弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人両名に関する部分を破棄する。
     本件を甲府地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 本件控訴の趣意は被告人Aの弁護人佐藤孝文及び被告人Bの弁護人大島正義の提
出にかかる各控訴趣意書に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用する。
 被告人Bの弁護人大島正義の控訴趣意第五点について
 記録により調査するに、本件公訴事実の要旨は、被告人両名及び原審相被告人C
は共謀の上、公団職員採用名義の下にその俸給等に相当する金員を騙取しようと企
て、昭和二十三年七月頃甲府市a町所在D公団E支局において、事実上Fを採用し
て勤務させる意思がないのに、恰も勤務させるように装い、同支局長GをしてFを
同公団H精米所書記に任命する旨の辞令を発行せしめ、同支局長をして真実Fが同
公団E支局H精米所書記として勤務しこれに俸給諸手当を支払うものと誤信せし
め、因て同支局長を介し同公団より昭和二十三年七月分より昭和二十四年九月分迄
右F名義の俸給手当金名下に(仮に然らずとするも同公団職員に対する俸給手当名
下に以上昭和二十七年三月三日第十八回公判期日において訴因の予備的追加)合計
金八万一千三十三円七十銭(後に、昭和二十三年九月分より昭和二十四年九月分迄
合計金三万一千三百八十四円七十五銭と訂正―以上昭和二十七年五月二十八日第二
十回公判において同日附訴因変更申立書により変更)の交付を受けてこれを騙取し
たと云うのであつて、原判決はこれに対し、被告人両名は前記公団支局に属する職
員の組織する野球部の強化を図るため、当時、I倶楽部の投手として活躍していた
Fを職員に加えることを欲し、昭和二十三年七月頃同人を同支局所属のH精米所書
記として採用して貰つたところ、右両名は同年九月頃に至り右Fか任命後一日も勤
務しておらず、且つ将来も勤務の見込のないことを諒知したのに、右Fを同支局野
球部員として対外試合に出場さすため、共謀の上同支局長Gに対し、Fが任命後一
日も出勤せず又将来も出勤の見込のないことを具申せず、これを秘匿し、恰も勤務
しているものの如く装い、毎月同人に対する俸給手当金等を記載した仕訳書を提出
し、右支局長をその旨誤信せしめた上これが決済をなさしめ、原判決別表記載のと
おり昭和二十三年九月二十七日頃より昭和二十四年九月二十四日迄の間に十三回に
亘り同支局係員から前記H精米所員の手を通じ、前記Fに対する俸給手当金等の支
払名義の下に合計金三万一千三百八十四円七十五銭の交付を受けてこれを騙取した
との事実を認定したものである。
 <要旨第一>以上によれば本件公訴事実の趣旨とするところは(その措辞において
やや明確を欠くものがあるが)要するに、被告人等は共謀の上、真実右
公団の職員に採用したものでなく、同公団職員にあらざるFを恰も真実同公団職員
に任命されたものの如く装い、同人の俸給手当金等の名下に公団より金員を騙取し
たと云うにあるに対し、原判決の趣旨とするところは、被告人等は右公団職員に任
命採用されたFが任命以来一日も出動せず又将来出動の見込もないのに、共謀の上
同人が出勤しているもののように装つて同人の俸給手当金等の支払名義の下に公団
より金員を騙取したものであると云うのである。
 右起訴にかかる公訴事実と原判決認定の事実とを対照すればその間被告人等が判
示公団支局長等を欺罔したと云うその手段態様において異るところはあるけれど
も、被告人等が共謀の上判示公団支局長等を欺罔して判示金員を騙取したという基
本的事実関係においては相違するところがないから、原判決の認めた事実は、起訴
にかかる公訴事実の同一性を害するものとは認められず、従つてこれを以て所論の
ように刑事訴訟法第三百七十八条第三号にいわゆる審判の請求を受けた事件につき
判決をせず又は審判の請求を受けない事件について判<要旨第二>決をした違法があ
るとはいえない。しかし原判決が認めたところと、起訴状(その追加及び変更を含
む)に訴因として表示されたところとは、その欺罔手段とされる具体的
事実関係において、一方はFが任命されなかつたのに、任命された如く装つて欺罔
したと云うに対し、一方は任命されたが、出勤しないのに、出勤したように装つて
欺罔したと云うのであつて、任命の有無について全く相反するものであり、しかも
本件記録によれば右任命の有無が原審における重要な争点となつていたことが窺わ
れるのであるから、かかる場合に、この点に関し訴因変更の手続をなさしめない
で、判示のように事実関係を変更認定した上、これを詐欺罪に間擬することは、従
来専ら起訴状記載の訴因について防禦方法を講じて来た被告人に不意討の感を抱か
せるものであり著しく被告人の防禦権を害するものといわなければならない。故に
原審としては、Fが正当に公団の職員に任命されたものと認め、その上でなお本件
詐欺罪が成立するものと認めようとするならば須らく検察官をして、そのように訴
因を変更させ、又は予備的に訴因を追加させ、或は右のように訴因を変更(予備的
に追加する場合を含む)するかどうかについて検察官に釈明を求める等適宜の措置
をとるべきものてあつた。しかるにこれらの手続を履まないで突如として判示のよ
うに認定し詐欺罪を認めた点において、原審はその訴訟手続が法令に違反しその違
法が判決に影響を及ぼすことが明らかなものと認められるから、本論旨はこの意味
において結局理由があり、原判決は破棄を免れない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 谷中董 判事 荒川省三 判事 中浜辰男)

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