弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役一年に処する。
     但し本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
     押収にかかる大麻たばこ七本(約三・五グラム)(東京高裁昭和四四年
押第一二三号の四)は被告人からこれを没収する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、東京高等検察庁検事波多宗高提出に係る横浜地方検察庁検察
官検事吉良敬三郎作成名義の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これをこ
こに引用し、これに対して、当裁判所はつぎのとおり判断する。
 一 論   旨
 所論は、要するに、原判決が、司法警察員Aの本件(イ)、石けん入れケース
(東京高裁昭和四四年押一二三号の二)および(ロ)、洗面用具入れバッグ(同押
号の三)各一個並びに(ハ)、大麻たばこ七本(同押号の四)に対する捜索差押
は、刑事訴訟法第二二〇条、第一〇二条の規定に適合せず、且つ令状によらない違
法なものであつて、憲法第三五条に違反するから、このよらな違法、違憲の手続に
よつて収集ざれた右(イ)、(ロ)および(ハ)の諸物件はもとより、司法警察員
の作成にかかるこれら物件の(ニ)、捜索差押調書および(ホ)、証拠写真撮影報
告書並びに(ヘ)、緊急逮捕手続書中の捜索差押に関する部分や(ト)、神奈川県
警察本部刑事部鑑識課技術吏員作成にかかる右大麻たばこ七本の鑑定書から
(チ)、原審第二回、第三回および第八回公判調書中における証人Aの捜索差押に
関する各供述記載までも、悉く、証拠能力ないしその証拠としての許容性がないも
のとして、被告人に対し無罪の言渡しをしたのは、令状によらない捜索差押手続な
いし職務行為の適法性或るいは違法に収集された証拠の許容性等に関する最高裁判
所および高等裁判所の諸判例〔最高裁判所大法廷昭和三六年六月七日判決(集一五
巻六号九一五頁)、同第三小法廷昭和三一年八月二一日判決(集一〇巻八号一二一
八頁)、同昭和三〇年二月一日判決(集九巻二号一一九頁)および同昭和二四年一
二月一三日判決(特報二三号三七頁)並びに福岡高等裁判所昭和二七年一〇月二日
判決(特報一九号一一九頁)、大阪高等裁判所昭和二八年一〇月一日判決(集六巻
一一号一四九七頁)、東京高等裁判所昭和二五年三月九日判決(特報一六号四一
頁、同昭和二八年一一月二五日判決(特報三九号二〇二頁)、同昭和四一年五月一
〇日判決(集一九巻三号三五九頁)および仙台高等裁判所秋田支部昭和二八年一〇
月六日判決(特報三五号九四頁)〕と相反する見地に立ち、刑事訴訟法第二二〇
条、第一〇二条の解釈適用を誤つた違法があり、その誤りは判決に影響を及ぼすこ
とが明らかであるから破棄を免れないというにある。
 二 右の検討
 (一) 本件捜索差押等の経緯と前記の諸物件等が証拠として原審公判廷で取り
調べられるに至つた経過
 1、 先ず、本件捜索差押等の経緯についてみるに、原審第一回、第五回および
第六回公判調書中における被告人の各供述記載、被告人の検察官および司法警察員
に対する各供述調書、原審第二回、第三回および第八回公判調書中における証人A
の各供述記載、原審第八回公判調書中における証人Bの供述記載、同人の司法警察
員に対する供述調書(謄本)および供述書、司法警察員の緊急逮捕手続書および各
捜索差押調書並びに証拠写真撮影報告書、神奈川県警察本部刑事部鑑識課技術吏員
作成の鑑定書および検査結果回答書、検察事務官の電話通信紙謄本、押収してある
石けん入れケース一個(東京高裁昭和四四年押第一二三号の二)、洗面用具入れバ
ック一個(同押号の三)および大麻たばこ七本(同押号の四)並びに半袖シャツ一
枚(同押号の一)等を総合すると、原判決もその大要を説示しているよらに、
(1)、被告人は、アメリカ合衆国ウエストバージニア州a市に生れて、在日米陸
軍警備隊本部中隊に所属する米陸軍三等特技兵であるが、今次ベトナムから日本に
向ら際、飛行機の中でBと知り会い、同人と共に、昭和四三年二月五日午前四時三
〇分頃、神奈川県横浜市b区c町d番地所在のeホテルf階g号室に投宿し同室し
ていたが、(2)、加賀町警察署司法警察員Cらは、同日午後一時頃氏名不詳の者
より同署に対し、eホテルから出て来た外人二人が大麻らしいものを喫つていたと
いう意味の通報があつたため、早速、右eホテルに赴き、同ホテルで張込みをして
いたところ、同日午後三時一〇分頃、前記Bが外出先から帰つて来たので、司法警
察員Dらが直ぐ右Bを同eホテルh階待合所で職務質問し、任意に所持品を検査し
たところ、同人の所持品の中から大麻たばこ一本を発見したので、直ちに同所で同
人を右大麻たばこ一本所持の容疑により現行犯人として逮捕したが、(3)、右逮
捕後、Bより同司法警察員らに対し右eホテルf階g号室内にある自己の所持品を
携行したいとの申出てあつたので、同司法警察員らはこれを許すと共に、Bに対し
逮捕の現場においては令状によらずとも捜索差押ができるから右g号室を捜索する
旨を告げ、なお同人の要求によりS・Pに連絡し、その到着を待つて、前記h階待
合所からf階g号室に連行したうえ、(4)、同日午後三時四五分頃から、同人お
よびS・P二名の立会いの下に、同室者である被告人が外出不在中の右g号室の捜
索を開始し、同室居間およびベツト・ルーム内の所持品については、Bに、その所
持品を被告人の所持品から区別させたらえ、Bのものとして区別されたもののみを
捜索した後、(5)、引続き同室洗面所内の捜索に移つたのであるが、同洗面所に
おける所持品については、Bにその所持品を被告人の所持品から区別させないで、
捜索をしたものであるところ、同日午後四時一〇分頃同洗面所の棚の上から内容物
の入つた洗面用具入れバツグを発見し、Bからは右洗面用具入れバツグは自分のも
のではなく被告人の所持品である旨の申し出でがあつたけれども、その内容を捜索
した結果、被告人の名前の入つた書類等のほかに、大麻たばこ七本が入つた石けん
入れケースが認められたため、司法警察員Aにおいて、直ちに被告人所有の右洗面
用具入れをその大麻たばこ七本等の内容物と共に差押えて、Bに対する捜索を終え
たのであるが、(6)、その後、同日午後五時三〇分頃、被告人が外出先きから帰
つて来たところを、同人についても右のような大麻たばこ所持の容疑があつたた
め、司法警察員Cにおいて、直ちに右g号室で、被告人に対し右洗面用具入れの所
有者について職務質問をしたところ、同人がその所有に係るものであることを認め
たため、直ぐその場で同人を右の大麻たばこ七本を所持したといら容疑によつて緊
急逮捕したうえ、(7)、さらに捜索を行いその時同人が着用し、左胸ポケットに
ごみが附着していた半袖シャツ一枚を差押え、(8)、爾来捜査官において関係人
から事情を聴取するなど証拠の収集に従事し、殊に同月六日には神奈川県警察本部
刑事部鑑識課技術吏員Eに対し右(5)の大麻たばこ七本および(7)のごみにつ
き鑑定をさせたところ、同月二一日には右半袖シャツに附着していたごみには大麻
草と思われるものが認められ、また同月二七日には右大麻たばこ七本は大麻取締法
にいら大麻草(カンナピスサテイバ・エル)と認められるという趣旨の鑑定結果が
出たことなどの諸事実が明らかである。
 2、 次ぎに、前記の諸物件等が証拠として原審公判廷で取り調べられるに至つ
た経過についてみるに、記録によると、被告人は、前記大麻たばこ七本の隠匿所持
の事実につき、昭和四三年四月八日横浜地方検察庁から大麻取締法違反の罪名(罰
条は、同法第二四条の二第一号、第三条第一項)で起訴せられたが、同年五月一六
日の原審第一回公判で、冒頭に、大麻が起訴状記載の所に在つたことは事実である
けれども、自分はその存在を知らず、化粧箱(起訴状では化粧道具入れ、領置目録
および原判決では洗面用具入れ)の中に大麻が入つていたことは、後で警察官から
見せられて初めて知つたのであり、これは自分が隠匿所持していたものではない旨
の供述をしたため(1)、同公判で立会いの検察官は、公訴事実を立証する証拠と
して、前記(イ)、(ロ)および(ニ)ないし(ト)並びに(チ)の証人Aを他の
諸証拠と共にその取調べの請求をしたところ、被告人は、右の(ヘ)についてはこ
れを証拠とすることに同意し、(チ)の証人については何ら異議を述べなかつた
が、(ホ)についてはこれを証拠とすることに同意せず、(イ)、(ロ)、(ニ)
および(ト)については意見を留保したため、原裁判所は、(ヘ)および(チ)の
証人についてその採用を決定し、(ヘ)を取調べ、(ホ)を却下したらえ、(チ)
の証人については、同年六月六日の第二回、同月一一日の第三回および同年一〇月
二四日の第八回の各公判でその尋問を行い(尤も、検察官は、昭和四三年九月三日
の第六回公判で、(チ)の証人を在廷証人として再申請したが、被告人が不必要で
ある旨の意見を述べたため、原裁判所は、一旦これを却下したものの、同月二四日
の第七回公判で、右の却下決定を取り消したうえ、前記第八回公判で更らにその尋
問を行つている。)、(2)、右第二回公判で、検察官が再度右(ホ)の取調べを
申請したところ(原審第二回公判調書末尾添付の証拠関係カードに昭和四三年二月
一〇日附とあるのは、明らかに同月一三日附の誤記と認められる。)、被告人もこ
れを証拠とすることに同意したため、原裁判所は、これを採用して、その取調べを
行い、(3)、右第三回公判で、被告人が右(ニ)を証拠とすることに同意したた
め、同裁判所はこれを採用して、その取調べを終え、(4)、昭和四三年七月一三
日の原審第四回公判で、被告人が右(ト)についてもこれを証拠とすることに同意
し、右(イ)および(ロ)については、これを証拠とすることに異議がない旨を述
べたため、同裁判所はこれらを採用して、右(ト)については同公判でその取調べ
を行い、右(イ)および(ロ)については、同月二三日の第五回公判でその取調べ
を終え、更らに、(5)、前記第六回公判で、検察官が右(ハ)の取調べ請求をし
たところ、被告人は、違法収集の証拠であるとしてこれを証拠とすることに異議を
述べたけれども、同裁判所は、これを採用して、その取調べを行つていることなど
の諸事実が窺われる。
 (二) 前記諸物件等の証拠能力ないし証拠としての許容性
 1、 本件捜索差押等の経緯および本件諸物件等が証拠として原審公判廷で取り
調べられるに至つた経過は、右にみて来たとおりであり、問題は、専ら、前記
(ハ)の大麻たばこ七本に証拠能力ないし証拠としての許容性があるか否かの点に
あり、その余の証拠たる前記(イ)、(ロ)および(ニ)ないし(チ)の証言に証
拠能力ないし証拠としての許容性があることは、到底否定てきないところである。
 2、 原判決は、右の(イ)、(ロ)および(ニ)ないし(チ)の証言について
も、悉く、その証拠能力ないし証拠としての許容性がない旨説示しているけれど
も、右に述べたよろな本件捜索差押等の経緯、殊にこれらが証拠として原審公判廷
で取り調べられた経過ないし右(イ)および(ロ)については本件公訴事実との関
連性も十分立証せられていることなどに徴し、この点に関する原審の判断は失当で
あつて、たやすくこれに賛同することはできない。そして、このことは、論旨指摘
の最高裁判所大法廷昭和三六年六月七日判決、集一五巻六号九一五頁が、麻薬取締
法違反被告事件において、麻薬取締官作成の捜索差押調書および捜索差押に係る麻
薬の鑑定書につき、被告人および弁護人が第一審公判廷において、これを証拠とす
ることに同意し、異議なく適法な証拠調べを経たときは、右各書面は、捜索差押手
続の違法であつたか、どうかに拘らず証拠能力を有すると判示していることなどか
らしても、十分肯定できるところである。これらの諸証拠は、証拠能力ないし証拠
としての許容性に何ら欠くるところがないものと解するのが相当であり、この意味
において、所論中のこの点に関する論旨は理由があるものというべきである。
 3、 そこで、更らに進んで前記(ハ)の大麻たばこ七本に証拠能力ないし証拠
としての許容性があるか否かの点につき審究すると、右大麻たばこ七本の捜索差押
は、既にみて来たとおり、刑事訴訟法第二二〇条所定の現行犯人Bを逮捕する場合
における逮捕の現場での捜索差押として、令状によらずになされたものであること
が明らかであるところ、憲法第三五条は、逮捕状による逮捕と現行犯による逮捕と
の場合を除いては、司法官憲の発する捜索押収の令状がなければ、何人も住居、書
類および所持品について侵入、捜索および押収を受けない旨規定し、刑事訴訟法第
二二〇条は、右令状主義の例外として、被疑者を逮捕する場合において必要がある
ときは、逮捕の現場で令状によらない捜索差押をすることができる旨を定めている
が、かかる例外規定は、捜索差押が人権侵害の危険性を伴うものであることに鑑
み、令状を不要とする十分合理的な理由がある場合に限つて、適用されるように、
これを厳格に解釈すべきものであることは、原判決のよく説示しているとおりであ
る。
 所論は、司法警察員は、Bの申立てに接して、同人が言葉の通じないアメリカ合
衆国の兵隊であることから、無用なトラブルを回避するため、同人の申立てを容
れ、専ら、同人の利益のために、逮捕時に直ちに可能であつた捜索差押の開始を猶
予したものであるから、同人の人権の保障に悖るところがなかつたようにいうけれ
ども、ここに考らべきは、唯だ同人の人権ということだけではなく、更らに被告人
の人権についても同様であるといわなければならない。
 ところで、右(ハ)の大麻たばこ七本は、前記のとおりBが昭和四三年二月五日
午後三時一〇分頃前示eホテルh階待合所において大麻取締法違反の現行犯人とし
て逮捕された後で、被告人が同日午後五時三〇分頃同ホテルf階の前示g号室にお
いて本件の容疑で緊急逮捕される前である同日午後三時四五分頃から同四時一〇分
頃までの間に同室の洗面所で司法警察員によつて捜索差押えられたものであるとこ
ろ、前示の最高裁判所大法廷判決は、司法警察員の職務を行う麻薬取締官が、麻薬
不法譲渡罪の被疑者を緊急逮捕するため、その家へ赴いたところ、被疑者が他へ外
出中であつたので、帰つて来次第同人を逮捕する態勢の下に、同人方の捜索を開始
して、麻薬を押収し、捜索の殆んど終る頃になつて漸く帰つて来た同人を適法に緊
急逮捕した場合には、捜索差押が緊急逮捕に先行したとはいえ、時間的には二〇分
位しか経過しておらず、これと接着しており、場所的にも逮捕の現場でなされたも
のであるときは、その捜索差押をもつて違憲、違法とすべき理由はない旨を判示し
ている。
 そこで、右のようなことから、所論は、本件の捜索差押につき、Bを逮捕した場
所と右の捜索差押をした場所とは場所的に同一性が認められ、更らにBを逮捕した
時刻と右の捜索差押をした時刻とは時間的に接着していると認むべきものである旨
主張している。
 思うに、刑事訴訟法第二二〇条第一項第二号が、被疑者を逮捕する場合、その現
場でなら、令状によらないで、捜索差押をすることができるとしているのは、逮捕
の場所には、被疑事実と関連する証拠物が存在する蓋然性が極めて強く、その捜索
差押が適法な逮捕に随伴するものである限り、捜索押収令状が発付される要件を殆
んど充足しているばかりでなく、逮捕者らの身体の安全を図り、証拠の散逸や破壊
を防ぐ急速の必要があるからである。従つて、同号にいう「逮捕の現場」の意味
は、前示最高裁判所大法廷の判決からも窺われるように、右の如き理由の認められ
る時間的・場所的且つ合理的な範囲に限られるものと解するのが相当である。
 これを右(ハ)の大麻たばこ七本に関する捜索押収についてみると、成る程、B
の逮捕と同(ハ)の捜索押収との間には、既に述べたように、時間的には約三五分
ないし六〇分の間隔があり場所的には、原審第四回公判調書中における証人Fの供
述記載並びに前示原審第二回、第三回および第八回公判調書中における証人Aの各
供述記載のほか、当裁判所の検証調書および当審第二回公判における証人Gの供述
並びに当審で取り調べたeホテルのマツサージ、訪問客に関する案内カードおよび
eホテルの貴重品、部屋鍵に関する案内カード等から窺われるようなeホテルh階
の、なかば公開的な待合所と同ホテルf階の、宿泊客にとつては個人の城塞ともい
うべきg号室との差異のほかに若干の隔りもあり、また若し同(ハ)の大麻たばこ
七本がB独りのものであつたとするならば、いくらBが大麻取締法違反の現行犯人
として逮捕されたとはいえ、否却つて逮捕されたればこそ、更らに捜索差押が予想
されるというのに、わざわざ自ら司法警察員らを自己の投宿している同g号室に案
内したということについては種々の見方があり得るであろうし、なおBが同室の洗
面所で司法警察員らに対し同大麻たばこ七本は自分のものではなくて、被告人のも
のである旨述べていることなどからすると、同たばこに対する捜索押収が果して適
法であつたか否かについては疑いの余地が全くないわけではないけれども、既に見
て来たよらな本件捜査の端緒、被告人とBとの関<要旨>係、殊に二人が飛行機の中
で知り合い、その後行動を共にし、且つ同室もしていたこと、右のよらな関係か
同たばこについても或るいは二人の共同所持ではないかとの疑いもないわ
けではないこと、Bの逮捕と同たばこの捜索差押との間には時間的、場所的な距り
があるといつてもそれはさしたるものではなく、また逮捕後自ら司法警察員らを引
続き自己と被告人の投宿している相部屋の右g号室に案内していること、同たばこ
の捜索差押後被告人も一時間二〇分ないし一時間四五分位のらちには同室に帰つて
来て本件で緊急逮捕されていることおよび本件が検挙が困難で、罪質もよくない大
麻取締法違反の事案であることなどからすると、この大麻たばこ七本の捜索差押を
もつて、直ちに刑事訴訟法第二二〇条第一項第二号にいう「逮捕の現場」から時間
的・場所的且つ合理的な範囲を超えた違法なものであると断定し去ることはできな
い。また、このように考えることが、前示最高裁判所大法廷の判決の趣旨にも副ら
ものであると解する。
 なお、右(ハ)の大麻たばこ七本が証拠として原審公判廷で取り調べられるに至
つた経緯は既にみて来たとおりであり、またその捜索差押には必らずしも違法があ
るとはいえないことも右に述べたとおりであるが、押収物は、仮りにその押収手続
に違法があつても、物それ自体の性質や形状に変異を来すはずがないから、その形
状等に関する証拠たる価値に変りがないことは、論旨の引用するような諸判例を待
つまでもなく、当然のことであり、また、記録によると、同大麻たばこ七本につい
ては、本件公訴事実との関連性も十分立証されていることが明らかであるから、原
裁判所がこれを証拠調べしたこと自体には、何の違法もない。
 以上の次第で、右大麻たばこ七本も、本件の証拠として、その証拠能力ないし証
拠としての許容性に欠くるところはなく、この意味で、所論中のこの点に関する論
旨は理由があるものということができる。
 (三) 結   論
 してみれば、原判決は、その余の論旨につき判断をするまでもなく、既に右の諸
点において、刑事訴訟法第二二〇条、第一〇二条の解釈適用を誤つた違法があるこ
とに帰し、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由が
あるものとして、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三七九条により、原判決を破棄
したうえ、同法第四〇〇条但書に従い、当裁判所において更らに自ら判決をするこ
とにする。
 三 自   判
 (罪となるべき事実)
 被告人は、在日米陸軍警備隊本部中隊所属の米陸軍三等特技兵であるところ、昭
和四三年二月五日午後四時一〇分頃、法定の除外事由がないのに、神奈川県横浜市
b区c町d番地所在のeホテルf階g号室洗面所において、洗面用具入れバッグ
(東京高裁昭和四四年押第一二三号の三)の中に入れておいた石けん入れケース
(同押号の二)の中に、その頃他より入手した大麻たばこ七本(約四・九グラム)
(同押号の四は、鑑定に使用した残りで、約三・五グラム。)を隠匿して、所持し
ていたものである。
 (証拠の標目省略)
 (法令の適用)
 法律に照らすと、被告人の判示所為は、大麻取締法第三条第一項に違反し、同法
第二四条の二第一号に該当するので、本件犯罪の性質および態様、数量、本件の社
会的影響並びに被告人の年齢および身上など被告人にとつて有利または不利な一切
の事情を考量したうえ、その刑期範囲内で、被告人を懲役一年に処し、被告人に対
しては、情状その刑の執行を猶予するのが相当と認められるので、刑法第二五条第
一項により、本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、押収してある大麻た
ばこ七本(約三・五グラム、判示の約四・九グラムから約一・四グラムが鑑定に使
用されて残つたもの)は、判示の犯罪を組成した物で、犯人以外の者に属しないの
て、刑法第一九条第一項第一号、第二項本文により、すべて被告人からこれを没収
し、原審および当審における訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項但書により
被告人に対してはすべてこれを負担させないこととする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 松本勝夫 判事 龍岡資久 判事 藤野英一)

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