弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役壱年六月に処する。
     但し本裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、本判決書末尾添附検察官藤田太郎作成の控訴趣意書と題する
書面記載のとおりである。
 控訴趣意第一点について。
 検察官の主張は要するに、原判決が判示第一の窃盗の事実を認定するにあたり、
証拠として当然援用すべき検察官事務取扱検察事務官A作成の被告人第一回供述調
書を援用しないで、被告人の犯行であることの記載のない証拠を援用したのは、虚
無の証拠を以て事実を認定したものであつて、原判決には理由不備又は理由にくい
ちがいの違法があると言うのであるが検察官から起訴状記載の公訴事実を肯認した
原判決に対し、右のような理由を以て控訴の申立をすることができるかどうかとい
う点について、弁護人はかような控訴申立は不適法である、と主張するのである。
よつて案ずるに検察庁法第四条によれば、検察官は、刑事について、公訴を行い、
裁判所に法の正当な適用を請求し、且つ裁判の執行を監督する等の権限を有するの
であつて、検察官は原告官ではあるが、公益の代表者として被告人の利益のために
も上訴することができると解され、また有罪の言渡を受けた者の利益のために再審
の請求をすることができる旨規定されておるのもこの故であるが、更に進んで原判
決に刑事訴訟法第三百七十七条ないし第三百八十三条に規定する事由があるとま
は、訴訟当事者の利益不利益にかかわらす控訴裁判所に対し法の正当な適用を請求
するため、控訴の申立をすることができると解すべきである。判決確定後において
検事総長が審判の法令違反を是正するため非常上告を為し得るのもこれと同一の精
神であつて、被告人の上訴とはその性質を異にしその控訴理由を制限すべき根拠は
どこにもないの<要旨>である。従つて原判決の証拠説明に理由を附せず又は理由に
くいちがいがあるとき、たとえ原判決の事実認定が起訴状記載のとおりであ
つても、検察官は、刑事訴訟法第三百五十一条第一項、第三百七十八条第四号によ
り、前記の事由があることを理由として控訴の申立をすることができると言わなけ
ればならない。
 原判決は、罪となるべき事実として、昭和二十六年四月十日附窃盗の起訴状及び
同年二月十日附麻薬取締法違反の起訴状を引用しておるが、その窃盗というのは、
被告人がB、Cと共謀して昭和二十六年二月二日大阪市a区b町c丁目d番地D方
においてE所有の自転車一台を窃取したというのであつて、原判決は右両事実の証
拠説明として「被告人の当公廷での供述、被害者の盗難被害届書、被告人の司法警
察員に対する各供述調書、警視庁技手Fの理化学鑑識復命書、捜索差押調書」を援
用しておる。しかし、被告人の原審公判廷における供述は窃盗事実の否認であり、
被害者の盗難被害届書には被告人の犯行であることの記載がなく、記録中被告人の
司法警察員に対する供述調書は三通あるが、そのうち司法警察員Gに対する昭和二
十五年十月九日附第二回供述調書は窃盗事実に関係がなく司法警察員Hに対する昭
和二十六年二月二十三日附供述調書には中古自転車一台を窃取した旨の記載はある
が、判示窃盗事実の記載ではなく、司法警察員Iに対する昭和二十六年三月十三日
附第一回供述調書には、被告人が昭和二十六年一月二十一日B、Cと相談して大阪
市e区f町g丁目h番地J方前で中古二輪自転車一台を窃取して売却したのを始め
とし、司法巡査K作成の犯罪一覧表のとおり同年二月五日までの間に七回にわたり
自転車その他七点をC、B等と一緒に盗んだ旨の記載はあるが、公判廷において検
察官は右引用の一覧表の取調を請求しなかつたので、右の供述調書は結局原判示窃
盗事実の証拠となり得ないものであり、原判決の挙示するその他の証拠は、いずれ
も右窃盗事実とは関係のないものである。然らば記録上原判示窃盗事実認定の証拠
は全くないかというに、「大阪地方検察庁検察官事務取扱検察事務官A作成名義の
昭和二十六年四月九日附被告人の第一回供述調書には、被告人がC、Bとb町を通
行中、被告人とBとが見張を為し、Cが自転車一台を窃取したが、その他は被告人
が売却の世話をしただけで盗んだのではない旨の供述記載があり、同書面は検察官
から「検察事務官に対する第一回供述調書」として取調を請求し、弁護人において
その取調請求に異議なく且つ証拠とすることに同意し、原裁判所はその任意性を確
めた上で証拠として採用しておることが記録上明らかである。しかして、右書面作
成者の資格について、検察事務官が地方検察庁において検察官の事務を取扱う権限
はないからその点において違法ではあるが、大阪地方検察庁検察事務官作成の供述
調書として証拠能力を有すると解することができるから、被告人側の同意により右
の書面を証拠に援用し、これに前記の被害届書その他の補強証拠を取れば原判示事
実を認定し得るのであるが、原判決がそうしないで判示事実に関する記載のないい
わゆる虚無の証拠を採つて判示窃盗の事実を認定したのは、証拠理由を附せないも
のと言うべきである。論旨は理由あり、原判決は破棄を免れない。
 よつて量刑不当の控訴趣意に対する判断はこれを省略し、刑事訴訟法第三百九十
七条、第三百七十八条第四号に従つて原判決を破棄し、同法第四百条但書によつて
更に判決をする。
 罪となるべき事実
 昭和二十六年四月十日附及び同年二月十日附各起訴状記載の公訴事実のとおり、
 証拠の標目
 一、 原審第一回公判調書中被告人の供述記載(但し窃盗の事実を否認する部分
を除く)
 二、 更に判示窃盗の点につき、
 E作成の盗難被害届書の記載、
 被告人の検察事務官Aに対する第一回供述調書の記載、
 三、 麻薬取締法違反の点につき、
 被告人の司法巡査L、司法警察員G、司法巡査Mに対する各供述調書の記載、
 被告人の検察官大坪貞五郎に対する供述調書の記載、
 司法巡査作成の差押調書、司法巡査作成の捜索差押調書の各記載、
 大阪警視庁技手F作成の理化学鑑識結果復命書の記載を綜合して判示事実を認め
る。
 法令の適用
 被告人の判示行為中窃盗の点は刑法第二百三十五条、第六十条に、麻薬所持の点
は、麻薬取締法第三条第一項、第五十七条第一項に当るところ、後者につき罰金等
臨時措置法第二条、第四条を適用した上懲役刑を選択し、以上は刑法第四十五条前
段の併合罪であるから同法第四十七条、第十条により、重い窃盗罪の刑に法定の加
重をして被告人を主文の刑に処し、本件犯行の動機、態様、犯罪後の情況本件の麻
薬は自分が施用する目的で買入れたものであつて転売の目的ではなかつたことその
後麻薬中毒症状の認められないこと、その他諸般の事情を考慮すると、この際被告
人に懲役の実刑を科するよりも、その執行を猶予し、今後を戒めるに止めた方が刑
政上妥当であると思われるので、刑法第二十五条により右刑の執行を猶予する。
 (裁判長判事 瀬谷信義 判事 山崎薫 判事 西尾貢一)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛