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裁判例


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主文
1原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2上記の部分につき,被控訴人の請求を棄却する。
3訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
(前注)略称は,原判決の例による。
第1控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要
1本件は,被控訴人が,レオパレスが賃貸する家具家電付き賃貸物件(本件物
件)に入居し,控訴人との間で放送の受信契約(本件受信契約)を締結して受信料
を支払ったものの,放送法64条1項の「協会の放送を受信することのできる受信
設備を設置した者」に当たらないから,本件受信契約は公序に反して無効であると
主張して,控訴人に対し,不当利得返還請求権に基づき,1か月分の受信料131
0円及びこれに対する支払日である平成27年10月28日から支払済みまで民法
所定の年5分の割合による法定利息の支払を求めた事案である。
原審は,被控訴人の1310円の請求を認容し,法定利息の請求を棄却した。こ
れに対し,控訴人が控訴した。
2前提事実は,次のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第2の2
に記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決3頁2行目末尾の次に次のとおり加える。
「レオパレスは,ウェブサイトにおいて,NHK受信料は家賃には含まれておら
ず,入居者の負担になる旨回答している(乙4)。」
原判決3頁11行目の「被告は,」の次に「本訴提起後の」を加える。
3争点及び争点に関する当事者の主張は,原判決4頁14行目の「本件受信設
備」を「本件受信機」に改め,次のとおり当審における当事者の主張を補充するほ
かは,原判決の事実及び理由の第2の3に
記載のとおりであるから,これを引用する。
(当審における控訴人の主張)
下記ア,イのいずれの見解によっても,被控訴人は「受信設備を設置した者」
に該当するから,本件受信契約は有効であり,受信料の支払は有効な弁済として法
律上の原因に基づく。
ア放送法の沿革からみれば,「設置」とは国語辞典的な意味の「こしらえも
うける」という物理面に着目した意味ではなく,「放送を受信可能な状態におくこ
と」という機能面に着目した概念であったことが明らかである。また,放送法にお
ける受信契約締結義務の趣旨目的からも,「設置」とは機能面に着目し「協会の放
送を受信できる受信機」を「使用できる状態におくこと」を意味する。
放送受信料を定める基準である「住居」という概念について,「世帯単位」
の契約を基本としている現行の放送受信料制度を前提とした場合には,受信料の公
平な負担を実現すべく,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した
者」とは受信設備の設置された住居の代表者を意味するものと解釈すべきである。
単身赴任者は,規約2条3項の定める「独立して住居もしくは生計を維持する単
身者」に該当し,単独で世帯を構成するものと扱われることから,単身赴任先が同
人の「住居」である限り,同人は当該住居の代表者として「協会の放送を受信する
ことのできる受信設備を設置した者」に該当し,放送受信契約の締結義務を負う。
被控訴人は,単身赴任者として,本件物件を「住居」として居住していたの
であるから,受信設備の設置された本件物件の居住者であり,住居の代表者であっ
たというべきである。
イ放送法が「設置(した)者」を問題にする以上,それは必ずしも受信設備の
所有者とは限らず,受信設備によって放送を受信することのできる地位という便益
を享受する者を意味すると解すべきである。さらに,放送法が「受信設備を設置し
た者」という規範的な固有概念を用いて,その意義を積極的に定義しておらず,放
送法制定後一度も実質的な改正を経ていないのは,事態の推移や時代の進展に合わ
せた柔軟な解釈を許したものだと見ることができる。そうであれば,放送法は「受
信設備を設置した者」について,これに該当する主体が複数となり得ることを許容
する趣旨と解すべきである。「受信設備を設置した者」に該当する複数の主体は,
相互に連帯債務者となり,いずれか一方による債務の履行は他方についても弁済と
しての効力を有する。これを家具家電付き賃貸物件について考えてみると,それを
提供する事業者(賃料への反映)と入居者(視聴機会の直接的享受)のいずれも「受
信設備を設置した者」に該当する。さらに家具家電付き賃貸物件を会社が借り上げ,
社宅として提供しているなどの場合は,その会社もまた「受信設備を設置した者」
に該当する。
税収や広告収入から独立した控訴人の財産的基盤を確保するという観点から
すれば,放送法が放送受信料の負担者を放送受信契約締結義務者のみに限定してい
ると解することはできない。したがって,放送法64条1項が,放送受信料の負担
者を放送受信契約締結義務者に限定し,その余の者との間で締結された放送受信契
約を全て一律に無効とする趣旨の強行規定と解釈すべき理由はなく,支払済みの放
送受信料の返還を認める趣旨を有すると解することはできない。
(当審における被控訴人の主張-控訴人の主張について)
受信料の徴収権を有する控訴人は,国家機関に準じた性格を有するといえる
から,放送法64条1項により課される放送受信契約締結義務及び受信料の負担に
ついては,憲法84条及び財政法3条の趣旨が及ぶ国権に基づく課徴金等ないしこ
れに準ずるものであり,その要件が明確に定められていることを要する。控訴人が
主張するような,受信機を占有・管理しているにすぎない者も「受信設備を設置し
た者」に当たるなどという文言からかけ離れた恣意的な解釈は,上記の課税要件明
確主義に反し,許されないことは明白である。
控訴人の主張アの見解は,規約で定められているにすぎない「放送受信料
を定める基準である「住居」という概念について,「世帯単位」の契約を基本とし
ている」などということを前提とするもので,これをもって放送法64条1項の解
釈を導くことは本末転倒であることは明白である。
控訴人の主張イの見解も,文言からかけ離れた恣意的な解釈であって,課
税要件明確主義に反し,許されないことは明白である。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,被控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,次
のとおりである。
放送法64条1項は,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設
置した者は,協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と規
定して,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」が控訴人と
放送受信契約を締結する義務を負うことを明らかにしている。
ところで,放送法は,同項の「協会の放送を受信することのできる受信設備を設
置した者」について定義規定を置いておらず,民法その他の法律にも定義規定はな
い。そうすると,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」は
放送法固有の概念であるから,その意義を解釈するに当たっては,同項の文言だけ
でなく,その立法趣旨も併せて考慮することが可能であり,かつ適切である。
同項が放送受信契約の締結義務を定めたのは,控訴人があまねく全国に豊かでか
つ良い放送番組を提供するために設立された公共的機関であり言論報道機関であ
り,その使命を果たすためには控訴人の財産的基礎を確保することが必要不可欠で
あるところ,控訴人の財産的基礎を税収に委ねた場合には番組編集に国の影響が及
ぶことが避けられず,他方,広告収入に委ねた場合には広告主の影響が及ぶことが
避けられないことから,特殊な負担金である受信料制度を採用して国民に直接費用
負担を求める趣旨に出たものと解される。
このような同項の文言及び趣旨に照らせば,「協会の放送を受信することのでき
る受信設備を設置した者」とは,受信設備を物理的に設置した者だけでなく,その
者から権利の譲渡を受けたり承諾を得たりして,受信設備を占有使用して放送を受
信することができる状態にある者も含まれると解される。
すなわち,上述した同項の趣旨に照らせば,「協会の放送を受信することのでき
る受信設備を設置した者」とは,本来,控訴人が直接費用負担を求めるだけの実質
的な関係を有する者,すなわち受信設備により放送を受信することができる状態に
ある者であることを要し,かつ,それで足りると解される。
しかるところ,同項は,放送受信契約の締結義務を負う者を「協会の放送を受信
することのできる受信設備を設置した者」との文言で規定している。この文言が用
いられた理由は必ずしも明らかではないけれども,受信設備を設置した者であれば,
受信設備により放送を受信することができる状態にあるのが通常であり,この者が
受信設備により控訴人の放送を受信することができる状態にある者の典型例と考え
られる上,「受信設備を設置した者」という概念が外形的客観的な基準であるため
同項の要件該当性の判断が容易であることなどによるものと解される。
ところで,受信設備を物理的に設置した者からその権利の譲渡を受けたり承諾を
得たりして,これを占有使用して放送を受信することができる状態にある者も少な
からず存在する。このような者も,受信設備により控訴人の放送を受信することが
できる状態にある者であり,控訴人が直接費用負担を求めるだけの実質的な関係が
あるといえる。同項はこのような事態も当然想定していると考えられるのであって,
上述した同項の趣旨に鑑みれば,上記の者も同項の「受信設備を設置した者」に含
まれると解される。
そして,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に,受信
設備を物理的に設置した者だけでなく,その者から権利の譲渡を受けたり承諾を得
たりして,受信設備を占有使用して放送を受信することができる状態にある者を含
めて解することは,このような者も受信設備を物理的に設置した者と関係を有する
者であるから,同項の文言解釈としても許容されるというべきである。
仮に,「受信設備を設置した者」に受信設備を物理的に設置した者以外は含まれ
ないと解した場合には,住居がテレビ付きで売却される場合のように,物理的・客
観的な状態が変わらないけれども放送受信契約を負う者が交代する事態の説明に窮
する。また,上記解釈では,いったんテレビが据え付けられたからには,物理的・
客観的にテレビが撤去されない限り,最初に放送受信契約締結義務を負った者がい
つまでも義務を負うこととなるが,これでは直接費用負担を求めるだけの実質的な
関係がなくなった者にまで受信料の負担を負わせることになって,同項の趣旨に反
し,相当でない。
以上のとおりであるから,同項の「協会の放送を受信することのできる受信設備
を設置した者」とは,受信設備を物理的に設置した者だけでなく,その者から権利
の譲渡を受けたり承諾を得たりして,受信設備を占有使用して放送を受信すること
ができる状態にある者も含まれると解される。
被控訴人は,放送法64条1項の「協会の放送を受信することのできる受信
設備を設置した者」とは文言どおり受信設備を物理的に設置した者を指すとし,受
信機を占有・管理している者も同項に該当すると解釈したり,同項の意義について
複数の解釈をしたりするのは,文言からかけ離れた恣意的な解釈であり,課税要件
明確主義に反すると主張する。
しかし,同項の文言及び立法趣旨に照らせば,「協会の放送を受信することので
きる受信設備を設置した者」とは,受信設備を物理的に設置した者だけでなく,そ
の者から権利の譲渡を受けたり承諾を得たりして,受信設備を占有使用して放送を
受信することができる状態にある者も含まれると解されることは前示のとおりであ
る。このように解することは,同項の趣旨に合致した合理的な解釈である上,文言
解釈としても可能であって,文言解釈からかけ離れた恣意的な解釈ではない。
なお,上記解釈は,受信料は課税ではないから課税要件明確主義に反しないし,
控訴人が放送法64条3項により総務大臣の認可を受けた放送受信規約に基づいて
長年にわたって行っている同項の解釈運用と基本的に軌を一にするものであるか
ら,国民の予測可能性を害するものでもない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
被控訴人は,当審において,本件物件のテレビの処分権を有さず,このよう
な者に対して受信契約締結義務を課すのであれば,放送法64条1項は憲法13条,
19条及び29条に反して無効であると主張する。被控訴人の上記主張は,放送法
64条1項にいう「受信設備を設置した者」がテレビジョン受信機の所有者を指す
と解した上での立論であると解される。
しかし,前述したとおり,同項にいう「受信設備を設置した者」は受信設備を物
理的に設置した者だけでなく,その者から権利の譲渡を受けたり承諾を得たりして,
受信設備を占有使用して放送を受信することができる状態にある者も含まれると解
されるのであって,テレビジョン受信機の所有関係とは直接の関係がないものであ
る。したがって,被控訴人の上記主張は,その前提となる同項の解釈において失当
であって,採用することができない。
3以上の放送法64条1項の解釈を前提に,被控訴人が同項の「協会の放送を
受信することのできる受信設備を設置した者」に該当するか否かについて判断する。
本件において,本件物件には所有者又はレオパレスによってテレビジョン受信機
を据え付けられているところ,レオパレスはテレビジョン受信機付き本件物件を株
式会社Aに賃貸したものであること,被控訴人は,株式会社Aの指定により,平成
27年10月19日に本件物件に入居し,同年11月20日に退去したが,この間
本件物件に居住し,同所に据え付けられたテレビジョン受信機を現実に占有・管理
して,控訴人の放送を受信し得る状況を享受していたこと,被控訴人は同年10月
28日に本件受信契約を締結したことは前認定のとおりである。
このような被控訴人は,規約2条3項の「独立して住居もしくは生計を維持する
単身者」に該当し,本件物件を住居として居住し,唯一の居住者であったものであ
る。そして,被控訴人は,所有者又はレオパレスによって設置されたテレビジョン
受信機付きの本件物件を,レオパレスから借りた株式会社Aの指定を受けて,これ
を占有使用して,控訴人の放送を受信し得る状況を享受する者であるから,設置者
の承諾を得て受信設備を占有使用して放送を受信することができる状態にある者で
あり,放送法64条1項の「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置し
た者」に該当する。
4以上によれば,被控訴人は放送法64条1項の「協会の放送を受信すること
のできる受信設備を設置した者」であるから,放送受信契約の締結義務を負い,こ
の義務の履行として控訴人との間で本件放送受信契約を締結したのである。そうす
ると,被控訴人が本件放送受信契約に基づき受信料として支払った1310円は法
律上の原因があるから不当利得は成立せず,被控訴人の本件請求は理由がないから
棄却すべきである。
よって,原判決はこれと異なる限度で相当でないから,原判決中控訴人敗訴に係
る部分を取り消した上で,取消しに係る部分の被控訴人の請求を棄却することとし
て,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第20民事部
裁判長裁判官畠山稔
裁判官畑一郎
裁判官鈴木順子

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