弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
       理   由
一 抗告の趣旨および理由
本件抗告の趣旨および理由は、別紙記載のとおりである。
二 当裁判所の判断
(一) 原決定は、賃金台帳が民訴法三一二条三号前段、後段の文書にあたるもの
として、抗告人に対し、右文書の提出を命じている。
(二) そこで、まず、賃金台帳が民訴法三一二条三号前段の文書にあたるかどう
かについて検討するに、同条の挙証者の利益のために作成された文書とは、身分証
明書、領収書、遺言状などのように、当該文書により直接挙証者の地位や権利権限
を証明しまたは基礎づけるために作成されたものを指すものと解するのが相当であ
る。
 ところで、賃金台帳は、使用者が各労働者について、労働日数、労働時間数、基
本給、手当など賃金計算の基礎となる事項および賃金の額を記載する台帳であり、
本来使用者が労働の実績と支払賃金との関係を明確に記録し、その額を把握するた
めの資料とすることを目的として作成されるものであつて、労働者の地位や権利権
限を証明しまたは基礎づけるために作成されるものということはできない。
 もつとも、労働基準法一〇八条、一〇九条は、使用者に賃金台帳の作成保存の義
務を課し、これによつて賃金台帳は、国の監督機関において労働者の労働条件を随
時たやすく把握するための資料としての役割を果し、その結果、労働者の利益に資
する面のあることは否定し得ないが、右のような利益が前記法条にいう挙証者の利
益にあたらないことは明らかである。
 そうすると、賃金台帳は民訴法三一二条三号前段の文書にはあたらないものとい
うべきである。
(三) つぎに、賃金台帳が民訴法三一二条三号後段の文書にあたるかどうかにつ
いて検討するに、同条の挙証者と文書の所持者との間の法律関係につき作成された
文書とは、契約書などのように両者間の法律関係そのものを記載した文書に限ら
ず、その法律関係に関係のある事項を記載した文書であれば足り、所持者が単独で
作成したか挙証者と共同で作成したか、また誰の利益のために作成したかを問わな
いものと解するのを相当とする。もつともそのような文書であつても、専ら所持者
の内部的な自己使用の目的で作成された文書、たとえば日記帳などはこれにあたら
ないと解する。
 これを本件についてみるに、賃金台帳は、抗告人と相手方らとの間の雇用関係そ
のものを記載した文書ではないが、右雇用関係に関係のある相手方らの基本給、手
当など相手方らが本案訴訟で請求する賃金請求権の基礎となる事項が記載されてい
るものであるから、抗告人が単独で作成するものとはいえ、抗告人と相手方らの間
の法律関係に関係のある事項を記載した文書ということができる。
 もつとも、前記のとおり、賃金台帳は、本来使用者が労働者に対する支払賃金の
額を明確に把握するため、すなわち使用者の便宜のために作成されるものではある
が、他面、前述のように、行政上の監督のためや労使紛争の予防解決のためにも作
成されるものであつて、日記帳などのように専ら作成者の内部的な自己使用のため
にのみ作成される文書とは異なるものである。
 そうすると、賃金台帳は民訴法三一二条三号後段の文書にあたるものというべき
である。
(四) よつて、抗告人に対し賃金台帳の提出を命じた原決定は一部理由は異なる
が結局相当であつて、本件抗告は理由がない。
 よつて民訴法四一四条、三八四条、九五条、八九条に従い主文のとおり決定す
る。
(裁判官 松村利智 塩田駿一 境野剛)
(別紙)
抗告の趣旨
一 原決定を取消す。
二 相手方の本件本文書提出命令申立を却下する。
との裁判を求める。
抗告の理由
一 原審は賃金台帳が民訴法三一二条三号前段及び後段に各該当するものとして原
決定をなしている。
二 ところで民訴法三一二条三号前段の「文書カ挙証者ノ利益ノ為ニ作成セラレ」
たものとは、身分証明書、受取書、卒業証書、遺言書の如くその文書により挙証者
の地位、権利および権限が直接明らかにされるものを指すと解すべきである。
 しかるに原審は、賃金台帳が労基法により保管を義務ずけられ労働基準監督官の
求めに応じて提出しなくてはならないと定められている(労基法一〇一条一項)こ
とを理由として前記の如く「挙証者ノ利益ノ為ニ作成セラ」れた文書に該ると認定
している。
 しかし労基法が賃金台帳の保管を命じ且つ労働基準監督官の求めに応じなくては
ならないと規定しているのは、国の監督機関において労基法の規定が忠実に守られ
ているかどうかを把握するための資料としての役割を果すためのものであり、労働
者の地位、権利、権限を明らかにするためのものになつたということは出来ない。
 又原審認定の如く「挙証者ノ利益ノ為ニ作成セラ」れたものか否かの判定をなす
について、これを文書により挙証者の地位、権利、権限が間接的にでも明らかにさ
れるものまで含めるとすれば無限に広がることが考えられる。
 よつて賃金台帳は「挙証者ノ利益ノ為ニ作成セラ」れた文書には該当しないと解
すべきである。
三 次に民訴法第三一二条三号後段の「挙証者ト文書ノ所持者トノ間ノ法律関係ニ
付作成セラ」れた文書とは、契約書、通帳の如くその文書が法律関係それ自体を記
載したものだけではなく、法律関係に関係のある事項を記載したものをも含まれる
と解されるが、その文書は挙証者と所持者に共通の文書であることを要し、所持者
が自己のためないしは他の目的により作成した文書は該当しないものと解すべきで
ある。
 しかるに原審は賃金台帳が「挙証者ト文書ノ所持者トノ間ノ法律関係ニ付作成セ
ラ」れた文書に該当すると認定している。
 しかし賃金台帳の記入、保存を労基法が定めているのは国の監督機関が行政監督
上の立場から労働者の労働条件を随時たやすく把握するために義務ずけているもの
であつてそのことが労働者の保護になつているからと謂つて直ちに挙証者と所持者
との間の法律関係に付いて作成せられたものと云うことは出来ない。
四 以上の理由により原審の本件提出命令は不当と謂うべく本申立に及んだ。

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