弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 抗告代理人猪野愈、同高橋正藏、同高島良一の抗告理由第一および同高橋正藏、
同猪野愈の抗告理由(補充)一ないし六について。
 所論は、要するに、本件救済命令は、抗告人に対して法律で許容された限度を超
える行為を命ずるものであり、また、一種の白地刑法である労働組合法三二条(二
八条)の白地を補充するものとしては、構成要件の合理性、明確性、特定性を欠く
ものであるとし、このことを前提として、右救済命令に従うべきものとする本件緊
急命令は罪刑法定主義を定めた憲法三一条、三九条、七三条六号に違反する、とい
うのである。
 しかし、労働委員会による不当労働行為の救済は、不当労働行為を排除し、申立
人に不当労働行為がなかつたと同じ事実上の状態を回復させることを目的とするも
のであるから、その目的のために必要である以上、労働委員会は、労働者が現実に
就労していた原状にもどすべきことを命ずることができ、また、さきになされた不
当労働行為が単なる一回性のものでなく、審問終結当時には、何らかの事情ですで
に解消されていても、ふたたび繰り返される虞れが多分にあると認められる場合に
おいては、不当労働行為制度の目的に照らし、その予想される将来の不当労働行為
が過去の不当労働行為と同種若しくは類似のものであるかぎり、労働委員会は、予
めこれを禁止する不作為命令を発することができる(最高裁昭和三五年(オ)第二
五五号同三七年一〇月九日第三小法廷判決・民集一六巻一〇号二〇八四頁)ものと
解すべきである。そして、このような救済命令の実効を確保するために、これに従
うべきことを命ずる緊急命令を発することも何ら妨げないものと解するのが相当で
ある。このような見地からすれば、原決定(その従うべきものとする本件救済命令、
以下同じ。)が、抗告人に対して法律で許容された限度を超える行為を命ずるもの
でないことは、明らかである。また、原決定が、所論のように構成要件の合理性、
明確性、特定性を欠くようなものでないことは、その主文自体から明らかである。
したがつて、所論違憲の主張は、その前提を欠くに帰し、特別抗告適法の理由とは
認められない。
 抗告代理人猪野愈、同高橋正藏、同高島良一の抗告理由第二について。
 所論は、緊急命令違反を理由とする処罰が非訟事件手続法の定めるところによつ
て行なわれるところから、本件緊急命令中抽象的な不作為を命ずる部分は、抗告人
から不当労働行為をしたか否かについて公開の審理による裁判を受ける権利を奪う
ものであつて、憲法三一条、三二条に違反する、という。
 しかし、緊急命令違反に対して過料を科するのは、労使間の法秩序維持のため、
労働組合法の規定に基づく命令によつて定められた公法上の義務を励行させること
を目的とするものであり、その作用は、実質において一種の行政処分としての性質
を有するものであつて、純然たる訴訟事件としての性質の認められるものではない。
そして、この点は、緊急命令が将来の不当労働行為を予め禁止するものであるから
といつて、異なるわけのものではない。緊急命令違反を理由とする過料を非訟事件
手続法の定めるところによつて科することにしているのが憲法三一条、三二条に違
反するものでないことは、当裁判所大法廷判例(昭和三七年(ク)第六四号同四一
年一二月二七日決定・民集二〇巻一〇号二二七九頁)の趣旨に照らして明らかであ
る。論旨は、採用することができない。
 よつて、本件抗告はこれを棄却することとし、抗告費用は抗告人の負担として、
裁判官全員の一致で、主文のとおり決定する。
   昭和四七年一二月二六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝

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