弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人A、同Bに対する原判決(原審昭和四五年(わ)第七三号、七五
号事件)および原判決(原審同年(わ)第六四号、六五号事件)中被告人Cに関す
る部分、原判決(原審同年(わ)第六六号、第六八号、七一号、七二号、七四号事
件)中被告人D同Eに関する部分をそれぞれ破棄する。
     被告人Aを罰金三五、〇〇〇円に、
     同  Bを罰金三〇、〇〇〇円に、
     同  Cを罰金二〇、〇〇〇円に、
     同  Dを罰金三〇、〇〇〇円に、
     同  Eを罰金二〇、〇〇〇円に、
     各処する。
     被告人らにおいてその罰金を完納することができないときは同被告人ら
につきいずれも金一、〇〇〇円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置す
る。
         理    由
 (控訴の趣意)
 本件控訴の趣意は、福岡高等検察庁宮崎支部検察官検事荒井三夫提出、宮崎地方
検察庁検察官検事増田光雄作成名義の各控訴趣意書(三通)に記載のとおりである
から、これを引用する。
 (当裁判所の判断)
 検察官の控訴趣意第一点(法令の適用の誤りの主張)について、
 所論は要するに被告人らに対する各原判決は法令の適用にあたり、いせえびの不
法採捕、不法販売の各所為についてその罪数をそれぞれ包括一罪とし、且つ不法採
捕の所為と包括一罪である区域外無許可操業の所為とを一所為数法として法条を適
用したが、被告人らの本件採捕の各所為と本件販売の各所為はいずれも一回ごとに
一罪を構成し、包括一罪である無許可操業と各採捕は併合罪の関係にあると解すべ
きであるから、原判決は犯罪の個数についての法令の解釈適用を誤り、その誤りが
判決に影響を及ぼすことが明らかなものとして破棄を免れないというのである。
 よつて按ずるに罪数の確定は要するに具体的な事案の主観的な側面並びに客観的
な事実関係を確定し、それに当該法全体及び当該条項の目的、趣旨等を勘案して定
めるべき法律問題であると思料する。
 (採捕、販売の罪数)
 一、 そこで先づ本件事案の具体的な情況等につき記録ならびに証拠を精査して
検討するに、次の諸事実が認められる。
 1 被告人らはいずれもF漁業協同組合の組合員であつて固定式刺網漁業を営ん
でいるものであるが、同漁業は共同漁業権に基づき所定の海域で営むことになつて
おり、右海域以外で同漁業を営む場合には県知事の許可を受けなければならず且つ
宮崎県においては水産資源の保護培養を目的の一として宮崎県漁業調整規則(以下
規則という)を制定し、毎年四月一五日から八月三一日迄の期間保護水産物である
いせえびの採捕および採捕にかかるいせえびの所持、販売を禁止していることを熟
知し乍ら数回所定の海域外で固定式刺網漁業を営むとともにいせえびの採捕をした
こと。
 2 被告人らの本件採捕行為は各原判決別表記載のとおり、その期間および回数
自体漁業者のそれとして見た場合でも各回の行為は必ずしも近接した日時に連続的
に行なわれたものとは云い難く、採捕したいせえびは毎回その日かその翌日のうち
に料理店或は鮮魚仲買業者に持参して販売していたこと。
 3 被告人らの本件採捕の漁法は前日瀬に網を建て、翌日その網を揚げるという
式の固定式刺網漁法であり、出漁の都度網を建てる一回性のものであつて、定置漁
法とは異なること。
 4 いせえびの採捕禁止期間中は(イ)被告人Aはマキリ漁を行ない、その漁の
行き帰りを利用して本件いせえびの採捕をしていたこと(記録一九四丁乃至一九五
丁)、(ロ)同Bは引縄漁等を行ない、その漁獲が少ないのでついいせえびの採捕
をしたこと(同八一丁乃至八三丁)、(ハ)同Cは一本釣或は日傭労務者をしてい
て、その合い間にいせえびの採捕をしたこと(同一〇〇丁、一〇一丁)、(ニ)同
Dは引縄漁をしていたが、その合い間にいせえびの採捕をしたこと(同二二六丁乃
至二二七丁)、(ホ)Eは一本釣り漁をしていてその合い間にいせえびの採捕をし
たこと(同一三〇丁乃至一三一丁)。
 以上の諸事実を総合すると被告人らの本件各採捕=販売行為は当初から連続的に
行なういわゆる包括的犯意の発現された行為とは到底認め難い。
 二、 しかも規則第三五条第一項、第五六条第一項第一号において毎年四月一五
日から八月三一日までの間いせえびの採捕を禁止し、その違反に対し刑罰を科する
こととした趣旨は、同期間がいせえびの産卵期に当ることから漁業の許可を受けた
者なると否とを問わず何人の採捕をも禁じているもので、これは主として水産資源
の保護培養を図る目的で制定せられたものであつて、漁業生産に関する基本的制度
の制定、漁業調整機構の運用を目的とした漁業法に由来するというよりは、むしろ
水産資源の保護培養を目的とする水産資源保護<要旨第一>法に由来するものと考え
られるから、『同条項が禁止する採捕行為は、本来的に個々の行為であり、業態
(集合的)行為ではない。従つて、被告人らの本件各採捕行為は、い
ずれも各出漁毎にいせえびを採捕すると同時に既遂の状態に達し、その都度いせえ
びの保護培養に対する法益を侵害する結果を生ぜしめているものであつて、各採捕
行為全体を総合して初めて水産資源が侵害されたものと考えるべきではない。』
 三、 次に規則第三五条第二項において「前項の規定に違反して採捕した水産動
植物又はその製品を所持し、又は販売してはならない」旨規定しているが、その趣
旨は採捕につづく所持、販売をも並列的に禁止することによつて採捕の禁止を実効
あらしめんとしたものであり、ここに販売の意義は同規則が採捕行為について先に
二で説示したとおり行為者の身分ならびに反覆の意図等を問わず絶対的に禁止して
いる法意に即すれば、<要旨第二>『販売行為についても必ずしも職業犯的意図を有
するものに限る必要がなく、反覆累行される有償譲渡は勿論のこと、一
回限りの有償譲渡をも防遏する必要があることはいうまでもないので、右販売は単
なる「有償の譲り渡し」を意味するに過ぎないものと解す』べく、しかも本件の各
販売行為についてもそれがとりわけ包括的犯意のもとに行われたと認めるに足りる
証拠はないので、採捕行為が前述のとおりそれぞれ各別の意思の発現に出でたもの
である以上、その採捕にかかるいせえびをその都度販売する行為もまた各回別個の
意思の発現に基づくものであるとみるのが相当である。
 四、 そうすると被告人らの本件各採捕行為と各販売行為については、各採捕行
為はその採捕毎に一罪、各販売行為はその販売の都度、その回数毎に独立した一罪
を構成し、以上が刑法第四五条前段の併合罪の関係にあるものと解すべきであるの
に、各原判決がここに出でずに各採捕について包括一罪、各販売について包括一罪
をそれぞれ認め、両者を併合罪としたのは、罪数についての判断を誤り正当に法令
の解釈、適用をしなかつたことに帰しその誤りは判決に影響を及ぼすことが明らか
である。
 (無許可操業と採捕の関係)
 一、 被告人らの本件無許可操業の所為は、被告人らが有する共同漁業権の免許
に指定された各原判示別表記載の海域外において、宮崎県知事の許可を受けずに固
定式刺網業をなしたことによつて成立した職業犯であつて、これらはいずれも同一
人により多数回反覆して行なわれたものである点においてすべて包括一罪を構成す
るものであるが、被告人D、同B、同A、同Cの四名がそれぞれ単独で無許可操業
をした以外に他の共犯者と共謀して無許可操業をなしたのは前者と犯罪の主体、日
時、場所を異にし、別個独立の一罪を構成するものと解するのが相当である。
 二、 本来本件の無許可操業は、免許の指定区域以外において操業することを重
視して漁業調整上、その操業行為自体を禁止したもので、漁獲物が何であるかを問
わず成立する職業犯であるのに対し、いせえび採捕の罪は前記二で説示のとおり、
その禁止期間中は原則として何人に対しても漁場、漁法の如何を問わず水産資源保
護の見地から、その採捕行為を禁止しているものであつて、唯一回の採捕行為とい
えどもその完了と同時に既遂となるものである。
 <要旨第三>三、 従つて『いせえび採捕禁止期間中になされた無許可操業といせ
えびの不法採捕とは、たまたま漁法が固定刺網漁であつたという自然的
行為の面において重なり合つたにすぎず、両者はその立法趣旨、規制の対象、侵害
法益、犯罪の性格、態様並びに構成等を異にするものであるから、これらを純然た
る一個の行為であると法的に評価することはできず、両者は併合罪の関係にある』
ものと解するのが相当である。
 しからば各原判決がこれを一所為数法の関係にあるとしたのも法令の解釈、適用
を誤つており、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
 以上説示のとおり論旨は理由があるので、被告人Aおよび同Bに対する原判決な
らびにその余の被告人らに対する各原判決中関係被告人の部分は破棄を免れないの
で、量刑不当の論旨につき判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条、第三八〇条を適
用して、これらを破棄し、同法第四〇〇条但書により、次のとおり判決する。
 各原判決の適法に認定した被告人らの関係事実に法律を適用すると、被告人らの
判示所為中、共犯者と共謀して無許可操業をした点および単独で無許可操業をした
点(包括一罪)はそれぞれ宮崎県漁業調整規則第七条第九号、第五六条第一項第一
号(なお前者は刑法第六〇条)に、採捕の点はいずれも原判示別表の番号毎にそれ
ぞれ同規則第三五条第一項本文、第五六条第一項第一号に、販売の点は同様別表番
号毎にそれぞれ同規則第三五条第二項、第五六条第一項第一号に該当するので、い
ずれも所定刑中罰金刑を選択し、以上の被告人らの各所為はそれぞれ併合罪である
から、刑法第四五条前段、第四八条第二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内
において被告人らに対しそれぞれ主文掲記のとおり罰金刑に処し、被告人らにおい
て右罰金を完納することができないときは、同法第一八条によりそれぞれ金一、〇
〇〇円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置することとし、原審および
当審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項但書により被告人らに負担さ
せないこととして、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 淵上寿 裁判官 吉次賢三 裁判官 大西浅雄)

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