弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件各控訴を棄却する。
各事件の控訴費用は各控訴人の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた判決
一 第二〇八一号事件
1 第一審被告
(一) 原判決中、第一審被告敗訴部分を取り消す。
(二) 第一審原告の請求を棄却する。
(三) 訴訟費用は、第一、二審を通じて第一審原告の負担とする。
2 第一審原告
(一) 第一審被告の控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は第一審被告の負担とする。
二 第二一二九事件
1 第一審原告
(一) 原判決中、主文第二、第三項を次のとおりに変更する。
 第一審被告は、第一審原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成五年二
月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は、第一、二審を通じて第一審被告の負担とする。
(三) 仮執行の宣言
2 第一審被告
(一) 第一審原告の控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は第一審原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 原判決の引用
原判決事実摘示「第二 当事者の主張」記載のとおりであるから、これを引用す
る。
二 当審における当事者の主張の要点
1 第一審被告
(一) 第一審原告営業表示の周知性について
 第一審被告が第一審被告営業表示を屋号として飲食店(第一審被告店舗)を開店
した昭和四〇年ころ、我が国においては、一般に、今日におけるようなブランド志
向の傾向はまだ見られておらず、「シャネル」の名称も、全国的に広く知られると
いうような状態には至っていなかった。
 まして、右当時、右飲食店の位置する中目黒は、地下鉄がやっと開通したばかり
という状態であり、この地域において「シャネル」の名称を知る者などほとんどお
らず、現に第一審被告も知らなかった。
(二) 営業表示の類似について
 第一審被告営業表示は、「シャネル」を含むといっても、それはれっきとした日
本語の片仮名であって、シャネル社グループが商標登録しているという欧文字の
「CHANEL」ではなく、また、「シャネル」単独で使用しているわけではなく
て、「歌謡スナック」がその上に付加されているから、これをもって第一審原告営
業表示と類似するとすることはできない。
(三) 混同のおそれについて
 両営業表示の間の右のような相違や第一審被告とシャネル社グループとの間の営
業の種類の相違等からみて、第一審被告営業表示に接する者が、第一審被告店舗が
同グループと何らかの業務上、経済上、又は組織上の関係が存在するものと誤認す
るなどということは、およそ考えられないことである。
 現に、第一審被告店舗に来る客、同店舗の周囲の者等の中から、右のような誤認
をした者は、現在に至るまで一人として出ていないのである。
(四) 営業上の利益を害するおそれについて
 第一審原告の主張は、第一審被告店舗が中目黒の「ガード下の飲み屋街」に位置
する小さな歌謡スナックであることを理由に、第一審被告による第一審被告営業表
示の使用が「シャネル」の高級イメージを害するとして、それを営業上の利益が害
されるおそれの根拠とするものである。
 このような差別思想に基づく主張が、現代日本の裁判で通用するとは思われな
い。
(五) 権利濫用について
 大手大資本の外国企業グループの一員である第一審原告が、三〇年近くにわたり
小さなスナックをこつこつと営業してきた第一審被告に対し、同グループが我が国
におけるシェア拡大に成功したからというので、今ごろになって、店の名前を変え
ろ、金を払えと要求すること自体、昨今我が国の小・中学生の間で問題になってい
る「いじめ」と何ら変わらないものといわなければならず、このような要求が法の
名の下に許されてよいはずがない。
(六) 損害について
 第一審被告は、昭和四〇年の開業以来、シャネル社グループの営業を妨害したこ
とがないのはもちろん、同グループに他にも何らの迷惑をかけたこともないから、
第一審被告による第一審被告営業表示の使用による第一審原告の損害などというも
のはありえない。
2 第一審原告
(一) 逸失利益について
 平成五年法律第四七号による改正後の不正競争防止法五条二項の規定は、自己の
営業表示等を不正に使用されこれによって自己の営業上の利益を侵害された者は、
当該侵害した者に対し自己の営業表示等の使用を許諾する可能性が現実にあったか
否かにかかわらず、不正使用という事実のみに基づいて、仮に許諾するとすれば受
けるべきであるはずの使用料を損害とみなして、これを請求することを認めたもの
である。
 したがって、第一審原告は、第一審原告営業表示の使用を第一審被告に対し許諾
する可能性が現実にあったか否かにかかわらず、仮に許諾するとすれば受けるべき
であるはずの使用料を損害とみなして、これを請求することができるものといわな
ければならない。
 なお、右規定が平成五年法律第四七号によって新設される以前においても、商標
法三八条二項の類推適用により右と同様の扱いをするのが判例通説の立場であった
のであり、右規定はこれを明文化しただけであるから、右法律の施行の前後によっ
て扱いを異にすべき理由もない。
(二) 信用損害について
 右に述べたとおり、第一審原告が逸失利益として主張する損害は、第一審被告が
第一審原告営業表示を正当に使用するために、本来支払わなければならなかったは
ずの使用料に相当し、不正競争防止法五条二項一号の適用あるいは商標法三八条二
号の類推適用により、第一審原告の現実の損害の有無にかかわらずその損害とみな
すこととされたものである。
 これに対し、第一審原告が信用損害として主張する損害は、第一審原告営業表示
の高級イメージを低下させられることにより現実に被った積極的な損害であり、右
とは別に、不正競争防止法五条三項の適用あるいは商標法三八条三号の類推適用に
より、認められたものである。
 したがって、これら両者は、それぞれ独立の損害として認められるべきものであ
り、一方が他方を排斥する関係にはないものといわなければならない。
 そして、第一審原告が民法七二二条後段により請求権を否定される本訴提起(平
成四年一〇月三〇日)前二〇年以前についてはともかくそれ以降については、一貫
して、周知著名な営業表示については、一般に、同一あるいは類似の営業表示によ
り業種を異にする営業主体同士の間にもいわゆる広義の混同を生ずるおそれがある
状態が続いてきており、また、第一審原告営業表示は、遅くとも昭和三〇年代の初
めには周知著名となっていたから、信用損害の額の算定に当たっても、本訴提起前
二〇年以降のもの全体が基準にされなければならない。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 原判決の引用
 当裁判所も、第一審原告の本訴請求は、「シャネル」の表示の使用の差止め並び
に損害賠償金一〇〇万円及びこれに対する平成五年二月一〇日から支払済みまでの
年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由が
ないものと判断する。
 その理由は、二及び三に述べるところを付加するほかは、原判決の理由と同一で
あるから、その記載を引用する。
二 当審における第一審被告の主張について
 当審における第一審被告の主張は、実質的に第一審におけるものの範囲を出るも
のではなく、それらがいずれも採用できないことは、原判決の説示するところに照
らして明らかといわなければならない。
三 当審における第一審原告の主張について
 原判決の述べるように、第一審原告の営業上の利益の侵害の内容が主に第一審原
告営業表示の高級イメージの希釈化に求められるにすぎない本件においては、第一
審原告主張の逸失利益の損害といい信用損害といっても、その実体は、高級イメー
ジの希釈化に基づく無形の損害であり、具体的な売上げの減少ないしは得べかりし
利益の喪失あるいは具体的に信用が害されたことに基づく損害とはいえないこと
は、第一審原告主張事実から明らかである。したがって、訴訟物としても同一のも
のというべきである。
 そして、その損害の額は、原判決説示の諸事由に加え、第一審被告の過失が認め
られるのが昭和六二年以降であることによれば、不正競争防止法五条二項の適用あ
るいは商標法三八条二項の類推適用によっても、金八〇万円と認めるのが相当であ
り、これを超える損害が生じたことは本件全証拠によっても認めることができな
い。
 これに反する第一審原告の当審における主張は採用できない。
四 以上のとおり、第一審原告の本訴請求は、「シャネル」の表示の使用の差止め
並びに損害賠償金一〇〇万円及びこれに対する平成五年二月一〇日から支払済みま
での年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを容
認し、その余は失当として棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であっ
て、本件各控訴は理由がない。
 よって、本件各控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五
条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 牧野利秋 山下和明 芝田俊文)

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