弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人田代博之、同床井茂、同中村時子共同作成名義の控訴
趣意書(被告人の控訴申立書を含む。)に、これに対する答弁は、検事作成名義の
答弁書にそれぞれ記載してあるとおりであるから、いずれもこれを引用し、これに
対して当裁判所は、つぎのように判断をする。
 弁護人らの論旨は、本件捜索差押許可状の執行は違法なものであつたから、かり
に被告人らが本件捜索差押を妨害したとしても正当防衛乃至過剰防衛に該当するも
のであると主張し、その根拠として、本件捜索差押に際し右許可状の呈示がなされ
なかつたとし、さらにかりに右呈示がなされたとしてもそれは極めて短時間、教育
も十分でなく、日本字も読めないAに対してなされたもので適法な呈示とはいえな
いものであり、しかも本件捜索差押は然るべき立会人による立ち会いを欠如してい
たものであるといらので、これらの点につき検討する。
 <要旨>まず、国税犯則取締法第二条による臨検、捜索差押許可状に基づいて当該
処分を執行するについて右許可状</要旨>を処分を受ける者に対し示す必要がある
かどうかについては、同法は刑事訴訟法第一一〇条(なお、同法第二二二条第一
項)のような明文の規定を欠いているので、これを根拠とし、消極の見解をとる裁
判例(昭和二六年九月一〇日名古屋高等裁判所判決、高裁刑集四巻一三号一七八〇
頁、昭和二六年一〇月一八日仙台高等裁判所判決、高裁判決特報二二号八〇頁)が
ないわけではないが、手続の公正を担保するため、刑事訴訟法の右各規定の趣旨を
推及し、右許可状は処分を受ける者に示すべきものと解するのが相当である(な
お、関税法第一二五条参照)。そこで、この点に関する本件証拠を調べてみるに、
原判決挙示の証拠中、裁判官作成の捜索差押許可状謄本二通、登記簿謄本二通及び
証人Bの証言に徴し、以下の事実を認定することができる。すなわち、東京国税局
査察部当局においては、かねがね原判示のCなる人物が代表取締役をしていたD有
限会社につき、同人の右役員在任期間中において法人税法違反の嫌疑ありとして内
偵中のところ、AはCの妻であり、しかもそれぞれ相手経営にかかる他の会社の監
査役の地位にあつたが、右両名が離婚したとの風評もあつたので、昭和四二年一二
月四日東京国税局収税官吏大蔵事務官Eにおいて東京簡易裁判所裁判官に対し、右
D有限会社の法人税法違反にかかる犯則事件につき、C、A両名に対し、それぞれ
その居宅等に対する捜索並びに差押の許可状計二通の発付方請求し即日同裁判所裁
判官石毛平蔵から右各許可状の発付を受けたこと、そこで東京国税局査察部におい
ては、同局国税査察官で統括官であるFが本件強制調査の主任となり、同じく同局
国税査察官で総括主査であるBが右各許可状を携行し、ほか数名の国税査察官とと
もに、翌一五日午前七時半ころ、原判示のC方に赴いたこと、同時刻ころ同人方玄
関において右BがAに対しCに対する許可状を示すとともに来意を告げCの在否を
尋ねたところ、同女はCは不在であるが自分はAである旨答えたので、さらに同女
に対する許可状を示したところ、同女から娘二人を通学のため家を立たせるまでの
時間の余裕が欲しいとの申し入れがあつたので、暫次執行を見合せることとし、そ
の間同家階下応接間(いわゆる水漕のある間)で待機したうえ、同日午前八時ころ
から一同捜索、差押に着手したが、その後の右執行の過程においてA、その他の在
宅者(記録によると、右娘二人のほか、女中のG、Hが居たことが認められる。)
が許可状の呈示がないこと等を理由として右捜索、差押を拒むような挙動に出るよ
うなことはなかつたこと、その後同日午前一〇時近くになつて二人の男性(被告人
以外の者)の訪問があり、一旦辞去したが再度訪問の際、Aが右両名と話し合いを
した後、右Bらに対し再度許可状の呈示方を要求したので同人において前記の、二
通の許可状を手交したところ、同女は階下応接間(いわゆる水槽のある間)の暖炉
の上にこれを置き、長女、Hとともにこれを見たらえ、やっぱり両方あると述べた
ことを認めることができ、右認定に反する原審証人Aの証言は事実経過の説明にお
いて具体性を欠く等措信するに足りない。ところで、所論は、Aは日本語を十分に
読解する能力を有しなかつたというが、原審で取り調べられた同女にかかる外国人
登録原票写しの記載によれば、同女の本邦入国は昭和一七年であり、右B証言、さ
らには、同女自身の原審証言によつても同女は日本語の会話に不自由を感ずる者で
なかつたことを窺うに足りるし、かりに日本語の読解力の点において欠けるところ
があつたとすれば、許可状の呈示を受けた際、同女において係官に対しその読み聞
けを求めるべきであつたのであり、本件においてそのような要請がなされたとの、
措信するに足りる資料の存在しない以上、呈示者たる右Bらが右読み聞けの手続を
とらなかつたからといつて、そのことをもつて直ちに違法と断定することはできな
い(なお、原判示が本件において再度の令状の呈示を要しないとする理由のなか
で、原判示指摘の者らが立ち入りを禁止ざれた根拠規定として刑事訴訟法第一一二
条第一項を掲げたのは、国税犯則取締法第九条を引用すべかりしものであつて明ら
かに誤まりと認められるが、もとより判決に影響を及ぼすほどのものではな
い。)。以上説示したところがらすれば、本件許可状の呈示は適法、有効になされ
ていたと認めるのが相当である。なお、附言するに、かりに、本件の場合、いわゆ
る処分を受ける者はCであつてAはこれに該当しないとの立場をとるとしても、C
が執行着手当時不在であつたと認められることは前記の通りであるから、同人に呈
示することは固より不可能であつたところ、同女が本件捜索、差押に法定の立会人
として立ち会つていることは後記のとおりであつて、このように処分を受ける者に
呈示不可能な場合には、立会人に呈示すれば足りると解し得るので、右立会人に対
して本件許可状の呈示がなされている以上、執行手続上の違法の問題を生ずる余地
はないものというべきである。
 結局、原判決が(弁護人の主張に対する判断)の項においてこの点に関し説示す
るところと当裁判所も見解を同じくするものであつて、本件許可状の呈示につき違
法の点があつたとする論旨は理由がない。
 つぎに、所論指摘の、本件許可状の執行に対する立ち会いの有無の点につき検討
するに、前記B証言によれば同家女中であるG、Hの両女はとにかくとして、成年
に達したAを法定の立会人としたことが明らかであり、そうだとすれば、本件にお
ける処分を受ける者が同女であれば、もとより国税犯則取締法第六条第一項所定の
立会の要件を充しているものというべく、仮りに処分を受ける者がCだとしても、
Aは同居の同人の妻と認められるので(仮に妻でないとしても、同女は右条項所定
の者のいずれかには該当する。)、これ又右条項所定の立ち会いの要件を充してい
るものというべく、これらの点並びに原判決挙示の昭和四三年三月一日付司法警察
員作成の検証調書中、添付の図面その三、その四の各記載並びに写真二二葉によつ
て窺われる、本件居宅の構造が、中型ともいうべき二階建て住宅(但し、三階に寝
室一室がある。)であつて、各階の部屋数も三乃至四の程度であること等に徴する
と、原判決がこの点につき立会人において執行がなされているあいだ、同一家屋内
にあつて随時その執行の状況を見ることができる(見よりと思えば見ることができ
るという意味に解せられる。)状態にあつた旨説示するところも優に肯認するに足
り、有効な立ち会いを欠いていたとする論旨も理由がない。
 これを要するに、本件捜索差押許可状の執行には何ら違法の点は認められないの
で、これが違法であつたことを前提とする弁護人らの主張は前提を欠き採るを得な
い。
 さらに、論旨は、かりに本件捜索差押許可状の呈示がなされたとしても、呈示と
いえるほどの実質はなかつたし、立ち会いもなかつたので、被告人は違法な職務執
行であると信じ、かつそう信じるにつき過失はなかつたから、事実の錯誤として犯
意を阻却すると主張する。しかし、本件捜索差押に所論のような違法の点がなかつ
たこと、とくに適法、有効な許可状の呈示がなされたことはすでに説示したとおり
であるし、本件記録によれば、被告人は本件許可状が呈示され適法に執行が開始さ
れてから約三時間を経過した時刻に本件現場に到着したものであり、右時点におい
てはすでに係官による差押物件に対する目録作成事務が進捗中であつたことが認め
られるので、右事実に被告人が原審公判廷において本件発生前どのような形で令状
の呈示がなされたかについては認識がなかつた旨供述していて、この点につき何ら
それを確める措置に出た事実を窺うに足りる資料もないことを考え合わせると、被
告人の認識の点に関する右主張は到底容認のかぎりではない。(なお、論旨は、原
判決の説示中、本件現場の状況下においては、本件捜索差押許可状の再度呈示の必
要を認めないとの点を捉え、再度の呈示は必要であつたのであり、本件国税査察官
らが右再度の呈示要求を拒否したことが本件現場の混乱、ひいて本件発生の原因で
あるとの趣旨を附陳するが、原判決のこの点に関する説示も記録に徴し優に肯認す
るに足り、所論は独自の見解で失当というのほかはない。)
 (その余の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 栗本一夫 判事 石田一郎 判事 藤井一雄)

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