弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審の未決勾留日数中九十日を原判決の刑に算入する。
     当審の訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人鶴田英夫が陳述した控訴の趣意は同弁護人及被告本人提出の同趣意書に記
載の通りであるから、これを引用する。
 同弁護人の趣意書第一点(憲法第三十七条第一項違反の主張)に付いて、
 論旨は要するに、原裁判所が検察官の申請に基き、公訴事実自体に関する証拠に
先ち、被告人の前科に関する前科調書、身上調書の証拠調をしたととは、当然裁判
官に被告人の人柄並本件公訴事実に付、被告人に不利な予断偏見を抱かしむる結果
を招来し、従つて右手続に基く、原判決は憲法第三十七条第一項に違反し、違法で
あると言うのであつて、その理由付けとして刑事訴訟法第二百五十六条第六項、同
項に関する最高裁昭和二五年(あ)第一〇八九号事件の判決、同法第二百九十六条
但書、同第三百一条の各趣旨をふえんし、これを援用している。
 なるほど、記録によれば、原審第一回公判において検察官から本件公訴事実自体
に関する書証十通及被告人の前科調書、身上調書各一通の各証拠調の請求がなされ
たが、前段十通の書証に付いては、被告人側の同意がなく、検察官において、これ
を撤回したため、原裁判所は被告人側の同意があつた右前科、身上両調書に付いて
のみ証拠調をなし、(右証拠調に付原裁判所が被告人及弁護人の意見を徴しなかつ
たとの弁護人の主張は誤解である)なお同期日に検察官から右撤回書証の一部に代
えて申請した証人三名の証拠決定をしたがその取調は次回公判期日になす旨決定
し、第二回公判において右証人調を施行すると共に同日検察官から刑訴第三百二十
二条の書証として改めて提出された前回撤回した被告人の自白調書の証拠調をし
た。従つて所論のように公訴事実自体に関する証拠調に先ち、前科の事実に関する
証拠調をした結果となつたこと洵に明白である。
 <要旨第一>しかしながら現行刑事訴訟法、同規則を通覧すると、裁判官に予断、
偏見を抱かしむる惧があるとして各種訴訟行為に制限を加えているのは
第一回公判期日まで、せいぜい冒頭陳述までのことであつて、(刑事訴訟法第二百
五十六条第六項、同第二百八十条、同第二百九十六条但書、同規則第百九十八条第
二項参照)法及規則の期するところは専ら裁判官をして白紙の状態において第一回
公判期日に臨ましめ、以て公判前の謂れなき予断、偏見を避けしめんとするにあつ
て、決して審理開始の後に亘り裁判官の行動を制縛せんとするものではなく、却つ
て審理開始の後においては法律専門家たる裁判官に十分信頼し、良識に基く妥当な
る審理の進行に伴い、証拠に基き順次事案の真相を究明し、以つて公正なる判決に
到達せしめんとする基本的態度を堅持してい<要旨第二>ることを看取するに足る。
尤もその後の審理に関しても所論に指摘の刑事訴訟法第三百一条の如き規定も存
ない訳ではないが、それはどこまでも一種の理想型を示したに過ぎな
い所謂訓示規定で決して前示各法条の如き重要性を有するものではない。
 又仮に所論のように公訴事実に対する立証を先にし、それ以外の前科、犯情等に
関する立証を後にすることが望ましいとしても変転極まりない生きた訴訟の過程に
おいては常に右の理想を追い難い場合もあろうし、特に法律専門家たる裁判官のみ
をして裁判の衝に当らしむる我法制下においては素人たる陪審員をしてその衝に当
らしむる陪審制の諸国とは自からその事情を異にし、右の順序を顛倒し、公訴事実
の立証に先ち前科の立証を許したからとて裁判官がその為被告人に対し、不利な予
断、偏見を抱く懸念絶無と言うべく、これ刑事訴訟法及同規則に右の如き場合にお
ける証拠調の順序に付き、何等の規定を置かなかつた所以である。
 然らば以上説明するところにより既に本論旨の謂れなきこと殆んど明白である
が、なお論皆に採用の判決は第一回公判前の手続である起訴状の記載に関するもの
である上、起訴状に記載した前科も起訴事実と同一の二つの詐欺罪であつて(その
ことは同判決の理由中にも特に強調している)本件の如き異質の前科の場合とは自
からその趣を異にするし、又前示の通り被告人等は本件前科調書等の証拠調に付い
ては同意しているのであつてこれ等の事実を前段の説明に附加するときは前顕判決
法条等の趣旨をふえん援用し以て原審の手続が憲法第三十七条第一項に違反すると
主張する本論旨の謂れないとと益々明白であろう。
 同第二点及被告本人の同趣意書(事実誤認及法令誤用の主張)に付いて、
 原判決挙示の証拠により同判決摘示の事実を肯認し得べく、右認定を左右するに
足る証左はない。又同判決は被告人が営利の目的を以て詐術を用い被害者をその住
居である久留米市から誘出し久大線Aの温泉宿に同行、同宿し、以て同女を自己の
支配内に置いた事実を認定しているのであるからして営利誘拐はこれによつて既に
既遂となつたこと明であり、その後被害者に同旅館から脱出する機会があつたか否
か、被告人の言に従い身売りに応じたか否かの如き、もとより右犯罪の成否に何等
の消長を及ぼすべき謂れがない。従つて本論旨もまたその理由がない。
 同第三点(量刑不当の主張)に付いて、
 記録及び原審で取調べた証拠によつて明かである一切の犯情に照らすと原判決の
刑は相当であつて他にこれを不当とする理由を発見し得ないので、本論旨もまたそ
の理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条刑法第二十一条刑事訴訟法第百八十一条第一項
に則り主文の通り判決する。
 (裁判長判事 下川久市 判事 青木亮忠 判事 鈴木進)

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