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平成30年6月27日判決言渡
平成29年(行ケ)第10178号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成30年6月4日
判決
原告トライスターテクノロジーズ
訴訟代理人弁理士恩田誠
同恩田博宣
同中嶋恭久
同本田淳
被告エーザイ・アール・アンド・
ディー・マネジメント株式会社
訴訟代理人弁護士中野亮介
訴訟代理人弁理士稲葉良幸
同内藤和彦
同山田拓
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2016-800126号事件について平成29年5月23日
にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
(1)被告は,発明の名称を「経口投与用組成物のマーキング方法」とする発明
について,平成18年5月24日(優先日平成17年5月26日)を国際出願
日とする特許出願(特願2007-517849号。以下「本件出願」とい
う。)をし,平成25年8月16日,特許権の設定登録を受けた(特許番号第
5339723号。請求項の数22。以下,この特許を「本件特許」という。
甲16)。
(2)原告は,平成28年10月31日,本件特許について特許無効審判を請求
した(甲17)。
特許庁は,上記請求を無効2016-800126号事件として審理を行
い,平成29年5月23日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決
(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年6月2日,原告に送達
された。
(3)原告は,平成29年9月27日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提
起した。
2特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし22の記載は,以下のとおりで
ある(以下,請求項の番号に応じて,請求項1に係る発明を「本件発明1」,請
求項2に係る発明を「本件発明2」などという。)。
【請求項1】
経口投与用組成物へのマーキング方法であって,
変色誘起酸化物を経口投与用組成物に分散させる工程と,
前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させるように,波長が200n
m~1100nmであり,平均出力が0.1W~50Wであるレーザー光を,前
記経口投与用組成物の表面に走査させる工程と,
を含み,
前記変色誘起酸化物が,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からな
る群から選択される少なくとも1種であり,
前記走査工程が,80mm/sec~8000mm/secで実行される,
マーキング方法。
【請求項2】
前記走査工程が,単位面積当たりのエネルギーが,390~21000mJ
/cm2
で実行される,請求項1に記載のマーキング方法。
【請求項3】
前記レーザー光が,固体レーザーの波長,前記固体レーザーからの第二高調
波の波長,第三高調波の波長及び第四高調波の波長から選択される少なくとも
1種の光である,請求項1又は2に記載のマーキング方法。
【請求項4】
前記走査工程においてガルバノミラーを用いる,請求項1ないし3のうち何
れか一項に記載のマーキング方法。
【請求項5】
前記経口投与用組成物が,10~500Nの硬度を有する,請求項1ないし
4のうち何れか一項の記載のマーキング方法。
【請求項6】
前記経口投与用組成物が,成型物である,請求項1ないし5のうち何れか一
項に記載のマーキング方法。
【請求項7】
前記経口投与用組成物が,被覆層を有する,請求項1ないし5のうち何れか
一項に記載のマーキング方法。
【請求項8】
前記被覆層を有する組成物が,フィルムコート錠である,請求項7に記載の
マーキング方法。
【請求項9】
前記酸化チタンの配合量が,前記成型物又は前記被覆層100質量部に対し
て,0.01質量部~20質量部である,請求項6ないし8のうち何れか一項に
記載のマーキング方法。
【請求項10】
前記黄色三二酸化鉄又は前記三二酸化鉄の配合量が,前記成型物又は前記被
覆層100質量部に対して,0.001質量部~5質量部である,請求項6ない
し8のうち何れか一項に記載のマーキング方法。
【請求項11】
マークを施された経口投与用組成物の製造方法であって,
変色誘起酸化物を経口投与用組成物に分散させる工程と,
前記経口投与用組成物の表面に,前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変
色させるように,波長が200nm~1100nmであり,平均出力が0.1W
~50Wであるレーザー光を,前記経口投与用組成物の表面に走査させる工程
と,
を含み,
前記変色誘起酸化物が,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からな
る群から選択される少なくとも1種であり,
前記走査工程が,80mm/sec~8000mm/secで実行される,
製造方法。
【請求項12】
前記走査工程が,単位面積当たりのエネルギーが,390~21000mJ
/cm2
で実行される,請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記レーザー光が,固体レーザーの波長,前記固体レーザーからの第二高調
波の波長,第三高調波の波長及び第四高調波の波長から選択される少なくとも
1種の光である,請求項11又は12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記走査工程においてガルバノミラーを用いる,請求項11ないし13のう
ち何れか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記経口投与用組成物が,10~500Nの硬度を有する,請求項11ない
し14のうち何れか一項の記載の製造方法。
【請求項16】
前記経口投与用組成物が,成型物である,請求項11ないし15のうち何れ
か一項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記経口投与用組成物が,被覆層を有する,請求項11ないし15のうち何
れか一項に記載の製造方法。
【請求項18】
前記被覆層を有する組成物が,フィルムコート錠である,請求項17に記載
の製造方法。
【請求項19】
前記酸化チタンの配合量が,前記成型物又は前記被覆層100質量部に対し
て,0.01質量部~20質量部である,請求項16ないし18のうち何れか一
項に記載の製造方法。
【請求項20】
前記黄色三二酸化鉄又は前記三二酸化鉄の配合量が,前記成型物又は前記被
覆層100質量部に対して,0.001質量部~5質量部である,請求項16な
いし18のうち何れか一項に記載の製造方法。
【請求項21】
請求項11ないし20の何れか一項に記載の製造方法により製造された,マ
ークが施された経口投与用組成物。
【請求項22】
前記経口投与用組成物が,錠剤又はカプセル剤である,請求項21に記載の
経口投与用組成物。
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。その要旨は,
原告主張の無効理由1(特許法29条2項),無効理由2(同法36条6項1
号)及び無効理由3(同項2号)について,①本件発明1ないし22は,本件
出願の優先日前に頒布された刊行物である甲1に記載された発明に甲2及び
甲3に記載された技術を適用することにより,当業者が容易に発明をするこ
とができたものではなく,同法29条2項に該当しないから,原告主張の無
効理由1は理由がない,②請求項1ないし22の記載は,同法36条6項1
号に規定する要件(以下「サポート要件」という。)及び同項2号に規定する
要件(以下「明確性要件」という。)に違反するものではないから,原告主張
の無効理由2及び3も理由がないというものである。
甲1ないし3は,以下のとおりである。
甲1国際公開第02/068205号公報(訳文・甲1の1)
甲2特開平10-16390号公報
甲3米国特許第5,560,845号明細書(訳文・甲3の1)
(2)本件審決が認定した甲1に記載された発明(以下,このうち「マーキング
方法」の発明を「甲1発明ア」,「製造方法」の発明を「甲1発明イ」とい
う。),本件発明1と甲1発明アの一致点及び相違点,本件発明1と甲1発明
イの一致点及び相違点は,以下のとおりである。
なお,本件審決認定の上記各相違点については,当事者間に争いがない。
ア甲1発明ア
「薬品または食品をマーキングするマーキング方法であって,
官能基と金属化合物または酸とを含有し,レーザの放射により脱離反応
を起こすことで対比可能な色の,生理的に受容可能である反応物を生成す
る物質を薬品または食品に含有させ,
レーザビームを前記薬品または食品のマーキング領域に照射する,マー
キング方法。」
イ甲1発明イ
「マークを施された薬品または食品の製造方法であって,
前記薬品または食品の表面に,官能基と金属化合物または酸とを含有し,
レーザの放射により脱離反応を起こすことで対比可能な色の,生理的に受
容可能である反応物を生成する物質を薬品または食品に含有させ,
レーザビームを前記薬品または食品のマーキング領域に照射する,製造
方法。」
ウ本件発明1と甲1発明アの一致点及び相違点
(一致点)
「経口投与用組成物へのマーキング方法であって,
レーザー光の走査により変色する物質を経口投与用組成物に分散させる
工程と,
レーザー光の走査により変色する物質を変色させるように,平均出力が
0.1W~50Wであるレーザー光を,前記経口投与用組成物の表面に走
査させる工程と,
を含み,
前記走査工程が,80mm/sec~8000mm/secで実行され
る,マーキング方法。」である点。
(相違点1)
前記レーザー光の走査による変色の機序について,本件発明1は,「酸化
チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なく
とも1種」である「変色誘起酸化物」の「粒子を凝集させて」変色させるも
のであるのに対し,甲1発明アは,「官能基と金属化合物または酸とを含有
し,レーザの放射により脱離反応を起こす」ことで対比可能な色の,生理的
に受容可能である反応物を生成するものである点。
(相違点2)
レーザー光の波長について,本件発明1は,「200nm~1100n
m」と特定するのに対し,甲1発明アは,そのような特定事項を有しない
点。
エ本件発明1と甲1発明イの一致点及び相違点
(一致点)
「マークを施された経口投与用組成物の製造方法であって,
レーザー光の照射により変色する物質を経口投与用組成物に分散させる
工程と,
前記経口投与用組成物の表面に,前記レーザー光の照射により変色する
物質を変色させるように,平均出力が0.1W~50Wであるレーザー光
を,前記経口投与用組成物の表面に走査させる工程と,
を含み,
前記走査工程が,80mm/sec~8000mm/secで実行され
る,製造方法。」である点。
(相違点1)
前記ウの相違点1と同じ。
(相違点2)
前記ウの相違点2と同じ。
第3当事者の主張
1取消事由1-1(本件発明1の容易想到性の判断の誤り)
(1)原告の主張
本件審決は,相違点1に係る事項は当業者が容易になし得たものであると
いうことはできないから,他の相違点について検討するまでもなく,本件発
明1は,甲1に記載された発明に甲2ないし甲3に記載された技術を適用す
ることで当業者が容易に発明をすることができたものということはできない
旨判断したが,以下のとおり,誤りである。
ア相違点1の容易想到性の判断の誤り
(ア)甲1の開示事項
甲1には,「1種類以上の添加剤は紫外線や赤外線の放射に反応するも
のとすることができ,色の変化を生じさせるものであればいかなる適切
な物質も使用可能である。色の変化は,レーザエネルギを吸収した結果ま
たはレーザエネルギが熱エネルギに変換された結果,化学的ないし物理
的変化を伴う物質によるものとすることができる。」(甲1の4頁18~
22行・訳文【0016】)との記載がある。
レーザマーキングの当業者は,上記記載から,甲1記載のレーザマーキ
ング方法においては,「読みやすいマーキング」を施すという普遍的・恒
常的目的を達成するために適切なものであれば,「官能基と金属化合物ま
たは酸とを含有し,レーザの放射により脱離反応」を起こすなどの「化学
的変化」により色の変化を生じさせる物質でも,凝集などの「物理的変化」
により色の変化を生じさせる物質のいずれでも,使用可能であることを
理解するというべきである。
なお,甲1には,次のとおりのレーザマーキング方法の発明(以下「原
告甲1発明ア」という。)の記載がある。
「錠剤または丸薬であり,基材は薬剤を含有する薬品または食品へのマ
ーキング方法であって,
マーキング可能な追加成分の分散系を含むコーティング組成物を作成
する工程と,
レーザエネルギを加えた際に色が変化する特定の物質を変色させるよ
うに,
波長が例えば,10,600nmであり,
出力が7Wである
レーザー光を,前記薬品または食品の表面に走査させる工程と,
を含み,
前記レーザエネルギを加えた際に色が変化する特定の物質が,Fe2
O3(三二酸化鉄)を含み,
前記走査工程が,1000mm/秒で実行される,マーキング方法。」
(イ)甲2及び甲3の開示事項
甲2の記載事項(請求項1,【0003】,【0005】,【0006】,
【0010】)によれば,甲2には,「紫外線に対し光活性な充填剤が,
二酸化チタンや酸化第二鉄からなる群から選択される少なくとも1種」
である「レーザーマーキング方法」の記載があり,二酸化チタンに紫外線
レーザを照射すると変色してレーザマーキングをすることができること
の開示がある。
甲3の記載事項(訳文3頁8行~17行,4頁26行~5頁9行,19
頁4行~9行)によれば,甲3には,二酸化チタンに紫外線レーザを照射
すると,「凝集」により変色してレーザマーキングをすることができるこ
との開示がある。
そうすると,甲2及び甲3には,レーザー光の走査により粒子を凝集さ
せて変色する二酸化チタン(相違点1に係る本件発明1の構成)の開示が
あるというべきである。
(ウ)甲2及び甲3に記載された技術を適用することの容易想到性
a甲1に記載された発明と甲2及び甲3に記載された発明は,レーザ
ー光線によるマーキング方法の発明で,マーキング対象に応じて「最適
なマーキング」をすることを課題とする点で,発明が共通し,技術分野,
当業者及び課題が同一である。
bまた,本件出願の優先日当時,二酸化チタンを分散させてレーザを照
射してマーキングすることは,周知慣用技術であったこと(例えば,甲
2~5,13),「二酸化チタン」や「三二酸化鉄」を「経口投与用組
成物」に用いることが技術常識であったこと(例えば,甲12),二酸
化チタンを分散させて紫外線レーザでマーキングする方法の対象が経
口投与用組成物に限定されないことは周知であったこと(例えば,甲
4)が認められる。
cそして,甲1には,甲1記載のレーザマーキング方法においては,
「読みやすいマーキング」を施すという普遍的・恒常的目的を達成する
ために適切なものであれば,「官能基と金属化合物または酸とを含有
し,レーザの放射により脱離反応」を起こすなどの「化学的変化」によ
り色の変化を生じさせる物質でも,凝集などの「物理的変化」により色
の変化を生じさせる物質のいずれでも,使用可能であることの開示が
あることは,前記ア(ア)のとおりである。
d以上を総合すると,甲1ないし甲3に接した当業者においては,甲1
発明アあるいは原告甲1発明アにおいて,レーザー光の照射(走査)に
より変色する物質を,「官能基と金属化合物または酸とを含有し,レー
ザの放射により脱離反応を起こすことで対比可能な色の,生理的に受
容可能である反応物を生成する物質」(原告甲1発明アでは「Fe2O
3(三二酸化鉄)を含む特定の物質」)から,甲2及び甲3に開示され
たレーザー光の走査により粒子を凝集させて変色する二酸化チタン
(相違点1に係る本件発明1の構成)に置換することは,「読みやすい
マーキング」を施すという普遍的・恒常的目的を達成するために,適宜
なし得る設計的事項であって,容易に想到することができたものであ
る。
したがって,本件審決における相違点1の容易想到性の判断には誤
りがある。
イ相違点2の容易想到性
前記ア(ア)の甲1の記載事項(訳文【0016】)によれば,甲1では,
レーザマーキングの条件は,赤外線,紫外線を問わず広範な波長の範囲で
検討され,相互に転用が可能なものとして検討されている。また,甲2の記
載事項(【0002】,【0003】)によれば,甲2では,特にマーキン
グの困難なポリアセタール樹脂において適切なマーキングを行うためのレ
ーザマーキングの条件は,異なる機序の変色をも対象として,広い範囲で
検討され,その波長も赤外線,紫外線に限定して検討されているものでは
なく,相互に転用が可能なものであることが前提として検討されている。
そして,レーザマーキングの当業者においては,レーザマーキングの対
象,添加物が変われば,それに応じて広い範囲で「レーザー光の最適化」を
行うことは,設計的事項であり,何ら困難性がなく,また,「好適なレーザ
マーキング」を行うために「レーザー光の最適化」を行う普遍的な動機付け
がある。
そうすると,当業者においては,甲1発明アあるいは原告甲1発明アに
ついて,「レーザー光の最適化」の見地から,レーザー光の波長を「200
nm~1100nm」の範囲のいずれかの構成(相違点2に係る本件発明
1の構成)のものを採用することを容易に想到することができたものであ
る。
ウ小括
以上によれば,本件発明1は,甲1に記載された発明に甲2及び甲3に
記載された技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることが
できたものであるから,これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(2)被告の主張
ア相違点1の容易想到性の判断の誤りの主張に対し
本件審決がした甲1発明アの認定に誤りはない。
そして,本件審決のとおり,甲2及び甲3は,相違点1に係る本件発明1
の構成に係る「変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させる」技術を開
示するものではないから,甲1ないし甲3から相違点1が容易想到である
ということはできない。
もっとも,甲3には,二酸化チタンの凝集に関し,「本発明に従い,Ti
O2
顔料を溶融加工可能フルオロポリマーと一緒に溶融コンパンド化する
と,このTiO2
顔料は白色外観を与えるが,特徴としてまた凝集物がいく
らか存在することを見い出した。」(訳文4頁末行~5頁3行)との記載が
あるが,この記載は,TiO2の凝集は,溶融加工可能フルオロポリマーと
一緒に溶融コンパンド化することにより生じることを説明するものであり,
この記載から,当業者が「二酸化チタンに紫外線レーザを照射すると凝集
により変色してレーザマーキングすることができる」という知見を有して
いたと認めることはできない。また,甲3における「TiO2の凝集」は,
経口投与用とはいえない,溶融加工可能フルオロポリマーを必須の成分と
するものであるから,薬品又は食品といった経口投与用組成物のマーキン
グ方法に関する甲1発明アに甲3に記載された技術を適用することには無
理がある。
したがって,本件審決における相違点1の容易想到性の判断に誤りがあ
る旨の原告の主張は,理由がない。
イ相違点2の容易想到性の主張に対し
相違点2の容易想到性に関する原告の主張には,甲1の記載(訳文【00
16】)及び甲2の記載(【0002】,【0003】)から,甲1記載の
炭酸レーザ(CO2レーザ)の波長10600nmを「200nm~110
0nm」の波長(相違点2に係る本件発明1の構成)とすることが可能であ
ることについて,具体的な根拠や論理付けが示されていない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
ウ小括
以上によれば,本件発明1は,甲1に記載された発明に甲2及び甲3に
記載された技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることが
できたものではないとした本件審決の判断に誤りはない。
2取消事由1-2(本件発明2ないし10の容易想到性の判断の誤り)
(1)原告の主張
本件発明2ないし10は,請求項1を直接又は間接的に引用し,本件発明
1の発明特定事項を含むところ,前記1(1)のとおり,本件審決のした本件発
明1の容易想到性の判断に誤りがある以上,本件発明2ないし10は,甲1
に記載された発明に甲2及び甲3に記載された技術を適用することにより,
当業者が容易に発明をすることができたものといえないとした本件審決の判
断も誤りである。
(2)被告の主張
原告の主張は争う。
3取消事由1-3(本件発明11の容易想到性の判断の誤り)
(1)原告の主張
本件審決は,相違点1に係る事項は当業者が容易になし得たものであると
いうことはできないから,他の相違点について検討するまでもなく,本件発
明11は,甲1に記載された発明に甲2及び甲3に記載された技術を適用す
ることで当業者が容易に発明をすることができたものということはできない
旨判断した。
しかし,前記1(1)で述べたのと同様の理由により,本件審決の上記判断は
誤りである。
なお,甲1には,次のとおりの発明(以下「原告甲1発明イ」という。)の
記載がある。
「マークが施された錠剤または丸薬であり,基材は薬剤を含有する薬品ま
たは食品の製造方法であって,
マーキング可能な追加成分の分散系を含むコーティング組成物を作成する
工程と,
レーザエネルギを加えた際に色が変化する特定の物質を変色させるように,
波長が例えば,10,600nmであり,
出力が7Wである
レーザー光を,前記薬品または食品の表面に走査させる工程と,
を含み,
前記レーザエネルギを加えた際に色が変化する特定の物質が,Fe2
O3
(三
二酸化鉄)を含み,
前記走査工程が,1000mm/秒で実行される,製造方法。」
(2)被告の主張
原告の主張は争う。
4取消事由1-4(本件発明12ないし22の容易想到性の判断の誤り)
(1)原告の主張
本件発明12ないし22は,請求項11を直接又は間接的に引用し,本件
発明11の発明特定事項を含むところ,前記3(1)のとおり,本件審決のした
本件発明11の容易想到性の判断に誤りがある以上,本件発明12ないし2
2は,甲1に記載された発明に甲2及び甲3に記載された技術を適用するこ
とにより,当業者が容易に発明をすることができたものといえないとした本
件審決の判断も誤りである。
(2)被告の主張
原告の主張は争う。
5取消事由2(サポート要件の判断の誤り)について
(1)原告の主張
アまず,本件出願の願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「本件明細
書」という。)の発明の詳細な説明には,本件審決が指摘するレーザー光走
査条件の実施例の記載があるが,請求項1及び11記載の波長(200n
m~1100nm),平均出力(0.1W~50W)及び走査工程の走査速
度(80mm/sec~8000mm/sec)の全ての数値範囲におい
て「前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させる」という所定の効
果を奏することについての記載がないし,実際に「凝集」しているかどう
か,本件明細書の記載からは不明である。
この点について,本件審決は,TEM写真である図4から,変色誘起酸化
物である酸化チタンが凝集しているように見て取れる旨判断した。
しかしながら,甲10(日本酸化チタン工業会作成の講演資料のウェブ
ページ)の9頁には,180nm,270nm,700nm,1000nm
の「サブミクロンサイズ酸化チタン=顔料級酸化チタン」の写真について,
「上記の写真は,TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて撮影したものであ
り,実際の粒子の凝集状態を示すものではない。」との記載があることに照
らすと,TEM写真から酸化チタンが凝集しているかどうかを判別するこ
とができないのが技術常識であることがうかがえるから,本件審決の上記
判断は誤りである。
また,仮にTEM写真である図4から,変色誘起酸化物である酸化チタ
ンが凝集していることが読み取れるとしても,本件明細書の記載からは,
請求項1及び11記載の波長,平均出力及び走査工程の走査速度の全ての
数値範囲において酸化チタンが凝集していることは不明である。
イ次に,請求項2及び12は,それぞれ請求項1及び請求項11を発明特
定事項として引用するものであるところ,本件明細書には,単にマーキン
グが「前記走査工程が,単位面積当たりのエネルギーが,390~2100
0mJ/cm2
で実行される」ことが記載されているだけであり,「凝集」
を生じたことについての実施例の裏付けがないため,単位面積当たりのエ
ネルギーの上記数値範囲で「前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色
させるように」(請求項1及び11の構成)マーキングができるかどうか不
明である。
ウ以上によれば,本件発明1ないし22は,本件明細書の発明の詳細な説
明に記載したものといえないから,請求項1ないし22の記載はサポート
要件に違反するものではないとした本件審決の判断には誤りがある。
(2)被告の主張
ア本件明細書記載の実施例1ないし16は,表1,表3又は表4のレーザ
ー装置及び照射条件でマーキングを行ったものであり,このうち,表1の
レーザー装置及び照射条件でのマーキングについて,レーザー照射前後の
二酸化チタンの粒子の状態を透過型電子顕微鏡(TEM)により観測した
結果,レーザー照射後に二酸化チタンの粒子が凝集していることが確認さ
れた(【0057】~【0059】,図3,図4)。表1の照射条件(波長
355nm,平均出力8W)と表3(波長266nm,平均出力3W)及び
表4(波長532nm,平均出力12W)の照射条件とを比較すれば,表1
の照射条件下だけでなく,表3及び表4の各照射条件下でのレーザー照射
によるマーキングにおいても,二酸化チタンの粒子が凝集することにより
変色していることは,当業者であれば当然に認識し得るものである。
そして,本件明細書の発明の詳細な説明に接した当業者であれば,本件
明細書記載の各実施例は,請求項1及び11の規定する波長(200nm
~1100nm),平均出力(0.1W~50W)及び走査工程の走査速度
(80mm/sec~8000mm/sec)の数値範囲において,「医薬
品や食品等の経口投与用組成物の表面に,識別性マークを施す方法」にお
ける具体的な代表例として示されているものであって,各実施例記載の結
果を踏まえれば,上記の各数値範囲内において,特定の変色誘起酸化物を
凝集させることに起因した変色が生じさせることができるであろうと,十
分に理解できるものである。同様に,「走査工程」の「単位面積当たりのエ
ネルギーが,390~21000mJ/cm2
」(請求項2及び12)の範
囲内において,特定の変色誘起酸化物を凝集させることに起因した変色を
生じさせることができるであろうと,十分に理解できるものである。
イこの点に関し,原告は,甲10の9頁の記載等を根拠として,TEM写真
から二酸化チタンが凝集しているかどうかを判別することができないのが
技術常識である旨主張する。
しかし,原告が指摘する甲10の9頁に記載された二酸化チタンの写真
については,どのような処理がされた,どのような状態の二酸化チタンに
関するものかの記載がなく,撮影の対象物の詳細は不明であるから,二酸
化チタンの粒子の凝集状態をTEM写真で確認できないことの根拠にはな
り得ない。また,甲10の9頁の「実際の粒子の凝集状態を示すものではな
い」との記載については,当該記載の前半部分の「上記の写真は,TEM
(透過型電子顕微鏡)を用いて撮影されたものであり,」との記載からも明
らかなように,単に写真の内容を説明しているものであり,TEMを用い
て撮影された写真では二酸化チタンの凝集を判断できないといった一般的
な説明ではない。他方で,甲3には,「このような凝集物は裸眼で見ること
ができず,溶融加工組成物の断面を高光学倍率で観察すると,そのいくつ
かは観察可能であるが,大部分は,電子顕微鏡の倍率下でのみ検出可能で
ある。」(訳文5頁3行~5行)との記載があり,高光学倍率の電子顕微鏡
であれば凝集の観察自体はできることが開示されている。また,甲3記載
の実施例(例えば,実施例11)においては,TEMを用いて「TiO2の
凝集」を確認したことの記載がある。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
ウ以上によれば,本件発明1ないし22は本件明細書の発明の詳細に記載
されたものであるから,本件審決の判断に誤りはない。
6取消事由3(明確性要件の判断の誤り)について
(1)原告の主張
本件審決は,本件発明1及び11(請求項1及び11)は,いずれもレーザ
ー光の走査工程におけるエネルギー密度,レーザー光の繰り返し率,レーザ
ースポット径,経口投与用組成物の種類,変色誘起酸化物の分散の濃度及び
状態などの条件を特定するものではなく,上記条件はマーキングする際の任
意の条件であって,これらを特定しないことで発明が不明確になるというも
のではないから,本件発明1ないし22は不明確であるとはいえず,請求項
1ないし22の記載は,明確性要件に違反するものではない旨判断した。
しかしながら,上記条件を「マーキングする際の任意の条件」とすれば,変
色誘起酸化物が受けるエネルギー量を特定することができず,その結果,請
求項1記載の波長,平均出力及び走査工程の走査速度の数値範囲においても,
「前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色」する場合としない場合が生
じることとなり,本件発明1の外縁を定義することができない。
したがって,本件発明1は不明確であり,同様に本件発明2ないし22も
不明確であるから,本件審決の上記判断は誤りである。
(2)被告の主張
請求項1及び11には,レーザー光の波長,平均出力及び走査工程の走査
速度について,いずれも上限値及び下限値が記載されており,本件発明1及
び11の外縁は明確である。
したがって,本件発明1ないし22は明確であるから,本件審決の判断に
誤りはない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1-1(本件発明1の容易想到性の判断の誤り)について
(1)本件明細書の記載事項等について
ア本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,前記第2の2のとお
りである。
本件明細書(甲16)の「発明の詳細な説明」には,次のような記載があ
る(下記記載中に引用する「図1,図3及び図4」及び「表1,表3及び表
4」については別紙1を参照)。
(ア)技術分野
【0001】
本発明は,医薬品や食品等の経口投与用組成物の表面に,識別性マー
クを施す方法に関する。
(イ)背景技術
【0002】
錠剤やカプセル剤等の経口投与用医薬組成物は,医薬品の調剤行為や
服薬ミスを未然に防止するため,包装容器だけでなく,製剤それ自体に
も識別性が要求されている。しかし,錠剤やカプセルの形状,色調だけで
は識別性には限界があるため,さらに錠剤やカプセル剤の表面にマーク
を施し識別性を高めている。例えば,フィルムコート錠やカプセル剤の
表面に,直接,ゴムローラーを用いて文字等を印刷する転写式印刷,もし
くはインクをドット印刷するインクジェット印刷である。あるいは,裸
錠の場合は,凹凸を施した打錠杵で製錠することにより刻印する方法が
古くから行われてきた。
【0003】
しかしながら,これらの古典的方法,例えば,転写式印刷法では,錠剤
やカプセルの表面状態や,印字する場所の雰囲気等の影響を受けやすく,
明瞭な印字を安定して施すためには管理が非常に煩雑である。また,イ
ンクジェット印刷法では,インク液の乾燥が不十分であると,錠剤の汚
れや印字のにじみ等を生じ,外観品質にも影響を与える場合がある。さ
らに,刻印法では,錠剤やカプセル剤が球面を有している場合が多いた
め,錠剤表面での印字できる範囲,あるいは印刷できる文字数や大きさ,
もしくは図形形状には限りがあり,識別性のための情報量は必ずしも十
分ではなかった。同様に,刻印法では,製品ごとに専用の杵を用意しなけ
ればならない。くわえて,刻印の形状によっては,スティッキング現象が
生じやすく刻印部が欠損したり,また,製錠後の工程においても,刻印部
が摩損し,外観検査での不良率の上昇等の原因となる場合もある。ある
いは,流通過程で欠損し,識別性の低下のみならず品質にも影響を与え
る可能性もあった。
【0004】
そこで,印刷法や刻印法に代替する方法として,パターンマスクを介
して出力の小さなレーザー光を照射することにより錠剤及びカプセル剤
にマーキングする方法が開示されている(例えば,特許文献1参照)。ま
た,水中で速やかに崩壊しやすい錠剤表面の一部をレーザーで蒸発させ
ることにより食刻する方法,さらに,その食刻部をインクジェット法に
よりインクで印刷する方法が開示されている(例えば,特許文献2参照)。
(ウ)発明が解決しようとする課題
【0005】
しかしながら,特許文献1のように,パターンマスクを用いて陰影を
付与する場合は,パターンマスク周縁部,つまり,レーザー光の照射部位
と非照射部位の境界部のコントラストが不明瞭になりやすく,特にマー
キング部位が球面を有する錠剤やカプセルの場合は顕著であった。また,
製品毎にパターンマスクを予め加工しなければならず,しかも,その加
工にあたっては,精度の高い加工技術が必要である。さらに,マーク形状
や大きさ等にも限界があり,十分な情報量を付加してマーキングするこ
とができない。
【0006】
一方で,特許文献2のように,レーザー光を利用して錠剤表面を削る
方法では,フィルムコート錠や糖衣錠等の本来の防湿や遮光,もしくは
苦味マスキング等の機能を損なうことになる。また,コーティングがさ
れていない錠剤の場合は,食刻に伴う薬物の含量低下の懸念があり,あ
るいは食刻部が錠剤欠損の引き金になる可能性もある。さらに,食刻部
位は必ずしも鮮明ではないため,さらにインクで印刷する必要があり,
結局,古典的な印刷法と同様の問題点が生じている。
【0007】
そこで,従来のマーキング方法とは異なり,医薬品や食品のような経
口投与用組成物等の品質を損なわずに優れた識別性を有する経口投与用
組成物を得ることができ,かつ,生産性にも優れたマーキング方法の開
発が切望されている。
(エ)課題を解決するための手段
【0008】
かかる背景のもと,本発明者は経口投与用組成物へのマーキング方法
について鋭意検討した結果,特定の変色誘起酸化物を分散させた経口投
与用組成物の表面に,所定のレーザー光を照射することにより,前記特
定の変色誘起酸化物を凝集させることに起因した変色が生じるという知
見を得て,本発明を完成するに至った。
【0015】
なお,本発明に用いる用語「変色誘起酸化物」とは,レーザー光の照射
を受けて,その粒子が凝集するため,変色を誘起する酸化物をいう。
(オ)発明の効果
【0016】
本発明によれば,レーザー照射された酸化チタン,黄色三二酸化鉄及
び三二酸化鉄は,分解等の化学変化を生じておらず,安全性が高く,ま
た,特別な溶媒も必要とせず,クリーンな状態で製造できるため,食品や
医薬品等の経口投与用組成物の製造方法として提供できる。しかも,本
発明によれば,医薬品や食品等の経口投与用組成物の通常の製造ライン
において生産性を低下させることもなく製造できる。
【0017】
また,本発明によれば,経口投与用組成物中に酸化チタン,黄色三二酸
化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の変色誘
起酸化物を均一に分散させることにより,前記組成物の表面の形状や粗
さの影響をほとんど受けることなく,前記組成物中の任意の場所に,鮮
明なマーキングを施すことができる。したがって,錠剤やカプセル剤な
どの球面を持つ経口投与用組成物や,表面が凸凹した菓子等の食品に好
適である。くわえて,錠剤表面はほとんど食刻されないため,被覆層を有
するフィルム錠剤やカプセル剤の製造方法に適し,商品性及び品質性を
向上させることができる。
(カ)発明を実施するための最良の形態
【0020】
(マーキング方法)
図1は,本発明に係るマーキング方法を実施するための一の装置の概
略図を示す。本発明に係るマーキング方法を実施する装置を図1に例示
するが,これに限定されるものではない。例えば,CADデザインの情報
を制御装置にインプットすると,その情報がレーザー発振器及びガルバ
ノミラーにもたらされる。続いて,発振器からレーザー光が照射され,ガ
ルバノミラー等を介してレンズで集光され,目的とする経口投与用組成
物の表面に照射される。本発明に用いる経口投与用組成物では,酸化チ
タン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なく
とも1種の変色誘起酸化物を分散させており,本発明によるレーザー照
射によって,分散された酸化チタン等が一部凝集し変色する作用を見出
したものである。本発明に用いる組成物中においては,他の金属酸化物
では得られない効果である。本発明においては,後述する経口投与用組
成物の他の成分への影響もなく,さらに前記組成物の外観品質を劣化さ
せることもなく,識別性あるマークを施すことができるマーキング方法
である。なお,本発明に係るマーキング方法では,照射状態を観察しなが
ら,制御装置に入力した情報を直ぐに変更できるため,デザインの修正
も容易である。
【0021】
(レーザー)
本発明に係るマーキング方法に用いるレーザーは,特に限定されるも
のではなく,レーザー媒質(レーザー発振の元)が,固体,液体,気体の各
状態でレーザー発振できるものを使用することができるが,好ましくは
固体レーザーである。固体レーザーとしては,YLFレーザー,YAGレ
ーザー,YVO4レーザー等が挙げられるが,特に,基本・第2・第3・
第4・第5高調波YVO4レーザー発振器が好ましい。具体的には,第2
高調波発振器として,Coherent社Prismaシリーズ(モデ
ル名:532-12-V),第3高調波発振器としてYVO4Lase
rDS20H-355(PhotonicsIndustries
International,Inc)や,第4高調波発振器として,A
VIA266-3000(COHERENT社)を利用することができ
る。
【0022】
(レーザー波長)
また,本発明に用いるレーザーは,その波長が200~1100nm
を有するものを用いることができ,好ましくは1060~1064nm,
527~532nm,351~355nm,263~266nm又は2
10~216nmの波長であり,より好ましくは527~532nm,
351~355nm又は263~266nmの波長である。
【0023】
(レーザー出力)
本発明において,レーザーを走査する際の平均出力は,対象とする経
口投与用組成物の表面がほとんど食刻されない範囲で使用することがで
きる。例えば,その平均出力は,0.1W~50Wであり,好ましくは1
W~35Wであり,より好ましくは5W~25Wである。
単位時間あたりのレーザー照射エネルギーが強すぎると,アブレーシ
ョンにより錠剤表面で食刻が発生し,変色部分まで剥がれてしまう。ま
た,出力が弱いと変色が十分ではない。
【0024】
(レーザー走査方式)
レーザーを,経口投与用組成物の表面に照射する際のレーザーの走査
方式としては,特に限定されるものではないが,例えば,電気信号に応じ
てミラーの回転角を変えることができる偏向器を用いたガルバノミラー
型,共振周波数の正弦波で駆動させて用いる共振型の偏向器であるレゾ
ナントスキャン型,複数のミラーを利用するポリゴンミラー型等が挙げ
られ,好ましくはガルバノミラー型である。スキャニング速度は,特に限
定されるものではないが,20mm/sec~20000mm/sec
であり,好ましくは60mm/sec~8000mm/secであり,
より好ましくは80mm/sec~8000mm/secである。例え
ば,その下限値は,レーザー出力が0.3Wの場合20mm/sec以上
である。8mm/secでは食刻が生じ,2mm/secではレーザー
照射部が焼焦げる場合がある。また,レーザー出力が5Wの場合で例示
すれば,下限値は80mm/sec以上であり,好ましくは100mm
/sec以上である。なお,スキャニング速度が60mm/sec以下で
は,食刻現象が生じたり,又はレーザー照射部が焼焦げることがある。な
お,スキャニング速度は,高いほどマークの識別性に影響を与えること
なく生産性を上げることができる。したがって,例えば,レーザー出力5
Wでは,スキャニング速度は,80mm/sec~10000mm/s
ecであり,好ましくは90mm/sec~10000mm/secで
あり,より好ましくは100mm/sec~10000mm/secで
ある。また,レーザー出力が8Wの場合には,スキャニング速度は,25
0mm/sec~20000mm/secであり,好ましくは500m
m/sec~15000mm/secであり,より好ましくは1000
mm/sec~10000mm/secである。
【0025】
(単位面積当たりのエネルギー)
本発明において,レーザーを経口投与用組成物の表面に走査して照射
する際,単位面積当たりのとしてはレーザーのエネルギーは,マーキン
グの可否及び経口投与用組成物の食刻の有無の観点から,390~21
000mJ/cm2
であり,好ましくは400~20000mJ/cm2
であり,より好ましくは450~18000mJ/cm2
である。単位面
積当たりのエネルギーが390mJ/cm2
より低い場合には,マークを
施すことができないのに対し,該エネルギーが21000mJ/cm2

り大きい場合には,食刻が生じるため,好ましくない。本発明において,
速崩壊性錠や腸溶性皮膜を有する経口投与用組成物では,前記範囲のエ
ネルギーで照射することが好ましい。
【0027】
(マーク)
本発明によるマークとは,識別性のあるマークであることが好ましい。
マークの記載内容によって,他の医薬品との識別性を確保するために医
薬品に表示されたものであるが,特に限定されるものではなく,使用者
の設計要求に応じて自由に選択され得るものである。本発明に係るマー
キング方法によって付されたマークは,従来の方法に比べてマークの設
計自由度が高いことが特徴である。マークのデザインは,特に限定され
るものではなく,文字,数字,図形,記号などを単独であるいは組合せて
使用することができる。例えば,商品名,商品の略号,販売会社の社章や
ロゴマーク,あるいは医薬品に使用される各種コード,例えば,日本標準
商品分類番号,薬効分類番号,薬価基準収載医薬品コード,統一商品コー
ド等を用いることができる。
【0028】
(変色誘起酸化物)
本発明に用いられる変色誘起酸化物は,マーキングするために使用さ
れる金属酸化物であって,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄
からなる群から選択される少なくとも1種の変色誘起酸化物を用いるこ
とができる。本発明に用いる酸化チタンは,特に限定されるものではな
く,ルチル型,アナターゼ型またはそれらの混合物,あるいはシリカ等を
内包する加工又は改質した酸化チタンも含まれる。例えば,日本薬局方
収載の製品,例えば,商品名酸化チタン(川津産業)を使用することが
できる。
本発明に用いる黄色三二酸化鉄は,天然に存在する顔料であり,医薬
品添加物規格2003(以下,「薬添規」とする)にも収載され,着色剤
として使用されている。例えば,黄色三二酸化鉄は日本カラコン株式会
社の商品名黄色酸化鉄カラコンや純正化学株式会社の商品名黄色三
二酸化鉄を使用できる。黄色三二酸化鉄は黄色から帯褐黄色の粉末であ
り,水にほとんど溶けない。
本発明に用いる三二酸化鉄は,天然に存在する顔料であり,薬添規に
収載され,着色剤として使用されている。例えば,純正化学株式会社の商
品名三二酸化鉄を使用できる。
三二酸化鉄は赤色から赤褐色又は暗赤紫色の粉末であり,水にほとん
ど溶けない。
本発明に用いられる変色誘起酸化物は,経口投与用組成物の剤形の関
係なく,経口投与用組成物の表面に分散させることが好ましい。
(キ)実施例
【0038】
(実施例1)錠剤
乳糖80g,コーンスターチ20g,ステアリン酸マグネシウム0.5
g,酸化チタン1g又は黄色三二酸化鉄0.2gを混合し,打錠機または
オートグラフ材料試験機で圧縮成型して錠剤を得た。
表1に示すレーザー装置(PhotonicsIndustrie
sInternational,Inc)を用いて,10cm×10c
mのパン上に敷き詰めた錠剤100錠にレーザーを表1に示した条件で
照射した。その結果,酸化チタン又は黄色三二酸化鉄を含有する場合,視
認性が優れたマークを有する錠剤を得た。一方で,その表面は,食刻され
ていなかった。
【0041】
(比較例1~10)
酸化チタン及び黄色三二酸化鉄の代わりに,表2に示した添加剤(0.
2g)を配合した裸錠を実施例1と同様の方法で調製した。また,実施例
1と同様の条件で,レーザー光を走査した。
その結果,これらの成分を配合した裸錠では,変色しなかった。そのた
め,比較例1~10にて用いた添加剤は,経口投与用組成物の変色誘起
剤として効果が得られないことが確認された。
【0045】
(実施例5)口腔内速崩壊性錠剤
錠剤(主成分として,D-マンニトール(日局))重量100質量部に
対して0.18質量部の黄色三二酸化鉄を含む円筒型の口腔内速崩壊性
錠剤に,表1に示すレーザー装置及び照射条件で,錠剤の平表面の端か
ら端まで錠剤の中心点を通るように,中心線をマーキングした。同様に,
表3に示すレーザー装置及び照射条件でレーザー照射した。その結果,
どちらのレーザーでも,濃灰色の中心線をマーキングすることができた。
表1のレーザー照射よりも表3のレーザー照射の方が,濃い灰色を示し
た。また,どちらの照射でも錠剤表面の食刻は認められなかった。
【0047】
(実施例6~実施例8)
実施例5に準じて,錠剤重量100質量部に対して0.04質量部(実
施例6),0.08質量部(実施例7)及び0.18質量部(実施例8)
の黄色三二酸化鉄を含む円筒型の口腔内速崩壊性錠剤に,表4に示すレ
ーザー装置及び照射条件で,錠剤の平表面の端から端まで錠剤の中心点
を通るように,中心線をマーキングした。錠剤表面には食刻は認められ
ず,黄色の錠剤に灰色のマークを有する口腔内崩壊性錠剤が得られた。
【0053】
(実施例13)フィルムコート錠
自動フィルムコーティング装置を用いて,コーティング層(主成分と
して,ヒドロキシプロピルメチルセルローステレフタレート(日局))1
00質量部あたり,酸化チタン4質量部を含むコーティング層を素錠に
施し,曲面及び円柱部を有するフィルム錠を得た。この錠剤に,表1に示
すレーザー装置及び照射条件で,フィルム錠の曲面に3段書きの文字を
マーキングした。同様に,YVO4レーザーの基本波長1064nm(キ
ーエンス社:MD-V9600)のレーザー装置でマーキングした。その
結果,前者の装置では,濃灰色の文字をマーキングすることができた。後
者は,微淡灰色であり,前者と比較すると識別性が若干劣ることが確認
された。
【0056】
(実施例16)フィルムコート錠
自動フィルムコーティング装置を用いて,コーティング層(主成分と
して,ヒドロキシプロピルメチルセルローステレフタレート(日局))1
00質量部あたり,酸化チタン3.4質量部及び黄色三二酸化鉄0.4質
量部を含むコーティング層を素錠に施し,曲面及び円柱部を有するフィ
ルム錠を得た。この錠剤に,表4に示すレーザー装置及び照射条件で,フ
ィルム錠の曲部の周囲部に円を描くように11文字をマーキングした。
全ての文字で認識性が高く,円周の端部でも十分にマーキングできるこ
とが確認できた。
【0057】
次に,レーザー光が照射された変色部の解析を,以下のように実施し
た。変色部解析用試料は,実施例13と同様の条件にて作製したフィル
ム錠を用い,表1に示すレーザー装置及び照射条件で,レーザー照射を
行った。なお,本解析では,レーザーの走査速度は,1000mm/se
cで行った。
【0058】
図3は,透過型電子顕微鏡(以下,単に「TEM」という;日本電子製
JEM-2000FX;加速電圧:200kV)にて,レーザー照射前の
フィルム錠の黄色部を観測した結果を示すTEM写真である。図3に示
すように,黒色で表示されている酸化チタンは,小さい粒子であること
が観測された。なお,黒色部が酸化チタンであることは,X線光電子分光
(装置:ESCA5400MC(PerkinElmer社製);X線
源:単色化Al-Kα線(15kV-500W);PassEnerg
y:89.45eV(ワイドスキャン),35.75eV(高分解能);分
解能(stepsize):1.0eV(ワイドスキャン),0.1eV
(高分解能);検出スリット:1.1mmφ)と,X線回折(XRD)(装
置:RAD-C(理学電機製);X線:CuKα線(グラファイトモノク
ロメータ使用),50kV200mA;測定:θ-2θスキャン,10
≦2θ≦70°;連続スキャン,スキャンスピード=4.8°/min)
の結果から確認した。
【0059】
一方,図4は,レーザー照射後の灰色部を観測した結果を示すTEM
写真である。図4に示す結果から明らかなように,酸化チタンの粒子は
凝集し,レーザー照射前の粒子サイズとは全く異なり,大きな粒(黒色に
て表示)が形成されていることが確認された。具体的には,レーザー照射
後には,500nm程度の球状の粒子に凝集していることが示された。
凝集後の粒子のサイズが,可視光の波長と同程度にあり,可視光の光を
散乱するようになるため,灰色が観測されたものと推測される。
【0060】
以上の結果から,本発明に用いた酸化チタンは,レーザー照射により,
その粒子が凝集し,大きな粒子となり,凝集した粒子による反射光の波
長が変化したことにより,変色したものと推定される。本発明に用いた
黄色三二酸化鉄や三二酸化鉄も同様に,レーザー照射により,その粒子
が凝集し,大きな粒子となり,凝集した粒子による反射光の波長が変化
したことにより,変色したものと推定される。
(ク)産業上の利用可能性
【0061】
本発明によれば,経口投与用組成物中に酸化チタン,黄色三二酸化鉄
及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の変色誘起酸
化物を均一に分散させることにより,前記組成物の表面の形状や粗さの
影響をほとんど受けることなく,前記組成物中の任意の場所に特定のレ
ーザー光を照射することにより,鮮明なマーキングを施すことができる。
したがって,錠剤やカプセル剤などの球面を持つ傾向投与用組成物や,
表面が凸凹した菓子等の食品に好適である。
イ前記アの記載事項によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件
発明1に関し,次のような開示があることが認められる。
(ア)医薬品の調剤行為や服薬ミスを未然に防止するため,錠剤やカプセ
ル剤等の経口投与用医薬組成物の表面にマークを施し識別性を高めるた
めの古典的な方法である印刷法や刻印法に代替する方法として,従来か
ら,パターンマスクを介してレーザー光を照射することにより錠剤及び
カプセル剤にマーキングする方法や錠剤表面の一部をレーザーで蒸発さ
せることにより食刻する方法が開示されている(前記ア(イ))。
しかし,パターンマスクを用いる方法では,特にマーキング部位が球面
を有する錠剤やカプセルの場合,コントラストが不明瞭になりやすい,製
品毎にパターンマスクを予め加工しなければならない,マーク形状や大
きさ等に限界があり,識別性のための情報量が十分でないなどの問題が
あり,また,食刻する方法ではフィルムコート錠や糖衣錠等の本来の防湿
や遮光,もしくは苦味マスキング等の機能を損なうことになる,コーティ
ングがされていない錠剤の場合は,食刻に伴う薬物の含量低下の懸念が
あり,あるいは食刻部が錠剤欠損の引き金になる可能性もあるなどの問
題があったため,これらの従来のマーキング方法とは異なり,医薬品や食
品のような経口投与用組成物等の品質を損なわずに優れた識別性を有す
る経口投与用組成物を得ることができ,かつ,生産性にも優れたマーキン
グ方法の開発が課題とされていた(前記ア(ウ))。
(イ)「本発明」は,前記(ア)の課題を解決するための手段として,酸化チ
タン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なく
とも1種の「変色誘起酸化物」(レーザー光の照射を受けて,その粒子が
凝集するため,変色を誘起する酸化物)を分散させた経口投与用組成物の
表面に,所定のレーザー光を走査することにより,当該変色誘起酸化物の
粒子を凝集させることに起因した変色が生じるようにした構成を採用し
たものであり,これにより,前記経口投与用組成物の表面の形状や粗さの
影響をほとんど受けることなく,前記経口投与用組成物中の任意の場所
に,鮮明なマーキングを施すことができ,加えて,錠剤表面がほとんど食
刻されないため,被覆層を有するフィルム錠剤やカプセル剤の製造方法
に適し,商品性及び品質性を向上させることができるという効果を奏す
る(前記ア(オ),(ク))。
(2)甲1の開示事項について
ア甲1には,次のような記載がある(下記記載中に引用する「表2」につい
ては別紙2を参照)。
(ア)「本発明はレーザ印字に関し,詳しくは食用材料に対するレーザ印字
に関する。」(甲1の1頁・訳文【0001】)
(イ)「レーザ印字は周知のものである。例えば,米国特許第578379
3号明細書や米国特許第4906813号明細書,及びアブレーション
(レーザエネルギにより融解・飛散させること)により発生した粒子の保
持を求める米国特許第5340628号明細書を参照。」
「これらの方法は,抽出(extraction)を要することに加え,
メンテナンスの困難性,ラインの中断時間,汚れなど様々な問題を生じ
させる。より一般的に言って,印字装置や印字に伴う問題,即ち,リボン,
インク,溶剤,メンテナンス,信頼性の欠如等は,食品や薬品のような繊
細な製品を包装する場合,特に望ましくないものである。」
「印刷がなされる基材の色を変える以外に,アブレーションなどによ
る印字や,印字箇所へのインクの塗布なしの印字を実現するために様々
な提案がなされてきた。レーザエネルギを加えることにより基材をマー
キング可能な様々な着色材料が提案されてきた。このような提案は,例
えば,国際公開第00/43456号パンフレット,特開平11106
5号公報,欧州特許出願公開第0522370号明細書,欧州特許出願
公開第0797511号明細書,米国特許第5053440号明細書,
米国特許第5350792号明細書(ポリオキシメチレン及び獣炭を含
む樹脂モールド組成物),米国特許第5928780号明細書,米国特許
第6017972号明細書,米国特許第6019831号明細書等にお
いて見出すことができる。」
「薬品,食品,菓子類の業界で一般的に用いられるオンライン印字方法
は,インクジェット及び熱転写(ホットスタンプを含む)である。」
(以上,甲1の1頁・訳文【0002】~【0005】)
(ウ)「本発明は,レーザエネルギを加えた際に色が変化する特定の物質の
利用,及びこの物質に食用材料を含有させることで飲食を意図する材料
に対するマーキングを可能にしたことに基づく。」
「本発明は,対象物をマーキングするマーキング方法において,官能基
と金属化合物または酸とを含有し,レーザの放射により脱離反応を起こ
すことで対比可能な色の反応物を生成する物質を用い,レーザビームを
前記対象物のマーキング領域に照射する,ことを特徴とする。
使用される成分及び反応物の状態に応じて,それらを生理的に受容可
能なものとすることができる。このことが意味するのは,本発明は食品,
及び錠剤や丸薬等の薬品のマーキングに使用できるということである。」
(以上,甲1の1頁~2頁・訳文【0006】,【0007】)
(エ)「本発明の方法によれば,上述のような印字に伴う問題を解決でき
る。通常の生産ラインのほとんどで大幅なコスト削減を可能とし,食品や
その他の製品に対する印字の質を向上できる。更に,本発明の利点とし
て,信頼性を高め,メンテナンス費用を下げ,溶剤,排出物,残渣,抽出
を回避することができる。本発明によれば,中断時間を減らしつつ,オン
ラインで非接触印字が可能となる。本発明の方法は,現時点のすべての印
字システムに最も高速に使用可能である。印字に伴って材料を購入・保存
する必要はなく,かつ印字品質を向上できる。接着の問題やにじみを回避
できる。ラッピングフィルムに穴を空ける必要もない。更に,湿気があっ
ても印字可能である。」(甲1の2頁・訳文【0008】)
(オ)「本発明によれば,菓子類を含む食品や,錠剤,丸薬などの薬品の投
与単位といった固体基材をコーティングする際に適切な添加剤が加えら
れる。このようなコーティングは公知であり,相互に反応する複数の物質
を含有させることにより,本発明に基づいて単純に変性することで,染
料,発色団そのものを形成することができる。この生産物は,添加剤及び
あらゆる反応生成物が食用である場合,飲食または(薬品であれば)口か
らの投与を意図している。」(甲1の2頁・訳文【0009】)
(カ)「本発明の一実施形態において,添加剤はヒドロキシ化合物及び脱
水剤である。後者の典型例には,蔗糖,澱粉,改質澱粉,セルロース,改
質セルロース等の糖類からのOH基(本発明においては官能基である)の
脱離に用いることができる金属塩があるが,この金属塩としては,アルカ
リ金属,アルカリ土類金属,酸化鉄/塩,有機金属等が適切である。よっ
て,例えば,レーザエネルギーを加えることにより加熱すると,MgOや
FeOの存在下で蔗糖は炭化する。金属塩の存在下で脱水(水の脱離)に
より色の変化を生じる他の物質の例には以下のものがある。
ヒドロキシプロピルセルロース
メチルヒドロキシプロピルセルロース
カルボキシメチルセルロース・ナトリウム
ポリビニルアルコール」
「本目的に適した金属塩には以下のものがある。
MgCl2
Mg(OH)2
CaO
FeO
Fe2O3
CaSiO3
酢酸亜鉛
ZnO
アルミノケイ酸塩」
「本発明の別の実施形態において,関連性のある官能基がハロゲン原子
またはカルボキシ基である場合,脱離反応には,脱ハロゲン化,脱ハロゲ
ン化水素化,脱アセチル化を含むことができる。この目的の添加剤の例と
しては,金属塩の存在下におけるビニルポリマーがある。適切なポリマー
には以下のものがある。
ポリ塩化ビニル(PVC)
ポリ酢酸ビニル
ビニルエステル
塩化/酢酸ビニル共重合体
塩化/マレイン酸ビニル共重合体」
「本目的に適した金属化合物には以下のものがある。
ZnO
サリチル酸亜鉛
カオリン
CaSiO3」
(以上,甲1の2頁~3頁・訳文【0010】~【0013】)
(キ)「上述のように,1種類以上の添加剤は紫外線や赤外線の放射に反
応するものとすることができ,色の変化を生じさせるものであればいか
なる適切な物質も使用可能である。色の変化は,レーザエネルギを吸収し
た結果またはレーザエネルギが熱エネルギに変換された結果,化学的な
いし物理的変化を伴う物質によるものとすることができる。従って,例え
ば,ポリビニルアルコールは,p-トルエンスルホン酸等の脱水剤がコー
ティング材に含まれている場合,エネルギの付加が接合や色の変化を生
じさせるコーティング材として公知である。更に,適切な物質の例として
は,カラメル化可能な炭水化物や,エチルセルロースと水酸化カルシウム
との組合せがある。添加剤または既存の成分は放射を強力に吸収するこ
とが好ましい。」(甲1の4頁・訳文【0016】)
(ク)「一般に,必要なエネルギはレーザビームであろう。例えば,赤外線
印字システム用の印字手段は,例えば10,600nm付近で動作する低
出力CO2レーザを備える。レーザはドットマトリックスモードや連続波
モードで動作可能である。後者のモードでは,優れた印字品質を実現可能
である。レーザが低出力のため,高い信頼性を有し,メンテナンスフリー
に近い動作が可能である。このシステムを連続波モードで動作させるこ
とができ,200m/分のラインスピードまでなら印字可能である。これ
以上速くするためにはドットマトリックスが適している。
本システムは包装フィルムを介しての印字やフィルム積層品内への印
字に用いることができる。低出力レーザによる破壊は生じない。」(甲1
の5頁~6頁・訳文【0021】)
(ケ)「実施例1~12
以下の表には材料等が示される。実施例9~12の材料は食用組成物
に用いるものとして特に適している。
各事例では,ラッカーを混合し,コーティングし,乾燥させた後,ビー
ム径0.3mmの低出力CO2レーザを1000mm/秒の走査スピード
で用いてマーキングした。ビノル(Vinnol)(商品名)はストート
ケミカルズ社(StortChemicals)により供給される塩化
/酢酸ビニル共重合体である。ビカール(Vycar)(商品名)はグッ
ドリッチ社(Goodrich)により供給される塩化ビニル及びアクリ
ル酸の共重合体である。」(甲1の6頁・訳文【0022】)
(コ)「実施例13
100gのカルボキシメチルセルロース・ナトリウムを2000gの
水に対して攪拌しながら加えた。添加終了後もポリマーの分散が完了す
るまで攪拌を継続した。
100gのMgCl2・6H2Oをポリマー溶液に加えた。添加の後,
混合物を10分ほど攪拌し,コーティング溶液を得た。
2kgの錠剤をコーティングパンの中に入れた。錠剤を入れた状態で
コーティングパンを所定の速度で回転させ,その後,ホットエアドライ
ヤを用いて錠剤を50℃まで加熱した。」
「第1のコーティング層として,10mlのコーティング溶液を加え
た後,コーティングパンを所定の速度及び周囲温度で10~15分ほど
回転させた。パンを所定速度で回転させながら,コーティングした錠剤
をホットエアドライヤにより約50℃まで加熱した。コーティングした
錠剤を200g得た。2種類以上の10mlのコーティング溶液を用い
て,コーティング工程を2度繰り返した。
アルテック社(Alltec)製の10Wシーエススマート炭酸ガスレ
ーザを用いて,コーティングした錠剤のレーザマーキングを調査した。
錠剤のマーキングに用いたパラメータは以下の通りである。
【表2】
ほどよいダークグレー/グリーンの像を得た。」
(以上,甲1の8頁・訳文【0024】~【0027】)
(サ)「特許請求の範囲
1.対象物をマーキングするマーキング方法であって,
官能基と金属化合物または酸とを含有し,レーザの放射により脱離反応
を起こすことで対比可能な色の反応物を生成する物質を用い,
レーザビームを前記対象物のマーキング領域に照射する,ことを特徴と
するマーキング方法。」
「10.請求項1ないし請求項9のいずれかに記載のマーキング方法に
おいて,
前記対象物は薬品または食品であり,前記反応物は生理的に受容可能で
あることを特徴とするマーキング方法。」
(以上,甲1の10頁・訳文2頁)
イ前記アの記載事項によれば,甲1には,①従来のレーザ印字方法(レーザ
ーマーキング方法)には,リボン,インク,溶剤,メンテナンス,信頼性の
欠如等の印字装置や印字に伴う問題等様々な問題があり,特に食品や薬品
のような繊細な製品に望ましくなかったことから,「本発明」では,これら
の問題を解決するための手段として,薬品又は食品の対象物をマーキング
するレーザーマーキング方法において,レーザー光の照射(放射)により変
色する物質である「官能基と金属化合物または酸とを含有し,レーザの放
射により脱離反応を起こすことで対比可能な色の反応物を生成する物質」
を添加剤として対象物に用いる構成を採用したものであり,この添加剤は,
「相互に反応する複数の物質を含有し,単純に変性することで,染料,発色
団そのものを形成」することができること(前記ア(イ)ないし(オ),(サ)),
②添加剤の具体的な例として,官能基がOH基であるヒドロキシ化合物(蔗
糖,セルロース等の糖類,カルボキシメチルセルロース・ナトリウム等)と
脱水剤である金属塩(MgCl2,FeO,Fe2O3等)の組合せ,官能基
がハロゲン原子又はカルボキシ基であるビニルポリマー(ポリ塩化ビニル
(PVC)等)と金属化合物(ZnO等)の組合せが示され,添加剤を構成
するヒドロキシ化合物又はビニルポリマーが上記金属塩の存在下で脱水,
脱ハロゲン化等の脱離反応により色の変化が生じること(前記ア(カ)ない
し(コ))の開示があることが認められる。
また,前記アの記載事項によれば,甲1には,本件審決認定の甲1発明ア
及び原告主張の原告甲1発明アの開示があることも認められる。
(3)甲2及び甲3の開示事項について
ア甲2には,次のような記載がある。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】紫外線に対し光活性な充填剤を配合したポリアセタール樹
脂組成物より成形された成形品もしくは該組成物によって被覆された成
形品の表面に,非線形光学結晶を用いて波長を紫外光としたレーザー光
を照射してマーキングを行うことを特徴とするレーザーマーキング方法。
【請求項6】紫外線に対し光活性な充填剤が,金属酸化物若しくは金属
水酸化物である請求項1~5の何れか1項記載のレーザーマーキング方
法。
【請求項7】紫外線に対し光活性な充填剤が,粒径が0.05~1μm
のルチル型二酸化チタンである請求項6記載のレーザーマーキング方法。
【請求項8】紫外線に対し光活性な充填剤が,粒径が0.05~1μm
の酸化第二鉄である請求項6記載のレーザーマーキング方法。」
(イ)【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,レーザー光を利用してポリアセタ
ール樹脂成形品または該樹脂により被覆された成形品の表面に鮮明な
文字,記号等のマークを付与するレーザーマーキング方法およびこれに
よって良好なマーキングが行われた成形品に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】樹脂成形品あるいは樹
脂で被覆された成形品の表面に所望の文字,記号,図柄等のマーキング
を行う方法として,従来より熱硬化性インキを用いた印刷が一般的に行
われてきたが,ポリアセタール樹脂は耐溶剤性が良く,表面が不活性な
ため一般的な方法で印刷を行っても実質的に耐久性のある実用的な印
刷はできない。一方,このような熱硬化性インキを用いた印刷の問題点
を解決し得るマーキング方法として,レーザー光を照射して熱可塑性樹
脂にマーキングを行う方法が幾つか提案されており,(1)照射部分の蝕
刻による表面状態の粗化(粗面化,凹み)によりマーキングを行う方法
(…),(2)変色および脱色可能な充填物を添加することによりマーキ
ングを行う方法(…),(3)レーザー照射による樹脂の焼け焦げを利用
した方法(…)等が知られている。上記の何れの内容も,照射するレー
ザー光を選択的に吸収することにより,レーザー光を照射した部分を局
所的に加熱し,樹脂表面に溶解,気化,発泡,炭化等の熱的な変化を起
させることによりマーキングを行うもの,あるいは変色および脱色可能
な充填物を添加することによりマーキングを行うものである。しかしな
がら,(1)の方法をポリアセタール樹脂に用いた場合,鮮明なマーキン
グは得られない上に,レーザー照射による樹脂の蝕刻によりマーク部が
凹凸となり触感が損なわれる。また,黒っぽい発色のマークを得ること
は難しい。又,(3)の方法をポリアセタール樹脂に用いても,ポリアセ
タールは非常に焦げにくい樹脂であり,実質的にはマーキングが不可能
であった。これに対し,(2)の方法は,樹脂に配合した充填物がレーザ
ー照射により変色あるいは脱色することを利用してマーキングするも
のであり,充填物の種類,添加量,基体樹脂の適切な組合せによっては
良好な効果が得られるものと推測される。しかしながら,本発明者が検
討したところによれば,ポリアセタール樹脂に対するレーザーマーキン
グにおいては,それらに開示された技術を単にそのまま適用し,汎用の
レーザー,例えば基本波Nd;YAGレーザー等を照射するだけでは,
コントラストが鮮明で,マーキング部の凹凸が殆どなく,触感の良好な
マーキングを行うことは実質的に困難であることが判明した。特に明色
系の下地に黒色系のマーキングを形成することは極めて難しい。又,充
填物が限定されるため,着色の自由度が制約され,更に充填物によって
は,その毒性をも考慮する必要がある。
【0003】一方,ポリアセタール樹脂に対し黒色のマーキングを得る
技術としてポリアセタール樹脂成形品に酸化チタン等の無機系の光活
性白色顔料を添加することで,永久的な黒っぽい書き込みをエキシマレ
ーザーによる照射にて得ることが出来ることは公知である(特開平5-
247319号公報)。この方法では,エキシマレーザー固有の波長の
レーザー光がそのまま使用される。しかしながら,エキシマレーザーは
装置が非常に高価であり,励起物質として使用されるガスはハロゲンガ
スであり非常に有毒なものである。…装置を利用する上で多大なコスト
が必要となり,産業界では経済的に且つ安全に使っていく上で多くの問
題点を持っており,実質的にマーキング用として実用化することが困難
であった。又,使用するエキシマレーザーの波長によっては,ポリアセ
タール樹脂自身がレーザー光を吸収することによる光化学反応で分解
等の変質が起き,物性が低下したり,コントラストの良いマーキングが
得にくい場合があり,更なる改善が望まれていた。上述したように,ポ
リアセタール樹脂に対し,マーク部の凹凸が殆どなく,非常にコントラ
ストの高いマーキング,中でも黒色系のマーキングをあらゆる色彩の着
色成形品に対し,低イニシャルコスト,低ランニングコストであり且つ
安全な装置を用いマーキングを施す方法は従来なかった。
(ウ)【0004】
【課題を解決するための手段】そこで,本発明者らは,上記課題を解決
するため鋭意研究した結果,ポリアセタール樹脂のレーザーマーキング
に対しては,特定の選択されたレーザー光の使用が極めて有効であるこ
とを見出し,本発明を完成するに至った。即ち本発明は,紫外線に対し
光活性な充填剤を配合したポリアセタール樹脂組成物より成形された
成形品もしくは該組成物によって被覆された成形品の表面に,非線形光
学結晶を用いて波長を紫外光としたレーザー光を照射してマーキング
を行うことを特徴とするレーザーマーキング方法である。
(エ)【0005】
【発明の実施の形態】以下,本発明のレーザーマーキング方法を詳細に
説明する。本発明において,幅広い色彩のポリアセタール成形品に,マー
ク部の凹凸がなく,コントラストの高いマーキング,特に黒っぽいマー
キングをレーザーマーキングにて施すには,紫外線に対し光活性な充填
剤を該プラスチック成形品に添加し,且つ非線形光学結晶を用いて波長
を紫外光としたレーザー光を選択的に使用し,これを照射してマーキン
グすることが必要である。…非線形光学結晶を用いたレーザーとしては,
第2高調波Nd;YAGレーザー(波長=532nm),第3高調波N
d;YAGレーザー(波長=355nm),第4高調波Nd;YAGレ
ーザー(波長=266nm),第2高調波半導体レーザー(波長=42
9nm等)などがある。…従って,使用する紫外光は,波長領域が26
0~400nmの範囲にあることが望ましい。…レーザー光1パルス当
りのエネルギー密度としては,1~10000mJ/cm3
の範囲にある
ことが好ましい。…特に好ましくは5~5000mJ/cm3
,最も好
ましくは10~2000mJ/cm3
の範囲である。
【0006】紫外線に対して光活性な充填剤とは,紫外領域,好ましくは
260~400nm,特に好ましくは352~400nmの領域にある
紫外線を該充填剤が吸収する事によって,分解,還元,酸化,他物質との
反応,結晶構造の変化等何らかの変性が起きる充填剤をいう。中でも金
属酸化物及び金属水酸化物が適しており,特に金属酸化物を充填したプ
ラスチック成形品に波長を1/3とした第3高調波Nd;YAGレーザ
ー光や波長を1/4とした第4高調波Nd;YAGレーザー光,好まし
くは第3高調波Nd;YAGレーザー光を照射することにより,鮮明な
黒色系のマーキングを得ることが出来,しかも該マーキング部には非マ
ーキング部に対する凹凸が実質的にないし,ポリアセタール樹脂自身の
当波長に対する吸収が少ないため物性の低下も殆どない。中でも金属酸
化物であるところのチタン化合物,特に二酸化チタンは白色系の色を呈
しており,カーボンブラックや顔料と併用してプラスチック成形品に充
填する事により,かなり自由度のある着色が可能となり,従来着色の自
由度が制限される事の多かったレーザーマーキング材料の市場性を大幅
に広げる事が可能である。二酸化チタンの結晶型は特にこだわらないが,
耐光性,耐候性の観点からルチル型が望ましい。又,二酸化チタンの粒子
径は0.05~1μmの範囲であることが望ましい。0.05μm未満で
あると樹脂内での分散性が悪化し,1μmを越えると得られる成形品の
表面が粗れてしまい,外観部品として利用分野が限られる場合がある。
また,酸化第二鉄も二酸化チタンと同じ理由に基づき粒子径は0.05
~1μmの範囲であることが望ましい。もちろん,紫外線に対して光活
性な充填剤は二種類以上を併用しても構わない。かかる充填剤の配合量
は,組成物中の0.001~35重量%が望ましい。該充填剤の比率が,
0.001重量%未満では所望のマーキングを得ることが困難である。
35重量%を越えると機械的物性の低下を避けられない場合がある。し
かし例えばチタン酸カリウムの様に充填剤自身がプラスチック成形品の
強化材となる場合もあり,充填物が組成物中の35重量%を越える事に
は特にはこだわらない。
(オ)【0010】
【実施例】以下,実施例により本発明を更に具体的に説明するが,本発明
はこれに限定されるものではない。
実施例1~4,比較例1~7
ポリアセタールと紫外線に対し光活性な充填剤を,表1に示す割合で配
合し,これを射出成形して50mm×70mmで厚さ3mmの平板を得
た。この平板に波長1064nmの基本波Nd;YAGレーザー(可視
光),波長532nmの第2高調波Nd;YAGレーザー(可視光),波
長355nmの第3高調波Nd;YAGレーザー(紫外光),波長26
6nmの第4高調波Nd;YAGレーザー(紫外光),波長248nmの
エキシマレーザー(紫外光)を用いてマーキングを行った。マーキング条
件および評価方法は下記の通りである。結果を表1に示す。
〔マーキング条件〕
マーキング方式:スキャン式
マーキング文字数:40文字(数字,アルファベット)
マーキング文字大きさ:高さ2mmの文字20文字,高さ3mmの
文字20文字
マーキング部でのパワー:1~10W
スキャンスピード:100mm/sec
バイトサイズ:30μm
Qスイッチ周波数:3kHz
処理時間:約3sec
〔評価方法〕…
(カ)【0013】
【発明の効果】従来より,熱可塑性樹脂に対するレーザーマーキング技
術は,無人化,自動化,無溶剤化,信頼性等の点で優れた表面装飾方法と
して知られているが,得られるマーキング文字のコントラストが低く,
又,マーキング部の非マーキング部に対する凹凸が生じてしまい,利用
分野が限られていた。特にポリアセタール樹脂をマーキングする際にこ
の傾向が顕著であったが,本発明により,ポリアセタールであっても,コ
ントラストが高く,凹凸が実質的にないマーキング,中でも黒っぽいマ
ーキングを,マーキング後の物性を低下させることなく,低コスト且つ
作業性良く安全に施すことが可能となり,本発明の経済効果は非常に高
い。
イ甲3には,次のような記載がある。
(ア)「発明の分野
本発明はフルオロポリマー組成物基質のレーザーマーキング(las
ermarking)分野である。」(甲3の1欄8行~11行・訳文
3頁5行~7行)
(イ)「発明の背景
ヨーロッパ特許出願公開第329884号/1989には,強い紫外
もしくは可視放射線源,好適にはレーザー源を用いてケーブルのマーキ
ングを行う方法が開示されている。上記方法に従い,TiO2を感光性物
質として20重量%以下,好適には5重量%以下の量で含有するPTF
E,FEPおよびETFE電気絶縁層を強い放射線に露光させると,結果
として,その放射線が入射した所が暗色化する。この入射の模様を調節す
ることにより,文字および数字などの如きマークを生じさせることがで
きる。
このような基質の暗色化は主に放射線とTiO2顔料の間の相互作用
によって引き起こされると理解される。紫外(UV)放射線を用いそして
PTFEおよびFEPのようにUVがポリマーマトリックスを透過する
場合,そのような相互作用のみが暗色化に貢献する。ある場合には,ET
FEのように,ポリマー自身もいくらか暗色化してマークに寄与する可
能性がある。
このレーザーマーキング技術は,飛行機などで見られる如きコンプレ
ックスワイヤーハーネス(complexwireharnesse
s)で使用される絶縁ワイヤー上に同定用マークを作り出す場合に魅力
のある技術である。回路が複雑なことから色分けおよび棚卸しに関して
過度の要求がありそして白色がマーキングにとって良好な背景であるこ
とから,そのような使用では白色が好まれる。レーザーマーキングは,ホ
ットスタンピング(hotstamping)の場合に起こる如き機械
的損傷が生じる可能性がないこと,フルオロポリマー類にインクを付着
させる困難さがないこと,そしてこのマークは実際に表面下に存在して
いて容易には摩滅しないと言った点で,別のマーキング技術,例えばホ
ットスタンピングおよびインクプリンティング(inkprintin
g)などに比べて有利である。
マークの読み取り性に貢献する重要な特性はマークと背景の間のコン
トラストである。」(甲3の1欄13行~45行・訳文3頁8行~4頁5
行)
(ウ)「発明の要約
本発明は,TiO2顔料が入っているフルオロポリマー組成物の溶融
加工を行うことで製造可能な改良されたレーザーマーキング可能(la
ser-markable)フルオロポリマー基質を提供する。本発明に
従い,TiO2顔料を溶融加工可能フルオロポリマーと一緒に溶融コンパ
ンド化すると,このTiO2顔料は白色外観を与えるが,特徴としてまた
凝集物がいくらか存在することを見い出した。このような凝集物は裸眼
で見ることができず,溶融加工組成物の断面を高光学倍率で観察すると,
そのいくつかは観察可能であるが,大部分は,電子顕微鏡の倍率下でのみ
検出可能である。レーザーマーキング用フルオロポリマー基質内に存在
する凝集物の集団数が実質的に少なくなるに伴ってマーキング特性が改
良されることを見い出した。本発明では,これを,有機シランで被覆した
TiO2顔料をフルオロポリマー組成物に入れそしてこの組成物を用い
て基質を成形することで達成する。
本発明の1つの態様は,溶融加工可能フルオロポリマーとTiO2顔料
を含有する溶融加工基質のレーザーマーキング方法であり,ここでの改
良は,上記TiO2顔料に有機シラン含有被膜を持たせることを含む。」
(甲3の2欄6行~30行・訳文4頁25行~5頁12行)
(エ)「図の簡単な説明
図1(a)および(b)は,TiO2顔料が入っているFEP樹脂押出
し物の70X倍率光顕微鏡写真であり,図1(a)(シラン被膜無し)は,
顔料凝集物として識別される分散した暗色斑点を示しており,そして図
1(b)(有機シラン被膜有り)は,暗色斑点(凝集物)の存在を本質的
に示していない。他のフルオロポリマー類をTiO2で色付けした組成物
の場合の図2(a)および(b)から5(a)および(b)でも同じ改良
が示されている。」(甲3の2欄49~57行・訳文5頁25行~6頁3
行)
(オ)「詳細な説明
二酸化チタン顔料を有機シランで被覆して溶融加工可能フルオロポリ
マー樹脂基質に組み込むと,この基質上にレーザーマーキング技術で作
り出すマークのコントラストが予想外に改良されかつコントラストが均
一になることを見い出した。このような改良の機構を確信を持って理解
してはいないが,このようなマーキングの改良は該フルオロポリマー組
成物を溶融加工した時に存在するTiO2凝集物のレベルが低くなるこ
とを伴っていた。このようにTiO2凝集物のレベルが低くなることの
証拠を,光学顕微鏡を用いて70X倍率で観察可能な凝集物寸法(この規
模で凝集物が実質的に無いこと)および電子顕微鏡でのみ検出可能な凝
集物寸法の両方で示す。フルオロポリマー類の色付けに対してTiO2の
有機シラン被膜が示す効果は驚くべきことである。これに関する性能が
顔料とマトリックスの間の相溶性の問題であるとするならば,ある種の
シラン被膜が有する有機炭化水素基が原因でTiO2顔料粒子表面が取
得する炭化水素性によってフルオロポリマーとの相溶性が未被覆TiO2
に比較していくらか改良されると期待するのは不可能であろう。」(甲3
の3欄20行~42行・訳文7頁3行~17行)
「本発明のフルオロポリマー組成物は,溶融加工可能フルオロポリマー
樹脂マトリックス中のTiO2凝集物の集団数の低下を示す。このような
改良は,薄い断片を光学および電子顕微鏡で分析した時の結論として引
き出され,これは,有機シラン被膜を有するTiO2を用いることに起因
する。」(甲3の7欄7行~12行・訳文13頁末行~14頁3行)
(カ)「実施例11のワイヤーおよび図6(b)に示す対照Bのワイヤーか
ら絶縁体の片を取り外し,断面が出るように切った後,透過電子顕微鏡
(TEM)で検査した。11800Xおよび23000X倍率で撮ったT
EM顕微鏡写真をQuantimet(商標)Model970画像分
析装置および関連ソフトウエア(CambridgeInstrume
nts)で分析してTiO2の粒子サイズと粒子サイズ分布を測定した。
…23000X倍率の顕微鏡写真で検査した結果,実施例11および対
照Bの場合の巨大粒子の多くは凝集物であることが分かり,画像分析に
おいて,その凝集物は単一の粒子として取り扱われる。このような比較
は,TiO2を有機シランで被覆すると光学顕微鏡で観察することができ
ないほど小さい直径を有するTiO2凝集物の集団数が低下することを
示している。」(甲3の9欄58行~64行,10欄16行~22行・訳
文19頁4行~9行,21行~25行)
(キ)「【特許請求の範囲】
1.溶融加工可能フルオロポリマー樹脂と二酸化チタン顔料を含有する
基質のレーザーマーキング方法であって,ここでの改良が,有機シラン
を含有する被膜で上記顔料を被覆して上記レーザーマーキングを実施す
ることを含む方法。」(甲3の12欄41行~46行・訳文2頁1行~4
行)
ウ原告は,甲2及び甲3には,レーザー光の走査により粒子を凝集させて
変色する二酸化チタン(相違点1に係る本件発明1の構成)の開示がある
旨主張する。
そこで検討するに,前記アの記載事項によれば,甲2には,①ポリアセタ
ール樹脂成形品に酸化チタン等の無機系の光活性白色顔料を添加し,エキ
シマレーザーの照射により,ポリアセタール樹脂に対し黒色のマーキング
を得る従来のレーザーマーキング方法には,経済的に且つ安全に使用する
上で多くの問題点があり,マーク部の凹凸が殆どなく,非常にコントラス
トの高いマーキングを低イニシャルコスト,低ランニングコストで且つ安
全な装置を用いてポリアセタール樹脂にレーザーマーキング方法は従来な
かったという課題があったが,「本発明」は,「紫外線に対し光活性な充填
剤」を配合したポリアセタール樹脂組成物より成形された成形品もしくは
該組成物によって被覆された成形品の表面に,「非線形光学結晶を用いて
波長を紫外光としたレーザー光」を照射してマーキングを行うことを特徴
とするレーザーマーキング方法の構成を採用することで上記課題を解決し
たこと,②「紫外線に対し光活性な充填剤」とは,紫外線を吸収することに
よって,分解,還元,酸化,他物質との反応,結晶構造の変化等何らかの変
性が起きる充填剤をいい,中でも金属酸化物及び金属水酸化物が適してお
り,その例示として,金属酸化物である「酸化チタン」及び「酸化第二鉄」
の開示があることが認められる。
次に,前記イの記載事項によれば,甲3には,①二酸化チタン顔料(Ti
O2顔料)を含有するフルオロポリマー組成物の溶融加工を行うことで製
造されたフルオロポリマー樹脂基質(溶融加工フルオロポリマー樹脂基質)
に対するレーザーマーキング方法であって,有機シランを含有する被膜で
上記二酸化チタン顔料を被覆することを含む技術,②二酸化チタン顔料を
有機シランで被覆して溶融加工可能フルオロポリマー樹脂基質に組み込む
と,この基質上にレーザーマーキング技術で作り出すマークのコントラス
トが予想外に改良されかつコントラストが均一になることを見い出したこ
と,③このようなマーキングの改良には,フルオロポリマー組成物を溶融
加工した時に存在するTiO2凝集物のレベルが低くなることを伴ってい
たことの開示があることが認められる。
そうすると,甲2及び甲3に接した当業者は,甲2及び甲3から,レーザ
ー照射によって,二酸化チタンを充填又は配合したポリアセタール樹脂組
成物又はフルオロポリマー樹脂組成物において,二酸化チタンに何らかの
変性が起こることによりマーキングを行うレーザーマーキング方法の技術
を理解するものと認められる。
しかし,他方で,甲2には,レーザー照射によって酸化チタンの粒子が凝
集していることやその凝集によって変色が生じることについての記載はな
い。また,甲3には,フルオロポリマー組成物の溶融加工時のTiO2凝集
物のレベルの低下が影響していることをうかがわせる記載があるが(上記
③),他方で,レーザー照射によって二酸化チタンの粒子が凝集しているこ
とやその凝集によって変色が生じることについての記載はない。
したがって,甲2及び甲3に,レーザー光の走査により粒子を凝集させ
て変色する二酸化チタン(相違点1に係る本件発明1の構成)の開示があ
るとの原告の主張は採用することができない。
(4)相違点1の容易想到性について
ア前記(3)ウで認定したとおり,甲2及び甲3には,レーザー照射によって,
二酸化チタンを充填又は配合したポリアセタール樹脂組成物又はフルオロ
ポリマー樹脂組成物において,二酸化チタンに何らかの変性が起こること
によりマーキングを行うレーザーマーキング方法の技術の開示があるが,
レーザ照射によって二酸化チタンの粒子が凝集していることやその凝集に
よって変色が生じることについての記載はないから,レーザー光の走査に
より粒子を凝集させて変色する二酸化チタン(相違点1に係る本件発明1
の構成)の開示があるものと認めることはできない。
次に,前記(2)イで認定したように,甲1には,従来のレーザーマーキン
グ方法の様々な問題を解決するための手段として,薬品又は食品の対象物
をマーキングするレーザーマーキング方法において,レーザー光の照射(放
射)により変色する物質である「官能基と金属化合物または酸とを含有し,
レーザの放射により脱離反応を起こすことで対比可能な色の反応物を生成
する物質」を添加剤として対象物に用いる手段を採用したこと,この添加
剤は,「相互に反応する複数の物質を含有し,単純に変性することで,染料,
発色団そのものを形成」することができること,添加剤の具体的な例とし
て,官能基がOH基であるヒドロキシ化合物(蔗糖,セルロース等の糖類,
カルボキシメチルセルロース・ナトリウム等)と脱水剤である金属塩(Mg
Cl2,FeO,Fe2O3等)の組合せが示され,この添加剤を構成するヒ
ドロキシ化合物が上記金属塩の存在下で脱水の脱離反応により色の変化が
生じることの開示がある。
しかし,他方で,甲1には,レーザーマーキング方法におけるレーザー光
の照射(走査)により変色する物質として,二酸化チタンの具体的な記載は
なく,ましてや,レーザー光の照射により粒子を凝集させて変色する二酸
化チタン等の物質が使用可能であることについての記載や示唆はない。も
っとも,甲1には,金属塩の例として,「Fe2O3」の記載があるが,これ
は,ヒドロキシ化合物に対する脱水剤の一例としての記載であって,レー
ザー光の照射により粒子を凝集させて変色する物質として記載されたもの
ではない。
以上によれば,甲1ないし3に接した当業者において,甲2及び甲3か
らレーザ照射によって,二酸化チタンを充填又は配合したポリアセタール
樹脂組成物又はフルオロポリマー樹脂組成物を変色させるレーザーマーキ
ング方法の技術を理解したとしても,甲1発明アあるいは原告甲1発明ア
において,レーザー光の照射(走査)により変色する物質を,「官能基と金
属化合物または酸とを含有し,レーザの放射により脱離反応を起こすこと
で対比可能な色の,生理的に受容可能である反応物を生成する物質」(原告
甲1発明アでは「Fe2O3(三二酸化鉄)を含む特定の物質」)から,レ
ーザー光の走査により粒子を凝集させて変色する二酸化チタン(相違点1
に係る本件発明1の構成)に置換することについての動機付けがあるもの
と認めることはできない。
したがって,甲1ないし3に接した当業者において,甲1に記載された
発明にレーザー光の走査により粒子を凝集させて変色する二酸化チタン
(相違点1に係る本件発明1の構成)を適用することを容易に想到するこ
とができたものとはいえない。
イこの点に関し,原告は,①甲1には,甲1記載のレーザマーキング方法に
おいては,「読みやすいマーキング」を施すという普遍的・恒常的目的を達
成するために適切なものであれば,「官能基と金属化合物または酸とを含
有し,レーザの放射により脱離反応」を起こすなどの「化学的変化」により
色の変化を生じさせる物質でも,凝集などの「物理的変化」により色の変化
を生じさせる物質のいずれでも,使用可能であることの開示があること,
②甲1に記載された発明と甲2及び甲3に記載された発明は,発明が共通
し,技術分野,当業者及び課題が同一であること,③本件出願の優先日当
時,二酸化チタンを分散させてレーザを照射してマーキングすることは,
周知慣用技術であったこと(例えば,甲2~5,13),「酸化チタン」や
「三二酸化鉄」を「経口投与用組成物」に用いることが技術常識であったこ
と(例えば,甲12),二酸化チタンを分散させて紫外線レーザでマーキン
グする方法の対象が経口投与用組成物に限定されないことは周知であった
こと(例えば,甲4)を総合すると,甲1ないし甲3に接した当業者におい
ては,甲1発明アあるいは原告甲1発明アにおいて,レーザー光の照射(走
査)により変色する物質を,「官能基と金属化合物または酸とを含有し,レ
ーザの放射により脱離反応を起こすことで対比可能な色の,生理的に受容
可能である反応物を生成する物質」(原告甲1発明アでは「Fe2O3(三
二酸化鉄)を含む特定の物質」)から,甲2及び甲3に開示されたレーザー
光の走査により粒子を凝集させて変色する二酸化チタン(相違点1に係る
本件発明1の構成)に置換することは,「読みやすいマーキング」を施すと
いう普遍的・恒常的目的を達成するために,適宜なし得る設計的事項であ
って,容易に想到することができたものである旨主張するが,以下のとお
り理由がない。
(ア)原告は,甲1中の「1種類以上の添加剤は紫外線や赤外線の放射に
反応するものとすることができ,色の変化を生じさせるものであればい
かなる適切な物質も使用可能である。色の変化は,レーザエネルギを吸収
した結果またはレーザエネルギが熱エネルギに変換された結果,化学的
ないし物理的変化を伴う物質によるものとすることができる。」との記載
を根拠として,甲1記載のレーザマーキング方法においては,「読みやす
いマーキング」を施すという普遍的・恒常的目的を達成するために適切な
ものであれば,「官能基と金属化合物または酸とを含有し,レーザの放射
により脱離反応」を起こすなどの「化学的変化」により色の変化を生じさ
せる物質でも,凝集などの「物理的変化」により色の変化を生じさせる物
質のいずれでも,使用可能であることの開示がある旨主張(上記①の主
張)する。
しかしながら,甲1には,原告が指摘する上記記載に引き続き,「従っ
て,例えば,ポリビニルアルコールは,p-トルエンスルホン酸等の脱水
剤がコーティング材に含まれている場合,エネルギの付加が接合や色の
変化を生じさせるコーティング材として公知である。更に,適切な物質の
例としては,カラメル化可能な炭水化物や,エチルセルロースと水酸化カ
ルシウムとの組合せがある。添加剤または既存の成分は放射を強力に吸
収することが好ましい。」との記述があり(前記(2)ア(キ)),この記述
は,「相互に反応する複数の物質を含有し,単純に変性することで,染料,
発色団そのものを形成」することができる添加剤として,ポリビニルアル
コールとp-トルエンスルホン酸等の脱水剤の組合せ,炭水化物やエチ
ルセルロースと水酸化カルシウムの組合せを説明するものであり,この
記述を併せて読むと,上記記載中の「化学的ないし物理的変化を伴う物
質」とは,具体的には,「ポリビニルアルコール,炭水化物やエチルセル
ロース」を示していることがうかがわれ,上記記載が凝集などの「物理的
変化」により色の変化を生じさせる物質が使用可能であることまで示唆
するものではない。
したがって,原告の上記①の主張は採用することができない。
(イ)原告は,甲1に記載された発明と甲2及び甲3に記載された発明は,
発明が共通し,技術分野,当業者及び課題が同一である旨主張(上記②の
主張)する。
確かに,甲1に記載された発明と甲2及び甲3に記載された発明は,レ
ーザーマーキング方法に関する発明である点で,技術分野及び当業者が
共通し,従来の技術よりも優れたレーザーマーキング方法を提供するこ
とを課題とする点で一般的な課題において共通するといえるとしても,
その課題を解決する手段として,甲1に記載された発明は,レーザー光の
照射(走査)により変色する物質として,「官能基と金属化合物または酸
とを含有し,レーザの放射により脱離反応を起こすことで対比可能な色
の,生理的に受容可能である反応物を生成する物質」を用いる点におい
て,甲2及び甲3に記載された発明(技術)と異なるものである。加えて,
そもそも,甲2及び3には,レーザー光の走査により粒子を凝集させて変
色する二酸化チタン(相違点1に係る本件発明1の構成)の開示はないか
ら(前記ア),原告の上記②の主張は,甲1に記載された発明にレーザー
光の走査により粒子を凝集させて変色する二酸化チタン(相違点1に係
る本件発明1の構成)を適用することを容易に想到することができたこ
との根拠となるものではない。
(ウ)原告は,原告の上記①及び②の主張に加えて,本件出願の優先日当
時,二酸化チタンを分散させてレーザを照射してマーキングすることは,
周知慣用技術であったこと(例えば,甲2~5,13),「酸化チタン」
や「三二酸化鉄」を「経口投与用組成物」に用いることが技術常識であっ
たこと(例えば,甲12),二酸化チタンを分散させて紫外線レーザでマ
ーキングする方法の対象が経口投与用組成物に限定されないことは周知
であったこと(例えば,甲4)を総合すると,甲1発明アあるいは原告甲
1発明アのレーザー光の照射により変色する物質を,レーザー光の走査
により粒子を凝集させて変色する二酸化チタン(相違点1に係る本件発
明1の構成)に置換することは,「読みやすいマーキング」を施すという
普遍的・恒常的目的を達成するために,適宜なし得る設計的事項であっ
て,容易に想到することができたものである旨主張(上記③の主張)する。
しかしながら,原告が主張するように,本件出願の優先日当時,二酸化
チタンを分散させてレーザを照射してマーキングすること,「酸化チタ
ン」や「三二酸化鉄」を「経口投与用組成物」に用いること,二酸化チタ
ンを分散させて紫外線レーザでマーキングする方法の対象が経口投与用
組成物に限定されないことが,周知あるいは技術常識であったとしても,
そのことから直ちに甲1発明アあるいは原告甲1発明アにレーザー光の
走査により粒子を凝集させて変色する二酸化チタン(相違点1に係る本
件発明1の構成)を適用することの動機付けを認めることはできないし,
上記構成を適用することが設計的事項であるということもできない。
したがって,原告の上記③の主張は,理由がない。
(5)小括
したがって,相違点2について判断するまでもなく,本件発明1は,甲1な
いし甲3に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められないか
ら,本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1-1は理由がない。
2取消事由1-2ないし1-4(本件発明2ないし22の容易想到性の判断の
誤り)について
(1)取消事由1-2(本件発明2ないし10の容易想到性の判断の誤り)につ
いて
原告は,本件発明2ないし10は,請求項1を直接又は間接的に引用し,本
件発明1の発明特定事項を含むところ,本件審決のした本件発明1の容易想
到性の判断に誤りがある以上,本件発明2ないし10は,甲1に記載された
発明に甲2及び甲3に記載された技術を適用することにより,当業者が容易
に発明をすることができたものといえないとした本件審決の判断も誤りであ
る旨主張する。
しかしながら,本件発明1の容易想到性の判断に誤りがないことは,前記
1(5)のとおりであるから,原告の上記主張(取消事由1-2)は理由がない。
(2)取消事由1-3(本件発明11の容易想到性の判断の誤り)について
原告は,本件発明11は,甲1に記載された発明に甲2及び甲3に記載さ
れた技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたも
のといえないとした本件審決の判断に誤りがある旨主張する。
しかしながら,前記1で説示したのと同様の理由により,甲1ないし3に
接した当業者において,甲1に記載された発明にレーザー光の走査により粒
子を凝集させて変色する二酸化チタン(相違点1に係る本件発明11の構成)
を適用することを容易に想到することができたものとはいえないから,本件
発明11は,甲1ないし甲3に基づいて容易に発明をすることができたもの
とは認められない。
したがって,原告の上記主張(取消事由1-3)は理由がない。
(3)取消事由1-4(本件発明12ないし22の容易想到性の判断の誤り)に
ついて
原告は,本件発明12ないし22は,請求項11を直接又は間接的に引用
し,本件発明11の発明特定事項を含むところ,本件審決のした本件発明1
1の容易想到性の判断に誤りがある以上,本件発明12ないし22は,甲1
に記載された発明に甲2及び甲3に記載された技術を適用することにより,
当業者が容易に発明をすることができたものといえないとした本件審決の判
断も誤りである旨主張する。
しかしながら,本件発明11の容易想到性の判断に誤りがないことは,前
記(2)のとおりであるから,原告の上記主張(取消事由1-4)は理由がない。
3取消事由2(サポート要件の判断の誤り)について
(1)サポート要件の適合性について
ア本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1に関し,「医薬品や食品
のような経口投与用組成物等の品質を損なわずに優れた識別性を有する経
口投与用組成物を得ることができ,かつ,生産性にも優れたマーキング方
法を開発するという課題」を解決するための手段として,「本発明」は,酸
化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少な
くとも1種の変色誘起酸化物を分散させた経口投与用組成物の表面に,所
定のレーザー光を走査することにより,変色誘起酸化物を凝集させること
に起因した変色が生じるようにした構成を採用したことの記載があること
は,前記1(1)イ認定のとおりである。
イ次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,①実施例1ないし16にお
いて,表1のレーザー装置及び照射条件(波長355nm,平均出力8W),
表3のレーザー装置及び照射条件(波長266nm,平均出力3W)又は表
4のレーザー装置及び照射条件(波長532nm,平均出力12W)で,酸
化チタン,黄色三二酸化鉄又は三二酸化鉄錠剤を配合した,フィルムコー
ト錠等に対し,文字又は中心線をマーキングしたこと(【0038】~【0
056】,表1,表3及び表4),②表1のレーザー装置及び照射条件かつ
走査速度1000mm/secで,実施例13のフィルム錠にレーザー照
射を行い,レーザー照射前後の二酸化チタンの粒子の状態を透過型電子顕
微鏡(TEM)により観測した結果,レーザー照射後に二酸化チタンの粒子
が凝集していることが確認されたこと(【0057】~【0059】,図3,
図4),③レーザー波長に関し,レーザーは,その波長が200~1100
nmを有するものを用いることができ,好ましくは1060~1064n
m,527~532nm,351~355nm,263~266nm又は2
10~216nmの波長であり,より好ましくは527~532nm,3
51~355nm又は263~266nmの波長であること(【0022】),
④レーザー出力に関し,レーザーを走査する際の平均出力は,対象とする
経口投与用組成物の表面がほとんど食刻されない範囲で使用することがで
き,例えば,その平均出力は,0.1W~50Wであり,好ましくは1W~
35Wであり,より好ましくは5W~25Wであるが,単位時間あたりの
レーザー照射エネルギーが強すぎると,アブレーションにより錠剤表面で
食刻が発生し,変色部分まで剥がれてしまい,また,出力が弱いと変色が十
分ではないこと(【0023】),⑤レーザーの走査速度(スキャニング速
度)に関し,スキャニング速度は,特に限定されるものではないが,20m
m/sec~20000mm/secであり,また,スキャニング速度は,
高いほどマークの識別性に影響を与えることなく生産性を上げることがで
きることから,例えば,レーザー出力5Wでは,スキャニング速度は,80
mm/sec~10000mm/sec,好ましくは90mm/sec~
10000mm/sec,より好ましくは100mm/sec~1000
0mm/secであり,レーザー出力が8Wの場合には,スキャニング速
度は,250mm/sec~20000mm/sec,好ましくは500
mm/sec~15000mm/sec,より好ましくは1000mm/
sec~10000mm/secであること(【0024】),⑥単位面積
当たりのエネルギーに関し,単位面積当たりのレーザーのエネルギーは,
マーキングの可否及び経口投与用組成物の食刻の有無の観点から,390
~21000mJ/cm2
であり,好ましくは400~20000mJ/c
m2
,より好ましくは450~18000mJ/cm2
であり,また,390
mJ/cm2
より低い場合には,マークを施すことができないのに対し,2
1000mJ/cm2
より大きい場合には,食刻が生じるため,好ましくな
いこと(【0025】)の記載がある。
上記①ないし⑥の記載を総合すると,本件明細書に接した当業者は,請
求項1記載の波長(200nm~1100nm),平均出力(0.1W~5
0W)及び走査工程の走査速度(80mm/sec~8000mm/se
c)の各数値範囲内で,波長,平均出力及び走査速度を適宜設定したレーザ
ー光で,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択
される少なくとも1種の変色誘起酸化物を分散させた経口投与用組成物の
表面を走査することにより,変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させ
てマーキングを行い,「医薬品や食品のような経口投与用組成物等の品質
を損なわずに優れた識別性を有する経口投与用組成物を得ることができ,
かつ,生産性にも優れたマーキング方法を開発する」という本件発明1の
課題を解決できることを認識できるものと認められる。
したがって,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載され
たものといえるから,請求項1の記載は,サポート要件に適合するものと
認められる。同様に,請求項2ないし22の記載も,サポート要件に適合す
るものと認められる。
(2)原告の主張について
原告は,①本件明細書の発明の詳細な説明には,請求項1及び11記載の
波長(200nm~1100nm),平均出力(0.1W~50W)及び走査
工程の走査速度(80mm/sec~8000mm/sec)の全ての数値
範囲において「前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させる」という
所定の効果を奏することについての記載がないし,また,甲10(日本酸化チ
タン工業会作成の講演資料のウェブページ)の9頁には,180nm,270
nm,700nm,1000nmの「サブミクロンサイズ酸化チタン=顔料級
酸化チタン」の写真について,「上記の写真は,TEM(透過型電子顕微鏡)
を用いて撮影したものであり,実際の粒子の凝集状態を示すものではない。」
との記載があることに照らすと,TEM写真から酸化チタンが凝集している
かどうかを判別することができないのが技術常識であることがうかがえるか
ら,実際に「凝集」しているかどうか,本件明細書の記載からは不明である,
②請求項2及び12は,発明特定事項として請求項1及び11をそれぞれ引
用しているところ,本件明細書には,「単位面積当たりのエネルギー」が「3
90~21000mJ/cm2
」の数値範囲で「凝集」を生じたことについて
の実施例の裏付けがないため,上記数値範囲で「前記変色誘起酸化物の粒子
を凝集させて変色させるように」(請求項1及び11の構成)マーキングがで
きたか不明であるなどとして,本件発明1ないし22は,本件明細書の発明
の詳細な説明に記載したものといえないから,請求項1ないし22の記載が
サポート要件に違反するものではないとした本件審決の判断には誤りがある
旨主張する。
しかしながら,上記①の点については,前記(1)イの①ないし⑥の本件明細
書の発明の詳細な説明の記載を総合すると,本件発明1においては,請求項
1記載の波長(200nm~1100nm),平均出力(0.1W~50W)
及び走査工程の走査速度(80mm/sec~8000mm/sec)の各
上限値及び各下限値に臨界的意義があるのではなく,本件発明1は,上記の
各数値範囲内で波長,平均出力及び走査速度を適宜設定したレーザー光で,
酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少な
くとも1種の変色誘起酸化物を分散させた経口投与用組成物の表面を走査す
ることにより,変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させてマーキングを
行うことを課題の解決原理とする発明であるものと認められるから,原告が
主張するような全ての数値範囲において「前記変色誘起酸化物の粒子を凝集
させて変色させる」という所定の効果を奏することについての記載が必要と
されるものではない。また,表1のレーザー装置及び照射条件かつ走査速度
1000mm/secで,レーザー照射前後の酸化チタンの粒子の状態を透
過型電子顕微鏡(TEM)により観測した結果,レーザー照射後に酸化チタン
の粒子が凝集していることが確認されたことの記載があることは,前記(1)イ
の②のとおりである。さらに,原告が指摘する甲10の9頁に記載された酸
化チタンの写真は,どのような状態の酸化チタンを撮影したものであるかな
ど撮影の対象物の詳細が特定されていないことに照らすと,酸化チタンの粒
子の凝集状態をTEM写真で確認できないことの根拠にはなるものではない
し,甲10の9頁の「実際の粒子の凝集状態を示すものではない」との記載
は,単に写真の内容を説明しているものであり,TEMを用いて撮影された
写真では酸化チタンの凝集を判断できないことを説明したものとはいえない。
加えて,甲3には,「TiO2顔料」に関し,「このような凝集物は裸眼で見
ることができず,溶融加工組成物の断面を高光学倍率で観察すると,そのい
くつかは観察可能であるが,大部分は,電子顕微鏡の倍率下でのみ検出可能
である。」(訳文5頁3行~5行)との記載があり,高光学倍率の電子顕微鏡
であれば凝集の観察ができることが示されていること(前記1(3)イ(ウ))),
実施例11においては,TEMを用いて「TiO2の凝集」を確認したことの
記載があること(前記1(3)イ(カ))に鑑みると,TEM写真から酸化チタン
が凝集しているかどうかを判別することができないことが技術常識であると
いうことはできない。
次に,上記②の点については,前記(1)イの⑥の本件明細書の発明の詳細な
説明の記載(【0025】)に照らすと,「単位面積当たりのエネルギー」が
「390~21000mJ/cm2
」の数値範囲でマーキングを実行すること
により,変色誘起酸化物を凝集させることに起因した変色を生じさせること
ができることを理解することができる。
したがって,原告の上記主張(取消事由2)は理由がない。
4取消事由3(明確性要件の判断の誤り)について
(1)明確性要件の適合性について
請求項1の記載から,本件発明1は,経口投与用組成物へのマーキング方
法の発明であって,当該マーキング方法は,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び
三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種である変色誘起酸化物
を経口投与用組成物に分散させる分散工程と,波長200nm~1100n
m,平均出力0.1W~50Wの各数値範囲内のレーザー光を,変色誘起酸化
物の粒子を凝集させて変色させるように,経口投与用組成物の表面に走査さ
せる走査工程とを含み,当該走査工程が80mm/sec~8000mm/
secで実行される内容のものであることを明確に理解することができる。
また,請求項11の記載から,本件発明11は,マークを施された経口投与用
組成物の製造方法の発明であって,当該製造方法は,酸化チタン,黄色三二酸
化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種である変色誘
起酸化物を経口投与用組成物に分散させる分散工程と,波長200nm~1
100nm,平均出力0.1W~50Wの各数値範囲内のレーザー光を,変色
誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させるように,経口投与用組成物の表面
に走査させる走査工程とを含み,当該走査工程が80mm/sec~800
0mm/secで実行される内容のものであることを明確に理解することが
できる。
一方,本件明細書の発明の詳細な説明には,「変色誘起酸化物」の用語につ
いて,「本発明に用いる用語「変色誘起酸化物」とは,レーザー光の照射を受
けて,その粒子が凝集するため,変色を誘起する酸化物をいう」(【001
5】)との記載があるところ,この「変色誘起酸化物」の用語の説明は,本件
発明1及び11における「変色誘起酸化物」の内容と整合するものといえる。
したがって,請求項1及び11の記載は,明確性要件に適合するものと認
められる。同様に,請求項1を直接又は間接的に引用し,本件発明1の発明特
定事項を含む請求項2ないし10の記載,及び請求項11を直接又は間接的
に引用し,本件発明11の発明特定事項を含む請求項12ないし22の記載
から,本件発明2ないし10,12ないし22の内容を明確に把握すること
ができるから,請求項2ないし10,12ないし22の記載は,明確性要件に
適合するものと認められる。
(2)原告の主張について
原告は,本件審決は,本件発明1及び11(請求項1及び11)は,レーザ
ー光の走査工程におけるエネルギー密度,レーザー光の繰り返し率,レーザ
ースポット径,経口投与用組成物の種類,変色誘起酸化物の分散の濃度及び
状態などの条件はマーキングする際の任意の条件であって,これらを特定し
ないことで発明が不明確になるというものではないから,請求項1ないし2
2の記載は,明確性要件に違反するものではない旨判断したが,上記条件を
「マーキングする際の任意の条件」とすれば,変色誘起酸化物が受けるエネ
ルギー量を特定することができず,その結果,請求項1記載の波長,平均出力
及び走査工程の走査速度の数値範囲においても,「前記変色誘起酸化物の粒
子を凝集させて変色」する場合としない場合が生じることとなり,本件発明
1の外縁を定義することができないから,本件審決の上記判断は誤りである
旨主張する。
しかしながら,請求項1ないし22の記載から本件発明1ないし22の内
容を明確に把握することができることは,前記(1)認定のとおりであり,本件
審決が指摘する上記条件が,「マーキングする際の任意の条件」として位置づ
けられ,発明特定事項として規定されていないからといって,発明の外縁が
不明確になるものとは認められないから,原告の上記主張(取消事由3)は理
由がない。
5結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は,
縷々主張するが,いずれも理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は
認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官古河謙一
裁判官関根澄子
別紙1
【表1】
【表3】
【表4】
【図1】
【図3】【図4】
別紙2
【表2】

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