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判決言渡平成21年7月21日
平成21年(行ケ)第10036号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年6月25日
判決
原告株式会社共和
訴訟代理人弁理士小笠原史朗
同石川達久
被告特許庁長官
指定代理人並木文子
同関口剛
同樋田敏惠
同酒井福造
主文
1特許庁が不服2008−10803号事件について平成21年1月
6日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨。
第2事案の概要
1本件は,原告が,意匠に係る物品「輪ゴム」につき後記意匠登録出願をした
ところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁
から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。
2争点は,上記出願に係る下記(1)の本願意匠が,下記(2)の実開昭61−14
4057号(考案の名称「包装用ゴムバンド」,出願人宮本商事有限会社,
公開日昭和61年9月5日。乙1)に記載された引用意匠と類似するか(意
匠法3条1項3号),である。

(1)本願意匠
・意匠
斜視図
正面図右側面図
平面図
使用状態を示す参考図1使用状態を示す参考図2
・意匠に係る物品「輪ゴム」
(2)引用意匠
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成19年4月4日,前記の本願意匠について意匠登録出願をし
た(意願2007−8951号)ところ,拒絶査定を受けたので,不服の審
判請求をした。
特許庁は,上記請求を不服2008−10803号事件として審理した
上,平成21年1月6日,「本件審判の請求は,成り立たない」との審決を
し,その謄本は平成21年1月16日原告に送達された。
(2)審決の内容
ア審決の内容は,別紙審決写しのとおりである。その理由の要点は,
本願意匠は引用意匠と類似するから意匠法3条1項3号により意匠登
録を受けることができない,というものである。
イなお,審決は,本願意匠と引用意匠の共通点及び差異点を次のとおり認
定した。
〈共通点〉
両意匠は,(A)全体をやや厚みを有する幅広の環状体とし,周側面部
に4つの同型同大の細長い開口部を設けた態様とした基本的構成態様が共
通し,具体的構成態様について,(B)4つの開口部を略均等間隔に配し
た点,(C)開口部を平行な直線部を有する扁平な略トラック型形状とし
た点において共通する。
〈差異点〉
両意匠は,(a)周側面部の幅に対する開口部の幅について,本願意匠
は約2分の1程度の幅であるのに対し,引用意匠は約3分の1程度の幅で
ある点,(b)開口部の長さについて,本願意匠は開口部間が開口部より
短いのに対し,引用意匠は,開口部間が開口部よりやや長い点,(c)開
口部の両端部形状について,本願意匠が隅丸角形状であるのに対し,引用
意匠は半円弧形状である点に差異がある。
(3)審決の取消事由
しかしながら,本願意匠と引用意匠が類似するとした審決の認定判断に
は,次のとおり誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(本願意匠と引用意匠の開口部における差異は,意匠全体か
ら観れば一部位における僅かな程度の差異であるとの認定の誤り)
(ア)審決は,「開口部の幅についての差異点(a)は,平行な直線部を
有する扁平な略トラック型形状とした共通する態様の中での僅かな寸法
の差異であり,開口部の印象を変更するほど顕著な差異ではなく,」
(2頁下3行∼下1行),「開口部の長さについての差異点(b)も,
平行な直線部を有する扁平な略トラック型形状の開口部を略均等間隔で
4つ設けたという共通する態様の中で,その長さがやや異なるという程
度の差であって,」(3頁6行∼8行)などと認定する。
しかし,本願意匠の周側面には,その環状体の周側面幅に対して2分
の1程度でかつ上記環状体の円周の4分の1より僅かに小さい寸法の開
口が四つ設けられているのに対し,引用意匠の周側面には,その環状体
の周側面幅に対して3分の1程度でかつ上記環状体の円周の9分の1よ
り僅かに小さい寸法の開口が四つ設けられている。
そうすると,本願意匠と引用意匠は,開口部の「位置,範囲,大き
さ」が著しく異なる。
(イ)意匠の美観においては,意匠の各構成要素の「位置,範囲,大き
さ」が全体の意匠に与える影響は大きいものであるところ,本願意匠と
引用意匠とでは,開口の「位置,範囲,大きさ」が上述のようにすべて
異なっているから,その類否判断に与える影響は大きいものである。
本願意匠は,その周側面部の開口された面積が非常に大きく,ゴム素
材が占める割合よりも,空間部の比率が高いから,本願意匠全体から一
種の開放的な印象を受ける。これに対し,引用意匠は,開口部面積が非
常に小さく,それを四つ併せ持っているとしても,本願意匠とは正反対
の印象を受ける。したがって,引用意匠は,本願意匠の美観とは真逆で
あるといえ,意匠的効果が異なる。
本願意匠と引用意匠において,開口部の長さの差異は,相当の面積を
占め,更に機能上も重要な役割を果たす部分の態様の差異と認められ,
最も目を惹くところであり,これらの意匠の物品に係る需要者の視覚を
通じれば,それを容易に看取し,両意匠を別異のものと判断するに十分
な意匠的効果が発揮されているものである。
(ウ)したがって,審決の上記認定には,誤りがある。
なお,本願意匠や引用意匠と同様に単純な構成から成る「タンブラー
(コップ)」の意匠について類似性を否定した東京高判平成13年5月
31日(平成12年(行ケ)第503号)及びこれを受けてなされた平
成13年11月21日確定の審決(平成10年審判第8672号,甲1
1)が参考になる。
イ取消事由2(本願意匠と引用意匠の開口部における差異は,輪ゴムの分
野において従前からみられる態様であるため,格別看者の注意を惹くもの
ではないとの認定の誤り)
(ア)審決は,「本願意匠と同様に,開口部上下の余白部の幅よりも開口
部の幅を広くする態様はこの種輪ゴムの分野において従前にもみられる
態様である…」(2頁下1行∼3頁2行),「本願意匠のように開口部
間を開口部より短くする態様はこの種輪ゴム等の分野においてはむしろ
広く知られており…」(3頁8行∼10行)と認定し,これらの本願意
匠と引用意匠の差異は「格別看者の注意を惹くものではない。」(3頁
20行∼21行)と判断する。
(イ)しかし,本願意匠と引用意匠の属する分野においては,結束する対
象物品の大きさや形状に基づいて,両意匠に係る物品が適宜選択される
ものであるから,両意匠に係る物品の寸法は,需要者から常に注目さ
れ,それに伴う意匠は,注意深く観察されるものである。
そうすると,両意匠の特徴的部分である開口部の寸法の著しい差異
が,意匠の類否判断を左右する1要素をなすものということができる。
本願意匠と引用意匠の属する分野における需要者は,物品の寸法
(「内径」,「折径」,「切幅」,「厚み」)によって,別異の形態と
認識している(甲6の1∼7[株式会社コクゴのホームページ],甲7
の1∼5[ライサ株式会社のホームページ]参照)。取引の都度,取引
対象とされる輪ゴムの寸法を説明提示しなければならないのでは,非常
に迂遠であるから,寸法によって異なる型番を使用しているのであり,
型番は,輪ゴムの寸法が注目される意匠の取引事情から生じたものであ
る。
(ウ)本願意匠と引用意匠の開口部の「幅」及び「長さ」についての差異
点に関し,輪ゴムの分野において従前からみられる態様での相違に過ぎ
ないと被告が主張する資料(審決の別紙第3及び第4)は,いずれを検
討しても,上記「幅」に関しては,引用意匠とほぼ同寸法であり,本願
意匠のような特異な幅寸法を有しておらず,上記「長さ」に関しては,
いずれの資料も,二つ開口に係る輪ゴムの意匠であるから,必然的にそ
の長さは長寸法にならざるを得ず,また,上記資料に係る意匠の開口の
長さは,その物品の機能を果たすため必然的に定まるものであるから,
審決の上記認定は妥当ではない。
また,本願意匠と引用意匠の開口部の差異点が,仮にありふれた構成
比率の差異であるとしても,構成比率が大きく異なれば,見る者に与え
る印象が異なることは十分あり得ることである。
(エ)なお,寸法及び色彩の違う輪ゴムがワンセットで販売されているの
は,販売機会を向上させるためである。需要者は,輪ゴムの寸法(「内
径」,「折径」,「切幅」,「厚み」)の相違によって形態上の差異を
見い出しているので,単一寸法の輪ゴムのみでは,その寸法を必要とし
ない顧客には全く売れないからである。また,被告が提出する後記乙8
∼12は,開口部が二つの意匠であり,後記乙6は,四つの環状体を連
結させたものであって,本願意匠とは異なる。
(オ)してみると,本願意匠と引用意匠の開口部の寸法から生ずる形態の
相違は微弱な差異ということができず,意匠の美観に与える影響は大き
いのであって,両意匠の差異点が共通点を凌駕するものであることは明
らかである。
(カ)なお,原告が本願意匠の出願に当たって,新規性喪失の例外証明書
提出書(乙14)を提出したのは,将来拒絶理由通知がされ,それに応
答しなければならないことを防ぐためにしたものであって,本願意匠が
上記証明書に掲げた意匠と類似していると認識していたわけではない。
(キ)したがって,審決の上記認定には,誤りがある。
ウ取消事由3(引用意匠の開口部の間隔が,均等若しくはほぼ均等である
との認定の誤り)
(ア)審決は,「なお,請求人は意見書において引用意匠の開口部は不均
等間隔であると主張するが,第2図,第3図は直方形の箱体に用いた場
合の図であって,第1図からは均等間隔であるか,または,ほぼ均等間
隔で各開口部の間隔が顕著に異るものではないと推認できる。」(2頁
9行∼12行)と認定する。
(イ)しかし,前記「引用意匠」図面第1図のとおり,引用意匠において
は,その正面及び背面位置に配置される間隔部とその左右に配置される
間隔部の寸法は同じではない(被告が作成した乙2の図面では,背面側
間隔部52mm,右側面間隔部62mm,正面間隔部55mm,左側面
間隔部54mmである)。
また,前記「引用意匠」図面第2図から把握されることは,長方体の
物品を結束した引用意匠の緊張状態であっても,物品の長辺に架かる引
用意匠のゴムの厚みと短辺に架かる引用意匠のゴムの厚みとが同じであ
るということである。審決が認定するように,引用意匠は均等間隔若し
くはほぼ均等間隔で開口されているとするならば,上記厚みには差異が
生じるはずである。
そうすると,引用意匠の開口の間隔は,不均等であると理解するほう
が,上記第1図と第2図と整合するのであって,審決の上記認定は誤り
である。
なお,引用意匠である実用新案公開公報の図面は,図面に表れた意匠
どおりの形態で類否判断がなされなければならないのであって,被告が
主張するように推測で形態を認定してはならない。
(ウ)本願意匠と引用意匠は,上記ア,イのとおり,開口の「位置,範
囲,大きさ」が異なっていることに加え,その開口の間隔においても異
なることから,両意匠の形態上の相違は著しいものとなり,別異の意匠
的効果を生じさせることとなって,両意匠の形態は類似していないこと
となる。
エ取消事由4(他の物品を結束した態様における本願意匠と引用意匠の共
通点を総合的に勘案した場合,両意匠は全体として共通の美観を与えると
の認定の誤り)
(ア)審決は,本願意匠と引用意匠につき,「両意匠は4つの開口部を有
することによって,使用状態として,4つの開口部に方形体の四隅を挿
入するかたちで結束が可能であるという点においても共通するものであ
るから,両意匠の形態及び使用状態の共通点を総合的に勘案した場合,
両意匠は全体として共通の美感を与えるものである。」(2頁29行∼
33行)と認定する。
(イ)しかし,引用意匠は,開口間隔が広いため,各間隔部は引用意匠の
意匠全体からして相当な面積を占めている。
そうすると,引用意匠によって方形体の物品を結束する場合,引用意
匠の四つの開口部にその方形体の四隅を挿入したときの引用意匠の使用
態様は,一つの間隔部が一辺を形成することとなって,その間隔部は四
つあるから,合計4辺と,開口部が形成する四つの辺とを合わせた総計
8辺で方形体の物品の平面及び底面を結束している状態となる(前記
「引用意匠」図面第2図及び第3図参照)。すなわち,引用意匠の四つ
の開口部に方形体の四隅を挿入すると,平面及び底面方向から見れば,
正八角形を縦長にした形状となる。
(ウ)一方,本願意匠は,開口間隔が狭いため,本願意匠の四つの開口部
に方形体の四隅を挿入すると,平面及び底面方向から見れば,限りなく
四角形に近い八角形となる(甲4)。この点は,この意匠の属する分野
において従来の意匠に見られないものである。
また,本願意匠の間隔部の構成比率は低いから,この間隔部の伸縮率
は非常に小さいものである。一方,引用意匠の間隔部の構成比率は高い
から,この間隔部の伸縮率は大きいものである。一般に,長いゴムは短
いゴムよりよく伸びることは常識である。したがって,本願意匠と引用
意匠で同一の幅太の方形体を結束した場合,使用形態に差異が生ずるこ
とは明らかである。
(エ)以上のような本願意匠と引用意匠の使用状態上の形態の差異は,両
意匠の用途に基づいて生じている。
引用意匠は,蓋を有する箱体を結束するために考案されたものである
から,意図的に間隔部の面積を広くしている。なぜならば,箱本体に蓋
を冠着させたときに,その蓋部を間隔部によって覆い,かつ,覆ってい
るゴム部の弾性力により,その蓋に締め付け効果を与えれば,より箱本
体と蓋とは強固に結束されるからである。また,引用意匠は,開口の幅
及び長さを小さくした方が,箱本体と蓋との結束力は強まるとの観点
で,意図的にその開口形状が創作されたと想定される。
これに対し,本願意匠は,書籍,特に雑誌等の結束に適切なものであ
ると認識される。本願意匠では,雑誌の「小口」部,「天」部,「地」
部に掛かる間隔部の面積は僅かであるから,間隔部が,各方向から雑誌
の中心に向かって押圧することにより雑誌自体を湾曲させ雑誌の各部位
を傷めるという懸念を抱き得ないものとなっている。引用意匠で雑誌を
結束する場合には,その「小口」部,「天」部,「地」部をゴムの弾性
力により強く押圧する印象を与え,特に,その雑誌の「小口」部を著し
く傷める懸念を抱く美観となっている。
(オ)審決においても「具体的な形態により使用方法が異なるという物品
の特性から,物品全体の形態が注目されるとともに,使用状態も考慮し
た具体的態様も注目して本件両意匠は観察されるものと認められる。」
(2頁23行∼25行)と判断しているのであるから,上記のように,
具体的使用態様が異なる本願意匠と引用意匠は,非類似と認定されなけ
ればならない。
オ取消事由5(本願意匠は意匠登録を受けることができないとの認定の誤
り)
(ア)審決は,「本願意匠は,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に
該当し,同条の規定により,意匠登録を受けることができない。」(3
頁32行∼33行)と判断する。
(イ)しかし,既に述べたとおり,本願意匠は,引用意匠と類似しないか
ら,意匠法3条1項3号に掲げる意匠に該当せず,意匠登録を受けるこ
とができる。審決の上記判断には誤りがある。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)(2)の各事実は認めるが,(3)は争う。
3被告の反論
(1)取消事由1に対し
原告は,引用意匠について,「環状体の円周の9分の1より僅かに小さい
寸法の開口」と主張しているが,前記「引用意匠」図面第1図を基に被告が
作成した「平面図」(乙2)によれば,開口の寸法は円周の約8分の1程度
である。また,原告は,本願意匠について,「ゴム素材が占める割合より
も,空間部の比率が高い」と主張しているが,本願意匠の開口部は,「環状
体の周側面幅に対して2分の1程度かつ前記環状体の円周の4分の1より僅
かに小さい寸法の開口が4つ設けられている」のであるから,開口部間の間
隔部を考慮すれば明らかなとおり,本願意匠も引用意匠と同様,ゴム素材が
占める割合が高いこととなる。
その他は,後記(2)及び(4)のとおりである。
取消事由2に対し(2)
ア輪ゴムの需要者は,業務用に必要とする者だけでなく,一般需要者も含
まれるところ,乙3(三洋電機株式会社がインターネットに掲載した「M
oMAstore」のページ)にみられるように,寸法及び色彩の違う輪
ゴムがワンセットで販売されている実態があるから,寸法の違いにより取
引されるか否かが決定付けられているとはいえない。構成態様に共通性が
あれば,寸法の違いがあっても,それはバリエーションの範囲で,同じ特
徴を有する製品と認識される。
原告提出証拠である甲6の1∼7(株式会社コクゴのホームページ),
甲7の1∼5(ライサ株式会社のホームページ)は,当業界において,当
該製品の寸法差や色彩差を,違う型番で示していることを立証するのみで
ある。販売者は,単に寸法を区別するのに型番を使用し,需要者も,取引
のために型番を利用しているだけのことであって,需要者が型番の違う製
品に対して別異の意匠と認識していることを立証する証拠とはなり得な
い。販売時に寸法や色の異なる製品を違う型番で区別し販売することは,
輪ゴム以外の各種分野においてもごく一般的に行われているところであ
る。
さらに,「環状体周側面に4つの開口を持つ輪ゴム」は,本願意匠及び
引用意匠のほかに,乙4(izumoがインターネットに掲載した掲示板
「2006無印良品の福袋」のページ)にみられるものの,他にはほとん
どみられない本願意匠及び引用意匠に特徴的な構成態様であるから,需要
者はまずこの点について注目するのであって,寸法の差異が上記共通点を
上回る関心事となるとはいえないものである。
イ審決例示の「意匠1」(審決別紙3掲載の意匠1[乙8,実開平1−5
8454号公報])は,本願意匠と同様に,開口部上下の余白部の幅より
も開口部の幅を広くした態様を表わすものである。厳密に計測すれば,周
側面部の幅に対する「意匠1」の開口部の幅は約1/3強で,本願意匠の
約1/2よりやや幅狭である。しかし,この程度に開口部が幅広であれ
ば,看者は開口部上下の余白部の幅よりも開口部の幅が広いという印象を
十分に持つものであるから,本願意匠の開口部の幅について,「従前から
みられる態様」とした審決の認定に誤りはない。
また,審決で例示した意匠(審決別紙第3掲載の「意匠2」[乙9,実
開昭50−77283号公報],同別紙第4掲載の「意匠3」[乙10,
実開昭61−62856号公報]と「意匠4」[乙11,実開平5−26
865号公報])について,原告は,「二つ開口に係る輪ゴムの意匠であ
るから,必然的にその長さは長寸法にならざるを得ず」と主張する。しか
し,乙12(実開昭50−96078号公報)のとおり,開口部の数が二
つであっても開口部の長さが開口部間の長さより短いものも従来からみら
れることから,開口部と開口部間の長さは開口部の数により必然的に決定
されるものとはいえない。また,審決で例示した上記資料がいずれも二つ
開口に係る輪ゴムであるとしても,看者が開口部間を視認すれば,開口部
間は開口部長さよりも明らかに短いと看取されるのであり,審決がこれら
を例示したのは,開口部間と開口部長さの関係において,開口部間が短い
ものは数多くみられ,むしろ一般的であることを示すためであり,審決が
上記資料を示したことに誤りはない。
さらに,三角形の束を結束するための輪ゴムとして,三角形の突起部を
本願意匠のように開口部に入れて結束するものが,乙13(登録実用新案
公報第3011858号,登録日平成7年3月29日)のとおり,本願
出願前にみられるが,その開口部間は,本願意匠のように短いものである
ことからも,開口部間が短いものは,二つ開口に限らず,従来からみられ
るものといえる。
ウ本願意匠と引用意匠が,開口部を扁平で細長い略トラック型としている
点につき,開口部をそのような略トラック型とした態様は従前よりみられ
るが,開口部の形状は,輪ゴムの分野において,トラック型の他に,鉄ア
レイ型(乙1,第1図),数珠玉型(乙8,第3図),スリット型(乙1
2,第1図)などの様々な形状がみられるのであるから,需要者はまず,
開口部の形状自体に注目し,両意匠の開口部は同類型のものであると認識
する。さらに,両意匠の開口部は開口部自体の幅に対する長さの比率にお
いても,ともに約6∼7倍程度で,直線部分がかなり長いトラック型であ
るという点で共通しているのであるから,両意匠の開口部の形状は共通し
た印象を与えるものである。そして,意匠全体の中では,周側面部に略等
間隔に四つ設けられた配置においては共通しているし,開口部の周側面に
対する構成比率の差は,両意匠とも円周の1/4よりも短いという共通す
る範囲での長さの差で,円周が四分割されているような共通感があり,幅
の差も約1/2か約1/3かの程度の差に止まるのであるから,上記開口
部形状の共通点を凌ぐほど構成比率が大きく異なるとはいえない。
そうすると,両意匠の平行な直線部の幅及び長さの差異程度では,扁平
で細長い略トラック型の開口部という印象を変更するほどの差異とはいえ
ず,この差異が,幅広の環状体周側面部に扁平で細長い略トラック型の開
口部を略等間隔に四つ設けたという意匠全体に渡る特徴を上回って,看者
の注意を惹くことはない。
エまた,原告は本願意匠の出願書類の一つとして,新規性喪失の例外証明
書提出書(乙14)を提出している。そこには,開口部の構成比率が異な
る意匠や,開口部の幅が周側面部の1/3程度の意匠が表されている。
この証明書は,出願の日以前に公開された意匠を,意匠法3条1項1号
又は2号に該当しない意匠であるとみなされることを求めて提出したもの
であるから,原告においても,出願当初,開口部の構成比率や,全体のバ
ランス等が異なる意匠について,本願意匠と共通の特徴を有する意匠と認
識していたことを裏付けるものである。
そうすると,本願意匠の開口部の「幅」及び「長さ」について,いずれ
も従前の意匠にみられる態様で,特に開口部間を開口部よりも短く形成す
る態様はむしろありふれた態様であるから,看者に格別な印象を与えるも
のではないのに対して,審決が認定した両意匠の共通点,すなわち,「全
体をやや厚みを有する幅広の環状体とし,周側面部に4つの同型同大の細
長い開口部を設けた態様とした基本的構成態様」及び「4つの開口部を略
均等間隔に配し」,「開口部を平行な直線部を有する扁平な略トラック型
形状とした」具体的構成態様(審決2頁6行∼13行)は,両意匠の造形
的な骨格を形成しており,両意匠の物品の性質,用途,使用状態を勘案す
れば,その構成態様は,需要者が最も注意を惹きやすい部分であるから,
意匠の要部というべきであり,特に,直径幅の約1/7ほどもある幅広の
輪ゴムに,略均等間隔で扁平な略トラック型形状の開口部を4カ所に形成
した態様は,輪ゴム自体の幅が幅広であるため,需要者が明確に視認でき
ることから,開口部の態様の共通性が印象付けられるものである。
(3)取消事由3に対し
原告は,引用意匠の開口部の間隔について,正面及び背面に位置する開口
部の間隔は左右に位置する開口部の間隔とは異なると主張する。しかし,前
記「引用意匠」図面第1図を見れば,各開口部間は,厳密に均等間隔とまで
は断定できないが,不均等との印象を受けることはなく,略均等間隔の範ち
ゅうにあるといえるものである。そして,斜視図である第1図に基づいて,
被告が真上から見た図として作図した「平面図」(乙2)によれば,各間隔
部は略均等間隔に表われることからも,それは裏付けられるものである。
また,原告は,上記第2図のゴムの厚みに着目すると,開口部の間隔は不
均等であるとも主張する。しかし,実用新案登録出願に添付する図面の場
合,必ずしも見えるとおりに記載する必要はなく,緊張状態でのゴム厚の変
化は,この考案が求める請求の範囲に関係するものではないため,上記第2
図も,ゴム厚の変化について精緻には表していないと推測される。したがっ
て,上記第2図に厚みが等しく表されていても,ゴム厚を正確に作図したも
のとは断定できないから,各間隔が不均等であることの証拠とはなり得な
い。
そもそも,本願意匠と引用意匠の対比の対象となる態様は,本願意匠も6
面図で表している緊張していない態様が基本となるべきである。そうする
と,引用意匠の開口部の間隔は上記第1図に基づいて認定すべきであり,上
記のとおり各開口部間は略均等間隔である。
(4)取消事由4に対し
審決の「具体的な形態により使用方法が異なるという物品の特性から,…
物品全体の形態が注目されるとともに,使用状態も考慮した具体的態様も注
目して観察されるものと認められる。」(2頁23行∼25行)との記載
は,本願意匠や引用意匠のように周側面に開口部が設けられた,定番のもの
ではない,いわば特殊な輪ゴムの場合,その開口部などの具体的な形態によ
り,結束に適した対象物が異なったり,各部位を対象物に対しどのように掛
けとめるかといった使用方法が異なるのであるから,需要者の観察は,当該
輪ゴムの不使用時の形態のみではなく,開口部を利用した使用状態も考慮し
て,使用状態に影響する具体的な開口部の数や形態にも注目してなされるも
のである,との意味である。
そして,下記のとおり,使用状態においても,本願意匠や引用意匠は,共
通しているものである。
ア本願意匠の使用状態において,四角形状であるのはごく薄いものを結束
した場合のみに限定され,厚みのあるものを結束したときの態様は,引用
意匠と概略同様に表われるものである。すなわち,前記「本願意匠」図面
の「使用状態を示す参考図1」は,厚みのある方形体を結束した使用状態
を表しているものであるが,これを平面及び底面方向から見た場合,引用
意匠と同様に,各角部に掛け渡された斜めのラインが方形体四隅の内側に
表われると共に,方形体側面に沿った部分は,側面に沿った直線として視
認され,平面視の形状は,両意匠とも斜めのラインの間に水平及び垂直な
辺が表われる角切り菱形状である点で共通する(乙5)。また,側面視の
形状においても,両側に,中心から外側に向かって広がる対称倒V字状の
ラインが視認されるという点で共通する。
このような,方形体四隅の内側に斜め掛けして行われる結束は,通常は
高さがさほど高くない方形体に対してなされるものであるから,看者の目
につきやすいのは平面部であって,そうすると,両意匠とも共通した角切
り菱形状の印象を受けるし,上記のように,側面形状においても共通性が
認められるのであるから,両意匠の使用状態の形態には格別な差異はな
い。
イまた,本願意匠によって厚みが薄いものを結束した場合において,四角
形に近い八角形が表われる点について,原告は,「この意匠の属する分野
において従来の意匠に見られないものである。」と主張する。しかし,実
開昭58−59756号公報の第2図(乙6)の輪ゴムで薄いものを結束
すると,本願意匠と同様の形態が表われる。したがって,この態様が従来
みられないとの原告の主張は誤りである。
ウさらに,原告は,本願意匠と引用意匠の使用状態の差異は,用途に基づ
いて生じているとし,引用意匠は蓋を有する箱体を結束するために,箱と
蓋との結束力が強まるとの観点で,意図的に開口形状が創作されたもので
あるが,本願意匠は特に書籍,雑誌等の結束に適切であると認識されると
主張する。
しかし,本願は,願書(乙7)の「意匠に係る物品の説明」の欄に,
「本物品は,複数の扁平四角形状の物品を束ねるためのものである。例…
えば,弁当の容器とその蓋,複数の扁平四角柱状の菓子折り又は包装容器
等を結束するために用いられる。このように,本物品により結束された…
該複数の物品は,四隅が強固に結束されているため,該複数の物品同士間
でずれが生ずることが少ない。」と記載されているとおり,原告自ら,厚
みのある箱体を結束する用途のものであり,四隅を強固に結束できると説
明しているのであるから,引用意匠とは用途や機能,ないしは目的,効果
が異なるとの原告の主張は,当を得ないものである。上記「意匠に係る物
品の説明」欄では,本願意匠は開口部に別途の物品を係止させることがで
きるとも説明しているが,引用意匠も同様の使い方ができるものである。
エそうすると,使用状態の共通性を総合的に勘案した場合,本願意匠と引
用意匠は,全体として共通した美感を与えるということができる。
取消事由5に対し(5)
本願意匠は,引用意匠に類似する意匠であるから,意匠法3条1項3号に
掲げる意匠に該当する。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実
は,当事者間に争いがない。
2取消事由1(本願意匠と引用意匠の開口部における差異は,意匠全体から観
れば一部位における僅かな程度の差異であるとの認定の誤り)及び取消事由2
(本願意匠と引用意匠の開口部における差異は,輪ゴムの分野において従前か
らみられる態様であるため,格別看者の注意を惹くものではないとの認定の誤
り)について
(1)前記第2,2(1)「本願意匠」図面によれば,本願意匠の周側面には,そ
の環状体の周側面幅に対して2分の1程度でかつ上記環状体の円周の4分の
1より僅かに小さい寸法の開口が四つ設けられている。これに対し,前記第
2,2(2)「引用意匠」図面及びこれに基づいて被告が作成した図面(乙
2)によれば,引用意匠の周側面には,その環状体の周側面幅に対して3分
の1程度でかつ上記環状体の円周の約8分の1の寸法の開口が四つ設けられ
ている。
本願意匠も引用意匠も,周側面において,開口部が四つ設けられている点
やゴム素材が占める割合が開口部が占める割合よりも大きい点は共通してい
るものの,その開口部の「位置,範囲,大きさ」は,上記認定のとおりかな
り異なっており,本願意匠では,開口部が周側面において大きな部分を占め
ているとの印象を与えるが,引用意匠では,開口部は周側面の一部であると
の印象しか与えない。そして,この開口部の「位置,範囲,大きさ」は,本
願意匠及び引用意匠に係る物品では,非常に目立つ部分であり,需要者の注
目を惹くということができる。
(2)乙3(三洋電機株式会社がインターネットに掲載した「MoMAsto
re」のページ)によれば,寸法及び色彩の違う輪ゴムがワンセットで販売
されていることが認められるが,そうであるからといって,需要者が輪ゴム
の開口部の「位置,範囲,大きさ」の違いに着目しないということはできな
い。
被告は,「環状体周側面に4つの開口を持つ輪ゴム」は,本願意匠及び引
用意匠のほかに,乙4(izumoがインターネットに掲載した掲示板「2
006無印良品の福袋」のページ)にみられるものの,他にはほとんどみら
れない本願意匠及び引用意匠に特徴的な構成態様であるから,需要者はまず
この点について注目すると主張するが,開口部が四つ設けられている点のみ
ならず,開口部の「位置,範囲,大きさ」についても注目することは,前記
(1)認定のとおりである。
審決例示の「意匠1」(審決別紙3掲載の意匠1[乙8,実開平1−58
454号公報]),「意匠2」(審決別紙第3掲載の意匠2[乙9,実開昭
50−77283号公報]),「意匠3」(審決別紙第4掲載の意匠3[乙
10,実開昭61−62856号公報]),「意匠4」(審決別紙第4掲載
の意匠4[乙11,実開平5−26865号公報])は,いずれも開口部の
長さが開口部間の長さよりはるかに長いものであるが,開口部が二つ設けら
れているものであって,開口部が四つ設けられているものではない。開口部
が四つ設けられているもので,開口部が周側面において大きな部分を占めて
いる意匠が,本願意匠の出願前に存したことを認めるに足りる証拠はない。
乙13(登録実用新案公報第3011858号,登録日平成7年3月2
9日)記載の意匠は,三角形の突起部を結束するものであるが,その開口部
の形状は,輪ゴムに細長い3か所の切込みを入れたものであって,本願意匠
とは明らかに異なる。
(3)被告は,輪ゴムの開口部の形状は,トラック型の他に,鉄アレイ型(乙
1,第1図),数珠玉型(乙8,第3図),スリット型(乙12,第1図)
などの様々な形状がみられるから,需要者はまず,開口部の形状自体に注目
すると主張するが,輪ゴムの開口部の形状にいろいろな形があるとしても,
本願意匠において,需要者が,開口部の形状のみならず,その「位置,範
囲,大きさ」についても注目することは,前記(1)認定のとおりである。
また,被告は,本願意匠と引用意匠の開口部は,開口部自体の幅に対する
長さの比率において,ともに約6∼7倍程度で,直線部分がかなり長いトラ
ック型であるという点で共通しているとも主張するが,需要者は,そのよう
な点よりは,開口部が周側面において占めている「位置,範囲,大きさ」に
注目するというべきである。
(4)原告は本願意匠の出願書類の一つとして,新規性喪失の例外証明書提出
書(乙14)を提出しているところ,そこには,本願意匠とは開口部の構成
比率が異なる意匠や,開口部の幅が周側面部の1/3程度の意匠が表されて
いる。しかし,弁論の全趣旨によれば,同堤出書は,将来,原告自身の製品
によって本願意匠の出願が拒絶されることを防ぐために,少しでも拒絶理由
となる可能性のある意匠について広く網羅して記載したものと認められるか
ら,同提出書の記載を理由として原告が本願意匠と引用意匠が類似すること
を認めていたということはできない。
(5)以上によると,本願意匠では,開口部が周側面において大きな部分を占
めているとの印象を与えるが,引用意匠では,開口部は周側面の一部である
との印象しか与えないという,需要者に注目される大きな違いがあるという
ことができるのであって,「本願意匠と引用意匠の開口部における差異は,
意匠全体から観れば一部位における僅かな程度の差異である」とか「本願意
匠と引用意匠の開口部における差異は,輪ゴムの分野において従前からみら
れる態様であるため,格別看者の注意を惹くものではない」ということはで
きない。したがって,その旨の審決の判断には誤りがあり,取消事由1,2
は理由がある。
3取消事由3(引用意匠の開口部の間隔が,均等若しくはほぼ均等であるとの
認定の誤り)について
(1)原告は,引用意匠は,その正面及び背面位置に配置される間隔部とその
左右に配置される間隔部の寸法は同じではないと主張する。
しかし,前記「引用意匠」図面及びこれに基づいて被告が作成した図面
(乙2)によれば,引用意匠の正面及び背面位置に配置される間隔部とその
左右に配置される間隔部の寸法について,需要者によって違うと認識される
ほどの違いがあるとは認められない。
(2)原告は,前記「引用意匠」図面第2図のとおり,引用意匠では,長方体
の物品を結束した引用意匠の緊張状態であっても,物品の長辺に架かる引用
意匠のゴムの厚みと短辺に架かる引用意匠のゴムの厚みとが同じであるとこ
ろ,引用意匠は均等間隔若しくはほぼ均等間隔で開口されているとするなら
ば,上記厚みには差異が生じるはずであると主張する。
しかし,上記第2図は,引用意匠に係るゴムバンドを用いて箱に蓋を固定
したところを示した図面であって,緊張状態における物品の長辺に架かるゴ
ムの厚みと短辺に架かるゴムの厚みを厳密かつ正確に反映したものであるか
どうか明らかでないから,上記第2図が原告が主張するようなものであるか
らといって,引用意匠の正面及び背面位置に配置される間隔部とその左右に
配置される間隔部の寸法が違うと認めることはできない。
(3)そうすると,引用意匠の開口の間隔について,「均等間隔であるか,ま
たは,ほぼ均等間隔で各開口部の間隔が顕著に異るものではないと推認でき
る。」(2頁11行∼12行)として,開口の間隔を差異点としなかった審
決の判断に誤りがあるということはできないから,取消事由3は理由がな
い。
4取消事由4(他の物品を結束した態様における本願意匠と引用意匠の共通点
を総合的に勘案した場合,両意匠は全体として共通の美観を与えるとの認定の
誤り)について
(1)引用意匠によって方形体の物品を結束する場合に,引用意匠の四つの開口
部にその方形体の四隅を挿入したときの引用意匠の使用態様は,一つの間隔
部が一辺を形成することとなって,その間隔部は四つあるから,合計4辺
と,開口部が形成する四つの辺とを合わせた合計8辺で方形体の物品の平面
及び底面を結束している状態となり,これらの8辺をいずれも明確に認識す
ることができる(前記「引用意匠」図面第2図及び第3図参照)。
一方,本願意匠によって方形体の物品を結束する場合,その物品が雑誌の
ように薄いものであるときは,本願意匠の四つの開口部に方形体の四隅を挿
入すると,平面及び底面方向から見れば,八角形となるものの,その形状は
四角形に近く,4辺のみが目立つことになる(甲4)。
また,本願意匠によって方形体の物品を結束する場合,その物品が箱のよ
うに厚いものであるときは,前記「本願意匠」図面の「使用状態を示す参考
図1」のようになる。引用意匠においては,方形体側面に沿った部分で間隔
部が方形体側面の上辺及び下辺と平行の長方形状となる(前記「引用意匠」
図面第3図参照)のに対し,本願意匠においては,間隔部は4方に伸びる輪
ゴムの結節点であるにすぎない(前記「本願意匠」図面の「使用状態を示す
参考図1」参照)。
(2)以上のとおり,方形体の物品を結束する場合,その物品が雑誌のように
薄いものであっても,箱のように厚いものであっても,本願意匠と引用意匠
とでは,その使用形態に差異が生ずるというべきである。
(3)被告は,実開昭58−59756号公報の第2図(乙6)の輪ゴムで薄
いものを結束すると,本願意匠と同様の形態が表われると主張するが,同公
報第2図の輪ゴムは,四つの環状体を連結させたものであって,本願意匠と
は形状が異なるものである。
また,被告は,箱のように厚いものを結束した場合,本願意匠と引用意匠
の平面視の形状は,斜めのラインの間に水平及び垂直な辺が表われる角切り
菱形状である点で共通し,側面視の形状においても,両側に,中心から外側
に向かって広がる対称倒V字状のラインが視認されるという点で共通すると
主張する。しかし,平面視の形状が被告主張のとおりであるとしても,側面
視の形状は,上記(1)認定のとおり大きく異なっているのであって,この違
いは,両側に中心から外側に向かって広がる対称倒V字状のラインが視認さ
れるとの共通点を凌駕するものであるということができる。
したがって,これらの被告の主張は,上記(2)の認定を左右するものでは
ない。
(4)以上のとおり,取消事由4は理由がある。
5取消事由5(本願意匠は意匠登録を受けることができないとの認定の誤り)
について
前記2のとおり,本願意匠では,開口部が周側面において大きな部分を占め
ているとの印象を与えるが,引用意匠では,開口部は周側面の一部であるとの
印象しか与えないという需要者に注目される大きな違いがある上,前記4のと
おり,使用形態においても差異があるから,本願意匠と引用意匠とが意匠法3
条1項3号により類似するということはできない。
なお,前記3のとおり,開口の間隔を差異点としなかった審決の判断に誤り
があるということはできないが,そうであるとしても,上記のとおり,本願意
匠と引用意匠は類似するということはできない。
したがって,取消事由5は理由がある。
6結論
よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官澁谷勝海

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