弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人富永竹夫及び同水上孝正の上告趣意第一点について。
 記録を調べてみると、A提出の盗難被害届に被害品目として衣類「計三十九点」
と記載されていること所論の通りである。しかし原審第一回公判に於て、裁判長が
右のAの被害届書を読聞かせた上、「Aから盗んだ品物はこの通りか」と問うたの
に対して、被告人は、「私が盗んだのは風呂敷一包で二十点程を盗んだだけであり
ます」と答え、更らに重ねて「これ等全部を盗んだのではないか」と問われても、
「それは私が箪笥から出したものを書いてあるのですが、私は風呂敷包二つを拵え
ましたが、量が多かつたので、一つだけを持つて帰つたので、一つは隣りの部屋ま
で持ち出しただけで、持つて帰えらなかつたのであります」と供述している(記録
一七五丁)。原判決は右の被告人の供述とAの盗難被害届書中判示に照応する記載
とを綜合して、盗難届書記載の衣類三十九点の中二十数点を盗んだものと認定した
のである。さすれば原判決には、所論のように証拠に基くことなくして罪を断じた
違法もなく、又審理不尽の違法もない。論旨は理由がない。
 原判決摘示第三の窃盗罪が成立することは、右の通り明かであるから、「判示第
三の窃盗罪成立せざるものとせば」という仮定の上に立つて、犯罪の選択に相違を
生じ刑の量定にも影響を来たすことゝなるとの主張は、凡てその前提を失うて成り
立たなくなる。従つて論旨は採用することができない。
 同上第二点について。
 記録によれは、被告人は、昭和二三年一一月二五日逮捕状によつて兵庫警察署に
逮捕せられ、翌二六日に勾留状の執行を受けて以来引続き身柄を拘束されていたこ
とが明かである。そうして原判決は、昭和二四年三月二三日の原審公判廷における
被告人の供述即ち略ぼ四箇月の拘禁の後の自白を証拠として採用している。しかし
被告人は、昭和二三年一一月二六日に初めて本件犯罪事実を警察官に自白して以来、
即日裁判官の勾留訊問を受けた際にも、次いで為された警察官及び検察官の取調に
対しても、更らに同年一二月一八日の第一審公判に於ても、終始一貫して右の原審
公判廷におけると同趣旨の自白を繰返えしているのであるから、原審公判廷におけ
る自白と略ぼ四箇月に亘る拘禁との間に何等の因果関係も無いことが明かである。
かように自白と抑留又は拘禁との間に何等の因果関係も存しないことが明かに認め
られる場合の自白は、憲法第三八条第二項及び刑訴応急措置法第一〇条第二項のい
わゆる「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」に含まれないこと、既に当
裁判所の判例(昭和二二年(れ)第二七一号、同二三年六月二三日大法廷判決)に
示されている通りである。それ故に右の略ぼ四箇月間の勾留が暇りに不当に長い拘
禁であつたとしても、原判決が証拠として採用した被告人の自白が、証拠能力の無
いものということはできない。従つて論旨は採用することができない。
 以上の理由により最高裁判所裁判事務処理規則第九条第四項及び旧刑訴法第四四
六条に従い主文の通り判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官 長谷川瀏関与
  昭和二四年一〇月一一日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長   川   太   郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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