弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 一 上告代理人小林昭、同大戸英樹、同南出喜久治の上告理由二、三について
 1 本件記録及び原審の適法に確定したところによると、訴えの変更に関する事
実関係の概要は次のとおりである。
 (一) 上告人は、昭和三三年に設立されたタクシー事業及び貸切バス事業等を営
む株式会社であり、昭和五九年八月当時の資本の額は三五〇〇万円、会社が発行す
る株式の総数は一〇万株、発行済株式の総数は七万株(一株の額面金額は五〇〇円)
であったところ、同年八月二三日開催の取締役会において、発行株式の種類及び数
を記名式普通額面株式一万株、発行価額を一株につき三九〇七円、申込期日を同年
九月一三日、払込期日を同月一四日、募集の方法を第三者割当、割当てを受ける者
を株式会社Dサービスとする新株発行を決議した。
 (二) 上告人の株主である被上告人B1は、本件新株発行に対して、京都地方裁
判所に商法二八〇条ノ一〇に基づく新株発行差止請求訴訟を本案とする新株発行差
止めの仮処分の申立てをし、昭和五九年九月一二日、仮処分命令(以下「本件仮処
分命令」という。)を得た。その上で、上告人の株主である被上告人ら(被上告人
B2、同B3を除く。)及びE(以下「被上告人ら」という。)は、同月二〇日、
新株発行差止請求の訴えを提起した。右訴えの理由とするところは、本件新株発行
は、現在の取締役会の方針に反対する株主の持株比率を減少させ、上告人会社の支
配確立を目的としたもので、商法二八〇条ノ二第二項に違反し、かつ、著しく不公
正な方法によるものであって、株主である被上告人らが不利益を受けるおそれがあ
るというものであった。
 (三) 上告人は、昭和五九年九月一三日、本件仮処分命令に対して異議を申し立
てたが、本件新株発行はそのまま実施することにし、前記Dサービスから払込期日
に新株払込金の支払を受けた。
 (四) 本件新株発行に対する差止請求訴訟は、昭和五九年一〇月二三日に第一審
の第一回口頭弁論期日が開かれて以来審理が続けられたが、昭和六〇年一〇月三一
日の第一審第八回口頭弁論期日において、上告人から本件新株発行は既に実施され
ているから新株発行差止請求は訴えの利益がなくなったとの主張がされた。
 (五) そのため、被上告人らは、昭和六〇年一二月二日に第一審に提出した同日
付け準備書面で、本件仮処分命令に違反する新株発行は効力を生じないが、仮に効
力を有するとすれば、予備的に、右新株発行差止請求の訴えを商法二八〇条ノ一五
に基づく新株発行無効の訴えに変更する旨の申立てをした。右新株発行無効の訴え
で主張する無効事由は、仮処分命令違反が付加された以外は、それまで差止事由と
して主張してきたものと同一であった。
 2 右事実関係に照らすと、本件新株発行に対する差止請求の訴えと右訴えを本
案とする本件仮処分命令に違反してされた新株発行に対する無効の訴えとは、事前
と事後の違いはあるが、ともに本件新株発行により不利益を受けるとする被上告人
ら株主がその新株発行を阻止し、若しくはその効力を否定しようとするものであっ
て、同一の経済的利益を追求するものということができる上、新株発行差止請求の
訴えの訴訟資料、証拠資料を新株発行無効の訴えの審理に利用することが期待でき
る関係にあるということができるから、旧訴である新株発行差止請求の訴えと新訴
である新株発行無効の訴えとの間には請求の基礎に同一性があるものというべきで
ある。
 3 ところで、訴えの変更は、変更後の新請求については新たな訴えの提起にほ
かならないから、変更後の訴えにつき出訴期間の制限がある場合には、出訴期間の
遵守の有無は、原則として、訴えの変更の時を基準としてこれを決すべきであるが、
変更前後の請求の間に存する関係から、変更後の新請求に係る訴えを当初の訴えの
提起時に提起されたものと同視することができる特段の事情があるときは、出訴期
間が遵守されたものとして取り扱うのが相当である(最高裁昭和五九年(行ツ)第
七〇号同六一年二月二四日第二小法廷判決・民集四〇巻一号六九頁参照)。
 これを本件についてみるに、前示事実関係によれば、本件新株発行に対する差止
請求の訴えは、被上告人B1が本件仮処分命令を得た後、新株発行がされることに
より持株比率の減少等の不利益を受けるとする被上告人らによって、本件新株発行
を阻止する目的の下に提起されたものであって、被上告人らは、右訴えの提起によ
り、万一右仮処分命令に違反して新株が発行された場合には右新株発行の効力を争
い、仮処分命令違反をその理由とする意思をも表明していると認められるから、本
件で変更された新株発行無効の訴えについては、新株発行差止請求の訴え提起の時
に提起されたものと同視することができる特段の事情が存するものというべきであ
る。
 4 以上の次第であるから、新株発行無効の訴えへの変更を認め、無効原因とし
て本件仮処分命令違反の主張をすることは許されるとした原審の判断は、その結論
において是認することができる。論旨はいずれも採用することができない。
 二 同四について
 商法二八〇条ノ一〇に基づく新株発行差止請求訴訟を本案とする新株発行差止め
の仮処分命令があるにもかかわらず、あえて右仮処分命令に違反して新株発行がさ
れた場合には、右仮処分命令違反は、同法二八〇条ノ一五に規定する新株発行無効
の訴えの無効原因となるものと解するのが相当である。けだし、同法二八〇条ノ一
〇に規定する新株発行差止請求の制度は、会社が法令若しくは定款に違反し、又は
著しく不公正な方法によって新株を発行することにより従来の株主が不利益を受け
るおそれがある場合に、右新株の発行を差し止めることによって、株主の利益の保
護を図る趣旨で設けられたものであり、同法二八〇条ノ三ノ二は、新株発行差止請
求の制度の実効性を担保するため、払込期日の二週間前に新株の発行に関する事項
を公告し、又は株主に通知することを会社に義務付け、もって株主に新株発行差止
めの仮処分命令を得る機会を与えていると解されるのであるから、この仮処分命令
に違反したことが新株発行の効力に影響がないとすれば、差止請求権を株主の権利
として特に認め、しかも仮処分命令を得る機会を株主に与えることによって差止請
求権の実効性を担保しようとした法の趣旨が没却されてしまうことになるからであ
る。
 右と同旨の見解に立ち、本件仮処分命令に違反して行われた本件新株発行を無効
とした原審の判断は正当として是認することができる。論旨は採用することができ
ない。
 三 その余の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に
照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、
原審の裁量に属する審理上の措置の不当をいうものにすぎず、採用することができ
ない。
 四 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官味村治、同大白勝
の補足意見、裁判官大堀誠一、同三好達の反対意見があるほか、裁判官全員一致の
意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官味村治の補足意見は、次のとおりである。
 私は、多数意見に同調するものであるが、三好裁判官らの反対意見にかんがみ、
そこで指摘されているいくつかの問題点について、私の考えを補足しておきたい。
 一1 反対意見は、多数意見のように、本件新株発行無効の訴えは本件新株発行
差止請求の訴え提起の時に提起されたものと同視できるとするには、新株発行差止
請求の訴えは新株発行無効の訴えのいわば前駆的訴訟で、両者は制度的に同一の目
的を有する関連した訴えとしてとらえ得ることが一つの前提となるとし、新株発行
差止請求権及び新株発行無効の訴えは相関連する制度として創設されたものではな
く、新株発行差止請求の訴えと新株発行無効の訴えは、訴えの性質、原告適格、請
求原因、判決の効力等を異にするから、右の前提を肯定することはできないという。
 2 しかし、新株発行差止請求権は、会社が法令若しくは定款に違反し、又は著
しく不公正な方法によって株式を発行し、株主がこれにより不利益を受けるおそれ
のある場合に事前に発行を阻止することにより会社に対する監督是正を行う株主の
共益権であり、株主の新株発行無効の訴え提起権は、会社が法令定款等に違反して
新株を発行した場合に事後に新株発行を無効とすることにより、会社に対する監督
是正を行う株主の共益権である。新株発行差止請求の事由となる法令定款違反等の
中には、新株発行の無効原因とならないものがあるが、これは、新株発行を事後に
無効とするについては取引の安全を考慮する必要があるが、新株発行を事前に差し
止めるについてはそのような必要がないことによるもので、株主の新株発行差止請
求権と株主の新株発行無効の訴え提起権は、いずれも新株発行について会社に対す
る監督是正を行うという目的のため株主に認められた共益権である。本件新株発行
無効の訴えは本件新株発行差止請求の訴え提起の時に提起されたものと同視できる
とするための制度的前提としては、以上述べたところで十分であると考える。
 二1 反対意見は、新株発行差止請求権に係る訴えを本案とする差止めの仮処分
命令は、会社に当該株主に対する不作為義務を課するにとどまり、会社の新株発行
権限に影響を与えないから、新株発行無効の訴えにおける無効原因となり得ないと
いう。
 2 しかし、商法は、新株発行無効の訴えにおける無効原因を法定していないか
ら、新株発行に法令定款違反等の瑕疵がある場合にその瑕疵を無効原因と解するか
否かは、当該法令定款の趣旨等によって判断することとなる。そして、多数意見は、
商法二八○条ノ一〇及び二八〇条ノ三ノ二の趣旨により、右の仮処分命令に違反し
た新株発行に無効原因があると解するものである。
 なお、反対意見は、多数意見によると、仮処分債権者以外の株主で新株発行によ
り不利益を受けるおそれのない者、取締役又は監査役が新株発行無効の訴えを提起
した場合にも、右仮処分命令違反が無効原因となるものと解せざるを得ないことに
なるとして、多数意見を論難する。しかし、右の株主が右仮処分命令違反を理由と
して新株発行無効の訴えを提起することは、株主は他の株主に対する招集通知の瑕
疵を理由として株主総会決議取り消しの訴えを提起することができると解されてい
る(最高裁昭和四一年(オ)第六六四号同四二年九月二八日第一小法廷判決・民集
二一巻七号一九七〇頁参照)ことに徴しても、不当ということはできない。また、
取締役又は監査役が右仮処分命令違反を理由として新株発行無効の訴えを提起する
ことは、その職務上当然のことというべきである。
 裁判官大白勝は、裁判官味村治の補足意見に同調する。
 裁判官三好達の反対意見は、次のとおりである。
 私は、多数意見と異なり、原判決中本件新株発行無効の訴えに係る部分を破棄し、
右訴えを却下すべきものと考えるので、以下その理由を述べる。
 一 多数意見は、本件新株発行無効の訴えは、出訴期間の遵守に欠けるところは
ないとするが、その理由とするところは、本件新株発行差止請求の訴えは、被上告
人B1が本件仮処分命令を得た上で提起したものであり・被上告人らは、右訴えの
提起により、万一右仮処分命令に違反して新株が発行された場合には右新株発行の
効力を争い、仮処分命令違反をその理由とする意思をも表明していると認められる
から、その後予備的に提起した本件新株発行無効の訴えは、本件新株発行差止請求
の訴え提起の時に提起されたものと同視できる、というのである。また、多数意見
中には、本件新株発行差止請求の訴えと本件仮処分命令に違反してされた新株発行
に対する無効の訴えとは、事前と事後の違いはあるが、ともに本件新株発行により
不利益を受けるとする被上告人らがその新株発行を阻止し、若しくはその効力を否
定しようとするものであって、同一の経済的利益を追求するものということができ
る、との説示も見られる。これらによれば、出訴期間の遵守に欠けるところがない
とする多数意見は、本件新株発行差止請求の訴えは本件新株発行無効の訴えのいわ
ば前駆的訴訟であって、両者は制度的に同一の目的を有する関連した訴えとしてと
らえ得ること、及び、新株発行差止請求権に係る訴えを本案とする仮処分命令違反
が新株発行無効の訴えにおける無効原因となるべきことを前提としているものと解
せるれる。けだし、そうでなければ、被上告人らの主観的意図はともかく、法的に
は、前記のような意思の表明を認める余地はなく、原審の適法に確定した本件事実
関係の下においても、本件新株発行差止請求の訴えを提起した時点で、本件新株発
行無効の訴えが提起されたと同視することは到底できないからである。多数意見の
引用する最高裁昭和五九年(行ツ)第七〇号同六一年二月二四日第二小法廷判決・
民集四〇巻一号六九頁の判示は、土地改良事業において一時利用地が従前地に照応
していないことを理由とする一時利用地指定処分の取消しの訴えをその一時利用地
をそのまま換地として指定した換地処分の取消しの訴えに変更した場合に係るもの
であって、変更前の訴えも変更後の訴えも、いずれも同一の土地改良事業の手続に
おいて関連してされた行政処分の取消しの訴えであり、いずれの訴えにおいても取
消事由となり得る共通した瑕疵が取消事由として主張されている場合に係るものな
のである。
 そこでまず、出訴期間遵守の有無の検討に先立ち、これらの点を検討することと
する。
 二 新株発行差止請求権に係る訴えと新株発行無効の訴えの制度的関連の有無
 商法二八〇条ノ一〇は、「会社ガ法令若ハ定款ニ違反シ又ハ著シク不公正ナル方
法ニ依リテ株式ヲ発行シ之ニ因リ株主ガ不利益ヲ受クル虞アル場合ニ於テハ其ノ株
主ハ会社ニ対シ其ノ発行ヲ止ムベキコトヲ請求スルコトヲ得」と規定しているが、
この差止請求権は、「株主ガ不利益ヲ受クル虞アル場合ニ於テハ其ノ株主ハ」との
規定からして、その発行により不利益を受けるおそれのある個々の株主の個人的権
利としての会社に対する請求権であることが明らかであり、右請求権は、それだけ
では新株発行の無効原因とはなり得ない程度の瑕疵があるのにすぎない場合にも、
その発行により不利益を受けるおそれのある個々の株主がその差止めを求めること
ができる権利として創設されたものである。そして、右請求権は訴えによってのみ
行使すべきことを定めた規定や訴訟上行使して得た勝訴判決が第三者に対しても効
力を有することをうかがわせる規定は見当たらないから、株主は訴訟外でもこれを
行使することができるものというべきであるし、株主がこの請求権を訴訟によって
行使し、勝訴判決を得たとしても、その判決は、会社の当該新株発行の権限を対世
的に制約する法律状態を形成するものではないというべきである。それゆえ、会社
が当該新株を発行しても、右請求権を行使した株主に対し損害賠償の義務を負うは
格別、発行自体が無効とされることはないといわなければならない。
 これに対し、同法二八〇条ノ一五所定の新株発行無効の訴えは、新株発行の全体
を通じてその効力に影響を及ぼすような法令又は定款の違反がある場合に、その無
効を一体として画一的に確定するための会社組織法上の訴えとして創設されたもの
であって、新株発行の無効はこの訴えによってのみ主張することができ(同条一項)、
これを無効とする判決は第三者に対しても効力を有する(同法二八〇条ノ一六、一
〇九条)。原告適格についても、株主、取締役又は監査役がその資格においてその
者自身が不利益を受けるおそれの有無にかかわらず提起することができ、株主が提
起する場合は、共益権の一つとしての監督是正権の行使に当たるとされている。
 してみれば、新株発行差止請求権と新株発行無効の訴えとは、相関連する制度と
して創設されたものではなく、右請求権の行使として提起される差止請求の訴えと
新株発行無効の訴えは、訴えの性質、原告適格、請求原因、判決の効力等を異にす
ることが明らかであるから、新株発行差止請求の訴えを新株発行無効の訴えのいわ
ば前駆的訴訟であるとしたり、両者を制度的に同一の目的を有する関連した訴えと
してとらえたりすることはできないのといわなければならない。
 三 新株発行差止仮処分命令違反と新株発行無効の訴えの無効原因
 1 新株発行差止請求権に係る訴えを本案とする差止仮処分に関しては、商法そ
の他の法令に特段の規定は存在しないから、その仮処分命令の効力は、もっぱら仮
処分の一般原則によるほかはない。そして、二に述べたように、株主がこの差止請
求権を行使しても、その効力は個々の株主と会社との間の債権債務を形成するにと
どまり、仮に株主が勝訴判決を得たとしても、同様であることからすれば、右請求
権に係る訴えを本案とする仮処分命令の効力もまた、会社に当該株主に対する不作
為義務を課するにとどまるものといわなければならず、それ以上の効力を有すると
することは、理にもとることが明らかである。してみれば、右仮処分命令は、会社
の新株発行権限にいかなる影響をも与え得るものではない。このことは、新株発行
差止仮処分命令については、登記等の公示方法によってこれを公示する規定がない
ことによっても裏付けられるというべきで、このような公示を欠きながら、仮処分
命令がその手続の当事者以外にまで効力を持つとするならば、第三者の権利保護に
ついて配慮を欠くとのそしりを免れない。
 このように、会社の有する新株発行権限は、新株発行差止請求権に係る訴えを本
案とする差止仮処分命令によっていかなる制約をも受けることはないから、会社が
右命令に違反しても、それが新株発行無効の訴えにおける無効原因となり得ないこ
とは明らかである。
 2 多数意見は、新株発行差止仮処分命令違反がその発行の効力に影響がないと
すれば、差止請求権を株主の権利として特に認め、しかも仮処分命令を得る機会を
株主に与えることによって差止請求権の実効性を担保しようとした法の趣旨が没却
されてしまうこととなるという。
 しかしながら、本来仮処分命令は、疎明によって発せられる暫定的裁判であり、
そのような裁判につき多数意見の説示するような強力な効力を認めることは、その
ように解するに足る明確な法令の定めをまって、はじめてなし得るところ、多数意
見の拳示する商法二八○条ノ一○及び二八〇条ノ三ノ二を新株発行差止仮処分命令
の効力にまで言及した規定ということができないことは、その文言から明らかであ
る。
 そればかりではない。二に述べたように、もともと新株発行差止請求権は、それ
だけでは新株発行の無効原因とはなり得ない程度の瑕疵があるのにすぎない場合に
も、その発行により不利益を受けるおそれのある個々の株主がその差止めを求める
ことができる権利として創設されたものであって、当該株主が自己の権利保全のた
めに仮処分命令を得ているからといって、それに違反してされた新株発行を全体と
して無効としてしまうことは、一般に新株発行無効の訴えにおける無効原因が取引
の安全保護の見地から制限的に解されてきている傾向に背馳し、本来無効原因とは
ならない瑕疵をも無効原因としてしまうのと同様の結果となり、かえって、不当な
結果をもたらすというべきであろう。更にいえば、仮に新株発行差止仮処分命令違
反が新株発行無効の訴えにおける無効原因となるとするならば、その仮処分債権者
以外の株主であって新株発行により不利益を受けるおそれのない者、取締役又は監
査役が新株発行無効の訴えを提起した場合においても、右仮処分命令違反が無効原
因となるものと解さざるを得ないであろう。現に本件でも、仮処分債権者は被上告
人B1のみであるのにかかわらず、多数意見は、その余の被上告人らも右仮処分命
令違反を無効原因として主張できるとの前提にたって、その余の被上告人らの請求
を認容すべきものとしており、かくては、本来は新株発行無効の訴えにおける無効
原因とはなり得ず、個々の株主の利益を擁護すべき差止原因にとどまるべき事実が、
株主の一人が自己の個別的権利保全のための暫定的裁判である差止仮処分命令を得
ているとの一事によって、他の株主、取締役又は監査役の提起する新株発行無効の
訴えにおいて第三者に対する関係においても新株発行を無効とする原因となってし
まうのである。ちなみに、本件は、被上告人らにおいて、新株引受権を株主以外の
者に付与することについて株主総会の特別決議を経ないで新株発行がされ、かつ、
著しく不公正な方法により新株発行がされたことを差止請求の事由として主張し、
変更後の無効の訴えにおいて、これらに付加して差止仮処分命令違反をも無効原因
として主張した事案であるが、右特別決議の欠缺は新株発行無効の訴えにおける無
効原因とはなり得ないとされており(最高裁昭和三九年(オ)第一〇六二号同四〇
年一〇月八日第二小法廷判決・民集一九巻七号一七四五頁参照)、原審も、被上告
人ら主張の無効原因のうち差止仮処分命令違反以外は、無効原因とはならないとし
て、これを排斥しているのである。
 付言するに、一般的にいって、単純な不作為のみを命ずる仮処分命令は、その実
質において、当該当事者間における債務者の不作為義務を確認する意味を有するに
とどまり、それを無視する債務者に対してはその実効性を確保することは困難なの
である。それは仮処分命令によって形成された不作為義務の強制的実現のための方
策が現行法上不十分であることによる共通の結果であって、新株発行差止仮処分命
令についてのみ、その実効性が確保されていないわけではない。そのような方策に
係る立法がない以上、会社が右仮処分命令を無視したとしても、債権者である株主
の救済は、会社に対する損害賠償の請求その他当該株主と会社ないし取締役との間
の個別的関係において図られるほかはないというべきである。
 四 出訴期間の遵守の有無
 二に述べたように、新株発行差止請求権と新株発行無効の訴えとは、相関連する
制度として創設されたものではなく、右請求権の行使として提起される差止請求の
訴えと新株発行無効の訴えは、訴えの性質、原告適格、請求原因、判決の効力等を
異にすることが明らかであるから、新株発行差止請求の訴えを新株発行無効の訴え
のいわば前駆的訴訟であるとしたり、両者を制度的に同一の目的を有する関連した
訴えとしてとらえたりすることはできないこと、三に述べたように、新株発行差止
仮処分命令違反は、新株発行無効の訴えにおける無効原因とはなり得ないものであ
ることからすれば、原審の適法に確定した本件事実関係の下においても、本件新株
発行差止請求の訴えを提起した時に本件新株発行無効の訴えが提起されたと同視す
ることができる特段の事情があるとする余地はなく、本件新株発行無効の訴えは、
出訴期間を徒過して提起された不適法な訴えといわざるを得ない。
 裁判官大堀誠一は、裁判官三好達の反対意見に同調する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    三   好       達
            裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    味   村       治
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    大   白       勝

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