弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人A及び同B両名に関する部分を破棄する。
     本件公訴事実中公職選挙法違反の点につき右被告人両名を免訴する。
     被告人Aを懲役五月に、同Bを懲役一〇月にそれぞれ処する。
         理    由
 被告人A本人の上告趣意は、憲法違反の語を用いてはいるがその実質は事実誤認
の主張であり、被告人Bの上告趣意一は採証の法則違背、事実誤認の主張であり(
原判決が証拠として挙示するCの供述調書は、供述の任意性を欠き証拠能力がない
旨主張するけれども、この点については原審において主張、判断を経ていないばか
りでなく、第一審公判において被告人等が右供述調書を証拠とすることに同意して
いること記録上明らかであるから、上告審に至つて争うことは許されない)、同二
は、違憲をいう点もあるがその実質は事実誤認、量刑不当の主張を出でないもので
あつて、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 被告人等の弁護人小林為太郎の上告趣意第一点前段は分離前の相被告人Dの暴力
行為等処罰に関する法律違反の所為(第一審判決の判示第二)に適用された法条の
違憲を主張するものであり、同第一点後段並びに被告人等の弁護人植木敬夫の上告
趣意第一点は、いずれも分離前の相被告人Eの業務妨害の所為(第一審判決の判示
第三)は正当な争議行為であるのにこれを有罪と認めた原判決は憲法二八条に違反
するという趣旨のものであつて、すべて被告人A及び同B両名には関係のない論旨
であるから本件では判断を示さない。
 右弁護人小林為太郎の上告趣意第二点は違憲を主張する点があるけれども、第一
審判決が懲役刑の執行猶予を云い渡した場合に、控訴裁判所が検察官からの第一審
判決の量刑は不当であるとの控訴趣意に基き、第一審判決の量刑の当否を審査する
に当つては常に自ら事実の取調をしなければならないものではなく、訴訟記録及び
第一審において取り調べた証拠のみによつて、検察官の控訴を容れ、第一審の量刑
よりも被告人に不利益に変更しても刑訴四〇〇条但書の解釈を誤つたものというこ
とはできないこと、当裁判所の判例(昭和二七年(あ)第四二二三号、同三一年七
月一八日大法廷判決、集一〇巻七号一一七三頁参照)とするところである。従つて
所論違憲の主張はその前提を欠くものであり、その余の論旨は事実誤認、量刑不当
の主張であつて刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 右弁護人植木敬夫の上告趣意第二点は、訴訟法違反の主張であり(前記弁護人小
林為太郎の上告趣意第二点に対する判断のうち、刑訴四〇〇条但書の解釈の点参照)
同第三点は事実誤認と単なる法令違反の主張であり同第四点は、判例違反を主張す
るけれども所論の点については原審において主張判断を経ていないばかりでなく、
所論引用の判例は監禁の手段として脅迫が用いられた事案に関するものであつて、
事案を異にする本件には適切ではなく、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らな
い。
 ついで職権によつて調査するに、本件公訴事実中公職選挙法違反の点(第一審判
決の判示第四及び第五)については、昭和三一年政令三五五号大赦令一条一号によ
つて大赦があつたので、刑訴四一一条五号、四一三条但書、四一四条、四〇四条、
三三七条三号により主文一、二項のとおり破棄免訴し、更に原審の確定した被告人
両名の犯罪事実中大赦にかからない事実(第一審判決の判示第一)を法律に照すと、
監禁の点は刑法二二〇条一項、六〇条に、傷害の点は、同二〇四条、六〇条、罰金
等臨時措置法二条、三条にそれぞれ該当し、右は一個の行為にして数個の罪名に触
れる場合であるから刑法五四条一項前段、一〇条に則り最も重い傷害罪の刑に従い
所定刑中懲役刑を選択し、所定刑期範囲内で被告人Aを懲役五月に、同Bを懲役一
〇月にそれぞれ処すべきものとし、なお第一審における訴訟費用は刑訴一八一条一
項但書を適用して各被告人に対しこれを負担させないこととし、主文のとおり判決
する。
 この判決は弁護人小林為太郎の上告趣意第二点のうち刑訴四〇〇条但書の解釈に
関する部分並びにこれと同趣旨の弁護人植木敬夫の上告趣意第二点について、裁判
官小谷勝重、同河村大助の後記少数意見がある外は裁判官全員一致の意見によるも
のである。
 裁判官小谷勝重、同河村大助の少数意見は次のとおりである。
 原判決は第一審が本件被告人等に対して云渡した各執行猶予を附した懲役刑の判
決を破棄自判しそれぞれ懲役刑(実刑)を云渡したのであるが、記録によればその
手続は書面上の調査のみによつたのであつて、事実の取調を行つた形跡は認められ
ない。このように第一審の執行猶予を附した判決を第一審において破棄し自判によ
つてこれを実刑に改めるには自ら事実の取調を行うことを要し、さもなければ第一
審に差し戻すべきものである。この点において原判決は違法たるを免れないから破
棄すべきものである。
 本件公判出席検察官 安平政吉。
  昭和三二年五月三一日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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