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裁判例


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主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,P1組合に対してエコセメント事業に係る一切の公金の支出をして
はならない。
2被告は,P2に対し,金6653万2500円及びこれに対する本判決確定
の日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。
第2事案の概要
1本件は,東京都日野市の住民である原告らが,P1組合(平成18年4月1
日に変更される前の名称はP3組合。以下「本件組合」という。)が行ってい
るエコセメント事業は違法であり,日野市が本件組合に対し負担金として支出
した金員のうちエコセメント事業に係る分は違法な公金の支出に当たるから,
日野市長であるP2にはエコセメント事業に係る分の違法な公金の支出によっ
て日野市が被った損害を賠償すべき義務がある旨主張して,地方自治法242
条の2第1項1号に基づき,本件組合に対する負担金のうちエコセメント事業
に係る分の支出の差止めを当該執行機関である被告に求めるとともに,同項4
号に基づき,当該職員であるP2に対し,日野市が住民監査請求前1年間に本
件組合に対して支出した負担金のうちエコセメント事業に係る分,すなわち,
日野市が同14年12月25日に本件組合に支出した2589万3000円,
及び同15年6月24日に本件組合に支出した4063万9500円の合計6
653万2500円並びにこれに対する本判決確定の日から支払済みまで民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求するよう,当該執行機関で
ある被告に求める住民訴訟である。
2前提となる事実
本件の前提となる事実は,次のとおりである。なお,証拠及び弁論の全趣旨
により容易に認めることのできる事実並びに当裁判所に顕著な事実は,その旨
付記しており,それ以外の事実は,当事者間に争いがない事実である。
(1)当事者等
ア原告らは,日野市の住民である。
イ被告は,日野市の執行機関である。
ウ本件組合は,地方自治法284条2項の規定に基づいて昭和55年11
月に設立された一部事務組合であり,日野市を含む25市1町(平成13
年1月に保谷市と田無市とが合併して西東京市となるまでは26市1町)
によって組織され,①一般廃棄物の最終処分を広域的に行うための最終処
分場の設置及び管理に関する事務,②一般廃棄物の焼却残さ等の処理を広
域的に行う事業に関する事務を共同で処理するものとされている。(乙
1)
(2)エコセメント事業の導入の経緯及び日野市の本件組合に対する負担金のう
ちエコセメント事業に係る分の支出の経過等
ア多摩地域の全31市町村は,平成7年10月,多摩地域ごみ減量・リサ
イクル推進会議(以下「本件推進会議」という。)を設置した。(乙3)
イ東京都清掃局は,多摩地域の全31市町村に対し,平成9年7月,多摩
地域の全市町村が共同で焼却灰全量の資源化を図るため,多摩地域にエコ
セメント工場を建設することを提案した。本件推進会議は,エコセメント
技術の導入について検討し,同10年2月,多摩地域の広域的な焼却残さ
の処理(資源化)の技術として,エコセメント化技術を有力な選択肢の1
つとして早期に導入の方向性を決定する必要があり,より具体的な検討に
着手すべきである旨の検討結果を出し,本件組合がその具体的な検討を担
当することになった。本件組合は,同年8月,プロジェクト・チームを設
置して,エコセメント化施設導入基本計画(以下「本件導入基本計画」と
いう。)について検討を開始し,同年11月25日,中間報告を発表する
とともに,寄せられた意見を基に,エコセメント化技術及び事業の評価の
拡充,施設計画の見直し,事業化に当たって必要となる市町村が負担する
事業費の経年推移,環境影響評価の実施計画案,詳細な事業スケジュール
等を新たに追加して,プラントの安全性,環境に対する影響,エコセメン
トの販路の確実性,最終処分場の延命効果及び財政負担の軽減等の面から
エコセメント化技術及び事業を評価し,施設計画,運営計画,建設計画及
びエコセメント化施設導入の課題等について取りまとめ,同11年2月,
多摩地域の最終処分場に埋立処分されている廃棄物のうち全埋立容量の約
6割を占めている焼却残さを資源化することによって最終処分場の延命を
図ることを主たる目的とする本件導入基本計画を策定した。本件推進会議
は,同月,焼却残さのエコセメント化を多摩地域の全市町村で取り組んで
いくことを再確認した。(乙4から6まで)
ウ日野市長は,平成11年3月,エコセメント事業を実施するために必要
な本件組合の組合規約(以下「本件規約」という。)の一部改正案を日野
市議会に提出し,同議会は,同月,これを可決し,また,本件組合を組織
する地方公共団体(以下「本件組織団体」という。)のうち日野市以外の
地方公共団体の長も,日野市長と同様にエコセメント事業を実施するため
に必要な本件規約の一部改正案を議会に提出し,議会はこれを可決した。
そこで,本件組合は,同月ころ,本件組織団体の協議により本件規約の一
部を改正し,本件組合が処理する事務として,新たに一般廃棄物の焼却残
さ等の処理を広域的に行う事業に関する事務を加え,東京都知事は,同年
6月11日,上記改正を認可した。(甲28,乙1,6)
エ本件組合は,平成11年8月,エコセメント事業は今後の多摩地域にお
ける廃棄物に関する施策の中で重要な役割を担うことになるとの認識から,
本件導入基本計画を基に具体的に事業化を図る際の課題となっている事業
の運営の方式や販路の確保等について検討を深めたエコセメント事業基本
計画(以下「本件事業基本計画」という。)を作成する方針を決定した。
これを受けて,東京都,本件組織団体代表及び本件組合事務局によって構
成されたエコセメント事業基本計画検討委員会(以下「本件検討委員会」
という。)が設置され,本件検討委員会は,同月から約8か月にわたり,
焼却残さの発生量,事業の運営の主体,販路の確保等について検討を行っ
て,その検討結果を取りまとめるとともに,エコセメントの施設用地とし
て本件組合の管理に係る最終処分場であるα廃棄物処分場(以下「α処分
場」という。)内を選定した。本件組合は,上記検討結果及び上記選定結
果に基づき,同12年4月,本件事業基本計画を策定した。(乙6)
オ本件組合は,平成13年4月,α処分場内に設置する予定のエコセメン
ト化施設について環境影響評価調査計画書概要を取りまとめ,これに従っ
て環境影響評価を実施し,同15年1月,その結果を環境影響評価書に取
りまとめた。(乙8,28,32)
カ(ア)本件組合の組合議会は,平成14年2月26日,平成14年度一般
会計予算を議決した。同予算には,日野市の同年度の負担金として3億
4392万6000円が計上されており,同負担金のうちエコセメント
事業に係る分は,同年度のエコセメント事業費に,平成9年度から平成
12年度までの本件組織団体別の焼却灰埋立処分実績重量を平成9年度
から平成12年度までの焼却灰総埋立処分実績重量で除して得られる数
値(埋立比率)を乗じて得られた金額であった。(甲5,乙2,弁論の
全趣旨)
(イ)日野市議会は,平成14年3月29日,平成14年度日野市一般会
計予算を議決した。同予算には,同年度の本件組合に対する負担金(以
下「平成14年度負担金」という。)として3億4881万8000円
が計上されていた。(甲8,乙18)
(ウ)日野市長は,平成14年4月1日,平成14年度負担金として3億
4392万6000円の支出を決定する旨の支出負担行為を行った。
(甲8)
(エ)本件組合は,日野市に対し,平成14年4月5日,平成14年度負
担金のうち876万4000円を管理費上半期分として支払うよう求め,
日野市長から権限の委任を受けたリサイクル推進課長は,日野市収入役
に対し,同月16日,同金員を本件組合に支払う旨の支払命令を発し,
日野市収入役は,本件組合収入役に対し,同月25日,これを支払った。
(甲9)
(オ)本件組合は,日野市に対し,平成14年5月27日,平成14年度
負担金のうち1億6319万9000円を事業費上半期分として支払う
よう求め,日野市長から権限の委任を受けたリサイクル推進課長は,日
野市収入役に対し,同年6月4日,同金員を本件組合に支払う旨の支払
命令を発し,日野市収入役は,本件組合収入役に対し,同月25日,こ
れを支払った。(甲10)
(カ)本件組合は,日野市に対し,平成14年9月25日,平成14年度
負担金のうち876万4000円を管理費下半期分として支払うよう求
め,日野市長から権限の委任を受けたリサイクル推進課長は,日野市収
入役に対し,同月30日,同金員を本件組合に支払う旨の支払命令を発
し,日野市収入役は,本件組合収入役に対し,同年10月25日,これ
を支払った。(甲11)
(キ)本件組合は,日野市に対し,平成14年12月3日,平成14年度
の負担金のうち1億6319万9000円を事業費下半期分として支払
うよう求め,日野市長から権限の委任を受けたリサイクル推進課長は,
日野市収入役に対し,同月4日,同金員を本件組合に支払う旨の支払命
令を発し,日野市収入役は,本件組合収入役に対し,同月25日,これ
を支払った。上記支出のうちエコセメント事業費は,2589万300
0円であった。(甲12)
キ本件組合は,平成14年7月,エコセメント事業実施計画(以下「本件
実施計画」という。)を策定した。(乙7)
ク本件組合は,P4・P5・P6・P7建設共同企業体(以下「P4等共
同企業体」という。)との間で,平成14年10月31日,エコセメント
化施設のための用地造成工事請負契約を締結し,同15年2月,α処分場
の敷地内においてエコセメント化施設の建設のための用地造成工事を開始
した。(弁論の全趣旨)
ケ(ア)本件組合の組合議会は,平成15年2月26日,平成15年度の本
件組合の負担金に関する議案を議決した。同議案には,日野市の同年度
の負担金として2億9102万8000円が計上されており,同負担金
のうちエコセメント事業に係る分は,同年度及び平成14年度のエコセ
メント事業費の合計に,平成9年度から平成13年度までの本件組織団
体別の焼却灰埋立処分実績重量を平成9年度から平成13年度までの焼
却灰総埋立処分実績重量で除して得られる数値(埋立比率)を乗じて得
られた金額から,日野市の平成14年度の負担金のうちエコセメント事
業に係る分を控除した残額であった。(乙17,19,21,弁論の全
趣旨)
(イ)日野市議会は,平成15年3月28日,平成15年度日野市一般会
計予算を議決した。同予算には,同年度の本件組合に対する負担金(以
下「平成15年度負担金」という。)として2億9102万8000円
が計上されていた。(乙20,21)
(ウ)本件組合は,日野市に対し,平成15年6月6日,平成15年度負
担金のうち1億3477万4000円を事業費上半期分として支払うよ
う求め,日野市長は,同月9日,同金員の支出を決定する旨の支出負担
行為を行うとともに,日野市長から権限の委任を受けたリサイクル推進
課長は,日野市収入役に対し,同日,同金員を本件組合に支払う旨の支
払命令を発し,日野市収入役は,本件組合収入役に対し,同月24日,
これを支払った。上記支出のうちエコセメント事業費は,4063万9
500円であり,日野市が同日までにエコセメント事業費として本件組
合に支出した金員の総額は,6653万2500円であった。(乙2
1)
コ本件組合は,平成15年7月,P8・P9特別共同企業体(以下「P9
等共同企業体」という。)との間でエコセメント化施設の建築工事請負契
約を,P10株式会社(以下「P10」という。)との間で運営業務委託
契約を,それぞれ締結した。エコセメント化施設の建設費の総額は,27
1億8450万円であり,エコセメント化施設の運営業務委託費は,同1
8年4月から同38年3月までの20年間で,総額530億0305万9
200円であった。(乙14,16)
サ平成16年1月,α処分場内においてエコセメント化施設の建設が開始
され,同18年3月,しゅん工し(以下,上記エコセメント化施設を「本
件施設」といい,本件施設において行おうとしているエコセメント事業を
「本件事業」という。),同年7月1日から稼働を始めた。(弁論の全趣
旨)
(3)住民監査請求
ア原告らを含む日野市の住民15名は,日野市監査委員に対し,平成15
年9月8日付けで,①本件組合は,清掃工場から出た焼却灰を原料として
エコセメントを造ろうとしているが,焼却灰を原料とするエコセメントに
は多量の有害物質が含まれており,有害物質が溶出しないという保証はな
い,②エコセメントで造られた構造物を将来取り壊す際に有害物質を含ん
だエコセメントをどのように把握し管理していくかに関する計画がない,
③エコセメント事業は,施設の建設,維持管理及び運営のために高額な負
担金を支出することになるところ,日野市についていえば,本件組合に毎
年3億4000万円ほどの負担金を支出しており,エコセメント事業を行
うと,更に毎年2億3000万円を追加して負担しなければならなくなる
にもかかわらず,負担金の額について各自治体に対する具体的な説明がさ
れないまま,エコセメント事業が開始されていることを理由に,エコセメ
ント事業に係る支出は,違法な財務会計上の行為又は怠る事実に当たる旨
主張して,日野市の本件組合に対する負担金のうちエコセメント事業に係
る分の支出の返還及びエコセメント事業の見直しを求める住民監査請求
(以下「本件監査請求」という。)を行った。(甲1)
イ日野市監査委員は,上記アの請求人に対し,平成15年11月5日付け
で,要旨,①本件組合は,地方自治法284条に基づいて設立された一部
事務組合であり,一部事務組合が設立されると,それによって共同処理す
るものとされた事務は,関係地方公共団体の権能から除外され,その事務
は一部事務組合に引き継がなければならないところ,本件組合の構成員で
ある日野市は,「一般廃棄物の最終処分を広域的に行うための最終処分場
の設置及び管理に関する事務」,「一般廃棄物の焼却残さ等の処理を広域
的に行う事業に関する事務」を本件組合に引き継いでおり,本件組合の共
同処理事務に関する事業や本件組合の本件組織団体別負担金の決定につい
ては,従わざるを得ないものと解される,②エコセメント事業については,
同10年2月から同15年7月までの間に,本件組合の理事会及び組合議
会等で審議され,日野市議会では,同11年3月にエコセメント事業を実
施するための本件規約の一部改正案の審議及びエコセメント事業に関する
請願の審査が生活文教委員会及び本会議で行われ,同15年3月にはエコ
セメント事業に関する請願の審査がまちづくり建設委員会及び本会議で行
われており,また,これまでのエコセメント事業に係る費用を含む本件組
合に対する負担金の支出については,本件組合で決定した本件組織団体別
負担金の請求に基づき,日野市会計事務規則に沿って支出負担行為及び支
出命令がされ,関係規則等に従い正当に処理されており,違法とはいえな
い,③請求人は,エコセメント事業について,将来長期間にわたる巨額の
財政負担について日野市が具体的な検討をしないまま事業の進行を認めて
いくことが「違法な財務会計上の行為又は怠る事実である」という理由か
ら,事業の見直しを求めているが,これは行政上の施策の見直しを求めて
いるものであり,政策判断の問題である,④したがって,本件エコセメン
ト事業に係る費用のこれまでの支出の返還及びエコセメント事業の見直し
を求める請求人の主張には理由がないものと判断するとして,本件監査請
求を棄却する旨の通知をした。上記アの請求人のうち原告らは,同年11
月11日,上記通知を受領した。(甲15,弁論の全趣旨)
(4)住民訴訟の提起等
ア原告らは,平成15年12月10日,当裁判所に対し,請求の趣旨を
「1被告は,P3組合に対してエコセメント事業にかかる一切の公金の
支出をしてはならない。2被告は,P2に対し,2002年10月1日
から2003年9月12日までに,P3組合に対して支出した6653万
3000円及びこれに対する本案訴訟確定の日から支払い済みまで年5分
の割合による金員の支払いを請求せよ。」とする本件訴状を提出して,本
件訴えを提起した。
イ原告らは,平成16年2月5日,前記アの請求の趣旨を「1被告は,
P3組合に対してエコセメント事業にかかる一切の公金の支出をしてはな
らない。2被告は,P2に対し,金6653万2500円及びこれに対
する本案訴訟確定の日から支払い済みまで年5分の割合による金員の支払
いを請求せよ。」と訂正する旨記載した同月3日付け訴状訂正申立書を当
裁判所に提出した。
ウ本件訴状及び平成16年2月3日付け訴状訂正申立書は,同月19日,
被告に送達された。(当裁判所に顕著な事実)
3争点
(1)日野市が本件監査請求前1年間に本件組合に対して負担金として支出した
金員のうち本件事業に係る分の支出に関する支出負担行為,支出命令及び支
出(以下,上記支出負担行為,支出命令及び支出を合わせて「本件支出1」
という。),並びに日野市が本件監査請求後に本件組合に対して負担金とし
て支出する金員のうち本件事業に係る分の支出に関する支出負担行為,支出
命令及び支出(以下,上記支出負担行為,支出命令及び支出を合わせて「本
件支出2」といい,本件支出1と併せて「本件支出等」という。)は,違法
な公金の支出に当たるか。
(2)本件支出2は,相当の確実さをもって予想されるか。
4争点に関する原告らの主張の要旨
別紙1のとおり
5争点に関する被告の主張の要旨
別紙2のとおり
第3当裁判所の判断
1前記前提となる事実のほか,証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の事実を
認めることができる(認定根拠は,各事実の後に付記することとする。)。
(1)本件組合は,本件組織団体から排出される焼却残さ及び中間処理(破砕,
再資源化等の減容量化)後の不燃物の埋立処分をα処分場において行ってい
る。α処分場は,計画期間を平成9年度から平成24年度までの16年間と
し,用地面積59.1ha,廃棄物埋立容量約250万m,覆土容量約1203
万m,全体埋立容量370万mの施設であり,平成10年1月から供用を33
開始したが,土地の選定に着手したのは平成元年度であり,事業計画,設計,
環境影響評価,施設建設等を経て供用を開始するまでに10年の歳月を費や
していた。(乙26)
(2)本件組合は,平成8年9月,本件組織団体に対し,平成13年度までの搬
入予定量についてアンケートによる調査を実施し,その結果を基に平成9年
度から平成24年度までの総搬入量を想定したところ,約270万mとなり,3
α処分場の埋立可能容量の250万mを約20万m上回るという結果とな33
った。現状のまま埋立処分を続けていくと,α処分場は,平成24年度には
満杯となるので,新たな最終処分場が必要となる。しかし,多摩地域では,
土地の高密度利用化が進み,地域住民の自然環境保全の意識が強まってきつ
つあるという状況があり,今後焼却灰を埋め立てるとしても,多摩地域に新
たな最終処分場を建設する用地を確保することは極めて困難な状況にある。
したがって,ごみの発生の回避,抑制,再使用及びリサイクルの施策を展開
するとともに,焼却灰を資源化し,最終処分場であるα処分場の延命を図る
ことが最大の課題であり,急務となっていた。(乙6,7,26)
(3)東京都清掃局は,多摩地域の全31市町村に対し,平成9年7月,多摩地
域の全市町村が共同で焼却灰全量の資源化を図るため,多摩地域にエコセメ
ント工場を建設することを提案し,多摩地域の全31市町村が設置した本件
推進会議は,エコセメント技術の導入について検討し,同10年2月,多摩
地域の広域的な焼却残さの処理(資源化)の技術として,エコセメント化技
術を有力な選択肢の1つとして早期に導入の方向性を決定する必要があり,
より具体的な検討に着手すべきである旨の検討結果を出し,本件組合がその
具体的な検討を担当することになった。本件組合は,同年8月,プロジェク
ト・チームを設置して,エコセメント化施設を導入するための本件導入基本
計画について検討を開始し,同11年2月,多摩地域の最終処分場に埋立処
分されている廃棄物のうち全埋立容量の約6割を占めている焼却残さを資源
化することによって最終処分場の延命を図ることを主たる目的とする本件導
入基本計画を策定した。本件推進会議は,同月,焼却残さのエコセメント化
を多摩地域の全市町村で取り組んでいくことを再確認した。日野市長は,同
年3月,エコセメント事業を実施するために必要な本件規約の一部改正案を
日野市議会に提出し,同議会は,同月,これを可決し,また,本件組合を組
織する日野市以外の本件組織団体の長も,日野市長と同様にエコセメント事
業を実施するために必要な本件規約の一部改正案を議会に提出し,議会はこ
れを可決した。そこで,本件組合は,同月ころ,本件組織団体の協議により
本件規約の一部を改正し,本件組合が処理すべき事務として,新たに一般廃
棄物の焼却残さ等の処理を広域的に行う事業に関する事務を加え,東京都知
事は,同年6月11日,上記改正を認可した。本件組合は,同年8月,エコ
セメント事業は今後の多摩地域における廃棄物に関する施策の中で重要な役
割を担うことになるとの認識から,本件導入基本計画を基に具体的に事業化
を図る際の課題となっている事業の運営の方式や販路の確保等について検討
を深めた本件事業基本計画を作成する方針を決定し,これを受けて,東京都,
本件組織団体代表及び本件組合事務局から構成された本件検討委員会が設置
され,本件検討委員会は,同月から約8か月にわたり,焼却残さの発生量,
事業の運営の主体,販路の確保等について検討を行って,その検討結果を取
りまとめるとともに,エコセメントの施設用地としてα処分場内を選定した。
本件組合は,上記検討結果及び上記選定結果に基づき,同12年4月,エコ
セメント事業を実施するために本件事業基本計画を策定し,同13年4月,
α処分場内に設置する予定のエコセメント化施設について環境影響評価調査
計画書概要を取りまとめ,また,同14年7月,エコセメント事業を実施す
るために本件実施計画を策定し,さらに,環境影響評価調査計画書概要に従
って環境影響評価を実施し,同15年1月,その結果を環境影響評価書に取
りまとめた。(前記前提となる事実)
(4)本件組合は,P4等共同企業体との間で,平成14年10月31日,エコ
セメント化施設のための用地造成工事請負契約を締結し,同15年2月,α
処分場の敷地内においてエコセメント化施設の建設のための用地造成工事を
開始する一方,同年7月,P9等共同企業体との間でエコセメント化施設の
建築工事請負契約を,P10との間で運営業務委託契約を,それぞれ締結し,
同16年1月,α処分場内においてエコセメント化施設の建設を開始した。
本件施設は,同18年3月,しゅん工し,同年7月1日から稼働を始めた。
(前記前提となる事実)
(5)本件施設の建設費の総額は271億8450万円であり,本件施設の運営
業務委託費は平成18年4月から同38年3月までの20年間で,総額53
0億0305万9200円である。本件事業のために支出する費用は,遅く
とも同15年7月の時点では,本件施設の建設費のうち補助金を控除した残
額180億円,本件施設の20年間の運営業務委託費及び修繕費の合計64
0億円,総計820億円であり,これに敷地造成などの関連工事費約40億
円及び起債利子分を加えると,860億円を上回る金額であり,運営業務委
託費は,固定費分163億円を除くその余の分が変動費として処理量に応じ
て変動するとともに,物価変動によっても上昇するものと試算されていた。
(乙14,15,弁論の全趣旨)
(6)施設建設費は,平成12年4月に策定された本件事業基本計画では約24
0億円であったのが,同14年7月に策定された本件実施計画では約265
億円に増えた。これは,施設の設計について施設の設計,施工,運転,維持
管理及びエコセメントの販売を一体的に民間業者が請け負うDBO方式を採
用して,本件組合が基本仕様(性能条件)を示し,民間事業者が運転及び維
持管理の面における効率化を考慮して創意工夫を加えた設計及び施工を行う
ことにより施設設計費の縮減を図ろうとしたところ,エコセメント対象量の
変更により施設の規模を縮小した反面,用地選定に伴う条件の追加や重金属
回収システムの仕様を変更した結果により生じたものである。(乙6,7,
弁論の全趣旨)
(7)事業運営費は,平成12年4月に策定された本件事業基本計画において1
年当たり約25億円であったのが,同14年7月に策定された本件実施計画
において同約26.4億円に増え,修繕費及び大型修繕の年積立分同5.6
億円を加えると,同約32億円に増えた。これは,DBO方式の採用及び契
約期間が15年から20年という長期間であることから,事業運営費の縮減
を図ることができた反面,環境対策等として,搬入車両及び搬出車両の削減
のために原料を運んできた車両をエコセメントの搬出に再利用することがで
きるように原料を石灰石から単価の高い石灰石粉に変更したり,本件事業基
本計画の策定時には未試算であった修繕費,外注費,事務部門の人件費及び
諸経費等を追加したりしたなどの結果によるものである。(甲30,乙6,
7,弁論の全趣旨)。
(8)多摩地域の最終処分量は,次のとおりである。
焼却灰不燃残さ合計
平成10年12.2万t4.2万t16.4万t
平成11年11.1万t4.7万t15.8万t
平成12年10.9万t4.3万t15.2万t
平成13年10.9万t3.3万t14.2万t
平成14年11.0万t2.2万t13.2万t
また,α処分場の埋立実績は,次のとおりである。
焼却灰不燃残さ合計体積換算
平成14年10.6万t2.1万t12.7万t(13.0万m)3
平成15年10.5万t1.7万t12.2万t(11.9万m)3
さらに,日野市内において発生したごみの処理費は,大ざっぱに把握する
と,次のとおりである。
発生抑制収集運搬中間処理最終処分合計
費(円)費(円)費(円)費(円)(円)
平成13年7800万11億6900万9億5300万4億8900万27億0900万
平成14年8600万11億9100万9億0200万4億3400万26億1300万
平成15年8600万11億6800万8億8600万3億8300万25億2300万
(乙23,弁論の全趣旨)
(9)日野市では,昭和62年,焼却施設として日野市P11を単独で建設して
一般廃棄物の焼却を行っており,日野市P11に搬入される廃棄物の処理は,
可燃ごみについてはこれを焼却し,不燃ごみ及び粗大ごみについてはこれを
破砕した後に鉄やアルミを選別し,破砕不適物については手作業で鉄やアル
ミを選別し,選別された鉄やアルミは,それぞれの資源化のルートに乗せ,
焼却灰と不燃破砕物は,α処分場に埋め立てている。また,日野市では,平
成元年からは資源回収を,同6年からは生ごみ堆肥化容器の補助及びリサイ
クル事業等を,それぞれ施策化してきたが,多摩地域の各市がごみの排出量
を減量していく中で,平成11年度には日野市の不燃ごみの量が多摩地域の
全31市町村の中で最悪という結果になった。そこで,日野市は,平成12
年10月,ごみ減量化の施策として,ダストボックスの廃止,ごみ有料化及
びごみの各戸収集を実施したところ,家庭系のごみの収集量は半減し,リサ
イクル量は約3倍となった。日野市は,同14年3月,市民参画によって
「ごみゼロプラン(日野市一般廃棄物処理基本計画)」を策定し,日野市と
してごみゼロ社会を目指す基本理念(循環型社会の形成)並びに具体的な行
動計画として,ごみの発生の回避,発生の抑制,再使用,再利用(マテリア
ルリサイクル・サーマルリサイクル)及び適正処理から成る施策を掲げた。
その後も,日野市は,事業系ごみ減量の取組やごみゼロプランを推進するた
めの「ごみ減量推進市民会議」によるマイバック運動,情報誌「エコー」の
作成及び配布による啓発活動などを行ってきた。その結果,日野市における
平成15年度1日1人当たりの可燃ごみ収集量は373.4gとなった。こ
れは,多摩地域の全30市町村(多摩地域の全市町村は,平成13年1月に
保谷市と田無市とが合併して西東京市となったことにより31市町村から3
0市町村に減じた。)では最小量である。また,資源ごみのうち,新聞紙,
段ボール,牛乳パック,雑誌,瓶,缶,古布,ペットボトル及び発泡トレー
については,各戸収集して資源化しており,総資源化率は,平成15年度に
は30.0%に達し,多摩地域の全30市町村中10位である(30市町村
の平均は26.2%)。さらに,プラスチックを資源化することを前提に,
平成16年10月現在,分別収集のモデル実験を実施中であり,平成16年
度の総ごみ量は更に減少している。(乙23,24,36,37,40,4
1,弁論の全趣旨)
(10)エコセメントとは,都市部などで発生する廃棄物のうち主たる廃棄物で
ある都市ごみを焼却した際に発生する焼却残さを主とし,必要に応じて下水
汚泥などの廃棄物を従としてエコセメントクリンカーの主原料に用い,製品
1トンにつきこれらの廃棄物をJISA1203に規定される乾燥ベースで
500kg以上使用して造られるセメントである。エコセメント技術の実証研
究は,技術委員会(委員長はP12京都大学名誉教授。構成メンバーは,学
識経験者,厚生省,通産省,運輸省及び建設省の各職員及び民間企業代表)
を設けて行われ,平成5年度,通産省の事業として開始され,その外郭団体
であるNEDOが財団法人P13に委託して実施された。同実証研究は,官
民共同で同年度から平成9年度まで実証プラント(エコセメント生産量1日
当たり50トン規模)を使用して行われ,エコセメントの特性,塩素対策,
環境対策,プラント連続運転の可否等について様々な角度から検討が加えら
れ,その研究成果から普通エコセメント及び速硬エコセメントが開発され,
同年度にエコセメント技術として確立された。エコセメント技術は,セメン
ト製造技術を応用して開発された技術であり,平成14年7月20日にJI
S規格(JISR5214)として制定された。(乙5,6,12)
(11)エコセメントクリンカーの原料に用いられる都市ごみの焼却残さ及び下
水汚泥には,重金属類及び有機化合物であるダイオキシン類を含むことがあ
る。しかし,重金属類である鉛,銅,カドミウム,水銀などの大部分は,1
300度以上の焼成工程で塩化物の形態でセメントクリンカーから分離,冷
却されて,アルカリ塩化物と共にダストとしてバグフィルタで回収されるの
で,エコセメントに含まれる重金属類は減少する。また,エコセメント中に
残存している重金属類も,焼成によって生成した鉱物の結晶構造に取り込ま
れることにより,溶出が防止される。その結果,将来,エコセメントで造ら
れた構造物を廃棄するときでも,重金属類の溶出は防止される。(乙6,弁
論の全趣旨)
(12)エコセメントは,ポルトランドセメントより塩素分が高いので,鉄筋コ
ンクリートとして使用した場合には,鉄筋の腐食が進み,コンクリートが劣
化するおそれがあり,他方,成分調整をして塩素分を除去すると,アルカリ
化が起こって,アルカリ骨材反応が起こるおそれがあるので,無筋の2次製
品(セメントボード,ブロック等)や固化材(土壌改良材)等にしか使用す
ることができない。多摩地域で生産されるエコセメント量は,年間16万ト
ン(低塩素型)から19万トン(標準型)と試算されているが,関東地区に
おける無筋系用途のセメントの販売量は,年間約300万トンと推計されて
いるので,今後,本件組合の発注に係る工事にエコセメントを使用するとと
もに,東京都及び多摩地域の市町村の公共工事において積極的にエコセメン
トを使用するよう関係機関と協議し,更なる需要が喚起されるよう取り組ん
でいくことが求められている。(乙5,弁論の全趣旨)
(13)本件施設のプラント設備は,受入れ,前処理,焼成,仕上げ,排ガス処
理,煙突,重金属の回収等を行う設備によって構成されているが,その概要
は,次のとおりである。(乙28,32)
ア受入設備
(ア)受入設備は,焼却残さ及び副資材である石灰石粉,鉄原料粉等を受
け入れて一時貯留し,前処理施設へ供給する設備で構成されている。
(イ)焼却残さには湿灰と乾燥灰がある。湿灰は,専用の搬入車両で搬入
され,受入ピットに投入され,乾燥灰は,専用の搬入車両から受入タン
クに直接空気圧送し,空気抜きにはバグフィルタを設置してその飛散を
防止する。投入後,搬入車両は管理棟内に設置する洗車設備で洗車され
る。受入ピット内の空気は脱臭装置へ強制的に吸引し,受入ピット内部
を負圧に保つとともに,管理棟1階の焼却残さ等搬入車両出入口には電
動鋼製ドアを設け,臭気の外部への流出を防止する。
(ウ)石灰石粉及び鉄原料粉は,受入サイロに直接空気圧送する。空気抜
きにはバグフィルタを設置してその飛散を防止する。
イ前処理設備
(ア)前処理設備は,湿灰の乾燥,粉砕,鉄及びアルミニウム類の回収
(磁選等)の処理を行う設備並びに乾燥させた湿灰又は乾燥灰と副資材
とを調合する設備で構成されている。
(イ)湿灰は,乾燥,破砕並びに鉄及びアルミニウム類の選別除去を行っ
た後,エコセメントの原料として最適にするため粉砕する。粉砕後の湿
灰及び乾燥灰は,副資材である石灰石粉及び鉄原料粉を加え,エコセメ
ントの原料として一定の化学成分が得られるように調合,混合する。
(ウ)湿灰を粉砕する設備並びに鉄及びアルミニウム類を回収する設備は,
建屋内に設置し,焼却残さの飛散を防止するとともに,騒音及び振動の
発生を抑制する。回収された鉄及びアルミニウム類はリサイクルする。
ウ焼成設備
(ア)焼成設備は,調合された焼却残さと副資材とを焼成する設備及び焼
成することにより生成されるクリンカを冷却する設備で構成されている。
(イ)エコセメントの原料は,焼却残さ,副資材である石灰石粉,鉄原料
粉等を均一に調合したものであり,回転する円筒形の焼成炉(ロータリ
キルン)の中で重油バーナーにより1350度以上の温度で焼成してク
リンカを生成し,生成したクリンカはクリンカクーラーで空気により急
冷される。
(ウ)焼却残さに含まれるダイオキシン類は1350度以上の高温度で分
解され,重金属類は焼却残さ中の塩素と結合し,揮発しやすい化合物と
なって排ガス中に移行し,移行した重金属類は排ガス処理工程を経て重
金属回収設備において回収される。焼成炉中の温度は連続測定して記録
されている。
エ仕上げ設備
(ア)仕上げ設備は,粉砕設備,捕集及び集じん設備並びに貯留設備で構
成されている。
(イ)焼成設備で生成されたクリンカに石こうを加えて粉砕し,エコセメ
ントに仕上げる。
オ排ガス処理設備
(ア)排ガス処理設備は,排ガス冷却設備,ろ過式集じん機,触媒脱硝塔
及び活性コークス塔で構成されている。
(イ)前処理設備の乾燥工程及び粉砕工程から排出される約200度の排
ガスには,消石灰を吹き込んで硫黄酸化物及び塩化水素を除去し,粉末
活性炭を吹き込んでダイオキシン類を吸着させて除去した上,残余の排
ガスをばいじんと共にろ過式集じん機により除去する。ろ過式集じん機
により処理した排ガスは,昇温炉で灯油バーナーにより220度まで加
熱し,脱硝効率の促進と煙突からの白煙防止を図った後,触媒脱硝塔
(アンモニアを吹き込んで塔内で触媒により反応を促進させて窒素酸化
物を分解して窒素酸化物を除去する施設)で窒素酸化物を除去する。
(ウ)焼成炉から排出される約800度の排ガスは,水と空気により約2
00度以下まで急速に冷却してダイオキシン類の再合成の抑制を図り,
急速冷却後,排ガス中に消石灰を吹き込んで,ろ過式集じん機によりば
いじん,硫黄酸化物,塩化水素及びダイオキシン類を除去する。ろ過式
集じん機により処理した排ガスには,アンモニアを加えて活性コークス
塔(硫黄酸化物を除去し,また,アンモニアを添加することによって窒
素酸化物を除去するとともに,ダイオキシン類及び水銀を除去する施
設)により窒素酸化物,硫黄酸化物及びダイオキシン類を吸着させて除
去する。
カ煙突
高さ59.5mの2本の鋼製煙突を鉄筋コンクリート製の外筒の中に設
置する。1本が焼成炉からの排ガス用であり,1本が焼却残さ等の乾燥工
程又は粉砕工程から排出される排ガス用である。
キ重金属回収設備
(ア)焼成炉からの排ガスに含まれるばいじんは,ろ過式集じん機により
捕集され,除去されるが,捕集されたばいじん(焼成飛灰)中には銅,
亜鉛,鉛等の有用な重金属が含まれている。
(イ)重金属回収設備では,焼成飛灰を水により溶解し,酸又はアルカリ
による重金属類の溶出処理,溶液の脱水処理等を経て,銅,亜鉛,鉛等
の有用な重金属を金属産物(人工鉱石)として分離回収し,金属産物
(人工鉱石)は民間の精錬工場に搬出する。
(ウ)処理工程から残さいとして水酸化カルシウムを主体とした殿物が生
ずるが,この残さいは焼成工程に戻し,エコセメント原料として再使用
する。
(エ)処理に伴って排出される排水は,下水の排除基準を十分満足する水
質として公共下水道に放流する。
(14)本件組合は,本件施設において本件事業を実施するに際し,次のような
公害防止対策を行うこととしている。(乙28,29,32)
ア大気汚染防止対策
(ア)本件組合は,大気汚染防止に係る自己規制値を,大気汚染防止法,
ダイオキシン類対策特別措置法,都民の健康と安全を確保する環境に関
する条例(平成12年東京都条例第215号。以下「環境確保条例」と
いう。)等を勘案し,本件施設における焼成炉,乾燥機及び原料粉砕機
のそれぞれについて,各種法令に定められている排出基準値の最も厳し
い基準値以下になるよう設定した。すなわち,本件施設においては,焼
成炉には大気汚染防止法におけるセメント焼成炉の基準が,乾燥機及び
原料粉砕機には大気汚染防止法等における乾燥炉の基準が,それぞれ適
用されるが,本件施設では廃棄物の焼却残さを処理することを踏まえて,
窒素酸化物,ばいじん及びダイオキシン類については廃棄物焼却炉の基
準を考慮して自己規制値を設定し,硫黄酸化物,塩化水素及び水銀につ
いては現在稼働中又は計画中の清掃工場の排出濃度を参考に自己規制値
を設定した。自己規制値は,窒素酸化物が50ppm以下,硫黄酸化物
が10ppm以下,塩化水素が10ppm以下,ばいじんが0.01m
g/mN以下,水銀が0.05mg/mN以下,ダイオキシンが0.33
05ng/mN以下である。3
(イ)本件施設では,自己規制値を達成するために,排ガス冷却設備,ろ
過式集じん機(バグフィルタ),触媒脱硝塔及び活性コークス塔等の排
ガス処理設備を設置する。
(ウ)ダイオキシン類は,①1350度以上での焼成による分解,②排ガ
スを空冷,水冷併用方式により200度以下に急速冷却することによる
再合成の防止,③活性炭を吹き込んでろ過式集じん機(バグフィルタ)
による吸着除去,④活性コークス塔による吸着除去等によって,ダイオ
キシン類対策特別措置法に基づく焼却施設に係る排出基準値0.1ng
−TEQ/mNを下回る0.05ng−TEQ/mN以下を達成する。33
イ水質汚濁防止対策
(ア)降雨水は,雨水貯留槽(1600m)に貯留し,プラント用水とし3
て再利用する。
(イ)本件施設の稼働に伴う排水は,重金属回収設備により下水排出基準
以下の水質に処理し公共下水道に放流する。
(ウ)ダイオキシン類は,重金属回収設備で廃水処理することにより,ダ
イオキシン類対策特別措置法に定める排出基準(10pg−TEQ/
l)以下として公共下水道に放流する。
ウ騒音防止対策
(ア)騒音の発生源となる機器類は,原則として建屋内に設置し,必要に
応じて消音器の設置や防音施工を行う。
(イ)屋外に設置する機器類は,必要に応じて低騒音型機器の採用や吸音
材の使用により騒音の発生を防止する。
エ振動防止対策
振動の発生源となる機器類は,十分な強度を有する基礎に設置し,必要
に応じて機器類と基礎との間にスプリングや緩衝ゴム等の防震装置を設置
し,振動対策を施す。
オ悪臭防止対策
(ア)管理棟1階の焼却残さ等搬入車両の出入口には,電動鋼製ドアを設
ける。
(イ)焼却残さの受入ピット内の空気は強制的に吸引し,受入ピット内部
を負圧に保ち,臭気が外部へ漏えいすることを防ぐ。ピット内では必要
に応じて消臭剤を噴霧するとともに,吸引した空気は吸着式脱臭装置を
通過させ,吸着処理する。
カ粉じん飛散防止対策
粉砕設備や移送設備など粉じんの発生が懸念される設備は,密閉構造と
する。建屋にろ過式集じん機を設置して,粉じんの外部への飛散を防止す
る。
(15)本件組合が地域の状況の概況及び本件事業における環境影響要因を考慮
して選定した環境影響評価項目及び予測・評価小項目について現況調査を行
ったところ,本件施設において実施する本件事業が環境に及ぼす影響は,平
成15年1月の時点においては,次のとおりであると予測,評価された。
(乙8,28,32)
ア大気汚染
(ア)α処分場敷地境界における建設機械の稼働に伴う排ガスの将来濃度
は,二酸化窒素が0.031∼0.45ppm(付加率3.8∼42.
7%),浮遊粒子状物質が0.065∼0.070mg/m(付加率3
1.0∼10.1%)となり,環境基準値のゾーン内に収まる。
(イ)工事用車両の走行に伴う排ガスの将来濃度は,二酸化窒素が0.0
31∼0.036ppm(付加率2.1%),浮遊粒子状物質が0.0
68∼0.071mg/m(付加率0.6%以下)となり,環境基準3
値を下回る。
(ウ)本件施設の稼働に伴う排ガスの予測最大着地濃度地点における将来
濃度(長期平均濃度)は,二酸化硫黄が0.008ppm(付加率1.
6%),二酸化窒素が0.032ppm(付加率1.1%),浮遊粒子
状物質が0.064mg/m(付加率0.2%),ダイオキシン類が3
0.12ng−TEQ/m(付加率0.3%),塩化水素0.0003
17ppm(付加率40.6%),水銀0.003ug/m(付加率3
9.4%)となり,環境基準値その他評価の指標を下回る。塩化水素の
付加率が一番高いのは,一般環境中のバックグラウンド濃度が十分に低
いためである。
(エ)本件施設の稼働に伴う排ガスの予測最大着地濃度地点における将来
濃度(短期高濃度)は,環境基準値その他の評価の指標を下回る。
(オ)本件施設の搬入車両及び搬出車両の走行に伴う排出ガスの将来濃度
は,二酸化窒素が0.030∼0.034ppm(付加率1.7%以
下),浮遊粒子状物質が0.066∼0.069mg/m(付加率0.3
4%以下)となり,環境基準値を下回る。
イ悪臭
本件施設の稼働時におけるα処分場敷地境界での臭気指数は,環境確保
条例に基づく規制基準値で10以下になると考えられる。風向き及びα処
分場埋立地からの臭気との複合によって規制基準を超過することがないよ
う,環境保全のための措置を確実に実行する。α処分場敷地境界での特定
悪臭物質濃度は,悪臭防止法に基づく規制基準値を下回る。
ウ騒音
(ア)建設機械の稼働に伴う建設作業騒音は,α処分場敷地境界において
最大68デシベルであり,環境確保条例に基づく指定建設作業に適用す
る勧告基準(80デシベル)を下回る。
(イ)工事用車両の走行に伴う道路交通騒音は,73∼74デシベルであ
り,すべての地点で騒音レベルが環境基準(昼間70デシベル)を上回
るが,工事用車両の走行による増加分は1デシベル未満である。
(ウ)本件施設の稼働に伴う工場及び事業場に係る騒音は,α処分場敷地
境界において最大44デシベルであり,環境確保条例に基づく工場及び
指定作業場に係る騒音の規制基準(夜間45デシベル)を下回る。
(エ)搬入車両及び搬出車両の走行に伴う道路交通騒音は,昼間72∼7
4デシベルであり,すべての地点で騒音レベルが環境基準(昼間70デ
シベル)を上回るが,搬入車両及び搬出車両の走行による増加分は1デ
シベル未満である。
エ振動
(ア)建設機械の稼働に伴う建設作業騒音は,α処分場敷地境界において
最大58デシベルであり,環境確保条例に基づく指定建設作業に適用す
る勧告基準(65デシベル)を下回る。
(イ)工事用車両の走行に伴う道路交通振動は,昼間が31∼53デシベ
ル,夜間が30∼51デシベルであり,すべての予測地点で環境確保条
例に基づく工場及び指定作業場に係る振動の規制基準(55デシベル)
を下回る。
(ウ)本件施設の稼働に伴う工場及び事業場に係る振動は,α処分場敷地
境界において最大48デシベルであり,環境確保条例に基づく工場及び
指定作業場に係る振動の規制基準(55デシベル)を下回る。
(エ)搬入車両及び搬出車両の走行に伴う道路交通振動は,昼間が30∼
53デシベル,夜間が30∼51デシベルであり,すべての予測地点で
環境確保条例に基づく工場及び指定作業場に係る振動の規制基準(55
デシベル)を下回る。
オ水質汚濁
晴天時には洗車設備からの濁水はその処理水を洗車用水として循環使用
する。降雨時には環境保全のための措置を施すことにより,大雨,豪雨時
を除き,濁水を浮遊物質量(SS)濃度25mg/l以下に処理して,βに
放流することができる。
カ地形,地質
(ア)本件施設の建設予定地の切土上部は,分布する地質に対する標準切
土法面こう配に準拠し,安定計算における最小安全率が計画安全率を上
回る。切土下部は,アンカー工法によって十分に補強し,造成に伴う斜
面の安定性を確保する。
(イ)本件施設は,十分な地耐力を有する川井層及び大荷田れき層下部層
を基礎地盤として施工し,盛土部は転圧締め固めにより盛土するととも
に,基礎地盤の十分な深さまで杭基礎を施工することから,本件施設の
荷重により盛土部の沈下は生じない。本件施設の建設予定地周辺の長大
法面付近の地盤は,建設予定地の切土こう配の安定性が確保されており,
地盤の変形は生じない。
キ水循環
(ア)工事完了後の河川の流量は,α処分場直下において5.2%,γ川
流末において1.1%増加し,流速も増加すると予測されるが,増加の
割合は少なく,年間流量の変動幅内であることから,河川等の流況に著
しい影響を及ぼすことはない。
(イ)工事完了後の地下水の水位は,本件施設の建設予定地内において,
切土及び掘削により最大25m程度低下するが,基礎地盤である大荷田
れき層下部層の主な土質が透水性の低いシルトであり,地下水低下の影
響範囲は狭く,α処分場の第2期建設工事による地下水の水位が低下し
た範囲からみて,地下水の変化は本件施設の建設予定地内に限られる。
また,本件施設の建設予定地の周辺においては,α処分場直下の地下浸
透水の量が13.2%,γ川地域の地下浸透水の量が1.3%程度減少
するが,雑用水としての地下水利用があるδ集落での地下浸透量の減少
の割合は少なく,地下水の水位の変化も少ない。
ク生物,生態系
(ア)本件事業により,杉及びひのきの植林を中心に建設予定地の75%
程度が改変され,主に植林環境による生息ないし生育環境が縮小し,樹
林地を含む生態系の規模が縮小する。
(イ)しかし,本件施設の建設予定地の23%程度は残留緑地として保全
し,その林縁植生の育成を促進すること,本件施設の建設予定地の周辺
の樹林との連続性も維持することから,植物及び動物への影響の緩和等
が可能である。なお,α処分場内の改変域に生育する注目される植物種
については,移植による保全措置を実施し,α処分場内の改変域の表土
については法面小段等の緑化に有効活用することにより,種の多様性を
確保する。
そして,α処分場内の改変域は,既に樹木の伐採等がおおむね終了し,
動物の生育はほとんど確認されていないため,新たに植物及び動物に及
ぼす影響はわずかである。埋立終了区域では迅速な緑化を行うことで,
人工改変地から草地を基盤とする生態系が構築される。
また,α処分場内の残留緑地には,本件施設の建設時に生態系への影
響が一時的に生じるが,残留緑地内の非優良林分に対して多種混交林へ
の林相転換を図ることから,動物ないし植物の生息ないし生育環境の多
様性が向上し,周辺地域の生息ないし生育基盤と一体となって猛きん類
を頂点とする高次の生態系を維持することが可能である。
さらに,水辺環境の保全ゾーンの維持管理,伐採樹木を用いたエコス
タック(小動物の隠れ場所となるように配置した石積みや丸太積み等)
の設置等を行う計画であり,多様な生育環境が確保される。
(ウ)以上によれば,本件事業の実施は,動物及び植物の生息ないし生育
環境,植物相,動物相及び生態系の多様性に著しい影響を与えることは
ない。
ケ景観
(ア)本件施設の建設予定地の造成及びプラント等の設置に伴い,人工的
な景観構成要素が増えるが,法面等の植栽,緑化等により緑の回復に努
めることから,主要な景観構成要素である樹林の改変は最小限に抑えら
れる。したがって,ε丘陵の稜線のスカイラインに変化を生じさせるこ
とはない。
(イ)ハイキングコースを含む近景域からの眺望については,α処分場の
建設による景観の変化を加え,自然的な景観の中へ人工的な景観構成要
素を付加することになるが,法面等の植栽,緑化等を行い,煙突及びプ
ラント設備については周辺景観と調和の取れた色彩とし,さらに眺望点
での植栽による遮へいを行うことにより,本件事業の実施が樹林を主体
とした景観構成及び眺望の状況を損なわないようになる。中景域以遠か
らの眺望については影響はない。
コ自然とのふれあい活動の場
本件事業の実施に伴い,自然とのふれあい活動の場であるハイキングコ
ースを物理的に改変することはないし,樹林内を通過し,移動するという
主要な活動内容を損なうことはない。樹林の間から人工的な施設をかいま
見ることができるようになるが,本件施設の色彩に配慮すること,植栽等
の検討を行うこと,本件施設の稼働に伴う悪臭,騒音,振動等について十
分な施策を施すことによって,自然とのふれあい活動を妨げる著しい障害
とはならないことから,自然とのふれあいや親しむ場は確保される。
サ廃棄物
本件事業の実施に伴い,伐採樹木等及び建設発生土が発生する。伐採樹
木等のうち,発生量の約60%は売却し,発生量の約40%は売却するこ
とができない木材,根及び枝であり,チップ化等の再利用を図る。建設発
生土は,本件施設の建設予定地内での盛土材として利用することにより排
出量を発生量の約87%に抑え,排出した建設発生土は本件組合の管理地
内に仮置きして,その全量をα処分場の覆土等として有効利用する。
シ温室効果ガス
比較対照する既存の灰融解処理の方式によりその程度は異なるが,1ト
ンの焼却残さの処理と約1.58トンのエコセメントの製造を同時に行う
エコセメント製造方式は,相対的に温室効果ガスである二酸化炭素の排出
量の少ない焼却残さの処理技術である。
(16)ア本件施設が稼働する前に既に稼働していたエコセメント化施設は,国
内ではP8及びP14の出資によって設立されたP15が市原市内に所
有する件外施設のみであり,件外施設は,平成12年以降,千葉県内で
発生する一般廃棄物(都市ごみ焼却灰等)及び産業廃棄物(汚泥等)を
受け入れてエコセメントを製造している。
イ市原市議会議員は,平成15年12月に開かれた市原市議会において,
①件外施設はロータリキルン内の耐火れんがを頻繁に交換しなければなら
ず,そのための設備保全作業がエコセメントの製造原価を圧迫しているこ
と,②脱塩素工程における炭酸ナトリウム添加剤噴射方式を,件外施設の
操業開始後に,原料との混合方式に変更し,さらに炭酸ナトリウムを高価
な炭酸カリウムに変更せざるを得なくなったこと,③排ガス処理工程にお
ける排水計画を当初の1.7倍に上方修正しなければならなくなったこと
などを指摘した。
ウ平成16年11月2日,件外施設において,除害施設の要である排ガス
処理系の脱硝設備に充てんした活性コークス粉じんが固結したもの約28
0kgが,煙突から周辺工場の敷地内に飛散するという事故が発生した。事
故の原因は,脱硝塔及び活性コークス再生塔の改造工事を実施した後の負
荷運転の過程で,各所ショート及びホッパーで活性コークスが詰まり,そ
の詰まりの解消時に活性コークスが飛散したというものであった。件外施
設においては,同月2日以降断続的に事故が発生したにもかかわらず,P
15が市原市に事故を報告したのは,同月11日であった。
(甲24,25の1及び2,弁論の全趣旨)
2争点(1)(本件支出等は,違法な公金の支出に当たるか。)について
(1)地方自治法242条の2の規定に基づく住民訴訟は,普通地方公共団体
の執行機関又は職員による同法242条1項所定の財務会計上の違法な行為
又は怠る事実の予防又は是正を裁判所に請求する権能を住民に与え,もって
地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものである(最高裁
昭和51年(行ツ)第120号同53年3月30日第一小法廷判決・民集32
巻2号485頁参照)。そうすると,同法242条の2第1項4号の規定に
基づいて同法242条1項所定の財務会計上の違法な行為又は怠る事実があ
ると認められる当該普通地方公共団体の職員に損害賠償又は不当利得返還の
請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める
訴訟は,住民訴訟の1類型として,財務会計上の行為を行う権限を有する当
該職員に対し,職務上の義務に違反する財務会計上の行為又は怠る事実に係
る当該職員の個人としての損害賠償義務又は不当利得返還義務の履行を求め
るよう,当該執行機関又は職員に対して求めるものにほかならないというべ
きである。したがって,同法242条の2第1項4号の規定に基づいて当該
職員に損害賠償義務又は不当利得返還義務の履行を求めるよう当該執行機関
又は職員に対して求めることができるのは,当該職員の行為又は怠る事実自
体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られ,たと
え当該職員の行為又は怠る事実に先行する原因行為に違法事由が存する場合
であっても,その原因行為を前提としてされた当該職員の行為又は怠る事実
自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものでなければ,同号の規定
に基づいて損害賠償義務又は不当利得返還義務の履行を求めるよう当該執行
機関又は職員に対して求めることはできないものと解するのが相当である
(最高裁昭和61年(行ツ)第133号平成4年12月15日第三小法廷判決
・民集46巻9号2753頁,最高裁平成12年(行ツ)第369号,同年
(行ヒ)第352号同15年1月17日第二小法廷判決・民集57巻1号1頁
参照)。
(2)ア本件において,原告らは,第1に,日野市が本件事業のために負担する
債務及び日野市が本件事業のために本件組合に支出する負担金は膨大な金
額に上るが,日野市がそのような債務を負担し,本件組合に負担金を支出
することによって,日野市の財政を圧迫するばかりか,日野市が環境基本
条例に基づいて策定した環境基本計画における大きな柱である「ごみゼロ
プラン」を始めとするごみの抑制策及びその他の施策を圧迫しかねないか
ら,日野市は,α処分場の延命化を図るという目的を達成するために,本
件事業を営む本件施設の導入のみならず種々の方法を検討すべきであった
にもかかわらず,本件施設の導入以外の他の方法を検討することなく,本
件組合に指示されるがままに本件施設の導入をそのまま受け入れ,本件事
業に係る負担金を支出し,又は支出しようとしていることを理由に,本件
支出等がいずれも地方自治法2条14項及び地方財政法4条1項に違反し
て違法である旨主張する(以下,この主張を「本件主張1」という。)。
イ(ア)地方財政法4条1項は,「地方公共団体の経費は,その目的を達成
するための必要且つ最小の限度をこえて,これを支出してはならな
い。」と規定するが,地方公共団体の経費は,同法3条1項の規定に基
づき,「法令の定めるところに従い,且つ,合理的な基準により」「算
定」され,予算に計上されるところ,本来歳出予算は執行機関に支払を
可能ならしめ,かつ,支出の最高限度額として執行機関を拘束するもの
であって,支出額自体を定めるものではないことから,同法4条1項は,
予算の執行において,執行機関による支出額自体を個々の経費の支出目
的を達成するための必要かつ最小の限度にとどめるよう執行機関を拘束
する趣旨で設けられた規定であり,したがって,執行機関は,同項の規
定に基づき,歳出予算に計上された個々の経費の執行に当たって,個々
の具体的な事情に基づいて最も少ない額をもって当該経費の支出目的を
達成するように努める義務を負うものと解するのが相当である。
そうすると,執行機関がした財務会計上の行為が同項に違反して違法
であるというのは,執行機関が,歳出予算に計上された個々の経費の執
行に当たって,個々の具体的な事情に基づいて最も少ない額をもって当
該経費の支出目的を達成するように努める義務に違反して財務会計上の
行為をしたことを指すことになる。
(イ)しかし,本件主張1は,前記アのとおりであるから,本件主張1の
うち,本件支出等がいずれも地方財政法4条1項に違反して違法である
旨の部分(以下「本件主張1−1」という。)は,日野市長が,平成1
4年度日野市一般会計予算に計上された平成14年度負担金及び平成1
5年度日野市一般会計予算に計上された平成15年度負担金の各執行に
当たって,個々の具体的な事情に基づいて最も少ない額をもって当該経
費の支出目的を達成するように努める義務に違反して支出負担行為等を
した旨の主張としてされたものであると解することができないことは明
らかである。そうすると,本件主張1−1は,本件支出等が地方財政法
4条1項に違反して違法である旨主張するものの,地方財政法4条1項
に違反する点を全く明らかにしていないわけであるから,本件主張1−
1は,地方財政法4条1項に違反する点を全く明らかにしていないとい
う点において,主張自体失当であるといわざるを得ない。
(ウ)以上によれば,本件主張1−1は,主張自体失当である。
ウ(ア)また,本件主張1のうち,本件支出等がいずれも地方自治法2条1
4項に違反して違法である旨の部分(以下「本件主張1−2」とい
う。)は,要するに,日野市長がα処分場の延命化を図るという目的を
達成するために採り得る種々の政策のうち本件事業を営む本件施設の導
入を選択したことが,日野市の財政を圧迫するばかりか,日野市が環境
基本条例に基づいて策定した環境基本計画における大きな柱である「ご
みゼロプラン」を始めとするごみの抑制策及びその他の施策を圧迫しか
ねないにもかかわらず,本件施設の導入以外の他の方法を検討すること
なく,本件組合に指示されるがままに本件施設の導入をそのまま受け入
れたという点において,同項に違反して違法であるから,本件支出等は
いずれも同項に違反して違法であるというものであると解することがで
きる。
(イ)前記認定事実によると,平成8,9年,多摩地域ではごみの発生の
回避,抑制,再使用及びリサイクルの施策を展開するとともに,焼却灰
を資源化し,α処分場の延命を図ることが最大の課題であり,急務とな
っていたこと,東京都清掃局は,多摩地域の全31市町村に対し,同9
年7月,多摩地域の全市町村が共同で焼却灰全量の資源化を図るため,
多摩地域にエコセメント工場を建設することを提案し,多摩地域の全3
1市町村が設置した本件推進会議は,エコセメント技術の導入について
検討し,同10年2月,多摩地域の広域的な焼却残さの処理(資源化)
の技術として,エコセメント化技術を有力な選択肢の1つとして早期に
導入の方向性を決定する必要があり,より具体的な検討に着手すべきで
ある旨の検討結果を出し,本件組合がその具体的な検討を担当すること
になったこと,本件組合は,同年8月,プロジェクト・チームを設置し
て,エコセメント化施設を導入するための本件導入基本計画について検
討を開始し,同11年2月,多摩地域の最終処分場であるα処分場に埋
立処分されている廃棄物のうち全埋立容量の約6割を占めている焼却残
さを資源化することによってα処分場の延命を図ることを主たる目的と
する本件導入基本計画を策定したこと,本件推進会議は,同月,焼却残
さのエコセメント化を多摩地域の全市町村で取り組んでいくことを再確
認したこと,日野市長は,同年3月,エコセメント事業を実施するため
に必要な本件規約の一部改正案を日野市議会に提出し,同議会は,同月,
これを可決し,本件組合を組織する日野市以外の本件組織団体の長も,
日野市長と同様にエコセメント事業を実施するために必要な本件規約の
一部改正案を議会に提出し,議会がこれを可決したので,本件組合は,
同月ころ,本件組織団体の協議により本件規約の一部を改正し,本件組
合が処理すべき事務として,新たに一般廃棄物の焼却残さ等の処理を広
域的に行う事業に関する事務を加え,東京都知事は,同年6月11日,
上記改正を認可したこと,本件組合は,P4等共同企業体との間で,同
14年10月31日,エコセメント化施設のための用地造成工事請負契
約を締結し,同15年2月,α処分場の敷地内においてエコセメント化
施設の建設のための用地造成工事を開始し,同年7月,P9等共同企業
体との間でエコセメント化施設の建築工事請負契約を,P10との間で
運営業務委託契約を,それぞれ締結し,同16年1月,α処分場内にお
いてエコセメント化施設の建設を開始し,本件施設は,同18年3月,
しゅん工し,同年7月1日から稼働を始めたことが認められる。
上記事実によると,エコセメント化施設として本件施設を設置したの
は日野市ではなく,一部事務組合である本件組合であるが,本件組合が
本件施設を設置したのは,多摩地域の全31市町村が設置した本件推進
会議が同11年2月にα処分場の延命化を図るという目的を達成するた
めに焼却残さのエコセメント化を多摩地域の全市町村で取り組んでいく
ことを再確認したことを受けて,日野市長が同年3月にエコセメント事
業を実施するために必要な本件規約の一部改正案を日野市議会に提出し,
同議会が同月にこれを可決し,本件組合を組織する日野市以外の本件組
織団体の長も,日野市長と同様にエコセメント事業を実施するために必
要な本件規約の一部改正案を議会に提出し,議会がこれを可決したので,
本件組合が同月ころに本件組織団体の協議により本件規約の一部を改正
し,本件組合が処理すべき事務として,新たに一般廃棄物の焼却残さ等
の処理を広域的に行う事業に関する事務を加えたことに基づくのである
から,本件組合が本件施設を設置したことの一因として,日野市長が遅
くとも同年2月までにα処分場の延命化を図るという目的を達成するた
めにエコセメント化施設を導入するという政策を選択したことがあった
ということができる。そうすると,日野市が本件監査請求前1年間に本
件組合に対して負担金として支出した金員に本件事業に係る分が含まれ
ることとなり,また,日野市が本件監査請求後に本件組合に対して負担
金として支出する金員に本件事業に係る分が含まれることとなるのは,
日野市長が遅くとも同年2月までにα処分場の延命化を図るという目的
を達成するためにエコセメント化施設を導入するという政策を選択をし
たことを受けて,本件組合がエコセメント化施設として本件事業を営む
本件施設を導入することを決定したことによって,本件事業に係る分が
本件組織団体の負担金に上乗せされたことによるということができる。
ところで,①一般廃棄物の焼却残さ等の処理は,普通地方公共団体の
自治事務(地方自治法2条8項)の1つであるが,同法138条の2は,
「普通地方公共団体の執行機関は,…(略)…法令,規則その他の規程に
基づく当該普通地方公共団体の事務を,自らの判断と責任において,誠
実に管理し及び執行する義務を負う。」と規定していること,及び②一
般廃棄物の焼却残さ等の処理という事務の性質上,それを具体的にどの
ような方法によって処理するかの判断を当該普通地方公共団体の長の裁
量にゆだねるのでなければ,到底適切な事務処理を期待することができ
ないものというべきであることにかんがみれば,普通地方公共団体の長
には一般廃棄物の焼却残さ等の処理という事務の執行に当たって広範な
裁量権があるものと認められるから,当該普通地方公共団体の長にその
事務の執行において裁量権の逸脱又は濫用があると認められる場合に限
り,その事務の執行は違法となり,その場合には,その事務の執行を原
因としてされた財務会計上の行為又はその事務の執行を前提にされた財
務会計上の行為も,財務会計法規に違反して違法となると解するのが相
当である(最高裁昭和46年(行ツ)第69号同52年7月13日大法廷
判決・民集31巻4号533頁,最高裁昭和55年(行ツ)第84号同6
0年9月12日第一小法廷判決・判例時報1171号62頁参照)。
そうすると,日野市長が遅くとも平成11年2月までにα処分場の延
命化を図るという目的を達成するためにエコセメント化施設を導入する
という政策を選択をしたことが,「ごみゼロプラン」を始めとするごみ
の抑制策及びその他の施策を圧迫しかねないにもかかわらず,エコセメ
ント化施設の導入以外の他の方法を検討することなく,本件組合に指示
されるがままにエコセメント化施設の導入をそのまま受け入れたという
点において地方自治法2条14項に違反して違法であることを理由に,
本件支出等がいずれも地方自治法2条14項に違反して違法であるとい
うことができるのは,日野市長がした上記選択が日野市長に付与された
裁量権を逸脱し,又は濫用したものと認められる場合に限られることに
なる。
(ウ)そこで,日野市長がしたエコセメント化施設の導入という政策の選
択が日野市長に付与された裁量権を逸脱し,又は濫用したものと認めら
れるか否かについて検討する。なお,原告らは,本件主張1−2におい
て,平成11年2月より後になって発生した事実に基づいて主張する部
分があるが,日野市長がした上記選択が日野市長に付与された裁量権を
逸脱し,又は濫用した場合に当たるか否かは,日野市長がα処分場の延
命化を図るという目的を達成するためにエコセメント化施設を導入する
という政策を選択をした,遅くとも同月までの時点を基準として判断す
べきであるから,本件主張1−2において同月より後になって発生した
事実に基づいて主張する部分は,いずれも主張自体失当といわざるを得
ない。したがって,日野市長がした上記選択が日野市長に付与された裁
量権を逸脱し,又は濫用した場合に当たるか否かの判断に当たっては,
本件主張1−2において同月より後になって発生した事実に基づいて主
張する部分はしんしゃくしないこととする。
前記認定事実によると,日野市が本件事業のために負担する債務及び
日野市が本件事業のために本件組合に支出する負担金はかなりの金額に
上ることが予想され,また,日野市がそのような債務を負担し,本件組
合に負担金を支出することによって,日野市の財政を圧迫することが懸
念されるということができる。そして,証拠(甲28)及び弁論の全趣
旨によると,日野市長がα処分場の延命化を図るという目的を達成する
ための政策としてエコセメント化施設の導入を選択した,遅くとも同月
までの時点では,エコセメント化施設の開設及び運営に要する費用の具
体的な積算はされていなかったものの,日野市は,エコセメント化施設
の導入によって日野市がかなりの財政的な負担をしなければならないこ
とや日野市の財政を圧迫する懸念があることを承知していたことを認め
ることができる。
しかし,①前記認定事実のとおり,同8,9年には,現状のまま埋立
処分を続けていくと,α処分場は,平成24年度には満杯となるので,
新たな最終処分場が必要となるが,多摩地域では,土地の高密度利用化
が進み,地域住民の自然環境保全の意識が強まってきつつあるという状
況があり,今後焼却灰を埋め立てるとしても,多摩地域に新たな最終処
分場を建設する用地を確保することは極めて困難な状況にあることから,
ごみの発生の回避,抑制,再使用及びリサイクルの施策を展開するとと
もに,焼却灰を資源化し,α処分場の延命を図ることが最大の課題であ
り,急務となっていたこと,②前記認定事実のほか,証拠(乙6)によ
ると,本件組合が平成11年2月に策定した本件導入基本計画において,
多摩地域の最終処分場に埋立処分されている廃棄物のうち全埋立容量の
約6割を占めている焼却残さを資源化することによってα処分場の延命
を図ることが可能であるとの見通しが示されたことが認められ,③前記
認定事実のとおり,多摩地域の最終処分量が同10年から同14年にか
けて漸次減少しつつあり,また,α処分場の同15年の埋立実績は同1
4年と比べて減少しているものの,これは,前記①においてごみの発生
の回避,抑制,再使用及びリサイクルの施策を展開することとした結果
であるとも考えられ,これをもってα処分場の延命を図るためにエコセ
メント事業を採用する必要はなかったということはできないこと,④証
拠(甲19の1及び2,20の1及び2,21,22)及び弁論の全趣
旨によると,ごみの発生の回避,抑制,再使用及びリサイクルの施策と
して,(i)分別収集の徹底によるごみの資源化,(ii)生ごみをたい肥化し,
そのたい肥を使った有機野菜を市民が食べるという地域内資源循環を目
指す山形県長井市の「レインボープラン」,(iii)平成14年度において
32.9%の総資源率を平成19年度までに60%にするというごみ減
量計画を立てることなどに取り組んでいるP16組合の例,(iv)生ごみ
のバイオガス化の実証実験に取り組んでいる横須賀市の例,(v)デポジッ
ト制による回収,家庭ごみの過半を占める生ごみの回収及びたい肥化事
業,ローコスト・ローテク(既存技術)による処理などによって,平成
7年から同12年までの5年間にごみ量の半減に成功しているカナダの
ノバスコシア州の例,(vi)プラスチックの再資源化があることが認めら
れるが,本件全証拠を精査しても,上記(i)から(vi)までの全部又は一部
が,本件推進会議が焼却残さのエコセメント化を多摩地域の全市町村で
取り組んでいくことを再確認した同11年2月当時において,α処分場
の延命を図るためにエコセメント事業に代えて採用すべき適当な方策で
あったことを認めることはできないのであり,また,本件全証拠を精査
しても,本件推進会議が焼却残さのエコセメント化を多摩地域の全市町
村で取り組んでいくことを再確認した同月当時において,α処分場の延
命を図るためにエコセメント事業に代えて採用すべき適当な方策が他に
あったことを認めることはできないこと,⑤前記認定事実のとおり,日
野市では,同元年からは資源回収を,同6年からは生ごみ堆肥化容器の
補助及びリサイクル事業等を,それぞれ施策化してきたが,多摩地域の
各市がごみの排出量を減量していく中で,平成11年度には日野市の不
燃ごみの量が多摩地域の全31市町村の中で最悪という結果になってい
ることからすると,本件推進会議が焼却残さのエコセメント化を多摩地
域の全市町村で取り組んでいくことを再確認した平成11年2月当時に
おいて,ごみの発生の回避,抑制,再使用及びリサイクルの施策に対す
る日野市の取組は不十分であったというべきであるが,本件全証拠を精
査しても,日野市がその当時にごみの発生の回避,抑制,再使用及びリ
サイクルの施策に対する十分な取組をしていれば,α処分場の延命を図
るためにエコセメント化施設の導入という政策を選択する必要はなかっ
たと認めることはできないこと,⑥前記認定事実のほか,証拠(甲28,
29)によると,日野市長が遅くとも同月までにα処分場の延命化を図
るという目的を達成するためにエコセメント化施設を導入するという政
策を選択をした際に,エコセメント化施設の導入以外の他の方法を十分
に検討していないまま,本件組合が同月に策定した本件導入基本計画を
そのまま受け入れたことが認められるものの,前示のとおり,同月の時
点において,α処分場の延命を図るためにエコセメント事業に代えて採
用すべき適当な方策が他にあったことを認めることはできず,また,日
野市がその当時にごみの発生の回避,抑制,再使用及びリサイクルの施
策に対する十分な取組をしていれば,α処分場の延命を図るためにエコ
セメント化施設の導入という政策を選択する必要はなかったと認めるこ
とはできないことを総合すれば,日野市長が,遅くとも同月までに,エ
コセメント化施設の導入による日野市の財政的な負担に関する予想や懸
念を承知した上で,本件組合が同月に策定した本件導入基本計画をその
まま受け入れて,α処分場の延命を図る目的で焼却灰を資源化するため
のエコセメント化施設の導入という政策を選択したことが,日野市長に
付与された裁量権を逸脱し,又は濫用した場合に当たると認めることは
できない。
そうすると,日野市長が遅くとも同月までにα処分場の延命化を図る
という目的を達成するためにエコセメント化施設を導入するという政策
を選択をしたことが,「ごみゼロプラン」を始めとするごみの抑制策及
びその他の施策を圧迫しかねないにもかかわらず,エコセメント化施設
の導入以外の他の方法を十分に検討することなく,本件組合に指示され
るがままにエコセメント化施設の導入をそのまま受け入れたという点に
おいて地方自治法2条14項に違反して違法であるということはできな
いから,その違法を理由に,本件支出等がいずれも地方自治法2条14
項に違反して違法であるということもできない。
(エ)以上によれば,本件主張1−2は,理由がない。
(3)ア本件において,原告らは,第2に,本件施設が適法かつ合理性を有する
ものでなければならないことは地方自治法及び地方財政法の趣旨から当然
であるところ,①エコセメントは,いわばごみであり,再資源化という点
からみておよそ役に立たないものであり,本件施設は,従来廃棄物処分場
に埋め立てていた焼却灰をエネルギーと鉱物という貴重な資源を消費し,
かつ,多大な費用をかけて固形のごみに転換させるだけの施設であり,循
環型社会形成推進基本法に逆行し,ごみゼロ社会を目指すという方向性に
真っ向から反する施設であり,②仮に,エコセメントに何らかの使い道が
あり,かつ,その利用を何らかの形で強制することができたとしても,そ
の製造の過程における費用支出や環境負荷に見合うものではないことを理
由に,本件施設が違法かつ合理性のない施設であることは明らかであるか
ら,本件支出等がいずれも地方自治法及び地方財政法の趣旨に違反して違
法である旨主張する(以下,この主張を「本件主張2」という。)。
イ(ア)前示のとおり,エコセメント化施設として本件施設を設置したのは,
日野市ではなく,一部事務組合である本件組合であり,本件施設の概要
及び本件施設において営む本件事業の内容を決定したのは,日野市では
なく,本件組合である。そうすると,本件主張2は,要するに,①一部
事務組合である本件組合が設置することを決めた本件施設が,従来廃棄
物処分場に埋め立てていた焼却灰をエネルギーと鉱物という貴重な資源
を消費し,かつ,多大な費用をかけて,再資源化という点からみておよ
そ役に立たないエコセメントという固形のごみに転換させるだけの施設
であり,循環型社会形成推進基本法に逆行し,ごみゼロ社会を目指すと
いう方向性に真っ向から反する施設であるという点,及び②本件施設に
おいて製造されるエコセメントがその製造の過程における費用支出や環
境負荷に見合うものではないという点において,本件施設は違法であり
かつ合理性を欠く施設として地方自治法及び地方財政法の趣旨に違反し
て違法であり,したがって,本件組合がエコセメント化施設として本件
事業を営む本件施設を設置することを決定したことが違法であるから,
本件支出等がいずれも財務会計法規に違反して違法である旨の主張であ
ると解することができる。
(イ)一部事務組合は,複数の地方公共団体がその事務の一部を共同で処
理するために設立される地方自治法上の特別地方公共団体である(同法
284条1項,2項,1条の3第3項)が,①一部事務組合が成立する
と,それによって共同処理するものとされた事務は,一部事務組合を組
織する地方公共団体の権能から除外され,当該地方公共団体は,その事
務を一部事務組合に引き継がなければならず,一部事務組合の成立によ
って当該地方公共団体についてその執行機関の権限に属する事項がなく
なったときは,その執行機関は一部事務組合の成立と同時に消滅し(同
法284条2項),一部事務組合の権能に属することとなった事務に関
する当該地方公共団体の条例又は規則は,一部事務組合の成立によって
当然には消滅するものではないものの,一部事務組合の権能に属するこ
ととなった範囲ではその効力を発揮する余地がないことになる。また,
②一部事務組合には執行機関として管理者又はこれに代わる理事会が置
かれ,一部事務組合を代表する管理者の選任方法,管理者に代えて理事
会を置くこと等は,当該一部事務組合の規約に定めるべきものとされて
いる(同法287条1項6号,2項)が,証拠(乙1)によると,本件
規約10条は,本件組合には管理者1名及び副管理者3名を置き,管理
者及び副管理者は本件組織団体の長から互選し,管理者及び副管理者の
任期は本件組織団体の長の任期により,管理者及び副管理者が本件組織
団体の長の職を失ったときはその職を失う旨定め,本件規約11条は,
本件組合には本件組織団体の長をもって構成する理事会が置かれ,理事
会は組合議会に提案すべき議案その他本件組合の運営にかかわる基本的
事項について審議する旨定めていることが認められる。また,③一部事
務組合には意思決定機関として組合議会が置かれ,組合議会の議員の定
数,任期,被選挙資格,選挙の方法,議長及び副議長に関すること等は,
当該一部事務組合の規約に定めるべきものとされている(同法287条
1項5号)が,証拠(乙1)によると,本件規約5条から7条までは,
本件組合には26名の議員から成る組合議会を置き,議員は本件組織団
体の議員のうちから各1名ずつ選出され,議員の任期は本件組織団体の
議会の議員の任期により,議員が本件組織団体の議員の職を失ったとき
はその職を失う旨定めていることが認められる。また,④一部事務組合
の経費の支弁の方法,すなわち,その経費を当該地方公共団体に分賦す
るか否か,分賦するとすればその割合,組合財産の収入で経費を支弁す
るか等は,当該一部事務組合の規約に定めるべきものとされている(同
法287条1項7号)が,証拠(乙1)によると,本件規約15条は,
本件組合の経費は本件組織団体の負担金その他の収入をもって支弁し,
負担金は本件組合の組合議会の議決を経て定める旨定めていることが認
められる。そして,一部事務組合の経費の分賦に関し,違法又は錯誤が
あると認めるときは,当該地方公共団体は経費の分賦の告知を受けた日
から30日以内に当該一部事務組合の管理者等に異議を申し出ることが
でき(同法291条1項),当該管理者等は,一部事務組合の組合議会
に諮問し,その意見を踏まえて異議の申出について決定しなければなら
ない(同条2項,3項)ものとされている。また,⑤一部事務組合の組
合議会が,(i)条例を設け,若しくは改廃する議決,(ii)予算を定める議
決,(iii)決算を認定する議決,又は(iv)その他重要な事件として一部事
務組合の規約で定める事件に関する議決をしようとする場合には,その
管理者又は理事会は,あらかじめその旨を当該地方公共団体の長に通知
しなければならず,一部事務組合の組合議会が上記(i)から(iv)までの議
決をした場合には,その管理者又は理事会は,その旨を当該地方公共団
体の長に通知しなければならない(同法287条の3,地方自治法施行
令211条の2)ものとされている。また,⑥一部事務組合を組織する
地方公共団体の当該一部事務組合からの脱退は,当該一部事務組合を組
織する地方公共団体の議会の議決を経た上で行われる当該地方公共団体
の協議が整い,かつ,都道府県知事の許可がされた場合に行われる(地
方自治法286条1項,290条)が,協議が整わない場合には,当該
地方公共団体は脱退することができず,これに関する法律上の救済方法
はない。さらに,⑦一部事務組合の解散は,これを組織する地方公共団
体の議会の議決を経た上で行われる当該地方公共団体の協議により,総
務大臣又は都道府県知事に届け出ることによって行われ(同法288条,
290条),解散の要件を定めた規定はなく,当該一部事務組合又はこ
れを組織する地方公共団体の自発的な意思に基づいて行われる。一部事
務組合が解散すれば,当該一部事務組合の事務は,当該一部事務組合を
組織する地方公共団体に引き継がれ,それまで効力を発揮する余地のな
かった当該地方公共団体の条例又は規則は効力を発揮し,また,消滅し
た執行機関も旧に復するから,その選任又は選挙を行わなければならな
いことになる。
上記①から⑦までを総合すると,地方自治法は,一部事務組合によっ
て共同処理するものとされた事務については,これを当該一部事務組合
の固有の権限とすることにより,当該事務の処理の安定の確保を図ると
ともに,当該事務の処理のための財源を当該地方公共団体の負担金その
他に求めることにより,当該事務の処理のための財政的基盤の確立を期
することとし,当該地方公共団体の当該一部事務組合に対するコントロ
ールは,当該一部事務組合の管理者若しくは理事会又は議員を通じての
み行うものとすることにとどめ,一部事務組合の財務会計上の事務の全
部又は一部に限って地方公共団体の長の権限とすることなどによって,
一部事務組合の財政的側面を地方公共団体の一般財政の一環として位置
付け,地方公共団体の財政全般の総合的運営の中で一部事務組合の財政
的基盤の確立を期することとはしていないものと解することができる。
以上のような一部事務組合とこれを組織する地方公共団体との権限の
配分関係及び本件規約の内容にかんがみると,一部事務組合である本件
組合がした事務の執行については,本件組合の組織団体である地方公共
団体の長は,上記事務の執行が著しく合理性を欠き,そのため上記事務
の執行のために必要な財務会計上の措置に予算執行の適正確保の見地か
ら看過し得ない瑕疵が存する場合でない限り,上記事務の執行を尊重し
その内容に応じた財務会計上の措置を採るべき義務があり,これを拒む
ことは許されないものと解するのが相当である(前掲最高裁平成4年1
2月15日第三小法廷判決,最高裁同15年1月17日第二小法廷判決
参照)。
(ウ)そこで,本件組合がエコセメント化施設として本件事業を営む本件
施設を設置することを決定したことが著しく合理性を欠き,そのため上
記事務の執行のために必要な財務会計上の措置に予算執行の適正確保の
見地から看過し得ない瑕疵が存すると認められるか否かについて検討す
る。
a前記認定事実のとおり,エコセメントクリンカーの原料に用いられ
る都市ごみの焼却残さ及び下水汚泥には,重金属類及び有機化合物で
あるダイオキシン類を含むことがあり,重金属類である鉛,銅,カド
ミウム,水銀などの大部分は,1300度以上の焼成工程で塩化物の
形態でセメントクリンカーから分離され,冷却されて,アルカリ塩化
物と共にダストとしてバグフィルタで回収されるので,エコセメント
に含まれる重金属類は減少するものの,エコセメント中には重金属類
が残存する。
また,前記認定事実のとおり,エコセメントは,ポルトランドセメ
ントより塩素分が高いので,鉄筋コンクリートとして使用した場合に
は,鉄筋の腐食が進み,コンクリートが劣化するおそれがあり,他方,
成分調整をして塩素分を除去すると,アルカリ化が起こってアルカリ
骨材反応が起こるおそれがあるので,無筋の2次製品(セメントボー
ド,ブロック等)や固化材(土壌改良材)等にしか使用することがで
きず,用途が限られている上,多摩地域で生産されるエコセメント量
は年間16万トン(低塩素型)から19万トン(標準型)であると試
算されているのに対し,関東地区における無筋系用途のセメントの販
売量は年間約300万トンと推計されていることから,今後,本件組
合の発注の工事にエコセメントを使用するとともに,東京都及び多摩
地域の市町村の公共工事において積極的にエコセメントを使用するべ
く関係機関と協議し,更なる需要が喚起されるよう取り組んでいくこ
とが求められている。そうすると,多摩地域で生産されるエコセメン
トの全量を賄うだけの需要を開拓することができないおそれもあり得
るものと考えられる。
また,前記認定事実のとおり,エコセメント化施設として本件施設
が稼働する前に既に稼働していたのは,P15が市原市内に所有する
件外施設のみであり,件外施設は,平成12年以降,千葉県内で発生
する一般廃棄物(都市ごみ焼却灰等)及び産業廃棄物(汚泥等)を受
け入れてエコセメントを製造しているが,市原市議会議員は,同15
年12月に開かれた市原市議会において,件外施設はロータリキルン
内の耐火れんがを頻繁に交換しなければならず,そのための設備保全
作業がエコセメントの製造原価を圧迫していることや,脱塩素工程や
排ガス処理工程において操業前の計画を操業後に変更せざるを得なく
なったことなどを指摘しており,また,同16年11月2日には,件
外施設において,除害施設の要である排ガス処理系の脱硝設備に充て
んした活性コークス粉じんが固結したもの約280kgが,煙突から周
辺工場の敷地内に飛散するという事故が発生し,その後も断続的に事
故が発生しており,そうすると,エコセメント化施設には技術的に未
熟な部分がないではないものと考えられる。
また,前示のとおり,日野市長がα処分場の延命化を図るという目
的を達成するための政策としてエコセメント化施設の導入を選択した,
遅くとも同11年2月までの時点では,エコセメント化施設の開設及
び運営に要する費用の具体的な積算はされていなかったというべきで
ある。もっとも,原告らは,本件組合が設置しようとするエコセメン
ト化施設で生産されるエコセメントの販売価格をポルトランドセメン
トの販売価格に近似するものとするために多額の税金を投入しなけれ
ばならなくなる旨主張するものの,本件全証拠を精査しても,本件組
合が設置しようとするエコセメント化施設で生産されるエコセメント
の販売価格をポルトランドセメントの販売価格に近似するものとする
ために多額の税金を投入しなければならなくなるかという問題が将来
起こり得るかということについては,遅くとも同月までの時点では,
そのような問題が将来起こり得るか否かを予想し,かつ,検討するこ
とができる状況にあったということはできない。
さらに,前記認定事実によると,エコセメント化施設は,その開設
及び運営によって,その周辺環境に相応の負荷を与えるものであると
いうことができる。
b他方,前記認定事実のとおり,エコセメント技術は,セメント製造
技術を応用して開発された技術であり,平成14年7月20日にJI
S規格(JISR5214)として制定されている。
また,前記認定事実のとおり,エコセメント中に残存している重金
属類も,焼成によって生成した鉱物の結晶構造に取り込まれることに
より溶出が防止され,その結果,将来,エコセメントで造られた構造
物を廃棄するときでも,重金属類の溶出が防止される。
また,前示のとおり,本件推進会議が焼却残さのエコセメント化を
多摩地域の全市町村で取り組んでいくことを再確認した同11年2月
当時において,α処分場の延命を図るためにエコセメント事業に代え
て採用すべき適当な方策が他にあったことを認めることはできないこ
とからすると,仮に,原告らが主張するように,本件組合が設置しよ
うとするエコセメント化施設で生産されるエコセメントの販売価格を
ポルトランドセメントの販売価格に近似するものとするために多額の
税金を投入しなければならなくなるとしても,その場合に比較検討す
べきであるのは,エコセメント化施設の開設及び運営に要する費用と
エコセメントの販売価格をポルトランドセメントの販売価格に近似す
るものとするのに要する税金との合計並びにエコセメント化施設の開
設及び運営によってその周辺環境に与える負荷の内容及び程度と,α
処分場の延命を図るためにごみの発生の回避,抑制,再使用及びリサ
イクルの施策を展開するのに要する費用とα処分場に代わる最終処分
場の開設及び運営に要する費用との合計並びにα処分場に代わる最終
処分場の開設及び運営によってその周辺環境に与える負荷の内容及び
程度とであるが,本件全証拠を精査しても,後者の方が前者よりもは
るかに低廉であり,周辺環境に与える負荷もはるかに少ないことを認
めるに足りる証拠はない。
また,前記認定事実のとおり,同8,9年には,ごみの発生の回避,
抑制,再使用及びリサイクルの施策を展開するとともに,焼却灰を資
源化し,最終処分場であるα処分場の延命を図ることが最大の課題で
あり,急務となっていた。
さらに,前示のとおり,同11年2月の時点において,α処分場の
延命を図るためにエコセメント事業に代えて採用すべき適当な方策が
他にあったことを認めることはできず,また,日野市がその当時にご
みの発生の回避,抑制,再使用及びリサイクルの施策に対する十分な
取組をしていれば,α処分場の延命を図るためにエコセメント化施設
の導入という政策を選択する必要はなかったと認めることはできない。
cそうすると,前記aに掲げた点に上記bに掲げた点も加えて総合す
ると,本件施設が従来廃棄物処分場に埋め立てていた焼却灰をエネル
ギーと鉱物という貴重な資源を消費し,かつ,多大な費用をかけて,
再資源化という点からみておよそ役に立たないエコセメントという固
形のごみに転換させるだけの施設であり,循環型社会形成推進基本法
に逆行し,ごみゼロ社会を目指すという方向性に真っ向から反する施
設であるなどということはできない。
dまた,エコセメントがその製造の過程における費用支出や環境負荷
に見合うものであるか否かの点については,①エコセメント中には重
金属類が残存すること,②エコセメントの用途が限られていて多摩地
域で生産されるエコセメントの全量を賄うだけの需要を開拓すること
ができないおそれもあり得るものと考えられること,③エコセメント
化施設の開設及び運営に要する費用の具体的な積算もないままエコセ
メント化施設の導入を決定していること,④エコセメント化施設には
技術的に未熟な部分がないではないものと考えられること,⑤エコセ
メント化施設が,その開設及び運営によって,その周辺環境に相応の
負荷を与えるものであることを勘案しても,エコセメントがその製造
の過程における費用支出や環境負荷に見合うものではないとまでいう
ことはできない。
eそうすると,①エコセメントは,いわばごみであり,再資源化とい
う点からみておよそ役に立たないものであり,本件施設は,従来廃棄
物処分場に埋め立てていた焼却灰をエネルギーと鉱物という貴重な資
源を消費し,かつ,多大な費用をかけて固形のごみに転換させるだけ
の施設であり,循環型社会形成推進基本法に逆行し,ごみゼロ社会を
目指すという方向性に真っ向から反する施設であること,②エコセメ
ントがその製造の過程における費用支出や環境負荷に見合うものでは
ないということを認めることはできないから,本件組合がエコセメン
ト化施設として本件事業を営む本件施設を設置することを決定したこ
とが著しく合理性を欠き,そのため上記事務の執行のために必要な財
務会計上の措置に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が
存すると認めることはできない。
そうすると,本件組合が設置することを決めた本件施設が,上記①
及び②を理由に違法かつ合理性を欠く施設であるという点において,
本件組合がエコセメント化施設として本件事業を営む本件施設を設置
することを決定したことが違法であるということはできないから,そ
の違法を理由に,本件支出等がいずれも財務会計法規に違反して違法
であるということはできない。
(エ)以上によれば,本件主張2は,理由がない。
(4)ア本件において,原告らは,第3に,本件事業が,本件施設の建設及び操
業によって,本件施設の周辺住民の生命身体の安全,すなわち,身体権的
人格権及び平穏生活権的人格権を脅かす違法な事業であることを理由に,
本件支出等がいずれも違法である旨主張する(以下,この主張を「本件主
張3」という。)。
イ(ア)前示のとおり,エコセメント化施設として本件施設を設置したのは,
日野市ではなく,一部事務組合である本件組合であり,本件施設の概要
及び本件施設において営む本件事業の内容を決定したのは,日野市では
なく,本件組合である。そうすると,本件主張3は,要するに,一部事
務組合である本件組合が設置することを決めた本件施設において営む本
件事業が,本件施設の建設及び操業によって,本件施設の周辺住民の生
命身体の安全,すなわち,身体権的人格権及び平穏生活権的人格権を脅
かす点において,本件組合がエコセメント化施設として本件事業を営む
本件施設を設置することを決定したことが違法であるから,本件支出等
がいずれも財務会計法規に違反して違法である旨の主張であると解する
ことができる。
(イ)そこで,本件組合がエコセメント化施設として本件事業を営む本件
施設を設置することを決定したことが著しく合理性を欠き,そのため上
記事務の執行のために必要な財務会計上の措置に予算執行の適正確保の
見地から看過し得ない瑕疵が存すると認められるか否かについて検討す
る。
原告らは,①多摩地域25市1町から集めた焼却灰及び飛灰には重金
属類,極めて有害性の高い化学物質及びダイオキシン類が大量に含まれ
ており,本件施設は多摩地域25市1町から集めた焼却灰等の全部を原
料として投入する予定であるから,大量の重金属類,極めて有害性の高
い化学物質及びダイオキシン類が本件施設に持ち込まれることになる,
②廃棄物の焼却残さの焼成に至るまでの過程及びその後の過程において,
重金属類(例えば,ヒ素,クロム,ニッケル,鉛,カドミウム,アンチ
モン,マンガン,水銀など),極めて有害性の高い化学物質(塩素化芳
香族化合物(ポリ塩化フェノール,塩化ベンゼン及び塩化ナフタリン),
脂肪族炭化水素,多核芳香族炭化水素,ニトロ多核芳香族炭化水素),
ダイオキシン類(PCDDS,PCDFS,CO−PCBS及び臭素化
ダイオキシン類(臭素化ダイオキシン,臭素化ジベンゾフラン,臭素化
塩素化ダイオキシン及び臭素化塩素化ジベンゾフラン)),窒素化合物
及び塩化水素などの有害ガス並びに粉じんなどの粒子状物質(以下,以
上を総称して「重金属類等」という。)が飛散し,又は発生するが,重
金属類等を除去するために設けられたバグフィルタ,消石灰及び粉末活
性炭の吹き込み並びに脱硝装置は,その効果が限局的なもので十分でな
いので,重金属類等を本件施設の外に全く排出させないようにすること
は困難である上,③排ガスを200度にまで急速に冷却してダイオキシ
ン類の再合成を防ごうとしようとしているが,200度ではダイオキシ
ン類の再合成を防ぐのに十分ではない,④塩素化芳香族炭化水素,脂肪
族炭化水素,多核芳香族炭化水素,ニトロ多核芳香族炭化水素,臭素化
ダイオキシン類,ヒ素,クロム,鉛,水銀などは,極めて重大な毒性を
有するにもかかわらず,法的な排出規制がないので,その排出を抑制さ
れることなく,周辺環境に排出される,⑤本件施設から排出される重金
属類等によって本件施設の周辺に住む住民には重大な健康被害が惹起さ
れるおそれが大きい旨主張し,証拠(甲31,32の1及び2,33か
ら43まで,44の1及び2,45から50まで,52の1から6まで,
53から73まで)中には上記主張に沿う部分がある。
しかし,本件施設のプラント設備の概要,本件組合が本件施設におい
て本件事業を実施するに際して行おうとしている公害防止対策,並びに
本件施設において本件事業を実施することが環境に及ぼす影響について
の予測及び評価は,平成14年7月に策定された本件事業計画及び同1
5年1月に取りまとめられた環境影響評価において明らかにされたとお
りであり,それぞれの内容は,前記認定のとおりであって,それぞれの
内容からすると,本件施設の建設及び操業によって,本件施設から人体
に有害な窒素酸化物,硫黄酸化物,ばいじん,水銀,ダイオキシン類等
(以下,以上を総称して「窒素酸化物等」という。)が排出されるおそ
れがあり,騒音,振動及び悪臭(以下,以上を総称して「騒音等」とい
う。)が発生することが認められるものの,窒素酸化物等の排出量がそ
れに被ばく等した本件施設の周辺住民の生命身体に重大な影響を与える
ほどの量に上ること,及び騒音等の発生量が本件施設の周辺住民の受忍
限度を超えるほどのものであることを認めることはできない。
また,原告らの主張に沿う上記証拠を加えて検討しても,本件施設の
建設及び操業によって,窒素酸化物等も含めて本件施設から人体に有害
な重金属類等が排出されるおそれがあり,騒音等が発生することが認め
られるものの,重金属類等の排出量がそれに被ばく等した本件施設の周
辺住民の生命身体に重大な影響を与えるほどの量に上ること,及び騒音
等の発生量が本件施設の周辺住民の受忍限度を超えるほどのものである
ことを認めることはできない。
そして,他に,本件施設の建設及び操業によって本件施設から排出さ
れる重金属類等の排出量がそれに被ばく等した本件施設の周辺住民の生
命身体に重大な影響を与えるほどの量に上ること,及び本件施設の建設
及び操業によって発生する騒音等の発生量が本件施設の周辺住民の受忍
限度を超えるほどのものであることを認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,当審に提出された証拠(なお,上記証拠には,当裁判
所が却下した原告らの申請に係る人証も含むが,原告らの申請に係る人
証は,その立証趣旨及び尋問事項等に照らし,いずれも上記の点の解明
には全く無関係か,又は上記の点の解明のために的確な人証とは認めら
れない。)を前提とする限り,本件施設の建設及び操業によって本件施
設の周辺住民の生命身体の安全が脅かされるおそれがあることを認める
ことはできないから,本件組合がエコセメント化施設として本件事業を
営む本件施設を設置することを決定したことが著しく合理性を欠き,そ
のため上記事務の執行のために必要な財務会計上の措置に予算執行の適
正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存すると認めることはできない。
そうすると,本件組合が設置することを決めた本件施設において営む
本件事業が,本件施設の建設及び操業によって,本件施設の周辺住民の
生命身体の安全,すなわち,身体権的人格権及び平穏生活権的人格権を
脅かすという点において,本件組合がエコセメント化施設として本件事
業を営む本件施設を設置することを決定したことが違法であるというこ
とはできないから,その違法を理由に,本件支出等がいずれも財務会計
法規に違反して違法であるということはできない。
(ウ)以上によれば,本件主張3は,理由がない。
(5)以上によれば,本件主張1−1は,主張自体失当であり,本件主張1−2,
本件主張2及び本件主張3は,いずれも理由がない。
そして,他に,本件支出等が財務会計法規に違反して違法であることを認
めるに足りる証拠はない。
したがって,本件支出等が違法な公金の支出に当たるということはできな
い。
3結論
以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,原告ら
の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担
について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文を適用し
て,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
杉原則彦裁判長裁判官
鈴木正紀裁判官
松下貴彦裁判官
別紙1
第1争点(1)(本件支出等は,違法な公金の支出に当たるか。)について
1エコセメントとは,ごみ焼却施設から発生する焼却残さや下水汚泥などを主
原料として作られるセメント類似のものをいう。焼却残さとは,焼却灰(廃棄
物を焼却した後の残さ物)及び飛灰(集じん機により捕集された排ガスの中の
ばいじん)を総称したものであるが,様々な化学組成の廃棄物を焼却させた後
に残るものであるため,カドミウム,鉛,水銀等の重金属類が濃縮されており,
また,廃棄物の焼却過程で生成されるダイオキシン類など毒性の極めて強い有
害物質を濃厚に含んでいる。本件施設では,主として焼却残さを主原料として,
石灰,鉄原料及び硬化遅延剤としての石こう(硫酸カルシウム)を成分調整の
目的で混和してエコセメントを製造する。
2本件施設の概要等は,次のとおりである。
(1)本件施設の主要諸元及び構成の概要は,本件組合が作成した平成14年7
月付け「環境影響評価書案」によると,次のとおりである。
ア本件施設の主要諸元
(ア)焼却残さ等の処理能力は,1日当たり約330トンである。
(イ)エコセメントの生産能力は,1日当たり約520トン(ただし,平
成15年の本件組合ニュースでは1日当たり平均430トン)である。
(ウ)運転計画は,24時間連続運転であり,年間310日稼働する予定
である。
(エ)排ガス処理は,排ガス冷却設備,ろ過式集じん機(バグフィルタと
もいう。),触媒脱硝塔(アンモニアを吹き込んで塔内で触媒により反
応を促進させて窒素酸化物を分解して窒素酸化物を除去する施設)及び
活性コークス塔(硫黄酸化物を除去し,また,アンモニアを添加するこ
とによって窒素酸化物を除去するとともに,ダイオキシン類及び水銀を
除去する施設)により行う。
(オ)煙突は,2本で,いずれも高さ59.5mの内筒鋼製煙突であり,
1本が焼成系で,煙突内径が1.96mであり,1本が乾燥系で,煙突
内径が0.96mである。
(カ)重金属の回収は,焼却灰を処理し,金属産物として1日当たり約9
トン(ただし,水分を含む。)を回収する。
イ本件施設の構成の概要
本件施設のフローシートは,受入れ,前処理(乾燥,破砕,選別,粉砕,
貯留等),クリンカ焼成(ロータリキルンによる高温処理),仕上げ(ク
リンカ粉砕,石こう添加等),排ガス処理(冷却塔,バグフィルタ等),
煙突及び重金属の回収等を行う設備で構成されている。
(2)本件施設の建設計画は,次のとおりである。
ア本件施設を設置するための地盤造成工事は,平成15年2月に着工され
た。本件組合は,P4等共同企業体との間で,同14年10月31日,代
金12億9150万円として地盤造成工事を請け負った。
イ本件施設の建設工事は,平成16年1月に着工された。本件組合は,P
9等共同企業体との間で,同15年7月31日,代金258億9000万
円(ただし,消費税を除く。)とする「多摩地域廃棄物エコセメント化施
設整備運営事業に係わる施設建設請負契約」を締結した。P8株式会社
(以下「P8」という。)は,民間企業として国内で唯一エコセメント化
施設(千葉県市原市内に所在)を所有し運営する会社であり,P9は,焼
却炉建設メーカーである。
ウ本件組合には本件施設を運営する能力がなく,そのためP10との間で,
期間20年間,代金504億7910万円として施設運営の業務委託契約
を締結している。同社は,本件施設の運営を目的として設立された会社で
ある。
(3)本件事業のために支出する費用は,次のとおりである。
ア本件施設の地盤造成工事代金は,12億9150万円である。
イ本件施設の建設工事代金は,258億9000万円(ただし,消費税を
除く。)であり,本件施設の建設に伴う上下水道整備工事及び電力関係工
事の代金は,約27億円と試算されている。
ウ本件施設の運営費は,運営期間20年間として,504億7910円で
ある。
エ本件施設の修繕費及び大型修繕年積立金は,年間約5.6億円と試算さ
れている。
オ本件施設が稼働を開始してから20年間の以上の費用の合計は,消費税
込みで約960億円と試算され,本件組合が起債した地方債の利息が24
億円から50億円としてこれを加算すると,1000億円を超える費用が
必要と試算される。
(4)本件施設の焼却残さ等の1日当たりの処理能力及び運転計画は,今後発生
する焼却灰の量から割り出されており,20年間の焼却灰の総量を計算する
と,次式のとおり,
330(t)×310(日)×20(年)=2,046,000(t)
204万6000トンとなり,これで総費用1000億円を除すと,1トン
当たり4万8875円となる。本件事業を実施すると,焼却費用に更に焼却
灰1トン当たり4万8875円の費用が上乗せされることになるが,管理型
廃棄物処理場での処理費用が1トン当たり約3万円であることを考えると,
上記費用は,高額である。その上,上記費用は,本件施設の稼働開始から2
0年間多摩地域25市1町の焼却灰を本件事業によって処理し,かつ,本件
事業の運営の過程で発生する環境破壊や本件事業において製造されたエコセ
メントの処分による環境負荷を捨象した場合の費用である。
(5)本件施設の建設費の本件組織団体別負担金は,本件組織団体の焼却灰の埋
立比率に基づいて算出するものとされており,日野市の負担金は,平成14
年度が5178万6000円(埋立比率6.00782%),平成15年度
が8127万9000円(埋立比率5.60599%)である。
3日野市の本件事業に対する支出は,地方自治法2条14項及び地方財政法4
条1項に違反しているというべきである。その理由は,次のとおりである。
(1)仮に,被告が主張するとおり,最終廃棄物である焼却灰の埋立量を減少さ
せ,埋立地の延命を図るという本件施設の主たる目的を実現することができ
たとしても,不燃破砕物が年々α処分場の寿命を縮めていくことに変わりは
なく,本件施設は,その寿命を縮める進行の度合いを緩めるという限りで,
効果があるにすぎない。そうすると,本件施設は,ごみの発生を抑制し,分
別収集を徹底して焼却及び埋立てをせずに資源化する方策と同じ意義を有す
る施設であるというにすぎず,本件施設が完成しても,焼却し埋め立てるべ
きごみはなくならないのであり,他方において,ごみの発生を抑制し,分別
収集を徹底して焼却及び埋立てをせずに資源化する方策を実現することがで
きれば,本件施設がなくても,α処分場の延命を図ることができる。したが
って,焼却及び埋立てをせずに再利用又は再資源化することができる量を増
やせるかどうか,そのためにどのくらいのコストが必要であるかを具体的に
検討すべきである。
(2)ア多摩地域の最終処分量は,次のとおり,焼却灰及び不燃残さのいずれも
減少傾向にある。
焼却灰不燃残さ合計
平成10年12.2万t4.2万t16.4万t
平成11年11.1万t4.7万t15.8万t
平成12年10.9万t4.3万t15.2万t
平成13年10.9万t3.3万t14.2万t
平成14年11.0万t2.2万t13.2万t
イα処分場の埋立実績は,次のとおりである。
焼却灰不燃残さ合計体積換算
平成14年10.6万t2.1万t12.7万t(13.0万m)3
平成15年10.5万t1.7万t12.2万t(11.9万m)3
ウ以上によると,本件組織団体及び住民のごみ減量及び再資源化の努力に
よって,確実に埋立量が減少している。
(3)本件事業のために日野市が支出する費用は,次のとおりである。
ア本件事業のために支出する費用は,前述のとおり,1000億円以上で
あるが,本件施設の建設費272億円のうち補助金を控除した残額が18
0億円,本件施設の20年間の運営業務委託費及び修繕費が640億円,
合計820億円が本件事業のために支出する費用である旨の被告の主張を
前提としても,上記820億円には敷地造成などの関連工事費約40億円
及び起債利子分が含まれていないから,これを加えると,860億円を上
回る金額ということになる(甲17)。
その上,運営業務委託費は,固定費分163億円を除くその余の分が変
動費として処理量に応じて変動するとともに,物価変動によっても上昇す
ることとされている(乙16〔16頁〕)。このような場合,運営業務委託
費は,当初に計画した額よりも増えるのが常であるが,平成12年4月に
策定された本件事業基本計画では740億円とされていたものが,同14
年7月に策定された本件実施計画では945億円(ただし,補助金の額を
含む。)に増え,実際の契約では,補助金を入れると,その予定額を上回
っている。
イ本件事業のために日野市が本件施設の完成後20年間にわたり支出する
費用は,上記880億円に平成15年度の埋立率5.6%を乗じて得た約
49億円であり,年間に換算すると,約2.4億円であるが,これは,日
野市の同年度の最終処分費3.8億円の6割を超える金額であり,ごみの
発生の抑制のための費用8500万円の2.7倍にも達する(乙23)。
(4)日野市内において発生するごみの処理量及びその処理費は,次のとおりで
ある。
ア日野市内において平成15年度に発生したごみの総量は,約5万300
0トンであり,日野市の人口は,17万人弱であるから,市民1人の1日
当たりのごみの排出量は,848gであり,これは,多摩地域の平均より
は低い(乙23)。ごみの総量のうち約7割に相当する3万7000トン
が焼却処理され,約4200トンが残灰として処分場に搬入される。そし
て,家庭で発生するごみのうち約45%が生ごみである(乙24)から,
これが焼却されないこととなると,残灰も半分に減ることになる。資源化
率は30%であり,処分場の埋立実績は,平成11年度以降減少傾向が続
いており,平成15年度で焼却残灰が4200トン,破砕不燃が900ト
ンという状態である(乙23)。
イ日野市内において発生したごみの処理費は,大ざっぱに把握すると,次
のとおりである(乙23)。
発生抑制収集運搬中間処理最終処分合計
費(円)費(円)費(円)費(円)(円)
平成13年7800万11億6900万9億5300万4億8900万27億0900万
平成14年8600万11億9100万9億0200万4億3400万26億1300万
平成15年8600万11億6800万8億8600万3億8300万25億2300万
最終処分費の7,8割が本件組合の負担金であり,また,本件施設は廃
棄物が焼却灰となることを前提にするものであることからすると,日野市
内において発生したごみの処理費のうち,中間処理費及び最終処分費の半
分以上が焼却による処理に起因して発生する費用である。収集運搬費が高
いのは,資源ごみの回収量の増加や容器包装サイクル法による回収におけ
る自治体の負担が大きいことによる(乙24)。
ウ以上によると,日野市内において平成15年度に発生したごみの総量を
処理する費用は,資源化も含めて,1トン当たり4万8000円にすぎな
いが,本件施設において焼却灰を処理する費用は,焼却灰1トン当たり平
均5万7000円である。そして,日野市は,本件施設の操業開始後は,
同市内において発生したごみの処理費としてそれ以前の倍以上の財政支出
を義務付けられることになるのである。したがって,本件施設のために負
担金を支出することや債務を負担することは,日野市の財政を圧迫するば
かりか,日野市が日野市環境基本条例(平成7年日野市条例第18号。以
下「環境基本条例」という。)に基づいて策定した環境基本計画における
大きな柱である「ごみゼロプラン」を始めとするごみの抑制策及びその他
の施策を圧迫しかねない。
(5)日野市は,次のとおり,本件組合が本件施設を導入するに当たって,本件
施設の効果と負担を検討していない。
ア日野市におけるごみ行政の目的は,一般廃棄物の処理であり,その基本
方針は,環境基本条例に基づいて策定された環境基本計画における大きな
柱である「ごみゼロのまちづくり」である。最終処分場の延命策は,循環
型社会形成推進基本法にいう優先順位の低い最後のごみ処理方策であり,
その前にリデュース,リユース及びリサイクルを検討しなければならない
はずである。
イそして,最終処分場の延命化を図るという行政目的を達成するための方
法で他に安価な方法は,次のとおり,複数存在する。
(ア)ごみの収集において分別を徹底すれば,ごみの収集が資源の収集と
なり,ごみの発生を抑制する結果となる。
(イ)家庭及び事業所から出る生ゴミ,枯れ葉,せん定枝などの有機物を
分別収集して生分解してたい肥化又は土壌化を図れば,焼却するごみの量
はほぼ半分に減少する。そして,次のとおり,これを実践している自治体
の例がある。
a山形県長井市の「レインボープラン」とは,生ごみをたい肥化し,
そのたい肥を使った有機野菜を市民が食べるという地域内資源循環を
目指す計画であり,平成9年からコンポストセンターが稼働を開始し,
5014世帯が年間1500トンの生ごみを出し,もみ殻や畜ふんを
混ぜて約600トンのたい肥を作り,農家がそのたい肥を利用して農
作物を栽培している。「レインボープラン」の実施によって可燃ごみ
が33%以上減った旨報告されている(甲19の1及び2)。
b一部事務組合であるP16組合は,平成14年度において39.2
%の総資源率を平成19年度までに60%にするというごみ減量計画
を立てるとともに,同年度を目標として「生ごみ」と「せん定枝」を
すべてたい肥にする「全量たい肥化」を推進し,大規模たい肥化施設
だけでなく,家庭用,会社用,地域用及びせん定枝用と,きめ細かく
対応している。生ごみたい肥化処理施設「P17」は,大規模たい肥
化施設のモデル地区として全世帯の約50%に相当する8600世帯
を選定して処理を開始し,平成15年の処理量の予定は166トン,
年間1600トンの処理能力を持っている(甲20の1及び2)。
c横須賀市は,生ごみのバイオガス化の実証実験に取り組み,ガス化
施設によってクリーンなエネルギーを生成するとともに,生成された
バイオガスでごみ収集車を走らせ,可燃ごみの約37%の減量化に成
功している。可燃ごみを大幅に減らすことによって,その分焼却炉を
小さくすることができるというメリットがある。新技術ではあるが,
燃やすことができるごみを全量焼却した場合と,焼却施設とバイオガ
ス化プラントを組み合わせた場合との経済性及び環境負荷の比較など
を行いつつ,実証実験を重ねている(甲21)。
d人口94万人のカナダのノバスコシア州において,埋立地の紛争を
きっかけに,市民と市役所が協同で「ごみエミッションプラン」を策
定し,ごみを焼却せずに資源として取り扱い,デポジット制による回
収,家庭ごみの過半を占める生ごみの回収及びたい肥化事業,ローコ
スト・ローテク(既存技術)による処理などによって,平成7年から
同12年までの5年間にごみ量の半減に成功している。
(ウ)日野市では容器包装リサイクル法に伴う再資源化の検討がいまださ
れていないため,プラスチックが焼却されているが,再資源化の検討の
結果によっては,プラスチックを焼却しないで済むことになる。
ウ上記の方法と本件事業とを比較検討して初めて本件事業に対する支出の
合法性が担保されるにもかかわらず,日野市は,そのような検討を一切行
うことなく,また,本件組合に対しそのような検討を指示することなく,
本件組合が決定し指示するままに,本件事業に係る負担金を支出し,又は
支出しようとしている。したがって,本件事業に対する支出の合法性が担
保されているとはいえない。
エまた,日野市は,焼却工場でごみを焼却することによって発生する焼却
灰をそのまま貯蔵した場合のコストの計算すら検討していない。今後20
年という歳月が経過する間には,科学技術が進歩して,安全で効率的な処
理技術が開発されたり,再資源化の技術やシステムが向上したりすること
によって,焼却灰の量が減少していく可能性が十分にあるから,焼却灰を
そのまま貯蔵した場合のコストの計算をすることは意味のあることである
にもかかわらず,日野市は,そのような計算すら検討していないのである。
したがって,本件事業に対する支出の合法性が担保されているとはいえな
い。
(6)以上によれば,本件事業に対する支出は,地方自治法2条14項及び地方
財政法4条1項に違反して違法であるというべきである。
4本件施設が違法であり,合理性を有しないことは,明らかであるから,日野
市の本件事業に対する支出は,地方自治法及び地方財政法の趣旨に照らし違法
である。その理由は,次のとおりである。
(1)本件施設は,次のとおり,廃棄物処理政策において社会的有用性がなく何
らの効果も有しない施設である。
アエコセメントは,焼却残さというごみからエコセメントというごみへと
形を変えるだけの施策である。
(ア)エコセメントは,次のとおり,いまだ商品としての評価も安全性も
耐久性も定まらないごみである。
aエコセメントは,有害物質を含んでいるので,質が悪く,また,焼
却灰という成分の一定しない廃棄物を利用するため,製品としての品
質が一定せず,不安定である。
bまた,製品が安全であるというためには,当該製品の使用期間の全
期間にわたって,当該製品の安全性についての実証研究がされるべき
であるが,エコセメントは,平成5年から同8年まで,通商産業省
(現在は経済産業省。以下「通産省」という。)管轄の「新エネルギ
ー・産業技術総合開発機構」の実証研究として開発が行われ,愛知県
渥美郡ζに建設した実証プラント(年間2万トン弱の製造能力)で製
造技術が確立したとされた。しかし,エコセメントは,1350度と
いう高温を24時間連続して維持したまま焼却灰を処理することによ
り生産されるものであるが,ロータリキルン(焼却炉)を高温の状態
に維持するための耐火れんが,処理の過程で発生する排ガスから有害
物質を除去するための除害施設等の維持管理技術が定まっておらず,
排ガスを急激に冷却することによってダイオキシンの再合成を防止す
ることは,技術的に解決されておらず,高温維持のためのエネルギー
コストや施設の維持管理のための膨大なコストの削減という問題も解
決されていないのであり,また,科学者からは,6分の1規模の実証
試験だけで,技術が確立したと判断するのは早計である旨の批判があ
る。したがって,エコセメントは,実証研究が始まったばかりの研究
途上の技術であり,10年程度の研究で一応の生産技術が確立された
にすぎないのであり,製品としての安定性,安全性又は耐久性が実証
されたわけではない。
ところが,山陽新幹線などのコンクリート落下事件などにおいて,
ポルトランドセメントを使用したコンクリートには30年,40年と
いった長期的な安全性の検証が求められていることが示されている。
したがって,エコセメントは,製品としての安定性,安全性又は耐
久性が実証されていない以上,ポルトランドセメントのように橋脚や
高速道路の主要構造の部分などに使用することはできない。仮に,エ
コセメントを橋脚や高速道路の主要構造の部分に使用したとしても,
その後の補修等に莫大な手間とコストを要することになりかねず,大
事故につながる可能性がある。
そのためエコセメントは,コンクリート2次製品にしか利用されて
いない。実証プラントにおいて製造されたエコセメントは,P15株
式会社(以下「P15」という。)が千葉県市原市内に所有するエコ
セメント化施設(以下「件外施設」という。)の構造物に用いられた
が,件外施設は,同11年に建築されたにもかかわらず,同17年に
は一部にはく離やひび割れが生じている(甲26)。
cまた,エコセメントは,ポルトランドセメントより塩素分が高いの
で,鉄筋コンクリートとして使用した場合には,鉄筋の腐食が進み,
コンクリートが劣化する可能性があり,他方,成分調整をして塩素分
を除去すると,アルカリ化が起こって,アルカリ骨材反応が起こる危
険をはらんでいる。
dさらに,現在稼働しているエコセメント化施設は,国内ではP8及
びP14株式会社(以下「P14」という。)が出資して設立された
P15が千葉県市原市内に所有する件外施設のみであり,件外施設は,
千葉県内で発生する一般廃棄物(都市ごみ焼却灰等)及び産業廃棄物
(汚泥等)を年間9万トン受け入れて11万トンのエコセメントを製
造しているといわれている。
しかし,件外施設は,平成12年から稼働しているものの,エコセ
メントの技術がいまだ確立していないため,次のとおり,事故や焼成
炉内の耐火れんがの劣化等により運転停止を繰り返しており,このこ
とからすると,エコセメントの技術は,技術的に未熟であり,エコセ
メント化施設は,工場として全く未完成なものとしかいいようがない。
件外施設も,施設の継ぎ足しや改造によって何とか操業を続けている
にすぎず,完成された施設としての設計及び稼働は,本件施設が初め
てであり,本件施設がきちんと稼働するかどうかは,不明である。
(a)件外施設は,操業開始の当初から,ロータリキルン内の耐火れ
んがを頻繁に交換しなければならず,その度に件外施設を停止して
おり,その設備保全作業が件外施設で生産されるエコセメントの製
造原価を圧迫してきた。そのため,市原市が件外施設に搬入する焼
却灰の料金は,当初は焼却灰1トン当たり3万5000円から4万
円程度と発表されていたにもかかわらず,平成16年度からはスト
ーカー飛灰が6万0900円,流動飛灰が4万4100円に値上げ
されたが,それでもP15の経営は苦しいといわれている。
(b)脱塩素工程における炭酸ナトリウム添加剤噴射方式を,件外施
設の操業開始後に,原料との混合方式に変更し,さらに炭酸ナトリ
ウムを高価な炭酸カリウムに変更せざるを得なくなった。
(c)排ガス処理工程における排水計画を当初の1.7倍に上方修正
しなければならなくなった。
(d)平成16年11月2日,件外施設において,除害施設の要であ
る排ガス処理系の,脱硝設備に充てんした活性コークス粉じんが固
結したもの約280kgが,煙突から周辺工場の敷地内に飛散すると
いう事故が発生した。事故の原因は,脱硝塔及び活性コークス再生
塔の改造工事を実施した後の負荷試運転の過程で,各所ショート及
びホッパーで活性コークスが詰まり,その詰まりの解消時に活性コ
ークスが飛散したというものであった。
(e)件外施設においては,平成16年11月2日以降断続的に事故
が発生したにもかかわらず,P15は,環境への影響が少なく,重
大な事故ではないと勝手に判断して,同月11日まで市原市に事故
を報告しなかった。
(イ)エコセメントは,前述のとおり,用途も需要も限られるから,次の
とおり,生産コストを価格に反映させることができず,多額の税金を
投入せざるを得ないが,これは,再資源化のための税金の投入として
は全く異質なものである。
aエコセメントは,焼却灰を原料として製造する過程において,多大
のエネルギー資源を浪費し,多大の費用が掛かるものである。また,
エコセメントを製造する本件施設にも多大の税金が浪費されている。
多摩地域25市1町は,本件事業によって莫大な負担増に苦しむこと
になる。日野市についていえば,本件組合の事業負担金が年間3.4
億円であったものが,本件事業の開始によって年間約5.7億円と1.
7倍に跳ね上がることになる。
bまた,エコセメントの生産コストをそのまま価格に転嫁すると,エ
コセメントの価格は,1トン当たり4万9000円となる。これは,
ポルトランドセメントよりもはるかに高い。エコセメントは,コスト
意識のない公共事業に使うか,民間事業に使ってもらう場合には補助
金の支給を受けて価格を引き下げることになる。ポルトランドセメン
トの価格は,1トン当たり8000円から9000円であるのに対し,
P10が引き受けることになっているエコセメントの価格は,600
円であり,両者の価格の相違からすると,エコセメントは,流通性の
ない形を変えたごみである。
cまた,本件施設の事業運営費は,年間32億円(ただし,修繕費を
含む。)と試算されているが,これは,エコセメントの売却益を含む
金額であるから,エコセメントの製造という事業運営のためのランニ
ングコストは,年間32億円の赤字となることを予定しているという
ことになる。
dまた,本件施設は,経済性の観点から優れている公設民営方式(以
下「DBO方式」という。)で運営される予定であるといわれている。
しかし,本件施設の運営に当たるP10は,本件施設の運営のためだ
けに設立された民間会社であり,しかも同社との間で,独占的にかつ
20年間という長期にわたって業務委託契約を締結しているのであり,
その委託費も年26億4000万円と定められており,その実態から
みれば,経済性とは関係なく支出金額が確定していることになる。
eさらに,廃棄物の再利用又は再生利用という場合,例えば,古紙の
再生利用では,古紙の収集運搬にこそ税金が投入されるべきであるが,
古紙が業者に引き渡された後はその再生費用は業者の負担であり,税
金は投入されていない。ところが,エコセメント化施設では,再資源
化に莫大な税金が投入されている。これは,エコセメント化施設が再
資源物を価値のあるものにする(市場価値が付く)という再資源化施
設という位置付けではなく,焼却灰を埋め立てずに済むように別の形
に作り変えるという廃棄物の最終処分の1つの形態にほかならないこ
とによる。これは,一見すると,地方公共団体の職員やボランティア
が粗大ごみを修復して幾らでもいいから住民に引き取ってもらうとい
う,採算を度外視した,市場流通とは別の再生利用と似ているが,エ
コセメント化施設で製造される製品が安全性も販路も確保されない危
険で無用なもの,すなわち,形を変えた廃棄物に転化するという可能
性を秘めているものに,毎年32億円もの税金を投入するという点に
おいては,再生利用とは全く異質のものである。
(ウ)以上によると,本件施設は,マテリアルリサイクル施設というには,
およそ不確定で不合理な施設である。特に,本件施設において1日当た
り520トンも生産されるエコセメントが有効利用されない場合には,
本件施設の運営業務を請け負ったP10が所在するα処分場内にエコセ
メントを保管せざるを得なくなると考えられるが,これは,最終処分場
の延命化とは逆行することである。また,そのような事態を避けるため
に,本件組織団体がエコセメントを引き取らざるを得ないことになり,
これは,本件組織団体が搬入したごみの1.5倍に上るエコセメントと
いうごみを引き取ることを意味する。
したがって,本件施設は,多くのごみ処理の最先端技術による施設が
たどったのと同じ運命,すなわち,予定の支出を超えて税金ばかりかか
るが,その効果は一向に現れず,結局,税金の無駄遣いをして破棄され
る運命をたどるという危険性をはらんでいるというべきである。
イエコセメント事業は,資源の再利用の原則に反している。
(ア)循環型社会形成推進基本法7条柱書第2文は,「この場合において,
次に定めるところによらないことが環境への負荷の低減にとって有効で
あると認められるときはこれによらないことが考慮されなければならな
い。」と規定しているから,循環資源の循環利用においては,やみくも
に廃棄物を再利用することができるものに形を変えることが重要なので
はなく,環境への負荷の低減に必要である否かが重要となる。
(イ)日野市や本件組合は,最終処分場の残余埋立量が減少し,新規立地
も困難であるので,α処分場の全埋立量の6割を占める焼却残さをエコ
セメント化すれば,最終処分場の延命が図れる旨主張する。しかし,上
記主張において低減されるべき環境への負荷は,埋立処分場の延命化の
みであり,他方,エコセメント事業によって新たに生じる環境への負荷
は,①焼却灰の破砕,乾燥などの前処理及び1350度の高温での連続
運転による焼却過程における地域環境への負荷,②このうち特に莫大な
エネルギーの消費並びに大量の熱,水分及び有害物質の発生(重金属の
ガス化,挙動や毒性の不明な合成化学物質の放出),③それらによって
生じる有害な排ガスの処理工程自体の環境負荷等であり,これらを定量
化して比較考量すれば,環境負荷の大小からは到底エコセメント化施設
の導入を避けなければならなかったというべきである。
(ウ)また,法令に従って環境負荷の低減を行政目的とするのであれば,
脱埋立から脱焼却への方策を検討すべきであり,現在の焼却を半減させ
れば,焼却費用も半減し,焼却残さの処理費用としてエコセメント化の
費用も不要となる。
例えば,日野市において平成13年度に一般家庭から排出された可燃,
不燃,粗大及び有害ごみの総量は,1日当たり80.3トンであり,こ
のうち焼却された生ごみは36.3トンで,45%にも上り,これに草
木類を加えると,約50%にもなるが,これらの生ごみを分別収集して
古くからの技術の蓄積があるたい肥化施設に送り込めば,265億円の
施設建設費や年間26.4億円の施設運営費といった高額の費用は掛か
らない。また,日野市の年間収集運搬費,中間処理費及び最終処分費の
合計は,約24億円であるが,仮に,家庭用の生ごみ処理機を日野市内
の7万4000世帯のすべてに配付したすると,その価格が1台10万
円程度として74億円が必要となるが,家庭用生ごみ処理機の配付によ
って生ごみ分を処理する費用が節約されるのであり,その節約分が2分
の1とすれば,その節約分約12億円の約6年間分の費用で家庭用の生
ごみ処理機の購入費用が賄えることになるのであり,その節約分が3分
の1としても,その節約分約8億円の約9年間分の費用で家庭用の生ご
み処理機の購入費用が賄えることになる。これに対し,本件施設の20
年間の総費用は,1000億円と試算されており,日野市がその5%を
負担するとなると,50億円を負担することになり,中間処理費用年間
8億円の負担を加えると,日野市が20年間に負担する金額は,膨大な
金額となる。日野市は,一気に分別収集し,資源化するとなると,収集
体制と資源化施設の整備に多大なコストとエネルギーが必要となり,さ
らに,資源化したものの受け皿を用意しなければならない旨主張するが,
その具体的な態勢や施設整備のコスト,物理的技術的立地上の可能性に
ついて検討を行った形跡がないのであり,本件組合に言われるがままに
費用を支出しているだけである。
(エ)以上のとおり,日野市は,廃棄物の発生→中間処理(焼却)→最終
処分(再資源化)よりも,廃棄物の発生→再資源化の方が環境負荷が少
なく,支出する費用も少ないことが明らかであるにもかかわらず,あえ
て前者の方法を採用しているのであり,仮に,エコセメント化施設が再
資源化のための施設であったとしても,エコセメント化施設は,中間処
理=焼却灰の製造を前提とするものである限り,二重に環境に対する負
荷を増加させ,有用か否かが不明なエコセメントを製造する施設であり,
循環型社会形成推進基本法に逆行する施設である。
ウさらに,次のとおり,エコセメント事業は,再利用よりも上位に位置付
けられるべき目標であるごみの発生の抑制という優先課題に真っ向から反
している。
(ア)本件施設は,24時間連続運転及び年間310日の稼働を前提とし
て,本件実施計画では,焼却残さ等の処理能力が1日当たり約330ト
ン,エコセメント生産能力が1日当たり約520トンであり,環境影響
評価調査計画書概要(乙8)では,焼却残さ等の処理能力が1日当たり
約400トン,エコセメント生産能力が1日当たり約620トンである。
(イ)連続運転は,ロータリキルンで1350度という高温を維持するた
めに必要不可欠であり,1350度という高温での連続運転は,ダイオ
キシン類の合成を阻害する条件となっている。焼却灰の減少は,連続運
転を不可能にさせ,ひいては本件施設の有効利用を妨げるから,本件施
設には,連続運転を可能にするだけの量の焼却灰が必要とされるという
ことになる。また,本件施設には連続運転を可能にするだけの量の焼却
灰が必要とされるとなると,市民の立場から見れば,本件施設の操業の
開始によってごみが出しやすくなるということもできる。
そうすると,エコセメント事業とは,いわば埋立ごみのゼロを目指す
だけの施策であり,ごみゼロ社会を目指すという方向性には真っ向から
反する事業である。
(2)ア以上のとおり,エコセメントは,いわばごみであり,再資源化という点
からみておよそ役に立たないものであり,本件施設は,従来廃棄物処分場
に埋め立てていた焼却灰をエネルギーと鉱物という貴重な資源を消費し,
かつ多大な費用をかけて固形のごみに転換させるだけの施設であり,循環
型社会形成推進基本法に逆行し,ごみゼロ社会を目指すという方向性に真
っ向から反する施設である。仮に,何らかの使い道があり,かつ,その利
用を何らかの形で強制することができたとしても,その製造の過程におけ
る費用支出や後述する環境負荷に見合うものではない。したがって,本件
施設が違法でかつ合理性を有しないことは,明らかである。
イそして,被告の支出によって建設されるエコセメント化施設は,適法で
かつ合理性を有するものでなければならないことは,地方自治法及び地方
財政法の趣旨から当然のことであるから,本件事業に対する支出は,地方
自治法及び地方財政法の趣旨から違法であるというべきである。
5財務会計行為の原因となる行為が違法であれば,当該財務会計行為も違法で
ある(昭和55年(行ツ)第84号同60年9月12日第一小法廷判決・判例時
報1171号62頁参照)ところ,本件事業は,本件施設の建設及び操業によ
って,本件施設の周辺住民の生命身体の安全,すなわち,身体権的人格権及び
平穏生活権的人格権を脅かす違法な事業であるから,日野市の本件事業に対す
る支出も違法である。その理由は,次のとおりである。
(1)本件施設に搬入される焼却灰及び飛灰に含まれる有害物質の量は,次のと
おりである。
ア本件組合が平成10年から同14年までの間にα処分場に受け入れてき
た焼却灰及び飛灰中に含まれる重金属類及びダイオキシン類の年平均の概
算は,次のとおりである。
(ア)日本国内における一般廃棄物の発生量は,昭和59年以来,ほぼ横
ばいであり,年間5000万トン前後で推移している。その80%から
84%が焼却され,焼却された一般廃棄物のうち約10%から15%
(重量比)が焼却灰であり,焼却灰の20%から25%(重量比)が飛
灰である。
α処分場に搬入された焼却灰及び飛灰は,平成10年から同14年ま
でに10万トンから11万トンの間である(乙30)から,同年の総量
を10万5000トンと仮定すると,焼却灰は8万4000トン,飛灰
は2万1000トンとなる。
(イ)一般廃棄物に含まれる重金属は,焼却によって消滅するものではな
いが,焼却灰及び飛灰中の量は,焼却炉の機能,構造及び燃焼温度によ
って大きく異なる。多摩市と町田市の測定データを比較すると,カドミ
ウム,鉛,全水銀及びヒ素の濃度比は,毎年相当の変動があるものの,
オーダーとしてはほぼ一致しており,平成5年の多摩市の測定データに
よると,カドミウム:鉛:全水銀:ヒ素の大ざっぱな比率は,25:1
000:1:5であり,同年度の多摩市の焼却炉が混合貯留型であった
ことからすると,上記比率は,焼却灰と飛灰の混合物の分析値であると
考えられる。
焼却灰及び飛灰に含まれる鉛及びカドミウムの含有濃度は,次のとお
りである。
飛灰焼却灰
鉛カドミウム鉛カドミウム
濃度平均1000∼10000mg/kg100∼300mg/kg1000mg/kg10mg/kg
平均3000mg/kg150mg/kg1000mg/kg10mg/kg
多摩市と町田市の測定データは,上記表と比較すると,一応,上記表
の範囲内に含まれている。そして,本件組合に持ち込まれる焼却灰及び
飛灰は,多摩地域25市1町から様々な条件下で生成された焼却灰及び
飛灰の混合物であるから,上記表の平均値を使用して計算することには
合理性があるといえる。
そこで,上記表に従って,同14年にα処分場に搬入された焼却灰及
び飛灰に含まれるカドミウム及び鉛の量を計算すると,鉛は,飛灰1ト
ン当たり0.003トン,焼却灰1トン当たり0.001トンであるか
ら,次式のとおり,147トンとなる。
0.003(t)×21,000(t)+0.001(t)×84,000(t)=147(t)
カドミウムは,飛灰1トン当たり0.00015トン,焼却灰1トン
当たり0.00001トンであるから,次式のとおり,3.99トンと
なる。
0.00015(t)×21,000(t)+0.00001(t)×84,000(t)=3.99(t)
また,鉛147トンに対してカドミウム3.99トンという比率は,
前述の鉛とカドミウムの比率40:1にほぼ一致しているから,同年に
α処分場に搬入された焼却灰及び飛灰に含まれるヒ素及び全水銀の量は,
概算で0.735トン及び0.147トンとなる。
(ウ)①本件組織団体の一部は,α処分場に搬入した焼却灰及び飛灰に含
まれるダイオキシン類の量を測定しているが,本件組織団体のかなりの
部分は,α処分場に搬入した焼却灰及び飛灰に含まれるダイオキシン類
の量を測定していないこと,②例えば,八王子市には1号炉から3号炉
まで3基の焼却炉があるが,飛灰の分析値がどの焼却炉のものであるか,
飛灰の分析値が純粋に飛灰のみの分析値であるか,飛灰と焼却灰とを混
合したものの分析値であるかが明確でないこと,③例えば,P18組合
の焼却炉には飛灰と焼却灰の分離貯留槽がないから,分析値は両者を混
合したものの分析値であると考えられるにもかかわらず,飛灰と表示さ
れており,ほかにも飛灰と焼却灰とを混合したものの分析値としか考え
られないにもかかわらず,飛灰の分析値と表示されているものがあるこ
と,④α処分場に搬入されている飛灰と焼却灰の量についても,飛灰と
焼却灰の総量としか考えられないものが飛灰として表示されていること,
⑤ダイオキシン類のうち,PCDDS(狭義のダイオキシン。以下「P
CDDS」という。)は測定しているが,PCDFS(ポリ塩化ジベン
ゾフラン。以下「PCDFS」という。)は測定しているところと測定
していないところがあり,CO−PCBS(コプラナPCB。以下「C
O−PCBS」という。)は測定しているところが皆無であることから
すると,α処分場に搬入された焼却灰及び飛灰に含まれるダイオキシン
類の量については,本件組織団体の資料をそのまま使用するよりは,全
国の平均値を用いた方が,より真実に近い値が得られると考えられる。
焼却灰及び飛灰中のダイオキシン類の量は,焼却技術の進展又は内容
によって異なるから,比較的最近である平成9年に厚生省が全国の市町
村及び一部事務組合から報告を求めて集計した測定値の平均値を使用す
ることとする。その値は,次のとおりである(なお,次の表のダイオキ
シン類とは,PCDDSとPCDFSである。次の表にいう「平均」と
は,加重平均又は重みつき平均であり,旧ガイドライン適用・不適用の
加重平均は,飛灰が(14.8×399+2.5×88)÷(399+88)=12.6であり,
焼却灰が(0.333×89+0.053×15)÷(89+15)=0.293である。)。
旧ガイドライン適用適用・非適用トータル旧ガイドライン以前
施設数平均値施設数平均値施設数平均値
飛灰39914.8ngTEQ/g882.5ngTEQ/g48712.6ngTEQ/g
焼却灰890.333ngTEQ/g150.053ngTEQ/g1040.293ngTEQ/g
上記表に従って,同14年にα処分場に搬入された焼却灰及び飛灰に
含まれるダイオキシン類の量を計算すると,鉛は,飛灰1g当たり12.
6ナノグラム,焼却灰1g当たり0.293ナノグラムであり,1ナノ
グラムは10−9g,1トンは106gであるから,飛灰は,次式のと
おり,33.6gTEQとなる。
12.6(ngTEQ/g)×10−9×21,000(t)×106=33.6(gTEQ)
また,焼却灰は,次式のとおり,24.6gTEQとなる。
0.293(ngTEQ/g)×10−9×84,000(t)×106=24.6(gTEQ)
したがって,飛灰と焼却灰の合計は,次式のとおり,58.2gTEQ
となる。
33.6(gTEQ/g)+24.6(gTEQ/g)=58.2(gTEQ)
また,ダイオキシン類対策特別措置法によると,CO−PCBSも含
めた値が必要であり,一般廃棄物の焼却によって生じるCO−PCBS
は,PCDDSとPCDFSの5%から10%とされているので,CO
−PCBSを中間の7.5%と仮定して計算すると,次式のとおり,4.
36gTEQとなる。
58.2(gTEQ)×0.075=4.36(gTEQ)
CO−PCBSの分を加えたダイオキシン類の総量は,次式のとおり,
62.56gTEQとなる。
58.2(gTEQ)+4.36(gTEQ)=62.56(gTEQ)
(エ)以上によれば,平成14年にα処分場に搬入された焼却灰及び飛灰
に含まれる有害物質の量は,鉛が147トン,カドミウムが3.99ト
ン,全水銀が0.147トン,ヒ素が0.735トン,ダイオキシン類
のうちPCDDSとPCDFSが58.2gTEQ,ダイオキシン類の
うちCO−PCBSが4.36gTEQである。
(オ)上記数値は,平成9年のデータに基づいて同14年にα処分場に搬
入された焼却灰及び飛灰に含まれる有害物質の量について計算した数値
であるが,①重金属は,焼却技術が進歩しても,焼却の過程においてそ
の量を減ずることはなく,かえって高温での焼却は飛灰中の重金属の濃
度を高めること,②ダイオキシン類の量は,焼却技術の進歩によって減
ずる可能性があるが,焼却炉の更新は,直ちにされるわけではないから,
同9年の時点における平均値を大幅に下回ることは,特段の事情のない
限り,考えられないこと,③ごみの質及び種類については,焼却の対象
となる廃棄物中の重金属や塩素系プラスチック等が減少していくことを
うかがわせる証拠は全くなく,焼却を強化するという傾向に応じて,埋
立廃棄物中の飛灰や焼却灰の比率は増加する可能性があることを勘案す
ると,上記数値をもって本件施設に搬入される重金属及びダイオキシン
類の量と考えることには合理性があるということができる。
イ本件組合が約14年間にわたってη処分場に受け入れてきた焼却灰及び
飛灰中に含まれる重金属類及びダイオキシン類の合計及びその年平均の概
算は,次のとおりである。
14年間の合計年平均
鉛2,228t159t
カドミウム58.5t4.18t
水銀2.23t0.16t
PCDD+PCDF4,192gTEQ299gTEQss
C-PCB304gTEQ21.7gTEQos
ダイオキシン類合計4,506gTEQ322gTEQ
本件組合が多摩地域25市1町から集めた焼却灰等の全部を本件施設に
原料として投入する予定であるから,上記の表に示されたとのとほぼ同じ
内容の有害物質が毎年本件施設に持ち込まれるとみることができる。
(2)本件施設のフローシートを大気汚染等をもたらす有害物質の排出プロセス
という視点から分類すると,①焼却残さ等の乾燥,破砕,選別,貯留及び調
合貯留等の前処理過程(原料の乾燥等の際に発生する排ガス処理プロセスを
含む。),②ロータリキルンによる焼成及びキルンからの排ガス処理プロセ
ス,③クリンカの貯留,破砕,石こう等の混合のプロセスなど焼成後の製品
の製造に至るプロセス,④灯油,重油等の燃料の燃焼プロセス及び多量の電
力消費に分類することができ,各過程において有害物質が排出されているが,
上記①から③までの詳細は,以下のとおりである。
ア焼却残さ等の乾燥,破砕,選別,貯留及び調合貯留等の前処理過程(原
料の乾燥等の際に発生する排ガス処理プロセスを含む。)から排出される
有害物質
(ア)エコセメントの主原料である廃棄物の焼却残さには,焼却後にロー
タリキルンの燃焼室に残る残灰(主灰,ボトムアッシュ,BAなどと呼
ばれるもの)と,燃焼室から排ガス中を移動して集じん装置で捕そくさ
れたり,捕そくされずに煙突から排出される飛灰(集じん灰,フライア
ッシュ,FAなどと呼ばれるもの)がある。
(イ)乾燥工程においてエコセメントの主原料である廃棄物の焼却残さを
加熱するので,その中に含まれる有害物質の一部がこの過程において気
体状又は微粒子状で排ガス中に排出されてくる(以下,この過程におい
て発生する排ガスを「乾燥機排ガス」という。)。また,廃棄物の焼却
残さが粉砕されると,その中に含まれる有害物質がすべてそのまま微粒
子となって飛散する(以下,この過程において発生する排ガスを「原料
粉砕機排ガス」といい,乾燥機排ガス及び原料粉砕機排ガスを総称して
「前処理系排ガス」という。)。
(ウ)エコセメントの主原料である廃棄物の焼却残さ並びにその焼却後の
残灰及び飛灰には,無数の,かつ,極めて有害性の高い化学物質や重金
属類が含まれるが,そのうち主要なものは,次のとおりである。なお,
粉じんは,重金属やダイオキシン類などを含んでいるために危険である
という側面もあるが,仮に,そのような有害物質を含まなくても,気管
支や肺胞などの呼吸器系に付着してそれらを損傷するという独自の有害
性を有する。
aダイオキシン類(PCDDS,PCDFS,CO−PCBS)
b塩素化芳香族化合物(PCPhS(ポリ塩化フェノール),PCB
ZS(塩化ベンゼン),PCNS(塩化ナフタリン))及び脂肪族炭
化水素
c多核芳香族炭化水素(PAHS)
dニトロ多核芳香族炭化水素(ニトロPAHS)
e臭素化ダイオキシン類(臭素化ダイオキシン(PBDDS),臭素
化ジベンゾフラン(PBDFS),臭素化塩素化ダイオキシン,臭素
化塩素化ジベンゾフラン)
f重金属類(例えば,ヒ素,クロム,ニッケル,鉛,カドミウム,ア
ンチモン,マンガン,水銀など)
g窒素化合物,塩化水素などの有害ガス
h粉じんなどの粒子状物質
(エ)乾燥機排ガス中の有害物質の除去における問題点
a乾燥機排ガスに含まれている可能性がある有害物質は,水銀,カド
ミウム,ヒ素及び鉛などの重金属類,脂肪族塩素系炭化水素,多核芳
香族炭化水素,ニトロ多核芳香族炭化水素及び臭素化ダイオキシン類
などである。
b乾燥機排ガス中の有害物質を除去する装置は,バグフィルタのみで
ある。以前は廃棄物の焼却炉の排ガス中の粉じん,ばいじん等の除去
には,バグフィルタよりも電気集じん機の方が多用されていたが,排
ガスが電気集じん機を通ることによってダイオキシン類の合成が加速
されることが判明してからは,バグフィルタが多用されることになっ
た。
cしかし,バグフィルタには,次のような欠点がある。
(a)バグフィルタは,粉じんなどの粒子状物質しか除去することが
できない。また,粉じんの粒径によっては,除去することができな
いものがある。
(b)バグフィルタの粉じん等の除去機能は,バグフィルタの表面に
層を成している粉じん,ばいじん等の厚さに依存し,パルスジェッ
トでこれらをふるい落とすと,上記除去機能が著しく低下し,他方,
これらをふるい落とさないと,バグフィルタが目詰まりを起こし,
多大の圧力損失を生じて,爆発又はバグフィルタの破損等を招く。
(c)バグフィルタには気体状のものを除去する機能がないが,窒素
酸化物及び硫黄酸化物は,通常気体状のものであるので,除去する
ことができず,また,ダイオキシン類,脂肪族塩素系炭化水素,多
核芳香族炭化水素,ニトロ多核芳香族炭化水素,臭素化ダイオキシ
ン類,水銀,カドミウム,ヒ素及び鉛などの重金属類は,気体状の
ものとなっている限り,除去することができない。
ダイオキシン類は,180度でも,その10%程度はガス状であ
り,被告の主張のとおり,乾燥機排ガスが200度程度であるとす
ると,ダイオキシン類は気体状である。重金属類は,沸点や融点以
下の温度でもその一部が気化するので,その一部は,バグフィルタ
では捕そくされない。
(d)例えば,埼玉県所沢市の一般廃棄物焼却炉(P19工場),P
20のθ工場の自社焼却炉,兵庫県宝塚市の一般廃棄物焼却炉のよ
うに,バグフィルタを装着した廃棄物焼却炉において,高濃度のダ
イオキシン類が排出された例が少なからず存在する。
(e)本件施設は,年間55日間の操業停止期間を除くその余の期間
には24時間の連続運転による操業を行うこととされているが,排
ガスの物理的(例えば,急激な高温化など),化学的性状が常に変
動する不安定操業を強いられる場合があるが,その場合には,バグ
フィルタの使用が困難であるので,バグフィルタを使用しないため
の「バイパス」を設置することが多い。本件施設においてバイパス
を設置しないとすると,不安定操業によるバグフィルタの破損等は
避けられず,また,不安定操業時にバグフィルタを使用しないと,
有害物質を含んだ排ガスがそのまま外部に放出されることになる。
dまた,被告は,乾燥機排ガス中の硫黄酸化物及び酸化水素を除去す
るために消石灰を,乾燥機排ガス中のダイオキシン類を除去するため
に粉末活性炭を,それぞれ吹き込む旨主張する。消石灰は,塩基性
(アルカリ性とほぼ同義)であるから,塩化水素などの酸性ガスを吸
着して粒子状物質に転化する化学的作用があり,活性炭は,その多孔
性という物理的性質に応じて,分子状のもの又は粒子状のものを吸着
する物理的作用がある。
eしかし,消石灰及び粉末活性炭の吹き込みによる効果は,次のとお
り,限定的なものである。
(a)排ガス中の塩化水素を現実にどの程度まで吸着することができ
るかは,排ガス中の塩化水素と消石灰の粉末との衝突確率に依存
し,衝突確率は,相互の大きさと空間中の分布濃度,通過速度と
通過経路,滞留時間によって左右されるが,本件施設では衝突確
率を計算して設計している形跡が見当たらない。したがって,消
石灰による塩化水素の吸着に過大な期待は持てない。
(b)廃棄物の処理によって発生する硫黄酸化物の大部分は,二酸化
硫黄と三酸化硫黄であり,二酸化硫黄が全体の90%から95%
を占める。硫黄酸化物の消石灰による物理的吸着は極めて遅く,
硫黄酸化物の消石灰による化学的吸着は,物理的吸着に比べると
速い。そして,二酸化硫黄は,三酸化硫黄と比べて吸着速度がは
るかに遅い。したがって,硫黄酸化物が消石灰に吸着され,粒子
状物質に転化した後に,バグフィルタによって捕そくされる割合
は,50%以下とみるべきである。
(c)ダイオキシン類が活性炭に吸着される割合はわずかである。
(d)多核芳香族炭化水素,ニトロ多核芳香族炭化水素,臭素化ダイ
オキシン類及び脂肪族塩素系炭化水素は,ごく一部しか除去する
ことができない。
f塩素化芳香族炭化水素,脂肪族塩素系炭化水素,多核芳香族炭化水
素,ニトロ多核芳香族炭化水素,臭素化ダイオキシン類,水銀,鉛,
クロム,ヒ素などは,その極めて重大な毒性にもかかわらず,法的な
排出規制がないので,その排出を抑制されることなく周辺環境に排出
されている。
(オ)原料粉砕機排ガス中の有害物質の除去における問題点
原料粉砕機排ガス中の有害物質を除去する装置は,バグフィルタのみ
のようである。しかし,バグフィルタに欠点があることは,前述のとお
りである。
(カ)前処理系排ガス中の有害物質の除去における問題点
a前処理系排ガス中の有害物質を除去する装置は,脱硝施設であり,
要するに,触媒による窒素酸化物の化学分解である。
bしかし,触媒による窒素酸化物の化学分解の効果は,①脱硝施設に
入る排ガス中の窒素酸化物濃度,単位時間内の存在量,②脱硝施設内
における触媒と窒素酸化物との平均的接触時間,③触媒毒の存在量と
触媒能力の維持時間,④触媒の分解速度に関する基礎データと温度係
数によって左右され,本件施設におけるこれらの要素が明らかにされ
ない限り,触媒による窒素酸化物の化学分解の効果を期待することが
できるなどとはいえない。
イロータリキルンによる焼成及びキルンからの排ガス処理プロセスから排
出される有害物質
(ア)ロータリキルンによるクリンカ焼成プロセスでは,1350度を超
える高温で原料としての残灰及び飛灰を焼くのであるから,前記有害物
質や重金属類が排ガス中に放出される危険が高まる(以下,この過程に
おいて発生する排ガスを「焼成炉排ガス」という。)。本件組合が約1
4年間にわたってη処分場に受け入れてきた焼却灰及び飛灰中に含まれ
る重金属類及びダイオキシン類の年平均の概算,又は平成10年から同
14年までの間にα処分場に受け入れてきた焼却灰及び飛灰中に含まれ
る重金属類及びダイオキシン類の年平均の概算によると,本件施設の操
業開始後の1年間だけに限っても,相当な量の有害物質が本件施設に持
ち込まれるわけであり,その一部がエコセメントに含まれて搬出される
ことになり,その余の相当部分が本件施設の操業の過程において周辺環
境にまき散らされるわけである。
(イ)本件施設の詳細が明らかではないので,定量的な記述は困難であり,
定性的な記述にとどめるが,第1に,本件施設に投入される原料には濃
厚かつ有害性の高い重金属類が無数に含まれており,高温で気化し,排
出される。第2に,高温における重金属類の気化蒸気圧は極めて高く,
これまで廃棄物焼却炉の主流であったストーカー炉の900度前後にお
ける燃焼の場合と比べると,重金属類の排出濃度は比べものにならない。
第3に,ダイオキシン類は,高温ではいったんはその大部分が分解され
るが,排出されるまでのプロセスにおいて焼却残さ中のコバルトやニッ
ケルを触媒として再合成される。第4に,窒素化合物は,高温で極端に
生成量が増加するので,除害施設を使用しても,大量の排出は避けられ
ない。ニトロ多核芳香族炭化水素などのニトロ基を有する有害物質は,
高温の方が発生しやすいので,ストーカー炉よりも大量に発生し,高温
による分解や濃度の減少は期待することができない。
(ウ)被告は,焼成炉排ガスを急速に冷却してダイオキシン類の再合成を
抑制する旨主張するが,200度の冷却ではダイオキシン類の再合成を
防ぐのに十分ではない。
また,被告は,焼成炉排ガスを急速に冷却した後はバグフィルタや活
性コークス塔により有害物質を除去する旨主張するが,ダイオキシン類
の15%から20%は気体状のままであるので,バグフィルタでは捕そ
くすることができない。気体状のダイオキシン類は,よほどゆっくり通
過させないと,活性炭に吸着させることはできない。また,硫黄酸化物,
重金属類,ダイオキシン類,多核芳香族炭化水素,ニトロ多核芳香族炭
化水素等に対する対策としても不十分である。
ウクリンカの貯留,破砕,石こう等の混合のプロセスなど焼成後の製品の
製造に至るプロセスから排出される有害物質
(ア)クリンカクーラーの上部のガス中には,ロータリキルンの排ガスほ
どではないにしても,前述した各種の有害物質が含まれている。この排
ガスは,冷却塔などにおいて処理せずにバグフィルタを通しただけで,
窒素酸化物の分解処理もせずにそのまま大気中に放出される。
(イ)クリンカと石こう等を混合して粉砕するプロセスに伴って生ずる排
ガスも,バグフィルタを通すだけである。
(ウ)粉じんには様々な粒径のものがあり,直径10ミクロン以下のもの
は,バグフィルタでは捕そくすることができない。
エ排ガス中の有害物質の除害施設の欠陥
(ア)本件施設には,排ガスの除害施設として,バグフィルタ,アンモニ
ア添加後の脱硝設備及びサイクロンなどが設置され,それらが組み合わ
されたり,単独に使用されている。
(イ)バグフィルタは,使用可能な温度領域が狭く,維持管理が厄介な代
物で,破損等の事故も多い上,気体状物質は除去することができないと
いう基本的な機能の限界がある。また,前述のとおり,窒素化合物,ニ
トロ多核芳香族炭化水素などには,バグフィルタはほとんど無力である。
(ウ)コークスの吸着機能は,物理吸着であって,化学吸着ではないから,
活性コークス塔と組み合わせた脱硝設備は,有害物質のうち粒子状のも
のを除くと,その一部を除去することができるにすぎない。
また,廃棄物の燃焼中には,廃棄物中の窒素分が窒素化合物となる場
合(燃料に起因する窒素化合物という意味で「フューエルノックス」と
呼ばれる。)と,燃焼空気中の窒素及び酸素が高温酸化して窒素化合物
が発生する場合(「サーマルノックス」と呼ばれる。)とがあるが,フ
ューエルノックスは,廃棄物中の主として有機態窒素分に影響されるの
に対し,サーマルノックスは,温度1400度より高温で顕著に発生す
るのであり,焼却炉の内部温度は局所的に高温部が存在し,燃焼出口に
おいておおむね800度を超えると,サーマルノックスが急激に増加す
るといわれているから,本件施設から発生する窒素化合物の濃度は,極
めて高濃度になるものと予想される。仮に,上記脱硝設備の能力が90
%であるとしても,排出される窒素化合物は,高濃度にならざるを得な
い。
(3)本件施設の操業によって発生するダイオキシン類を始めとする有害化学物
質,重金属類等は,次のとおり,様々な環境媒体を通じて原告らを含む周辺
住民の下に到達し,直接的な被害を及ぼすのみならず,その生活環境を含め
て甚大な被害を与える。
ア大気中の有害物質は,人の呼吸器を通じて,生命及び身体に対する危険
をもたらす。すなわち,第1に,人の呼吸によって体内に侵入した塩化水
素や窒素酸化物などは,肺胞組織を直接に侵襲して,その本来有する毒性
を発揮する。第2に,粉じん等の粒子物質は,気管支や肺胞などの呼吸器
の組織に沈着して一時的又は恒久的に細胞を壊死させるなどする場合があ
る。第3に,有害物質が土壌等に降下して表土に付着し,その土壌粒子が
乾燥して粉じんとなって舞い上がり,人の呼吸によって体内に侵入する場
合がある。この場合,様々な有害物質が土壌粒子でいったん濃縮蓄積され
ていることを考えると,身体への影響は大きい。また,粉じんが舞い上が
らない日でも,背の低い子供は,土に接して遊ぶ機会が多いので,被害を
受けやすい。
また,本件施設の操業によってダイオキシン類を始めとして皮ふから吸
収されることが知られている有害物質が排出されるので,それによる危険
も考慮されなければならない。
イ本件施設は,α処分場内に建設される予定であるが,廃棄物処分場のよ
うなすり鉢状の地形においては,日中は谷の斜面とそれに接する空気は地
表面によって温められ,それらの上方にある空気よりも温度が高くなるの
で,谷に沿って昇る谷風が生じるのに対し,夜間は谷の斜面に沿って下降
する山風が生じる。したがって,本件施設から排出される有害物質は,谷
風及び山風によってα処分場の外に運び出され,汚染は広範囲に拡散する
ことになる。
また,汚染された大気は,多摩川及び平井川の冷気によって停滞するの
で,取り分け両河川の周辺に住む原告らは,長期間にわたり有害物質にさ
らされ続けることになる。
さらに,夜間には接地逆転層が生じるから,原告らは,夜間に高濃度に
汚染された大気にさらされ続けることになる。
ウ本件施設の周辺では,古くから農業が盛んで,多摩川,平井川及びその
周辺には水田,畑,果樹園等の農業地が広がっており,取り分けしいたけ
栽培は農家の副業として現在でも盛んに行われている。また,農業を営ん
でいない住民の中には,野菜や果物等を自家栽培し,ヤギや鶏等を飼って
その乳や卵を自家用に供している者もいる。そして,本件施設から排出さ
れる有害物質は,降雨と共に地表に向かって降下し,又はそれ自体が微細
粒子として地表に向かって降下して,直接野菜,果物,きのこ及び乳等の
食物に降り掛かり,又は土壌を通して水分と共に上記食物に吸収され,原
告らがそれらを食することによって有害物質が体内に摂取される。
また,本件施設から排出される有害物質は,直接水道源である水の中に
入り,又は汚染された土壌からゆう水を経由して水道源である水の中に取
り込まれ,地下水に達して飲料水等の生活用水となって,それらを飲んだ
住民の体内に摂取される。
(4)本件施設の操業に伴って多量の燃料及び電気が使用される。燃料の消費に
よる環境への影響は,①燃焼によって生ずる多量の水分及び二酸化炭素によ
る周辺の大気への影響,②エネルギーの消費によって生ずる熱による周辺地
域のヒートアイランド化,③燃料輸送のために本件施設に出入りする多数の
車両による公害という観点から,検討されるべきである。
ア本件組合の計画によると,本件施設で使用される燃料及び電力は,次表
(ただし,数値は原告らの主張のままに引用した。)のとおりである。
燃料使用設備油種日使用量年間使用量
焼成炉A重油62,000l19,220kl
焼却残さ乾燥機A重油7,600l2,356kl
原料ミルA重油1,700l527kl
昇温炉灯油2,400l744kl
燃料使用A重灯71,300l22,300kl
量の合計灯油2,400l744kl
年間消費電力量40,110,000kwh
イ換算値を1kwh=860kcal=3,600kJ,A重油の原油換算係数=1.01,灯油
の原油換算係数=0.96,原油燃焼エネルギー=10,000kcal=41,860kJ/kg,
原油比重=0.92,原油のC:H=1:2,操業日数を310日と仮定して,
上記アの表に基づいて計算すると,本件施設のエネルギーの消費による発
熱量,二酸化炭素排出量及び水分発生量は,次のとおりとなる。
発熱量1日平均7億9500万kcal
年間2463億kcal
二酸化炭素排出量1日平均203トン
年間6万3070トン
水分発生量1日平均83トン
年間2586トン
上記二酸化炭素排出量には,原料としての石灰石の焼成によって発生す
る二酸化炭素排出量年間4万5400トンは加えていない。上記水分発生
量は,燃料の燃焼に伴うものであり,そのほかに原料乾燥時に原料自体か
ら発生するもの,重金属回収装置と称する設備から発生するもの,及び本
件施設で使用する計画であるとされている1日当たり最大約700トンの
水がある。
以上によれば,本件施設の総合によって発生する熱によるヒートアイラ
ンド化,二酸化炭素及び水分の大量散布による周辺の気象条件及び生態系
に与える影響は,極めて大きいものと予測される。
(5)現在操業しているエコセメント化施設は,工場内の敷地に入ると,声を張
り上げないと,通常の会話もすることができないほどに騒音が著しいところ
である。このような施設を集落が点在する東京都青梅市と東京都ιとの境界
山頂付近に建設し,24時間操業するとなると,周辺の住民の生活環境に及
ぼす騒音振動の影響は計り知れないというべきである。
(6)以上によれば,本件事業は,本件施設の建設及び操業によって,本件施設
の周辺住民の生命身体の安全,すなわち,身体権的人格権及び平穏生活権的
人格権を脅かす違法な事業であるというべきである。
第2争点(2)(本件支出2は,相当の確実さをもって予想されるか。)について
日野市が本件組織団体となり,焼却灰を本件組合に搬出している以上,本件
組合が本件事業を行うことを決定し,また,建設工事請負契約及び本件施設の
運営のための業務委託契約を締結した現在,日野市が,今後20年間にわたっ
て,本件施設のための分担金の支出を余儀なくされるのは確実であり,今後違
法な支出が毎年度発生する蓋然性が高いので,原告らは,その将来の差止めを
求める。
以上
別紙2
第1争点(1)(本件支出等は,違法な公金の支出に当たるか。)について
1エコセメントとは,ごみ焼却施設から発生する焼却残さや下水汚泥などを主
原料として作られる新しいセメントであり,セメント類似のものではない。本
件施設では,主として,焼却残さ,すなわち,焼却灰(廃棄物を焼却した後の
残さ物)及び飛灰(集じん機により捕集された排ガスの中のばいじん)を総称
したものを主原料として,石灰,鉄原料及び硬化遅延剤としての石こう(硫酸
カルシウム)を成分調整の目的で混和してエコセメントを製造するが,焼却残
さには,カドミウム,鉛,水銀等の重金属類が濃縮されているとか,廃棄物の
焼却過程で生成されるダイオキシン類など毒性の極めて強い有害物質が濃厚に
含まれているなどということはない。
2日野市の本件事業に対する支出が地方自治法2条14項及び地方財政法4条
1項に違反しているということはできない。その理由は,次のとおりである。
(1)日野市がごみの減量化及び資源化のために行った施策は,次のとおりであ
る。
ア日野市では,平成元年からは資源回収を,同6年からは生ごみ堆肥化容
器の補助及びリサイクル事業等を,それぞれ検討し,タイムリーに施策化
してきたが,多摩地域の各市がごみの排出量を減量していく中で,平成1
1年度には日野市の不燃ごみの量が多摩地域全31市町村の中で最悪とい
う結果になった。そこで,日野市は,同12年10月,ごみ減量化の施策
として,ダストボックスの廃止,ごみの有料化及びごみの各戸収集を実施
したところ,家庭系のごみの収集量は半減し,リサイクル量は約3倍とな
った(乙23)。日野市は,同14年3月,市民参画によって「ごみゼロ
プラン(日野市一般廃棄物処理基本計画)」(乙24)を策定し,日野市
としてごみゼロ社会を目指す基本理念(循環型社会の形成)及び具体的な
行動計画として,ごみの発生の回避,発生の抑制,再使用,再利用(マテ
リアルリサイクル・サーマルリサイクル)及び適正処理から成る施策を掲
げた。
イその後も,日野市は,事業系ごみ減量の取組やごみゼロプランを推進す
るための「ごみ減量推進市民会議」によるマイバック運動,情報誌「エコ
ー」の作成及び配布による啓発活動などといった,ごみの発生抑制運動に
も積極的に取り組み,市民参画及び市民協働のごみ減量化及び資源循環型
社会の創生に鋭意努力してきた(乙37,40)。その結果,日野市の平
成15年度における1日1人当たりの可燃ごみ収集量は373.4gとな
ったが,これは,多摩地域の全30市町村では最小量であり(乙41),
市民と行政が一体となった日野市の以上のような努力によって,平成16
年度の総ごみ量は,さらに減少している(乙36)。
ウまた,日野市では,昭和62年,焼却施設として日野市P11を単独で
建設して一般廃棄物の焼却を行っており,日野市P11に搬入される廃棄
物の処理は,可燃ごみについては焼却し,不燃ごみ及び粗大ごみについて
は,破砕後に鉄やアルミを選別し,破砕不適物については手作業で鉄やア
ルミを選別し,選別された鉄やアルミは,それぞれの資源化のルートに乗
せ,焼却灰と不燃破砕物はα処分場に埋め立てている。資源ごみのうち,
新聞紙,段ボール,牛乳パック,雑誌,瓶,缶,古布,ペットボトル及び
発泡トレーについては,各戸収集して資源化しており,総資源化率は,平
成15年度には30.0%に達し,多摩地域の全30市町村中10位であ
る(30市町村の平均は26.2%)。さらに,プラスチックを資源化す
ることを前提に,平成16年10月現在,分別収集のモデル実験を実施中
である。
(2)本件組合が本件事業を導入するに至った経緯は,次のとおりである。
ア本件組合は,本件組織団体から排出される焼却残さ及び中間処理(破砕,
再資源化等の減容量化)後の不燃物の埋立処分をα処分場において行って
いる。
イα処分場は,計画期間を平成9年度から平成24年度までの16年間と
し,用地面積59.1ha,廃棄物埋立容量約250万m,覆土容量約123
0万m,全体容量370万mの施設であり,平成10年1月から供用を33
開始したが,土地の選定に着手したのは平成元年度であり,事業計画,設
計,環境影響評価及び施設建設を経て供用を開始するまでに10年もの歳
月を費やしていた(乙26)。
ウ本件組合は,平成8年9月,本件組織団体に対し,平成13年度までの
搬入予定量についてアンケートによる調査を実施し,その結果を基に平成
9年度から平成24年度までの総搬入量を想定したところ,約270万m
となり,α処分場の埋立可能容量の250万mを約20万mを上回ると333
いう算出結果となったので,α処分場の使用期間として16年間を確保す
るには上記超過分を解消する必要があった。本件組合は,上記超過分を削
減し,α処分場を計画的かつ安定的に利用していくために,年度別及び本
件組織団体別の配分計画を策定し,配分量を最新のデータにより毎年更新
し,現在第3次廃棄物減容(量)化基本計画を策定中である(乙26)。
エ現状のまま埋立処分を続けていくと,α処分場は,平成24年度には満
杯となるので,新たな最終処分場が必要となる(乙6)。しかし,多摩地
域では,土地の高密度利用化が進み,地域住民の自然環境保全の意識が強
まってきつつあるという状況があり,今後焼却灰を埋め立てるとしても,
多摩地域に新たな最終処分場を建設する用地を確保することは極めて困難
な状況にある。したがって,ごみの発生の回避,抑制,再使用及びリサイ
クルの施策を展開するとともに,焼却灰を資源化し,最終処分場であるα
処分場の延命を図ることが最大の課題であり,急務となっていた(乙7)。
オまた,本件組織団体は,前述の日野市における取組も含めて,ごみの有
料化や資源化の推進などを始めとする様々な施策を展開してごみの減量化
を図ってきており,その結果,家庭系の可燃ごみ及び不燃ごみについては
減量効果が出ているが,事業系のごみについては増加しており,そのため
資源ごみを除いたごみ量は,平成14年度が111万6000トン,平成
15年度が112万4000トンと増加している(乙41)。
カ本件組織団体の一部では,減量効果のある溶解技術の導入が検討されて
いたが,多摩地域にある中間処理施設のほとんどが市街地にあり,その建
て替えの時期も本件組織団体ごとに異なっていたため,一律の技術の導入
など,早期に現在のシステムを変更していくことは困難な状況であった。
多摩地域においては,最終処分される廃棄物のうち容量で5割強を焼却残
さが占めていたが,この焼却残さを主原料として土木建築資材に再生する
エコセメント技術が開発され,既に千葉県市原市において実用施設が稼働
していた(乙7)。
キそこで,本件組合は,本件組織団体のごみ焼却施設から排出される焼却
残さ等を安全に処理し,土木建築資材であるエコセメントに再生させるエ
コセメント化施設をα処分場内に建設し運営することによって,埋め立て
られる廃棄物の量を大幅に減少させることを目的とする「多摩地域廃棄物
エコセメント化施設整備運営事業」を計画した(乙7)。
(3)本件事業は,第1に,現在埋立処分されている焼却残さ等の資源化及び有
効利用を図ることによってリサイクル先進地である多摩地域における更なる
リサイクルの向上に寄与し,第2に,現在埋め立てられている焼却残さの全
量を資源化することによってα処分場への負荷を軽減してその有効活用及び
延命化を図り,第3に,埋立処分の対象から焼却残さを除外することによっ
てα処分場の安全な埋立対策の一層の推進を図ることを可能にするものであ
る(乙7)。
日野市は,前述のとおり,ごみの減量化及び資源化のための様々な施策を
実行してきたが,原告らの主張に係るごみゼロ社会の実現には社会そのもの
の漸進的改革が必要であり,一朝一夕にごみゼロ社会を実現することができ
るものではなく,ごみの減量及び資源としての有効利用と平行して,最終処
分場の延命化のために本件事業は必要不可欠である。
(4)日野市の本件事業に対する支出が地方自治法2条14項及び地方財政法4
条1項に違反して違法である旨の原告らの主張に対する反論等は,次のとお
りである。
ア多摩地域の最終処分量及びα処分場の埋立実績は,原告らの主張のとお
りである。
イ本件事業のために支出する費用は,本件施設の建設費272億円のうち
補助金を控除した残額180億円,本件施設の20年間の運営業務委託費
及び修繕費640億円,合計820億円であり,これに敷地造成などの関
連工事費約40億円及び起債利子分を加えると,860億円を上回る金額
ということになる。
ウ運営業務委託費は,固定費分163億円を除くその余の分が変動費とし
て処理量に応じて変動するとともに,物価変動によっても上昇する。
エ施設建設費は,本件事業基本計画では約240億円であった(乙6)の
が,本件実施計画では約265億円に増えた(乙7)。これは,施設の設
計について施設の設計,施工,運転,維持管理及びエコセメントの販売を
一体的に民間事業者が請け負うDBO方式を採用して,本件組合が基本仕
様(性能条件)を示し,民間事業者が運転及び維持管理の面における効率
化を考慮して創意工夫を加えた設計及び施工を行うことにより施設設計費
の縮減を図ろうとしたところ,エコセメント対象量の変更により施設の規
模を縮小した反面,用地選定に伴う条件の追加や重金属回収システムの仕
様を変更した結果生じたものである。
オ事業運営費は,本件事業基本計画において1年当たり約25億円であっ
た(乙6)のが,本件実施計画において同約26.4億円に増え,修繕費
及び大型修繕の年積立分同5.6億円を加えると,同約32億円に増えた
(乙7)。これは,DBO方式の採用及び契約期間が15年から20年と
いう長期間であることから,事業運営費の縮減を図ることができた反面,
環境対策等として,搬入車両及び搬出車両の削減のために原料を運んでき
た車両をエコセメントの搬出に再利用することができるように原料を石灰
石から単価の高い石灰石粉に変更したり,本件事業基本計画の策定時には
未試算であった修繕費,外注費,事務部門の人件費及び諸経費等を追加し
たりしたなどの結果によるものである(乙7〔7頁〕)。
カ実際の契約金額は,エコセメント化施設に関する建設工事請負契約金額
が258億9000万円(乙15),エコセメント化施設に関する運営業
務委託契約金額が504億7910万円(乙15)であるから,本件実施
計画における施設建設費約265億円,事業運営費約528億円(乙7)
を下回っている。
キα処分場の埋立率は,平成15年度が5.6%であるが,平成16年度
が5.31%,平成17年度が5.1%であり,負担金の推定額は,原告
らが推定する金額よりも少なくなっている。また,日野市の平成15年度
の発生抑制費用は,8500万円ではなく,8554万円である。
ク日野市内において発生する平成15年度のごみの処理量は,概数として
は,原告らの主張のとおりである。
しかし,原告らの主張に係る平成15年度のごみの処理費のうち,1ト
ン当たり4万8000円とは,平成15年度のごみ処理費25億2283
万円を総ごみ量5万2729トンで除して得られる4万7845円の概数
であり,1トン当たり5万7000円とは,日野市が本件施設の完成後2
0年間にわたり本件事業に対して支出する費用として原告らが推計した金
額の1年当たりの金額2億4000万円を平成15年度の日野市の焼却残
灰の量4181トンで除して得られる5万7402円の概数であるが,本
来比較の対象とはならない2つの数値を比較して,本件事業には多額の資
金を要する旨主張するのは,いたずらに混乱を招くものというべきである。
処理費として考えるのであれば,上記25億2283万円に上記2億40
00万円を加えた27億6283万円を総ごみ量5万2729トンで除し
て得られる約5万2400円と比較すべきである。
ケ原告らが最終処分場の延命化を図るための安価な方法として挙げるもの
のうち,①ごみの分別収集については,前述したとおり,既に日野市にお
いても実施しており,②山形県長井市の「レインボープラン」については,
日野市の職員が視察し,日野市環境基本計画市民ワーキングチームのメン
バーも自主的に視察し,その結果が日野市環境基本計画に反映され,③P
16組合の取組については,同組合の関係者を講師として日野市の環境講
座に招いてこれを紹介しており,④横須賀市の取組についても,これを把
握しており(乙44),⑤プラスチックの分別収集についても,前述した
とおり,モデル実験を実施中である。このように,日野市は,原告らが最
終処分場の延命化を図るための安価な方法として挙げるもののうち,カナ
ダのノバスコシア州での取組を除くその余の取組を調査して把握し,日野
市の状況に応じて取り入れることができるところは取り入れているのであ
る。例えば,日野市は,平成15年度から平成16年度まで,日野市内の
企業及び大学と連携して,P11内に設置した実証プラントにおいて,学
校給食の生ごみ残さを用いたメタン発酵実証実験を実施し,日量500kg
を処理して有効にガス化が行われることを確認するとともに,生ごみ残さ
の中にある出し汁等に使う「がら」等が発酵不適物であり,それが生ごみ
残さの20%程度を占めることが判明している。
さらに,日野市は,毎年行われている全国的な「生ごみリサイクル交流
会」に参加して,情報の収集にも努めており,平成16年度には日野市の
生ごみの事例を発表している。また,日野市は,平成13年度には,東京
都,学識経験者,JA,農家,栄養士,行政などで構成した「日野市生ご
みリサイクル(堆肥化等)推進協議会」を発足させ,原告らが挙げた自治
体等の取組以外にも,減量リサイクルシステムに関する情報を収集し,都
市における堆肥化を含めた有機質資源の有効活用を検討している(乙44,
45)。例えば,生ごみの堆肥化については,日野市内に養鶏・酪農農家
が1件しかなく,家畜ふん尿がないため,P21動物園からふんを提供し
てもらって実験を進めたが,温度コントロールが難しく,実験は成功とは
いえなかった。また,自治会単位の堆肥化の試行,NPOへの実験の委託,
コンポスト容器の購入補助金の支出,学校給食の残さコンポスト化等,多
くの試行を繰り返している。
以上のとおり,日野市は,ごみの発生抑制及び再資源化に積極的に取り
組んでおり,その結果,可燃ごみ及び不燃ごみを合わせて50%を減量す
るという成果を上げている。
しかし,そのような成果を上げても,ごみがゼロになるものではない。
ごみゼロ社会の実現には社会そのものの漸進的改革が必要であり,一朝一
夕に実現することができるものではなく,ごみをゼロにすることは実際に
は不可能であることから,ごみの減量と資源としての有効利用と平行して,
α処分場を延命させ,資源の再利用化を図るための現実的な施策として,
本件事業を採用する必要がある。日野市は,α処分場の受入量がこのまま
では限界に達するのは明らかであるという現実を踏まえ,本件組合から本
件組織団体に提示された本件事業に関する本件事業基本計画,本件実施計
画,環境影響評価等を検討した結果,本件事業は,焼却灰を安全な有用物
として再利用を可能にする先進的な施策であり,現時点において最も効果
的かつ現実的に採り得る施策であると判断し,本件組織団体の1つとして,
本件事業に賛同し,本件組合における議決及び日野市議会における予算の
承認を経て,本件事業に公金を支出することとしたのである。
したがって,日野市が,原告が最終処分場の延命化を図るための安価な
方法と本件事業との比較検討を一切行うことなく,本件組合が決定し指示
するままに,本件事業に係る負担金を支出し,又は支出しようとしている
ということはできない。
コさらに,日野市の本件事業に対する負担金算定の基礎となる本件組織団
体別焼却灰埋立比率は,平成15年度が5.6%(乙17),平成16年
度が5.3%(乙30),平成17年度が5.1%(乙31)と,漸次減
少の傾向にあり,同年度の本件事業に対する負担金算定の基準となってい
る平成9年度から平成15年度までの焼却灰埋立実績に基づいて,本件施
設の運営期間である平成18年4月から同38年3月までの20年間の日
野市の負担金を予測すると,約42億円弱となる。
原告らの主張に係る「残灰をそのまま貯蔵する」という方策を採用した
場合,上記約42億円弱という金額で上記方策のために必要な用地の取得,
施設建設及び管理運営を賄うことができるという保証はなく,α処分場が
土地の選定から供用開始までに10年を費やしていることからすると,α
処分場が満杯となる平成24年度までに上記方策のために必要な用地の取
得及び施設建設をなし得る可能性は極めて小さいと考えられる。
また,本件事業に取り組まなければ,即刻新たな処分場の造成に取り組
まざるを得ない状況にあるが,現在の多摩地域の都市化による過密状態を
考えれば,新たな処分場の造成は極めて困難である上,そのために要する
費用も膨大なものとなることが予測される。
そうすると,上記約42億円弱という金額は,今後20年間排出される
ごみの処分の経費としてやむを得ない許容範囲の額であり,到底財政的浪
費とはいえないことは明らかである。
3本件施設が違法で合理性を有しないことを理由に,日野市の本件事業に対す
る支出が地方自治法及び地方財政法の趣旨に照らして違法であるということは
できない。その理由は,次のとおりである。
(1)エコセメントがいわばごみであり,再資源化という点からみておよそ役に
立たないものであり,本件施設が,従来廃棄物処分場に埋め立てていた焼却
灰をエネルギーと鉱物という貴重な資源を消費し,かつ多大な費用をかけて
固形のごみに転換させるだけの施設であるなどということができないことは,
以下の点から明らかである。
アエコセメント技術の開発の経過は,次のとおりである。
(ア)エコセメント技術の実証研究は,平成5年度に通産省の事業として
開始され,その外郭団体である新エネルギー・産業技術総合開発機構
(以下「NEDO」という。)が財団法人P13に委託して実施された。
官民共同で同年度から平成9年度まで実証プラント(エコセメント生産
量1日当たり50トン規模)を使用して行われ,実証研究を通して,エ
コセメントの特性,塩素対策,環境対策,プラント連続運転の可否等に
ついて様々な確度から検討が加えられ,同年度にエコセメント技術とし
て確立された(乙6)。
(イ)エコセメント技術の実証研究は,技術委員会(委員長はP12京都
大学名誉教授。構成メンバーは,学識経験者,厚生省(現在は厚生労働
省),通産省,運輸省及び建設省(現在は国土交通省)の各職員並びに
民間企業代表)を設けて行われ,この研究成果から普通エコセメント及
び速硬エコセメントが開発された(乙5)。
(ウ)エコセメント技術は,長い歴史を持つセメント製造技術を応用して
開発された技術であり,平成14年7月20日にJIS規格(JISR
5214)として制定された(乙6,12)。
イ次のとおり,エコセメントに多量の有害物質が含まれているという事実
も,エコセメントの製造によって多量の有害物質が排出されるという事実
もない。
(ア)エコセメントとは,都市部などで発生する廃棄物のうち主たる廃棄
物である都市ごみを焼却した際に発生する焼却残さを主とし,必要に応
じて下水汚泥などの廃棄物を従としてエコセメントクリンカーの主原料
に用い,製品1トンにつきこれらの廃棄物をJISA1203に規定さ
れる乾燥ベースで500kg以上使用して作られるセメントであり(乙1
2),エコセメントクリンカーの原料に用いられる都市ごみの焼却残さ
及び下水汚泥には,重金属類及び有機化合物であるダイオキシン類を含
むことがある。
(イ)aしかし,重金属類である鉛,銅,カドミウム,水銀などの大部分
は,1300度以上の焼成工程で塩化物の形態でセメントクリンカーか
ら分離され,冷却されて,アルカリ塩化物と共にダストとしてバグフィ
ルタで回収されるので,エコセメントに含まれる重金属類は減少する。
また,エコセメント中に残存している重金属類も,焼成によって生成し
た鉱物の結晶構造に取り込まれることにより,溶出が防止される。その
結果,将来,エコセメントで造られた構造物を廃棄するときでも,重金
属類の溶出が防止される(乙6)。
bNEDOが行った重金属溶出試験では,モルタル(砂を混ぜて固め
た物),コンクリート(砂,砂利を混ぜて固めた物),ブロック(イン
ターロッキングブロック),エコセメント粉末及び固化ペースト(水の
みを混ぜて固めた物)のいずれについても土壌の汚染にかかわる環境基
準(環境庁告示第46号)を満足し,ほとんど定量下限値未満であり,
また,本件組合がα処分場内で2年間屋外暴露したエコセメント製品及
び普通セメント製品の溶出試験においても同様の結果(平成14年1
月)であったから,上記実験結果からも上記aは裏付けられている。
(ウ)aまた,ダイオキシン類は,焼成工程において800度以上の高温
によって分解され,排ガス,ダスト及びセメントクリンカーの中には残
存しない(乙12)。
bNEDOが行った実証実験では,焼却残さが約1350度の高温で
約40分以上にわたりロータリキルン内で焼却されることにより焼却残
さに含まれるダイオキシン類は分解され,エコセメント内にダイオキシ
ン類はほとんど含まれず,定量下限値未満から0.00028ng−T
EQ/gであり,また,本件組合が平成11年7月から同年9月まで実
施した測定においても同様の結果であったから,上記実験結果からも上
記aは裏付けられている。
(エ)また,排ガス中に移行させた重金属類は,排ガス処理施設で捕そく,
処理されるので,大気中に排出されない。そして,捕そくされた重金属類
は,重金属回収設備によって回収されるので,本件事業の処理工程で発生
する排水は,各種規制値を十分に満足するものである。
(オ)aさらに,排ガスに含まれるダイオキシン類は,800度以上の温
度で約9秒以上の滞留時間を経て分解され,急冷を行うことにより再合
成が抑制される。また,排ガス処理設備としてバグフィルタ及び活性コ
ークス塔を設置することにより,煙突から排出されるダイオキシン類は,
ダイオキシン類対策特別措置法,廃棄物の処理及び清掃に関する法律並
びに大気汚染防止法による規制値を十分に満足するものである。また,
重金属回収設備から出た排水も,各種規制値を十分に満足するものであ
る。
bNEDOが行った実証実験では,煙突から排出されるダイオキシン
類は,定量下限値未満から0.00056ng−TEQ/gであり,各
種規制値をはるかに下回るものであり,また,重金属回収設備から出た
排水は,0.46pg−TEQ/Lであり,各種規制値を十分に下回る
ものであり,また,本件組合が平成11年7月から同年9月まで実施し
た測定においても同様の結果であったから,上記実験結果からも上記a
は裏付けられている。
ウ次のとおり,エコセメントの安全性が確認されている。
(ア)廃棄物学会は,平成11年8月,エコセメント製品の重金属溶出試
験に関する検討委員会を設置し,同委員会は,各国で行われている安全
性確認のための溶出試験方法及び基準を調査,検討し,また,エコセメ
ントについて日本,アメリカ,カナダ,ドイツ,スイス及びオランダ等
で実施されている溶出試験方法を用い,エコセメント製品の安全性を確
認した。
(イ)エコセメントの試験は,JISR5201(セメントの物理試験方
法),JISR5202(ポルトランドセメントの科学分析方法)及び
JISR5204(セメントの蛍光X線分析方法)により行われ,エコ
セメントの検査は,合理的な抜取り方法によって試料を採取し,品質に
ついてはJISR5201,JISR5202及びJISR5204に
よって試験を行い,合否を決定する(乙12)。そして,エコセメント
の試験成績表,化学成分例,構成鉱物例,品質及び溶出試験結果は,J
ISR5201(乙12)記載のとおりであり,普通エコセメントは,
普通ポルトランドセメントに類似する性質を持ち,レディーミスクコン
クリートの材料の規格に適合する(乙27)。
(2)本件施設が違法で合理性を有しないことを理由に,日野市の本件事業に対
する支出が地方自治法及び地方財政法の趣旨に照らして違法である旨の原告
らの主張に対する反論等は,次のとおりである。
アP15が営む件外施設と本件施設とでは,構造も規模も異なっており,
P15で起こった出来事が本件施設と直接の関連はないというべきである。
イエコセメント初の実用施設として,平成13年4月から生産を開始した
P15の平成13年度のエコセメントの生産量は4万0992トン,販売
量は3万8228トンであるが,その全量をP8が引き受け,P8が普通
エコセメントとして販売し,その価格は普通ポルトランドセメントと同等
レベルで個別に決定されている(乙7)。
多摩地域で生産されるエコセメント量は,年間16万トン(低塩素型)
から19万トン(標準型)であると試算されているのに対し,関東地区に
おける無筋系用途のセメントの販売量は,年間約300万トンと推計され,
エコセメントの特性を活かした利用方法として無筋の2次製品(セメント
ボード,ブロック等)や固化材(土壌改良材)等としての用途があること
から,本件事業において生産されるエコセメントを吸収するのに十分な需
要があると考えられる。今後,本件組合の発注の工事にエコセメントを使
用するとともに,東京都及び多摩地域の市町村の公共工事において積極的
にエコセメントを使用するべく関係機関と協議し,更なる需要が喚起され
るよう取り組んでいく(乙5)。
したがって,エコセメントが市場流通性を欠いているということはでき
ない。
ウ本件組合を構成する25市1町は,第2次減容化計画に沿って,ごみの
発生回避,抑制及び再使用の政策を展開中であるが,焼却ごみゼロを実現
することは困難であり,最終処分場がひっ迫している状況にある。本件事
業は,このような状況の中で,廃棄物処理に責任を持つ本件組織団体が,
ごみの抑制及び減容政策を優先してもなお排出せざるを得ない焼却処理し
た焼却灰を原料として最終処分場の延命のためにマテリアルリサイクルを
しようとする政策であり,現時点において選択することができる効果的か
つ最も現実的な施策であるということができる。
そして,日野市は,①エコセメントそのものの製造方法,試験,検査,
品質及び用途が日本工業規格に規定された安全な製品であること,②エコ
セメント化施設建設事業についての環境影響評価の結論が関係する法令基
準に適合するばかりでなく,法令基準よりも厳しい自己規制値を設定して
それをクリアーした上で,本件事業の受注者に対してこれを保証すること
ができる環境対策を講ずることを要求していること,③本件施設の施行者
が法令等の規制値より厳しい自己規制値を遵守するために,環境対策前の
排出ガス量,処理前のばい煙濃度等を把握し,それらを基礎として環境対
策を適切に講じていること,④既に市原市においてP15が平成13年度
から年間11万トンの実績を上げていること等から,焼却灰を原料とする
エコセメント事業を安全と判断して本件事業の導入に踏み切ったのである。
したがって,本件事業は,日野市ごみゼロプラン及び循環型社会形成推
進基本法と何ら矛盾するものではない。
4(1)本件施設のプラント設備は,受入れ,前処理,焼成,仕上げ,排ガス処理,
煙突,重金属の回収等を行う設備によって構成されており,その概要は,環
境影響評価書(乙28,32)記載のとおりである。また,本件組合は,本
件施設において本件事業を行うに際し,大気汚染防止対策,水質汚濁防止対
策,騒音防止対策,振動防止対策,悪臭防止対策及び粉じん飛散防止対策と
いった公害防止対策を行うこととしており,その詳細は,環境影響評価書記
載のとおりである。さらに,本件組合が地域の状況の概況及び本件事業にお
ける環境影響要因を考慮して選定した予測,評価項目について現況調査を行
ったところ,本件施設において本件事業を実施することが環境に及ぼす影響
は,大気汚染,悪臭,騒音,振動,水質汚濁,地形及び地質,水循環,生物
及び生態系,景観,自然とのふれあい活動の場,廃棄物並びに温室効果ガス
について,それぞれ環境影響評価書記載のとおりであると予測,評価された。
そして,環境影響評価書によると,本件施設の周辺住民の生命身体の安全を
脅かすことはないから,財務会計行為の原因となる行為が違法であるという
ことはできないのであり,本件事業を先行行為として日野市が本件組合に対
して負担金として支出した金員のうちエコセメント事業に係る分の支出が違
法であるということはできない。
そして,本件事業は,東京都清掃局の提案を受け,多摩地域におけるごみ
減量やリサイクルを推進するための施策として,官民の共同開発によるエコ
セメント技術を活用し,最終処分される廃棄物の過半を占める焼却残さを資
源化することによって,リサイクルを進め,最終処分場の有効活用を図るた
め,本件組合において本件導入基本計画を策定し,次に,安全性,環境への
影響,販路の確実性,環境に対する影響,最終処分場の延命効果,財政負担
等,様々な角度から検討した結果を踏まえて,本件事業基本計画を策定し,
東京都,本件組織団体代表及び本件組合事務局で構成する本件検討委員会を
設置して,本件検討委員会による検討,本件組合による適地選定調査,環境
影響調査等を行った上,本件組合の理事会及び組合議会において本件実施計
画並びに予算及び負担金が議決され,承認されている。以上の経過に前述し
たことを考え併せると,本件事業の内容及び決定に至るまでの手続の両面に
おいて,原告らの主張に係る違法や瑕疵が存在しないことは明らかであって,
本件事業を先行行為として日野市が本件組合に対して負担金として支出した
金員のうちエコセメント事業に係る分の支出には何らの財務会計法規上の違
法も存しないというべきである。
(2)仮に,本件事業に何らかの違法又は瑕疵があったとしても,その違法又は
瑕疵は重大かつ明白な瑕疵ではないから,日野市の本件事業に対する支出が
財務会計法規上違法であるということはできない。その理由は,次のとおり
である。
ア地方自治法242条の2第1項4号の規定に基づく損害賠償請求訴訟は,
住民訴訟の1類型として,財務会計上の行為を行う職員に対して職務上の
義務に違反する財務会計上の行為による当該職員の個人としての損害賠償
義務の履行を求めるものにほかならないから,当該職員の財務会計上の行
為をとらえて損害賠償責任を問うことができるのは,これに先行する原因
行為に違法事由が存するだけでなく,その原因行為を前提としてされた当
該職員の行為自体に財務会計法規上の義務に違反する違法がある場合に限
られる。
イそして,先行行為を行った機関が後行行為を行う機関に対して独立的な
地位を有する場合,後行行為を行う機関は先行行為を尊重すべき義務を負
うから,原則として先行行為の違法性は後行行為には承継されないことに
なり,著しく合理性を欠き,そのためにこれに予算執行の適正確保の見地
から看過し得ない瑕疵,すなわち,いわゆる重大かつ明白な瑕疵が先行行
為に存しない限り,後行行為を行う機関は,先行行為を尊重し,これを前
提として,これに伴う所要の財務会計法規上の措置を執るべき義務がある
ということになるから,後行行為を行う機関の行為は,財務会計法規上違
法とはならない。
ウ本件組合は,地方自治法284条2項の規定に基づいて昭和55年11
月に設立された一部事務組合であり,①一般廃棄物の最終処分を広域的に
行うための最終処分場の設置及び管理に関する事務,②一般廃棄物の焼却
残さ等の処理を広域的に行う事業に関する事務を共同で処理するものとさ
れ,日野市は,本件組合を組織する25市1町の1つである。一部事務組
合が設立されると,それによって共同処理するものとされた事務は関係地
方公共団体の権能から外され,その事務は一部事務組合に引き継がなけれ
ばならないから,本件組合の構成員である日野市は,上記①及び②の事務
を本件組合に引き継いでおり,本件組合の共同処理事務に関する事業や本
件組合の組織団体別負担金の決定にはこれに従わざるを得ない立場にある
ことになる。したがって,日野市の本件事業に対する支出は,本件事業に
重大かつ明白な瑕疵がない限り,財務会計上違法な行為であるということ
はできない。そして,前述したところによると,本件事業に重大かつ明白
な瑕疵があるということはできないから,日野市の本件事業に対する支出
が財務会計上違法であるということはできない。
5原告らが,財務会計行為の原因となる行為が違法であれば,当該財務会計行
為も違法である旨の主張の論拠として引用する最高裁昭和60年9月12日第
一小法廷判決は,要旨,「地方自治法242条の2の住民訴訟の対象が普通地
方公共団体の執行機関又は職員の違法な財務会計上の行為又は怠る事実に限ら
れることは,同条の規定に照らして明らかであるが,上記の行為が違法となる
のは,単にそれ自体が直接法令に違反する場合だけではなく,その原因となる
行為が法令に違反し許されない場合の財務会計上の行為もまた,違法となる」
旨説示しているが,この説示は,同法242条の2第1項4号の請求に係る事
案には当てはまるが,同項1号の請求に係る事案には当てはまらない。なぜな
ら,同項4号の請求に係る事案では,財務会計上の行為の違法性は,当該職員
が普通地方公共団体に対し損害賠償義務を負うか否かという観点からのみ問題
とされるので,仮に,原因となる先行行為が違法であるために当該財務会計上
の行為も違法であるとされたとしても,その原因となる行為自体の効力まで覆
されるわけではないが,同項1号の請求に係る事案では,その原因となる行為
の違法性の主張を許すと,事実上,非財務会計上の行為の遂行を阻止する結果
となって適当ではないからである。そして,住民訴訟制度の趣旨,目的,及び
行政行為一般の違法を争う手段として設けられている抗告訴訟制度では,行政
処分に該当する行政庁の行為のみを対象として,原告適格を有する者のみに抗
告訴訟を認め,出訴期間も制限していることも勘案すれば,同項1号の請求に
係る事案においては,同項4号の請求に係る事案以上に積極的な理由により,
重大かつ明白な瑕疵が先行行為に存しない限り,後行行為を行う機関は,先行
行為を尊重し,これを前提として,これに伴う所要の財務会計法規上の措置を
執るべき義務があるというべきである。
以上

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