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平成22年11月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成22年(行ケ)第10191号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年11月10日
判決
原告X
被告特許庁長官
同指定代理人野村亨
遠藤秀明
紀本孝
豊田純一
主文
1特許庁が不服2008−29743号事件につい
て平成22年5月10日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文1項と同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を下
記2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,同請
求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記
3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事
案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)出願手続(甲9)及び拒絶査定
発明の名称:「アルミニウム溶接用二波長レーザ加工光学装置およびアルミニ
ウム溶接用レーザ加工方法」(ただし,下記手続補正後のもの)
出願日:平成17年6月10日(平成12年1月13日原出願(特願2000
−4702号)の分割出願。甲11)
出願番号:特願2005−171326
手続補正日:平成19年7月27日付け(甲10)(本件補正)
拒絶査定日:平成20年10月9日
(2)審判手続及び本件審決
審判請求日:平成20年11月5日(不服2008−29743号事件)
拒絶理由通知日:平成21年9月8日(甲8)
意見書提出日:平成21年10月6日(甲6)
審決日:平成22年5月10日
本件審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
審決謄本送達日:平成22年5月28日
2特許請求の範囲の記載
本件審決が対象とした本件補正後の請求項1の記載は,以下のとおりである。
以下,請求項1に記載された発明を「本願発明」,本件出願に係る本件補正後の
明細書(特許請求の範囲につき甲10,その余につき甲9,10)を「本願明細
書」という。なお,「/」は,原文の改行部分を示す。
長波長と短波長の2つのレーザと,/前記2つのレーザの出力ビームを同軸の
光路に導いて重畳させる光学系と,/同軸の光路に重畳した前記2つのレーザの
出力ビームを被加工物上に集光する集光レンズとを備え,/前記光学系が,一方
のレーザの出力ビームを全反射し他方のレーザの出力ビームを透過させるダイク
ロイックミラーを備え,/前記被加工物がアルミニウムであり,/前記長波長の
レーザが,アルミニウム溶接加工用として用いられているYAGレーザであり,
/前記短波長のレーザが,アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,0.
8μm付近の発光スペクトルをもつ半導体レーザである/アルミニウム溶接用レ
ーザ加工光学装置
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本願発明は,下記アの引用例1に記載さ
れた発明(以下「引用発明1」という。)及び下記イの引用例2に記載された発
明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29
条2項の規定により,特許を受けることができない,というものである。
ア引用例1:特開昭62−289390号公報(甲3)
イ引用例2:FriedhelmDorsch他,2kWcwFiber-coupledDiodeLaser
System,PROCEEDINGSOFSPIE,Volume3889(45∼53頁)(甲4)
なお,本件審決は,引用例2は平成11年11月1日に頒布されたと認定した
が,実際には,本件原出願日である平成12年1月13日の後に頒布されたもの
であることは,当事者間に争いがない。
(2)本件審決は,その判断の前提として,引用発明1並びに本願発明と引用
発明1との一致点及び相違点を以下のとおり認定した。
ア引用発明1:長波長と短波長の2つのレーザと,/前記2つのレーザのレ
ーザビームを同一の光軸に重ね合わせるミラー等と,/同一の光軸に重ね合わさ
れた前記2つのレーザのレーザビームを被加工物である金属表面上に集光するレ
ンズとを備え,/前記ミラー等が,一方のレーザのレーザビームを全反射し,他
方のレーザのレーザビームを透過させるダイクロイックミラーを備え,/前記被
加工物がアルミニウムであり,/前記長波長のレーザが,YAGレーザであり,
/前記短波長のレーザが,エキシマレーザである/レーザ加工機
イ一致点:長波長と短波長の2つのレーザと,/前記2つのレーザの出力ビ
ームを同軸の光路に導いて重畳させる光学系と,/同軸の光路に重畳した前記2
つのレーザの出力ビームを被加工物上に集光する集光レンズとを備え,/前記光
学系が,一方のレーザの出力ビームを全反射し,他方のレーザの出力ビームを透
過させるダイクロイックミラーを備え,/前記被加工物がアルミニウムであり,
/前記長波長のレーザが,YAGレーザであり,/レーザ加工光学装置(なお,
本件審決は,「前記短波長のレーザが,エキシマレーザである」ことをも一致点
と認定したが,誤記と認める。)
ウ相違点1:本願発明では,YAGレーザを「アルミニウム溶接加工用とし
て用いられている」ものと特定し,また,レーザ加工光学装置を「アルミニウム
溶接用」としてその用途を特定しているのに対して,引用発明1では,YAGレ
ーザを特にアルミニウム溶接用とは特定していないし,また,レーザ加工機の用
途も,特にアルミニウム溶接用に特定していない点
エ相違点2:本願発明では,短波長のレーザが,「アルミニウムに対する反
射率が低い波長域である,0.8μm付近の発光スペクトルをもつ半導体レー
ザ」であるのに対して,引用発明1の短波長のレーザは,エキシマレーザであっ
て,波長0.8μm程度の半導体レーザではない点
4取消事由
相違点2についての判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
(1)原出願日の後に頒布された引用例2を引用した点について
ア引用例2は原出願より後に頒布されたものであるから,本件審決のうち,
引用例2に関係している部分は削除すべきである。
イ被告は,理由を差し替えて本件審決の結論に誤りはないと主張するが,本
件訴訟においては,本願発明の特許性の是非ではなく,本件審決に至る論点及び
内容が妥当か違法かを論ずるべきであり,本件審決で用いた論点以外の論点によ
る反論は,許されない。
なお,仮に本件審決における論点及び内容とは異なる新しい論点及び内容の導
入が認められるとしても,引用発明1の短波長レーザとして半導体レーザを採用
しても,引用例1で述べる短波長レーザの作用効果は得られないから,被告の主
張は成り立たない。
(2)本願発明及び引用発明1における各レーザのアルミニウムの溶融につい

ア本件審決が,引用発明1は「短波長レーザを金属表面に照射することによ
り,長波長レーザの吸収率を高くするものである」とした点は,上位概念で認定
しており,誤りである。引用発明1の短波長レーザは「アルミニウムを溶融」す
るものでなければならない。
本願発明の短波長レーザである半導体レーザは,ビーム・パラメータ積がYA
Gレーザに比べて当時は約一桁大きいから,本願発明及び引用例1の4図の構成
ではアルミニウムを溶融できないことは当時の当業者が常識として広く認識して
いたことであり(甲6,7),引用発明1の短波長レーザは単独でアルミニウム
の表面を溶かして長波長レーザのアルミニウムに対する吸収率を高め,本願発明
の短波長レーザである半導体レーザはアルミニウム表面の温度を溶融温度以下に
まで高めてアルミニウムの吸収率を高めるから,引用発明1と本願発明とでは短
波長レーザの作用と効果が異なる。
引用発明1の短波長レーザに,本願発明の短波長レーザである半導体レーザを
採用しても,引用例1で述べる短波長レーザの作用であるアルミニウムの溶融,
蒸発・プラズマ化作用を生じさせ得ない。
イ長波長レーザであるYAGレーザはアルミニウムを溶融しにくくこれを解
決するのが本願発明の技術課題であることは,本願明細書の【背景技術】と【発
明が解決しようとする課題】の項で述べられている。
引用例1の第4図及び本願発明の構成で,長波長レーザであるYAGレーザが
アルミニウムを溶融しにくい対物レンズのNAでは,当時の半導体レーザはビー
ムパラメータ積がYAGレーザに比べて約一桁大きいことから,本願発明で特定
していなくても,自動的に物理的な事実としてアルミニウムを溶融できないパワ
ー密度となる(甲6,7)。また,このことは当時の当業者に広く常識的に認め
られていた共通認識である。
ウ本件審決が,引用例1の短波長レーザを,アルミニウムを溶融するもので
あると認定しておきながら,引用発明1が短波長レーザ単独でアルミニウムを溶
融するものではないとするのは,引用発明1に対する認定に一貫性がない。仮に,
本件審決の上記部分を「引用発明1も本願発明も短波長レーザと長波長レーザを
重畳して最終的にアルミニウムを溶融するもので,短波長レーザ単独,長波長レ
ーザ単独でアルミニウムを溶融するものではない」との意味であると解釈した場
合は,これによって上申書(甲7)の原告の主張を採用しないのは,引用例1の
内容認定の誤りである。
〔被告の主張〕
(1)原出願日の後に頒布された引用例2を引用した点について
引用例2が本件出願後に頒布されたことは認めるが,相違点2に係る事項を当
業者が容易に想到し得たとする本件審決の判断に誤りはない。
本願明細書【0018】の記載によれば,本願発明が,相違点2に係る構成を
採用した技術的意義は,被加工物をアルミニウムとしたことに伴い,アルミニウ
ムの反射率が低い波長域の発光スペクトルを持つレーザを選択したというもので
あって,引用発明1において,吸収率の高い短波長レーザを用いることと技術的
意義を共通にするものである。
そして,アルミニウムに対する反射率が低い波長域が0.8μm付近にあるこ
とは周知である(乙1,2)という本件審決の認定事項に加え,0.8μm付近
の発光スペクトルをもつ半導体レーザは周知であること(乙3)を併せ考慮すれ
ば,引用発明1において,アルミニウムに対する反射率が低い波長域の短波長レ
ーザとして,0.8μm付近の発光スペクトルをもつ半導体レーザを採用するこ
とは,当業者が容易に想到し得たことである。
よって,引用例2の頒布日の認定に誤りがあるものの,相違点2に係る事項を
当業者が容易に想到し得たとする本件審決の判断は,結論において誤りはない。
(2)本願発明及び引用発明1における各レーザのアルミニウムの溶融につい

ア本願発明において,短波長である半導体レーザが単独ではアルミニウム表
面の温度を溶融温度以下にまでしか高めないものであることは,特許請求の範囲
にも本願明細書にも,全く記載がなく,また,それを示唆する記載さえも存在し
ない。
一方,原告の意見書(甲6)において記載しているように,YAGレーザ,半
導体レーザともにアルミニウムを溶融させることが可能な組合せであれば,半導
体レーザにおいて,アルミニウム表面を溶融させることは十分可能なものである。
したがって,本願発明において,短波長レーザである半導体レーザが単独では
アルミニウム表面の温度を溶融温度以下にまでしか高めないものであるという原
告の主張は,失当である。
イ本願明細書の【背景技術】,【発明が解決しようとする課題】の記載から,
本願発明において,YAGレーザのパワー密度がアルミニウムを溶融できないも
のであると記載されているものとすることはできない。そのほかに,本願明細書
及び特許請求の範囲に,本願発明においてYAGレーザのパワー密度がアルミニ
ウムを溶融できないものであるとする記載はなく,また,それを示唆する記載も
見当たらない。
したがって,本願発明において,YAGレーザのパワー密度がアルミニウムを
溶融できないものであるという原告の主張は失当である。
長波長であるYAGレーザが,アルミニウムに対するレーザの反射率が高く,
アルミニウムを溶融しにくいものであることは認めるが,上記のとおり,YAG
レーザ,半導体レーザともにアルミニウムを溶融させることが可能な組合せであ
れば,半導体レーザにおいて,アルミニウム表面を溶融させることは十分可能な
ものである。
ウ本件審決は,引用発明1について「短波長レーザ単独でアルミニウムを溶
融するものではない」としており,これは,原告の仮の解釈のとおり,「短波長
レーザ単独,長波長レーザ単独でアルミニウムを溶融するものではない」の意味
である。
一方,本願発明において,短波長である半導体レーザが単独ではアルミニウム
表面の温度を溶融温度以下にまでしか高めないものであると認定することができ
ないことは,上記のとおりである。
第4当裁判所の判断
1取消事由(相違点2の判断の誤り)について
(1)本件審決の判断
ア本件審決は,以下のとおり,相違点2に係る本願発明の事項は,引用発明
1及び引用例2に記載された発明に基づき当業者が容易に想到し得たことである
と判断した。
すなわち,本件審決は,①引用発明1は,短波長のレーザとして,吸収率の高
い波長のレーザ,すなわち,反射率の低いレーザを使用するものであるところ,
②アルミニウムにおいて反射率が低い波長域が0.8μm付近にあることは,乙
1に記載されているように従来周知の事項であり,また,③引用例2には,「波
長808nmの半導体レーザのビームと波長940nmの半導体レーザのビーム
とを同一の光軸上に重畳して,当該重畳されたレーザビームによりアルミニウム
をレーザ溶接する」点が記載されており,これによれば,相違点2に係る本願発
明の事項である「アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,0.8μm
付近の発光スペクトルをもつ半導体レーザ」が開示されていると認定した上,④
引用発明1と引用例2に記載された発明とは,長波長と短波長の2つのレーザビ
ームを被加工物上に集光するアルミニウム溶接用レーザ加工光学装置である点で
共通するとともに,引用例2に接した当業者であれば,波長808nmの半導体
レーザを短波長レーザの選択肢の一つとして考慮することに何らの困難性も見い
だせないから,⑤引用発明1のエキシマレーザに代えて引用例2に記載された
「波長808nmの半導体レーザ」を採用することについては,上記周知技術も
踏まえれば,十分な動機がある,と判断したものである。
イしかしながら,特許法29条2項は,「特許出願前にその発明の属する技
術の分野における通常の知識を有する者が同条1項各号に掲げる発明に基づいて
容易に発明をすることができたとき」は,特許を受けることができない旨を規定
しているのであって,同条1項3号に掲げる刊行物記載の発明すなわち引用発明
1に基づいて容易に発明をすることができたか否かは,特許出願時において判断
すべきはいうまでもないことであるから,本件原出願後に頒布されたものである
ことについて当事者間に争いがない引用例2に記載された事項を,引用発明1に
採用することによって,容易に発明をすることができたと判断した本件審決には,
特許法29条2項の適用を誤った違法があることが,明らかである。
(2)被告の主張について
ア被告は,引用例2が本件原出願後に頒布されたものであることを認めた上,
相違点2に係る本願発明の事項(アルミニウムに対する反射率が低い波長域であ
る,0.8μm付近の発光スペクトルを持つ半導体レーザ)は,引用発明1及び
乙1ないし3に記載された周知の事項に基づき当業者が容易に想到し得たことで
あるから,本件審決の結論に誤りはないと主張する。
しかしながら,本願明細書には,背景技術として,「金属が低い反射率を有す
る短波長のレーザビームを吸収することによって金属の表面の温度が上昇し,さ
らに加工されるとこの2つの現象の結果,この部分の反射率が低下するため重畳
された長波長のYAGレーザビームも容易に吸収されてレーザビームが効率よく
加工物に結合されることを利用したものである」こと(【0002】),「この
分野の最近の公知例…の場合,YAGレーザとKrFエキシマレーザを加工物の
同一所に集光して照射するもので,これら2つのレーザビームは別々のレンズで
集光され,水平面におかれた被加工物に対してYAGレーザビームは垂直にKr
Fエキシマレーザビームは垂直から45度傾けて照射される。このような従来技
術では,装置が大きくなり,さらに2つのレーザビームが集光された加工物の下
面では別々の光路を進み,別の箇所を照射するために2つのレーザの出力ビーム
の利用効率が低く,加工特性が良くないという問題があった」ことが記載され
(【0003】),本願発明が解決しようとする課題として,「以上で述べたよ
うな従来技術の欠点を除くために行われたものであり,2つのレーザの出力ビー
ムを同軸に重畳して被加工物に照射し,レーザビームの利用効率を高めて加工特
性を改善することを目的とする」ことが記載され(【0004】),本願発明の
効果として,「被加工物がアルミニウムであり,前記長波長のレーザが,アルミ
ニウム溶接加工用として用いられているYAGレーザであり,前記短波長のレー
ザが,アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,0.8μm付近の発光
スペクトルをもつ半導体レーザであるので,2つのレーザの出力ビームを被加工
物の同一の部位に照射することができ,レーザビームの利用効率が高く,加工性
がよい」(【0010】【0014】),「短波長レーザとしては半導レーザを
使用することができ,レーザのかわりにLEDを使用することもできる。被加工
物がアルミニウムである場合,0.8μm付近に反射率の低い波長域があるため,
0.8μm付近の発光スペクトルをもつ半導体レーザやLEDを選択することが
有利である。」(【0018】)等の記載がある。これらの記載によれば,本願
発明においては,相違点2に係る短波長レーザの構成が,課題解決のための本質
的な部分であると解される。
しかるところ,前記のとおり,本件審決は,引用例2に,相違点2に係る本願
発明の構成(アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,0.8μm付近
の発光スペクトルを持つもつ半導体レーザ)が開示されていると認定した上(前
記(1)ア③),引用発明1のエキシマレーザに代えて引用例2に開示された上記
半導体レーザを採用することが容易である(前記(1)ア④⑤)という論理を展開
したものである。
しかし,引用発明1における短波長レーザであるエキシマレーザは,アルミニ
ウムに対する反射率が低い波長域である,波長0.8μm付近の発光スペクトル
を持たない上に,半導体レーザとは異なる種類のレーザである(乙2,3)。こ
のようなエキシマレーザを,「アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,
0.8μm付近の発光スペクトルをもつ半導体レーザ」という,種類の異なる短
波長レーザに置き換える点の容易想到性を判断するに際し,引用例2に代えて周
知技術で置き換えるという理由の差替えを,審判段階ではなく,訴訟段階に至っ
てから特許庁の側が行うことは,審決に理由を付することを義務づけた特許法1
57条の趣旨にも反するものであり,許されないといわざるを得ない。
なお,審決取消訴訟において,審判の手続で審理判断された刊行物記載の発明
との対比における進歩性の有無を認定して審決の適法,違法を判断するにあたり,
審判の手続には現れていなかった資料に基づき当業者の特許出願当時における技
術常識を認定し,これによって同発明の持つ意義を明らかにすることは許される
としても(最高裁昭和54年(行ツ)第2号同55年1月24日第一小法廷判決
・民集34巻1号80頁参照),刊行物記載の発明と公知技術との組合せにより
容易に発明できたという理由を,技術常識の名の下に刊行物記載の発明から容易
に発明できたという理由に差し替えることが許されるとまで解することはできな
い。
イまた,被告は,乙1及び2にアルミニウムに対する反射率が低い波長域が
0.8μm付近にあることが記載され,乙3に0.8μm付近の発光スペクトル
を持つ半導体レーザが記載されていると主張する。
しかしながら,本件審決が認定するとおり,引用例2には,重畳された半導体
レーザビームによりアルミニウムをレーザ溶接する点が記載されているのに対し,
乙1ないし3には半導体レーザビームによりアルミニウムをレーザ溶接する点が
記載されていない上に,引用発明1と本願発明との相違点2に係る構成そのもの
(アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,0.8μm付近の発光スペ
クトルを持つ半導体レーザ)が,引用例2に開示されていることと,乙1及び2
にアルミニウムに対する反射率が低い波長域が0.8μm付近にあることが記載
され,乙3に0.8μm付近の発光スペクトルを持つ半導体レーザとがそれぞれ
別々に記載されていたこととは,等価とはいえないから,被告が主張するような
理由の差替えは,失当である。
(3)小括
以上のとおりであるから,相違点2に係る容易想到性については,特許庁にお
いて再度審理を行い審決をするべきであり,その余の点について判断するまでも
なく,取消事由は理由があるといわなければならない。
2結論
以上の次第であるから,本件審決は取り消されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官高部眞規子
裁判官井上泰人

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