弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
1 別紙目録(一)記載の昭和四五年(行ウ)第四八号事件原告らの訴え及び別紙
目録(二)記載の昭和四六年(行ウ)第一〇五号事件原告らの訴えをいずれも却下
する。
2 昭和四五年(行ウ)第四八号事件及び昭和四六年(行ウ)第一〇五号事件のそ
の余の原告らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
第一章 当事者の求めた裁判
第一節 昭和四五年(行ウ)第四八号事件(以下「甲事件」という。)
第一 原告ら
1 被告が昭和四四年一二月一六日付建設省告示第三八六五号をもつて告示した起
業者新東京国際空港公団の行う新東京国際空港建設事業についての事業認定処分を
取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第二 被告
一 本案前の答弁
1 別紙目録(一)記載の原告らの訴えをいずれも却下する。
2 訴訟費用は右原告らの負担とする。
二 本案の答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二節 昭和四六年(行ウ)第一〇五号事件(以下「乙事件」という。)
第一 原告ら
1 被告が昭和四五年一二月二八日付建設省告示第一八二四号をもつて告示した起
業者新東京国際空港公団の行う新東京国際空港第一期建設事業についての特定公共
事業の認定処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第二 被告
一 本案前の答弁
1 別紙目録(二)記載の原告らの訴えをいずれも却下する。
2 訴訟費用は右原告らの負担とする。
二 本案の答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二章 当事者の主張
第一節 請求原因
第一 本件各処分の存在
被告は、起業者新東京国際空港公団(以下「公団」という。)の行う新東京国際空
港建設事業(以下「本件事業」という。)について公団の申請(以下「本件事業認
定申請」という。)に基づき土地収用法(以下「収用法」という。)の事業認定処
分(以下「本件事業認定」という。)をし、昭和四四年一二月一六日建設省告示第
三八六五号をもつてこれを告示し、次いで公団の行う新東京国際空港第一期建設事
業(以下「本件第一期事業」という。)について公団の申請(以下「本件特定公共
事業認定申請」といい、本件事業認定申請と併せて「本件各申請」という。)に基
づき公共用地の取得に関する特別措置法(以下「特措法」という。
)の特定公共事業認定処分(以下「本件特定公共事業認定」といい、本件事業認定
と併せて「本件各処分」という)をし、これを昭和四五年一二月二八日建設省告示
第一八二四号をもつて告示した。
第二 原告らの地位
一 別紙目録(一)(1)、(2)記載の原告らを除くその余の甲事件原告らは、
本件事業認定に係る起業地内の土地又は建物につき、所有権・賃借権等の権利を有
するものであり、別紙目録(二)(1)、(2)記載の原告らを除くその余の乙事
件原告らは、本件特定公共事業認定に係る起業地内の土地又は建物につき、所有
権・賃借権等の権利を有するものである。
二 別紙目録(一)(2)記載の甲事件原告ら及び別紙目録(二)(2)記載の乙
事件原告らは、いずれも千葉県成田市<地名略>、<地名略>の土地上に所在した
駒井野団結小屋(以下「駒井野団結小屋」という。)をその共有者原告A、同Bの
訴訟被承継人C及び訴外Dから無償で借り受け、使用借権を有していたものであ
る。
三 1 別紙目録(一)(1)、(2)記載の甲事件原告らは、いずれも前項で主
張した以外には本件事業認定に係る起業地内の土地又は建物について所有権、賃借
権等の権利を有しないものであるが、右原告ら(ただし、原告E、同F、同G、同
H、同Iについては、同人らの訴訟被承継人J)は、いずれも右起業地付近に住所
を有し、本件事業の進行によつて、現に激甚な航空機騒音、大気汚染、農村共同体
の破壊等による被害を直接に受けているものである。航空機騒音に係る環境基準に
ついては、昭和四八年一二月二七日付環境庁告示第一五四号(以下「本件告示」と
いう。)によれば、少なくともWECPNL単位(うるささ指数)で七五以下の基
準値を昭和五八年一二月までに達成すべきものとされているにもかかわらず、右時
期までに達成される見込みは全くなく、更には、本件事業のうち本件第一期事業を
除いた事業に係る工事(以下「本件第二期工事」という。)が進展すれば、騒音被
害を始めとする環境権の侵害がますます著しくなることは明白である。
昭和五三年五月二〇日の新東京国際空港(以下「本件空港」又は「新空港」とい
う。)の暫定的開港によつて、午前六時から午後一一時までの間航空機騒音は激甚
であり、更に大気汚染、
農村破壊、落下物の恐怖にさらされている。かかる環境権侵害は直接右原告らに及
んでいるのである。
2 別紙目録(二)(1)、(2)記載の乙事件原告らは、二で主張した以外には
本件特定公共事業認定に係る起業地内の土地又は建物につき所有権、賃借権等の権
利は有していないが、本件第一期事業に係る工事区域の周辺に住居を有し、現実に
騒音公害、農村破壊の被害を受けているものである。
四 従つて甲事件原告らは本件事業認定の、乙事件原告らは本件特定公共事業認定
の、各取消しを求める法律上の利益を有する。
(中略)
第二節 本案前の申立ての理由
一 1収用法は、「公共の利益となる事業に必要な土地等の収用又は使用に関し、
その要件、手続及び効果並びにこれに伴う損失の補償等について規定し、公共の利
益の増進と私有財産との調整を図」ることを目的とする(同法一条)ところ、起業
者に収用権を賦与する事業認定は、一連の収用手続における一個の処分であつて、
公益の必要性と収用されるべき私権との調整を図ることを目的としてされるもので
あるから、かかる処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(行政事件
訴訟法(以下「行訴法」という。)九条)は、当該収用手続によつて土地等を収用
又は使用されるおそれがある者及び関係人(収用法八条三項)に限定されるべきで
ある。
仮に、事業認定が取り消されることによつて、起業地周辺の住民が何らかの利益を
受けることがあるとしても、それは単なる反射的利益にすぎないものであつて、か
かる利益は収用法によつて直接保護された法律上の利益といえないものであること
は明らかである。
2 特措法は、公共の利害に特に重大な関係があり、かつ、緊急に施行することを
要する事業に必要な土地等の取得に関し、収用法の特例について規定したものであ
る。
しかして、収用法による事業の認定を受けた場合における特定公共事業の認定は、
収用法により収用又は使用しうる土地その他の物件又は権利についての収用権を賦
与されている起業者に対し、更に緊急裁決の申請をしうる等の法的地位を与えた処
分であるから、右処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(行訴法九
条)は、当該収用手続によつて土地等を収用又は使用されるおそれがある者及び関
係人(収用法八条三項)に限定されるべきである。
二 1別紙目録(一)(1)、(2)記載の甲事件原告らは、
本件事業認定に係る起業地内の土地又は建物につき、所有権・賃借権等の権利を全
く有しないものである。
2 別紙目録(二)(1)、(2)記載の乙事件原告らは、本件特定公共事業認定
に係る起業地内の土地又は建物につき、所有権・賃借権等の権利を全く有しないも
のである。
3 別紙目録(一)(2)記載の甲事件原告ら及び別紙目録(二)(2)記載の乙
事件原告らは、駒井野団結小屋に使用借権を有すると主張するけれども、使用貸借
は引渡しを要件とするものであつて(民法五九三条)、ある物について使用貸借契
約の効力の発生を認めるためには、その目的物について貸主から借主に対する独立
の占有支配の移転を要し、単に目的物について権限を有するものから立入りを許諾
されたにすぎない者についてまで使用借権を認めることはできないところ、右物件
はその面積はわずかに一九・四八平方メートルという狭あいな物件であるのに、原
告らが証拠として提出する確認書(甲第一四〇号証)によれば、借主は右原告らを
始めとする反対同盟員及びその世帯員並びに反対同盟の支援者というような不特定
多数の者となつており、また、右物件には、新空港の建設に反対する反対同盟の支
援者と称する不特定多数の者が出入りしているが、右原告らを含む借主と称してい
る者らの立場もこれらの者と何ら異ならず、そこには右原告らの独立の支配とみら
れるものは全くなく、目的物について引渡しがあつたと認めるべきものは見当たら
ない。
要するに、右確認書はその作成日付が本件事業認定の告示後である昭和四六年七月
一四日であることからも右原告らの主張する使用借権を証するに足りるものではな
いのみならず(収用法八条三項但書参照)、前記事実からすると、右確認書からは
せいぜい亡C及びDが前記の者らに対し単に右物件への立入りを許諾したことが認
められるに止まるものである。
4 仮に右原告らがその主張する使用借権を有していたとしても駒井野団結小屋
は、緊急裁決に基づく昭和四六年九月一六日から同月二〇日までの行政代執行によ
り除却され、当該敷地は、昭和五三年五月二〇日以降本件空港の四〇〇〇メートル
滑走路用地として供用されているのである。
してみると、仮に本件各処分が判決により取り消されたとしても、右各処分の違法
が確定されるだけであつて、右判決によつて直接被告に行政代執行により収去され
た右団結小屋を原状に復元すべき義務が生ずるわけのものではなく、のみならず、
現に国際空港として供用されていろ本件空港の滑走路上に右団結小屋を復元するこ
とは社会通念上不可能というべきであるから、右原告らの本件各処分の取消しによ
つて回復すべき法律上の利益は消滅し、同人らは、本件各訴訟における原告適格を
有しなくなつたものというべきである。
5 従つて、別紙目録(一)(1)、(2)記載の甲事件原告らの本件事業認定の
取消しを求める訴え及び別紙目録(二)(1)、(2)記載の乙事件原告らの本件
特定公共事業認定の取消しを求める訴えは行訴法九条に違背し不適法である。
三 1 亡Cは駒井野団結小屋をDと共有していた者で本件各処分によりその権利
を侵害されるとして本件各訴訟を提起したが、昭和五四年一一月二日死亡し、その
相続人である原告A、同B(別紙目録(一)(3)、同(二)(3))が本件各訴
訟を承継した。
2 しかし駒井野団結小屋は行政代執行により除却され、その敷地は現在本件空港
の四〇〇〇メートル滑走路用地として供用されていることは二4で主張したとおり
であるから、同様にして、亡Cの本件各処分の取消しによつて回復すべき法律上の
利益は消滅し、同人は、本件各訴訟における原告適格を有しなくなつたものであ
る。
従つて、亡Cの右各訴訟の承継人である原告A及び同Bもまた原告適格を欠くもの
であり、右両名の本件各訴えは、いずれも不適法なものといわなければならない。
3 右原告両名は、右相続により取得した駒井野団結小屋の共有持分権を甲、乙事
件補助参加人Kに対し贈与した旨主張する。仮にそうとすれば、右原告両名は、も
はや本件各処分に係る各起業地内の土地又は建物につき、所有権・賃借権等の権利
を何ら有していないこととなり、この点においても、右両名の本件各訴えは、いず
れも原告適格を欠く不適法なものであることは明らかである。
第三節 被告の本案前の申立ての理由に対する認否・反論
一 1 被告の本案前の申立ての理由一は争う。
2 処分取消しの訴えの利益は、権利から法益へと拡大する傾向にある。行訴法九
条にいう法律上の利益は、行訴法が保護に値するとしている利益であつて(訴訟法
的保護利益説)、実体法的保護法益よりも広く、実体法的には反射的利益にすぎな
いとされる事実上の利益でも、訴訟により保護されてしかるべき国民の実質的・具
体的な利益はこれに当たるものと解すべきであり、しかるときは激甚な航空機騒音
等の被害を受ける周辺住民も事業認定ないし特定公共事業認定の取消しを求める法
律上の利益がある。
二 1(一)同二1ないし3のうち、本件事業認定に係る起業地内の土地又は建物
につき別紙目録(一)(1)記載の甲事件原告らが所有権・賃借権等の権利を、同
目録(2)記載の甲事件原告らが所有権・賃借権を、それぞれ有しないこと、本件
特定公共事業認定に係る土地又は建物につき別紙目録(二)(1)記載乙事件の原
告らが所有権・賃借権等の権利を、同目録(2)記載の乙事件原告らが所有権・賃
借権を、それぞれ有しないことは認め、その余は争う。
(二) 被告の主張は、駒井野団結小屋の使用態様を無視したもので実態に即さな
い。右小屋は、新空港に反対する確認書に列記された反対同盟員を含む、全同盟貝
に無償で貸し渡したものであり、支援者に貸し渡すことは、不特定多数者に貸し渡
すことを意味するものではない。反対同盟員及び右支援者らは、各人が平等の使用
権限に基づき引渡しを受け、単独で、あるいは多人数で使用収益することができた
のである。床面積は、当初は一九・八四平方メートルであつたが昭和四五、六年こ
ろには、増築され、数倍の面積となつていた。所有者から多人数が借り受ける山小
屋等と同じく、それぞれの反対同盟員が独立に引渡しを受けていたものである。使
用に際して、右同盟員が他と共同して使用することが通例であるとはいえ、単なる
立入りの許諾ではなく、実質的には全同盟員の共有物的性質を有していたものであ
る。
2 (一)同4のうち、駒井野団結小屋が緊急裁決に基づく行政代執行により除却
されたこと、右敷地が本件空港用地となつていることは認め、その余の事実は不
知、法的主張は争う。
(二) 駒井野団結小屋の除却の原因は、自然的滅失ではなく、違法な特定公共事
業認定に基づく違法な緊急裁決による行政代執行による除却である。従つて、訴え
の利益は消滅しない。
3 同5は争う。
三 1同三1の事実は認める。
2 同2のうち、駒井野団結小屋が行政代執行により除却され、その敷地は本件空
港用地として供用されていることは認めるが、その余は争う。
被告の主張の理由がないことは前項と同様である。
3 同3のうち、原告A及び同Bが相続により取得した駒井野団結小屋の共有持分
権をKに贈与したことは認めるが、その余は争う。
(中略)
第五節 被告の主張
第一 本件空港について
(中略)
二 新空港の空港計画
(中略)
6 航空機騒音防止対策
(中略)
(三) 運行方式の改良
本件特定公共事業認定当時、新空港につき航空機騒音防止対策として騒音軽減運航
方式、時間規制等の運行方式が採られることが明らかにされていた。
すなわち、騒音防止法三条は、航空機騒音による障害を防止軽減する必要があると
きは、運輸大臣に離着陸の経路又は時間、その他飛行場及びその周辺における航空
機の航行の方法を指定する権限を与えている。また運輸大臣は、昭和四六年一月八
日新空港の騒音対策に関する千葉県知事の要望にこたえて、要旨次のとおり回答
し、同空港についても騒音軽減運航方式及び時間規制等の騒音対策を行うことを明
らかにした。
ア 航路の設定について
進入角度・北向着陸復行・待機飛行・飛行高度について、より航空機騒音の発生し
ないような航行方法を定める。
イ 運行時間について
二 三時から六時までの運航ダイヤは認めない。二二時以降の運航便数は羽田空港
の現行便を上回らないよう努力する。
ウ 騒音地域の買収について
騒音地域の買収については、積極的にこれを推進する。
エ 学校等に対する防音工事について
空港供用開始後、航空機の騒音下に置かれると予想される地域以外の地域における
施設についても、騒音予想地域内と同等の騒音の強度及び頻度がある場合には、騒
音予想地域内と同じ条件で防音工事の助成措置を講ずる。
オ エンジンの試運転について
エンジンの試運転場所の選定に当たつては十分配慮するとともに、防音壁を設置
し、更に適切な消音装置があれば、その採用について考慮する。
(以下省略)
○ 理由
一 まず、別紙目録(一)記載の甲事件原告ら及び別紙目録(二)記載の乙事件原
告らの原告適格の有無について判断する。
1 行政庁の処分の取消訴訟を提起できる者は、行訴法九条の規定により法律に特
別の定めがない限り、当該処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を
侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消しによつてこれを回復す
べき法律上の利益を有する者に限られるべきであり、右にいう「法律上保護された
利益」とは、実体法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として
行政権の行使に制約を課していることにより保護されている利益であつて、当該係
争利益が法律上保護された利益に当たるか否かは、当該処分の根拠とされた実体法
規が当該利益を一般的、抽象的にではなく、個別的、具体的な利益として保護する
趣旨を含むか否かによつて決せられるべきものと解するのが相当である。
ところで収用法は、憲法二九条三項の「私有財産は、正当な補償の下に、これを公
共のために用ひることができる。」との規定の趣旨を受けて「公共の利益となる事
業に必要な土地等の収用又は使用に関し、その要件、手続及び効果並びにこれに伴
う損失の補償等について規定し、公共の利益の増進と私有財産との調整を図り、も
つて国土の適正且つ合理的な利用に寄与することを目的」(同法一条)として制定
されたものであるが、同法の規定する土地収用手続は公共の利益となる事業の遂行
による公共の利益の増進と起業地内の土地等の所有者及び関係人の私有財産の保護
との調整を図る制度であるから、同法が法的保護の対象としている個人的利益は、
専ら起業地内の土地等の所有者及び関係人の財産権ないし財産的利益であると解さ
れる。
そうして、事業認定手続は、土地等の収用又は使用の要件を具体的に判断し、既に
法令によつて当該事業の施行権限が付与されている起業者に対し当該事業に必要な
土地等について収用法所定の収用又は使用をしうる法的地位を付与する手続であり
(同法一六条)、事業認定の告示がされると起業地について土地の形質変更が禁止
され(同法二八条の三)、土地調書、物件調書作成のため立入調査が認められ(同
法三五条一項)、起業者に対して裁決申請権が(同法三九条一項)、土地所有者又
は土地に関して権利を有する関係人に対して裁決の申請をすべきことの請求権(同
条二項)、補償金の支払請求権(同法四六条の二)が認められるが、これらの効果
が及ぶ範囲はいずれも起業地内の土地等に限られ、従つて、事業認定により法律上
の地位に影響を受ける者も起業地内の土地等の権利を有する者のみであり、単に起
業地付近に居住する者あるいは起業地外の土地等の権利を有する者には右効果が及
ばないことは明らかである。結局、右事業認定の取消しを求める法律上の利益を有
するのは、当該収用手続によつて土地等を収用又は使用されるおそれがある者及び
関係人(同法八条三項)に限られるものというべきである。
また特措法は「土地等を収用し、又は使用することができる事業のうち、公共の利
害に特に重大な関係があり、かつ、緊急に施行することを要する事業に必要な土地
等の取得に関し、土地収用法の特例等について・・・・・・事業の円滑な遂行と土
地等の取得に伴う損失の適正な補償の確保を図ることを目的とする」ものであり
(同法一条)、収用法の事業認定を受けた場合についてする特定公共事業の認定
(特措法三九条一項)は、既に収用法により収用権を賦与されている起業者に対
し、更に緊急裁決の申請をしうる(特措法二〇条一項)等の法的地位を与える処分
であるから、右特定公共事業認定の取消しを求める法律上の利益を有する者は、同
様に、当該収用手続によつて土地等を収用又は使用されるおそれがある者及び関係
人(収用法八条三項)に限られるものというべきである。
原告らは行訴法九条の「法律上の利益」とは行訴法が保護に値するとしている利益
であつて、実体法的には反射的利益にすぎないとされる事実上の利益でも訴訟によ
り保護されてしかるべき実質的・具体的な利益である場合にはこれを含むとし、騒
音等の被害を受ける周辺住民も事業認定ないし特定公共事業認定の取消しを求める
法律上の利益があると主張する。しかし、行訴法九条の解釈は先に示したとおりで
あり、右主張は採用しえない。そして本件各処分の根拠法規である収用法及び特措
法には原告らの主張する周辺住民を騒音等の被害を受けない利益を個別的、具体的
に保護する趣旨の規定は見当たらず、前記各法律の目的に照らしても、結局原告ら
の主張する利益は右各法律により保護された利益に当たらないものといわなければ
ならない。また、原告らの主張する環境権なるものはいまだ実体法上の権利と認め
ることはできない。
従つて原告らの右主張は理由がない。
2 (一)別紙目録(一)(1)記載の甲事件原告らは本件事業認定に係る起業地
内の土地又は建物につき別紙目録(二)(1)記載の乙事件原告らは本件特定公共
事業認定に係る起業地内の土地又は建物につき、それぞれ所有権・賃借権等の権利
を有しないことは当事者間に争いがないから、右原告らは本件事業認定及び本件特
定公共事業認定の取消しを求める原告適格を欠くことは明らかである。
(二) (1)別紙目録(一)(2)記載の甲事件原告ら及び別紙目録(二)
(2)記載の乙事件原告らは、いずれも駒井野団結小屋に使用借権を有していたと
主張する。
しかしながら、使用貸借は物の引渡しを要件とする契約であり(民法五九三条)、
目的物について貸主から借主に対する独立の占有支配の移転がされることを要する
から、単に目的物について立入りを許諾されたにすぎない者は使用借権を取得した
といえないことは当然である。
これを本件についてみるに、原告Lの本人尋問の結果及びこれにより真正に成立し
たと認められる甲第一四〇号証によれば、駒井野団結小屋は、もと富里・八街空港
反対運動の際使用した小屋を反対同盟のため移築したものであり、当初は面積約六
坪、一部屋のみの小屋で、その後増築されたものの全体で一二坪程の狭あいな建造
物であること、貸主と借主間に作成されたとする確認書(甲第一四〇号証)には、
右小屋は原告L外一五名をはじめとする反対同盟員及びその世帯員並びに反対同盟
の支援者に対して「貸渡された」と記載されているものの、右小屋は、反対同盟の
集会所等としてその使用のたびに反対同盟員等が右同盟の事務局ないし事務局長L
の承諾を得て使用していたにすぎないこと、右確認書は本件各訴訟提起後の昭和四
六年七月一四日付で作成されたものであることが認められ、更に弁論の全趣旨によ
り成立を認めうる甲第一号証によれば、当初亡C外十数名の原告らは昭和四四年一
〇月一日、千葉県成田市<地名略>所在の建物を訴外Mとの間で使用貸借契約を締
結したとして前掲甲第一四〇号証と類似した内容を有する昭和四八年二月一〇日付
「無償貸借契約確認証」(甲第一号)を提出していたが、訴訟被承継原告Cの本人
尋問の結果によれば同人自身は使用貸借契約を締結したとの認識を有していなかつ
たことが認められ、その後第三〇回口頭弁論期日において前掲甲第一四〇号証が提
出されたことが認められる。右認定の事実及び本訴の経過によれば、前掲甲第一四
〇号証の記載を直ちに採用することはできず、同号証掲記の原告らは、駒井野団結
小屋への立入りを認められることがあつたにすぎず、右小屋の引渡しを受けこれを
独立に支配していたものと認めることはできない。従つて、別紙目録(一)(2)
記載の甲事件原告ら及び別紙目録(二)(2)記載の乙事件原告らが使用借権を有
していたとは認められないものというべきである。
(2) してみると右原告らもまた本件事業認定及び本件特定公共事業認定の取消
しを求める原告適格を欠くものというべきである。
(三) 被告の本案前の申立ての理由三1の事実並びに原告A及び同Bは亡Cから
相続により取得した駒井野団結小屋の共有持分権を甲、乙事件補助参加人Kに対し
贈与したことは当事者間に争いがないから、右原告らは本件各処分の取消しを求め
る法律上の利益を失つたことが明らかである。
(四) 別紙目録(一)記載の原告らを除くその余の甲事件原告らは本件事業認定
に係る起業地内の土地又は建物について、別紙目録(二)記載の原告らを除くその
余の乙事件原告らは本件特定公共事業認定に係る起業地内の土地又は建物につい
て、それぞれ所有権・賃借権等の権利を有することは当事者間に争いがない。
3 以上によれば、別紙目録(一)記載の甲事件原告らの本件事業認定の取消しを
求める訴え及び別紙目録(二)記載の乙事件原告らの本件特定公共事業認定の取消
しを求める訴えはいずれも原告適格を欠く不適法な訴えとして却下すべきである。
そこで、別紙目録(一)記載の甲事件原告らを除くその余の甲事件原告ら及び別紙
目録(二)記載の乙事件原告らを除くその余の乙事件原告ら(以下一〇項までこれ
らの原告を「原告ら」という。)の請求の当否について検討する。
二 1(一)原告らは、収用法七一条は憲法二九条三項、一四条に違反し、従つ
て、本件事業認定自体無効であると主張する。
(二) しかしながら、損失補償の額に関する収用法七一条の違憲性が本件事業認
定の無効を招来するとは解しえないから原告らの主張は既にこの点において失当で
あるのみならず、次のとおり収用法七一条は憲法二九条三項、一四条に違反しな
い。
(三) すなわち収用法七一条は収用土地等に対する補償金の額の基準時を事業認
定の告示の時と規定しているが、収用法における損失の補償は憲法二九条三項の趣
旨からも、「完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等
しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもつて補償する場合には、被
収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金
額の補償を要する」(最判昭和四八年一〇月一八日民集二七巻九号一二一〇頁)も
のと解すべきところ、収用法四六条の二によれば土地所有者等は事業認定の告示後
は権利取得裁決前であつても起業者に対し、補償金の支払いを請求することがで
き、この場合、起業者は右請求のあつた日から原則として二か月以内にその見積額
を支払わなければならず(同法四六条の四)、右見積額が不当に低いときや支払期
限を遅滞したときは後に権利取得裁決において不当に低額にすぎた額に応じた額や
遅滞した額について高率の加算金が加算されることとされているから(同法九〇条
の三)、かくして被収用者は経済的には近傍において被収用地と同等の代替地を取
得しうる機会を与えられているのであり、また同法七一条が事業認定時の相当価格
に権利取得裁決時までの物価の変動に応ずる修正率を乗ずることとしていることを
も考え併せると、右条項が憲法二九条三項又は一四条に違反するものとはいえな
い。
よつて、請求原因第三の一1の主張は理由がない。
2 (一)次に原告らは仮補償金による裁決を認めた緊急裁決制度は憲法二九条、
三一条、三二条に違反し、このような違憲の緊急裁決の前提となる本件特定公共事
業認定は無効であると主張する。
(二) しかしながら、緊急裁決制度に関する特措法二〇条、二一条の違憲性が本
件特定公共事業認定の無効を招来するとは解しえないから原告らの主張は既にこの
点において失当であるのみならず、次のとおり特措法二〇条、二一条は憲法二九
条、三一条、三二条に違反しない。
(三) 憲法二九条三項は「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために
用ひることができる。」としている。しかし、同条は補償の支払時期については何
ら規定をしていないのであるから、いわゆる補償前払いの原則が憲法上常に保障さ
れていると解することはできない(最判昭和二四年七月一三日刑集三巻八号一二八
六頁)。
そして緊急裁決は、公共の利害に特に重大な関係があり、かつ緊急に施行すること
を要する事業に必要な土地を取得するため(特措法一条、七条四号)、明渡裁決が
遅延することによつて右事業の施行に支障を及ぼすおそれがある場合に特別に認め
られたものであり(同法二〇条一項)、起業者は権利取得の時期までに概算見積り
により定められた仮補償金(同法二一条一項)を払い渡さなければならず(同法二
七条、収用法九五条一項)、収用委員会は緊急裁決の後引き続き審理し遅滞なく補
償裁決をしなければならないし(特措法三〇条一項)、仮にその補償金額が仮補償
金額を上回るときは起業者はその差額に年六分の割合による利息を付して支払わな
ければならないとされ(同法三三条二項)、更に右最終的な補償義務の履行を確保
するため緊急裁決において担保の提供を命ずることができること(同法二六条一
項)、また被収用土地上の建物の居住者は仮住居による補償を求めることもできる
こと(同法二三条、二九条)、その他被収用者の保護のため現物給付(同法四六
条)、生活再建等のための措置(同法四七条)を求めることができることとされて
いること等を勘案すると、特措法に基づく緊急裁決の制度が憲法二九条三項に違反
するとはいえない。
(四) 次に緊急裁決のうち、仮補償金については損失補償の訴えを提起すること
ができないこととされている(同法四二条三項)。しかし損失補償については緊急
裁決の後速やかに補償裁決がされ(同法三〇条一項)、仮補償金との差額が清算さ
れること(同法三三条)となつているのであり、右の補償裁決に対しては当然訴え
を提起しうるのであるから、暫定的措置である仮補償金の決定に対して訴えを提起
できないとしても、憲法三一条、三二条に違反するとはいえない。
従つて請求原因第三の一2の主張は理由がない。
3 (一)原告らは特措法の定める代行裁決の制度は憲法九二条に違反し、かかる
違憲な規定を含む特措法に基づく本件特定公共事業認定は無効であると主張する。
(二) しかしながら、裁決の代行に関する特措法三八条の二ないし三八条の四の
違憲性が本件特定公共事業認定の無効を招来するとは解しえないから原告らの主張
は既にこの点において失当であるのみならず、次のとおり特措法の右規定は憲法九
二条に違反しない。
(三) 憲法九二条は「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の
本旨に基いて、法律でこれを定める。」としている。
ここに「地方自治の本旨に基いて」とは、その地方の公共事務が何よりもその地方
の住民の意思に基づいて行われるべきことを意味すると解されるが、地方の公共事
務についての国の関与を全く否定する趣旨でないことは事の性質上明らかである。
ところで特措法三章三節の裁決の代行は、緊急裁決の申立てがあつたのにもかかわ
らず特措法二〇条四項で定める二か月以内の期間内に収用委員会が裁決をしないと
きに起業者が異議申立てをした場合に事件が建設大臣に送付されるものであるが
(同法三八条の二第一項)、この場合も収用委員会は異議申立てのあつた日から一
か月以内に裁決をすべき期日を定めて引き続き審理、裁決をすることができるので
あり(同条二項)、建設大臣による裁決の代行(同法三八条の三第一項)は極めて
例外的に認められているにすぎず、前記のとおり特措法は公共の利害に特に重大な
関係があり、緊急に施行することを要する事業に限り特に適用されるものであるこ
とを考え併せると、右裁決の代行の制度は、裁決の緊急性の要請から例外を認めた
もので、収用委員会の権限を不当に侵害するものではないから憲法九二条に違反す
るとはいえないものというべきである。
従つて請求原因第三の一3の主張は採用できない。
三 ところで新空港は昭和四〇年六月二日施行された公団法二条により「一長期に
わたつての航空輸送需要に対応することができるものであること、二将来における
主要な国際航空路線の用に供することができるものであること。」の二要件を備え
る公共用飛行場として東京都の周辺地域で政令で定める位置に定めるものとされ、
昭和四一年七月四日本件閣議決定を経て同月五日位置政令により千葉県成田市に設
置することとされたこと、昭和四二年一月二三日公団からの申請に基づき運輸大臣
は本件工事実施計画を認可したが、成立に争いがない乙第四五号証の一ないし一
八、第四六号証によれば、その後公団の申請に基づき昭和四四年一月二五日運輸大
臣は右工事実施計画の一部変更の認可をしていることが認められ(以下これによる
変更後のものを「本件工事実施計画」ということがある。)、これによれば敷地面
積は一〇六四万九二〇〇平方メートル、滑走路は長さ四〇〇〇メートル(A)、二
五〇〇メートル(B)、三二〇〇メートル(C)のもの各一本で幅員はいずれも六
〇メートル、工事完成予定期日は滑走路A及びこれに対応する諸施設について昭和
四六年三月三一日、右以外の諸施設については同四九年三月三一日とされていたこ
と、公団からの申請に基づき被告は本件事業(新空港建設事業全体)につき本件事
業認定を行い昭和四四年一二月一六日付で告示をしたこと、同じく公団からの申請
に基づき被告は本件第一期事業(新空港第一期建設事業すなわち四〇〇〇メートル
滑走路及びこれに対応する諸施設の建設事業)につき本件特定公共事業認定を行い
昭和四五年一二月一八日付で告示したことは当事者間に争いがない。そこで以下原
告らの主張する違法事由を順次検討する。
四 収用法二〇条、特措法七条の各一号要件について
1 収用法二〇条一号は事業認定の要件として「事業が第三条各号の一に掲げるも
のに関するものであること。」とし、同法三条一二号は「航空法による飛行場又は
航空保安施設で公共の用に供するもの」としている。本件事業は公共用の飛行場で
ある新空港の建設事業であり、公団からの申請に基づき昭和四二年一月二三日運輸
大臣が本件工事実施計画を認可(航空法五五条の三第一項)したことは前記のとお
り争いがないのであるから、本件事業は収用法三条一二号、二〇条一号に該当する
ものというべきである。
次に特措法七条一号は特定公共事業認定の要件として「事業が土地収用法第三条各
号の一に該当するものに関する事業・・・のうち、第二条各号の一に該当するもの
に関するもの・・・・・・」とし、同法二条三号は「第一種空港」を掲げ、空港整
備法二条一項一号は本件空港を第一種空港としている。そして本件第一期事業を包
摂する本件事業は本件空港建設事業であり、収用法三条一二号の事業に該当するこ
とは先にみたとおりであるから、本件第一期事業は特措法二条三号、七条一号に該
当するものというべきである。
2 (一)原告らは本件空港は航空法による飛行場に当たらないとし、その理由と
して第一に本件空港の設置に当たり公聴会開催の義務等に違反し、航空法所定の手
続を踏まなかつた旨主張する。
(二) 新空港については公団法二条により「東京都の周辺の地域で政令で定める
位置に設置するものとする。」とされており、本件閣議決定を経て「公団法第二条
〔・・・・・〕の政令で定める位置は、千葉県成田市とする。」旨の位置政令が制
定・公布されたこと、その後昭和四一年七月三〇日公団が成立したこと、本件閣議
決定前に公聴会を開催しなかつたことは当事者間に争いがないが、原告らの主張す
る航空法三九条二項、五五条の二第二項が本件閣議決定をする際に適用され、公聴
会の開催が必要的要件となるものと解することはできない。
すなわち、本件閣議決定は、政府の行政指針として新空港の位置を千葉県成田市<
地名略>を中心とする地区としたものにすぎず、新空港の設置者が公団であること
は公団法一条及び航空法五五条の三の規定により明らかであるから、本件閣議決定
ないし位置政令公布の段階において内閣を新空港の設置者とみるべき根拠はない。
また、航空法三九条二項は、公団以外の者から飛行場等の設置許可申請がされた際
に、運輸大臣に対し公聴会の開催を義務付けたものであるから、政府が新空港の位
置について閣議決定ないし政令を公布する際に適用される規定でないことも明らか
である。
そして航空法三九条二項が飛行場の設置許可の審査を行うに際し公聴会を開き利害
関係人に対し飛行場の設置に関する意見を述べる機会を与えたのは、右設置許可に
より飛行場敷地及びその周辺の住民に重大な影響を及ぼすことがあるから利害関係
人の意見を十分に聴くことが適当であるとの配慮に基づくものであるところ、新空
港の設置に当たつては工事実施計画につき運輸大臣の認可を受けるに際し公聴会の
開催が要求され(同法五五条の三第二項、三九条二項)、現に本件においても本件
工事実施計画の認可に当たり昭和四二年一月一〇日公聴会が開催されたことは当事
者間に争いがないのであるから、本件閣議決定前に公聴会の開催を必要とする実質
的理由も存しないものというべきである。よつて、原告らの右主張は失当である。
3 (一)次に原告らは、本件工事実施計画の認可は、補償規定を欠缺する違憲の
公用収用の効果を惹起せしめるもので憲法二九条三項に違反して無効であり、本件
各処分は右瑕疵を承継し、あるいは本件空港が航空法による空港に当たらないこと
となるから、違法であると主張する。
(二) しかしながら、仮に補償規定を欠缺する「公用収用」の効果を生じさせる
としても、本件工事実施計画の認可自体が無効となることはない。のみならず、航
空法四九条一項、五〇条一項が憲法二九条に違反するとはいえない。すなわち、ま
ず、「空中利用権」を「公用収用」されたとの原告らの主張は独自の立論であり、
採用できないことは明らかである。次に航空法四九条一項は工事実施計画の認可の
告示の後は、進入表面等の上に出る高さの建造物等の設置等を禁じているものであ
るが、同条三項によれば、飛行場の設置者が右告示の際現存している物件を除去す
べきことを所有者等に請求するためには通常生ずべき損失を補償しなければならな
いとされ、同法五〇条一項は進入表面等の投影面と一致する土地で進入表面等から
の距離が一〇メートル未満のものについて同法四九条一項の規定による用益の制限
により通常生ずべき損失を当該土地の所有者等に対し政令で定めるところにより補
償しなければならないとし、同法施行令四条の四、四条の二は右補償は原則として
金銭でするものとしている。従つて進入表面等の投影面と一致する土地で進入表面
等から一〇メートル以上の距離にある土地の所有者が、新たに進入表面等の上に出
る高さの建築物等を設置等することは補償なくして禁じられていることとなるが、
この程度の制限は公共の安全の維持のための財産権の内在的制約として当然受忍す
べきものと考えることができるからである。
よつて原告らの主張は失当である。
4 (一)原告らは航空法による航空保安施設には、「飛行場保安施設」と「航空
路保安施設」の別があり、収用法三条一二号の「航空保安施設」は右「航空路保安
施設」を指し、「飛行場保安施設」は同号において飛行場に含まれるものであると
ころ、本件各申請においては飛行場と飛行場保安施設が一体のものとして起業地に
含まれておらず、いわゆる飛行場敷地のみが起業地とされているので、本件各申請
に係る各事業は、収用法三条一二号の「航空法による飛行場」建設事業に当たらな
いと主張する。本件各申請において飛行場と航空保安施設が一体のものとして起業
地に含まれていなかつたことは当事者間に争いがない。
(二) しかしながら、収用法三条一二号は「航空法による飛行場又は航空保安施
設で公共の用に供するもの」としているので、「飛行場」及び「航空保安施設」の
概念については専ら航空法により規定されるものであるところ、航空法二条四項は
航空保安施設とは「電波、燈光、色彩又は形象により航空機の航行を援助するため
の施設で、運輸省令で定めるものをいう。」とし、航空法施行規則一条は、航空保
安施設として航空保安無線施設、航空灯火、昼間障害標識を挙げているが、航空
法、航空法施行規則を通じてみても原告らの主張する「飛行場保安施設」と「航空
路保安施設」の区別はなく、かえつて「飛行場」と「航空保安施設」とは設置手
続、設置基準、管理基準等について明確に区別してそれぞれ別個の手続規定及び基
準に服させており(航空法三九条二項、四〇条、四一条一項、三項、四四条、四五
条)、設置についての運輸大臣の許可(同法三八条一項)ないし認可(同法五五条
の三第一項)も各別個にされることとなつているのであるから、航空法は右両者を
判然区別していることは明らかであり、航空保安施設の一部である原告らのいう
「飛行場保安施設」が飛行場に含まれると解することは到底できない。原告ら主張
のように飛行場設置許可申請書(又は新空港の工事実施計画認可申請書)に設置予
定の航空保安施設の概要を記載しなければならないとされ(航空法施行規則七六条
一項九号、七六条の二)、あるいは飛行場の種類ごとにその飛行場に設置されるべ
き飛行場灯火の種類を指定している(同規則一一七条一号、一号の二、二号)から
とて右結論が左右されるいわれはなく、原告らの挙げるその余の論拠もその主張を
肯認させるに足りない。
従つて収用法三条一二号の「航空法による飛行場」には原告らの主張する「飛行場
保安施設」は含まれないものと解すべきである。また特措法は特定公共事業認定の
対象となる事業として収用法三条一二号の「航空法による飛行場」に関する事業の
うち第一種空港に関する事業を掲げているが(特措法七条一号、二条三号)、第一
種空港における飛行場には、同様に原告らの主張する「飛行場保安施設」は含まれ
ないものと解すべきである。
もとより空港としての機能を発揮するためには法定の航空保安施設を設置すること
が必要不可欠であることはいうまでもないが、右施設用地を起業地に含め、これを
一個の事業として申請しなければ事業認定の要件を欠くに至るものではなく、航空
保安施設については必要に応じて別個に事業認定を受ければ足りる(収用法三条一
二号)ことは明らかである。
そして証人N、同Oの各証言によれば、本件各処分に際して被告は公団から航空保
安施設の内容及び設置予定地について説明を受け、右予定地については任意買収に
より取得する旨聞いた上、その取得の可能性があると判断したものであることが認
められるので、飛行場のみを対象とする本件各処分が違法とされるいわれはない。
5 よつて原告らの主張はいずれも理由がなく、本件各処分は収用法二〇条、特措
法七条の各一号の要件を満たしているものというべきである。
五 収用法二〇条、特措法七条の各二号要件について
1 収用法二〇条、特措法七条の各二号は事業認定及び特定事業認定の要件として
「起業者が当該事業を遂行する充分な意思と能力を有する者であること。」として
おり、右の「能力」とは事業を遂行する法的、経済的、実際的(企業的)能力を指
称するものと解される。
ところで本件事業の遂行については公団方式によることが最適であるとの航空審の
建議がされ、これを受けて政府は公団法を可決成立させたことは当事者間に争いが
なく、同法によれば本件事業の起業者たる公団は新「空港の設置及び管理を効率的
に行なうこと等により、航空輸送の円滑化を図り、もつて航空の総合的な発達に資
するとともに、わが国の国際的地位の向上に寄与することを目的」として同法に基
づいて設立されたものであり(同法一条)、その資本金は全額政府の出資とされる
等(同法五条)の措置が講じられており、また本件事業の遂行に必要な財源措置が
施され、運輸大臣より本件工事実施計画の認可を受けていることは当事者間に争い
がない。そして成立に争いのない乙第一号証及び証人Pの証言によれば、公団は、
年度ごとに事業計画、資金計画等につき運輸大臣の認可を受けており(公団法二六
条)、また本件各事業の遂行に必要な組織を有し職員を配置していることが認めら
れ、右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
従つて公団は本件各事業を遂行する充分な意思と法的、経済的、企業的能力を有す
るものというべきである。
2 (一)原告らは公団は本件事業について最適地、最適規模を決定する権限を有
していなかつたから、当初から起業者適格を欠いていたと主張し、公団が成立した
昭和四一年七月三〇日以前に本件閣議決定がされ、位置政令が公布・施行されてい
たことは前記のとおり当事者間に争いがない。
しかしながら、本件空港のような国際空港の位置・規模等を決定することは、国家
的大事業として高度に政策的、専門技術的判断を要することがらであるから、これ
らのすべてを起業者が独自に決定する権限を有しなければならないものではなく、
起業者が右の権限を有しないからといつて収用法二〇条二号の要件を欠くものとは
いえない。
よつて原告らの右主張は失当である。
(二) 原告らは公団は一個の有機的システムである空港の本質を理解する能力を
欠き、交通連絡手段、空域、燃料供給等の重要問題につき杜撰な対応しかなしえ
ず、そもそも交通連絡手段、空域、燃料供給の確保及び騒音対策について主位的か
つ責任をもつて実現しうる権能がなく、本件空港を「新東京国際空港」たらしめる
能力を欠如している旨主張する。
しかしながら、公団が本件各事業を遂行する充分な意思と能力を有することは先に
みたとおりであり、右交通連絡手段の確保等問題のすべてについて起業者が独自の
判断と責任で処理する権能を有しなければ収用法二〇条二号及び特措法七条二号に
いう意思と能力を欠くに至るものではなく、原告ら主張の交通連絡手段、空域等の
問題は収用法二〇条三号及び特措法七条三号の要件の問題として関連を有するにす
ぎないと解すべきである。のみならず、前掲乙第一号証及び河野証言によれば、交
通連絡手段については首都高速道路公団、日本道路公団、日本国有鉄道、日本鉄道
建設公団、株式会社京成電鉄等これを遂行する権能をもつ別の事業主体が存在し、
これら関連事業の連絡調整を経た関連事業表があり、また関係各省間の連絡会議が
あつたことが認められ、現に京成電鉄は成田空港駅まで開通し、首都高速六、七号
線、東関東自動車道及び湾岸道路の一部が開通しており、運輸省の所管である空域
設定もされ、本件第一期事業に係る分については新空港として開港し運営されてい
ることは当事者間に争いがないところである。
また燃料供給についても、結局昭和五三年五月二〇日の開港時にはいわゆる暫定輸
送により供給をなしえていたことは当事者間に争いがなく、現在では当初の計画に
あつた本格的パイプラインによる輸送が開始されていることは原告らの自認すると
ころであるから、この点について公団が起業者適格を欠くとすることはできない。
更に騒音対策については、前掲乙第一号証によれば昭和四一年七月四日に特に「新
東京国際空港の位置決定に伴う地元対策について」と題する閣議決定をし、その中
で一定ホン以上の騒音については格別の配慮を行う等第五節被告の主張第一の二6
(二)(1)アないしオのとおりの内容の騒音対策が決定されたことが認められ、
また昭和四二年八月一日騒音等防止法が制定され、本件空港もその規制の対象とさ
れた(同法二条)ので運輸大臣は航空機騒音の防止ないし軽減のため航行方法の指
定をすることができる等とされた(同法三条)ものであるが、更に同法により公団
は本件空港の設置者として騒音防止のための各種の助成措置、土地の買入れ、農耕
阻害補償等各種の対策を実施する権限が与えられており(同法五条、六条、八条の
二、九条、九条の二、一〇条)、成立に争いのない乙第三二号証、証人Qの証言に
よれば公団はこれらの騒音防止対策を実施していること、原本の存在及び成立に争
いのない甲第三四六号証の一、二によれば公団の施した遮音工事は平均三二ホンに
及ぶ遮音効果を有していることが認められる。よつてこの点においても公団が起業
者適格を欠くとすることはできない。
3 以上のとおり二号要件に関する原告らの主張はすべて失当であり、起業者たる
公団は本件各事業を遂行する充分な意思と能力を有していたものというべく、本件
各申請は収用法二〇条、特措法七条の各二号要件を具備していたものというべきで
ある。
六 収用法二〇条、特措法七条の各三号要件について
1 (一)収用法二〇条三号は「事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与す
るものであること。」を事業認定の要件として掲げているが、「公共の利益の増進
と私有財産との調整を図り、もつて国土の適正且つ合理的な利用に寄与する」(同
法一条)という同法の目的に照らすと、右要件はその土地がその事業の用に供され
ることによつて得られる公共の利益と、その土地がその事業の用に供されることに
よつて失われる公共的又は私的利益とを比較衡量し、前者が後者に優越すると認め
られる場合に存在するものと解すべきである。そして、被告のこの要件の存否につ
いての判断は、具体的には事業認定に係る事業計画の内容、事業計画の達成によつ
てもたらされるべき公共の利益、右事業計画において収用の対象とされている土地
の状況等諸要素の比較衡量に基づく総合判断として行われるべきものである(東京
高判昭和四八年七月一三日行裁集二四巻六・七号五三三頁)。特措法七条三号も収
用法二〇条三号と全く同一の文言であり、特措法が収用法の特別法であること(特
措法一条)に鑑みると同様に解釈すべきである。
(二) 原告らは右各号は、適正かつ合理的な事業計画に基づいて最も適当な土地
が収用されるべきことを要件とするから、最適地が他に存するときは右各号に違反
すると主張する。
しかしながら、収用法二〇条三号は事業計画が特定の土地を対象とし「当該」土地
の適正かつ合理的な利用に寄与することを要求しているものと解されるから、特定
の土地を利用しようとする当該事業計画のみが審査の対象とされていると解すべき
である。収用法はもとより同法施行規則等にも事業認定の申請に当たり起業者に対
して他の適地の有無に関して資料の提出を義務付ける規定はなく、またある事業の
適地として複数の適地が存在しうる場合に、事業認定庁が独自の案に基づきすべて
の適地と申請に係る起業地との優劣関係を判定することまで要求されているとは解
しえないから、原告らの主張する最適地原則なるものは、収用法二〇条三号、特措
法七条三号の要件ではないと考えるべきである。
(三) もつとも、事業認定の審査に当たり、事業認定申請書等から代替案のある
ことが判明しており、かつ、これが申請に係る事業計画案よりも明らかに合理的か
つ適正であるような場合には、「国土の適正かつ合理的な利用に寄与することを目
的とする」(収用法一条)同法の趣旨から、申請に係る事業計画案自体不適正もし
くは不合理であるとして同法二〇条三号及び特措法七条三号の要件を欠き、あるい
は右代替案に係るより適当な起業地に関する権利が容易に取得しうるような場合に
は収用法二〇条四号、特措法七条四号の要件を欠くと解する余地がないではない。
成立に争いのない甲第三四号証により認められる行政実務の指針である昭和二六年
一二月一五日建設管発第一二二〇号建設省管理局長通牒がその一(ハ)において
「同条第三号の要件の審査に当つては、例えば他により適当な地点がありや否や、
当該特定の土地等が必要なりや否やを具体的に事案に即し、判定すること。」とし
ていることは右の解釈を前提としているものと解せられる。
しかしながら、仮に右のように解するとしても、起業者は事業認定の申請に当た
り、代替地の有無につき資料提出の義務が法定されていないこと等(二)で掲げた
理由から、ここで比較衡量されるべき代替案は、事業認定庁が審査する過程で関係
資料等から当然考慮することが可能なものに限定されるべきである。また一般に事
業計画が「土地の適正且つ合理的な利用に寄与するもの」か否かの事業認定庁の判
断には性質上裁量判断の余地が認められ(前掲東京高判参照)、特に右のような当
該事業計画案と代替案との優劣の審査に当たつては、種々の公益ないし私益の利益
衡量を要し、性質上必然的に政策的又は専門技術的な判断を伴うものであるから、
より広い裁量の余地があるものというべく、代替案の方が事業計画案よりも著しく
優れていて、事業認定庁の判断が社会通念上著しく不相当であると認められる場合
にのみ裁量の逸脱又は濫用があり違法とされるものというべきである。
2 (一)そこで以下本件各事業計画に至つた経緯、その内容、本件各事業計画が
本件の各起業地の適正かつ合理的な利用に寄与するものであるか、すなわち、本件
の各起業地において本件各事業が実現されるべきものであるか、そしてこれにより
実現されるべき公益が従前本件各起業地で実現されていた公益及び私益に優越する
ものであるか、ついで本件各処分時に被告が知りもしくは容易に知りえた代替案で
本件の各事業計画案よりも著しく優れ被告の判断を違法ならしめるものが存在して
いたか否かにつき順次判断する。
(二) まず、本件空港の位置が決定されるに至る経緯につき判断するに、前掲乙
第一号証、成立に争いのない甲第一〇、第一七号証、第二一八号証の二、第三四八
号証、乙第四号証、第三〇号証の二、原本の存在及び成立に争いのない甲第六号証
の一、第一〇二、第一七七、第三三八、第三三九号証、第三四一ないし第三四四号
証、第三五一号証及び証人Rの証言により真正に成立したと認められる乙第三六号
証の一ないし一一、第三七号証並びに証人S、同R、同Tの各証言によれば次の事
実が認められ、これを覆すに足る的確な証拠はない。
昭和三〇年代後半において我が国の航空輸送需要は国際線、国内線ともに激増し、
国民経済の発展に伴い右需要は伸び続け、近い将来には羽田空港の処理能力の限界
を超えるものと予想され、また当時欧米で開発中であつたコンコード等の超音速機
(SST)、超大型機等が主要国際路線に就航することが予想され、(現に日航は
昭和三九、四〇年に欧米にSSTの仮発注をしている。)、これら新機種は離
(着)陸のため従前の機種よりも長い滑走路を必要とすることから最長でも昭和三
九年四月に新設(予定)の三一五〇メートルのC滑走路しか有していなかつた羽田
空港では、質的にも対応しきれないことが予想され、更にアメリカ、フランス、イ
ギリス、カナダ等主要諸外国においてはその首都において新機種に対応しうる第
二、第三の空港の建設又は計画が進められていた。
そこで右の事態に対処するため、東京周辺にこれら質的・量的な要請を満たしうる
新たな国際空港を建設することの必要性が運輸省航空局を始めとする政府、航空関
係者の間で認識され、政府は昭和三七年度予算から新空港調査費を計上して(この
点は当事者間に争いがない。)空港適地の調査、検討を開始した。運輸省航空局に
おいては日航等の協力を得て調査をし、羽田空港拡張、霞ヶ浦周辺、浦安沖、富里
村付近を始め種々の箇所につき管制上、土木技術上その他の検討を加えた。そして
運輸大臣は昭和三八年八月、右検討の結果有力とされた霞ヶ浦付近、浦安沖、富里
村付近の三案を中心に航空審に対し「新東京国際空港の候補地及びその規模」につ
いて諮問したところ、同審議会は、航空管制についての専門家等の意見を徴するな
ど右三候補地につき航空管制、気象条件、地形地質等建設工事上の問題、都心との
交通連絡手段、航空機騒音等の立地条件を慎重に比較検討し、空港の規模につき需
要予測、滑走路の長さ、数及び配置、諸施設の規模及び配置等について検討を行つ
た上、同年一二月一一日、候補地としては千葉県富里村付近が最も適当であり、防
衛庁との調整が可能であれば霞ヶ浦周辺も適当であるが、浦安沖は主として航空管
制上の見地から適当ではない、規模としては四〇〇〇メートル程度の主滑走路二
本、副滑走路二本、横風用滑走路一本が必要であり、面積は二三〇〇ヘクタール
(七〇〇万坪)を必要とするとの本件答申をした(運輸大臣が航空審に対し諮問を
し、航空審が本件答申をしたことは当事者間に争いがない。)。
ところで新空港の候補地については政府部内でも意見が分かれ、容易に意見の一致
は見られなかつた。そこで、本件答申の後も、政府部内及び地元関係者の間で異論
があり、富里村付近に直ちに決定することができず、政府部内で更に検討を行うこ
ととし、関係閣僚懇談会を設置し、昭和四〇年三月二九日の同懇談会において(同
日懇談会が開催されたことは当事者間に争いがない。)今後の検討方針として、
(1)候補地は富里のほか埋立地の検討も必要である、(2)東京湾、霞ヶ浦等に
ついても関係事務次官会議において検討の上早急に調査を実施する、(3)米軍に
提供中の飛行場の利用等につき、外交ルートを通じ早急に打診するとの三点が決定
された。
これに基づき昭和四〇年四月一日関係事務次官会議(同日関係事務次官会議が開催
されたことは当事者間に争いがない。)において空域、渉外、土木技術の三小委員
会が設置され、関係各省の専門職員が委員となりそれぞれ調査、検討を行つた結
果、東京湾埋立てについては管制上の制約から羽田空港の能力を減ずる、工事施行
及び維持補修等土木技術上の難点がある、船舶航行に非常な支障を生ずる等の難点
があると判断され、また外交ルートを通じて打診した結果、東京西部の米軍飛行場
については現時点における日本側返還は不可能であるとの回答があり、霞ヶ浦につ
いても利水・治水対策、工程・工事費、百里空域との関係での航空管制上等の難点
があり候補地として適当でないとされた。なお運輸省航空局では右案の外一般に候
補地が提唱されると直ちにその候補地につき調査、検討する等し、合計二〇以上の
候補地につき検討したが、必要な空域を確保できる等航空管制、地形・地質、気
象、土木技術・交通連絡手段、騒音対策等の観点からやはり富里村付近が最適地で
あると判断された。
そこで昭和四〇年一一月一八日関係閣僚協議会において新空港の位置を富里に内定
し、次いで同四一年三月四日臨時新東京国際空港閣僚協議会を設置する旨閣議決定
をした(これらの事実は当事者間に争いがない。)。ところが右富里案については
地元の反対が強くU知事も地元と協議することなく内定したとして強く反発し、昭
和四〇年一二月一三日には運輸省に対しいわゆる住民対策の四原則なるものを申し
入れ、翌四一年二月二八日にはついに地元住民に対して説得の態度をとらず静観注
視するとの所信を表明するに至つた(富里案について地元の反対が強く、U知事が
静観する態度を採つたことは当事者間に争いがない。)。そこで政府としても富里
案に決定することができず、運輸省内部で更に検討し、V運輸省事務次官らとU知
事との間で協議・検討をした結果、富里はもともと平坦な北総台地の中で広大な土
地を確保しうるとの観点から選ばれていたものであるところ、富里の北方約一〇キ
ロメートルに位置する成田市<地名略>付近は、同じ北総台地にあり、航空管制、
地形・地質、気象等の諸条件において富里との間に大差はなく、また交通連絡手段
の面でも新空港の目安とされた一時間以内と予測され、国際空港の立地条件として
ほぼ同じであること並びに国有地である広大な下総御料牧場及び県有地を最大限に
利用し、かつ、敷地面積を約二分の一にすることにより約一五〇〇戸の立退きを要
した富里に比べ民有地の買収を極力少なくすることができることが判明した。同年
六月二二日W首相は右三里塚案につきU知事に対し協力を求め、同知事はこれを了
承した(同年六月二二日W首相がU知事と会談し協力を求めたことは当事者間に争
いがない。)。そして同年七月四日閣僚協議会において新空港の位置を成田市<地
名略>を中心とする地区とすることが了承され、同日本件閣議決定を経て、翌五日
位置政令が制定・公布された(これらの事実は当事者間に争いがない)。
(三) 次に本件空港の規模等につき判断するに、前掲乙第一号証、第三〇号証の
二及び成立に争いのない乙第三〇号証の三、第五四号証の一、二、証人Nの証言に
より真正に成立したと認められる乙第一一号証並びに証人N、同Rの各証言によれ
ば次の事実が認められ、これを覆すに足る証拠はない。
(1) 新空港の空港計画の基礎とされた諸需要予測の内容は別表一「需要総括
表」のとおりであり、本件空港計画の第一期工事計画は昭和五一年度の、本件空港
計画全体は昭和六一年度の、各東京地区国際線の乗降旅客数、貨物取扱量、発着回
数の予測に基づいて立てられた。
(2) 右基礎需要予測によれば昭和六一年度の東京地区国際線の発着回数は一八
万一〇〇〇回と見込まれたが、一本の滑走路で処理しうる航空機の離着陸回数は年
間約一三万回であるため、滑走路の数として同時使用可能な主滑走路二本、横風用
滑走路一本とし、年間約二六万回と算定し、右昭和六一年度の予測需要量に比し十
分余裕をもつように設計された。
また新空港で使用が予定されていたDC-八、B-七四七等の夏期高温時・最大離
陸重量における離陸必要滑走路長は三二九〇メートルないし三八一〇メートルであ
つたので、四〇〇〇メートル滑走路を建設する必要があり、これは昭和四六年三月
三一日完成予定の第一期工事計画において建設する必要があるとされた。他の一本
の主滑走路は二五〇〇メートルとされ、横風用滑走路はICAOの施設基準等も考
慮して主滑走路長の八〇%の三二〇〇メートルとされた(予定された滑走路の本
数、長さについては当事者間に争いがない。)。
(3) 着陸帯、誘導路、エプロンその他の必要施設については前記の昭和六一年
度の需要予測に耐えられるよう計画され、その敷地総面積は一〇六四万九二〇〇平
方メートルとなり、四〇〇〇メートル滑走路とこれに対応する諸施設を建設する第
一期工事計画の総面積は五五〇万四一〇〇平方メートルとされた(右の面積につい
てはいずれも当事者間に争いがない。)。
(4) 空港が実際にその機能を果たすために必要な給油施設については、航空燃
料の年間供給量は別表一のとおり昭和五一年度二〇〇万キロリツトル、昭和六一年
度五五〇万キロリツトルと予測されたので、この輸送及び給油方法として千葉港頭
に油送船で運ばれてきた燃料をパイプラインで新空港まで送油し、ここからハイド
ラント給油方式により航空機に給油するシステムが採用され、そのため千葉港に千
葉港頭給油施設、新空港に空港側給油施設、その間にパイプライン施設を設置する
ことが計画され、この約四二キロメートルに及ぶパイプラインは、右最終需要量に
対応できる一時間当たり五〇〇キロリツトルの送油能力を持つ一四インチ圧力配管
用炭素鋼鋼管二本を地下埋設によつて敷設するよう計画された(これらの事実は当
事者間に争いがない。)。
(5) 都心との交通連絡手段については道路利用と鉄道利用の二通りの方法が予
定され、道路利用の方法は首都高速六号線→同七号線→京葉道路→東関東自動車道
→新東京国際空港線を経由するルートで道路距離約六六キロメートルで(以上の事
実は当事者間に争いがない。)所要時間は約六〇分と予測された。
そして右道路のうち本件事業認定時に供用されていたのは京葉道路(拡幅工事中で
あつた。)だけであつたが、その余の道路についても新空港供用開始時までに供用
される予定で着工されていた。
また将来の交通量の増加に対しては東京湾の埋立て計画に伴う東京湾岸道路を経由
し、首都高速九号線により都心と結ぶルートが建設省により昭和三七年度から調
査、計画されていた(右計画のあつたことは当事者間に争いがない。)。
次に鉄道利用については、京成電鉄が京成成田駅から新空港までの約七キロメート
ルの区間について運輸大臣に路線免許の申請をしており、これが完成により上野又
は銀座から同空港まで約一時間で連絡可能と予測されており、右区間については本
件特定公共事業認定前の昭和四五年一一月二〇日に着工された。
また本件事業認定当時いわゆる成田新幹線の建設が検討されており、在来線では、
総武線の千葉駅までの複々線化、成田線の複線化が計画されていた(京成電鉄が新
空港まで延伸する計画であつたこと、成田新幹線が検討されていたことは当事者間
に争いがない。)。
(6) 本件空港の位置の決定については、家屋の密集地帯を避けて人口密度が低
く、土地利用状況も農地、山林等の比較的開発が進んでいない地域を選び、また騒
音防止の観点から近隣の最大の市街地である成田市中心部が航空機の飛行経路から
外れるとともに、周辺において最も人家が集中している三里塚交差点から滑走路の
中心線が約一キロメートルに離れるようにした。
(7) 本件各事業計画においては下総御料牧場を始め国公有地約三九五ヘクター
ルを有効に利用して各起業地に取り込み、民有地の買収及び家屋の移転を極力少な
くされた。
3 (一)事業計画が当該土地の利用上適正かつ合理的といえるか否かは前記のと
おり当該土地が当該事業の用に供されることにより得られる公共の利益とこれによ
り失われる公共的又は私的利益とを比較衡量して判断すべきものであるが、その前
提として当該土地を当該事業の用に供することが適していなければならないことは
いうまでもない。仮に当該土地で当該事業を行うことが著しく不合理であるような
場合には収用法二〇条三号及び特措法七条三号の要件を欠くこととなると考えられ
る。
そこで本件各起業地が空港用地として適地といえるか否かにつき以下検討すること
とする。
(二) (1)まず空港の用地選定に当たり空域の確保が技術的な立地条件として
最も重要であることは当事者間に争いがない。
(2) ところで新空港の候補地の選定に当たつて航空審、運輸省航空局等では常
に管制専門家の意見を徴し、富里ついで三里塚地区を空港最適地と決定するに当た
つてもこれらの者の意見により必要な空域が確保されることを確認しており、航空
管制上問題がないと判定されたことは先に認定したとおりである。そして、成立に
争いのない乙第五三号証によれば現在本件空港、羽田空港及び百里飛行場にはそれ
ぞれ必要な空域が確保されていることが認められ、右各飛行場がそれぞれ供用され
航空管制上特段の支障がないことは公知の事実である。
(3) 原告らは空域の関係で本件空港の設置により羽田空港の能力を減少させる
ことになると主張する。
本件空港の設置により従前の関東上空の空域(百里空域、羽田空域、横田空域、東
管空域に細分化されている。)に新たに成田空域を設けることになること、羽田空
域はほぼ三分の一の空域を成田空域に取り込まれることは当事者間に争いがない
が、羽田空港の外に本件空港が開港されることにより全体としてみれば処理能力の
向上がはかられるのであり、現に両空港において国内線、国際線の需要を満たし特
段の支障を生じていないことは公知の事実であるから、原告らの右主張は採用する
ことができない。
(4) また原告らは本件空港に離着陸する航空機と自衛隊百里飛行場から緊急発
進をするジエツト機との接触等が高度に予測されると主張し、成立に争いがない甲
第二〇一号証のうちのX作成部分にはこれに副う記載がある。
しかしながら、前認定のとおり本件各処分当時本件空港及び百里飛行場にそれぞれ
必要な空域が確保され、航空管制上問題がないと判定されていたこと、本件空港及
び百里飛行場が現に航空管制上特段の支障なく供用されている事実に照らすと、本
件空港が空域上の条件を満たしていないとはいえない。
(5) 以上によれば、本件空港が空域上空港適地であるとする被告の判断が誤り
であるとは認められない。
(三) 次に交通連絡手段については本件起業地と都心との距離が道路距離で約六
六キロメートルであることは当事者間に争いがなく、前掲乙第一号証及び成立に争
いがない甲第三七号証により認められる諸外国の主要国際空港と各都心との距離に
比べると相当遠距離にあることは否めない。
しかしながら、本件各事業計画において道路及び鉄道のいずれによるも都心と約一
時間で連絡しうると予測されていたことは前記認定のとおりであり、右の所要時間
は約六六キロメートルという距離からすると不合理な予測とはいえないし、東京周
辺において広大な空港用地を確保することが極めて困難な事情にあることを考える
と、右の程度の所要時間で本件起業地と都心とが連絡しうるならば、交通連絡手段
の点でも問題はないものというべきである。そして、現に、首都高速六、七号線
(成立に争いがない乙第一九号証によれば昭和四六年三月二一日開通したことが認
められる。)、東関東自動車道、湾岸道路のうち江東区新木場・浦安間(原本の存
在及び成立に争いがない甲第一六四号証によれば昭和五三年一月二〇日開通したこ
とが認められる。
)がそれぞれ完成していることは当事者間に争いがなく、原本の存在及び成立に争
いがない甲第一五一、第二六五号証並びに弁論の全趣旨によれば、右道路等を利用
することにより事故等不測の事態がない限り、最も混雑する時間帯で空港方向で約
六五分、都心方向で約八〇分で連絡されており、また京成線スカイライナーにより
新東京国際空港駅と都心とは約六〇分で連絡されていることが認められる。右の事
実によれば、被告の予測に誤りはなく、交通連絡手段の点でも本件起業地が適地で
あるとする被告の判断に誤りがあつたとはいえない。
(四) 次に気象条件について検討する。前掲乙第三〇号証の二及び乙第三七号証
によれば、空港用地の選定に際して問題となる気象条件の主なものは風向及び風速
の分布、霧、スモツグ等の発生度であるが、千葉県布佐、佐原、茨城県牛堀の観測
資料により三里塚地区に関する風向及び風速の分布について調査したところ、航空
機の横風に対する許容限度を一三ノツト(毎秒六・七メートル)とした場合、一方
向の滑走路で年間を通じて九四ないし九七%、二方向の滑走路で九八ないし九九%
の利用度が確保されること、更に現在の大型ジエツト機は横風に対する許容限度が
二三ないし二八ノツトに達することから滑走路の利用度の検討に際して横風許容限
度を二〇ノツトにすれば一方向の滑走路でも九九%程度の利用度を示すことがそれ
ぞれ明らかになつたこと、スモツグについては東京湾の工業地帯から距離的に遠く
離れているのでその懸念はないこと、霧に関しては東京、布佐、佐倉、三里塚にお
ける昭和二九ないし三八年の統計からみても特に問題のないこと、その他降水量、
雨日数、雪日数等についても三里塚地区は特に問題のないことが判明したことが認
められる。
もつとも原本の存在及び成立に争いのない甲第一〇三号証によれば三里塚の霧日数
は例えば木更津が零日であるのに対し一二日であることが認められるが、右の事実
をもつてしてはいまだ成田地区が気象条件の点から空港適地でないとはいえない。
また原告らは本件空港周辺は関東ローム層の微粉末が赤い風となりジエツト・エン
ジンに悪影響を与えると主張するが、これに副う成立に争いのない甲第三八号証の
記載は直ちに採用できず、他に右「赤い風」が、本件各起業地に空港適地として致
命的な影響を与えることを認めるに足りる証拠はないし、原本の存在及び成立に争
いのない甲第二〇六号証の記載も前記判断を覆すに足りず、他に右結論を左右する
に足る的確な証拠はない。
(五) 更に地形・地質上の条件について検討する。前掲乙第三七号証によれば、
一般に関東平野においては地層生成が新しく地質も軟らかな沖積層よりも、洪積層
台地の方が強固な地盤であるとされており、三里塚の存する北総台地は成田層群と
呼ばれる海成の洪積層の上に薄く関東ロームをかぶつた台地であり、その地形発達
史並びに成田層の構成及び性質から、新空港の設置には支障がなく、地形図からも
平坦性及び広さの点で適切で建設工事も容易であると判断されたことが認められ、
右判断を特に覆すべき事実は何ら見当らない。
(六) 原告らは新空港は国際空港であるからその運行時間は二四時間でなければ
ならずこれを確保できない本件起業地は新空港の適地とはいえないと主張する。
新空港は、「将来における主要な国際航空路線の用に供することができるものであ
ること。」(公団法二条二号)を要件とするものであり、国際空港である以上二四
時間の運行時間を確保することが望ましいことは証人Sの証言等からしても明らか
であるが、一方、本件空港において現在午後一一時から午前六時までの航空機の離
発着が禁止されていることは当事者間に争いがない。
しかしながら前掲甲第三四二、第三四三号証及び証人Sの証言によれば国際空港で
あるからとて必ずしも二四時間運行可能でなければならないものではなく、現に夜
間の運行を禁止している空港も存在していることが認められる(羽田空港及び大阪
国際空港が夜間のジエツト機の離発着を禁止していることは当事者間に争いがな
い。)のであるから、運行時間を二四時間確保すべきことが必須の要件とまで解す
ることはできず、これもまた畢竟三号要件を総合的に判断する場合考慮されるべき
一要素にすぎないものというべきである。
(七) 以上によれば本件起業地を新空港用地の適地であるとした被告の判断に誤
りがあるとはいえない。
4 (一)本件事業は、増大する航空需要に質的・量的に対応し主要な国際航空路
線の用に供するため新東京国際空港を建設するものであつて、本件第一期事業はそ
のうち四〇〇〇メートル滑走路及びこれに対応する諸施設を建設するものであるか
ら、その公益性は明らかというべきである(ただし、その具体的検討は、原告らの
主張に応じて第七項で行う。)。そこで前掲乙第一号証によれば本件空港の総敷地
面積約一〇六五ヘクタールのうち下総御料牧場等の国公有地が三九五ヘクタール、
約三七%を占め、民有地は約六七〇ヘクタールであり、民有地の内訳は田約四七ヘ
クタール、畑約四〇二ヘクタール、山林約一一一ヘクタール、原野約三二ヘクター
ルで宅地は約三〇ヘクタールにすぎず、その他が四八ヘクタールであることが認め
られ、また本件起業地を含む北総台地が農業地帯であり、米、麦、西瓜、メロン等
の蔬菜類を産出し、東京市場を中心に各地に出荷されていること、北総台地が農業
適地であり出荷組合が組織されていることは当事者間に争いがない。
(二) ところで、右のように本件起業地は農業適地であつたから、これが本件各
事業に供されることにより本件起業地を農業経営の基盤にしている農家の生活が失
われることとなるが、右の点を考察するに当たつては、右利益の損失を補填する地
元住民対策を考慮に入れる必要がある。
前掲甲第三三八号証、乙第一号証、第三〇号証の二及び成立に争いがない乙第三一
号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一四号証、第一五号証
の一ないし三によれば、政府は本件閣議決定に際し特に千葉県当局の要請に副つて
地元対策閣議決定をし、営農希望の農民には国は県と協力して移転先等につき申出
者の希望を尊重して代替地を用意し、営農が円滑に行えるよう資金及び技術等の援
助をする、離職者の職業あつせんについては住民の希望を徴して国が責任をもつて
空港の事業、関連事業等に就業させ、特に空港における構内営業は地元民に優先的
に開放する等の地元住民対策を決定し、本件事業認定前の昭和四四年六月には公団
が取得した代替地の面積は約五〇〇ヘクタールに及び、このうち造成を必要とする
約二五六ヘクタールについては開懇開畑整地工事を行い必要な地区に畑地灌漑工事
を実施したこと、代替地の配分については成田市内及び空港近隣の代替地について
はこれを希望する者が多かつたため当初の原則として面積を一対一とする予定は完
遂されなかつたものの、空港用地の提供面積に応して二町以上の者は七反五畝等被
告主張のとおり配分し、その他の地区を希望する農業専業希望者に対してはおおむ
ね従来の経営規模に見合う面積を限度として配分することとし、前同月現在までに
約三一〇ヘクタールを配分したこと、また公団は右閣議決定に副い新空港関連事業
への就職のあつせん、空港構内営業等の経営指導を行い昭和四三年二月一日には住
民対策の一環として生活設計相談所を開設し、また同四三年一一月一日には千葉県
立芝山職業訓練所が設置されたことが認められ、これに反する証拠はない。
(三) (1)次に本件起業地を事業の用に供することにより失われる利益として
地元民に対する騒音による被害が考えられるから、被害の程度の予測、防止対策を
検討する必要がある。空港特にジエツト機の離発着する空港においては騒音の生ず
ることは不可避的であるから、騒音公害の発生ないしは一定限度以上の騒音公害の
発生の可能性が直ちに土地の不適正かつ不合理な利用を意味するものではなく、三
号要件を考察する場合の消極的要素の一つとして、実現されるべき公益との関係で
利益衡量されるにすぎないものと解すべきである。そしてその際には本件各処分当
時右要素をいかに勘案しこれに対しどのような対策が予定されていたかも斟酌され
ることとなるので以下この点につき検討する。
前掲甲第三三八号証、乙第一号証及び証人Qの証言によれば、政府は本件空港が内
陸空港であり騒音対策が不可欠であると考え、地元対策閣議決定において当時国が
実施していた騒音対策の基準等を勘案して一定ホン以上のものについて格別の配慮
を行う、地元関係者を含めた騒音対策委員会を設置する、騒音対策区域内の住家及
び店舗で移転を希望する者については、実情に応じ、移転先のあつせん、移転料の
支払等について国が所要の措置を講ずる、学校、病院については国費をもつて措置
する、騒音対策区域内の農耕地については、必要なものにつき畑地灌漑施設を建設
し、農業収入の増大を図るという騒音対策を決定したこと、ついで昭和四三年一〇
月一一日開催の臨時新東京国際空港関係閣僚協議会で騒音防止法の指定区域外の土
地であつても騒音区域(滑走路末端から二キロメートル、滑走路中心線から西側に
各六〇〇メートルの地域)内の土地については、買取り希望のある者から空港敷地
と同一価格で買収を行うことを決定したことが認められ、これに反する証拠はな
い。また昭和四二年八月には騒音防止法が制定され、新空港は同法の規制対象とな
る「特定飛行場」に指定されたので(二条)、国、運輸大臣、公団等は同空港につ
き航行方法の指定(三条)、学校・病院等の騒音防止工事の助成等々の騒音防止対
策を講ずることができるようになつた。そして証人Qの証言及びこれにより真正に
成立したと認められる乙第二一、第二二号証によれば、昭和四六年一月八日運輸大
臣は千葉県知事の要望に対し被告主張第一の二6(三)のように回答し、本件空港
につき騒音軽減運行方式、時間規制等の運行方式を採用することを明らかにしたこ
とが認められ、これに反する証拠はない。
してみると本件各処分当時本件空港にはその時点での一般水準以上の防音対策が講
じられていたものということができる。
また成田市三里塚という範囲内ではあるものの、空港の位置、滑走路の配置等につ
きなるべく騒音被害の少ないように配慮がされたことは先に認定したとおりであ
る。
(2) もつとも、本件告示によると航空機騒音に係る環境基準としてIの地域
(専ら住居の用に供される地域)でWECPNL七〇以下、IIの地域(I以外の
地域であつて通常の生活を保全する必要がある地域)で同七五以下とされ、本件空
港については昭和五八年一二月二七日までに右基準を達成すべきこととされている
ことは当事者間に争いがないところ、前掲甲第三四六号証の一、二、原本の存在及
び成立に争いがない甲第三四七号証の一、二によれば、昭和五三年六月一〇日から
一六日までの間千葉県環境部の職員が測定したところによると、四〇〇〇メートル
滑走路の延長線に沿つた四五の測定地点のうち空港を中心として約二キロメートル
から四キロメートルの幅で利根川から九十九里海岸までの広い地域に及ぶ二二の地
点でWECPNL七〇を超え、七一ないし七五が一二地点、七六ないし八〇が四地
点、八一以上が六地点、成田市<地名略>の一地点では九五であつたことが認めら
れ、その他成立に争いのない甲第二二二号証、第二二三号証の各一、二、第二七二
号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一九九、第二七一号証によつても騒音
被害の生じていることが認められる。
しかしながら、本件告示は本件各処分後である昭和四八年一二月二七日に定められ
たものであり、右告示第2の3によれば「航空機騒音の防止のための施策を総合的
に講じても、Iの達成期間で環境基準を達成することが困難と考えられる地域にお
いては、当該地域に引き続き居住を希望する者に対し家屋の防音工事等を行うこと
により環境基準が達成された場合と同等の屋内環境が保持されるようにするととも
に、極力環境基準の速やかな達成を期するものとする。」としているところであつ
て、仮に昭和五八年一二月二七日までに環境基準を達しえないとしても直ちに本件
各処分自体の効力が左右されるものではない。
(四) 以上(二)、(三)で認定した本件起業地を本件各事業に供することによ
り失われる利益と(一)の本件各事業で実現されるべき公共の利益とを対比すると
きは、後者が前者に優越すると判断した被告の判断に誤りがあつたとはいえない。
5 (一)原告らは新空港の適地としては羽田空港の拡張又は沖合移転ないし東京
湾中北部海域が成田市<地名略>よりも優れていたと主張する。
(1) まず本件各処分時までに提示された羽田拡張案又は沖合移転案ないし東京
湾内空港案を具体的にみると、昭和四五年一〇月二日航空政策研究会の提案にかか
る羽田空港拡張案は年間処理能力を四四万回としたこと(請求原因第三の六3
(二)(2))は当事者間に争いがないが、成立に争いがない甲第二八二号証、乙
第四〇号証の一、二によれば航空政策研究会はその後年間四四万回は不可能で、市
街地の上空の飛行を避けなければならないという立地条件等からみて年間二四、五
万回程度が限度であると見込まれると見解を訂正していることが認められる。とす
ると原告らの主張(請求原因第三の六3(二)(2))によつても本件各処分時ま
でに発表された案によつては羽田空港はこれを拡張してもその離発着能力は最大で
も二四、五万回になるにすぎず、これでは前記の需要予測(これの検証は次項で行
う。)に照らし公団法二条により要求される要件は到底満たしえないものといわな
ければならない。
原告らは本件空港開港後一年間の国際線発着回数と羽田空港の定期航空便の最大離
発着回数実績(昭和四六年)とを加えても拡張した羽田空港の処理能力の範囲内で
あると主張するが、今後予想される航空需要の増大、またそもそも羽田空港におい
ては昭和四六年当時は離発着の便数制限をしていたこと(この事実は当事者間に争
いがない。)に照らすと右事実は直ちに新空港建設の必要性を否定することにはな
らない。
(2) 前掲甲第一〇三号証によれば昭和三九年産業計画会議は新空港の最適地と
してむしろ東京湾内中北部海域を主張したことが認められる。しかしながら、同号
証によれば、右提案は、羽田空港の廃港を前提としていることが認められるとこ
ろ、年間一七万五〇〇〇回の離発着能力をもち都心と極めて近い場所に位置する羽
田空港を廃止することが得策といえないことは後記認定のとおりであるから、この
案が本件事業計画案よりも著しく優つているといえないことは明らかである。
(3) また証人Yの証言によれば、同人は運輸省航空局在勤中羽田と木更津を結
ぶ線の北側の東京湾中央部に設置すべき旨を主張したことが認められる。しかし、
右証言によれば右案は容れられず従つて被告がこれを知りうべきところではなかつ
たものであるが、この点は措いても、右証言によれば右提案は建設技術上の問題、
船舶の航路、港湾計画等の問題につき十分検討したものではないことが窺えるし、
また右証人自身現在の羽田空港の滑走路の方向は不適切であるとしてこれを変更す
ることを前提として証言していることが認められるので、右証言から同証人の提案
が本件各事業計画案より著しく優るものと認めることはできない。
(二) (1)次に前掲甲第三四一号証、乙第三六号証の一ないし三、一〇、成立
に争いのない乙第三三号証の一ないし四、第三九号証の二ないし四、証人Nの証言
により真正に成立したと認められる乙第三八号証の二並びに証人T、同N、同Rの
各証言によれば次の事実が認められこれを覆すに足りる的確な証拠はない。
運輸省航空局は、次の理由により羽田空港拡張案、東京湾中北部案を採用しなかつ
たものであり、被告も本件事業認定に当たり提出された資料や公団、運輸省の説明
等により右の案を採用しないことを合理的と判断したものであつた。すなわち、羽
田空港拡張案については、(1)羽田空港の拡張は羽田沖合に平行滑走路を増設す
ることとなるが、これにより東京港における船舶の出入航路は広範囲にわたり新空
港の進入表面等による制限を受けることとなつて航路の移転が必要となり、また東
京港の既存港湾施設を大幅に移転する必要が生じ、当時既に実施中の東京港港湾計
画が根本的に改訂を迫られることとなる、(2)埋立予想海域の水深は深い所で二
〇メートル以上、平均一二メートル程度であつて埋立に要する土砂は五億立方メー
トル(ただし本件空港の二倍規模の富里案の場合)にも上り、土砂の採取地に問題
があり、また造成経費も巨額に上り工期も長年月を要すると予測され、更に羽田空
港沖合の海底は所により約五〇メートルに及ぶヘドロ層が存在しているため埋立工
事の際いかに地盤改良を工夫しても当時の技術水準では完成後の地盤沈下、不等沈
下を起す可能性もあるため維持管理に問題があつた、(3)周辺に臨海工業地帯が
あるためスモツグが発生することが予想された、(4)羽田空港は北側・西側に東
京都区内の人口密集地帯があり、西南側には川崎工業地帯の石油コンビナートがあ
るため、北側及び西側は航空機騒音の問題から、南西側についてはこれとともに災
害防止の観点から、羽田空港の出発、進入経路をこの方向にとることができず、そ
のため東南から北西の方向へ向けて設置されている主滑走路から北西方向へ飛び立
つた航空機は離陸直後右旋回を余儀なくされ、また在日アメリカ軍等のブルー・フ
オーテイーンが横須賀から荏田、大宮にかけて設置されているため、空域・管制上
の面から西側に羽田空港の出発・進入経路を採ることは困難であり、立地条件上著
しい制約を受けていた。そのため新滑走路を羽田沖に設置しても、新空港に必要な
離着陸処理能力を得ることができない、という問題があつた。次に、東京湾中北部
の木更津沖、浦安沖案については、(5)右(4)のとおり羽田空港の進入・出発
経路は北西・西南側に直接設定することができないため、ほとんど東京湾方面(特
に木更津方面)に設定してあつたが、東京湾中北部に新空港を設置した場合には羽
田空港と両立しないおそれがあつたところ、本件各処分時までの羽田空港に対する
投資は莫大な額に上り、また年間一七万五〇〇〇回という離発着能力をもち、都心
と極めて近い場所に位置し、各種施設も備わつていることからこれを廃止すること
は非常に不利益と考えられた、(6)東京湾中北部に新空港を設置しても、羽田空
港拡張案の(4)と同様人口密集地帯及びブルー・フオーテイーンを避けて出発・
進入経路を設定しなければならないため新空港の離着陸処理能力は四分の三程度に
低下することが予想された、(7)埋立候補地の周辺に五井、姉ヶ崎の臨海工業地
帯をはじめとして広大な工業地帯が計画されており将来スモツグ等の発生が予想さ
れた、(8)漁業補償に困難な問題がある、(9)その他羽田空港拡張案の
(1)、(2)と同様の問題があつた。
右認定の事実によれば、被告が本件事業認定に当たり右各候補地については問題が
あるとの認識のもとに本件起業地がより新空港用地に適しているとの判断に立つて
本件処分をしたことは合理的であるというべきである。
(2) これに対し原告らは、(1)について空港計画が港湾計画により一方的に
排除される理由はないと主張するが、東京港における船舶の出入航路や港湾施設な
いし港湾計画に影響を与えることは、右拡張案が採用されなかつた理由の一事由に
すぎず、港湾計画を一方的に優先して扱つたものでないことは前認定のとおりであ
り、同案の採否を決するに当たり右のような事情を諸々の要素の一つとして斟酌す
ることが許されないものではない。原告らの主張は理由がない。次に原告らは
(2)について建設技術上の問題はないと主張するが、これに副う証人Yの証言は
同人が特別土木技術の知識経験のないことは同証言により明らかであるから直ちに
採用できず、また原本の存在及び成立に争いのない甲第二一五号証により認められ
る昭和四二年の羽田拡張案は滑走路を一本増設し、また現存の滑走路を九三〇メー
トル延長するものにすぎず、その埋立規模は全く異なるので本件空港程度のものの
埋立工事の能否の参考にできないことは明らかである。また前掲甲第一〇三号証に
は埋立てが容易であるとの記載があるが、原本の存在及び成立に争いのない甲第一
七三号証及び前記認定のとおり運輸省の判断が省内の土木技術専門家の判断を経て
いることを総合すると、右甲第一〇三号証の記載は直ちに採用することができず、
他に被告の右判断が誤つていたとするに足りる証拠はない。また前記(3)、
(4)、(6)ないし(8)の判断が本件各処分当時の判断として誤つていたと認
めるに足りる的確な証拠はない。(5)について原告らは被告の主張は航空科学的
検討に基づかぬ机上の空論にすぎずあるいは航空管制上時代遅れの判断にすぎない
と主張し、証人Yの証言中にはこれに副う部分がある。しかしながら前掲甲第三四
三、第三四四号証及び証人N、同Rの各証言によれば本件各処分当時はいまだ集中
管制が一般的に行われていたわけではなく、また民間空港同士の集中管制は日本で
は当時行つておらずすぐにこれを行うべき素地もなかつたこと、それゆえ東京湾内
に新空港を設置することを主張する者はむしろ羽田空港の廃止を前提とするのがほ
とんどであつたことが認められ、これらの事実と前記(4)のとおり羽田空港自体
立地条件上大きな制約のあつたことを考え併せると、(5)の判断も当時の技術水
準から誤つていたとはいえない。
また原告らは本件空港を推進した場合に比し、羽田沖拡張案の費用が格段に安い旨
主張するが、これに副う原本の存在及び成立に争いのない甲第一〇八、第一一六号
証の記載は数額の根拠、出所に不明確なところがあつて直ちに採用できず、他にこ
れを認めるに足りる的確な証拠はない。
(三) 前記の羽田空港の拡張又は沖合移転ないし東京湾中北部海域以外には原告
らは新空港の最適地を指摘していない。
してみると、本件各処分時の管制・土木等の技術、超大型機・超音速機の就航が迫
り新空港の早期開港が必要とされていた事情及び当時の騒音に対する社会的・法律
的規制等の社会情勢等を前提とすれば、新空港の設置場所として三里塚地区よりも
著しく優り被告の判断を社会通念上著しく不相当ならしめる程の最適地が存在して
いたものとは認定することができず、従つて、本件各処分には裁量を濫用ないし逸
脱した違法はないといわざるをえない。
6 次に原告らは本件各事業計画には起業地自体欠陥があると主張するので検討す
る。
(一) (1)まず原告らはB滑走路はA滑走路の代替滑走路として短かすぎ、ま
たそれ自体としても短かすぎると主張する。
(2) しかしながら、本件空港にはA、B滑走路の外三二〇〇メートルの横風用
滑走路(C滑走路)が存在することは当事者間に争いがなく、前掲乙第一一号証に
より認められる必要滑走路長に照らすと、夏期高温の最大重量でない通常の場合に
はC滑走路によつてほとんどA滑走路に代替させうることが認められる(2(三)
(2))。また、同号証によればDC-八等の機種の夏期高温時・最大着陸重量時
における必要滑走路長は一八八〇メートルないし二四〇〇メートルであり、離陸の
場合でも遠距離の太平洋横断路線及び北回りヨーロツパ線等以外の全体の六二%に
当たる路線、例えば香港路線の場合は、DC-八等の夏期高温時・最大離陸重量の
ときの離陸必要滑走路長は一九四〇ないし二四五〇メートルであることが認められ
る。
以上のように二五〇〇メートル滑走路で全離着陸のうち約八一%について使用可能
なのであるから、主滑走路のうち一本は二五〇〇メートルで足りるとした公団及び
被告の判断に誤りはない。
(二) (1)次に原告らは本件起業地中に進入灯及びミドルマーカーを設置すべ
き用地を含めなかつた瑕疵があると主張する。A滑走路南側では本来滑走路末端か
ら九〇〇メートルにわたり進入灯が、更にこの末端から一〇五〇メートルの位置に
ミドルマーカーが設置されるべきところ、この設置予定地が任意買収により取得で
きないとしてこれが七五〇メートル本件起業地内へ移動して敷設されていること、
そのためA滑走路は(南(34方向)からは)三二五〇メートルの長さしかないこ
と、また航空保安施設予定地は本件事業認定時に確定していたことは当事者間に争
いがない。
(2) しかしながら、飛行場と航空保安施設とは別個に事業認定の対象となりう
るものであることは先に説示したとおりであり、証人P、同Nの各証言によれば被
告は右航空保安施設の設置予定地については公団が任意買収する旨の説明を受けて
本件各処分をしたものであることが認められ、本件各処分後に前記のような事情で
暫定的に進入灯及びミドルマーカーが本件起業地内に設置されたからといつて本件
各処分が違法となるいわれはない。よつて原告らの右主張は失当である。
(三) (1)次に原告らはパイプライン用地を本件起業地に含めなかつた違法が
あると主張する。一般に空港は需要に応じられる航空燃料供給体制を整える必要の
あること、公団の燃料輸送計画の内容は当事者間に争いがない。
(2) しかしながら、パイプラインはいわゆる飛行場の概念には含まれないと解
されるから、収用法及び特措法上必ずしも起業地の中に含め事業認定の対象としな
ければならないものではなく、任意取得の方法によることも差し支えないことはい
うまでもない。証人N、同Oの各証言によれば、被告は本件各処分時に公団からパ
イプライン用地については任意取得するとの説明を受け、タンクローリー車等によ
る燃料輸送方式も可能であるから必ずしも空港にパイプラインが必要不可欠なもの
ではないと判断して本件各処分をしたことが認められる。本件各処分時における被
告の右判断を誤りとみるべき証拠はないから、原告の右主張も理由がない。
7 以上によれば本件各申請は収用法二〇条三号、特措法七条三号の要件を満たし
ていたものというべきである。
七 収用法二〇条四号の要件について
1 (一)収用法二〇条四号は申請に係る事業が「土地を収用し、又は使用する公
益上の必要があるものであること。」を事業認定の要件としているが、同号の趣旨
は、当該事業が当該土地を収用し又は使用する公益上の必要があることを要件とす
るものと解される。そこで本件事業の公益性、必要性につき検討する。
(二) 前掲甲第一〇二号証、乙第一、第一一、第三〇号証の二、第三一号証、第
三九号証の四、第五四号証の一、二並びに証人S、同Rの各証言によれば次の事実
が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
昭和三〇年代から世界の航空輸送量は、経済の成長、国際的交流の進展、航空機材
の技術革新等を背景に目覚ましい発展を示し、ICAOの定期航空会社を対象とし
た統計によれば、昭和三二年から同四二年までの旅客、貨物・郵便物に関する国際
輸送量の実績は別表五のとおりであつた。また我が国の航空輸送実績は別表六のと
おりであり、その国際航空輸送量(旅客、貨物・郵便物)は世界の国際航空輸送量
の伸び以上の伸びを見せ、昭和三二年度から同四二年度までの年平均伸び率(対前
年増加率)は旅客三一・四%、貨物・郵便物三四・一%、併せて三一・五%という
高率であつた。そしてこれに伴い羽田空港における国際線定期便発着回数も別表七
のとおり増加していた。
以上の推移を踏まえ公団において経済の成長度等航空輸送需要を支配する一般的要
因及び技術革新に伴う航空機材の大型化と高速化による航空輸送の変革等の要因を
考慮して東京地区における国際線定期便の将来における旅客数、貨物・郵便取扱
量、発着回数を推定すると、前記のとおり昭和五一年度の乗降旅客数は五四〇万
人、発着回数は六万七〇〇〇回、同六一年度の乗降旅客数は一六〇〇万人、発着回
数は一八万一〇〇〇回と推定された。
更に航空輸送は質的にも急激な発達を見せ航空機材の大型化・高速化が進展し、本
件事業認定当時、我が国の国際線には昭和四五年にジヤンボジエツト、同四七、八
年にはエアバス及びコンコードの就航が予定されていて、超大型航空機及び超音速
航空機による大量輸送、高速輸送の時代が迫つていた(超大型機の就航が目前に迫
り、近い将来超音速旅客機の出現が予測されていたことは当事者間に争いがな
い。)。
しかしながら、東京近辺で唯一の国際空港であつた羽田空港の離着陸処理能力は
A、B、C三本の滑走路を完全に使用したときで一七万五〇〇〇回(IFR(計器
飛行方式)時一時間当たり最大発着回数は四〇回と考えられ、一日の発着回数はピ
ーク時一時間当たりの発着回数の一二倍と推定するのが妥当であるから四〇×一二
×三六五=一七万五〇〇〇回となる。)が限度であるが、駐機場が不足していたた
めA滑走路の一部を駐機場として使用していたので(この事実は当事者間に争いが
ない。)、同滑走路の使用可能滑走路長は一三〇〇メートルにすぎず、プロペラ機
の離陸のみに使用されていた。またB滑走路は滑走路長が短かいためジエツト機の
滑走路として使用できず(この事実は当事者間に争いがない。)、かつ、ILS
(計器着陸用施設)の設備がなかつたため、天候により発着に相当の制約があり、
そのため当時ジエツト機の滑走路としてはC滑走路(三一五〇メートル)のみが使
用されており、昭和四四、五年の離発着処理能力は年間一三万八〇〇〇回と見込ま
れていた。また羽田空港の場合は南側から進入してくる航空機が多いが、これらの
航空機は南風の場合、風に対向するために北に回り込んで着陸しなければならず、
進入の途中で羽田空港から南向きに出発してくる航空機と同じような高度で交差す
ることになるため、安全対策上離着陸の間隔を少し延長する必要があり、南風の多
い夏場は特に離着陸処理能力が下落するという問題があつた。このように本件事業
認定時の羽田空港の離着陸処理能力は年間一三万八〇〇〇回程度であり、仮にA、
B、Cの滑走路を完全に使用できても年間一七万五〇〇〇回が限度であつたとこ
ろ、前記の需要予測によれば、一七万五〇〇〇回処理できるとしても昭和四五年こ
ろまでに限界に達すると推定された。また本件事業認定時以降国際線で使用され又
は使用される予定であつたDC-八、B-七四七、コンコード等の機種の夏期高温
時・最大離陸重量時の必要滑走路長は三二九〇ないし三八一〇メートルであつて、
羽田空港で最も長いC滑走路でも対応することができなかつたから、温度により航
空機の重量制限をし、各航空会社は油の搭載量や貨物の積載量を減らす等の措置を
講じて離着陸していた。なお、羽田空港は各国の主要国際空港と比べると滑走路の
長さ、数、敷地面積の点で既に最小規模といえるものであつた。
右のような事情から、東京地区における長期の航空需要に対応し、かつ将来国際航
空路線で出現する新機種を受け入れるため、新たに国際空港を建設することが必要
であり、新空港を建設しなければ東京の政治的経済的活動に重大な支障を与え、ひ
いては我が国の国際的地位・信用にも影響を及ぼすものと判断されたのであつた。
右認定の事実によれば、本件各処分当時本件空港建設の必要性が顕著に認められた
ことは明らかであり、本件事業のため本件起業地を収用する公益上の必要性のあつ
たことが認められる。
2 (一)これに対し原告らは、被告は航空需要の予測につき公団提出の資料を鵜
呑みにし実質的審査を放棄した違法があると主張する。
しかしながら証人Nの証言によれば、被告は本件事業認定に際し公団の行つた需要
予測について「基礎需要」等の資料と説明を求めて検討した結果その予測が妥当で
あると判断して右処分をしたことが認められるから原告らの主張は理由がない。
(二) 原告らは被告の旅客数予測は杜撰であると主張する。
被告の主張する旅客数の予測は日本人旅客数については国民総生産との相関関係か
ら係数を求める方法によつてされ、外国人旅客数については北大西洋線についての
ICAOの予測による伸び率を用いてされていることは当事者間に争いがない。
まず原告らは、日本人旅客の増加は大型機材の登場と低運賃の導入によるもので国
民総生産と相関関係が認められないから不当であり、またこれのみを基礎とするこ
とは誤りであると主張する。しかしながら、前掲乙第五四号証の二及び成立に争い
のない乙第六〇号証の一、二によれば、需要予測をする場合国民総生産と相関させ
これを説明変数とすることは通常一般に行われている手法であり、本件において昭
和三一年度から同四一年度の日本人旅客数と国民総生産から求めた指数相関式の相
関係数は〇・九九九三と極めて高いこと、そして同四二年度については実績と理論
値がほぼ一致したことから特段の修正を加えずに予測したことが認められ、右手法
は合理的というべきであるから、原告らの主張は採用できない。
次に外国人旅客数の予測について、原告らは国民総生産の伸び率を基礎とする日本
人旅客数の予測との間に整合性がみられず、また北大西洋線の実績とほぼ同様の推
移を示しているとはいえないと主張する。
しかしながら外国人旅客数の動向は日本の国民総生産の伸びと直接関係がなくむし
ろ国際間の航空輸送の動向を反映させるべきであるとの被告の主張は首肯しうる
し、前掲乙第五四号証の一、二によれば昭和三一年から同三六年まで、同三六年か
ら同四一年の年間平均伸び率、同三一年から同四一年度までの実績の伸びは北大西
洋線と我が国の外国人乗降客数との間でほぼ同様の推移を示していることが認めら
れるから公団の予測手法は合理的であり、原告らの主張は理由がない。
(三) 次に原告らは、発着回数の予測は航空会社が空席を覚悟してシエア確保の
ため飛ばしている飛行数までも算入し、かつ、一機当たりの搭乗員数の推定に当た
り超大型機の導入を捨象しており杜撰であると主張する。
しかしながら、前掲乙第五四号証の一、二及び証人Nの証言によれば、発着回数の
予測は航空機一機当たり搭乗人員の実績の動向に昭和四五年から大型機や導入され
るものとして日航及び外国航空会社の航空機材の計画を基にした航空機の機種別構
成を加味して航空機一機当たり搭乗人員を推定し、これと推定乗降旅客数から発着
回数を求めたものであることが認められから(以上の事実は日航及び外国会社の航
空機材の計画をもとにしたとの点を除き争いがない。)、右予測の方法は合理的な
ものというべきである。原告らの右主張は理由がない。
(四) 原告らは羽田空港は本件局長通知の枠内でほぼ納まる発着回数で運用され
ており航空法上安全かつ所定の需要に対して十分に機能していたと主張する。
しかしながら前掲甲第三五一号証、乙第三〇号証の二、第三一号証、成立に争いの
ない乙第一二号証の三、第一三号証、第四二号証の一、二及び弁論の全趣旨により
真正に成立したと認められる乙第一二号証の一によれば、羽田空港の離着陸回数は
昭和四四年度は約一五万二〇〇〇回、同四五年度には約一六万四〇〇〇回となり既
にほぼその離着陸処理能力の限界に達していたこと、そのころから着陸時の上空待
機、発進の遅延等の現象が現われ、夏場等は着陸に平均して一〇分から一五分位の
遅れが出て出発便が一時間程度遅れるようなこともあつたこと、そこで運輸省航空
局は羽田空港における発着回数はおおむね一日四六〇回を限度とする、国内定期線
を一定の範囲で減便する、羽田空港の発着が混雑している場合には名古屋空港に一
時着陸して地上待機する等の厳しい内容をもつ本件緊急指示を発し、同四六年八月
一九日には本件局長通知を発し、同四七年一一月一四日にも一日当たりの定期便発
着回数を四四〇回にするよう航空会社等に要請し発着回数を抑え、そのため潜在的
な需要も見込まれていたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はないから、現
実に本件局長通知の枠内で運用されていたからといつてその需要に対し十分に機能
していたとはいえない。よつて、原告らの右主張は失当である。
(五) 原告らは羽田空港の乗降客の七割以上は国内線の乗客であり発着機の三分
の二以上が国内線であつたから、羽田空港が過密であつたとしてもその原因は国内
線の需要増大によるものであり、国内航空交通は輸送機関の中で大きな役割を果た
しておらず鉄道に比し約一〇倍のエネルギーを消費することからすると、むしろ国
内線の需要を調節することにより新空港の建設の必要性を著しく減少させることが
できたと主張する。
しかしながら、航空は最も迅速な交通、運輸の手段として社会的、経済的に重要な
機能を有し、長距離輸送や離島間の輸送等に不可欠かつ公共性の高い交通手段であ
ることは公知の事実であるから、政府においてこれが国内需要を抑制することは困
難であるのみならず、需要抑制策を採用すること自体各方面に問題を生ずることは
みやすいところであり、そのような施策を採らないからといつて、新空港建設の必
要性が減少するものとはいえない。よつて原告らの右主張は失当である。
(六) 原告らは海外渡航者の急増の原因は国が航空会社等に対してとつてきた保
護政策により生み出された異常に低廉な航空運賃によるもの、あるいは航空会社等
により人為的に作出された需要であるから公益性を検討する際考慮すべきでないと
主張する。しかしながら、仮に航空需要の増加の一端に右のような原因があつたと
しても、これがため公益性を損うものとはいえない。また原告らは韓国・東南アジ
アへの男性観光客について云々するが、これも新空港建設の公益性を否定するもの
ではない。よつてこれらの原告らの右主張もまた理由がない。
(七) 原告らはまた本件空港建設は騒音公害の発生を表象認容したもので犯罪性
を帯び、公共性、公益性を認めることは許されないと主張する。
しかし騒音公害の有無・程度等は、三号要件である土地の適正かつ合理的な利用に
寄与するか否かを判断する際の一要素として斟酌すべき問題であり、騒音の発生が
ありうるからといつて直ちに公共性、公益性を欠くものとはいえない。よつて原告
らの右主張は失当である。
(八) 原告らは本件各事業は適地判断を誤り、農業最適地を潰廃し、農民の生活
や農業更には農村共同体そのものを破壊するから公共性を認められないと主張す
る。
しかしながら、本件各事業の適地判断が誤りといえないこと、農地の潰廃により失
われる利益よりも新空港建設により得られる利益の方が大であるとした被告の判断
が誤りといえないことは前示のとおりであるから原告らの主張は採用できない。
(九) 原告らは本件各事業は千葉県北総一帯等を騒音・排油・汚排水等の公害地
帯として農民・住民の身体を破壊し、土地を収奪し生活を根底から破壊し、地域社
会を絶滅させるほどの反公共的、反社会的事業であると主張する。
しかしながら、騒音以外の公害については原告ら主張に一部副う前掲甲第二〇一号
証の中島忠作成部分があるもののその程度等についてはにわかに首肯することはで
きず他にこれを認めるに足りる的確な証拠はなく、本件事業が農民・住民の身体・
生活を破壊し、地域社会を絶滅させる事業であると認めるに足りる証拠はないし、
これら公害についても騒音公害と同じく収用法二〇条、特措法七条の各三号要件を
判断する際に斟酌すれば足りるものであるから、原告らの右主張は失当である。
(一〇) 原告らはまた本件空港は軍事利用目的を持つか少なくとも潜在的軍事空
港であるから憲法九条に反し公益目的に違背すると主張するが、右事実を認めるに
足りる証拠はないから失当であること明らかである。
3 以上のとおり原告らの主張はすべて失当である。そして前掲乙第一一号証及び
成立に争いのない乙第四七号証によれば、公団は昭和四四年八月末時点で本件事業
のため取得することが必要な民有地約六七〇ヘクタールのうち約七五・一%を買収
していたが、残りの土地所有者で新空港の建設に反対する者達で結成した反対同盟
に属する者等との間の買収交渉は極めて難航していたことが認められるので、本件
事業のため本件起業地を収用する必要があつたものというべきであり、収用法二〇
条四号の要件を満たしていたものといえる。
八 特措法七条四号の要件について
1 特措法七条四号は特定公共事業認定の要件として「事業が公共の利害に特に重
大な関係があり、かつ、緊急に施行することを要するものであること。」と規定し
ている。
ところで七1(二)、2(四)認定の諸事実、特に本件特定公共事業認定時に航空
機の大型化が進行しつつあり、また、近い将来の高速化も予測されていたのに、東
京近辺の唯一の国際空港である羽田空港は質的にこれに十分対処する能力がなかつ
たこと、また量的にも羽田空港は航空需要の増大により昭和四四年ごろにはほぼ離
着陸処理能力の限界に達し、着陸時の上空待機、発進の遅延等の現象が現われ、そ
のため運輸省航空局は発着回数を一日四六〇回を限度とする等の緊急指示を発し、
そのため航空会社は減便等の非常措置をとらざるをえなくなつたこと、並びに前掲
乙第三一号証、第五四号証の一、二により認められる昭和四六年度には羽田空港は
B滑走路の延長(二五〇〇メートル)及びILSの設置によりその年間離着陸処理
能力は約一六万回に増加するものと推定されていたものの、同年度の推定発着回数
は約一九万九〇〇〇回に達しその後も増加するものと推定されていたことからする
と、右のような事態を解消し、航空輸送及びその安全性を確保し、また航空機の大
型化・高速化に対処するため、本件第一期事業を緊急に施行し新空港の供用を開始
する必要があつたものというべきである。
2 (一)原告らはこれに対し本件第一期事業については、航空燃料輸送、交通連
絡手段、空域分離調整、航空保安施設用地の確保状況から、本件特定公共事業認定
時には起業地を強制的に収用しても空港を直ちに完成し供用を開始できる見込みは
なかつたから特措法七条四号の要件を欠くと主張する。
本件特定公共事業認定が行われたのは昭和四五年一二月であり、公団の航空輸送計
画の内容、パイプラインの埋設計画の発表があつたのは同四六年八月であつたこ
と、住民の一部に反対運動があり、同五二年九月に至りいわゆる暫定輸送の合意が
成立したこと、同五三年五月本件空港が開港したことは当事者間に争いがなく、右
事実と原本の存在及び成立に争いのない甲第一〇九号証及び弁論の全趣旨によると
右開港の遅延の最大の原因は燃料輸送問題であつたことが認められる。
しかしながら証人Oの証言によれば、被告は本件特定公共事業認定の際公団から右
パイプライン用地は収用手続によらず確保する方針であるとの説明を受け、道路局
の占用許可担当者からも説明を聴取しこれが可能であると判断したことが認められ
るので、当時航空燃料輸送を確保する見通しがなかつたとはいえない。のみなら
ず、本件第一期事業を緊急に施行する必要があつたことは1に認定したとおりであ
るところ、前掲乙第四七号証及び成立に争いのない甲第二八九号証によれば、公団
は昭和四五年三月三日から同年一二月一五日までに合計一七〇件三九八筆の土地に
つき権利取得裁決の申請を、同年三月三日から同四八年一一月三〇日までの間合計
一五〇件三三八筆の土地につき明渡裁決の申請をしたが、このうち昭和四五年一二
月二六日までに収用委員会の権利取得裁決及び明渡裁決がされたのはわずか六件六
筆にすぎず、その後本件特定公共事業認定、緊急裁決、行政代執行を経て本件第一
期事業に係る起業地を取得したものの、その余の大部分の土地についてはいまだに
収用委員会の裁決がされず、もとより公団も所有権を取得していないことが認めら
れる。従つて仮に本件特定公共事業認定がされなければ昭和五三年五月に開港する
ことは到底困難であつたものというべきであるから、本件第一期事業を緊急に施行
する必要があるとして本件第一期事業に係る起業地取得のためにした本件特定公共
事業認定には原告ら主張の違法はないものというべきである。
(二) 次に原告らは(1)航空需要の予測に大幅な誤りがあり、(2)国内線と
の調整により国際線の需要をカバーできる態勢にあつたから、羽田空港は過密では
なかつたと主張する。
しかし(1)について当初の需要予測が不合理とはいえないこと、(2)の主張が
理由のないことは前説示のとおりであり、更に羽田空港の輻湊緩和対策として昭和
四六年九月一日本件局長通知が発せられ同四七年一一月四日に航空局長の協力要請
があつたこと、そのため潜在的需要が存在したことは前記のとおりであるから、羽
田空港は本件特定公共事業認定時過密であつたことが明らかである。
よつて原告らの右主張は理由がない。
(三) (1)次に原告らは羽田空港が仮に過密であつたとしてもそれは故意又は
重大な過失に基づき自ら招いた危難か技術的改善を怠つた結果生じたもので緊急性
を基礎付けえないと主張するので検討する。
(2) まず原告らは羽田空港が不当に拡張されなかつたと主張する。
昭和三八年には航空需要予測の概略は判明しており、運輸省としては航空需要の伸
びに対する方策を講ずべき立場にあつたこと、羽田空港の拡張案は本件事業認定時
以前にたびたび提案され、昭和四二、三年ころには日本航空機長会がB滑走路の延
長を提案したこと、同四二年一二月ころ運輸省がC滑走路に平行して三〇〇〇メー
トル滑走路を新設することを骨子とする羽田空港拡張案を計画し、大蔵省と折衝を
重ねたが、結局B滑走路を二五〇〇メートルに延長する計画が承認されたこと、同
四五年五月か一〇月ころ航空政策研究会が東京湾埋立てにより羽田空港の総面積を
一九〇五ヘクタールに大拡張し、年間の処理能力を四四万回とする羽田空港拡張案
を提案したことはいずれも当事者間に争いがない。原告らは更に昭和四五年五月訴
外Zが「朝日世界空港シンポジユウム」で敷地をほぼ倍以上に増加させる羽田空港
拡張案を提案した旨主張するが、右Zが原告ら主張の提案をしたことを認めるに足
りる証拠はない。また昭和四五年の航空政策研究会の提案についてはその後同研究
会自身年間二四、五万回程度が限度である旨訂正したことは先に認定したとおりで
ある。
原告らは運輸省はこれらの案に従い羽田空港を拡張できたにもかかわらず航空政策
の杜撰さ、体系性の欠如が原因で羽田空港の拡張を不当に怠つた結果発着回数の制
限等をすることになつたと主張する。
しかしながら、前記認定のとおり新空港は、超大型機や超音速機が就航し又はその
出現が予測され、かつ、航空需要の増大の結果、羽田空港の能力が近い将来に限界
に達することが予測されたことから、羽田空港拡張計画案をも含めて種々の案を比
較検討した結果、東京地区における長期の航空輸送需要に対応し将来における主要
な国際航空路線の用に供することを目的として新たに建設されることとなつたので
あるが、羽田空港の拡張では対処しきれないこと、羽田空港拡張案自体に諸々の問
題を含むことは先に認定したとおりであるから、羽田空港の拡張がされなかつたこ
とは右緊急性を認める妨げにはならないものというべきである。なお前掲甲第一七
号証、第三三八号証によれば、昭和四一年六月二二日W首相がU知事に対し新空港
の三里塚設置につき協力を求めた際に知事は総理に対し「不測の事態を避けるた
め、羽田空港の拡張を並行して行うべきこと」を要望し、首相はこれを了承したこ
とが認められるが、前掲甲第三三八、第三三九号証によれば、右は、富里案の規模
が半減することによる能力減を羽田空港の拡張で補つてほしいとの趣旨であつたこ
とが認められるから、前記結論を左右するものではない。
(3) 次に原告らは運輸省はB滑走路を延長せず、A滑走路の使用を中止し故意
に羽田空港の処理能力を低下させたと主張する。本件特定公共事業認定時いまだB
滑走路は一五七〇メートルで短かくジエツト機の滑走路としては使用できなかつた
こと及びA滑走路の一部を駐機場として使用していたことは当事者間に争いがな
い。
しかしながら、前掲甲第二一五、第三四二号証、乙第四〇号証の一、二によれば、
A滑走路については駐機場の不足を補うためやむなくその一部を駐機場として使用
することとしたことが認められ、運輸省において故意に羽田空港の能力を低下させ
たと認めるに足りる的確な証拠はない。またそもそも昭和四六年度にはB滑走路を
二五〇〇メートルに延長しINSを設置する計画であつたがこれでも処理能力は約
一六万回になるにすぎず、またA、B、C三滑走路を完全に使用しえたとしてもそ
の処理能力は一七万五〇〇〇回程度であつたことは前記認定のとおりであるから、
前記認定の需要予測に照らすと右A、B滑走路の使用状況は、本件特定公共事業認
定の緊急性を否定すべき理由とすることはできない。
(4) 原告らはまた羽田空港の発着回数の制限等の措置は、着陸能力の限界によ
るものではなく、スポツト数の不足等、エアリアル・ナビゲーシヨンやARTSI
Vを取り入れない等管制方式の技術的改善の懈怠に基因すると主張する。
しかしながら、前記認定のとおり仮に羽田空港のA、B、C三滑走路を完全に使用
しえたとしてもその処理能力は予測された需要以下の一七万五〇〇〇回にすぎなか
つたのであるし、また成立に争いのない甲第六二、第九二、第九五、第九七号証
(第九二号証については原本の存在も争いがない。)によれば、原告らの主張する
エアリアル・ナビゲーシヨンもARTSIVもいずれも本件特定公共事業認定時に
はごく近い将来実用化されるであろうと予測される段階ではなかつたことが認めら
れるのであるから、原告らの右主張も失当である。
3 よつて原告らの主張はいずれも理由がなく、本件第一期事業は特措法七条四号
の要件を満たすものというベきである。
九 原告らは本件各処分には重大な手続的瑕疵があると主張するので以下逐次検討
する。
1 (一)原告らはまず本件事業認定手続には航空法の定める公聴会の開催を怠つ
た違法があると主張する。
しかしながら、右主張の理由がないことは既に四2で説示したとおりである。
(二) 原告らは本件各処分は無価値にして非科学的な本件答申に依拠してした違
法があると主張する。
しかしながら、証人N、同Oの各証言によれば本件答申は本件各処分をする際参考
とされた資料の一部にすぎないものであつて、本件各処分は被告独自の判断と責任
でされたものであることが認められるから、本件答申の内容いかんが本件処分の適
法性に影響を与える余地はない。
のみならず、前記認定のとおり航空審は航空管制、気象条件等の立地条件につき比
較検討した上本件答申をしたものであるから、これが無価値、浅薄、非科学的であ
るとはいいえない。
よつて原告らの右主張は失当である。
(三) (1)次に原告らは本件各処分には専門的学識経験者の意見聴取及び公聴
会の開催を拒否してした違法があると主張し、被告が本件各処分に当たり専門的学
識経験者の意見を聴取せず、また公聴会も開催しなかつたことは当事者間に争いが
ない。
(2) 収用法二二条は、被告は「事業の認定に関する処分を行おうとする場合に
おいて必要があると認めるときは、申請に係る事業の事業計画について専門的学識
又は経験を有する者の意見を求めることができる。」とし、同法二三条一項は、被
告は「事業の認定に関する処分を行おうとする場合において必要があると認めると
きは、公聴会を開いて一般の意見を求めなければならない。」としているが、両条
ともその必要性の判断を専ら事業認定機関である被告の裁量にゆだねていることは
その文言上明らかである。
ところで新空港は我が国で初の民間空港の建設であり、ジヤンボジエツト等により
航空輸送の大量・高速化が進められているため、かつての空港と異なり抜本的な変
革がされるべきこと、大規模な国家的事業として計画され、広大な土地と巨額の資
金をもつて建設されるので一部航空関係者、政府関係者の独断によるものではな
く、国民すべてにとつて重大な関係を有するので本件事業認定に当たつては航空に
関する多方面の意見や情報が必要であること、新空港建設に対しては反対が強かつ
たから、被告としてもこれらの反対者の意見に虚心に耳を傾けるべきであつたこと
及び社会党所属国会議員等が被告に対し公聴会開催及び学識経験者の意見聴取等を
申し入れたことは当事者間に争いがない。
そして新空港の設置に当たつては本件答申を受け、航空行政の所管庁であり専門的
地位にある運輸省において昭和三七年ころ以来十分に検討したものであることは前
記認定のとおりであり、前掲乙第一号証によれば、飛行場の具体的設計について公
団は航空関係各界の学識経験者等からなる空港計画委員会に諮問し、その報告に基
づいて作成したものであり、また前掲甲第一七号証によれば昭和四二年一月一〇日
航空法に基づき本件工事実施計画の認可に関する公聴会が開催され亡C外三五名の
意見陳述が行われたことが認められ(右公聴会が開催されたことは当事者間に争い
がない。)、証人Pの証言によれば被告としては本件事業認定に当たりこれらの意
見を充分に参考にしえたものと認められるから、前記原告ら主張の諸事実を斟酌し
ても、本件において学識経験者の意見聴取及び公聴会の開催を不要とした被告の判
断には到底裁量権の濫用ないし逸脱は存しないものというべきである。
(3) 次に特措法八条は特定公共事業の認定を行う場合に収用法二二条、二三条
を準用しているが、同法二〇条の規定による事業の認定を受けている事業に係る特
定公共事業の認定については特措法八条の規定は適用しないとしている(同法三九
条一項)。本件第一期事業は収用法二〇条の規定による事業の認定を受けた事業の
第一期工事に関する事業であることは当事者間に争いがないので、本件特定公共事
業認定手続においては同法二二条、二三条が準用されないことは明らかである。
よつて原告らの主張は理由がない。
(四) 次に原告らは本件各処分は公団が業務開始に際し業務方法書の作成及び認
可を経ないでした本件各申請の違法を看過した違法があると主張する。公団法二四
条は業務開始の際業務方法書を作成し運輸大臣の認可を受けなければならないとし
ているところ、公団が業務方法書の認可申請をしたのは本件各処分の後である昭和
四六年一〇月一日、認可されたのは同年一二月一日であることは当事者間に争いが
ない。
しかしながら、右業務方法書の認可書は収用法一八条二項六号、特措法四条二項六
号の「事業の施行に関して行政機関の免許、許可又は認可等の処分を必要とする場
合においては、これらの処分があつたことを証明する書類又は当該行政機関の意見
書」に該当するものではないから原告らの右主張は理由がない。
(五) 従つて原告ら主張の本件各処分に共通な違法事由は認められない。
2 (一)原告らは本件特定公共事業認定固有の違法事由として、まず事業に当た
らない第一期建設工事を特定公共事業とした違法があると主張する。本件第一期事
業が本件事業のうち四〇〇〇メートル滑走路及びこれに対応する諸施設を建設しよ
うとするものであることは当事者間に争いがなく、右第一期事業が本件事業の一部
であることは明らかである。
ところで一般に事業認定又は特定公共事業認定の申請に際し任意で取得できる等収
用等を求める必要がない土地に係る事業をその認定の申請の対象に含める必要のな
いことはいうまでもないから、その認定をしうる事業計画の最小の単位(起業地の
範囲)は当該事業計画のみによつても供用することが可能であり、かつ公益性を発
揮するものであれば足り、必ずしも計画中の事業全体について認定を受けなければ
ならないものではないというべきである。
原告らは特措法二条三号が「第一種空港」としている以上これに「該当するものに
関する事業」(同条)とは、新空港建設事業(全体)を指称することは明白である
と主張する。しかし、空港建設事業についていえば、同条は「航空法による飛行
場・・・・・・で公共の施設に供するもの」(収用法三条一二号)に関する事業の
うち、「第一種空港」に該当するものに関する事業で被告の認定を受けたものが特
定公共事業となりうると規定しているのであり、第一種空港に関する事業を一括し
てその全体でなければ特定公共事業と認定できない趣旨を含むものとは到底解する
ことができない。
そして前掲乙第一号証、第四五号証の一ないし一八及び前記認定の事実によれば、
本件事業は、前記内容の本件第一期事業とB、C滑走路及びこれらに対応する諸施
設を建設しようとする第二期事業からなり、本件第一期事業に係る施設、起業地及
び工事完成の予定期日は本件工事実施計画の上でも第二期事業と明確に区分して定
められているのであり、更に本件第一期事業で建設する四〇〇〇メートル滑走路及
びこれに対応する諸施設は緊急に完成することを要し、かつこれらの諸施設自体で
新しい国際空港の施設として機能し公益性を発揮しうるものであることが認められ
るから、本件第一期事業は特定公共事業に当たるものというべきである。
従つて原告らの主張は理由がない。
(二) 次に原告らは本件事業と本件第一期事業は異なる事業であるから、公団が
本件特定公共事業認定申請の際特措法四条二項四号ないし六号所定の書類を添付し
なかつたのは違法であり、被告は右違法を看過して違法に右申請を受理し、同法三
九条一項を違法に適用して同法八条の規定を適用しなかつたと主張する。公団が本
件特定公共事業認定申請をするに当たり特措法四条二項四号ないし六号所定の書類
を添付しなかつたが被告はこれを受理したこと、被告は本件第一期事業に対して同
法三九条一項を適用し同法八条の規定を適用しなかつたことは当事者間に争いがな
い。
特措法によれば既に収用法二〇条による事業認定を受けている収用事業についても
それが特措法七条各号の要件を満たすものである限り重ねて特定公共事業の認定を
しうるが、この場合右収用事業の一部だけが収用法の特別法たる特措法において加
重された同法七条四号の要件を満たしており、右一部のみでも(一)の意味で特定
公共事業になりうるものであれば、右一部の事業について特定公共事業の認定をす
ることが許されるものと解すべきである。けだし右のような場合には一部について
特定公共事業の認定をして事業の施行の促進を図ることができるとするのが、公共
の利害に特に重大な関係があり、かつ緊急に施行することを要する事業に必要な土
地等の取得に関し収用法の特別法としてこれらの事業の円滑な遂行と損失の適正な
補償の確保を図ることを目的とする特措法の趣旨(同法一条)に合致するからであ
る。また特措法において収用法の事業認定の範囲と特定公共事業認定の範囲の一致
を要求している規定は存しない。
ところで、収用法二〇条の事業認定を受けている事業に係る特定公共事業の認定に
ついては特措法八条、一二条一項の規定は適用しないこととされている(同法三九
条一項)。同法八条は収用法二一条ないし二五条を準用するものであるが、特措法
三九条一項が同法八条の適用を排除したのは先の事業認定の際にこれらの手続を既
に終えており重ねてその手続を取る必要がないからであり、また同法一二条一項の
適用を除外したのは、収用法による事業認定がされた事業については既に同法によ
る効果が発生しているので特定公共事業の認定を同法による事業の認定とみなす同
条項を適用する必要がないからであると解される。
そこで収用法による事業認定がされた事業の一部について特定公共事業の認定をす
る場合に特措法三九条一項を適用すると、特定公共事業の認定に係る起業地自体を
表示する図面の縦覧が手続上保障されていないという問題が生ずる。しかしこの場
合特定公共事業の認定に係る起業地は収用事業に係る起業地の一部であり、従つて
収用事業に関して縦覧に供された図面に包含されているものであるから法律上図面
の縦覧が全くなかつたとはいえない。そして、特定公共事業の認定があるか否かに
より緊急裁決等の制度の適用の有無の差が生ずるが、これらは収用裁決の審理の段
階で明らかとなり被収用者の利益を害する余地はない。
従つて公団が特措法四条二項四号ないし六号所定の書類を添付せずに本件特定公共
事業認定申請をしたことは同法三九条一項により適法であり、これを受理したこと
は何らの違法はなく、また同条により同法八条の規定を適用せず本件特定公共事業
認定をした被告の処分にも違法はないものというべきであり原告らの主張は理由が
ない。
(三) 次に原告らは本件特定公共事業認定の事業の説明は特措法三条一項に違反
すると主張する。
特措法三条一項は「起業者は、特定公共事業の認定を受けようとするときは、あら
かじめ、事業の目的及び内容並びに事業を緊急に施行することを要する理由につい
て、事業を施行しようとする土地・・・・・・及びその附近地の住民に説明し、こ
れらの者から意見を聴取する等の措置を講ずることにより、事業の施行についてこ
れらの者の協力が得られるよう努めなければならない。この場合において、住民に
対する説明会及びその意見の聴取については、少なくとも建設省令で定める程度の
措置を講じなければならない。」とし、右建設省令として特措法施行規則一条一項
二号は「会合の場所及び日時を会合を開催する日の一週間前までに、事業を施行し
ようとする土地及びその附近地の存する地方の新聞紙に公告し、又は住民に文書を
もつて通知すること。」、同条二項は、「前項第二号の規定による通知は、少なく
とも、当該事業を施行しようとする土地に係る利害関係者・・・・・・である住民
で土地等を提供することについての同意をしていないもの及びその同意がされてい
ない土地等の所在地に隣接する土地に係る利害関係者である住民の全員に対してし
なければならない。」と規定している。本件についてこれをみるに、前掲乙第三一
号証並びに成立に争いのない乙第六二号証の一ないし四によれば、公団は昭和四五
年一〇月八日本件特定公共事業認定に係る起業地及びその周辺地を対象として同月
一六日の事業説明会開催公告を千葉日報、毎日新聞、朝日新聞、読売新聞に掲載し
て公告したことが認められ(右事実のうち、公団が昭和四五年一〇月八日新聞に
「事業説明会公告」を掲載したことは当事者間に争いがない。)、右事実によれば
右公告は特措法三条一項、同法施行規則一条一項、二項の要件を満たすものという
べきである。
また前掲乙第三一号証、原本の存在及び成立に争いがない甲第二七七号証並びに訴
訟被承継原告Cの本人尋問の結果によれば、公団は昭和四五年一〇月一六日午前一
〇時から正午まで千葉県成田市<地名略>で説明会を開催し、事業の目的、内容、
事業を緊急に施行することを要する理由を説明し、更に翌一七日には説明会に参集
しなかつた住民のために事業の目的、内容、事業を緊急に施行することを要する理
由その他を記載した「特措法第三条の規定に基づく説明会資料」を各紙朝刊に折り
込み配付したことが認められこれを覆すに足りる証拠はないから、事業説明会自体
適法にされたものというべきである。
よつて原告らの主張は理由がない。
(四) 次に原告らは本件特定公共事業認定申請の事業計画に不備があると主張す
る。
まず原告らは本件特定公共事業認定申請書添付の事業計画書中の事業計画の記載が
具体性、明確性を欠くと主張するが、特措法施行規則三条一号イによれば事業計画
書には事業計画の概要を記載すべきものとされているところ、前掲乙第三一号証に
よれば前記事業計画書中には本件第一期事業に係る事業計画の概要が明らかに記載
されていることが認められるので原告らの右主張は理由がない。
次に原告らは右事業計画書の事業の完成時期について不適法かつ虚偽の表示がある
と主張する。右事業の完成時期が昭和四六年六月三〇日と表示されており、同四二
年一月三〇日認可・告示された本件工事実施計画によれば「滑走路A及びこれに対
応する諸施設」についての供用開始予定期日が同年四月一日と記載されていること
は当事者間に争いがなく、航空法の建前上建設事業の完了後供用開始期日が定めら
れるのは原告ら主張のとおりであるが、供用開始予定期日は後に変更可能であり、
右事実をもつて本件の申請が違法となるものとは解されない。
更に原告らは右事業計画書の完成期日の表示は事実と著しく異なる虚偽の表示であ
ると主張するが、完成時期の記載が客観的事実に反し、公団が本件の申請当時から
昭和四六年六月三〇日に本件第一期事業が完成する見込みがないことを十分に認識
していたとの原告らの主張事実はこれを認めるに足りる的確な証拠がない。
よつて原告らの主張は失当である。
(五) 原告らは本件の事業計画に著しい変更があつたと主張する。昭和四六年一
月一九日公団総裁が本件空港の開港と同時に日航の成田-大阪線等国内線も乗り入
れ、本件第二期工事で国内線関係のターミナルビルも建てる計画である旨を発表し
たとの新聞報道がされたことは当事者間に争いがないが、一部の国内航空路線の乗
入れが国際航空旅客の乗継ぎの利便のため必要な範囲内で行われるものであれば事
業計画の著しい変更に当たらないことは明らかであるし、本件第二期工事の計画に
ついては本件特定公共事業認定の適否に関係がない。
よつて原告らの右主張も理由がない。
一〇 原告らは起業者が権利取得裁決と明渡裁決とを併せて申請している場合でも
事業認定告示の日から四年以内に収用委員会による収用裁決のない場合には収用法
二九条一、二項の趣旨を類推し、事業認定の効力が失われたと解すべきであり、本
件においては本件第二期工事区域については現在に至つても収用裁決がされていな
いから右土地についての事業認定は将来に向かつて失効し、また残りの土地につい
てはこれらの土地のみでは事業認定の目的を達することは不可能であるから、これ
らの土地に関する事業認定については取消原因が生じたものと解すべきであると主
張する。
しかしながら、事業認定の失効というような収用手続上重要な事項については、法
の明文の根拠なくしてみだりに拡張解釈すべきでないことは当然である。収用法二
九条一、二項はいずれも起業者が申請を怠つた場合の規定であり、起業者が適法に
申請をしたが収用委員会の裁決がされない場合とは異なるから類推適用する余地は
ない。原告らの見解によれば、起業者は収用委員会の裁決の遅延というその責めに
帰することのできない事由により事業認定の失効という極めて重大な法律上の不利
益を受けるという不当な結果を招来することとなる。
また原告らは収用委員会の裁決の遅延により多大の損害を受けていると主張する
が、収用する土地及びその土地に関する所有権以外の権利に対する補償金について
は事業の認定の告示の時における相当な価格に権利取得裁決時までの物価の変動に
応ずる修正率を乗じて得た額とするものとされ(収用法七一条)、また土地所有者
らは事業の認定の告示があつた後は権利取得裁決の前でも起業者に対し補償金の支
払いを請求することができる(同法四六条の二第一項)のであつて、地価騰貴によ
る不利益を免れる制度が立法されており、明文の規定なしに収用権の失効を認める
根拠とはなりがたいものである。
従つて原告らの主張は到底採用することができない。
一一 以上の次第で別紙目録(一)記載の甲事件原告らの訴え及び別紙目録(二)
記載の乙事件原告らの訴えはいずれも不適法であるからこれを却下し、その余の甲
事件原告ら及び乙事件原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却するこ
ととし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を
適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 時岡 泰 満田明彦 大鷹一郎)
当事者目録、別紙目録(一)、(二)、別表二~四(省略)

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