弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1上記当事者間において,原判決を取り消す。
2被控訴人が控訴人に対し平成16年1月13日付けでした懲戒免職処分
は,これを取り消す。
3訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要
1本件は,被控訴人が,a中学校の教諭であった控訴人に対し,控訴人が,
(ア)平成15年11月21日午後11時ころ及び同月22日午前1時過ぎの
2回にわたり酒気帯び運転をしたこと,(イ)同月18日,生徒の成績や名簿
などを保存した光磁気ディスク(以下「本件MO」という。)を紛失したこと
を理由に,地方公務員法29条1項1号・3号により,平成16年1月13日
付けで懲戒免職処分(以下「本件処分」という。)を行ったところ,控訴人に
おいて,(1)被控訴人が本件処分を行うに当たって依拠した懲戒処分指針
(以下「本件指針」という。)は無効であり,(2)そうでないとしても,①
被控訴人は,控訴人に対し,本件指針について事前に十分な告知・説明をし
ていない,②本件処分への適用が適正でない,③本件処分は平等取扱いの
原則に反する,④本件処分は相当性の原則を逸脱している,⑤本件処分に
当たり,控訴人に弁明の機会を与えなかったなどの重大な手続的違法があると
して,本件処分の取消しを求めた事案(ただし,平成17年4月18日付けで
した訴えの一部取下げ後のもの)である。
なお,控訴人は,本件とは別に,被控訴人が違法な本件処分を行ったことに
より損害を被ったとして,被控訴人の設置者であるf県に対して,1000万
円の損害賠償及びこれに対する本件処分の日からの遅延損害金の支払いを求め
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る別訴を提起し,両事件は併合されていたところ,原審がいずれの訴えについ
ても控訴人の請求を棄却したため,控訴人が控訴した。しかし,控訴人は,当
審において,別訴を取り下げ,f県がこれに同意したので,これにより別訴は
終了した。
2前提事実
争いのない事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実は,
次のとおり付加,訂正するほかは,原判決の「第3当裁判所の判断」欄の
「1」の(1)及び同(3)ないし(7)(同4頁15行目から同22行目まで及び同
5頁18行目から同9頁22行目まで)並びに原判決別紙「懲戒処分の指針」
「勤務状況表」のとおりであるから,これを引用する。
なお,引用部分中の「原告」を「控訴人」と,「甲事件被告」を「被控訴
人」と,それぞれ読み替えるものとする(この点は,以下の引用においても同
様である。)。
(1)原判決5頁18行目冒頭の「(3)」,同25行目冒頭の「(4)」,同7頁
12行目冒頭の「(5)」,同9頁5行目冒頭の「(6)」,同19行目冒頭の
「(7)」を,順次「(2)」,「(3)」,「(4)」,「(5)」及び「(6)」と改める。
(2)同5頁25行目の「72,」の次に「109∼113,」を,同末行の
「原告」の次に「,弁論の全趣旨」を,それぞれ加える。
(3)同6頁13行目の「拾得者」の次に「(f大学医学部の学生である
e)」と改め,以下「拾得者」とあるのをすべて「e」と読み替える。
(4)同16行目の「自覚していたが,」を「自覚していたので,運転代行業
者に電話を掛けたが,(予約が沢山入っているので)40分待ちになるとい
う回答であった。しかし,控訴人は,」と改める。
(5)同22行目の末尾に続けて「これは,控訴人がg施設に行く用向きを警
察官に話したところ,警察官がそのような計らいをしてくれたものであ
る。」を加える。
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(6)同7頁1行目の「者」の次に「2社に相次いで」を加え,同行の「断ら
れた。そこで,原告は自ら」を「,控訴人のいるg施設までは行けないとか,
出払っているなどとしていずれの業者にも断られた。そこで,控訴人は,と
りあえず運転代行業者が来てくれる地点まで自ら運転して行くほかはないと
考え,」と改める。
(7)同7行目及び8行目を削除し,同14行目の「平成15年11月22
日」の次に「午後0時30分ころ,控訴人は,b校長に対し,酒気帯び運転
で検挙されたことを報告し,同日」を加える。
3争点及び争点をめぐる当事者の主張の要旨
原判決3頁21行目から4頁4行目まで及び原判決別紙の①及び②(17頁
2行目から22頁18行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(本件指針の有効性)について
地方公共団体の職員に対し懲戒処分をなす際の処分の基準として,いかなる
基準を設定するかは,それが社会観念上著しく妥当性を欠き,不合理なもので
ない限りは,原則として懲戒権者の裁量に任されていると解される。
ところで,控訴人が指摘する人事院指針は,各府省の任命権者が懲戒処分を
するに当たり処分量定を決定する際の指針として作成されるものであって,被
控訴人において本件指針を策定する際にも参考に供されたものであろうことは
見やすいところである(甲49,乙2,弁論の全趣旨)。そして,人事院は,
平成14年5月28日付けで人事院指針の一部改正通知を各府省等に発出した
ものであるところ,同改正後の人事院指針によれば,(ア)人身事故を伴う酒
気帯び運転については,①人を死亡させ,又は重篤な傷害を負わせた場合に
は免職又は停職,②人に傷害を負わせた場合には免職,停職又は減給(ただ
し,この場合,措置義務違反をした職員は免職又は停職)とされ,(イ)交通
法規違反としての酒気帯び運転については停職,減給又は戒告(ただし,物損
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事故を起こして措置義務違反をした場合は停職又は減給)とされている。しか
も,上記改正は,飲酒運転の抑止及び飲酒運転等を原因とする重大事故の発生
防止を図るべく,従前の処分量定を加重した内容となっているのである(以上
につき,甲49)。ところが,本件指針においては,教職員は児童生徒を指導
する立場にあるため,一般公務員よりも高度の倫理観・使命感が求められると
いう基本的な考え方から,より重い処分基準が定められ,「酒気帯び運転につ
いては,停職とする」「人身事故を伴うときは,免職又は停職とする。事故後
の救護を怠る等の必要な措置を講じなかったときは免職とする」とされている。
このように,教職員だけを一般の地方公務員から区別し,より重い処分基準
で臨むというのは,公平取扱いの観点からすると問題がないわけではないが,
少なくとも教員については,児童生徒と直接触れ合い,これを教育・指導する
立場にあるから,とりわけ高いモラルと法及び社会規範遵守の姿勢が強く求め
られるものというべきである。そうであれば,こと教員に関する限りは,上記
のような本件指針の基本的な態度にもそれなりの理由があるものということが
できるから,本件指針が合理性を著しく欠いており,無効であるとまではいえ
ない。
そうすると,控訴人のこの点の主張は理由がない。
2争点(2)(本件処分の違法性)について
(1)控訴人は,本件処分が違法であるとする理由について,上記第2の1(2)
①ないし⑤のとおり主張するので,以下,順次検討する。
(2)上記①について
証拠(甲21,乙5,17,原審証人b,原審における控訴人)によれば,
本件指針については,策定の翌日には地元新聞による報道がなされたこと,
b校長が,職員朝会の機会に同新聞記事を控訴人を含む職員に配布したこと,
b校長は,被控訴人が教育長名で発した「飲酒運転撲滅の取組について(通
知)」を受けて,10月24日の職員朝会において,本件指針が策定された
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ことを伝えるとともに指導を行い,同月29日の職員研修の際にも,上記書
面の写しを控訴人を含む職員に配布し,飲酒運転の防止を指導したことなど
が認められるのであるから,本件指針につき事前に十分な告知・説明がない
とする控訴人の主張は採用できない。
(3)上記②ないし④について
ア本件指針において,酒気帯び運転のみの場合の処分標準例は「停職」と
されており(本件指針第2の1(1)イ),個人情報の紛失等についてのそ
れは「減給又は戒告」とされている(本件指針第2の4(10))。
もっとも,本件処分の対象とされた控訴人の非違行為は,ほとんど同一
の機会に2度にわたり酒気帯び運転をして検挙されたこと及び本件MOを
紛失したことという3つであるから,本件指針が上記のとおり定めるにと
どまっているからといって,直ちに「停職」より重い処分はあり得ないと
いうことにはならない。この点は,本件指針も,その「第1基本事項」
において,「第2に掲げる複数の非違行為等に該当する場合は,標準例よ
り更に重い処分を行うこともある」と定めているところである(以下「加
重処分条項」といい,これによる処分を「加重処分」という。)。
そして,控訴人の各非違行為ごとの標準処分例は,最も重いものでも酒
気帯び運転についての「停職」であるのに,本件処分は免職であるから,
まさに加重処分が行われた場合に該当するものといわなければならない。
したがって,本件においては,この点に関する被控訴人の判断の是非が問
われていることになる。なお,被控訴人は,本件指針について,「かかる
基準の性質は,法令と異なりあくまで内部の基準として任命権者の判断の
指針として扱われるべきものであり,任命権者としてはこれに拘束される
ことなく,裁量権に基づき処分を決定できる」旨主張する。しかし,上記
1のとおり,本件指針自体が,教職員について一般の地方公務員よりも重
い処分をもって臨むこととしていることに思いを致すならば,そのような
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本件指針にさえも拘束されることがなく,裁量権に基づき処分を決定でき
るとするのは,被控訴人が教職員の懲戒処分についてほとんど無限定な自
由裁量権を有しているというに等しいいささか乱暴な主張であって,到底
採用することができない。ただし,被控訴人においても,上記主張部分に
続いて,本件指針に加重処分条項が置かれていることを指摘した上,本件
処分が免職処分を選択したことに裁量権の逸脱はない旨主張しているとこ
ろであるから,被控訴人の主張の真意ないしは重点はあくまでこの点にあ
るものと解される。
イ懲戒処分の種類は,重い順に,免職,停職,減給,戒告の4つがあると
ころ,戒告は別にして,それ以外の処分は,いずれも処分自体により,当
該職員に対し,大なり小なり財産上の不利益を課するものである。また,
停職は,減給と異なり,一定期間自己の職務に従事する機会を奪われる点
において,単なる経済的な不利益を課されるというにとどまらないし,さ
らに,免職は,職員としての身分そのものを失うことを余儀なくされるの
であるから,これまたその余の処分とは決定的に異なるものといわなけれ
ばならない。
そうであれば,加重処分条項の適用に当たっても,一段重い処分を選択
するとき,例えば,(ア)単一では戒告にしか当たらない非違行為が複数
あるという場合において減給処分とするとき,(イ)減給にしか当たらな
い非違行為が複数あるという場合に停職処分とするときには,十分慎重で
なければならないものというべきである。中でも,(イ)の場合には,同じ
減給処分であっても,その程度及び期間により相当の幅を持たせることが
できるのであるから,可能な限り減給処分の範囲内での処分にとどめ,停
職処分を選択するのはあくまで例外的な場合に限られるものというべきで
ある。同様に,停職処分についても,停職期間の長短の調整により柔軟な
処分が可能なのであるから,(ウ)停職や減給にしか当たらない非違行為
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が複数あるという場合(ただし,少なくとも停職に当たる非違行為自体が
複数ある場合でなければ問題にならない。)においても,できる限り停職
処分の範囲内での処分にとどめるべきである。特に,免職処分は,当該職
員の職員としての身分を失わせ,職場から永久に放逐するというこれ以上
ない厳しい処分なのであるから,当該非違行為自体が免職に相当するとい
う場合であればともかく,加重処分として免職を選択するについては,当
該非違行為そのものの行状はもとより,それに至る経緯,動機及びその後
の経過をはじめ日ごろの勤務実績に至るまで,当該職員をめぐるあらゆる
事情を総合考慮した上で,なお当該職員を職員としての地位にとどめ置く
ことを前提とした懲戒処分(すなわち停職以下)では足りないという場合
に,はじめてその相当性が肯定されるものというべきである。
ウ本件処分は,まさに上記イ(ウ)に該当する場合について免職処分が選択
された場合であるから,上記のような観点から,その選択の是非が検討さ
れなければならない。その場合に考慮されるべき事情は以下のとおりであ
る。
(ア)控訴人は,本件第1酒気帯び運転で検挙されたにもかかわらず,更
に,数時間後に本件第2酒気帯び運転に及んでいるのである。教師であ
る控訴人が,一度ならず二度にわたって,ほとんど同一機会に酒気帯び
運転を繰り返したということに対して,強く非難されるべきは当然であ
る。
(イ)しかも,控訴人は,当時,睡眠時間が1日につき約2,3時間しか
取れない状態が続いていて,相当疲労が蓄積していた状態であったこと,
本件第1酒気帯び運転をした当日は,控訴人が担当した研究会の公開授
業が行われた日であり,宴会は研究会の反省会と銘打って行われたもの
であったこと,したがって,控訴人も公開授業が無事終了したというこ
とからくる,ある種の達成感や解放感も手伝って,宴会ではそれなりに
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飲酒する成り行きになったことが認められる(原審証人b)のであって,
これによれば,控訴人は,かねて蓄積していた睡眠不足からくる疲労も
相俟って,決して軽視することのできないアルコールの影響が出ていた
ものと見なければならない。
しかるに,たまたま,宴会の最中に,紛失していた本件MOの拾得者
が判明し,同人と電話連絡をつけることができて,本件MOを回収する
手はずが整ったからとはいえ,また,運転代行を頼むことができなかっ
たからといって,宴会終了直後に自ら運転して待合せ場所であるg施設
の駐車場に向かうなどというのはあまりに無謀である。そして,本件第
1酒気帯び運転では,高速道路を含む一定距離を,それなりの時間運転
しているのであるから(甲109),同行為は,道中で事故を起こさず
に済んだことの方が不思議であるというほかないほどの危険な行為であ
る。また,本件第2酒気帯び運転にしても,わずか2時間ほど車中で仮
眠をとった後のものであり,その危険性は本件第1酒気帯び運転の場合
とそれほど変わらないし,直前に一度検挙されていることを考えれば,
その悪質性はかえって大きいものとさえいうことができる。
(ウ)加えて,被控訴人が,平成15年10月15日以降,通達や新聞紙
上を通じて,教職員が飲酒運転を行った場合,知事部局より重い処分を
課すという方針を明らかにし,その旨の指導を繰り返していたこと(上
記(2))に照らすと,本件酒気帯び運転はこのような被控訴人の指導方
針を真っ向から踏みにじるものであって,被控訴人に対する挑戦的な振
る舞いと見られても致し方のないものである。また,これにより,控訴
人に対するその直接の教え子や父母の信頼はもとより,f県教職員に対
する県民一般の信頼をも裏切ったものであって,控訴人の責任は極めて
重いものがあるというべきである。
(エ)また,本件紛失についていえば,控訴人は,本件MOを紛失した当
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夜のうちにそのことに気付いていながら,本件MOの回収に成功するま
での間,控訴人の上司,ひいては被控訴人に対する報告を欠いていたと
いうのである。この間,控訴人において心当たりを探索したり,g施設
へ問合せをしたりしていたことを総合すると,上記報告の遅れは,単に
控訴人において報告する機会を失したというにとどまらず,あえて報告
を遷延させていたものと見なされても致し方のない対応であったといわ
なければならない。
そうであれば,本件紛失についても,その後の控訴人の対応と相俟っ
て,相応の非難を免れないものというほかはない。
(オ)しかし,他方で,次のとおり,控訴人にとって酌むべき事情も少な
くない。
ⅰ控訴人が,宴会終了後にg施設の駐車場に向かうことになったのは,
たまたま,宴会の最中に,g施設からの電話で本件MOの拾得者が判
明し,同人に電話連絡をとった結果,当夜,上記駐車場で待ち合わせ
て,本件MOを受け取る約束ができたからであって,当初から酒気帯
び運転をするつもりであったわけではない。
しかも,控訴人は,本件第1及び第2酒気帯び運転のそれぞれに先
立ち,いったんは運転代行業者に連絡して代行運転者の派遣を要請し
ているのであって,それらがいずれも断られたために,本件酒気帯び
運転をしたものである。そうであるからといって,酒気帯び運転をし
たこと自体が許されるという筋合いにないことはもちろんではあるが,
控訴人において酒気帯び運転を回避するための一定の努力をしたこと
は考慮してよい事情である(ただし,運転代行業者に依頼するのであ
れば,その手配をもっと早めにしておくべきであった。特に,本件M
Oを回収してから仮眠をとる前に直ちに手配をしておけば,少なくと
も本件第2酒気帯び運転は回避することができたのではないかと考え
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られるのである。)。
ⅱまた,本件酒気帯び運転は一度の機会におけるものといっても差し
支えない性質のものであって,時期を異にして酒気帯び運転を繰り返
したというものではない。まして,控訴人について酒気帯び運転の常
習性が窺われるというような事情があるわけではない。
ⅲそして,偶然の結果にすぎないとはいえ,本件酒気帯び運転におい
ては,人身事故はもとより,物損事故すら伴わなかったことは大きな
救いであったといってよい。
ⅳさらに,本件紛失については,本件MOの紛失期間は約4日間にす
ぎず,その拾得者も判明し,無事回収されている。しかも,本件MO
の中には生徒の成績など重要な情報は保存されていなかったし,そも
そも,その保存内容が,eはもとより,他のいかなる部外者にも洩れ
たことはないのである(甲111,弁論の全趣旨)。
ⅴこのほか,控訴人は,本件酒気帯び運転を自らb校長に申告し,そ
の調査の過程で遅ればせながら本件紛失についても申告している。そ
して,その後,上司の指示に従い謹慎生活を送ってきたものである。
ⅵ以上の諸点にも増して,本件酒気帯び運転及び本件紛失のそれぞれ
に対する非難の程度との兼ね合いにおいて考慮しなければならないの
は,控訴人に対する教師としての評価が極めて高かったということで
ある。
すなわち,控訴人は,本件処分に至るまで,被控訴人から処分を受
けたことは全くない。それどころか,被控訴人においては,教員に対
する勤務評定を,上位から順に「A」「A’」「B」「B’」「C」
の5段階で評価しているところ,平成13年度から平成15年度まで
の3か年度における控訴人に対する勤務評定は,それぞれ「A’」
「A」及び「A」であって,特に,平成15年度の勤務評定には,
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「校長の意を体し,よく学校経営に参画している。リーダー・中核と
しての力量も見られ,期待できる。」とのコメントまで付されていた
のである(以上につき,弁論の全趣旨)。実際,研究会の公開授業に
つき,b校長において当初予定されていた担当教諭に代えて,急きょ
控訴人を同授業担当者として指名し,控訴人においてもよく期待に応
えたこと1つを取ってみても,上司であるb校長の控訴人に対する信
頼と期待が高かったこと,控訴人においてそれに応える意欲と能力を
備えていたことは見やすいところである(原審証人b)。また,控訴
人は日々の授業に真剣に取り組むことはもちろん,クラブ(ソフトテ
ニス部)活動の指導その他の校務にも積極的に関わり,さらには,そ
のかたわら,平成10年度から平成14年度にかけて,毎年,自らの
実践や研究の成果をまとめた論文を発表しており,その中には高い評
価を得たものが1点ならず存在するというのである(甲8,127∼
130)。これによれば,控訴人は,これまで教師としての職務をき
ちんと果たしてきたというにとどまらず,自己研さんにも地道に取り
組み,着実にその成果を挙げていたものといってよい。そのような努
力を積み重ねてきた結果,控訴人は,教え子達から慕われ,父兄から
も高い評価と信頼を獲得していたものである(甲119∼121,弁
論の全趣旨)。
そうであれば,本件酒気帯び運転及び本件紛失を除けば,控訴人は,
教師としての資質,能力,意欲及び勤務態度のいずれの点においても
欠ける点がなかったというにとどまらず,むしろ被控訴人にとって有
為な人材の一人であったとさえいっても過言ではない。
エ(ア)以上の諸事情を総合的に考慮するならば,控訴人を免職にした本件
処分は,上記イで見た加重処分の判断基準に照らしていかにも厳しすぎ,
重きに失するものといわざるを得ない。
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したがって,本件処分は違法なものとして取消しを免れない。
(イ)これに対し,被控訴人は,他の地方公共団体や教育委員会(以下
「地方公共団体等」という。)においても酒気帯び運転に対する処分標
準例を免職と定め,実際にも免職処分を選択した事例が多数存在するこ
とを指摘して,本件処分について裁量権の範囲を超えたものであるとは
いえないと主張し,これに沿う書証(乙6∼12,21∼26,28
(各証),29,33,34)を提出する。
しかし,本件は,被控訴人による加重処分の判断をめぐる違法性の有
無が問われているのであるから,酒気帯び運転をした職員は原則として
免職とする旨処分基準を設けている地方公共団体等が既に相当数存在し,
かつ,そのような内容の処分基準を設けていない地方公共団体等におい
ても従前の基準を加重する向きにある(乙33,34)からといって,
それが上記判断を直ちに左右する関係にはないし,被控訴人の指摘にか
かる他の地方公共団体等における懲戒免職処分の各事例は,いずれも酒
気帯び運転については原則として免職とする旨を明確に定めた処分基準
を適用したものであることが明らかな事例又は当該事例に適用された処
分基準の具体的な内容が不明な事例のいずれかであることからして,上
記諸事例があるからといって,本件における加重処分が当然視されるべ
きいわれはないものといわなければならない。
この点に関する被控訴人の主張は,採用することができない。
(4)以上のとおりであるから,その余の点(⑤)についてはもはや判断する
までもないが,本件処分に至る手続についてはいささか留意すべき点がある
ものと考えるので,若干付言しておく。
上記のとおり,免職処分は当該職員にとってこの上なく不利益な処分なの
であるから,そのような処分をするに際しては,手続的にも適正手続を踏ま
えていることが不可欠の要請である。この点につき,原判決は,f県におけ
−13−
る市町村立学校の教職員の懲戒手続について,地方教育行政の組織及び運営
に関する法律38条1項に定める市町村教育委員会の内申をまって,同法4
3条3項に基づき制定されたf県市町村立学校職員の分限及び懲戒に関する
条例が準拠するところのf県職員の懲戒に関する条例に基づいてなされるこ
と,そこには被処分者の弁明についての規定は存在しないことを指摘した上
で,「法令の規定上は告知・聴聞の手続を被処分者の権利として保障したも
のと解することはできず,告知・聴聞の手続きを取るか否かは処分をする行
政庁の裁量に委ねられており,手続上不可欠のものとは認められない。ただ
し,懲戒処分の中でも懲戒免職処分は被処分者の実体上の権利に重大な不利
益を及ぼすものであるから,懲戒免職処分に際し,被処分者に対して告知・
聴聞の機会を与えることにより,処分の基礎となる事実の認定に影響を及ぼ
し,ひいては処分の内容に影響を及ぼす可能性があるときに限り,上記機会
を与えないでした処分は違法となると解される。」としているが,にわかに
首肯することができない。いやしくも,懲戒処分のような不利益処分,なか
んずく免職処分をする場合には,適正手続の保障に十分意を用いるべきであ
って,中でもその中核である弁明の機会については例外なく保障することが
必要であるものというべきである。
これを本件についてみるに,本件処分に先立ち,b校長,c教育長及びd
教頭らが控訴人に対し,本件酒気帯び運転及び本件紛失について事情聴取を
数度行っていることは認められるものの,これはあくまで処分をする側の必
要からする事実調査の域を出ないものであって,控訴人に対して弁明の機会
を付与したものとはいえない。また,そのほかに,控訴人に弁明の機会が与
えられた形跡はない。
そうであれば,本件処分は,適正手続の保障という意味においても重大な
問題を含んでいるものといわざるを得ない。
3結論
−14−
以上の次第で,本件処分は,これを取り消すべきである。これと異なる原判
決は失当であって,取消しを免れない。本件控訴は理由がある。
よって,主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所第3民事部
裁判長裁判官西理
裁判官有吉一郎
裁判官吉岡茂之

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