる手段を
備える「電子番組ガイド」が「システム」であることを明確に示してい
る。また,要件Iからは,「このグリッドガイドに表示されたテレビジ
ョン番組リストの一つを選択して目立たせる」手段が読み取れるから,
システムの発明と理解すべきである。
(ウ)「電子番組ガイド」を「表示物」と解すると,要件Iの「可動カー
ソル」や,要件Jの「手段」が構成要件に含まれることと,技術的に齟
齬する。
(被告)
(ア)本件発明2の「電子番組ガイド」は,システムの発明ではなく,電
子番組ガイドという表示態様に関する何らかの工夫に関する「表示物」
の発明である。
(イ)本件明細書には,「電子番組ガイド」という文言は用いられていな
いが,「TVガイド」がこれに対応する文言であると善解し,本件明細
書の段落【0006】の「TVガイドは,不規則なセルのアレーであ
り」,「グリッド状TVガイド」,段落【0021】の「グリッドTV
ガイドの頭部を横切る1/2時間ヘッダストリッブ」,段落【002
5】の「大半の印刷TVガイドと異なって」の各記載からすると,「T
Vガイド」は,画面表示された何らかの態様(表示物)であり,電子番
組ガイドも表示態様(表示物)である。「ガイド」という文言も,本件
明細書では何らかの表示物を意味する言葉として用いられている。
(ウ)本件発明2を「システム」に係る発明と解すると,要件GないしJ
の構成要素うち,要件GないしIはシステムの発明としての記載になっ
ておらず,権利行使不能である。すなわち,要件Gは,「テレビジョン
番組リスト」(テレビジョン番組のタイトルが並んだもの)を,要件H
は,「グリッドガイド」(格子状の表示物又は表示態様)を,要件Iは,
「可動カーソル」(画面上に表示される表示物又は表示態様)という表
示物又は表示態様を,それぞれ構成要素とする。要件Jは,「変える手
段」を構成要素としており,システムの発明と考え得る。したがって,
4つの構成要件のうち「手段」が1つしかない以上,「システムの発
明」とは考えられず,「表示物の発明」と考えるほかない。
(2)−2本件発明1の侵害の有無(イ号方法及びイ号物件)
(原告)
アイ号方法は,次のとおり,本件発明1の要件をすべて充足する。
(ア)要件A
①「テレビジョン番組リスト」とは,テレビジョン番組を特定するた
めの個々の番組単位の番組情報を意味する。
②イ号方法は,タイトル,放送時間そしてチャンネルをそれぞれが含
んでいる複数のテレビジョン番組情報を電子メモリに記憶する(構成
a)ステップを有しているから,要件Aを充足する。
(イ)要件B
①「時間とチャンネルのグリッドガイド形式」とは,放送時間及びチ
ャンネルをそれぞれ軸として,各セル内にテレビジョン番組のタイト
ルを表示する格子状のテレビジョン番組表形式をいう。
②イ号方法は,放送時間及びチャンネルをそれぞれ軸とする格子状の
番組表形式で,複数のテレビジョン番組情報のチャンネルの中の幾つ
かをモニタースクリーン上に表示する(構成b)ステップを有してい
るから,要件Bを充足する。
(ウ)要件C
①「チャンネルの一つに目印を付ける」とは,「チャンネル」を何ら
かの方法で一つに特定することができれば,「チャンネルの一つに目
印を付ける」に該当する。
②イ号方法は,モニタースクリーン上でカーソルを移動させ,一つの
テレビジョン番組情報を選択することによって表示されたチャンネル
の一つに目印を付ける(構成c)ステップを有しているから,要件C
を充足する。
(エ)要件D
①「単一チャンネル形式」とは,単一のチャンネルにおいて放送され
るテレビジョン番組の放送時間,タイトル等が表示されたテレビジョ
ン番組表形式をいう。
②イ号方法は,複数チャンネルを表示する格子状の番組表形式の代わ
りに,単一チャンネルの番組表形式でその目印を付けたチャンネルを
表示する(構成d)ステップを有しているから,要件Dを充足する。
(オ)要件E
イ号方法の単一チャンネルの番組表形式は,目印を付けたチャンネル
に対応するチャンネルのテレビジョン番組情報を順次配列した行を含ん
でいる(構成e)から,要件Eを充足する。
(カ)要件F
イ号方法は,テレビジョン番組情報のデータベースを閲覧する方法
(構成f)であるから,イ号方法は,要件Fを充足する。
イ間接侵害
(ア)イ号方法は,本件発明1の要件をすべて充足しているから,イ号方
法の実施に用いるイ号物件は,本件発明1の使用に用いるものである。
また,本件発明1の解決課題は,テレビジョン番組リストをより見やす
い形で表示する方法を提供し,より分かりやすい仕方で視聴又は記録す
るための番組を選択する方法を提供することにある(本件明細書の段落
【0008】参照)ところ,イ号物件は,本件発明1による課題の解決
に不可欠なものであるから,被告によるイ号物件の製造・販売は,本件
特許権1を侵害するものとみなされる(特許法101条5号)。
(イ)被告は,本件発明1が特許発明であること及びイ号物件がその発明
の実施に用いられることを,原告の関連会社の者が被告の担当者と面会
し,本件発明1を含む特許権の一覧表を示した平成18年3月23日ま
でには知っていた。
(被告)
ア原告の主張は争う。イ号方法は,次のとおり,本件発明1の要件を充足
しない。
(ア)要件A
①「テレビジョン番組リスト」とは,番組表のような「テレビジョン
番組のタイトルが並んだもの」を意味する。メモリに記憶するもので
はないため,要件Aの「…テレビジョン番組リストを電子メモリに記
憶するステップ」を観念すること自体困難である。
②仮に,タイトルが並んだ番組表を表示するためのデータと考えれば,
メモリに記憶することは観念できるが,イ号方法においては,データ
を記憶する場所は「HDD」であって,「RAM」ではない。「HD
D」は,データの書込みを磁気的に行うものであり,電気的に記憶す
る「RAM」とは異なる。また,記憶の対象も,テレビジョン番組の
タイトルが並んだもののデータ自体ではない。
③「…それぞれが含んでいる。」の点も意味が不明である。
④したがって,イ号方法は要件Aを充足しない。
(イ)要件B
①「時間とチャンネルのグリッドガイド形式」は「格子状のテレビジ
ョン番組表形式」を意味するが,「格子状」とは,「碁盤の目状にな
っているもの。」を意味するところ,イ号方法は,放送時間及びチャ
ンネルをそれぞれ軸とし,チャンネル(縦軸)に対しては区切られて
いるが,放送時間(横軸)に対して区切られていない(碁盤の目状で
はない)から,「格子状」の番組表形式である「グリッドガイド形
式」ではない。
②したがって,イ号方法は要件Bを充足しない。
(ウ)要件C
①「チャンネルの一つに目印を付ける」とは,字句どおり「チャンネ
ル軸に表示されているチャンネルの一つに目印をつける」という意味
である。また,「カーソル」は,セル全体に広がり,現在の基礎位置
をはっきりとハイライトしているカーソルに限定解釈されるべきであ
る。
②イ号方法は,モニタースクリーン上でカーソルを移動させ,「タイ
トルが表示されたセルに目印を付けている」だけであるし,上記のよ
うな「カーソル」は用いていない。また,イ号方法は,格子状の番組
表形式である「グリッドガイド形式」を具備しない。
③したがって,イ号方法は要件Cを充足しない。
(エ)要件D
①「単一チャンネル形式」の意味は概ね認めるが,イ号方法は,格子
状である「グリッドガイド形式」を用いておらず,「その目印を付け
たチャンネル」も存在しない。
②したがって,イ号方法は要件Dを充足しない。
(オ)要件E
①イ号方法には,「その目印を付けたチャンネル」は存在しない。ま
た,「テレビジョン番組リスト」は,テレビジョン番組のタイトルが
並んだものであるから,この「テレビジョン番組リスト」を順次配列
しているわけではない。
②したがって,イ号方法は要件Eを充足しない。
イ間接侵害
原告の主張は争う。イ号方法は,本件発明1の要件を充足しない。
(2)−3本件発明2の侵害の有無(イ号方法及びイ号物件)
(原告)
イ号物件の電子番組ガイドは,次のとおり,本件発明2の要件をすべて充
足するから,本件発明2の技術的範囲に属する。
ア要件G
イ号物件の電子番組ガイドは,タイトル,放送時間そしてチャンネルを
それぞれが含んでいる複数のテレビジョン番組情報(構成g)を有してい
るから,要件Gを充足する。
イ要件H
イ号物件の電子番組ガイドは,テレビジョン番組情報の中の幾つかを表
示する,放送時間及びチャンネルをそれぞれ軸とする格子状の番組表(構
成h)を有しているから,要件Hを充足する。
ウ要件I
要件Iにおける「グリッドガイドに表示されたテレビジョン番組リスト
の一つを選択して目立たせる」ことは,スクリーン上では,例えば,グリ
ッドガイド上に表示されたタイトルの一つを選択して目立たせることによ
って行うことが可能である。ここでは,あるタイトルが表示されたセルを
選択すると,タイトル情報と,放送時間情報と,チャンネル情報を有して
いる「テレビジョン番組リスト」という番組単位の情報を選択できること
になる。
イ号物件の電子番組ガイドは,移動可能なカーソルを有しており,スク
リーン上で,当該カーソルによって格子状の番組表に表示されたタイトル
の一つを選択して目立たせることにより,テレビジョン番組情報の一つを
選択して目立たせている(構成i)から,要件Iを充足する。
エ要件J
イ号物件の電子番組ガイドは,格子状の番組表をその目立たせたテレビ
ジョン番組情報に対応する単一チャンネルの番組表に変える機能(構成
j)を有しているから,要件Jを充足する。
オ要件K
イ号物件の電子番組ガイドは,以上の構成を備えていることを特徴とす
る電子番組ガイド(構成k)であるから,要件Kを充足する。
(被告)
ア原告の主張は争う。
イ本件発明2は,電子番組ガイドの「システムの発明」ではなく,電子番
組ガイドという表示態様に関する何らかの工夫に関する「表示物の発明」
である。そして,レコーダーであるイ号物件は,かかる表示物を有してい
ないから,本件発明2の技術的範囲に属しない。
ウ仮に,本件発明2が電子番組ガイドの「システムの発明」であったとし
ても,イ号物件が含む電子番組ガイドシステムは,次のとおり,本件発明
2の技術的範囲に含まれない。
(ア)要件G
①「テレビジョン番組リスト」は,番組表のような「テレビジョン
番組のタイトルが並んだもの」と解されるところ,イ号物件の電子
番組ガイドシステムには,このような「テレビジョン番組リスト」
は物理的に存在しない。
②「…それぞれが含んでいる」の意味も不明である。
③したがって,イ号物件の電子番組ガイドシステムは要件Gを充足
し得ない。
(イ)要件H
①「テレビジョン番組リスト」は,番組表のような「テレビジョン番
組のタイトルが並んだもの」と解されるところ,イ号物件によって表
示される電子番組ガイドシステムでは,「テレビジョン番組リスト」
は一つしか表示していないため,「幾つかを表示する…グリッドガイ
ド」に該当しない。
②イ号物件が含む電子番組ガイドシステムは,格子状の番組表形式を
有するものではないため,「グリッドガイド」を具備しない。
③したがって,イ号物件の電子番組ガイドシステムは要件Hを充足し
ない。
(ウ)要件I
①「テレビジョン番組リスト」は,番組表のような「テレビジョン番
組のタイトルが並んだもの」と解されるところ,イ号物件が含む電子
番組ガイドシステムにおいては,「テレビジョン番組リストの一つを
選択して目立たさせる…カーソル」は具備しない。
②イ号物件が含む電子番組ガイドシステムに係る番組表は,放送時間
及びチャンネルをそれぞれ軸としているが,格子状ではないから「グ
リッドガイド」に該当しない。また,①セル全体に広がり,②現在の
基礎位置をはっきりとハイライトしているような「カーソル」を有し
ていない。
③したがって,イ号物件の電子番組ガイドシステムは要件Iを充足し
ない。
(エ)要件J
①イ号物件の電子番組ガイドシステムの番組表は,格子状ではないの
で「グリッドガイド」を具備しないし,「テレビジョン番組リスト」
は,番組表のような「テレビジョン番組のタイトルが並んだもの」で
あるから,「その目立たせたテレビジョン番組リスト」は存在しない。
②したがって,イ号物件の電子番組ガイドシステムは要件Jを充足し
ない。
(2)−4本件発明3の侵害の有無(イ号方法及びイ号物件)
(原告)
イ号物件のマイクロプロセッサは,次のとおり,本件発明3の各要件をす
べて充足するから,本件発明3の技術的範囲に属する。
ア要件L
(ア)イ号物件のマイクロプロセッサは,放送時間及びチャンネルをそれ
ぞれ軸とし,テレビジョン番組情報を複数のセル内に表示する格子状の
番組表形式で表示モニターに,RAMに記憶したテレビジョン番組情報
を表示させる信号を発生する(構成l)から,要件Lを充足する。
(イ)マイクロプロセッサが直接読み書きできるのはRAMに記憶された
情報であるから,イ号物件のマイクロプロセッサは「RAMに記憶した
テレビジョン番組リストを表示させる信号を発生」するものである。
イ要件M
イ号物件のマイクロプロセッサは,表示されたテレビジョン番組情報の
一つをカーソルにより目立たせる信号を発生する(構成m)から,要件M
を充足する。
ウ要件N
イ号物件のマイクロプロセッサは,複数チャンネルを表示する格子状の
番組表形式の代わりに単一チャンネルの番組表形式で目立たせたテレビジ
ョン番組情報を表示する信号を発生する(構成n)から,要件Nを充足す
る。
エ要件O
(ア)イ号物件のマイクロプロセッサは,以上の信号を発生するようプロ
グラムされていることを特徴としたマイクロプロセッサ(構成o)であ
るから,要件Oを充足する。
(イ)マイクロプロセッサがプログラムの実行装置であることは,当業者
の技術常識であり,要件Oが,要件L,M及びNの各信号を発生させる
プログラムの存在に基づき,それらの信号を発生させるという機能を実
現するマイクロプロセッサを意味することは当業者において当然に理解
できる。そして,イ号物件のマイクロプロセッサも,要件L,M及びN
の各信号を発生するプログラムに基づき,これらの各信号を発生してい
るから,「…信号を発生するようプログラムされている…マイクロプロ
セッサ」であるといえる。
(被告)
原告の主張は争う。イ号物件は,次のとおり,本件発明3の要件を充足し
ない。
ア要件L
(ア)イ号物件において採用されている表示形式は,「格子状」ではない
から,イ号物件が含むマイクロプロセッサは,「グリッドガイド形式で
…表示させる信号」を発生しない。
(イ)「テレビジョン番組リスト」は,番組表のようなテレビジョン番組
のタイトルが並んだものを表すものであり,RAMに記憶するものでは
ないから,「RAMに記憶したテレビジョン番組リスト」を観念するこ
と自体困難である。
(ウ)仮に,番組表を表示するためのデータと考えれば,RAMに記憶す
ることは観念できるが,イ号物件のマイクロプロセッサは,「RAMに
記憶」ではなく,「HDDに記憶」した情報を表示させる信号を発生す
るものである。また,記憶の対象は,テレビジョン番組のタイトルが並
んだもののデータ自体ではない。
(エ)したがって,イ号物件が含むマイクロプロセッサは要件Lを充足し
ない。
イ要件M
(ア)「その表示されたテレビジョン番組リスト」とは,要件Lの「RA
Mに記憶したテレビジョン番組リスト」であり,「テレビジョン番組リ
スト」を番組表のような「テレビジョン番組のタイトルが並んだもの」
と理解する限り,イ号物件が含むマイクロプロセッサでは,「その表示
されたテレビジョン番組リストの一つを目立たせる信号」を発生させな
い。
(イ)イ号物件が含むマイクロプロセッサにおいて,目立たせているのは
テレビジョン番組のタイトルが表示されたセルであり,番組表のような
「テレビジョン番組のタイトルの並んだもの」ではないから,「テレビ
ジョン番組リストの一つを目立たせる信号」を具備しない。
(ウ)したがって,イ号物件が含むマイクロプロセッサは要件Mを充足し
ない。
ウ要件N
(ア)「その目立たされたテレビジョン番組リスト」とは,要件Mの「そ
の表示されたテレビジョン番組リスト」であり,上記のとおり,「その
表示されたテレビジョン番組リスト」が存在しないのであるから,イ号
物件が含むマイクロプロセッサは,「その目立たされたテレビジョン番
組リスト」を表示する信号を発生させない。
(イ)イ号物件が含むマイクロプロセッサによる表示形式は,「グリッド
ガイド形式」のような格子状の番組表形式ではない。
(ウ)したがって,イ号物件が含むマイクロプロセッサは要件Nを充足し
ない。
エ要件O
(ア)イ号物件が含むマイクロプロセッサは,要件L,M及びNの各信号
を発生するようプログラムされておらず,かかるプログラムは,マイク
ロプロセッサとは別のRAMに格納されているから,イ号物件のマイク
ロプロセッサは「プログラムされている…マイクロプロセッサ」を具備
しない。
(イ)したがって,イ号物件のマイクロプロセッサは,要件Oを充足しな
い。
(2)5本件発明4の侵害の有無(ロ号方法及びロ号物件)
(原告)
アロ号方法は,次のとおり,本件発明4の要件をすべて充足する。
(ア)要件P
ロ号方法は,複数のテレビジョン番組情報について,それぞれのテレ
ビジョン番組情報のタイトル,チャンネルそして開始時間を含んでいる
データファイルをロ号物件のメモリに記憶する(構成p)ステップを有
しているから,ロ号方法は,要件Pを充足する。
(イ)要件Q
ロ号方法は,メモリに記憶されている複数のテレビジョン番組情報を
ロ号物件のディスプレイモニターに表示する(構成q)ステップを有し
ているから,ロ号方法は,要件Qを充足する。
(ウ)要件R
ロ号方法は,記録するためのビデオ記録媒体をVCR又はその他の記
録装置内に装填する(構成r)ステップを有しているから,ロ号方法は,
要件Rを充足する。
(エ)要件S
ロ号方法は,ロ号物件に表示された複数のテレビジョン番組情報の中
の一つを,記録するために選択する(構成s)ステップを有しているか
ら,ロ号方法は,要件Sを充足する。
(オ)要件T
①ロ号方法は,選択されたテレビジョン番組情報が示している番組を
VCR又はその他の記録装置に記録するために,選択されたテレビジ
ョン番組情報のデータをロ号物件に記憶された前記のデータファイル
からVCR又はその他の記録装置に転送する(構成t)ステップを有
しているから,ロ号方法は,要件Tを充足する。
②被告は,ロ号物件についてテレビジョン番組情報(データ)を含ん
だデータファイルをRAMに記憶することを認めており,かつ,当該
データがRAMからレコーダーに転送されることも認めているから,
結局,ロ号物件においても,テレビジョン番組リストのデータはRA
M中のデータファイルからレコーダーに転送されているにほかならな
い。
(カ)要件U
ロ号方法は,VCR又はその他の記録装置を利用して,ビデオ記録媒
体にテレビジョン番組を記録する方法(構成u)であるから,ロ号方法
は,要件Uを充足する。
イ間接侵害
(ア)ロ号方法は本件発明4の要件をすべて充足しているから,ロ号方法
の実施に用いるロ号物件は,本件発明4の使用に用いるものである。ま
た,本件発明4の解決課題は,将来の日付けの自動記録のためのVCR
の設定の複雑さを避けるため,テレビジョン視聴者がテレビのモニター
スクリーン上のプログラムリストにアクセスし,VCR又はその他の記
録装置を容易かつ便利な方法で制御することにある(本件明細書の段落
【0001】,【0002】参照)ところ,ロ号物件は,本件発明4に
よる課題の解決に不可欠なものであるから,被告によるロ号物件の製造
・販売は,本件特許権4を侵害するものとみなされる(特許法101条
5号)。
(イ)被告は,本件発明4が特許発明であること及びロ号物件がその発明
の実施に用いられることについて,原告の関連会社の者が被告の担当者
と面会し,本件発明4を含む特許権の一覧表を示した平成18年3月2
3日までには知っていた。
(ウ)平成14年改正により特許法101条5号を新設した趣旨は,「∼
にのみ用いる物」という客観的要件を必須とする従来の規定(特許法1
01条4号)の要件に代え,「発明による課題の解決に不可欠なもの」
との客観的要件及び「発明が特許発明であること及びその物がその発明
の実施に用いられることを知りながら」との主観的要件を必須として,
間接侵害に該当する行為の範囲を広げようとしたことにあるところ,
「発明による課題の解決に不可欠なもの」の解釈において,複数用途の
存在を考慮すると,従来の間接侵害規定との差異がなくなり,上記法改
正の意味がなくなるので,かかる解釈は採り得ない。
また,特許発明に係る用途の利用頻度も,「不可欠」要件において考
慮すべきではない。「発明による課題の解決に不可欠」な物であれば,
たとえ特許発明に係る用途に用いられる頻度が少なくても,現にその用
途に用いられた場合には,特許権侵害となる。
そして,間接侵害品を製造・販売する行為が,全体として差し止めら
れるべきことは当然である。
(エ)本件では,被告は,本件発明4の方法発明の使用に直接用いるテレ
ビを製造,販売しているから,「その方法の使用に用いる物」を生産す
ることに該当し,被告の行為が間接侵害に該当しないとされる理由はな
い。
(オ)ロ号物件は,EPG機能を備え,かつ,ロ号方法を実現するための
機能を備えた特別のテレビであるから,「市場において一般に入手可能
な状態にある規格品,普及品」と解することはできない。
(被告)
ア原告の主張は争う。ロ号方法は,次のとおり,要件Uを除き本件発明4
の要件を充足しない。
(ア)要件P
①「テレビジョン番組リスト」は,番組表のような「テレビジョン番
組のタイトルが並んだもの」であり,メモリに記憶するものではない
から,「テレビジョン番組リスト毎に…データファイルをメモリに記
憶するステップ」を観念すること自体困難である。
②「データファイル」が,番組表のような「テレビジョン番組のタイ
トルが並んだもの」を表示するためのデータと考えれば,メモリに記
憶することは観念できるが,ロ号方法は,番組表のようなテレビジョ
ン番組のタイトルが並んだもののデータ自体をメモリに記憶している
ものではないから,「テレビジョン番組リスト毎に…データファイル
をメモリに記憶するステップ」は有していない。
③したがって,ロ号方法は要件Pを充足しない。
(イ)要件Q
①「テレビジョン番組リスト」は,そもそもメモリに記憶されていな
いから,ロ号方法は,「メモリに記憶されている…」といえない。
②ロ号方法において,ディプレイモニターに表示されるのは一つの
「テレビジョン番組リスト」にすぎないから,「複数のテレビジョン
番組リストを…表示」しない。
③したがって,ロ号方法は要件Qを充足しない。
(ウ)要件R
①レコーダーは,ビデオ記録媒体が充填できる機能を有しており,か
かるレコーダーをロ号物件に接続することによって,要件Rを具備し
得ることは認める。
②しかし,録画する際にDVD(記録媒体)を充填するユーザーは少
数派であり,通常は,レコーダー内部に設置されているHDDに録画
を行うのであって,そもそも,ロ号物件と接続されるレコーダーがロ
号方法のために用いられることは稀である。すなわち,ロ号物件の製
造・販売は,ロ号方法の実施に必ずしも結びつかないのが現状であっ
て,直接侵害の予備的な行為を規制するという間接侵害の趣旨に鑑み
ると,仮に,ロ号物件がレコーダーと接続されて,ごく少数のユーザ
ーによる少ない機会においてロ号方法が実施されるとしても,間接侵
害には該当しない。
(エ)要件S
①「テレビジョン番組リスト」とは,番組表のような「テレビジョン
番組のタイトルが並んだもの」と解されるところ,要件Sに該当する
ためには,ロ号物件を使用する人がロ号物件に表示された「テレビジ
ョン番組リスト」,すなわち,テレビジョン番組のタイトルが並んだ
ものの中の一つ(「タイトルが並んだもの」そのもの)を選択しなけ
ればならないが,実際は「テレビジョン番組リスト」の中の一つの番
組を選択しているだけである。
②したがって,ロ号方法は要件Sを充足しない。
(オ)要件T
①ロ号方法は,選択されたセルに対応するテレビジョン番組情報のデ
ータをRAMからレコーダーに転送するステップを有するが,「テレ
ビジョン番組リスト」とは,番組表のような「テレビジョン番組のタ
イトルが並んだもの」と解されるから,上記ロ号方法は,テレビジョ
ン番組のタイトルが並んだものからなる「テレビジョン番組リスト」
の中の一つを選択していない。また,データは,RAMからレコーダ
ーに転送しているのであり,「データファイルからVCRまたはその
他の記録装置に転送するステップ」を有していない。なお,データフ
ァイルは,要件Pの規定からするとデータの集合物を指し,データが
保存されている物理的な場所(ハードウエア)を指すものではないこ
とは明らかであり,本要件の意味は不明である。
②したがって,ロ号方法は,要件Tを充足しない。
イ間接侵害
(ア)原告の間接侵害(特許法101条5号)の主張は争う。
(イ)①「課題を解決するために不可欠なもの」かどうかを考えるに当
たっては,当該方法の使用に用いる物の生産譲渡等の行為が,間接侵
害の趣旨である「直接侵害に直結する高度の蓋然性が認められる予備
的行為」であるとの評価を前提として,当該物が「その発明による課
題の解決に不可欠なもの」であることを考えるべきである。
②ロ号物件であるテレビについては,本件発明4に係る方法の実施の
ほか,様々な経済的・商業的・実用的な用途(テレビ番組を視聴する
目的のほか,ゲーム機として接続してゲームを表示する,LANと接
続してインターネットの画面表示のために用いる等)が存在しており,
本件発明4のために用いる以上に,多種多様な用途のため利用可能で
あるから,少なくともロ号物件の製造販売行為が特許権侵害に直結す
る高度の蓋然性が認められるとはいえない。
③本件発明4は,テレビ画面を通じて操作することを特徴とした無数
の特許発明のうちの一つであり,仮に,ロ号物件がこのような操作結
果を表示するために用いられるという一事をもって,本件発明4の間
接侵害になるとすれば,ロ号物件は同時にこれらの無数の「テレビ画
面操作発明」の間接侵害品となってしまう。
④レコーダーでテレビ番組を録画する際に,ビデオ記録媒体を充填す
るユーザーは少数派であり,レコーダー内部に設置されているHDD
に録画を実行するユーザーが大多数のため,必ずしも要件Rが実行さ
れるわけではない。
(ウ)ロ号物件は,それだけを利用して特許発明に係る方法を実施する
ことは不可能であり,レコーダーとテレビとからなるテレビ番組録画
システムという「その方法の使用に用いる物」の構成部品の一つにす
ぎないところ,かかる構成部品が,「その方法の使用に用いる物」に
含まれるとする解釈は,直接侵害の予備的又は幇助的行為を更に限定
した範囲で適用するとする間接侵害の不当な拡張となり許されない。
(エ)ロ号物件は,間接侵害の除外事由である「日本国内において広く
一般に流通しているもの」に該当する。
(オ)本件発明4について,平成19年7月13日に送付されたクレー
ムチャートには何らの記載はなく,同年9月18日の交渉の場でもラ
イセンス交渉はされていないから,被告が「平成18年3月23日ま
でには知っていた」ことはない。
(2)−6本件発明5の侵害の有無(ロ号方法及びロ号物件)
(原告)
ロ号物件のマイクロプロセッサは,次のとおり,本件発明5の各要件をす
べて充足するから,本件発明5の技術的範囲に属する。
ア要件V
ロ号物件のマイクロプロセッサは,複数のテレビジョン番組情報につい
て,それぞれのテレビジョン番組情報のタイトル,チャンネルそして開始
時間を含んでいるデータファイルを記憶しているRAMから,テレビジョ
ン番組情報を取り出してディスプレイモニターに表示する信号を発生する
(構成v)から,要件Vを充足する。
イ要件W
ロ号物件のマイクロプロセッサは,表示された複数のテレビジョン番組
情報の中の一つが示している番組を記録するため,その一つのテレビジョ
ン番組情報を特定する信号を発生する(構成w)から,要件Wを充足する。
ウ要件X
(ア)ロ号物件のマイクロプロセッサは,選択されたテレビジョン番組情
報に対応するデータをデータファイルからVCR又はその他の記録装置
に転送するための信号を発生する(構成x)から,要件Xを充足する。
(イ)ロ号物件では,テレビジョン番組リストは,結局のところデータフ
ァイルからレコーダーに転送されているから,要件Xを充足する。
エ要件Y
(ア)ロ号物件のマイクロプロセッサは,以上の信号を発生するようプロ
グラムされ,前記の選択されたテレビジョン番組情報が示している番組
を記録させるようにすることを特徴としたマイクロプロセッサ(構成
y)であるから,要件Yを充足する。
(イ)要件Yは,マイクロプロセッサにプログラムが格納されていること
を意味するのではなく,要件V,W及びXの各信号を発生させるプログ
ラムの存在に基づき,それらの信号を発生させるという機能を実現する
マイクロプロセッサを意味する。そして,ロ号物件のマイクロプロセッ
サも,要件V,W及びXの各信号を発生するプログラムに基づき,これ
らの各信号を発生しているから,要件Yを充足する。
(被告)
原告の主張は争う。ロ号物件は,次のとおり,本件発明5の要件を充足し
ない。
ア要件V
(ア)「テレビジョン番組リスト」は,番組表のような「テレビジョン番
組のタイトルが並んだもの」を表わすものであり,RAMに記憶するも
のではないため,「テレビジョン番組リスト毎に含んでいる複数のテレ
ビジョン番組リストのデータファイルを記憶しているRAM」を観念す
ること自体困難である。
(イ)「データファイル」が番組表のような「テレビジョン番組のタイト
ルが並んだもの」を表示するためのデータと考えれば,RAMに記憶す
ることは観念できるが,ロ号物件が含むマイクロプロセッサは,番組表
のようなテレビジョン番組のタイトルが並んだもののデータ自体をRA
Mに記憶しているものではないから,「テレビジョン番組リスト毎に含
んでいる複数のテレビジョン番組リストのデータファイルを記憶してい
るRAM」から「複数のテレビジョン番組リストを取り出して…表示す
る信号を発生」することはない。
(ウ)したがって,ロ号物件が含むマイクロプロセッサは要件Vを充足し
ない。
イ要件W
(ア)「この表示された複数のテレビジョン番組リスト」とは,要件V
において,テレビジョン番組リストが記憶されたRAMから取り出さ
れたものであり,「テレビジョン番組リスト」を番組表のような「テ
レビジョン番組のタイトルが並んだもの」と理解する限り,ロ号物件
のマイクロプロセッサでは,「この表示されたテレビジョン番組リス
トの一つを記録するため…信号を発生」するものではないし,「その
一つのテレビジョン番組リストを特定する信号を発生」するものでも
ない。
(イ)したがって,ロ号物件が含むマイクロプロセッサは要件Wを充足
しない。
ウ要件X
(ア)ロ号物件について,「テレビジョン番組リスト」の意義を番組表の
ような「テレビジョン番組のタイトルが並んだもの」と理解すると,ロ
号物件マイクロプロセッサでは,記録するためその一つのテレビジョン
番組リストを特定する信号が発生していないのであるから,「この記録
するために選択されたテレビジョン番組リストに対応するデータを…転
送するための信号」は発生しない。また,データをRAMからレコーダ
ーに転送する信号を発生しているのであり,「データファイルからVC
Rまたはその他の記録装置に転送するための信号を発生」しているので
はない。
(イ)したがって,ロ号物件のマイクロプロセッサは,要件Xを充足しな
い。
エ要件Y
(ア)ロ号物件には,「記録するために選択されたテレビジョン番組リ
スト」がそもそも存在しない。また,ロ号物件が含むマイクロプロセ
ッサは,要件V,W及びXの各信号を発生するようプログラムされて
おらず,かかるプログラムは,マイクロプロセッサとは別のRAMに
格納されているから,「プログラムされ…マイクロプロセッサ」を具
備しない。
(イ)したがって,ロ号物件が含むマイクロプロセッサは要件Yを充足
しない。
(3)無効論
(3)−1本件発明1の無効理由の有無
ア記載要件違反
(被告)
(ア)平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下「平成6年
改正前の特許法」という。)36条5項2号違反
①本件特許の適用法である平成6年改正前の特許法36条5項2号は,
「特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみを
記載した項(以下「請求項」という。)に区分してあること」を記載
要件として要求し,この「特許を受けようとする発明の構成に欠くこ
とのできない事項」とは,「一の請求項に記載された事項に基づいて
特許を受けようとする発明が明確に把握できることを意味する」とさ
れているところ,本件発明1の「テレビジョン番組リスト」の用語は,
多義的であり,いずれの解釈を採用するかによって本件発明1の範囲
が変動するから,この請求項からは「特許を受けようとする発明が明
確に把握できる」とはいえず,同号違反の無効理由を有する。
②「テレビジョン番組リスト」については,原告と被告は異なる解釈
をしているが,被告がその解釈の根拠とする本件明細書の段落【00
11】の「番組リスト」に関する記載は,原告が指摘する「番組リス
トの幾つかは,長さのため,二つかそれ以上のコラム28を重複して
使用している」に関する限りは,「個々の番組単位の番組情報」とい
う原告の解釈に近くなることからすると,「番組リスト」という用語
が多義的に用いられており,特許請求の範囲に用いられている「テレ
ビジョン番組リスト」という文言も,少なくとも二通りの解釈を有す
ることになる。
③本件特許の出願を更に分割した再分割出願(特願2006−002
26及び特願2006−00227)において,特許庁は,「番組リ
スト」という用語が,番組の内容の見出しを並べたものを意味するの
か,それとも単に番組そのものを意味するのかが不明である旨を述べ
ており,「テレビジョン番組リスト」について二種類の解釈が可能と
いうことになる。
(イ)平成6年改正前の特許法36条5項1号違反
①本件特許の適用法である平成6年改正前の特許法36条5項1号は,
「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであ
ること」を記載要件として要求するところ,本件発明1の要件Cは,
本件明細書の発明の詳細な説明において開示されていないので,同号
違反の無効理由を有する。
②本件発明1の要件C「チャンネルの一つに目印を付ける」は,要件
Dとの関係で,グリッドガイド形式を単一チャンネルガイド形式に切
り替える際に,グリッドガイド形式で表示されたチャンネルの一つに
目印を付けることを規定しているところ,「チャンネル」,「一つに
目印を付ける」はいずれも一義的な意味を有するから(最高裁判所第
二小法廷平成3年3月8日判決昭和62年(行ツ)第3号参照),
「チャンネルの一つに目印を付ける」が,チャンネルを示す欄の一つ
に目で見えるしるしを付けることを意味することは明らかである。
③他方,本件明細書では,段落【0031】の記載,【図2】,【図
7】を見ても,本件明細書には,グリッドガイドから単一チャンネル
ガイドへの切替に当たって,番組タイトルを表示したセルを選択する
ことによって行うものであることが開示されているだけであり,「チ
ャンネルの一つに目印を付けるステップ」は,何ら開示されていない。
④原告は,カーソルで番組タイトルを表示したセルを選択することを
もってチャンネルに目印を付けたといえると主張するが,「チャンネ
ル」,「一つに目印を付ける」はいずれも一義的な意味を有しており,
原告の解釈は上記判例に反する。また,原告は,目印を付ける対象を
「タイトル」と規定した本件発明1の当初の特許請求の範囲の記載を,
「請求項の表現を読みやすく」するため,「チャンネルの一つに目印
を付ける」という文言に補正したのであるから,権利行使時において,
「チャンネル」以外の部分である番組タイトルなどに目印を付けるこ
とをもって,「チャンネルの一つに目印を付ける」という解釈を行う
ことは,禁反言の法理に抵触する。
(原告)
(ア)平成6年改正前の特許法36条5項2号違反
被告は,本件発明における「テレビジョン番組リスト」の文言が多義
的であると主張するが,その前提である被告の同文言の解釈自体が誤っ
ている。特許請求の範囲の記載全体に基づいて,発明の構成要件の一つ
として技術合理性をもって解釈すれば,「テレビジョン番組リスト」は,
「テレビジョン番組を特定するための個々の番組単位の番組情報」とし
か解されないし,当該解釈,発明の詳細な説明の記載によっても裏付け
られる。また,原告の解釈に基づけば,本件発明は,明確に把握できる
ものであり,「一の請求項に記載された事項に基づいて特許を受けよう
とする発明が明確」という要件を満たすものである。
(イ)平成6年改正前の特許法36条5項1号違反
本件発明1の要件Cの「チャンネルの一つに目印をつける」が本件明
細書の発明の詳細な説明に記載されていないとの被告の主張は,被告の
誤った解釈から生じている不整合にすぎない。特許請求の範囲の記載全
体に基づいて,発明の構成要件を技術的合理性をもって理解すれば,
「チャンネルの一つに目印を付ける」ことは,「単一チャンネル形式で
の表示に変換する契機となるチャンネル情報を選択する」ことと解すべ
きである。本件明細書の段落【0033】の記載及び【図2】,【図
7】からしても,グリッドガイド形式において,特定の「チャンネルと
スケジュール時間」という情報を含む「テレビジョン番組リスト」を特
定することによって,当該「テレビジョン番組リスト」に対応する「チ
ャンネル」を選択し,その「チャンネル」を単一チャンネル形式で表示
する方法が開示されているのは明らかである。被告の出願経過及び禁反
言の法理の主張も,本件発明1は,補正の前後において,発明の内容に
何ら実質的な変更はないから,禁反言の法理が働く余地はない。
イ進歩性欠如
(被告)
本件特許の優先権主張の日前である平成元年8月23日に頒布された特
開平1−209399号公報(以下「乙29文献」という。)に記載され
た発明(以下「乙29発明」という。)を主引用例とした場合の進歩性欠

(ア)乙29発明と本件発明1との相違点は,以下のとおりである。
①相違点1
モニタースクリーン上でカーソルを移動してグリッドガイド形式で
表示されたものの一つに目印を付けることに関し,本件発明1は,
「チャンネル」に目印を付けるのに対し,乙29発明は,「番組」に
目印を付ける点。
②相違点2
本件発明1は,要件D「グリッドガイド形式の代わりに単一チャン
ネル形式でその目印を付けたチャンネルを表示するステップ」を有す
るのに対し,乙29発明は,明確に示されていない点。
(イ)相違点1の検討
グリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル形式で番組表を表示す
る際に,特定の一つのチャンネルの番組表を表示するためにチャンネル
を選択する必要があるところ,その手法として,チャンネルに目印を付
けるのか,それとも番組に目印を付けるのかは,ユーザーの便宜を考え
て適宜変更される設計的事項である。
(ウ)相違点2の検討
相違点2については,次のとおり,乙29発明と本件特許の優先権の
主張日前である平成元年12月22日に頒布された特開平1−3069
62号公報(以下「乙30文献」という。)に記載された発明(以下
「乙30発明」という。)を組み合せることで本件発明1に容易に想到
し得るものである。
①組合せ容易性
a乙29文献には,「どのような情報処理システムにも適用するこ
とができる。」と記載され,たまたま実施例としてVTR装置の予
約を行うシステムに適用した例が開示されたまでであるから,乙3
0文献に開示されているようなVTR装置の予約を行うシステム以
外にも適用できると考えるべきである。したがって,乙29発明を
乙30発明と組み合わせるべきことは,乙29文献に示唆されてい
る。
b乙29発明は,「情報処理システム」に関するものであり,VT
Rに係るスケジュール管理について,操作性の改善と処理の信頼性
を向上させること,すなわち,ユーザーインタフェースの向上をそ
の課題とし,乙29文献には,予め定められたスケジュールに従っ
て提供される提供情報の処理において,処理の対象としたい提供情
報を選択するだけで,その提供情報を処理するために必要となる情
報を自動的に所定の処理のためにセットできるようにする情報処理
システムやその方法の発明が開示されている。そして,上記のとお
り,乙29発明は,どのような情報処理システムにも適用できるも
のであるから,一般的なスケジュール管理システム(スケジュール
表示に関する情報処理システム)という技術分野に属する。
他方,乙30発明は,「スケジュール管理装置」に関するもので
あり,小さい装置サイズのままでスケジュール管理を行うこと,す
なわち,ユーザーインタフェースの向上をその課題とし,乙30文
献には,月間カレンダー表示を中心として,種々の異なった形式で
表示をする表示技術に関する情報処理システムやその方法の発明が
開示されている。そして,乙30発明も,スケジュール管理システ
ム(スケジュール表示に関する情報処理システム)という技術分野
に属する。
cしたがって,乙29文献では,他の情報処理システムに適用でき
ることが示唆されており,また,乙29発明と乙30発明では技術
分野や課題が共通しているから,乙29発明と乙30発明を組み合
わせることに何ら困難性はない。
②組合せによる容易想到性
a乙30文献には,「カーソルの位置は,カーソル移動キー13に
て上下左右に自在に移動させることができる」と記載され,乙30
文献の第6図(a)からも,曜日と週を軸として日付が表示された
カレンダーにおいて,カーソルの位置を基準として,ユーザーがカ
レンダーキーを操作することによって,カーソルの位置を目立たせ
ることが開示されている。また,乙30文献では,「第6図(a)
の表示状態において,カレンダーキー165を操作すると,カーソ
ルで指示されている11日から1週間のスケジュール内容を」,
「第5図(a)に示すように表示する」とされており,ユーザーが
カレンダーキーを操作することによって,目立たせたカーソル位置
に対応した単一の週の曜日単位で日付やスケジュール情報が表示さ
れる技術が開示されている。したがって,乙30文献には,「曜日
と週を軸として,日付が表示されたカレンダーにおいて,ユーザー
がカーソルで日付に目印を付け,カレンダーキーを操作することに
よって,目印を付けた日付に対応した単一の週の曜日単位で日付ス
ケジュール情報が表示される技術」が開示されているといえる。
b乙30発明と本件発明1の要件Dを対比すると,乙30発明の
「曜日と週を軸として,日付が表示されたカレンダーにおいて」が,
要件Dの「グリッドガイド形式」に該当し,乙30発明の「ユーザ
ーがカーソルで日付に目印を付け」が,要件Cの「グリッドガイド
形式で表示された…の一つに目印を付ける」を受けて当該カーソル
で目印を付けられた日付が,要件Dの「目印を付けた」に該当し,
乙30発明の「カレンダーキーを操作することによって,目印を付
けた日付に対応した,単一の主張の曜日単位で日付やスケジュール
情報が表示される」が,要件Dの「代わりに単一チャンネル形式で
目印を付けたチャンネルを表示する」に該当している。乙30発明
には,本件発明1に係る「放送時間とチャンネルとタイトル」が,
それぞれ曜日と週と日付に,「番組表」がスケジュール表に置き換
えられ,その他の本質的構成に相違がないスケジュール表示技術が
開示されている。なお,要件Dの目印を付けたチャンネルに対応す
るのは,本来であれば,目印を付けた週となるはずであるところ,
目印を付けた日付となっているが,週に目印を付けるか,日付に目
印を付けるかは設計事項である。
c本件特許の優先権主張の日前である昭和62年3月17日に頒布
された特開昭62−60377号公報(以下「乙31文献」とい
う。)に記載された技術は,テレビ番組情報を番組メモリに記憶し,
この番組メモリに記憶したテレビ番組情報を所定のキー操作に応じ
てCRT画面に表示する「テレビジョン受像機」に関するものであ
って,キー操作により,複数チャンネルの番組表を表示したり,そ
れに代えて,指定された単一チャンネルの番組表を表示したりする
ことが開示されており,本件特許の出願当時において,複数チャン
ネルの番組表から単一のチャンネルの番組表に切り替えるという発
想は,テレビ番組情報を表示する技術分野においては当然知られて
いたものである。
d乙30文献では,本件発明1の要件Dの構成とその本質を同じく
する表示技術に関する情報処理システムが開示されており,また,
本件特許の出願当時から,複数チャンネルの番組表から単一のチャ
ンネルの番組表へ切り替えるという発想も知られていたことを考慮
すれば,乙29発明と乙30発明を組み合わせることで,本件発明
1に容易に想到し得るものである。
(原告)
被告の相違点の認定には誤りがある。また,相違点は,乙30発明に基
づいて,当業者が容易に想到し得るものではない。
(ア)乙29文献から,本件発明1との関係で最も関連する発明(以下
「乙29発明A」という。)を認定すると,本件発明1と乙29発明A
の相違点aは,「本件発明1においては,『このモニタースクリーン上
でカーソルを移動してグリッドガイド形式で表示されたチャンネルの一
つに目印を付けるステップ,グリッドガイド形式の代わりに単一チャン
ネル形式でその目印を付けたチャンネルを表示するステップ,を備え,
前記の単一チャンネル形式はその目印を付けたチャンネルに対応するチ
ャンネルのテレビジョン番組リストを順次配列した行を含んでいる』と
いう構成を有しているのに対し,乙29発明Aにおいては,これらにつ
いて記載がない」(要件C∼Eに対応)という点となる。
本件発明1の要件C,Dは,グリッドガイド形式での表示を単一チャ
ンネル形式に変更する一連の操作であり,要件Eは,要件Dのステップ
における単一チャンネルの表示形式をより具体的に説明しているにすぎ
ないから,要件CないしEは,発明の技術的特徴から一体的な要件であ
り,分断することはできないところ,乙29文献には,表示画面から所
望の番組を選択し,録画予約するという一連の簡潔した操作が記載され
ているにすぎず,要件CないしEの一連の操作については説明されてい
ない。
(イ)相違点aの検討
①相違点aは,乙30発明に基づいて当業者が容易に想到し得るもの
ではない。乙30発明は,「スケジュール管理」に係るものであり,
本件発明1や乙29発明Aのような「テレビジョン番組に関する情報
データベースを閲覧する方法」とは技術分野を異にする。被告の主張
は,本件発明1の「放送時間とチャンネルとタイトル」がスケジュー
ル表に置き換えられているというように見えるという後知恵的見解に
すぎない。
②乙29発明と乙30発明の組合せについても,極端に抽象化,上位
概念化した課題が共通することをもって両発明を組み合わせることが
できるというのは不適切である。乙29発明と乙30発明の技術分野
についても,乙29発明の技術分野は「テレビ番組の録画予約システ
ム」と認定すべきであり,乙30発明の技術分野と共通するとはいえ
ず,両発明は組み合わせることができない。
③乙31文献に開示された技術についても,乙31文献には,キー操
作前の表示画面とキー操作後の表示画面が技術的に何らリンクしてい
るものではない上,本件発明1の要件CないしEで規定するような
「複数チャンネルの番組表から単一チャンネルの番組表へ切り替える
という発想」は記載されていないから,乙31文献に開示された技術
から相違点aを容易に想到し得るとはいえない。
ウ分割要件違反を前提とした進歩性欠如
(被告)
(ア)原出願の分割出願としてされた本件特許の出願は,原出願当初
明細書に記載されていない項目を含む特許法44条に違反する不適法
な分割であり,出願日の遡及は認められない。
(イ)本件明細書の段落【0010】から【0084】の部分は,原
出願当初明細書と参照符号の修正など形式的な修正を除いて同一であ
るところ,同部分(以下「本件明細書の原出願当初明細書対応記載部
分」という。)を検討すると,本件発明1の要件Cに関して,グリッ
ドガイドから単一チャンネルガイドへの切替に当たって,番組タイト
ルを表示したセルを選択することによって行うことしか開示されてお
らず,チャンネルに目印を付けて行うことは全く開示されていない。
そうすると,本件明細書の原出願当初明細書対応記載部分には,本件
発明1の要件Cの記載がないから,原出願当初明細書にも本件発明1
の要件Cの記載がないことになり,本件発明1は分割出願の際に新た
に追加されているものである。
(ウ)したがって,本件特許の出願は,分割要件を充たさないから,
出願日は,遡及せず,本件特許の現実の出願日である平成12年10
月20日となる。そして,同日前である平成6年5月12日に頒布さ
れた特開平6−504165号公報(以下「乙33文献」という。)
に記載された発明(以下「乙33発明」という。)を主引用例とした
場合,乙33発明と本件発明1との相違点は,以下のとおりである。
a相違点①
モニタースクリーン上でカーソルを移動してグリッドガイド形式で
表示されたものの一つに目印を付けることに関し,本件発明1は「チ
ャンネル」に目印を付けるのに対し,乙33発明は,「タイトル」に
目印を付ける点
b相違点①の検討
グリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル形式で番組表を表示
する際に,特定の一つのチャンネルの番組表を表示するためにはチャ
ンネルを選択する必要があるところ,その手法として,チャンネルに
目印を付けるのか,それとも番組に目印を付けるのかは,ユーザーの
便宜を考えて適宜変更される設計的事項である。テレビ番組情報を番
組メモリに記憶し,この番組メモリに記憶したテレビ番組情報を所定
のキー操作に応じてCRT画面に表示する「テレビジョン受像機」に
関する技術を記載した乙31文献にも,キー操作により今後放送され
るすべての番組表に代えて,指定チャンネルの今後放送される番組の
一覧表を表示したりすることが開示されており,「目印を付け」てい
るものではないが,一つのチャンネルを選択すること自体,公知技術
である。したがって,上記相違点は,当業者が容易になし得る設計的
事項にすぎない。
(原告)
(ア)被告の分割要件違反の主張は,すべて明細書の記載不備に基づ
くものであり,被告の明細書の記載不備の主張も全く理由がないから,
分割要件違反の主張も理由がない。
(イ)本件発明1の要件Cに関して,本件特許の「特許請求の範囲」
全体の記載に基づいて,「チャンネルの一つに目印を付ける」という
発明の構成要件を技術的合理性をもって理解すれば,これは,「単一
チャンネル形式での表示に変換する契機となるチャンネル情報を選択
する」と解される。そして,原出願当初明細書における「単一のチャ
ンネルガイドは,グリッド24上のカーソル32により選択されたチ
ャンネルとスケジュール時間とに対して開かれる」との記載を,本件
明細書の【図2】,【図7】を参酌して読めば,グリッドガイド形式
において,特定の「チャンネルとスケジュール時間」という情報を含
む「テレビジョン番組リスト」を特定することによって,当該「テレ
ビジョン番組リスト」に対応する「チャンネル」を選択し,その「チ
ャンネル」を単一チャンネル形式で表示する方法が開示されているの
は明らかであるから,本件発明1の内容は原出願当初明細書に記載さ
れているといえる。
(ウ)よって,本件特許の出願には,本件発明1の要件Cを理由とす
る分割要件違反はない。
(3)−2本件発明2の無効理由の有無
ア記載要件違反
(被告)
(ア)平成6年改正前の特許法36条5項2号違反
①本件発明2の「電子番組ガイド」を「システムの発明」とすれば,
電子番組ガイドシステムの構成に不可欠な事項が記載されたものでは
なく,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項
のみを記載した」といえず,平成6年改正前の特許法36条5項2号
違反の無効理由を有している。
②「システム」とは複数の機能を有する手段の組合せであるから,各
構成要件は「特定の機能を有する手段」を規定するものでなければな
らず,また,特許性の判断における発明の要旨認定においては,まず
はクレーム文言の一義性が論じられるべきところ(最高裁判所第二小
法廷平成3年3月8日判決昭和62年(行ツ)第3号参照),要件G
の「テレビジョン番組リスト」は,テレビジョン番組のタイトルのリ
ストを意味するものとしてほぼ一義的に意味が定まり,要件Hの「時
間とチャンネルのグリッドガイド」は,放送時間及びチャンネルをそ
れぞれ軸として,各セル内にテレビジョン番組のタイトルを表示する
格子状の表示態様(表示物)を意味し,要件Iの「可動カーソル」に
かかる「カーソル」も,一般的にはコンピュータなどのディスプレー
画面上で,入力位置や入力待ちであることを表示する下線や記号とし
て一義的な意味を有する表示態様(表示物)であるから,いずれも
「特定の機能を有する手段」ではなく,システム発明の一構成要素と
解釈する余地はない。したがって,本件発明2の四つの構成要件のう
ち,三つはシステム発明の構成要素になり得ないものであり,「特許
を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項」を記載した
ものとはいえない。
(イ)平成6年改正前の特許法36条5項2号違反
本件発明2の「テレビジョン番組リスト」という用語は,多義性を有
しており,いずれの解釈を採用するかによって本件発明2の範囲が変動
してしまい,「特許を受けようとする発明が明確に把握できる」とはい
えず,平成6年改正前の特許法36条5項2号違反の無効理由を有する。
(原告)
(ア)平成6年改正前の特許法36条5項2号違反
①被告は,システムの発明の「各構成要件は,『特定の機能を有する
手段』を規定するものでなければならない。」と主張するが,「各構
成要件」を,分説に対応した各要件と解すると,分説は,対象製品が
発明の技術的範囲に属するか否かを判断するために用いる便宜上の区
分でしかないから,その要件ごとに「特定の機能を有する手段」が必
要とされる理由はない。「各構成要件」を,発明を構成する個々の要
件と解しても,個々の要件すべてが「特定の機能を有する手段」でな
くてはならないと解すべき合理的理由もない。
②システムの発明では,特定の目的のため機能するように各要素が組
み合わされていることが明確になるように記載されていればよいと解
されるところ,本件発明2の「電子番組ガイド」というシステムには,
その要素として,複数のテレビジョン番組リスト及びこれが表示され
るグリッドガイドが存在すること(要件G,H),グリッドガイドに
表示されたテレビジョン番組リストの一つを選択して目立たせる機能
を有する手段として,可動カーソルが存在すること(要件I),チャ
ンネルのグリッドガイドをその目立たせたテレビジョン番組リストの
チャンネルの単一チャンネルガイドに変える手段が存在すること(要
件J)がそれぞれ読み取れるから,「グリッドガイドに表示されたテ
レビジョン番組リストの一つを選択して可動カーソルで目立たせ,グ
リッドガイドを,その目立たせたテレビジョン番組リストのチャンネ
ルの単一チャンネルガイドに変える,という特定の目的のために機能
するように組み立てられた電子番組ガイド」というシステムであるこ
とは明確に理解でき,本件発明2について,特許を受けようとする発
明の構成に欠くことができない事項が明確に記載されているというべ
きである。
(イ)平成6年改正前の特許法36条5項2号違反
第2,3(3)−1,ア(原告)(ア)と同じ
イ進歩性欠如
(被告)
乙29発明を主引用例とした場合の進歩性欠如
(ア)乙29発明と本件発明3との相違点は,以下のとおりである。
相違点3
本件発明2は,「時間とチャンネルのグリッドガイドをその目立たせ
たテレビジョン番組リストのチャンネルの単一チャンネルガイドに変え
る手段を備えている」のに対し,乙29発明は,このような構成を備え
ているかが明確にされていない点
(イ)相違点3の検討
相違点3は,相違点2と概ね同様であり,乙29発明と乙30発明を
組み合わせることは容易であり,かかる組合せにより本件発明2に容易
に想到し得る。なお,相違点3は,相違点2の「その目印を付けたチャ
ンネルを表示する」だけではなく,「目立たせたテレビジョン番組リス
トのチャンネルの単一チャンネルガイドに変える」のであり,特定のチ
ャンネルを単一チャンネルで表示することは同じであるが,目印を付け
る対象がチャンネルであるのか,テレビジョン番組リストであるのかと
いう点で相違する。しかし,「テレビジョン番組リスト」を目立たせる
ことは,「番組」を目立たせることと同義であり,乙30文献には,日
付に目印を付けることが開示され,日付は,番組表に言い換えると番組
に該当するから,相違点2よりもむしろ容易に想到し得る方向に働く。
相違点3では,相違点2と異なり,切り替える手段が必要となるが,
乙30文献にはユーザーがチャンネル切替ボタンを押すことが開示され,
切替手段が設けられているため,容易になし得るものである。
(原告)
(ア)乙29文献から,本件発明2との関係で最も関連する発明を認定
すると,「1日分を単位としてチャンネル,時間,番組名を情報として
含む番組スケジュールを表示する横軸にチャンネル,縦軸に時間を配し
た番組表,当該番組表に表示された番組の一つを選択するカーソル,を
有する電子番組ガイド」(以下「乙29発明B」という。)となり,本
件発明2と乙29発明Bの相違点bは,「本件発明2においては『時間
とチャンネルのグリッドガイドをその目立たせたテレビジョン番組リス
トのチャンネルの単一チャンネルガイドに変える手段』を備えているの
に対し,乙29発明Bにおいては当該手段について記載がない」(要件
Jに対応)という点となる。
(イ)そして,相違点bは相違点aとほぼ同じであるから,相違点aが
乙29発明及び乙30発明に基づいて当業者が容易になし得るものでな
い以上,相違点bも乙29発明及び乙30発明に基づいて当業者が容易
になし得るものでないといえる。
ウ分割要件違反を前提とした新規性欠如
(被告)
(ア)第2,3(3)−1,ウ(被告)(ア)のとおり。
(イ)原出願の分割出願としてなされた本件特許の出願は,分割要件を
充たさないから,出願日は,遡及せず,本件特許の現実の出願日である
平成12年10月20日となる。そして,同日前である平成6年5月1
2日に頒布された原出願当初明細書の公表特許公報である乙33文献に
は,本件発明2がすべて開示されており,乙33発明と本件発明2は同
一であり,新規性欠如の無効理由を有する。
(原告)
被告の主張は争う。
(3)−3本件発明3の無効理由の有無
ア記載要件違反
(被告)
(ア)平成6年改正前の特許法36条5項1号及び同条4項違反
①本件特許の適用法である平成6年改正前の特許法36条5項1号は,
「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであ
ること」を要求し,同条4項は「前項第3号の発明の詳細な説明には,
…容易にその実施をすることができる程度に,その発明の…構成…を
記載しなければならない」と要求しているところ,本件発明3は,本
件明細書の発明の詳細な説明において実施可能な程度に開示されてい
ないので,同条5項1号及び同条4項違反の無効理由を有する。
②本件発明3は,要件L,M及びNに記載された各機能を実現するた
めの信号を発生するようプログラムされていることを特徴とする「マ
イクロプロセッサ」(要件O)に係る発明であるところ,「容易にそ
の実施をすることができる程度」(平成6年改正前の特許法36条4
項)とは,少なくとも「容易に当該物を生産,使用をすることができ
る程度」であり,マイクロプロセッサの開発に従事している当業者は,
aマイクロプロセッサ内部の構成要素及び構成要素間の関係,bマイ
クロプロセッサの動作(プログラムで制御されている場合には,プロ
グラムの実行手順等も含む)などにより技術的な内容を把握するのが
一般的であるから,これらが開示されていることが必要であると解す
べきである。また,マイクロプロセッサとは,「記憶装置」,「命令
やデータを取り込むしくみ」,「命令実行を制御するしくみ」,「デ
ータを加工(処理)するしくみ」を基本的な構成要素とし,記憶装置
であるメモリに格納された命令やデータをマイクロプロセッサ内部に
取り込み,この取り込んだ命令を実行,すなわち,メモリに格納され
ているデータに対して何らかの加工(何もしないことを含む)をして,
メモリに書き戻したり,命令実行の状態を変化させたりするものであ
るから,マイクロプロセッサの構造を理解するために,aマイクロプ
ロセッサ内部の構成要素及び構成要素間の関係を開示した上,必要に
応じて個々の構成要素についての構成が開示されるべきであるし,命
令やデータを取り込み,この取り込んだ命令を実行する装置であるか
ら,b命令の実行手順等がフローチャートやタイミングチャート等に
より開示されるべきである。マイクロプロセッサ発明を記載した複数
の特許公報の記載や裁判例からしても,マイクロプロセッサの発明で
あれば,この程度まで開示して初めて生産できる程度にまで開示され
ているといえるのである。
③原告は,3種類の信号を発生させることができることを前提として,
要件L,M及びNの機能,及びマイクロプロセッサが上記要件L,M
及びNの機能の実現が可能となるように設けられていることが要件と
なるなどと主張しているが,本件明細書等においては,マイクロプロ
セッサは,【図22】において228と付番された「CPU」と銘打
ったボックスでしか開示されておらず,内部の構造は何ら開示されて
いないこと,マイクロプロセッサがどのように動作するのかについて
の開示も全くないこと,本件発明3は,3種類の信号を「発生するよ
うプログラムされていることを特徴としたマイクロプロセッサ」であ
るにもかかわらず,プログラムについて何ら開示されていないことか
らすると,実施可能要件を具備していないことは明らかである。
④仮に,要件L,M及びNの各機能が本件明細書等に開示されている
としても,要件Oに係る「マイクロプロセッサ」がそのプログラムに
より発生すべき要件L,M及びNに係る3つの信号については,本件
明細書には何ら開示されていない。要件Lの「表示モニターにRAM
に記憶したテレビジョン番組リストを表示させる信号」の発生につい
てCPUが何らかの関与をしていることは,本件明細書の段落【00
76】の記載と併せれば漠然と把握可能であるが,CPU(マイクロ
プロセッサ)にそのようなプログラムが存在することについては何ら
開示がない。また,要件M「表示されたテレビジョン番組リストの一
つを目立たせる信号」及び要件N「単一チャンネル形式で目立たされ
たテレビジョン番組リストを表示する信号」については,本件明細書
の発明の詳細な説明には,これらの信号の発生についてCPUが関与
していることを示唆する事実は一切開示がない。原告は,「CPUは,
要件M,Nの機能を実現するのに関係する…に接続されており,…に
も接続されている。」と主張するが,かかる主張からは,CPU(マ
イクロプロセッサ)が要件M及びNに規定されているような具体的な
機能を有する信号を発生するようにプログラムされていることとのつ
ながりが不明である。
(イ)平成6年改正前の特許法36条5項2号違反
本件発明3の「テレビジョン番組リスト」という用語は,多義性を有
しており,いずれの解釈を採用するかによって本件発明3の範囲が変動
してしまい,「特許を受けようとする発明が明確に把握できる」ことが
できず,平成6年改正前の特許法36条5項2号違反の無効理由を有す
る。
(原告)
(ア)平成6年改正前の特許法36条5項1号及び同条4項違反
①ハードウェア資源に関しては,その物理的,機械的構成に特徴があ
る発明のほか,当該実現すべき機能に特徴がある発明があり,本件発
明3及び5は,実現すべき機能に技術的特徴があり,これを「マイク
ロプロセッサ」により実現するという発明であるから,発明の詳細な
説明に,このような実現すべき機能が明確に把握できるように記載さ
れており,かつ,これらの機能がマイクロプロセッサによって実現で
きるように記載されていれば,発明の詳細な説明の記載要件を満たす
といえる。発明の詳細な説明において,何をどの程度開示するべきか
は,発明の技術的特徴との関係で決まるのであって,発明の対象とな
る「物」が何であるかによって一律に決まるのではない。よって,
「マイクロプロセッサの発明であれば,被告が例示する特許公報の程
度まで開示して,初めて生産できる程度にまで開示されているといえ
る」という論理は成り立たない。被告の例示する裁判例も,発明の技
術的特徴に照らして,記載要件を判断している。
②被告は,本件発明3の3種類の信号について開示がないと主張する
が,マイクロプロセッサが所定の機能を実現するための制御を行うに
は,信号を発する必要があること自体は,当業者の技術的常識である
から,本件発明3が発明の詳細な説明に記載されているといえるため
には,a上記要件L,M及びNの機能並びにbマイクロプロセッサが
上記要件L,M及びNの機能の実現が可能となるように設けられてい
ることが発明の詳細な説明及び図面から把握できれば十分であり,各
要件の機能との関連で,それぞれ「…という信号を発した」という記
載がなければならないというわけではない。そして,本件発明3に関
しては,発明の詳細な説明の段落【0030】,【0031】,【0
033】,【0073】,【0074】,【0076】の記載及び
【図2】,【図7】,【図8】,【図22】,【図23】からすると,
要件L,M及びNの機能が理解でき,また,CPU(マイクロプロセ
ッサ)が要件L,M及びNの機能を実現するために所定の信号を発生
することが理解できる。
(イ)平成6年改正前の特許法36条5項2号違反
第2,3(3)−1,ア(原告)(ア)と同じ
イ進歩性欠如
(被告)
乙29発明を主引用例とした場合の進歩性欠如
(ア)乙29発明と本件発明3との相違点は,以下のとおりである。
a相違点4
本件発明3は,各要件の「信号を発生」させること,及び,各要件
の信号を発生するようプログラムされているのに対し,乙29発明で
は,このような構成を備えているか明確に開示されていない点。
b相違点5
本件発明3は,グリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル形式
でその目立たされたテレビジョン番組リストを表示する信号を発生す
るようプログラムされているのに対し,乙29発明は,このような構
成を備えているかが明確に示されていない点。
(イ)相違点4の検討
あるマイクロプロセッサを実現するときにそれぞれの機能を有する信
号を発生すべきことは,当業者が容易に想到し得ることであり,また,
そのためにプログラムすることも同様であるから,当該相違点について
は,容易に想到し得るものである。
(ウ)相違点5の検討
相違点5は,相違点2,3と概ね同様であり,乙29発明及び乙30
発明を組み合わせることは容易であり,かかる組合せによって本件発明
3は容易に想到し得る。なお,相違点5は,相違点2,3と異なり,本
件発明3では,本件発明1のように,目立たされたチャンネルのテレビ
ジョン番組リストを表示するものでも,本件発明2のように,目立たさ
れたテレビジョン番組リストに対応するチャンネルのテレビジョン番組
リストを表示するものでもなく,単に一つの目立たされたテレビジョン
番組リストを表示するにすぎないものであるから,相違点2,3に比べ
てより容易であるといえる。
(原告)
(ア)乙29発明から,本件発明3との関係で最も近い態様を認定する
と,「横軸にチャンネル,縦軸に時間を配した番組表として,予め記憶
された,1日分を単位としてチャンネル,時間,番組名を情報として含
む番組スケジュールを表示させる信号を発生するようプログラムされて
いるマイクロプロセッサ」(以下「乙29発明C」という。)となり,
本件発明3と乙29発明Cの相違点cは,「本件発明3においては,
『表示されたテレビジョン番組リストの一つを目立たさせる信号を発生
し,そしてグリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル形式でその目
立たされたテレビジョン番組リストを表示する信号を発生』するのに対
し,乙29発明Cにおいてはこの点について記載がない」(要件M及び
Nに対応)という点となる。
(イ)そして,相違点cは相違点aとほぼ同じであるから,相違点aが
乙29発明及び乙30発明に基づいて当業者が容易になし得るものでな
い以上,相違点cも,乙29発明及び乙30発明に基づいて当業者が容
易になし得るものでないといえる。
ウ分割要件違反を前提とした進歩性欠如
(被告)
(ア)第2,3(3)−1,ウ(被告)(ア)のとおり。
(イ)本件明細書の原出願当初明細書対応記載部分を検討すると,同
部分には,本件発明3の各要件において「信号を発生」すること,及
び,要件Oにおいて,各要件の信号を発生するようプログラムされて
いるマイクロプロセッサは何ら開示されていない。そうすると,本件
明細書の原出願当初明細書対応記載部分には,本件発明3の各要件の
「信号を発生」及び要件Oの記載がないから,原出願当初明細書にも
その記載がないことになり,結果として,本件発明3は,分割出願の
際に新たに追加されているものである。
(ウ)したがって,本件特許の出願は,分割要件を充たさないから,出
願日は,遡及せず,本件特許の現実の出願日である平成12年10月2
0日となる。そして,同日前である平成6年5月12日に頒布された乙
33文献に記載された乙31発明を主引用例とした場合,乙33発明と
本件発明3との相違点は,以下のとおりである。
a相違点②
本件発明3は,各要件の「信号を発生」すること,及び,各要件の
信号を発生するようプログラムされているのに対し,乙33発明では,
このような構成を備えているか明確にされていない点。
b相違点②の検討
あるマイクロプロセッサを実現するときにそれぞれの機能を有する
信号を発生すべきこと,また,そのためにプログラムすることは,い
ずれも当業者が容易に想到し得ることである。したがって,上記相違
点は,当業者であれば容易に想到し得る。
(原告)
(ア)第2,3(3)−1,ウ(原告)(ア)のとおり
(イ)本件発明3の各要件において「信号を発生」すること,及び,
要件Oにおいて,各要件の信号を発生するようプログラムされている
マイクロプロセッサが,所定の機能を実現するための制御を行うに当
たり,信号を発する必要があること自体は,いずれも当業者の技術常
識であるから,「信号の発生」及び「信号を発生するようプログラム
されているマイクロプロセッサ」に関する要件については,原出願当
初明細書にも実質的に記載されているといえる。
(ウ)よって,本件特許の出願には,本件発明3の各要件及び要件Oを
理由とする分割要件違反はない。
(3)−4本件発明4の無効理由の有無
ア記載要件違反
(被告)
(ア)平成6年改正前の特許法36条5項1号違反
①本件特許の適用法である平成6年改正前の特許法36条5項1号は,
「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであ
ること」を記載要件として要求するところ,本件発明4の要件Tは,
本件明細書の発明の詳細な説明において開示されていないので,同号
違反の無効理由を有する。
②本件発明4の要件Tは,「記録するために選択されたテレビジョン
番組リストが示している番組をVCRまたはその他の記録装置に記録
するするために前記の記録するために選択されたテレビジョン番組リ
ストのデータを前記のデータファイルからVCRまたはその他の記録
装置に転送するステップ」と記載し,(A)「テレビジョン番組情報
にかかるデータ(タイトル,チャンネル,開始時間を含んだもの)」
を,(B)番組を記録するために,RAMからVCR等(内部→外
部)に転送するという点に特徴があるが,本件明細書の発明の詳細な
説明には,次のとおり,この点の開示がない。
a本件明細書の段落【0077】の「番組を時間シフトして記録要
求がなされた」,「番組のタイトル及びその記録パラメータ(チャ
ンネル,開始時間及び長さ)は,スケジュールメモリ232から記
録メモRAMメモリ236へコピーされる」との記載及び【図2
2】からは,タイトル,チャンネル,放送時間を含んだテレビジョ
ン番組情報が,電子番組ガイド180内のスケジュールメモリ23
2から記録メモRAMメモリ236へコピーされること(内部→内
部)を示すにすぎず,VCRその他の記録装置に転送することが開
示されているとはいえない。同段落の「パワーオン及び記録コマン
ドをVCR206へ」との記載からは,VCRの電源を入れなさい
という命令と,番組を記録しなさいという命令をVCRに赤外線リ
モートドライバ214を介して転送していることを記載しているだ
けであり,記録するためにテレビジョン番組情報のデータを,赤外
線リモートドライバ214を介して転送することは開示されていな
い。段落【0080】の「このバス270は,また,記録,再生,
チューナ選択及びパワーオン/オフを含むその他の機能のためのV
CRコントロールコマンドを伝送する。」との記載は,それぞれ特
定の命令を転送することを開示しているにすぎず,「テレビジョン
番組情報(タイトル,チャンネル,開始時間を含んだもの)」とい
う情報を転送(伝送)することについては開示されていない。
b本件明細書の【図13】は,記録した番組を再生するため,テー
プ内容確認要求がされたときの画面表示であり,電子番組ガイド内
で作成される「仮想ディレクトリ」のテープインデックススクリー
ンの表示であるが,かかる表示は,電子番組ガイドシステム内の不
揮発性メモリ(記録メモRAMメモリ236又はテープディレクト
リRAM234)に記録された情報を表示しているだけであり,同
図の画面表示をもって,記録するために,テレビジョン番組情報が
転送されているとは認められない。本件明細書の段落【0037】
の「テープインデックススクリーン76は,仮想のテープディレク
トリを提供し,テープ記録の目次に等しい機能をもたらす。」との
記載からも,同図は,テープに記録された目次情報を表示したもの
ではなく,「目次情報に等しい」,「仮想テープディレクトリ」の
情報を表示したものであることが分かるし,段落【0081】の
「記録番組を再生するため,テープ内容確認要求により,テープの
記録番組のディレクトリが表示される」の記載のとおり,同図の情
報は,「VCRその他の記録装置内」(外部)に存在するのではな
く,不揮発性メモリ(記録メモRAMメモリ236又はテープディ
レクトリRAM234)へ記憶されているものである。したがって,
同図は,「テレビジョン番組情報(タイトル,チャンネル,開始時
間を含んだもの)」という情報が,記録するために「内部→外部」
へ転送されていることの根拠にならない。
(イ)平成6年改正前の特許法36条5項2号違反
本件発明4の「テレビジョン番組リスト」という用語は,多義性を有
しており,いずれの解釈を採用するかによって本件発明4の範囲が変動
してしまい,「特許を受けようとする発明が明確に把握できる」ことが
できず,平成6年改正前の特許法36条5項2号違反の無効理由を有す
る。
(原告)
(ア)平成6年改正前の特許法36条5項1号違反
本件発明4及び5において,被告が主張する(A)「テレビジョン番
組情報にかかるデータ(タイトル,チャンネル,開始時間を含んだも
の)」を(B)番組を記録するために,RAMからVCR等(内部→外
部)に転送するという点については,本件明細書の段落【0077】,
【0080】の記載及び【図13】,【図22】を含む発明の詳細な説
明の記載を総合的に見れば,記載がされているといえる。すなわち,本
件発明4及び5は,「容易な呼出及び再生のため,タイトルによって記
録番組のディレクトリを作成するシステム及び方法」(段落【000
1】)という発明に関するものであり,そのうち,タイトルを含むテレ
ビジョン番組リストのデータをVCR又はその他の記録装置に転送する
という技術的特徴に焦点を当てたものである。段落【0036】∼【0
051】の記載によれば,本件発明4及び5は,最終的にはTV側の不
揮発性メモリに格納された「仮想テープディレクトリ」に記憶されてい
るデータと,テープのデータチャンネルのデータとの突き合わせを行う
ことを可能にするべく,タイトルを含むテレビジョン番組リストのデー
タをVCRへ転送するものであることが分かり(段落【0036】,
【0044】),また,具体的には,まず,タイトルを含むテレビジョ
ン番組リストがテープに記録されることが把握できる(段落【003
8】,【0043】)。そして,データがいったんVCR等の記録装置
を経由する必要があることは当業者にとって自明であるから,発明の詳
細な説明には,「タイトルを含むテレビジョン番組リストのデータがV
CR等の記録装置に転送されていること」について記載があるといえる。
また,段落【0077】の記載によると,タイトルを含むテレビジョン
番組リストのデータは,もともとはTV側のRAM(スケジュールメモ
リ)に存在し,当該RAMから転送されることが読み取れるし,段落
【0077】,【0080】の記載からは,記録,再生に関するTV側
の情報は,バス270を通じてVCR側に転送できることが読み取れる
から,段落【0043】等から読み取れるタイトルを含むテレビジョン
番組リストのデータの転送が,発明の詳細な説明に記載されたシステム
によって実現できることは,当業者が容易に理解できるものである。
なお,被告の主張する段落【0080】の「コマンド」の記載から,
被告は,情報を転送することについては開示されていないと主張するが,
同段落のその直前の記載では,データバス270を通じて,「テープイ
ンデックス位置」という情報が転送可能であることが明示されている。
また,被告は,【図13】の記載は,不揮発性メモリ中の仮想テープデ
ィレクトリの情報を表示したものであるから,テレビジョン番組情報に
係るデータが記録するために「内部→外部」へ転送されていることの根
拠にならないと主張するが,段落【0043】の記載からすると,テー
プのデータチャンネルと,不揮発性メモリとには,同じ情報が同時に書
き込まれると解釈できるから,【図13】が示しているものが,仮想テ
ープディレクトリであるとしても,テープに対して【図13】に表示さ
れる番組タイトル等の情報が書き込まれることを示すことになり,結局
は,テレビジョン番組情報に係るデータが記録のためにVCR等に転送
されることが把握できる。
(イ)平成6年改正前の特許法36条5項2号違反
第2,3(3)−1,ア(原告)(ア)と同じ
イ新規性欠如
(被告)
本件特許の優先権主張の日前である平成元年12月12日に頒布された
特開平1−307944号公報(以下「乙32文献」という。)に記載さ
れた発明(以下「乙32発明」という。)を主引用例とした場合の新規性
欠如
(ア)乙32発明は,次のとおり,本件発明4のすべての要件を備えて
おり,乙32発明と本件発明4は同一である。
(イ)乙32発明では,1週間から4週間分程度の複数の「放送番組の
簡単な内容,放送開始・終了時間,チャンネル番号」等を含む情報が,
各情報に対応してROM32というメモリに記憶されていることになり,
乙32発明の放送番組の簡単な内容,チャンネル,放映開始は,本件発
明4のタイトル,チャンネル,開始時間に相当し,これらの情報は,
「テレビジョン番組情報を特定するための個々の番組単位の番組情報」
といえるから,原告の解釈による「テレビジョン番組リスト」に相当す
る。したがって,要件Pのうち,「複数のテレビジョン番組リストに対
応し…タイトル,チャンネルそして開始時間を含んでいるデータファイ
ルをメモリに記憶するステップ」が開示されている。なお,要件Pの
「テレビジョン番組リスト毎に」メモリに記憶する点は,乙32発明は
開示していないが,かかる相違は単なるデータの持ち方にすぎず,設計
的事項である。また,乙31発明の第3図には「テレビジョン番組リス
ト毎に…メモリに記憶」している発明が開示されており,乙31発明は,
乙32発明と同様に番組表を表示する方法に係る発明であるから,技術
分野,課題を共通にし,これを乙32発明に適用することに何ら困難性
はない。
(ウ)乙32発明は,ROM32から番組表を読み出して番組データを
VTR3に出力し,番組データはVTR3のRAM53にいったん記憶
されるから,要件Qの「メモリに記憶されている複数のテレビジョン番
組リスト」に該当し,これがテレビ受像機5に出力されて表示されるか
ら,要件Qの「テレビジョン番組リストをディスプレイモニターに表
示」に該当する。そしてROM32に記憶されている番組表とは,放送
番組の簡単な内容,チャンネル,放映開始を含む「複数のテレビジョン
番組リスト」に該当するから,乙32発明は,要件Qの「メモリに記憶
されている複数のテレビジョン番組リストをディスプレイモニターに表
示」しているといえる。
(エ)乙32発明では,テレビ放送を録画するVTR3にビデオカセッ
トテープを挿入するためのカセット挿入部7が設けられており,ビデオ
カセットテープは要件Rの「ビデオ記録媒体」に,VTRは要件Rの
「VCRまたはその他の記録装置」に相当し,「記録するため」にビデ
オカセットテープをVTRに「装填する」ことは当然であるから,乙3
2発明は,要件Rの「記録するためビデオ記録媒体をVCRまたはその
他の記録装置に装填」しているといえる。
(オ)乙32発明では,テレビ受像機5に複数のテレビジョン番組リス
トが表形式で表示されているから,要件Sの「表示された複数のテレビ
ジョン番組リスト」に該当し,この番組表において,カーソルキー21
ないし24を操作し,カーソルを移動させ,所望の番組を反転表示させ
た状態で録画予約カード1の「設定」キー11を操作することで,VT
R3はその開始時刻が来ると録画を開始するものであるから,かかる操
作は要件Sの「テレビジョン番組リストの中の一つを記録するために選
択する」に該当する。乙32発明は,要件Sの「表示された複数のテレ
ビジョン番組リストの中の一つを記録するために選択する」ステップを
開示している。
(カ)乙32発明は,録画予約のために「設定」キーが押されると,現在
カーソルがある位置に対応した番組の開始時刻とチャンネル番号を録画
予約カード1のROM32から読み出してVTR3に出力するというス
テップ170が行われる。さらに,ステップ170に対応して,ROM
32から読み出された情報がRAM53に記憶される。そして,RAM
53はVTR内に設けられるものであるから,乙32発明は,「記録す
るために選択されたテレビジョン番組リストが示している番組をVTR
に記録するために…ROMに格納された情報を前記VTRに転送」して
いるといえ,要件Tに該当する。また,ROMに格納された情報は,開
始時刻やチャンネルを含む「記録するために選択されたテレビジョン番
組リストのデータ」に該当する。
(キ)乙32発明は,記録するためにテレビジョン番組リストを選択し,
そのテレビジョン番組リストが示している番組をVTRに装填されたビ
デオカセットテープに記録するものであるから,要件Uの「を備えるこ
とを特徴とするVCRまたはその他の記録装置を使用して,ビデオ記録
媒体にテレビジョン番組を記録する方法」が開示されている。
(ク)仮に,原告の主張するように乙32発明と本件発明4に相違点を認
めるとしても,相違点の認定は,「本件発明4においては,番組を記録
するために転送する情報が,『テレビジョン番組リスト毎にタイトル,
チャンネルそして開始時間を含んでいるテレビジョン番組リスト』であ
るのに対し,乙32発明においては,番組を記録するために転送する情
報が,『カーソル位置』情報に基づく,個々の番組の開始時刻,チャン
ネル番号,番組終了時刻であって,タイトルについては転送が明確に記
載されていない点」である。そして,本件発明4と乙32発明は,いず
れも,番組録画のためという目的でデータを転送しているのであり,同
じ目的の下,時間,チャンネルに関するデータだけを転送するのか,タ
イトルまで含めたデータを転送するのかは,当業者が適宜選択し得る設
計事項にすぎないから,上記相違点は,容易に想到し得ることは明らか
である。
(原告)
(ア)乙32発明から,本件発明4との関係で最も関連する発明(以下
「乙32発明A」という。)を認定すると,本件発明4と乙32発明A
の相違点dは,「本件発明4においては,記録するために選択及び転送
する情報が,『テレビジョン番組リスト毎にタイトル,チャンネルそし
て開始時間を含んでいるテレビジョン番組リスト』であるのに対し,乙
32発明Aにおいては,記録するために選択及び転送する情報が,『カ
ーソル位置』情報に基づく,個々の番組の開始時刻,チャンネル番号,
番組終了時刻のみであって,タイトル情報については選択,転送がされ
ていない」(要件S)という点となる。
乙32発明Aのシステムにおいては,録画対象の選択,転送のために
用いられる情報は,時間情報及びチャンネル情報のみに限られており,
本件発明4と乙32発明には相違点dが存在するから,本件発明4は乙
32に記載された発明であるとはいえない。
(イ)相違点dの検討
①相違点dは,乙32発明に基づいて当業者が容易に発明をすること
ができたものではない。本件発明4は,チャンネル,開始時間のみな
らずタイトル情報を選択,転送する点を技術的特徴とするものである
のに対し,乙32発明にはこの点が全く記載されていない。
②すなわち,本件発明4及び5は,発明の属する技術分野に記載され
ている「容易な呼出し及び再生のため,タイトルによって記録番組の
ディレクトリを作成するシステム及び方法」(段落【0001】)と
いう発明に関するものであり,そのうち,タイトルを含むテレビジョ
ン番組リストのデータをVCR又はその他の記録装置に転送するとい
う技術的特徴に焦点を当てたものであるから,本件発明4においては,
チャンネル情報のみならず,タイトル情報の選択,転送が不可欠であ
り,そのため,「テレビジョン番組リスト毎にタイトル,チャンネル
そして開始時間を含んでいるテレビジョン番組リスト」を選択,転送
する必要が生じるのである。他方,乙32発明Aは,バーコードを用
いた従来の録画予約システムにおいては,操作が煩雑であり,しかも,
読み取りミスがあったという問題を解決すべくなされたものであり,
この点からすると,選択,転送される情報は,乙32記載の録画行為
に必要な情報(時間,チャンネルに関する情報)に限られると解され
るから,乙32発明Aでは,タイトル情報を転送する必要性はなく,
その動機付けも生じない。また,被告の提出するいずれの証拠にも,
仮想テープディレクトリに記憶されているデータと,テープのデータ
チャンネルのデータとの突き合わせを行うことを可能にするべく,タ
イトルを含むテレビジョン番組リストのデータをVCRへ転送する技
術は開示されていないから,相違点dの「タイトル情報を選択,転
送」する点については,当業者が容易になし得るものではない。
ウ分割要件違反を前提とした進歩性欠如
(被告)
(ア)第2,3(3)−1,ウ(被告)(ア)のとおり
(イ)本件明細書の原出願当初明細書対応記載部分を検討すると,同
部分には,本件発明4の要件Tに関して,テレビジョン番組情報に係
るデータ(タイトル,チャンネル,開始時間を含んだもの)を,番組
に記録するためにRAMからVCR等(内部→外部)へ転送すること
は何ら開示されていない。そうすると,本件明細書の原出願当初明細
書対応記載部分には,本件発明4の要件Tの記載がないから,原出願
当初明細書にも本件発明4の要件Tの記載がないことになり,本件発
明4は分割出願の際に,新たに追加されているものである。
(ウ)したがって,本件特許の出願は,分割要件を充たさないから,
出願日は,遡及せず,本件特許の現実の出願日である平成12年10
月20日となる。そして,同日前である平成6年5月12日に頒布さ
れた乙33文献に記載された乙33発明を主引用例とした場合,乙3
3発明と本件発明4との相違点は,以下のとおりである。
a相違点③
本件発明4では,要件T「記録するために選択されたテレビジョン
番組リストが示している番組をVDR又はその他の記録装置に記録す
るために前記の記録するために選択されたテレビジョン番組リストの
データを前記のデータファイルからVCR又はその他の記録装置に転
送するステップ」を有するのに対し,乙33発明ではこのようなステ
ップが明確に示されていない点。
b相違点③の検討
相違点③に関しては,乙33発明と乙32発明を組み合わせること
により,容易に想到し得るものである。すなわち,乙32発明には,
テレビ番組録画に関する情報処理システムの発明が開示されており,
乙33発明と,その技術分野,課題も共通しており,これらを組み合
わせることに何ら困難性はない。そして,乙32発明は,要件Tに想
到する構成を有している。そうすると,乙32発明に要件Tが開示さ
れており,また,乙33発明と乙32発明を組み合わせることは容易
であることからすると,本件発明4に容易に想到し得るものである。
(原告)
(ア)第2,3(3)−1,ウ(原告)(ア)のとおり。
(イ)本件発明4の要件Tに関して,本件明細書の段落【0077】,
【0080】の記載,【図13】,【図22】及び段落【0036】
∼【0051】を中心とする本件明細書の発明の詳細な説明の記載を
総合的に見れば,(A)「テレビジョン番組情報にかかるデータ(タ
イトル,チャンネル,開始時間を含んだもの)」を,(B)「番組を
記録するためにRAMからVCR等(内部→外部)へ転送すること」
は,共に,本件明細書に記載されているところ,原出願当初明細書に
も,これらの記載に対応した記載がある。
(ウ)よって,本件特許出願には,本件発明4の要件Tを理由とする
分割要件違反はない。
(3)−5本件発明5の無効理由の有無
ア記載要件違反
(被告)
(ア)平成6年改正前の特許法36条5項1号及び同条4項違反
①本件特許の適用法である平成6年改正前の特許法36条5項1号は,
「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであ
ること」を要求し,同条4項は「前項第3号の発明の詳細な説明には,
…容易にその実施をすることができる程度に,その発明の…構成…を
記載しなければならない」と要求しているところ,本件発明5は,本
件明細書の発明の詳細な説明において実施可能な程度に開示されてい
ないので,同条5項1号及び同条4項違反の無効理由を有する。
②本件発明5は,要件V,W及びXに記載された各機能を実現するた
めの信号を発生するようプログラムされていることを特徴とする「マ
イクロプロセッサ」(要件Y)に係る発明であるところ,上記条項を
充たすためには,本件明細書の発明の詳細な説明に,「マイクロプロ
セッサを生産できる程度に開示」されていることが必要であるが,原
告の主張する要件では,その程度に開示したことにはならないので不
十分である。本件明細書等においても,マイクロプロセッサは,【図
22】において28と付番された「CPU」と銘打ったボックスでし
か開示されておらず,発明の詳細な説明にも,マイクロプロセッサ内
部の構成要素及び構成要素間の関係や,マイクロプロセッサの動作の
開示はなく,本件発明5が3種類信号を「発生するようプログラムさ
れ,…ることを特徴としたマイクロプロセッサ」であるにもかかわら
ず,プログラムについて何ら開示されていない。
③仮に,要件V,W及びXの各機能が本件明細書等に開示されている
としても,要件Yに係る「マイクロプロセッサ」がそのプログラムに
より発生すべき要件V,W及びXに係る3つの信号については,本件
明細書等には何ら開示されていない。要件Vについては,要件Lと同
様,「RAMから…テレビジョン番組リストを取り出してディスプレ
イモニターに表示する信号」の発生についてCPUが関与しているこ
とが漠然と把握可能であるが,依然としてCPU(マイクロプロセッ
サ)にそのようなプログラムが存在することは何ら開示されていない。
また,要件W「この表示された複数のテレビジョン番組リストの中の
一つを記録するためその一つをテレビジョン番組リストを特定する信
号」及び要件X「データをデータファイルからVCRまたはその他の
記録装置に転送するための信号」については,本件明細書の発明の詳
細な説明には一切開示がない。原告は,「CPU228は…また,要
件Wの機能を実現するのに関係する…,に接続されている。」,「ま
た,CPUは,Xの機能を実現するのに関係する…に接続され,また,
…に接続され,さらに,…に接続されている。」と主張するが,かか
る主張からは,CPU(マイクロプロセッサ)が要件W及びXに規定
されているような具体的な機能を有する信号を発生するようにプログ
ラムされていることとのつながりが不明である。
(イ)平成6年改正前の特許法36条5項2号違反
本件発明5の「テレビジョン番組リスト」という用語は,多義性を有
しており,いずれの解釈を採用するかによって本件発明5の範囲が変動
してしまい,「特許を受けようとする発明が明確に把握できる」ことが
できず,平成6年改正前の特許法36条5項2号違反の無効理由を有す
る。
(ウ)平成6年改正前の特許法36条5項1号違反
①本件特許の適用法である平成6年改正前の特許法36条5項1号は,
「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであ
ること」を記載要件として要求するところ,本件発明5の要件Xは,
本件明細書の発明の詳細な説明において開示されていないので,同号
違反の無効理由を有する。
②すなわち,本件発明5の要件Xは,「この記録するために選択され
たテレビジョン番組リストに対応するデータをデータファイルからV
CRまたはその他の記録装置に転送するための信号を発生するよう」
と規定され,(A)「テレビジョン番組情報にかかるデータ(タイト
ル,チャンネル,開始時間を含んだもの)」を(B)記録するために,
RAMからVCR等(内部→外部)に転送するという点に特徴がある
が,発明の詳細な説明を含む本件明細書等には,前記のとおり,この
点の開示がない。
(原告)
(ア)平成6年改正前の特許法36条5項1号及び同条4項違反
①第2,3(3)−3,ア(原告)(ア)①と同じ
②被告は,本件発明5の3種類の信号について開示がないと主張する
が,マイクロプロセッサが所定の機能を実現するための制御を行うに
は,信号を発する必要があること自体は,当業者の技術的常識である
から,本件発明5が発明の詳細な説明に記載されているといえるため
には,a上記要件V,W及びXの機能並びにbマイクロプロセッサが
上記要件V,W及びXの機能の実現が可能となるように設けられてい
ることが発明の詳細な説明及び図面から把握できれば十分であり,各
要件の機能との関連で,それぞれ「…という信号を発した」という記
載がなければならないというわけではない。そして,本件発明5に関
しては,発明の詳細な説明の段落【0043】,【0073】,【0
074】,【0076】,【0077】,【0080】の記載及び図
2,8,13,22からすると,要件V,W及びXの機能が理解でき,
また,CPU(マイクロプロセッサ)が要件V,W及びXの機能を実
現するために所定の信号を発生することが理解できる。
(イ)平成6年改正前の特許法36条5項2号違反
第2,3(3)−1,ア(原告)(ア)と同じ
(ウ)平成6年改正前の特許法36条5項1号違反
第2,3(3)−4,ア(原告)(ア)と同じ
イ進歩性欠如
(被告)
乙32発明を主引用例とした場合の進歩性欠如
(ア)乙32発明と本件発明5との相違点は,以下のとおりである。
a相違点6
本件発明5は,各要件の「信号を発生」させること,及び,各要件
の信号を発生するようプログラムされているのに対し,乙32発明で
は,このような構成を備えているかが明確に開示されていない点。
b相違点7
本件発明5においては,番組を記録するために転送する情報が,
「テレビジョン番組リスト毎にタイトル,チャンネルそして開始時間
を含んでいるテレビジョン番組リスト」であるのに対し,乙32発明
においては,番組を記録するために転送する情報が,「カーソル位
置」情報に基づく,個々の番組の開始時刻,チャンネル番号,番組終
了時刻であって,タイトルについては転送が明確に記載されていない
点。
c相違点8
本件発明5においては,「テレビジョン番組リスト」をRAMから
取り出してディスプレイモニターに表示する信号を発生するのに対し,
乙32発明においては,RAM33から番組表のデータを取り出して,
CPU51に出力する信号を発生する点。
(イ)相違点の検討
a相違点6
相違点4と同様,あるマイクロプロセッサを実現するときにそれぞ
れの機能を有する信号を発生すべきことは,当業者が容易に想到し得
ることであり,また,そのためにプログラムすることも同様である。
したがって,相違点6は容易に想到し得る。
b相違点7
本件発明4の相違点の内容と概ね同様であるから,同相違点が容易
に想到し得るのであるから,相違点7も容易に想到し得る。
c相違点8
乙32発明には,レコーダー側に存在するCPU31とCPU51
とが協働処理することによって,番組表データがテレビ受像機に表示
することが開示されているから,これをCPU31が単独で,番組表
データがテレビ受像機に表示するように処理する信号を発生するよう
に構成することは単なる設計的事項であり,当業者にとって何の困難
性もない。したがって,相違点8も容易に想到し得る。
(原告)
(ア)本件発明5は,本件発明4の「VCRまたはその他の記録装置を
使用して,ビデオ記録媒体にテレビジョン番組を記録する方法」を実現
するための「マイクロプロセッサ」に係るものであり,その要件も,本
件発明4とほぼ同じであるから,本件発明4が乙32発明に記載された
発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものでない以上,
本件発明5も,乙32発明に基づいて,当業者が容易に発明することが
できたものではない。
(イ)すなわち,乙32発明から,CPU31の機能に着目して,本件
発明5との関係で最も近い態様を認定すると,「番組表のデータを記憶
している録画予約カード側のROM32から当該番組表のデータを取り
出してVTRのCPU51に出力する信号を発生し,カーソル位置の情
報に基づいて,記録する番組の開始時間情報,チャンネル番号,番組終
了情報を特定する信号を発生し,そして,記録するために選択した当該
カーソル位置の情報に基づく,番組の開始時間情報,チャンネル番号,
番組終了情報を,録画予約カード中のROM32からVTRのCPU5
1に対して転送するための信号を発生するようプログラムされ,前記の
記録するために選択されたカーソル位置が示している番組を記録させる
ようにすることを特徴としたマイクロプロセッサ」(以下「乙32発明
B」という。)となり,本件発明5と乙32発明Bの相違点は,次のと
おりである。
①相違点e
本件発明5においては,「テレビジョン番組リスト」をRAMから
取り出してディスプレイモニターに表示する信号を発生するのに対し,
乙32発明Bにおいては,RAM33からデータを取り出してディス
プレイモニターに表示する信号は発生しない点(要件Vに対応)
②相違点f
本件発明5においては,記録するために選択及び転送する情報が,
『タイトル,チャンネルそして開始時間をテレビジョン番組リスト毎
に含んでいるテレビジョン番組リスト』であるのに対し,乙32発明
Bにおいては,記録するために選択及び転送する情報が,「カーソル
位置」の情報に基づく,個々の番組の開始時刻,チャンネル番号,番
組終了時刻であって,タイトル情報については選択,転送がなされな
い点(要件W,X及びYに対応)
(ウ)相違点の検討
相違点eについては,乙32発明Bにおいて,このような信号が発生
するという記載がない以上,当該相違点を克服することは当業者が容易
になし得るとはいえない。また,相違点fは,相違点dとほぼ同じであ
るところ,相違点dは当業者に容易になし得るものではないから,相違
点fは,当業者が容易になし得るものではない。
ウ分割要件違反を前提とした進歩性欠如
(被告)
(ア)第2,3(3)−1,ウ(被告)(ア),(イ)のとおり。
(イ)本件明細書の原出願当初明細書対応記載部分を検討すると,同
部分には,本件発明5の要件Xに関して,テレビジョン番組情報に係
るデータ(タイトル,チャンネル,開始時間を含んだもの)を,番組
に記録するためにRAMからVCR等(内部→外部)へ転送すること
は何ら開示されていない。また,本件明細書の原出願当初明細書対応
記載部分には,本件発明5の各要件において「信号を発生」すること,
及び,要件Yにおいて,各要件の信号を発生するようプログラムされ
ているマイクロプロセッサは,何ら開示されていない。そうすると,
本件明細書の原出願当初明細書対応記載部分には,本件発明5の各要
件の「信号を発生」,要件X及びYの記載がないから,原出願当初明
細書にも本件発明5の各要件の「信号を発生」,要件X及びYの記載
がないことになり,結果として,本件発明5は,分割出願の際に新た
に追加されているものである。
(ウ)したがって,本件特許の出願は,分割要件を充たさないから,出
願日は,遡及せず,本件特許の現実の出願日である平成12年10月2
0日となる。そして,同日前である平成6年5月12日に頒布された乙
33発明を主引用例とした場合,乙33発明と本件発明5との相違点は,
以下のとおりである。
a相違点
(a)相違点④
本件特許5は,各要件の「信号を発生」すること,及び,各要件
の信号を発生するようプログラムさせているのに対し,乙33発明
では,このような構成を備えているかが明確に示されていない点。
(b)相違点⑤
本件発明5では,要件X「この記録するために選択されたテレビ
ジョン番組リストに対応するデータをデータファイルからVCRま
たはその他の記録装置に転送するための信号を発生するよう」とい
う構成を有するのに対し,乙33発明では,このような構成が明確
に示されていない点
b相違点の検討
(a)相違点④
あるマイクロプロセッサを実現するときにそれぞれの機能を有す
る信号を発生すべきことは当業者が容易に想到し得ることであり,
また,そのためにプログラムすることも同様に容易に想到し得るも
のである。したがって,相違点④については,当業者であれば容易
に想到し得るものである。
(b)相違点⑤
乙33発明は,要件Xの機能(要件Tの機能と同じ)を有してお
り,乙33発明と乙32発明を組み合わせることも容易であるから,
かかる組合せによって相違点⑤は容易に想到し得る。
(原告)
(ア)第2,3(3)−1,ウ(原告)(ア)のとおり。
(イ)本件発明5の要件Xに関して,本件明細書の段落【0077】,
【0080】の記載,【図13】,【図22】及び段落【0036】∼
【0051】を中心とする本件明細書の発明の詳細な説明の記載を総合
的に見れば,(A)「テレビジョン番組情報にかかるデータ(タイトル,
チャンネル,開始時間を含んだもの)」を,(B)「番組を記録するた
めにRAMからVCR等(内部→外部)へ転送すること」は,共に,本
件明細書に記載されているところ,原出願当初明細書にも,これらの記
載に対応した記載がある。また,本件発明5の各要件において「信号を
発生」すること,及び,要件Yにおいて,各要件の信号を発生するよう
プログラムされているマイクロプロセッサが,所定の機能を実現するた
めの制御を行うに当たり,信号を発する必要があること自体は,いずれ
も当業者の技術常識であるから,「信号の発生」及び「信号を発生する
ようプログラムされているマイクロプロセッサ」に関する要件について
は,原出願当初明細書にも実質的に記載されているといえる。
(ウ)よって,本件特許出願には,本件発明5の各要件及び要件X,Y
を理由とする分割要件違反はない。
(4)損害論
(原告)
被告は,平成16年9月から平成19年9月までの間,イ号物件及びロ号
物件を,少なくとも286万1000台販売しており,原告が本件発明1な
いし5の実施に対し受け取るべき金銭の額に相当する額は,イ号物件及びロ
号物件1台当たり920円を下らないから,原告の損害額は,少なくとも2
6億3212万円である。
(被告)
原告の主張は,争う。
第3当裁判所の判断
1争点(2)侵害論,(2)−1請求項における用語の解釈について
本件発明の技術的範囲を確定し,イ号方法及びイ号物件並びにロ号方法及び
ロ号物件の本件発明の構成要件充足性を検討する前提として,まず,本件発明
の「特許請求の範囲」記載の用語の解釈について,検討する。
(1)テレビジョン番組リスト
ア本件発明1ないし3
(ア)本件発明1に関する「特許請求の範囲」の記載によると,本件発
明1の要件Aには「タイトル,放送時間そしてチャンネルをそれぞれが
含んでいる複数のテレビジョン番組リストを電子メモリに記憶する」と
記載され,「複数」の「テレビジョン番組リスト」の「それぞれ」が
「タイトル,放送時間そしてチャンネル」という個々の番組を特定する
ための番組情報を含むものであり,また,「テレビジョン番組リスト」
そのものが電子メモリに記憶される対象として規定されていること,本
件発明1の要件Bには,「時間とチャンネルのグリッドガイド形式で…
複数のテレビジョン番組リストのチャンネルの中の幾つかをモニタース
クリーン上に表示する」と記載され,要件Eには「…単一チャンネル形
式はその目印を付けたチャンネルに対応するチャンネルのテレビジョン
番組リストを順次配列した行を含んでいる」と記載されており,「テレ
ビジョン番組リスト」は,それ自体が,「複数」,「順次配列」し得る
ようなものと認められ,グリッドガイド形式又は単一チャンネル形式と
いう表示形式で表示される対象として規定されていることからすると,
本件発明1において,「テレビジョン番組リスト」とは,「個々の番組
単位の番組情報」を意味すると解するのが相当である。
(イ)本件発明2に関する「特許請求の範囲」の記載によると,本件発
明2の要件Gには「タイトル,放送時間そしてチャンネルをそれぞれが
含んでいる複数のテレビジョン番組リスト」と記載され,「複数」の
「テレビジョン番組リスト」の「それぞれ」が「タイトル,放送時間そ
してチャンネル」という番組情報を含むものとして規定されていること,
要件Hの「このテレビジョン番組リストの中の幾つかを表示する時間と
チャンネルのグリッドガイド」との記載は,複数の「テレビジョン番組
リスト」が,グリッドガイド形式で表示される対象となることを表わし
ていると解されること,要件Iの「表示されたテレビジョン番組リスト
の一つを選択して目立たさせる」との記載及び要件Jの「その目立たせ
たテレビジョン番組リスト」との記載からすると,「テレビジョン番組
リスト」は,表示された中から,個別に選択され,また,選択されたこ
とを示すために目立たさせられるものとして規定されていること,そし
て,選択され,目立たさせられるためには,個別に特定されていること
が必要であること等を考慮すると,本件発明2において,「テレビジョ
ン番組リスト」とは,「テレビジョン番組を特定するための個々の番組
単位の番組情報」を意味すると解するのが相当である。
(ウ)本件発明3に関する「特許請求の範囲」の記載によると,本件発
明3の要件Lには「テレビジョン番組リストを複数のセル内に表示して
いる時間とチャンネルのグリッドガイド形式で表示モニターに,RAM
に記憶したテレビジョン番組リストを表示させる信号を発生し」と記載
され,「テレビジョン番組リスト」が,グリッドガイド形式の「複数の
セル内」に表示されるものであり,また「テレビジョン番組リスト」そ
のものがRAMに記憶される対象として規定されていること,要件Nの
「単一チャンネル形式でその目立たされたテレビジョン番組リストを表
示する」との記載は,「テレビジョン番組リスト」が,単一チャンネル
形式の画面表示において表示される対象となることを表わしていること,
要件Mには,「その表示されたテレビジョン番組リストの一つを目立た
させる信号」と記載され,「テレビジョン番組リスト」が,個別に目立
たさせられる対象となるものとして規定されていること,個別に目立た
させられるためには,それぞれが特定されていることが必要であること
等を考慮すると,本件発明3において,「テレビジョン番組リスト」と
は,「テレビジョン番組を特定するための個々の番組単位の番組情報」
を意味すると解するのが相当である。
(エ)以上のとおり,本件発明1ないし3においては,「テレビジョン
番組リスト」は,「個々の番組単位の番組情報」あるいは「テレビジョ
ン番組を特定するための個々の番組単位の番組情報」を意味すると解す
るのが相当である。
イ本件発明4及び5
(ア)本件発明4に関する「特許請求の範囲」の記載によると,本件発
明4の要件Pの「複数のテレビジョン番組リストに対応し,テレビジョ
ン番組リスト毎にタイトル,チャンネルそして開始時間を含んでいるデ
ータファイル」との記載及び要件Tの「記録するために選択されたテレ
ビジョン番組リストのデータ」との記載があり,これらの記載からする
と,「テレビジョン番組リスト」は,それ自体が「複数」あり,「テレ
ビジョン番組リスト」,「毎」に「タイトル,チャンネルそして開始時
間」という番組情報(データ)を含むものとして規定されていること,
要件Qの「メモリに記憶されている複数のテレビジョン番組リストをデ
ィスプレイモニターに表示する」,要件Sの「表示された複数のテレビ
ジョン番組リストの中の一つを記録するために選択する」,要件Tの
「記録するために選択されたテレビジョン番組リストが示している番組
を…記録するために選択されたテレビジョン番組リストのデータを前記
のデータファイルからVCRまたはその他の記録装置に転送する」との
各記載からすると,「テレビジョン番組リスト」は,その複数がメモリ
に記憶されるものであるとともに,ディスプレイモニターに表示され,
また,表示された中から記録するためにその一つが個別に選択される対
象となるものであり,さらに,そのデータが記録装置等に転送されるも
のとして規定されていること,個別に選択されるためには,それぞれが
特定されていることが必要であること等を考慮すると,本件発明4にお
いて,「テレビジョン番組リスト」とは,「テレビジョン番組を特定す
るための個々の番組単位の番組情報」を意味すると解するのが相当であ
る。
(イ)本件発明5に関する「特許請求の範囲」の記載によると,本件発
明5の要件Vの「タイトル,チャンネルそして開始時間をテレビジョン
番組リスト毎に含んでいる複数のテレビジョン番組リスト」との記載,
要件Wの「この表示された複数のテレビジョン番組リスト」との記載が
あり,これらの記載からすると,「複数」の「テレビジョン番組リス
ト」は,それぞれが「タイトル,チャンネルそして開始時間」という番
組情報を含むものとして規定されていること,要件Vの「記憶している
RAMから前記の複数のテレビジョン番組リストを取り出してディスプ
レイモニターに表示する信号を発生」との記載,要件Wの「この表示さ
れた複数のテレビジョン番組リストの中の一つを記録するためその一つ
のテレビジョン番組リストを特定する信号を発生」との記載,要件Xの
「この記録するために選択されたテレビジョン番組リストに対応するデ
ータをデータファイルからVCRまたはその他の記憶装置に転送するた
めの信号を発生」との記載,要件Yの「前記の記録するために選択され
たテレビジョン番組リストが示している番組を記録させる」との記載か
らすると,「テレビジョン番組リスト」は,記憶されたRAMからその
複数が取り出され,ディスプレイモニターに表示され,表示された中か
ら記録するためにその一つが特定され選択される対象として規定されて
いること等を考慮すると,本件発明5においては,「テレビジョン番組
リスト」とは,「テレビジョン番組を特定するための個々の番組単位の
番組情報」を意味すると解するのが相当である。
(ウ)以上のとおり,本件発明4及び5においては,「テレビジョン番
組リスト」は,「テレビジョン番組を特定するための個々の番組単位の
番組情報」を意味すると解するのが相当である。
ウ「テレビジョン番組リスト」の解釈に関して,本件明細書の記載及び図
面を検討すると,本件明細書には,「テレビジョン番組リスト」の文言は,
本件明細書の「発明の詳細な説明」のうち,「発明が解決しようとする課
題」(段落【0008】)及び「課題を解決するための手段」(段落【0
009】)の欄以外には記載されていないが,これに類似する文言である
「番組リスト」,「TVリスト」,「リスト」については,次のとおりの
記載がある。
(ア)本件明細書の段落【0031】には,「図7は…単一チャンネル
の番組リスト58のスクリーン22を示す。リスト58は,そのチャン
ネルの一連の番組リストの行60とチャンネル情報フィールド62を含
む。」と記載され,この説明に対応する【図7】では,番組リストの行
60として,「11:30A判事(パート2)」等の,個々の番組
単位の開始時間,タイトル等の番組情報の記載された各行が示されてい
る。
(イ)本件明細書の段落【0022】の「TV表示部のテキストスペー
スの制限により,可能な限りTVリストの多数の行を表示するのが好ま
しい」との記載では,「TVリスト」は,「多数」の「行」に表示され
るものであることが示されている。
(ウ)本件明細書の段落【0019】では,「各スケジュール更新後,
スケジュールシステムは,リンクされたタイトル(図24)でのタイト
ルに合致するいかなるタイトルの発生に対しても新規のリストを調査す
る。もしタイトルが合致すれば,それは自動的に記録のために標識が付
けられる。」と記載され,番組のスケジュール情報が更新されると,番
組リンクアイコン46が付された番組のタイトル情報と更新後の「新規
のリスト」との突き合わせがされ,合致した場合には後者に自動的に記
録のために標識が付けられるとされており,上記「リスト」は,情報を
含むものとして,調査され,場合によっては自動的に記録のために標識
が付けられる対象となるものとされている。
(エ)本件明細書の段落【0024】には,「選択した番組の番組ノー
トは,要求に応じてグリッドガイド上に重ねて表示される。…番組ノー
ト52は,ガイドの3または4のリストに重ねられるか隠してしまう。
ガイドの隠蔽を最小にするために,自動移動ノートが使用される。番組
ノートは,スクリーンの上半分か下半分に重ねられ,必要に応じて,選
択されたリストのタイトルをマスクを回避できるようになっている。」
と記載され,これに対応する【図6】では,番組ノート52が,番組情
報(タイトル)を表示した行を数行隠しているものの,選択された「ゴ
ールデンガールズ」という番組情報(タイトル)を隠さないよう,ス
クリーンの下半分に位置している様子が示されている。
(オ)本件明細書の段落【0073】の「リスト情報やケーブルチャン
ネル割当データといった他の支持情報が…一日数回または連続的にVB
Iに送信される」との記載,段落【0074】の「VBI信号がCPU
228によって処理された後,リストデータは,スケジュールメモリ2
32へ記憶される」との記載及び段落【0076】の「TV内容確認要
求に関して,スケジュールメモリ232に記憶されているリストが呼び
出され,CPU228で処理され,ビデオ表示発生器224へ出力され
る。」との記載によると,「リスト」の用語は,上記各段落では,情報
を含むものとして,VBIに送信され,CPU228によって処理され
た後,スケジュールメモリ232に記憶される対象となるものである。
エ以上のとおり,本件明細書の各記載及び図面によると,本件明細書にお
ける「番組リスト」(ただし,段落【0031】については「番組リスト
の行60」の「番組リスト」を示す。),「TVリスト」,「リスト」の
文言は,個々の番組の番組情報を含み,画面上は行の中に表示され,ある
いは,マイクロプロセッサにより処理されたりメモリに記憶されるものと
して使用されているから,これらの文言は,「個々の番組単位の番組情
報」を意味していると解するのが相当である。そして,上記のような本件
明細書の記載及び図面を考慮すると,本件特許の「特許請求の範囲」に記
載された「テレビジョン番組リスト」の文言の解釈については,これを
「テレビジョン番組を特定するための個々の番組単位の番組情報」と解す
ることが,本件明細書の記載等とも整合しているというべきである。
オ被告は,「テレビジョン番組リスト」とは,「テレビジョン番組のタイ
トルが並んだもの」を意味すると主張し,「テレビジョン番組リスト」を
文言解釈すると,「テレビ」の「番組」に関する「リスト」(「表のよう
に項目を並べたもの」であり「情報」ではない。)であること,本件発明
の「特許請求の範囲」の記載からしても,「テレビジョン番組リスト」を
「テレビジョン番組のタイトルが並んだもの」と解釈し,本件発明1の要
件Aについて,タイトルの並びに加えて放送時間,チャンネルを軸とした
表形式で表せば,それぞれ「タイトル,放送時間,そしてチャンネル」を
含んでいるリストとして観念し得るし,そのデジタル情報をRAMに記憶
することも可能であると主張する。
しかしながら,上記のとおり,本件発明1の他の要件(要件B,E)の
記載によると,「テレビジョン番組リスト」は,それ自体が,複数,グリ
ッドガイド形式又は単一チャンネル形式という表示形式で表示される対象
として規定されているから,「個別の番組情報」として解されており,こ
れを「テレビジョン番組のタイトルが並んだもの」(番組表)として解釈
することはできないというべきである。したがって,被告の上記主張は採
用できない。
カ被告は,本件明細書の段落【0011】及び【0031】の「番組リス
ト」,段落【0022】の「TVリスト」,段落【0065】,【001
9】,【0024】の「リスト」という各文言の意味を考慮すると,いず
れも「テレビジョン番組のタイトルが並んだもの」と解されるから,本件
発明の「特許請求の範囲」の「テレビジョン番組リスト」の文言について
も,同様に解されると主張する。そして,確かに,本件明細書の段落【0
011】の記載によると,「番組リスト」は,「半時間長の三つのコラム
28,及び十二の行30」から「構成され」,長さにより,隣接する時間
帯の「二つかそれ以上のコラム28を重複して使用している」ものである
から,「番組リスト」は,縦横に並べられた複数のコラムと行から構成さ
れ,時間が長い番組については,複数のコラムを重複して使用しているよ
うな「番組表」を意味すると解することもできる。また,段落【003
1】では,「単一チャンネルの番組リスト58」について,「リスト58
は,そのチャンネルの一連の番組リストの行60とチャンネル情報フィー
ルド62を含む。」と記載され,これに対応する【図7】においても,
「リスト58」は,一連の番組情報を示す行とチャンネルが並べられた同
図全体を指しているから,「リスト58」は,同段落においては「番組
表」の意味で使用されているといえる。さらに,段落【0065】では,
ユーザーがチャンネルを興味に合わせて除去する等してカスタム化し「リ
ストをコンパクトにできる」とし,表形式のような「リスト」を簡略化す
ることを記載しているから,同段落の「リスト」は「並んだもの」を意味
していると解される。
しかしながら,本件明細書の「番組リスト」,「TVリスト」,「リス
ト」の各文言が,上記各段落においては「番組表」を意味すると解され得
るとしても,上記ウのとおり,本件明細書の他の段落においては「番組情
報」を意味すると解されることや,「特許請求の範囲」に記載された「テ
レビジョン番組リスト」の文言の解釈との関係において,同文言を「番組
表」と解釈すると,複数の「テレビジョン番組リスト」のそれぞれが個々
の番組を特定するための番組情報を含むものとされていたり(本件発明1,
2,4,5),「テレビジョン番組リスト」が,個別に選択され,目立た
させられる対象となるものとして規定されていること(本件発明2ないし
5)等と整合性のある解釈をすることはできないから,本件明細書に被告
の主張するような記載があるとしても,「特許請求の範囲」における「テ
レビジョン番組リスト」の文言を「番組表」と解することはできないと言
わざるを得ない。したがって,被告の主張を採用することはできない。
キ被告は,原出願の拒絶査定に対する審判手続及び原出願審決に対する審
決取消訴訟手続では,原告が,「テレビジョン番組リスト」の用語を「個
々の番組単位における番組情報」の意味では使用しておらず,各手続にお
ける特許庁の主張及び裁判所の判決においても,「テレビジョン番組リス
ト」とは,テレビジョン番組のタイトルのリスト,すなわち,テレビジョ
ン番組のタイトルが並んだものと解されているから,本件発明における
「テレビジョン番組リスト」の文言についても,「テレビジョン番組のタ
イトルが並んだもの」を意味すると解すべきであり,分割出願に係る本件
特許権による権利行使の際に,同用語の意義を違えて主張することは,信
義則に基づく禁反言法理から許されないと主張する。
しかしながら,分割出願制度は,一つの出願において二つ以上の異なる
発明の特許出願をした出願人に対し,出願を分割する方法により,各発明
につき,それぞれ元の出願の時に遡って出願がされたものとみなして特許
を受けさせるものであるから,原出願で特許出願された発明と,分割出願
で特許出願された発明は,本来,内容を異にするものであり,分割出願さ
れた発明の「特許請求の範囲」に記載された文言の解釈が,原出願の手続
における文言の解釈と必ずしも一致する必要はないというべきである。し
たがって,本件特許の「テレビジョン番組リスト」の文言の解釈において,
仮に,原出願の拒絶査定に対する審判手続及び原出願審決に対する審決取
消訴訟手続において使用された「テレビジョン番組リスト」の文言の意味
とは異なる解釈をしたとしても,禁反言法理から許されないとはいえず,
被告の上記主張は採用できない。
なお,被告は,本件特許の登録後に関連で再分割出願された2つの特許
出願の経過についても主張するが,本件特許とは異なる特許出願における
「特許請求の範囲」に記載された文言の解釈に係る主張であり,上記と同
様の理由により,これを採用することはできない。
(2)グリッドガイド形式
ア本件発明において,本件発明1の要件B,C,D,本件発明2の要件H,
I,J,本件発明3の要件L,Nの「グリッドガイド形式」とは,格子状
のテレビジョン番組表(形式)をいうことについては,当事者間に争いが
ないところ(前記第2,3(2)−1,イ),「格子状」とは,技術常識
からして,必ずしも縦横が常に明瞭に区切られた状態である必要はなく,
縦横の位置の目安が分かる程度の状態であれば足りると解されるから,番
組表においては,時間とチャンネルを軸としてテレビジョン番組リストと
いう情報(要素)が格子状に配列されていればよいと解される。
イ被告は,「格子状」とは,「碁盤の目のように,縦横が常に明瞭に区切
られた状態」,すなわち,時間とチャンネルの軸で常に明瞭に区切られて
いる状態をいうと主張するが,上記の説示から明らかなように,このよう
な限定解釈をする必要性及び合理性はなく,被告の主張を採用することは
できない。
(3)チャンネルの一つに目印を付ける
ア本件特許の「特許請求の範囲」の記載によると,本件発明1の要件Cで
は「チャンネルの一つに目印を付ける」と記載され,目印を付ける対象を
「チャンネル」と規定しているのに対し,他の本件発明である本件発明2
の要件Iでは「テレビジョン番組リストの一つを選択して目立たさせる」,
本件発明3の要件Mでは「テレビジョン番組リストの一つを目立たさせ
る」,本件発明4の要件Sでは「テレビジョン番組リストの中の一つを記
録するために選択する」,本件発明5の要件Wでは「その一つのテレビジ
ョン番組リストを特定する」とそれぞれ記載され,いずれも選択し,目立
たさせ,あるいは特定する対象として「テレビジョン番組リスト」を規定
しており,本件発明1の要件Cのみがあえて他の本件発明とは異なる規定
となっている。また,本件明細書の記載によると,段落【0027】には,
「チューナが同調するチャンネルがグリッド24に表示されると,56で
示されるように,そのチャンネルはハイライトされる」と記載され,対応
する【図1】では,タイトル「若さと不安」と表示されたセルに実線及び
破線の下線が引かれているのとは別に,チャンネル56の「2」が,ハッ
チング(網掛け)されている。そして,前記第2,1の争いのない事実等
(以下,単に「争いがない事実等」と表記する。)(6)イのとおり,原
告は,本件特許の出願手続において,請求項1の要件Cに該当する部分に
ついて,当初は,目印を付ける対象を「タイトル」と記載していたのを,
平成15年9月24日,手続補正書及び同日付け意見書を提出し,請求項
の表現を読みやすく訂正するとの理由により,目印を付ける対象を「チャ
ンネル」に変更したものである。
そうすると,「チャンネルの一つの目印を付ける」とは,チャンネル軸
に表示されているチャンネルの一つに目印を付けることを意味していると
解するのが相当である。
イ原告は,「チャンネルの一つに目印を付ける」とは,「単一チャンネル
形式での表示に変換する契機となるチャンネル情報を選択する」ことであ
り,そのような情報を選択できれば,具体的態様については,特段の限定
はないと解すべきであると主張する。そして,本件明細書の段落【003
3】の記載及び【図2】,【図7】から,「モニター画面上の,テレビジ
ョン番組リストを表示する部分を選択することによって,単一チャンネル
形式表示に対応するチャンネル情報を選択する」方法が開示されているこ
と,特許請求の範囲相互間での一部の表現が異なることをもって,一方の
発明について,他方の発明における,その一部の異なった表現による実施
態様を排除しているとか,そのような実施態様を含まない形で限定解釈し
なければ信義則に反するということはないこと,本件特許の出願の経緯に
照らしても,補正の前後において,請求項1の発明の内容には実質的な変
更がないこと等を主張する。
しかしながら,上記アのとおり,本件明細書の段落【0027】の記載
及びこれに対応する【図1】からすると,「チャンネルの一つに目印を付
ける」ことは,「チャンネル」が「ハイライトされる」(【図1】上は
「チャンネル2」がハッチングされている。)ことにより表わされており,
他方,「タイトルの一つに目印を付ける」ことは,タイトルが表示された
セル26をカーソル32が選択する(【図1】上は「若さと不安」という
タイトルが表示されたセルに実線及び破線の下線が引かれている。)こと
により表わされていると解されるから,「チャンネルの一つに目印を付け
る」ことと「タイトルの一つに目印を付ける」ことは,画面表示において
は,異なる事項を指しているものと解される。また,利用者の観点からも,
タイトルが表示されたセルをカーソルで選択することは,あくまで「タイ
トルの一つに目印を付け」て番組を選択することであり,「チャンネルの
一つに目印を付ける」ことと認識しているものではないことからすると,
「チャンネルの一つに目印を付ける」ことと「タイトルの一つに目印を付
ける」こととは,別の技術的事項を表わしており,タイトルの表示に目印
を付けるという態様は,チャンネル情報を選択する態様には含まれないと
解するのが相当である。したがって,原告の上記主張を採用することはで
きない。
(4)カーソル
ア本件発明1の要件Dの「グリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル
形式でその目印を付けたチャンネルを表示する」との記載,本件発明2の
要件Jの「時間とチャンネルのグリッドガイドをその目立たせたテレビジ
ョン番組リストのチャンネルの単一チャンネルガイドに変える」との記載
及び本件発明3の要件Nの「グリッドガイド形式の代わりに単一チャンネ
ル形式でその目立たされたテレビジョン番組リストを表示する」との記載
のとおり,本件発明1ないし3は,グリッドガイド形式で表示された複数
のテレビジョン番組リストを,単一チャンネル形式に切り替えることによ
り,テレビジョン番組リストをより見やすい形で表示することを技術的特
徴としているところ,「カーソル」は,本件発明1の要件Cの「モニター
スクリーン上でカーソルを移動してグリッドガイド形式で表示されたチャ
ンネルの一つに目印を付ける」,本件発明2の要件Iの「このグリッドガ
イドに表示されたテレビジョン番組リストの一つを選択して目立たさせる
可動カーソル」との各記載のとおり,上記グリッドガイド形式から単一チ
ャンネル形式に切り替えるための契機となる情報の選択手段としての役割
を果たしているにすぎないから,本件発明における「カーソル」とは,
「表示装置の画面上の次の操作位置を指示するために用いられる可動で可
視な標識」と解するのが相当である。
イ被告は,本件発明における「カーソル」は,本件明細書の段落【001
3】から【0015】に記載された①セル全体に広がり,かつ,②現在の
基礎位置をはっきりとハイライトしているという2つの要素を具備するカ
ーソルに限定して解釈すべきであると主張するが,本件発明1ないし3に
おいて,グリッドガイド形式で表示された複数のテレビジョン番組リスト
を,単一チャンネル形式に切り替えるという解決すべき課題との関係では,
当該切替えの契機となる情報の選択手段としての「カーソル」について,
被告の主張するような特定の形状のものに限定する合理的な理由はないと
いうべきである。したがって,被告の主張を採用することはできない。
(5)電子番組ガイド
ア本件発明2の要件Jの「時間とチャンネルのグリッドガイドをその目立
たせたテレビジョン番組リストのチャンネルの単一チャンネルガイドに変
える手段」の記載からすると,本件発明2には,特定の機能を実現するた
めの手段が記載されているといえる。また,本件発明2の他の要件は,い
ずれも画面に表示されている要件Gの「テレビジョン番組リスト」,要件
Hの「グリッドガイド」及び要件Iの「可動カーソル」をそれぞれ構成要
素としているが,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,全体としてシ
ステムの発明として記載されていることが明らかであるから,本件発明2
は「システムの発明」であると解するのが相当である。
イ被告は,本件発明2は,「システム」の発明ではなく,電子番組ガイド
という表示態様に関する何らかの工夫に関する「表示物」の発明であると
主張し,本件発明2の四つの要件GないしJのうち,三つの要件Gないし
Iは,システムの発明としての記載になっていないことを理由として述べ
るが,そもそも請求項の分説は,対象製品が発明の技術的範囲に属するか
否かを判断するために用いる便宜上の区分であることや,システムの発明
において,必ずしも,すべての分説ないし構成要件が特定の機能を実現す
るための手段として記載されている必要はないと解されることからすると,
被告の上記主張を採用することはできない。
また,被告は,「電子番組ガイド」に類似する文言として,本件明細書
における「TVガイド」(段落【0006】,【0021】,【002
5】)及び「ガイド」に関する記載を検討し,いずれも何らかの「表示
物」として用いられているから,「電子番組ガイド」も「表示物」である
と主張するが,上記のとおり,本件明細書における発明の詳細な説明では,
本件発明2が,全体としてシステムの発明として記載されていることから
すると,被告の上記主張を採用することはできない。
2争点(2)侵害論,(2)−2本件発明1の侵害の有無(イ号方法及びイ号
物件)について
(1)以上の用語の解釈に基づいて,イ号方法の本件発明1の充足性につい
て検討する。
ア争いのない事実等(4)アのとおり,イ号方法は,タイトル,放送時間
のほか,「チャンネル」ではなく,「放送局コード」を含む複数のテレビ
ジョン番組情報を受信するという構成を有するイ号物件を用いて実施され
る方法であるところ,「チャンネル」は,地域により異なり,任意のチャ
ンネルに対して任意の放送局を割り当てることができるのに対して,「放
送局コード」は,地域によって異ならないものであるから,「チャンネ
ル」と「放送局コード」は,技術的な概念として相違しており,「チャン
ネル」の概念に「放送局コード」の概念は含まれないと解される。
イまた,争いのない事実等(4)イのとおり,イ号方法は,「チャンネル
の一つに目印を付ける」のではなく,テレビジョン番組情報の一つを目立
たせることによって,対応する「テレビジョン番組情報にかかる欄」に目
印を付けるという構成を有するイ号物件を用いて実施される方法であると
ころ,上記のとおり,「チャンネルの一つに目印を付ける」ことは,番組
情報である「タイトルの一つに目印を付ける」こととは相違するものであ
る。
ウそうすると,イ号方法は,「チャンネル」と「放送局コード」の概念が
異なるため,要件Aを充足しておらず,また,「チャンネルの一つに目印
を付け」ていないので,要件C,D,Eを充足していない。
(2)したがって,その余の構成要件充足性を判断するまでもなく,イ号方
法は,本件発明1の構成要件を充足していない。
3争点(2)侵害論,(2)−3本件発明2の侵害の有無(イ号方法及びイ号
物件)について
(1)前記の用語の解釈に基づいて,イ号物件の本件発明2の充足性につい
て検討すると,争いのない事実等(4)アのとおり,イ号物件は,タイトル,
放送時間のほか,「チャンネル」ではなく,「放送局コード」を含む複数の
テレビジョン番組情報を受信する構成であり,「放送局コード」は,「チャ
ンネル」の概念とは相違するから,イ号物件は,要件Gを充足していない。
(2)したがって,その余の構成要件充足性を判断するまでもなく,イ号物
件は,本件発明2の構成要件を充足していない。
4争点(2)侵害論,(2)−4本件発明3の侵害の有無(イ号方法及びイ号
物件)について
(1)前記の用語の解釈に基づいて,イ号物件の本件発明3の充足性につい
て検討する。
アイ号物件のマイクロプロセッサは,「テレビジョン番組情報」である
「テレビジョン番組リスト」を「格子状の表示形式」である「グリッドガ
イド形式」で表示モニターに表示させる信号を発生させている。また,イ
号物件は,テレビジョン番組情報を「HDD」に記憶しているが,HDD
に記憶するためには,当該情報をいったんRAMにも格納して取り扱わな
くてはならないことは技術常識であるから,「RAMに記憶したテレビジ
ョン番組リスト」を表示させているといえる。したがって,イ号物件のマ
イクロプロセッサは,構成要件Lを充足している。
イ争いのない事実等(4)イのとおり,イ号物件のマイクロプロセッサは,
グリッドガイド形式で表示された「テレビジョン番組情報」である「テレ
ビジョン番組リスト」の一つを目立たせる信号を発生しているから,構成
要件Mを充足している。
ウイ号物件のマイクロプロセッサは,グリッドガイド形式の代わりに単一
チャンネル形式で,当該目立たされた「テレビジョン番組情報」である
「テレビジョン番組リスト」を表示する信号を発生するから,構成要件N
を充足している。
エ「プログラムされているマイクロプロセッサ」が,プログラムが内蔵さ
れているマイクロプロセッサだけではなく,外部のROMやHDD等に記
憶されているプログラムによりプログラムされているマイクロプロセッサ
も含むことは,技術常識といえるから,イ号物件のマイクロプロセッサは,
構成要件Oを充足している
(2)したがって,イ号物件は,本件発明3の構成要件LないしOのすべて
の構成要件を充足している。
5争点(2)侵害論,(2)−5本件発明4の侵害の有無(ロ号方法及びロ号
物件)について
(1)前記の用語の解釈に基づいて,ロ号方法の本件発明4の充足性につい
て検討する。
ア争いのない事実等(4)アのとおり,ロ号方法は,タイトル,放送時間
のほか,「チャンネル」ではなく,「放送局コード」を含む複数のテレビ
ジョン番組情報を受信するという構成を有するロ号物件を用いて実施され
る方法であるところ,「チャンネル」は,地域により異なり,任意のチャ
ンネルに対して任意の放送局を割り当てることができるのに対して,「放
送局コード」は地域によって異ならないものであるから,「チャンネル」
と「放送局コード」は,技術的な概念として相違しており,「チャンネ
ル」の概念に「放送局コード」の概念は含まれないと解される。
イそうすると,ロ号方法は,「チャンネル」と「放送局コード」の概念が
異なるため,要件Pを充足していない。
(2)したがって,その余の構成要件充足性を判断するまでもなく,ロ号方
法は,本件発明4の構成要件を充足していない。
6争点(2)侵害論,(2)−6本件発明5の侵害の有無(ロ号方法及びロ号
物件)について
(1)前記の用語の解釈に基づいて,ロ号物件の本件発明5の充足性につい
て検討すると,争いのない事実等(4)アのとおり,ロ号物件の「テレビジ
ョン番組リスト」(「テレビジョン番組情報」)には,「チャンネル」は含
まれず,「チャンネル」の概念とは相違する「放送局コード」が含まれてい
るから,ロ号物件は,要件Vを充足していない。
(2)したがって,その余の構成要件充足性を判断するまでもなく,ロ号物
件は,本件発明5の構成要件を充足していない。
7争点(3)無効論,(3)−3本件発明3の無効理由の有無について
(1)進歩性欠如について
ア本件特許の優先権主張の日前である平成元年8月23日に頒布された特
開平1−209399号公報(乙29文献)には,以下のとおりの記載が
ある。
(ア)「本発明は,情報処理システムに係り,特に,定められたスケジ
ュールに従って,提供される情報を処理する情報処理システムに関す
る」(1頁右3行から5行)
(イ)「本発明の目的は,…予め定められたスケジュールに従って提供
される提供情報の処理における,操作性の改善と処理の信頼性の向上を
図った情報処理システムを提供することにある。」(2頁左上10行か
ら14行)
「本件発明によれば,…提供される情報の内容と,その情報が提供さ
れるスケジュールとが処理装置で処理可能な形態で予め提供されるよう
にし,この情報の中から処理の対象としたい提供情報の内容を選択する
ことにより,そのスケジュールが処理装置に登録されるようにする。」
(2頁左上16行から右上1行)
(ウ)実施例
①「本発明が適用されたVTRにおけるテレビ放送の録画予約処理シ
ステムは,第1図に示すように,VTR制御部3,予約制御部4,操
作パネル5及びフロッピーディスク(以下FDという)装置6を有す
るVTR装置2と,ディスプレイ装置1とにより構成され,操作パネ
ル5は,カーソル移動キー16,モード切替スイッチ17,設定スイ
ッチ18及びテンキー19等を備えて構成されている。」(2頁左下
19行から右下6行)
②「VTR制御部3は,VTRの基本機能である録画,再生機能,1
週間分の番組の録画予約機能を含んでおり,録画開始,終了の日時と,
そのチャンネル情報とは,予約制御部4からセットされるものとする。
予約制御部4は,1週間分のテレビ放送のスケジュールが記録された
FDの内容をFD装置6から読出して,その内容をRGB信号ケーブ
ル7’を介してディスプレイ装置1に表示する。」(2頁右下14行
から3頁左上2行)
③「FD装置6にセットされるFDは,予め提供される1週間分の放
送スケジュールを記録しており,このFDに記録されている放送スケ
ジュールの内容を示すデータの論理フォーマットが第2図に示されて
いる。1日分のデータは,日付フィールド8,曜日フィールド8’に
続き,各チャンネル毎に時間フィールドと番組フィールドとにより記
録されている。1チャンネル分のフォーマットは,第2図の例では,
まず,チャンネルフィールド9−1により1CHの番組であることが
示された後,このフィールドに引続いて,時間フィールド10−1と
番組フィールド11−1との対のフィールドが,1日分の番組の数だ
け設けられて,番組スケジュールを示すように構成されている。次に,
第2チャンネルの1日分のスケジュールが,チャンネルフィールド9
−2に引続き,時間フィールド10−2と番組フィールド11−2と
の組が1日分の番組の数だけ設けられて示される。FD内には,番組
を提供している全てのチャンネルについて,その一週間分の番組が順
次前述と同様にフォーマットされたスケジュールとして記録されてい
る。」(3頁左上9行から右上9行)
④「前述のフォーマットにおいて,時間フィールド10−1,10−
2には,対応する番組フィールド11−1,11−2で示される番組
の開始及び終了時刻が記録されており,番組フィールド11−1,1
1−2には,一般的には番組名称と,必要に応じてその番組の概要が
記録されている。」(3頁右上10行から15行)
⑤「第3図には,このようにして表示された画面の一例が示されてお
り,FD内の日付フィールド8,曜日フィールド8’の情報は,日付
エリア12に,チャンネルフィールド9−1,9−2の情報は,チャ
ンネルエリア13−1,13−2に夫々表示され,番組フィールド1
1−1,11−2の情報は,時間フィールド10−1,10−2を表
示する時間エリア14に対応した番組エリア15に夫々表示される。
第3図に示す例では,19時∼23時における第1チャンネルと第2
チャンネルの番組表が表示されている。」(3頁左下15行から右下
4行)
⑥「録画予約を行おうとする操作者は,この表示画面の中に所望する
番組を見付け出すと,カーソル移動キー16を操作して,カーソルを
所望の番組に移動させる。カーソルは,その番組を表示しているエリ
ア全体の色を変える等により,その番組を選択していることを示すも
のであり,第3図では,カーソルは斜線であらわされていて,ニュー
スAが選択された状態を示している。」(3頁右下5行から12行)
⑦「前述の実施例は,1画面に2つのチャンネルの番組表を表示でき
るようにしたが,表示されるチャンネル数は,さらに多くてもよい。
また,例えば,1個のチャンネルのみとして,表示できる時間帯を多
くしてもよい。」(4頁左上2行から6行)
⑧「前述の実施例は,番組のスケジュールがフロッピーディスク等の
記録媒体により提供されるとしたが,番組の情報が通信手段を介して
直接VTRに提供されるようにしてもよい。」(4頁左上7行から1
0行)
⑨「前述の実施例は,本発明をVTR装置の録画予約を行うシステム
に適用したものであるが,本発明は,予め定められたスケジュールに
従って,提供される情報を処理するどのような情報処理システムにも
適用することができる。」(4頁左上17行から右上1行)
⑩また,図3には,番組スケジュールに含まれる番組の情報(時間,
チャンネル,番組名など)を,縦軸に時間,横軸にチャンネルを配す
る複数のチャンネルの番組表形式で,ディスプレイ装置1に表示して
いる一例が記載されている。
イ乙29発明
乙29文献には,上記のとおりの記載があり,上記ア②,⑤,⑩等の記
載から,乙29発明の予約制御部4は,番組の情報を複数の番組エリア内
に表示しており,縦軸に時間を,横軸にチャンネルをそれぞれ配する複数
チャンネルの番組表形式で,ディスプレイ装置1に,FDに記憶した番組
スケジュールに含まれる番組の情報を表示させるRGB信号を発生してい
るといえる。
また,乙29文献の上記ア②及び⑥等の記載から,乙29発明の予約制
御部4は,表示された番組の情報の一つを選択していることを示すために,
その番組を表示している番組エリア全体の色を変えるRGB信号を発生し
ているといえる。
さらに,乙29文献の上記⑦の記載から,乙29発明の予約制御部4が,
1画面に複数のチャンネルの番組表を表示するRGB信号を発生する構成
に代えて,1個のチャンネルのみの番組表を表示するRGB信号を発生す
る構成が示唆されているといえる。
なお,乙29発明では,FDに格納された番組のスケジュールが,ディ
スプレイ装置1に表示されることになるところ,このようにFDに記憶さ
れているデータをモニターに表示する際に,FDから読み出したデータを
いったんRAMに格納してからモニター表示に適した信号に変換して表示
する構成は,常套手段にすぎないから,乙29発明は,当該テレビジョン
番組に係る情報を,「RAMに記憶」しているということができる。
したがって,乙29文献の記載からすると,同文献に記載された乙29
発明は,以下のとおりのものと認められる。
「チャンネル,時間,番組名称等を含んでいる番組情報を,複数の番組
エリア内に表示し,縦軸に時間を,横軸にチャンネルをそれぞれ配する複
数チャンネルの番組表形式で,ディスプレイ装置1に,RAMに記憶した
番組情報を表示させるRGB信号を発生し,その表示された番組情報の一
つを選択していることを示すために,その番組を表示している番組エリア
全体の色を変えるRGB信号を発生する予約制御部4であって,1画面に
複数のチャンネルの番組表形式で表示する信号を発生する構成に代えて,
1個のチャンネルのみの番組表形式を表示する信号を発生する構成が示唆
されている予約制御部4」
ウ本件発明3と乙29発明の対比
(ア)本件発明3は,争いのない事実等で判示したとおりであり,これ
と乙29発明を対比すると,乙29発明の「チャンネル,時間,番組名
称等を含んでいる番組情報」は本件発明3の「テレビジョン番組リス
ト」に,乙29発明の「番組エリア」は本件発明3の「セル」に,乙2
9発明の「縦軸に時間を,横軸にチャンネルをそれぞれ配する複数チャ
ンネルの番組表形式」は本件発明3の「時間とチャンネルを軸とするグ
リッドガイド形式」に,乙29発明の「ディスプレイ装置1」は本件発
明3の「表示モニター」に,乙29発明の「RGB信号」は本件発明3
の「信号」に,乙29発明の「選択していることを示すため,その番組
を表示している番組エリア全体の色を変える」は本件発明3の「目立た
せる」に,乙29発明の「1個のチャンネルのみの番組表形式」は本件
発明3の「単一チャンネル形式」に,それぞれ相当することは明らかで
ある。
また,乙29発明の「予約制御部4」と,本件発明3の「マイクロプ
ロセッサ」とは,いずれも,制御手段である点で共通しているといえる。
(イ)したがって,本件発明3と乙29発明とは,「テレビジョン番組
リストを複数のセル内に表示する時間とチャンネルを軸とするグリッド
ガイド形式で表示モニターに,RAMに記憶したテレビジョン番組リス
トを表示させる信号を発生し,その表示されたテレビジョン番組リスト
の一つを目立たさせる信号を発生することを特徴とする制御手段」であ
る点で共通し,以下の点で相違する。
①相違点1
本件発明3は,信号を発生させるよう制御する制御手段として,プ
ログラムされたマイクロプロセッサを用いているのに対し,乙29発
明では,信号を発生させるよう制御する制御手段として,予約制御部
4とのみ記載されており,どのような内部構成を備えているかが明確
に開示されていない点
②相違点2
本件発明3は,グリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル形式
でその目立たされたテレビジョン番組リストを表示する信号を発生し
ているのに対し,乙29発明は,グリッドガイド形式でテレビジョン
番組リストを表示する信号を発生する構成の代わりに,単一チャンネ
ル形式でテレビジョン番組リストを表示する信号を発生する構成を備
えているかが明確に開示されていない点
(ウ)原告は,本件発明3と乙29発明の相違点を,「本件発明3にお
いては,『表示されたテレビジョン番組リストの一つを目立たさせる信
号を発生し,そしてグリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル形式
でその目立たされたテレビジョン番組リストを表示する信号を発生』す
るのに対し,乙29発明Cにおいてはこの点について記載がない」と主
張する。しかしながら,上記ア(ウ)に認定した乙29文献の記載によ
ると,同文献には,グリッドガイド形式で表示されるモニター画面上で,
所望する番組を見付け出すと,カーソルを所望の番組に移動させ,カー
ソルは,その番組を表示しているエリア全体の色を変えるなどして,そ
の番組を選択していることを示すことが開示されているから,乙29発
明は,「表示されたテレビジョン番組リストの一つを目立たさせる」構
成を有しているというべきである。したがって,原告の主張を採用する
ことはできない。
エ相違点1の検討
乙29発明の属する情報処理システムの技術分野において,制御のため
の信号を発生させる制御手段として,制御のための信号を発生するようプ
ログラムされたマイクロプロセッサを用いることは慣用技術にすぎないか
ら,乙29発明の予約制御部4として,プログラムされたマイクロプロセ
ッサを用いる構成を採用することも,当業者が容易に想到し得るものであ
る。
したがって,相違点1に係る本件発明3の構成は,当業者が容易に想到
できるといえる。
オ相違点2の検討
(ア)①a本件特許の優先権の主張日前である平成元年12月11日に
頒布された特開平1−306962号公報(乙30文献)には,以
下のとおりの記載がある。
「本発明は,…スケジュールの事柄に対して,その日時の管理を
行うことのできるスケジュール管理装置に関する。」(1頁左下2
行から同頁右下1行)
「時間の単位を細かくすると表示装置自体を大きくする必要があ
り,…携帯しづらくなってくる。」(2頁左上10行から14行)
「本発明は,…スケジュールの時刻を例えば時間単位で表示して
いるにも限らず,それより小さい単位で認識できるスケジュール管
理装置を提供するものである。」(2頁右上2行から5行)
「カレンダー機能は,モード選択キー16のカレンダーキー16
5を操作すれば,例えば第6図(a)のように1988年1月のカ
レンダー表示が表示装置2に行われる。」(3頁左下13行から1
7行)
「また,第6図(a)のカレンダー表示において,11日はカー
ソル位置を示し,その日を他の日より目立たせている。このカーソ
ルの位置は,カーソル移動キー13にて上下左右に自在に移動させ
ることができる。」(3頁左下20行から同頁右下5行)
「以上のようなスケジュールモードとは異なり,カレンダー表示
状態より,カレンダーキー165の操作により例えば第5図に示す
ようなスケジュール表示が行われる。例えば第6図(a)の表示状
態において,カレンダーキー165を操作すると,カーソルで指示
されている11日から1週間のスケジュール内容を第5図(a)に
示すように表示する。図に示されるように,日にちと曜日(頭文
字)及びその日のスケジュール内容を先頭より決められた文字数を
表示する」(4頁右上7行から16行)
b以上の記載から,乙30文献には,以下のような発明(乙30発
明)が記載されているといえる。
「スケジュール情報を表示する情報処理を行う装置であって,縦
軸に週を配し,横軸に曜日を配して,各日を表形式で表示し,カー
ソルで特定の日を選択してその日を目立たせるようにし,カレンダ
ーキーの操作により,その目立たされた日を含む1週間のスケジュ
ール情報を表示する装置」
②本件特許の優先権の主張日前である昭和62年3月17日に頒布さ
れた特開昭62−60377号公報(乙31文献)には,以下のとお
りの記載がある。
「本発明は,テレビ番組情報の表示機能を備えたテレビジョン受像
機に関する」(1頁右下2行から3行)
「次に番組メモリ16に記憶した番組表をCRT表示部3に表示す
る場合の動作について説明する。上記番組表の表示は,キーボード2
のキー操作により指定するが,表示させる番組表としては,第10図
に示すように,
①今後放送される全ての番組表。
②指定した日の1日分の番組表。
③指定ジャンル(種類)の今後放送される番組の一覧表。
④指定チャンネルの今後放送される番組の一覧表。
⑤指定曜日(間近の曜日)の1日分の番組表
⑥今,放送中の番組表。
を指定することができる。上記①∼⑥の番組表を表示させる場合,例
えば第10図に示すように,①については「番組表」キーのみの単独
操作D,②については「日付」の入力と「番組表」キーの組合わせ操
作E,③については番組の「種類」指定と「番組表」キーの組合わせ
操作F,④については「チャンネル」の指定と「番組表」キーの組合
わせ操作G,⑤については「曜日」指定と「番組表」キーの組合わせ
操作H,⑥については「放送中」キーの単独操作Iにより指定する。
キーボード2により上記番組表の表示指定操作が行われると,ビデオ
テックス制御装置25は,第11図∼第16図に示す処理を実行す
る。」(6頁左下14行から右下19行)
(イ)乙29発明と乙30発明の組合せ
①上記イ認定のとおり,乙29発明は,スケジュールを表示する情報
処理システムに係る発明であり,また,上記(ア)①認定のとおり,
乙30発明もスケジュールを表示する情報処理を行う装置であること
から,乙29発明と乙30発明とは,共通の技術分野に属していると
いえる。
原告は,乙29発明の技術分野は「テレビ番組の録画予約システ
ム」であり,乙30発明とは技術分野を異にすると主張するが,上記
のとおり,乙29発明は,実施例では,VTRにおけるテレビ放送の
録画予約処理システムが記載されているものの,当該特許請求の範囲
の記載から見て,スケジュール管理情報処理システムに係る発明であ
ることは明らかというべきであるから,原告の上記主張を採用するこ
とはできない。
②また,上記イ認定のとおり,乙29発明は,スケジュールを表示す
る情報処理システムに係る発明であって,番組スケジュールを表示す
る際に,1画面に複数チャンネルの番組表形式で表示する構成及び1
個のチャンネルのみの番組表形式を表示する構成が開示されており,
さらに,1個のチャンネルのみの番組表形式を表示することで表示す
る時間帯を多くする作用が得られること,すなわち,表示するスケジ
ュール情報の範囲を絞り込むことにより,限られた表示画面を有効に
利用して,より詳細なスケジュール情報を表示可能とすることが,乙
29文献に開示されているといえる。
そして,上記(ア)①認定のとおり,乙30発明も,スケジュール
情報を表示する情報処理を行う装置の発明であって,複数の週を含む
表形式でスケジュール情報を表示している際に,特定の日を選択して
目立たせるよう表示した上で,その目立たせた特定の日を含んだ1週
間のスケジュール情報を表示することにより,限られた画面を有効に
利用して,より詳細なスケジュール情報を表示可能とすることが開示
されているといえる。
③そうすると,乙29発明と乙30発明は,いずれもスケジュール情
報を表示する際に表形式で表示する機能を提供している点で,機能を
共通にするものであり,また,いずれにも,限られた表示画面を有効
に利用して詳細なスケジュール情報を表示する課題が示唆されており,
当該課題において共通するものである。
原告は,乙29発明と乙30発明について,極端に抽象化,上位概
念化した課題が共通することをもって組み合わせるのは不適切である
と主張するが,上記のとおり,乙29発明と乙30発明は,限られた
表示画面を有効に利用して詳細なスケジュール情報を表形式で表示す
るという限定的,具体的な課題において共通するといえるから,原告
の上記主張は採用できない。
④以上によれば,乙29発明と乙30発明とを組み合わせることは容
易であるといえる。
(ウ)上記(ア)①に認定したとおり,乙30発明には,1か月分のカ
レンダーの特定の日をカーソルで選択すると当該特定の日が含まれる1
週間のスケジュールが表示されるという技術が開示されているが,これ
を上位概念化すると,「縦軸と横軸からなる表示形式を,一方の軸の特
定の項目に着目して,特定の項目だけを表示する表示形式に切り替え
る」ことを可能とする実現手段が記載されているといえる。そして,こ
れを乙29発明に適用すると,「時間軸とチャンネル軸からなるグリッ
ドガイド表示形式を,一方のチャンネル軸に着目して,特定のチャンネ
ルだけを表示する単一チャンネル形式の表示形式に切り替える」ことに
なる。
(エ)また,上記(ア)②に認定したとおり,乙31文献には,キー操
作により,複数チャンネルの番組表をグリッドガイド形式で表示したり,
指定されたチャンネルの番組表を単一チャンネル形式で表示したりする
技術が開示されているから,グリッドガイド形式から単一チャンネル形
式への番組表の表示形式を変更する発想は,本件発明の優先権主張日前
から,周知技術であったといえる(そもそも乙29発明自体にも,前記
イのとおり,「1画面に複数のチャンネルの番組表形式で表示する信号
を発生する構成に代えて,1個のチャンネルのみの番組表形式を表示す
る信号を発生する構成」が示唆されていると認められる。)。
なお,原告は,乙31発明には,キー操作前後の表示画面が技術的に
何らリンクしておらず,複数のチャンネルの番組表から単一のチャンネ
ルの番組表へ切り替えることが記載されていないと主張するが,上記認
定の乙31文献の記載からすると,乙31発明では,キー操作により表
示画面を変えること,表示画面として①∼⑥の番組表を表示させること
ができることが開示されているから,複数のチャンネルの番組表①から
単一のチャンネルの番組表④に切り替えることも,乙31発明に開示さ
れているということができる。したがって,上記原告の主張は採用でき
ない。
(オ)そうすると,相違点2のうち「グリッドガイド形式の代わりに単
一チャンネル形式でその目立たされたテレビジョン番組情報を表示す
る」ことは,乙29発明,乙30発明及び乙31文献に記載された周知
の技術に基づいて,当業者が容易に想到し得るというべきである。
カ効果の検討
そして,本件発明3により得られる効果についても,乙29発明及び乙
30発明並びに乙31文献に記載の周知技術等から当業者が容易に想到し
得る範囲内のものにすぎない。
(2)したがって,本件発明3は,乙29発明及び乙30発明並びに乙31
文献に記載の周知技術等に基づいて,当業者が容易に発明できたものである
から,進歩性欠如(特許法29条2項違反)の無効理由を有する。
8よって,その余の点について判断するまでもなく,原告は,本件特許権に基
づき,イ号物件及びロ号物件に対して権利行使することができないといわざる
を得ない。
第4結論
以上により,原告の請求は,いずれも理由がないから棄却することとして,主
文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
清水節裁判長裁判官
菊池絵理裁判官
岩崎慎裁判官

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独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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