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裁判例


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          主    文   
 1 原告の請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。
          事 実 及 び 理 由
第1 請求
 1 主位的請求
   被告は原告に対し,1937万8582円並びにこれに対する昭和62年6月3日から昭
和63年3月30日まで年8.5パーセントの割合による金員及び昭和63年3月31日か
ら支払済みまで年14パーセントの割合による金員を支払え。
 2 予備的請求
   被告は原告に対し,581万3069円及び下記の内金に対する下記の起算日から各
支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
          記
  内金              起算日
  19万3786円        昭和63年11月1日
  38万7571円        平成元年11月1日
  38万7571円        平成2年11月1日
  38万7571円        平成3年11月1日
  38万7571円        平成4年11月1日
  38万7571円        平成5年11月1日
  58万1357円        平成6年11月1日
  58万1357円        平成7年11月1日
  58万1357円        平成8年11月1日
  58万1357円        平成9年11月1日
  58万1357円        平成10年11月1日
  77万4643円        平成11年11月1日
第2 事案の概要
  本件は,原告(旧商号株式会社岐阜相互銀行)が株式会社東方界(以下「本件会社」と
いう。)に対して金員を貸し付けた際,被告が連帯保証人となったため,保証債務の履行
を求めたところ,被告が消滅時効を主張して争っている事件である。
 1 請求原因(当事者間に争いがない。)
 (1) 原告は本件会社との間で,昭和54年5月8日,相互銀行取引約定書に基づく相互銀
行取引契約を締結し,原告は本件会社に対し,昭和59年1月20日,6500万円を
下記の約定で貸す契約を締結し,金員を交付した。
          記
   利率    年8.5パーセント(1年を365日とする日割計算)
   損害金   年14パーセント(1年を365日とする日割計算)
   弁済方法  昭和59年2月から毎月20日限り100万円ずつ弁済し,最終弁済期を平
成元年6月20日とする。利息は,昭和59年1月から毎月20日限り1か
月分を前払いする。本件会社について支払停止又は和議開始等があっ
たときは,期限の利益を喪失する。
 (2) 被告は原告との間で,前記(1)の契約により本件会社が原告に対して負担する債務を
本件会社と連帯して保証する契約を締結した。
 (3) 本件会社について和議手続が開始され,昭和63年2月18日,和議認可決定があ
り,同年3月30日,この決定が確定した。その結果,原告の本件会社に対する債権
は,総額581万3069円を昭和63年から平成5年まで毎年10月30日限り38万7
571円,平成6年から平成10年まで毎年10月30日限り58万1357円,平成11年
10月30日限り77万4643円ずつ支払うべきものと変更された。
 2 抗弁(消滅時効)
 (1) 昭和63年10月30日,和議認可決定が確定し(争いがない。),原告は,本件会社に
対しても権利を行使することが可能となったし,被告に対しては和議手続の帰趨に関
わりなく,権利を行使することができる状態にあった。
 (2) 昭和63年10月30日から5年間が経過した(顕著な事実)。
 (3) 被告は,原告の請求する債権について,前記消滅時効を援用する。
 3 再抗弁(時効の中断)
   本件会社は,次の(1)(2)のとおり,債務を承認した。
 (1) 平成3年11月18日,主たる債務者である本件会社は,和議条件に従って一部弁済
をした。
 (2) 平成4年11月30日,原告の従業員が本件会社代表者に電話を架け,和議条件に
従った履行を求めたところ,本件会社は支払いの猶予を求めた。
 4 争点
   被告の保証債務が消滅時効により消滅したか否か。
第3 判断
 1 請求原因事実及び抗弁(1)の事実は,いずれも当事者間に争いがなく,本件会社の
債務については,昭和63年10月30日,和議認可決定が確定している。この和議手続
を開始するための和議申立てにより,本件会社及び被告は,原告との関係で期限の利
益を喪失する(甲第2号証第2条①2.)から,原告は被告に対し,本件会社の残債務額
を一括して請求することが可能であった。また,このことは,和議の効力により本件会
社の債務に変更が加えられたとしても,影響を受けない(和議法第57条による破産法
第326条第2項の準用)。したがって,原告(債権者)はもともと本件会社(主たる債務
者)についての和議手続の影響を受けずに,被告(保証人)に対する権利行使が可能
であるし,どんなに遅くとも昭和63年10月30日に和議認可決定が確定した後は,原
告の被告に対する権利行使について何の障害もないことになる。
 2  原告は,本件会社のした承認により保証人である被告との関係でも時効が中断され
る(民法第457条第1項)と主張する。
   民法第457条第1項は,主たる債務者について生じた時効中断事由は,請求に限ら
ず,すべて保証人についても効力を生ずると定めている。本件のような連帯保証債務
にあっては,連帯債務の規律(第440条,第434条により,請求のみが絶対効を有し,
その他は相対効)に従うのではなく,附従性があるために,保証債務の規律(民法第4
57条第1項)に従うものと解される。
   ところで,和議により主たる債務に変更が加えられても,保証債務に影響がない(和議
法第57条による破産法第326条第2項の準用)ことになると,保証債務の方が主たる
債務よりも「債務ノ目的又ハ体様」(民法第448条)において重い場合も生じ得るから,
破産法第326条第2項は,保証債務に関し民法第448条の例外を定めたものである。
免責に関し同様の規定である破産法第366条ノ13は,主たる債務が自然債務になっ
たとしても,保証債務には影響がないと定めており,保証債務の附従性(民法第448
条)の例外を定めていることは歴然としている。
   したがって,本件のように,和議認可決定が確定した後においては,保証債務の附
従性が失われており,保証債務の附従性を根拠にして請求以外の時効中断事由にも
絶対効があると定めた民法第457条第1項は適用されないと解される。原告が再抗弁
として主張する時効中断事由は,いずれも主たる債務者である本件会社がした「承認」
であり,これらの事実があったとしても,和議認可決定が確定した後は,保証債務の時
効を中断する効力はない。
   実質的にみても,保証人は主たる債務者の和議等の倒産の場合に備えた人的担保で
あるから,和議手続の開始があったときには,まさに債権者が保証人に対する権利行
使をすべき時期が到来したのであり,この時点で権利行使をせず,時効期間が経過し
た後に保証人に対して権利を行使しようとする者は,権利の上に眠れる者にほかなら
ないから,保護に値しない。
   以上のとおり,原告の再抗弁は理由がなく,抗弁が認められるから,原告の被告に対
する債権は,消滅時効により消滅している。
 3  原告は,予備的請求として被告に和議条件に従った支払いを請求している。しかし,
保証債務を和議条件に従って変更又は減縮しても,保証債務の時効消滅を妨げること
にはならず,予備的請求の理論的根拠が不明であって,主張自体失当である。
 4 よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき民事
訴訟法第61条を適用して,主文のとおり判決する。
 岐阜地方裁判所民事第2部
             裁判官      古   閑   裕   二

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