弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件を宮崎地方裁判所に移送する。
         理    由
 本件訴状によれば、請求の趣旨として「被告が訴外A(債務者)、同B(第三債
務者)、同宮崎県(第三債務者)に対し、福岡高等裁判所宮崎支部昭和四一年
(ウ)第五号債権仮差押事件の執行力ある仮差押決定正本に基づいて、同年二月三
日別紙目録記載の債権に対してなした仮差押の執行は許さない。訴訟費用は被告の
負担とする。」との判決を求め、その請求原因の要旨は「被告は訴外A(債務
者)、同B(第三債務者)、同宮崎県(第三債務者)に対する福岡高等裁判所宮崎
支部昭和四一年(ウ)第五号債権仮差押事件の執行力ある仮差押決定正本に基いて
同年二月三日、別紙目録記載の債権に対し仮差押の執行をなした。しかし、右債権
は原告に属するものであるから、被告が右債権につきなした前記仮差押執行の排除
を求める。」というにある。
 そこで、当裁判所のなした前掲債権仮差押命令の執行に対する本件第三者異議の
訴につき当裁判所が管轄権を有するか否かにつき以下審案する。
 <要旨>そもそも、民事訴訟法第五四九条第三項、第五六三条によれば、第三者異
議の訴は執行裁判所の管轄に専属すること明らかであり、他方、同法第七五
〇条第二項によれば、債権の仮差押についてはその命令を発した裁判所をもつて管
轄執行裁判所とする旨明記されている。
 従つて、右各規定を文理上形式的に見るかぎり、本件第三者異議の訴についても
債権仮差押命令を発した当裁判所の管轄に専属するかのように見受けられる。
 しかしながら、仮差押の執行手続には原則として強制執行に関する規定が準用さ
れるから地方裁判所が執行裁判所となるべきところ、債権に対する仮差押の執行に
関し、特に前記例外規定を設け仮差押命令を発した裁判所を執行裁判所としたの
は、債務名義を成立させた裁判所においてその執行をなさしめることが迅速なる目
的の達成を理念とする保全手続の要請に副うという執行の便宜迅速を図る趣旨によ
るものといらべきである。
 ところが第三者異議の訴は、第三者が引渡を妨げる権利を主張して本案の債務名
義に基づきなされた具体的執行の排除を求めるため提起する独立の訴であつて、そ
の前提をなす執行手続そのものに含まれないことはもとより、その執行手続に附随
された手続でもない。しかも、高等裁判所が第一審として審判する民事事件は、裁
判所法第一七条により、特に法律で高等裁判所へ出訴すべきものと明定されている
特殊な事件、例えば、公職選挙法第二〇三条、第二〇四条、第二〇七条等に定めら
れた選挙又は当選の効力に関する訴訟、地方自治法第八五条に定められた地方公共
団体のリコールに関する訴訟、同法第一四六条に定められた都道府県知事に対する
職務執行命令に関する訴訟のごときものに限られるというべきところ、第三者異議
事件については特に他の法律において高等裁判所の管轄とすることにつき明文上何
等の規定も存在しない。もつとも、同条にいう「他の法律において特に定める権
限」のなかに、本件のごとき訴訟(高等裁判所が執行裁判所としてなした債権仮差
押執行に対する第三者異議訴訟)が含まれると解釈しうる余地もあろうが、民事訴
訟法が債権(不動産についても同様)の仮差押の場合執行裁判所を特に当該命令を
発した裁判所としたゆえんのものは、前述のように専ら執行自体の迅速を目的とし
たものであつてその具体的執行行為の適否を通常訴訟事件と同じ手続によつて事後
的に審理判断する第三者異議訴訟についてまで、右の意味におけるような迅速性が
当然に要請されるものとは考えられず、第三者異議事件の性質からしても当事者に
審級の利益を失わしめてまで高等裁判所を第一審として審判させるに適した事件で
あると結論づける合理的根拠は見当らない。そうすると、民事訴訟法第五四九条第
三項は、地方裁判所をもつて執行裁判所とする旨の同法第五四三条の規定をうけ、
訴訟物の価格のいかんを問わず執行裁判所である地方裁判所の管轄に専属するもの
であることを明らかにしたに過ぎないとみられ、「債権の仮差押執行に対する第三
者異議の訴を管轄する執行裁判所は、仮差押命令を発した裁判所が地方裁判所以外
の裁判所であるときは、同法第五四三条の原則に従い、執行地を管轄する地方裁判
所をもつて管轄裁判所と解するを相当とする。」
 よつて、本件受訴裁判所は前記債権仮差押における執行地を管轄する宮崎地方裁
判所の専属であつて当裁判所の管轄に属しないから民事訴訟法第三〇条第一項に則
り主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 中池利男 裁判官 永岡正毅 裁判官 長西英三)

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